特許異議申立
2023-701214
生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法
- 審判番号
- 2023-701214
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-518354
- 登録番号
- 7276328
- 請求日
- 2023年11月17日
- 審決日
- 2024年02月27日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋紡株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】井上 憲介
- 審判長/審判官
- 審判長 福井 悟
- 審判官 中根 知大
- 審判官 高堀 栄二
- 分類
- P1651.113-Y (C12Q) / P1651.121-Y (C12Q) / P1651.536-Y (C12Q) / P1651.537-Y (C12Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7276328号発明「生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7276328号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7276328号(請求項の数8。以下、「本件特許」という。)は、令和1年5月10日(優先権主張 平成30年5月10日)を国際出願日とする特願2020-518354号の請求項1~8に係る発明について、令和5年5月10日に特許権の設定登録がされ、特許掲載公報が令和5年5月18日に発行されたものである。
その後、令和5年11月17日に、本件特許の請求項1~8に係る特許に対して、特許異議申立人である井上憲介(以下、「申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
よって、本件特許異議の申立てに係る審理対象は、全ての請求項に係る特許についてであり、審理対象外の請求項は存しない。
第2 本件発明
本件特許第7276328号の請求項1~8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1~8に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」~「本件発明8」といい、それらを総称して、「本件発明」という。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。
「【請求項1】
酸化還元発色試薬のカップラーとして、4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含有することを特徴とする、生体成分の測定感度低下抑制剤。
【請求項2】
前記生体成分測定法が以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法であって、(d)の要件を満たす試薬中に添加して用いることを特徴とする、請求項1に記載の生体成分の測定感度低下抑制剤。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとして、4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を含む。
【請求項3】
4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体成分の測定感度低下抑制剤。
【請求項4】
酸化還元発色試薬のカップラーとして、4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制方法であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を用いることを特徴とする、生体成分の測定感度低下の抑制方法。
【請求項5】
以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法における測定感度低下の抑制方法であって、(d)の要件を満たす試薬中に、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を添加することを特徴とする、生体成分の測定感度低下の抑制方法。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとして、4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を含む。
【請求項6】
4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを特徴とする、請求項4又は5に記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。
【請求項7】
前記(d)の要件を満たす試薬中に共存させたピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤の濃度が20~2000mMであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。
【請求項8】
前記生体成分が、クレアチニン又は糖化ヘモグロビンのいずれかであることを特徴とする、請求項4乃至は7のいずれかに記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。」
第3 申立人が申し立てた特許異議申立理由
申立人が申し立てた特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
申立理由の概要
(1)申立理由1
本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2
本件発明1~6、8は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。また、本件発明7は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3
ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)若しくはその塩(以下、「PIPES類」ともいう)又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン若しくはその塩(以下、「Tris類」ともいう)のいずれかの緩衝剤と4-ヒドロキシアンチピリンを特定の条件で保存した場合や4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が特定の範囲である場合以外については、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下の抑制効果が得られることは理解できないこと、及び、緩衝剤として「PIPES-NaOH」を用いた対照(b)では、測定感度低下が抑制できず、本件特許明細書の記載から、PIPES、Tris及びそれらの塩から成る群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を用いれば、測定感度低下の抑制効果が得られることを当業者が認識できないことから、本件発明1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2.証拠方法
甲第1号証:特開2014-155487号公報
甲第2号証:特開2008-37862号公報
甲第3号証:特開2019-195300号公報
甲第4号証:特開2019-196993号公報
甲第5号証:株式会社同仁化学研究所生化学用緩衝剤: pH 6.1-7.5製品カタログ
(https://www.dojindo.co.jp/products/GB15/の写し)
(以下、「甲第1号証」~「甲第5号証」を、それぞれ「甲1」~「甲5」という。)
第4 当審の判断
当審は、申立人が主張する上記の申立理由は、いずれも理由がなく、ほかに本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件発明1~8に係る特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきものと判断する。
1.本件明細書等の記載
本件明細書等には、以下の事項が記載されている。(下線は当審による。)
本a
「【0005】
本発明者らは、アミノアンチピリン系化合物および水素供与体を用いた酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系の生体成分測定試薬を調製し、それを生体成分測定に用いるにあたり、原因不明の測定感度の低下を経験した。
【0006】
測定感度の低下の程度は、測定のために調製した試薬組成物のロットによりばらつきがあったため、本発明者らは、測定キットの試薬組成について種々検討した。その結果、意外なことに、4-アミノアンチピリン中に極微量の4-ヒドロキシアンチピリン(以下、4HAとも表記する。)という物質が存在することを見出した。理論に束縛されることは望まないが、4-ヒドロキシアンチピリンが試薬中に存在した場合、構造上4-ヒドロキシアンチピリンは水素供与体とカップリング反応しないが、過酸化水素存在下、4-ヒドロキシアンチピリンとペルオキシダーゼが反応し、過酸化水素が消費されると考えられるため、その結果、検体中の測定対象物質に酵素を反応させて発生した過酸化水素が4-ヒドロキシアンチピリンに消費されることとなり、本来の4-アミノアンチピリン-水素供与体の反応で発色する発色量が減り、感度が低下すると考えられた。
【0007】
そこで、本発明は、これまでに知られていなかった上記課題を解決するために、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、予想外のことに、生体成分測定試薬キットの調製にあたり、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)若しくはその塩(以下、「PIPES類」ともいう)、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン若しくはその塩(以下、「Tris類」ともいう)のいずれかの緩衝剤を用いることで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の構成からなる。」
本b
「【0015】
本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤において、PIPES類及び/又はTris類を前記(d)の要件を満たす試薬中に添加して用いることが好ましい。
前記(d)の要件を満たす試薬中に含まれるアミノアンチピリン系の化合物は、その製造中の副産物として極微量の4-ヒドロキシアンチピリンが混入することがあり、本発明において、本発明者らはかかる4-ヒドロキシアンチピリンが生体成分の測定感度低下を生じることを見出した。さらに、本発明者らは4-ヒドロキシアンチピリンにPIPES類及び/又はTris類を共存させることによりかかる感度低下を抑制することが可能であること見出し本発明を完成した。
つまり、本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤は、前記(d)の要件を満たす試薬中にPIPES類及び/又はTris類を添加して用いることが好ましく、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを目的とするものである。」
本c
「【0023】
本発明の生体成分の測定感度低下抑制方法は、前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が、PIPES類及び/又はTris類を添加する前の濃度で、0.1~50μg/ml程度である場合に、特に効果を得られやすい。
前記PIPES類及び/又はTris類を添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が0.1μg/ml未満の場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下が1%以下であり、PIPES類及び/又はTris類を共存させることにより測定感度低下を抑制する必要性が少ない。
前記イオンを添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が50μg/mlより多い場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下を抑制するためには高濃度のPIPES類及び/又はTris類を必要とし、そのためPIPES類及び/又はTris類による副反応により測定誤差を生じやすい傾向がある。
本発明者らの検討により、一般的なアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)原薬には、0.005~0.30w/w%程度の4-ヒドロキシアンチピリンが混入していることが判明している。従って、本発明は、一例として0.01~100g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬、好ましくは0.01~10g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬、より好ましくは0.01~5g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬に用いられるのが効果的である。
なお、4-ヒドロキシアンチピリンの混入量が多い場合には、後述する4-ヒドロキシアンチピリンの除去方法などによって、予めアミノアンチピリン系化合物から4-ヒドロキシアンチピリンを除去してから生体成分測定に供することが好ましい。」
本d
「【0024】
(生体成分)
本発明の生体成分測定試薬キットが測定対象とする生体成分は特に限定されず、各種の生体成分の測定に用いることができる。例えば、本発明の生体成分測定に用いられる生体成分は、尿酸(UA)、クレアチニン(CRE)、トリグリセライド(TG)、コレステロール(CHO)、AST(GOT)、ALT(GPT)、LDH(乳酸脱水素酵素)とアイソザイム、ALP(アルカリ性フォスファターゼ)とアイソザイム、CK(クレアチンキナーゼ)とアイソザイム、アミラーゼ(Amy)とアイソザイム、リパーゼ、γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)、コリンエステラーゼ(ChE)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、カルシウム(Ca)、リン(P)〔無機リン(IP)〕、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、総蛋白(TP)、血清蛋白分画(PF)、尿素窒素(BUN)、クレアチニン(CRE)、尿酸(UA)、ビリルビン(Bil)、アンモニア、コレステロール、HDLコレステロール(HDL-C、高密度リポタンパクコレステロール)、LDLコレステロール(LDL-C、低密度リポタンパクコレステロール)、中性脂肪(トリグリセリド)(TG)、コレステロール(CHO)、BTR(BTR、総分岐鎖アミノ酸/チロシン比)、チロシン測定試薬(TYR)、血糖(BS、GLU)、1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(1,5-AG)、糖化アルブミン(GA)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)などを挙げることができるが、これらに限定されない。」
本e
「【0040】
本発明のPIPES類及び/又はTris類は、アミノアンチピリン系化合物の不純物として混入する4-ヒドロキシアンチピリンと共存させることにより、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度低下を抑制するものと推測する。
本発明のPIPES類及び/又はTris類を4-ヒドロキシアンチピリンと共存させることにより生体成分測定の感度低下が抑制される理由に関しては定かではないが、PIPES類及び/又はTris類が4-ヒドロキシアンチピリンに直接的に乃至は間接的に作用することにより、4-ヒドロキシアンチピリンに何らかの変化を生じ、その結果、4
-ヒドロキシアンチピリンがペルオキシダーゼと反応することによる過酸化水素の消費が減少し、感度低下が抑制されるものと考えられる。ここにおいて、前記4-ヒドロキシアンチピリンの変化は不可逆的であることが予想され、一旦変性して無害化された4-ヒドロキシアンチピリンは通常の生体成分測定キットの保管条件では、感度低下を引き起こすことはないと推測される。
このため、前記中間試薬にPIPES類及び/又はTris類を添加した場合などには、その後製品試薬を製造する段階においてPIPES類及び/又はTris類を除いて製品試薬を製造することが可能と考えられるが、このような製品試薬を用いて製造した生体成分の測定試薬キットやその製造方法も本発明の範囲内である。」
本f
「【0041】
本発明に用いるピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)及びその塩は、PIPESとも呼ばれるいわゆるグッド緩衝剤の一つである。PIPESの塩の形態としては、本発明の効果を奏する限り限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等を挙げることができる。PIPESの塩の形態として好ましくは、ナトリウム塩(例えば、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)二ナトリウム等)である。
【0042】
また、本発明に用いるトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及びその塩は、Tris(トリス)とも呼ばれる、周知の緩衝剤の一つである。Trisの塩の形態としては、本発明の効果を奏する限り限定されず、例えば、塩酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。Trisの塩の形態として好ましくは塩酸塩(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩、「Tris-HCl」ともいう)である。Tris-HClは、トリスの水溶液(pH 10.5程度)にHClを滴下して望みのpHに調整して用いることができる。」
本g
「【0044】
本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類は、アミノアンチピリン系化合物と共に配合した後に、アミノアンチピリン系化合物の不純物として含有される4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、配合した後に一定時間の経過させることが好ましい。
本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、保管温度が1℃~10℃では2週間乃至はそれ以上、11℃~25℃では1週間乃至はそれ以上、26℃~40℃では2日間乃至はそれ以上、41℃~60℃では5時間乃至はそれ以上、61℃~80℃では1時間乃至はそれ以上が好ましく、保管温度に依存して温度が高いほど短く、温度が低いほど長い時間が必要となる。反応させる時間の上限は特に限定されないが、例えば、10年間以下とすることができる。
なお、経過時間の上限を超えても、生体成分測定キットに用いる試薬品質の劣化を生じない限り、本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果は維持される。」
本h
「【0047】
(酸化酵素)
本発明に用いる酸化酵素は、基質から過酸化水素を発生させることができるものであれば、目的となる測定対象に応じて制限なく用いることができる。具体例としては、ウリカーゼ、サルコシンオキシダーゼ、グリセロール3リン酸オキシダーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ等を用いることができるが、これらに限定されない。市販品としては、UAO-211(東洋紡製)、SAO-351(東洋紡製)、G3O-311(東洋紡製)等が好適に用いられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。」
本i
「【0051】
(酸化還元発色試薬)
本発明の生体成分測定に用いられる酸化還元発色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色するものであれば、いかなる種類の色素を用いてもよく、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0052】
水素供与体とカップラーを用いた代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法である。
【0053】
(水素供与体)
本発明の生体成分測定法においては、トリンダー法などに用いる水素供与体として、フェノール、フェノール誘導体、アニリン誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体、ナフチルアミン、ナフチルアミン誘導体などが用いられる。
【0054】
…
【0055】
(カップラー)
これら水素供与体はカップラーと組合せて用いることができる。
【0056】
カップラーとしては、4-アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物;バニリンジアミンスルホン酸等のバニリンジアミンスルホン酸系化合物;メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)等のメチルベンズチアゾリノンヒドラゾン系化合物などを挙げることができる。」
本j
「【0098】
(実施例3)クレアチニン測定感度に及ぼす4HAの混入濃度依存性
生体成分としてクレアチニンを用いて、試薬中に混入した4HAに起因する測定感度低下に関して、4HAの混入量依存性を評価した。
下記のクレアチニン測定試薬の第二試薬に、4HAを試薬中終濃度で0.13~8.75μg/mlとなるように添加し各々の測定試薬を調製した。生体成分試料として、5mg/dLクレアチニン水溶液を用いた。
【0099】
[試薬の調製]
下記組成からなるクレアチニン測定試薬をそれぞれ調製した。ここで、4-アミノアンチピリンは、市販の4-アミノアンチピリン原体を精製し、4-ヒドロキシアンチピリンを含まない4-アミノアンチピリンを製造し、用いた。
第一試薬
PIPES-NaOH50mM pH7.4
アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡製ASO-311)3U/mL
ザルコシンオキシダーゼ(東洋紡製SAO-351)10U/mL
クレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡製CRH-229)40U/mL
カタラーゼ(東洋紡製CAO-509)130U/mL
N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン0.14g/L
第二試薬
PIPES-NaOH50mM pH7.4
クレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡製CNH-311)400U/mL
ペルオキシダーゼ(東洋紡製PEO-302)10U/mL
4-アミノアンチピリン 0.6g/L
【0100】
[測定法]
日立7180形自動分析機を用いた。試料2.7μLに第一試薬120μL添加し37℃にて5分間インキュベーションし第一反応とした。その後第二試薬を40μL添加し5分間インキュベーションし第二反応とした。第一反応および第二反応の吸光度を液量補正した各吸光度の差をとる2ポイントエンド法で546nmにおける吸光度(主波長)および800nmにおける吸光度(副波長)を測定した。主波長から副波長を引いた吸光度を算出して求めた。
なお、本測定条件での4HAの反応中の濃度は0.03~2.14μg/mlとなる。
【0101】
【表1】
[図:0001407878000001.jpg]
【0102】
結果を表1および図3に示す。第2試薬中の4HA濃度が高くなるにしたがって、試料測定感度が低下することを確認した。」
本k
「【0103】
(実施例4)TrisHCl/PIPESによる感度低下抑制効果
TrisHCl及びPIPESについて、4HAに起因する感度低下の抑制効果を確認した。
実験条件は、対照(a)以外の試薬について、クレアチニン測定試薬の第二試薬に4HAを試薬中終濃度として10μg/mlとなるように添加し、生体成分試料として5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いた以外は、実施例3と同一条件にて行った。
TrisHCl又はPIPESを所定のクレアチニン測定試薬の第二試薬中終濃度となるようにPIPES-NaOHの代わりに添加した後、それぞれ加速試験(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べた。各試薬のブランク値も同時に測定し、測定感度からブランク値を差し引いた値をSTD感度として算出した。そして、4HAを添加していない対照(a)の測定感度(mABS)に対する各試薬の測定感度(mABS)の比率〔vs対照(%)〕を算出した。また、試験に用いた各第二試薬のpHを実測した。
結果を表2に示す。
【表2】
[図:0001407878000002.jpg]
【0104】
この結果から、TrisHCl又はPIPESを共存させることにより、4HAに起因する感度低下を効果的に抑制できることを確認した。
つまり、4HAを10μg/mlとなるように添加した対照(b)の測定感度が35℃3日間で47%であるのに対して、TrisHCl又はPIPESを用いた結果では、測定感度が35℃3日間で56%~99%であった。ここで、35℃での評価は、冷蔵保存条件の加速試験に相当する。従って、冷蔵条件であっても、長期間にわたってTrisHCl又はPIPESを反応させることで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることが推察される。また、上記試験結果に示されるように、TrisHClとPIPESのいずれを用いる場合であっても、添加濃度が高くなるにつれて、より高度に感度低下を抑制できることが明らかとなった。」
本l
「【0105】
(実施例5)PIPESによる感度低下抑制効果
PIPESを用いて、4HAに起因する感度低下の抑制効果を確認した。
実験条件は、対照(a)以外の試薬について、クレアチニン測定試薬の第二試薬に4HAを試薬中終濃度として10μg/mlとなるように添加し、生体成分試料として5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いた以外は、実施例3と同一条件にて行った。
PIPESを所定の第二試薬中終濃度となるように、クレアチニン測定試薬の第二試薬に添加した後、それぞれ加速試験(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べた。各試薬のブランク値も同時に測定し、測定感度からブランク値を差し引いた値をSTD感度として算出した。そして、4HAを添加していない対照(a)の測定感度(mABS)に対する各試薬の測定感度(mABS)の比率〔vs対照(%)〕を算出した。また、試験に用いた各第二試薬のpHを実測した。
結果を表3に示す。
【表3】
[図:0001407878000003.jpg]
【0106】
この結果から、これらの成分を用いた場合であっても、4HAに起因する感度低下を抑制できることが確認された。
つまり、4HAを10μg/mlとなるように添加した対照(b)の測定感度が35℃3日間で45%であるのに対して、PIPESを用いた結果では、測定感度が35℃3日間で54%~90%であった。また、上記実施例4と同様に、PIPESの濃度が高くなるにつれて、感度低下抑制効果がより一層効果的に高められることも確認された。」
2.主な甲号証に記載された事項
(1)甲1に記載された事項
甲1には、以下の記載がある。(下線は当審による。)
甲1a
「【0009】
(生体成分測定方法)
本発明が適用される生体成分測定方法は、酵素法による生体成分測定方法であって、特に酸化酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系による方法、すなわち検体中の測定対象物質を酵素反応させて過酸化水素を発生させ、これをペルオキシダーゼの存在下で発色剤と反応させて比色定量する方法を利用する方法である。
この原理を用いる生体成分測定方法は既に当該技術分野において確立されている。よって、その知見を本発明に適用して、各種試料中の生体成分の量または濃度を測定することができ、その態様は特に制限されない。
例えば、尿酸(UA)、クレアチニン(CRE)、トリグリセライド(TG)、コレステロール(CHO)などの生体成分等を測定するための方法が例示できる。」
甲1b
「【0017】
(酸化還元発色試薬)
本発明に用いる酸化還元系発色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色するものであれば、いかなる種類の色素を用いてもよく、例えば水素供与体とカップラー、ロイコ体、テトラゾリウム塩等が挙げられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0018】
水素供与体とカップラーを用いた代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法である。
トリンダー法などに用いる水素供与体としては、フェノール、フェノール誘導体、アニリン誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体、ナフチルアミン、ナフチルアミン誘導体等が知られている。
たとえば、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-スルホプロピルアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-2,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン等が挙げられる。また、これら水素供与体はカップラーと組合せて用いることができる。
また、カップラーとしては4-アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)等が知られている。」
甲1c
「【0024】
本発明には、緩衝液成分を含有させることが好ましい。緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、GOOD緩衝液などが挙げられる。その使用量や設定pH、添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
GOOD緩衝液としては、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノメタンスルホン酸(TES)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、3-〔N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ〕-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕プロパンスルホン酸(EPPS)、2-ヒドロキシ-3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕プロパンスルホン酸(HEPPSO)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)(POPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、N-(2-アセトアミド)イミノニ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N-〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕グリシン(Tricine)、などが例示される。」
甲1d
「【実施例】
【0032】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
下記のクレアチニン測定試薬の第一試薬に、AAQ-2を試薬中終濃度で0.01mmol/L~100mmol/Lになるように調製して測定試薬とした。
試料として、液状ネスコールN(アルフレサファーマ社)に試料中終濃度が20μg/mLとなるように塩酸ドブタミンを加え、塩酸ドブタミンを加えていない液状ネスコールNを対照として影響度を確認した。
比較例として、AAQ-2を添加していないクレアチニン測定試薬で同様の検討を行なった。
【0033】
(試薬の調製)
下記組成からなるクレアチニン測定試薬をそれぞれ調製した。
第一試薬
PIPES-NaOH 50mM pH7.4
アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡社製ASO-311) 3U/mL
ザルコシンオキシダーゼ(東洋紡社製SAO-351) 10U/mL
クレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡社製CRH-229) 40U/mL
カタラーゼ(東洋紡社製CAO-509) 130U/mL
N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン 0.14g/L
第二試薬
PIPES-NaOH 50mM pH7.4
クレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡社製CNH-311) 400U/mL
ペルオキシダーゼ(東洋紡社製PEO-302) 10U/mL
4-アミノアンチピリン 0.6g/L
【0034】
(測定法)
日立7180形自動分析機を用いた。試料2.7μLに第一試薬120μL添加し37℃にて5分間インキュベーションし第一反応とした。その後第二試薬を40μL添加し5分間インキュベーションし第二反応とした。第一反応および第二反応の吸光度を液量補正した各吸光度の差をとる2ポイントエンド法で546nmにおける吸光度を測定した。
クレアチニン濃度未知試料のクレアチニン濃度の算出は、精製水および5mg/dLクレアチニン水溶液の測定吸光度より算出して求めた。
【0035】
【表1】
[図:0001407878000004.jpg]
【0036】
結果を表1に示す。比較例およびAAQ-2の添加量が0.5mmol/L以下または50mmol/L以上の場合と比較し、添加量が1.0~10mmol/Lの場合はドブタミンの影響を回避できる結果であった。添加量が2.0~5.0mmol/Lの場合は、さらに好ましい結果が得られた。」
(2)甲2に記載された事項
甲2には、以下の記載がある。(下線は当審による。)
甲2a
「【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】
[図:0001407878000005.jpg]
(式中、R1は水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、R2はアミド置換アルキル基を表し、R5は水素原子又はフッ素原子を表し、R3、R4、R6及びR7は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアルコキシル基を表し、ここで、R3、R4、R6及びR7からなる群より選ばれる少なくとも1つの基は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、残りの基のうち少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基を表す)で表されるアニリン誘導体又はその塩。」
甲2b
「【請求項7】
試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換し、又は、試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させ、過酸化活性物質の存在下、該過酸化水素を、請求項1~6のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩、及び、カップラーと反応させ、生成する色素を測定することを特徴とする試料中の定量すべき成分の定量方法。
【請求項8】
カップラーが、4-アミノアンチピリンである、請求項7記載の定量方法。
【請求項9】
過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼである、請求項7又は8記載の定量方法。」
甲2c
「【0001】
本発明は、アニリン誘導体又はその塩、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量用試薬及び定量用キットに関する。」
甲2d
「【0003】
オキシダーゼにより生成した過酸化水素を過酸化活性物質の存在下に色素に変換する際に使用される酸化発色剤としては、例えばロイコ型発色試薬やカップリング型発色試薬等が知られている。ロイコ型発色試薬はそれ自体が酸化されて色素を生成する発色試薬である。カップリング型発色試薬は、2成分が酸化縮合反応して色素を生成する発色試薬であり、2つの成分を、別々の試薬容器中に含有させて保存できることから、定量用キットに汎用されている。カップリング型発色試薬における2つの成分は、4-アミノアンチピリン等のカップラーと、フェノール誘導体又はアニリン誘導体である。」
甲2e
「【0007】
本発明の目的は、試料中のビリルビンによる影響、及び、試薬液等に共存するアジ化ナトリウム等のアジ化物による影響を受けにくい酸化発色剤等として有用なアニリン誘導体又はその塩、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量用試薬及び定量用キットを提供することにある。」
甲2f
「【0017】
本発明により、試料中のビリルビンによる影響、及び、アジ化ナトリウム等のアジ化物を含有する試薬による影響を受けにくい酸化発色剤等として有用なアニリン誘導体又はその塩、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量試薬及び定量用キットが提供される。」
甲2g
「【0027】
…
本発明の化合物(I)の具体例としては、N-[2-(サクシニルアミノ)エチル]-2-メトキシ-5-メチルアニリン(MASE)、N-エチル-N-[2-(サクシニルアミノ)エチル]-2-メトキシ-5-メチルアニリン(Et-MASE)等があげられる。」
甲2h
「【0045】
試料中の定量すべき成分と、試料中の定量すべき成分から直接、過酸化水素を生成させる試薬との組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせを挙げることができる。
…
試料中の定量すべき成分と、試料中の定量すべき成分を間接的に過酸化水素に変換する試薬との組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせを挙げることができる。
・クレアチニン:クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、及び、ザルコシンオキシダーゼを含有する試薬
…
・総コレステロール(全てのリポタンパク中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの):コレステロールエステラーゼ、及び、コレステロールオキシダーゼを含有する試薬
…
・HbA1c:プロテアーゼ、及び、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ若しくはフルクトシルペプチドオキシダーゼを含有する試薬
…
本発明の、試料中の定量すべき成分の定量用試薬は、化合物(I)、カップラー、過酸化活性物質、並びに、試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換する試薬又は試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる試薬を含有することを特徴とする。」
甲2i
「【0049】
グッドの緩衝剤としては、例えば2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、N-〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、3-〔N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ〕-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、N-〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO)、3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(HEPPSO)、3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕プロパンスルホン酸〔(H)EPPS〕、N-〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕グリシン(Tricine)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、N-シクロヘキシル-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(CAPSO)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)等があげられる。
【0050】
緩衝液の濃度は測定に適した濃度であれば特に制限はされないが、0.001~2.0mol/Lが好ましく、0.005~1.0mol/Lがより好ましい。
…」
甲2j
「【実施例3】
【0057】
総トリグリセライド定量用キット
以下の第1試薬(試薬A)及び第2試薬(試薬a)からなる総トリグリセライド測定用キットを調製した。
第1試薬(試薬A)
PIPES(pH6.25) 50 mmol/L
MASE 0.3 g/L
ATP・二ナトリウム塩 2.5 g/L
グリセロールキナーゼ 1 kU/L
グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ 8 kU/L
アスコルビン酸オキシダーゼ 3 kU/L
エマルゲン709 0.1%
トリトンDF-16 0.067%
アデカトールPC-8 0.1%
第2試薬(試薬a)
PIPES(pH6.25) 10 mmol/L
4-アミノアンチピリン 0.5 g/L
ペルオキシダーゼ 20 kU/L
リポプロテインリパーゼ 1 kU/L
エマルゲンA-60 0.30%
エマルゲンA-90 0.35%
…」
3.申立理由1(甲1を主引例とする新規性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
PIPES-NaOHがクレアチニン測定試薬の添加剤に含まれることからすると、甲1の実施例1(甲1d)の記載より、甲1には、次の「甲1発明1」、「甲1発明2」が記載されていると認められる。
ア 甲1発明1
「下記組成からなるクレアチニン測定試薬で使用されるPIPES-NaOHを含有する添加剤
第一試薬
PIPES-NaOH50mM pH7.4
アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡社製ASO-311)3U/mL
ザルコシンオキシダーゼ(東洋紡社製SAO-351)10U/mL
クレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡社製CRH-229)40U/mL
カタラーゼ(東洋紡社製CAO-509)130U/mL
N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン0.14g/L
第二試薬
PIPES-NaOH50mM pH7.4
クレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡社製CNH-311)400U/mL
ペルオキシダーゼ(東洋紡社製PEO-302)10U/mL
4-アミノアンチピリン 0.6g/L」
イ 甲1発明2
「下記組成からなるクレアチニン測定試薬で添加剤としてPIPES-NaOHを使用する方法
第一試薬
PIPES-NaOH50mM pH7.4
アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡社製ASO-311)3U/mL
ザルコシンオキシダーゼ(東洋紡社製SAO-351)10U/mL
クレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡社製CRH-229)40U/mL
カタラーゼ(東洋紡社製CAO-509)130U/mL
N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン0.14g/L
第二試薬
PIPES-NaOH50mM pH7.4
クレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡社製CNH-311)400U/mL
ペルオキシダーゼ(東洋紡社製PEO-302)10U/mL
4-アミノアンチピリン 0.6g/L」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明1との対比
本件明細書等の段落【0056】(本i)には、「4-アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物」との記載があることから、甲1発明1の「4-アミノアンチピリン」は、本件発明1の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。
甲1の段落【0017】(甲1b)には、酸化還元系発色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色するものであれば、いかなる種類の色素を用いてもよく、例えば水素供与体とカップラー等が挙げられることが記載されている。そして、段落【0018】(甲1b)には、水素供与体とカップラーを用いた代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法であること、トリンダー法などに用いる水素供与体としては、アニリン誘導体等が知られており、例えば、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン等が挙げられること、及び、カップラーとしては4-アミノアンチピリン等が知られていることが記載されている。
そうすると、甲1発明1の「N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン」及び「4-アミノアンチピリン」は、それぞれ酸化還元系発色試薬における水素供与体とカップラーであるといえ、甲1発明1の試薬において「4-アミノアンチピリン」は、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられたものであるといえる。
本件明細書等の段落【0024】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、クレアチニンが例示されていることから、甲1発明1の「クレアチニン測定試薬」は、「生体成分測定法に適用される」ものであるといえる。
甲1発明1の「PIPES-NaOH」とは、PIPESをNaOHでpH調整したもの、すなわち、PIPESのナトリウム塩であると解される。そして、本件明細書等の段落【0041】(本f)には、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)及びその塩は、PIPESとも呼ばれるいわゆるグッド緩衝剤の一つであること、及び、PIPESの塩の形態としては、ナトリウム塩等が挙げられることが記載されているから、甲1発明1の「PIPES-NaOH」は、本件発明1の「ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)…の塩」である「緩衝剤」に相当し、また、甲1発明1の「PIPES-NaOH」は、甲1発明1の試薬、すなわち、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられた「4-アミノアンチピリン」を含み、且つ、「生体成分測定法に適用される」「試薬」で使用される添加剤であるから、本件発明1の「酸化還元発色試薬のカップラーとして」「アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される」「剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される剤であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)の塩である緩衝剤を含有する、剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明1では、「ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)の塩である緩衝剤を含有する、剤」が、「4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」であることが特定されているのに対し、
甲1発明1では、そのような特定がない点
イ 判断
本件明細書等の段落【0005】~【0008】(本a)には、アミノアンチピリン系化合物および水素供与体を用いた酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系の生体成分測定試薬を調製し、それを生体成分測定に用いるにあたり、原因不明の測定感度の低下を経験したこと、測定感度の低下の程度は、測定のために調製した試薬組成物のロットによりばらつきがあったため、測定キットの試薬組成について種々検討した結果、4-アミノアンチピリン中に極微量の4-ヒドロキシアンチピリンという物質が存在することを見出したこと、及び、4-ヒドロキシアンチピリンが試薬中に存在した場合、本来の4-アミノアンチピリン-水素供与体の反応で発色する発色量が減り、感度が低下すると考えられたことから、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供することを課題とし、生体成分測定試薬キットの調製にあたり、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)若しくはその塩(以下、「PIPES類」ともいう)、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン若しくはその塩(以下、「Tris類」ともいう)のいずれかの緩衝剤を用いることで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至ったことが記載されている。そして、このことを裏付ける実験結果として、実施例3(本j)では、4-ヒドロキシアンチピリンに起因して試料測定感度が低下することが実際に確認されており、実施例4、5(本k、本l)では、TrisHCl又はPIPESの濃度を調整することで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることが示されている。
一方、甲1には、4-アミノアンチピリンが4-ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4-ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲1発明1の試薬で使用されるPIPES-NaOHの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。
そうすると、本件発明1は、「ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤」について、未知の属性を発見し、その属性により、「ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤」が、相違点1-1として挙げた「4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」という新たな用途に使用できることを見出したことに基づく発明であると認められるので、本件発明1は、相違点1-1により甲1発明1と実質的に相違するものである。
なお、申立人は異議申立書において、下記(ア)、(イ)のとおり主張する。
(ア)本件特許明細書の段落【0015】、【0023】の記載、甲3及び甲4の実施例5の記載はいずれも、本件優先日当時、市販の4-アミノアンチピリン原体には4-ヒドロキシアンチピリンが含まれていたとの事実が存在したことを示すものといえるから、アミノアンチピリン系化合物に「4-ヒドロキシアンチピリン」を含有することについて甲1に明示的な記載がないとしても、甲1に記載された発明の4-アミノアンチピリンには当然に4-ヒドロキシアンチピリンが含有されていたといえるから、かかる点は相違点を構成しない。
(イ)甲1には、PIPES類又はTris類の緩衝剤を用いることによって測定感度低下を抑制することについて明示的な記載はないものの、甲1に記載された発明において、4-アミノアンチピリンには4-ヒドロキシアンチピリンが含まれており、PIPES類又はTris類の緩衝剤により4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下の抑制効果は既に発揮されていたといえるから、本件発明1も甲1に記載された発明も、4-ヒドロキシアンチピリンを含む4-アミノアンチピリンを用いた生体成分測定法において、PIPES類又はTris類を緩衝剤として用いており、何ら差異はない。
しかし、本件明細書、甲3、4は、甲1発明1の4-アミノアンチピリンに4-ヒドロキシアンチピリンが含まれていることを、本件特許の優先日前の当業者が認識していたことを示すものではないし、そうである以上、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下に対して、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤が濃度に応じて作用して、上記緩衝剤が有する未知の属性に基づく測定感度低下抑制剤という新たな用途を提供することについて、上記の当業者は推知することができなかったといえる。
よって、甲1発明1の4-アミノアンチピリンに4-ヒドロキシアンチピリンが含まれていること、及び、上記緩衝剤が測定感度低下抑制効果を潜在的に有することは、上記の用途発明に係る判断を左右するものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
以上のとおり、上記相違点1-1は実質的な相違点である。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明1と相違点1-1で実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、少なくとも相違点1-1で甲1発明1と実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。
(4)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1発明2との対比
上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明4と甲1発明2とを対比すると、両者は、
「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される方法であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)の塩である緩衝剤を用いる、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-2>
本件発明4では、「…緩衝剤を用いる、方法」が、「4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制方法」であることが特定されているのに対し、
甲1発明2では、そのような特定がない点
イ 判断
甲1には、4-アミノアンチピリンが4-ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4-ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲1発明2の試薬に添加されるPIPES-NaOHの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由もなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。
そうすると、本件発明4と甲1発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点1-2により実質的に相違点するものである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明4は、甲1発明2と相違点1-2で実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。
(5)本件発明5について
ア 本件発明5と甲1発明2との対比
本件明細書等の段落【0047】(本h)には、「本発明に用いる酸化酵素は、基質から過酸化水素を発生させることができるものであれば、目的となる測定対象に応じて制限なく用いることができる。具体例としては、…サルコシンオキシダーゼ…等を用いることができる」と記載されていることから、甲1発明2の「ザルコシンオキシダーゼ」は、本件発明5の「過酸化水素を発生させることができる酸化酵素」に相当する。
甲1の段落【0017】(甲1b)には、酸化還元系発色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色するものであれば、いかなる種類の色素を用いてもよく、例えば水素供与体とカップラー等が挙げられることが記載されている。そして、段落【0018】(甲1b)には、水素供与体とカップラーを用いた代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法であること、トリンダー法などに用いる水素供与体としては、アニリン誘導体等が知られており、例えば、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン等が挙げられること、及び、カップラーとしては4-アミノアンチピリン等が知られていることが記載されている。
したがって、甲1発明2の「N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン」及び「4-アミノアンチピリン」は、本件発明5の「ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬」に相当する。また、甲1発明2の「4-アミノアンチピリン」は、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。
甲1発明2の「クレアチニン測定試薬」は、「第一試薬」と「第二試薬」からなるものであるから、本件発明5の「試薬セット」に相当する。また、本件明細書等の段落【0024】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、クレアチニンが例示されていることから、甲1発明2の「クレアチニン測定試薬」は、「生体成分測定法」において「使用する」ものであるといえる。
さらに、上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明5と甲1発明2とを対比すると、両者は、
「以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬セットを使用する生体成分測定法における方法であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)の塩である緩衝剤を添加する、方法。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を含む。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-3>
本件発明5では、「4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物」の要件を満たす(d)の「試薬中に…緩衝剤を添加」する「生体成分の測定感度低下の抑制方法」と規定されているのに対し、
甲1発明2では、そのような特定がされていない点
イ 判断
甲1には、4-アミノアンチピリンが4-ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4-ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲1発明2の試薬に添加されるPIPES-NaOHの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由もなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。
そうすると、本件発明5と甲1発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点1-3により実質的に相違点するものである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明5は、甲1発明2と相違点1-3で実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。
(6)本件発明6~8について
本件発明6~8は、本件発明4又は5を直接又は間接的に引用するものであり、甲1発明2と少なくとも相違点1-2又は相違点1-3で実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。
(7)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1(甲1を主引例とする新規性欠如)には、理由がない。
4.申立理由2(甲2を主引例とする新規性・進歩性欠如)について
(1)甲2に記載された発明
PIPESがキットの添加剤に含まれることから、甲2の実施例3(甲2j)の記載より、甲2には、次の「甲2発明1」、「甲2発明2」が記載されていると認められる。
ア 甲2発明1
「以下の第1試薬(試薬A)及び第2試薬(試薬a)からなる総トリグリセライド測定用キットで使用されるPIPESを含有する添加剤
第1試薬(試薬A)
PIPES(pH6.25) 50 mmol/L
MASE 0.3 g/L
ATP・二ナトリウム塩 2.5 g/L
グリセロールキナーゼ 1 kU/L
グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ 8 kU/L
アスコルビン酸オキシダーゼ 3 kU/L
エマルゲン709 0.1%
トリトンDF-16 0.067%
アデカトールPC-8 0.1%
第2試薬(試薬a)
PIPES(pH6.25) 10 mmol/L
4-アミノアンチピリン 0.5 g/L
ペルオキシダーゼ 20 kU/L
リポプロテインリパーゼ 1 kU/L
エマルゲンA-60 0.30%
エマルゲンA-90 0.35%」
イ 甲2発明2
「以下の第1試薬(試薬A)及び第2試薬(試薬a)からなる総トリグリセライド測定用キットで添加剤としてPIPESを使用する方法
第1試薬(試薬A)
PIPES(pH6.25) 50 mmol/L
MASE 0.3 g/L
ATP・二ナトリウム塩 2.5 g/L
グリセロールキナーゼ 1 kU/L
グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ 8 kU/L
アスコルビン酸オキシダーゼ 3 kU/L
エマルゲン709 0.1%
トリトンDF-16 0.067%
アデカトールPC-8 0.1%
第2試薬(試薬a)
PIPES(pH6.25) 10 mmol/L
4-アミノアンチピリン 0.5 g/L
ペルオキシダーゼ 20 kU/L
リポプロテインリパーゼ 1 kU/L
エマルゲンA-60 0.30%
エマルゲンA-90 0.35%」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明1との対比
本件明細書等の段落【0056】(本i)には、「4-アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物」との記載があることから、甲2発明1の「4-アミノアンチピリン」は、本件発明1の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。
本件明細書等の段落【0051】~【0052】(本i)には、酸化還元発色試薬としては、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられ、その代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法であることが記載されている。そして、本件明細書等の段落【0053】(本i)には、トリンダー法などに用いる水素供与体として、アニリン誘導体が例示されており、本件明細書等の段落【0055】~【0056】(本i)には、水素供与体と組合せて用いるカップラーとして、4-アミノアンチピリン等のアミノアンチピリン系化合物が例示されている。
一方、甲2の請求項1(甲2a)には、下記の一般式(I)
【化1】
[図:0001407878000006.jpg]
(式中、R1は水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、R2はアミド置換アルキル基を表し、R5は水素原子又はフッ素原子を表し、R3、R4、R6及びR7は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアルコキシル基を表し、ここで、R3、R4、R6及びR7からなる群より選ばれる少なくとも1つの基は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、残りの基のうち少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基を表す)で表されるアニリン誘導体又はその塩が記載されており、請求項7~9(甲2b)には、試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換し、又は、試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させ、過酸化活性物質の存在下、該過酸化水素を、上記一般式(I)で表されるアニリン誘導体又はその塩、及び、カップラーと反応させ、生成する色素を測定する試料中の定量すべき成分の定量方法が記載されており、カップラーが、4-アミノアンチピリンであること、過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼであることも記載されている。そして、甲2の段落【0027】(甲2g)には、化合物(I)の具体例としては、N-[2-(サクシニルアミノ)エチル]-2-メトキシ-5-メチルアニリン(MASE)等があげられることが記載されている。
そうすると、甲2発明1の「MASE」及び「4-アミノアンチピリン」は、本件明細書等の段落【0051】~【0056】(本i)に酸化還元発色試薬として記載される水素供与体とカップラーの組合せであるといえ、甲2発明1の試薬において「4-アミノアンチピリン」は、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられたものであるといえる。
本件明細書等の段落【0024】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、トリグリセライドが例示されていることから、甲2発明1の「総トリグリセライド測定用キット」は、「生体成分測定法に適用される」ものであるといえる。
本件明細書等の段落【0041】(本f)には、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)及びその塩は、PIPESとも呼ばれるいわゆるグッド緩衝剤の一つであることが記載されているから、甲2発明1の「PIPES」は、本件発明1の「ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)」である「緩衝剤」に相当し、また、甲2発明1の「PIPES」は、甲2発明1のキット、すなわち、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられた「アミノアンチピリン系化合物」を含み、且つ、「生体成分測定法に適用される」「キット」で使用される添加剤であるから、本件発明1の「酸化還元発色試薬のカップラーとして」「アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される」「剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、
「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される剤であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)である緩衝剤を含有する、剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明1では、「…緩衝剤を含有する、剤」が、「4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」であることが特定されているのに対し、
甲2発明1では、そのような特定がない点
イ 判断
上記の3(2)イで検討したものと同様に、甲2には、4-アミノアンチピリンが4-ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4-ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲2発明1のキットで使用されるPIPESの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。
そうすると、本件発明1は、「ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤」について、未知の属性を発見し、その属性により、「ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤」が、相違点1-1として挙げた「4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」という新たな用途に使用できることを見出したことに基づく発明であると認められるので、本件発明1は、相違点2-1により甲2発明1と実質的に相違するものである。
なお、上記相違点2-1に関連して、申立人は異議申立書において、3(2)イに記載した(ア)の主張と同様の主張をしているが、当該主張に理由がないことは、既に述べたとおりである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明1と相違点2-1で実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、少なくとも相違点2-1で甲2発明1と実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。
(4)本件発明4について
ア 本件発明4と甲2発明2との対比
上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明4と甲2発明2とを対比すると、両者は、
「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される方法であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)である緩衝剤を用いる、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-2>
本件発明4では、「…緩衝剤を用いる、方法」が、「4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制方法」であることが特定されているのに対し、
甲2発明2では、そのような特定がない点
イ 判断
上記の3(4)イで検討したものと同様に、甲2には、4-アミノアンチピリンが4-ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4-ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲2発明2のキットに添加されるPIPESの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、そのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。
そうすると、本件発明4と甲2発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点2-2により実質的に相違するものである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明4は、甲2発明2と相違点2-2で実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。
(5)本件発明5について
ア 本件発明5と甲2発明2との対比
本件明細書等の段落【0047】(本h)には、「本発明に用いる酸化酵素は、基質から過酸化水素を発生させることができるものであれば、目的となる測定対象に応じて制限なく用いることができる。具体例としては、…グリセロール3リン酸オキシダーゼ…等を用いることができる」と記載されていることから、甲1発明2の「グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ」は、本件発明5の「過酸化水素を発生させることができる酸化酵素」に相当する。
甲2発明2の「MASE」及び「4-アミノアンチピリン」は、上記(2)アで指摘したとおり、本件明細書等に酸化還元発色試薬として記載される水素供与体とカップラーの組合せであるといえるから、本件発明5の「ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬」に相当する。また、甲2発明2の「4-アミノアンチピリン」は、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。
甲2発明2の「総トリグリセライド測定用キット」は、「第1試薬」及び「第2試薬」からなるものであるから、本件発明5の「試薬セット」に相当する。そして、本件明細書等の段落【0024】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、トリグリセライドが例示されていることから、甲2発明2の「総トリグリセライド測定用キット」は、「生体成分測定法に適用される」ものであるといえる。
さらに、上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明5と甲2発明2とを対比すると、両者は、
「以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬セットを使用する生体成分測定法における方法であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)である緩衝剤を添加する、方法。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を含む。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-3>
本件発明5では、「4-ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物」の要件を満たす(d)の「試薬中に…緩衝剤を添加」する「生体成分の測定感度低下の抑制方法」と規定されているのに対し、
甲2発明2では、そのような特定がされていない点
イ 判断
上記の3(5)イで検討したものと同様に、甲2には、4-アミノアンチピリンが4-ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4-ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲2発明2のキットに添加されるPIPESの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、そのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。
そうすると、本件発明5と甲2発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点2-3により実質的に相違するものである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明5は、甲2発明2と相違点2-3で実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。
(6)本件発明6~8について
本件発明6、8は、本件発明4又は5を直接又は間接的に引用するものであり、甲2発明2と少なくとも相違点2-2又は相違点2-3で実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明7は、本件発明4又は5を直接又は間接的に引用するものであり、甲2発明2と少なくとも相違点2-2又は相違点2-3で実質的に相違するが、これらの相違点については、上記(4)、(5)で述べたとおり、本件特許の優先日前の当業者は、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲2発明2のキットに添加されるPIPESの濃度を調整することによって抑制できることを知る由がなかったから、甲2及び他の甲号証を組み合わせても、本件発明7は、甲2発明2から当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(7)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2(甲2を主引例とする新規性・進歩性欠如)には、理由がない。
6.申立理由3(サポート要件・実施可能要件)について
(1)サポート要件、実施可能要件の考え方
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
(2)本件発明が解決しようとする課題
本件明細書等の【0007】(本a)の記載によると、本件発明が解決しようとする課題は、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供することにあるものと認められる。
(3)本件発明1のサポート要件、実施可能要件の判断
本件明細書等の段落【0008】(本a)には、生体成分測定試薬キットの調製にあたり、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)若しくはその塩(以下、「PIPES類」ともいう)、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン若しくはその塩(以下、「Tris類」ともいう)のいずれかの緩衝剤を用いることで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至ったことが記載されている。そして、本件明細書等の実施例4、5(本k、本l)では、TrisHCl又はPIPESを用いて、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下の抑制効果を確認したこと、TrisHCl又はPIPESをそれぞれ所定のクレアチニン測定試薬の第二試薬中終濃度となるように添加した後、それぞれ加速条件(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べたことが記載されている。そして、その結果を示した表2、3では、4-ヒドロシキアンチピリン(4-HA)を添加していない4-アミノアンチピリン(4-AA)を用いた対照(a)と比較して、4-ヒドロキシアンチピリンを含む4-アミノアンチピリンを用いた対照(b)の測定感度が低下しており、TrisHCl又はPIPESを所定の濃度で添加した実験No.1~8では、それぞれ各表の対応する対照(b)と比較して、測定感度が高くなっていることから、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を所定の濃度で用いることにより、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度の低下を抑制できることを具体的に確認できる。
よって、本件発明1は、当業者が、本件発明の詳細な説明の記載から、上記(2)で示した課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
したがって、本件発明1は、サポート要件を満たすものである。
また、本件発明1は、上記の本件発明の詳細な説明の記載より、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができるから、実施可能要件を満たすものである。
(4)申立人の主張について
申立人は、PIPES類/Tris類と4-ヒドロキシアンチピリンを35℃、3日間以外の温度条件及び保存期間で保存する場合や、4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が0.01mg/mL以外である場合には、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下の抑制効果が確かめられていないし、測定感度低下を抑制できることを理解できるような出願時の技術常識も存在しなかった旨主張する。
しかしながら、上記(3)で説示したとおり、本件明細書等の実施例4、5(本k、本l)の結果から、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を用いることにより、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを具体的に確認でき、本件明細書等の【0023】に「本発明の生体成分の測定感度低下抑制方法は、前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が、PIPES類及び/又はTris類を添加する前の濃度で、0.1~50μg/ml程度である場合に、特に効果を得られやすい。・・・前記イオンを添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が50μg/mlより多い場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下を抑制するためには高濃度のPIPES類及び/又はTris類を必要とし」との記載(本c)、同【0044】の「本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類は、アミノアンチピリン系化合物と共に配合した後に、アミノアンチピリン系化合物の不純物として含有される4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、配合した後に一定時間の経過させることが好ましい。本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、保管温度が1℃~10℃では2週間乃至はそれ以上、11℃~25℃では1週間乃至はそれ以上、26℃~40℃では2日間乃至はそれ以上、41℃~60℃では5時間乃至はそれ以上、61℃~80℃では1時間乃至はそれ以上が好ましく、保管温度に依存して温度が高いほど短く、温度が低いほど長い時間が必要となる。反応させる時間の上限は特に限定されないが、例えば、10年間以下とすることができる。」との記載(本g)に照らすと、実施例の保存条件や濃度条件を外れる場合であっても、上記の測定感度の低下抑制の効果は期待できるといえる。
もっとも、PIPES類/Tris類と4-ヒドロキシアンチピリンの保存条件や4-ヒドロキシアンチピリンの濃度によって、測定感度の低下抑制効果に多少の影響が生じる可能性があったとしても、そのことだけで、本件発明の上記(2)で示した課題の達成や本件発明の実施において支障が生じるとまではいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
また、申立人は、実施例4及び実施例5において、対照(b)(すなわち、緩衝剤として「PIPES-NaOH」を使用したもの)では、測定感度低下が抑制できなかったことが記載されているといえるから、本件特許明細書の記載から、PIPES、Tris及びそれらの塩から成る群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を用いれば、測定感度低下の抑制効果が得られることを当業者が認識できない旨主張する。
しかしながら、本件明細書等の段落【0103】、【0105】(本k、本l)には、それぞれ「TrisHCl又はPIPESを所定のクレアチニン測定試薬の第二試薬中終濃度となるようにPIPES-NaOHの代わりに添加した…」、「PIPESを所定のクレアチニン測定試薬の第二試薬中終濃度となるようにPIPES-NaOHの代わりに添加した…」との記載があり、表2、3中、対照(b)の緩衝剤とその濃度の欄にはそれぞれ「-」と記載されていることから、対照(b)は、PIPES-NaOHの代わりに添加したTrisHCl又はPIPESの第二試薬中終濃度は0であるもの、すなわち、PIPES-NaOH、TrisHCl、PIPESのいずれも含まないものと解するのが自然であり、上記主張はその前提に誤りがある。
もっとも、対照(b)が、PIPES-NaOHを含むものであったとしても、本件明細書等のいずれの箇所にも、対照(b)で測定感度低下が抑制できなかったことは記載されていないし、対照(b)は、別の緩衝剤を添加した実験No.1~8との比較対象として提示されたに過ぎないと解せるので、対照(b)の測定感度の数値のみをもって、PIPES、Tris及びそれらの塩から成る群より選択される少なくとも1種の緩衝剤による測定感度の低下抑制効果の理解が妨げられるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は、採用できない。
(5)本件発明2~8について
本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものなので、本件発明1と同様の理由により、実施可能要件及びサポート要件を満たすものである。
本件発明4~8は、本件発明1と同様の発明特定事項を含む発明であるので、本件発明1と同様の理由により、実施可能要件及びサポート要件を満たすものである。
(6)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3(サポート要件・実施可能要件)は、理由がない。
第5 むすび
本件特許に係る特許異議申立てにおいて申立人が主張する申立理由は、いずれも理由がないから、本件発明1~8に係る特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701214