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特許異議申立

2023-700606

フェンタニル含有貼付剤

審判番号
2023-700606
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-011150
登録番号
7253127
請求日
2023年06月08日
審決日
2024年12月19日
公報発行日
2025年04月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】久光製薬株式会社
  • 【権利者代理人】長谷川 芳樹
  • 【権利者代理人】清水 義憲
  • 【権利者代理人】木元 克輔
  • 【異議申立人】下坂 皓洋
  • 【異議申立人】竹口 美穂
審判長/審判官
  • 審判長 原田 隆興
  • 審判官 岩下 直人
  • 審判官 渕野 留香
分類
P1651.121-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7253127号発明「フェンタニル含有貼付剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7253127号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 特許第7253127号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許(特許第7253127号)に係る特許出願(特願2023-11150号)は、平成30年6月6日を出願日とする特願2018-108939号の一部を令和4年11月15日に新たな出願とした特願2022-182452号の一部を令和5年1月19日に新たな出願とした特願2023-6872号の一部を令和5年1月27日に新たな出願としたものであって、令和5年3月28日に設定の登録(請求項の数4)がなされ、令和5年4月5日に特許掲載公報が発行された。 その後、令和5年6月8日に、本件特許の請求項1~4に係る発明に対し、特許異議申立人 下坂皓洋(以下「申立人(01)」という。)により、特許異議の申立てがなされ、さらに、令和5年9月4日に、本件特許の請求項1~4に係る発明に対し、特許異議申立人 竹口美穂(以下「申立人(02)」という。)により、特許異議の申立てがなされた。以後の主な経緯は、次のとおりである。 令和 5年12月 6日付け:取消理由通知書 令和 6年 2月 7日 :訂正請求書(1回目)及び意見書の提出(特許権者) 同年 3月14日 :意見書の提出(申立人(01)) 同年 3月21日 :意見書の提出(申立人(02)) 同年 5月31日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同年 7月29日 :訂正請求書(2回目)及び意見書の提出(特許権者) 同年 9月19日 :意見書の提出(申立人(01)) 同年 9月26日 :意見書の提出(申立人(02)) 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和6年7月29日に2回目の訂正請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和6年2月7日にされた1回目の訂正請求は取り下げられたものとみなされる。 令和6年7月29日にされた訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、一群の請求項である請求項1~4について請求するものであって、次の訂正事項1の訂正を求めるものである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。 〔訂正事項1〕 特許請求の範囲の請求項1に「貼付面積が3~8cm2であり、かつ貼付面の外周長さが7.93~10.08cmとなるように貼付剤の大きさを調整する工程と、」とあるのを「貼付面積が3~8cm2であり、前記粘着剤層の単位面積あたりの質量が25~60g/m2であり、かつ貼付面の外周長さが7.93~10.08cmとなるように貼付剤の大きさを調整する工程と、」に訂正する。 (訂正される請求項1を引用する請求項2~4についても同様に訂正される。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1は、訂正前の請求項1において、さらに、粘着剤層の単位面積あたりの質量が、25~60g/m2であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)本件の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0048】には、「粘着剤層(膏体)の単位面積(1m2)あたりの質量は、25~75g/m2であってもよく、30~70g/m2であることが好ましく、35~60g/m2であることがより好ましい。」と記載されているから、訂正事項1は、本件明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。 (3)請求項1を引用する請求項2~4についても同様である。 3 独立特許要件について 請求項1~4は、特許異議申立ての対象とされた請求項であるから、本件訂正請求による訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は適用されない。 4 訂正についてのまとめ 上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正は、上記第2のとおり認められるので、請求項1~4に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、令和6年7月29日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。 「【請求項1】 支持体上に粘着剤層を備える貼付剤の製造方法であって、 前記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種の粘着剤と、を含有し、 前記粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.1~0.8mgであり、かつ貼付面積1cm2あたり、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.01~0.18mgとなるように、フェンタニル又はその塩と前記粘着剤とを混合して膏体液を調製し、展延する工程と、 貼付面積が3~8cm2であり、前記粘着剤層の単位面積あたりの質量が25~60g/m2であり、かつ貼付面の外周長さが7.93~10.08cmとなるように貼付剤の大きさを調整する工程と、を含む、方法。 【請求項2】 前記貼付剤がテープ剤である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記フェンタニル又はその塩の濃度が、前記粘着剤層の質量を基準として1~3.5%である、請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】 前記粘着剤層が、粘着付与樹脂をさらに含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。」 第4 特許異議の申立ての理由、取消理由の概要及び申立人が提出した甲号証 1 特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)は、概略、次のとおりである(なお、甲号証については、下記3を参照。)。 申立人(01)は、特許異議申立書(以下「異議申立書(01)」という。)において、以下の申立理由(a)、申立理由(b)、及び申立理由(c)を主張した。 申立人(02)は、特許異議申立書(以下「異議申立書(02)」という。)において、以下の申立理由A、申立理由B、及び申立理由Cを主張した。 異議申立書(01) ・申立理由(a) 条文:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)(サポート要件) 対象:請求項1~4 ・申立理由(b) 条文:特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)(実施可能要件) 対象:請求項1~4 ・申立理由(c) 条文:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)(進歩性) 対象:請求項1~4 証拠:甲第1号証~甲第2号証 異議申立書(02) ・申立理由A 条文:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)(サポート要件) 対象:請求項1~4 ・申立理由B 条文:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)(明確性要件) 対象:請求項1~4 ・申立理由C 条文:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)(進歩性) 対象:請求項1~4 証拠:甲第1号証~甲第5号証、及び技術常識として甲第6号証~甲第12号証 2 申立人が提出した甲号証 [申立人(01)が提出した甲号証] ・甲第1号証:特許第5535640号公報(発行は平成26年) ・甲第2号証:特開平10-45570号公報 [申立人(02)が提出した甲号証] ・甲第1号証:フェントス(R)テープの添付文書、2011年4月改訂(第3版)((R)は○の中にRの下付文字を表す。以下、同様。) ・甲第2号証:経皮吸収型持続性疼痛治療剤『フェントス(R)テープ(開発コード:HFT-290)』の「0.5mg」新用量追加に関する承認事項一部変更承認申請のお知らせ、久光製薬株式会社、平成29年8月31日 ・甲第3号証:後発医薬品の必要な規格を揃えること等について、医政発第0310001号、平成18年3月10日 ・甲第4号証:医薬品の承認申請について、薬食発1121第2号、平成26年11月21日 ・甲第5号証:特開平10-45570号公報(申立人(01)の甲第2号証と同じ) ・甲第6号証:国際公開2010/123103号 ・甲第7号証:国際公開2005/072716号 ・甲第8号証:国際公開2005/072675号 ・甲第9号証:国際公開2013/191128号 ・甲第10号証:特許第5535640号公報(発行は平成26年)(申立人(01)の甲第1号証と同じ) ・甲第11号証:「新しい図解薬剤学 改訂4版」、2009年9月10日4版1刷、株式会社南山堂、p.58-60 ・甲第12号証:「わかりやすい生物薬剤学 第3版」、平成17年2月25日第3版第3刷、株式会社廣川書店、p16-17 ・甲第13号証:特開平7-285854号公報 以下、申立人(01)が提出した甲第1号証~甲第2号証を、甲号証の番号に従い、それぞれ甲1-1~甲1-2ともいい、申立人(02)が提出した甲第1号証~甲第13号証を、甲号証の番号に従い、それぞれ甲2-1~甲2-13ともいう。 3 先に通知した取消理由の趣旨 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明について、令和6年5月31日付け取消理由(決定の予告)で通知した取消理由1(サポート要件)の趣旨は、次のとおりである。 なお、下記〔取消理由1(サポート要件)の趣旨〕における「特許請求の範囲」及び「請求項1~4」は、それぞれ、令和6年2月7日にされた1回目の訂正請求による訂正後の「特許請求の範囲」及び「請求項1~4」である。 〔取消理由1(サポート要件)の趣旨〕 請求項1~4に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満足するとはいえない。 よって、請求項1~4に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するとはいえないから、請求項1~4に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 令和6年5月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)についての当審の判断 上記「取消理由(決定の予告)」で通知した〔取消理由1:サポート要件〕の趣旨は、上記第4の3で述べたとおりである。以下、当該〔取消理由1:サポート要件〕について、判断する。 1 サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するといえるためには、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載や示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである必要がある。 2 本件発明が解決しようとする課題 本件発明が解決しようとする課題は、請求項1~4の記載及び本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)の【0006】~【0008】、【0010】の記載によれば、「フェンタニル又はその塩の含有量が低くても、フェンタニル又はその塩の保存安定性に優れた貼付剤を提供すること」であると解される。 3 サポート要件についての判断 特許請求の範囲に記載された発明(本件発明1~4)が、本件特許の出願時の技術常識を参酌して、発明の詳細な説明の記載や示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかについて検討する。 (1)発明の詳細な説明には、本件発明が解決しようとする課題を解決し得る貼付剤について以下の記載がある。 ア 発明の詳細な説明の試験例3には、実施例2、10~12が、【表3】に記載されるとおりの、組成、粘着剤層の質量、貼付面積、貼付面の形状、及び外周長さを有するテープ剤であり、フェンタニルクエン酸塩について所望の保存安定性を示したことが記載されている。ここで、請求項2に記載されるように、「テープ剤」は「貼付剤」の一態様である。 「【表3】 [図:0001421337000001.jpg] 」 イ 【0063】~【0064】には、実施例2、10~14のテープ剤は、貼付面積は互いに同一であるが、その形状の違いにより外周長さは異なること、外周長さが長くなるにつれて、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する傾向が見られたこと、貼付面積が同一である貼付を比較する場合、粘着剤層の表面積は外周長さに依存し、粘着剤層の表面積がより小さい実施例2、10~12のテープ剤は、実施例13、14のテープ剤よりもフェンタニルクエン酸塩の保存安定性が高い結果となったことが記載されている。 (2)上記(1)アによれば、実施例2、10~12は、それぞれ、フェンタニルクエン酸塩について所望の保存安定性を示し、本件発明の課題を解決できることが理解できる。 ここで、発明の詳細な説明の「具体的には、各成分を混合して得られた膏体液を、成形される粘着剤層の質量が50g/m2となるように支持体上に展延し、剥離ライナーをその上に積層することにより、テープ剤を得た。」(【0055】)という記載から、粘着剤層は「支持体」と「剥離ライナー」とで上下の面が挟持されているので、上記(1)イの、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に影響を与える「粘着剤層の表面積」とは、粘着剤層において露出している側面の面積、すなわち「粘着剤層の外周長さ」×「粘着剤層の厚さ」により算出される面積であると解される。 そして、粘着剤層の厚さが厚くなれば、上記「粘着剤層の表面積」は大きくなるので、粘着剤層の外周長さに加えて、粘着剤層の厚さも、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に影響を与えるということができる。 そうすると、実施例2、10~12は、特定の範囲の粘着剤層の外周長さに加えて、粘着剤層の質量が50g/m2であり、その粘着剤層の質量に対応した厚さを有する粘着剤層を用いることによって、フェンタニルクエン酸塩について所望の保存安定性を示すといえる。 (3)ここで、実施例2、10~12と同程度の、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性を有し、本件発明の課題を解決できると解される粘着剤層の厚さが如何なる程度であるのかについて検討する。 ア 実施例2、10~12の粘着剤層の単位面積当たりの質量はすべて50g/m2であり、外周長さは7.93~10.08cmである。粘着剤層の単位面積当たりの質量が50g/m2であるときの粘着剤層の厚さをH(cm)とすると、実施例2、10~12は、粘着剤層の表面積が7.93H~10.08H(cm2)であるときに、本件発明の課題が解決できることを示しているといえる。 イ また、上記「【表3】」の記載に基づいて、「粘着剤層の表面積」と「保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量」との相関性について検討すると、実施例10は表面積7.93H(cm2)で97.1(%)、実施例2は表面積8.72H(cm2)で96.5(%)、実施例11は表面積8.88H(cm2)で97.3(%)、実施例12は表面積10.08H(cm2)で96.6(%)であるから、「粘着剤層の表面積」が大きくなるほど「保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量」が低下する、すなわちフェンタニルクエン酸塩の保存安定性が低下する傾向があると認められる。 そこで、本件発明の課題が解決できる最大の「粘着剤層の表面積」が10.08H(cm2)であるという前提で、課題が解決できる粘着剤層の最大の厚さをL(cm)とする。最大の厚さL(cm)は、貼付面の外周長さが最小(7.93cm)のときに、課題が解決できることが示された最大の表面積(10.08H(cm2))になる厚さであるので、7.93L=10.08Hであり、計算すると、L=(10.08÷7.93)H≒1.271Hになる。 そして、粘着剤層の単位面積当たりの質量が50g/m2の厚さがHであるから、最大の厚さLになる時の粘着剤層の最大の単位面積当たりの質量は1.271×50=63.55g/m2となる。 したがって、本件発明の課題を解決できると解される粘着剤層の厚さは、「粘着剤層の単位面積あたりの質量が、63.55g/m2以下」に対応した厚さであると解される。 ウ そうすると、本件発明1において、貼付面(粘着剤層)の外周長さが「7.93~10.08cm」であることに加えて、本件訂正により、粘着剤層の単位面積あたりの質量が「25~60g/m2」に特定されたところ、「粘着剤層の単位面積あたりの質量が、63.55g/m2以下」に対応した厚さであれば、本件発明の課題を解決できると解されるのであるから、粘着剤層の厚さが「単位面積あたりの質量が「25~60g/m2」である粘着剤層に対応した厚さ」の貼付剤の製造方法である本件発明1は、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるといえる。本件発明2~4についても同様である。 エ したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 (4)申立人の主張について ア 申立人(01)の主張(令和6年9月19日提出の意見書) 申立人(01)は、本件明細書の実施例の記載から、「粘着剤層の表面積が大きくなるほど保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する」ということはできず、本件発明がサポート要件を充足するためには、粘着剤層の単位面積当たりの質量の下限を限定する必要があり、具体的には、粘着剤層の単位面積当たりの質量の下限を、実施例から算出されるところの、「39.35g/m2」に限定する必要がある旨を主張する(5.(2))。 しかしながら、本件明細書の実施例からは、全体的な傾向として、「粘着剤層の表面積が大きくなるほど保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する」という傾向を読み取ることができ、また、本件明細書の【0064】に「貼付面の外周長さが長くなるにつれて、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する傾向が見られた」こと、及び「粘着剤層の表面積がより小さい実施例…(略)…は、…(略)…フェンタニルクエン酸塩の保存安定性が更に高い結果となった」ことが記載されることを考慮すると、「25g/m2」という下限において、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるといえるので、下限を「39.35g/m2」に限定する必要があるとはいえない。 したがって、申立人(01)の上記主張は採用できない。 イ 申立人(02)の主張(令和6年9月26日提出の意見書) (ア)申立人(02)は、本件明細書の実施例のフェンタニルクエン酸塩の含有量は、全て0.5mgであるところ、本件明細書の、 「【0007】 本発明者らは、貼付面積が2.5cm2であり、フェンタニルクエン酸塩0.5mgを含有する貼付剤を調製したところ、予想外にもフェンタニルクエン酸塩の保存安定性が低下することを見出した。 【0008】 そこで、本発明の目的は、フェンタニル又はその塩の含有量が低くても、保存安定性に優れた貼付剤を提供することにある。」 との記載から、貼付剤に含有されるフェンタニル又はその塩(以下「フェンタニル等」ともいう。)の含有量が低下することで、フェンタニル等の保存安定性が低下すると考えられるので、フェンタニルクエン酸塩の含有量が0.5mg未満である場合の本件発明がサポート要件を充足するとはいえない旨を主張する(3~4頁の(ハ))。 しかしながら、本件明細書について、【0007】、【0008】の記載のみならず、実施例等の記載を併せ考慮すると、上記(2)及び上記アで述べたとおり、フェンタニル等の保存安定性に影響を与えるのは、粘着剤層において露出している側面の面積であると考えるのが相当であり、貼付剤に含有されるフェンタニル等の含有量が低下することで、フェンタニル等の保存安定性が低下すると考えることはできないので、フェンタニルクエン酸塩の含有量が0.5mg未満である場合の本件発明がサポート要件を充足しないとはいえない。 したがって、申立人(02)の上記主張は採用できない。 (イ)申立人(02)は、本件発明がサポート要件を充足するためには、粘着剤層の単位面積当たりの質量の下限を、実施例から算出されるところの、「39.35g/m2」に限定する必要がある旨を主張する(8~9頁の(v))。 しかしながら、上記アで述べたとおり、「25g/m2」という下限において、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるといえるので、下限を「39.35g/m2」に限定する必要はなく、申立人(02)の上記主張は採用できない。 (ウ)申立人(02)は、本件明細書に、 「【0059】 試験例2:保存安定性試験2 表2の記載にしたがい、試験例1と同様に、フェンタニルクエン酸塩を含有するテープ剤(実施例1~3)を調製した。実施例1~3のテープ剤は、比較例1のテープ剤と比較して、粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の濃度を低くして、貼付面積を大きくしたテープ剤である。試験例1と同様にして、実施例1~3のテープ剤の保存安定性を評価した。」(合議体注:下線は、合議体によるものである。) と記載され、また、【表3】に実施例2のテープ剤の形状が正方形であることが記載されるから、実施例2と比較例1のテープ剤はいずれも形状が正方形であると主張する。その上で、実施例2と比較例1を比較すると、フェンタニルクエン酸塩の濃度が2%から4%に増えることで、保存後の含有量が、96.5%から95.5%に低下しているので、フェンタニルクエン酸塩の濃度が貼付剤の保存安定性に大きな影響を与えることは明らかであり、本件明細書の【表2】、【表3】の記載から、本件発明がサポート要件を充足するといえるフェンタニルクエン酸塩の濃度は2~3%である旨を主張する(9~14頁の(ホ))。 しかしながら、【0059】の記載が、テープ剤の形状も含めて「同様に」調製したことを意味するとは必ずしもいえないし、実施例2と比較例1のわずか1組のみの比較結果から、フェンタニルクエン酸塩の濃度が貼付剤の保存安定性に影響を与えると、当業者が認識するとは解されない。 (エ)申立人(02)は、本件発明がサポート要件を充足するためには、粘着剤層の単位面積当たりの質量の下限を、本件明細書【0023】と請求項3の「フェンタニル又はその塩」の濃度である「3.5%」に基づいて算出されるところの、「28.57g/m2」に限定する必要がある旨を主張する(14~16頁の(ヘ))。 しかしながら、上記(ウ)で述べたのと同様の理由により、「フェンタニル又はその塩」の濃度が貼付剤の保存安定性に影響を与えるとは解されず、また、上記アで述べたとおり、「25g/m2」という下限において、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるといえるので、下限を「28.57g/m2」に限定する必要はなく、申立人(02)の上記主張は採用できない。 したがって、申立人(02)の上記主張は採用できない。 (5)小括 以上述べたとおり、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、上記の取消理由により取り消されるべきものでない。 第6 取消理由通知において採用しなかった申立理由についての当審の判断 1 申立人(01)の申立理由 1-1 申立理由(a)(サポート要件)について ・請求項:1~4 サポート要件の判断基準、及び本件発明が解決しようとする課題は、上記第5の1、2において述べたとおりである。そして、上記第5の3において述べたとおり、本件明細書の実施例(特に、実施例2、10~12)の記載から、請求項1~4に特定される貼付剤であれば、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できるといえる。 申立人(01)は、異議申立書(01)ウ(ウ)(p.8~9)において、本件明細書の表3及び表2の記載を指摘して、実施例1の貼付剤の形状が実施例2と同様に正方形であると考えられるため、その外周長さは7.30cmであり、実施例1の貼付剤は、本件発明1~4の外周長さ以外の構成要件を全て具備するにもかかわらず、保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量は95.3%であるから、「本件特許発明の貼付剤においては、貼付面積、フェンタニルクエン酸塩の濃度などが保存安定性に影響を与えることは明らかであり」、本件発明1で特定されている「前記粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、貼付面積1cm2あたり、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.01~0.18mgであり、前記粘着層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.1~0.8mgであり、貼付面積が3~8cm2」であるという全範囲に渡って、貼付面の外周長さが7.93~10.08cmであれば、本件特許発明の課題を解決できているとは認められない。」と主張している。 しかし、申立人(01)が異議申立書(01)ウ(ウ)で指摘する本件明細書の記載を参酌しても、貼付面積、フェンタニルクエン酸塩の含有量(濃度)などが保存安定性に影響を与えるとはいえないから、申立人(01)による上記主張を採用することはできない。 そして、本件明細書の実施例2、10~12等の記載から、貼付面(粘着剤層)の外周長さが「7.93~10.08cm」であることに加えて、粘着剤層の厚さが「単位面積あたりの質量が「25~60g/m2」である粘着剤層に対応した厚さ」である場合に、フェンタニルクエン酸塩について所望の保存安定性を示すといえることは、上記第5の3(3)で述べたとおりである。 1-2 申立理由(b)(実施可能要件)について 本件発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる(つまり、本件発明についていわゆる「実施可能要件」を満足するといえる)ためには、発明の詳細な説明の記載から、出願時の技術常識を参酌して、当業者が、本件発明に係る貼付剤の製造方法により、その貼付剤を製造できると理解できる必要がある。 申立人(01)は、申立理由(a)(サポート要件)と同時に、実施可能要件も満たさない旨主張する。 しかし、本件発明に係る貼付剤の製造方法について、本件明細書の実施例(特に、実施例2、10~12)の記載から、その貼付剤を製造できることを当業者が理解できるといえる。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を実施することができる程度に記載したものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。 1-3 申立理由(c)(進歩性)について ・請求項:1~4 (1)甲1-1の記載及び引用発明1 ア 甲1-1の記載 甲1-1には、以下の記載がある(合議体注:原文における下線等の記載は省略し、読みやすいように改行等を加えて記載した。)。 「【請求項1】 クエン酸フェンタニルおよび酢酸ナトリウムを含有する、1日1回投与用フェンタニル含有経皮吸収製剤であって、 支持体、粘着剤および剥離シートを含む貼付剤であり、 貼付剤がマトリックス型であり、クエン酸フェンタニルを0.10~0.45mg/cm2で粘着剤中に含有し、粘着剤の質量が2~10mg/cm2であり、粘着剤がポリイソブチレンおよびスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体を含み、貼付剤の面積が5~60cm2であり、支持体の透湿度が15~30g/m2・24hrであり、ならびに支持体の曲げ剛性が0.01~0.20g・cm2/cmであることを特徴とし、 前記経皮吸収製剤の1日1回投与を連続した場合の定常状態における血中フェンタニル濃度の平均ピーク/トラフ値が1.8以下となるように粘着剤におけるクエン酸フェンタニルの1cm2あたりの含有量を調整し、かつ貼付剤の面積を変動させることにより製剤におけるクエン酸フェンタニルの含有量を調整させてなる、前記経皮吸収製剤。」 「【請求項12】 請求項1~10のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤の製造方法であって、前記経皮吸収製剤の1日1回投与を連続した場合、定常状態における血中フェンタニル濃度の平均ピーク/トラフ値が1.3以下となるように粘着剤中のクエン酸フェンタニルの含有量を0.10~0.45mg/cm2の範囲内で、および粘着剤の質量を2~10mg/cm2の範囲内でそれぞれ決定すること、ならびに貼付剤の面積をが5~60cm2の範囲内で変動させることにより製剤におけるクエン酸フェンタニルの含有量を調整することを含む、前記方法。」 「【0038】 実施例1 (処方) 成分名 含有量(%) SIS 16.0 PIB 7.0 脂環族飽和炭化水素樹脂 40.0 流動パラフィン 31.0 酢酸ナトリウム 2.0 クエン酸フェンタニル 4.0 全量 100.0 【0039】 (製法) クエン酸フェンタニル、酢酸ナトリウムおよび流動パラフィンを乳鉢に取りよく混合した後、トルエンに溶解した残りの成分と混合した。得られた混合物を離型紙(剥離シート)上に塗工後、溶剤を乾燥除去し、延伸PET支持体(厚み:20μm)と貼り合わせて経皮吸収製剤(マトリックス型)を得た。なお、クエン酸フェンタニルを含有する粘着剤は50g/m2とした(単位面積あたりのクエン酸フェンタニル:0.2mg/cm2)。」 (合議体注:上記において、「PIB」、「SIS」は、【0025】に「粘着剤に配合される脂溶性ポリマーは、…(略)…好ましい例として、ポリイソブチレン(PIB)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)」とあるように、それぞれ、「ポリイソブチレン」、「スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体」を意味する。また、「PET」は、ポリエチレンテレフタレートである。以下においても、甲1-1の指摘においては、表記のとおり記載する。また、「脂環族飽和炭化水素樹脂」は、【0030】に「粘着付与樹脂」の例として記載されるとおり、「粘着付与樹脂」である。) 「【0047】 試験例1 実施例1に記載のクエン酸フェンタニルを4%含有する貼付剤10cm2について、成人5人を対象に1日(24時間)貼付、また、別の成人5人を対象に3日(72時間)貼付を夫々行い、経時的に採血を行なった。」 イ 引用発明1 上記アの記載、特に、実施例1に記載のクエン酸フェンタニルを粘着剤層中に4%含有する貼付剤10cm2を製造し、試験対象の人に貼付して試験した旨の記載によれば、甲1-1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 <引用発明1> 「剥離シート上の4%クエン酸フェンタニル含有粘着剤層に延伸PET支持体が貼り合わされた、支持体、粘着剤及び剥離シートを含む貼付剤である経皮吸収製剤の製造方法であって、 前記粘着剤層は以下の実施例1処方の組成からなり、粘着剤層に含有されるクエン酸フェンタニルが4%となるように、クエン酸フェンタニルと他の成分を混合し、得られた混合物を離型紙(剥離シート)上に塗工後、溶剤を乾燥除去し、延伸PET支持体(厚み:20μm)と貼り合わせる工程と、貼付面積が10cm2であり、前記粘着剤層が、50g/m2(単位面積1cm2あたりのクエン酸フェンタニルが0.2mg/cm2)となるように、調整する工程と、を含む、前記方法。 [実施例1処方] 成分名 含有量(%) SIS 16.0 PIB 7.0 脂環族飽和炭化水素樹脂 40.0 流動パラフィン 31.0 酢酸ナトリウム 2.0 クエン酸フェンタニル 4.0 全量 100.0」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1における「剥離シート上の4%クエン酸フェンタニル含有粘着剤層に延伸PET支持体が貼り合わされた、支持体、粘着剤及び剥離シートを含む貼付剤である経皮吸収製剤」が、本件発明1の「支持体」に相当する「延伸PET支持体」の上に、(クエン酸フェンタニル含有)「粘着剤層」を有する構造を備えることは、当業者に自明である。 また、引用発明1における貼付剤には、上記実施例1処方から明らかなとおり、(クエン酸フェンタニル含有)粘着剤層にSISとPIBが含まれるから、これは、本件発明1の「前記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種の粘着剤と、を含有し」に相当する。 引用発明1の「クエン酸フェンタニルと他の成分を混合し、得られた混合物を離型紙(剥離シート)上に塗工後、溶剤を乾燥除去し、延伸PET支持体(厚み:20μm)と貼り合わせる工程」は、本件発明1の「フェンタニル又はその塩と前記粘着剤とを混合して膏体液を調製し、展延する工程」に相当する。 そして、引用発明1の粘着剤層の単位面積あたりの質量は50g/m2であり、これが、本件発明1の「粘着剤層の単位面積あたりの質量が25~60g/m2」に相当することを考慮すると、引用発明1の「貼付面積が10cm2であり、前記粘着剤層が、50g/m2(単位面積1cm2あたりのクエン酸フェンタニルが0.2mg/cm2)となるように、調整する工程」は、本件発明1の「貼付面積が3~8cm2であり、前記粘着剤層の単位面積あたりの質量が25~60g/m2であり、かつ貼付面の外周長さが7.93~10.08cmとなるように貼付剤の大きさを調整する工程」と、「前記粘着剤層の単位面積あたりの質量が25~60g/m2であるように貼付剤の大きさを調整する工程」である限りにおいて一致する。 ここで、引用発明1の「単位面積1cm2」は、本件発明1の「貼付面積1cm2」と同じ面積を意味するところ、引用発明1では、粘着剤層の単位面積1cm2あたりのクエン酸フェンタニルが0.2mg/cm2、つまり、貼付面積1cm2あたりのクエン酸フェンタニルが0.2mg/cm2であり、貼付面積が10cm2であるから、粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量は2mgとなる。 そうすると、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点> 支持体上に粘着剤層を備える貼付剤の製造方法であって、 前記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種の粘着剤と、を含有し、フェンタニル又はその塩と前記粘着剤とを混合して膏体液を調製し、展延する工程と、 前記粘着剤層の単位面積あたりの質量が25~60g/m2であるように貼付剤の大きさを調整する工程と、を含む、方法。 <相違点1-1> 粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の貼付面積1cm2あたりの含有量が、本件発明1では0.01~0.18mgであるのに対して、引用発明1では0.2mgである点。 <相違点1-2> 粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、本件発明1では0.1~0.8mgであるのに対して、引用発明1では2mgである点。 <相違点1-3> 貼付面積が、本件発明1では3~8cm2であるのに対し、引用発明1では10cm2である点。 <相違点1-4> 貼付面の外周長さが、本件発明1では7.93~10.08cmであるのに対し、引用発明1では貼付面の外周長さが特定されない点。 イ 判断 (ア)相違点1-1及び相違点1-3について 相違点1-1及び相違点1-3に関し、甲1-1の【0034】には、貼付剤の面積が「5~60cm2」であり、粘着剤層中のフェンタニル又はその塩の単位当たりの含有量が「0.10~0.45mg/cm2」であることが記載されているから、甲1-1には、引用発明1の0.2mgよりも低い値の「粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の貼付面積1cm2あたりの含有量」、及び、引用発明1の10cm2よりも低い値の「貼付面積」が記載されている。 また、相違点1-1に関し、甲1-2の実施例8の貼付剤は、支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、粘着剤層がクエン酸フェンタニル及び粘着剤を含有し、粘着剤がスチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンである。そして、この粘着剤層には、フェンタニルクエン酸塩が1.0%含まれており、その厚みが100μmであるから、粘着剤層の比重を1g/cm3と仮定すると、この粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量は、貼付面積1cm2あたり0.10mg(=1g/cm3(1000mg/cm3)×100μm(10-2cm)×1.0%(0.01))である。そうすると、フェンタニルクエン酸塩が貼付面積1cm2あたり0.10mgである貼付剤は、本件特許の出願時に知られていたといえる。 しかし、甲1-1及び甲1-2の記載を参酌しても、引用発明1の「粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の貼付面積1cm2あたりの含有量」の下限値を、甲1-1及び甲1-2に記載されている0.10mgのさらに10分の1である「0.01mg」という低い値にして当該含有量を「0.01~0.18mg」の範囲にするとともに、引用発明1の貼付面積の下限値を、甲1-1に記載されている5cm2よりもさらに低い「3cm2」という値にして当該貼付面積を「3~8cm2」の範囲にして、引用発明1を相違点1-1及び相違点1-3に係る本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (イ)相違点1-2について 甲1-1の【0035】に「1枚あたりのフェンタニルまたはその塩の含有量が1~10mgの貼付剤とすることができ、1~2mgの低用量であってもよい」と記載されているように、甲1-1には「粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量」の上限値を、1mgよりもさらに低い値にすることについての記載又は示唆はなく、さらに甲1-2の記載を参酌しても、当該含有量を「0.1~0.8mg」にして、引用発明1を相違点1-2に係る本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (ウ)相違点1-4について 引用発明1の製造方法により得られる製剤(以下「引用発明1の製剤」という。)の貼付面積は10cm2であるから、引用発明1の製剤が円形である場合は、その外周長さは11.21cmであり、正方形である場合は、その外周長さは12.65cmであることを考慮しても、甲1-1には、引用発明1の製剤の外周長さに着目することについては記載も示唆もなく、さらに甲1-2の記載を参酌しても、引用発明1の製剤の外周長さに着目して、当該外周長さを、上記11.21cm又は12.65cmよりもさらに低い値である「7.93~10.08cm」の範囲にして、引用発明1を相違点1-4に係る本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (エ)仮に、相違点1-1~1-4に係る本件発明1の構成のそれぞれに包含され得る数値を、甲1-1の記載、さらには甲1-2の記載から導き出すことが可能であるとしても、引用発明1において、相違点1-1~1-4に係る構成の全てに着目した上でそれらを変更し、その全てが同時に本件発明1の構成を備えるようにすることは、当業者といえども困難であり、引用発明1を相違点1-1~1-4に係る本件発明1の構成の全てを同時に備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。 (オ)効果について以下検討する。本件明細書の実施例2、10~12の記載によれば、貼付剤の外周長さが特定範囲に調整されて、粘着剤層の側面積が特定の範囲となるように調整された、相違点1-1~1-4に係る構成を備えた本件発明1の製造方法により得られる貼付剤は、60℃1ヶ月保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量が95%以上であり(【0060】、【0011】)、保存安定性に優れたものとなっており、本件明細書の【0010】に記載されているように、フェンタニル又はその塩の含有量が低く(0.1~0.8mg)ても、フェンタニル又はその塩の保存安定性に優れるという効果を有することを、当業者は理解できるといえる。 そして、甲1-1及び甲1-2には、製剤の外周長さや粘着剤の側面積を調整することでフェンタニル記塩酸塩の保存安定性が改善できることを示唆する記載はおろか、製剤の外周長さや粘着剤の側面積に着目することについての記載も示唆もないのであるから、本件発明1による、フェンタニル又はその塩の保存安定性に優れるという効果は、当業者が予測し得ない顕著な効果であるといえる。 したがって、本件発明1は、引用発明1、並びに甲1-1及び甲1-2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~4について 本件発明2は、本件発明1において、貼付剤が「テープ剤」であることをさらに特定したものであり、本件発明3は、本件発明1又は2において、「フェンタニル又はその塩の濃度」をさらに特定したものであり、本件発明4は、本件発明1~3において、「粘着剤層が、粘着付与樹脂をさらに含む」ことをさらに特定したものである。 そうすると、上記(2)と同様の理由で、本件発明2~4も、引用発明1、並びに甲1-1及び甲1-2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)小括 以上述べたとおり、申立理由(c)には理由がない。 2 申立人(02)の申立理由 2-1 申立理由A(サポート要件)について ・請求項:1~4 (1)申立人(02)は、異議申立書(02)(p.30の6~10行)において、「貼付剤の貼付面積が小さいことの基準となるのは、保存安定性が悪いとされている比較例2に係るテープ剤の貼付面積2.5cm2であり、貼付剤1枚中のフェンタニルクエン酸塩の含有量が低いことの基準となるのは比較例2に係るテープ剤1枚中のフェンタニルクエン酸塩の含有量0.5mgである。」との前提をおき、比較例2を基準として本件発明の課題を設定した上でサポート要件の充足性について議論を展開している。 しかし、サポート要件の判断基準、及び本件発明が解決しようとする課題は、上記第5の1、2において述べたとおりであり、本件明細書の実施例(特に、実施例2、10~12)の記載から、請求項1~4に特定される貼付剤であれば、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できるといえることは、上記第5の3において述べたとおりである。 そして、本件明細書の【0007】の記載からみて、比較例2における2.5cm2という貼付面積の数値、及び0.5mgという含有量の数値(【0055】)は、あくまでも、本件発明の課題を見出す契機となった貼付剤における貼付面積及び含有量にすぎず、本件発明の課題における「貼付剤」の貼付面積が小さいことの基準となる数値、及び「フェンタニル又はその塩の含有量」が低いことの基準となる数値を示すものではない。 (2)また、申立人(02)は、異議申立書(02)(p.30の「(iv)」の項目)において、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)及びポリイソブチレン(PIB)を併用した場合以外については、サポート要件を充足しない旨を主張している。 しかし、本件明細書の【0062】において、粘着剤としてSISのみを含有するテープ剤(実施例4~6)や、PIBのみを含有するテープ剤(実施例7~9)が、SIS及びPIBを併用した実施例1~3と同等の結果を示したことが記載されるので、SISとPIBをそれぞれ単独で使用した場合にも不都合は生じないと解釈するのが相当である。 また、上記第5の3(2)で述べたとおり、フェンタニル又はその塩の保存安定性に影響を与えるのは、粘着剤層において露出している側面の面積であると考えるのが相当であり、粘着剤層の側面の露出面積の調節により、本件発明の課題(フェンタニル又はその塩の保存安定性の向上)を解決できることが理解されるところ、粘着剤の材料は粘着剤層の側面の露出面積と直接的な関連がないと考えられるので、粘着剤としてSISとPIBをそれぞれ単独で使用した場合に、本件発明の課題が解決できなくなると考えることはできない。 (3) 以上述べたとおり、申立理由Aには理由がない。 2-2 申立理由B(明確性要件)について ・請求項:1~4 申立人(02)は、異議申立書(02)(p.31~32の「2.」の項目)において、本件明細書の【0059】、【表3】の記載を根拠に、実施例1のテープ剤の形状は正方形であるとした上で、実施例1のテープ剤の外周長さを約7.30cmと算出し、実施例1が本件発明1の「貼付面の外周長さが、7.93~10.08cm」との構成を満たさず、実施例1が本件発明の範囲から外れることになり、本件発明が不明確となる旨を主張する。 しかし、本件発明1~4はそれ自体明確であり、仮に、実施例1が本件発明1~4の範囲から外れるとしても、本件特許の請求項1~4の記載自体は明確であるから、本件発明が不明確であるということにはならない。 なお、仮に、当該申立理由をサポート要件違反の意味に解したとしても、上記第5の3において述べたとおり、本件明細書の実施例(特に、実施例2、10~12)の記載から、請求項1~4に特定される貼付剤であれば、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できると判断するのが相当である。 以上述べたとおり、申立理由Bには理由がない。 2-3 申立理由C(進歩性)について ・請求項:1~4 (1)甲2-1の記載及び引用発明2 ア 甲2-1の記載 甲2-1には、以下の記載がある。 「 [図:0001421337000002.jpg] 」 「 [図:0001421337000003.jpg] 」 イ 引用発明2 甲2-1には、上記アで示される、支持体上に薬物含有層を備える構造、有効成分、添加物、大きさ、面積等を有する粘着テープ剤が記載されているところ、当該粘着テープ剤が、有効成分、添加物、大きさ、面積等を調整する工程を含む方法によって製造されたことは自明である。 そうすると、甲2-1には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 <引用発明2> 「フェントス(R)テープ1mgとして、支持体上に薬物含有層を備える構造を有する粘着テープ剤の製造方法であって、 有効成分としてのフェンタニルクエン酸塩を1mg含有し、 添加物として脂環族飽和炭化水素樹脂、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレン、流動パラフィンを含有し、 面積が5cm2で、大きさが2.24cm×2.24cmの、四隅が丸い四角形になるように調整する工程を含む、前記方法。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明2とを対比する。 引用発明2の「支持体上に薬物含有層を備える構造を有」する「粘着テープ剤」は、本件発明1の「支持体上に粘着剤層を備える貼付剤」に相当する。 引用発明2の貼付剤には、フェンタニルクエン酸塩、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレンが含まれるから、これは、本件発明1の「前記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種の粘着剤と、を含有し」に相当する。 そして、引用発明2の「面積が5cm2」が、本件発明1の「貼付面積が3~8cm2」に相当し、また、引用発明2の貼付剤は、大きさが2.24cm×2.24cmの、四隅が丸い四角形であるから、貼付面の外周長さは約9cmであり、これが、本件発明1の「貼付面の外周長さが、7.93~10.08cm」に相当することを考慮すると、引用発明2の「面積が5cm2で、大きさが2.24cm×2.24cmの、四隅が丸い四角形になるように調整する工程」は、本件発明1の「貼付面積が3~8cm2であり、」「かつ貼付面の外周長さが7.93~10.08cmとなるように貼付剤の大きさを調整する工程」と一致する。 ここで、引用発明2では、面積が5cm2であるから、貼付面積1cm2あたりのフェンタニルクエン酸塩の含有量は0.2mg/cm2となる。 そうすると、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点> 支持体上に粘着剤層を備える貼付剤の製造方法であって、 前記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種の粘着剤と、を含有し、貼付面積が3~8cm2であり、かつ貼付面の外周長さが7.93~10.08cmとなるように貼付剤の大きさを調整する工程を含む、方法。 <相違点2-1> 粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の貼付面積1cm2あたりの含有量が、本件発明1では0.01~0.18mgであるのに対して、引用発明2では0.2mgである点。 <相違点2-2> 粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、本件発明1では0.1~0.8mgであるのに対して、引用発明2では1mgである点。 <相違点2-3> 粘着剤層の単位面積あたりの質量が、本件発明1では25~60g/m2であるのに対し、引用発明2では粘着剤層の単位面積あたりの質量が特定されない点。 <相違点2-4> 本件発明1は「フェンタニル又はその塩と前記粘着剤とを混合して膏体液を調製し、展延する工程」を含むことが特定されるのに対し、引用発明1はそのような工程を含むことが特定されない点。 イ 判断 相違点2-1及び相違点2-2について検討する。 甲2-2には、フェントス(R)テープの新用量として0.5mgを追加することが明示され、新用量医薬品とは、既承認医薬品と有効成分及び投与経路は同一であるが、用量が異なる医薬品のことであり(甲2-4(第1の2の(10)))、後発医薬品メーカーには先発医薬品と同じ規格を揃える旨の通知が出されているから(甲2-3(1.))、粘着テープ剤が含有するフェンタニルクエン酸塩の含有量として、0.5mgは示唆されているといえる。 ここで、上記(1)アの記載によれば、甲2-1では、製品(粘着テープ剤)の有効成分(フェンタニルクエン酸塩)含量(ymg)と面積(xcm2)が、y=0.2xの比例関係にあり、粘着テープ剤が含有するフェンタニルクエン酸塩の量は、粘着テープ剤の面積のみによって調整していることが理解できるから、粘着テープ剤が含有するフェンタニルクエン酸塩の量を1mgから、半分の0.5mgに減少させる場合、単位面積当たりのフェンタニルクエン酸塩の含量などの他の製造条件を変更することなく、粘着テープ剤の面積のみを5cm2から、半分の2.5cm2に変更することが自然である。 そして、甲2-10には「本発明の貼付剤の面積は、十分な薬物の効果が得られる面積ならば特に制限はないが、5~60cm2であることが、薬効効果、取り扱い性、皮膚刺激などの観点から好ましい」という記載(【0034】)があり、2.5cm2は好ましい範囲にはないものの、粘着テープ剤において、貼付面積1cm2あたりの薬物の含有量を変更すると、薬物放出性等の面で粘着テープ剤の性質に影響を与え、所望の薬効効果が得られるのかは不明であるし、甲2-1は、上記のとおり、粘着テープ剤が含有するフェンタニルクエン酸塩の量を粘着テープ剤の面積のみによって調整している製品であるから、粘着テープ剤が含有するフェンタニルクエン酸塩の量を、貼付面積を維持したままでフェンタニルクエン酸塩含有量によって調整することは想定されないものである。そして、甲2-1~甲2-4及び甲2-10の記載を参酌しても、引用発明2の製造方法により得られる粘着テープ剤を0.5mgという新用量の製剤に変更する際に、あえて、面積を5cm2に維持したままで、フェンタニルクエン酸塩含有量を1mgの半分の0.5mgとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 そうすると、フェンタニルクエン酸塩の含有量を1mgから0.5mgに変更した粘着テープ剤を作製する際に、粘着テープ剤の面積は5cm2に維持したままで、貼付面積1cm2あたりのフェンタニルクエン酸塩含有量のみを、甲2-1に記載の全ての製品(1mg~8mgの5種類の粘着テープ剤)における含有量である0.2mg/cm2から、0.1mg/cm2にあえて変更することを、当業者が容易に想起し得たとはいえない。 そして、貼付剤の形状を甲2-1の記載から自然に想起される面積2.5cm2とする場合、本件発明1で特定される貼付面積「3~8cm2」の範囲外となるし、また、外周長さは、上記(1)アの表中の「大きさ」の欄で各種用量の粘着テープ剤が略正方形の形状であることから、同様の略正方形の形状に製造される場合は約6.3cm(面積が2.5cm2の正方形の一辺は約1.58cm×4辺)、引用発明2の面積5cm2の粘着テープ剤を半分に切断する場合でも6.72cm(=2.24cm×2+1.12cm×2)となり、外周長さも本件発明1の条件(「7.93~10.08cm」)を充足しないものとなる。 さらに、甲2-5~甲2-9、甲2-11、甲2-12に記載されている事項を参酌しても、引用発明2において、「貼付面積が3~8cm2」という一致点を維持したままで、貼付面積1cm2あたりのフェンタニルクエン酸塩含有量を0.2mgよりも低い値である「0.01~0.18mg」という範囲、及び粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩含有量を0.1~0.8mgの範囲に変更して、引用発明2を相違点2-1及び相違点2-2に係る本件発明1の構成を同時に備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。 また、本件発明1による、フェンタニル又はその塩の保存安定性に優れるという効果は、当業者が予測し得ない顕著な効果であるといえる。 そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2、及び甲2-1~甲2-12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~4について 本件発明2は、本件発明1において、貼付剤が「テープ剤」であることをさらに特定したものであり、本件発明3は、本件発明1又は2において、「フェンタニル又はその塩の濃度」をさらに特定したものであり、本件発明4は、本件発明1~3において、「粘着剤層が、粘着付与樹脂をさらに含む」ことをさらに特定したものである。 そうすると、上記(2)と同様の理由で、本件発明2~4も、引用発明2、及び甲2-1~甲2-12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)小括 以上述べたとおり、申立理由Cには理由がない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1~4に係る特許は、令和6年5月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によって取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700606

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