特許異議申立
2023-700402
麺生地及び麺類用穀粉組成物
- 審判番号
- 2023-700402
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-565508
- 登録番号
- 7157663
- 請求日
- 2023年04月20日
- 審決日
- 2023年06月16日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社日清製粉ウェルナ
- 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】田村 良介
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L) / P1651.536-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7157663号発明「麺生地及び麺類用穀粉組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7157663号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7157663号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)1月26日(優先権主張 平成29年2月1日)を国際出願日とする出願であって、令和4年10月12日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年4月20日に特許異議申立人 田村 良介(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
レジスタントスターチを含有する穀粉組成物と、水とを含有し、該穀粉組成物における該レジスタントスターチの含有量が5質量%以上である麺生地であって、
前記穀粉組成物がさらに、α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を2質量%以上、小麦粉を10質量%以上、並びに増粘多糖類を0.04~3質量%含有し、
含水量が20~40質量%である麺生地。
【請求項2】
前記穀粉組成物における前記レジスタントスターチと前記α化穀粉類との含有質量比が、前者/後者として1/4~50/2である請求項1に記載の麺生地。
【請求項3】
前記穀粉組成物がさらに、α化澱粉以外の加工澱粉を含有する請求項1又は2に記載の麺生地。
【請求項4】
前記穀粉組成物がさらに、小麦たん白を含有する請求項1~3の何れか1項に記載の麺生地。
【請求項5】
前記増粘多糖類がアルギン酸類である請求項1~4の何れか1項に記載の麺生地。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の麺生地を製麺して生麺線を得、該生麺線を加熱調理した後に冷凍する工程を有する、麺類の製造方法。
【請求項7】
前記加熱調理が、前記生麺線の茹で調理である請求項6に記載の麺類の製造方法。
【請求項8】
レジスタントスターチを含有し、該レジスタントスターチの含有量が5質量%以上である麺類用穀粉組成物であって、
さらに、α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を2質量%以上、小麦粉を10質量%以上、並びに増粘多糖類を0.04~3質量%含有する麺類用穀粉組成物。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年4月20日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び3ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)請求項1ないし5及び8について
本件発明の課題は「レジスタントスターチの使用によって低カロリーでありながらも食感が良好で、且つ茄で歩留まりの安定性に優れる麺類を製造し得る、麺生地及び麺類用穀粉組成物を提供すること」であるが、食感や茄で歩留まりは麺の種類や太さによって異なることが出願時の技術常識である。しかし、請求項1ないし5及び8には、これらについて何ら特定されておらず、また、茄で調理を行わない麺類も含むものであるから、請求項1ないし5及び8に係る発明は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
(2)請求項1ないし8について
請求項1及び8には、レジスタントスターチ、α化穀粉類及び小麦粉の下限値のみ特定されているが、本件特許の発明の詳細な説明にはこれらの成分の配合量が多いと上記発明の課題を解決できないことが記載されている。従って、請求項1及び8は課題を解決できない範囲を含んでいるから、請求項1ないし8に係る発明は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
上記2(1)、(2)のような発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を考慮すると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし8に係る発明の実施ができる程度に明確かつ十分に記戴されたものではない。
4 証拠方法
(1) 甲第1号証:特開2017-12114号公報
(2) 甲第2号証:独立行政法人農畜産業振興機構、「でん粉の麺用途における最近の動向」、2010年4月30日(最終更新日)、インターネット、<URL: https://www.alic.go.jp/joho-d/joho07_000031.html>
(3) 甲第3号証:特開2016-2000号公報
(4) 甲第4号証:特開平11-164660号公報
(5) 甲第5号証:柄木田製粉株式会社、「α化小麦粉 Kシリーズ」、インターネット、令和5年4月17日(出力日)、<URL: https://www.asahi-net.or.jp/~ya7h-nzk/SA-komugiko.htm>
(6) 甲第6号証:特開2016-119864号公報
(7) 甲第7号証:特開2008-29273号公報
(8) 甲第8号証:特開平5-137527号公報
(9) 甲第9号証:特開平10-313804号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由1ないし3にはいずれも理由がないと判断する。
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、麺類の製造方法に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
難消化性澱粉を含む原料粉と該原料粉に対して0.1~1質量%の増粘多糖類とを含有し、且つ該増粘多糖類がカルシウムイオンと反応してゲルを形成し得るものである、生地原料に、加水・混合して生地を得る工程と、
前記生地を麺線に加工後、α化処理を施してα化麺を得る工程と、
前記α化麺にカルシウムイオンを付与する工程とを有する、麺類の製造方法。
【請求項2】
前記原料粉中における前記難消化性澱粉の含有量が20~60質量%である請求項1に記載の麺類の製造方法。
【請求項3】
請求項1及び2の何れか1項に記載の麺類の製造方法によって製造された麺類。」
・「【0006】
本発明の課題は、低糖質でありながらも食感に優れ、さらには、茹で溶けが少なく、麺線のほぐれが良好な麺類の製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、難消化性澱粉を含む原料粉と該原料粉に対して0.1~1質量%の増粘多糖類とを含有し、且つ該増粘多糖類がカルシウムイオンと反応してゲルを形成し得るものである、生地原料に、加水・混合して生地を得る工程と、前記生地を麺線に加工後、α化処理を施してα化麺を得る工程と、前記α化麺にカルシウムイオンを付与する工程とを有する、麺類の製造方法である。
また本発明は、前記製造方法によって製造された麺類である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の麺類の製造方法によれば、低糖質でありながらも食感に優れ、さらには、茹で溶けが少なく、麺線のほぐれが良好な麺類が提供される。」
・「【0010】
本発明で用いる生地原料は、原料粉を含有する。本明細書において「原料粉」は、生地の作製に用いられる生地原料のうち、常温常圧下で粉状の穀粉類であり、具体的には、小麦粉等の穀粉及び澱粉であり、油脂、食塩等の副原料は含まれない。原料粉は、生地原料の主体を成すものであり、通常、全生地原料の80質量%以上を占める。
【0011】
穀粉としては、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉、デュラム粉、全粒粉、ふすま等の小麦粉の他、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉等が挙げられる。また、澱粉としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉;前記各種澱粉にα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理を施した加工澱粉が挙げられる。本発明では、これらの原料粉の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。」
・「【0014】
尚、麺類の低糖質化、低カロリー化を図るためには、糖質の主たる給源である小麦粉及び澱粉の使用は控えることが好ましい。斯かる観点から、原料粉中における小麦粉及び澱粉の合計含有量は、60質量%以下が好ましい。」
・「【0016】
本発明で用いる特定増粘多糖類としては、カルシウムイオンと反応してゲルを形成し得る増粘多糖類として例えば、アルギン酸類(アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸類の塩を含む)、LMペクチン、ι(イオタ)‐カラギーナン、ジェランガムが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特にアルギン酸類が好ましい。
【0017】
生地原料中における特定増粘多糖類の含有量は、生地原料中の原料粉に対して0.1~1質量%であり、好ましくは0.2~0.5質量%である。特定増粘多糖類の対原料粉含有量が0.1質量%未満では、前述した難消化性澱粉の積極的な使用に起因する不都合の防止効果に乏しく、特定増粘多糖類の対原料粉含有量が1質量%を超えると、本発明の製造結果物である麺類(α化麺)の食感が悪くなるおそれがある。
【0018】
生地原料には、必要に応じ、原料粉(穀粉、澱粉)及び特定増粘多糖類以外の他の成分を含有させても良く、例えば、小麦グルテン、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;かんすい、焼成カルシウム、食物繊維、膨張剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、デキストリン、アルコール、保存剤、酵素剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
前記生地作製工程では、常法に従って、生地原料に加水・混合して生地を作製する。加水量は特に制限されず、麺類の種類等に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、生地原料中の原料粉100質量部に対して、30~50質量部程度である。
【0020】
続いて、前記α化麺作製工程では、先ず、前記生地作製工程で作製した生地を麺線に加工する。生地の麺線への加工は、常法に従って行うことができ、例えば、生地をロール圧延等の常法により圧延して麺帯を得、この麺帯から公知の麺線加工装置を用いて麺線を切り出すことで、生麺線が得られる。次いで、得られた生麺線にα化処理を施して、α化麺を作製する。生麺線のα化処理は、蒸煮、茹で等の公知のα化処理(水分存在下での加熱処理)を利用して行うことができる。生麺線のα化処理の一例として、98~100℃の湯で生麺線を茹でる処理が挙げられ、この場合の茹で時間は、生麺線の太さ等に応じて適宜調整することができる。
【0021】
続いて、前記後処理工程では、作製したα化麺にカルシウムイオンを付与する。前記後処理工程に供されるα化麺には、前述した通り、カルシウムイオンと反応してゲルを形成し得る特定増粘多糖類が特定量含有されているところ、このα化麺にカルシウムイオンを付与することによって、α化麺中の特定増粘多糖類がゲル化し、それによって食感の向上、麺線のほぐれやすさの向上、茹で溶けの抑制といった効果が奏されるようになる。
【0022】
α化麺にカルシウムイオンを付与する方法としては、カルシウムイオンを含む液状物を別途調製し、該液状物中にα化麺を浸漬する、該液状物をα化麺に塗布又は噴霧する、等の方法が挙げられる。カルシウムイオンを含む液状物としては、カルシウム塩水溶液を用いることができる。カルシウム塩としては、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。カルシウム塩水溶液におけるカルシウム塩の濃度は0.5質量%以上が好ましく、また、カルシウム塩水溶液中にα化麺を浸漬する場合の浸漬時間は30秒程度が好ましい。
【0023】
前記後処理工程後は、必要に応じ、α化麺を冷凍しても良く、あるいは、α化麺を密封包装した後、加熱殺菌処理を施しても良い。本発明が適用可能な麺類の種類は特に限定されず、例えば、中華麺、つけめん、焼きそば、素麺、冷麦、うどん、そば、パスタ等が挙げられる。
【実施例】
【0024】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0025】
〔実施例1~3及び比較例1~5〕
下記表1に示す組成の生地原料100質量部に対し、水43質量部、アルコール2質量部及びアルギン酸ナトリウム(特定増粘多糖類)0.5質量部をそれぞれ加え、製麺用ミキサーを用いて回転数90rpmで10分間混合し、生地を作製した(生地作製工程)。
次いで、作製した生地を、製麺ロールを用いて圧延した後、12角の切り刃を通して厚さ2.0mmの麺線に加工し、その生麺線を沸騰した湯で25分間茹でることでα化処理を行い、α化麺を作製した(α化麺作製工程)。
次いで、α化麺を塩化カルシウム濃度0.5質量%の塩化カルシウム水溶液中に30 秒間浸漬し(後処理工程)、目的とするα化麺を製造した。
【0026】
〔比較例4~5〕
後処理工程を行わなかった以外は実施例1又は比較例1と同様にして、α化麺を製造した。
【0027】
実施例及び比較例で用いた生地原料の詳細は下記の通り。
・難消化性澱粉(松谷化学製、「パインスターチRT」)
・小麦粉(中力粉、日清製粉製、「薫風」)
・アルギン酸ナトリウム、キミカ製、「キミカアルギン18」
・グルテン粉末(小川製粉製、「O-グル、H-10」)
・大豆粉末(フジ産業製、「ソイソーラーD」)
【0028】
〔評価試験〕
各実施例及び比較例で得られたα化麺を沸騰した湯で1分間茹でた後、その茹で調理における麺線の茹で溶けの程度を10名のパネラーに下記評価基準に基づいて評価してもらうと共に、茹で調理された麺線の食感、ほぐれやすさを10名のパネラーに下記評価基準に基づいて評価してもらった。それらの評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表1に示す。
【0029】
(食感の評価基準)
・比較例1を対照品として、下記基準によって評価する。
5点:対照品に比して粘弾性がある硬さで、極めて良好。
4点:対照品に比してやや粘弾性がある硬さで、良好。
3点:標準的な硬さであり、対照品と略同等。
2点:対照品に比してやや軟らかめで、やや不良。
1点:対照品に比して柔らかく、不良。
(麺線のほぐれの評価基準)
・比較例1を対照品として、下記基準によって評価する。
5点:対照品に比して麺が非常にほぐれやすく、極めて良好。
4点:対照品に比して麺がほぐれやすく、良好。
3点:対照品と略同等。
2点:対照品に比して麺のほぐれが悪く、やや不良。
1点:対照品に比して麺のほぐれが非常に悪く、不良。
(茹で溶けの評価基準)
・比較例1を対照品として、下記基準によって評価する。
5点:対照品に比して茹で溶けが非常に少なく、極めて良好。
4点:対照品に比して茹で溶けが少なく、良好。
3点:対照品と略同等。
2点:対照品に比して茹で溶けが多く、やや不良。
1点:対照品に比して茹で溶けが非常に多く、不良。
【0030】
【表1】
[図:0001399436000001.jpg]
【0031】
表1に示す通り、各実施例は各比較例に比して、製造結果物である麺類(α化麺)について食感及び麺線のほぐれに優れ、茹で溶けの少ないものであった。
比較例1は、前記特定増粘多糖類であるアルギン酸ナトリウムを生地原料として使用していないため、比較例2及び3は、アルギン酸ナトリウムの使用量が適切でないため、比較例4及び5は、α化麺にカルシウムイオンを付与していないため、それぞれ各実施例に比して、各評価結果に劣る結果になったと推察される。
以上のことから、難消化性澱粉を含む低糖質な麺類であって、食感及び麺線のほぐれに優れ且つ茹で溶けの少ない高品質な麺類を得るためには、アルギン酸ナトリウムに代表される、カルシウムイオンと反応してゲルを形成し得る増粘多糖類を使用してα化麺を作製し、且つそのα化麺にカルシウムイオンを付与することが有効であることがわかる。」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、実施例1及び2に関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
<甲1発明>
「難消化性澱粉20又は35質量部とタピオカ澱粉45又は30質量部と小麦粉10質量部とグルテン粉末10質量部を含む原料粉と、アルギン酸ナトリウム0.5質量部とを含有する生地原料100.5質量部に対し、水43質量部、アルコール2質量部を加え、混合して得られる生地。」
<甲1製法発明>
「甲1発明を圧延した後麺線に加工し、その生麺線を沸騰した湯で25分間茹でることでα化処理を行い、α化麺を作製し、次いで、α化麺を塩化カルシウム濃度0.5質量%の塩化カルシウム水溶液中に30秒間浸漬する、α化麺の製造方法。」
<甲1生地原料発明>
「難消化性澱粉20又は35質量部とタピオカ澱粉45又は30質量部と小麦粉10質量部とグルテン粉末10質量部を含む原料粉と、アルギン酸ナトリウム0.5質量部とを含有する生地原料。」
なお、特許異議申立人は、甲1に記載の「原料粉」を、「α化澱粉」を含有するものに特定して、甲1に記載された発明を認定している(特許異議申立書の第10頁)。しかしながら、甲1の【0010】ないし【0011】に、「α化澱粉」は、タピオカ澱粉等の他の多数の澱粉と共に原料粉の例として例示されているだけであるから、「原料粉」を「α化澱粉」を含有するものに特定して、甲1に記載された発明を認定することはできない。
2 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「生地」は、本件特許発明1の「麺生地」に相当する。
甲1発明の「生地原料」は、本件特許発明1の「穀粉組成物」に相当する。
甲1発明の「難消化性澱粉」は、本件特許発明1の「レジスタントスターチ」に相当するから、甲1発明は「該穀粉組成物における該レジスタントスターチの含有量が5質量%以上である」との特定事項を満たす。
甲1発明の「アルギン酸ナトリウム」は、本件特許発明1の「増粘多糖類」に相当するから、甲1発明は「増粘多糖類を0.04~3質量%含有し」との特定事項を満たす。
甲1発明は「生地原料100.5質量部に対し、水43質量部、アルコール2質量部を加え、混合して得られる生地」であり、含水量は43÷(100.5+43+2)×100=約30%と計算される。そうすると、甲1発明は「含水量が20~40質量%である」との特定事項を満たす。
してみると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「レジスタントスターチを含有する穀粉組成物と、水とを含有し、該穀粉組成物における該レジスタントスターチの含有量が5質量%以上である麺生地であって、
前記穀粉組成物がさらに、小麦粉、並びに増粘多糖類を0.04~3質量%含有し、
含水量が20~40質量%である麺生地。」
そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
「穀粉組成物」に関し、本件特許発明1は「α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を2質量%以上」「含有」すると特定するのに対し、甲1発明においてはこのような特定がない点。
<相違点2>
「穀粉組成物」の「小麦粉」の含有量に関し、本件特許発明1は「10質量%以上」と特定するのに対し、甲1発明においては「穀粉組成物」100.5質量部中に「小麦粉」を10質量部含有する点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲1には、甲1発明が相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有すると認められるような記載はないし、甲1及び他の証拠をみても、甲1発明が該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
してみると、相違点1は実質的な相違点である。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえない。
また、甲1及び他の証拠には、食感を良好とし茹で歩留まりの安定性に優れる麺類を製造するために、α化穀粉類を2質量%以上含有させる動機となる記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0017】及び【0039】ないし【0045】の記載からみて、本件特許発明1は、α化穀粉類を2質量%以上含有させることで食感を良好とし茹で歩留まりの安定性に優れる麺類を提供することができるという効果を奏するものであるが、該効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件特許発明3ないし5は、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明6について
本件特許発明6と甲1製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1と同様の相違点があって、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明6は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明7について
本件特許発明7は、請求項6を引用して特定するものであり、本件特許発明6の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明7は、本件特許発明6と同様に、甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明8について
本件特許発明8と甲1生地原料発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1と同様の相違点があって、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明8は甲1生地原料発明であるとはいえないし、甲1生地原料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)申立理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件についての判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件についての判断
本件特許発明における発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「レジスタントスターチの使用によって低カロリーでありながらも食感が良好で、且つ茹で歩留まりの安定性に優れる麺類を製造し得る、麺生地及び麺類用穀粉組成物を提供すること」(【0010】)である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、レジスタントスターチについては「本発明の麺類用穀粉組成物におけるレジスタントスターチの含有量は、レジスタントスターチを使用する意義即ち麺類の低カロリー化を考慮すると、該麺類用穀粉組成物の全質量に対して、5質量%以上は必要である。麺類のより一層の低カロリー化を図る観点からは、麺類用穀粉組成物においてレジスタントスターチの含有量を5質量%よりも多くすることが望ましいが、多すぎるとレジスタントスターチの影響が強く出すぎる結果、麺類の食感低下や茹で歩留まりの不安定化が顕著になる。以上を考慮すると、本発明の麺類用穀粉組成物におけるレジスタントスターチの含有量は、該麺類用穀粉組成物の全質量に対して、好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。」(【0016】)との記載があり、α化澱粉については「本発明の麺類用穀粉組成物の主たる特徴の1つとして、α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を含有する点が挙げられる。レジスタントスターチを含有する麺類用穀粉組成物に、さらにα化穀粉類を配合することにより、レジスタントスターチに起因する食感の低下や茹で歩留まりの不安定化といった不都合の発生が効果的に抑制されるので、低カロリーでありながらも食感が良好で、且つ茹で歩留まりの安定性に優れる麺類の製造が可能となる。」(【0017】)との記載があって、レジスタントスターチの含有量を5質量%以上とすることや、α化穀粉類を含有することについての定性的な記載がある。また、含水量を20~40質量%とすること(【0034】)、小麦粉を10%以上含有すること(【0022】ないし【0023】)、増粘多糖類を0.04~3質量%含有すること(【0028】ないし【0029】)、レジスタントスターチとα化穀粉類との含有質量比を1/4~50/2とすること(【0021】)、α化澱粉以外の加工澱粉を含有すること(【0024】ないし【0025】)、小麦たん白を含有すること(【0026】ないし【0027】)、麺生地の調製方法や麺類の製造方法(【0032】ないし【0037】)の記載もある。
さらには、レジスタントスターチの含有量が5質量%以上であり、α化穀粉類を含有する穀粉組成物を含む実施例の麺生地が、α化穀粉類を含有しない比較例の麺生地よりも、食感が良好で、且つ茹で歩留まりの安定性に優れる麺類を製造できたことが具体的に示されている。
これらの記載に接した当業者であれば、穀粉組成物においてレジスタントスターチの含有量が5質量%であり、α化穀粉類を含有することにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし8は、穀粉組成物においてレジスタントスターチの含有量が5質量%であり、α化穀粉類を含有するとの特定事項を全て有し、かつ、さらに特定するものである。
よって、本件特許発明1ないし8は、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 2(1)及び(2)の主張について検討する。
上記第3 2(1)及び(2)の主張はいずれも、穀粉組成物においてレジスタントスターチの含有量が5質量%であり、α化穀粉類を含有しても、発明の課題を解決し得ないとする具体的な証拠を提示するものではない。
また、第3 2(2)の主張において特許異議申立人が指摘する、本件特許の発明の詳細な説明の【0016】、【0020】、【0023】の記載は、いずれも、発明の課題を解決できないとまでいうものではない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(4)申立理由2についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。
4 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件についての判断基準
本件特許発明1ないし5及び8は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、本件特許発明6ないし7は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件についての判断
本件特許の発明の詳細な説明には、レジスタントスターチの含有量を5質量%以上とすること(【0016】)、α化穀粉類の含有量を2質量%以上とすること(【0017】)、含水量を20~40質量%とすること(【0034】)、小麦粉を10%以上含有すること(【0022】ないし【0023】)、増粘多糖類を0.04~3質量%含有すること(【0028】ないし【0029】)、レジスタントスターチとα化穀粉類との含有質量比を1/4~50/2とすること(【0021】)、α化澱粉以外の加工澱粉を含有すること(【0024】ないし【0025】)、小麦たん白を含有すること(【0026】ないし【0027】)、麺生地の調製方法や麺類の製造方法(【0032】ないし【0037】)の記載がある。
さらには、レジスタントスターチの含有量が5質量%以上であり、さらに、α化穀粉類を2質量%以上、小麦粉を10%以上、並びに増粘多糖類を0.04~3質量%含有する麺類用穀粉組成物、及び、当該麺類用穀粉組成物と、水20~40質量%とを含有する麺生地を製造し、当該麺生地を製麺して生麺線を得、生麺線を加熱調理した後に冷凍した実施例の記載もある。
これらの記載によれば、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし5及び8に関し、過度の試行錯誤を要することなく当業者が本件特許発明1ないし5及び8を生産し、使用することができる程度の記載があり、また、本件特許発明6ないし7に関し、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明6ないし7を使用し、本件特許発明6ないし7により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし8に関する発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は上記第3 3のとおり主張するが、実施可能要件については上記(2)のとおりに判断されるものであり、特許異議申立人の主張は、上記(2)における検討に何ら影響するものではない。
(4)申立理由3についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700402