特許異議申立
2023-700613
耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金
- 審判番号
- 2023-700613
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-068601
- 登録番号
- 7187605
- 請求日
- 2023年06月09日
- 審決日
- 2023年10月31日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日鉄ステンレス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人樹之下知的財産事務所
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人樹之下知的財産事務所
- 【異議申立人】芝 町子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.121-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7187605号発明「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7187605号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7187605号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願(特願2021-68601号。以下、「本願」という。)は、令和 3年 4月14日の出願であって、令和 4年12月 2日にその特許権の設定登録がされ、同年12月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~3(全請求項)に係る特許について、令和 5年 6月 9日に特許異議申立人である芝 町子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明3」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下を含有し、残部がFeおよび不純物よりなり、円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が以下の(1)式を満足することを特徴とする耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)
【請求項2】
前記Feの一部に替え、さらに質量%で、B:0.0002~0.0030%,Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
【請求項3】
溶接構造物に用いられる請求項1または請求項2記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、下記4の甲第1号証~甲第13号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1-1(進歩性)~申立理由1-7(進歩性)(甲1~甲7のそれぞれを主たる引用文献とするもの)
本件特許発明1は、甲1~甲7に記載された発明、及び甲5~甲11の記載に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2-1(進歩性)~申立理由2-5(進歩性)(甲4、甲5、甲7、甲12及び甲13のそれぞれを主たる引用文献とするもの)
本件特許発明2は、甲4、甲5、甲7、甲12及び甲13に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(進歩性)
本件特許発明3は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲1:特開2020-33579号公報
甲2:特開2014-189826号公報
甲3:特開2018-59148号公報
甲4:国際公開第2018/066579号
甲5:特開2017-57461号公報
甲6:特開2019-52349号公報
甲7:J. C. LIPPOLD, “An Investigation of Weld Cracking in Alloy 800”, WELDING RESEARCH SUPPLEMENT, March 1984, p.91-s~p.104-s
甲8:特許第6119933号公報
甲9:特開2019-127633号公報
甲10:再公表特許第2012/176586号
甲11:特開2008-13800号公報
甲12:特開2012-229463号公報
甲13:D. PECKNER et al., Handbook of Stainless Steels, 1977, p.14-2~p.14-3
第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、上記第3の1~3のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 甲1~甲7、甲12、甲13に記載された発明
(1)甲1に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲1には、「表面性状に優れたステンレス鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その【請求項1】、【0011】の記載を前提とし、特に、【表1】、【表2】に記載された「実施例1」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。
「C:0.016質量%、Si:0.43質量%、Mn:1.39質量%、Ni:24.30質量%、Cr:19.97質量%、Mo:4.16質量%、Cu:1.37質量%、Al:0.053質量%、N:0.055質量%、P:0.023質量%、S:0.0003質量%、O:0.0015質量%、Mg:0.0015質量%、Ca:0.0010質量%、残部がFe及び不可避的不純物から成り、非金属介在物は、MgO、CaO-Al2O3系酸化物、MgO・Al2O3の3種からなり、
圧延方向に平行に分散して40μm以上連続して並ぶ非金属介在物が、鋼板表面200mm2中の面積において5個であり、かつ鋼板厚み中心における鋼板表面と平行な断面200mm2中の面積において11個であるステンレス鋼板に用いられるステンレス鋼。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)甲2に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲2には、「表面性状に優れるFe-Ni-Cr系合金とその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その【請求項1】、【0013】、【0029】、【0040】の記載を前提とし、特に、【表1】、【表2】に記載された「発明例1」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる(当審注:甲2の【表1】の左から2列目には、合金の化学成分として「Ca*」と記載されているが、これは、「C」を誤記したものと認められる。)。
「C:0.010mass%、Si:0.15mass%、S:0.0002mass%、Ni:39.47mass%、Cr:23.24mass%、Mo:3.10mass%、Cu:2.18mass%、Al:0.129mass%、Ti:0.668mass%、N:0.011mass%、O:0.0011mass%、Mg:0.0056mass%、Ca:0.0002mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、非金属介在物として、MgO、CaO-Al2O3-TiO2系酸化物を含むAl、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金。」(以下、「甲2発明」という。)
(3)甲3に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲3には、「Fe-Cr-Ni合金およびその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その【請求項1】、【請求項3】、【0013】、【0014】の記載を前提とし、特に、【表1】の「発明例1」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。
「mass%にて、C:0.021%、Si:0.25%、Mn:0.27%、P:0.018%、S:0.0002%、Ni:30.42%、Cr:20.12%、Al:0.32%、Ti:0.38%、N:0.009%、かつTiとNは、%N×%Ti=0.00342を満たして含有し、さらにMg:0.0051%、Ca:0.0012%、O:0.0005%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、任意の断面において5μm以上のTiN介在物が75個/cm2であり、
酸化物系介在物として、CaO-MgO-Al2O3系を必須成分として含み、MgO・Al2O3、MgO、CaOの3種を任意成分として含み、MgOとCaOの個数割合は25%であるFe-Cr-Ni合金。」(以下、「甲3発明」という。)
(4)甲4に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲4には、「NiCrFe合金」(発明の名称)に関する記載があり、その[請求項1]、[0013]~[0015]、[0047]、[0097]~[0099]の記載を前提とし、特に[表1]、[表2]に記載された「符号3」の合金に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.07%、Si:0.25%、Mn:0.98%、P:0.014%、S:0.0010%、Cr:19.8%、Ni:31.4%、Ti:0.95%、Al:0.43%、N:0.007%、O:0.005%、希土類元素(REM):0.035%、Ca:0.003%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記(1)~(3)式を満たす化学組成を有する、クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れたNiCrFe合金。
0.50≦Ti+48Al/27≦2.20 (1)
0.40≦Ti/(Ti+48Al/27)≦0.80 (2)
Σ[REM/(A(REM))]-S/32-2/3・O/16≧0 (3)
ここで、式(1)~(3)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(3)中のA(REM)には、各希土類元素の原子量が代入される。」(以下、「甲4発明」という。)
(5)甲5に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲5には、「高温強度に優れたFe-Cr-Ni系合金」(発明の名称)に関する記載があり、その【請求項1】、【0011】の記載を前提とし、特に、【表1】、【表2】に記載された「発明例3」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.025%、Si:0.23%、Mn:1.10%、Ni:35.3%、Cr:23.4%、Mo:1.30%、Al:0.010%、N:0.28%、Nb:0.45%、B:0.0031%、Ti:0.031を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe-Cr-Ni系合金であり、該Fe-Cr-Ni系合金に、長径が0.5~5μmのNbN、NbC、TiN、TiCの4種を、任意の断面において50個/mm2含み、5μm超は0個/mm2であるFe-Cr-Ni系合金。」(以下、「甲5発明」という。)
(6)甲6に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲6には、「ニッケル基合金」(発明の名称)に関する記載があり、その【請求項1】、【0012】、【0037】の記載を前提とし、特に、【表1】、【表2】に記載された「発明例1」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。
「以下質量%にて、C:0.006%、Si:0.25%、Mn:0.25%、P:0.014%、S:0.0002%、Cr:22.51%、Mo:8.51%、Nb:3.31%、Al:0.24%、Ti:0.25%、Fe:4.61%、N:0.009%、残部Niおよび不可避的不純物からなり、前記C濃度範囲において、すべての炭化物に対して、(Nb,Ti)C炭化物の割合が98%であり、2000×%C+890≦T(温度℃)≦1150にて、-30×T+37220≦(Nb,Ti)C炭化物の個数(個/mm2)≦-7.7×T2+15700×T-7866000の割合で含むNi基合金。」(以下、「甲6発明」という。)
(7)甲7に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲7には、「An Investigation of Weld Cracking in Alloy 800」(「合金800における溶接割れの調査」:題目)に関する記載があり、その「Experimental Procedure」(実験手順)の「Material」(材料)、「Varestraint Test」(高温割れ性試験)、「Table 1」(表1)、「Table 2」(表2)の記載(92-s参照)、及び「Results」(結果)の「Varestraint Test Results」(高温割れ性試験結果)、Fig.2(図2)、「Metallographic Observations」(金属組織観察)、「Table 3」(表3)の記載(93-s、94-s参照)、特に、「Heat A」の合金800に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。
「重量%で、C:0.06%、Mn:0.87%、Si:0.39%、Ti:0.42%、Al:0.19%、Cu:0.64%、Cr:19.94%、Ni:33.95%、S:0.003%、P:0.01%、N:0.020%、Nb:0.05%、及び残部Feである化学組成を有し、高温割れ性試験による溶接後の溶接部(Fusion zone)には、平均サイズ0.36μmのTiCの粒子が448個/9000μm2、及び平均サイズ0.73μmの大きなTiCの粒子が16個/9000μm2存在する、合金800。」(以下、「甲7発明」という。)
(8)甲12に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲12には、「Fe-Ni-Cr-Mo合金およびその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その【請求項1】、【請求項2】、【0009】、【0011】の記載を前提とし、特に、【表1】、【表3】に記載された「発明例No.1」に着目すると、次の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.007%、Si:0.16%、Mn:0.17%、P:0.015%、S:0.0001%、Ni:31.52%、Cr:26.51%、Mo:6.52%、Cu:1.15%、Al:0.055%、N:0.225%、B:0.0015%、Ca:0.0013%、Mg:0.0034%、O:0.0012%、残部:Feおよび不可避不純物からなるFe-Ni-Cr-Mo合金であって、
非金属介在物としてMgO、MgO・Al2O3スピネル、CaO-Al2O3-MgO系酸化物の3種を含み、長径が3μm以上の非金属介在物のうち、MgO・Al2O3スピネルの個数比率が40%で、長径が30μm以上の非金属介在物の個数比率が0%であるFe-Ni-Cr-Mo合金。」(以下、「甲12発明」という。)
(9)甲13に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲13の「TABLE 1」には、次の発明が記載されていると認められる。
「残留物(Residual Elements)の典型的な含有量(Typical Amounts)が以下のとおりである、オーステナイトステンレス鋼。
Pb:0.002%、Sn>0.01%、Co:0.20%、Cu:0.15%、Zn:0.01%、Cb:0.01%、As:0.01%、Al:0.01%、Mo:0.05%、B>0.0005%、Ti>0.05%、V>0.05%、Se>0.02%、Sb>0.01%、N:0.04%、O2:0.015%、P:0.020%、S:0.015%、Si:0.60%、Mn:1.25%、H2:0.0007%(7ppm)」(以下、「甲13発明」という。)
2 甲5~甲11の記載事項
(1)甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある(下線は当審が付したものである。以下同様。)。
ア 「【請求項1】
質量%で、C:0.01~0.1%、Si:0.1~1%、Mn:0.05~1.5%、Ni:30~50%、Cr:19~28%、Mo:0.1~2.5%、Al:0.01~0.2%、N:0.10~0.32%、Nb:0.3~0.6%、B:0.0005~0.006%、任意成分としてTi:0.1%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe-Cr-Ni系合金であり、該Fe-Cr-Ni系合金に、長径が0.5~5μmのNbN、NbC、TiN、TiCの1種または2種以上を、任意の断面において20~200個/mm2含み、5μm超は10個/mm2以下であることを特徴とするFe-Cr-Ni系合金。」
イ 「【0001】
本発明は、高い高温強度が要求される反応塔の構造材として使用されるようなFe-Cr-Ni系合金およびその製法に関するものである。具体的には、合金製造時の成分と析出物または晶出物を制御し、製品の合金板断面の析出物または晶出物の個数分布および長径を最適化することにより、高いクリープ破断特性を実現した技術に関するものである。」
ウ 「【0009】
そこで、本発明の目的は、クリープ特性に大きく影響を及ぼすNb、Tiの窒化物あるいは炭化物のサイズや個数を適正化した合金を開発することである。」
エ 「【0030】
長径が0.5~5μmのNbN、NbC、TiN、TiCの1種または2種以上の個数が20個未満と少ないと、製品の焼鈍温度1150~1250℃において、結晶粒が粗大化してしまい、充分なクリープ強度が確保できない。なお、0.5~5μmのNbN、NbC、TiN、TiC炭窒化物は、結晶粒成長抑制に寄与することから、サイズは0.5~5μmとした。逆に200個/mm2を超えて多く含まれると、ボイドの起点が増加していまい、この起点が連結してクリープ破断に至ってしまう。そのため、長径が0.5~5μmのNbN、NbC、TiN、TiCの1種または2種以上を、任意の断面において20~200個/mm2と規定した。5μm超の炭窒化物は、直接クリープ破断の起点となってしまう。そのため、10個/mm2以下と規定した。このことを図8に模式図で示した。(a)のように析出物2が小さい(0.5~5μm)と、その周囲にできるクリープボイド3も小さくなり、スラブ組織1に対する応力集中が小さくなり、結果としてスラブが破断しにくくなる。一方、(b)のように析出物2が大きい(5μm超)と、クリープボイド3も大きくなり、スラブ組織のボイド間の部分において応力集中が(a)の場合より大きくなり、結果としてスラブが破断し易くなる。」
オ 「【実施例】
【0036】
次に、本発明の効果を、実施例を示して説明する。
これらの合金は、電気炉にてスクラップ、ニッケル、クロム、ニオブなどの原料を溶解して、その後AOD(Argon Oxygen Decarburization)にて、酸素とArの混合ガスを吹き込み脱炭し、その後、フェロシリコン合金および/またはアルミニウムを添加して、Cr還元し、その後、石灰石、蛍石を添加して、脱酸、脱硫した後に、連続鋳造機にてスラブを製造するプロセスにより製造する(CC: Continuous casting)。このように連続鋳造して200mm厚×1600mm幅のスラブを製造した。一部、比較のために、400mm厚×800mm幅×2000mm高さの普通造塊(IC: Ingot casting)も行った。普通造塊の鋼塊は鍛造して、200mm厚×1600mm幅のスラブに仕上げた。
【0037】
これらのスラブ表面を研削した後に、再加熱し1000~1300℃の温度で熱間圧延し、厚さ10~80mmの厚板材(プレート)とした後、焼鈍・矯正・酸洗を行った。表1および2に発明例および比較例を示すとともに、図1にクリープ破断時間と応力の関係を示す。表中、[ ]で示す数値は本発明の好ましい範囲外であることを示す。
【0038】
【表1】
[図:0001404815000001.jpg]
【0039】
【表2】
[図:0001404815000002.jpg]
」
(2)甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある(「・・・」は、記載の省略を表す。)。
ア 「【請求項1】
以下質量%にて、C:0.005~0.03%、Si:0.02~1%、Mn:0.02~1%、P≦0.03%、S:0.005%以下、Cr:18~24%、Mo:8~10%、Nb:2.5~5.0%、Al:0.05~0.4%、Ti:1%以下、Fe:5%以下、N:0.02%以下、残部Niおよび不可避的不純物からなり、前記C濃度範囲において、すべての炭化物に対して、(Nb,Ti)C炭化物の割合が90%以上であり、2000×%C+890≦T(温度℃)≦1150にて、-30×T+37220≦(Nb,Ti)C炭化物の個数(個/mm2)≦-7.7×T2+15700×T-7866000の割合で含むことを特徴とするNi基合金。」
イ 「【0001】
本発明は、化学プラント、天然ガス配管及び容器に代表される各種用途に使用されるNi基合金に関するものである。」
ウ 「【0009】
上記した従来技術に鑑み、まずNi基合金のCrやMoを含有する析出物を制御するために、C量が炭化物の析出挙動に与える影響を明確にし、優れた耐粒界腐食性を引き出すことのできるNi基合金を提供することを目的とする。」
エ 「【0011】
特に本合金において、Nbの添加効果は極めて重要で強度を高めるだけでなく、耐粒界腐食性を劣化させる鋭敏化状態を防止するにあたっても極めて重要である。その理由は、耐粒界腐食性を良好な状態に保つために重要な元素であるCr、Moを固溶状態に保つためにCがNbと結合し、NbCを形成することに基づく。本発明は、上記の知見に基づき開発されたものである。」
オ 「【0022】
(Nb,Ti)C炭化物を形成する事でCrやMoの炭化物の析出を抑えることができる。それによって、耐粒界腐食性を良好な状態に維持する事ができるので、合金の出荷先で実施される熱処理によっても耐粒界腐食性の低下が抑制され、極めて厳しい環境で使用する素材を提供する事が可能となる。」
カ 「【0032】
Nb:2.5~5.0%
Nbは強度を高める元素である。さらに、炭素と結合しNbCを形成するため、Mo、Crと炭素の結合を防ぐ重要な効果を示す。そのため、耐粒界腐食性を高める役割もある。しかしながら、5%以上では延性発現温度が低下してしまい、熱間加工ができなくなってしまう。そのため、2.5~5.0%の範囲に定めた。好ましくは3~4.8%、さらに好ましくは3.5~4.5%である。
・・・
【0034】
Ti:1%以下
Tiは強度を高めるため有効な元素であるとともに、Nbと同様にTiは炭素と結合しTiCを形成して、Cr、Moの炭化物の形成を防ぐ。そのため、耐粒界腐食性を高める性質を持つため、1%以下の範囲で添加する。
・・・
【0038】
上記のC濃度範囲(C:0.005~0.03%)において、すべての炭化物に対して、(Nb,Ti)C炭化物の割合が90%以上必要である理由を説明する。M6CとM23C6の析出する割合を10%未満に抑えないと、ASTM G28 Method A試験において腐食度が1.5mm/y未満を達成できないためである。」
キ 「【実施例】
【0045】
スクラップ、Ni、Cr、Moなどの原料を電気炉で溶解し、AOD(Argon Oxygen Decarburization)および/またはVOD(Vacuum Oxygen Decarburization)にて酸素吹精して脱炭を行った。その後、Alと石灰石を投入してCr還元を行い、さらに石灰石と蛍石を投入し、溶融合金上にCaO-SiO2-Al2O3-MgO-F系スラグを形成して脱酸、脱硫を行った。スラグ中SiO2濃度は10%以下に制御した。このようにして精錬した溶融合金を、連続鋳造機にて鋳造しスラブを得た。
【0046】
その後、スラブをステッケルミルで熱間圧延し、引き続き冷間圧延して板厚4mmの冷延板を製造した。表1に製造した合金の化学成分を、表2に測定条件、評価結果を示す。表1および2において括弧内に示す数値は本発明の範囲外であることを示す。
ここで、評価方法を明記する。
(1)蛍光X線分析により行った。ただし、CとSは燃焼重量法、Oは不活性ガスインパルス融解赤外線吸収法によった。
(2)熱延温度は、ステッケルミルの仕上げ圧延後、水冷前に放射温度計により測温した。
(3)(Nb,Ti)Cの個数分布:(Nb,Ti)C炭化物の個数分布を正しく求めることは、極めて重要な事である。まず、当該温度で熱処理した後に、速やかに冷却してその温度での状態を維持する必要がある。したがって、50℃/秒以上で冷却する。そのようにして製造した4mm厚の冷延板を10×10mmのサイズに切断した。圧延方向に平行な断面を鏡面研磨した後にFE-SEMを用いて観察し、求めたものである。なお、測定に供した領域は1mm2である。
(4)炭化物の組成はEDSにより定量分析することにより求めた。
(5)(Nb,Ti)Cのサイズは、上記の通りFE-SEMにより求めた。なお、表2に示したサイズは、平均サイズを代表値として示した。
(6)耐粒界腐食性の評価:ASTM G28 Method A試験により、年間腐食深さ(mm/y)を評価した。
(7)SR(Stress Release)は、歪取焼鈍であり、600度×5hrの熱処理を行った。合金の出荷先で実施され耐粒界腐食性の低下の原因となっている熱処理を再現したものである。
【0047】
【表1】
[図:0001404815000003.jpg]
【0048】
【表2】
[図:0001404815000004.jpg]
」
(3)甲7の記載事項
甲7には、以下の記載がある。
ア 「
[図:0001404815000005.jpg]
」
イ 「
[図:0001404815000006.jpg]
」
ウ 「
[図:0001404815000007.jpg]
」
エ 「
[図:0001404815000008.jpg]
」
(4)甲8の記載事項
本願の出願前に公知となった甲8には、「耐摩耗鋼板および耐摩耗鋼板の製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、耐摩耗鋼板に関するものであり、特に、耐遅れ破壊特性と耐摩耗性を高い水準で、かつ低コストで両立させることができる耐摩耗鋼板に関するものである。また、本発明は耐摩耗鋼板の製造方法に関するものである。」
イ 「【0009】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、耐遅れ破壊性と耐摩耗性を高い水準で、かつ低コストで両立させることができる耐摩耗鋼板を提供することを目的とする。また、本発明は、前記耐摩耗鋼板を製造する方法を提供することを目的とする。」
ウ 「【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、耐摩耗鋼板におけるガス切断後の遅れ破壊は、マルテンサイト組織やベイナイト組織の旧オーステナイト粒界で起る粒界破壊を起点として生じること、および前記粒界破壊は(a)ガス切断によって生じる残留応力、(b)ガス切断時に切断ガスから鋼板へと侵入する水素による水素脆化、および(c)ガス切断時の昇温による鋼板の焼戻し脆化の影響が重複することにより発生することを見出した。
【0011】
さらに、本発明者等は、粒界脆化元素であるMnおよびPが濃化している鋼板の板厚中心偏析部がガス切断割れの起点であること、およびガス切断時の昇温により、板厚中心偏析部における前記粒界脆化元素の旧オーステナイト粒界への偏析がさらに促進される結果、旧オーステナイト粒界の強度が著しく低下し、ガス切断割れが発生することを明らかにした。
【0012】
上記MnやPの板厚中心への偏析は、連続鋳造の際に生じる。連続鋳造では、表面から内部に向かって溶鋼の凝固が進行するが、MnやPの固溶限は固相よりも液相の方が大きいため、固相/液相界面では凝固した鋼から溶鋼中へとMn、P等の合金元素が濃化していく。そして、最終凝固部である板厚中心位置では、著しく合金元素の濃化が起こった溶鋼が凝固することで中心偏析部が形成される。
【0013】
そこで、以上の知見を踏まえ、中心偏析部を起点とする割れを防止する方法についてさらに検討を行った結果、本発明者等は、連続鋳造時におけるMnおよびPの中心偏析を抑制するとともに、最終的な鋼板の組織における旧オーステナイト粒径を微細化することによって、鋼板全体におけるMn含有量が高くとも、優れた耐ガス切断割れ性が得られることを見出した。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨構成は次のとおりである。
1.耐摩耗鋼板であって、
質量%で、
C :0.20~0.45%、
Si:0.01~1.0%、
Mn:0.3~2.5%、
P :0.020%以下、
S :0.01%以下、
Cr:0.01~2.0%、
Ti:0.10~1.00%、
B :0.0001~0.0100%、
Al:0.1%以下、および
N :0.01%以下を含み、
残部Fe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、
前記耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が90%以上であり、前記耐摩耗鋼板の板厚中心部における旧オーステナイト粒径が80μm以下である組織を有し、
前記耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおける、0.5μm以上の大きさを有するTiC析出物の個数密度が400個/mm2以上であり、
板厚中心偏析部における、Mnの濃度[Mn](質量%)とPの濃度[P](質量%)とが、下記(1)式を満足する、耐摩耗鋼板。
記
0.04[Mn]+[P]<0.50 … (1)」
エ 「【0043】
Mg:0.0001~0.0200%
Mgは、高温における安定性が高い酸硫化物を形成することで溶接性を向上させる元素である。前記効果を得るためには、Mg含有量を0.0001%以上とする必要がある。一方、Mg含有量が0.0200%を超えると、Mgの添加効果が飽和して含有量に見合う効果が期待できず、経済的に不利となる。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0001~0.0200%とする。」
オ 「【0048】
[TiC析出物]
0.5μm以上の大きさを有するTiC析出物の個数密度:400個/mm2以上
本発明の耐摩耗鋼板においては、上述したように鋼の成分組成と組織を制御することに加えて、粗大なTiCを析出させることによって耐摩耗性を向上させる。TiCは硬質であるため耐摩耗性を向上させる効果を有しているが、大きさが0.5μm未満のTiCでは十分な耐摩耗性向上効果を得ることができない。また、大きさが0.5μm以上のTiCが析出している場合でも、該TiCの個数密度(1mm2当たりの個数)が400個/mm2未満では、耐摩耗性向上効果がほとんど得られない。そのため、0.5μm以上の大きさを有するTiC析出物の個数密度を400個/mm2以上とする。一方、前記個数密度の上限は特に限定されないが、通常は、5000個/mm2以下である。なお、前記TiC析出物には、TiCとTiNやTiSとの複合介在物も含む。前記個数密度は、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さの位置における値とする。また、ここでTiC析出物の「大きさ」は、TiC析出物の円相当直径とする。前記個数密度は、実施例に記載した方法で測定することができる。」
カ 「【0079】
【表1】
[図:0001404815000009.jpg]
」
キ 「【0081】
【表3】
[図:0001404815000010.jpg]
」
(5)甲9の記載事項
本願の出願前に公知となった甲9には、「クラッド鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、化学成分の異なる2種類の鋼板を接合したクラッド鋼板、特に曲げ加工性および耐摩耗性を高い水準で両立させたクラッド鋼板およびその製造方法に関するものである。」
イ 「【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題である、曲げ加工性および耐摩耗性の両立を高い水準で実現するクラッド鋼板について提供することを目的とする。また、本発明は、前記クラッド鋼板を製造する方法について提供することを目的とする。」
ウ 「【0010】
以上を踏まえ検討を加えたところ、硬度が高く耐摩耗性に優れる鋼板を母材として、さらに曲げ加工性の向上のために母材の片面のみに合せ材として軟質鋼板を接合させたクラッド鋼板とすることによって、容器状製品としての曲げ加工性と耐摩耗性を高い水準で両立させることが可能であることを新規に見出すに到った。ここで、硬度が小さく延性の良好な鋼板を合せ材として貼り合せるクラッド化が有効であるが、合せ材の板厚が薄すぎるとその効果は小さく、曲げ外面最表層に近い母材部で割れが発生すること、一方、軟質、高延性の合せ材の板厚がクラッド鋼板の板厚の50%を超えても曲げ加工性向上効果は飽和すること、も併せて知見した。また、曲げ加工性と耐摩耗性を高い水準で両立させたクラッド鋼板を製造するには、耐摩耗鋼性が要求される母材表層の硬度を確保するために、オーステナイト単相域から焼入れを行いマルテンサイト組織が得られる冷却条件とすることが有利であるとの知見を得た。なお、母材および合せ材がともに炭素鋼であるクラッド鋼板とすることは、ステンレス鋼や非鉄合金を合せ材に用いたクラッド鋼板に比べて合金コストを大幅に抑制できる点でも有利である。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨構成は次のとおりである。
1.母材に合せ材を接合してなるクラッド鋼板であって、
前記合せ材は、質量%で、
C:0.001%以上0.100%以下、
Si:0.01%以上2.00%以下、
Mn:0.10%以上2.50%以下、
P:0.025%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.001%以上0.100%以下、
N:0.01%以下および
O:0.01%以下を含み、残部Fe及び不可避不純物の成分組成を有し、かつ表面から1mm深さの位置におけるブリネル硬さが375HBW 10/3000未満であり、
前記母材は、質量%で、
C:0.20%以上0.45%以下、
Si:0.01%以上2.00%以下、
Mn:0.10%以上2.50%以下、
P:0.025%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.001%以上0.100%以下、
N:0.01%以下および
O:0.01%以下を含み、残部Fe及び不可避不純物である成分組成を有し、径が0.5μm以上のTiC析出物の個数密度が400個/mm2以上であり、表面から1mm深さの位置におけるブリネル硬さが400~590HBW 10/3000であり、
前記母材の板厚をtMおよび前記合せ材の板厚をtcとしたとき、tc/(tM+tc)が0.05~0.50であるクラッド鋼板。」
エ 「【0060】
Mg:0.0001~0.0200%
Mgは、高温での安定性が高い酸硫化物を形成することで溶接性を向上させる元素である。前記効果を得るためには、Mg含有量を0.0001%以上とする。一方、Mg含有量が0.0200%を超えると、Mgの添加効果が飽和して含有量に見合う効果が期待できず、経済的に不利となる。そのため、Mgを添加する場合は、含有量を0.0001~0.0200%とする。さらに、Mg含有量は0.0005~0.0150%とすることが好ましい。」
オ 「【0065】
径が0.5μm以上のTiC析出物の個数密度が400個/mm2以上
母材に耐摩耗を付与するには、上述したように鋼の基地硬度を制御することに加えて、粗大なTiCを析出させることが重要になる。すなわち、TiCは硬質であるため耐摩耗性を向上させる効果を有しているが、大きさが0.5μm未満のTiCでは十分な耐摩耗性向上効果を得ることができない。また、大きさが0.5μm以上のTiCが析出している場合でも、該TiCの個数密度(1mm2当たりの個数)が400個/mm2未満では、耐摩耗性向上効果は小さい。そのため、径が0.5μm以上のTiC析出物の個数密度を400個/mm2以上とする。一方、前記個数密度の上限は特に限定されないが、通常は5000個/mm2以下である。なお、前記TiC析出物には、TiCとTiNやTiSとの複合介在物も含む。前記個数密度は、クラッド鋼板の表面から1mmの深さの位置における値とする。また、ここでTiC析出物の「大きさ」は、TiC析出物の円相当直径とする。前記個数密度は、実施例に記載した方法で測定することができる。」
カ 「【0074】
【表1】
[図:0001404815000011.jpg]
【0075】
【表2】
[図:0001404815000012.jpg]
」
キ 「【0083】
【表3】
[図:0001404815000013.jpg]
」
(6)甲10の記載事項
本願の出願前に公知となった甲10には、「耐浸炭性金属材料」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、高温強度が高く、耐食性に優れ、特に炭化水素ガスやCOガスなどを含有する浸炭性ガス雰囲気で使用される金属材料、特に、石油・ガス精製や化学プラントなどにおける分解炉や改質炉、加熱炉もしくは熱交換器などの素材として好適な溶接性及び耐メタルダスティング性に優れた金属材料に関する。」
イ 「【0023】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、その目的は、エチレンプラント用分解炉管、接触改質炉の加熱炉管や合成ガスの改質炉管等において、浸炭性ガスと金属の表面反応を抑制することで、耐メタルダスティング性、耐浸炭性及び耐コーキング性を有し、さらに溶接性、クリープ特性を改善した金属材料を提供することである。」
ウ 「【0035】
そこで、本発明者らは、SiやCuを相当量添加して耐食性を向上させても、溶接時のHAZ割れを抑制することができる手法を改めて種々検討した。その結果、次の(f)~(h)の手法によって、凝固割れやクリープ延性を損なうことなく、HAZ割れを抑制できるとの知見に至った。
【0036】
(f)Cの多量含有は凝固割れ感受性及びクリープ延性を著しく損なうことから、含有量を制限する。
【0037】
(g)HAZ割れ感受性は、母材粒内と粒界の強度不均衡に起因するものである。そこで、粒内の強度を下げることで、相対的に粒内との強度不均衡が解消され、HAZ割れ感受性が改善する。
【0038】
(h)粒内は、AlやTiの金属間化合物、もしくはTiCが析出することで強化されることが判明し、これら元素を可能な範囲で制限することが有効となる。
【0039】
これらの知見に基づき、Crを15.0~30.0%含有する金属材料において、C、Si、Cu、Ti及びAlの含有量を種々に変化させて、溶接性(HAZ割れ感受性、凝固割れ感受性)ならびにクリープ特性を検討した結果、C含有量を0.075%以下に制限し、Ti及びAlをそれぞれ0.15%以下に制限することで、溶接性ならびにクリープ延性ともに改善するに至った。さらに、C、Ti及びAlを、それぞれ0.07%以下、0.05%以下および0.12%以下まで制限すれば、溶接性ならびにクリープ延性が格段に改善するに至った。
【0040】
しかしながら、粒内強度を下げた結果、クリープ強度も低下することが新たに判明した。そこで、上述の性能改善を維持したまま、クリープ強度をあげることを目指した結果、次の(i)の手法によって解決するとの知見を得た。
【0041】
(i)Crは耐メタルダスティング性に有効である一方、含有に伴いクリープ強度を低下させる。そのため、クリープ強度を高めるために、Crを制限することが有効である。Cr制限は母材のオーステナイト組織自体を強化するため、析出強化のようにクリープ延性を低下させることがない。
【0042】
Crの含有量を種々に変化させて、耐メタルダスティング性及びクリープ特性を調べた結果、Crを16.0%を超え22.0%未満の範囲に制限すれば所望の特性を確保できるとの知見を得た。
【0043】
(j)さらにクリープ延性やHAZ割れ感受性を高めるには、オーステナイト組織の結晶粒径を細かくすることが有効であると判明した。すなわち、結晶粒の粗大化を抑制することによって、粒界表面積を増加させ、もってSi、P及びCu等が粒界に偏析することを減少させることができる。
【0044】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、次の(1)~(4)に示す通りである。
【0045】
(1)質量%で、C:0.03~0.075%、Si:0.6~2.0%、Mn:0.05~2.5%、P:0.04%以下、S:0.015%以下、Cr:16.0%超え20.0%未満、Ni:20.0%以上30.0%未満、Cu:0.5~10.0%、Al:0.15%以下、Ti:0.15%以下、N:0.005~0.20%、O(酸素):0.02%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなることを特徴とする耐浸炭性金属材料。
【0046】
(2)質量%で、C:0.04~0.07%、Si:0.8~1.5%、Mn:0.05~2.5%、P:0.04%以下、S:0.015%以下、Cr:18.0%以上20.0%未満、Ni:22.0~28.0%、Cu:1.5~6.0%、Al:0.12%以下、Ti:0.05%以下、N:0.005~0.20%、O(酸素):0.02%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなることを特徴とする耐浸炭性金属材料。
【0047】
(3)次に示す第1グループから第5グループまでのうちの少なくとも1つのグループの中から選択される成分のうちの少なくとも1種をさらに含有することを特徴とする、上記(1)または(2)の耐浸炭性金属材料。
第1グループ:質量%で、Co:10%以下、
第2グループ:質量%で、Mo:2.5%以下、W:5%以下及びTa:5%以下、
第3グループ:質量%で、B:0.1%以下、V:0.5%以下、Zr:0.5%以下、Nb:2%以下及びHf:0.5%以下、
第4グループ:質量%で、Mg:0.1%以下及びCa:0.1%以下、
第5グループ:質量%で、Y:0.15%以下、La:0.15%以下、Ce:0.15%以下及びNd:0.15%以下。
【0048】
(4)オーステナイト結晶粒度番号が6以上の細粒組織であることを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれかの耐浸炭性金属材料。」
(7)甲11の記載事項
本願の出願前に公知となった甲11には、「低温靱性に優れたラインパイプ用高強度鋼管及びラインパイプ用高強度鋼板並びにそれらの製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、原油、天然ガス等を輸送するためのパイプラインに好適なラインパイプ用鋼管及びその素材である鋼板並びにそれらの製造方法に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、再熱HAZの靭性の低下を抑制した低温靭性に優れるAPI規格X120級のラインパイプ用高強度鋼管及びその製造方法、更にラインパイプ用高強度鋼管の素材として用いられるラインパイプ用高強度鋼板及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、周方向の引張強度が900MPa以上で、低温靭性、特にHAZの低温靭性に優れたラインパイプ用高強度鋼管を得るため、MAの生成を助長するC、Si、Al、Nb、Mo量に着目して、鋭意研究を行った。その結果、C、Si、Al、Nb、Mo量を適正な範囲に制御することにより、再熱HAZの旧オーステナイト粒界へのMAの生成が抑制され、HAZの低温靭性が向上するという知見を得た。本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1) 鋼板が管状に成形され、該鋼板の突合せ部が内面及び外面から1層ずつ溶接された鋼管の、母材の成分組成が、質量%で、C:0.020~0.080%、Si:0.01~0.50%、Mo:0.01~0.15%、Al:0.0005~0.030%、Nb:0.0001~0.030%を、C+0.25Si+0.1Mo+Al+Nb:0.100%以下の範囲で含有し、更に、Mn:1.50~2.50%、Ti:0.003~0.030%、B:0.0001~0.0030%を含有し、P:0.020%以下、S:0.0030%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、溶接熱影響部の再熱部の旧オーステナイト粒界に存在するオーステナイトとマルテンサイトとの混成物の幅が10μm以下、長さが50μm以下であることを特徴とする低温靱性に優れたラインパイプ用高強度鋼管。」
3 申立理由1-1(進歩性)~申立理由1-7(進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲1発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲1発明に係る「ステンレス鋼」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%」、「N:0.35%以下、O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下」、「Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下を含有し」、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。
(イ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、N:0.35%以下、O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下を含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「Ti:0.01~1.5%」及び「Co:3%以下」を含有するものであるのに対して、甲1発明に係る「ステンレス鋼」は、Ti及びCoを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「Ti:0.01~1.5%」及び「Co:3%以下」を充足するものか否か不明である点。
<相違点1-2>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲1発明に係る「ステンレス鋼」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。
<相違点1-3>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものであるのに対して、甲1発明に係る「ステンレス鋼」が、上記(1)の式を満足するものであるか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点1-3について、検討する。
(ア)申立人が上記相違点1-3に係る特定事項が記載されていると主張する甲5~甲9については、上記2(1)~(5)に摘記した甲5~甲9の記載を参照しても、Mgの含有量についての記載(甲8、甲9)、「0.5~5μmの炭窒化物個数(個/mm2)」及び「5μm超の炭窒化物個数(個/mm2)」についての記載(甲5)、所定の「平均サイズ」を有する「(Nb、Ti)Cの密度(個/mm2)」についての記載(甲6)、平均サイズが「0.36μm」及び「0.73μm」の「TiC」の個数密度についての記載(甲7)、及び「0.5μm以上の大きさを有するTiC析出物の個数密度(個/mm2)」についての記載(甲8、甲9)はあるものの、本件特許発明1のように「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度」についての記載は見当たらないし(甲5~甲9の記載からは、「TiC系析出物」のうち「円相当径1.0μm以上」のものについての「個数密度」は不明である。)、ましてや、当該TiC系析出物の個数密度とMgの含有量との関係に着目した記載も見当たらない。
(イ)そうすると、上記2(6)、(7)に摘記したように、甲10、甲11に溶接時におけるHAZ割れ性、低温靱性についての記載があるからといって、甲1発明において、甲5~甲9の記載から上記相違点1-3に係る特定事項、すなわち「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものを採用する動機付けがあるとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点1-1、1-2、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明1と甲2発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲2発明に係る「Al、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%」、「S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下」、「Ca」、「Mg:0.0060%以下を含有し」、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。
(イ)そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、
「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Mg:0.0060%以下とCaとを含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下」、「Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%」を含有するものであるのに対して、甲2発明に係る「Al、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金」は、Mn、P及びCoを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下」、「Co:3%以下」を充足するものか否か不明であり、さらに、Caの含有量が「0.0002mass%」である点。
<相違点2-2>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲2発明に係る「Al、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。
<相違点2-3>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものであるのに対して、甲2発明に係る「Al、Ti含有Fe-Ni-Cr系合金」が、上記(1)の式を満足するものであるか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点2-3について検討するに、上記相違点2-3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記(1)イにおいて検討したのと同様に、甲2発明において、甲5~甲9の記載から上記相違点2-3に係る特定事項、すなわち「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものを採用する動機付けがあるとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点2-1、2-2及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明1と甲3発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲3発明に係る「Fe-Cr-Ni合金」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、O:0.003%以下」、「Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下を含有し」、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。
(イ)そうすると、本件特許発明1と甲3発明とは、
「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、O:0.003%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下を含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下」を含有するものであるのに対して、甲3発明に係る「Fe-Cr-Ni合金」は、Mo、Cu及びCoを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下」を充足するものか否か不明である点。
<相違点3-2>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲3発明に係る「Fe-Cr-Ni合金」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。
<相違点3-3>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものであるのに対して、甲3発明に係る「Fe-Cr-Ni合金」が、上記(1)の式を満足するものであるか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点3-3について検討するに、上記相違点3-3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記(1)イにおいて検討したのと同様に、甲3発明において、甲5~甲9の記載から上記相違点3-3に係る特定事項、すなわち「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものを採用する動機付けがあるとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点3-1、3-2及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明1と甲4発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲4発明に係る「クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れたNiCrFe合金」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下」、「Ca:0.0003~0.0050%」とOとを含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。
(イ)そうすると、本件特許発明1と甲4発明とは、
「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、Ca:0.0003~0.0050%とOとを含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点4-1>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下」、「Mg:0.0060%以下」を含有するものであるのに対して、甲4発明に係る「クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れたNiCrFe合金」は、Mo、Cu、Co及びMgを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下」、「Mg:0.0060%以下」を充足するものか否か不明であり、さらに、Oの含有量が「0.005%」である点。
<相違点4-2>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲4発明に係る「NiCrFe合金」は、「クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れた」ものではあるものの、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。
<相違点4-3>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものであるのに対して、甲4発明に係る「クリープ強度と、耐応力緩和割れ性とに優れたNiCrFe合金」が、上記(1)の式を満足するものであるか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点4-3について検討するに、上記相違点4-3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記(1)イにおいて検討したのと同様に、甲4発明において、甲5~甲9の記載から上記相違点4-3に係る特定事項、すなわち「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものを採用する動機付けがあるとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点4-1、4-2及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明1と甲5発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲5発明に係る「Fe-Cr-Ni系合金」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%」、「Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下」、「Mo:8%以下」を含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。
(イ)そうすると、本件特許発明1と甲5発明とは、
「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、Mo:8%以下を含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点5-1>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「P:0.035%以下、S:0.0015%以下」、「O:0.003%以下」、「Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下」を含有するものであるのに対して、甲5発明に係る「Fe-Cr-Ni系合金」は、Nb:0.45%、B:0.0031%を含有する一方で、P、S、O、Cu、Co、Ca及びMgを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「P:0.035%以下、S:0.0015%以下」、「O:0.003%以下」、「Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下」を充足するものか否か不明である点。
<相違点5-2>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲5発明に係る「Fe-Cr-Ni系合金」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。
<相違点5-3>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものであるのに対して、甲5発明に係る「Fe-Cr-Ni系合金」が、上記(1)の式を満足するものであるか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点5-3について検討するに、上記相違点5-3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記(1)イにおいて検討したのと同様に、甲5発明において、甲5~甲9の記載から上記相違点5-3に係る特定事項、すなわち「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものを採用する動機付けがあるとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点5-1、5-2及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明1と甲6発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲6発明に係る「Ni基合金」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%」、「Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下」とNiとMoとを含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。
(イ)そうすると、本件特許発明1と甲6発明とは、
「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下とNiとMoとを含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点6-1>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「Ni:18~50%」、「O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下」を含有するものであるのに対して、甲6発明に係る「Ni基合金」は、Nb:3.31%を含有する一方で、O、Cu、Co、Ca及びMgを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「O:0.003%以下」、「Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下」を充足するものか否か不明であり、さらに、Moの含有量が「8.51%」であり、Niの含有量がC、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、Nb、Al、Ti、Fe、N、不可避的不純物の残部である点。
<相違点6-2>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲6発明に係る「Ni基合金」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。
<相違点6-3>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものであるのに対して、甲6発明に係る「Ni基合金」が、上記(1)の式を満足するものであるか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点6-3について検討するに、上記相違点6-3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記(1)イにおいて検討したのと同様に、甲6発明において、甲5~甲9の記載から上記相違点6-3に係る特定事項、すなわち「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものを採用する動機付けがあるとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点6-1、6-2及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件特許発明1と甲7発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲7発明に係る「合金800」と、本件特許発明1に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下」、「Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下」、「Cu:4%以下」とSを含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。
(イ)そうすると、本件特許発明1と甲7発明とは、
「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、Cu:4%以下とSとを含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点7-1>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「S:0.0015%以下」、「O:0.003%以下、Mo:8%以下」、「Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下」を含有するものであるのに対して、甲7発明に係る「合金800」は、Nb:0.05%を含有する一方で、O、Mo、Co、Ca及びMgを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「O:0.003%以下、Mo:8%以下」、「Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下」を充足するものか否か不明であり、さらに、Sの含有量が「0.003%」である点。
<相違点7-2>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲7発明に係る「合金800」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。
<相違点7-3>
本件特許発明1に係る「高Ni合金」は、「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものであるのに対して、甲7発明に係る「合金800」が、上記(1)の式を満足するものであるか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点7-3について検討するに、上記相違点7-3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記(1)イにおいて検討したのと同様に、甲7発明において、甲5~甲9の記載から上記相違点7-3に係る特定事項、すなわち「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものを採用する動機付けがあるとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点7-1、7-2及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)申立人の主張について
なお、申立人は、特許異議申立書の第34頁下から11~9行において、本件特許発明1の成分組成に係る発明特定事項(構成要件A1~A17)について、「よって、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証およびその組み合わせにおける成分範囲は、本件特許発明1における構成要件A1-A17と一致する。」と主張しているが、上記(1)~(7)において検討したとおり、本件特許発明1と甲1~甲7のそれぞれに記載された発明とは、少なくとも一部の成分組成において相違しており、また、甲1~甲7の記載事項から本件特許発明1の成分組成に係る発明特定事項を備えた「高Ni合金」が、本願出願当時既に周知であったと認定することもできないから、上記主張は、前提を欠くものと言わざるを得ず、採用しない。
(9)申立理由1-1~申立理由1-7についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1~甲7に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由1-1~申立理由1-7によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由2-1(進歩性)~申立理由2-5(進歩性)について
(1)申立理由2-1~申立理由2-3について(甲4、甲5及び甲7のそれぞれを主たる引用文献とするもの)
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えた上で「残部」のFeの一部に替えて、B、Sn、Zn、Pb、Bi、Zr、Hf、La、Ce、Nd、W、V、Nb、Taの1種または2種以上を含有することをさらに特定したものであるから、上記3(9)のとおり、本件特許発明1が甲1~甲7に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲1~甲7に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件特許発明2は、甲4、甲5又は甲7に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2と甲12発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲12発明に係る「Fe-Ni-Cr-Mo合金」と、本件特許発明2に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%」、「N:0.35%以下、O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下」、「Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下」を含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「高Ni合金」である点で共通する。
(イ)そうすると、本件特許発明2と甲12発明とは、
「質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、N:0.35%以下、O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下を含有し、残部にFeおよび不純物を含む高Ni合金。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点12-1>
本件特許発明2に係る「高Ni合金」は、「Ti:0.01~1.5%」、「Co:3%以下」を含有し、さらに「B:0.0002~0.0030%,Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上」を含有するものであるのに対して、甲12発明に係る「Fe-Ni-Cr-Mo合金」は、Ti及びCoを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「Ti:0.01~1.5%」、「Co:3%以下」を充足するものか否か不明であり、さらに「B:0.0002~0.0030%,Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上」を含有するものとはいえない点。
<相違点12-2>
本件特許発明2に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲12発明に係る「Fe-Ni-Cr-Mo合金」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。
<相違点12-3>
本件特許発明2に係る「高Ni合金」は、「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものであるのに対して、甲12発明に係る「Fe-Ni-Cr-Mo合金」が、上記(1)の式を満足するものであるか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点12-3について検討するに、上記相違点12-3は、上記3(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記3(1)イにおいて検討したのと同様に、甲12発明において、甲5~甲9の記載から上記相違点12-3に係る特定事項、すなわち「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものを採用する動機付けがあるとはいえない。
この点については、甲12の記載を参照しても同様である。
ウ 小括
よって、上記相違点12-1、12-2及び本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲12に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2と甲13発明との対比・判断
ア 対比
(ア)合金分野の技術常識によれば、甲13発明における各残留物の含有量は、「質量%」を意味すると解するのが相当であり、また、オーステナイトステンレス鋼の残部は、Feおよび不純物を含むものと認められるから、甲13発明に係る「オーステナイトステンレス鋼」と、本件特許発明2に係る「耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金」とは、「質量%で」、「Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下」、「Al:0.01~1.0%」、「N:0.35%以下」、「Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下」とSとTiとOとを含有し、「残部」に「Feおよび不純物」を含む化学組成を有する「合金」である点で共通する。
(イ)そうすると、本件特許発明2と甲13発明とは、
「質量%で、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、Al:0.01~1.0%、N:0.35%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下とSとTiとOとを含有し、残部にFeおよび不純物を含む合金。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点13-1>
本件特許発明2に係る「高Ni合金」は、「C:0.15%以下」、「S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%」、「O:0.003%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下」を含有し、さらに「B:0.0002~0.0030%、Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上」を含有するものであるのに対して、甲13発明に係る「オーステナイトステンレス鋼」は、C、Cr、Ni、Ca、Mgを含有するものであるのか否か不明であり、また、仮にこれらの元素を含有するとしても、その含有量が「C:0.15%以下」、「Cr:16~30%、Ni:18~50%」、「Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下」を充足するものか否か不明であり、また、S、Ti、Oの含有量がそれぞれ「0.015%」、「>0.05%」、「0.015%」であり、さらに「B:0.0002~0.0030%、Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上」を含有するものとはいえない点。
<相違点13-2>
本件特許発明2に係る「高Ni合金」は、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるのに対して、甲13発明に係る「オーステナイトステンレス鋼」が、「耐溶接高温割れ性に優れた」ものであるか否か不明である点。
<相違点13-3>
本件特許発明2に係る「高Ni合金」は、「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものであるのに対して、甲13発明に係る「オーステナイトステンレス鋼」が、上記(1)の式を満足するものであるか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点13-3について検討するに、上記相違点13-3は、上記3(1)イにおいて検討した相違点1-3と同様のものであるから、上記3(1)イにおいて検討したのと同様に、甲13発明において、甲5~甲9の記載から上記相違点13-3に係る特定事項、すなわち「円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が」「TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)」の式を満足するものを採用する動機付けがあるとはいえない。
この点については、甲13の記載を参照しても同様である。
ウ 小括
よって、上記相違点13-1、13-2及び本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲13に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立人の主張について
なお、申立人は、特許異議申立書の第37頁第12~15行において、本件特許発明2の成分組成に係る発明特定事項(構成要件C1~C10)について、「よって、甲第4号証、甲第5号証、甲第7号証、甲第12号証および甲第13号証、およびその組み合わせにおける成分範囲は、本件特許発明2における構成要件C1-C10と一致する。」と主張しているが、上記3(4)、(5)、(7)及び上記(2)、(3)において検討したとおり、本件特許発明2と甲4、甲5、甲7、甲12及び甲13のそれぞれに記載された発明とは、少なくとも一部の成分組成において相違しており、また、甲4、甲5、甲7、甲12及び甲13の記載事項から本件特許発明2の成分組成に係る発明特定事項を備えた「高Ni合金」が、本願出願当時既に周知であったと認定することもできないから、上記主張は、前提を欠くものと言わざるを得ず、採用しない。
(5)申立理由2-1~申立理由2-5についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明2は、甲4、甲5、甲7、甲12及び甲13に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由2-1~申立理由2-5によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由3(進歩性)について
(1)本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えたものであるから、上記3(9)のとおり、本件特許発明1が甲1~甲7に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲1~甲7に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件特許発明3は、甲1に記載された発明及び甲5~甲11の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)小括
したがって、本件特許発明3は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700613