特許異議申立
2023-700807
表面処理銅箔
- 審判番号
- 2023-700807
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-128604
- 登録番号
- 7222951
- 請求日
- 2023年08月04日
- 審決日
- 2024年03月27日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】長春石油化學股▲分▼有限公司
- 【権利者代理人】高島 一
- 【権利者代理人】鎌田 光宜
- 【権利者代理人】土井 京子
- 【権利者代理人】田村 弥栄子
- 【権利者代理人】當麻 博文
- 【権利者代理人】赤井 厚子
- 【権利者代理人】戸崎 富哉
- 【権利者代理人】中 正道
- 【権利者代理人】亀井 恵二郎
- 【権利者代理人】高山 繁久
- 【異議申立人】神尾 喜代子
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 金丸 治之
- 審判官 西本 浩司
- 分類
- P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7222951号発明「表面処理銅箔」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7222951号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7222951号の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和2年7月29日(パリ条約による優先権主張2019年8月12日、米国)の出願であって、令和5年2月7日にその特許権の設定登録がされ、同年2月15日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年8月4日に特許異議申立人神尾喜代子(以下「申立人」という。)により、その請求項1~14に対して本件特許異議の申立がされたものである。
それ以降の経緯は以下のとおりである。
令和5年11月10日付け 取消理由通知書
令和6年 2月 9日 意見書(特許権者)
第2 本件発明
請求項1~14に係る発明(以下「本件発明1」等といい、これらを総称して「本件発明」という場合がある。)は、それぞれ、本件の特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、
(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Ni、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層と、
を含み、
前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であり、
前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、
前記一つまたは複数の有機分子は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、
クロムフリー表面処理銅箔。
【請求項2】
前記(a)銅箔の片面または両面にノジュールを有する、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
【請求項3】
前記(a)銅箔の厚さは、1μm~50μmである、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
【請求項4】
前記バリア層の厚さは、0.2μm~100μmである、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
【請求項5】
第二のバリア層および第二の有機層をさらに含み、
前記バリア層と前記第二のバリア層は、前記銅箔の両面に設けられ、
前記有機層と前記第二の有機層は、前記バリア層に設けられる、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
【請求項6】
前記(c)有機層は、有機層の総重量に基づいて、40正規化原子%以下のO元素を含む、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
【請求項7】
ZnとNiの重量比(Zn/Ni)は、0.8~8の間にある、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
【請求項8】
前記(a)銅箔は、ノジュールを含まず、表面粗さ(Rz)が0.5μm~2.5μmである沈積面を有する、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
【請求項9】
下式で示す劣化率は20%未満である、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
【数1】
[図:0001409132000001.jpg]
【請求項10】
前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計が下記関係を満たす、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
5正規化原子%<(N+S+Si)≦32.8正規化原子%
【請求項11】
前記有機層におけるCの含有量が下記関係を満たす、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
36.1正規化原子%≦C≦51.4正規化原子%
【請求項12】
前記有機層におけるCの含有量が下記関係を満たす、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
43.9正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%
【請求項13】
前記有機層におけるO元素に対するSi元素の比率が、11%~30%の間にある、請求項1に記載のクロムフリー表面処理銅箔。
【請求項14】
樹脂基板と請求項1に記載の表面処理銅箔とを含む、プリント回路板。」
第3 取消理由の概要
1 取消理由通知書に記載した取消理由
本件の請求項1~14に係る特許に対して、当審が令和5年11月10日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(明確性)
特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件特許の請求項1には「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であり」という記載及び「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる」との記載があるが、【0010】、【0049】~【0056】、【0062】、【0065】及び【0085】の記載を鑑みると、本件特許の請求項1の上記のように特定されている「有機層の」「正規化原子%」は、有機層の厚み方向のどの厚みの部分を測定しているのか特定できず、また深さ分解能も特定されていないため、当該「有機層の」「正規化原子%」の数値は多義的に解釈されるため、明確でない。
本件特許の請求項1の記載を引用する本件特許の請求項2~14に係る発明についても同様に明確でない。
(2)取消理由2(実施可能要件)
本件特許は、明細書の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件特許の請求項1の「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であり」との有機層をどのようにして得るのかについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には一切記載されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている実施例及び比較例の記載は、以下のア~オの点で不明であるから、当業者といえども、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許の請求項1~14に係る発明の物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるとはいえない。
ア 【0085】に記載の測定方法では、有機層の厚み方向のどの厚みの部分を測定しているのか特定できず、また深さ分解能も特定されていない。また、X線源やX線の入射角等の測定パラメータが特定できない。
イ 比較例1、2、13~15は有機処理が行われていないにもかかわらず、これらの原子組成には、O原子やC原子が検出されている。
ウ 実施例2、3で利用されている有機層形成用の化合物には酸素が含まれていないにもかかわらず、これらの有機層の元素含有量に多量のO原子があるとされている。
エ 実施例及び比較例において5つの原子の総量を基準値とした場合における各々の原子の相対量のみ測定されており、リファレンス原子に由来する光電子の測定強度を基準値とする5つの原子の相対強度が特定されておらず、表2-1及び2-2を用いても、本件特許の請求項1に係る発明で特定している正規化原子%に調整することができない。
オ 実施例及び比較例のメッキ層の厚みが不明で、また、有機層を施す手段及びその後の乾燥温度が不明であり、当業者といえども実施例及び比較例を実施(再現)することができない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る発明に関して、発明の詳細な説明は、実施可能要件を充足するものとはいえない。
2 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立書に記載の取消理由
取消理由通知に採用しなかった取消理由の概要は次のとおりである。
(1)甲第1号証を引用例とする拡大先願
請求項1、3、5、6、8及び10~14に係る発明は、この特許の出願日(優先日)前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の甲第1号証に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願日(優先日)前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(2)甲第3号証を引用例とする拡大先願
請求項1、3、5、6及び10~14に係る発明は、この特許の出願日(優先日)前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の甲第3号証に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願日(優先日)前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(3)甲第28号証を引用例とする進歩性
請求項1、3、10~12及び14に係る発明は、この特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第28号証に記載された発明に基いて、その出願日(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)甲第29号証を引用例とする進歩性
請求項1、3、6及び10~14に係る発明は、この特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第29号証に記載された発明に基いて、その出願日(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5)甲第30号証を主引用例とする進歩性
請求項1、3、6及び10~14に係る発明は、この特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第30号証、甲第31号証及び甲第32号証に記載された発明に基いて、その出願日(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(6)サポート要件違反
本件特許の請求項1~14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 甲各号証の記載
甲第1号証:特願2019-89119号(特開2020-183572号)
甲第2号証:岡本尚樹他3名、「電解銅箔より発生するノジュールの析出に関する検討」、化学工学会第41回秋季大会(2009) 研究発表講演要旨集、H321、P473
甲第3号証:特願2019-152552号(特開2020-186464号)
甲第4号証:特開2003-124589号公報
甲第5号証:特開2017-122274号公報
甲第6号証:特開2006-143914号公報
甲第7号証:「XPSによる表面分析の基礎と分析事例の紹介」、株式会社島津製作所 分析計測事業部、2022年11月19日(印刷日)
甲第8号証:「【技術資料】ESCAによる高分子膜の深さ方向分析」、株式会社東ソー分析センター、2022年11月19日(印刷日)
甲第9号証:特開2017-31476号公報
甲第10号証:加藤拓司他2名、「有機単分子膜のXANES測定」、株式会社リコー先端技術研究所等、2022年11月19日(印刷日)
甲第11号証:特願2000-65301号(特開2001-255700号)
甲第12号証:特願2000-65301号(甲第11号証)の審査記録
甲第13号証:特願2000-65301号(甲第11号証)について平成17年8月9日付け(起案日)の拒絶理由通知書
甲第14号証:特開平11-84740号公報
甲第15号証:特開2000-267344号公報
甲第16号証:特開2000-242045号公報
甲第17号証:特開平9-319157号公報
甲第18号証:特開平9-43897号公報
甲第19号証:「光電子分光用の前処理装置~より付着物の少ない前処理へ~」、株式会社UBE科学分析センター、2022年11月22日(印刷日)
甲第20号証:本件特許の審査における令和3年10月28日付けの意見書
甲第21号証:本件特許の審査における令和3年7月27日付け(起案日)の拒絶理由通知書
甲第22号証:本件特許の審査における令和4年11月25日付け刊行物等提出書
甲第23号証:本件特許の審査における令和3年12月21日付け(起案日)の拒絶査定
甲第24号証:本件特許の審査における令和4年4月26日付け審判請求書
甲第25号証:特開2016-33261号公報
甲第26号証:特開2015-193884号公報
甲第27号証:特開2011-210984号公報
甲第28号証:特開昭59-20621号公報
甲第29号証:特開2014-129560号公報
甲第30号証:特開2009-117706号公報
甲第31号証:特開2018-171899号公報
甲第32号証:特開2017-106069号公報
甲第33号証:特開2017-106068号公報
以下、甲第1~33号証等を「甲1」等という。
(1)甲1について
甲1の、【0021】~【0023】及び【0040】の【表1】より、【0033】に記載の「電解めっき処理」は「ニッケルめっき処理」であることは明らかである。
そうすると、甲1の【請求項1】~【請求項4】、【0021】~【0023】、【0029】~【0034】、【0040】には、特に【0040】の【表1】の実施例1~2、5~9より、以下の発明(以下「先願発明1」という。)が記載されている。
「銅箔と、
銅箔にアルカリ脱脂処理、酸洗浄処理、プレディップ処理及び酸化処理をこの順で行い、
酸化処理を行った銅箔にニッケルめっき処理を行い、
前記ニッケルめっき処理を行った銅箔にカップリング処理を行い、
カップリング処理は、1重量%のγ-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した、
銅部材。」
(2)甲3について
甲3の、【請求項1】~【請求項3】、【0046】、【0048】~【0053】、【0062】には、特に【0062】の【表1】の実施例1~7より、以下の発明(以下「先願発明3」という。)が記載されている。
「銅箔と、
銅箔にアルカリ脱脂処理、酸洗浄処理、プレディップ処理及び酸化処理をこの順で行い、
酸化処理を行った銅箔にニッケルめっき用電解液を用いて電解めっきを施し、
前記銅箔にニッケルめっき用電解液を用いて電解めっきを施した銅箔にカップリング処理を行い、
カップリング処理は、1重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した、
複合銅部材。」
(3)甲28について
甲28の第1頁右下欄第6行~第9行及び第3頁右上欄第17行~第4頁左上欄第3行には、以下の発明(以下「引用発明28」という。)が記載されている。
「銅箔と、銅箔に亜鉛メッキ浴に浸漬し亜鉛薄膜を形成させ、つぎにシランカップリング剤であるγ-アミノプロピルトリエトキシシランの濃度0.03%、0.3%及び3.0%の3種類の溶液中に常温で1分間浸漬し、乾燥させた、
印刷回路用銅箔。」
(4)甲29について
甲29の【0002】、【0056】~【0058】及び【0068】~【0069】には、以下の発明(以下「引用発明29」という。)が記載されている。
「圧延銅箔に粗化処理を施し、粗化処理を施した圧延銅箔にニッケルめっき層を形成し、ニッケルめっき表面に酸化ニッケル層を形成した後、5mL/Lの3-アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液に10秒間浸漬し、大気中にて200℃で1分間の乾燥を行った、
表面処理銅箔。」
(5)甲30について
甲30の、【請求項1】~【請求項3】、【0001】、【0058】~【0062】及び【0080】には、特に【0080】の【表1】の実施例1より、以下の発明(以下「引用発明30」という。)が記載されている。
「圧延銅箔をアルカリ電解脱脂処理した後、酸洗処理、粗化めっき処理に連続してニッケルめっきを施し熱風乾燥し、シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシランの水溶液を用いてシランカップリング処理を行った後、大気中にて200℃で1分間熱風乾燥した、
フレキシブルプリント配線板用銅箔。」
(6)甲31について
甲31の【0132】には、シランカップリング処理において、シラン化合物としてn-プロピルトリメトキシシランを用い、シラン濃度を0.4vol%とすることが記載されている。
(7)甲32について
甲32には、シランカップリング剤の調整方法として以下のように記載されている。
「【0048】
3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM-402):純水で0.3wt%溶液を調製。
3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM-903):純水で0.25wt%溶液を調製。
ビニルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM-1003):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.2wt%溶液を調製。
3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM-502):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.25wt%溶液を調製。
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学株式会社製 KBE-9007):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.2wt%溶液を調製。
3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(信越化学株式会社製 KBE-585):エタノールと純水を1:1で混合した溶液で0.3wt%溶液を調製。」
(8)甲33について
甲33には、シランカップリング剤の調整方法として以下のように記載されている。
「【0047】
3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM-402):純水で0.3wt%溶液を調製。
3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM-903):純水で0.25wt%溶液を調製。
ビニルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM-1003):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.2wt%溶液を調製。
3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学株式会社製 KBM-502):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.25wt%溶液を調製。
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学株式会社製 KBE-9007):純水に硫酸を添加してpH3に調整した溶液で0.2wt%溶液を調製。
3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(信越化学株式会社製 KBE-585):エタノールと純水を1:1で混合した溶液で0.3wt%溶液を調製。」
第4 当審の判断
1 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(明確性)
ア 明確性についての判断
本件特許の請求項1~14の記載によって、本件発明を特定することができ、文言上も不明確とするところはないので、請求項1~14の記載は、第三者に不利益を及ぼすほどに不明確とはいえないものであり、明確である。
イ 当審が特許権者に通知した取消理由1について
本件特許の請求項1の「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であり」という記載及び「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる」との記載は、文言上、それぞれその特定するところは明確である。本件特許の請求項1の「有機層の」「正規化原子%」は、有機層の厚み方向のどの厚みの部分を測定しているのか特定できず、また深さ分解能も特定されてはいないが、これらの特定の有無にかかわらず、他の技術との異同を判別できる程度に明確であるといえ、また当該「有機層の」「正規化原子%」の数値が多義的に解釈されるものでもない。
(2)取消理由2(実施可能要件)
ア 実施可能要件についての判断
本件特許の発明の詳細な説明の記載において、【0042】~【0056】、【0062】及び【0065】には、実施例2~5、11及び14が実施できる程度に記載されているものである。そして、当該実施例2~5、11及び14の記載、【0085】の有機層の原子比の測定方法及び【0083】の【表1-2】を参酌すれば、本件特許の請求項1の「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であり、」という構成とするにあたり過度の試行錯誤を要するとはいえず、したがって、本件発明1~14の実施に際して、本件特許の詳細な説明の記載は、実施可能要件を有していないとはいえないものである。
イ 当審が特許権者に通知した取消理由2について
本件特許の請求項1の「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であり」との有機層については、上記アでも説示したとおり、当業者であれば実施することができるものである。
本件発明の「有機層の」「正規化原子%」は、本件特許の詳細な説明を参酌すると、【0085】の有機層の原子比の測定方法により求めることができるものであり、これは有機層の全体を反映するものであるから、有機層の厚み方向のどの厚みの部分を測定しているのか及び深さ分解能によらないものである。すなわち、【0085】の記載の測定方法で本件発明は実施可能である。
比較例1、2、13~15のO原子やC原子が検出、実施例2、3のO原子の検出については、層形成の過程を鑑みるとなんら矛盾が存在するものでもない。
リファレンス原子に由来する光電子の測定強度を基準値とする5つの原子の相対強度の特定の有無にかかわらず、特定の正規化原子%の調整は可能である。
【0042】~【0092】には有機層を施す手段について記載されており、当業者であれば実施例及び比較例を実施することができる。
2 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立書に記載の取消理由
(1)甲第1号証を引用例とする拡大先願
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と先願発明1を対比する。
先願発明1の「カップリング処理は、1重量%のγ-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した、」は、有機層を設けることにほかならず、先願発明1の「銅箔と、
銅箔にアルカリ脱脂処理、酸洗浄処理、プレディップ処理及び酸化処理をこの順で行い、
酸化処理を行った銅箔にニッケルめっき処理を行い、
前記ニッケルめっき処理を行った銅箔にカップリング処理を行い
カップリング処理は、1重量%のγ-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した、」は、本件発明1の「(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、」に相当する。
本件発明1の「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Ni、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層と、
を含み、」と、先願発明1の「銅箔にアルカリ脱脂処理、酸洗浄処理、プレディップ処理及び酸化処理をこの順で行い、
酸化処理を行った銅箔にニッケルめっき処理を行い、
前記ニッケルめっき処理を行った銅箔にカップリング処理を行い」とは、「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、」の限りで一致する。
また、本件発明1の「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、
前記一つまたは複数の有機分子は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」と先願発明1の「カップリング処理は、1重量%のγ-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した、」とは、先願発明1の「γ-アミノプロピルトリエトキシシラン」が本件発明1の「3-アミノプロピルトリメトキシシラン」に相当するから、「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む」の限りにおいて一致する。
また、本件発明1の「クロムフリー表面処理銅箔」と先願発明1の「銅部材」とは、先願発明1の「銅部材」が銅箔の表面に処理を施したものであるから「表面処理銅箔」である限りにおいて一致する。
したがって、両者は以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、
(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、
前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む
表面処理銅箔。
<相違点1>
「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、」について、本件発明1では、(a)銅箔と(c)有機層との間にはNi、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層を含むのに対し、先願発明1では、ニッケルめっき処理を行うとしている点。
<相違点2>
本件発明1が「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るのに対し、先願発明1では、これらの点について不明である点。
<相違点3>
「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む」ことについて、本件発明1は「前記有機層は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」のに対し、先願発明1では、「カップリング処理は、1重量%のγ-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した」ものである点。
<相違点4>
「表面処理銅箔」について、本件発明1では「クロムフリー表面処理銅箔」であるのに対して、先願発明1ではクロムフリーであるか否か不明である点。
(イ) 判断
事案に鑑み、<相違点2>から検討する。
有機層について先願発明1は、本件発明1で特定される有機分子である3-アミノプロピルトリエトキシシランを含むものである。
一方で有機層の形成方法について、本件発明1が「有機処理剤(0.25%のトリアジントリチオール、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体又は、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を10秒間施し、若しくは有機処理剤(0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を30秒間施し、50℃から150℃の温度で乾燥した」(【0046】~【0056】、【0065】)ものであるのに対し、先願発明1では、「カップリング処理は、1重量%のγ-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した」ものであり、両者には有機分子の濃度と処理時間に有為な差が存在していることは明らかである。当該事情を鑑みると、先願発明1の有機層が、「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るとはいえない。
よって、<相違点2>は実質的な相違点であるといえる。
(ウ) まとめ
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は先願発明1と同一ではない。
イ 本件発明3、5、6、8及び10~14について
本件発明3、5、6、8及び10~14は、直接あるいは間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明であるから、上記に示したことと同様に、先願発明1と同一ではない。
(2)甲第3号証を引用例とする拡大先願
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と先願発明3を対比する。
先願発明3の「カップリング処理は、1重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処し、110℃で1分間焼付した、」は、有機層を設けることにほかならず、先願発明3の「銅箔と、
銅箔にアルカリ脱脂処理、酸洗浄処理、プレディップ処理及び酸化処理をこの順で行い、
酸化処理を行った銅箔にニッケルめっき用電解液を用いて電解めっきを施し、
前記銅箔にニッケルめっき用電解液を用いて電解めっきを施した銅箔にカップリング処理を行い
カップリング処理は、1重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した、」は、本件発明1の「(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、」に相当する。
本件発明1の「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Ni、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層と、
を含み、」と、先願発明3の「銅箔にアルカリ脱脂処理、酸洗浄処理、プレディップ処理及び酸化処理をこの順で行い、
酸化処理を行った銅箔にニッケルめっき用電解液を用いて電解めっきを施し、
前記ニッケルめっき処理を行った銅箔にカップリング処理を行い」とは、「b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、」の限りで一致する。
また、本件発明1の「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、
前記一つまたは複数の有機分子は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」と先願発明3の「カップリング処理は、1重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した、」とは、「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む」の限りにおいて一致する。
また、本件発明1の「クロムフリー表面処理銅箔」と先願発明3の「複合銅部材」とは、先願発明3の「複合銅部材」が銅箔の表面に処理を施したものであるから「表面処理銅箔」である限りにおいて一致する。
したがって、両者は以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、
(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、
前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む
表面処理銅箔。
<相違点1>
「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、」について、本件発明1では、(a)銅箔と(c)有機層との間にはNi、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層を含むのに対し、先願発明3では、ニッケルめっき用電解液を用いて電解めっきを施すとしている点。
<相違点2>
本件発明1が「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るのに対し、先願発明3では、これらの点について不明である点。
<相違点3>
「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む」ことについて、本件発明1は「前記有機層は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」のに対し、先願発明3では、「カップリング処理は、1重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した」ものである点。
<相違点4>
「表面処理銅箔」について、本件発明1では「クロムフリー表面処理銅箔」であるのに対して、先願発明3ではクロムフリーであるか否か不明である点。
(イ) 判断
事案に鑑み、<相違点2>から検討する。
有機層について先願発明3は、本件発明1で特定される有機分子である3-アミノプロピルトリエトキシシランを含むものである。
一方で有機層の形成方法が、本件発明1が「有機処理剤(0.25%のトリアジントリチオール、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体又は、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を10秒間施し、若しくは有機処理剤(0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を30秒間施し、50℃から150℃の温度で乾燥した」(【0046】~【0056】、【0065】)ものであるのに対し、先願発明3では、「カップリング処理は、1重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシランを室温で1分間処理し、110℃で1分間焼付した」ものであり、両者には有機分子の濃度と処理時間に有為な差が存在していることは明らかである。当該事情を鑑みると、先願発明3の有機層が、「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るとはいえない。
よって、<相違点2>は実質的な相違点であるといえる。
(ウ) まとめ
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は先願発明3と同一ではない。
イ 本件発明3、5、6及び10~14について
本件発明3、5、6及び10~14は、直接あるいは間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明であるから、上記に示したことと同様に、先願発明3と同一ではない。
(3)甲第28号証を引用例とする進歩性
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と引用発明28を対比する。
引用発明28の「シランカップリング剤であるγ-アミノプロピルトリエトキシシランの濃度0.03%、0.3%及び3.0%の3種類の溶液中に常温で1分間浸漬し、乾燥させた」は、有機層を設けることにほかならず、引用発明28の「銅箔と、銅箔に亜鉛メッキ浴に浸漬し亜鉛薄膜を形成させ、つぎにシランカップリング剤であるγ-アミノプロピルトリエトキシシランの濃度0.03%、0.3%及び3.0%の3種類の溶液中に常温で1分間浸漬し、乾燥させた、」は、本件発明1の「(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、」に相当する。
本件発明1の「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Ni、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層と、
を含み、」と、引用発明28の「銅箔に亜鉛メッキ浴に浸漬し亜鉛薄膜を形成させ、つぎにシランカップリング剤であるγ-アミノプロピルトリエトキシシランの濃度0.03%、0.3%及び3.0%の3種類の溶液中に常温で1分間浸漬し、乾燥させた、」とは、「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、亜鉛を含む層と、
を含み、」の限りで一致する。
また、本件発明1の「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、
前記一つまたは複数の有機分子は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」と引用発明28の「シランカップリング剤であるγ-アミノプロピルトリエトキシシランの濃度0.03%、0.3%及び3.0%の3種類の溶液中に常温で1分間浸漬し、乾燥させた、」とは、引用発明28の「γ-アミノプロピルトリエトキシシラン」が本件発明1の「3-アミノプロピルトリメトキシシラン」に相当するから、「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む」の限りにおいて一致する。
また、本件発明1の「クロムフリー表面処理銅箔」と引用発明28の「印刷回路用銅箔」とは、引用発明28の「印刷回路用銅箔」が銅箔の表面に処理を施したものであるから「表面処理銅箔」である限りにおいて一致する。
したがって、両者は以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、
(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、亜鉛を含む層と、
を含み、
前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む
表面処理銅箔。
<相違点1>
「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、亜鉛を含む層と、
を含み、」について、本件発明1では、(a)銅箔と(c)有機層との間にはNi、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層を含むのに対し、引用発明28では、亜鉛メッキ浴に浸漬し亜鉛薄膜を形成させるとしている点。
<相違点2>
本件発明1が「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るのに対し、引用発明28では、これらの点について不明である点。
<相違点3>
「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む」ことについて、本件発明1は「前記有機層は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」のに対し、引用発明28では、「シランカップリング剤であるγ-アミノプロピルトリエトキシシランの濃度0.03%、0.3%及び3.0%の3種類の溶液中に常温で1分間浸漬し、乾燥させた」ものである点。
<相違点4>
「表面処理銅箔」について、本件発明1では「クロムフリー表面処理銅箔」であるのに対して、引用発明28ではクロムフリーであるか否か不明である点。
(イ) 判断
事案に鑑み、<相違点2>から検討する。
有機層について引用発明28は、本件発明1で特定される有機分子である3-アミノプロピルトリエトキシシランを含むものである。
一方で有機層の形成方法が、本件発明1が「有機処理剤(0.25%のトリアジントリチオール、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体又は、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を10秒間施し、若しくは有機処理剤(0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を30秒間施し、50℃から150℃の温度で乾燥した」(【0046】~【0056】、【0065】)ものであるのに対し、引用発明28では、「シランカップリング剤であるγ-アミノプロピルトリエトキシシランの濃度0.03%、0.3%及び3.0%の3種類の溶液中に常温で1分間浸漬し、乾燥させた、」ものであり、両者には処理時間に有為な差が存在していることは明らかである。当該事情を鑑みると、引用発明28の有機層が、「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るとはいえない。
そして、引用発明28の有機層を、「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%」とすることは当業者といえども容易に想到することはできないものである。
よって、引用発明28に基いて、<相違点2>の本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものではない。
(ウ) まとめ
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明28に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3、10~12及び14について
本件発明3、10~12及び14は、直接あるいは間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明であるから、上記に示したことと同様に、引用発明28に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)甲第29号証を引用例とする進歩性
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と引用発明29を対比する。
引用発明29の「5mL/Lの3-アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液に10秒間浸漬し、大気中にて200℃で1分間の乾燥を行った、」は、有機層を設けることにほかならず、また、引用発明29の「圧延銅箔」は、本件発明1の「銅箔」に相当するから、引用発明29の「圧延銅箔に粗化処理を施し、粗化処理を施した圧延銅箔にニッケルめっき層を形成し、ニッケルめっき表面に酸化ニッケル層を形成した後、5mL/Lの3-アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液に10秒間浸漬し、大気中にて200℃で1分間の乾燥を行った、」は、本件発明1の「(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、」に相当する。
本件発明1の「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Ni、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層と、
を含み、」と、引用発明29の「粗化処理を施した圧延銅箔にニッケルめっき層を形成し、ニッケルめっき表面に酸化ニッケル層を形成した後、5mL/Lの3-アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液に10秒間浸漬し、大気中にて200℃で1分間の乾燥を行った、」とは、「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、」の限りで一致する。
また、本件発明1の「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、
前記一つまたは複数の有機分子は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」と引用発明29の「5mL/Lの3-アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液に10秒間浸漬し、大気中にて200℃で1分間の乾燥を行った、」とは、「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む」の限りにおいて一致する。
また、本件発明1の「クロムフリー表面処理銅箔」と引用発明29の「表面処理銅箔」とは、「表面処理銅箔」である限りにおいて一致する。
したがって、両者は以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、
(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、
前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む
表面処理銅箔。
<相違点1>
「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、」について、本件発明1では、(a)銅箔と(c)有機層との間にはNi、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層を含むのに対し、引用発明29では、ニッケルめっき層を形成するとしている点。
<相違点2>
本件発明1が「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るのに対し、引用発明29では、これらの点について不明である点。
<相違点3>
「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリエトキシシランを含む」ことについて、本件発明1は「前記有機層は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」のに対し、引用発明29では、「5mL/Lの3-アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液に10秒間浸漬し、大気中にて200℃で1分間の乾燥を行った」ものである点。
<相違点4>
「表面処理銅箔」について、本件発明1では「クロムフリー表面処理銅箔」であるのに対して、引用発明29ではクロムフリーであるか否か不明である点。
(イ) 判断
事案に鑑み、<相違点2>から検討する。
有機層について引用発明29は、本件発明1で特定される有機分子である3-アミノプロピルトリエトキシシランを含むものである。
一方で有機層の形成方法が、本件発明1が「有機処理剤(0.25%のトリアジントリチオール、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体又は、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を10秒間施し、若しくは有機処理剤(0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を30秒間施し、50℃から150℃の温度で乾燥した」(【0046】~【0056】、【0065】)ものであるのに対し、引用発明29では、「5mL/Lの3-アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液に10秒間浸漬し、大気中にて200℃で1分間の乾燥を行った」ものであり、両者には有機分子の濃度に有為な差が存在していることは明らかである。当該事情を鑑みると、引用発明29の有機層が、「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るとはいえない。
そして、引用発明29の有機層を、「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%」とすることは当業者といえども容易に想到することはできないものである。
よって、引用発明29に基いて、<相違点2>の本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものではない。
(ウ) まとめ
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明29に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3、6及び10~14について
本件発明3、6及び10~14は、直接あるいは間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明であるから、上記に示したことと同様に、引用発明29に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)甲第30号証を主引用例とする進歩性
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と引用発明30を対比する。
引用発明30の「シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシランの水溶液を用いてシランカップリング処理を行った後、大気中にて200℃で1分間熱風乾燥した、」は、有機層を設けることにほかならず、引用発明30の「圧延銅箔をアルカリ電解脱脂処理した後、酸洗処理、粗化めっき処理に粗化めっき処理に連続してニッケルめっきを施し熱風乾燥し、シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシランの水溶液を用いてシランカップリング処理を行った後、大気中にて200℃で1分間熱風乾燥した、」は、本件発明1の「(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、」に相当する。
本件発明1の「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Ni、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層と、
を含み、」と、引用発明30の「圧延銅箔をアルカリ電解脱脂処理した後、酸洗処理、粗化めっき処理に粗化めっき処理に連続してニッケルめっきを施し熱風乾燥し、シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシランの水溶液を用いてシランカップリング処理を行った後、大気中にて200℃で1分間熱風乾燥した、」とは、「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、」の限りで一致する。
また、本件発明1の「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、
前記一つまたは複数の有機分子は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」と引用発明30の「シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシランの水溶液を用いてシランカップリング処理を行った後、大気中にて200℃で1分間熱風乾燥した、」とは、「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリメトキシシランを含む」の限りにおいて一致する。
また、本件発明1の「クロムフリー表面処理銅箔」と引用発明30の「フレキシブルプリント配線板用銅箔」とは、引用発明30の「フレキシブルプリント配線板用銅箔」が銅箔の表面に処理を施したものであるから「表面処理銅箔」である限りにおいて一致する。
したがって、両者は以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
(a)銅箔と、
(c)前記(a)銅箔に設けられた有機層と、
(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、
前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリメトキシシランを含む
表面処理銅箔。
<相違点1>
「(b)前記(a)銅箔と前記(c)有機層との間にあり、Niを含む層と、
を含み、」について、本件発明1では、(a)銅箔と(c)有機層との間にはNi、Zn、Co、Mo、Snまたはそれらの混合物を含むバリア層を含むのに対し、引用発明30では、ニッケルめっきを施すとしている点。
<相違点2>
本件発明1が「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るのに対し、引用発明30では、これらの点について不明である点。
<相違点3>
「前記有機層は、一つまたは複数の有機分子を含み、前記一つまたは複数の有機分子は、3-アミノプロピルトリメトキシシランを含む」ことについて、本件発明1は「前記有機層は、ポルフィリンの亜鉛錯体、[(アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、」のに対し、引用発明30では、「シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシランの水溶液を用いてシランカップリング処理を行った後、大気中にて200℃で1分間熱風乾燥した」ものである点。
<相違点4>
「表面処理銅箔」について、本件発明1では「クロムフリー表面処理銅箔」であるのに対して、引用発明30ではクロムフリーであるか否か不明である点。
(イ) 判断
事案に鑑み、<相違点2>から検討する。
有機層について引用発明30は、本件発明1で特定される有機分子である3-アミノプロピルトリメトキシシランを含むものである。
一方で有機層の形成方法が、本件発明1が「有機処理剤(0.25%のトリアジントリチオール、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体又は、0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を10秒間施し、若しくは有機処理剤(0.3%のポルフィリンの亜鉛錯体と0.2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランとの組み合わせ)を30秒間施し、50℃から150℃の温度で乾燥した」(【0046】~【0056】、【0065】)ものであるのに対し、引用発明30では、「シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシランの水溶液を用いてシランカップリング処理を行った後、大気中にて200℃で1分間熱風乾燥した」ものであり、引用発明30の有機分子の濃度と処理時間については特定しておらず、引用発明30の有機層が、「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%であ」るとはいえない。
そして、甲31~甲33に記載の技術事項を参酌したとしても、引用発明30の有機層を、「前記有機層におけるN、S、およびSi元素の合計は、5正規化原子%を超え、
前記正規化原子%は、分析されたC、O、N、SおよびSiの原子%の合計を分母として、分析されたN、SまたはSiの原子%を分子とすることにより計算され、
前記有機層において、3.8正規化原子%≦N≦24.4正規化原子%であり、36.1正規化原子%≦C≦59.8正規化原子%であり、27正規化原子%≦O≦48.7正規化原子%であり、Siを含む場合はSi≦8.4正規化原子%」とすることは当業者といえども容易に想到することはできないものである。
よって、引用発明30及び甲31~甲33の記載事項に基いて、<相違点2>の本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものではない。
(ウ) まとめ
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明30に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3、6及び10~14について
本件発明3、6及び10~14は、直接あるいは間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明であるから、上記に示したことと同様に、引用発明30に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)サポート要件違反
本件発明の解決しようとする課題は【0005】に示されるとおりであり、「前記プリント回路板を適切に機能させるために、銅箔の腐食(corrosion)と変色(discoloration)を防止する必要がある。このような腐食および変色に対する防止は、現在、クロムメッキまたはクロメート処理で銅箔にクロム系成分を施すことにより行われている。しかし、クロムは環境に悪影響を及ぼすため、プリント回路板における銅箔の腐食と変色を防ぐための代替手段が望まれる。」ものである。
そして、【0087】に記載の表面処理銅箔の耐腐食性の測定の記載、【0091】の【表2-1】及び【0092】の【表2-2】及び【0093】の記載より、実施例1~5、11及び14は、耐腐食性にすぐれたクロムフリーの表面処理銅箔であることが示されているから、本件特許の請求項1~14の記載により、発明の詳細な説明の記載から把握される課題が解決できることを当業者が認識できるものであり、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。
第5 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700807