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特許異議申立

2023-700540

アルミニウム成形体及びその製造方法

審判番号
2023-700540
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-516978
登録番号
7179226
請求日
2023年05月25日
審決日
2024年02月26日
公報発行日
2024年06月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日本軽金属株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人IPRコンサルタント
  • 【権利者】東洋アルミニウム株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人IPRコンサルタント
  • 【異議申立人】江口 美恵子
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 池渕 立
  • 審判官 山口 大志
分類
P1651.113-YAA(B22F) / P1651.121-YAA(B22F) / P1651.537-YAA(B22F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7179226号発明「アルミニウム成形体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7179226号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2~5〕について訂正することを認める。 特許第7179226号の請求項2に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第7179226号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7179226号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2022-516978号。以下、「本願」という。)は、2021年(令和 3年) 4月13日(優先権主張 令和 2年 4月21日 日本国 令和 2年 4月23日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和 4年11月17日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~5(全請求項)に係る特許について、令和 5年 5月25日に特許異議申立人である江口美恵子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 8月31日付けで取消理由が通知され、同年10月13日に特許権者から訂正請求書が提出され、同年10月24日に特許権者から意見書が提出されたものである。 なお、令和 5年10月13日に提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、下記第2に記載のとおり、一部の請求項の削除を求めるのみであり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定する「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」に該当すると認められるから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。 第2 本件訂正請求について 1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容 本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2~5について訂正することを求めるものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所には、当審が下線を付した。)。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (2)訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載のアルミニウム成形体」と記載されているのを、「請求項1に記載のアルミニウム成形体」に訂正する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のうちのいずれかに記載のアルミニウム成形体」と記載されているのを、「請求項1又は3に記載のアルミニウム成形体」に訂正する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のうちのいずれかに記載のアルミニウム成形体」と記載されているのを、「請求項1、3及び4のうちのいずれかに記載のアルミニウム成形体」に訂正する。 2 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項1による訂正は、請求項2を削除するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当するとはいえない。また、訂正事項1による訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。 したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2~4について ア 訂正の目的について 訂正事項2~4は、下記(ア)~(ウ)のものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。 (ア)訂正事項2は、本件訂正前の請求項3が「請求項1又は2」を引用するものであったところ、訂正事項1による訂正によって請求項2が削除されたことに伴って、請求項3が引用する請求項から請求項2を省いたものである。 (イ)訂正事項3は、本件訂正前の請求項4が「請求項1~3のうちのいずれか」を引用するものであったところ、訂正事項1による訂正によって請求項2が削除されたことに伴って、請求項4が引用する請求項から請求項2を省いたものである。 (ウ)訂正事項4は、本件訂正前の請求項5が「請求項1~4のうちのいずれか」を引用するものであったところ、訂正事項1による訂正によって請求項2が削除されたことに伴って、請求項4が引用する請求項から請求項2を省いたものである。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項2~4による訂正は、いずれも、上述のとおり、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当するとはいえない。また、訂正事項2~4による訂正は、いずれも、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。 したがって、訂正事項2~4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (3)一群の請求項について 本件訂正前の請求項2~5について、請求項3~5は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、上記訂正事項1によって訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項2~5は、一群の請求項であるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。 そして、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔2~5〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 (4)独立特許要件について 本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 本件訂正請求についてのむすび 以上のとおりであるから、上記各訂正事項に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。 第3 本件特許発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、「本件特許発明1」等といい、総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 積層造形法によって成形してなるアルミニウム積層成形体であり、 Alと共晶を形成するFeを0.15~2.5質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム材を原料とし、 熱伝導率が180W/mK以上であること、 を特徴とするアルミニウム成形体。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 熱伝導率が190W/mK以上であること、 を特徴とする請求項1に記載のアルミニウム成形体。 【請求項4】 ビッカース硬度が30~90HVであること、 を特徴とする請求項1又は3に記載のアルミニウム成形体。 【請求項5】 引張強度:100MPa以上、0.2%耐力:75MPa以上、伸び:5%以上の引張特性を有すること、 を特徴とする請求項1、3及び4のうちのいずれかに記載のアルミニウム成形体。」 第4 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に公知となった、後記する甲第1号証~甲第8号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲8」という。)を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(新規性。取消理由として不採用。) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲2を参照すると、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(進歩性。取消理由として不採用。) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明と甲3~甲4の記載に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(明確性。取消理由として一部採用。) (1)本件訂正前の請求項1について ア 本件訂正前の請求項1に記載された「積層造形法によって成形してなるアルミニウム積層成形体」について、「積層造形法」が具体的に限定されておらず、様々な積層造形法があることを考慮すると、アルミニウム積層成形体のどのような構造及び特性を特定しているか不明確である。 イ 本件訂正前の請求項1に記載された「積層造形法によって成形してなるアルミニウム積層成形体」について、本願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)に記載された、積層造形後に行われる熱処理についての特定がされていないため、アルミニウム積層成形体のどのような構造及び特性を特定しているか不明確である。 ウ 本件訂正前の請求項1では、「Alと共晶を形成するFeを0.15~2.5質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム材を原料と」するとの特定がなされているが、当該原料を供給する際に他の元素が混入する可能性があるから、「アルミニウム成形体」の組成は明確に特定されているとはいえず不明確である。 (2)本件訂正前の請求項2について 本件訂正前の請求項2には「化合物の平均粒径」が「20~100nmである」と特定されているが、粒径の定義には複数のものがあり、平均の取り方にも算術平均や幾何平均があり、平均粒径としてどの方法が採用されているか不明であるから、平均粒径について一義的な解釈ができないので、明確ではない。 (3)以上のとおり、本件訂正前の請求項1、2とこれら請求項を引用する請求項3~5の記載は、上記(1)、(2)の点で、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 4 申立理由4(サポート要件、取消理由として不採用) (1)本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている「積層造形法」は、熱源としてレーザや電子ビームを用いた粉末床溶融結合法または指向性エネルギー堆積法のみであるから、本件訂正前の請求項1に係る発明のように、何ら具体的な方法が特定されておらず上記堆積法以外の方法も含む「積層造形法」を用いる場合にまで、発明の詳細な説明の記載を拡張または一般化することができない。 (2)本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている「積層造形法」は、段落【0050】~【0051】の記載によれば、積層造形後に熱処理を行うことが必要不可欠であるから、本件訂正前の請求項1に係る発明のように、積層造形後の熱処理について特定されていない場合にまで、発明の詳細な説明の記載を拡張または一般化することができない。 (3)本件明細書では、上記3(2)のとおり「平均粒径」が定義されていないため、「メルトプールの境界部を除く領域のAlと前記Feからなる化合物の平均粒径が20~100nmであること」により本件特許発明の課題が解決できたことを示す客観的な裏付けが一切示されていないから、本件訂正前の請求項2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明の記載を拡張または一般化することができない。 (4)本件訂正前の請求項5に係る発明は、本件訂正前の請求項1に係る発明を引用しているため、「熱伝導率が180W/mK以上」であり「引張強度:100MPa以上、0.2%耐力:75MPa以上、伸び:5%以上の引張特性を有する」ことが特定されているものであるが、発明の詳細な説明の段落【0069】~【0070】には、上記特定の全てを満たす実施例は存在しておらず、したがって、本件訂正前の請求項5に係る発明は発明の詳細な説明によって裏付けられていない。 (5)以上のとおり、本件訂正前の請求項1、2、5と請求項1、2を引用する請求項3、4の記載は、上記(1)~(4)の点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:国際公開2020/070453号(及びその抄訳及び英語訳) 甲第2号証:金属データブック、社団法人日本金属学会編、丸善株式会社、昭和49年 7月20日、p398~399 甲第3号証:木村貴広、外1名、レーザ積層造形法により作製した工業用純アルミニウム造形体の熱的および機械的性質、軽金属、第66巻、第4号、2016年、p167-173 甲第4号証:中本貴之、外2名、金属粉末積層造形法を活用した高性能部材の開発、まてりあ、第56巻、第12号、2017年、p704-707 甲第5号証:楢原弘之、日本におけるAdditive Manufacturingの概要とこれからの課題、計測と制御、第54巻、第6号、2015年6月、p381-385 甲第6号証:特開2000-8131号公報 甲第7号証:特許第5816394号広報 甲第8号証:高山善匡、結晶粒度の評価法、軽金属、第44巻、第1号、1994年、p48-56 第5 取消理由の概要 当審は、上記第4の申立理由のうち、申立理由3(2)を採用して、以下の取消理由1を通知した。 1 取消理由1(明確性) 本件訂正前の請求項2に記載された「平均粒径」は、その定義が不明であり、「平均粒径」の定義によっては同一の断面試料に対して異なる「平均粒径」が算出されることになることを踏まえると、本件訂正前の請求項2に係る発明の特定事項である「化合物の平均粒径が20~100nm」について一義的に解することができない。 したがって、本件特許の本件訂正前の請求項2と請求項2を引用する請求項3~5の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第6 当審の判断 1 取消理由1と申立理由3(2)について 取消理由1と申立理由3(2)の対象となる請求項2は削除されたので、請求項2の記載についての、特許法第36条第6項第2号に適合しないとする理由は存在しないものとなった。 2 取消理由として採用されなかった申立理由1、2(甲1を主たる引用文献とする新規性・進歩性)について (1)甲1の記載 以下の当審訳は、甲1のファミリーであるUS2021/0230716A1を英訳とし、これをさらに和訳したものである。 (1ア)「 [図:0001411295000001.jpg] 」(第1頁5~7行) (英訳:[0001] The technical field of the invention is a process for manufacturing an aluminum alloy part, using an additive manufacturing technique.) (当審訳:本発明の技術分野は、付加製造技術を用いてアルミニウム合金部品を製造する方法である。) (1イ)「 [図:0001411295000002.jpg] 」(第2頁4~9行) (英訳:[0006] The applicant determined an alloy composition which, used in an additive manufacturing process, makes it possible to obtain parts with remarkable mechanical performances, without it being necessary to implement thermal treatments such as solution heat treatments and quenching. Furthermore, the parts used have advantageous thermal conductivity or electrical conductivity properties. This makes it possible to diversify the application possibilities of these parts.」 (当審訳:本出願人は、付加製造プロセスにおいて使用され、溶体化熱処理および焼入れなどの熱処理を実施する必要なく、顕著な機械的性能を有する部品を得ることを可能にする合金組成を決定した。さらに、使用される部品は、有利な熱伝導性または導電性を有する。これにより、これらの部品の応用可能性を多様化することができる。) (1ウ)「 [図:0001411295000003.jpg] 」(第5頁11~23行) (英訳:[0054] FIG. 1 schematically represents the operation of a Selective Laser Melting (SLM) additive manufacturing process. The filler metal 15 is presented in the form of a powder disposed on a support 10. An energy source, in this case a laser source 11, emits a laser beam 12. The laser source is coupled with the filler material by an optical system 13, the movement whereof is determined according to a digital model M. The laser beam 12 is propagated along a propagation axis Z, and follows a movement along a plane XY, describing a pattern dependent on the digital model. The plane is for example perpendicular to the propagation axis Z. The interaction of the laser beam 12 with the powder 15 induces selective melting thereof, followed by a solidification, resulting in the formation of a layer 201 … 20n. When a layer has been formed, it is coated with filler metal powder 15 and a further layer is formed, superimposed on the layer previously produced. The thickness of the powder forming a layer can for example be from 10 to 200 μm.」 (当審訳:図1は、選択的レーザ溶融(SLM)付加製造プロセスの動作を概略的に表す。溶加材15は、支持体10上に配置された粉末の形態で提供される。エネルギー源、この場合はレーザ源11は、レーザビーム12を放射する。レーザ源は、光学系13によって充填材料と結合され、その移動はデジタルモデルMに従って決定される。レーザビーム12は、伝搬軸Zに沿って伝搬され、デジタルモデルに依存するパターンを記述する平面XYに沿った移動に従う。この平面は、例えば伝搬軸Zに垂直である。レーザビーム12と粉末15との相互作用により、粉末15の選択的溶融が誘発され、続いて固化が起こり、層201 … 20nが形成される。層が形成されると、それは溶加金属粉末15で被覆され、先に生成された層の上に重ねられたさらなる層が形成される。層を形成する粉末の厚さは、例えば10~200μmであってよい。) (1エ)「 [図:0001411295000004.jpg] 」(第5頁24~27行) (英訳:[0055] The powder can have at least one of the following features. [0056] Mean particle size from 5 to 100 μm, preferably from 5 to 25 μm, or from 20 to 60 μm. The values given signify that at least 80% of the particles have a mean size within the specified range.」 (当審訳:粉末は、以下の特徴の少なくとも1つを有することができる。 平均粒径は5~100μm、好ましくは5~25μm、または20~60μmである。与えられた値は、粒子の少なくとも80%が特定の範囲内の平均サイズを有することを意味する。) (1オ)「 [図:0001411295000005.jpg] 」(第6頁19~26行) (英訳:[0063] Having observed the above, the applicant sought an alloy composition, forming the filler material, making it possible to obtain acceptable mechanical properties, without requiring the application of thermal treatments, subsequent to the formation of the layers, liable to induce distortion. The aim is particularly to avoid thermal treatments involving a sudden temperature variation. Thus, the invention makes it possible to obtain, by additive manufacturing, a part wherein the mechanical properties are satisfactory, in particular in terms of yield strength. According to the type of additive manufacturing process selected, the filler material can be presented in the form of a wire or a powder.」 (当審訳:上記を観察して、本出願人は、歪みを誘発しやすい層の形成後に熱処理を施す必要なく、許容可能な機械的特性を得ることを可能にする、フィラー材料を形成する合金組成物を探求した。この目的は、特に、急激な温度変化を伴う熱処理を回避することである。したがって、本発明は、付加製造によって、特に降伏強度に関して機械的特性が満足できる部品を得ることを可能にする。選択される付加製造プロセスのタイプに従って、フィラー材料は、ワイヤまたは粉末の形態で提供され得る。) (1カ)「 [図:0001411295000006.jpg] 」(第7頁4~15行) (英訳:[0065] The applicant considered that it was useful to reach a compromise between the number and the quantity of elements added to the alloy, so as to obtain acceptable mechanical and thermal (or electrical) properties. [0066] The applicant considers that such a compromise is obtained by limiting to one or two the number of chemical elements forming the aluminum alloy having a mass fraction greater than or equal to 1% or 0.5%. Thus, a particularly advantageous alloy can be obtained by adding, according to a mass fraction greater than 1% or 0.5%: [0067] only Fe, where Fe: 2% to 8%, in which case the alloy essentially consists of two elements (Al and Fe); [0068] or Fe (where Fe: 2% to 8%) and Zr (where Zr: 0.5% to 2.5%, in which case the alloy essentially consists of three elements (Al, Fe and Zr). The presence of Zr generally enhances the mechanical properties after thermal treatment. (当審訳:本出願人は、許容可能な機械的および熱的(または電気的)特性を得るために、合金に添加される元素の数と量との間の妥協を達成することが有用であると考えた。 本出願人は、このような妥協点は、1%又は0.5%以上の質量分率を有するアルミニウム合金を形成する化学元素の数を1つ又は2つに制限することによって得られると考える。したがって、特に有利な合金は、1%または0.5%超の質量分率に従って、 Feのみ(Fe:2%~8%、この場合、合金は本質的に2つの元素(AlおよびFe)からなる。)、 またはFe(Fe:2%~8%)およびZr(Zr:0.5%~2.5%、この場合、合金は本質的に3つの元素(Al、FeおよびZr)からなる。Zrの存在は、一般に、熱処理後の機械的特性を高める。) を添加することによって得ることができる。) (1キ)「 [図:0001411295000007.jpg] 」(第8頁4~13行) (英訳:[0073] Experimental Examples [0074] A test was carried out using a binary alloy, in which the composition included Fe 4%; impurities and other alloy elements: <0.05% individually. [0075] Test parts were produced by SLM, using an E05290 SLM type machine (supplier EOS). The laser power was 370 W. The sweep rate was 1400 mm/s. The deviation between two adjacent sweeping lines, usually referred to as “vector deviation” was 0.11 mm. The layer thickness was 60 μm, with heating of the construction slab to 200°C. [0076] The powder used had a particle size essentially from 3 μm to 100 μm, with a median of 40 μm, a 10% fractile of 16 μm and a 90% fractile of 79 μm.) (当審訳:実験例 組成がFe 4%;不純物および他の合金元素のいずれも<0.05% を含む二元合金を用いて試験を行った。 試験パーツは、E05290 SLM型機械(供給業者EOS)を使用して、SLMによって製造した。レーザ出力は370 Wであった。掃引速度は1400 mm/sであった。通常「ベクトル偏差」と呼ばれる2つの隣接する掃引線間の偏差は、0.11 mmであった。層厚は60μmであり、構造スラブを200℃に加熱した。 使用した粉末は、本質的に3μm~100μmの粒径を有し、40μmの中央値、16μmの10%フラクタイルおよび79μmの90%フラクタイルを有した。) (1ク)「 [図:0001411295000008.jpg] 」(第8頁14~29行) (英訳:[0077] First test parts were produced, in the form of vertical cylinders with respect to the construction slab (Z direction) of diameter 11 mm and height 46 mm. Second test parts were produced, taking the form of parallelepipeds of dimensions 12 (X direction) ×45 (Y direction) ×46 (Z direction) mm (see FIG. 5). All the parts underwent a post-SLM manufacturing stress relief treatment of 4 hours at 300°C. [0078] Some first parts underwent a post-manufacturing thermal treatment at 350° C., 400° C. or 450° C., the treatment duration being from 1h to 104 h. All of the first parts (with and without post-manufacturing thermal treatment) were machined to obtain TOR4 type cylindrical tensile test specimens having the following characteristics in mm (see Table 1 and FIG. 4): In FIG. 4 and Table 1, φ represents the diameter of the central portion of the test specimen, M the width of the two ends of the test specimen, LT the total length of the test specimen, R the radius of curvature between the central portion and the ends of the test specimen, Lc the length of the central portion of the test specimen and F the length of the two ends of the test specimen. [図:0001411295000009.jpg] ) (当審訳:第1の試験パーツを、直径11 mmおよび高さ46 mmの構築スラブ(Z方向)に対して垂直な円筒の形態で製造した。12(X方向)×45(Y方向)×46(Z方向)mmの寸法の直方体の形態をとる第2の試験パーツを製造した(図5参照)。全てのパーツは、300℃で4時間のSLM製造後応力緩和処理を受けた。 いくつかの第1パーツは、350℃、400℃または450℃で製造後熱処理を受け、処理時間は1時間~104時間であった。全ての第1パーツ料(製造後熱処理あり及びなし)を機械加工して、mm単位で以下の特性を有するTOR4型円筒形引張試験片を得た(表1及び図4を参照)。図4及び表1において、φは試験片の中央部の直径を表し、Mは試験片の両端の幅を表し、LTは試験片の全長を表し、Rは試験片の中央部と両端との間の曲率半径を表し、Lcは試験片の中央部の長さを表し、Fは試験片の両端の長さを表す。) (1ケ)「 [図:0001411295000010.jpg] 」 (1コ)「 [図:0001411295000011.jpg] [図:0001411295000012.jpg] 」(第8頁30行~第9頁20行) (英訳:[0079] These cylindrical test specimens underwent tensile testing at ambient temperature as per the standard NF EN ISO 6892-1 (2009-10). [0080] Some of the second test parts underwent a post-manufacturing thermal treatment, as described in relation to the first parts. The second test parts were subjected to electrical conductivity tests, on the basis that the electrical conductivity evolves similarly to thermal conductivity. A linear dependency relationship of the thermal conductivity and the electrical conductivity, according to the Wiedemann-Franz, was validated in the publication by Hatch “Aluminium properties and physical metallurgy” ASM Metals Park, Ohio, 1988. The second test parts underwent surface polishing on each side of 45 mm×46 mm with a view to conductivity measurements using sandpaper of roughness 180. The electrical conductivity measurements were made on the polished sides using a Foerster Sigmatest 2.069 measuring apparatus at 60 kHz. Table 2 hereinafter shows, for each first test part, the thermal treatment temperature (° C.), the thermal treatment duration, the yield strength at 0.2% Rp0.2 (MPa), the tensile strength (Rm), the elongation at rupture A (%), as well as the electrical conductivity (MS.m-1). The tensile properties (yield strength, tensile strength and elongation at rupture) were determined using the first test parts, along the manufacturing direction Z, whereas the electrical properties (thermal conductivity) were determined on the second test parts. In Table 2 hereinafter, the duration of Oh corresponds to a lack of thermal treatment. [図:0001411295000013.jpg] ) (当審訳:これらの円筒形試験片を、標準NF EN ISO 6892-1(2009-10)に従って周囲温度で引張試験にかけた。 第2の試験部品のいくつかは、第1の部品に関連して説明したように、製造後熱処理を受けた。導電率が熱伝導率と同様に展開することに基づいて、第2の試験部品を導電率試験に供した。Wiedemann-Franzによる熱伝導率と導電率との線形依存関係は、Hatch"Aluminium properties and physical metallurgy"ASM Metals Park,Ohio,1988による刊行物において確認された。第2の試験部品は、粗さ180のサンドペーパーを使用して導電率測定のために45 mm×46 mmの各面で表面研磨を受けた。Foerster Sigmatest 2.069測定装置を60 kHzで使用して、研磨された側で導電率測定を行った。以下の表2は、各第1の試験部品について、熱処理温度(℃)、熱処理時間(h)、0.2%Rp0.2における降伏強度(MPa)、引張強度(Rm)、破断伸びA(%)、ならびに電気伝導率σ(MS/m)を示す。引張特性(降伏強度、引張強度および破断点伸び)は、製造方向Zに沿って第1の試験部品を使用して決定され、一方、電気特性(熱伝導率)は、第2の試験部品で決定された。以下の表2において、0 hの持続時間は、熱処理の欠如に対応する。) (2)甲1に記載された発明 甲1の上記(1キ)~(1コ)には、次の実施例が記載されている。 Feを4質量%含有し残部Al及びいずれも0.05質量%未満の不純物及び他の合金元素からなるアルミニウム合金の粉末を原料に用いて、SLM(選択的レーザー溶融法)によって、円筒形状の第1の試験パーツと、直方体形状の第2の試験パーツを製造し、応力緩和のための熱処理(300℃で4時間)を行い、さらに製造後熱処理を行ったものについて、0.2%耐力(Rp0.2)、引張強度(Rm)、破断伸び(A)、及び電気伝導率(σ)の測定を行っている(表2)。 表2において、製造後熱処理を400℃で1時間行った試験パーツの電気伝導率(σ)は、24.84MS/mである。 したがって、表2において、製造後熱処理を400℃で1時間行った試験パーツに注目すると次の発明が記載されている。 「Feを4質量%含有し残部がAl及びいずれも0.05質量%未満の不純物及び他の合金元素からなるアルミニウム合金の粉末を原料とし、SLM(選択的レーザー溶融法)によって製造した後、応力緩和のために300℃で4時間の熱処理を行い、さらに400℃で1時間の製造後熱処理を行った試験パーツであって、 電気伝導率(σ)が24.84MS/mである、 試験パーツ。」(以下、「甲1発明」という。) (3)本件特許発明1と甲1発明との対比 ア 甲1発明の「SLM(選択的レーザ溶融法)」とは、供給された原料の粉末をレーザビームによって選択溶融し凝固して得られた層を順次積層する造形方法のことであるから(上記(1ウ)参照。)、本件特許発明1の「積層造形法」に相当する。 イ 甲1発明の「SLM(選択的レーザ溶融法)によって製造した」「アルミニウム合金の粉末を原料」とする「試験パーツ」は、レーザによる溶融後に凝固した層を順次積層することで形成されたものであるから、本件特許発明1の「積層造形法によって成形してなるアルミニウム積層成形体」及び「アルミニウム成形体」に相当する。 ウ 甲1発明の「Feを4質量%含有し残部がAl及びいずれも0.05質量%未満の不純物及び他の合金元素からなるアルミニウム合金を原料と」することと、本件特許発明1の「Feを0.15~2.5質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム材を原料と」することは、「Feを」「含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム材を原料と」する限りにおいて共通している。 エ 甲1発明において、「電気伝導率(σ)が24.84MS/mであること」は、ウィーデマン・フランツの法則(Wiedemann-Franz law)によって、熱伝導率Kに変換することができる。具体的には、金属の熱伝導率 K と電気伝導率 σ の比は温度 T に対して、 [図:0001411295000014.jpg] が成り立ち、ここで比例定数 L は、ローレンツ数とよばれる定数で、2.44×10-8WΩK-2であるから、甲1の試験パーツの室温(25℃)における熱伝導率Kは次のように求めることができる。 K=σ・L・T=(24.84×106S/m)・(2.44×10-8WΩK-2)・298K =180.6166W/mK したがって、甲1発明の「電気伝導率(σ)が24.84MS/mであること」は、本件特許発明1の「熱伝導率が180W/mK以上であること」に相当する。 オ したがって、本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 積層造形法によって成形してなるアルミニウム積層成形体であり、 Feを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム材を原料とし、 熱伝導率が180W/mK以上である、 アルミニウム成形体。 <相違点1> 「Fe」は、本件特許発明1では「Alと共晶を形成する」と特定されるものであるのに対して、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。 <相違点2> アルミニウム材中の「Fe」の含有量が、本件特許発明1では「0.15~2.5質量%」であるのに対して、甲1発明では「4質量%」である点。 (4)相違点についての検討 ア 相違点1について 甲2の図3・85には、Al-Feの状態図が記載されており、当該状態図からは明瞭には読み取ることができないが、次に示すより詳細なAl-Fe系平衡状態図(特に、右側の部分拡大図を参照のこと。)によれば、Fe=1.8%に共晶点が存在することが見て取れるから、「Fe」は「Alと共晶を形成する」合金元素であるといえる。したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。 [図:0001411295000015.jpg] [図:0001411295000016.jpg] 第1図の部分拡大図(小菅張弓、Al-Fe系合金における金属間化合物、軽金属、第30巻、第4号、1980年、p217~226 より引用) イ 相違点2について 甲1には、Feの含有量を2~8質量%とすることが記載されているから(上記(1カ)参照。)、甲1発明において、Feの含有量について4質量%に代えて2~8質量%の範囲のいずれかとする動機は認められるものの、当該2~8質量%の範囲のうち、特に2~2.5質量%の範囲を選択する動機は認められない。 また、仮に、Feの含有量について「4質量%」に代えて「2~2.5質量%」を選択する動機があるとしても、Feの含有量を「2~2.5質量%」に変更した場合に、熱伝導率は「180.6166W/mk」のまま変化しないか、又は、変化するか不明であるし、仮に変化した場合に「180W/mK以上」という熱伝導率を維持できるか不明である。 そして、本件特許発明1の「アルミニウム成形体」は、「Fe」の含有量を「0.15~2.5質量%」とした原料を積層造形法によって形成することにより、極めて微細なAlFe系化合物が均一に分散しているものであり(図4、5、6参照。)、アルミニウム母材から均質にFeが除去され、AlFe系化合物の形成過程においてアルミニウム母材のひずみが大幅に低減されることによって、高い熱伝導率が実現する(【0041】)とともに、AlFe系化合物の粗大化に起因する強度及び硬度の低下も抑制できる(【0032】)という優れた効果を奏するものであり、このような優れた効果については、甲1~甲8のいずれにも記載も示唆もされておらず、技術常識であるともいえないから、当業者が予測し得る効果であるとはいえない。 したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (5)小括 以上の検討のとおり、本件特許発明1は、甲1発明と相違点2の点で相違するから、甲1に記載された発明であるということはできないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また、本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明3~5についても、同様の理由によって、甲1に記載された発明であるということはできないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 3 取消理由として採用されなかった申立理由3の(1)(明確性)について (1)請求項1の「積層造形法」が具体的に限定されていない点について 請求項1に記載された「積層造形法」については、何ら具体的な限定がされておらず、また、本件明細書の段落【0026】にも、「積層造形法は特に限定されず」と記載されていることから、従来周知の様々な積層造形法が含まれると解される余地があるものの、同段落には、「積層造形法は原料金属を堆積することで所望の形状を有する成形体を得ることができる方法であり」、「原料金属を溶融させるための熱源も本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の熱源を用いることができ、例えば、レーザや電子ビームを好適に用いることができる。」とも記載されており、本件特許発明における「積層造形法」とは、原料として金属を使用するものであって、その原料金属を溶融させる熱源を備えたものを意味することが示されている。実際に、発明の詳細な説明に記載された実施例では「レーザを用いた粉末床溶融結合方式の積層造形法」(【0055】)が使用されている。 また、請求項1の「アルミニウム成形体」は「熱伝導率が180W/mK以上であること」を特徴とするものであることから、原料として使用される合金粉末が積層造形法による熱によって溶融し結合してバルク状の固体となって熱伝導率が高いものになっていることは、当業者には自明の技術事項である。したがって、請求項1の「積層造形法」には、原料の合金粉末同士が溶融結合しておらず熱伝導率も高くならない、例えば「結合剤噴射」型の積層造形法(甲5の表1に記載されている、粉末材料を結合するのに、液体の結合剤を選択的に堆積させる付加製造法)のような方法が含まれないことは明らかである。 よって、本件明細書の記載と、原料として合金を使用する積層造形法の技術分野における技術常識を参照すれば、請求項1に記載された「積層造形法」とは、原料として使用される合金粉末を溶融させる熱源を備えるタイプのものを意味することが明らかであるから、「積層造形法」について具体的な限定がされていないことが、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 (2)請求項1の「積層造形法」について熱処理することが限定されていない点について 本件特許発明1の「アルミニウム成形体」を製造するために、「積層造形法によって成形」することは必須の事項であるが、積層造形法に続いて熱処理を行うことが必須の事項であるとまではいえない。その理由は次のとおりである。 本願の図2、3、5、6には、積層造形法によって形成された、積層造形のままであって熱処理がされていない、実施例2、3のアルミニウム成形体の断面のSEM像が示されており、当該図によれば、アルミニウム成形体には、微細なAlFe系化合物が均一に析出していることが見て取れる(【0065】)。そして、アルミニウム成形体に微細なAlFe系化合物が均一に析出することによって、「アルミニウム母材から均質にFeが除去されて」おり、「加えて、当該AlFe系化合物の形成過程においてアルミニウム母材のひずみが大幅に低減されており、これらの効果によって高い熱伝導率が実現され」ると説明されている(【0018】)。 したがって、本件特許発明1の「アルミニウム成形体」は、「Alと共晶を形成するFeを0.15~2.5質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム材を原料と」して「積層造形法によって成形」することによって製造できるものであり、積層造形法に続いて熱処理を行うことが必須とされているということはできない。 この点について、発明の詳細な説明の記載を確認すると、表2の実施例1の「積層造形まま(当審注:熱処理しないことを意味する)」において熱伝導率は「214W/m・K」であるから「180W/m・K以上」の条件を満たしているし、表3の実施例1は「積層造形まま(熱処理しないという意味)」のものであるが、請求項5に記載された「引張強度:100MPa以上、0.2%耐力:75MPa以上、伸び:5%以上の引張特性を有する」との条件を満たすものである。 また、実施例1のアルミニウム成形体について、積層造形まま(熱処理前)と熱処理後のメルトプール内部におけるAlFe系化合物の観察結果が図8に示されているところ、積層造形ままにおいて形成されている微細なAlFe系化合物は、熱処理後にも維持されることを確認することができる(【0071】)。 以上の検討によれば、積層造形法によって成形されたアルミニウム積層成形体は、熱処理をしなくても、微細なAlFe系化合物が形成されることによって高い熱伝導率が実現されているものであるから、本件特許発明1において、積層造形法に続いて熱処理を行うことが必須の工程であるとはいえない。 なお、本件明細書の段落【0052】に「熱処理温度を325℃以上とすることで、AlFe系化合物を十分に析出させてアルミニウム成形体の熱伝導率を確実に向上させることができる。」と記載されているように、熱処理を施すことは、熱伝導率を向上させることができるとの理由で、本件特許発明の「アルミニウム成形体」を製造するためのより好ましい態様であると認められる。 したがって、本件明細書の記載を参照すれば、本件特許発明1において、積層造形後に行われる熱処理についての特定がされていないことが、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 (3)請求項1の「アルミニウム成形体」の組成に不純物が混入することについて 本件特許発明のアルミニウム成形体を積層造形法によって製造するにあたり、原料となる合金粉末の供給過程において他の元素が混入することは、厳密に言えば全くないとはいえないが、技術常識に照らして、他の元素の混入によってアルミニウム成形体の組成が原料の組成と明らかに異なるものとなるほど組成が大きく変動するような事態は想定することができず、通常は原料とアルミニウム成形体は実質的に同じ組成であるものと考えられる。 つまり、極微量の他の元素が混入して組成が変化することがあるとしても、そのことによって、本件特許発明1のアルミニウム成形体の組成が、第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確であるとはいえない。 4 取消理由として採用されなかった申立理由4(サポート要件)について (1)本件特許発明が解決しようとする課題は、「高い熱伝導率を有すると共に圧延材と比較して高強度を有するアルミニウム成形体及びその製造方法を提供すること」であると認められる(【0011】)。 本件特許発明1は、「Alと共晶を形成するFeを0.15~2.5質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム材を原料とし」、「積層造形法によって成形してなるアルミニウム積層成形体」であるとの特定事項を備えるものであるところ、当該アルミニウム積層成形体は、積層造形法によって多数の急冷凝固領域の接合によって形成されているため、アルミニウム成形体の全体に極めて微細なAlFe系化合物が均一に分散しているものとなっており(【0016】、【0037】)、アルミニウム成形体の全体に極めて微細なAlFe系化合物が均一に分散していることにより、同一組成を有する圧延材と比較して優れた引張特性を有している(【0021】)ものであるから、本件特許発明1において、圧延材と比較して高強度を有するアルミニウム成形体を提供するとの課題は解決されている。 また、本件特許発明1の「アルミニウム成形体」は、「Alと共晶を形成するFeを0.15~2.5質量%含有」するとの特定事項を備えるものであるところ、Feが微細なAlFe系化合物を形成することで、アルミニウム母材から均質にFeが除去されているとともに、当該AlFe系化合物の形成過程においてアルミニウム母材のひずみが大幅に低減される(【0018】)結果、熱伝導率が向上して「180W/mK以上」となっているものであるから、本件特許発明1において、高い熱伝導率を有するアルミニウム成形体を提供するとの課題も解決されている。 したがって、本件特許発明1は、上記課題を解決する手段を備えている発明であり、また、本件特許発明1を引用してさらに限定する本件特許発明3~5についても、同様の理由によって、上記課題を解決しているということができる。 (2)本件特許発明1、3~5がサポート要件を満たすことは、上記(1)で検討したとおりであるが、申立理由4の各主張についても以下検討する。 ア 積層造形法について具体的な方法が特定されていない点(申立理由4(1))について 本件特許発明1では、積層造形法の詳細について具体的な特定はされていないが、上記3(1)において検討したように、本件特許発明1の「積層造形法」とは、粉末床溶融結合法または指向性エネルギー堆積法など、原料として使用される合金粉末を溶融させる熱源としてレーザや電子ビームを用いるタイプのものを意味することが明らかであり、このようなタイプの積層造形法によって、多数の急冷凝固領域の接合が形成され、アルミニウム成形体の全体に極めて微細なAlFe系化合物が均一に分散するものとなっているから、本件特許発明1は、積層造形法について具体的な方法が特定されていなくても、上記(1)で検討した理由によって、サポートされているといえる。 イ 積層造形後に熱処理を行うことは特定されていない点(申立理由4(2))について 本件特許発明1では、積層造形後に熱処理を行うことは特定されていないが、上記3(2)において検討したように、本件特許発明1の「アルミニウム成形体」は、積層造形法を採用することによってアルミニウム成形体の全体に極めて微細なAlFe系化合物が均一に分散しているものとなっており、積層造形後に熱処理を行うことが必須の事項であるとはいえないから、本件特許発明1は、積層造形後の熱処理について特定されていなくても、上記(1)で検討した理由によってサポートされているといえる。なお、この点に関して、本件明細書の【表2】と【表3】の実施例1は、積層造形ままのものであるから積層造形後の熱処理がされていないものであるが、熱伝導率≧180W/m・K、引張強さ≧100MPa、0.2%耐力≧75、伸び≧5%の全ての条件を満たすことが確認されている。 ウ 平均粒径が定義されていない点(申立理由4(3))について 申立理由4(3)の対象となる請求項2は削除されたので、請求項2の記載についての、特許法第36条第6項第1号に適合しないとする理由は存在しないものとなった。 エ 「熱伝導率が180W/mK以上」、「引張強度:100MPa以上、0.2%耐力:75MPa以上、伸び:5%以上の引張特性を有する」との全ての条件を満たす実施例は存在しない点(申立理由4(4))について 本件明細書の【表2】と【表3】の実施例1は、積層造形ままのものであって熱処理がされていないものであるが、熱処理を行うことが本件特許発明に必須の事項であるといえないのは上記イに記載したとおりであり、上記実施例1は、熱伝導率≧180W/m・K、引張強さ≧100MPa、0.2%耐力≧75、伸び≧5%の全ての条件を満たす実施例である。 第7 まとめ 以上のとおり、令和 5年 8月31日付け取消理由通知書に記載した取消理由と、申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1、3~5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1、3~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件訂正前の請求項2が本件訂正によって削除されたため、同請求項に対する異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700540

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