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特許異議申立

2022-701250

冷凍魚卵入りソースの製造方法

審判番号
2022-701250
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-534596
登録番号
7085550
請求日
2022年12月16日
審決日
2023年03月30日
公報発行日
2023年04月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社日清製粉ウェルナ
  • 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
  • 【異議申立人】田村 良介
審判長/審判官
  • 審判長 磯貝 香苗
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 植前 充司
分類
P1651.537-Y (A23L) / P1651.536-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7085550号発明「冷凍魚卵入りソースの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7085550号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7085550号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)8月3日(優先権主張 平成29年8月3日)を国際出願日とする出願であって、令和4年6月8日にその特許権の設定登録(請求項の数1)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月16日に特許異議申立人 田村 良介(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 生魚卵が4~70質量%、加工澱粉が0.04~8質量%配合されたソースを、該ソースの品温75~90℃が1~50分間保持される条件で加熱した後、凍結する工程を有し、 前記加工澱粉が、アセチル化澱粉及びリン酸架橋澱粉からなる群から選択される1種以上である、冷凍魚卵入りソースの製造方法。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年12月16日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(サポート要件) 本件特許の請求項1に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明の課題として、「長期保存が可能で且つ解凍するだけで喫食可能な状態となり、しかも解凍後の喫食時に優れた魚卵の風味が得られ、且つ食感が滑らかな冷凍魚卵入りソースの製造方法を提供すること」が記載されており、その課題を解決するための手段として、「魚卵入りソースに加工澱粉を特定量配合した上で、該ソースを比較的低温で加熱する方法が、斯かる問題の解決に有効である」と記載されている。そして、本件特許発明では、ソースの加熱条件として「ソースの品温75~90℃が1~50分間保持される条件で加熱」と規定されている。 本件特許の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本件特許の請求項1で条件が特定されているソースの加熱は、調製工程で調製された魚卵入りソースを加熱する加熱工程での加熱の条件であり、この魚卵入りソースの加熱の主たる目的は、魚卵入りソースの加熱殺菌であると解される(【0017】参照。)。 しかしながら、魚卵入りソースの風味や食感には、加熱(加熱殺菌)工程での保持温度・保持時間だけでなく、「保持温度に達するまでの処理やその温度条件」及び「加熱後の冷却条件」も影響する。このことは本件特許出願時における当業者の技術常識である。実際、本件特許の発明の詳細な説明の【0016】にも、加熱工程の前に行う調整工程での被加熱物(ソース原料の混合物)の品温について、「次工程の前記加熱工程で魚卵入りソースを加熱する際の該ソースの品温よりも低いことが好ましく、具体的には70℃以下が好ましく、60℃以下がさらに好ましい。」と記載されている。 また、調整工程における加熱条件以外にも、例えば保持温度に達する前に保持温度よりも低い温度で数時間加熱したり、加熱(加熱殺菌)後に徐冷したりした場合、例え品温が75~90℃である時間が1~50分間であっても、その前後に長時間加熱されることになるため、魚卵入りソースの風味や食感が低下することは、明らかである。そして、「加熱工程での保持温度及び保持時間」だけ規定された本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 したがって、上記課題を解決するためには、少なくとも「加熱工程以前の工程(調整工程など)における加熱条件」、「加熱工程における昇温条件」及び「加熱工程後の冷却条件」を特定する必要があり、加熱工程における保持温度・保持時間以外は何ら特定されていない本件特許の請求項1は、課題を解決するための手段が反映されていない。 よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。 2 申立理由2(実施可能要件) 本件特許の請求項1に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・上記1で指摘したとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、「生魚卵と、アセチル化澱粉及び/又はリン酸架橋澱粉を特定量配合し、ソースの品温75~90℃が1~5分間保持される条件で加熱」さえすれば、その他の条件(特に、昇温条件や冷却条件)にかかわらず上記発明の課題を解決できるかを当業者でも理解できない。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明の実施ができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 3 申立理由3(甲第1号証に基づく進歩性) 本件特許発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 4 証拠方法 甲第1号証:特開2011-254741号公報 甲第2号証:特開2012-39950号公報 甲第3号証:特開2001-224344号公報 甲第4号証:特開2007-135458号公報 甲第5号証:株式会社光洋商会ウェブサイト サプライヤー Tate & Lyle、https://www.koyojapan.jp/supplier/tate-lyle/ 甲第6号証:特開2001-292740号公報 甲第7号証:特開2007-259834号公報 甲第8号証:特開2001-186855号公報 甲第9号証:内山朋子、CHAPTERIII 増粘安定剤の基本物性と応用アプリケーション 「加工デンプン」、別冊フードケミカル11、食品化学新聞社、2013年8月、p.169-173 甲第10号証:高橋禮治、「でん粉製品の知識」、幸書房、2006年6月25日、p.110-119、p.176-181 証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断 1 申立理由1(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、おおむね次の記載がある。 ・「【背景技術】 【0002】 魚卵入りソースは、喫食時の魚卵の粒状感と海鮮特有の濃厚な風味とが同時に楽しめる人気の食品であり、近年は、明太子やタラコなどの魚卵が入った各種ソース、例えばドレッシング、ディップソース、パスタソースなどが、和風ソースの一ジャンルとして普及している。 【0003】 魚卵入りソースは、保存や流通のために加熱殺菌処理を施す必要があるところ、魚卵入りソースに加熱殺菌処理を施すと、特に魚卵の風味が顕著に低下するという問題があった。また近年、冷凍保存や冷凍流通の技術の発達に伴い、調理済みの魚卵入りソースを冷凍した冷凍魚卵入りソースが普及しているが、魚卵を冷凍保存すると、冷凍と喫食時の解凍とによる水の結晶化のため、魚卵の風味が著しく低下するという問題があった。 【0004】 ・・・(略)・・・ 【発明の概要】 【0007】 本発明は、長期保存が可能で且つ解凍するだけで喫食可能な状態となり、しかも解凍後の喫食時に優れた魚卵の風味が得られ、且つ食感が滑らかな冷凍魚卵入りソースの製造方法を提供することを課題とする。」 ・「【0008】 本発明者は、魚卵入りソースの加熱殺菌処理に起因する魚卵の風味低下の問題について種々検討した結果、魚卵入りソースに加工澱粉を特定量配合した上で、該ソースを比較的低温で加熱する方法が、斯かる問題の解決に有効であるとの知見を得た。」 ・「【0009】 本発明は、前記知見に基づきなされたもので、生魚卵の配合量が4~70質量%、加工澱粉の配合量が0.04~8質量%であるソースを、該ソースの品温が95℃以下となる条件で加熱した後、凍結する工程を有する、冷凍魚卵入りソースの製造方法である。」 ・「【0011】 本発明で用いる生魚卵は、非加熱の魚卵である。非加熱の魚卵をソースに用いることで、海鮮特有の濃厚な風味が得られるようになる。「非加熱の魚卵」とは、加熱による変性が生じていない魚卵であり、「加熱されていない魚卵」の他、「加熱されていてもその加熱による変性が生じていない魚卵」が包含される。 ・・・(略)・・・ 【0012】 本発明で用いる生魚卵としては、一般的にソース原料として用い得る生魚卵を特に制限なく用いることができ、例えば、タラ、サケ、マス、ニシン、ボラ、飛魚、シシャモ等の生魚卵、あるいはこれらの生魚卵を調味料等で味付け加工した加工生魚卵が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。加工生魚卵としては、例えば、タラコ、明太子、トビッコ、数の子、イクラ等が挙げられる。」 ・「【0013】 本発明の冷凍魚卵入りソースの製造方法の主たる特徴の1つとして、前記調製工程において、生魚卵に加えて加工澱粉を用いる点が挙げられる。魚卵入りソースに加工澱粉を配合することで、魚卵入りソースの加熱に起因する魚卵の風味低下が抑制される。その理由は定かではないが、ソース中の魚卵の周辺に存在する加工澱粉が一種の保護膜として機能するためと推察される。・・・(略)・・・本発明で好ましく用いられる加工澱粉としては、生魚卵の風味を損なわずに加熱に起因する魚卵の風味低下を効果的に抑制し得る加工澱粉として、エーテル化澱粉、アセチル化澱粉、エーテル架橋澱粉、アセチル架橋澱粉、リン酸架橋澱粉を例示でき、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。」 ・「【0014】 前記調製工程で調製される魚卵入りソース中の生魚卵の配合量は、該ソースの全質量に対して、好ましくは4~70質量%、さらに好ましくは7~50質量%、より好ましくは10~30質量%である。また、前記調製工程で調製される魚卵入りソース中の加工澱粉の配合量は、該ソースの全質量に対して、好ましくは0.04~8質量%、さらに好ましく0.04~3質量%、より好ましくは0.4~1.6質量%である。両成分の配合量が斯かる範囲外であると、魚卵の風味とソースの滑らかな食感が低下するおそれがある。」 ・「【0017】 前記加熱工程では、前記調製工程で調製された魚卵入りソースを加熱する。この魚卵入りソースの加熱の主たる目的は、魚卵入りソースの加熱殺菌である。本発明の冷凍魚卵入りソースの製造方法の主たる特徴の他の1つとして、魚卵入りソースを比較的低温で、具体的には該ソースの品温が95℃以下となる条件で加熱する点が挙げられる。このように、比較的低温で魚卵入りソースを加熱殺菌することで、加熱による魚卵の風味低下が抑制され、前述した加工澱粉による作用効果と相俟って、魚卵の風味低下が効果的に抑制され、解凍後の喫食時に優れた魚卵の風味が得られる冷凍魚卵入りソースが得られる。 【0018】 前記加熱工程における魚卵入りソースの加熱条件は、該ソースの品温70~95℃が1~60分間保持される条件が好ましく、該ソースの品温75~90℃が1~50分間保持される条件がさらに好ましい。」 ・「【0019】 前記冷凍工程では、前記加熱工程で加熱された魚卵入りソースを凍結する。凍結処理は常法により行えばよく、例えば、1食分の魚卵入りソース(100g程度)ごとに袋や容器に封入し、急速冷凍又は緩慢冷凍により凍結する。」 ・「【実施例】 【0020】 以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、実施例15、16、19は参考例である。 【0021】 〔実施例1~14及び比較例1~4〕 生タラコ(生魚卵)及びアセチル化タピオカ澱粉(加工澱粉)を含む原料を下記表1及び2に示す配合で用いてタラコソース(魚卵入りソース)を調製した。具体的には、水、油、加工澱粉及び調味料(塩、醤油、チキンエキス)を鍋に投入して、これらの混合物の品温が60℃となる条件で加熱しつつ撹拌し、各原料がほぼ均一に混合した段階で、生タラコのバラ卵(7mmの網を通して粒子状にばらしたもの)を投入し撹拌して、タラコソースを製造した(調製工程)。引き続きタラコソースをより高温で加熱した。具体的には、タラコソースを撹拌しつつその品温が80℃となるまで昇温し、該ソースの品温80℃が1分間保持される条件で加熱した(加熱工程)。次いで、加熱されたタラコソースを、100gずつ耐熱性のポリ袋に取り分けて密封し、そのポリ袋ごと急速凍結して、冷凍魚卵入りソースを製造した(冷凍工程)。 【0022】 〔実施例15~19及び比較例5〕 前記加熱工程におけるソースの品温を下記表3のように変更した以外は実施例3と同様にして冷凍魚卵入りソースを製造した。 【0023】 〔試験例〕 各実施例及び比較例の冷凍魚卵入りソースを電子レンジで出力500Wにて4分間加熱解凍し、喫食可能な状態の魚卵入りソースを得た。その魚卵入りソースを10名の専門パネラーに喫食してもらい、下記評価基準に従ってソース風味(魚卵の風味)及びソース食感(ソースの滑らかさ)を評価してもらった。実施例15~19及び比較例5については、前記加熱工程におけるソースの品温の影響が特に大きい、ソース風味のみについて評価してもらった。その結果を10名の評価点の平均値として下記表1及び2に示す。 尚、下記評価基準における最高評価の「5点」は、前記冷凍工程を実施しない以外は実施例3と同様にして製造したタラコソース、即ち加熱殺菌処理を施した非冷凍のタラコソースのソース風味についての専門パネルによる評価点である。 【0024】 ・・・(略)・・・ 【0025】 【表1】 [図:0001396325000001.jpg] 【0026】 【表2】 [図:0001396325000002.jpg] 【0027】 【表3】 [図:0001396325000003.jpg] 【0028】 表1及び2に示す通り、各実施例は、魚卵入りソース中に生魚卵(生タラコ)が4~70質量%、加工澱粉(アセチル化タピオカ澱粉)が0.04~8質量%配合されており、両成分の配合量が斯かる範囲外の比較例1~4に比して、魚卵の風味が強くソース風味に優れ、且つソースの食感が滑らかであった。 また、表3に示す通り、各実施例は、魚卵入りソースの加熱時の品温が95℃以下であり、該品温が100℃の比較例5に比して、魚卵の風味が強くソース風味に優れていた。 以上のことから、解凍後の喫食時に優れた魚卵の風味が得られる冷凍魚卵入りソースを製造するためには、生魚卵が4~70質量%、加工澱粉が0.04~8質量%配合されたソースを、該ソースの品温が95℃以下となる条件で加熱することが有効であることがわかる。」 ・「【産業上の利用可能性】 【0029】 本発明の冷凍魚卵入りソースの製造方法によれば、長期保存が可能で且つ解凍するだけで喫食可能な状態となり、しかも解凍後の喫食時に優れた魚卵の風味が得られ、且つ食感が滑らかで、さらに、パスタ用ソースとして用いた場合にはパスタとの絡みも良好な冷凍魚卵入りソースを、格別特殊な加工工程を要せずに簡単に製造することができる。」 (4)サポート要件の判断 発明の詳細な説明の【0002】ないし【0007】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「長期保存が可能で且つ解凍するだけで喫食可能な状態となり、しかも解凍後の喫食時に優れた魚卵の風味が得られ、且つ食感が滑らかな冷凍魚卵入りソースの製造方法を提供すること」である。 そして、発明の詳細な説明の【0008】には、「本発明者は、魚卵入りソースの加熱殺菌処理に起因する魚卵の風味低下の問題について種々検討した結果、魚卵入りソースに加工澱粉を特定量配合した上で、該ソースを比較的低温で加熱する方法が、斯かる問題の解決に有効であるとの知見を得た。」と記載され、同【0009】、【0013】及び【0018】には、本件特許発明に対応する事項が記載されている。 発明の詳細な説明の【0011】及び【0012】には、「生魚卵」に関して具体的に記載されている。 発明の詳細な説明の【0013】には、「加工澱粉」を用いることの技術的意義(特に、魚卵入りソースの加熱に起因する魚卵の風味低下が抑制される点)及び「加工澱粉」として「アセチル化澱粉及びリン酸架橋澱粉からなる群から選択される1種以上」を用いることの技術的意義(特に、生魚卵の風味を損なわずに加熱に起因する魚卵の風味低下を効果的に抑制し得る点)に関して具体的に記載されている。 発明の詳細な説明の【0014】には、「生魚卵」の配合量が「4~70質量%」であり、「加工澱粉」の配合量が「0.04~8質量%」であることの技術的意義(特に、両成分の配合量が斯かる範囲外であると、魚卵の風味とソースの滑らかな食感が低下する点)に関して具体的に記載されている。 発明の詳細な説明の【0017】及び【0018】には、「ソースの品温が95℃以下となる条件で加熱」することの技術的意義(特に、加熱による魚卵の風味低下が抑制される点)及び「ソースの品温75~90℃で1~50分保持される条件で加熱」することがさらに好ましいことが具体的に記載されている。 発明の詳細な説明の【0019】には、「凍結」することに関して具体的に記載されている。 発明の詳細な説明の【0029】には、「パスタ用ソース」として用いることが記載されている。 発明の詳細な説明の【0020】ないし【0028】には、「生タラコ(生魚卵)」を「4~70質量%」の範囲内及び「アセチル化タピオカ澱粉(加工澱粉)」を「0.04~8質量%」の範囲内で配合されたソースを「品温95℃以下となる条件」で加熱した実施例1ないし19が、そうでない比較例1ないし5に比して、魚卵の風味が強くソース風味に優れ、且つソースの食感が滑らかであったことを確認している。 そうすると、当業者は、「生魚卵が4~70質量%、加工澱粉が0.04~8質量%配合されたソースを、該ソースの品温が95℃以下となる条件で加熱した後、凍結する工程を有する、冷凍魚卵入りソースの製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。 したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 (5)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の上記第3 1の主張について検討する。 上記(3)及び(4)のとおり、発明の詳細な説明に、本件特許発明が当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる一応の記載がある以上、サポート要件に適合しないことを主張する場合には、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の記載に実質的に裏付けられていないことを具体的に指摘する必要がある。 しかし、特許異議申立人は、「魚卵入りソースの風味や食感には、加熱(加熱殺菌)工程での保持温度・保持時間だけでなく、「保持温度に達するまでの処理やその温度条件」及び「加熱後の冷却条件」も影響する。このことは本件特許出願時における当業者の技術常識である。」及び「調整工程における加熱条件以外にも、例えば保持温度に達する前に保持温度よりも低い温度で数時間加熱したり、加熱(加熱殺菌)後に徐冷したりした場合、例え品温が75~90℃である時間が1~50分間であっても、その前後に長時間加熱されることになるため、魚卵入りソースの風味や食感が低下することは、明らかである。」と述べるにとどまり、その裏付けとなる証拠を具体的に提示していないし(なお、本件特許の明細書は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものではないので、その記載は証拠にはならない。)、本件特許発明で特定された条件を満たしているだけでは、発明の課題を解決できないことを示す証拠も具体的に提示していない。 したがって、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の記載に実質的に裏付けられていないことを具体的に指摘しているとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記第3 1の主張は採用できない。 (6)申立理由1についてのむすび したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。 2 申立理由2(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 上記第2のとおり、本件特許発明は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 上記1(3)のとおり、発明の詳細な説明には、本件特許発明の各発明特定事項及び産業上の利用可能性について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されているといえる。 したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明の使用をし、本件特許発明により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の上記第3 2の主張について検討する。 実施可能要件の判断は、上記(1)の判断基準により行われるものであり、発明の課題を解決できるかどうかは、実施可能要件の判断と関係がない。 そして、上記(2)のとおり、本件特許発明に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。 したがって、特許異議申立人の上記第3 2の主張は採用できない。 (4)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。 3 申立理由3(甲1に基づく進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「加熱殺菌済み魚卵入りソースの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。 ・「【0001】 本発明は加熱殺菌済み魚卵入りソース、特に喫食時の魚卵の粒感に優れた加熱殺菌済み魚卵入りソースの製造方法に関する。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、上記の如き従来の問題と実状に鑑みてなされたものであり、格別特殊な加工工程を要せずに、喫食時に優れた魚卵の粒感が得られる加熱殺菌済み魚卵入りソースを提供することを課題としている。」 ・「【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、格別特殊な加工工程を要せずに、喫食時に優れた魚卵の粒感が得られる加熱殺菌済み魚卵入りソースを提供することができる。」 ・「【発明を実施するための形態】 【0010】 本発明においては、まず魚卵とソース原料を混合し、魚卵入りソースを調製する。 ここに用いられる魚卵としてはその種類の如何を問わず、例えば、タラ、サケ、マス、ニシン、ボラ、飛魚、シシャモ等の卵が挙げられ、これらは生魚卵;あるいはタラコ、明太子、トビッコ、数の子、イクラ等の加工魚卵;更にはこれらの冷凍品であってもよい。 また、ソースの種類も特に限定されないが、パスタソースが好適に用いられる。ソース原料としては、当該ソースの種類に応じて、植物油、動物油、硬化油等の各種油脂類;食塩、醤油、食酢等の各種調味料;各種香辛料;加工澱粉、小麦粉、ゼラチン等の各種増粘剤、各種乳化剤、牛乳、卵等が適宜選択使用される。 尚、魚卵の配合量は好みにもよるが、通常製品に対して10~80質量%とするのが好ましい。 【0011】 次いで、調製された魚卵入りソースを冷蔵又は冷凍する。 ここに冷蔵条件としては、0~10℃で、12~48時間、特に0~5℃で、24~48時間とするのが優れた魚卵の粒感を得る上で好ましい。 また、冷凍条件としては、-30~-10℃で、12~48時間、特に-20~-10℃で、24~48時間とするのが優れた魚卵の粒感を得る上で好ましい。 【0012】 次いで、冷蔵又は冷凍後の魚卵入りソースを加熱殺菌処理する。 ここに加熱殺菌処理条件としては、60~90℃で、1~60分、特に70~90℃で、1~50分とするのが、優れた魚卵の粒感を得る上で望ましい。 尚、加熱殺菌処理した魚卵入りソースは冷凍保管してもよい。」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、発明を実施するための形態(【0010】ないし【0012】)について整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「タラ、サケ、マス、ニシン、ボラ、飛魚、シシャモ等の卵で、これらは生魚卵;あるいはタラコ、明太子、トビッコ、数の子、イクラ等の加工魚卵;更にはこれらの冷凍品である魚卵と植物油、動物油、硬化油等の各種油脂類;食塩、醤油、食酢等の各種調味料;各種香辛料;加工澱粉、小麦粉、ゼラチン等の各種増粘剤、各種乳化剤、牛乳、卵等が適宜選択使用され、魚卵の配合量は、通常製品に対して10~80質量%とされるソース原料を混合して調整された魚卵入りソースを、冷蔵又は冷凍し、冷蔵又は冷凍後の魚卵入りソースを70~90℃で、1~50分加熱殺菌処理し、加熱殺菌処理した魚卵入りソースは冷凍保管してもよい、魚卵入りソースの製造方法。」 (2)対比 本件特許発明と甲1発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「生魚卵が配合されたソースを、該ソースを加熱した後、凍結する工程を有する、冷凍魚卵入りソースの製造方法。」 なお、特許異議申立人は、「生魚卵」の配合量を一致点としている(特許異議申立書第16ページ第2ないし6行)が、本件特許発明と甲1発明の配合量は、重複する範囲があるだけなので、「生魚卵」の配合量を一致点とすることはできない。 また、特許異議申立人は、「ソース」を「加熱」する「品温」の条件を一致点としている(特許異議申立書の上記箇所)が、「品温」の範囲が、本件特許発明の方が甲1発明よりも狭いことから、「ソース」を「加熱」する「品温」の条件を一致点とすることはできない。 さらに、特許異議申立人は、「加工澱粉」が「配合」されている点を一致点としている(特許異議申立書の上記箇所)が、甲1発明において、「加工澱粉」は「植物油、動物油、硬化油等の各種油脂類;食塩、醤油、食酢等の各種調味料;各種香辛料;加工澱粉、小麦粉、ゼラチン等の各種増粘剤、各種乳化剤、牛乳、卵等」から「適宜選択使用される」ものであって、必須のものではないから、「加工澱粉」が「配合」されている点を一致点とすることはできない。 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 「生魚卵」の「配合」量に関して、本件特許発明においては、「4~70質量%」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「通常製品に対して10~80質量%」と特定されている点。 <相違点2> 本件特許発明においては、「該ソースの品温75~90℃が1~50分間保持される条件で加熱」すると特定されているのに対して、甲1発明においては、「冷蔵又は冷凍後の魚卵入りソースを70~90℃で、1~50分加熱殺菌処理」すると特定されている点。 <相違点3> 本件特許発明においては、「アセチル化澱粉及びリン酸架橋澱粉からなる群から選択される1種以上」である「加工澱粉」が「0.04~8質量%」「配合された」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 (3)判断 事案に鑑み、相違点3について検討する。 甲1発明は、「植物油、動物油、硬化油等の各種油脂類;食塩、醤油、食酢等の各種調味料;各種香辛料;加工澱粉、小麦粉、ゼラチン等の各種増粘剤、各種乳化剤、牛乳、卵等が適宜選択使用される」ものであるから、これらの選択肢のなかから「加工澱粉」を選択することは、当業者が容易に想起し得たとしても、ここで選択した「加工澱粉」を「アセチル化澱粉及びリン酸架橋澱粉からなる群から選択される1種以上」とし、かつ、その配合量を「0.04~8質量%」とすることについて動機付ける記載は甲1にはないし、他の証拠にもない。 そして、甲1発明において、「加工澱粉」を選択した上で、「加工澱粉」を「アセチル化澱粉及びリン酸架橋澱粉からなる群から選択される1種以上」とし、さらにその上で、その配合量を「0.04~8質量%」として、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項を採用することは、もはや当業者が容易に想到し得る範囲であるとはいえない。 したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明の奏する「長期保存が可能で且つ解凍するだけで喫食可能な状態となり、しかも解凍後の喫食時に優れた魚卵の風味が得られ、且つ食感が滑らかな冷凍魚卵入りソースの製造方法を提供する」(発明の詳細な説明の【0007】及び【0028】参照。)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 なお、特許異議申立人は、甲3から、「加工澱粉」の配合量を「0.04~8質量%」とすることは当業者であれば容易に想到でき、甲4ないし10から、各種「加工澱粉」の中から「アセチル化澱粉及びリン酸架橋澱粉」を選択することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である旨主張する(特許異議申立書第16及び17ページ)。 そこで、該主張について検討する。 甲3(【請求項3】等)には、「魚卵組成物」に「α化澱粉を固形分換算で1%以上4%以下」含有させることが記載されている。 甲4(【0026】及び【0027】等)には、「魚卵ソース」に「魚卵」を「40%」含有させ、「冷水膨潤性澱粉(A.E.Staley社製「ミラスパース626」)」(甲5の3/5ページによると、A.E.Staley社製「ミラスパース626」は「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン」である。)を「0.5%」含有させることが記載されている。 甲6(【0017】等)には、「澱粉粉、とくにモチ粉や片栗粉(ジャガイモ澱粉を含む)は、加熱すると無色透明になり、冷却しても白濁せず、溶融液の味を損なわない。また冷却後も粘性を保ち保水性も良い。このため冷却させた溶融液を用いれば、魚卵を加熱せずに、製品の離水を確実に防止することが出来る。」と記載され、甲7(【0023】等)には「前記本発明の澱粉は、食用として一般的に用いている澱粉であれば特に限定するものではない。例えば、小麦粉澱粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉等の生澱粉、これらを原料として常法により架橋処理、エステル化処理、エーテル化処理、酸化処理等の化学的処理の一種又は二種以上を行った架橋澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉等の化工澱粉、更に、常法によりα化処理、湿熱処理等の物理的処理を行った加工澱粉等が挙げられる。これら澱粉の中でも、化工澱粉を用いると、冷凍による品質の劣化が充分に防止された冷凍ソース又は冷凍スープが得られ好ましい。」と記載され、甲8(【0030】等)には「深凍結または深凍結するためのものであるクリーム状製品を製造する場合、架橋結合および/または安定化澱粉の使用は凍結/解凍および/または加熱工程中最終製品に熱安定性を与え、老化、離液および/または沈澱を回避するために必要である。」と記載され、甲9(第169ないし172ページ等)には「酢酸(アセチル化)デンプン」及び「リン酸架橋デンプン」の基本特性が記載され、甲10(第112、113、178、179及び180ページ等)には「酢酸でんぷん」及び「リン酸エステル化」した「でん粉」について記載されている。 しかし、甲3ないし10のいずれにも、甲1発明において、「加工澱粉」を選択した際に、多くの「加工澱粉」の中から、敢えて「アセチル化澱粉及びリン酸架橋澱粉からなる群から選択される1種以上」を選択し、その配合量を「0.04~8質量%」とすることの動機付けとなる記載はないし、そのようにした場合に、「長期保存が可能で且つ解凍するだけで喫食可能な状態となり、しかも解凍後の喫食時に優れた魚卵の風味が得られ、且つ食感が滑らかな冷凍魚卵入りソースの製造方法を提供する」という本件特許発明の効果が得られることを予測させる記載もない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。 第5 結語 上記第4のとおり、本件特許の請求項1に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701250

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