特許異議申立
2023-700538
積層体
- 審判番号
- 2023-700538
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-067510
- 登録番号
- 7181143
- 請求日
- 2023年05月24日
- 審決日
- 2023年12月12日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【異議申立人】東レ 株式会社
- 【異議申立人代理人】伴 俊光
- 【異議申立人代理人】細田 浩一
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 西本 浩司
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7181143号発明「積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7181143号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7181143号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成31年3月29日の出願であって、令和4年11月21日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月30日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 5月24日 :特許異議申立人 東レ株式会社(以下「申立人」という。)による請求項1~10に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 8月30日付け:取消理由通知
同年10月20日 :特許権者による意見書の提出
第2 本件発明
本件の請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」等といい、また「本件発明」ということもある。)は、特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
架橋ポリオレフィン発泡体と、該架橋ポリオレフィン発泡体の一方の表面に設けられる表皮層とを備える積層体であって、前記積層体の-30℃での剥離強度が18N/25mm以上であり、前記架橋ポリオレフィン発泡体の160℃の伸びが200%以上であり、前記架橋ポリオレフィン発泡体の25%圧縮硬さが120kPa以下である、積層体。
【請求項2】
前記発泡体の見掛け密度が0.067g/cm3以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記発泡体の最大気泡径は670μm以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記発泡体の架橋度が30~50質量%である、請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記発泡体の厚みが1~5mmである、請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記発泡体の-30℃での伸びが5%以上である、請求項1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記発泡体の加熱収縮率が0~15%である、請求項1~6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
前記表皮層が、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及びオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有する、請求項1~7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
前記発泡体の他方の表面にポリオレフィン樹脂層が設けられている、請求項1~8のいずれかに記載の積層体。
【請求項10】
自動車内装材用である、請求項1~9のいずれかに記載の積層体。」
第3 取消理由の概要
取消理由通知で通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
1.(新規性)請求項1~7及び10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、本件発明1~6及び10は、甲第2号証に記載された発明であるから、本件発明1~7及び10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2.(進歩性)請求項1~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第3及び5~7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~6及び8~10に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3及び5~7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(引用文献等)
甲第1号証:国際公開第2018/025343号
甲第2号証:特開2014-172307号公報
甲第3号証:東レ株式会社従業員により作成された2023年5月10日付け実験成績証明書
甲第4号証:株式会社プライムポリマー包材事業部により作成された2023年5月10日付けの「貴社特許出願記載内容に関する貴社からの問い合わせについて」と題する文書
甲第5号証:特開2004-351694号公報
甲第6号証:特開2003-231783号公報
甲第7号証:特開平11-152380号公報
(以下、順に「甲1」~「甲7」という。)
第4 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、特許請求の範囲の[請求項1]、[請求項4]、[0001]、[0004]、[0006]、[0015]、[0016]、[0021]~[0042]の実施例及び比較例、[0043]の[表1]、[0045]の[表3]及び[0046]の[表4]の記載があり、特に、実施例1、2、13及び18に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。
「ポリプロピレン系樹脂(a1)、ポリエチレン系樹脂(a2)、熱可塑性エラストマー系樹脂(a3)、発泡剤、架橋助剤および酸化防止剤をそれぞれの比率でヘンシェルミキサーを用いて混合し、二軸押出機を用いて170℃の温度で溶融押出し、Tダイを用いて所定の厚さのポリオレフィン系樹脂シートを作製し、このようにして得られたポリオレフィン系樹脂シートに、加速電圧800kV、所定の吸収線量の電子線を片面から照射して架橋シートを得た後、この架橋シートを220℃の温度の塩浴上に浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を60℃の温度の水で冷却し、発泡体表面を水洗して乾燥させ、厚さが1.5~3.0mm、みかけ密度が50~100kg/m3、ゲル分率が35~45%のポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の長尺ロールを得、表皮材(B)は、示差走査熱量計で95℃と138℃に吸熱ピークを有する熱可塑性ポリオレフィン系エラストマーを使用し、押出機にて溶融混練させ、T型口金から厚さ0.5mmのシートを得、上記ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)は、発泡時にラジエーションヒータ側で加熱した面を146℃に加熱して、ロール間隙を、表皮材(B)の厚さとポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の厚さの和よりも-1.0mmでニップしながら、この加熱面側と表皮材(B)とを熱融着し、ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の25%圧縮固さが60kPaであり、見かけ密度が66kg/m3であり、前記発泡体のゲル分率が38%であり、前記発泡体の厚みが2.5mmであって、自動車内装材である積層体。」(以下「甲1発明A」という。)
「ポリプロピレン系樹脂(a1)、ポリエチレン系樹脂(a2)、熱可塑性エラストマー系樹脂(a3)、発泡剤、架橋助剤および酸化防止剤をそれぞれの比率でヘンシェルミキサーを用いて混合し、二軸押出機を用いて170℃の温度で溶融押出し、Tダイを用いて所定の厚さのポリオレフィン系樹脂シートを作製し、このようにして得られたポリオレフィン系樹脂シートに、加速電圧800kV、所定の吸収線量の電子線を片面から照射して架橋シートを得た後、この架橋シートを220℃の温度の塩浴上に浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を60℃の温度の水で冷却し、発泡体表面を水洗して乾燥させ、厚さが1.5~3.0mm、みかけ密度が50~100kg/m3、ゲル分率が35~45%のポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の長尺ロールを得、表皮材(B)は、示差走査熱量計で95℃と138℃に吸熱ピークを有する熱可塑性ポリオレフィン系エラストマーを使用し、押出機にて溶融混練させ、T型口金から厚さ0.5mmのシートを得、上記ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)は、発泡時にラジエーションヒータ側で加熱した面を146℃に加熱して、ロール間隙を、表皮材(B)の厚さとポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の厚さの和よりも-1.0mmでニップしながら、この加熱面側と表皮材(B)とを熱融着し、ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の25%圧縮固さが55kPaであり、見かけ密度が66kg/m3であり、前記発泡体のゲル分率が36%であり、前記発泡体の厚みが2.5mmであって、自動車内装材である、積層体。」(以下「甲1発明B」という。)
「ポリプロピレン系樹脂(a1)、ポリエチレン系樹脂(a2)、熱可塑性エラストマー系樹脂(a3)、発泡剤、架橋助剤および酸化防止剤をそれぞれの比率でヘンシェルミキサーを用いて混合し、二軸押出機を用いて170℃の温度で溶融押出し、Tダイを用いて所定の厚さのポリオレフィン系樹脂シートを作製し、このようにして得られたポリオレフィン系樹脂シートに、加速電圧800kV、所定の吸収線量の電子線を片面から照射して架橋シートを得た後、この架橋シートを220℃の温度の塩浴上に浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を60℃の温度の水で冷却し、発泡体表面を水洗して乾燥させ、厚さが1.5~3.0mm、みかけ密度が50~100kg/m3、ゲル分率が35~45%のポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の長尺ロールを得、表皮材(B)は、示差走査熱量計で95℃と138℃に吸熱ピークを有する熱可塑性ポリオレフィン系エラストマーを使用し、押出機にて溶融混練させ、T型口金から厚さ0.5mmのシートを得、上記ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)は、発泡時にラジエーションヒータ側で加熱した面を146℃に加熱して、ロール間隙を、表皮材(B)の厚さとポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の厚さの和よりも-1.0mmでニップしながら、この加熱面側と表皮材(B)とを熱融着し、ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の25%圧縮固さが70kPaであり、見かけ密度が66kg/m3であり、前記発泡体のゲル分率が41%であり、前記発泡体の厚みが2.0mmであって、自動車内装材である、積層体。」(以下「甲1発明C」という。)
「ポリプロピレン系樹脂(a1)、ポリエチレン系樹脂(a2)、熱可塑性エラストマー系樹脂(a3)、発泡剤、架橋助剤および酸化防止剤をそれぞれの比率でヘンシェルミキサーを用いて混合し、二軸押出機を用いて170℃の温度で溶融押出し、Tダイを用いて所定の厚さのポリオレフィン系樹脂シートを作製し、このようにして得られたポリオレフィン系樹脂シートに、加速電圧800kV、所定の吸収線量の電子線を片面から照射して架橋シートを得た後、この架橋シートを220℃の温度の塩浴上に浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を60℃の温度の水で冷却し、発泡体表面を水洗して乾燥させ、厚さが1.5~3.0mm、みかけ密度が50~100kg/m3、ゲル分率が35~45%のポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の長尺ロールを得、表皮材(B)は、示差走査熱量計で95℃と138℃に吸熱ピークを有する熱可塑性ポリオレフィン系エラストマーを使用し、押出機にて溶融混練させ、T型口金から厚さ0.5mmのシートを得、上記ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)は、発泡時にラジエーションヒータ側で加熱した面を146℃に加熱して、ロール間隙を、表皮材(B)の厚さとポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の厚さの和よりも-1.0mmでニップしながら、この加熱面側と表皮材(B)とを熱融着し、ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)の25%圧縮固さが22kPaであり、見かけ密度が30kg/m3であり、前記発泡体のゲル分率が22%であり、前記発泡体の厚みが4.0mmであって、自動車内装材である、積層体。」(以下「甲1発明D」という。)
(2)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
甲2には、特許請求の範囲の【請求項1】、【請求項2】、【請求項6】、【請求項8】、【請求項9】、【0001】、【0013】~【0014】、【0017】、【0020】、【0023】、【0029】、【0032】、【0035】、【0038】~【0040】、【0046】、【0051】、【0055】~【0060】、【0071】、【0073】、【0080】、【0089】の【表1】、【0090】の【表2】及び【0092】の記載があり、実施例3及び8に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。
「表皮材(A)は、示差走査熱量計で103℃と134℃に吸熱ピークを有するブロック共重合体エラストマー(a)(ポリオレフィン系ソフトセグメント:パーオキサイドにより部分架橋したエチレン-プロピレンランダム共重合体。ポリオレフィン系ハードセグメント:エチレン重合体。)からなる厚さ0.5mmのシートを使用し、樹脂発泡体(B)は、ポリプロピレン系樹脂としてエチレン-プロピレンランダム共重合体60質量部、ポリエチレン系樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン40質量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミド7質量部、架橋補助剤であるジビニルベンゼン4質量部を混合したシートを作り、電子線による照射を経て、亜硝酸ナトリウム塩浴とラジエーションヒータで加熱した環境の中、亜硝酸ナトリウム塩浴上に浮かして発泡させることで得られる厚さ2.5mmのシート状発泡体を使用し、この樹脂発泡体(B)は、示差走査熱量計で119℃と147℃に吸熱ピークを有し、樹脂発泡体(B)は、発泡時にラジエーションヒータ側で加熱した面を146℃に加熱して、ロール間隙を、表皮材(A)の厚さと樹脂発泡体(B)の厚さの和よりも-1.0mmでニップしながら、この加熱面側と表皮材(A)とを熱融着し、前記発泡体のゲル分率が39%であり、前記発泡体の厚みが2.5mmであり、自動車内装材用である、積層体。」(以下「甲2発明A」という。)
「表皮材(A)は、示差走査熱量計で103℃と134℃に吸熱ピークを有するブロック共重合体エラストマー(a)(ポリオレフィン系ソフトセグメント:パーオキサイドにより部分架橋したエチレン-プロピレンランダム共重合体。ポリオレフィン系ハードセグメント:エチレン重合体。)からなる厚さ0.5mmのシートを使用し、樹脂発泡体(B)は、ポリプロピレン系樹脂としてエチレン-プロピレンランダム共重合体80質量部、ポリエチレン系樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン20質量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミド10質量部、架橋補助剤であるジビニルベンゼン4質量部を混合したシートを作り、電子線による照射を経て、亜硝酸ナトリウム塩浴とラジエーションヒータで加熱した環境の中、亜硝酸ナトリウム塩浴上に浮かして発泡させることで得られる厚さ2.5mmのシート状発泡体を使用し、この樹脂発泡体(B)は、示差走査熱量計で119℃と147℃に吸熱ピークを有し、樹脂発泡体(B)は、発泡時にラジエーションヒータ側で加熱した面を146℃に加熱して、ロール間隙を、表皮材(A)の厚さと樹脂発泡体(B)の厚さの和よりも-1.0mmでニップしながら、この加熱面側と表皮材(A)とを熱融着し、前記発泡体のゲル分率が40%であり、前記発泡体の厚みが2.5mmであり、自動車内装材用である、積層体。」(以下「甲2発明B」という。)
(3)甲3に記載された事項
甲3には、以下の実験結果が示されている。
「
[図:0001405829000001.jpg]
」
「
[図:0001405829000002.jpg]
」
「
[図:0001405829000003.jpg]
[図:0001405829000004.jpg]
」
「
[図:0001405829000005.jpg]
」
「
[図:0001405829000006.jpg]
」
「
[図:0001405829000007.jpg]
」
「
[図:0001405829000008.jpg]
」
(4)甲5~7に記載された事項
甲5の、【請求項1】、【0001】及び【0012】の記載から、以下の事項が記載されているといえる。
「内装材に用いる表皮材の表皮層が、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有していること。」(以下「甲5記載事項」という。)
甲6の、【請求項1】、【0006】、【0010】、【0025】及び【0027】の記載があることから、以下の事項が記載されているといえる。
「装飾シートが、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有していること。」(以下「甲6記載事項」という。)
甲7の、【請求項2】、【0001】及び【0059】の記載があることから、以下の事項が記載されているといえる。
「内装部品の表皮材の表皮層が、プロピレン系樹脂(C)、エチレン系樹脂(B)、及びオレフィン系熱可塑性エラストマー(A)を含有していること。」(以下「甲7記載事項」という。)
(5)甲1発明A~Dを主引例とする新規性、進歩性について
(5-1)本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と、甲1発明A~Dを合わせて対比する。
甲1発明A~Dの「ポリプロピレン系樹脂(a1)、ポリエチレン系樹脂(a2)、熱可塑性エラストマー系樹脂(a3)、発泡剤、架橋助剤および酸化防止剤をそれぞれの比率でヘンシェルミキサーを用いて混合し、二軸押出機を用いて170℃の温度で溶融押出し、Tダイを用いて所定の厚さのポリオレフィン系樹脂シートを作製し、このようにして得られたポリオレフィン系樹脂シートに、加速電圧800kV、所定の吸収線量の電子線を片面から照射して架橋シートを得た後、この架橋シートを220℃の温度の塩浴上に浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を60℃の温度の水で冷却し、発泡体表面を水洗して乾燥させ、厚さが1.5~3.0mm、みかけ密度が50~100kg/m3、ゲル分率が35~45%のポリオレフィン系樹脂発泡体(A)」及び「表皮材(B)」は、本件発明1の「架橋ポリオレフィン発泡体」及び「表皮層」に相当する。
そして、「架橋ポリオレフィン発泡体の25%圧縮硬さ」について、甲1発明A~Dは、それぞれ「60kPa」、「55kPa」、「70kPa」及び「22kPa」であることから、本件発明1の「120kPa以下」を満たしている。
そうすると、本件発明1と甲1発明A~Dとは、
「架橋ポリオレフィン発泡体と、該架橋ポリオレフィン発泡体の一方の表面に設けられる表皮層とを備える積層体であって、前記架橋ポリオレフィン発泡体の25%圧縮硬さが120kPa以下である、積層体。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「積層体の-30℃での剥離強度が18N/25mm以上であり、架橋ポリオレフィン発泡体の160℃の伸びが200%以上であ」るのに対して、甲1発明A~Dは、積層体の-30℃での剥離強度、架橋ポリオレフィン発泡体の160℃の伸びが不明である点。
(イ)検討
相違点1について検討する。
甲3には、「5.1 実験方法の記載・・・」として、甲1の実施例1、2、13及び18に記載された積層体を測定した実験結果が記載されているが(甲3の「5.1.実験方法」)、下記の理由により、甲1発明A~Dと同じ発泡体1~4、表皮材及び積層体1~4を作成したものとはいえない。
以下、甲3における、甲1の実施例1、2、13及び18の再現について検討する。
特許権者は、令和5年10月20日に提出した意見書に添付して下記の証拠を提出している。
乙第1号証:特開2021-54930号公報
乙第2号証:国際公開第2018/168720号
乙第3号証:特開2018-123284号公報
乙第4号証:特開2021-187098号公報
乙第5号証:特開2015-189885号公報
乙第6号証:特開2019-44112号公報
(以下、順に「乙1」~「乙6」という。)
甲1の実施例1、2、18で使用している「PP1」について、甲1には、[0039]に以下の記載がある。
「PP1:プライムポリマ製“プライムポリプロ“(登録商標)J452HAP 密度:900kg/m3、MFR(230℃)=3.5g/10min、融点=163℃」(以下「PP1原料」という。なお、下線は参考のため当審で付与した。以下同じ。)
ここで、取消理由通知では、甲1の[0039]における「PP1:プライムポリマ製“プライムポリプロ“(登録商標)J452HAP」なる記載は、甲4を参酌すると、「PP1:プライムポリマ製“プライムポリプロ“(登録商標)J452HP」の誤記としたところ、「J452HP」に関して、乙1~乙3には、用いたポリプロピレン樹脂の種類として「J452HP」として、それぞれ以下の記載がある。
乙1
「【0044】
【表1】
[図:0001405829000009.jpg]
」
「【0045】
表1中、
・・・
J452HPは、ポリプロピレン((株)プライムポリマー製、商品名「プライムポリプロ J452HP);」(「・・・」は文章の省略を表す。)
から、乙1には以下の記載がある。
「J452HPの特性として、MFR(230℃)=4.1g/10分」(以下「乙1記載事項」という。)
乙2
[0084]から、乙2には以下の記載がある。
「・ポリオレフィン樹脂:ポリプロピレン樹脂、ブロックポリマー、株式会社プライムポリマー製、品名「J452HP」、融点165℃」(以下「乙2記載事項」という。)
乙3
[0086]から、乙3には以下の記載がある。
「・ポリオレフィン樹脂:ポリプロピレン樹脂、ブロックポリマー、株式会社プライムポリマー製、品名「J452HP」、融点165℃」(以下「乙3記載事項」という。)
乙4
【0088】から、以下の記載がある。
「PP1:プロピレン単独重合体(製品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー株式会社製、密度900kg/m3、MFR3.5g/10分、融点160℃)」(以下「乙4記載事項」という。)
ここで、甲1のPP1原料と各乙号証における「J-452HP」の特性について検討する。
まず、「MFR(230℃)」について、甲1のPP1原料は、3.5g/10minであり、乙1記載事項のものは、4.1g/10分であり、両者は相違し、また、「融点」についても甲1のPP1原料は、163℃であり、乙2~3記載事項の165℃と相違していることが分かる。
これらの事実を踏まえれば、甲1の[0039]に記載された「PP1:プライムポリマ製“プライムポリプロ“(登録商標)J452HAP」が、「PP1:プライムポリマ製“プライムポリプロ“(登録商標)J452HP」であるとすると、商標及び製品記号が同じであったとしても、製造ロットが異なれば、MFRや融点が異なるものがあるといえる。
そうしてみると、甲1の実施例1、2及び18で使用されていたPP1原料と同一のものを特定することは困難といえ、甲3におけるPP1原料を用いた再現実験は、甲1の実施例1、2及び18を確実に再現できているとはいえない。
なお、仮に「J452HP」自体が他の型番の誤記であるとした場合には、甲1の実施例1、2及び18は、再現できるものではない。
また、甲1の実施例13で使用している「PP2」について、甲1には、[0039]に以下の記載がある。
「PP2:日本ポリプロ製“ノバテック”(登録商法)PP EG8B 密度:900kg/m3、MFR(230℃)=0.8g/10min、融点=140℃」(以下「PP2原料」という。)
他方、乙5~6には、以下の記載がある。
乙5
【0112】の記載から、乙5には以下の記載がある。
「ポリプロピレン:日本ポリプロ社製「ノバテックPP EG8B」(MFR(230℃,21.2N):0.8g/10min、密度:0.90g/cm3、融点:144℃)」(以下「乙5記載事項」という。)
乙6
【0127】の記載から、乙6には以下の記載がある。
「(E-2):ポリプロピレン系樹脂(日本ポリプロ株式会社製 エチレン・プロピレン共重合体 商品名:ノバテック(登録商標)PP EG8B)
融点:143℃
MFR(230℃、荷重21.2N):0.8g/10分
密度(JIS K7112:1999):0.90g/cm3」(以下「乙6記載事項」という。)
ここで、甲1のPP2原料と各乙号証における「PP EG8B」の特性について検討するに、「融点」についてみると、甲1のPP2原料と乙5~6記載事項のものとは相違していることが分かる。
これらの事実を踏まえれば、商標及び製品記号が同じであったとしても、製造ロットが異なれば、同一の原料、特性を有しているとはいえず、甲1の実施例13で使用されたPP2原料と同じものを用いた再現実験を行うことは困難といえ、甲3におけるPP2原料を用いた追試実験は、甲1の実施例13を確実に再現できているとはいえない。
以上のとおりであるから、甲3には、その実験結果により得られた、甲1の実施例1、2、13及び18の「積層体の-30℃での剥離強度」はそれぞれ「80N/25mm」、「98N/25mm」、「32N/25mm」及び「30N/25mm」であり、「18N/25mm以上」であること、また、「架橋ポリオレフィン発泡体の160℃の伸び」は、それぞれ「205%」、「210%」、「240%」及び「210%」であり「200%以上」であることが記載されているとはいえない(甲3の「6.本件特許(特許7181143号)との比較」の表4)。
そうすると、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1発明A~Dではない。
また、甲5~7記載事項には、相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていないことから、本件発明1は、甲1発明A~D並びに甲3及び5~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5-2)本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(5-1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~7及び10は、甲1発明A~Dではなく、また、本件発明2~10は、甲1発明A~D並びに甲3及び5~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)甲2発明A及びBを主引例とする新規性、進歩性について
(6-1)本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と、甲2発明A及びBを合わせて対比する。
甲2発明A及びBの「ポリプロピレン系樹脂としてエチレン-プロピレンランダム共重合体60質量部、ポリエチレン系樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン40質量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミド7質量部、架橋補助剤であるジビニルベンゼン4質量部を混合したシートを作り、電子線による照射を経て、亜硝酸ナトリウム塩浴とラジエーションヒータで加熱した環境の中、亜硝酸ナトリウム塩浴上に浮かして発泡させることで得られる厚さ2.5mmのシート状発泡体を使用し、示差走査熱量計で119℃と147℃に吸熱ピークを有する樹脂発泡体(B)」及び「示差走査熱量計で103℃と134℃に吸熱ピークを有するブロック共重合体エラストマー(a)(ポリオレフィン系ソフトセグメント:パーオキサイドにより部分架橋したエチレン-プロピレンランダム共重合体。ポリオレフィン系ハードセグメント:エチレン重合体。)からなる厚さ0.5mmのシートを使用した表皮材(A)」は、本件発明1の「架橋ポリオレフィン発泡体」及び「表皮層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明A及びBとは、
「架橋ポリオレフィン発泡体と、該架橋ポリオレフィン発泡体の一方の表面に設けられる表皮層とを備える積層体。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1は、「積層体の-30℃での剥離強度が18N/25mm以上であり、架橋ポリオレフィン発泡体の160℃の伸びが200%以上であり、架橋ポリオレフィン発泡体の25%圧縮硬さが120kPa以下であ」るのに対して、甲2発明A及びBは、積層体の-30℃での剥離強度、架橋ポリオレフィン発泡体の160℃の伸び及び架橋ポリオレフィン発泡体の25%圧縮硬さが不明である点。
(イ)検討
相違点2について検討する。
甲3には、甲2の実施例3及び8に記載された積層体を測定した実験結果が記載されているが(甲3の「5.1.実験方法」)、下記の理由により、甲2発明A及びBと同じ発泡体5及び6、表皮材、積層体5及び6を作成されたものではない。
甲3では、甲2の実施例3及び8の再現実験において、「サンアロマー製、PB222A」及び「日本ポリエチレン製、ノバティックLL、UJ960」なる製品名の原料を使用している(甲3の「5.2.1 発泡体5、積層体5の製造方法」、「5.2.2 発泡体6、積層体6の製造方法」参照)。
他方、甲2には以下の記載がある。
「【実施例】
【0071】
実施例1
表に示すような組成と特性の積層体を作成した。詳細な内容を示す。表皮材(A)は、示差走査熱量計で103℃と134℃に吸熱ピークを有するブロック共重合体エラストマー(a)(ポリオレフィン系ソフトセグメント:パーオキサイドにより部分架橋したエチレン-プロピレンランダム共重合体。ポリオレフィン系ハードセグメント:エチレン重合体。)からなる厚さ0.5mmのシートを使用した。樹脂発泡体(B)は、ポリプロピレン系樹脂としてエチレン-プロピレンランダム共重合体80質量部、ポリエチレン系樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン20質量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミド7質量部、架橋補助剤であるジビニルベンゼン4質量部を混合したシートを作り、電子線による照射を経て、亜硝酸ナトリウム塩浴とラジエーションヒータで加熱した環境の中、亜硝酸ナトリウム塩浴上に浮かして発泡させることで得られる厚さ2.5mmのシート状発泡体を使用した。この樹脂発泡体(B)は、示差走査熱量計で119℃と147℃に吸熱ピークを有する。」
「【0073】
実施例3
表に示すように、樹脂発泡体(B)のポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂の組成を変更した点を除いては実施例1と同様にして、積層体を得た。」
「【0080】
実施例8
表に示すように、発泡剤であるアゾジカルボンアミドの添加量を10質量%に増量したことで樹脂発泡体(B)の発泡倍率20倍となるように差をつけた点を除いては実施例1と同様にして、積層体を得た。」
これらの記載から、甲2の実施例3及び8では、甲3の再現実験で使用した上記製品を用いたという事実はない。
そうすると、甲3における再現実験は、甲2の実施例3及び8を再現したものであるとはいえず、甲3には上記実験結果により得られた、甲2の実施例3及び8の「積層体の-30℃での剥離強度」はそれぞれ「50N/25mm」、「40N/25mm」であり、「18N/25mm以上」であること、また、「架橋ポリオレフィン発泡体の160℃の伸び」は、それぞれ「400%」、「300%」であり「200%以上」であること、また、「架橋ポリオレフィン発泡体の25%圧縮硬さ」は、それぞれ「115kPa」、「100kPa」であり、「120kPa以下」であることが記載されているとはいえない(甲3の「6.本件特許(特許7181143号)との比較」の表4)。
以上のとおり、相違点2は実質的な相違点であり、本件発明1は甲2発明A及びBではない。
また、甲5~7記載事項にも、相違点2に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていないことから、本件発明1は、甲2発明A及びB並びに甲3及び5~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6-2)本件発明2~6及び8~10について
本件発明2~6及び8~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(6-1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~6及び10は、甲2発明A及びBではなく、また、本件発明2~6及び8~10は、甲2発明A及びB並びに甲3及び5~7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~7及び10は、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明1~6及び10は、甲2に記載された発明ではないから、請求項1~7及び10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明1~10は、甲1に記載された発明並びに甲3及び5~7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、本件発明1~6及び8~10は、甲2に記載された発明並びに甲3及び5~7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、決定する。
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2023-700538