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特許異議申立

2023-700537

孵化していない卵における鳥類胚の性決定方法およびその手段

審判番号
2023-700537
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-564948
登録番号
7179776
請求日
2023年05月24日
審決日
2025年03月17日
公報発行日
2025年06月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】エッグクシト,リミテッド
  • 【権利者代理人】高岡 亮一
  • 【権利者代理人】小田 直
  • 【権利者代理人】岩堀 明代
  • 【権利者代理人】高橋 香元
  • 【異議申立人】寺澤 佳奈美
審判長/審判官
  • 審判長 加々美 一恵
  • 審判官 柴原 直司
  • 審判官 小暮 道明
分類
P1651.113-YAA(C12Q) / P1651.121-YAA(C12Q) / P1651.537-YAA(C12Q) / P1651.536-YAA(C12Q) / P1651.851-YAA(C12Q) / P1651.853-YAA(C12Q)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第114条
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7179776号発明「孵化していない卵における鳥類胚の性決定方法およびその手段」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7179776号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕、〔9~13〕、〔14~15〕について訂正することを認める。 特許第7179776号の請求項1~15に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯及び証拠方法 1 手続の経緯 特許第7179776号(請求項の数15。以下「本件特許」という。)は、平成30年5月24日(パリ条約による優先権主張:2017年5月25日、米国)を国際出願日とする特許出願(特願2019-564948号)に係るものであって、令和4年11月18日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和4年11月29日である。)。 その後、令和5年5月24日に、本件特許の請求項1~15に係る特許に対して、特許異議申立人である寺澤佳奈美(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。それ以降の手続の経緯は概ね次のとおりである。 令和5年 8月22日付け 取消理由通知書 令和6年 3月22日 訂正請求及び意見書(特許権者)の提出 同年 5月10日 意見書(申立人)の提出 同年 6月27日付け 取消理由通知書(決定の予告) 同年 9月30日 訂正請求及び意見書(特許権者)の提出 同年11月11日 意見書(申立人)の提出 なお、令和6年3月22日の訂正請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。また、本件特許異議の申立てに係る審理においては、請求項1~15、すなわち、全請求項を審理対象とし、審理対象でない請求項は存しない。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和6年9月30日の訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~6のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「(a)性染色体ZおよびWのうちの少なくとも一方内の少なくとも1つの位置または場所に…提供するステップ」との記載を、「(a)性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの位置または場所に…提供するステップ」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1の「(c)少なくとも1つの検出可能なシグナルが検出されたかを前記孵化していない卵の構造的に一体の殻内の胚において決定するステップであって、…それにより、前記胚における前記Z染色体またはW染色体の存在が示され、それにより、前記構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性を決定するステップ」との記載を、「(c)少なくとも1つの検出可能なシグナルが検出されたかを前記孵化していない卵の構造的に一体の殻内の胚において決定するステップであって、…それにより、前記胚における前記Z染色体またはW染色体の存在が示され、ここで前記鳥類の胚の性は、前記胚の発生の1日目~10日目に決定され、それにより、前記構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性を決定するステップ」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6の「ならびに少なくとも1つの性染色体Zおよび/またはW内の少なくとも1つのプロトスペーサーを標的とするガイドRNA(gRNA)」との記載を、「ならびに性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つのプロトスペーサーを標的とするガイドRNA(gRNA)」と訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項9の「性染色体ZおよびWのうちの少なくとも一方内の少なくとも1つの遺伝子座に…含む鳥類トランスジェニック対象」との記載を、「性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの遺伝子座に…含む鳥類トランスジェニック対象」と訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項9の「前記少なくとも1つのレポーターの発現が、一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性別の識別に好適である」との記載を、「前記少なくとも1つのレポーターの発現が、胚の発生1日目~10日目の鳥類の胚の性の識別に好適であり、前記鳥類の胚が、構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内にある」と訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項14の「ならびに少なくとも1つの性染色体Zおよび/またはW内の少なくとも1つのプロトスペーサーを標的とする少なくとも1つのgRNA」との記載を、「ならびに性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つのプロトスペーサーを標的とする少なくとも1つのgRNA」と訂正する。 2 一群の請求項について 訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1を対象とするものであり、訂正事項3は、訂正前の請求項6を対象とするものであるが、訂正前の請求項2~8は、請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~8は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 訂正事項4及び5は、訂正前の請求項9を対象とするものであるが、訂正前の請求項10~13は、請求項9を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項9~13は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 訂正事項6は、訂正前の請求項14を対象とするものであるが、訂正前の請求項15は、請求項14を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項14~15は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1、3、4及び6について 訂正事項1、3、4及び6の訂正はそれぞれ、訂正前の請求項1及び9の「性染色体ZおよびWのうちの少なくとも一方」との記載、又は訂正前の請求項6及び14の「少なくとも1つの性染色体Zおよび/またはW」との記載を、訂正後の請求項1、6、9及び14の「性染色体ZまたはWの一方」との記載にすることにより、訂正前の各記載に含まれていた性染色体ZおよびWの双方という場合を、訂正後の各記載に含まれないものとする訂正であるから、訂正事項1~4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2の訂正は、訂正前の請求項1の「(c)…それにより、前記構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性を決定するステップ」との記載を、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の【0037】~【0039】の記載に基づき、訂正後の「(c)…ここで前記鳥類の胚の性は、前記胚の発生の1日目~10日目に決定され、それにより、前記構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性を決定するステップ」との記載にすることにより、訂正前の請求項1に記載された「鳥類の胚の性を決定する」時期を、「胚の発生の1日目~10日目に決定され」ると特定する訂正であるから、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。 (3)訂正事項5について 訂正事項5の訂正は、 ア 特許請求の範囲の請求項9の「鳥類の胚の性別の識別に好適である」との記載を、「胚の発生1日目~10日目の鳥類の胚の性の識別に好適であ」ると訂正する点(以下「訂正事項5-ア」という。)、 イ 特許請求の範囲の請求項9の「一体の殻」との記載を、「構造的に一体の殻」と訂正する点以下「訂正事項5-イ」という。)、及び ウ 特許請求の範囲の請求項9の「胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚」との記載を、「前記鳥類の胚が、…胚を含む孵化していない卵内にある」と訂正する点(以下「訂正事項5-ウ」という。) の3点からなるものである。 そして、訂正事項5-アの訂正は、訂正前の請求項9の「鳥類の胚」との記載を、本件明細書の【0037】~【0039】の記載に基づき、訂正後の「胚の発生1日目~10日目の鳥類の胚」との記載にすることにより、「鳥類の胚」が「胚の発生1日目~10日目」のものであることを特定する訂正であるから、訂正事項5-アは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。 また、訂正事項5-イの訂正は、訂正前の請求項9の「一体の殻」との記載を、本件明細書の【0040】の記載に基づき、訂正後の「構造的に一体の殻」との記載にすることにより、「殻」についてより特定する訂正であるから、訂正事項5-イは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。 さらに、訂正事項5-ウの訂正は、訂正前の「鳥類の胚」との文言が、訂正事項5-アの訂正により既出となったために、訂正後の「前記鳥類の胚」との記載にすることにより、既出の「鳥類の胚」と同じものを指すことを明確化するとともに、訂正前の請求項9の「胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚」との記載を、「鳥類の胚が、…胚を含む孵化していない卵内にある」という同義の表現に変更するものであるから、訂正事項5-ウの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。 4 独立特許要件 本件特許異議の申立ては、上記第1の1で示したとおり訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 5 小括 上記のとおり、訂正事項1~4及び6に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。また、訂正事項5に係る訂正は、同法同条同項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)及び同法同条同項ただし書3号(明瞭でない記載の釈明)を目的とするものである。 そして、いずれの訂正事項も同法同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕、〔9~13〕、〔14~15〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正後の請求項1~15に係る発明(以下、項番に従い、「本件発明1」~「本件発明15」といい、それらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性決定方法であって、 (a)性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの位置または場所に取り込まれた少なくとも1つの外因性レポーター遺伝子を含む少なくとも1つのトランスジェニック鳥類対象を提供するステップであって、前記レポーター遺伝子が赤色蛍光タンパク質(RFP)である、ステップと、 (b)前記トランスジェニック鳥類対象からの少なくとも1つの前記構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵を得るステップと、 (c)少なくとも1つの検出可能なシグナルが検出されたかを前記孵化していない卵の構造的に一体の殻内の胚において決定するステップであって、前記少なくとも1つの検出可能なシグナルの検出は、前記孵化していない卵の構造的に一体の殻内の胚における前記少なくとも1つのレポーター遺伝子の発現を示し、それにより、前記胚における前記Z染色体またはW染色体の存在が示され、ここで前記鳥類の胚の性は、前記胚の発生の1日目~10日目に決定され、それにより、前記構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性を決定するステップと、を含む、方法。 【請求項2】 前記レポーター遺伝子が、500~650nmの励起波長および550~650nmの発光波長を有するRFPタンパク質をコードする、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記検出可能なシグナルが検出されたかを判定することは、前記構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵を光源に曝露するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 前記少なくとも1つのトランスジェニック鳥類対象が、雌の鳥類の対象であり、前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、(a)雌染色体Zの少なくとも1つの位置に取り込まれ、それにより、検出可能なシグナルが検出されることは、前記構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の胚が雄であることを示すか、または(b)雌染色体Wの少なくとも1つの位置に取り込まれ、それにより、検出可能なシグナルが検出されることは、前記構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の胚が雌であることを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、少なくとも1つのプログラム可能な遺伝子操作されたヌクレアーゼ(PEN)を使用して、前記トランスジェニック鳥類動物の前記性染色体に取り込まれ、前記PENが、クラスター化された規則的間隔の短い回文リピート(CRISPR)II型システムである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 前記鳥類対象の少なくとも1つの細胞または前記鳥類動物に導入された少なくとも1つの細胞が、 (a)少なくとも1つのCas9タンパク質、または前記少なくとも1つのCas9タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸配列を含む少なくとも1つの第1の核酸配列;ならびに性染色体乙またはWの一方内の少なくとも1つのプロトスペーサーを標的とするガイドRNA(gRNA)、または前記少なくとも1つのgRNAをコードする少なくとも1つの核酸配列;ならびに (b)少なくとも1つの前記レポーター遺伝子を含む少なくとも1つの第2の核酸配列 に接触するか、または同時トランスフェクトすることにより、前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、前記トランスジェニック鳥類対象の性染色体に取り込まれる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】 前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、性Z染色体遺伝子座42172748~42177748の少なくとも1つの部位または性W染色体遺伝子座1022859~1024215の少なくとも1つの部位に取り込まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、 (a)性Z染色体遺伝子座42172748~42177748の少なくとも1つの部位に取り込まれ、前記少なくとも1つのgRNAが、配列番号26で示される核酸配列を含み、かつ前記第2の核酸配列内に含まれる前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、それぞれ配列番号31および32で示される核酸配列を含む相同腕とその5’および3’において隣接しているか、または、 (b)性W染色体遺伝子座1022859~1024215の少なくとも1つの部位に取り込まれ、ここで、 (i)前記gRNAが配列番号1で示される核酸配列を含み、前記第2の核酸配列内に含まれる前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、それぞれ配列番号4および5で示されるアミノ酸配列を含む相同腕とその5’および3’において隣接しているか、 (ii)前記gRNAが配列番号2で示される核酸配列を含み、前記第2の核酸配列内に含まれる前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、それぞれ配列番号6および7で示されるアミノ酸配列を含む相同腕とその5’および3’において隣接しているか、のいずれか1つである、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの遣伝子座に取り込まれた少なくとも1つの外因性レポーター遺伝子を含む鳥類トランスジェニック対象であって、前記レポーター遺伝子が赤色蛍光タンパク質(RFP)であり、前記少なくとも1つのレポーターの発現が、胚の発生1日目~10日目の鳥類の胚の性の識別に好適であり、前記鳥類の胚が、構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内にある、鳥類トランスジェニック対象。 【請求項10】 前記レポーター遺伝子が、500~650nmの励起波長および約550~650nmの発光波長を有するRFPタンパク質をコードする、請求項9に記載の鳥類トランスジェニック対象。 【請求項11】 前記少なくとも1つの鳥類トランスジェニック対象が雌であり、前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、雌染色体Zまたは雌染色体Wの少なくとも1つの位置に取り込まれている、請求項9または10に記載の鳥類トランスジェニック対象。 【請求項12】 前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、性Z染色体遺伝子座42172748~42177748の少なくとも1つの部位に取り込まれ、前記少なくとも1つのgRNAが、配列番号26で示される核酸配列を含み、かつ前記第2の核酸配列内に含まれる前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、それぞれ配列番号31および32で示される核酸配列を含む相同腕とその5’および3’において隣接している、請求項9~11のいずれか一項に記載の鳥類トランスジェニック対象。 【請求項13】 前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、性W染色体遺伝子座1022859~1024215の少なくとも1つの部位に取り込まれ、 (a)前記gRNAが配列番号1で示される核酸配列を含み、前記第2の核酸配列内に含まれる前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、それぞれ配列番号4および5で示されるアミノ酸配列を含む相同腕とその5’および3’において隣接しているか、 (b)前記gRNAが配列番号2で示される核酸配列を含み、前記第2の核酸配列内に含まれる前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、それぞれ配列番号6および7で示されるアミノ酸配列を含む相同腕とその5’および3’において隣接しているか、のいずれか1つである、請求項9~11のいずれか一項に記載の鳥類トランスジェニック対象。 【請求項14】 (a)少なくとも1つのCas9タンパク質、または前記少なくとも1つのCas9タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸配列を含む少なくとも1つの第1の核酸配列;ならびに性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つのプロトスペーサーを標的とする少なくとも1つのgRNA、または前記少なくとも1つのgRNAをコードする核酸配列;ならびに (b)少なくとも1つのレポーター遺伝子を含む少なくとも1つの第2の核酸配列であって、前記レポーター遺伝子が赤色蛍光タンパク質(RFP)であり、前記少なくとも1つのレポーターの発現が、構造的に一体の殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性別の識別に好適である、第2の核酸配列 を含む、キットであって、 前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、 (a)性Z染色体遺伝子座42172748~42177748の少なくとも1つの部位に取り込まれ、前記少なくとも1つのgRNAが、配列番号26で示される核酸配列を含み、かつ前記第2の核酸配列内に含まれる前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、それぞれ配列番号31および32で示される核酸配列を含む相同腕とその5’および3’において隣接しているか、 (b)性W染色体遺伝子座1022859~1024215の少なくとも1つの部位に取り込まれ、 (i)前記gRNAが配列番号1で示される核酸配列を含み、前記第2の核酸配列内に含まれる前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、それぞれ配列番号4および5で示されるアミノ酸配列を含む相同腕とその5’および3’において隣接しているか、 (ii)前記gRNAが配列番号2で示される核酸配列を含み、前記第2の核酸配列内に含まれる前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、それぞれ配列番号6および7で示されるアミノ酸配列を含む相同腕とその5’および3’において隣接しているか、のいずれか1つである、キット。 【請求項15】 前記少なくとも1つのレポーター遺伝子が、500~650nmの励起波長および約550~650nmの発光波長を有するRFPタンパク質をコードする、請求項14に記載のキット。」 第4 取消理由通知書に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 (1)令和5年8月22日付け取消理由通知 訂正前の請求項1~15に係る特許に対して、当審が令和5年8月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)(以下「取消理由1-1」及び「取消理由1-2」という。) 訂正前の請求項1~6及び9~11に係る発明は、下記甲1に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該請求項1~6及び9~11に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 また、そうでなくとも、訂正前の請求項1~6及び9~11に係る発明は、下記甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1~6及び9~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 イ 取消理由3(サポート要件)(以下「取消理由1-3」という。) 本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15の記載に不備があるため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)令和6年6月27日付け取消理由通知 令和6年3月22日の訂正請求により訂正された請求項1~15に対して、当審が令和6年6月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、上記第1の1で示したとおり、令和6年3月22日の訂正請求は、本件訂正がなされたため、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。 ア 取消理由1(進歩性)(以下「取消理由2-1」という。) 令和6年3月22日の訂正請求により訂正された請求項1~6及び9~11に係る発明は、下記甲1に記載された発明及び下記参考4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1~6及び9~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 イ 取消理由2(進歩性)(以下「取消理由2-2」という。) 令和6年3月22日の訂正請求により訂正された請求項1~6及び9~11に係る発明は、下記参考4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1~6及び9~11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)取消理由で引用した証拠について 甲1:Tizard M., et al., "Precision genome engineering in the chicken: The gap between science and market place" -A presentation at IWRAB-II, in Brasilia, Sept. 1, 2014, pg 1-21(カラー版) 参考4:FINAL REPORT Sub-Project No:1.5.5, PROJECT LEADER: Tim Doran, Sub-Project Title: Single sex selection for the egg laying industry to improve animal welfare (publication in February 2016) 2 当審の判断 (1)参考4の公開日について 各取消理由についての当審の判断を示す前に、まず、参考4の公知日について検討する。 参考4は、上記1(2)で示した取消理由2-1(進歩性)における副引例、及び、取消理由2-2(進歩性)におおける主引例として引用したものである。そして、その際には、上記1(3)のとおり、参考4の「publication in February 2016」との表記に基づき、参考4が、本件特許の優先日(以下「本件優先日」という。)である2017年5月25日より前の2016年2月に公開されたものと認定して進歩性の判断を行った。 しかし、取消理由2-1及び2-2に対して、特許権者から令和6年9月30日に提出された意見書において、Wayback Machineでは、参考4の最も古い公開日が2023年3月28日であること(乙5:Wayback Machineの結果のスクリーンショット)から、参考4が実際に公開されたのは本件優先日後の2023年3月28日であり、進歩性判断に用いる引例としての適格性を欠いている旨の主張がされたので、この点について、さらに検討をする。 この点について、申立人からは、参考6(Mark Tizard博士による宣言書)において、 ア 乙5のとおり、Wayback Machineでは2023年以降の履歴しかないものの、参考4を公開していたウェブサイトの移転があり、参考4は移転前のウェブサイトでは参照可能であったこと、並びに イ 参考4の裏表紙の記載に基づいて、 (ア)参考4発表当時は「http://www.poultrycrc.com.au」で利用可能であった点、及び (イ)ISBNが付与されている点 が説明されているものの、参考4の公開日を確定するための新たな証拠が提出されているわけではない。 そこで、まず、上記イ(イ)については、ISBNが付与されていること自体が、参考4の「publication in February 2016」との表記の正確性を裏付けるものとまではいえない。そして、仮に参考4が2016年に公開されていたとすれば、その当時、ISBNは13桁であったといえるにもかかわらず、参考4は10桁であり、正規のISBNが付与されているのかについても疑義がある。 次に、上記イ(ア)のサイト、すなわち、上記アでいうところの移転前のウェブサイト(以下「移転前サイト」という。)は、令和6年2月現在、表示することができない。そこで、移転前サイトをWayback Machineで確認すると、移転前サイト自体は本件優先日前から存在することが認められ、そこに、参考4に記載されたプロジェクト「1.5.5」も表示されている(以下の参考図1-1及び1-2参照)。 【参考図1-1】Wayback Machineにおける本件優先日前(2017年2月21日)の移転前サイトの表示 [図:0001423425000001.jpg] 【参考図1-2】参考図1-1の赤枠部分付近の拡大図 [図:0001423425000002.jpg] また、次のとおり、参考4に記載されたプロジェクト「1.5.5」が、「Duration of Project: 1 February 2014 to 31 January 2016」として、本件優先日前にプロジェクトとして存在していたことも確認できる(以下の参考図2-1及び2-2参照)。 【参考図2-1】参考図1-2の赤枠部分をクリックすると表示される内容 [図:0001423425000003.jpg] 【参考図2-2】参考図2-1の赤枠部分付近の拡大図 [図:0001423425000004.jpg] 以上から、参考4に記載されたプロジェクト「1.5.5」が本件優先日前にプロジェクトとして存在していたことは認められるものの、当該プロジェクトの内容を報告したレポートというべき参考4自体が本件優先日前に公開されていたことは確認できない。 また、例えば、本件優先日前に公開されていたことが明らかな学術論文等で、参考4が参照されている等の事情も見いだせなかった。 そうすると、申立人の主張を参酌しても、参考4が本件優先日に公開されていたとする証拠を見いだすことはできず、したがって、参考4が本件優先日に公開されていた証拠であるとすることはできないから、進歩性等の判断に参考4を引用することはできない。 (2)取消理由2-1(進歩性)及び取消理由2-2(進歩性)について 上記(1)で検討したとおり、参考4が本件優先日に公開されていたと認めることはできず、したがって、進歩性等の判断に参考4を引用することはできないから、参考4を副引例とした取消理由2-1、及び参考4を主引例とした取消理由2-2における進歩性欠如の判断は成立し得ない。 したがって、取消理由2-1及び2-2は理由がない。 (3)取消理由1-1(新規性)及び取消理由1-2(進歩性)について ア 甲1の記載事項 甲1には、次の事項が記載されている。なお、甲1は英語で記載されているため当審による訳文を示す。また、下線は当審が付した。 (ア)7頁 「始原生殖細胞の直接インビボ形質転換-EGFP鶏 ・ED2.5胚へのDNA構築物の直接注入-封入とインキュベート ・解剖した生殖腺とED7とED14の検査された全胚 ・EGFPが広範囲な全体にわたる全ての胚の生殖腺で観察された ・EGFP細胞は始原生殖細胞であることが鶏-Vasa抗体染色により確認された ・胚全体にわたる他の細胞におけるEGFP発現(例えば、心臓および脳)」 (イ)14頁 「正確なゲノム編集の進捗の要約 ・ZFNによる鶏ゲノムの編集の成功 ・トランスジェニック鶏の作製のための直接注入による始原生殖細胞の形質転換の成功(結果としてのGFP鶏) ・CRISPRの適用-鶏細胞系におけるGFPの機能的ノックアウトの確認 ・CRISPRと直接注入を組み合わせてGFPをノックアウトし、赤色蛍光タンパク質で置換する」 (ウ)17頁 「正確なゲノム編集:産卵鶏の性の選択のため [図:0001423425000005.jpg] 」 (エ)18頁 「産卵鶏の性の選択のための正確なゲノム編集 [図:0001423425000006.jpg] [図:0001423425000007.jpg] ・雌親系統-Z染色体上に蛍光タンパク質が導入されたトランスジェニック ・ノーマルの雄親(遺伝子導入なし) ・産卵鶏に成り行く卵を産生するための交配 ・ノーマルの雄の親からのすべての精子はノーマルのZ ・減数分裂はトランスジェニックFP Zを雌親から切り離し非トランスジェニックWから切り離す ・受精は、すべての雌がノーマルZノーマルWであることを意味する ・雌のみの集団 ・雌は導入遺伝子を持たない ・これらの卵はGM食品か?」 イ 取消理由1-1(新規性)及び取消理由1-2(進歩性)について (ア)甲1に記載された発明の認定 a 甲1の「正確なゲノム編集の進捗の要約」と題される14頁に、「トランスジェニック鶏の作製のための直接注入による始原生殖細胞の形質転換の成功」の「結果としてGFP鶏」と記載され(上記ア(イ))、「始原生殖細胞の直接インビボ形質転換-EGFP鶏」と題される同7頁に、「ED2.5胚へのDNA構築物の直接注入」の後、始原生殖細胞を含む胚全体の細胞でEGFPが発現したことが記載されている(上記ア(ア))。 ここで、「GFP」及び「EGFP」が緑色蛍光タンパク質であることは、本件明細書の【0056】の表1中にも挙げられるとおり、本件優先日当時の当該技術分野における技術常識であり、上記「GFP鶏」及び「EGFP鶏」は、「直接注入による始原生殖細胞の形質転換」により緑色蛍光タンパク質遺伝子が導入されてトランスジェニック鶏が作成されることを意味することが当業者に明らかである。 また、甲1の「正確なゲノム編集:産卵鶏の性の選択のため」と題される17頁、及び「産卵鶏の性の選択のための正確なゲノム編集」と題される18頁には、緑色の文字で「ZFP」と付された「卵子」が、卵巣に由来すること図示され、かつ、18頁には「雌親系統-Z染色体上に蛍光タンパク質が導入されたトランスジェニック」と記載されている(上記ア(ウ)及び(エ))。 以上からみて、甲1には、緑色蛍光タンパク質遺伝子が導入されてトランスジェニック鶏が作成されることの開示を伴って、緑色が付された「Z染色体上に蛍光タンパク質が導入されたトランスジェニック」の「雌親系統」が記載されているから、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「Z染色体上に緑色蛍光タンパク質が導入されたトランスジェニック雌親系統鶏」に係る発明(以下「甲1発明1」という。) b 甲1の「産卵鶏の性の選択のための正確なゲノム編集」と題される18頁には、上記した「雌親系統-Z染色体上に蛍光タンパク質が導入されたトランスジェニック」との記載に続いて、「ノーマルの雄親(遺伝子導入なし)」、「卵を産生するための交配」、「ノーマルの雄の親からのすべての精子はノーマルのZ」、「減数分裂はトランスジェニックFP Zを雌親から切り離し非トランスジェニックWから切り離す」、「受精は、すべての雌がノーマルZノーマルWであることを意味する」と記載されており(上記ア(エ))、17頁の図(上記ア(ウ))も併せみると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「Z染色体上に緑色蛍光タンパク質遺伝子が導入されたトランスジェニック雌親系統鶏と遺伝子導入がない雄親鶏との交配によって産生される卵であって、性染色体ZWを有し緑色蛍光タンパク質遺伝子を持たない雌卵と性染色体ZFPZを有し緑色蛍光タンパク質遺伝子を持つ雄卵のいずれかであることにより卵の性が選択される」ことに係る発明(以下「甲1発明2」という。) (イ)本件発明1について a 対比 本件発明1と甲1発明2を対比する。 甲1発明2の「Z染色体上に緑色蛍光タンパク質が導入されたトランスジェニック雌親系統鶏」は、本件発明1の(a)の「性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの位置または場所に取り込まれた少なくとも1つの外因性レポーター遺伝子を含む少なくとも1つのトランスジェニック鳥類対象」に相当する。 「卵」は、殻内の胚を含み、孵化していないものであることが当業者に明らかであるから、甲1発明2の「Z染色体上に蛍光タンパク質が導入されたトランスジェニック雌親系統鶏と遺伝子導入がない雄親鶏との交配によって産生される卵」は、本件発明1の(b)の「前記トランスジェニック鳥類対象からの少なくとも1つの前記殻内の胚を含む孵化していない卵」に相当する。 「蛍光タンパク質」は、本件明細書の【0048】にも記載されているとおり、「光に暴露されると明るい蛍光を呈する」ものであって、検出可能な蛍光の検出により、蛍光タンパク質の存否やその遺伝子の発現が決定されるものであることが、本件優先日当時の当該技術分野における技術常識であるから、甲1発明2の「性染色体ZWを有し蛍光タンパク質遺伝子を持たない雌卵と性染色体ZFPZを有し蛍光タンパク質遺伝子を持つ雄卵のいずれかであることにより卵の性が選択される」は、本件発明1の(c)の「少なくとも1つの検出可能なシグナルが検出されたかを前記孵化していない卵の殻内の胚において決定するステップであって、前記少なくとも1つの検出可能なシグナルの検出は、前記孵化していない卵の殻内の胚における前記少なくとも1つのレポーター遺伝子の発現を示し、それにより、前記胚における前記Z染色体またはW染色体の存在が示され、それにより、前記殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性を決定するステップ」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明2は、 「殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性決定方法であって、 (a)性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの位置または場所に取り込まれた少なくとも1つの外因性レポーター遺伝子を含む少なくとも1つのトランスジェニック鳥類対象を提供するステップと、 (b)前記トランスジェニック鳥類対象からの少なくとも1つの前記殻内の胚を含む孵化していない卵を得るステップと、 (c)少なくとも1つの検出可能なシグナルが検出されたかを前記孵化していない卵の殻内の胚において決定するステップであって、前記少なくとも1つの検出可能なシグナルの検出は、前記孵化していない卵の殻内の胚における前記少なくとも1つのレポーター遺伝子の発現を示し、それにより、前記胚における前記Z染色体またはW染色体の存在が示され、それにより、前記殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性を決定するステップと、を含む、方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1では、卵の胚が含まれる殻が「構造的に一体」の殻であり、外因性レポーター遺伝子が「赤色蛍光タンパク質(RFP)」であるのに対して、甲1発明2では、前記殻について特定がなく、外因性レポーター遺伝子が「緑色蛍光タンパク質」である点。 <相違点2> 鳥類の胚の性が、本件発明1は、「前記胚の発生の1日目~10日目に決定され」るものであるのに対し、甲1発明2では、この点に関する特定がない点。 b 取消理由1-1(新規性)の判断 まず、相違点1について検討する。 甲1において、赤色蛍光タンパク質に関する記載は、「正確なゲノム編集の進捗の要約」と題される14頁のみであるところ、当該14頁には、「結果としてのGFP鶏」に対し、「CRISPRの適用-鶏細胞系におけるGFPの機能的ノックアウトの確認」を目的として「CRISPRと直接注入を組み合わせてGFPをノックアウトし、赤色蛍光タンパク質で置換する」ことが記載されている(上記ア(イ))。 しかし、甲1の14頁は、「正確なゲノム編集の進捗の要約」と題されているとおり、ゲノム中で、GFPのノックアウトや赤色蛍光タンパク質での置換を正確に行うことができることを示すにとどまるものである。また、甲1の14頁には、赤色蛍光タンパク質を性染色体に導入することも記載されていない。 そうすると、甲1の14頁の記載は、甲1発明2において、外因性レポーター遺伝子が「赤色蛍光タンパク質(RFP)」であることを示すものとはいえないから、相違点1のその余の点を検討するまでもなく、相違点1は実質的な相違点である。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 c 取消理由1-2(進歩性)の判断 まず、相違点1について検討する。 上記bで検討したとおり、甲1の14頁の記載は、正確なゲノム編集が可能であることを示すにとどまるものであって、赤色蛍光タンパク質を性染色体に導入することを示唆するものではない。また、甲1の記載全体からみても、「緑色蛍光タンパク質」では所望の検出に不都合が生じるなど、「緑色蛍光タンパク質」を用いることの問題点に関する記載や示唆はない。 そうすると、甲1には、甲1発明2の外因性レポーター遺伝子である「緑色蛍光タンパク質」を「赤色蛍光タンパク質(RFP)」に変更する動機付けとなる記載はないといえる。 したがって、相違点1のその余の点を検討するまでもなく、甲1発明2において、相違点1を容易に想到し得るとはいえないから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件発明2~6について 本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1の発明特定事項をさらに限定するものであるから、上記(イ)で検討したことと同様の理由により、本件発明2~6は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (エ)本件発明9について a 対比 本件発明9と甲1発明1を対比すると、甲1発明1の「Z染色体上に緑色蛍光タンパク質が導入されたトランスジェニック雌親系統鶏」と遺伝子導入がない雄親鶏との交配によって産生される卵は、甲1発明2で検討したとおり、性染色体ZWを有し緑色蛍光タンパク質遺伝子を持たない雌卵と性染色体ZFPZを有し緑色蛍光タンパク質遺伝子を持つ雄卵のいずれかであることにより性が選択され得るものであるから、本件発明9と甲1発明1は、 「性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの遺伝子座に取り込まれた少なくとも1つの外因性レポーター遺伝子を含む鳥類トランスジェニック対象であって、前記少なくとも1つのレポーターの発現が、鳥類の胚の性の識別に好適であり、前記鳥類の胚が、殻内の胚を含む孵化していない卵内にある、鳥類トランスジェニック対象。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3> 本件発明9では、卵の胚が含まれる殻が「構造的に一体」の殻であり、外因性レポーター遺伝子が「赤色蛍光タンパク質(RFP)」であるのに対して、甲1発明1では、前記殻について特定がなく、外因性レポーター遺伝子が「緑色蛍光タンパク質」である点。 <相違点4> 性の識別に好適であるとされる鳥類の胚が、本件発明9は、「胚の発生の1日目~10日目」のものであるのに対し、甲1発明1では、この点に関する特定がない点。 b 取消理由1-1(新規性)の判断 まず、相違点3について検討する。 上記(イ)bで検討したとおり、甲1の14頁の記載は、甲1発明1において、外因性レポーター遺伝子が「赤色蛍光タンパク質(RFP)」であることを示すものとはいえないから、相違点3のその余の点を検討するまでもなく、相違点3は実質的な相違点である。 したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 c 取消理由1-2(進歩性)の判断 まず、相違点3について検討する。 上記(イ)cで検討したことと同様の理由により、甲1には、甲1発明1の外因性レポーター遺伝子である「緑色蛍光タンパク質」を「赤色蛍光タンパク質(RFP)」に変更する動機付けとなる記載はないといえる。 したがって、相違点3のその余の点を検討するまでもなく、甲1発明1において、相違点3を容易に想到し得るとはいえないから、相違点4について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (オ)本件発明10及び11について 本件発明10及び11は、本件発明9の発明特定事項を全て含み、本件発明9の発明特定事項をさらに限定するものであるから、上記(エ)で検討したことと同様の理由により、本件発明10及び11は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (カ)小括 以上からみて、本件発明1~6及び9~11は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、取消理由1-1及び1-2は理由がない。 (4)取消理由1-3(サポート要件)について ア 取消理由1-3の概要 訂正前の請求項1~15に係る発明には、性染色体Z及びWの双方にレポーター遺伝子が取り込まれているトランスジェニック鳥類対象が含まれていたところ、そのようなトランスジェニック鳥類対象から得られる卵内の胚の性別識別が可能であることを、本件明細書の記載から当業者は認識することができない。 イ 判断 上記第2及び第3のとおり、本件訂正により、本件発明1~15には、性染色体Z及びWの双方にレポーター遺伝子が取り込まれているトランスジェニック鳥類対象が含まれないものとなったから、取消理由1-3は理由がない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件発明1~6及び9~11についての取消理由1-1及び1-2は理由がない。 また、本件発明1~15についての取消理由1-3は理由がない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由 訂正前の請求項1~15に係る特許に対して、異議申立人が申立てたが、当審が取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次の(1)~(3)のとおりである。 (1)理由1(サポート要件)及び理由2(実施可能要件) ア 訂正前の請求項1~15に係る発明は、すべての鳥類対象を対象とするものであるところ、本件明細書の開示は鶏に限られているから、本件特許の出願日(以下「本件出願日」という。)当時の技術常識に照らしても、本件明細書の開示の内容を本件発明の範囲まで拡張ないし一般化できない。また、本件明細書は、当業者が、訂正前の請求項1~15に係る発明に係る鳥類対象のうち、鶏以外のものについて実施可能なように記載されていない。 イ 訂正前の請求項1~13に係る発明は、トランスジェニック鳥類対象が成型鳥にまで生育可能であることを前提とするものであるところ、この点について、本件明細書には実験的実証が欠如しているから、訂正前の請求項1~13に係る発明は本件明細書に記載されたものとはいえない。そして、本件明細書は、当業者が、訂正前の請求項1~8に係る方法を使用することができるように記載されておらず、また、訂正前の請求項9~13に係る物を作ることができるように記載されていない。 (2)理由2(実施可能要件) ア 訂正前の請求項1~3、5~10、12及び13に係る発明は、性が特定されていないトランスジェニック鳥類対象に関するのに対し、本件明細書には、雌性のトランスジェニック鳥類対象の実施の形態のみが記載されており、雄性のトランスジェニック鶏対象の実施の形態に関して記載されていないから、本件明細書は、当業者が、訂正前の請求項1~3、5~10、12及び13に係る発明に係るトランスジェニック鳥類対象のうち、雄性のものについて実施可能なように記載されていない。 (3)理由4(進歩性) ア 訂正前の請求項1~15に係る発明は、下記甲1に記載された発明並びに下記甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ 訂正前の請求項1~15に係る発明は、下記甲4に記載された発明並びに下記甲5及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ウ 証拠 甲1:Tizard M., et al., "Precision genome engineering in the chicken: The gap between science and market place" -A presentation at IWRAB-II, in Brasilia, Sept. 1, 2014, pg 1-21(カラー版)(当審注:第4の1(3)で示した甲1と同じである。) 甲2:米国特許第7615676号 甲3:特表2007-531514号公報 甲4:Henri Woelders, "Alternatives for killing day-old male chicks" -slide show presented at the public symposium of the Animal Breeding & Genomics Centre of the Wageningen university on September 8, 2014 甲5:Bamelis F.R., et al., "Detection of early embryonic development in chicken eggs using visible light transmission." British Poultry Science (2002) vol.43, p.204-212 甲6:Shafey T.M., et al., "Effects of eggshell pigmentation and egg size on the spectral properties and characteristics of eggshell of meat and layer breeder eggs.",Asian-Australasian Journal of Animal Sciences (2002) vol.15, no.2, p.297-302 2 当審の判断 上記1の各特許異議申立理由についての当審の判断は次のとおりである。 (1)理由1(サポート要件)及び理由2(実施可能要件)について ア 上記1(1)アの主張について 本件発明の課題は、本件明細書の【0001】、【0022】等からみて、孵化していない鳥類の卵殻内の胚の性を決定する非侵襲的方法の提供であると認められ、当該課題を解決するために、本件発明は、トランスジェニック鳥類対象について、「性染色体ZおよびWの一方」に取り込まれた「外因性レポーター遺伝子」としての「赤色蛍光タンパク質(RFP)」を含むこと特定するものであり、本件明細書の実施例(特に実施例3~6)には、鶏に関し、「性染色体ZおよびWの一方」に「赤色蛍光タンパク質(RFP)」をコードする「外因性レポーター遺伝子」を導入する手法が詳細に記載されている。 ここで、鳥類の性染色体の組み合わせが、ヘテロZWの胚は雌、ホモZZの胚は雄となる点で共通することは、本件出願日当時、周知の事項であるから、当業者は、鶏に関する本件明細書の開示内容から、鶏以外の鳥類においても、本件明細書に記載された手法を応用することにより、本件発明の課題を解決し得ることを認識できるといえる。 また、鶏以外の鳥類を対象とした際に、本件明細書に記載された鶏に関する手法を、当該鶏以外の鳥類に合うよう改変、工夫等することは当業者が当然行うことであり、この点に、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を要するとはいえない。 加えて、申立人の主張を参酌しても、蛍光タンパク質を導入する性染色体の遺伝子座等に関して、鶏と他の鳥類と特に異なる事情があることを見いだすことはできない。 したがって、本件発明1~15についての、上記1(1)アの主張を採用することはできない。 イ 上記1(1)イの主張について 甲1の記載(上記第4の2(3)ア)や、甲4の9頁の記載は、性染色体へ蛍光タンパク質をコードする遺伝子が導入された成型鶏から卵が得られることを前提としたものとなっており、このことからみて、本件出願日当時、性染色体へ蛍光タンパク質をコードする遺伝子が導入されたトランスジェニック鶏が成型鶏にまで生育可能であることは、当業者にとって当然のことと認識されていたといえる。そして、上記アで検討したことも踏まえると、鶏と他の鳥類と特に異なる事情があるとはいえないから、鳥類全般について、本件発明1~13に係るトランスジェニック鳥類対象が成型鳥にまで生育可能であると当業者は認識できるといえる。加えて、申立人の主張を参酌しても、これを覆すに足る事情を見いだすことはできない。 したがって、本件発明1~13についての、上記1(1)イの主張を採用することはできない。 (2)理由2(実施可能要件)について ア 上記1(2)アの主張について 本件発明1~3、5~10、12及び13に係る鳥類トランスジェニック対象は、「外因性レポーター遺伝子」である「赤色蛍光タンパク質(RFP)」が「性染色体ZまたはWの一方内」に取り込まれることが特定されていることから、当該鳥類トランスジェニック対象は、性染色体Z及びWを有するもの、すなわち、雌性と解すべきである。 したがって、申立人の主張は前提において誤りがあり、本件発明1~3、5~10、12及び13についての、上記1(2)アの主張を採用することはできない。 (3)異議申立理由4(進歩性)について ア 上記1(3)ア(甲1を主引例とする進歩性)の主張について (ア)甲1に記載された事項 甲1に記載された事項は、上記第4の2(3)アに示したとおりであり、甲1から認定される甲1発明1及び甲1発明2も上記第4の2(3)イ(ア)a及びbに示したとおりである。 (イ)本件発明1及び9について 本件発明1と甲1発明2とは、上記第4の2(3)イ(イ)aで示した相違点1及び相違点2が存在し、また、本件発明9と甲1発明1とは、上記第4の2(3)イ(エ)aで示した相違点3及び相違点4が存在する。 ここで、相違点1及び相違点3について検討すると、上記第4の2(3)イ(イ)c及び(エ)cで検討したとおり、甲1には、甲1発明2及び甲1発明1の外因性レポーター遺伝子である「緑色蛍光タンパク質」を「赤色蛍光タンパク質(RFP)」に変更する動機付けとなる記載はない。 そこで、甲2及び甲3の記載を検討する。なお、甲2は英語で記載されているため当審による訳に基づいた要点を示す。 甲2には、「赤色蛍光タンパク質」が導入されたトランスジェニックゼブラフィッシュが記載されており(請求項1~3及び9)、甲3には、「赤色蛍光タンパク質」が導入されたトランスジェニック非ヒト動物が記載されている(請求項1、11、12、35、52及び53)ものの、いずれも、鳥類を対象とするとの記載や示唆はなく、また、赤色蛍光タンパク質を性染色体に導入することの記載や示唆もない。 そうすると、甲1の記載に甲2及び甲3の記載を合わせ考慮しても、甲1発明2及び甲1発明1の外因性レポーター遺伝子である「緑色蛍光タンパク質」を「赤色蛍光タンパク質(RFP)」に変更する動機付けを見いだすことはできない。 したがって、甲1発明2において相違点1を、また、甲1発明1において相違点3を容易に想到し得るとはいえないから、本件発明1に係る相違点2及び本件発明9に係る相違点4を検討するまでもなく、本件発明1及び本件発明9は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件発明2~8及び9~13について 本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、本件発明9~13は、本件発明9の発明特定事項を全て含み、本件発明9の発明特定事項をさらに限定するものであるから、上記(イ)で検討したことと同様の理由により、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (エ)本件発明14及び15について 申立人は、本件発明14及び15が本件発明8に係る方法に対応する構成を有するキットに係るものであって、本件発明8が甲1の記載並びに甲2及び甲3に記載された事項から当業者が容易に想到し得るものである以上、本件発明14及び15も、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。 しかし、上記(ウ)で示したとおり、本件発明8は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、申立人の主張は、その前提において誤りである。 (オ)小括 以上からみて、本件発明1~15は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 上記1(3)イ(甲4を主引例とする進歩性)の主張について (ア)甲4の記載事項 甲4には、次の事項が記載されている。なお、甲4は英語で記載されているため当審による訳文を示す。また、下線は当審が付した。 a 9頁 「鶏卵の性判別を可能にする遺伝子組み換え鶏 ・緑色蛍光タンパク質の遺伝子をZ染色体に挿入できる。確かな技術! ・産業用産卵鶏の受精卵をつくるには、次の交配を行う: Z*W雌×ZZ雄 →Z*Z又はZWの卵 ・雄の卵は導入遺伝子をもっている。→胚盤における蛍光→雄の卵が選び出され除外される。 ・雌の卵は導入遺伝子をもたない。これらは将来の産卵鶏となるように培養される。 ・→産卵鶏と消費卵はGMではない。」 b 10頁 「無傷の卵から蛍光を測定することができるか? ・培養されていない卵子の胚盤が±5000個の細胞を含む ・胚ゲノムの発現は、卵が産み落とされる前に始まる。」 c 11頁 「無傷の卵から蛍光を測定することができるか? 卵殻の蛍光(白卵、繊維) [図:0001423425000008.jpg] 卵殻の光透過性(波長依存性) [図:0001423425000009.jpg] 結論:できる」 (イ)甲4に記載された発明の認定 a 甲4の「鶏卵の性判別を可能にする遺伝子組み換え鶏」と題される9頁に、「緑色蛍光タンパク質の遺伝子をZ染色体に挿入できる。確かな技術!」との記載に続いて、「Z*W雌」との記載がある(上記(ア)a)から、甲4には、「確かな技術」により「緑色蛍光タンパク質の遺伝子をZ染色体に挿入」した「Z*W雌」が記載されているといえる。 以上からみて、甲4には、次の発明が記載されていると認められる。 「緑色蛍光タンパク質の遺伝子をZ染色体に挿入したZ*W雌」に係る発明(以下「甲4発明1」という。) b 甲4の「鶏卵の性判別を可能にする遺伝子組み換え鶏」と題される9頁には、上記aで示した記載に加え、「Z*W雌」と「ZZ雄」を交配することで、「Z*Z又はZWの卵」が得られることに続いて、「雄の卵は導入遺伝子をもっている。→胚盤における蛍光→雄の卵が選び出され除外される。」こと、及び「雌の卵は導入遺伝子をもたない。これらは将来の産卵鶏となるように培養される。」ことが記載されている(上記(ア)a)。これらの記載と、上記aで示した記載とから、甲4には、次の発明が記載されていると認められる。 「緑色蛍光タンパク質の遺伝子をZ染色体に挿入したZ*W雌とZZ雄との交配によって得られる卵であって、Z*Z雄卵又はZW雌卵のいずれかであることにより卵の性が選択される」ことに係る発明(以下「甲4発明2」という。) (ウ)本件発明1について a 対比 本件発明1と甲4発明2を対比する。 甲4発明2の「緑色蛍光タンパク質の遺伝子をZ染色体に挿入したZ*W雌」は、本件発明1の(a)の「性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの位置または場所に取り込まれた少なくとも1つの外因性レポーター遺伝子を含む少なくとも1つのトランスジェニック鳥類対象」に相当する。 「卵」は、殻内の胚を含み、孵化していないものであることが当業者に明らかであるから、甲4発明2の「緑色蛍光タンパク質の遺伝子をZ染色体に挿入したZ*W雌とZZ雄との交配によって得られる卵」は、本件発明1の(b)の「前記トランスジェニック鳥類対象からの少なくとも1つの前記殻内の胚を含む孵化していない卵」に相当する。 上記第4の2(3)イ(イ)aにおける「蛍光タンパク質」に関する検討も踏まえれば、甲4発明2の「Z*Z雄卵又はZW雌卵のいずれかであることにより卵の性が選択される」は、本件発明1の(c)の「少なくとも1つの検出可能なシグナルが検出されたかを前記孵化していない卵の殻内の胚において決定するステップであって、前記少なくとも1つの検出可能なシグナルの検出は、前記孵化していない卵の殻内の胚における前記少なくとも1つのレポーター遺伝子の発現を示し、それにより、前記胚における前記Z染色体またはW染色体の存在が示され、それにより、前記殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性を決定するステップ」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲4発明2は、 「殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性決定方法であって、 (a)性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの位置または場所に取り込まれた少なくとも1つの外因性レポーター遺伝子を含む少なくとも1つのトランスジェニック鳥類対象を提供するステップと、 (b)前記トランスジェニック鳥類対象からの少なくとも1つの前記殻内の胚を含む孵化していない卵を得るステップと、 (c)少なくとも1つの検出可能なシグナルが検出されたかを前記孵化していない卵の殻内の胚において決定するステップであって、前記少なくとも1つの検出可能なシグナルの検出は、前記孵化していない卵の殻内の胚における前記少なくとも1つのレポーター遺伝子の発現を示し、それにより、前記胚における前記Z染色体またはW染色体の存在が示され、それにより、前記殻内の胚を含む孵化していない卵内の鳥類の胚の性を決定するステップと、を含む、方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点5> 本件発明1では、卵の胚が含まれる殻が「構造的に一体」の殻であり、外因性レポーター遺伝子が「赤色蛍光タンパク質(RFP)」であるのに対して、甲4発明2では、前記殻について特定がなく、外因性レポーター遺伝子が「緑色蛍光タンパク質」である点。 <相違点6> 鳥類の胚の性が、本件発明1は、「前記胚の発生の1日目~10日目に決定され」るものであるのに対し、甲1発明2では、この点に関する特定がない点。 b 判断 まず、相違点5について検討する。 甲4の「無傷の卵から蛍光を測定することができるか?」と題される10頁及び11頁の記載からみて、甲4には、卵に傷をつけることなく、卵からの蛍光を測定することが記載されているといえる((上記(ア)b及びc)。また、甲4の11頁には、卵殻の蛍光特性や、卵殻の光透過性の波長依存性を示すグラフも記載されている。しかし、これらの記載は、甲4発明2の「緑色蛍光タンパク質」では所望の検出に不都合が生じるなど、「緑色蛍光タンパク質」を用いることの問題点を示唆するものではなく、ましてや、「緑色蛍光タンパク質」にかえて「赤色蛍光タンパク質(RFP)」を用いることを示唆するものでもない。 そこで、甲5及び甲6の記載を検討する。なお、甲5及び甲6は英語で記載されているため当審による訳に基づいた要点を示す。 甲5は、「可視光透過による鶏卵の早期胚発生の検出」と題される文献であり、鶏卵の外から光を照射することが記載されているにとどまり(204頁の要旨)、卵の内部から発する蛍光を検出することに関する記載はなく、ましてや、「赤色蛍光タンパク質(RFP)」に関する記載もない。また、甲6は、「食肉鶏及び産卵鶏に育てるための卵の卵殻のスペクトルと特性に及ぼす卵殻および卵サイズの影響」と題される文献であり、卵の内部から発する蛍光を検出することに関する記載はなく、ましてや、「赤色蛍光タンパク質(RFP)」に関する記載もない。 そうすると、甲4の記載に甲5及び甲6の記載を合わせ考慮しても、甲4発明2の外因性レポーター遺伝子である「緑色蛍光タンパク質」を「赤色蛍光タンパク質(RFP)」に変更する動機付けを見いだすことはできない。 したがって、相違点5のその余の点を検討するまでもなく、甲4発明2において、相違点5を容易に想到し得るとはいえないから、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (エ)本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1の発明特定事項をさらに限定するものであるから、上記(ウ)で検討したことと同様の理由により、甲4に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (オ)本件発明9について a 対比 本件発明9と甲4発明1を対比すると、甲4発明1の「緑色蛍光タンパク質の遺伝子をZ染色体に挿入したZ*W雌」と遺伝子導入がない雄親鶏との交配によって産生される卵は、甲4発明2で検討したとおり、性染色体ZWを有し緑色蛍光タンパク質遺伝子を持たない雌卵と性染色体Z*Zを有し緑色蛍光タンパク質遺伝子を持つ雄卵のいずれかであることにより性が選択され得るものであるから、本件発明9と甲4発明1は、 「性染色体ZまたはWの一方内の少なくとも1つの遺伝子座に取り込まれた少なくとも1つの外因性レポーター遺伝子を含む鳥類トランスジェニック対象であって、前記少なくとも1つのレポーターの発現が、鳥類の胚の性の識別に好適であり、前記鳥類の胚が、殻内の胚を含む孵化していない卵内にある、鳥類トランスジェニック対象。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点7> 本件発明9では、卵の胚が含まれる殻が「構造的に一体」の殻であり、外因性レポーター遺伝子が「赤色蛍光タンパク質(RFP)」であるのに対して、甲4発明1では、前記殻について特定がなく、外因性レポーター遺伝子が「緑色蛍光タンパク質」である点。 <相違点8> 性の識別に好適であるとされる鳥類の胚が、本件発明9は、「胚の発生の1日目~10日目」のものであるのに対し、甲4発明1では、この点に関する特定がない点。 b 判断 まず、相違点7について検討する。 上記(ウ)bで検討したとおり、甲4の記載に甲5及び甲6の記載を合わせ考慮しても、甲4発明1の外因性レポーター遺伝子である「緑色蛍光タンパク質」を「赤色蛍光タンパク質(RFP)」に変更する動機付けを見いだすことはできない。 したがって、相違点7のその余の点を検討するまでもなく、甲4発明1において、相違点7を容易に想到し得るとはいえないから、相違点8について検討するまでもなく、本件発明9は、甲4に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (カ)本件発明10~13について 本件発明10~13は、本件発明9の発明特定事項を全て含み、本件発明9の発明特定事項をさらに限定するものであるから、上記(オ)で検討したことと同様の理由により、甲4に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (キ)本件発明14及び15について 申立人は、本件発明14及び15が本件発明8に係る方法に対応する構成を有するキットに係るものであって、本件発明8が甲4の記載並びに甲5及び甲6に記載された事項から当業者が容易に想到し得るものである以上、本件発明14及び15も、甲4に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。 しかし、上記(エ)で示したとおり、本件発明8は、甲4に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、申立人の主張は、その前提において誤りである。 (ク)小括 以上からみて、本件発明1~15は、甲4に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、異議申立人が申立てた特許異議申立理由の理由1、理由2及び理由4は理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1~15に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件請求項1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法114条4項の規定により、本件請求項1~15に係る発明について結論のとおり決定する。

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2023-700537

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