特許異議申立
2022-701198
ポリオレフィン系樹脂発泡シート、及び粘着テープ
- 審判番号
- 2022-701198
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-070318
- 登録番号
- 7084188
- 請求日
- 2022年12月02日
- 審決日
- 2024年03月29日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【異議申立人】東レ 株式会社
- 【異議申立人代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 淺野 美奈
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7084188号発明「ポリオレフィン系樹脂発泡シート、及び粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7084188号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7084188号の請求項1、5~8に係る特許を維持する。
特許第7084188号の請求項2~4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7084188号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、2018(平成30)年3月30日(優先権主張 平成29年9月29日)を出願日とする特願2018-70318号に係るものであって、令和4年6月6日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和4年12月2日に特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和5年3月17日付けで取消理由が通知されたところ、同年5月19日に特許権者 積水化学工業株式会社より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書の提出がされ、同年6月8日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、申立人の応答がなかったものである。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求における請求の趣旨は、「特許第7084188号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「発泡倍率が2.8~10cm3/gである、ポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
と記載されているのを、
「発泡倍率が2.8~10cm3/gであり、前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂を含有し、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%である、ポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項5~8も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2~4を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1~4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
と記載されているのを、
「請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1~5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート」
と記載されているのを、
「請求項1又は5に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート」
に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に
「請求項1~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シートと、」
と記載されているのを、
「請求項1、5~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シートと、」
に訂正する。
カ 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし8について、請求項2ないし8は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、請求項1ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シートに使用されるポリオレフィン樹脂に関し、さらに、「前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂を含有し、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%である」との構成要件を付加することによって限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3及び4の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項5~8についても同様である。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は請求項2、3及び4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項2、3及び4の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
ウ 訂正事項3~5について
訂正事項3~5に係る請求項5、6及び8の訂正はいずれも、訂正事項2によって請求項2、3及び4が削除されたことに伴い、引用元の請求項のうち請求項2、3及び4を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3~5に係る請求項5、6及び8の訂正はいずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について本件訂正請求のとおり訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明8」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和5年5月19日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリオレフィン樹脂を含む発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、JIS Z0208-1976に準拠し、40℃で測定した透湿度が20g/m2・24h以下であり、厚さが0.05~1.5mmであり、架橋度が20~60質量%であり、発泡倍率が2.8~10cm3/gであり、前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂を含有し、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%である、ポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記透湿度が5g/m2・24h以下である、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項6】
前記発泡シートが電子機器内部のシール材である、請求項1又は5に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート
【請求項7】
前記電子機器が有機ELディスプレイである、請求項6に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項8】
請求項1、5~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シートと、前記ポリオレフィン系樹脂発泡シートの少なくともいずれか一方の面に設けた粘着剤層とを備える粘着テープ。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、請求項1~8に係る特許に対して申立てた特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許発明1、2及び6~8は、下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第2号証に基づく新規性)
本件特許発明1、2及び5~8は、下記の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由1-3(甲第3号証に基づく新規性)
本件特許発明1、2、6及び7は、下記の甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由2-1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1~3及び5~8は、下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 申立理由2-2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1、2及び5~8は、下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
6 申立理由2-3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許発明1~3、6及び7は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
7 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
8 証拠方法
甲第1号証:特開2011-126983号公報
甲第2号証:特開2012-224695号公報
甲第3号証:特開2009-221237号公報
甲第4号証:実験成績証明書
以後、甲第1号証ないし甲第4号証を、「甲1」ないし「甲4」という。
第5 取消理由の概要
令和5年3月17日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりであり、それぞれ申立理由1-1~2-3と同旨である。
1 取消理由1-1
本件特許の請求項1、2及び6~8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由1-2
本件特許の請求項1、2及び5~8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 取消理由1-3
本件特許の請求項1、2及び6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 取消理由2-1
本件特許の請求項1~3及び5~8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 取消理由2-2
本件特許の請求項1、2及び5~8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基づいて本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
6 取消理由2-3
本件特許の請求項1~3、6及び7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基づいて本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 取消理由についての当審の判断
以下に示すように、上記取消理由には理由がないと判断する。
1 取消理由1-1及び取消理由2-1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1) 甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂と有機イオン導電剤とを含むポリオレフィン系樹脂発泡体であって、
前記ポリオレフィン系樹脂発泡体の合計100質量%において、有機イオン導電剤を0.1~10質量%を含有し、表面固有抵抗値が1×1014Ω以下であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体。」
「【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂発泡体は、一般的に柔軟性、軽量性、断熱性に優れ、断熱材、緩衝材、シール材として、自動車内装材、食器、粘着テープ、カーペット等の建材、梱包用緩衝材などに用いられている。特に、電子機器の部品や緩衝材に使用される場合、ポリオレフィン系樹脂発泡体が絶縁体であるため、これらが擦りあわされたときに発生する静電気により、電子機器内部の半導体素子を破壊したり誤動作を引き起こしたりして、機器に大きなダメージを与える可能性があった。また、静電気が帯電すると、周囲の埃なども吸い寄せてしまう可能性があり、取り扱いの悪い製品として問題点が挙げられていた。これらの問題の対策として、ポリオレフィン系樹脂発泡体に導電性を持つカーボン粒子などを練りこむ方法や、ポリオレフィン系樹脂発泡体に高分子型帯電防止剤を練りこむ方法が知られている。」
「【発明の効果】
【0015】
本発明により、加熱成形性、表面外観が良好で、表面固有抵抗値が小さく、安定した帯電防止性を有しているポリオレフィン系樹脂発泡体を得ることができる。さらに本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体は、その機能を、自然色、半透明、黒色、カラー等の外観を有する樹脂発泡体にも適応することができる。本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体を用いることにより、金属塩類を好まない電子・電気部品や透明製品の搬送ケース、自動車用電装部品、電子玩具等の梱包用緩衝材、シール材などに好適に使用できる。」
「【0017】
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体は、ポリオレフィン系樹脂を含有することが重要である。本発明に用いるポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などの単独重合体、これらの重合体と他の共重合可能なモノマーとの共重合体が挙げられる。他の共重合可能なモノマーとの共重合体としては、エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテンとのあらゆる比率でのランダム共重合体またはブロック共重合体、エチレンとプロピレンとのあらゆる比率においてジエン成分が50質量%以下であるエチレン-プロピレン-ジエン3元共重合体、ポリメチルペンテン、シクロペンタジエンとの共重合体などの環状ポリオレフィン系重合体、エチレンまたはプロピレンと50質量%以下の例えば酢酸ビニル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸エステル、芳香族アルキルエステル、芳香族ビニルなどのビニル化合物などとのランダム共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体などが例示される。本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体で使用されるこれらのポリオレフィン系樹脂は、単独重合体や自動車用電装部品、電子玩具等共重合体に関係なく、1種または2種以上を混合して用いることができる。」
「【0042】
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体の密度は、特に制限されるものではない。発泡体は、柔軟性、軽量性、断熱性を要求されることが多いため、好ましくは、密度が500kg/m3以下であり、さらに好ましくは200kg/m3以下である。また軽量性といった観点からは密度は小さい程好ましいが、密度の現実的な下限は10kg/m3程度である。なお、密度を500kg/m3以下にするためには、発泡剤を使用する方法が挙げられる。」
「【0057】
・・・
実施例1
表1に示した組成のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(東ソー製 ウルトラセン630)、有機イオン導電剤B-1(1-ブチル-3-メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート)、アゾジカルボンアミド(永和化成製パンスレン)を添加して、150℃にて溶融混練し、シート状態に押出成型した。
【0058】
この発泡性シートに53kGyの電子線を照射して樹脂成分を架橋させ、220℃の横型薬液浴上にて発泡した。得られたポリオレフィン系樹脂発泡体は、厚み1.0mmであり、ゲル分率35%の独立気泡シートであった。
・・・
実施例3
低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製 LE602)を使用して、原料樹脂組成を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に行った。得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体は、厚み1.1mmであり、ゲル分率40%の独立気泡シートであった。
・・・
実施例8
エチレン-プロピレン共重合体(東ソー製 ノバテックPP)を使用して、原料樹脂組成を表1のように変更した以外は、実施例3と同様に行った。得られたポリオレフィン系樹脂発泡体は、厚み1.1mmであり、ゲル分率28%の独立気泡シート
であった。」
「【表1】
[図:0001411258000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記の記載、特に実施例3及び実施例8の記載を中心に整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1実施例3発明」及び「甲1実施例8発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1実施例3発明>
「低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製 LE602)98質量部、有機イオン導電剤B-1(1-ブチル-3-メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート)2質量部、アゾジカルボンアミド(永和化成製 パンスレン)4.4質量部を添加して、150℃で溶融混練し、シート状態に押出成型し、このシートに53kGyの電子線を照射して樹脂成分を架橋させ、220℃で横型薬液浴上にて発泡させた、厚み1.1mmであり、密度152kg/m3、ゲル分率40%の独立気泡シート。」
<甲1実施例8発明>
「低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製 LE602)38質量部、エチレン-プロピレン共重合体(東ソー製 ノバテックPP)60質量部、有機イオン導電剤B-1(1-ブチル-3-メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート)2質量部、アゾジカルボンアミド(永和化成製 パンスレン)4.4質量部を添加して、150℃で溶融混練し、シート状態に押出成型し、このシートに53kGyの電子線を照射して樹脂成分を架橋させ、220℃で横型薬液浴上にて発泡させた、厚み1.1mmであり、密度158kg/m3、ゲル分率28%の独立気泡シート。」
(2)本件特許発明1について
ア 甲1実施例3発明との対比・判断
本件特許発明1と甲1実施例3発明とを対比する。
甲1実施例3発明の「独立気泡シート」は、低密度ポリエチレン樹脂に発泡剤であるアゾジカルボンアミドを添加し、溶融混練して押出成型し、電子線を照射して架橋させて得られた発泡シートであるから、本件特許発明1の「ポリオレフィン樹脂を含む発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡シート」に相当する。
甲1実施例3発明の発泡倍率は、密度152kg/m3から計算すると、6.6cm3/g(=1/(152×1000/1003))であるから、本件特許発明1の「発泡倍率が2.8~10cm3/g」を満たす。
甲1実施例3発明の厚さは1.1mmであるから、本件特許発明1の「厚さが0.05~1.5mm」を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲1実施例3発明とは、
「ポリオレフィン樹脂を含む発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、厚さが0.05~1.5mmであり、発泡倍率が2.8~10cm3/gである、ポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点1-1>
ポリオレフィン系樹脂発泡シートに関し、本件特許発明1は「JIS Z0208-1976に準拠し、40℃で測定した透湿度が20g/m2・24h以下であり」と特定するのに対し、甲1実施例3発明は、この点を特定しない点
<相違点1-2>
ポリオレフィン系樹脂発泡シートに関し、本件特許発明1は「架橋度が20~60質量%」と特定するのに対し、甲1実施例3発明は、ゲル分率が40%との特定である点
<相違点1-3>
ポリオレフィン樹脂に関し、本件特許発明1は「前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂を含有し、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%である」と特定するのに対し、甲1実施例3発明は、低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製 LE602)である点
事案に鑑み、相違点1-3について検討する。
まず、相違点1-3は実質的な相違点であるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1実施例3発明でない。
次に、甲1実施例3発明において、低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製 LE602)を、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%であるポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂とする動機はなく、他の証拠のいずれにもそのような動機付けとなる記載も示唆もない。
そうすると、相違点1-3は、当業者といえども容易に想到し得たものということはできない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1実施例3発明でないし、甲1実施例3発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 甲1実施例8発明との対比・判断
本件特許発明1と甲1実施例8発明とを対比する。
本件特許発明1と甲1実施例8発明とを対比すると、上記アに示した甲1実施例3発明との対比と同様のことがいえるので、本件特許発明1と甲1実施例8発明とは、
「ポリオレフィン樹脂を含む発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、厚さが0.05~1.5mmであり、発泡倍率が2.8~10cm3/gである、ポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点1-4>
ポリオレフィン系樹脂発泡シートに関し、本件特許発明1は「JIS Z0208-1976に準拠し、40℃で測定した透湿度が20g/m2・24h以下であり」と特定するのに対し、甲1実施例8発明は、この点を特定しない点
<相違点1-5>
ポリオレフィン系樹脂発泡シートに関し、本件特許発明1は「架橋度が20~60質量%」と特定するのに対し、甲1実施例8発明は、ゲル分率が28%との特定である点
<相違点1-6>
ポリオレフィン樹脂に関し、本件特許発明1は「前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂を含有し、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%である」と特定するのに対し、甲1実施例8発明は、低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製 LE602)38質量部及びエチレン-プロピレン共重合体(東ソー製 ノバテックPP)60質量部である点
事案に鑑み、相違点1-6について検討する。
まず、相違点1-6は実質的な相違点であるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1実施例8発明でない。
次に、甲1実施例8発明において、低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製 LE602)38質量部及びエチレン-プロピレン共重合体(東ソー製 ノバテックPP)60質量部を、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%であるポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂とする動機はなく、他の証拠のいずれにもそのような動機付けとなる記載も示唆もない。
そうすると、相違点1-6は、当業者といえども容易に想到し得たものということはできない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1実施例8発明でないし、甲1実施例8発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
上記ア、イのとおりであるから、本件特許発明1は甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 本件特許発明5~8について
本件特許発明5~8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明並びに他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4) 取消理由1-1及び取消理由2-1のまとめ
上記のとおりであるから、取消理由1-1及び取消理由2-1には理由がない。
2 取消理由1-2及び取消理由2-2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1) 甲2の記載事項等
ア 甲2の記載事項
甲2には次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂(A)と、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(B)とを含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物の合計100質量%において、該ポリエチレン系樹脂(A)を50質量%以上99.5質量%以下含有し、該ポリエチレン系樹脂(A)100質量部に対し、該アゾジカルボンアミド(B)を0.5質量部以上10質量部以下含有し、該アゾジカルボンアミド(B)が、以下の条件(1)及び(2)を満たすことを特徴とする発泡体用樹脂組成物。
(1):分解温度が197~207℃
(2):190℃における発生ガス速度が20~50ml/(分・g)
・・・
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の発泡体用樹脂組成物を、架橋、発泡させることを特徴とする樹脂架橋発泡体の製造方法。」
「【発明の効果】
【0011】
本発明により、YI値(イエローインデックス)が低くかつ白色度が高く、滑らかで美しい表面外観に優れたポリエチレン系樹脂架橋発泡体を得ることができる。このような特性を活かすことで、本発明から得られるポリエチレン系樹脂架橋発泡体は、電子・電気部品、時計、文房具等の梱包緩衝材、粘着テープの基材等に使用することができ、特に食品、化粧品等の容器のふたに用いられるパッキング材として好適に使用することができる。また、本発明から得られるポリエチレン系樹脂架橋発泡体は、柔軟性、圧縮回復性、断熱性、良成型性といった観点においても優れた発泡体である。」
「【0014】
本発明の発泡体用樹脂組成物を構成する樹脂組成は、ポリエチレン系樹脂(A)を含む。ポリエチレン系樹脂(A)とは、エチレンを主体として重合した樹脂のことであり、例えば、高密度ポリエチレン(以下、HDPEと略すことがある。括弧は以下同様。)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、高溶融張力ポリエチレン(HMS-PE)、エチレンメチルアクリルアート共重合体(EEA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などに代表されるポリエチレン系樹脂などを挙げることができる。本発明の発泡体用樹脂組成物は、一種類のみではなく、二種類以上のポリエチレン系樹脂(A)を混合しても良い。」
「【0026】
本発明で得られる樹脂架橋発泡体は、電離性放射線架橋方法で架橋構造を形成していることが好ましく例示される。ここでいう電離性放射化架橋としては、例えばα線、β線、γ線、電子線、中性子線などが挙げられる。本発明で得られる樹脂架橋発泡体に電離放射線架橋方法を用いるのは、樹脂架橋発泡体の表面外観をより良好にする観点からの適用である。さらに、本発明で得られる樹脂架橋発泡体は、ゲル分率5~80%であることが好ましく、さらに好ましくは15~50%である。ゲル分率が5%未満では成形時に偏伸びして部分的に発泡体が破壊する場合や、発泡体の気泡径が安定しないために起こる表面外観が悪くなる場合がある。また、ゲル分率が80%を超えると引張伸びが小さく深入り形状の成形が出来ない場合や、発泡時に発泡体の配向が極端に強くなり安定して発泡体を製造することが難しくなる場合がある。尚、ゲル分率を5~80%に制御するには、電離性放射線の照射量や強度を調整することで可能である。」
「【0043】
実施例1
表1に示した組成の通り、ポリエチレン系樹脂(A)(高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、MFR=5g/10分尚、MFRとはJISK7210(改正1999/10/20)に準じて、190℃で測定した数値のことである。密度=923kg/m3尚、密度とはJISK7112(改正1999/05/20)「プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に準じて測定した数値のことである。)100質量部、アゾジカルボンアミド(B)(分解温度=203℃、発生ガス速度=40ml/(分・g)、ガス発生量=215ml/g)3質量部をヘンシェルミキサーにて混合し、単軸押出機を用いて溶融押出し、Tダイを用いて厚さ=1.8mmのポリエチレン樹脂シートを作製した。
このシートに加速電圧800kV、30kGyの電子線を照射して架橋シートを得た後、220℃の塩浴上にて浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡した。その発泡体の表面を水洗して乾燥させ、厚さ=3.0mm、密度=125kg/m3、YI値=7の樹脂架橋発泡体の長尺ロールを得た。
【0044】
実施例2~9
原料樹脂組成を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に製造を行い、樹脂架橋発泡体の長尺ロールを得た。」
「【表1】
[図:0001411258000002.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
上記の記載、特に実施例2の記載を中心に整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2実施例2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2実施例2発明>
「ポリエチレン系樹脂(A)(高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、MFR=5g/10分、密度=923kg/m3)100質量部、アゾジカルボンアミド(B)(分解温度=203℃、発生ガス速度=40ml/(分・g)、ガス発生量=215ml/g)2質量部をヘンシェルミキサーにて混合し、単軸押出機を用いて溶融押出し、Tダイを用いて厚さ=1.1mmのポリエチレン樹脂シートを作製し、このシートに加速電圧800kV、30kGyの電子線を照射して架橋シートを得た後、220℃の塩浴上にて浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡し、その発泡体の表面を水洗して乾燥させ、厚さ=1.5mm、密度=180kg/m3、YI値=4の樹脂架橋発泡体の長尺ロール。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2実施例2発明とを対比する。
甲2実施例2発明の「樹脂架橋発泡体の長尺ロール」は、ポリエチレン系樹脂(A)に発泡剤であるアゾジカルボンアミドを添加し、溶融混練して押出成型し、電子線を照射して架橋させて得られた架橋シートを発泡させた長尺ロールであるから、本件特許発明1の「ポリオレフィン樹脂を含む発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡シート」に相当する。
甲2実施例2発明の発泡倍率は、密度180kg/m3から計算すると、5.6cm3/g(=1/(180×1000/1003))であるから、本件特許発明1の「発泡倍率が2.8~10cm3/g」を満たす。
甲2実施例2発明の厚さは1.5mmであるから、本件特許発明1の「厚さが0.05~1.5mm」を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲2実施例2発明とは、
「ポリオレフィン樹脂を含む発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、厚さが0.05~1.5mmであり、発泡倍率が2.8~10cm3/gである、ポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点2-1>
ポリオレフィン系樹脂発泡シートに関し、本件特許発明1は「JIS Z0208-1976に準拠し、40℃で測定した透湿度が20g/m2・24h以下であり」と特定するのに対し、甲2実施例2発明は、この点を特定しない点
<相違点2-2>
ポリオレフィン系樹脂発泡シートに関し、本件特許発明1は「架橋度が20~60質量%」と特定するのに対し、甲2実施例2発明は、どの程度の架橋度であるか不明な点
<相違点2-3>
ポリオレフィン樹脂に関し、本件特許発明1は「前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂を含有し、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%である」と特定するのに対し、甲2実施例2発明は、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、MFR=5g/10分、密度=923kg/m3である点
事案に鑑み、相違点2-3について検討する。
まず、相違点2-3は実質的な相違点であるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2実施例2発明でない。
次に、甲2実施例2発明において、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、MFR=5g/10分、密度=923kg/m3を、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%であるポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂とする動機は、甲2、及び他の証拠のいずれからも導けない。
そうすると、相違点2-3は、当業者といえども容易に想到し得たものということはできない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2実施例2発明ではないし、甲2実施例2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。すなわち、本件特許発明1は甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 本件特許発明5~8について
本件特許発明5~8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明並びに他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4) 取消理由1-2及び取消理由2-2のまとめ
上記のとおりであるから、取消理由1-2及び取消理由2-2には理由がない。
3 取消理由1-3及び取消理由2-3(甲3に基づく新規性・進歩性)について
(1) 甲3の記載事項等
ア 甲3の記載事項
甲3には次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂組成物から構成され、厚みが0.1mm~1.0mm、25%圧縮固さが25~100kPa、少なくとも片面の平均粗さが10μm~30μm、かつ該表面の表面濡れ指数が40mN/m以上であることを特徴とするガスケット用ポリオレフィン樹脂架橋発泡体。」
「【0014】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物に用いられるポリオレフィン系樹脂は、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリ-1-ブテン、1,2-ポリブタジエン及びその水素添加物、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンおよび/または1-ブテンとのあらゆる比率でのランダム共重合体またはブロック共重合体、ポリメチルペンテン、シクロペンタジエンとエチレンおよび/またはプロピレンとの共重合体などの環状ポリオレフィン、およびエチレンとプロピレンとのあらゆる比率においてジエン成分が50重量%以下であるエチレン-プロピレン-ジエン3元共重合体等が挙げられる。」
「【0029】
電離性放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、電子線等を挙げることができる。電離性放射線の照射線量は、目的とする架橋度等によって異なるが、通常1~500kGy、好ましくは5~300kGyであり、ゲル分率として、通常15~60%となる。照射線量が少なすぎると得られる発泡体の耐熱性が不十分となり、多すぎると得られる発泡体の成形加工性が低下する。」
「【0043】
[実施例1]
メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210(1999年)に基づき、温度190℃、荷重2.16kgfの通常の条件で測定されるもので、MFRが6.5g/10分、密度が0.933kg/m3のポリエチレン100kg、発泡剤としてアゾジカルボンアミド5.0kg、安定剤として“イルガノックス”1010(チバ・スペシャルティケミカルズ株式会社製)0.45kg、“イルガノックス”PS802(チバ・スペシャルティケミカルズ株式会社製)0.3kgを準備し、ポリエチレン樹脂、発泡剤、安定剤をヘンシェルミキサーに投入し、200~400rpmの低速回転で約3分混合し、次いで800~1000rpmの高速回転とし、3分間混合して発泡用樹脂組成物とした。
【0044】
この発泡用樹脂組成物を発泡剤の分解しない温度、具体的には150℃に加熱したベント付き押出し機に供給、Tダイから押し出し、厚みが0.7mmの架橋発泡用シートに成型した。
【0045】
このシートに80kGyの電子線を照射し、架橋した後、240℃に加熱した溶融アルカリ金属塩浴上で3分間加熱し、発泡剤を分解し発泡体を得た。
【0046】
このようにして得られた架橋樹脂発泡体は、厚み1.2mmであった。この発泡体を厚み方向に2分割スライス加工し、さらにRHヒーターにて120℃に加熱し、ロール差速により150%縦延伸かつ鏡面ニップロールによる圧縮後、コロナ放電処理を行った所、スライス加工で新たに出現した表面の平均表面粗さ15μm、25%圧縮固さは45kPa、濡れ指数48mN/m、ゲル分率は30%であった。評価結果を表1に示す。」
「【0064】
【表1】
[図:0001411258000003.jpg]
」
「【0070】
本発明のガスケット用ポリオレフィン樹脂架橋発泡体は、厚さが0.1~1.0mmと薄く、しかも長尺であってもめっき性に優れ、機械的特性および外観が良好であるため、電子機器における電磁波シールド材料用途に好ましく使用することができる。」
イ 甲3に記載された発明
上記の記載、特に実施例1の記載を中心に整理すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3実施例1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3実施例1発明>
「MFRが6.5g/10分、密度が0.933kg/mのポリエチレン100kg、発泡剤としてアゾジカルボンアミド5.0kg、安定剤として“イルガノックス”1010(チバ・スペシャルティケミカルズ株式会社製)0.45kg、“イルガノックス”PS802(チバ・スペシャルティケミカルズ株式会社製)0.3kgを準備し、ポリエチレン樹脂、発泡剤、安定剤をヘンシェルミキサーに投入し、200~400rpmの低速回転で約3分混合し、次いで800~1000rpmの高速回転とし、3分間混合して発泡用樹脂組成物とし、この発泡用樹脂組成物を発泡剤の分解しない温度、具体的には150℃に加熱したベント付き押出し機に供給、Tダイから押し出し、厚みが0.7mmの架橋発泡用シートに成型し、このシートに80kGyの電子線を照射し、架橋した後、240℃に加熱した溶融アルカリ金属塩浴上で3分間加熱し、発泡剤を分解し、厚み1.2mm架橋樹脂発泡体を得、この発泡体を厚み方向に2分割スライス加工し、さらにRHヒーターにて120℃に加熱し、ロール差速により150%縦延伸かつ鏡面ニップロールによる圧縮後、コロナ放電処理を行った所、スライス加工で新たに出現した表面の平均表面粗さ15μm、厚み0.5mm、25%圧縮固さは45kPa、濡れ指数48mN/m、ゲル分率は30%であるガスケット用ポリオレフィン樹脂発泡体。」
(2)本件特許発明1との対比・判断
本件特許発明1と甲3実施例1発明とを対比する。
甲3実施例1発明の「ガスケット用ポリオレフィン樹脂発泡体」は、本件特許発明1の「ポリオレフィン樹脂を含む発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡シート」に相当する。
甲3実施例1発明の厚さは0.5mmであるから、本件特許発明1の「厚さが0.05~1.5mm」を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲3実施例1発明とは、
「ポリオレフィン樹脂を含む発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、厚さが0.05~1.5mmである、ポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点3-1>
ポリオレフィン系樹脂は法シートに関し、本件特許発明1は「発泡倍率が2.8~10cm3/g」と特定するのに対し、甲3実施例1発明は、この点を特定しない点
<相違点3-2>
ポリオレフィン系樹脂発泡シートに関し、本件特許発明1は「JIS Z0208-1976に準拠し、40℃で測定した透湿度が20g/m2・24h以下であり」と特定するのに対し、甲3実施例1発明は、この点を特定しない点
<相違点3-3>
ポリオレフィン系樹脂発泡シートに関し、本件特許発明1は「架橋度が20~60質量%」と特定するのに対し、甲3実施例1発明は、ゲル分率が30%との特定である点
<相違点3-4>
ポリオレフィン樹脂に関し、本件特許発明1は「前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂を含有し、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%である」と特定するのに対し、甲3実施例1発明は、MFRが6.5g/10分、密度が0.933kg/mのポリエチレンである点
事案に鑑み、相違点3-4について検討する。
まず、相違点3-4は実質的な相違点であるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3実施例1発明ではない。
次に、甲3実施例1発明において、MFRが6.5g/10分、密度が0.933kg/mのポリエチレンを、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%であるポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂とする動機は、甲3、及び他の証拠のいずれからも導けない。
そうすると、相違点3-4は、当業者といえども容易に想到し得たものということはできない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3実施例1発明でないし、甲3実施例1発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。すなわち、本件特許発明1は甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 本件特許発明5~8について
本件特許発明5~8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明並びに他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4) 取消理由1-3及び取消理由2-3のまとめ
上記のとおりであるから、取消理由1-3及び取消理由2-3には理由がない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議の申立ての理由について
特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由のうち取消理由に採用しなかったものは申立理由3(サポート要件)であるので、これについて検討する。
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これを踏まえて、以下に検討する。
2 サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0003】~【0005】の記載によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「シートを薄くした場合であっても高い柔軟性を有し、かつ透湿度が低い発泡シートを提供すること」である。
請求項1には、課題に対応する「厚さが0.05~1.5mmであ」ること、「発泡倍率が2.8~10cm3/gであ」ること、及び「JIS Z0208-1976に準拠し、40℃で測定した透湿度が20g/m2・24h以下」であることが特定され、シートが「ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂を含有し、ポリエチレン樹脂及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合が20~90質量%である」ポリオレフィン系樹脂を材料とすることが特定されている。
そして、発明の詳細な説明には特許請求の範囲の記載に対応する事項が記載され、特に【0010】には「発泡シートの透湿度が20g/m2・24hを超えると、少量の湿気でも不具合を起こしやすい有機ELディスプレイ等の電子機器の内部で使用することが困難になる」ことが、【0011】には「発泡シートの透湿度を低くする観点からシクロオレフィン樹脂が好ましく、発泡シートの製造の容易さの観点からはポリエチレン樹脂が好ましい」ことが、【0013】には「ポリエチレン樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。直鎖状低密度ポリエチレンを用いることにより、得られる発泡シートに高い柔軟性が得られるとともに、発泡シートの薄肉化が可能になる」ことが、【0029】には「直鎖状低密度ポリエチレン及びシクロオレフィン樹脂の合計に対するシクロオレフィン樹脂の割合は、20~90質量%であることが好まし」いことが、【0032】には「発泡シートは架橋されたものであることが好ましく、その場合の架橋度は、20~60質量%であることが好ましい。架橋度をこのような範囲内とすると、湿気等の水分を通しにくい密な構造とすることができると共に、優れた柔軟性を確保することができる」ことが、【0033】には「発泡シートの発泡倍率は、1.5~10cm3/gが好ましい。本発明では、発泡倍率を前記範囲内とすることで、柔軟性を確保しながら透湿度を低くすることが可能になる。また、発泡シートは、上記した範囲内でも発泡倍率を低くすることで、機械強度が高くなり耐久性をより向上させやすくなるとともに、発泡シートの気泡を微細化しやすくなり、後述する平均気泡径を小さくしやすくなる」ことが記載されている。さらに、本件特許発明1の発明特定事項を満たす実施例は柔軟性が良好であり高い透湿性を有していること、本件特許発明1の発明特定事項を満たさない比較例はこれを達成できていないことを、確認している。
そうすると、当業者は、本件特許発明1により上記発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明5~8はいずれも本件特許発明1の特定事項を全て備えたものであるから、本件特許発明1と同様に、発明の課題を解決できると当業者が認識できる。
したがって、本件特許発明1、5~8は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1、5~8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3) 申立人の主張について
上記(2)の判断のとおり、本件特許発明はサポート要件を充足するものであるが、下記アに記載の申立人の主張について以下で検討する。
ア 申立人の主張
申立書において、申立人は申立理由3について次のように述べる。
「本件特許発明1は、構成要件Eとして、「発泡倍率が2.8~10cm3/g」を含むものである。
本件特許明細書には、発泡シートの発泡倍率は、1.5~10cm3/gが好ましく、発泡倍率を前記範囲内とすることで、柔軟性を確保しながら透湿度を低くすることが可能になること、発泡倍率を低くすることで、機械強度が高くなり耐久性をより向上させやすくなるとともに、発泡シートの気泡を微細化しやすい(段落0033)と記載されている。
しかしながら、実施例、比較例では、発泡倍率が1.5~4.0のものしか評価されておらず、発泡倍率が高い範囲で評価がされていない。
発泡倍率が高い範囲では、機械強度、耐久性が低くなり、透湿度も高くなると推測されるところ、発泡倍率が4.0cm3/gを超え、10cm3/gの範囲で、厚さが0.05~1.5mmであって、架橋度が20~60質量%である発泡シートが、JIS ZO208-1976に準拠し、40℃で測定した透湿度が20g/m2/24h以下であるとは、一概に言えないものである。
したがって、本件特許発明1は本件特許の課題を解決できない範囲を包含するものと言える。」
イ 申立人の主張の検討
申立人のいうとおり「発泡倍率が高い範囲では、機械強度、耐久性が低くなり、透湿度も高くなる」ことが当業者の技術常識であるから、発泡倍率がより高くなれば、高い柔軟性は達成されるといえる。しかし、透湿度については本件特許発明1において上限値が特定されており(上限値を超えれば本件特許発明の範囲外となる)、また機械強度や耐久性といった他の特性とのバランスを勘案することは技術常識である。したがって、発明の詳細な説明の記載(実施例及び比較例を含む)と当業者の技術常識を踏まえれば、当業者は、本件特許発明1は課題を解決すると認識できる。
よって、申立人の主張は失当であって採用できない。
(4) 申立理由3のまとめ
上記のとおりであるから、申立理由3には理由がない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1及び5~8に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1及び5~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項2、3及び4に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項2、3及び4に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701198