特許異議申立
2023-700431
ベーパーチャンバーおよびベーパーチャンバーの製造方法
- 審判番号
- 2023-700431
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-182070
- 登録番号
- 7167601
- 請求日
- 2023年04月25日
- 審決日
- 2024年07月01日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】正林 真之
- 【権利者代理人】芝 哲央
- 【権利者代理人】林 一好
- 【権利者代理人】谷山 稔男
- 【権利者代理人】藤枡 裕実
- 【権利者代理人】深町 圭子
- 【権利者代理人】伊藤 英生
- 【権利者代理人】後藤 直樹
- 【権利者代理人】立石 英之
- 【異議申立人】高橋 昌義
- 審判長/審判官
- 審判長 間中 耕治
- 審判官 竹下 和志
- 審判官 槙原 進
- 分類
- P1651.121-YAA(F28D) / P1651.537-YAA(F28D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7167601号発明「ベーパーチャンバーおよびベーパーチャンバーの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7167601号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3-4について訂正することを認める。
特許第7167601号の請求項1-3、5-8に係る特許を維持する。
特許第7167601号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7167601号(以下、「本件特許」という。)の請求項1-8に係る特許についての出願は、平成30年9月27日に出願され、令和4年10月31日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月9日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 4月25日 : 特許異議申立人 高橋 昌義(以下、単に「申立人」という。)による請求項1-8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 7月20日付け: 取消理由通知
令和5年 9月21日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年10月10日付け: 訂正拒絶理由通知
令和5年10月26日 : 特許権者による意見書及び手続補正書の提出
令和5年12月 7日 : 申立人による意見書の提出
令和6年 1月 4日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和6年 2月28日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 4月 8日 : 申立人による意見書の提出
令和6年 5月20日付け: 特許権者に対する審尋
令和6年 5月30日 : 特許権者による回答書の提出
なお、令和5年10月26日に補正された令和5年9月21日に特許権者がした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 本件訂正の内容
令和6年2月28日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3-4について訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものである。
本件訂正は、特許請求の範囲の請求項3-4を、訂正前に次の(2)のとおりであったものを、訂正後に次の(1)のとおり訂正するものであり、その訂正の内容は、次の(3)の訂正事項のとおりのものである(下線は、訂正箇所を示すために、当審で付したものである。)。
(1)訂正後の請求項1-8
「【請求項1】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
平面視上、前記流路が形成されている流路領域と、該流路領域を囲む周縁領域と、を有し、
IDとして作用する光学的識別構造体が、前記周縁領域に形成されているベーパーチャンバー。
【請求項2】
前記IDとして作用する光学的識別構造体が、下地層を介して形成されている、
請求項1に記載のベーパーチャンバー。
【請求項3】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
平面視上、前記流路が形成されている流路領域を有し、
IDとして作用する光学的識別構造体が、前記流路領域に下地層を介して形成され、
前記下地層は、前記光学的識別構造体が形成される対象表面を平坦化する作用を有している、ベーパーチャンバー。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
IDとして作用する光学的識別構造体が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されているベーパーチャンバー。
【請求項6】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有し、IDとして作用する光学的識別構造体が形成されている平板状のベーパーチャンパーの製造方法であって、
前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、
研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える、ベーパーチャンバーの製造方法。
【請求項7】
前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程が、最大高さ粗さRzが1μm以下となるように研磨する工程である、請求項6に記載のベーパーチャンバーの製造方法。
【請求項8】
前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となるように研磨する工程である、請求項6または請求項7に記載のベーパーチャンバーの製造方法。」
(2)訂正前の請求項1-8
「【請求項1】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
平面視上、前記流路が形成されている流路領域と、該流路領域を囲む周縁領域と、を有し、
IDとして作用する光学的識別構造体が、前記周縁領域に形成されているベーパーチャンバー。
【請求項2】
前記IDとして作用する光学的識別構造体が、下地層を介して形成されている、請求項1に記載のベーパーチャンバー。
【請求項3】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
IDとして作用する光学的識別構造体が、下地層を介して形成されているベーパーチャンバー。
【請求項4】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
IDとして作用する光学的識別構造体が、前記流路とは独立に形成され、最大高さ粗さRzが1μm以下の平滑面上に形成されているベーパーチャンバー。
【請求項5】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーであって、
IDとして作用する光学的識別構造体が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されているベーパーチャンバー。
【請求項6】
熱輸送を担う流体の流路を内部に有し、IDとして作用する光学的識別構造体が形成されている平板状のベーパーチャンバーの製造方法であって、
前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、
研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える、ベーパーチャンバーの製造方法。
【請求項7】
前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程が、 最大高さ粗さRzが1μm以下となるように研磨する工程である、請求項6に記載のベーパーチャンバーの製造方法。
【請求項8】
前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となるように研磨する工程である、請求項6または請求項7に記載のベーパーチャンバーの製造方法。」
(3)訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に「IDとして作用する光学的識別構造体が、下地層を介して形成されている」とあるのを、「平面視上、前記流路が形成されている流路領域を有し、IDとして作用する光学的識別構造体が、前記流路領域に下地層を介して形成され、前記下地層は、前記光学的識別構造体が形成される対象表面を平坦化する作用を有している、」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項3における「IDとして作用する光学的識別構造体が、下地層を介して形成されている」という発明特定事項を、「平面視上、前記流路が形成されている流路領域を有し、IDとして作用する光学的識別構造体が、前記流路領域に下地層を介して形成され、前記下地層は、前記光学的識別構造体が形成される対象表面を平坦化する作用を有している、」に減縮し、流路領域と光学的識別構造体との配置の関係を特定するとともに、下地層が有している作用を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮する訂正であり、カテゴリーや対象を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、「平面視上、前記流路が形成されている流路領域」を有することは、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0016】に記載されており、「IDとして作用する光学的識別構造体が、前記流路領域に下地層を介して形成され、前記下地層は、前記光学的識別構造体が形成される対象表面を平坦化する作用を有している」ことは、段落【0054】、図8(b)に記載されているから、新規事項を追加するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもないことが明らかである。
(3)小括
以上により、訂正事項1-2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3-4について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は、認められたから、本件訂正後の本件特許の請求項1-8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」-「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」という。)は、上記第2の1(1)に示した「訂正後の請求項1-8」により特定されるものと認められる。
第4 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1-8に係る特許に対して、当審が令和6年1月4日付けの取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の概要は、次の理由を含むものである。
取消理由1(進歩性)
請求項3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった次の引用文献1-2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由2(サポート要件)
本件特許の請求項6の記載は、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるため、本件特許の請求項6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
引用文献等一覧
(1)特開2007-212028号公報(申立人が提出した甲第1号証であって、以下「甲1」という。)
(2)特開平6-302730号公報(申立人が提出した甲第4号証であって、以下「甲4」という。)
第5 当審の判断
1 取消理由1(進歩性)
(1)甲号証の記載事項
ア 甲1
(ア) 甲1の記載事項(下線は、理解の一助のために、当審にて付与した。以下同様。)及び認定事項。
A 「【請求項1】
内部に熱媒体が保持されたヒートパイプであって、
板状の第1の基材と、該第1の基材の一方の面に重ねあわされた板状の第2の基材とからなる積層体を備え、
該積層体の一部が、入熱により前記熱媒体が蒸発する蒸発部とされ、他の少なくとも一部が、放熱により前記熱媒体が凝縮する凝縮部とされ、
少なくとも前記第1の基材の前記一方の面には、前記蒸発部から凝縮部にわたって、熱媒体流通路をなす溝状凹部が形成され、該溝状凹部内の少なくとも一部に、前記熱媒体が保持され、
前記溝状凹部の内面には、凸部が形成されていることを特徴とするヒートパイプ。」
B 「【0001】
本発明は、電子機器などに用いられるヒートパイプに関する。」
C 「【0006】
本発明のヒートパイプは、板状の第1基材と板状の第2基材が積層された積層体を備えた構成であるので、薄型化を図ることができ、しかも平坦に形成することができる。
また、第1基材に形成された溝状凹部が熱媒体流通路をなす構成であるので、溝状凹部の形状にほとんど制限がなく、任意の形状の熱媒体流通路を形成することができる。従って、熱交換システムとしての設計の自由度の点で優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、本発明のヒートパイプの第1の例を示す断面図である。図2は、このヒートパイプの第1基材1を示す平面図である。
ここに示すヒートパイプは、平板状の第1基材1と、第1基材1の一方の表面1aに重ね合わされた平板状の第2基材2とからなる積層体3を備えている。
第1基材1および第2基材2は、銅、銅合金、アルミニウム、ステンレス鋼などの金属からなる。また、金属とプラスチックとの複合材料を用いてもよい。
【0008】
図示例では、積層体3は平面視長方形状とされ、一端側の部分は、熱媒体が蒸発する蒸発部4とされている。積層体3の他端側の部分は、熱媒体が凝縮する凝縮部5とされている。
第1基材1の表面1aには、蒸発部4から凝縮部5にわたって、熱媒体が流れる熱媒体流通路6をなす第1溝状凹部7が形成されている。
第1溝状凹部7の平面視形状は、用途に応じて定めることができ、例えば直線状、蛇行状、L字状、S字状などとすることができる。図示例では、第1溝状凹部7は直線状とされている。
第1溝状凹部7の断面形状は、特に限定されず、多角形状(矩形状、V字状など)、半円状、円弧状などとすることができる。図示例では第1溝状凹部7は断面略矩形状とされている。」
D 「【0017】
上記ヒートパイプでは、蒸発部4に外部から入熱すると、熱媒体流通路6内の熱媒体が蒸発し凝縮部5に移動する。凝縮部5では、熱媒体が放熱するとともに熱媒体が凝縮する。凝縮した熱媒体は、毛細管作用や重力により熱媒体流通路6の壁面を伝って蒸発部4に移動する。上記ヒートパイプでは、このようにして、外部からの熱を蒸発部から凝縮部へ移動させ、放熱することができる。」
E 「
[図:0001415267000001.jpg]
」
F 「
[図:0001415267000002.jpg]
」
G 図1及び図2の図示事項から、ヒートパイプは、平面視上、熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7が形成されている領域と、この領域を囲む領域と、を有することが看取できる。
(イ) 甲1発明1及び甲1発明2
上記(ア)の記載事項から、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されているものと認められる。
〔甲1発明1〕
「熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7を一方の面に形成した板状の第1の基材と、該第1の基材の前記一方の面に重ねあわされた板状の第2の基材とからなる平坦に形成されたヒートパイプであって、平面視上、熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7が形成されている領域と、この領域を囲む領域と、を有するヒートパイプ。」
〔甲1発明2〕
「熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7を一方の面に形成した板状の第1の基材と、該第1の基材の前記一方の面に重ねあわされた板状の第2の基材とからなる平坦に形成されたヒートパイプの製造方法であって、平面視上、熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7が形成されている領域と、この領域を囲む領域と、を有するヒートパイプの製造方法。」
イ 甲4の記載事項
(ア)「【0005】
【作用】作用について説明する。放熱板は、本体部の表面をアルミニウム層またはアルミニウム合金層で被覆し、そのアルミニウム層またはアルミニウム合金層の表面をアルマイト処理して黒化してある。黒化した表面をレーザ捺印すると、捺印部分は黒化したアルマイト層が削られ、下層の白色系のアルミニウム層またはアルミニウム合金層が露出する。この放熱板を使用した半導体装置では、アルマイト処理された表面に当該半導体装置の識別等をレーザ捺印すると、識別等を示す記号等が白色系の色で表示可能となる。」
(2) 対比・判断
本件発明3と、甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「熱媒体」は、本件発明3の「熱輸送を担う流体」に相当する。以下同様に、「流通路」は「流路」に、「平坦に形成された」は「平板状の」に、それぞれ相当する。
そして、甲1発明1の「熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7を一方の面に形成した板状の第1の基材と、該第1の基材の前記一方の面に重ねあわされた板状の第2の基材とからなる平坦に形成されたヒートパイプ」と、本件発明3の「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバー」とは、「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状の熱交換器」である限りにおいて一致する。
また、甲1発明1の「平面視上、熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7が形成されている領域」「を有」することは、本件発明3の「平面視上、流路が形成されている流路領域」「を有」することに相当する。
そうすると、本件発明3と甲1発明1とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
〔一致点1〕
「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状の熱交換器であって、平面視上、流路が形成されている流路領域を有する熱交換器。」
〔相違点1〕
「熱交換器」の用途に関して、本件発明3では、「ベーパーチャンバー」に用いられるものであるのに対して、甲1発明1では、「ヒートパイプ」である点。
〔相違点2〕
本件発明3では、「ベーパーチャンバー」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体が、前記流路領域に下地層を介して形成され、前記下地層は、前記光学的識別構造体が形成される対象表面を平坦化する作用を有している」のに対して、甲1発明1では、「ヒートパイプ」に対して「光学的識別構造体」が形成されていない点。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲4の「放熱板」は、高温の部位から低温の部位への放熱を行う機能を奏するものである。そして、甲4の「アルマイト処理された表面」及び「識別等を示す記号等」は、上記「アルミニウム層またはアルミニウム合金層」上に配置される「アルマイト処理された表面」に「識別等を示す記号」がレーザ捺印されるのであって、「識別等を示す記号等」が「半導体装置の識別」に用いられるのであるから、下地層及び下地層を介して形成されたIDとして作用する光学的識別構造体ということができる。
しかしながら、この「アルマイト処理された表面」を有する「アルミニウム層またはアルミニウム合金層」が、「下地層」であるということができても、光学的識別構造体が形成される対象表面を平坦化する作用を有しているとまではいえない。
したがって、本件発明3は、甲1発明1及び甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、令和6年4月8日に提出した意見書の3(2)において、次の主張をする。
・「「平坦化する作用」については【0054】の最後に「下地層304が、光学的識別構造体301が形成される対象表面を平坦化する作用も有している。」との記載があるのみであり、明細書を参酌しても「平坦化」の技術的意義は分からない。広辞苑(第四版)参酌しても、「へい-たん【平坦】土地の平らかなこと。また、そのようなさま。「-地」「人生は-ではない」」との記載があるが、「平坦化する作用」の技術的意義を明確に理解することはできない。技術常識を考慮すべく甲1を参酌すると、【0004】に下地層を形成しなくても「平坦化が可能」であることが記載されているが(特許異議申立書4頁参照)、当該記載を参酌しても、やはり「平坦化する作用」の技術的異議を明確に理解することはできない。」(第3ページ第3行-同ページ第12行)
イ 当審の判断
上記アの主張について検討するに、本件特許明細書の段落【0054】には、「輪郭形状の凹凸がほとんど現れなくなる。すなわち第3実施例においては、下地層304が、光学的識別構造体301が形成される対象表面を平坦化する作用も有している。」と記載されている。
そうすると、「平坦化」とは、「輪郭形状の凹凸がほとんど現れなくなる」ことを意味する用語として明確であり、これによって、光学的な手段での読み取り性を高めるという技術的意義を有するものといえる。
したがって、申立人の主張は、採用できない。
(4)小括
よって、本件特許の請求項3に係る特許は、甲1発明1及び甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
2 取消理由2(サポート要件)
(1)本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載事項
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0007】
ところで、平板状の部材間を接合した後で、平板状をなす形成途中の各ベーパーチャンバーの表面あるいは裏面にIDとして作用する光学的識別構造体を形成する場合がある。形成途中のベーパーチャンバー各々に対し、形成された上記光学的識別構造体が有するID情報は個別に異なっている。ロット管理や、熱輸送を担う流体を注入する際の気圧条件や、該流体の注入量に対する検査結果と関連付けるために、形成途中のベーパーチャンバーの各々を明確に区別する必要があるためである。
【0008】
光学的識別構造体は、形成途中のベーパーチヤンバーの表面や裏面にインクジェツトによる印字やレーザーによる印字や刻印により形成され、そのように形成された光学的識別構造体は、目視、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの光学的な手段で読み取られる場合が多い。
【0009】
図12(a)に上側金属シート920の上面920bに、IDとして作用する光学的識別構造体901がQRコード(登録商標)として形成された例の上面図を示す。各ベーパーチャンバー900に対し、光学的識別構造体901であるQRコードが形成され、各光学的識別構造体901(QRコード)が有するID情報は個別に異なっている。このため各ベーパーチャンバー900を個別に識別することが可能となっている。
【0010】
光学的識別構造体901は、それがQRコードである場合には、通常一辺の長さが1mm以上であることが好ましい。QRコード内部の各セルが一定の大きさ以上であった方が、QRコードを形成する光学的識別構造体901の形成具合の変動や、それが形成される上側金属ンート920の上面920b、あるいは下側金属シート910の下面910bの表面状態の影響を受けにくく、より安定した読み取りが可能となるからである。
【0011】
光学的識別構造体901を目視、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの光学的な手段で正確に読み取ることができれば、光学的識別構造体901が有するID情報により、熱輸送を担う流体を注入する際の気圧条件や、該流体の注入量に対する検査結果、あるいは密封封止後の機能検査結果と各ベーパーチャンバー900との関連付け、あるいはロット管理が確実かつ容易となる。これにより不良品の流出を抑制することで、安定した品質管理が可能となり、良好な品質のベーパーチャンバー900を提供することができる。そのようなベーパーチャンバー900が搭載された電子機器においても、放熱不良が抑制されるため、電子機器の不良を抑制することもできる。また光学的識別構造体901の位置により、ベーパーチャンバー900の表裏や上下の区別が容易となり、工程上の管理が容易となる。
【0012】
ところで、上述の通り、光学的識別構造体901を目視、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの光学的な手段で読み取る場合、光学的識別構造体901と、その背景となる部材の表面との関係で、光学的識別構造体901の読み取りが困難になるという問題が生ずる場合がある。そしてその主な原因は、光学的識別構造体901が形成される上側金属シート920の上面920b、あるいは下側金属シート910の下面910bにおいて、内部の密封空間の形状が模様となって、上記光学的な手段での読み取りを阻害することである。
【0013】
上記の通り、光学的識別構造体901がQRコードである場合は、通常一辺の長さが1mm以上である。そのため図12(a)のように、光学的識別構造体901は、平面視上上側蒸気流路凹部922内のみ、あるいは上側流路壁部923内のみには収まらず、上側蒸気流路凹部922と上側流路壁部923の境界、あるいは上側蒸気流路凹部922と上側周縁壁924の境界、すなわち上側蒸気流路凹部922の輪郭を跨ぐか、該輪郭が光学的識別構造体901のすぐ近傍に存在することとなる。図12(b)に、上側金属シート920の、IDとして作用する光学的識別構造体901が形成された部分における、ベーパーチャンバー900(上側金属シート920)を短手方向に切断した場合の部分断面概念図を示す。図12(b)は、概念的に断面を示した図であるため、図12(a)の上面図とは光学的識別構造体901や上側蒸気流路凹部922が存在する位置などが異なっている。図12(b)に概念的に示す通り、上側蒸気流路凹部922が形成されているか否かの影響が上側金属シート920の上面920bにまで及んでいる。光学的識別構造体901を読み取る際に、読み取り領域内に上側蒸気流路凹部922の輪郭が存在してその輪郭が上記光学的な手段での読み取りを阻害することとなる。
【0014】
すなわち、上記の通りベーパーチャンバー900は、対向する平板状の部材間を接合することで形成されるが、その接合には拡散接合が用いられることがある。拡散接合は、上記平板状の部材間を密着させ加圧および加熱するものであるが、拡散接合後の形成途中のべーパーチャンバーにおいては、その表面や裏面において、内部の密封空間の形状が模様となって上記光学的な手段での読み取りを阻害する場合がある。上記平板状の部材には、密封空間すなわち熱輸送を担う流体の流路となる溝が形成されているが、平板状の部材の内側(接合面側、形成途中のべーパーチャンバーにおける表面や裏面とは反対面側)に形成される溝の形状(溝の有無)が、その反対面すなわち形成途中のベーパーチャンバーにおける表面や裏面においても模様となって上記光学的な手段での読み取りを阻害する場合がある。平板状の部材における溝の形状(溝の有無)の影響がその反対面にまで及ぶのは、平板状の部材の板厚が特に溝が形成された部分において非常に薄いため、拡散接合時の加圧による平板状の部材の微細な変形の程度が、溝が形成された部分と形成されていない部分とでわずかに異なるためと推測される。また、接合にはろう付けが使用されることもあるが、温度、圧力は異なるものの同様の問題が発生することがある。
【0015】
上記を鑑み、本発明の目的は、表面や裏面にIDとして作用する光学的識別構造体が形成されたベーパーチャンバーにおいて、光学的識別構造体を目視、カメラ、スキャナー、あるいはリーダーなどの光学的な手段で読み取る場合の読み取り性を高めることにより、安定した品質管理を可能とし、もって良好な品質のべーパーチャンバーを提供することである。」
「【0023】
上記発明において、IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となるように研磨する工程である、ベーパーチャンバーの製造方法であることがより好ましい。」
「【0057】
(第4実施形態)
図9および図10を用いて、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態においては、IDとして作用する光学的識別構造体401がベーパーチャンバー400の表面(上側金属シート420の上面420b、あるいは下側金属シート410の下面410b)における内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されている。図9(a)の上面図および図10に示す通り、平滑面は平滑面形成領域405に形成されている。平滑面形成領域405は平面視上、光学的識別構造体401が存在する領域と一致する領域、あるいは該一致する領域にその周囲の領域を加えた領域である。平滑面形成領域405は、最小の場合は光学的識別構造体401が存在する領域と一致し、また最大の場合は図10に示すようにベーパーチャンバー400の表面(上側金属シート420の上面420b、あるいは下側金属シート410の下面410b)全体である。すなわち平滑面形成領域405は平面視上、光学的識別構造体401が存在する領域と一致する領域を含んでいればよく、光学的識別構造体401の読み取り性や、平滑面を形成する負荷(工程時間)等を鑑み適宜定めればよい。このとき、最大高さ粗さRzが1μm以下であることが望ましい。
【0058】
図9(b)に、上側金属シート420の、IDとして作用する光学的識別構造体401が形成された部分における、ベーパーチャンバー400(上側金属シート420)を短手方向に切断した場合の部分断面概念図を示す。図9(b)は、概念的に断面を示した図であるため、図9(a)の上面図とは光学的識別構造体401や上側蒸気流路凹部422が存在する位置などが異なっている。図9(b)に概念的に示される通り、上側金属シート420の上面420bを構成する金属材料の結晶粒の境界(結晶粒界)に起因する微細な凹凸、および上側蒸気流路凹部422が形成されている影響が上側金属シート420の上面420bにまで及ぶことによる影響、は平滑面の形成により大幅に軽減されている。すなわち平滑面が形成されることにより、最大高さ粗さRzが1μm以下となっており、また内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となっている。
【0059】
平滑面形成領域405に形成された上記のような平滑面は例えば、上側金属シート420の表面(上面420b)あるいは下側金属シート410の表面(下面410b)を研磨することにより形成することができる。研磨の方法としては、化学研磨、電解研磨、機械研磨のいずれも適用することができる。研磨しない領域をレジストなどでマスクし、化学研磨あるいは電解研磨を適用することで平滑面形成領域405のみを研磨することが可能である。また機械研磨においては、エミリーペーパーで研磨後、アルミナ砥粒等によるバフ研磨で砥粒の粒径を変化させて仕上げていってもよい。各研磨の方法において、最大高さ粗さRzが1μm以下となり、また内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となるように研磨条件を適宜定めれば良い。
【0060】
内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差については、次のようにして確認することができる。レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス、VK-X250)を用い、対物レンズ20倍としてプロファイルを得て、内部空間のない前記周縁領域等と内部空間がある部分との高低差を計測する。
【0061】
また、平滑面形成領域405の最大高さ粗さRzは「JIS B 0601:2001」に基づき測定することができる。上側金属シート420の表面(上面420b)に平滑面形成領域405を形成した場合における測定の一例を以下に示す。レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス、VK-X250)を用い、測定方向は、平面視上ベーパーチャンバー400の長手方向(図9における左右方向)に沿って細長状に延びている上側蒸気流路凹部422および上側流路壁部423と直交する方向(平面視上ベーパーチャンバー400の短手方向(図9における上下方向))とすることが好ましい。レーザー波長408nm、対物レンズ100倍あるいは150倍とし、その他のパラメーターについても適切に設定し、平滑面形成領域405の最大高さ粗さRzを測定することができる。
【0062】
第4実施形態においては、光学的識別構造体401がベーパーチャンバー400の表面(上側金属シート420の上面420b、あるいは下側金属シート410の下面410b)における内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されているため、上側蒸気流路凹部422の輪郭形状が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという上記問題を大幅に抑制することができる。そのため第1実施形態のように光学的識別構造体401を、周縁領域(上側周縁壁424が存在する領域)に形成する必要はなく、第3実施形態と同様に任意の位置に形成することができる。
【0063】
またレーザー印字方式で印字領域の一辺が1mm以上3mm以下の場合は、最大高さ粗さRzが1μm以下の平滑面にすることができる。この研磨により、研磨前の表面に比べ結晶粒界による微細な凹みを小さくすることができ、結晶粒界が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという上記問題を大幅に抑制することができる。
【0064】
上記効果により、第4実施形態においても、確実に不良品のベーパーチャンバー400を特定することができる。これにより不良品の流出を抑制することで、安定した品質管理が可能となり、良好な品質のベーパーチャンバー400を提供することができる。そのため本発明のベーパーチャンバー400が搭載された電子機器においても、放熱不良が抑制されるため、電子機器の不良を抑制することもできる。また光学的識別構造体401の位置により、ベーパーチャンバー400の表裏や上下の区別が容易となり、工程上の管理が容易となる。
【0065】
第4実施形態における平滑面においては、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下であることと、最大高さ粗さRzが1μm以下であることが、共に満たされることが好ましい。しかし、いずれか一方のみを満たすだけでも構わない。すなわち、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下であれば、上側蒸気流路凹部422の輪郭形状による悪影響を大幅に抑制できるという上記効果を得ることができ、また最大高さ粗さRzが1μm以下であれば、結晶粒界による悪影響を大幅に抑制できるという上記効果を得ることができる。」
「【0080】
そして平滑面においては、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下となっている。そのため上側蒸気流路凹部422の輪郭形状が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという上記問題を大幅に抑制することができるという効果を奏する。」
(2)判断
特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
上記(1)の記載事項によれば、段落【0007】-【0015】の記載から、発明の詳細な説明から把握される本件発明の課題には、熱輸送を担う流体の流路となる溝が平板状の部材に形成された場合に、溝の形状(溝の有無)が、ベーパーチャンバーにおける表面や裏面において模様となって光学的な手段での読み取りを阻害する場合においても、光学的識別構造体を光学的な手段で読み取るときの読み取り性を高めることにより、安定した品質管理を可能とし、もって良好な品質のべーパーチャンバーを提供することが含まれると認められる(以下、「第1の課題」という。)。
また、段落【0057】-【0065】の第4実施形態についての記載から、本件発明の課題には、上側蒸気流路凹部422の輪郭形状が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという問題を抑制することや、結晶粒界が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという問題を抑制することが含まれると認められる(以下、これらの課題をまとめて「第2の課題」という。)。
そして、第4実施形態についての記載によれば、上側蒸気流路凹部422の輪郭形状が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという問題及び結晶粒界が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという問題を抑制するために、研磨を行うことによって平滑面を形成することを課題の解決手段として開示するものである。
そこで、本件発明6が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が上記第2の課題を解決できると認識できる範囲のものであるのか、検討する。
本件特許の請求項6には、「光学的識別構造体を形成する部位」について、「研磨する工程」としか記載されておらず、研磨によって得られるべーパーチャンバーの性状について何ら特定されていない。
しかしながら、段落【0057】には、「最大高さ粗さRzが1μm以下であることが望ましい。」と記載されている。この記載からみても、結晶粒界による読み取りへの影響を抑制するためには、必ずしも、最大高さ粗さRzが1μm以下にまでとする必要はなく、「光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程」を備えてさえいれば、研磨を施さないものと比較して読み取りへの影響を抑制することができるといえる。また、段落【0065】には、「内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下であれば、上側上記流路凹部422の輪郭形状による悪影響を大幅に抑制できるという上記効果を得ることができ」ることが記載されている。この記載からみても、内部空間がある部分と内部空間が内部分の高低差が30μmを超える研磨の場合、「大幅に抑制」ではなくても一定の効果があることが理解できる。
そうすると、結晶粒界による読み取りへの影響を抑制するためには、必ずしも、最大高さ粗さRzを1μm以下にまでする必要はなく、また、内部空間がある部分と内部空間がない部分の高低差が必ず30μm以下となるように研磨する必要はなく、「光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程」を備えてさえいれば、研磨を施さないものと比較して読み取りへの影響を抑制することができるといえる。
よって、本件発明6は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものということはできない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、令和6年4月8日に提出した意見書の3(3)において、次の主張をする。
「審判合議体から示された上記の判断は、第1回訂正請求書に記載された請求項6に対するものであるが、第2回訂正請求書に記載された請求項6は、第1回訂正事項2の特定を取り下げただけのものであることから、審判合議体から示された上記の判断はそのまま妥当する。よって、本件発明6には、理由2(サポート要件)の取消理由が存在する。」(第6ページ第20行-第24行)
イ 当審の判断
上記アの主張について検討するに、上述のとおり、研磨によって得られるべーパーチャンバーの性状について何ら特定されていなくとも、本件発明6は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものということはできないから、取消理由が存在するとはいえない。
したがって、当該主張を採用することはできない。
(4)小括
よって、本件特許の請求項6に係る特許は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものということはできない。
第6 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の理由1(進歩性)について
(1)理由1の概要
申立人は、甲第1-8号証を提出し、理由1について概ね以下の主張をする。
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2-6号証に記載された事項に基いて、又は甲第1号証に記載された発明、甲第3-6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2及び7-8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2及び5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明7-8は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2、5及び7-8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
[証拠方法]
甲第2号証:実願昭57-185168号(実開昭59-92375号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開2002-299701号公報
甲第5号証:特開平5-253678号公報
甲第6号証:特開2005-165659号公報
甲第7号証:特開2017-180967号公報
甲第8号証:特開2006-278595号公報
(以下、甲第2、3、5-8号証を、それぞれ「甲2」、「甲3」、「甲5」-「甲8」という。)
(2)甲2、3、5-8の記載事項
ア 甲2の記載事項
(ア)「 ヒートパイプ低温ガス側端部のフイン除去部表面或いは銅管よりなる内管の外側に設けた保護管の表面に内管の材質及び作動液の種類、許容最高排ガス温度、順番号などを刻印して標識したことを特徴とする標識付ヒートパイプ。」(明細書第1ページ第5-9行)
(イ)「 本考案の1例を図面により説明する。第1図に示す如くりん脱酸銅による内管1の端末部をエンドキャップ2にて密閉し、且つその外側にフイン4を取付けたアルミニウムによる外管3を該内管の端部を残して被覆する。又内管の端部外側にはステンレススチールの保護管5を被覆し、該保護管に垂直状の管板6を取付ける。又保護管6の表面に第2図に示す如く作動液の種類及び内管の材質、その他製造年月日、順番号の標識7を刻印して本考案標識付ヒートパイプを得た。」(明細書第3ページ第19行-第4ページ第9行)
(ウ)「
[図:0001415267000003.jpg]
」
(エ)「
[図:0001415267000004.jpg]
」
イ 甲3の記載事項
(ア)「【請求項1】 複数の電極が形成された1対の基板を電極が形成された面が対向するように配置し、前記電極に接続されるp型及びn型の熱電素子を前記基板間に配置した熱電モジュールにおいて、熱交換機能上影響がない部位に、記号が刻印されていることを特徴とする熱電モジュール。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、Al2O3等の絶縁基板上に複数個の熱電素子を配置し、熱電素子のペルチェ効果により、電子部品等を冷却したり又は加熱する熱電モジュールに関し、特に、文字及びバーコード等の識別可能な記号が刻印された熱電モジュールに関する。」
(ウ)「【0021】このメタライズ層7は、アルミナ等からなる基板に直接ハンダ付けできないため、ハンダによる接合を可能とするために、先ず基板表面にメタライズ層を形成し、これを介してハンダ付けによりLDキャリア8を接合するためのものである。また、上部基板2がアルミナ基板であり、絶縁性で熱伝導度が低いために、上部基板2上に配置されるレーザダイオード8をメタライズ層7により熱伝導度を高めて均一に且つ速やかに冷却するという目的もある。そして、本実施例においては、メタライズ層7の表面のレーザダイオード8が配置されない端部上に、例えば数字等の記号6cがレーザビームにより刻印されている。
【0022】本実施例においては、メタライズ層7の端部上に文字等の記号6cが刻印されているので、これにより、熱電モジュールを識別することができる。また、この記号6cの刻印位置はメタライズ層7の端部上、即ちハンダ付け面ではない部位であるので、後にメタライズ層7の中央にレーザダイオード9(LDキャリア8)がハンダ付けされても、この刻印6cが隠れてしまうことはない。」
(エ)「【0044】上部基板2は、例えば、アルミナ基板又は窒化アルミニウム基板により構成されているが、記号20はメタライズ層7ではなく、上部基板2に直接刻印されているので、この部分はLDキャリアがハンダ付けされる部分ではないため、記号20が後の組み立て工程で、隠れたり、消されてしまうことがない。
【0045】このメタライズ層7はレーザダイオードが搭載される上部基板2の上面上に設けられたものであり、冷却側(吸熱側)の基板に設けられたものである。従って、記号20も吸熱側基板の外面に刻印されている。」
(オ)「【図3】
[図:0001415267000005.jpg]
」
(カ)「【図15】
[図:0001415267000006.jpg]
」
ウ 甲5の記載事項
(ア)「【0025】次に、このような塗料を下地としてプリント基板にYAGレーザ光によってバーコードを印字するレーザマーキング方法について図2乃至図5の工程説明図に基づき説明する。まず、図2の如く、側面11の表面が粗雑で荒い加工の段階にあるプリント基板10aの側面11に対し研磨機16を矢印a方向より近付けていき、側面11に接触させ、次いで接触した研磨機16を側面11に沿わせて矢印b方向に移動させ、側面11に所定深さの凹部からなる研磨面12を形成した後、研磨機16を矢印a方向に退出させ、側面11の一部に研磨面12を有するプリント基板10bを製作する(図3)。次に、研磨面12に、二酸化チタンを含まずかつYAGレーザ光で変色する塗料13を側面11と面一となる厚さに塗布してレーザマーキングするための下地を形成し、レーザマーキングするための下地が形成されたプリント基板10cを製作する(図4)。その後、塗料13の塗布面である下地部にYAGレーザ光17を照射し、研磨面12に達しない深さdまでの塗料13を変色させることによってバーコード14を印字し、YAGレーザ17によりバーコード14が印字されてなるプリント基板10を製作する(図5)。」
(イ)「【図1】
[図:0001415267000007.jpg]
」
(ウ)「【図3】
[図:0001415267000008.jpg]
」
エ 甲6の記載事項
(ア)「【0049】
このように、2次元コードのサイズが指定されることにより、セルのサイズが決定され、ドットのサイズ,ドット間の距離(ステップサイズ)又は密度が指定されることにより暗模様のセルの構成が決定される。このとき、各ドットの座標位置が決定される。さらに、2次元コードをマーキングする建材の素材を指定する。ドットの加工径や深さは、レーザのパワー、Qスイッチ周波数、ドット照射時間、回数、レーザ波長等によっても影響を受けるので、建材に応じて、これらの最適値が指定される。上記パラメータについてのデータは、ハードディスク16cに格納されており、操作者はハードディスク16cに記憶されたパラメータのデータから最適値を指定することができる。以上のようにして指定された各ドットの座標位置やパラメータ値等が制御信号としてレーザマーカ40に送出される。そして、レーザマーカ40は、制御信号に基づき、初期情報を含む2次元コード1を、製造ライン上で搬送されてきた外壁パネル70あるいは鋼製フレーム71の所定位置に設けられたマーキングスペースに順次マーキングする(ステップS2)。
【0050】
図3に示すように、外壁パネル70のマーキングスペースは、外壁パネル70の建物外側に面して組み付けられている外壁面材73に設けられている。また、鋼製フレーム71のマーキングスペースは、組み付けたときに外壁パネル70の側面として露出する部位に設けられている。ドットマーキングは、図9(A)の断面図に示すように、金属材からなる鋼製フレーム71に対しては、その塗装層71aにのみ施されている。このため、鋼製フレーム71は、マーキング部分から金属材層71bに劣化や錆等が発生することがなく、耐久性に悪影響を与えることがない。」
(イ)「【図3】
[図:0001415267000009.jpg]
」
(ウ)「【図9】
[図:0001415267000010.jpg]
」
オ 甲7の記載事項
(ア)「【0001】
本発明は、ベーパチャンバー(平板状ヒートパイプ)の筐体を製造するための素材として用いられる銅又は銅合金条に関する。」
(イ)「【0013】
以下、本発明に係るベーパチャンバー用銅又は銅合金条について、より詳細に説明する。
(銅又は銅合金条の表面粗さ)
本発明に係る銅又は銅合金条の表面粗さは、最大高さ粗さRzが1.5μm以下、算術平均粗さRaが0.15μm以下に規制される。
上記範囲を超えて表面粗さが大きくなると、拡散接合の場合に部材同士の密着が阻害され、これにより接合面において原子の相互拡散が阻害され、接合後に高い接合強度が得られない。また、ろう付けの場合にろうの濡れ広がり性が低下し、これも接合強度が低下する要因となる。接合後に高い接合強度が得られなければ、ベーパチャンバーの使用時に、蒸発、凝縮により繰返される内圧変動(筐体に応力が付加される)に伴い、接合部が剥離し、リークが発生する場合がある。従って、銅又は銅合金条の表面粗さは上記のとおり規制される。銅又は銅合金条の表面粗さは、好ましくは最大高さ粗さRzが1.2μm以下、算術平均粗さRaが0.12μm以下である。
【0014】
銅又は銅合金条の表面には、圧延時に圧延ロールの表面粗さが転写される。上記表面粗さの銅又は銅合金条を製造するためには、冷間圧延ロールの表面は平滑度が高くなければならず、番手が#300、好ましくは#400、より好ましくは#800の研磨布紙を使用して表面の研磨仕上げを行う。また、銅又は銅合金条の連続焼鈍を行う場合、加熱炉を通過後に銅又は銅合金条を酸洗し、さらにブラシ又は不織布研磨材(例えば、住友スリーエム(株)のスコッチブライト(商品名))等で表面を研磨することが好ましい。加熱炉を無酸化雰囲気とすることにより、銅又は銅合金条の表面に酸化膜などの反応層が生成するのを抑えた場合、軽度の表面清浄により表面粗さを小さくすることができる。」
(ウ)「【0032】
【表2】
[図:0001415267000011.jpg]
」
(エ)「【0038】
【表3】
[図:0001415267000012.jpg]
」
カ 甲8の記載事項
「【請求項2】
T方向における表面粗さが、最大高さRy:1.0μm以下、かつ算術平均粗さRa:0.15μm以下である請求項1に記載の銅または銅合金の板からなる半導体装置用の放熱板。」
(3)本件発明1について
ア 対比・判断
本件発明1と、甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「熱媒体」は、本件発明1の「熱輸送を担う流体」に相当する。以下同様に、「流通路」は「流路」に、「平坦に形成された」は「平板状の」に、それぞれ相当する。
そして、甲1発明1の「熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7を一方の面に形成した板状の第1の基材と、該第1の基材の前記一方の面に重ねあわされた板状の第2の基材とからなる平坦に形成されたヒートパイプ」と、本件発明1の「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバー」とは、「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状の熱交換器」である限りにおいて一致する。
また、甲1発明1の「平面視上、熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7が形成されている領域と、この領域を囲む領域と、を有」することは、本件発明1の「平面視上、流路が形成されている流路領域と、該流路領域を囲む周縁領域と、を有」することに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
〔一致点2〕
「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状の熱交換器であって、平面視上、流路が形成されている流路領域と、該流路領域を囲む周縁領域と、を有する熱交換器。」
〔相違点3〕
「熱交換器」の用途に関して、本件発明1では、「ベーパーチャンバー」に用いられるものであるのに対して、甲1発明1では、「ヒートパイプ」である点。
〔相違点4〕
本件発明1では、「ベーパーチャンバー」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体が、前記周縁領域に形成されている」のに対して、甲1発明1では、「ヒートパイプ」に対して「光学的識別構造体」が形成されていない点。
事案に鑑み、相違点4について検討する。
甲2の「標識7」が刻印された「保護管5」及び甲3の「記号6c」が刻印された「メタライズ層7」は、いずれも、「平面視上」、「流路領域を囲む周縁領域」ではない。
したがって、本件発明1は、他の相違点3の検討をするまでもなく、甲1発明1及び甲2の記載事項に基いて、又は甲1発明1及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
また、甲4-8のいずれにも、「平面視上」、「流路領域を囲む周縁領域」に形成された「光学的識別構造体」が開示されていない。
(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
上記(3)で検討したとおり、甲2-6のいずれにも「平面視上」、「流路領域を囲む周縁領域」に形成された「光学的識別構造体」が開示されていない。
したがって、本件発明2は、甲1発明1及び甲2-6の記載事項に基いて、又は甲1発明1及び甲3-6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(5)本件発明5について
ア 対比・判断
本件発明5と、甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「熱媒体」は、本件発明5の「熱輸送を担う流体」に相当する。以下同様に、「流通路」は「流路」に、「平坦に形成された」は「平板状の」に、それぞれ相当する。
そして、甲1発明1の「熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7を一方の面に形成した板状の第1の基材と、該第1の基材の前記一方の面に重ねあわされた板状の第2の基材とからなる平坦に形成されたヒートパイプ」と、本件発明5の「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバー」とは、「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状の熱交換器」である限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明5と甲1発明1とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
〔一致点3〕
「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状の熱交換器。」
〔相違点5〕
「熱交換器」の用途に関して、本件発明5では、「ベーパーチャンバー」に用いられるものであるのに対して、甲1発明1では、「ヒートパイプ」である点。
〔相違点6〕
本件発明5では、「ベーパーチャンバー」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されている」のに対して、甲1発明1では、「ヒートパイプ」に対して「光学的識別構造体」が形成されていない点。
事案に鑑み、相違点6について検討する。
甲2及び7-8のいずれにも、「ベーパーチャンバー」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されている」ことは、開示されていない。
したがって、本件発明5は、他の相違点5の検討をするまでもなく、甲1発明1並びに甲2及び甲7-8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
また、甲3-6のいずれにも、「ベーパーチャンバー」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されている」ことは、開示されていない。
(6)本件発明6について
ア 対比・判断
本件発明6と、甲1発明2とを対比する。
甲1発明2の「熱媒体」は、本件発明6の「熱輸送を担う流体」に相当する。以下同様に、「流通路」は「流路」に、「平坦に形成された」は「平板状の」に、それぞれ相当する。
そして、甲1発明2の「熱媒体の流通路をなす第1溝状凹部7を一方の面に形成した板状の第1の基材と、該第1の基材の前記一方の面に重ねあわされた板状の第2の基材とからなる平坦に形成されたヒートパイプの製造方法」と、本件発明6の「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状のベーパーチャンバーの製造方法」とは、「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状の熱交換器の製造方法」である限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明6と甲1発明2とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
〔一致点4〕
「熱輸送を担う流体の流路を内部に有する平板状の熱交換器の製造方法。」
〔相違点7〕
「熱交換器」の用途に関して、本件発明6では、「ベーパーチャンバー」に用いられるものであるのに対して、甲1発明2では、「ヒートパイプ」である点。
〔相違点8〕
本件発明6では、「ベーパーチャンバーの製造方法」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える」のに対して、甲1発明2では、「ヒートパイプの製造方法」に対して「光学的識別構造体」が形成されていない点。
事案に鑑み、相違点8について検討する。
甲2及び甲5のいずれにも、「ベーパーチャンバーの製造方法」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える」ことは、開示されていない。
したがって、本件発明6は、他の相違点7の検討をするまでもなく、甲1発明2並びに甲2及び5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
また、甲3、4、6及び8のいずれにも、「ベーパーチャンバーの製造方法」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える」ことは、開示されていない。
また、甲7の表2には、算術平均粗さRaが0.05~0.14μmの範囲である表面粗さを持ち、ベーパーチャンバの筐体を製造するための素材として用いられる銅又は銅合金条が開示されている。
そして、段落【0014】から、この表面粗さは、圧延時に圧延ロールの表面粗さが転写され、さらに、研磨仕上げを行うことで得られるものといえる。
ここで、研磨仕上げがなされる表面とは、段落【0013】の拡散接合又はろう付けによって密着される接合面を意図するものと理解される。
そうすると、研磨仕上げがなされる面は、ベーパーチャンバーが組み立てられた場合に外表面を構成しない「接合面」であると考えるのが、合理的であり、「IDとして作用する光学的識別構造体」が形成される「平滑面」になされるものということはできない。また、圧延時に圧延される面が、ベーパーチャンバーが組み立てられた場合に外表面を構成する面を含む場合であっても、圧延されただけでは、研磨される面とはいえないから、圧延された面が「IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程」は、得られない。
(7)本件発明7-8について
本件発明7-8は、本件発明6の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(6)の検討を踏まえると、甲2、5及び7-8のいずれにも「ベーパーチャンバーの製造方法」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える」ことは、開示されていない。
したがって、本件発明7-8は、第1発明2並びに甲第2、5及び7-8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、甲3、4、6のいずれにも、「ベーパーチャンバーの製造方法」に対して「IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える」ことは、開示されていない。
2 特許異議申立理由の理由2(サポート要件)について
(1)理由2の概要
申立人は、理由2について概ね以下の主張をする。
本件発明1の解決すべき課題は、「平板状の部材の板厚が特に溝が形成された部分において非常に薄い」場合に生じる「内部の密封空間の形状が模様」なることにより生じる光学的識別構造体の光学的な手段による読み取り阻害を解決することであると理解するのが当業者の通常の理解であるところ、本件明細書に板厚が400μmを超えるような場合についてまで、読み取り阻害の課題があることを理解できない。
また、本件発明2-3の解決すべき課題は、拡散接合時の加熱により結晶粒が大きくなることに伴い、結晶粒界も明確となり、表層では流界による微細な凹凸が読み取りを阻害することであるところ、「ろう付け」により接合されたベーパーチャンバーにおいて、読み取り阻害の課題があることを理解できない。
また、本件発明5、7-8の解決すべき課題は、拡散接合時の加熱により結晶粒が大きくなることに伴い、結晶粒界も明確となり、表層では流界による微細な凹凸が読み取りを阻害することであり(第1の課題)、また、「平板状の部材の板厚保が特に溝が形成された部分において非常に薄い」場合に生じる「内部の密封空間の形状が模様」なることにより生じる光学的識別構造体の光学的な手段による読み取り阻害を解決することである(第2の課題)ところ、第1の課題に対しては、「ろう付け」により接合されたベーパーチャンバーにおいて、読み取り阻害の課題があることを理解できないし、第2の課題に対しては、どのように課題を解決できるかを当業者が理解できない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
よって、本件の請求項1-5、7-8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)当審の認定した課題
上記第5の2(2)で認定したとおり、発明の詳細な説明から把握される本件発明の課題には、第1の課題(熱輸送を担う流体の流路となる溝が平板状の部材に形成された場合に、溝の形状(溝の有無)が、ベーパーチャンバーにおける表面や裏面において模様となって光学的な手段での読み取りを阻害する場合においても、光学的識別構造体を光学的な手段で読み取るときの読み取り性を高めることにより、安定した品質管理を可能とし、もって良好な品質のべーパーチャンバーを提供すること)が含まれると認められる。
また、段落【0057】-【0065】の第4実施形態についての記載から、本件発明の課題には、第2の課題(上側蒸気流路凹部422の輪郭形状が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという問題を抑制することや、結晶粒界が背景の模様として光学的識別構造体401の読み取りに悪影響を及ぼすという問題を抑制すること)が含まれると認められる。
(3)本件発明1について
本件発明1は、「平面視上、流路が形成されている流路領域と、該流路領域を囲む周縁領域と、を有」し、「IDとして作用する光学的識別構造体が、前記周縁領域に形成されている」ことから、当業者であれば、溝の形状(溝の有無)が、ベーパーチャンバーにおける表面や裏面において模様となって光学的な手段での読み取りを阻害する場合においても、光学的識別構造体を光学的な手段で読み取るときの読み取り性を高めることにより、安定した品質管理を可能とし、もって良好な品質のべーパーチャンバーを提供するという、第1の課題を解決できると認識し得るものといえる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題が解決できることを理解できる範囲のものといえる。
(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(3)と同様に、当業者であれば、第1の課題を解決できると認識し得るものといえる。
したがって、本件発明2は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題が解決できることを理解できる範囲のものといえる。
(5)本件発明3について
本件発明3は、「平面視上、流路が形成されている流路領域を有」し、「IDとして作用する光学的識別構造体が、前記流路領域に下地層を介して形成され、前記下地層は、前記光学的識別構造体が形成される対象表面を平坦化する作用を有している」ことから、当業者であれば、「下地層を介して形成され」ていないものと比較して、溝の形状(溝の有無)が、ベーパーチャンバーにおける表面や裏面において模様となって光学的な手段での読み取りを阻害する場合においても、光学的識別構造体を光学的な手段で読み取るときの読み取り性を高めることにより、安定した品質管理を可能とし、もって良好な品質のべーパーチャンバーを提供するという、第1の課題を解決できると認識し得るものといえる。
したがって、本件発明3は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題が解決できることを理解できる範囲のものといえる。
(6)本件発明5について
本件発明5は、「IDとして作用する光学的識別構造体が、内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm以下の平滑面上に形成されている」ことから、当業者であれば、「内部空間がある部分と、内部空間がない部分の高低差が30μm」を超えるものと比較して、溝の形状(溝の有無)が、ベーパーチャンバーにおける表面や裏面において模様となって光学的な手段での読み取りを阻害する場合においても、光学的識別構造体を光学的な手段で読み取るときの読み取り性を高めることにより、安定した品質管理を可能とし、もって良好な品質のべーパーチャンバーを提供するという、第1の課題を解決できると認識し得るものといえる。
したがって、本件発明5は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題が解決できることを理解できる範囲のものといえる。
(7)本件発明7-8について
本件発明7-8は、本件発明6に含まれる発明特定事項の「IDとして作用する光学的識別構造体を形成する部位を研磨する工程と、研磨した前記部位に前記IDとして作用する光学的識別構造体を形成する工程と、を順に備える」ことを含むものであるから、上記第5の2(2)で説示したとおり、当業者であれば、研磨を施さないものと比較して読み取りへの影響を抑制することができるという、第2の課題を解決できると認識し得るものといえる。
したがって、本件発明7-8は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題が解決できることを理解できる範囲のものといえる。
第7 結び
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1-3、5-8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700431