審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2023-700619

耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金

審判番号
2023-700619
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-068602
登録番号
7187606
請求日
2023年06月12日
審決日
2023年10月31日
公報発行日
2023年12月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日鉄ステンレス株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人樹之下知的財産事務所
  • 【権利者】日本製鉄株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人樹之下知的財産事務所
  • 【異議申立人】芝 町子
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 粟野 正明
  • 審判官 佐藤 陽一
分類
P1651.121-Y (C22C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7187606号発明「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7187606号の請求項1~3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7187606号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願(特願2021-68602号。以下、「本願」という。)は、令和 3年 4月14日の出願であって、令和 4年12月 2日にその特許権の設定登録がされ、同年12月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~3(全請求項)に係る特許について、令和 5年 6月12日に特許異議申立人である芝 町子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明3」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%を含有し、残部がFeおよび不純物よりなり、酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上であることを特徴とする耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。 【請求項2】 前記Feの一部に替え、さらに質量%で、B:0.0002~0.0030%、Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。 【請求項3】 溶接構造物に用いられる請求項1または請求項2記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、下記4の甲第1号証~甲第16号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1-1(進歩性)~申立理由1-4(進歩性)(甲1~甲4のそれぞれを主たる引用文献とするもの) 本件特許発明1は、甲1~甲4に記載された発明、及び甲5~甲15の記載に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2-1(進歩性)~申立理由2-3(進歩性)(甲2、甲4、甲16のそれぞれを主たる引用文献とするもの) 本件特許発明2は、甲2、甲4、甲16に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(進歩性) 本件特許発明3は、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 4 証拠方法 甲1:特開2014-189826号公報 甲2:特開2012-229463号公報 甲3:特開2018-59148号公報 甲4:国際公開第2018/066579号 甲5:特開2005-126751号公報 甲6:特開平8-144008号公報 甲7:特開平10-102181号公報 甲8:特開2015-132014号公報 甲9:西本昌史 外2名, “炭素鋼の孔食発生におけるCaS介在物の役割:鋼の脱不働態化の誘発”, 鉄と鋼, 第107巻(2021年), 第12号, 第1020-1028頁 甲10:M. NISHIMOTO et al., “Cerium addition to CaS inclusions in stainless steel: Insolubilizing water-soluble inclusions and improving pitting corrosion resistance”, Corrosion Science, 180(2021)109222, pp.1-7 甲11:M. KADOWAKI et al., “Improving Pitting Corrosion Resistance at Inclusions and Ductility of a Martensitic Medium-Carbon Steel: Effectiveness of Short-Time Tempering”, Journal of The Electrochemical Society, 165(11)C711-C721(2018) 甲12:H. KELLNER, “Study of Non-Metallic Inclusions in Alloy 825”, Doctoral Thesis, Department of Material Science and Engineering, Division of Processes, Royal Institute of Technology, SE-100 44 Stockholm, Sweden, 2017 甲13:形浦安治, “鋼のCa処理技術“, 日本金属学会会報, 第17巻, 第6号(1978), 第514-524頁 甲14:切削加工専門委員会被削性小委員会、“S45Cカルシウム脱酸鋼の被削性に及ぼす硫黄量の影響”, 精密機械, 第46巻, 第8号(1980年8月),第1027-1034頁 甲15:狩野隆 外1名, “Ca処理をした硫化物系快削鋼における介在物の被削性改善機能向上”, 電気製鋼, 第75巻, 第1号(2004年1月), 第27-34頁 甲16:D. PECKNER et al., Handbook of Stainless Steels, 1977, p.14-2~p.14-3 第4 当審の判断 以下に述べるとおり、当審は、上記第3の1~3のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 甲1~4、16に記載された発明 (1)甲1に記載された発明 本願の出願前に公知となった甲1には、「表面性状に優れるFe-Ni-Cr系合金とその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その【請求項1】、【0013】、【0020】、【0029】、【0040】の記載を前提とし、特に、【表1】、【表2】に記載された「発明例12」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる(当審注:甲1の【表1】の左から2列目には、合金の化学成分として「Ca*」と記載されているが、これは、「C」を誤記したものと認められる。)。 「C:0.010mass%、Si:0.21mass%、S:0.0004mass%、Ni:39.19mass%、Cr:22.73mass%、Mo:3.11mass%、Cu:2.22mass%、Nb:0.011mass%、Al:0.121mass%、Ti:0.716mass%、N:0.008mass%、Mg:0.0031mass%、Ca:0.0012mass%、O:0.0007mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、非金属介在物として、MgO、CaO、CaO-Al2O3-TiO2系酸化物を含むAl、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金。」(以下、「甲1発明」という。) (2)甲2に記載された発明 本願の出願前に公知となった甲2には、「Fe-Ni-Cr-Mo合金およびその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その【請求項1】、【請求項2】、【0009】、【0011】、【0019】、【0030】~【0032】の記載を前提とし、特に、【表1】、【表3】に記載された「発明例No.1」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。 「質量%で、C:0.007%、Si:0.16%、Mn:0.17%、P:0.015%、S:0.0001%、Ni:31.52%、Cr:26.51%、Mo:6.52%、Cu:1.15%、Al:0.055%、N:0.225%、B:0.0015%、Ca:0.0013%、Mg:0.0034%、O:0.0012%、残部:Feおよび不可避不純物からなるFe-Ni-Cr-Mo合金であって、 非金属介在物としてMgO、MgO・Al2O3スピネル、CaO-Al2O3-MgO系酸化物の3種を含み、長径が3μm以上の非金属介在物のうち、MgO・Al2O3スピネルの個数比率が40%で、長径が30μm以上の非金属介在物の個数比率が0%であるFe-Ni-Cr-Mo合金。」(以下、「甲2発明」という。) (3)甲3に記載された発明 本願の出願前に公知となった甲3には、「Fe-Cr-Ni合金およびその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その【請求項1】、【請求項3】、【0013】、【0014】、【0022】、【0035】~【0037】、【0048】の記載を前提とし、特に、【表1】の「発明例4」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。 「mass%にて、C:0.015%、Si:0.41%、Mn:0.52%、P:0.019%、S:0.0007%、Ni:25.02%、Cr:23.48%、Mo:1.25%、Al:0.28%、Ti:0.31%、N:0.014%、かつTiとNは、%N×%Ti=0.00434を満たして含有し、さらにMg:0.0031%、Ca:0.0011%、O:0.0012%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、任意の断面において5μm以上のTiN介在物が150個/cm2であり、 酸化物系介在物として、CaO-MgO-Al2O3系、MgO・Al2O3、MgO、CaOの4種を含み、MgOとCaOの個数割合は15%であり、 SEM-EDSを用いて、長さ5μm以上の介在物を20点ランダムに測定して評価したCaO-MgO-Al2O3系介在物、MgO・Al2O3介在物、MgO介在物及びCaO介在物の個数比率が15:2:2:1であるFe-Cr-Ni合金。」(以下、「甲3発明」という。) (4)甲4に記載された発明 本願の出願前に公知となった甲4には、「NiCrFe合金」(発明の名称)に関する記載があり、その[請求項1]、[0013]~[0015]、[0044]、[0047]、[0097]~[0099]の記載を前提とし、特に[表1]、[表2]に記載された「符号3」の合金に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。 「質量%で、C:0.07%、Si:0.25%、Mn:0.98%、P:0.014%、S:0.0010%、Cr:19.8%、Ni:31.4%、Ti:0.95%、Al:0.43%、N:0.007%、O:0.005%、希土類元素(REM):0.035%、Ca:0.003%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記(1)~(3)式を満たす化学組成を有する、クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れたNiCrFe合金。 0.50≦Ti+48Al/27≦2.20 (1) 0.40≦Ti/(Ti+48Al/27)≦0.80 (2) Σ[REM/(A(REM))]-S/32-2/3・O/16≧0 (3) ここで、式(1)~(3)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(3)中のA(REM)には、各希土類元素の原子量が代入される。」(以下、「甲4発明」という。) (5)甲16に記載された発明 本願の出願前に公知となった甲16の「TABLE 1」には、次の発明が記載されていると認められる。 「残留物(Residual Elements)の典型的な含有量(Typical Amounts)が以下のとおりである、オーステナイトステンレス鋼。 Pb:0.002%、Sn>0.01%、Co:0.20%、Cu:0.15%、Zn:0.01%、Cb:0.01%、As:0.01%、Al:0.01%、Mo:0.05%、B>0.0005%、Ti>0.05%、V>0.05%、Se>0.02%、Sb>0.01%、N:0.04%、O2:0.015%、P:0.020%、S:0.015%、Si:0.60%、Mn:1.25%、H2:0.0007%(7ppm)」(以下、「甲16発明」という。) 2 甲5~甲15の記載事項 (1)甲5の記載事項 甲5には、以下の記載がある(下線は当審が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。 ア 「【請求項1】 ステンレス鋼板の表面において、露出している硫化物系非金属介在物中のS濃度が2%未満、かつ、半球状孔の個数が1個/cm2以上存在することを特徴とする発銹が少ないステンレス鋼板。」 イ 「【0001】 本発明は、ステンレス鋼板の発銹起点となるCaSに代表される水溶性の硫化物系非金属介在物を無害化した鋼板およびその製造方法に関するものである。」 ウ 「【0009】 ステンレス鋼板の発銹起点を抑制する製造方法において、前述のような硫化物系非金属介在物組成を改質する方法は、原料の配合方法のみならず、溶製工程での脱酸剤の投入時期等非常に厳しい工程管理が必要とされている。脱酸時に生成した非金属介在物の組成によっては、その後の加熱工程において非金属介在物近傍に硫化物が析出・成長し、発銹の起点となる場合がある。本発明は、これら従来の発銹起点を抑制する方法とは異なり、CaSを抑制するのではなく、発銹起点となる水溶性の硫化物系非金属介在物を最終工程において短時間に溶解除去することで発銹を改善する方法を提供することを目的とする。」 エ 「【0012】 以下に本発明を詳細に説明する。本発明者らは、電解酸洗法により鋼板表面の硫化物系非金属介在物を溶解除去する方法などについて、さまざまな調査を行った。その結果、電解処理において陰極電解時の電位がある特定の条件内である際に水溶性の硫化物系非金属介在物が選択的に溶解除去されることを知見したものである。 【0013】 水溶性の硫化物系非金属介在物が発銹の起点となることは、特許文献1より明らかである。ここで、水溶性の硫化物系非金属介在物とは、X線マイクロアナライザーを用いた組成分布調査により、O(酸素)と異なる位置にS(イオウ)の明瞭なピークが存在する非金属介在物である。さらに 塩水噴霧試験-JIS-G-0577(以下、SST)を実施し、鋼板表面に存在する硫化物系非金属介在物をSEM(走査型電子顕微鏡)にて調査解析した結果、非金属介在物から発生するSのピークが小さい場合は、発銹の起点になっていないことが明らかとなった。図1に示すようにS濃度が2%未満となった場合には発銹していない。」 オ 「【実施例1】 【0023】 表1に示すステンレス鋼板(板厚0.4mm)を光輝焼鈍した後、電解電位と電解時間を変えて、電解処理を行った。電解条件及び結果を表2に示す。表2から明らかなように本発明の条件内で電解処理すれば、SSTの発銹個数が安定的に10個/100cm2未満となっており、陰極電解処理の効果が明らかである。 【0024】 【表1】 [図:0001404817000001.jpg] 【0025】 【表2】 [図:0001404817000002.jpg] 」 (2)甲6の記載事項 甲6には、以下の記載がある。 ア 「【請求項1】質量%で、C:0.03~0.09%、Si:0.005~0.35%、Mn:0.5~1.8%、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.7%を超え、1.2%以下、Ni:0.2~2.5%、Sol.Al:0.015%以下、Insol.Al:0.0002~0.005%、O:0.001~0.005%、N:0.0020~0.0080%を含有し、さらにV:0~0.1%、Cr:0~0.5%、Mo:0~0.5%以下の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分を有し、MnO-Al2O3 -SiO2の3元状態図において、質量%でMnOが23~56%、Al2O3 が4~27%およびSiO2が30~54%の各範囲が重複する領域内の組成を持つ3元系酸化物を主体とする複合酸化物の粒子であり、かつ直径が0.2μm未満の微細粒子が6個/mm2以上分散していることを特徴とする高張力鋼。 【請求項2】質量%で、C:0.03~0.09%、Si:0.005~0.35%、Mn:0.5~1.8%、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.7%を超え、1.2%以下、Ni:0~3.0%以下、Sol.Al:0.015%以下、Insol.Al:0.0002~0.005%、O:0.001~0.005%、N: 0.0020~0.0080%を含有し、V:0~0.1%、Cr:0~0.5%、Mo:0~0.5%以下の1種または2種以上を含有し、さらにNb:0.003~0.025%、B:0.0001~0.0008%、Ti:0.003~0.020%およびZr:0.005~0.025%の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分を有し、MnO-Al2O3 -SiO2の3元状態図において、質量%でMnOが23~56%、Al2O3 が4~27%およびSiO2が30~54%の各範囲が重複する領域内の組成を持つ3元系酸化物を主体とする複合酸化物の粒子であり、かつ直径が0.2μm未満の微細粒子が6個/mm2以上分散していることを特徴とする高張力鋼。 ・・・ 【請求項4】上記複合酸化物の微細粒子を構成する酸化物のO(酸素)の5%以下がS(硫黄)と置換されている請求項1から3までのいずれかの高張力鋼。」 イ 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、圧力容器、船舶、橋梁、建築物、海洋構造物およびラインパイプ等の溶接構造物に使用される高張力鋼であって、特に溶接部(溶接金属部および溶接熱影響部)の靱性および溶接熱影響部の耐亜鉛めっき割れ性に優れ、低温での使用も可能な高張力鋼に関する。」 ウ 「【0030】本発明の目的は、量産が可能で適切な大きさで且つ適切な個数の介在物粒子を鋼中に分散させた鋼材であって、50kJ/cm以上の大入熱溶接を行った場合、溶融線近傍の領域において、オーステナイト結晶粒の粗大化が抑制され、溶接部全域にわたって組織が微細化され、良好な低温靱性と耐溶融亜鉛めっき割れ性に優れた溶接用鋼材を提供することにある。」 エ 「【0048】ここでいう複合酸化物とは、MnO-Al2O3-SiO2の三元系酸化物を主体とする複合酸化物である。「主体とする」というのは、MnO、SiO2および Al2O3の外に、これらの三元系酸化物の融点に実質的な影響を及ぼさない程度の量の他の酸化物(例えば、CaO、MgO、TiO2、ZrO2、(REM)O等)、あるいは硫化物(例えば、MnS、CuS、TiS、CaS等)、あるいはこれらの複合介在物が含まれていてもよい、ということである。 【0049】特に、上記複合酸化物のO(酸素)の一部をS(硫黄)で置換したもの、いい換えれば、MnOの一部がMnSで置き換えられたものは、MnSが溶鋼と粒子の界面エネルギーを低下させる作用を持つので、微細に分散する粒子として好ましいものである。但し、酸化物中のOのSによる置換率が高くなると、生成するMnSが凝集して介在物の粗大化を招くので、この置換率は5%以下であることが望ましい。」 オ 「【0069】S:Sは多量に存在する場合、溶接割れ起点となるMnS単体の析出物を生成する。」 カ 「【0094】 【実施例】 〔実施例1〕表1および表2に示す化学組成の鋼を真空溶解炉で溶製し、断面300mm×180mm、高さ350mmの鋳塊(150kg)を得た。本発明例および比較例の鋳塊No.16~27は、いずれも1600℃の溶鋼に表2に示す組成の1600℃の混合酸化物を溶鋼1kg当たり0.5~8.0g添加した。この酸化物添加によって鋼中に残存したものが、分散粒子となった。比較例の鋳塊No.28~31は、化学組成は発明の範囲であるが混合酸化物を添加することなく真空溶解法で溶製し、同様の鋳塊に鋳造した。 【0095】 【表1】 [図:0001404817000003.jpg] 【0096】 【表2】 [図:0001404817000004.jpg] 」 キ 「【0097】I.介在物の調査 得られた鋳塊の中央部、即ち冷却速度の遅い部分から試験片を採取し、複合酸化物の分散数、粒子の平均的な組成を調査した。調査方法は下記(A)、(B)のとおりである。 【0098】(A)直径0.2μm未満の分散粒子の個数の調査 各鋼種についてエネルギー分散型X線検出器(EDS)を備えた走査電子顕微鏡を用いて写真撮影し、試料面に換算して約3mm2中の直径0.2μm未満の分散粒子の数を計数した。 【0099】(B)直径0.2μm未満の分散粒子の平均組成の調査 さらに、各酸化物の組成をEDSによって分析した。但し、組成分析におけるEDSの感度はO(酸素)に対して十分な精度がなく、また、微小介在物であるため、母材のFeからの特性X線を検出することになる。このため、Mn、Al、Siの3元素についての定量値から各酸化物MnO、Al2O3 、SiO2の量を換算し、これからMn-Al-Si系介在物の組成を求めた。得られた組成について鋼種ごとに平均し、微細介在物の平均組成とした。また、Mn、Al、Si量を酸化物換算したときのOの総量を求め、EDS分析によって求めたSの定量値をこのO総量で割ることによって介在物中のSの含有重量%を求めた。 【0100】介在物の調査結果を溶製中に添加した混合酸化物の組成、添加量とともに表3および表4に示す。 【0101】 【表3】 [図:0001404817000005.jpg] 【0102】 【表4】 [図:0001404817000006.jpg] ・・・ 【0105】しかし、比較例の鋳塊No.16~22は、表2および表4からわかるようにAl、SiMnのいずれかの1つが発明の成分範囲から外れているため、介在物の平均組成はMnO-Al2O3 -SiO2の三元状態図の発明の範囲から外れている。このため直径0.2μm未満の微細粒子が5個/mm2以下と少ない。鋳塊No.23は、鋼のS含有量が0.18%と高いため、介在物中のS含有量が8.3%と高くなり、凝集・粗大化し、直径0.2μm未満の微細粒子が4個/mm2と少ない。鋳塊No.24~27は鋼のCまたはCu含有量が発明の成分範囲から外れているが介在物には影響しないので、介在物の平均組成はMnO-Al2O3 -SiO2の三元状態図の発明の範囲にあり、直径が0.2μm未満の微細粒子が20個/mm2以上分散している。鋳塊No.28~31は、鋼の化学組成は発明の範囲であるが、混合酸化物を添加していないので、介在物の平均組成はMnO-Al2O3 -SiO2の三元状態図の発明の範囲から外れている。このため直径0.2μm未満の微細粒子が5個/mm2以下と少ない。」 (3)甲7の記載事項 甲7には、以下の記載がある。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、高い溶接熱影響部靱性が要求される厚板用鋼種である酸化物分散鋼の製造方法に関するものである。」 イ 「【0014】すなわち、本発明の目的は、高いHAZ部靱性が要求される厚板用鋼として優れた性能を有する、Al-Mn酸化物相を含有する酸化物から成る分散粒子が鋼中に分散された酸化物分散鋼を、酸化反応を利用した安価な溶鋼昇熱を実施しつつ製造できる方法を提供することにある。」 ウ 「【0021】つまり、本発明の要旨とするところは、分散粒子としてAl-Mn酸化物相および不可避的に共存する酸化物相を有する酸化物分散鋼を溶製する方法であって、炭素濃度を調整した溶鋼を取鍋に出鋼するに際して、所定量のSiおよび造滓剤を取鍋に投入し、さらに所定量の酸素を吹き付け、Siを燃焼させてSiO2を生成させることにより、スラグ中の塩基度、スラグ中のAl2O3 濃度および溶鋼温度を同時に制御するとともに、溶鋼中全酸素濃度を重量割合にて0.0020%以上0.0100%以下に、溶鋼中Al濃度を重量割合にて0.0001%以上0.0030%以下に制御することを特徴とするAl-Mn系酸化物分散鋼の製造方法である。」 エ 「【0070】(実施例3)本例では、溶鋼中S濃度を変化させた例について示す。 ・・・ 【0073】昇熱完了後の溶鋼はRH脱ガス装置で成分調整・脱水素した。この脱ガス処理実施時に一部の溶製例ではSを添加し、溶鋼中のS濃度を0.0004~0.0049%に調整した。なお、この溶鋼中には、その他、Cu:0.2~0.5%、Ni:0.2~0.8%、Nb:0.02~0.09%、およびB:0.0001~0.0016%が含まれている。また、この溶鋼中のTi濃度は0.02%に調節した。表5にRH脱ガス処理実施後の溶鋼中全酸素濃度とAl濃度およびS濃度を示す。 ・・・ 【0075】RH脱ガス処理実施後に連続鋳造法により鋼塊とし、鋼塊中の分散酸化物の個数と組成を光学顕微鏡とエネルギー分散型X線マイクロアナライザーで調べた。分散酸化物中のS濃度と溶鋼中S濃度の関係を図5に示す。図5に示すとおり、溶鋼中のS濃度が低下するにつれて分散酸化物中のS濃度は低下し、0.002%以下になると、介在物中のS濃度はほとんど分析できない範囲まで低下している。」 オ 「【図5】 [図:0001404817000007.jpg] 」 (4)甲8の記載事項 甲8には、以下の記載がある。 ア 「【請求項1】 C:0.02~0.20%(質量%の意味。組成について以下同じ)、 Si:0.02~0.50%、 Mn:0.6~2.0%、 P:0.030%以下(0%を含まない)、 S:0.004%以下(0%を含まない)、 Al:0.010~0.08%、 N:0.001~0.01%、 Nb:0.002~0.05%(0.05%を含まない)、 O:0.0040%以下(0%を含まない)、 REM:0.0002~0.05%、 Zr:0.0003~0.020%、及び 式 10000×[Nb]+31×Di-82≧0 (但し、Di=([C]/10)0.5×(1+0.7×[Si])×(1+3.33×[Mn])×(1+0.35×[Cu])×(1+0.36×[Ni])×(1+2.16×[Cr])×(1+3×[Mo])×(1+1.75×[V])×1.115) を満たし、残部が鉄及び不可避不純物であり、 鋼中に含有される幅が1μm以上の介在物の組成において、 介在物中の Zr量が1~40%、 REM量が5~50%、 Al量が3~30%、 S量が0%超20%未満 であることを特徴とする耐サワー性、HAZ靭性及びHAZ硬さに優れた鋼板。」 イ 「【0001】 本発明は、ラインパイプ用、海洋構造物用などエネルギー用構造材の素材鋼板として好適な耐サワー性、HAZ靭性及びHAZ硬さに優れた鋼板、および該鋼板を用いて製造されるラインパイプ用鋼管に関するものである。」 ウ 「【0013】 そこで、本発明の目的(課題)は、耐サワー性とHAZ靭性及びHAZ硬さのばらつき低減の三者を同時に満足し、しかも降伏強度、引張強度の高い高機能特性を有したラインパイプ用などのエネルギー用鋼材に適した鋼板、および該鋼板を用いて製造されるラインパイプ用鋼管を提供することにある。」 エ 「【0046】 [Ni:0.01~3.5%] Niは、母材強度とHAZ靭性の向上に有効な元素である。この効果を得るためには、Ni量を0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.10%以上である。しかしNiが多量に含まれると、構造用鋼材として極めて高価となるため、経済的な観点からNi量は1.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.50%以下である。」 オ 「【0054】 [S量が0%超20%未満] 粗大硫化物は耐サワー性を劣化させるため、これを低減する必要がある。粗大硫化物の耐サワー性への悪影響を低減させるには、脱硫によって鋼中のS量を低減させると共に、微細分散させることが有効である。REM添加によりSを固定し、かつ微細分散できる。この効果は介在物中のS量測定により間接的に把握することができ、介在物中のS量が0%超20%未満の場合に、粗大硫化物の耐サワー性への悪影響を抑制することができる。S量が0%の場合は、S固定ができていないことを示しており、耐サワー性が劣化する。一方、S量が20%の場合は、Sは固定できているものの、粗大硫化物を形成し易く、耐サワー性が劣化する。」 カ 「【0070】 〔介在物の組成の分析〕 介在物の組成の分析は次のようにして行った。即ち、圧延材の板厚方向断面において、板厚中央部を中心に、島津製作所製EPMA-8705で観察した。詳細には、観察倍率400倍、観察視野約50mm2(板厚中心部が観察視野の中央となるように、板厚方向に7mm、板幅方向に7mm)で3断面観察し、幅が1μm以上の介在物を対象に、特性X線の波長分散分光により介在物中央部での成分組成を定量分析した。 分析対象元素は、Al、Mn、Si、Mg、Ca、Ti、Zr、S、REM(La、Ce、Nd、Dy、Y)、Nbとした。既知物質を用いて各元素のX線強度と元素濃度の関係を予め検量線として求めておき、次いで、前記介在物から得られたX線強度と前記検量線からその介在物の元素濃度を定量した。 そして、上記3断面における幅が1μm以上の介在物の上記各元素の含有量の平均値(介在物の組成)を求めた。」 (5)甲9の記載事項 甲9には、以下の記載がある。 ア 「 [図:0001404817000008.jpg] [図:0001404817000009.jpg] 」(第1021頁右欄) イ 「 [図:0001404817000010.jpg] 」(第1022頁右欄) ウ 「 [図:0001404817000011.jpg] 」(第1023頁左欄) (6)甲10の記載事項 甲10には、以下の記載がある。 ア 「 [図:0001404817000012.jpg] 」(第1頁) (当審訳(一部):要約 304L型ステンレス鋼中のCe添加およびCe無添加CaS介在物の孔食開始挙動を微細電気化学計測によって調査した。・・・) イ 「 [図:0001404817000013.jpg] 」(第2頁下段) ウ 「 [図:0001404817000014.jpg] 」(第3頁上段) エ 「 [図:0001404817000015.jpg] 」(第3頁左欄) (7)甲11の記載事項 甲11には、以下の記載がある。 ア 「 [図:0001404817000016.jpg] 」(第C712頁上段) イ 「 [図:0001404817000017.jpg] [図:0001404817000018.jpg] [図:0001404817000019.jpg] 」(第C713頁右欄~第C714頁右欄) (当審訳(一部):介在物特性 FE-SEM/EDSによって、非金属介在物の成分と形態を試験した。介在物の形態と成分に基づいて、介在物を「大・長型」と「小・丸型」の2タイプに分類した。図4aは大・長型の介在物のSEM画像と対応するEDS図である。・・・図4aに示すPoint 1でのEDS点分析を行い、相対成分比を表2に挙げる。・・・図4bに示すPoint 2、3でもEDS点分析を行い、相対成分比を表2に挙げる。・・・) (8)甲12の記載事項 甲12には、以下の記載がある。 ア 「 [図:0001404817000020.jpg] 」(第9頁中段) イ 「 [図:0001404817000021.jpg] 」(第15頁上段) ウ 「 [図:0001404817000022.jpg] 」(第16頁上段) (9)甲13の記載事項 甲13には、以下の記載がある。 ア 「 [図:0001404817000023.jpg] [図:0001404817000024.jpg] [図:0001404817000025.jpg] [図:0001404817000026.jpg] [図:0001404817000027.jpg] [図:0001404817000028.jpg] 」(第520頁右欄~第522頁左欄) (10)甲14の記載事項 甲14には、以下の記載がある。 ア 「 [図:0001404817000029.jpg] [図:0001404817000030.jpg] 」(第1033頁右欄~第1034頁左欄) (11)甲15の記載事項 甲15には、以下の記載がある。 ア 「 [図:0001404817000031.jpg] [図:0001404817000032.jpg] 」(第27頁左欄~右欄) 3 申立理由1-1(進歩性)~申立理由1-4(進歩性)(甲1~甲4のそれぞれを主たる引用文献とするもの)について (1)本件特許発明1と甲1発明との対比・判断 ア 対比 (ア)甲1発明に係る「Al、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%」、「S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下」、「Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%」を含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。 (イ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、 「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%を含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」 である点で一致し、次の各点で相違する。 <相違点1-1> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下」、「Co:3%以下」を含有するものであるのに対して、甲1発明に係る「Al、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金」は、Nb:0.011%を含有する一方で、Mn、P及びCoを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下」、「Co:3%以下」を充足するものか否か不明である点。 <相違点1-2> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲1発明に係る「Al、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。 <相違点1-3> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるのに対して、甲1発明に係る「Al、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金」が、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるものか否か不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)事案に鑑み、上記相違点1-3について検討することとし、特に、申立人が上記相違点1-3に係る特定事項が記載されていると主張する甲5~甲12について、以下検討する。 a 甲5には、上記2(1)に摘記したとおり、ステンレス鋼板の発銹起点となるCaSに代表される水溶性の硫化物系非金属介在物を最終工程において、短時間に溶解除去することで、鋼板表面において露出している硫化物系介在物中のS濃度を2%未満、かつ、半球状孔の個数が1個/cm2以上存在するようにして、発銹を改善する技術が記載されているものの(【請求項1】、【0001】、【0009】及び【表2】参照)、上記相違点1-3に係る特定事項のように、硫化物系介在物のみならず、酸化物系介在物も含めて、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であることは、記載も示唆もされていない。また、甲5の【表1】を参照すると、甲5に係る「ステンレス鋼板」を構成するステンレス鋼は、本件特許発明1のように、質量%でNiを18~50%含有する「高Ni合金」に該当するものでもない。 b 甲6には、上記2(2)に摘記したとおり、溶接部(溶接金属部および溶接熱影響部)の靱性および溶接熱影響部の耐亜鉛めっき割れ性に優れ、低温での使用も可能な高張力鋼について、所定の化学組成の鋼を真空溶解炉で溶製し、これに混合酸化物を添加して得た鋳塊中の介在物にSが0.70%(重量%)以上含まれた例が複数記載されており(【0001】、【0030】、【0094】、【0099】、【表3】の「鋳塊No.2」等参照)、また、甲6の【0048】、【0049】の記載も考慮すると、甲6には、上記相違点1-3に係る特定事項のように、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であること自体は記載されていると認められるものの、甲6の【請求項1】、【請求項2】、【表1】、【表2】を参照すると、甲6に係る「高張力鋼」は、本件特許発明1のように、質量%でNiを18~50%含有する「高Ni合金」に該当するものではない。 c 甲7には、上記2(3)に摘記したとおり、高いHAZ部靱性が要求される厚板用鋼として優れた性能を有する、Al-Mn酸化物相を含有する酸化物からなる分散粒子が鋼中に分散された酸化物分散鋼について、溶鋼中のS濃度が低下するにつれて分散酸化物中のS濃度が低下することが記載されているものの(【0014】、【0070】~【0075】及び図5参照)、上記相違点1-3に係る特定事項のように、酸化物系介在物のみならず、硫化物系介在物も含めて、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であることは、記載も示唆もされていない。また、甲7の【0073】を参照すると、甲7に係る「酸化物分散鋼」は、本件特許発明1のように、質量%でNiを18~50%含有する「高Ni合金」に該当するものでもない。 d 甲8には、上記2(4)に摘記したとおり、ラインパイプ用、海洋構造物用等エネルギー用構造材の素材鋼板として好適な耐サワー性(例えば、耐水素誘起割れ性)、HAZ靱性及びHAZ硬さに優れた鋼板について、REM添加によりSを固定し、かつ微細分散させて、介在物中のS量を0%超20%未満とすることによって、粗大硫化物の耐サワー性への悪影響を抑制する技術が記載されているものの(【請求項1】、【0001】、【0013】、【0054】及び【0070】参照)、上記相違点1-3に係る特定事項のように、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であることは、記載も示唆もされていない。また、甲8の【請求項1】、【0046】を参照すると、甲8に係る「鋼板」を構成する鋼は、本件特許発明1のように、質量%でNiを18~50%含有する「高Ni合金」に該当するものでもない。 e 甲9には、上記2(5)に摘記したとおり、橋梁用高性能鋼SBHS500の試験片中の非金属介在物をSEMで観察すると、CaとSが濃縮した暗い部分(Point 1)と、Ca、Al、Oが濃縮した比較的明るい部分(Point 2)で構成されており、EDS点分析の結果、Point 1における組成がat%で「Ca:Al:S:O:Fe=29:3:32:15:21」であり、Point 2における組成がat%で「Ca:Al:S:O:Fe=12:19:7:50:12」であることが記載されており(「2・1 試験片」、「3・1 試験片のキャラクタリゼーション」、Fig 1、及びFig 2参照)、上記「at%」を「質量%」に換算すると、甲9に係る上記試験片は、上記相違点1-3に係る特定事項のように、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」である蓋然性が高いものであると認められるものの、甲9のTable 1を参照すると、甲9に係る「橋梁用高性能鋼SBHS500」は、本件特許発明1のように、質量%でNiを18~50%含有する「高Ni合金」に該当するものではない。 f 甲10には、上記2(6)に摘記したとおり、304L型ステンレス鋼中のCe添加およびCe無添加CaS介在物の孔食開始挙動を微細電気化学計測によって調査した結果、介在物中のSの濃度がat%で5~52%であったことが記載されているものの(要約、Fig 1、及びTable 2参照)、上記相違点1-3に係る特定事項のように、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であることは、記載も示唆もされていない。また、甲10のTable 1を参照すると、甲10に係る「304L型ステンレス鋼」は、本件特許発明1のように、質量%でNiを18~50%含有する「高Ni合金」に該当するものでもない。 g 甲11には、上記2(7)に摘記したとおり、マルテンサイト系中炭素鋼(Martensitic Medium-Carbon Steel)の介在物特性について、大・長型の介在物及び小・丸型の介在物をEDS点分析して相対成分比を算出した結果、MnSと特定される大・長型の介在物中のPoint 1では、Sの濃度がat%で18%であり、Al2O3-MgO-CaSと特定される小・丸型の介在物中のPoint 2では、Sの濃度がat%で1%であり、MgO-Al2O3-CaS-MnSと特定される小・丸型の介在物中のPoint 3では、Sの濃度がat%で16%であることが記載されており(Table II、Figure 4、及びその説明箇所参照)、上記「at%」を「質量%」に換算すると、甲11に係る「マルテンサイト系中炭素鋼」は、上記相違点1-3に係る特定事項のように、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」である蓋然性が高いものであると認められるものの、甲11のTable Iを参照すると、甲11に係る「マルテンサイト系中炭素鋼」は、本件特許発明1のように、質量%でNiを18~50%含有する「高Ni合金」に該当するものではない。 h 甲12には、上記2(8)に摘記したとおり、FeTi70R合金(Ti:76.2%、Al:3.3%、Si:0.6%、O>0.3%、Ca:0.07%、S≦0.002%を含有)において観察される「Type I」型介在物(サイズ20~130μm)が、CaO:96~97%、TiO2:2~3%、SiO2:0~1%を含有するものであり、同じく「Type II」型介在物(サイズ60~260μm)が、CaO:64~90%、SiO2:5~14%、TiO2:2~16%、CaS:0~4%、MgO:0~3%、FeO:0~2%を含有するものであり、同じく「Type III」型介在物(サイズ40~100μm)が、SiO2:63~69%、CaO:20~30%、TiO2:8~13%、Al2O3:0~2%、CaS:0~1%を含有するものであることが記載されている(第9頁中段、第15頁上段、及びTable 3.1参照)ものの、上記相違点1-3に係る特定事項のように、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であることは、記載も示唆もされていない。また、甲12の第9頁中段の記載を参照すると、甲12に係る「FeTi70R合金」は、本件特許発明1のように、質量%でNiを18~50%含有する「高Ni合金」に該当するものでもない。 i 以上のとおり、甲5、甲7、甲8、甲10、甲12には、上記相違点1-3に係る特定事項である「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であることが、記載も示唆もされておらず、加えて、そもそも甲5、甲7、甲8、甲10、甲12に係る素材は、「高Ni合金」とはいえないものである。 j また、甲6、甲9、甲11には、上記相違点1-3に係る特定事項である「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」とすること自体は記載又は示唆されていると認められるが、そもそも甲6、甲9、甲11に係る素材は、「高Ni合金」とはいえないものである。 k そうすると、甲5~甲12の記載及び上記2(9)~(11)に摘記した甲13~甲15の記載を参照しても、「高Ni合金」である甲1発明において、上記相違点1-3に係る特定事項、すなわち「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」である点を採用する動機付けがあるとはいえない。 (イ)また、本件特許発明1によって奏される「高温用材料として使用されるAl、Ti含有高Ni合金を用いた溶接構造物を安定的に製造することが容易になる」とともに、「熱間加工性に優れ」、「溶接構造物を製造する際に溶接熱影響部の割れが生じにくく、高温でのクリープ特性、耐酸化性に優れたAl、Ti含有高Ni合金を得ることができる」との効果(本願の願書に添付した明細書の【0011】参照)は、甲1発明及び甲5~甲15の記載からは予測し得ない顕著な効果であると認められる。 ウ 小括 よって、上記相違点1-1、1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明1と甲2発明との対比・判断 ア 対比 (ア)甲2発明に係る「Fe-Ni-Cr-Mo合金」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%」、「Mo:8%以下、Cu:4%以下」、「Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%以下」とNとを含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。 (イ)そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、 「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%以下とNとを含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」 である点で一致し、次の各点で相違する。 <相違点2-1> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下」、「Co:3%以下」を含有するものであるのに対して、甲2発明に係る「Fe-Ni-Cr-Mo合金」は、B:0.0015%を含有する一方で、Ti及びCoを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「Ti:0.01~1.5%」、「Co:3%以下」を充足するものか否か不明であり、さらに、Nの含有量が「0.225%」である点。 <相違点2-2> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲2発明に係る「Fe-Ni-Cr-Mo合金」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。 <相違点2-3> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるのに対して、甲2発明に係る「Fe-Ni-Cr-Mo合金」が、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるものか否か不明である点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、上記相違点2-3について検討するに、上記相違点2-3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記(1)イ(ア)において検討したのと同様に、甲2発明において、甲5~甲15の記載から上記相違点2-3に係る特定事項、すなわち「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」である点を採用する動機付けがあるとはいえない。 また、本件特許発明1によって奏される効果については、上記(1)イ(イ)において検討したのと同様である。 ウ 小括 よって、上記相違点2-1、2-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明1と甲3発明との対比・判断 ア 対比 (ア)甲3発明に係る「Fe-Cr-Ni合金」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下、Mo:8%以下」、「Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%以下を含有し」、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。 (イ)そうすると、本件特許発明1と甲3発明とは、 「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下、Mo:8%以下、Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%以下を含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」 である点で一致し、次の各点で相違する。 <相違点3-1> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「Cu:4%以下、Co:3%以下」を含有するものであるのに対して、甲3発明に係る「Fe-Cr-Ni合金」は、Cu及びCoを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「Cu:4%以下」、「Co:3%以下」を充足するものか否か不明である点。 <相違点3-2> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲3発明に係る「Fe-Cr-Ni合金」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。 <相違点3-3> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるのに対して、甲3発明に係る「Fe-Cr-Ni合金」が、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるものか否か不明である点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、上記相違点3-3について検討するに、上記相違点3-3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記(1)イ(ア)において検討したのと同様に、甲3発明において、甲5~甲15の記載から上記相違点3-3に係る特定事項、すなわち「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」である点を採用する動機付けがあるとはいえない。 また、本件特許発明1によって奏される効果については、上記(1)イ(イ)において検討したのと同様である。 ウ 小括 よって、上記相違点3-1、3-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明1と甲4発明との対比・判断 ア 対比 (ア)甲4発明に係る「クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れたNiCrFe合金」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下」、「Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下」、「Ca:0.0010~0.0050%」とOとを含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。 (イ)そうすると、本件特許発明1と甲4発明とは、 「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下、Ca:0.0010~0.0050%」とOとを含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」 である点で一致し、次の各点で相違する。 <相違点4-1> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下」、「Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下」、「Mg:0.0010~0.0050%」を含有するものであるのに対して、甲4発明に係る「クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れたNiCrFe合金」は、希土類元素(REM):0.035%を含有する一方で、Mo、Cu、Co及びMgを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下」、「Mg:0.0010~0.0050%」を充足するものか否か不明であり、さらに、Oの含有量が「0.005%」であり、O+Sの合計の含有量が「0.0060%」である点。 <相違点4-2> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲4発明に係る「クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れたNiCrFe合金」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。 <相違点4-3> 本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるのに対して、甲4発明に係る「クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れたNiCrFe合金」が、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるものか否か不明である点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、上記相違点4-3について検討するに、上記相違点4-3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記(1)イ(ア)において検討したのと同様に、甲4発明において、甲5~甲15の記載から上記相違点4-3に係る特定事項、すなわち「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」である点を採用する動機付けがあるとはいえない。 また、本件特許発明1によって奏される効果については、上記(1)イ(イ)において検討したのと同様である。 ウ 小括 よって、上記相違点4-1、4-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)申立人の主張について なお、申立人は、特許異議申立書の第28頁第1~3行において、本件特許発明1の成分組成に係る発明特定事項(構成要件A1~A18)について、「よって、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証および甲第4号証、およびその組み合わせにおける成分範囲は、本件特許発明1における構成要件A1-A18と一致する。」と主張しているが、上記(1)~(4)において検討したとおり、本件特許発明1と甲1~甲4のそれぞれに記載された発明とは、少なくとも一部の成分組成において相違しており、また、甲1~甲4の記載事項から本件特許発明1の成分組成に係る発明特定事項を備えた「高Ni合金」が、本願出願当時既に周知であったと認定することもできないから、上記主張は、前提を欠くものといわざるを得ず、採用しない。 (6)申立理由1-1~申立理由1-4についてのまとめ 以上のとおり、本件特許発明1は、甲1~甲4に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由1-1~申立理由1-4によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由2-1(進歩性)~申立理由2-3(進歩性)について (1)申立理由2-1、申立理由2-2について(甲2、甲4をそれぞれ主たる引用文献とするもの) 本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えた上で「残部」のFeの一部に替えて、B、Sn、Zn、Pb、Bi、Zr、Hf、La、Ce、Nd、W、V、Nb、Taの1種または2種以上を含有することをさらに特定したものであるから、上記3(6)のとおり、本件特許発明1が甲1~甲4に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲1~甲4に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、本件特許発明2は、甲2又は甲4に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明2と甲16発明との対比・判断 ア 対比 (ア)合金分野の技術常識によれば、甲16発明における各残留物の含有量は、「質量%」を意味すると解するのが相当であり、また、オーステナイトステンレス鋼の残部は、Feおよび不純物を含むものと認められるから、甲16発明に係る「オーステナイトステンレス鋼」と、本件特許発明2に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で」、「Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下」、「Al:0.01~1.0%」、「Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下」とSとOとTiとNとを含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「合金」である点で共通する。 (イ)そうすると、本件特許発明2と甲16発明とは、 「質量%で、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、Al:0.01~1.0%、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下とSとOとTiとNとを含有し、残部にFeおよび不純物を含む化学組成を有する合金。」 である点で一致し、次の各点で相違する。 <相違点16-1> 本件特許発明2に係る「高Ni合金」は、「C:0.15%以下」、「S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%」、「Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下」、「Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%」を含有し、さらに「B:0.0002~0.0030%、Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上」を含有するものであるのに対して、甲16発明に係る「オーステナイトステンレス鋼」は、C、Cr、Ni、Ca、Mgを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「C:0.15%以下」、「Cr:16~30%、Ni:18~50%」、「Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%」を充足するものか否か不明であり、また、Sの含有量が「0.015%」であり、Oの含有量が「0.015%」であり、O+Sの合計の含有量が「0.030%」であり、Tiの含有量が「>0.05%」であり、Nの含有量が「0.04%」であり、さらに「B:0.0002~0.0030%、Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上」を含有するものとはいえない点。 <相違点16-2> 本件特許発明2に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲16発明に係る「オーステナイトステンレス鋼」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。 <相違点16-3> 本件特許発明2に係る「高Ni合金」は、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるのに対して、甲16発明に係る「オーステナイトステンレス鋼」が、「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」であるものか否か不明である点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、上記相違点16-3について検討するに、上記相違点16-3は、上記3(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記3(1)イ(ア)において検討したのと同様に、甲16発明において、甲5~甲15の記載から上記相違点16-3に係る特定事項、すなわち「酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上」である点を採用する動機付けがあるとはいえない。 また、本件特許発明2によって奏される効果については、上記3(1)イ(イ)において検討したのと同様である。 ウ 小括 よって、上記相違点16-1、16-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲16に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)申立人の主張について なお、申立人は、特許異議申立書の第30頁第12~14行において、本件特許発明2の成分組成に係る発明特定事項(構成要件C1~C10)について、「よって、甲第2号証、甲第4号証および甲第16号証、およびその組み合わせにおける成分範囲は、本件特許発明1(当審注:「本件特許発明2」の誤記と認められる。)における構成要件C1-C10と一致する。」と主張しているが、上記3(2)、(4)及び上記(2)において検討したとおり、本件特許発明2と甲2、甲4及び甲16のそれぞれに記載された発明とは、少なくとも一部の成分組成において相違しており、また、甲2、甲4及び甲16の記載事項から本件特許発明2の成分組成に係る発明特定事項を備えた「高Ni合金」が、本願出願当時既に周知であったと認定することもできないから、上記主張は、前提を欠くものといわざるを得ず、採用しない。 (4)申立理由2-1~申立理由2-3についてのまとめ 以上のとおり、本件特許発明2は、甲2、甲4、甲16に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由2-1~申立理由2-3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。 5 申立理由3(進歩性)について (1)本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えたものであるから、上記3(6)のとおり、本件特許発明1が甲1~甲4に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲1~甲4に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、本件特許発明3は、甲4に記載された発明及び甲5~甲15の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)小括 したがって、本件特許発明3は、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700619

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決366件(日本製鉄株式会社、日鉄ステンレス株式会社、芝 町子)
  • 2023-700613異議申立 / 2023-10-31 / 維持耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金
    同じ当事者: 日本製鉄株式会社、日鉄ステンレス株式会社、芝 町子
  • 2023-700618異議申立 / 2023-10-31 / 維持耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金
    同じ当事者: 日本製鉄株式会社、日鉄ステンレス株式会社、芝 町子
  • 2023-006180拒絶査定不服審判 / 2024-05-14 / 原査定取消(特許/登録すべき)二相ステンレス鋼およびその製造方法
    同じ当事者: 日本製鉄株式会社、日鉄ステンレス株式会社
  • 2026-700231異議申立 / 2026-08-26 / 維持マルテンサイト系ステンレス熱間圧延線材及びその製造方法、並びにマルテンサイト系ス…
    同じ当事者: 日本製鉄株式会社
  • 2026-700304異議申立 / 2026-08-24 / 維持方向性電磁鋼板
    同じ当事者: 日本製鉄株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)370件(121・C22C)
  • 2026-700231異議申立 / 2026-08-26 / 維持マルテンサイト系ステンレス熱間圧延線材及びその製造方法、並びにマルテンサイト系ス…
    共通の審決分類: 121・C22C
  • 2026-700181異議申立 / 2026-06-19 / 維持表面処理特性に優れた冷間工具鋼および工具
    共通の審決分類: 121・C22C
  • 2025-700986異議申立 / 2026-02-13 / 維持リサイクルされたアルミニウム合金スクラップから製造されたアルミニウム合金
    共通の審決分類: 121・C22C
  • 2025-700899異議申立 / 2026-01-19 / 維持リサイクルされたアルミニウムスクラップの鋳造
    共通の審決分類: 121・C22C
  • 2024-700086異議申立 / 2025-10-20 / 訂正認容Mg合金、Mg合金の製造方法、及び、Mg合金を用いた土木材料及び生体材料
    共通の審決分類: 121・C22C

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存