特許異議申立
2023-700605
フェンタニル含有貼付剤
- 審判番号
- 2023-700605
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-006872
- 登録番号
- 7253126
- 請求日
- 2023年06月08日
- 審決日
- 2024年12月25日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】久光製薬株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】木元 克輔
- 【異議申立人】下坂 皓洋
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 原田 隆興
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 岩下 直人
- 分類
- P1651.121-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7253126号発明「フェンタニル含有貼付剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7253126号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7253126号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許(特許第7253126号)に係る特許出願(特願2023-6872号)は、平成30年6月6日を出願日とする特願2018-108939号の一部を令和4年11月15日に新たな出願とした特願2022-182452号の一部を令和5年1月19日に新たな出願としたものであって、令和5年3月28日に設定の登録(請求項の数3)がなされ、令和5年4月5日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和5年6月8日に、本件特許の請求項1~3に係る発明に対し、特許異議申立人 下坂皓洋(以下「申立人(01)」という。)により、特許異議の申立てがなされ、さらに、令和5年7月7日に、本件特許の請求項1~3に係る発明に対し、特許異議申立人 竹口美穂(以下「申立人(02)」という。)により、特許異議の申立てがなされた。
以後の主な経緯は、次のとおりである。
令和 5年12月 6日付け:取消理由通知書
令和 6年 2月 7日 :訂正請求書(1回目)及び意見書の提出(特許権者)
同年 3月14日 :意見書の提出(申立人(01))
同年 3月21日 :意見書の提出(申立人(02))
同年 5月31日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 7月29日 :訂正請求書(2回目)及び意見書の提出(特許権者)
同年 9月19日 :意見書の提出(申立人(01))
同年 9月26日 :意見書の提出(申立人(02))
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年7月29日に2回目の訂正請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和6年2月7日にされた1回目の訂正請求は取り下げられたものとみなされる。
令和6年7月29日にされた訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、一群の請求項である請求項1~3について請求するものであって、次の訂正事項1からなるものである。なお、下線は訂正箇所を示す。
<訂正事項1>
特許請求の範囲の請求項1に「貼付面積が3~10cm2である、」とあるのを、「貼付面積が3~8cm2であり、貼付面の外周長さが、7.93~10.08cmであり、前記粘着剤層の単位面積あたりの質量が、25~60g/m2である、」に訂正する。
(訂正される請求項1を引用する請求項2~3についても同様に訂正される。)
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
(1)訂正事項1は、訂正前の請求項1において、貼付剤の貼付面積を「3~10cm2」から「3~8cm2」に限定すると共に、貼付面の外周長さが、7.93~10.08cmであること及び粘着剤層の単位面積あたりの質量が25~60g/m2であることを特定して、貼付剤を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)本件の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0019】には、「貼付面積は3~10cm2であることが好ましく、4~8cm2であることがより好ましい。」と記載され、また、【0048】には、「粘着剤層(膏体)の単位面積(1m2)あたりの質量は、25~75g/m2であってもよく、30~70g/m2であることが好ましく、35~60g/m2であることがより好ましい。」と記載されている。
さらに、本件訂正前の請求項2の記載から明らかなとおり、実施例の「テープ剤」は「貼付剤」の一態様であるところ、本件明細書の【表3】には、実施例10のテープ剤(貼付剤)として、貼付面の外周長さが7.93cmのものが、実施例12として、貼付面の外周長さが10.08cmのものが記載されており、実施例2、11として、貼付面の外周長さが7.93~10.08cmの範囲内の8.72cm及び8.88cmであるものが記載されている。また、【0063】に「実施例2、10~14のテープ剤は、その形状の違いにより・・・外周の長さは異なる」と、【0064】に「貼付面の外周長さが長くなるにつれて、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する傾向が見られた。貼付面積が同一であるテープ剤を比較する場合、粘着剤層の表面積は貼付面の外周長さに依存する。」と記載されるように、本件明細書には、貼付剤の「外周長さ」をフェンタニルクエン酸塩の保存安定性の観点から調整する技術思想が記載されているといえる。
そうすると、訂正事項1は、本件明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。
(3)請求項1を引用する請求項2~3についても同様である。
3 独立特許要件について
請求項1~3は、特許異議申立ての対象とされた請求項であるから、本件訂正請求による訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は適用されない。
4 訂正についてのまとめ
上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正は、上記第2のとおり認められるので、本件訂正後の請求項1~3に係る発明は、令和6年7月29日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、下線は訂正箇所を示す。
「【請求項1】
支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、フェンタニルクエン酸塩と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種の粘着剤と、を含有し、
前記粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量が、0.1~0.8mgであり、かつ貼付面積1cm2あたり、0.01~0.18mgであり、
前記粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の濃度が、粘着剤層全体の質量を基準として1~3%であり、
貼付面積が3~8cm2であり、
貼付面の外周長さが、7.93~10.08cmであり、
前記粘着剤層の単位面積あたりの質量が、25~60g/m2である、貼付剤。
【請求項2】
テープ剤である、請求項1に記載の貼付剤。
【請求項3】
前記粘着剤層が、粘着付与樹脂をさらに含有する、請求項1又は2に記載の貼付剤。」
以下、上記の請求項1~3に係る発明を、請求項の番号に従い、「本件発明1」~「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。
第4 特許異議の申立ての理由、取消理由(決定の予告)の趣旨及び申立人が提出した甲号証
1 特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)は、概略、次のとおりである。
なお、これ以降、証拠の摘記も含め、原則全角で記載する。
申立人(01)は、特許異議申立書(以下「異議申立書(01)」という。)において、以下の申立理由(a)、申立理由(b)、及び申立理由(c)を主張し、以下の証拠方法を提出した。
申立人(02)は、特許異議申立書(以下「異議申立書(02)」という。)において、以下の申立理由A、申立理由B、及び申立理由Cを主張し、以下の証拠方法を提出した。
(1)異議申立書(01)
申立理由
・申立理由(a)
条文:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)(サポート要件違反)
対象:請求項1~3
・申立理由(b)
条文:特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)(実施可能要件違反)
対象:請求項1~3
・申立理由(c)
条文:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)(進歩性の欠如)
対象:請求項1~3
証拠:甲第1号証~甲第2号証(主引例は甲第1号証)
証拠方法
・甲第1号証:特許第5535640号公報(発行は平成26年)
・甲第2号証:特開平10-45570号公報
(2)異議申立書(02)
申立理由
・申立理由A
条文:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)(サポート要件違反)
対象:請求項1~3
なお、申立理由Aに関し、申立人(02)は、本件特許の原出願の出願時の技術常識として、甲第6号証~甲第9号証、甲第11号証~甲第13号証を提示しており、申立理由Bについても同様である。
・申立理由B
条文:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)(明確性要件違反)
対象:請求項1~3
・申立理由C(C1及びC2)
条文:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)(進歩性欠如)
対象:請求項1~3
申立理由Cは、主引例は甲第1号証で共通し、副引例が異なる申立理由C1と申立理由C2に分けられる。
申立理由C1:甲第1号証~甲第5号証、及び甲第10号証(周知技術)
申立理由C2:甲第1号証、甲第5号証、甲第6号証、及び技術常識(甲第6号証~甲第9号証、甲第11号証及び甲第12号証)
証拠方法
・甲第1号証:フェントス(R)テープの添付文書、2011年4月改訂(第3版)((R)は原文では、○の中にRの下付文字を表す。以下、同様。)
・甲第2号証:経皮吸収型持続性疼痛治療剤『フェントス(R)テープ(開発コード:HFT-290)』の「0.5mg」新用量追加に関する承認事項一部変更承認申請のお知らせ、久光製薬株式会社、平成29年8月31日
・甲第3号証:後発医薬品の必要な規格を揃えること等について、医政発第0310001号、平成18年3月10日
・甲第4号証:医薬品の承認申請について、薬食発1121第2号、平成26年11月21日
・甲第5号証:特開平10-45570号公報(申立人(01)の甲第2号証と同じ)
・甲第6号証:国際公開2010/123103号
・甲第7号証:国際公開2005/072716号
・甲第8号証:国際公開2005/072675号
・甲第9号証:国際公開2013/191128号
・甲第10号証:特許第5535640号公報(発行は平成26年)(申立人(01)の甲第1号証と同じ)
・甲第11号証:「新しい図解薬剤学 改訂4版」、2009年9月10日4版1刷、株式会社南山堂、p.58~60
・甲第12号証:「わかりやすい生物薬剤学 第3版」、平成17年2月25日第3版第3刷、株式会社廣川書店、p16~17
・甲第13号証:特開平7-285854号公報(令和6年3月21日提出の意見書に添付された証拠)
以下、申立人(01)が提出した甲第1号証~甲第2号証を、甲号証の番号に従い、それぞれ「甲1-1」~「甲1-2」ともいい、申立人(02)が提出した甲第1号証~甲第13号証を、甲号証の番号に従い、それぞれ「甲2-1」~「甲2-13」ともいう。
2 取消理由(決定の予告)の趣旨
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明について、令和6年5月31日付け取消理由(決定の予告)で通知した取消理由1(サポート要件違反の趣旨は、次のとおりである。
なお、取消理由(決定の予告)で通知した取消理由1(サポート要件違反)の対象とされた「特許請求の範囲」及び「請求項1~3」は、令和6年2月7日にされた1回目の訂正請求による訂正後の「特許請求の範囲」及び「請求項1~3」である。
<取消理由1(サポート要件違反)の趣旨>
請求項1~3に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満足するとはいえない。
よって、請求項1~3に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するとはいえないから、請求項1~3に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 令和6年6月5日付けで通知した取消理由(決定の予告)についての当審の判断
取消理由(決定の予告)で通知した取消理由1(サポート要件違反)の趣旨は、上記第4の2で述べたとおりである。以下、当該取消理由1(サポート要件違反)について、判断する。
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するといえるためには、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載や示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである必要がある。
2 本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「本件発明の課題」という。)は、請求項1~3の記載及び本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)の【0006】~【0008】、【0010】の記載によれば、「フェンタニルクエン酸塩の含有量が低くても、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に優れた貼付剤を提供すること」であると解される。
3 サポート要件についての判断
この決定における「技術常識」は、本件特許の原出願(特願2018-108939号)の出願時(平成30年6月6日)における技術常識である。
(1)特許請求の範囲に記載された発明(本件発明1~3)が、技術常識を参酌して、発明の詳細な説明の記載や示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかについて検討する。
(2)発明の詳細な説明には、本件発明の課題を解決し得る貼付剤について以下の記載がある。
ア 発明の詳細な説明の試験例2には、以下の【表2】に記載されるとおりの組成、粘着剤層の質量及び貼付面積を備えた実施例1~3のテープ剤が、発明の詳細な説明の【0011】において「保存安定性に優れる」の基準とされる、「60℃にて1ヶ月間保存した(過酷試験)後に、フェンタニルクエン酸塩が保存前の含有量に基づいて、少なくとも95%の量で残存している」との条件を満たす、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に優れたものであることを示す試験結果が記載されている。
「【表2】
[図:0001422377000001.jpg]
」
そして、実施例1~3のテープ剤は、粘着剤がいずれもスチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)及びポリイソブチレン(PIB)を含んでおり、粘着剤層の質量は50g/m2であり、粘着剤におけるフェンタニルクエン酸塩の貼付面積1cm2あたりの含有量は、粘着剤組成及び粘着剤層の質量から換算すると、それぞれ、0.15mg、0.1mg、0.05mg、貼付面積1cm2あたりの含有量と貼付面積の積から換算されるフェンタニルクエン酸塩の含有量は、いずれも0.5mg、フェンタニルクエン酸塩の濃度は、粘着剤層全体の質量を基準としてそれぞれ3%、2%、1%であり、これらの項目はいずれも本件発明の範囲内であるが、実施例1及び3は、貼付面積が本件発明の範囲外であるし、表2には、実施例1~3のテープ剤の貼付面の外周長さの記載はなく、実施例1~3の貼付剤が本件発明の「貼付面の外周長さが7.93~10.08cm」の貼付剤に該当するものであるかは不明である。
イ 試験例3には、保存安定性に優れたテープ剤として、実施例2、10~14の、以下の【表3】に記載されるとおりの組成、粘着剤層の質量、貼付面積、貼付面の形状、及び外周長さを有するテープ剤が記載されている。
「【表3】
[図:0001422377000002.jpg]
」
そして、実施例2、10~14のテープ剤のいずれも、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンを含んでおり、貼付面積は5cm2、粘着剤層の質量は50g/m2で、換算によれば、いずれの実施例のテープ剤も、フェンタニルクエン酸は貼付面積1cm2あたり0.1mg含まれ、テープ剤におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量は、いずれも0.5mg、フェンタニルクエン酸塩の濃度はいずれも粘着剤層全体の質量を基準として2%であり、これらの条件は本件発明の範囲内であるが、実施例13及び14のテープ剤は、本件発明の「貼付面の外周長さが7.93~10.08cm」の条件を充足しない。
ウ そうすると、当業者は、発明の詳細な説明において、試験例3の実施例2、10~12であるテープ剤は、本件発明1で特定される条件を満たし、かつ、「保存安定性に優れる」ものであるから、本件発明の課題を解決できるものであることを理解できる。
(3)発明の詳細な説明には、試験例3に関し、【0063】~【0064】に、「実施例2、10~14のテープ剤は、貼付面積は互いに同一であるが、その形状の違いにより外周長さは異なる」こと、「貼付面の外周長さが長くなるにつれて、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する傾向が見られた」こと、「貼付面積が同一である貼付を比較する場合、粘着剤層の表面積は外周長さに依存」し、「したがって、粘着剤層の表面積がより小さい実施例2、10~12のテープ剤は、実施例13、14のテープ剤よりもフェンタニルクエン酸塩の保存安定性が高い結果となった」ことが記載されている。
ここで、発明の詳細な説明の「具体的には、各成分を混合して得られた膏体液を、成形される粘着剤層の質量が50g/m2となるように支持体上に展延し、剥離ライナーをその上に積層することにより、テープ剤を得た。」(【0055】)という記載によれば、粘着剤層は「支持体」と「剥離ライナー」とで上下の面が挟持されているから、上記の、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に影響を与えるとされる「粘着剤層の表面積」とは、粘着剤層において露出している側面の面積、すなわち「粘着剤層の外周長さ」×「粘着剤層の厚さ」により算出される面積である。
そうすると、上記【0063】~【0064】の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、「露出している粘着剤層の表面積」、すなわち、「粘着剤層の外周長さ」及び「粘着剤層の厚さ」は、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に影響を与えること、これらを所定の範囲とすることで、保存安定性に優れたテープ剤とすることが可能であると理解することができるといえる。
(4)ここで、実施例2、10~12と同程度の、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性を有し、本件発明の課題を解決できると解される粘着剤層の厚さが如何なる程度であるのかについて検討する。
ア 実施例2、10~12は、外周長さは7.93~10.08cmであり、外周長さ以外の条件は、全て同じ値であり、粘着剤層の単位面積当たりの質量は全て50g/m2であるから、粘着剤層の単位面積当たりの質量が50g/m2であるときの粘着剤層の厚さをH(cm)とすると、実施例2、10~12は、露出している粘着剤層の表面積が7.93H~10.08H(cm2)であるときに、本件発明の課題が解決できることを示しているといえる。
イ 上記【表3】の記載に基づいて、「露出している粘着剤層の表面積」と「保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量」との相関性について検討すると、実施例10は表面積7.93H(cm2)で97.1(%)、実施例2は表面積8.72H(cm2)で96.5(%)、実施例11は表面積8.88H(cm2)で97.3(%)、実施例12は表面積10.08H(cm2)で96.6(%)、さらには、本件発明の範囲外ではあるが、実施例13は表面積10.94H(cm2)で95.6(%)であるから、上述の発明の詳細な説明の【0064】の記載のとおり、「露出している粘着剤層の表面積」が大きくなるほど「保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量」が低下する、すなわちフェンタニルクエン酸塩の保存安定性が低下する傾向があると認められる。
そこで、本件発明の課題が解決できる最大の「露出している粘着剤層の表面積」が本件発明における貼付面の外周長さの10.08H(cm2)であるという前提で、課題が解決できる粘着剤層の最大の厚さをL(cm)とする。最大の厚さL(cm)は、貼付面の外周長さが最小(7.93cm)のときに、課題が解決できることが示された最大の表面積(10.08H(cm2))になる厚さであるので、7.93L=10.08Hであり、計算すると、L=(10.08÷7.93)H≒1.271Hになる。
そして、粘着剤層の単位面積当たりの質量が50g/m2の厚さがHであるから、最大の厚さLになる時の粘着剤層の最大の単位面積当たりの質量は1.271×50=63.55g/m2となる。
したがって、本件発明の課題を解決できると解される粘着剤層の厚さは、「粘着剤層の単位面積あたりの質量が、63.55g/m2以下」に対応した厚さであると解される。
ウ そうすると、本件発明1において、貼付面(粘着剤層)の外周長さが「7.93~10.08cm」に加えて、本件訂正により、粘着剤層の単位面積あたりの質量が「25~60g/m2」に特定されたところ、「粘着剤層の単位面積あたりの質量が、63.55g/m2以下」に対応した厚さであれば、本件発明の課題を解決できると解されるのであるから、粘着剤層の厚さが「単位面積あたりの質量が「25~60g/m2」である粘着剤層に対応した厚さ」である本件発明1により、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できるといえる。
エ したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
オ 本件発明2、3は、それぞれ、本件発明1において貼付剤がテープ剤であること、粘着剤層が粘着付与樹脂をさらに含有することを特定する発明である。
そして、本件発明2、3に関し、本件発明の課題を解決できることが示されている実施例2、10~12の貼付剤は、テープ剤であり、粘着付与樹脂である脂環族飽和炭化水素樹脂(【0030】)を含むから、本件発明2、3により本件発明の課題が解決できることは明らかである。
カ したがって、本件発明2~3も、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
(5)申立人の主張について
ア 申立人(01)の主張(令和6年9月19日提出の意見書)
申立人(01)は、粘着剤層の単位面積当たりの質量の下限値に関し、発明の詳細な説明の実施例の記載からは、「粘着剤層の表面積が大きくなるほど保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する」とは認められないから、外周が最小である7.93cmの場合も考慮する必要があり、本件発明がサポート要件を充足するためには、粘着剤層の単位面積当たりの質量の下限を「25g/m2」ではなく、「39.35g/m2」に限定する必要がある旨を主張する(5.(2))。
しかしながら、上記(3)、(4)で述べたとおり、発明の詳細な説明の実施例からは、全体的な傾向として、「露出している粘着剤層の表面積が大きくなるほど保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する」という傾向を読み取ることができ、また、発明の詳細な説明の【0064】に「貼付面の外周長さが長くなるにつれて、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する傾向が見られた」こと、及び「粘着剤層の表面積がより小さい実施例」は、「フェンタニルクエン酸塩の保存安定性が更に高い結果となった」ことが記載されていることからすれば、申立人の、「粘着剤層の表面積が大きくなるほど保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量が低下するとは認められない」旨の主張は採用できない。
そして、「露出している粘着剤層の表面積が大きくなるほど保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する」との傾向を、発明の詳細な説明から当業者が理解できる以上、本件発明における「25g/m2」という下限においても、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できるといえ、下限値を「39.35g/m2」に限定する必要がある旨の申立人の主張もまた採用できない。
したがって、申立人(01)の上記主張は採用できない。
イ 申立人(02)の主張(令和6年9月26日提出の意見書)
(ア)申立人(02)は、フェンタニルクエン酸塩の含有量に関し、発明の詳細な説明の実施例のフェンタニルクエン酸塩の含有量は、全て0.5mgであるところ、発明の詳細な説明の、
「【0007】
本発明者らは、貼付面積が2.5cm2であり、フェンタニルクエン酸塩0.5mgを含有する貼付剤を調製したところ、予想外にもフェンタニルクエン酸塩の保存安定性が低下することを見出した。
【0008】
そこで、本発明の目的は、フェンタニル又はその塩の含有量が低くても、保存安定性に優れた貼付剤を提供することにある。」
との記載から、貼付剤に含有されるフェンタニルクエン酸塩の含有量が低下することで、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性が低下すると考えられるので、フェンタニルクエン酸塩の含有量が0.5mg未満である場合の本件発明がサポート要件を充足するとはいえない旨を主張する(3~4頁の(ハ))。
しかしながら、【0007】、【0008】は、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低い場合に保存安定性が低下するとの課題があることを記載するものであり、本件発明においては、この課題を、本件発明の構成を備えることで解決するものであり、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低い(0.1~0.8mg)場合であっても保存安定性に優れた貼付剤が提供できるものである(【0010】)。そして、発明の詳細な説明について、【0007】、【0008】の記載のみならず、実施例等の記載を併せ考慮すると、上記(3)、(4)及び上記アで述べたとおり、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に影響を与えるのは、粘着剤層において露出している粘着剤層の表面積(つまり、側面の面積)であると考えるのが相当であり、貼付剤に含有されるフェンタニルクエン酸塩の含有量が低下することで、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性が低下すると考えることはできないので、フェンタニルクエン酸塩の含有量が0.5mg未満である場合の本件発明がサポート要件を充足しないとはいえない。
したがって、申立人(02)の上記主張は採用できない。
(イ)申立人(02)は、本件発明がサポート要件を充足するためには、粘着剤層の単位面積当たりの質量の下限を、実施例から算出されるところの、「39.35g/m2」に限定する必要があるし(4~9頁の(ニ))、また、本件発明1で特定されるフェンタニルクエン酸塩の濃度の上限値(3%)から算出すれば、「33.3g/m2」に限定する必要がある旨を主張する(9~11頁の(ホ))。
しかしながら、上記アで述べたとおり、「25g/m2」という下限において、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるといえるので、下限を「33.3g/m2」に限定する必要はなく、申立人(02)の上記主張は採用できない。
(6)小括
以上述べたとおり、本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、請求項1~3に係る特許を取消理由1により取り消すことはできない。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立理由についての当審の判断
下記の申立理由はいずれも本件特許の特許時の請求項1~3に対してのものであるから、対象となる発明が明確となるように、本件特許の特許時の請求項1~3に係る発明を「特許発明1」等といい、特許発明1~3をまとめて「特許発明」という場合がある。)
1 申立人(01)の申立理由
1-1 申立理由(a)(サポート要件違反)について(請求項1~3)
(1)申立人(01)は、異議申立書(01)ウ(p.6~8)において、発明の詳細な説明の表2及び表3、【0064】の記載を指摘して、特許発明1~3に、粘着剤層の厚さの規定がないことから、発明の全範囲にわたって特許発明の課題が解決できるとはいえない旨を主張している。
(2)サポート要件の判断基準及び本件発明が解決しようとする課題は、上記第5の1、2において記載したとおりであるところ、本件訂正後の本件発明1~3は、粘着剤層の厚さが、「単位面積あたりの質量が「25~60g/m2」である粘着剤層に対応した厚さ」を有するものとなっており、そのような本件発明1~3は、上記第5の3において説示したと同様の理由により、発明の詳細な説明の実施例(特に、実施例2、10~12)等の記載から、発明の全体にわたって本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものであるといえる。
したがって、申立理由(a)には理由がない。
1-2 申立理由(b)(実施可能要件違反)について(請求項1~3)
(1)申立人(01)は、異議申立書(01)ウ(p.6~8)において、申立理由(a)(サポート要件違反)と同様の理由で、実施可能要件も満たさない旨主張する。
ここで、本件発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる(つまり、本件発明についていわゆる「実施可能要件」を満足するといえる)ためには、発明の詳細な説明の記載から、出願時の技術常識を参酌して、当業者が、本件発明に特定される貼付剤を製造でき、また、使用できると理解できる必要があるので、以下検討する。
(2)発明の詳細な説明の【0024】~【0048】には、本件発明の貼付剤の製造に使用される粘着剤や粘着付与樹脂、粘着剤に含有させることができる可塑剤、経皮吸収剤、安定化剤、充填剤の種類や含有量について記載されているし、【0049】~【0050】には支持体の素材について、【0051】には、剥離ライナーについて記載され、【0052】には、貼付剤を、「フェンタニル又はその塩、粘着剤、及び、任意にその他の成分を混合して得られる膏体液を支持体上に展延し、剥離ライナーをその上に積層することにより、得ることができる」ことが記載されている。そして、【実施例】(【0055】~【0064】、特に、【0055】、【0059】、【0062】及び【0063】)には、具体的なテープ剤の調製工程が記載されている。
そうすると、当業者は発明の詳細な説明から本件発明の貼付剤を製造(調製)することができるといえる。
また、【0002】~【0007】によればそのようにして製造された本件発明の貼付剤は、フェンタニルクエン酸塩の薬理作用に基づいて疼痛緩和に使用できるものであり、また、粘着剤層の厚さが、「単位面積あたりの質量が「25~60g/m2」である粘着剤層に対応した厚さ」を有するものとなっており、上記第5の3において説示したと同様の理由により、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に優れ、保存後にも疼痛緩和に使用可能なものといえる。
したがって、申立理由(b)には理由がない。
1-3 申立理由(c)(進歩性)について(請求項1~3)
申立人(01)は、異議申立書(01)エ及びオ(p.8~12)で、本件の特許発明は進歩性が欠如している旨主張するので、検討する。
(1)甲1-1の記載及び引用発明1
ア 甲1-1の記載
甲1-1には、以下の記載がある(合議体注:原文における下線等の記載は省略し、読みやすいように改行等を加えて記載した。)。
「【請求項1】
クエン酸フェンタニルおよび酢酸ナトリウムを含有する、1日1回投与用フェンタニル含有経皮吸収製剤であって、
支持体、粘着剤および剥離シートを含む貼付剤であり、
貼付剤がマトリックス型であり、クエン酸フェンタニルを0.10~0.45mg/cm2で粘着剤中に含有し、粘着剤の質量が2~10mg/cm2であり、粘着剤がポリイソブチレンおよびスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体を含み、貼付剤の面積が5~60cm2であり、支持体の透湿度が15~30g/m2・24hrであり、ならびに支持体の曲げ剛性が0.01~0.20g・cm2/cmであることを特徴とし、
前記経皮吸収製剤の1日1回投与を連続した場合の定常状態における血中フェンタニル濃度の平均ピーク/トラフ値が1.8以下となるように粘着剤におけるクエン酸フェンタニルの1cm2あたりの含有量を調整し、かつ貼付剤の面積を変動させることにより製剤におけるクエン酸フェンタニルの含有量を調整させてなる、前記経皮吸収製剤。」
「【0038】
実施例1
(処方)
成分名 含有量(%)
SIS 16.0
PIB 7.0
脂環族飽和炭化水素樹脂 40.0
流動パラフィン 31.0
酢酸ナトリウム 2.0
クエン酸フェンタニル 4.0
全量 100.0
【0039】
(製法)
クエン酸フェンタニル、酢酸ナトリウムおよび流動パラフィンを乳鉢に取りよく混合した後、トルエンに溶解した残りの成分と混合した。得られた混合物を離型紙(剥離シート)上に塗工後、溶剤を乾燥除去し、延伸PET支持体(厚み:20μm)と貼り合わせて経皮吸収製剤(マトリックス型)を得た。なお、クエン酸フェンタニルを含有する粘着剤は50g/m2とした(単位面積あたりのクエン酸フェンタニル:0.2mg/cm2)。」
(合議体注:上記において、「PIB」、「SIS」は、【0025】に「粘着剤に配合される脂溶性ポリマーは、…(略)…好ましい例として、ポリイソブチレン(PIB)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)」とあるように、それぞれ、「ポリイソブチレン」、「スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体」を意味する。また、「PET」は、ポリエチレンテレフタレートである。以下においても、甲1-1の指摘においては、表記のとおり記載する。また、「脂環族飽和炭化水素樹脂」は、【0030】に「粘着付与樹脂」の例として記載されるとおり、「粘着付与樹脂」である。)
「【0047】
試験例1
実施例1に記載のクエン酸フェンタニルを4%含有する貼付剤10cm2について、成人5人を対象に1日(24時間)貼付、また、別の成人5人を対象に3日(72時間)貼付を夫々行い、経時的に採血を行なった。」
イ 引用発明1
上記アの記載、特に、実施例1に記載のクエン酸フェンタニルを粘着剤層中に4%含有する貼付剤10cm2を試験対象の人に貼付して試験した旨の試験例1の記載によれば、甲1-1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明1>
「剥離シート上の4%クエン酸フェンタニル含有粘着剤層に延伸PET支持体が貼り合わされた、支持体、粘着剤及び剥離シートを含むマトリックス型貼付剤である経皮吸収製剤であって、
前記粘着剤層は以下の実施例1処方の組成からなり、前記粘着剤層は、50g/m2(単位面積1cm2あたりのクエン酸フェンタニルが0.2mg/cm2)であり、貼付面積が10cm2である経皮吸収剤。
[実施例1処方]
成分名 含有量(%)
SIS 16.0
PIB 7.0
脂環族飽和炭化水素樹脂 40.0
流動パラフィン 31.0
酢酸ナトリウム 2.0
クエン酸フェンタニル 4.0
全量 100.0」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「剥離シート上の4%クエン酸フェンタニル含有粘着剤層に延伸PET支持体が貼り合わされた、支持体、粘着剤及び剥離シートを含むマトリックス型貼付剤である経皮吸収製剤」が、本件発明1の「支持体」に相当する「延伸PET支持体」の上に、(クエン酸フェンタニル含有)「粘着剤層」を備える構造を有することは、当業者に自明である。
また、引用発明1の貼付剤には、上記実施例1処方から明らかなとおり、(クエン酸フェンタニル含有)粘着剤層にSISとPIBが含まれるから、これは、本件発明1の「前記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種の粘着剤と、を含有し」との特定を充足するし、引用発明1の粘着剤層の単位面積あたりの質量は50g/m2であるから、これは、本件発明1の「粘着剤層の単位面積あたりの質量が25~60g/m2」との特定を充足する。
ここで、引用発明1の「単位面積1cm2」は、本件発明1の「貼付面積1cm2」と同じ面積を意味するところ、引用発明1では、粘着剤層の単位面積1cm2あたりのクエン酸フェンタニルが0.2mg/cm2、つまり、貼付面積1cm2あたりのクエン酸フェンタニルが0.2mg/cm2であり、貼付面積が10cm2であるから、粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量は2mgとなる。
そうすると、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、フェンタニルクエン酸塩と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種の粘着剤と、を含有し、
前記粘着剤層の単位面積あたりの質量が、25~60g/m2である、貼付剤。
<相違点1-1>
粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量が、本件発明1では0.1~0.8mgであるのに対して、引用発明では2mgである点。
<相違点1-2>
粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の貼付面積1cm2あたりの含有量が、本件発明1では0.01~0.18mgであるのに対して、引用発明では0.2mgである点。
<相違点1-3>
粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の濃度が、本件発明1では粘着剤層全体の質量を基準として1~3%であるのに対し、引用発明では4%である点。
<相違点1-4>
貼付剤の貼付面積が、本件発明1では3~8cm2であるのに対し、引用発明1では10cm2である点。
<相違点1-5>
貼付面の外周長さが、本件発明1では7.93~10.08cmであるのに対し、引用発明1では貼付面の外周長さが特定されない点。
イ 判断
(ア)相違点1-2~相違点1-4について
相違点1-2~相違点1-4に関し、甲1-1の【0034】には、粘着剤層中のフェンタニル又はその塩の単位当たりの含有量が「0.10~0.45mg/cm2」であること、貼付剤の面積が「5~60cm2」であることが記載されているし、【0023】には、製剤自体の物性等の観点から、「フェンタニルまたはその塩は粘着層全体の質量に基づいて、0.05~20質量%」の量で配合することが好ましいことが記載されている。そうすると、甲1-1には、引用発明1の粘着剤層中のフェンタニルクエン酸塩の単位面積(これは、貼付面積に等しい)当たりの含有量0.2mgよりも低い値、例えば、貼付面積1cm2あたり、「0.10~0.18mg」の範囲内の「粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸の塩の含有量」とすること、引用発明1の10cm2よりも低い「3~8cm2」の範囲内の「貼付面積」とすること、「粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の濃度を、粘着剤層全体の質量を基準として1~3%」の範囲内のものもとすることについて、一応の示唆がされているといえる。
また、相違点1-1に関し、甲1-2の実施例8の貼付剤は、支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、粘着剤層がクエン酸フェンタニル及び粘着剤を含有し、粘着剤がスチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンである。そして、この貼付剤の貼付面積は不明であるものの、粘着剤層には、フェンタニルクエン酸塩が1.0%含まれており、その厚みが100μmであるから、粘着剤層の比重を1g/cm3と仮定すると、この粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量は、貼付面積1cm2あたり0.10mg(=1g/cm3(1000mg/cm3)×100μm(10-2cm)×1.0%(0.01))である。そうすると、フェンタニルクエン酸塩が貼付面積1cm2あたり0.10mgである貼付剤は、本件特許の出願時に知られていたといえる。
しかし、甲1-1及び甲1-2の記載を参酌しても、引用発明1の「粘着剤層におけるクエン酸フェンタニル」の貼付面積1cm2あたりの含有量を、甲1-1及び甲1-2に記載されている0.10mgの10分の1である「0.01mg」という下限値を含む「0.01~0.18mg」の範囲にするとともに、引用発明1の貼付面積を、甲1-1に記載されている5cm2よりもさらに低い「3cm2」という下限値を含む「3~8cm2」の範囲とし、さらに、「粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の濃度を、粘着剤層全体の質量を基準として1~3%」の範囲内のものとするという、三つの条件の全てを満たすものとして、引用発明1を相違点1-2~相違点1-4に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを当業者が容易に想到し得たということはできない。
(イ)相違点1-1について
甲1-1の【0035】に「1枚あたりのフェンタニルまたはその塩の含有量が1~10mgの貼付剤とすることができ、1~2mgの低用量であってもよい」と記載されているように、甲1-1には、「低用量」として、1~2mgが想定されており、上限値を、1mgよりも低い値にすることについての記載又は示唆はなく、さらに甲1-2の記載を参酌しても、当該含有量を、1mgを下回る「0.1~0.8mg」にすることが示唆されているとはいえない。
そうすると、甲1-1の記載及び甲1-2の記載を参酌しても、引用発明1を相違点1-1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(ウ)相違点1-5について
引用発明1の貼付面積は10cm2であるから、引用発明1の製剤(貼付面)が円形である場合は、その外周長さは11.21cmであり、正方形である場合は、その外周長さは12.65cmであることを考慮しても、甲1-1には、引用発明1の製剤(貼付面)の外周長さに着目することについては記載も示唆もないし、甲1-2の記載を参酌しても、「貼付剤の保存前のフェンタニル等の少なくとも95%を残存させる」ために、引用発明1の製剤の外周長さに着目して、当該外周長さを、上記11.21cm又は12.65cmよりも低い値である「7.93~10.08cm」の範囲とすることが動機付けられるとはいえない。
したがって、引用発明1を相違点1-5に係る本件発明1の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(エ)仮に、相違点1-1~相違点1-5に係る本件発明1の構成のそれぞれに包含され得る数値を、甲1-1の記載、さらには甲1-2の記載から導き出すことが可能であるとしても、引用発明1において、相違点1-1~1-5に係る構成の全てに着目した上で、それらを変更し、それらの全ての構成を同時に備えたものとすることは、当業者といえども困難であり、引用発明1を、相違点1-1~相違点1-5に係る本件発明1の構成の全てを同時に備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(オ)効果について
効果について以下検討する。
本件明細書の実施例2、10~12の記載によれば、貼付剤の外周長さが特定範囲に調整されて、粘着剤層の側面積が特定の範囲となるように調整された、相違点1-1~相違点1-5に係る構成を備えた本件発明1の貼付剤は、貼付剤を、60℃にて1ヶ月間保存した(苛酷試験)後に、フェンタニルクエン酸塩が保存前の含有量に基づいて、少なくとも95%の量で残存する、保存安定性に優れたものとなっており(【0060】、【0011】)、当業者は、本件明細書の【0010】に記載されているように、本件発明1により、フェンタニルクエン酸の含有量が低く(0.1~0.8mg)ても、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に優れる貼付剤を提供できるという効果を奏することを、当業者は理解できるといえる。
そして、甲1-1及び甲1-2には、製剤の外周長さや粘着剤の側面積を調整することでフェンタニル記塩酸塩の保存安定性が改善できることを示唆する記載はおろか、製剤の外周長さや粘着剤の側面積に着目することについての記載も示唆もないのであるから、本件発明1による、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低くても、フェンタニル等の保存安定性に優れる貼付剤を提供できるという効果は、当業者が予測し得ない顕著な効果であるといえる。
(カ)したがって、本件発明1は、引用発明1、並びに甲1-1及び甲1-2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2~3について
本件発明2は、本件発明1において、貼付剤が「テープ剤」であることをさらに特定したものであり、本件発明3は、本件発明1又は2において、「粘着剤層が、粘着付与樹脂をさらに含有する」ことをさらに特定したものである。
そうすると、上記(2)と同様の理由で、本件発明2~3も、引用発明1、並びに甲1-1及び甲1-2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)小括
以上述べたとおり、申立理由(c)には理由がない。
2 申立人(02)の申立理由
2-1 申立理由A(サポート要件)について(請求項1~3)
(1)申立人(02)は、異議申立書(02)(p.13~14の(i))において、特許発明1~3において、剥離ライナーのような貼付面を覆うための構成が特定されていないから、サポート要件を充足しない旨を主張している。
しかし、本件発明(及び特許発明)のような支持体上に粘着剤層を備える貼付剤が、剥離ライナーのような貼付面を覆うための構成を備えることは当業者に自明であり、本件発明も、粘着剤層を備える貼付剤である以上、当然、剥離ライナーのような貼付面を覆う構造を備えたものであると認められる。
したがって、上記申立人(02)の主張は採用できない。
(2)申立人(02)は、異議申立書(02)(p.14~21の(ii))において、貼付剤における露出した粘着剤層の側面が、保管中に包装用のパウチ中の酸素や水分、パウチ内面と接触することは技術常識であるから(甲6~8)、貼付剤の有効成分の保存安定性には粘着剤層の側面の面積が重要であり、これが大きくなると保存安定性が低下することも技術常識であるところ、特許発明1~3では、粘着剤層の側面の面積に関係する「貼付面の外周長さ」と「粘着剤層の厚み」は何ら規定されていないから、サポート要件を充足しない旨を主張している。
しかし、本件訂正後の本件発明1~3は、貼付面の外周長さが7.93~10.08cm、「単位面積あたりの質量が「25~60g/m2」である粘着剤層に対応した厚さ」を有するものであり、そのような本件発明1~3は、上記第5の3において説示したとおり、サポート要件を充足するものである。
したがって、上記申立人(02)の主張も採用できない。
(3)申立人(02)は、異議申立書(02)(p.21~27の(iii))において、発明の詳細な説明の【0007】、【0008】、【0055】~【0058】、【表1】の記載によれば、特許発明が解決しようとする課題は、正しくは、「貼付面積が2.5cm2と小さくなることにより、貼付剤1枚中のフェンタニル又はその塩の含有量が0.5mgと低くても、保存安定性に優れた貼付剤を提供すること」であると主張し、比較例2を基準として特許発明の課題を設定した上で本件発明はサポート要件を充足しない旨主張する。
しかし、サポート要件の判断基準、及び本件発明が解決しようとする課題は、上記第5の1、2に記載したとおりであり、発明の詳細な説明の実施例(特に、実施例2、10~12)等の記載から、請求項1~3に特定される貼付剤により、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識でき、サポート要件を充足するといえることは、上記第5の3において説示したとおりである。
そして、発明の詳細な説明の【0007】の記載からみて、比較例2における2.5cm2という貼付面積の数値、及び0.5mgという含有量の数値(【0055】)は、あくまでも、本件発明の課題を見出す契機となった貼付剤における貼付面積及び含有量にすぎず、本件発明の課題における「貼付剤」の貼付面積が小さいことの基準となる数値、及び「フェンタニルクエン酸塩の含有量」が低いことの基準となる数値を示すものではない。
したがって、上記申立人(02)の主張も採用できない。
(4)申立人(02)は、異議申立書(02)(p.28の(iv))において、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)及びポリイソブチレン(PIB)を併用した場合以外については、具体的なデータの記載がなく、サポート要件を充足しない旨を主張している。
しかし、発明の詳細な説明の【0062】において、粘着剤としてSISのみを含有するテープ剤(実施例4~6)や、PIBのみを含有するテープ剤(実施例7~9)が、SIS及びPIBを併用した実施例1~3と同等の結果を示したことが記載されているし、上記第5の3(3)で記載したとおり、フェンタニル又はその塩の保存安定性に影響を与えるのは、粘着剤層において露出している側面の面積であると考えるのが相当であり、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、粘着剤層の側面の露出面積の調整により、保存安定性に優れたテープ剤とすることが可能であると理解できるところ、粘着剤の材料は粘着剤層の側面の露出面積と直接的な関連がないと考えられるから、粘着剤としてSISとPIBをそれぞれ単独で使用した場合に、本件発明の課題が解決できなくなると考えることはできない。
したがって、上記申立人(02)の上記主張も採用できない。
(5) 以上述べたとおり、申立理由Aには理由がない。
2-2 申立理由B(明確性要件)について(請求項1~3)
申立人(02)は、異議申立書(02)(p.28~30の「2.」)において、実施例1と同様にして貼付面積が3cm2のテープ剤を調製した場合、「粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量が、0.45mgであり、かつ貼付面積1cm2あたり0.15mgであり、前記粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の濃度が、粘着剤層全体の質量を基準として3%であり、貼付面積が3cm2である貼付剤」となるが、貼付剤の有効成分の保存安定性の検討においては、有効成分を含む粘着剤層の側面の面積が重要であることが技術常識であり、貼付面積が小さくなると粘着剤層の側面積の割合が大きくなるから、貼付面積が3cm2のテープ剤の場合でも特許発明の効果である「一定期間保存した後にフェンタニル又はその塩が当初の形態のまま95%以上残存している」「保存安定性に優れた」効果を奏する貼付剤であるのかは理解できないから、特許発明は不明確である旨を主張する。
しかながら、上記第5の3で説示したとおり、発明の詳細な説明の実施例(特に、実施例2、10~12)等の記載から、本件発明1に特定される条件を充足する貼付剤は、本件発明の課題を解決できるものであり、「保存安定性に優れる」の基準とされる、「60℃にて1ヶ月間保存した(過酷試験)後に、フェンタニルクエン酸塩が保存前の含有量に基づいて、少なくとも95%の量で残存している」ものであるといえるから、本件発明は明確である。
したがって、申立理由Bには理由がない。
2-3 申立理由C(進歩性欠如)について(請求項1~3)
申立人(02)は、異議申立書(02)のエ(p.30~35)で、本件の特許発明は進歩性が欠如している旨主張するので、検討する。
上記第4の1(2)で記載したとおり、申立理由C1及びC2(進歩性欠如)は、いずれも甲2-1を主引例とするものであり、申立理由C1は、副引例として甲2-2~甲2-5、周知技術として甲2-10を引用し、また、申立理由C2は、副引例として、甲2-5及び甲2-6、技術常識として甲2-6~甲2-9、甲2-11及び甲2-12を引用するものであるが、両者は、主引例が同じで副引例の甲2-5も共通することから、以下の判断はまとめて行う。
(1)甲2-1の記載及び引用発明2
ア 甲2-1の記載
甲2-1には、以下の記載がある。
「
[図:0001422377000003.jpg]
」
「
[図:0001422377000004.jpg]
」
イ 引用発明2
上記アによれば、甲2-1には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明2>
「フェントス(R)テープ1mgとして、支持体上に薬物含有層を備える構造を有し、
有効成分としてのフェンタニルクエン酸塩を1mg含有し、
添加物として脂環族飽和炭化水素樹脂、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレン、流動パラフィンを含有し、
大きさが2.24cm×2.24cmの、四隅が丸い四角形で、
面積が5cm2の粘着テープ剤。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「支持体上に薬物含有層を備える構造を有」する「粘着テープ剤」は、本件発明1の「支持体上に粘着剤層を備える貼付剤」に相当する。
引用発明2の貼付剤には、フェンタニルクエン酸塩、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレンが含まれるから、これは、本件発明1の「前記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種であり」に相当し、また、引用発明2の「面積が5cm2」は、本件発明1の「貼付面積が3~8cm2」に相当する。
さらに、引用発明2の貼付剤は、大きさが2.24cm×2.24cmの、四隅が丸い四角形であるから、貼付面の外周長さは約9cmであり、これは、本件発明1の「貼付面の外周長さが、7.93~10.08cm」に相当する。
ここで、引用発明2では、面積が5cm2であるから、貼付面積1cm2あたりのフェンタニルクエン酸塩の含有量は0.2mg/cm2となる。
そうすると、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、フェンタニルクエン酸と、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種の粘着剤と、を含有し、
貼付面積が3~8cm2であり、
貼付面の外周長さが、7.93~10.08cmである、貼付剤。
<相違点2-1>
粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量が、本件発明1では0.1~0.8mgであるのに対して引用発明2では1mgである点。
<相違点2-2>
粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の貼付面積1cm2あたりの含有量が、本件発明1では0.01~0.18mgであるのに対し、引用発明2では0.2mgである点。
<相違点2-3>
粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の濃度が、本件発明1では粘着剤層全体の質量を基準として1~3%であるのに対し、引用発明2では粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の濃度は特定されていない点。
<相違点2-4>
粘着剤層の単位面積あたりの質量が、本件発明1では25~60g/m2であるのに対し、引用発明2では粘着剤層の単位面積あたりの質量は特定されていない点。
イ 判断
(ア)甲2-2~甲2-12には、概略以下のことが記載されている。
・甲2-2:フェントス(R)テープ(開発コードHFT-290)の「0.5mg」の新用量(合議体注:これは甲2-1からみて、フェンタニルクエン酸塩が0.5mg含まれる貼付剤と解される。)の承認申請がなされたこと、及び、「0.5mg」の製剤により、低用量の他のオピオイド鎮痛剤からの切り替え時の用量選択や用量増減時のより細やかな用量調整が可能になると考えられること。
・甲2-3:平成20年度以降に薬価基準への収載を希望する後発医薬品については、その承認に当たって標準製剤となった先発医薬品(「標準先発品」)が有する規格を、全て揃えて薬価基準収載希望を申請すること(項目「1.」)。
・甲2-4:新用量医薬品とは、既承認医薬品等と有効成分及び投与経路は同一であるが用量が異なる医薬品をいうこと(2頁目の下から3~2行(第1の2の(10))及び医薬品の承認申請に際し、長期保存試験、過酷試験、加速試験といった安定性に関する資料の提出が必要であること(別表の「ハ」)。
・甲2-5:甲1-2と同じ文献である。フェンタニル又はその塩0.05~20重量%、粘着剤0.1~98重量%及び酢酸ナトリウム0.01~15重量%を含有するフェンタニル含有経皮投与テープ製剤が開示されており(請求項2)、発明の目的として、経時安定性なフェンタニル含有経皮投与テープ製剤の提供が記載されている(【0003】)。
・甲2-6:支持体上にロピニロール及び/又はその薬学的に許容される塩を含有する粘着剤層と、該粘着剤層を被覆する剥離フィルムとを有した貼付剤入り包装袋であって、包装体内部が4℃における相対湿度が35%以上に維持されている、貼付剤入り包装袋の発明が開示され(請求項1等)、包装袋が脱酸素手段を有することでロピニロールの分解等が抑制できること([0011])、貼付剤の保存安定性を、貼付剤入り包装袋を60℃で1か月保存後の薬物含量により確認したこと([0073]~[0075])が記載されている。
・甲2-7:包装袋と、包装体内部に収容され、支持体の片面に粘着層が形成された貼付剤とを備える貼付剤入り包装袋であって、前記粘着剤層は、粘着剤とビソプロロール又はその薬学的に許容される塩とを含有する粘着剤組成物から構成され、包装袋内部が25℃における相対湿度が25%以下に維持されている、貼付剤入り包装袋が開示され(請求項1)、包装袋に粘着剤層乾燥剤を同封することで、ビソプロロールの加水分解を抑えることが記載されている([0014]~[0015])。
・甲2-8:支持体の少なくとも一方の面に粘着剤層が積層され該粘着剤層に剥離フィルムが付着した貼付剤を内部に収容した包装袋であって、前記粘着剤層は一般式(1)の薬物又はその薬学的に許容される塩を含有し、貼付剤が接する包装袋の内面の少なくとも一部がポリアクリロニトリルからなる、貼付剤入り包装袋が開示され(請求項1等)、包装袋の内面をポリアクリロニトリルとすることで貼付剤に含まれるビソプロロール等の薬物の移行を抑制し、薬物含有量を維持できるようになることが記載されている([0007]、[0015])。
・甲2-9:支持体層と粘着剤層とを備える貼付剤であって、粘着剤層がジクロフェナクナトリウム、ジメチルスルホキシド及びクエン酸を含有し、ジクロフェナクナトリウムとクエン酸の質量比、ジクロフェナクナトリウムとジメチルスルホキシドの質量比が特定された貼付剤が開示され(請求項1)、粘着剤層の厚さが通常10~500(μm)であること([0037])が記載されている、
・甲2-10:甲1-1と同じ文献であり、第6の1-3で記載したとおり、クエン酸フェンタニル含有粘着剤層を有する経皮吸収製剤について開示されている。そして、【0034】には、「本発明の貼付剤の面積は、十分な薬物の効果が得られる面積ならば特に制限はないが、5~60cm2であることが、薬効効果、取り扱い性、皮膚刺激などの観点から好ましい。」、「粘着剤層中に粘着剤中にフェンタニルまたはその塩を含有し、その単位面積当たりの含有量が0.10~0.45mg/cm2、かつ、粘着剤の単位面積あたり質量が2~10mg/cm2とすることが好ましい。」と記載され、また、【0023】には、製剤自体の物性等の観点から、「フェンタニルまたはその塩は粘着層全体の質量に基づいて、0.05~20質量%」の量で配合することが好ましいことが記載されている。
・甲2-11:薬物分解についての反応速度論について記載され、初期量を100%としたときの相対的な変化として反応速度を扱うのが最も一般的であること、1次反応では一定時間で一定比率の薬物が分解する性質があり、薬物濃度の減少速度が時間経過とともに遅くなることが記載されている。
・甲2-12:トランスポーターを介さない単純拡散の速度は、薬物が生体内へ移行する場合、生体膜両側の濃度勾配にしたがい、濃度が高い方から低い方へ透過し、吸収部位の薬物濃度に比例して透過速度は上昇することが記載されている(16頁項目「2.1.2の1)」)。
(イ)相違点2-1~相違点2-4について
(イ-1) 相違点2-1及び相違点2-2に関し、甲2-2~甲2-4の記載、特に、甲2-2に、フェントス(R)テープの新用量として0.5mgを追加すること、0.5mgの製剤により、低用量の他の鎮痛剤からの切り替え時の用量選択や用量増減時のより細やかな用量調整が可能になると考えられることが記載されていることを踏まえれば、細やかな用量調整を可能として、用量選択を増やす観点から、粘着テープ剤が含有するフェンタニルクエン酸塩の含有量として、0.5mgは示唆されているといえる。
ここで、上記(1)アの表中の「販売名」が、「フェントステープ1mg」、「フェントステープ2mg」、「フェントステープ4mg」、「フェントステープ6mg」、「フェントステープ8mg」の製品である、甲2-1に記載の各種「フェンタニル(R)テープ」は、「有効成分」であるフェンタニルクエン酸塩の含量と粘着テープ剤の「面積」との関係が、それぞれ、「1mg」は「5cm2」、「2mg」は「10cm2」、「4mg」は「20cm2」、「6mg」は「30cm2」、「8mg」は「40cm2」であり、製品(粘着テープ剤)の有効成分(フェンタニルクエン酸塩)含量(ymg)と面積(xcm2)が、y=0.2xの比例関係にあり、甲2-1の各種粘着テープ剤は、粘着テープ剤が含有するフェンタニルクエン酸塩の量を、面積当たりのフェンタニルクエン酸塩の含量を変えることなく、粘着テープ剤の面積を変更することのみによって調整して製造された製品であることが理解できる。
そうすると、当業者は、引用発明2の粘着テープ剤が含有するフェンタニルクエン酸塩の含量を1mgから0.5mgの半分に減少させた粘着テープ剤を製造しようとする場合、面積当たりのフェンタニルクエン酸塩の含量を変えることなく、粘着テープ剤の面積のみを5cm2から2.5cm2に変更して製造することを、当業者は自然に想起するといえ、粘着テープ剤の面積を5cm2に維持したままで、貼付面積1cm2あたりのフェンタニルクエン酸塩含有量のみを、甲2-1に記載の全ての製品(1mg~8mgの5種類の粘着テープ剤)における含量である0.2mg/cm2から、0.1mg/cm2にあえて変更することを、当業者が容易に想起し得たとはいえない。
したがって、相違点2-1及び相違点2-2に係る本件発明1の構成を同時に満足させることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(イー2) また、貼付剤の形状を甲2-1の記載から自然に想起される面積2.5cm2とする場合、本件発明1で特定される貼付面積「3~8cm2」の範囲外となるし、外周長さは、上記(1)アの表中の「大きさ」の欄で各種用量の粘着テープ剤が略正方形の形状であることから、同様の略正方形の形状に製造される場合は約6.3cm(面積が2.5cm2の正方形の一辺は約1.58cm×4辺)、引用発明2の面積5cm2の粘着テープ剤を半分に切断する場合(長辺2.24cmと短辺1.12cmの長方形)でも6.72cm(=2.24cm×2+1.12cm×2)となり、外周長さも本件発明1の条件(「7.93~10.08cm」)を充足しないものとなる。
(イ-3) 相違点2-2~相違点2-4に関し、甲2-10には、「貼付剤の面積は、十分な薬物の効果が得られる面積ならば特に制限はないが、5~60cm2であることが、薬効効果、取り扱い性、皮膚刺激などの観点から好ましい」こと、「フェンタニルまたはその塩の単位面積当たりの含有量が0.10~0.45mg/cm2、かつ、粘着剤の単位面積あたり質量が2~10mg/cm2(合議体注:換算すると20~100mg/m2となる。)とすることが好ましい」ことが記載されている(【0034】)し、【0023】には、製剤自体の物性等の観点から、「フェンタニルまたはその塩は粘着層全体の質量に基づいて、0.05~20質量%」の量で配合することが好ましいことが記載されている。
しかしながら、甲2-10の経皮吸収製剤は、【0035】に、「1枚あたりのフェンタニルまたはその塩の含有量」について、「1~2mgの低用量であってもよい」と記載されるとおり、0.5mgまでの低用量を想定して貼付剤を好適化したものではないし、上記(イ-1)で記載したとおり、フェンタニルクエン酸塩の含量を1mgから0.5mgの半分に減少させた粘着テープ剤を製造しようとする場合、当業者は、甲2-1の記載から、面積当たりのフェンタニルクエン酸塩の含量を変えることなく、粘着テープ剤の面積のみを5cm2から2.5cm2に変更して製造することを、自然に想起するといえるのであるし、引用発明2において、貼付面積を維持したままで貼付面積1cm2あたりのフェンタニルクエン酸塩含量を減少させた場合に、所望の薬効効果が得られるのかは不明である。
そして、甲2-10を含め、甲2-1~甲2-12を参酌しても、引用発明2の粘着テープ剤をフェンタニルクエン酸塩を0.5mg含有する製品に変更する際に、貼付面積を5cm2に維持したままとする積極的な動機付けがあるとはいえない。
そうすると、引用発明2において、フェンタニルクエン酸塩の含有量を1mgから0.5mgに変更した粘着テープ剤を製造する際に、粘着テープ剤の面積は5cm2に維持したままとして、貼付面積1cm2あたりのフェンタニルクエン酸塩含有量のみを0.5mgとするものとして、甲2-1に記載の全ての製品(1mg~8mgの5種類の粘着テープ剤)における含量である0.2mg/cm2から、0.1mg/cm2にあえて変更するように調整すること、つまり、引用発明2を相違点2-1及び相違点2-2に係る本件発明1の構成を同時に備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(ウ)仮に、相違点2-1~相違点2-4に係る本件発明1の構成のそれぞれに包含され得る数値を、甲2-1~甲2-12の記載から別々に導き出すことが可能であるとしても、引用発明2において、相違点2-1~相違点2-4に係る構成の全てに着目した上で、それらを変更し、それらの全ての構成を同時に備えたものとすることは、当業者といえども困難であり、引用発明2を、相違点2-1~相違点2-4に係る本件発明1の構成の全てを同時に備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(エ)効果について
上記1-3(2)イ(オ)に記載したとおり、本件明細書の実施例2、10~12の記載によれば、貼付剤の外周長さが特定範囲に調整されて、粘着剤層の側面積が特定の範囲となるように調整された、相違点2-1~2-4に係る構成の全てを備えた本件発明1の貼付剤は、貼付剤を、60℃にて1ヶ月間保存した(苛酷試験)後に、フェンタニルクエン酸塩が保存前の含有量に基づいて、少なくとも95%の量で残存する、保存安定性に優れたものとなっており(【0060】、【0011】)、当業者は、本件発明1により、本件明細書の【0010】に記載されているように、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低くても、フェンタニルクエン酸塩の保存安定性に優れる貼付剤を提供できるという効果が奏されることを理解できる。
そして、この効果は、甲2-1~甲2-12のいずれにも記載のない、当業者が予測し得ない効果である。
(オ)したがって、本件発明1は、引用発明2、及び甲2-1~甲2-12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2~3について
本件発明2は、本件発明1において、貼付剤が「テープ剤」であることをさらに特定したものであり、本件発明3は、本件発明1又は2において、「粘着剤層が、粘着付与樹脂をさらに含有する」ことをさらに特定したものである。
そうすると、上記(2)と同様の理由で、本件発明2~3も、引用発明2、及び甲2-1~甲2-12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)小括
本件発明1~3について、引用発明2、及び甲2-1~甲2-12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、主引例がいずれも引用発明2(甲2-1)であり、副引例が甲2-1~甲2-12のいずれかであるが、その組み合わせが異なる申立理由C1及びC2に基づいて、本件発明1~3を、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないことは明らかである。
よって、申立理由C(C1及びC2)には理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1~3に係る特許は、令和6年5月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によって取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700605