特許異議申立
2023-700379
鉄系部材の製造方法
- 審判番号
- 2023-700379
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-190781
- 登録番号
- 7154498
- 請求日
- 2023年04月14日
- 審決日
- 2023年08月07日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
- 【権利者代理人】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
- 【権利者】キレスト株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
- 【権利者】中部キレスト株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
- 【異議申立人】根本 未果
- 審判長/審判官
- 審判長 池渕 立
- 審判官 山本 佳
- 審判官 粟野 正明
- 分類
- P1651.113-Y (C23F) / P1651.121-Y (C23F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7154498号発明「鉄系部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7154498号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7154498号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成30年10月 9日の出願であって、令和 4年10月 7日に特許権の設定登録がされ、同年10月18日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 5年 4月14日に、請求項1~7(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である根本未果(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、順に「本件発明1」~「本件発明7」といい、総称して「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。
「【請求項1】
鉄系部材を製造するための方法であって、
相対湿度を45%以下に調節した密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程を含み、
上記亜硝酸系気化性防錆剤が、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩、亜硝酸ナトリウム、および亜硝酸カリウムから必須的になる群より選択される1種または2種以上の亜硝酸塩を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記亜硝酸系気化性防錆剤が更にアンモニウム塩を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記アンモニウム塩が、炭酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、安息香酸アンモニウム、サリチル酸アンモニウム、p-ニトロ安息香酸アンモニウム、およびセバシン酸アンモニウムから必須的になる群より選択される1種または2種以上のアンモニウム塩である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記亜硝酸系気化性防錆剤100質量%中の上記亜硝酸塩の含有量が20質量%以上である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
上記鉄系部材と上記亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる時間が1日以上である請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
上記鉄系部材と上記亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる温度が5℃以上、50℃以下である請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
上記工程を経る前の鉄系部材の表面電位に対する上記工程を経た鉄系部材の表面電位の差が+90mV以上である請求項1~6のいずれかに記載の方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、次の甲第1~13号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲13」という。)、及び、参考資料1~3を提出し、以下の申立理由1~11により、請求項1~7に係る本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2000-160032号公報
甲第2号証:特開昭63-22363号公報
甲第3号証:特開平4-337334号公報
甲第4号証:特開平1-210340号公報
甲第5号証:特開平3-88880号公報
甲第6号証:国際公開第2018/079458号
甲第7号証:特開平5-115741号公報
甲第8号証:特開2001-171723号公報
甲第9号証:特開平7-256092号公報
甲第10号証:特開2009-280250号公報
甲第11号証:特開平9-256172号公報
甲第12号証:特開2005-170510号公報
甲第13号証:特開2003-137229号公報
参考資料1:キレスト株式会社ウェブサイト キレスダイヤAの商品紹介(https://www.chelest.co.jp/newproducts/product01/)
参考資料2-1:気象庁ウェブサイトの大阪における2018年1月~12月の月ごとの気象データのスナップショット、及び2017年1月、2018年1月の日ごとの気象データのスナップショット
参考資料2-2:自然科学研究機構 国立天文台編「理科年表 2015 平成27年第88冊」、平成26年11月30日発行、第224~225頁
参考資料3:ニッソーファイン株式会社ウェブサイト ニッソードライMの商品紹介(http://nissofine.co.jp/produce/func001m/)
1 申立理由1(新規性、進歩性)
本件発明1、4~7は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基いて、あるいは、甲1に記載された発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(新規性、進歩性)
本件発明1、4~7は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲2に記載された発明に基いて、あるいは、甲2に記載された発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(新規性、進歩性)
本件発明1、4~7は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲3に記載された発明に基いて、あるいは、甲3に記載された発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(新規性、進歩性)
本件発明1~7は、甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲4に記載された発明に基いて、あるいは、甲4に記載された発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由5(新規性、進歩性)
本件発明1、4~7は、甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲5に記載された発明に基いて、あるいは、甲5に記載された発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
6 申立理由6(新規性、進歩性)
本件発明1~7は、甲6に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲6に記載された発明に基いて、あるいは、甲6に記載された発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
7 申立理由7(新規性、進歩性)
本件発明1~7は、甲7に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲7に記載された発明に基いて、あるいは、甲7に記載された発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
8 申立理由8(新規性、進歩性)
本件発明1、4~7は、甲8に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲8に記載された発明に基いて、あるいは、甲8に記載された発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
9 申立理由9(新規性、進歩性)
本件発明1、2、4~7は、甲9に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲9に記載された発明に基いて、あるいは、甲9に記載された発明及び甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
10 申立理由10(新規性、進歩性)
本件発明1、4~7は、甲10に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲10に記載された発明に基いて、あるいは、甲10に記載された発明及び甲13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
11 申立理由11(新規性、進歩性)
本件発明1、4~7は、甲11に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲11に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 当審の判断
以下に述べるように、上記第3の申立理由のいずれによっても本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(甲1を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲1の記載、及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載
甲1には、「防錆性フィルムおよび防錆性包装袋」(発明の名称)に関して、次の記載がある。(下線は当審で付し、「・・・」は記載の省略を意味する。以下同じ。)
(ア)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】かかる状況下、本発明が解決しようとする課題、即ち本発明の目的は、ガスバリア性、防錆性に優れ、防錆効果が長寿命であり、しかも安価な防錆性フィルムおよび防錆性包装袋を提供することにあり、さらには製造が容易で柔軟性に優れ、用済み後の後処理が容易な、特に精密機器、電気製品、工作機械、各種電子、機械部品などの包材として適当な防錆性フィルムおよび防錆性包装袋を提供することにある。」
(イ)「【0080】本発明の防錆性フィルムは、上記の液晶性ポリマーおよび防錆剤を用いてなる防錆性フィルムである。かかる防錆剤としては気化性防錆剤が好ましく用いられる。
【0081】気化性防錆剤としては、具体的にはジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト(DICHAN)、・・・ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)、・・・ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩などを挙げることができる。気化性防錆剤は一種類、あるいは二種類以上用いる事ができる。」
(ウ)「【0083】本発明における防錆性フィルムの第1の形態は、液晶性ポリマーからなる層と、防錆剤からなる層または防錆剤を含有する熱可塑性樹脂(但し該液晶性ポリマーを除く)もしくは紙からなる層とが積層してなる積層フィルムからなる防錆性フィルムである。ここでいう防錆剤からなる層の好ましい具体例としては、上記の防錆剤を該液晶性ポリマーからなる層にコートして得られた層が挙げられる。またここでいう防錆剤を含有する熱可塑性樹脂もしくは紙からなる層の具体例としては、上記の防錆剤を練り込んだ熱可塑性樹脂もしくは上記の防錆剤を含侵させた紙からなる層が挙げられる。
・・・
【0099】本発明の防錆性包装袋は、かかる防錆性フィルムよりなる袋である。かかる防錆性包装袋は、例えば、上記の防錆性フィルムをヒートシールすることにより、目的に応じた形状、サイズのものを得ることができる。ヒートシール法は周知の方法で行うことができる。
・・・
【0101】本発明において包装袋をヒートシールして内容物を密封する際には、包装袋内部を真空引きして袋内の空気、水蒸気を除去したのちヒートシールを行うか、あるいは、包装袋内部を真空引きしたのち、内部へ乾燥したガス(例えば窒素など)を導入したのちヒートシールする方法が好ましく用いられる。
【0102】本発明においては、密封した包装袋の内容物を防錆剤が錆の発生から守り、ガスバリア性の液晶性ポリマー層が、高温高湿の雰囲気下であっても、外部からの気体、水蒸気の侵入を防止するとともに、その防錆剤が外部へもれるのを防ぐ作用をし、その結果、内容物の長期間防錆作用を保持できるものと考えられる。」
(エ)「【0103】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明するが、これらは単なる例示であり、本発明はこれらに限定されることはない。
【0104】(1)成分(A)の液晶ポリエステル
(i)p-アセトキシ安息香酸8.3kg(60モル)、テレフタル酸2.49kg(15モル)、イソフタル酸0.83kg(5モル)および4,4’-ジアセトキシジフェニル5.45kg(20.2モル)を櫛型撹拌翼をもつ重合槽に仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら昇温し330℃で1時間重合させた。この間に副生する酢酸ガスを冷却管で液化し回収、除去しながら、強力な撹拌下で重合させた。その後、系を徐々に冷却し、200℃で得られたポリマーを系外へ取出した。この得られたポリマーを細川ミクロン(株)製のハンマーミルで粉砕し、2.5mm以下の粒子とした。これを更にロータリーキルン中で窒素ガス雰囲気下に280℃で3時間処理することによって、流動開始温度が324℃の粒子状の下記の繰り返し構造単位からなる全芳香族ポリエステルを得た。ここで流動開始温度とは、島津製作所製島津フローテスターCFT-500型を用いて、4℃/分の昇温速度で加熱溶融された樹脂を、荷重100kgf/cm2のもとで、内径1mm、長さ10mmのノズルから押し出したときに、溶融粘度が48000ポイズを示す温度(℃)をいう。以下該液晶ポリエステルをA-1と略記する。このポリマーは加圧下で340℃以上で光学異方性を示した。液晶ポリエステルA-1の繰り返し構造単位は、次の通りである。
【0105】
[図:0001401691000001.jpg]
【0106】(2)成分(B)
(i)特開昭61-127709号公報の実施例5に記載の方法に準じて、アクリル酸メチル/エチレン/グリシジルメタクリレート=59.0/38.7/2.3(重量比)、ムーニー粘度=15、結晶の融解熱量<1J/gのゴムを得た。以下該ゴムをB-1と略称することがある。ここでムーニー粘度は、JIS K6300に準じて100℃、ラージローターを用いて測定した値である。また結晶の融解熱量は、DSCを使用し、試料を-150℃から100℃まで20℃/分で昇温して求めた。
・・・
【0109】参考例1
A-1 80重量%、B-1 20重量%を日本製鋼(株)製TEX-30型二軸押出機を用いてシリンダー設定温度350℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練を行って組成物を得た。この組成物のペレットを円筒ダイを備えた60mmφの単軸押出機に供給して、シリンダー設定温度350℃、回転数100rpmで溶融混練し、直径50mm、リップ間隔1.0mm、ダイ設定温度350℃の円筒ダイから上方へ溶融樹脂を押出し、その際この筒状フィルムの中空部へ乾燥空気を圧入して筒状フィルムを膨張させ、次に冷却させたのちニップロールに通して引取速度40m/minで引取り、液晶ポリエステル樹脂組成物フィルムを得た。この際フィルムMD方向の延伸倍率は8.6、ブロー比は2.8、フィルム厚みは26μmであった。以下該フィルムをg-1と略称することがある。
【0110】参考例2
住友化学工業(株)製低密度ポリエチレン、スミカセンL705(MFR=7g/10min)96重量%およびジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩4重量%を池貝(株)製二軸押し出し機PCM-30型を使用し、シリンダー設定温度 250℃、回転数 70rpmで溶融混練を行った。得られたペレットを東洋精機(株)製小型インフレーション成膜機を使用して、ダイ設定温度240℃で成膜し、厚さ42μmのフィルムを得た。以下該フィルムをPE-1と略称することがある。
【0111】実施例1
東洋モートン(株)製二液型ポリエステル系接着剤 AD-503をg-1の片面上に4g/m2塗布し、次に塗布面にPE-1を重ね、加圧して積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの酸素ガス透過率は0.2cc/m2・24hr・1atm、水蒸気透過率は0.2g/m2・24hr・1atmであった。また積層フィルムの屈曲試験は、10万回屈曲後破断しなかった。PE-1を内層、g-1を外層として、該積層フィルムの袋を作成し、内部に鋼板片を入れた後、内部を窒素ガスで置換、その後ヒートシールを行って密封状態として40℃、95%RHで3週間放置した後鋼板表面を観察したところ、錆の発生は認められなかった。」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記ア(エ)における実施例1によれば、参考例1で作成された「液晶ポリエステル樹脂組成物フィルム」「g-1」の片面上に、参考例2で作成された「ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩4重量%」を含む「フィルム」「PE-1」を「加圧して」積層した「積層フィルム」を得たことが記載されており、当該「積層フィルム」は「酸素ガス透過率は0.2cc/m2・24hr・1atm、水蒸気透過率は0.2g/m2・24hr・1atm」である。
(イ)そして、上記(ア)における「ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩4重量%」とは、上記ア(イ)によれば、気化性防錆剤であるから、上記(ア)における「液晶ポリエステル樹脂組成物フィルム」「g-1」の片面上に、「ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩4重量%」を含む「フィルム」「PE-1」を「加圧して」積層した「積層フィルム」とは、「防錆性フィルム」である。
(ウ)さらに、実施例1には、防錆性フィルムを用い、「PE-1を内層、g-1を外層として、該積層フィルムの袋を作成し、内部に鋼板片を入れた後、内部を窒素ガスで置換、その後ヒートシールを行って密封状態として40℃、95%RHで3週間放置した後鋼板表面を観察」する試験を行った結果「錆の発生は認められなかった」ことが記載されており、防錆性試験方法が記載されている。
(エ)上記(ア)~(ウ)によれば、甲1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「液晶ポリエステル樹脂組成物フィルムg-1の片面上に、ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩4重量%を含むフィルムPE-1を加圧して積層した防錆性フィルムであって、
酸素ガス透過率は0.2cc/m2・24hr・1atm、水蒸気透過率は0.2g/m2・24hr・1atmである防錆性フィルムを用い、
PE-1を内層、g-1を外層として、該防錆性フィルムの袋を作成し、
内部に鋼板片を入れた後、内部を窒素ガスで置換、その後ヒートシールを行って密封状態として40℃、95%RHで3週間放置する
防錆性試験方法。」(甲1発明)
(2)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩」は気化性防錆剤であるから、本件発明1の「亜硝酸系気化性防錆剤」と「気化性防錆剤」という点で共通している。
イ 甲1発明の「鋼板片」は、本件発明1の「鉄系部材」に相当するから、甲1発明の「PE-1を内層、g-1を外層として、該防錆性フィルムの袋を作成し、内部に鋼板片を入れた後、」「密封状態として40℃、95%RHで3週間放置」する事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
ウ 上記ア、イによれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致するとともに、以下の相違点1~3において相違する。
<一致点>
密閉空間内において、鉄系部材と気化性防錆剤を共存させる工程を含む方法。
<相違点1>
本件発明1は「鉄系部材を製造するための方法」であるのに対して、甲1発明は「防錆性試験方法」である点。
<相違点2>
密閉空間内において、鉄系部材と気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲1発明は、「密閉空間内」の相対湿度が不明である点。
<相違点3>
気化性防錆剤に関し、本件発明が「ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩、亜硝酸ナトリウム、および亜硝酸カリウムから必須的になる群より選択される1種または2種以上の亜硝酸塩を含む」「亜硝酸系気化性防錆剤」であるのに対して、甲1発明は「ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩」である点。
(3)判断
ア 事案に鑑み、相違点2について、まず検討する。
(ア)甲1発明は「酸素ガス透過率は0.2cc/m2・24hr・1atm、水蒸気透過率は0.2g/m2・24hr・1atmである防錆性フィルムを用い、」「該防錆性フィルムの袋を作成し、内部に鋼板片を入れた後、内部を窒素ガスで置換、その後ヒートシールを行って密封状態として40℃、95%RHで3週間放置する」ものである。
(イ)防錆性フィルムの袋の内部を窒素ガスで置換する点について、上記(1)ア(ウ)に摘記したように、甲1には、「包装袋内部を真空引きして袋内の空気、水蒸気を除去したのち」「内部へ乾燥したガス(例えば窒素など)を導入したのちヒートシールする」(段落【0101】)ことが記載されているから、防錆性フィルムの袋を「内部を窒素ガスで置換、その後ヒートシールを行って密封状態」にすることによれば、ヒートシール直後の防錆性フィルムの袋内部の密閉空間内は外部に比べて相対湿度が低くなっているものと認められる。
(ウ)さらに、甲1発明の「液晶ポリエステル樹脂組成物フィルムg-1の片面上に、ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩4重量%を含むフィルムPE-1を積層した」「酸素ガス透過率は0.2cc/m2・24hr・1atm、水蒸気透過率は0.2g/m2・24hr・1atmである防錆性フィルム」とは、上記(1)ア(ウ)に摘記したように、甲1には、「ガスバリア性の液晶性ポリマー層が、高温高湿の雰囲気下であっても、外部からの気体、水蒸気の侵入を防止する」(段落【0102】)ことが記載されているから、水蒸気透過率が低い結果、「防錆性フィルムの袋」の「内部に鋼板片を入れた後、」「40℃、95%RHで3週間放置する」期間にわたって、外部からの気体、水蒸気の侵入の防止性能が、水蒸気透過率の高いフィルムを用いた場合に比べて改善されるものと認められる。
(エ)上記(イ)、(ウ)によれば、「酸素ガス透過率は0.2cc/m2・24hr・1atm、水蒸気透過率は0.2g/m2・24hr・1atmである防錆性フィルムを用い」た「防錆性フィルムの袋」「内部に鋼板片を入れた後、内部を窒素ガスで置換、その後ヒートシールを行って密封状態とし」たことによって、ヒートシール直後、及び、3週間の放置期間にわたって、防錆性フィルムの袋内部の相対湿度がある程度低くなるとは認められる。
(オ)しかしながら、甲1には、3週間の放置期間にわたって、防錆性フィルムの袋内部の相対湿度を常に45%以下に調節することまでは記載されていない。
(カ)そして、密閉された袋内部の相対湿度に影響を与える要素について、甲1、甲10、甲12には以下の記載がある。
a 甲1の記載
「ガスバリア性の液晶性ポリマー層が、高温高湿の雰囲気下であっても、外部からの気体、水蒸気の侵入を防止する」(段落【0102】)
b 甲10の記載
「段ボールの外面6面をプラスチックフィルムにて密閉梱包する」(段落【0012】)のに用いるプラスチックフィルムに関し、「プラスチックフィルムとしては、相対湿度差90%で厚さが0.1mmの条件下での透湿度が6.0g/m2・24hr以下の」「プラスチックフィルム」とすることで「外気条件により起きる梱包体内部への水分の浸透防止にも役立つ」(段落【0017】)
c 甲12の記載
「複数のアクリル系樹脂板1を積載し、これを合成樹脂フィルム3で包むことにより、防湿効果が得られる」(段落【0008】)ために、「合成樹脂フィルム3としては、」「好適な防湿性を有するフィルムを使用することが好まし」く、「具体的には、合成樹脂フィルム3の透湿度は、使用する厚みで2.5g/m2・24h以下が好ましく、2.3g/m2・24h以下がより好ましく、2.0g/m2・24h以下が特に好ましい。この透湿度は、JIS Z0208 条件B(温度40±0.5℃、相対湿度90±2%)に準じて測定した値である。」(段落【0009】)
(キ)上記(カ)で記載したように、密閉された袋内部の相対湿度は、密閉直後の相対湿度のみではなく、袋自体のガスバリア性、すなわち、水蒸気透過率(透湿度)に加え、外気の温度及び湿度によって、変化し得るものであるから、甲1発明において、上記(イ)、(ウ)のとおり、防錆性フィルムの水蒸気透過率が低いものであって、防錆性フィルムの袋内部を窒素ガスで置換した後に密閉空間としたというのみでは、3週間の放置期間にわたって、防錆性フィルムの袋内部の相対湿度が常に45%以下に調節されているかは不明であるとしかいえない。
(ク)そして、甲1には、防錆性フィルムの袋内部の相対湿度を常に45%以下に調節すべきとする示唆もないから、甲1発明に基いて防錆性フィルムの袋内部の相対湿度を常に45%以下に調節する動機が見当たらない。
(ケ)さらに、甲10、甲11には、湿度を低下させる手段に関し、下記の記載がある。
a 甲10には、「鉄を主成分とする金属部品等の物品を保管・輸送時の錆を発生させない梱包体」(段落【0001】)に関し、「鉄を主成分とする金属部品等の物品は、その表面に付着した水分を介して、錆が発生するため、物品への水分付着、結露を防止するため、吸湿剤を段ボール箱内に入れると、防錆効果は更に高まる。吸湿剤としては、市販のシリカゲル系、炭酸カルシウム系、塩化カルシウム系等のものがある。」(段落【0018】)と記載され、「シリカゲルを主成分とする吸湿剤」を用いた実施例3では、吸湿剤を使用していない他の例(例えば実施例1)に比べて梱包体内部の湿度が低く、15日間保管した包装体の内部を測定したところ湿度が10%であったことが記載されている(段落【0032】【表1】)。
b 甲11には、「電機部品、自動車部品等の金属製品の防錆方法に関」し(段落【0001】)、「被防錆物質が存在する実質的に外気と遮断された空間内にA:カルシウムまたはマグネシウムの塩化物を吸湿主剤とする乾燥剤組成物、B:CHC及びC:DICHAN又はDIPANを存在させる」(「CHC」は「シクロヘキシルアンモニウム-N-シクロヘキシルカーバメート」、「DICHAN」は「ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト」、「DIPAN」は「ジイソプロピルアンモニウムナイトライト」である。)ことにより、「特に鉄製の製品や部品を長時間錆から防ぐ」との目的を達成できる(段落【0003】)と記載されている。
(コ)そうすると、上記(ケ)の甲10、甲11に記載されている事項に基づいて防錆性フィルムの袋内部に吸湿剤を存在させることによって、袋内部の相対湿度を低下できることは理解できるものの、甲1発明において、防錆性フィルムの袋内部に吸湿剤を存在させることによって、袋内部の相対湿度を常に45%以下に調節するという動機は見当たらない。
さらに、上記(キ)で述べたように袋内部の相対湿度は様々な要因の影響を受けることからすると、吸湿剤を添加すれば防錆性フィルムの袋内部の相対湿度が常に45%以下になるかについても不明であるとしかいえない。
(サ)したがって、甲1発明に基いて、あるいは、甲1発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
イ 相違点3について、次に検討する。
(ア)甲1には、「気化性防錆剤」の具体例として、「ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩」とともに、「ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト(DICHAN)、」「ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)」が挙げられており(段落【0081】)、これらは「亜硝酸系気化性防錆剤」に相当する。
(イ)したがって、甲1発明において、気化性防錆剤である「ジシクロヘキシルアンモニウム安息香酸塩」を、上記(ア)の記載に基いて「亜硝酸系気化性防錆剤」である「ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト(DICHAN)」または「ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)」に代えることは当業者が容易に想到し得たものといえる。
(ウ)よって、甲1発明に基いて、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
ウ 本件発明1が奏する効果について検討する。
(ア)本件明細書等の表1、表2によれば、防錆処理によって鉄系部材の表面に形成される不動態皮膜の形成程度を評価する指標である、防錆処理を行った鉄系部材の表面電位と防錆処理を行っていない鉄系部材の表面電位の差に関し、密閉空間内の相対湿度を45%以下に調節して防錆処理を行った例では電位差が+100mVよりも高いのに対して、密閉空間内の相対湿度が45%を超える状態で防錆処理を行った例では電位差は最大でも+64mVであって+100mVを大きく下回るものであることが開示されているから、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「密閉空間内」の「相対湿度を45%以下に調節」する点によって、良好な不動態被膜を形成できるという当業者が予測できない効果を奏することができる。
(イ)加えて、上記効果が、「亜硝酸系気化性防錆剤」である「ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト(DICHAN)」または「ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)」を用いることによって奏されることを、当業者が予測できるとはいえないから、上記イで述べたように、甲1発明に基いて上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることが、当業者に容易に想到し得たことであったとしても、上記効果を当業者が予測できたものとはいえない。
(ウ)したがって、本件発明1は、甲1発明から、あるいは、甲1発明及び甲10、甲11に記載された事項から当業者が予測できない効果を奏するものである。
エ 上記ア~ウによれば、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、甲1に記載の発明に基いて、あるいは、甲1に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明4~7について
本件発明4~7は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が甲1発明であるとはいえず、また、甲1に記載の発明に基いて、あるいは、甲1に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~7についても同様に甲1発明であるとはいえず、また、甲1に記載の発明に基いて、あるいは、甲1に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由1のまとめ
したがって、申立理由1によっては、本件発明1、4~7に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2~6(甲2~6のそれぞれを主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
甲2には、実施例1、及び、第2表に記載の防錆効果の試験方法(第18欄)に注目すると、下記の発明が記載されている。
「厚さ12μの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートの基材フィルムの一方の面をポリエステル-イソシアネート系アンカーコート剤で表面処理し、この表面処理面上に厚さ15μの低密度ポリエチレン層(住友化学工業社製スミ力セン)、さらに、厚さ20μの、気化性防錆剤としてジシクロヘキシルアンモニウム亜硝酸塩を混練した低密度ポリエチレン層を順次的に積層した積層フィルムを用いて、
冷間圧延鋼板(60mmX80mmX1mm)を被包装試料として使用し、
前記積層フィルムをヒートシールにより密封包装し、
50℃±1℃、100%RHに設定された湿潤槽中に吊り下げ促進試験を行って、
JIS-Z-2912により錆の面積発生率を求め、
120日以上錆が発生しなかった
防錆効果試験方法。」(甲2発明)
(2)甲3に記載された発明
甲3には、実施例1、2、4、及び、表1の防錆効果の欄に注目すると、下記の発明が記載されている。
「気化性防錆剤としてジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩あるいはジイソプロピルアミン亜硝酸塩を約10%含有するペレット状防錆剤マスターバッチを、ポリエチレンによって約1~2%の気化性防錆剤含有量になるように希釈して、押出し成型してシートとし、該シートの鉄に対する防錆効果を判定する方法。」(甲3発明)
(3)甲4に記載された発明
甲4には、実施例1、2、及び、第3表の防錆効果試験((1)接触試験と(2)空間試験)に注目すると、下記の発明が記載されている。
「密度0.922およびメルトインデックス1.5を有する低密度ポリエチレン(LDPE)各100重量部に対して、亜硝酸カリウム3重量部、尿素3重量部を別々に添加、攪拌混合して調製した成形用コンパウンドを、亜硝酸カリウムを含有する成形用コンパウンドが内層、尿素を含有する成形用コンパウンド外層となるように内外層組合せてインフレーション押出成形機により成形した内層0.05mm、外層0.05mmの2層チューブ状フィルムにて60×90mmの大きさの袋を作り、
1.0×30×10mmの鋼あるいはφ30×8mmの鋳鉄を入れて口部をヒートシールして密封した試料を
15℃、12hr、40℃、12hrを繰り返す試験機内に60日間放置する
接触試験方法。」(甲4発明1)
「密度0.922およびメルトインデックス1.5を有する低密度ポリエチレン(LDPE)各100重量部に対して、亜硝酸カリウム3重量部、尿素3重量部を別々に添加、攪拌混合して調製した成形用コンパウンドを、亜硝酸カリウムを含有する成形用コンパウンドが内層、尿素を含有する成形用コンパウンド外層となるように内外層組合せてインフレーション押出成形機により成形した内層0.05mm、外層0.05mmの2層チューブ状フィルムにて折径215mmのチューブの一方をガゼツトにしてヒートシールし、
1.0×30×10mmの鋼あるいはφ30×8mmの鋳鉄を吊るした、100×100×150mmの枠組みを包装し、他方をガゼツトでヒートシールした試料を
15℃、12hr、40℃、12hrを繰り返す試験機内に12日間放置する
空間試験方法。」(甲4発明2)
「密度0.940およびメルトインデックス3.0を有する、酢酸ビニル含有量が10重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)各100重量部に対して、亜硝酸ナトリウム3重量部、オレイン酸アンモニウム3重量部を別々に添加、攪拌混合して調製した成形用コンパウンドを、亜硝酸ナトリウムを含有する成形用コンパウンドが内層、オレイン酸アンモニウムを含有する成形用コンパウンド外層となるように内外層組合せてインフレーション押出成形機により成形した内層0.05mm、外層0.05mmの2層チューブ状フィルムにて60×90mmの大きさの袋を作り、
1.0×30×10mmの鋼あるいはφ30×8mmの鋳鉄を入れて口部をヒートシールして密封した試料を
15℃、12hr、40℃、12hrを繰り返す試験機内に60日間放置する
接触試験方法。」(甲4発明3)
「密度0.940およびメルトインデックス3.0を有する、酢酸ビニル含有量が10重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)各100重量部に対して、亜硝酸ナトリウム3重量部、オレイン酸アンモニウム3重量部を別々に添加、攪拌混合して調製した成形用コンパウンドを、亜硝酸ナトリウムを含有する成形用コンパウンドが内層、オレイン酸アンモニウムを含有する成形用コンパウンド外層となるように内外層組合せてインフレーション押出成形機により成形した内層0.05mm、外層0.05mmの2層チューブ状フィルムにて折径215mmのチューブの一方をガゼツトにしてヒートシールし、
1.0×30×10mmの鋼あるいはφ30×8mmの鋳鉄を吊るした、100×100X150mmの枠組みを包装し、他方をガゼツトでヒートシールした試料を
15℃、12hr、40℃、12hrを繰り返す試験機内に12日間放置する
空間試験方法。」(甲4発明4)
(4)甲5に記載された発明
甲5には、特許請求の範囲、及び、第3頁左上欄第11行~右上欄第1行に注目すると、下記の発明が記載されている。
「ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト[(C6H11)2NH2NO2]とシクロヘキシルアンモニウム-N-シクロヘキシルカルバメート[C6H11NH3OCONHC6H11]を有効成分として含有する気化性防錆剤を、
粉末状のままもしくは顆粒状や錠剤に成形してから通気性のある小袋に充填して防錆処理雰囲気中に吊したり、
または、中性紙に含浸させて防錆紙として防錆対象の包装に使用する方法。」(甲5発明)
(5)甲6に記載された発明
甲6には、実施例16、及び、段落[0019]~[0022]、表1の防錆試験に注目すると、下記の発明が記載されている。
「低密度ポリチレン〔住友化学(株)製、スミカセンF200、密度=0.924g/cm3、MFR=2.0g/10分〕100重量部に対して、アジピン酸アンモニウム1重量部、あるいは、セパジン酸Na1重量部及び亜硝酸Na1重量部を添加、攪拌混合して成形用コンパウンドをそれぞれ調整し、2層機にて、2つの層の厚さが同じ厚さとなるように成形してチューブ状フィルムを作製し、
タテ100mm×ヨコ100mm×高さ150mmの枠組内に
φ30mm×8mmの鋳鉄、1.2mm×30mm×50mmの鋼板、1.4mm×30mm×50mmの亜鉛メッキ鋼板のいずれかをナイロン製の釣糸で吊し、作製したフィルムで枠組みをガゼットシールし密封し、
25℃、70%RH:4時間、50℃、95%RH:4時間、設定移動時間:2時間、計12時間/1サイクルで、3日間(6サイクル)の中期効果、7、14日間(14、28サイクル)の長期効果を評価する防錆試験方法。」(甲6発明)
(6)本件発明1と甲2~甲6発明との対比
ア 甲2発明の「冷間圧延鋼板(60mmX80mmX1mm)を被包装試料として使用し、」「気化性防錆剤としてジシクロヘキシルアンモニウム亜硝酸塩を混練した低密度ポリエチレン層を」含む「積層フィルムをヒートシールにより密封包装し、」「50℃±1℃、100%RHに設定された湿潤槽中に吊り下げ促進試験を」「120日以上」行った事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
イ 甲3発明の「ジイソプロピルアミン亜硝酸塩」「を」「含有する」「ペレット状防錆剤マスターバッチを」「希釈して、押出し成型してシートとし、該シートの鉄に対する防錆効果を判定した」事項は、防錆剤を含有するシートと鉄を密閉空間において共存させたか否かは明らかではないものの、防錆試験は密閉空間内で行われるという技術常識に基づけば、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
ウ 甲4発明1の「亜硝酸カリウムを含有する成形用コンパウンドが内層」「となるように内外層組合せて」「成形した」「2層チューブ状フィルムにて60×90mmの大きさの袋を作り、1.0×30×10mmの鋼あるいはφ30×8mmの鋳鉄を入れて口部をヒートシールして密封し」「15℃、12hr、40℃、12hrを繰り返す試験機内に60日間放置する」事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
エ 甲4発明2の「亜硝酸カリウムを含有する成形用コンパウンドが内層」「となるように内外層組合せて」「成形した」「2層チューブ状フィルムにて」「チューブの一方をガゼツトにしてヒートシールし、1.0×30×10mmの鋼あるいはφ30×8mmの鋳鉄を吊るした、100×100×150mmの枠組みを包装し、他方をガゼツトでヒートシールした試料を15℃、12hr、40℃、12hrを繰り返す試験機内に12日間放置する」事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
オ 甲4発明3の「亜硝酸ナトリウムを含有する成形用コンパウンドが内層」「となるように内外層組合せて」「成形した」「2層チューブ状フィルムにて60×90mmの大きさの袋を作り、1.0×30×10mmの鋼あるいはφ30×8mmの鋳鉄を入れて口部をヒートシールして密封し」「15℃、12hr、40℃、12hrを繰り返す試験機内に60日間放置する」事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
カ 甲4発明4の「亜硝酸ナトリウムを含有する成形用コンパウンドが内層」「となるように内外層組合せて」「成形した」「2層チューブ状フィルムにて」「チューブの一方をガゼツトにしてヒートシールし、1.0×30×10mmの鋼あるいはφ30×8mmの鋳鉄を吊るした、100×100×150mmの枠組みを包装し、他方をガゼツトでヒートシールした試料を15℃、12hr、40℃、12hrを繰り返す試験機内に12日間放置する」事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
キ 甲6発明の「亜硝酸Na」を含有する「成形用コンパウンドを」「成形して」「作製し」た「チューブ状フィルム」で「タテ100mm×ヨコ100mm×高さ150mmの枠組内にφ30mm×8mmの鋳鉄、1.2mm×30mm×50mmの鋼板、1.4mm×30mm×50mmの亜鉛メッキ鋼板のいずれかをナイロン製の釣糸で吊し」た「枠組みをガゼットシールし密封し、25℃、70%RH:4時間、50℃、95%RH:4時間、設定移動時間:2時間、計12時間/1サイクルで、3日間(6サイクル)の中期効果、7、14日間(14、28サイクル)の長期効果を評価する」事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
ク 上記ア~キのとおり、甲1発明~甲4発明4、甲6発明は、いずれも、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通しているものの、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲1発明~甲4発明4、甲6発明は、「密閉空間内」の相対湿度が不明である。
ケ したがって、甲1発明~甲4発明4、甲6発明はいずれも、少なくとも下記の相違点4において、本件発明1と相違する。
<相違点4>
密閉空間内において、鉄系部材と気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲1発明は、「密閉空間内」の相対湿度が不明である点。
コ さらに、甲5発明は、気化性防錆剤と鉄系部材を密閉空間内で共存させる点自体が不明である点(相違点4’)において本件発明1と相違する。
(7)判断
ア 上記相違点4、相違点4’について、申立人は特許異議申立書の第14頁~第19頁において、参考資料2-1、2-2として、大阪の2018年1月、2017年1月の気象データを示し、日本において、季節により異なるかもしれないが、特に日中の相対湿度が45%以下である日時は格別珍しいことではないばかりか、特に降水量を観測しない時においては通常の気象条件といえ、「相対湿度を45%以下に調節した密閉空間において」とは、湿度が45%を下回る日時において、外気と変わらない雰囲気を密閉空間内に入れる状態と特段変わらないと主張し、同じく第66頁~第67頁において、甲2発明~甲6発明を実施するときは、金属部材を梱包等するときであり、梱包等を行う事業所が営業中の日中に行うことが通常であるため、意図をしていなくても、結果的に相対湿度が45%以下の密閉空間を形成するように行うことが多くなる、と主張している。
イ しかしながら、甲2発明~甲6発明において、密閉空間を形成する時点での当該密閉空間内の相対湿度は、甲2~甲6に何らの記載もないのであるから不明であるし、仮に、密閉空間を形成する時点での相対湿度が意図することなく45%以下であったとしても、上記1(3)ア(キ)で述べたとおり、密閉空間内の相対湿度は、袋等の密閉空間を形成する材料自体のガスバリア性、すなわち、水蒸気透過率(透湿度)に加え、外気の温度及び湿度によって、変化し得るものであるから、甲2発明~甲6発明において、密閉空間内の相対湿度が常に45%以下に調節されているかは不明であるとしかいえない。
ウ そして、甲2~甲6には、防錆性フィルムの袋内部の相対湿度を常に45%以下に調節すべきとする示唆もなく、また、上記1(3)ア(ケ)、(コ)で述べたとおり、甲10、甲11の記載を考慮しても、袋内部の相対湿度を常に45%以下に調節することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
エ したがって、甲2発明~甲6発明に基いて、あるいは、甲2発明~甲6発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
オ さらに、上記1(3)ウで述べたとおり、「密閉空間内」を「相対湿度を45%以下に調節」する点によって、良好な不動態被膜を形成できるという本件発明1の奏する効果を当業者が予測できたとはいえない。
カ よって、他の一致点、相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明~甲6発明であるとはいえず、また、甲2~甲6に記載の発明に基いて、あるいは、甲2~甲6に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(8)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(7)で述べたとおり、本件発明1が甲4発明あるいは甲6発明であるとはいえず、また、甲4あるいは甲6に記載の発明に基いて、あるいは、甲4あるいは甲6に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、3についても同様に甲4発明あるいは甲6発明であるとはいえず、また、甲4あるいは甲6に記載の発明に基いて、あるいは、甲4あるいは甲6に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(9)本件発明4~7について
本件発明4~7は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(7)で述べたとおり、本件発明1が甲2発明~甲6発明であるとはいえず、また、甲2~甲6に記載の発明に基いて、あるいは、甲2~甲6に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~7についても同様に甲2発明~甲6発明であるとはいえず、また、甲2~甲6に記載の発明に基いて、あるいは、甲2~甲6に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(10)申立理由2~6のまとめ
したがって、申立理由2~6によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由7(甲7を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲7の記載、及び甲7に記載された発明
ア 甲7の記載
甲7には、「硫酸マグネシウム充填小袋型乾燥材及び防錆乾燥材」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、充填用吸湿剤として無水硫酸マグネシウムを用いることにより、吸湿性能が大で、安全且つ外観上の変化を伴わない新規な小袋型乾燥材及び前記硫酸マグネシウムと共に気化性防錆剤を有する小袋型防錆材に関する。」
「【0009】無水硫酸マグネシウムの吸湿力はシリカゲルの約2.5倍あり、外観はややしっとりしてくるが、べたつき無し。CaCl2の吸湿力はシリカゲルの約3.5倍と非常に大きいが、19時間後の吸湿率14%位から潮解し始め、163時間後には水層が分離した。このように小袋型乾燥材用の吸湿剤として無水硫酸マグネシウムの性能は非常に高い。
【0010】次に本発明の新規な防錆乾燥材について説明する。乾燥剤の用途として金属の防錆があるが、一方、金属の防錆剤の一つとして気化性防錆剤(VCI)がある。VCIはその名のごとく常温で気化し、金属表面にガスの被膜をつくることによりサビを防ぐもので、VCIを紙に含浸または塗布したものが気化性防錆紙、油に添加したものが気化性防錆油である。又、VCIを金属の入った密閉系内に直接散布したり、通気性の小袋に充填したものを挿入する方法が行なわれて来た。
【0011】金属の防錆を行なうにあたり、乾燥剤を使用し湿度を下げる方法とVCIを使用する方法を併用することは非常に有効と考えられ、本発明は1パッケージ内に乾燥剤とVCIを同封したものを開発したものである。・・・混合使用されるVCIとしては、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、・・・ジイソプロピルアンモニムナイトライト、・・・亜硝酸ソーダ+尿素またはウロトロピン系、・・・亜硝酸ソーダ+安息香酸アンモニウム、・・・が挙げられる。・・・」
「【0013】
【実施例】通気性の紙袋(5cm×7cm)に表1,2及び3の充填剤をそれぞれ1.5g封入し、小袋型防錆剤を作成して防錆試験に提供した。下記表中の略語は次の通りである:
Mg ;無水硫酸マグネシウム
Si ;シリカゲル
Dc ;ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト
Dp ;ジイソプロピルアンモニウムナイトライト
Ch ;シクロヘキシルアミンカーバメート
・・・
【0014】
【表2】
[図:0001401691000002.jpg]
」
「【0016】
【表4】
[図:0001401691000003.jpg]
【0017】防錆試験
10lの角型ポリエチレン製容器に、前記作成した小袋型防錆剤と金属テストピースを入れ、蓋をして密閉する。<50℃,8時間⇔15℃,16時間>のサイクル試験を3ヵ月間行ない、さらに6ヵ月間屋外放置した後、金属表面の発錆の状況を観察した。結果は下記の通りである。
【0018】
【表5】
[図:0001401691000004.jpg]
」
イ 甲7に記載された発明
上記アの、特に例-1、2、4、7、9、及び、鉄に対する防錆試験方法によれば、甲7には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「通気性の紙袋(5cm×7cm)に無水硫酸マグネシウムと、気化性防錆剤であるジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトあるいはジイソプロピルアンモニウムナイトライトを含む充填剤を1.5g封入し、小袋型防錆剤を作成し、
10lの角型ポリエチレン製容器に、作成した小袋型防錆剤と鉄テストピースを入れ、蓋をして密閉し、50℃,8時間⇔15℃,16時間のサイクル試験を3ヵ月間行ない、さらに6ヵ月間屋外放置する防錆試験方法。」(甲7発明)
(2)本件発明1と甲7発明との対比
ア 甲7発明の「気化性防錆剤であるジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトあるいはジイソプロピルアンモニウムナイトライト」は、本件発明1の「亜硝酸系気化性防錆剤」、「上記亜硝酸系気化性防錆剤が、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩、亜硝酸ナトリウム、および亜硝酸カリウムから必須的になる群より選択される1種または2種以上の亜硝酸塩」に相当する。
イ 甲7発明の「10lの角型ポリエチレン製容器に、」「通気性の紙袋(5cm×7cm)に無水硫酸マグネシウムと、気化性防錆剤であるジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトあるいはジイソプロピルアンモニウムナイトライトを含む充填剤を1.5g封入し」て「作成した小袋型防錆剤と鉄テストピースを入れ、蓋をして密閉し、50℃,8時間⇔15℃,16時間のサイクル試験を3ヵ月間行ない、さらに6ヵ月間屋外放置する」事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
ウ 上記イのとおり、甲7発明は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通しているものの、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲7発明は、「密閉空間内」の相対湿度が不明である。
エ したがって、甲7発明は、少なくとも下記の相違点5において、本件発明1と相違する。
<相違点5>
密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲7発明は、「密閉空間内」の相対湿度が不明である点。
(3)判断
ア 上記(1)アによれば、甲7発明の「小袋型防錆剤」に「封入」された「無水硫酸マグネシウム」とは、「吸湿力はシリカゲルの約2.5倍あ」る「吸湿剤」(段落【0009】)である。
イ したがって、「無水硫酸マグネシウムと、気化性防錆剤であるジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトあるいはジイソプロピルアンモニウムナイトライトを含む」「小袋型防錆剤と鉄テストピースを入れ、蓋をして密閉し」た「10lの角型ポリエチレン製容器」内の密閉空間は、外部に比べて相対湿度が低くなっているものと認められる。
ウ しかしながら、上記1(3)ア(キ)で述べたとおり、密閉空間内の相対湿度は、袋等の密閉空間を形成する材料自体のガスバリア性、すなわち、水蒸気透過率(透湿度)に加え、外気の温度及び湿度によって、変化し得るものであるから、甲7発明の「10lの角型ポリエチレン製容器」内に「無水硫酸マグネシウム」が存在していることのみをもって、「蓋をして密閉し、50℃,8時間⇔15℃,16時間のサイクル試験を3ヵ月間行ない、さらに6ヵ月間屋外放置する」期間にわたって、「10lの角型ポリエチレン製容器」内の密閉空間の相対湿度が常に45%以下に調節されているかは不明である。
エ なお、上記2(7)アに記載した気象データに基づく申立人の主張についても、上記2(7)イで述べたことと同様のことがいえる。
オ そして、甲7には、「10lの角型ポリエチレン製容器」内の密閉空間の相対湿度を常に45%以下に調節すべきとする示唆もなく、また、上記1(3)ア(ケ)、(コ)で述べたとおり、甲10、甲11の記載を考慮しても、袋内部の相対湿度を常に45%以下に調節することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
カ したがって、甲7発明に基いて、あるいは、甲7発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、上記相違点5に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
キ さらに、上記1(3)ウで述べたとおり、「密閉空間内」を「相対湿度を45%以下に調節」する点によって、良好な不動態被膜を形成できるという本件発明1の奏する効果を当業者が予測できたとはいえない。
ク よって、他の一致点、相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明であるとはいえず、また、甲7に記載の発明に基いて、あるいは、甲7に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2~7について
ア 本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が甲7発明であるとはいえず、また、甲7に記載の発明に基いて、あるいは、甲7に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~7についても同様に甲7発明であるとはいえず、また、甲7に記載の発明に基いて、あるいは、甲7に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由7のまとめ
したがって、申立理由7によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由8(甲8を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲8の記載、及び甲8に記載された発明
ア 甲8の記載
甲8には、「防錆包装材」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明に係る包装材1の第1の実施形態の外観斜視図である。この図に示されているように、本発明の包装材1は、第1の面状物2と第2の面状物3とを貼り合わせて(即ち、積層して)、シート状に形成したものである。
【0011】これらのうち第1の面状物2は、多数の小孔によって通気性を有するプラスチックフィルム(ポリエチレンフィルム、ポリプロピレン不織布など)によって形成されており、また、図1に示すような蒲鉾型のセル4が多数形成されている。そして、それらのセル4の内部には、図2の断面図に示されているように、気化性防錆剤5及び吸湿剤6がそれぞれ充填されている。一方、第2の面状物3は、第1の面状物2よりも通気性の低いプラスチックフィルム(ポリエチレンフィルムなど)によって形成されており、第1の面状物2と貼り合わされることによって、セル4を閉塞するような構造となっている。
【0012】セル4内に充填される気化性防錆剤5としては、例えば、ブチンジオール、ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト(DICHAN)、ジシクロヘキシルアンモニウム・カブリレート、シクロヘキシルアミン・カーバメート(CHC)、シクロヘキシルアンモニウム・ラウレート、ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト(DIPAN)、ニトロナフタリンアンモニウム・ナイトライト(NITAN)、ベンゾトリアゾール(BTA)、トリルトリアゾール(TTA)などの中から、それらの特性、用途に応じて適宜選択して用いることができる。」
「【0019】次に、図3に示したような方法で金属製品8を包装した場合の防錆作用について説明する。まず、包装材1からなる袋体7内部に金属製品8を収納して密封し、所定時間が経過すると、セル4内の気化性防錆剤5の防錆成分が、次第に気化していく。このとき、袋体7は、通気性を有する第1の面状物2が内側になるように構成されているので、気化した防錆成分は、第1の面状物2を通過して、袋体7の内部空間に充満していくことになる。一方、袋体7の外側部分を構成する第2の面状物3は、通気性の低いプラスチックフィルムによって形成されているので、セル4内で気化した防錆成分が第2の面状物3を通過して袋体7の外部に放出されてしまうというような無駄を防止することができる。
【0020】そして、この気化した防錆成分が袋体7内部において金属製品8表面の細かな形状の部分に至るまで付着し、表面全体に防錆被膜が形成され、金属製品8の表面における錆の発生が好適に防止される。また、前述の通り袋体7は金属製品8を収納した上で密封されているほか、袋体7の外側部分を形成する第2の面状物3が通気性の低いプラスチックフィルムによって構成されているので、袋体7内部への外気の侵入を防止することができる。
【0021】更に、セル4内には吸湿剤6が充填されているので、袋体7内部における空気中の水分は、通気性を有する第1の面状物を通過して吸湿剤6に吸収され、金属製品8における発錆を抑制することができる。また、セル4は、袋体7を形成する包装材1のほぼ全面に亘って配置されているほか、これらのセル4内には吸湿剤6が均等に配置されているので、外気温の変動等に起因する局部的な結露の発生をも好適に抑制することができる。更に、前述したように、袋体7の外側部分を構成する第2の面状物3は、通気性の低いプラスチックフィルムによって形成されているので、セル4内の吸湿材6が外気中の水分を吸収してしまうというような無駄を防止することができる。」
「図2
[図:0001401691000005.jpg]
図3
[図:0001401691000006.jpg]
」
イ 甲8に記載された発明
上記アによれば、第1の実施形態に注目すると、甲8には以下の発明が記載されている。
「蒲鉾型のセル4が多数形成されている通気性を有するプラスチックフィルムによって形成された第1の面状物2であって、
セル4の内部には、気化性防錆剤5及び吸湿剤6がそれぞれ充填される第1の面状物2と、
第1の面状物2よりも通気性の低いプラスチックフィルムによって形成された第2の面状物3とを貼り合わせてシート状に形成した包装材1からなる袋体内部に
金属製品8を収納して密封する方法であって、
気化性防錆剤5としては、例えば、ブチンジオール、ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト(DICHAN)、ジシクロヘキシルアンモニウム・カブリレート、シクロヘキシルアミン・カーバメート(CHC)、シクロヘキシルアンモニウム・ラウレート、ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト(DIPAN)、ニトロナフタリンアンモニウム・ナイトライト(NITAN)、ベンゾトリアゾール(BTA)、トリルトリアゾール(TTA)などの中から、それらの特性、用途に応じて適宜選択して用いることができる
方法。」(甲8発明)
(2)本件発明1と甲8発明の対比
ア 甲8発明の「金属製品8」「気化性防錆剤5」は、本件発明1の「鉄系部材」、「亜硝酸気化性防錆剤」と、それぞれ金属部材、気化性防錆剤である点で共通する。
イ そうすると、甲8発明の「蒲鉾型のセル4が多数形成されている通気性を有するプラスチックフィルムによって形成された第1の面状物2であって、セル4の内部には、気化性防錆剤5及び吸湿剤6がそれぞれ充填される第1の面状物2と、第1の面状物2よりも通気性の低いプラスチックフィルムによって形成された第2の面状物3とを貼り合わせてシート状に形成した包装材1からなる袋体内部に金属製品8を収納して密封する」事項は、第2の面状物3によって密閉された空間内に金属製品8と気化性防錆剤5が密封されているといえるから、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、金属部材と気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
ウ 上記イのとおり、甲8発明は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、金属部材と気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通しているものの、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲8発明は、「密閉空間内」の相対湿度が不明である。
エ また、甲8発明は、「気化性防錆剤5」として、多数の例を挙げ、ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト(本件発明1の「ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩」に相当)、ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト(本件発明1の「ジイソプロピルアミン亜硝酸塩」に相当)も選択肢に含まれるものの、亜硝酸系気化性防錆剤以外の気化性防錆剤も多数含まれている。
オ したがって、甲8発明は、少なくとも下記の相違点6、7において、本件発明1と相違する。
<相違点6>
密閉空間内において、金属部材と気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲8発明は、「密閉空間内」の相対湿度が不明である点。
<相違点7>
金属部材と気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる」ものであって、「亜硝酸系気化性防錆剤が、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩、亜硝酸ナトリウム、および亜硝酸カリウムから必須的になる群より選択される1種または2種以上の亜硝酸塩を含む」のに対して、甲8発明は、「金属製品8」の材質が不明であり、かつ、「気化性防錆剤5としては、例えば、ブチンジオール、ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト(DICHAN)、ジシクロヘキシルアンモニウム・カブリレート、シクロヘキシルアミン・カーバメート(CHC)、シクロヘキシルアンモニウム・ラウレート、ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト(DIPAN)、ニトロナフタリンアンモニウム・ナイトライト(NITAN)、ベンゾトリアゾール(BTA)、トリルトリアゾール(TTA)などの中から、それらの特性、用途に応じて適宜選択して用いる」ものであって、「亜硝酸系気化性防錆剤」に限られない点。
(3)判断
ア 相違点6について、まずは検討する。
(ア)甲8発明の「包装材1」には、「吸湿剤6」が存在し、また、上記(1)によれば、「袋体7の外側部分を形成する第2の面状物3が通気性の低いプラスチックフィルムによって構成されているので、袋体7内部への外気の侵入を防止することができ」(段落【0020】)、「セル4内には吸湿剤6が充填されているので、袋体7内部における空気中の水分は、通気性を有する第1の面状物を通過して吸湿剤6に吸収され」る(段落【0021】)ものである。
(イ)したがって、甲8発明の「包装材1からなる袋体内部に金属製品8を収納して密封」した空間は、外部に比べて相対湿度が低くなっているものと認められる。
(ウ)しかしながら、上記1(3)ア(キ)で述べたとおり、密閉空間内の相対湿度は、袋等の密閉空間を形成する材料自体のガスバリア性、すなわち、水蒸気透過率(透湿度)に加え、外気の温度及び湿度によって、変化し得るものであるから、甲8発明の「包装材1」に「吸湿剤6」が存在すること、また、「第1の面状物2よりも通気性の低いプラスチックフィルムによって形成された第2の面状物3」を用いて「包装材1」を形成することのみをもって、「密封」した「袋体内部」の相対湿度が、「袋体内部に金属製品8を収納して密封」している期間にわたって常に45%以下に調節されているかは不明である。
(エ)なお、上記2(7)アに記載した気象データに基づく申立人の主張についても、上記2(7)イで述べたことと同様のことがいえる。
(オ)そして、甲8には、「密封」した「袋体内部」の相対湿度を、「袋体内部に金属製品8を収納して密封」している期間にわたって常に45%以下に調節すべきとする示唆もなく、また、上記1(3)ア(ケ)、(コ)で述べたとおり、甲10、甲11の記載を考慮しても、袋内部の相対湿度を常に45%以下に調節することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
(カ)したがって、甲8発明において、あるいは、甲8発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、上記相違点6に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
イ 次に相違点7について、検討する。
(ア)上記(2)エで述べたとおり、甲8には、気化性防錆剤5の例として、「ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト」(本件発明1の「ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩」に相当)、「ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト」(本件発明1の「ジイソプロピルアミン亜硝酸塩」に相当)が挙げられているから、甲8発明における気化性防錆剤5の選択肢の中から、「ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト」あるいは「ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト」を選択することは、当業者が容易に想到し得たものといえる。
(イ)したがって、甲8発明に基いて、上記相違点7に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえる。
ウ 本件発明1が奏する効果について検討する。
(ア)上記1(3)ウ(ア)で述べたとおり、「密閉空間内」を「相対湿度を45%以下に調節」する点によって、良好な不動態被膜を形成できるという本件発明1の奏する効果を当業者が予測できたとはいえない。
(イ)また、上記1(3)ウ(イ)~(ウ)で述べたとおり、「亜硝酸系気化性防錆剤」である「ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト」あるいは「ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト」を用いることによって、上記効果が奏されることを、当業者が予測できるとはいえないから、上記イで述べたように、甲1発明に基いて上記相違点7に係る本件発明1の発明特定事項を得ることが、当業者に容易に想到し得たことであったとしても、上記効果を当業者が予測できたものとはいえない。
(ウ)したがって、本件発明1は、甲8発明から、あるいは、甲8発明及び甲10、甲11に記載された事項から当業者が予測できない効果を奏するものである。
エ 上記ア~ウによれば、他の一致点、相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8発明であるとはいえず、また、甲8に記載の発明に基いて、あるいは、甲8に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明4~7について
ア 本件発明4~7は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が甲8発明であるとはいえず、また、甲8に記載の発明に基いて、あるいは、甲8に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~7についても同様に甲8発明であるとはいえず、また、甲8に記載の発明に基いて、あるいは、甲8に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由8のまとめ
したがって、申立理由8によっては、本件発明1、4~7に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由9(甲9を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲9の記載、及び甲9に記載された発明
ア 甲9の記載
甲9には、「気相腐食抑制剤・乾燥剤材料」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 気相腐食抑制剤・乾燥剤の製剤と基体との複合物において、(a)亜硝酸ナトリウム約22重量%~約28重量%と、ベンゾトリアソゾール約4重量%~約6重量%と、モリブデン酸ナトリウム、二モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸アミン及びそれらの混合物からなる群から選ばれる無水モリブデン酸塩とからなる気相腐食抑制剤成分、
(b)約2μm~約8μmの粒径を有する粒状シリカゲルからなる乾燥剤成分(但し、該乾燥剤成分の表面に該抑制剤成分が付着されて、気相腐食抑制剤・乾燥剤の製剤が製造される。)、並びに
(c)該抑制剤・乾燥剤の製剤を保持する基体からなる、
上記複合物。」
「【0003】・・・通常の標準気圧条件及び周囲条件の下で腐食し易いことがしばしば見られる金属は、鉄、銅、黄銅、アルミニウム、銀及びこれら金属の合金である。本発明の製剤は、鉄金属及び非鉄金属(アルミニウム、銅、黄銅等の非金属を含む。)の防御を提供するのに特に有用である。・・・」
「【0005】気相腐食抑制剤の供給源を提供するために、従来、固相又は液相の化合物が使用されていた。これらの材料は典型的には蒸発又は昇華を伴って、抑制剤の実質的に一定の有用性を与える。換言すれば、気相腐食抑制剤は典型的には蒸気を放出し、その蒸気によって腐食性表面に保護フィルム又は保護コーティングの付着又は凝縮が行われ、その表面が保護される。抑制剤の一定供給が確保されるためには、十分な量の固相又は液相の腐食抑制性化合物が供給され、腐食抑制性化合物は必要な位置又は必要な位置の近辺に放出されなければならない。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主目的は、金属の露出表面を腐食させる環境に暴露された金属表面の防御に使用するのに非常に適した改良気相腐食抑制剤・乾燥剤を提供することにある。
【0009】また、本発明の目的は、蒸気圧及び他の特性(その特性によって、フィルム中の固相から金属表面へ適量の抑制剤が移動するのが適正化され、該抑制剤の残量が該フィルム中に保持され、放出された腐食抑制性材料が連続的に供給される。)を有するように調製された改良気相腐食抑制剤・乾燥剤を提供することにある。」
「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明の組成物は、具体的には、気相腐食抑制剤・乾燥剤からなり、その気相腐食抑制剤の成分は、無水モリブデン酸ナトリウムと、亜硝酸ナトリウム及びベンゾトリアゾールを含有するモリブデン酸の混合物と、ベンゾトリアゾール及びアミン塩の硝酸塩を含有する、アミン塩の安息香酸塩の混合物とからなる群から選ばれる。その組成物の乾燥剤成分は、本質的にシリカゲルからなる固相の粒状粒子であり、その気相腐食抑制剤の成分は粉末形態でシリカゲルの上に付着する。これらの組成物は気相腐食抑制剤・乾燥剤を提供する。その抑制剤・乾燥剤は、フィルム材料と共に押出し成形され、その後、そのフィルム材料は、防食すべき部材を覆う囲い込み(enclosures)を形成するのに利用される。或いは、その組成物は、腐食から保護されるべき部材を含む囲い込み又はパッケージ(packages)の内部に置いて(place, 配置して)もよい。このようなアプローチが効果的である第1の方法は、空気透過性のカプセル又は中に該組成物を含有する他の類似容器を備えることである。当然ながら、そのカプセル又は他の類似容器は十分な透過性を有し、その中の腐食抑制剤・乾燥剤の諸成分が防食すべき部材の雰囲気に入り込み得なければならない。防食すべき部材を含む囲い込み又はパッケージの内部に腐食抑制剤・乾燥剤の組成物を置くことのできる第2の方法は、該組成物をフォームに含浸させ、次いで、そのフォームを部材に接近させて置くことである。)」
「【0020】
【実施例】本発明の好ましい具体例では、空気透過性カプセルの中に供給すべき複合材料、又はフォーム若しくは押出し成形されたポリエチレンフィルムと組合わせるべき複合材料のための、著しく有用な気相腐食抑制剤成分には、無水モリブデン酸ナトリウム、無水ジモリブデン酸アンモニウム又はアミン・モリブデン酸塩と、亜硝酸ナトリウム及びベンゾトリアゾールとの混合物が含まれる。特に、著しく好ましい具体例では、次の製剤の混合物が提供される。
【0021】
成分 重量%
無水モリブデン酸ナトリウム 約70%
亜硝酸ナトリウム 約25%
ベンゾトリアゾール 約5%
【0022】この混合物は、約1μm未満の粒径を有する粉末形態で製造され、かつ粒状シリカゲルの上に付着されたときに、著しい効果がある。気相腐食抑制剤成分約30%~約50%以上、シリカゲル残量の相対重量比を使用してもよいが、好ましい相対重量比は気相腐食抑制剤成分約45%以上、シリカゲル残量である。その複合材料は、約1重量%~約30重量%の濃度でフォームの中に含浸させる。約2重量%~約3重量%の濃度でポリエチレンフィルムの中に押出し成形する。
【0023】上記に与えられる製剤の気相腐食抑制成分に存在する成分の有効範囲は次のように示してもよい。これらの範囲はいくつかの適用に有用であることが分かる。
成分 重量%
無水モリブデン酸ナトリウム 約65%~約75%
亜硝酸ナトリウム 約22%~約28%
ベンゾトリアゾール 約4%~約6%」
「【0030】好ましい空気透過性カプセル製品は、本発明の腐食抑制剤・乾燥剤の製剤を含有し開口を有するプラスチック容器で構成される。その開口は、空気透過性のチベック膜(Tyvek membrane)(デラウェア州ウィルミントン,デュポン社で製造)で覆われていて、その膜を通って製剤の放出が起きる。」
「【0049】図4に示すような透過性カプセルは、該カプセルの配置を防御すべき部材に接近させて本発明の腐食抑制剤・乾燥剤の製剤を与える。カプセル30の本体32はプラスチックで構成され、一方、カバー34はTyvel、すなわち腐食抑制剤が防御すべき部材の上に付着するように放出させる透過特性を有するポリマーで作られている。」
イ 甲9に記載された発明
(ア)上記アによれば、「空気透過性カプセルの中に供給すべき複合材料」「のための、著しく有用な気相腐食抑制剤成分」(段落【0020】)として、
「成分 重量%
無水モリブデン酸ナトリウム 約70%
亜硝酸ナトリウム 約25%
ベンゾトリアゾール 約5%」(段落【0021】)
の混合物を「約1μm未満の粒径を有する粉末形態で製造され、かつ粒状シリカゲルの上に付着」した(段落【0022】)「腐食抑制剤・乾燥剤の製剤」が記載され、
「空気透過性カプセル製品は、本発明の腐食抑制剤・乾燥剤の製剤を含有し開口を有するプラスチック容器で構成され」、「その開口は、空気透過性のチベック膜(Tyvek membrane)(デラウェア州ウィルミントン,デュポン社で製造)で覆われてい」る(段落【0030】)ものである。
(イ)また、上記(ア)の「気相腐食抑制剤成分」を含有する「空気透過性カプセル製品」は、「腐食から保護されるべき部材を含む囲い込み又はパッケージ(packages)の内部に置(place, 配置して)」かれる(段落【0015】)ものである。
(ウ)そして、上記(ア)の「気相腐食抑制剤成分」は、「鉄金属及び非鉄金属(アルミニウム、銅、黄銅等の非金属を含む。)の防御を提供する」(段落【0003】)ものであり、「気相腐食抑制剤は典型的には蒸気を放出し、その蒸気によって腐食性表面に保護フィルム又は保護コーティングの付着又は凝縮が行われ、その表面が保護される」(段落【0005】)ものであるから、上記(ア)の「気相腐食抑制剤成分」を含有する「空気透過性カプセル製品」は、上記(イ)の「囲い込み又はパッケージ(packages)の内部に」「鉄金属及び非鉄金属(アルミニウム、銅、黄銅等の非金属を含む。)」とともに保持されることで「気相腐食抑制」効果を発揮し、「鉄金属及び非鉄金属(アルミニウム、銅、黄銅等の非金属を含む。)の防御を提供する」ものである。
(エ)上記(ア)~(ウ)によれば、甲9には、以下の発明が記載されている。
「囲い込み又はパッケージ(packages)の内部に、
鉄金属及び非鉄金属(アルミニウム、銅、黄銅等の非金属を含む。)と、
重量%で無水モリブデン酸ナトリウム約70%、亜硝酸ナトリウム約25%、ベンゾトリアゾール約5%である約1μm未満の粒径を有する粉末形態の混合物を粒状シリカゲルの上に付着した腐食抑制剤・乾燥剤の製剤を含有する空気透過性カプセル製品とを、
保持することによる
鉄金属及び非鉄金属(アルミニウム、銅、黄銅等の非金属を含む。)の防御方法。」(甲9発明)
(2)本件発明1と甲9発明の対比
ア 甲9発明の「亜硝酸ナトリウム」は、本件発明1の「亜硝酸系気化性防錆剤」及び「亜硝酸系気化性防錆剤が、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩、亜硝酸ナトリウム、および亜硝酸カリウムから必須的になる群より選択される1種または2種以上の亜硝酸塩を含む」に相当する。
イ そうすると、甲9発明の「囲い込み又はパッケージ(packages)の内部に、鉄金属」「と、重量%で無水モリブデン酸ナトリウム約70%、亜硝酸ナトリウム約25%、ベンゾトリアゾール約5%である約1μm未満の粒径を有する粉末形態の混合物を粒状シリカゲルの上に付着した腐食抑制剤・乾燥剤の製剤を含有する空気透過性カプセル製品とを、保持する」事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸気化性防錆剤を共存させる工程」と、空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
ウ しかしながら、空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲9発明は、空間内の相対湿度が不明である。
エ したがって、甲9発明は、少なくとも下記の相違点8において、本件発明1と相違する。
<相違点8>
空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲9発明は、「密閉空間内」の相対湿度が不明である点。
(3)判断
ア 甲9発明の「空気透過性カプセル製品」には、「粒状シリカゲル」が存在し、上記(1)によれば「粒状シリカゲル」とは「乾燥剤成分」(請求項1)である。
イ したがって、甲9発明の「囲い込み又はパッケージ(packages)の内部に、鉄金属」「と、重量%で無水モリブデン酸ナトリウム約70%、亜硝酸ナトリウム約25%、ベンゾトリアゾール約5%である約1μm未満の粒径を有する粉末形態の混合物を粒状シリカゲルの上に付着した腐食抑制剤・乾燥剤の製剤を含有する空気透過性カプセル製品とを、保持する」空間は、外部に比べて相対湿度が低くなっているものと認められる。
ウ しかしながら、上記1(3)ア(キ)で述べたとおり、密閉空間内の相対湿度は、袋等の密閉空間を形成する材料自体のガスバリア性、すなわち、水蒸気透過率(透湿度)に加え、外気の温度及び湿度によって、変化し得るものであるから、甲9発明の「囲い込み又はパッケージ(packages)の内部」空間に、「乾燥剤成分」である「粒状シリカゲル」が存在することのみをもって、「囲い込み又はパッケージ(packages)の内部」空間の相対湿度が、「鉄金属」と「腐食抑制剤・乾燥剤の製剤を含有する空気透過性カプセル製品とを、保持する」期間にわたって常に45%以下に調節されているかは不明である。
エ なお、上記2(7)アに記載した気象データに基づく申立人の主張についても、上記2(7)イで述べたことと同様のことがいえる。
オ そして、甲9には、「囲い込み又はパッケージ(packages)の内部」空間の相対湿度を、「鉄金属」と「腐食抑制剤・乾燥剤の製剤を含有する空気透過性カプセル製品とを、保持する」期間にわたって常に45%以下に調節すべきとする示唆もなく、また、上記1(3)ア(ケ)、(コ)で述べたとおり、甲10、甲11の記載を考慮しても、袋内部の相対湿度を常に45%以下に調節することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
カ したがって、甲9発明に基いて、あるいは、甲9発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、上記相違点8に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
キ さらに、上記1(3)ウで述べたとおり、「密閉空間内」を「相対湿度を45%以下に調節」する点によって、良好な不動態被膜を形成できるという本件発明1の奏する効果を当業者が予測できたとはいえない。
ク よって、他の一致点、相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲9発明であるとはいえず、また、甲9に記載の発明に基いて、あるいは、甲9に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2、4~7について
ア 本件発明2、4~7は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が甲9発明であるとはいえず、また、甲9に記載の発明に基いて、あるいは、甲9に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、4~7についても同様に甲9発明であるとはいえず、また、甲9に記載の発明に基いて、あるいは、甲9に記載の発明及び甲10、甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由9のまとめ
したがって、申立理由9によっては、本件発明1、2、4~7に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由10(甲10を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲10の記載、及び甲10に記載された発明
ア 甲10の記載
甲10には、「防錆梱包体とその梱包方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0019】
本発明は、積み重ねた複数個の金属物品を、段ボール箱の内面側ライナーに気化性防錆剤を含有したライナーを使用している段ボールで梱包し、段ボール箱内に吸湿剤を入れ、その段ボールの少なくとも2個からなる集合体の外面6面を透湿度(g/m2・24hr:相対湿度差90%で厚さ0.1mm)が6.0以下のプラスチックフィルムにて密閉梱包して保管・輸送する防錆梱包体である。
このような方法で梱包したプラスチックフィルムにて密閉梱包された梱包体内部の湿度を60%未満とするものである。鉄等の金属は水と酸素が同時に存在することにより、錆が発生するが、密閉梱包された梱包体内部の湿度を60%未満に保つことにより、金属物品の表面に水が付着せず、錆の進行は抑制される。
【0020】
本発明において、段ボール箱の内面側ライナーに気化性防錆剤を含有したライナーを使用するが、本発明に用いられる防錆剤としては、例えば亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウム、・・・亜硝酸ジイソプロピルアンモニウム、・・・亜硝酸ソーダ等の当業界で公知の材料が挙げられる。」
「【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に従って説明する。
<実施例1>
クラフトパルプを主成分とする坪量200g/m2のライナーを抄造し、このライナーにアミン系の気化性防錆剤(キレスト社製商品名:キレスコートPL-1)を15g/m2塗工して、防錆ライナーを作成する。
次に、コルゲーターにて、この防錆ライナーをシングルフェーサー側ライナーに、中芯には王子板紙OND160中芯、ダブルフェーサー側ライナーには王子板紙OFK220を使用して、段ボールシートを作成し、次に、段ボール用製函機にて、この防錆ライナーを箱の内側ライナーに使用した段ボール箱を作成する。
次に、縦約25cm*横約15cm*厚さ約5cmの自動車用成形鋼鈑を10枚重ねて、上記段ボール箱に入れ梱包する。
次に、上記段ボール1個の外面6面を厚さ80μmで透湿度5.0g/m2・24hrのポリエチレンフィルムで包装して、梱包体を得た。
【0024】
<実施例2>
自動車用成形鋼鈑を梱包した段ボール箱を16個まとめて外面6面を上記ポリエチレンフィルムで包装すること以外は、実施例1と同様に梱包体を得た。
【0025】
<実施例3>
自動車用成形鋼鈑を梱包した段ボール箱の内部に、シリカゲルを主成分とする吸湿剤100gを1個入れること以外は、実施例1と同様に梱包体を得た。」
「【0032】
【表1】
[図:0001401691000007.jpg]
*1:段ボール梱包体を下記条件下に15日間保管し、保管終了後に金属物品の錆状態を観察して、錆の発生なしを○、僅かに錆発生を△、錆発生が明らかであるを×とする。
・1日の保管条件:25℃、70%を12時間+50℃、95%を12時間の繰り返し
*2:*1の条件で保管した包装体の内部に紙間湿度計を差し込み測定(JAPAN TAPPI紙パルプ試験法No.36による)。
*3:降雨状態で長時間保管した場合に、段ボールと金属物品への水濡れがないものを○、明らかにあるものを×とする。
*4:比較例2の作業時間を標準(△)とし、短くなるものを○、大きく短くなるものを◎、悪くなるものを×とする。」
イ 甲10に記載された発明
上記アによれば、甲10の実施例1~3、防錆試験に注目すると、甲10には下記の発明が記載されている。
「アミン系気化性防錆剤(キレスト社製商品名:キレスコートPL-1)を15g/m2塗工した防錆ライナーを箱の内側ライナーに使用した段ボール箱に、
縦約25cm*横約15cm*厚さ約5cmの自動車用成形鋼鈑を10枚重ねて、入れ梱包し、
次に、上記段ボール箱1個の外面6面を厚さ80μmで透湿度5.0g/m2・24hrのポリエチレンフィルムで包装して得た梱包体を、
25℃、70%を12時間+50℃、95%を12時間の繰り返しである1日の保管条件下に15日間保管し、
前記条件で保管した包装体の内部に紙間湿度計を差し込み測定(JAPAN TAPPI紙パルプ試験法No.36による)によれば、梱包体内部の湿度が30%である方法。」(甲10発明1)
「アミン系気化性防錆剤(キレスト社製商品名:キレスコートPL-1)を15g/m2塗工した防錆ライナーを箱の内側ライナーに使用した段ボール箱に、
縦約25cm*横約15cm*厚さ約5cmの自動車用成形鋼鈑を10枚重ねて、入れ梱包し、
次に、上記段ボール箱16個まとめて外面6面を厚さ80μmで透湿度5.0g/m2・24hrのポリエチレンフィルムで包装して得た梱包体を、
25℃、70%を12時間+50℃、95%を12時間の繰り返しである1日の保管条件下に15日間保管し、
前記条件で保管した包装体の内部に紙間湿度計を差し込み測定(JAPAN TAPPI紙パルプ試験法No.36による)によれば、梱包体内部の湿度が30%である方法。」(甲10発明2)
「アミン系気化性防錆剤(キレスト社製商品名:キレスコートPL-1)を15g/m2塗工した防錆ライナーを箱の内側ライナーに使用した段ボール箱に、
シリカゲルを主成分とする吸湿剤100gを1個と、
縦約25cm*横約15cm*厚さ約5cmの自動車用成形鋼鈑を10枚重ねて、入れ梱包し、
次に、上記段ボール箱1個の外面6面を厚さ80μmで透湿度5.0g/m2・24hrのポリエチレンフィルムで包装して得た梱包体を、
25℃、70%を12時間+50℃、95%を12時間の繰り返しである1日の保管条件下に15日間保管し、
前記条件で保管した包装体の内部に紙間湿度計を差し込み測定(JAPAN TAPPI紙パルプ試験法No.36による)によれば、梱包体内部の湿度が10%である方法。」(甲10発明3)
(2)本件発明1と甲10発明1~甲10発明3の対比
ア 甲10発明1~甲10発明3の「アミン系気化性防錆剤(キレスト社製商品名:キレスコートPL-1)」は、本件発明1の「亜硝酸系気化性防錆剤」、「亜硝酸系気化性防錆剤が、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩、亜硝酸ナトリウム、および亜硝酸カリウムから必須的になる群より選択される1種または2種以上の亜硝酸塩を含む」と、「気化性防錆剤」である点で共通するものの、アミン系であること以外、具体的成分は不明である。
イ したがって、甲10発明1~甲10発明3は、少なくとも下記の相違点9において、本件発明1と相違する。
<相違点9>
気化性防錆剤に関し、本件発明1が「ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩、亜硝酸ナトリウム、および亜硝酸カリウムから必須的になる群より選択される1種または2種以上の亜硝酸塩を含む」「亜硝酸系気化性防錆剤」であるのに対して、甲10発明1~甲10発明3は「アミン系気化性防錆剤(キレスト社製商品名:キレスコートPL-1)」である点。
(3)判断
ア 上記(1)で摘記したとおり、甲10には、「気化性防錆剤」として、「亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウム」(本件発明1の「ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩」に相当)、「亜硝酸ジイソプロピルアンモニウム」(本件発明1の「ジイソプロピルアミン亜硝酸塩」に相当)、「亜硝酸ソーダ」(本件発明1の「亜硝酸ナトリウム」に相当)が例示されているから(段落【0020】)、甲10発明1~甲10発明3において、「アミン系気化性防錆剤(キレスト社製商品名:キレスコートPL-1)」に代えて、気化性防錆剤5の選択肢の中から、「亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウム」、「亜硝酸ジイソプロピルアンモニウム」、「亜硝酸ソーダ」を選択することは、当業者が容易に想到し得たものといえる。
イ したがって、甲10発明1~甲10発明3に基いて、上記相違点9に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえる。
ウ しかしながら、本件発明1が奏する効果について検討すると、上記1(3)ウで述べたとおり、良好な不動態被膜を形成できるという本件発明1が奏する効果について、「亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウム」、「亜硝酸ジイソプロピルアンモニウム」、「亜硝酸ソーダ」を用いることによって奏されることを、当業者が予測できるとはいえないから、上記アで述べたように、甲10発明1~甲10発明3に基いて上記相違点9に係る本件発明1の発明特定事項を得ることが、当業者に容易に想到し得たことであったとしても、上記効果を当業者が予測できたものとはいえない。
エ よって、他の一致点、相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲10発明1~甲10発明3であるとはいえず、また、甲10に記載の発明に基いて、あるいは、甲10に記載の発明及び甲13に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明4~7について
本件発明4~7は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が甲10発明1~甲10発明3であるとはいえず、また、甲10に記載の発明に基いて、あるいは、甲10に記載の発明及び甲13に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~7についても同様に甲10発明1~甲10発明3であるとはいえず、また、甲10に記載の発明に基いて、あるいは、甲10に記載の発明及び甲13に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由10のまとめ
したがって、申立理由10によっては、本件発明1、4~7に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由11(甲11を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲11の記載、及び甲11に記載された発明
ア 甲11の記載
甲11には、「防錆方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】金属製の自動車部品等を輸出する場合、長時間にわたって錆を防ぐ必要があり、その方法が種々提案されている。例えば、特開平3-88880号にはジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト[(C6H11)2NH2NO2](以下、DICHANという)とシクロヘキシルアンモニウム-N-シクロヘキシルカーバメート[C6H11NH3OCONHC6H11](以下、CHCという)とを有効成分とする気化性防錆剤が開示されている。また、特開昭57-67179号にはジイソプロピルアンモニウムナイトライト[(i-C3H7)2NH2NO2](以下、DIPANという)、DICHAN、ベンゾトリアゾールなどからなる気化性防錆剤と硫酸カルシウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、活性アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化カリウム、五酸化リン、硫酸銅、シリカゲルなどの乾燥剤と鉄、銅、ニッケル、コバルトなどの金属とを混合した防錆剤が開示されている。しかし、これらの防錆剤では金属部品を長時間保存した場合、錆が生じる等の問題があった。
【0003】
【課題を解決するための手段】本発明者等は電気部品や自動車部品等の金属製品、特に鉄製の製品や部品を長時間錆から防ぐ方法を検討した結果、ある種の気化性防錆剤の2種以上及び乾燥剤を併用することにより目的を達成できることを見出し本発明を完成した。即ち、本発明は被防錆物質が存在する実質的に外気と遮断された空間内にA:カルシウムまたはマグネシウムの塩化物を吸湿主剤とする乾燥剤組成物、B:CHC及びC:DICHAN又はDIPANを存在させることを特徴とする防錆方法である。
【0004】
【発明の実施の形態】・・・A,B,Cを空間内に存在させる場合、A,B,Cを別々に存在させてもかまわないが、少なくともB,Cは混合した方が効果的である。この場合、B,Cを混合したものを練り込んでシート上にしたものでもかまわない。さらに、A,B,C三者を混合し、通気性の包材に入れ防錆剤の形で使用するのが使用上便利であるだけでなく、三者の相乗的効果により、より効果が持続するので特に好ましい。A,B,Cの使用割合は特に制限はないが、Aが100重量部に対して、Bは0.05~100、Cは0.1~200の範囲が好ましい。
【0005】
【実施例】次に実施例及び比較例を挙げ本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
(1)試験片の調整:ねずみ鋳鉄(FC-200)、80×60×5mmの表面をメタノールで洗浄後、JKワイパーで拭き再度メタノールで洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。
(2)防錆剤の調整:
1.実施例1:NISSO-DRY M(日本曹達(株)製)15g、DICHAN 0.63g+CHC 0.27g
[A、B+C]
2.実施例2:NISSO-DRY M(日本曹達(株)製)15g、DIPAN 0.63g+CHC 0.27g
[A、B+C]
3.実施例3:NISSO-DRY M(日本曹達(株)製)15g+DICHAN 0.63g+CHC 0.27g
[A+B+C]
4.実施例4:NISSO-DRY M(日本曹達(株)製)15g+DIPAN 0.63g+CHC 0.27g
[A+B+C]
・・・
(3)試験方法
マスクキャリアに(1)で調整した試験片を縦に入れ、(2)で調整した防錆剤(乾燥剤)を充填した包材をセットし、これを300×300mm、100μmのポリエチレン袋で密閉した。このポリエチレン袋を6時間毎に5℃と60℃に温度をコントロールしながら14日間、相対湿度90%R.H.に保持した空間に置いた。14日後、JIS K 2246 1994に基づいて試験片中央の50×50mmを100等分したマス目中で、錆の発生したものの数を両面について求めた。結果を第1表に示す。
【0006】
第 1 表
錆の発生率(%)
実施例番号 表 裏
1 0 1
2 0 0
3 1 0
4 0 0
比較例1 6 75
比較例2 70 41
比較例3 100 83
比較例4 100 44
比較例5 100 100
ブランク(防錆剤なし) 100 100」
イ 甲11に記載された発明
(ア)上記アによれば、実施例1~4で用いられているDICHAN、CHC、DIPANは、段落【0002】によれば、それぞれ、「ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト」、「シクロヘキシルアンモニウム-N-シクロヘキシルカーバメート」、「ジイソプロピルアンモニウムナイトライト」である。
(イ)実施例1~4で用いられている「NISSO-DRY M(日本曹達(株)製)」は、参考資料3によれば、塩化マグネシウムを主成分とするものである。
(ウ)上記(ア)、(イ)によれば、甲11には、実施例1~4を用いた試験方法に着目すると、以下の発明が記載されている。
「マスクキャリアに80×60×5mmのねずみ鋳鉄(FC-200)を調整した試験片を縦に入れ、
主成分が塩化マグネシウムであるNISSO-DRY M(日本曹達(株)製)15g、シクロヘキシルアンモニウム-N-シクロヘキシルカーバメート0.27g、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトまたはジイソプロピルアンモニウムナイトライト0.63gを含む防錆剤を充填した包材をセットし、
300×300mm、100μmのポリエチレン袋で密閉し、
6時間毎に5℃と60℃に温度をコントロールしながら14日間、相対湿度90%R.H.に保持した空間に置く試験方法。」(甲11発明)
(2)本件発明1と甲11発明の対比
ア 甲11発明の「ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトまたはジイソプロピルアンモニウムナイトライト」は、本件発明1の「亜硝酸系気化性防錆剤」及び「亜硝酸系気化性防錆剤が、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩、亜硝酸ナトリウム、および亜硝酸カリウムから必須的になる群より選択される1種または2種以上の亜硝酸塩を含む」に相当する。
イ そうすると、甲11発明の「マスクキャリアに80×60×5mmのねずみ鋳鉄(FC-200)を調整した試験片を縦に入れ、」「シクロヘキシルアンモニウムナイトライトまたはジイソプロピルアンモニウムナイトライト0.63gを含む防錆剤を充填した包材をセットし、300×300mm、100μmのポリエチレン袋で密閉し、6時間毎に5℃と60℃に温度をコントロールしながら14日間、相対湿度90%R.H.に保持した空間に置く」事項は、本件発明1の「密閉空間内において、上記鉄系部材と亜硝酸気化性防錆剤を共存させる工程」と、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程である点で共通している。
ウ しかしながら、密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲11発明は、空間内の相対湿度が不明である。
エ したがって、甲11発明は、少なくとも下記の相違点10において、本件発明1と相違する。
<相違点10>
密閉空間内において、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる工程に関し、本件発明1は、「密閉空間内」が「相対湿度を45%以下に調節し」たものであるのに対して、甲11発明は、「密閉空間内」の相対湿度が不明である点。
(3)判断
ア 甲11発明の防錆剤は「主成分が塩化マグネシウムであるNISSO-DRY M(日本曹達(株)製)」を含むものであり、参考資料3によればシリカゲルに比べて相対湿度20%、50%、90%における吸湿率が5倍以上であるから、鉄系部材と亜硝酸系気化性防錆剤を共存させる密閉空間は、外部に比べて湿度が非常に低いものと認められる。
イ しかしながら、上記1(3)ア(キ)で述べたとおり、密閉空間内の相対湿度は、袋等の密閉空間を形成する材料自体のガスバリア性、すなわち、水蒸気透過率(透湿度)に加え、外気の温度及び湿度によって、変化し得るものであるから、甲11発明の「防錆剤」に、「主成分が塩化マグネシウムであるNISSO-DRY M(日本曹達(株)製)」が存在することのみをもって、「ポリエチレン袋」の密閉空間の相対湿度が、「14日間」にわたって常に45%以下に調節されているかは不明である。
ウ なお、上記2(7)アに記載した気象データに基づく申立人の主張についても、上記2(7)イで述べたことと同様のことがいえる。
エ そして、甲11には、「ポリエチレン袋」の密閉空間の相対湿度を、「14日間」にわたって常に45%以下に調節すべきとする示唆もないから、「ポリエチレン袋」の相対湿度を常に45%以下に調節する動機が認められない。
オ したがって、甲11発明に基いて、上記相違点10に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
カ さらに、上記1(3)ウで述べたとおり、「密閉空間内」を「相対湿度を45%以下に調節」する点によって、良好な不動態被膜を形成できるという本件発明1の奏する効果を当業者が予測できたとはいえない。
キ よって、他の一致点、相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲11発明であるとはいえず、また、甲11に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明4~7について
本件発明4~7は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が甲11発明であるとはいえず、また、甲11に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~7についても同様に甲11発明であるとはいえず、また、甲11に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由11のまとめ
したがって、申立理由11によっては、本件発明1、4~7に係る特許を取り消すことはできない。
第5 まとめ
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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