特許異議申立
2023-700429
両面粘着シート
- 審判番号
- 2023-700429
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-008361
- 登録番号
- 7160965
- 請求日
- 2023年04月25日
- 審決日
- 2023年07月25日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人G-chemical
- 【異議申立人】佐々木 香織
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 安積 高靖
- 審判官 亀ヶ谷 明久
- 分類
- P1651.121-Y (C09J) / P1651.536-Y (C09J) / P1651.537-Y (C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第2条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7160965号発明「両面粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7160965号の請求項1~15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許(特許第7160965号)の請求項1~15に係る特許についての出願は、令和3年1月22日の出願であって、令和4年10月17日に特許権の設定登録がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~15に係る特許に対し、令和5年4月25日に特許異議申立人 佐々木 香織(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~15に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~15に記載された以下のとおりのものである(請求項1~15に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明15」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)。
「【請求項1】
粘着剤層と、前記粘着剤層の一方の粘着面に積層された第1剥離ライナーと、前記粘着剤層の他方の粘着面に積層された第2剥離ライナーとを備え、
前記第1剥離ライナーの、23℃、50%RHにおいて、引張速度10000mm/分、剥離角度180°の条件で前記粘着剤層から剥離したときの粘着面に対する剥離力A1が0.50N/50mm以下であり、
前記第1剥離ライナーの、23℃、50%RHにおいて、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件で前記粘着剤層から剥離したときの粘着面に対する剥離力A2が0.27N/50mm以下であり、
前記剥離力A1と前記剥離力A2との差が0.22N/50mm以下であり、
前記剥離力A1と、前記第2剥離ライナーの、23℃、50%RHにおいて、引張速度10000mm/分、剥離角度180°の条件で前記粘着剤層から剥離したときの粘着面に対する剥離力B1との差が0N/50mmより高く0.30N/50mm以下である、両面粘着シート。
【請求項2】
前記粘着剤層の厚さが100μm以下である請求項1に記載の両面粘着シート。
【請求項3】
前記第1および第2剥離ライナーそれぞれの厚さが10~100μmである請求項1または2に記載の両面粘着シート。
【請求項4】
前記剥離力B1は前記剥離力A1よりも小さい、請求項1~3のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤層の少なくとも一方の粘着面の、23℃、50%RHにおいて、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件で測定されるステンレス鋼板に対する剥離強度が3N/25mm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求項6】
前記粘着剤層の厚さが5~50μmである請求項1~5のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求7】
前記剥離力A1が0.26N/50mm以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求項8】
前記剥離力A2が0.13N/50mm以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求項9】
前記剥離力A1と前記剥離力A2との差が0.18N/50mm以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求項10】
前記剥離力A1と前記剥離力B1との差が0N/50mmより大きく0.17N/50mm以下である請求項1~9のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求項11】
前記剥離力A2と前記剥離力B2との差が0.13N/50mm以下である請求項1~10のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求項12】
前記第1および第2剥離ライナーが、基材と当該基材の少なくとも一方の面に設けられた剥離処理層とを備える、請求項1~11のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求項13】
前記剥離処理層がシリコーン系剥離処理層である請求項12に記載の両面粘着シート。
【請求項14】
前記粘着剤層の少なくとも一方の粘着面をグラファイトに貼り合わせる用途である請求項1~13のいずれか1項に記載の両面粘着シート。
【請求項15】
前記粘着剤層の少なくとも一方の粘着面を金属板に貼り合わせる用途である請求項1~14のいずれか1項に記載の両面粘着シート。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 証拠方法の一覧
申立人が提示した証拠方法は、甲第1号証~甲第6号証である。以下、甲第1号証を「甲1」などという。
甲1:特開2011-21109号公報
甲2:特開平4-293983号公報
甲3:特開2012-179888号公報
甲4:柴野富四、「剥離紙概論No.3 剥離紙の用途と要求される性能(1)」、コンバーテック、加工技術研究会、2014年12月15日発行、第42巻、第12号、通巻501号、p.12-16
甲5:名手和男、「粘着技術の考察 第5回 エレクトロニクス分野での粘着テープの利用(3)」、コンバーテック、加工技術研究会、2011年5月15日発行、第39巻、第5号、通巻458号、p.85-87
甲6:特開2019-35937号公報
2 申立理由1(進歩性欠如)
本件特許発明1~13、15は、甲1に記載された発明及び甲1~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であり、本件特許発明14は、甲1に記載された発明及び甲1~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由2(実施可能要件)
本件特許明細書の記載は、当業者が本件特許発明1~15の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件特許発明1~15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由3(サポート要件)
本件特許発明1~15は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由4(明確性要件)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~15の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 申立理由1(進歩性)について
1 各甲号証の記載
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
1a「【請求項1】
ヘーズが5.0%以下の剥離ライナーAを有することを特徴とする粘着テープ。
【請求項2】
光学部材用粘着テープである請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記剥離ライナーAの180°剥離試験における剥離力が1.0N/50mm以下である請求項1又は2に記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記剥離ライナーAの厚さが25~200μmである請求項1~3のいずれかの項に記載の粘着テープ。
【請求項5】
さらに、180°剥離試験における剥離力が0.03N/50mm以上である剥離ライナーBを有する請求項1~4のいずれかの項に記載の粘着テープ。
【請求項6】
前記剥離ライナーAの180°剥離試験における剥離力と、剥離ライナーBの180°剥離試験における剥離力との差[(剥離ライナーAの剥離力)-(剥離ライナーBの剥離力)]が、0.05~0.90N/50mmである請求項5に記載の粘着テープ。
・・・
【請求項8】
前記粘着剤層が、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、脂肪族環含有(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族環含有(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1つのモノマー成分から構成されたアクリル系ポリマーを含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層であって、
前記粘着剤層の、酢酸エチル抽出における可溶分(ゾル分)の重量平均分子量が5万~50万である請求項7に記載の粘着テープ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかの項に記載の粘着テープの片面に、光学部材を貼着した光学製品。」
1b「【0130】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0131】
剥離ライナーの製造例
(剥離ライナー1)
剥離ライナー基材としてPETフィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラー T-60」、厚み50μm、ヘーズ1.0%)を使用した。剥離処理剤としては、シリコーン系ポリマー離型剤(信越化学工業(株)製、商品名「KS-774」)を使用し、該剥離処理剤100重量部、白金触媒1.0重量部をヘプタンに溶解し、固形分1.0重量%の剥離処理剤のコーティング溶液を作製した。上記剥離ライナー基材の片面に、上記コーティング溶液を流延塗布し、130℃で1分間乾燥させることによって、一方の表面に剥離層(剥離処理剤の塗布量:0.10g/m2)を有する剥離ライナー1を作製した。剥離ライナー1のヘーズは1.0%であった。
【0132】
(剥離ライナー2)
剥離ライナー基材としてPETフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「G2」、厚み25μm、ヘーズ2.4%)を使用した以外は、剥離ライナー1と同様にして、剥離ライナー2を作製した。剥離ライナー2のヘーズは2.4%であった。
【0133】
(剥離ライナー3)
剥離ライナー基材としてPETフィルム(三菱樹脂(株)製、商品名「T100F」、厚み38μm、ヘーズ3.5%)を使用した以外は、剥離ライナー1と同様にして、剥離ライナー3を作製した。剥離ライナー3のヘーズは3.5%であった。
【0134】
(剥離ライナー4)
剥離ライナー基材としてPETフィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラーR75」、厚み75μm、ヘーズ6.3%)を使用し、剥離処理剤の塗布量を0.06g/m2とした以外は、剥離ライナー1と同様にして、剥離ライナー4を作製した。剥離ライナー4のヘーズは6.3%であった。
【0135】
(剥離ライナー5)
剥離ライナー基材としてPETフィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラーR75」、厚み38μm、ヘーズ3.2%)を、剥離処理剤としてシリコーン系ポリマー離型剤(信越化学工業(株)製、商品名「KS-772」)を使用し、塗布量を0.06g/m2とした以外は、剥離ライナー1と同様にして、剥離ライナー5を作製した。剥離ライナー5のヘーズは3.2%であった。
【0136】
実施例における重剥離側の剥離ライナー(即ち、剥離ライナー1~4)は、本発明でいう剥離ライナーAに相当する。また、実施例における軽剥離側の剥離ライナー(即ち、剥離ライナー5)は、本発明でいう剥離ライナーBに相当する。
【0137】
アクリル系ポリマーの調製例
(アクリル系ポリマーA)
モノマー成分として、アクリル酸n-ブチル(BA)97重量部、アクリル酸(AA)3重量部、重合開始剤として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部、および重合溶媒として、酢酸エチル233.8重量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら、1時間撹拌した。このようにして、重合系内の酸素を除去した後、63℃に昇温し、10時間反応させた後、トルエンを加えて濃度調整し、固形分濃度30重量%のアクリル系ポリマー溶液(「アクリル系ポリマー溶液A」と称する場合がある。)を得た。該アクリル系ポリマー溶液Aにおけるアクリル系ポリマー(「アクリル系ポリマーA」と称する場合がある)の重量平均分子量は70万であった。
【0138】
(アクリル系ポリマーB)
モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)29重量部、アクリル酸2-メトキシエチル(2MEA)70重量部、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)1重量部、重合開始剤として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部 )、および重合溶媒として酢酸エチル185.7重量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら、1時間撹拌した。このようにして、重合系内の酸素を除去した後、63℃に昇温し、10時間反応させた後、トルエンを加えて濃度調整し、固形分濃度30重量%のアクリル系ポリマー溶液(「アクリル系ポリマー溶液B」と称する場合がある。)を得た。該アクリル系ポリマー溶液Bにおけるアクリル系ポリマー(「アクリル系ポリマーB」と称する場合がある)の重量平均分子量は100万であった。
【0139】
アクリル系オリゴマーの調製例
(アクリル系オリゴマーC)
モノマー成分として、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)[ホモポリマー(ポリメタクリル酸シクロヘキシル)のガラス転移温度:66℃]95重量部、アクリル酸5重量部、連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール3重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部、および重合溶媒としてトルエン103.2重量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら、1時間撹拌した。このようにして、重合系内の酸素を除去した後、70℃に昇温して3時間反応させ、さらに75℃で2時間反応させて、固形分濃度50重量%のアクリル系オリゴマー溶液(「アクリル系オリゴマー溶液C」と称する場合がある)を得た。該アクリル系オリゴマー溶液Cにおけるアクリル系オリゴマー(「アクリル系オリゴマーC」と称する場合がある)の重量平均分子量は4000であった。
【0140】
以下、アクリル系ポリマーA、アクリル系ポリマーB、アクリル系オリゴマーCの配合量は、固形分換算の配合量(重量部)で表した。また、エポキシ系架橋剤(テトラッドC)、イソシアネート系架橋剤(コロネートHL)の配合量については、固形分換算ではなく、製品の配合量(重量部)で表した。なお、表1の中の配合量についても、同様に示した。
【0141】
実施例1
表1に示すように、アクリル系ポリマー溶液Aに、アクリル系ポリマーA:100重量部に対して、アクリル系オリゴマーCを20重量部、架橋剤としてテトラッドC(三菱ガス化学製、4官能エポキシ系架橋剤)を0.05重量部加えて、粘着剤組成物溶液を調製した。
上記で得られた粘着剤組成物溶液を、剥離ライナー1の剥離面(離型処理面)上に、乾燥後の厚さが25μmとなるように流延塗布し、常圧下、60℃で1分間及び155℃で2分間加熱乾燥した。次いで、剥離ライナー1に対する反対面側に剥離ライナー5を設けた後、さらに23℃で168時間エージングを行い、両面粘着テープ(基材レス両面粘着テープ)を作製した。
【0142】
実施例2、実施例3、比較例1
表1に示すように、剥離ライナーの種類、アクリル系ポリマーの種類、アクリル系オリゴマーの有無、架橋剤の種類及び配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして、粘着剤組成物溶液を調製し、両面粘着テープ(基材レス両面粘着テープ)を作製した。」
1c「【0146】
(3)剥離ライナーの剥離力、剥離力差
実施例および比較例で得られた両面粘着テープから、幅50mm、長さ150mmのテープ片を切り出し、これを軽剥離側の剥離ライナーの剥離力測定用サンプルとした。重剥離側の剥離ライナーの剥離力測定用サンプルは、上記テープ片から軽剥離側の剥離ライナーを剥離し、粘着面に厚さ25μmのPETフィルムを貼付(裏打ち)して、作成した。
引張試験機を用いて、JIS Z 0237に準拠して180°剥離試験を行い、剥離ライナーの180°引き剥がし粘着力(N/50mm)を測定し、「剥離ライナーの剥離力」とした。測定は、23℃、50%RHの雰囲気下、剥離角度180°、引張速度300mm/分の条件で行った。試験回数(n数)は3回とし、平均値を算出した。
また、上記で測定した剥離ライナーの剥離力から、下記式により剥離力差を算出した。
剥離力差(N/50mm)=[(重剥離側の剥離ライナーの剥離力)-(軽剥離側の剥離ライナーの剥離力)]」
1d「【0152】
[図:0001400517000001.jpg]
」
(2)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
2a「【請求項1】剥離力の軽い剥離シート、粘着剤、剥離力の重い剥離シートを積層してなる基材レス両面粘着シートにおいて、(a)粘着剤の引張り強度が3kg/cm2以上、且つ伸び率が600%以下であり、更に(b)剥離力の軽い剥離シートにおける剥離力が5~100g、剥離力の重い剥離シートにおける剥離力が20~500gであり、且つ両剥離力の比が1:2~1:50の範囲にあることを特徴とする基材レス両面粘着シート。」
2b「【0011】更に、本発明の両面粘着シートは、他の物体への接着を目的として、一方の剥離紙を粘着剤層から剥がすときに、粘着剤層が追従してめくれ上がるのを防止する目的で、粘着剤層の一方の面を剥離力の軽い剥離剤層、他方の面を剥離力の重い剥離剤層で被覆するものである。このときの両剥離紙の剥離力の差は相対的なもので、その差は剥離速度にかかわらず、大きい程好ましいが、反対に両剥離紙の剥離力の差が大き過ぎると剥離力の重い剥離紙を剥離するのが困難となる。好ましい両者の具体的な剥離力としては、剥離力の軽い剥離紙における剥離力が5~100g、剥離力の重い剥離紙における剥離力が20~500gの範囲内であり、且つ両剥離紙の剥離力の比率を、剥離速度0.3m/分~20m/分までの間で1:2~1:50の範囲、好ましくは1:3~1:20の範囲とすることにより、所望の効果を得ることができる。なお、本発明の基材レス両面粘着シートの断面図(図1)を下に示す。」
2c「【0012】
【実施例】以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。
【0013】実施例1
ポリエチレンラミネート紙の表面に軽い剥離用シリコーンKS-770(信越化学(株)製)と重い剥離用シリコーンBY24-312(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)をそれぞれ固形分換算で0.5g/m2塗被、熱風乾燥させて剥離力の軽い剥離紙と剥離力の重い剥離紙を得た。この剥離力の軽い剥離紙上(剥離剤層上)にアクリル系エマルジョン型粘着剤X-490-229 E (サイデン化学(株)製)を固形分換算で20g/m2となるようにロールコーターを用いて塗被、熱風乾燥し、粘着剤層と剥離剤層とが接するように剥離力の重い剥離紙とを貼合わせて基材レス両面粘着シートを得た。
【0014】実施例2
剥離力の重い剥離紙用に重剥離用シリコーンSRX-345(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして基材レス両面粘着シートを得た。
【0015】実施例3
アクリル系エマルジョン型粘着剤としてX-490-228E(サイデン化学(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様にして基材レス両面粘着シートを得た。」
2d「【0022】〔剥離力〕ニットー31Bテープを剥離紙に貼合わせ、50mm幅の試験片を作成した後、当該テープを剥離紙より所定の速度で、180°の引張り角度にて引き剥がした時にかかる荷重を測定した。(単位;g/50mm)」
2e「【0026】
[図:0001400517000002.jpg]
(3)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
3a「【請求項1】
アルケニル基およびアルキル基を官能基として有し、移行成分を5~20重量%含むシリコーン樹脂と、白金系触媒とを含有するシリコーン系離型層を有するポリエステルフィルムであり、当該離型層の300mm/分速度域での低速剥離力が10~20mN/cmの範囲であり、かつ、10000mm/分速度域での高速剥離力が前記低速剥離力の2.5倍以下であることを特徴とする基材レス両面粘着シート用ポリエステルフィルム。」
3b「【0033】
本発明における、剥離力とは、両面粘着テープ(日東電工製「No.31B」)を離型層面に貼り付け、室温にて1時間放置した後に、基材フィルムと剥離角度180°、任意の引張速度でテープを剥離したときに引張試験機で測定した値を言う。本発明において特定の剥離力を調整する方法は、離型層中の組成を選択することにより達成することができるが、その他の手段も採用でき、主にシリコーン離型層の離型剤の種類を、所望の剥離力に応じて変更することが好ましく、さらには、剥離力は用いる離型剤の塗布量に大きく依存するため、その離型剤の塗布量を調整する方法がさらに好ましい。
【0034】
本発明におけるポリエステルフィルムの剥離力の値については、300mm/分速度域での低速剥離力が10~20mN/cmの範囲である。当該剥離力が10mN/cm未満の場合、剥離力が軽くなりすぎて本来剥離する必要がない場面においても容易に剥離する不具合を生じる。剥離力が20mN/cmを超える場合、剥離力の重い方の離型フィルムとの剥離力差が小さくなり、剥離工程で不具合を生じたり、剥離力の重い方の離型フィルムの選定幅が狭くなったりする等の問題がある。
【0035】
さらに、加工性を考慮に入れた10000mm/分速度域での高速剥離力が、上記低速剥離力の2.5倍以下である。当該剥離力の比が2.5倍よりも大きい場合、剥離力が重い方の離型フィルムとの剥離力差が小さくなり、剥離工程で剥離が上手くできなかったり、粘着剤ごと剥がれてしまったりする。」
3c「【0040】
(4)離型フィルムの剥離力(F)の評価
試料フィルムの離型層表面に両面粘着テープ(日東電工製「No.31B」)の片面を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットした後、室温にて1時間放置後の剥離力を測定する。剥離力は、引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分、さらに、10000mm/分の条件下、180°剥離を行った。次のような基準で判断する。
【0041】
<300mm/分での剥離力>
○:10~20mN/cmの範囲
×:10mN/cmより小さい、もしくは、20mN/cmより大きい
【0042】
<10000mm/分での剥離力と300mm/分での剥離力の比較>
下式にて求めた値で判断した。
(10000mm/分剥離力(mN/cm))÷(300mm/分剥離力(mN/cm))
○:2.5以下
×:2.5より大きい」
3d「【0045】
実施例1
<ポリエステルフィルムの製造>
先に述べたポリエステルを原料として、ベント付き押出機に供給し、290℃で溶融押出した後、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して厚さ約550μmの無定形フィルムを得た。
このフィルムを85℃で縦方向に3.7倍延伸し、100℃で横方向に3.9倍延伸し、210℃で熱処理して、厚さ38μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た
【0046】
得られたポリエステルフィルムに、下記に示す離型剤組成-Aからなる離型剤を塗布量(乾燥後)が0.12g/m2になるようにリバースグラビアコート方式により塗布し、ドライヤー温度120℃、ライン速度30m/分の条件でロール状の離型ポリエステルフィルムを得た。得られた離型ポリエステルフィルムは、300mm/分速度域での剥離力が14mN/cm離型フィルムで、かつ、10000mm/分速度域での剥離力が32mN/cmであった。
【0047】
<離型剤組成-A>
硬化型シリコーン樹脂(LTC303E:東レ・ダウコーニング製) 20部
付加型白金触媒(SRX212:東レ・ダウコーニング製) 0.2部
MEK/トルエン/n-ヘプタン混合溶媒(混合比率は1:1:1)
離型剤組成-Aの移行性分量:15重量%
【0048】
得られたポリエステルフィルムは、下記方法で偏向板を作成し、剥離特性の評価を行った。得られた離型フィルムは偏光板きれいに剥がれ、粘着剤が離型層に付着する現象が見られなかった。
【0049】
<離型フィルム付き偏光板の製造>
偏光板に下記に示すアクリル粘着剤を、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃の乾燥炉内を30秒で通過させた後、離型フィルムを貼り合わせ、粘着剤を介して離型フィルムと偏光フィルムが密着された離型フィルム付き偏光板を作成した。フィルムの貼り合せ方向は、離型フィルムの幅方向が、偏光フィルムの配向軸と平行となるように行った。
・アクリル粘着剤塗布液
アクリル粘着剤(オリバインBPS429-4:東洋インキ製) 100部
硬化剤(BPS8515:東洋インキ製) 3部
MEK/トルエン混合溶媒(混合比率は1:1) 50部
【0050】
実施例2~4:
実施例1において、ポリエステルフィルム製造時の塗離型剤塗布量(乾燥後)を変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。得られた結果をまとめて下記表1に示す。
【0051】
実施例5:
実施例2において、離型剤組成-Aにシリコーンオイル(AL-1)3部を添加したものを塗布する以外は実施例2と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。得られた結果をまとめて下記表1に示す。」
3e「【0052】
[図:0001400517000003.jpg]
」
(4)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「なお、剥離性は多くの場合、表裏で異なるように調整されている。剥離性の表裏差が不適当だと、テープを引き出したとき、図19の(b)や(c)のように、粘着剤が逆側に移ってしまう。この現象は、特にトランスファーテープまたはノンキャリアテープと呼ばれる、芯のない両面テープで起こりやすい。また、テープを手貼りする場合は起こらなくても、機械貼りのように高速でテープを展開する場合に起こったりする。これは、表裏の剥離性バランスが、図20のように、高速で逆転するためである。すなわち、テープの機械貼りに対応するには、表裏の剥離性は、図21のように、コントロールされる必要がある。」(第14ページ左欄下から第5行目~右欄第6行目)
(5)甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
「基材レステープの断面模式図を図3に示す。テープの貼り付け時の作業性を良くするためにも、セパレータの剥離性能に異差を付けるなど、その材料選定が重要になる。」(第85ページ右欄第3~5行目)。
(6)甲6の記載
甲6は、本件発明14に対応して、粘着シートをグラファイトに貼り合わせることが容易であることを示す証拠であるため、摘記を省略する。
2 甲1発明の認定
甲1の実施例1(【0141】、【0146】及び【0152】の【表1】)に着目し、【0131】、【0135】、【0137】及び【0139】を参照すると、甲1には、「剥離ライナー基材としてPETフィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラーT-60」、厚み50μm、ヘーズ1.0%)を使用し、剥離処理剤としては、シリコーン系ポリマー離型剤(信越化学工業(株)製、商品名「KS-774」)を使用し、該剥離処理剤100重量部、白金触媒1.0重量部をヘプタンに溶解し、固形分1.0重量%の剥離処理剤のコーティング溶液を作製し、上記剥離ライナー基材の片面に、上記コーティング溶液を流延塗布し、130℃で1分間乾燥させることによって、一方の表面に剥離層(剥離処理剤の塗布量:0.10g/m2)を有する剥離ライナー1を作製し、剥離ライナー基材としてPETフィルム(東レ(株)製、商品名「ルミラーR75」、厚み38μm、ヘーズ3.2%)を、剥離処理剤としてシリコーン系ポリマー離型剤(信越化学工業(株)製、商品名「KS-772」)を使用し、塗布量を0.06g/m2とした以外は、剥離ライナー1と同様にして、剥離ライナー5を作製し、モノマー成分として、アクリル酸n-ブチル(BA)97重量部、アクリル酸(AA)3重量部、重合開始剤として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部、および重合溶媒として、酢酸エチル233.8重量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら、1時間撹拌し、このようにして、重合系内の酸素を除去した後、63℃に昇温し、10時間反応させた後、トルエンを加えて濃度調整し、固形分濃度30重量%のアクリル系ポリマー溶液(「アクリル系ポリマー溶液A」と称する場合がある。)を得て、該アクリル系ポリマー溶液Aにおけるアクリル系ポリマー(「アクリル系ポリマーA」と称する場合がある)の重量平均分子量は70万であり、モノマー成分として、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)[ホモポリマー(ポリメタクリル酸シクロヘキシル)のガラス転移温度:66℃]95重量部、アクリル酸5重量部、連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール3重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部、および重合溶媒としてトルエン103.2重量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら、1時間撹拌し、このようにして、重合系内の酸素を除去した後、70℃に昇温して3時間反応させ、さらに75℃で2時間反応させて、固形分濃度50重量%のアクリル系オリゴマー溶液(「アクリル系オリゴマー溶液C」と称する場合がある)を得て、該アクリル系オリゴマー溶液Cにおけるアクリル系オリゴマー(「アクリル系オリゴマーC」と称する場合がある)の重量平均分子量は4000であり、アクリル系ポリマー溶液Aに、アクリル系ポリマーA:100重量部に対して、アクリル系オリゴマーCを20重量部、架橋剤としてテトラッドC(三菱ガス化学製、4官能エポキシ系架橋剤)を0.05重量部加えて、粘着剤組成物溶液を調製し、上記で得られた粘着剤組成物溶液を、剥離ライナー1の剥離面(離型処理面)上に、乾燥後の厚さが25μmとなるように流延塗布し、常圧下、60℃で1分間及び155℃で2分間加熱乾燥し、次いで、剥離ライナー1に対する反対面側に剥離ライナー5を設けた後、さらに23℃で168時間エージングを行い、作製した両面粘着テープ(基材レス両面粘着テープ)であって、23℃、50%RHの雰囲気下、剥離角度180°、引張速度300mm/分の条件で測定した、剥離ライナー1の剥離力0.20N/50mmである、両面粘着テープ」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
3 本件特許発明1について
(1)対比
甲1発明と本件特許発明1を対比する。
甲1発明の「剥離ライナー1」、「剥離ライナー5」、「両面粘着テープ」は、それぞれ、本件特許発明1の「第1剥離ライナー」、「第2剥離ライナー」、「両面粘着シート」に相当する。
甲1発明の23℃、50%RHの雰囲気下、剥離角度180°、引張速度300mm/分の条件で測定した、剥離ライナー1の剥離力は0.20N/50mmであり、本件特許発明1の「前記第1剥離ライナーの、23℃、50%RHにおいて、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件で前記粘着剤層から剥離したときの粘着面に対する剥離力A2が0.27N/50mm以下であり」を充足する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「粘着剤層と、前記粘着剤層の一方の粘着面に積層された第1剥離ライナーと、前記粘着剤層の他方の粘着面に積層された第2剥離ライナーとを備え、
前記第1剥離ライナーの、23℃、50%RHにおいて、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件で前記粘着剤層から剥離したときの粘着面に対する剥離力A2が0.27N/50mm以下である、
両面粘着シート。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
第1剥離ライナーの、23℃、50%RHにおいて、引張速度10000mm/分、剥離角度180°の条件で粘着剤層から剥離したときの粘着面に対する剥離力A1が、本件特許発明1では、「0.50N/50mm以下」であるのに対し、甲1発明では不明である点。
<相違点2>
剥離力A1と剥離力A2との差が、本件特許発明1では、「0.22N/50mm以下」であるのに対し、甲1発明では、剥離力A1が不明であるため、剥離力A1と剥離力A2との差も不明である点。
<相違点3>
剥離力A1と、第2剥離ライナーの、23℃、50%RHにおいて、引張速度10000mm/分、剥離角度180°の条件で粘着剤層から剥離したときの粘着面に対する剥離力B1との差が、本件特許発明1では、「0N/50mmより高く0.30N/50mm以下」であるのに対し、甲1発明では、剥離力A1及び剥離力B1が不明であり、剥離力A1と剥離力B1との差も不明である点。
(2)相違点の検討
事案に鑑み、まず、<相違点3>について検討する。
<相違点3>について
甲2の【0011】には、「一方の剥離紙を粘着剤層から剥がすときに、粘着剤層が追従してめくれ上がるのを防止する目的で、粘着剤層の一方の面を剥離力の軽い剥離剤層、他方の面を剥離力の重い剥離剤層で被覆する」こと、「このときの両剥離紙の剥離力の差は相対的なもので、その差は剥離速度にかかわらず、大きい程好ましいが、反対に両剥離紙の剥離力の差が大き過ぎると剥離力の重い剥離紙を剥離するのが困難となる」こと、「好ましい両者の具体的な剥離力としては、剥離力の軽い剥離紙における剥離力が5~100g、剥離力の重い剥離紙における剥離力が20~500gの範囲内であり、且つ両剥離紙の剥離力の比率を、剥離速度0.3m/分~20m/分までの間で1:2~1:50の範囲、好ましくは1:3~1:20の範囲とすることにより、所望の効果を得ることができる」ことが記載され、実施例の中で、180°の引張角度、10m/minの引張速度での重剥離層と軽剥離層の剥離力の差が最も小さい実施例2(【0022】及び【0026】の【表1】)では、重剥離層で、0.3m/minの引張速度で剥離力70g/50mm(0.686N/50mm)、10m/minの引張速度で剥離力80g/50mm(0.784N/50mm)であり、軽剥離層で、0.3m/minの引張速度で剥離力10g/50mm(0.098N/50mm)、10m/minの引張速度で剥離力25g/50mm(0.245N/50mm)であり、引張速度10m/min(10000mm/分)での重剥離層と軽剥離層の剥離力の差は、0.784N/50mm-0.245N/50mm=0.539N/50mmであることが記載されているが、当該剥離力の差を0.30N/50mm以下とすることは記載されていない。
また、甲3の請求項1、【0034】、【0035】には、軽剥離側の離型フィルムにおいて、300mm/分での低速剥離力が10~20mN/cm(0.05N/50mm~0.1N/50mm)、10000mm/分での高速剥離力が低速剥離力の2.5倍以下であることが記載され、当該数値範囲内である実施例も記載されているが、重剥離側の離型フィルムの高速剥離力の記載はなく、軽剥離側と重剥離側の高速剥離力の差についても記載されていない。
また甲4には、両面粘着テープの表裏の剥離力は異なるように調整されており、剥離速度が低速でも高速でも所定の剥離力の差を維持するようにコントロールされる必要がある旨が記載されているが(摘記(4)参照)、引張速度10000mm/分での表裏の剥離力の差の具体値については記載されていない。
また甲5には、セパレータの剥離性能に異差を付けるために材料選定が重要であることが記載されているが(摘記(5)参照)、引張速度10000mm/分での表裏のセパレータの剥離力の差の具体値については記載されていない
そうすると、甲2~5には、引張速度10000mm/分での表裏のセパレータの剥離力の差を0.30N/50mm以下とすることが記載されていないため、甲1発明において、23℃、50%RHにおいて、引張速度10000mm/分、剥離角度180°の条件で粘着剤層から剥離したときの粘着面に対する、剥離ライナー1の剥離力と剥離ライナー5の剥離力の差を、「0N/50mmより高く0.30N/50mm以下」とすることが、当業者が容易になし得ることとはいえない。
そして、本件特許発明1は、当該剥離力の差を「0.30N/50mm以下」とすることにより、被着体が破壊されにくいという効果を奏するものであり、当該効果は甲1~5の記載から当業者が予測し得るものとはいえない。
(3)申立人の主張
申立人は、「甲1号証には、剥離速度(引張速度)300mm/分における表裏の剥離ライナーの剥離力の差を0.05~0.90N/50mmにすることが好ましい旨が記載されており、高速での剥離においても、剥離力の差は同程度であることが好ましいことは、甲2号証~甲4号証の記載から明らかであるから、剥離力A1と剥離力B1との差を0N/50mmより高く0.30N/50mm以下とすることは、当業者が容易に想到しうるものである」旨主張している。しかしながら、前記(2)で検討したとおり、甲2には、10000mm/分の高速での表裏の剥離ライナーの剥離力の差の最小値として0.539N/50mmである例が記載されるのみであり、当該剥離力の差を0.30N/50mm以下とすることは記載されておらず、甲3~甲5には、10000mm/分の高速での表裏の剥離ライナーの剥離力の差の具体値は何ら記載されていないため、甲1発明において、剥離力A1と剥離力B1との差を0N/50mmより高く0.30N/50mm以下とすることが、当業者が容易に想到しうるものであるとはいえない。よって、申立人の主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、<相違点1>及び<相違点2>について検討するまでもなく、甲1発明及び甲1~甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
4 本件特許発明2~15について
本件特許発明2~15は、いずれも本件特許発明1を引用して特定するものであり、本件特許発明1に発明特定事項をさらに追加したものである。
したがって、本件特許発明2~15は、甲1~甲5に記載された事項を踏まえたとしても、前記3と同様の理由により、甲1発明に対して進歩性を有するものであり、本件特許発明2~15に係る特許は、申立理由1によって取り消されるべきものとすることはできない。
第5 申立理由2(実施可能要件)について
1 判断手法について
特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり、物の発明については、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。さらに、ここにいう「使用できる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど、少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することができることを要するというべきである。
2 本件への当てはめ
(1)前記1の考え方を本件特許発明についてみると、本件特許発明は、前記第2の1に記載のとおりの「両面粘着シート」であるから、本件特許発明は物の発明であり、本件特許発明が実施可能であるというためには、本件明細書の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件特許発明に係る「両面粘着シート」を作ることができ、かつ、当該「両面粘着シート」を使用できる必要があるとともに、それで足りるというべきである。
(2)「両面粘着シート」を作ることができるかについて
ア 本件明細書の【0115】~【0117】、【0119】、【0128】、【0129】には、実施例1~14として、本件特許発明1~15の発明特定事項を充足する両面粘着シートの具体例が記載されており、粘着剤組成物を構成する成分とその製造方法、剥離ライナーの構成成分と具体的商品名、粘着剤組成物と剥離ライナーを用いた両面粘着シートの製造方法が具体的に記載されている。
イ また、本件明細書には、本件特許発明で特定される「剥離力」は、剥離ライナーの種類に依存する傾向が高いことが記載されているが(【0040】)、剥離ライナーの種類について具体的な説明がされており(【0095】~【0104】)、また、粘着剤層の種類も前記「剥離力」に影響することは技術常識から明らかであるが、本件明細書には、粘着剤層の種類についても具体的に説明がされている(【0041】~【0094】)。
ウ そうすると、当業者であれば、実施例の記載や前記本件明細書の記載を参考に、本件特許発明の「剥離力」をはじめ、本件特許発明の発明特定事項を充足する両面粘着シート実際に作ることができるというべきである。
(3)「両面粘着シート」を使用できるかについて
本件明細書には、両面粘着シートは、まず一方の剥離ライナーを剥離し、露出した粘着剤層表面を一方の被着体に貼り合わせ、その後、他方の剥離ライナーを剥離して露出した粘着剤層表面を他方の被着体に貼り合わせて使用することが記載されており(【0095】)、光学部材の部品を所定の部位に取り付ける際などの用途に用いることも記載されているので(【0111】)、本件発明の両面粘着シートを使用できるといえる。
3 申立人の主張について
申立人は、「具体的に、どのようにすれば、」本件特許発明1の剥離力に関する要件である「上記の(i)~(iv)の要件を全て満足する剥離ライナーを得ることができるのか不明であり、出願時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明は、当業者が請求項に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない」旨、「また、剥離力は、粘着剤によって変化することは、当業者の技術常識であり、種々の粘着剤に対して、上記(i)~(iv)を満足する第1剥離ライナー及び第2剥離ライナーを有する両面粘着シートを作製するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験を行う必要があり、実施可能要件違反である」旨、主張している。また、本件特許発明4、7~11の剥離力に関する発明特定事項、本件特許発明5の粘着剤層の剥離強度に関する発明特定事項についても同様の主張をしている。
しかしながら、前記2のとおり、本件明細書には、実施例とともに、剥離ライナー及び粘着剤層の種類について具体的な説明が記載されているから、当業者であれば、本件特許発明の両面粘着シートを製造でき、使用できるといえるので、申立人の前記主張は採用できない。
4 小括
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、明細書の実施可能要件に適合しないということはできない。
第6 申立理由3(サポート要件)について
1 判断手法について
特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
2 本件への当てはめ
(1)本件特許発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0008】の記載から、「剥離ライナーを剥離する際、速度依存性が小さく、且つ既に貼り合わせられた被着体が破壊しにくい両面粘着シート提供すること」であると認められる。
(2)本件明細書の【0034】には、「上記剥離力A1と上記剥離力A2との差」が、「0.22N/50mm以下であることにより、引張速度依存性が小さく、幅広い加工速度において適応可能であり、粘着剤層の破壊を抑制しつつ第1剥離ライナーを容易に剥離することができる。」と記載されており、引張速度10000mm/分での剥離力A1と引張速度300mm/分での剥離力A2との差が0.22N/50mm以下であるという本件特許発明1の発明特定事項を充足することで、「剥離ライナーを剥離する際、速度依存性が小さ」い両面粘着シートを提供するという課題を解決できるといえる。
(3)また、本件明細書の【0128】、【0129】には、本件特許発明1の発明特定事項を全て充足する実施例1~14では、被着体破壊が生じなかったことが記載され、【0032】には、「剥離力A1が0.50N/50mm以下であることにより、10000mm/分もの速い引張速度であっても剥離力が小さく、粘着剤層から第1剥離ライナーを容易に剥離することができる。また、第2粘着面を先に被着体に貼り合わせた後に第1剥離ライナーを剥離する場合において、当該被着体が破壊されにくい。」と記載され、【0033】には、「剥離力A2が0.27N/50mm以下であることにより、比較的緩やかな引張速度であっても剥離力が小さく、粘着剤層から第1剥離ライナーを容易に剥離することができる。また、第2粘着面を先に被着体に貼り合わせた後に第1剥離ライナーを剥離する場合において、当該被着体が破壊されにくい。」と記載され、【0038】には、「上記剥離力A1と上記剥離力B1との差」が「0N/50mmより大きい、すなわち引張速度10000mm/分における第1剥離ライナーの剥離力と第2剥離ライナーの剥離力とが異なることにより、剥離力が小さい側の剥離ライナーから容易に剥離することができる。上記差が0.30N/50mm以下であることにより、両面粘着シートの一方の粘着面を被着体に貼り合わせた状態で両面粘着シートに残る剥離ライナーを剥離する際、粘着体の上記被着体に対する剥離力と上記剥離ライナーの粘着体に対する剥離力との差が小さいため上記被着体にかかる剥離応力が小さくなり、既に貼り合わせられた被着体が破壊しにくい。」と記載されていることから、剥離力A1が0.50N/50mm以下であり、剥離力A2が0.27N/50mm以下であり、剥離力A1と剥離力B1との差が0N/50mmより高く0.30N/50mm以下であるという本件特許発明1の発明特定事項を充足することにより、既に貼り合わせられた被着体が破壊しにくい両面粘着シート提供するという課題を解決できるものといえる。
(4)したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
(5)また、本件特許発明2~15は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用して特定するものであり、いずれも本件特許発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件特許発明2~15は、「剥離ライナーを剥離する際、速度依存性が小さく、且つ既に貼り合わせられた被着体が破壊しにくい両面粘着シート提供すること」という課題を解決するものである。したがって、本件特許発明2~15も、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
3 申立人の主張について
(1)申立人は「実施例で具体的に示されている剥離力A1は、0.09N/50mm~0.26N/50mmの範囲であり、0.50N/50mm以下の範囲にまで拡張ないし一般化できるものではない」旨主張している。しかしながら、【0032】に記載のとおり、第2粘着面を先に被着体に貼り合わせた後に第1剥離ライナーを剥離する場合において、第1剥離ライナーの剥離力が小さい方が被着体が破壊されにくいものといえ、【0129】の比較例2で、剥離力A1が0.51N/50mmであることで被着体破壊が生じたことが記載されていることから、剥離力A1が0.50N/50mm以下であれば、0.50N/50mmより大きい場合と比べ被着体破壊が生じにくいと認めれるため、「既に貼り合わせられた被着体が破壊しにくい両面粘着シート提供すること」という課題を解決できるものといえる。また申立人は、剥離力A1が「0.50N/50mm以下の範囲」である場合に、課題を解決できないことを具体的に示してもいない。よって、「0.50N/50mm以下の範囲にまで拡張ないし一般化できるものではない」という申立人の主張は採用できない。
(2)申立人は、「剥離力A1の上限のみが規定されており、剥離力A1が極度の小さい場合や、剥離力が0N/50mmである場合をも含むものであり、このような範囲にまで拡張ないし一般化できるものではない」旨を主張している。しかしながら、剥離力A1は小さい方が被着体が破壊しにくいため、剥離力が極度に小さい場合でも課題を解決できるといえる。また、剥離力が0N/50mmである場合は、剥離ライナーとしての機能が果たせないため、当然に含まれないものと解すべきである。よって、当該申立人の主張は採用できない。
(3)申立人は、「実施例で具体的に示されている剥離力A2は、0.05N/50mm~0.13N/50mmの範囲であり、0.27N/mm以下の範囲にまで拡張ないし一般化できるものではない」旨、「剥離力A2の上限のみが規定されており、剥離力A2が極度の小さい場合や、剥離力が0N/50mmである場合をも含むものであり、このような範囲にまで拡張ないし一般化できるものではない」旨を主張している。しかしながら、前記(1)、(2)の検討と同様に、剥離力A2は小さい方が被着体破壊が生じにくいものであるから、0.27N/mm以下であれば、「既に貼り合わせられた被着体が破壊しにくい両面粘着シート提供すること」という課題を解決できるものといえ、また、剥離力が0N/50mmである場合は、剥離ライナーとしての機能が果たせないため、当然に含まれないものと解すべきである。
(4)申立人は、本件特許発明1では、「剥離力A1と剥離力B1とのいずれが大きな値であるのか、特定されていない」が、「実施例では、剥離力A1が剥離力B1よりも大きな実施例のみであり、剥離力A1が剥離力B1より小さい範囲にまで、拡張ないし一般化できるものではない」旨主張している。しかしながら、剥離力A1とB1のいずれが大きい場合でも、剥離力A1と剥離力A2の差が0.22N/50mm以下であるという特定により、「剥離ライナーを剥離する際、速度依存性が小さい両面粘着シート提供すること」という課題を解決でき、また、剥離力A1が0.50N/50mm以下、剥離力A2が0.27N/50mm以下、剥離力A1とB1との差が0N/50mmより高く0.30N/50mm以下であるという特定により、「既に貼り合わせられた被着体が破壊しにくい両面粘着シート提供すること」という課題を解決できるものといえる。
(5)申立人は、「粘着剤層については何ら特定されていない」、「どのような粘着剤層に対しても、第1剥離ライナー及び第2剥離ライナーの剥離力のみを規定すれば、「剥離ライナーを剥離する際、速度依存性が小さく、且つ既に貼り合わせられた被着体が破壊しにくい」という効果を奏するとは考えられない」、「実施例では、1種類の粘着剤を用いた効果が示されているのみであり、他の組成を有し、特定の異なる粘着剤層を使用した場合でも、同様の効果が得られるとはいえない」旨を主張している。しかしながら、本件特許発明1では、剥離ライナーの粘着面に対する剥離力を規定しており、当該剥離力を満たすものであれば、粘着剤層の種類がどのような種類であったとしても、前記課題を解決できるといえる。
(6)したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。申立人は、本件特許発明2、5、7、8、11についても申立てを行っているが、本件特許発明1が、前記課題を解決するものである以上、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2~15についても、少なくとも前記課題を解決するものであるから、本件特許発明2~15も、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。よって、申立人の主張はいずれも採用できない。
4 小括
以上で検討したとおり、本件発明1~15は、発明の詳細な説明及び技術常識に基いて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである
第7 申立理由4(明確性)について
1 判断手法
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
2 本件への当てはめ
本件特許発明1には、第1剥離ライナーの剥離力A1が0.50N/50mm以下、剥離力A2が0.27N/50mm以下と特定されているが、数値範囲は明確である。また、剥離力A1と剥離力B1の差が0N.50mmより高く0.30N/50mm以下であると特定されており、剥離力A1と剥離力B1のいずれが大きい場合も含むことは明確である。よって、本件特許発明1が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許発明2~15についても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
3 申立人の主張について
(1)申立人は、本件特許発明1では、剥離力A1及びA2のいずれも「上限のみが規定されており」、剥離力A1及びA2の範囲が不明確である、「上限のみが規定されている結果、0N/50mm、すなわち剥離力を有しない場合を含みうるものである」旨主張している。
しかしながら、剥離ライナーとして使用する以上、剥離するのに力を加える必要がある程度の剥離力を有することは、技術常識から見て明らかである。よって、上限のみの規定であっても第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(2)申立人は、「剥離力A1と剥離力B1の大小が規定されておらず、軽剥離側の剥離ライナーが第1剥離ライナーであるのか、第2剥離ライナーであるのか不明であり、その結果、発明の範囲が不明確である」旨主張している。
しかしながら、軽剥離側の剥離ライナーは、第1剥離ライナーと第2剥離ライナーのいずれでも良いことは明らかであり、不明確であるとはいえない。
(3)申立人は、本件特許発明2、5、7、8、10、11についても、上限のみ又は下限のみの規定と、剥離力A1と剥離力B1との大小関係の規定がないことについて不明確である旨を主張しているが、前記(1)、(2)と同様に、いずれも不明確であるとはいえない。
4 小括
以上で検討したとおり、本件特許発明1~15は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700429