特許異議申立
2024-700395
溶剤希釈形さび止め油組成物
- 審判番号
- 2024-700395
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-046600
- 登録番号
- 7369646
- 請求日
- 2024年04月25日
- 審決日
- 2024年10月31日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ENEOS株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】宮本 龍
- 【権利者代理人】田中 成典
- 【権利者代理人】▲高▼梨 航
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】川渕 健一
- 【異議申立人】弁理士法人 河野国際特許商標事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 相澤 啓祐
- 分類
- P1651.113-YAA(C23F) / P1651.121-YAA(C23F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7369646号発明「溶剤希釈形さび止め油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7369646号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7369646号の請求項1、2、4に係る特許を維持する。
特許第7369646号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7369646号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和 2年 3月17日(優先権主張 平成31年 3月29日)の出願(特願2020-46600号。以下「本願」という。)であって、令和 5年10月18日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月26日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 6年 4月25日に、請求項1~4(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である弁理士法人 河野国際特許商標事務所(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 6年 4月25日 :特許異議の申立て
7月26日付け:取消理由通知
9月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、下記第2で述べるとおり、令和 6年 9月26日提出の訂正請求書による訂正は、実質的に選択肢の一部の削除及び一部の請求項の削除のみである。そして、訂正によって削除されなかった選択肢についての主張は、既に、特許異議申立書でされており、特許異議申立人に改めて意見を聴くまでもないことが明らかであるから、特許法第120条の5第5項ただし書に規定される、「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」に該当すると認められる。よって、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 訂正請求について
1 請求の趣旨
令和 6年 9月26日になされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、特許第7369646号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸塩と、(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸とを含有し、
前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、スルホン酸アミン塩からなる群から選択される一種以上を含み、
前記(C)成分が、ダイマー酸を含み、
40℃における動粘度が1~10mm2/sである、溶剤希釈形さび止め油組成物。」とあるのを、
「(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸塩と、(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸とを含有し、
前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩を含み、
前記(C)成分が、ダイマー酸を含み、
40℃における動粘度が1~10mm2/sである、溶剤希釈形さび止め油組成物。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記(B)成分が、スルホン酸カルシウム塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶剤希釈形さび止め油組成物。」とあるのを、
「前記(B)成分が、スルホン酸カルシウム塩である、請求項1又は2に記載の溶剤希釈形さび止め油組成物。」に訂正する。
3 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1において、(B)成分が、「スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、スルホン酸アミン塩からなる群から選択される一種以上を含み」と特定されていたものを、その選択肢の一部を削除し、「スルホン酸アルカリ土類金属塩を含み」に限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1における選択肢の一部を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項2に係る訂正は、請求項3を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3に係る訂正は、本件訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれか一項の記載を引用するものであるところ、訂正事項2で請求項3が削除されたことに伴い、請求項4が引用する請求項の数を減少させる訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項3に係る訂正は、請求項4が引用する請求項の数を減少させる訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~4について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~3に係る訂正後の請求項1~4に係る発明については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~4は、請求項1の記載を引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~4は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
4 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~4に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、総称して「本件発明」ともいう。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸塩と、(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸とを含有し、
前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩を含み、
前記(C)成分が、ダイマー酸を含み、
40℃における動粘度が1~10mm2/sである、溶剤希釈形さび止め油組成物。
【請求項2】
40℃における動粘度が1~5mm2/sである、請求項1に記載の溶剤希釈形さび止め油組成物。
【請求項3】
( 削 除 )
【請求項4】
前記(B)成分が、スルホン酸カルシウム塩である、請求項1又は2に記載の溶剤希釈形さび止め油組成物。
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第7号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~4に係る特許は取り消されるべきものであると主張している。
(1)申立理由1(新規性、進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第1号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に一部採用)。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第2号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
(3)申立理由3(進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第3号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
(4)申立理由4(進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第4号証~甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
(5)証拠方法
甲第1号証:特開2011-6763号公報
甲第2号証:特開2007-39761号公報
甲第3号証:特開2010-70820号公報
甲第4号証:松崎幸雄、“防錆油の現状と今後の動向”、防錆管理、社団法人日本防錆技術協会、平成18年3月1日、第50巻、第3号、p.8~13
甲第5号証:本山忠昭、“潤滑油の必要性能と最近の添加剤動向について(さび止め油)”、ENEOS Technical Review、新日本石油(株)研究開発企画部、2007年2月28日、第49巻、第1号、p.40~43
甲第6号証:潤滑剤銘柄便覧 2018、第38版、平成29年11月20日、株式会社潤滑通信社、p.614、694
甲第7号証:新明解国語辞典 第二版、昭和54年2月10日、株式会社三省堂、p.1140
2 取消理由の概要
(1)令和 6年 7月26日付けで通知した取消理由の概要
ア 取消理由1(新規性、進歩性)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1、2、4に係る特許を取り消すことはできない。また、請求項3が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項3に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
1 取消理由1(新規性、進歩性)、申立理由1(新規性、進歩性)
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の記載(請求項1、3、6、7、段落【0105】~【0114】)によれば、特に、実施例12のさび止め油組成物に着目すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
A3:モノシクロヘキシルアミンのエチレンオキサイド付加物(EO付加モル数:2、親水親油指数:11.1) 3.0質量%、
B1:オレオイルザルコシン(N-Methyloleamidoacetic acid) 1.0質量%、
B2-1:エチレンジアミンスルホネート 5.0質量%、
B5:オレイン酸のダイマー酸 3.0質量%、
C1:ジ-t-ブチル-p-クレゾール 0.5質量%、
D1:水(蒸留水) 3.0質量%、
E1:40℃における動粘度が0.75mm2/sの鉱油 64.5質量%、
E2:40℃における動粘度が22mm2/sの鉱油 15.0質量%、
E3:40℃における動粘度が480mm2/s鉱油 5.0質量%、
を含有し、
40℃における動粘度が5.0mm2/sであるさび止め油組成物。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における、「B5:オレイン酸のダイマー酸」は、オレイン酸(化学式:C18H34O2で表されるカルボン酸)の二量体酸であるから、本件発明1における、「(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸」及び「(C)成分が、ダイマー酸」に相当する。
(イ)甲1発明における、「40℃における動粘度が5.0mm2/sであるさび止め油組成物」は、本件発明1における、「40℃における動粘度が1~10mm2/sである、」「さび止め油組成物」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸を含有し、
前記(C)成分が、ダイマー酸を含み、
40℃における動粘度が1~10mm2/sである、さび止め油組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明1のさび止め油組成物は、「(A)成分:基油」を含有するのに対し、甲1発明のさび止め油組成物は、含有する(E)成分(E1~E3)の鉱油が基油であるのか不明である点。
<相違点1-2>
本件発明1のさび止め油組成物は、「(B)成分:スルホン酸塩」を含有し、「前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩」を含むのに対し、甲1発明のさび止め油組成物は、「B2-1:エチレンジアミンスルホネート」を含有する点。
<相違点1-3>
本件発明1は、「溶剤希釈形」「さび止め油組成物」であるのに対し、甲1発明の「さび止め油組成物」が、「溶剤希釈形」であるのか不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点1-2を検討する。
a 相違点1-2が実質的な相違点であるかについて
本件発明1の(B)成分である、「スルホン酸アルカリ土類金属塩」と、甲1発明のスルホン酸のアミン塩である「エチレンジアミンスルホネート」とが、異なる化合物であることは明らかであるから、相違点1-2は実質的な相違点である。
b 相違点1-2の容易想到性について
(a)甲第1号証には、さび止め油組成物に、さび止め添加剤として、「(B2)スルホン酸塩」が含まれることが記載されている(段落【0036】)。
そして、甲1発明のさび止め油組成物において、「B2-1:エチレンジアミンスルホネート」は、上記「(B2)スルホン酸塩」の一種として含まれるものである。
(b)また、甲第1号証の段落【0045】には、「(B2)スルホン酸塩の好ましい例として」、「スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩またはスルホン酸アミン塩」が挙げられており、より具体的には、段落【0056】に、「本発明のスルホン酸塩のうち、中でも、ナトリウムスルホネート、アミンスルホネート、カルシウムスルホネート及びバリウムスルホネートが好ましく、ナトリウムスルホネート、アルキレンジアミンスルホネート及びカルシウムスルホネートが特に好ましい。」ことが、段落【0057】に、「また、本発明のさび止め油組成物に意図的に水を配合する場合、スルホン酸塩としてはナトリウムスルホネート及びアミンスルホネートが好ましく、ナトリウムスルホネート及びアルキレンジアミンスルホネートが特に好ましい。」ことがそれぞれ記載されている。
(c)上記(b)の記載によれば、甲第1号証において、さび止め油組成物に含まれるスルホン酸塩として、「ナトリウムスルホネート、アルキレンジアミンスルホネート及びカルシウムスルホネート」が特に好ましく、さび止め油組成物に意図的に水を配合する場合には、「ナトリウムスルホネート及びアルキレンジアミンスルホネート」が特に好ましいと認められる。
そして、甲1発明のさび止め油組成物に含まれる「エチレンジアミンスルホネート」は、「アルキレンジアミンスルホネート」であるから、さび止め油組成物に意図的に水を配合するか否かにかかわらず、スルホン酸塩として、特に好ましい化合物であるといえる。
(d)一方、甲1発明のさび止め油組成物には、D1成分として、水(蒸留水)が含まれている。
ここで、甲第1号証の実施例9が、水が含まれていない実施例であることからみて、甲1発明のさび止め油組成物における水(蒸留水)は、意図的に配合したものと解される。
そして、甲第1号証のさび止め油組成物が、意図的に水を配合する場合、上記(b)の記載によれば、スルホン酸塩として、「ナトリウムスルホネート及びアルキレンジアミンスルホネート」が特に好ましいと認められる。
(e)そうすると、意図的に水を配合する甲1発明のさび止め油組成物において、スルホン酸塩として、特に好ましい「エチレンジアミンスルホネート」に加え、又はその一部を置換して、特に好ましい「ナトリウムスルホネート」を添加する余地はあるとしても、好ましい成分とはいえない「カルシウムスルホネート」をあえて添加する動機付けがあるとはいえない。
(f)したがって、甲1発明において、相違点1-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
なお、本件明細書の記載によれば、本件発明1の発明特定事項を備えることにより、JISK2246「さび止め油」の中性塩水噴霧試験に準拠した、各例の溶剤希釈形さび止め油組成物のさび止め性評価において、72時間のさび発生度がA級(0%)という効果を奏するものであるところ、そのような効果は、甲第1号証及び甲第7号証の記載から当業者が予測し得ない格別顕著なものといえる。
(イ)以上のとおりであるから、相違点1-1、相違点1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。このことは、甲第7号証に、「溶剤」の用語の意味が記載されていても変わるものではない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、4について
本件発明2、4は、本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウで述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、4についても同様に、甲第1号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
したがって、取消理由1(新規性、進歩性)、申立理由1(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1、2、4に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(進歩性)
(1)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の記載(請求項1、段落【0019】、【0033】~【0042】、【0045】~【0048】、【0118】、【0119】、【0127】~【0133】)によれば、特に、実施例5のさび止め油組成物に着目すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
基油1:鉱油(30℃における動粘度:2.0mm2/s、初留点:190℃、終点:250℃、引火点:80℃、アニリン点:72℃) 58.3質量%、
基油2:鉱油(40℃における動粘度:22mm2/s) 10.0質量%、
基油3:鉱油(40℃における動粘度:480mm2/s) 10.0質量%、
A1:酸化ワックスのカルシウム塩 3.0質量%、
B1:オレイン酸のダイマー酸 0.1質量%、
C1:ジ-tert-ブチル-p-クレゾール 0.5質量%、
C2:ベンゾトリアゾール 0.1質量%、
C3:アルキルベンゼンカルシウムスルホネート溶液(スルホン酸塩の含有量:52質量%、塩基価:300mgKOH/g) 1.0質量%、
C4:115°Fパラフィンワックス 3.0質量%、
C6:ペンタエリスリトールとラノリン脂肪酸との部分エステル(モノエステル/ジエステル/トリエステル=5/10/85)と、ペンタエリスリトールとオレイン酸との部分エステル(モノエステル/ジエステル/トリエステル=5/10/85)との混合物(ラノリン脂肪酸の部分エステル/オレイン酸の部分エステル=60/40(質量比)、ヨウ素価:31.4、部分エステルの構成カルボン酸に占めるヒドロキシカルボン酸の割合18質量%、部分エステルの構成カルボン酸に占める不飽和カルボン酸の割合:46.9質量%) 5.0質量%、
C7:アルキルベンゼンカルシウムスルホネート溶液(スルホン酸塩の含有量:40質量%、塩基価:25mgKOH/g) 8.0質量%の組成を有するさび止め油組成物。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における、「基油1:鉱油(30℃における動粘度:2.0mm2/s、初留点:190℃、終点:250℃、引火点:80℃、アニリン点:72℃)」、「基油2:鉱油(40℃における動粘度:22mm2/s)」及び「基油3:鉱油(40℃における動粘度:480mm2/s)」は、それぞれ、本件発明1における、「(A)成分:基油」に相当する。
(イ)甲2発明のさび止め油組成物が、「C3:アルキルベンゼンカルシウムスルホネート溶液(スルホン酸塩の含有量:52質量%、塩基価:300mgKOH/g)」を含むことは、本件発明1のさび止め油組成物が、「(B)成分:スルホン酸塩」及び「(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩」を含むことに相当する。
(ウ)甲2発明における、「B1:オレイン酸のダイマー酸」は、オレイン酸(化学式:C18H34O2で表されるカルボン酸)の二量体酸であるから、本件発明1における、「(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸」及び「(C)成分が、ダイマー酸」に相当する。
(エ)甲2発明における、「さび止め油組成物」と、本件発明1における、「溶剤希釈形さび止め油組成物」とは、「さび止め油組成物」である限りにおいて共通する。
(オ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸塩と、(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸とを含有し、
前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩を含み、
前記(C)成分が、ダイマー酸を含む、
さび止め油組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明1のさび止め油組成物は、「40℃における動粘度が1~10mm2/sである」のに対し、甲2発明のさび止め油組成物は、「40℃における動粘度」が不明である点。
<相違点2-2>
本件発明1は、「溶剤希釈形」「さび止め油組成物」であるのに対し、甲2発明の「さび止め油組成物」が、「溶剤希釈形」であるのか不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点2-1を検討する。
a 相違点2-1が実質的な相違点であるかについて
甲第2号証には、さび止め油組成物の動粘度について、「本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は特に制限されないが、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上、更に好ましくは2.5mm2/s以上、一層好ましくは3mm2/s以上、特に好ましくは3.5mm2/s以上である。さび止め油組成物の40℃における動粘度が前記下限値未満の場合、塗膜の油膜切れが起こりやすくなり、さび止め性が不十分となる傾向にある。また、本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは50mm2/s以下、より好ましくは40mm2/s以下、更に好ましくは30mm2/s以下である。さび止め油組成物の40℃における動粘度が前記上限値を超えると、作業性が低下する傾向にある。」(段落【0118】)との記載はあるものの、甲2発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度の具体的な値が記載されていないから、甲2発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度の値は不明である。また、技術常識を考慮しても、甲2発明のさび止め油組成物の「40℃における動粘度が1~10mm2/s」であるかは不明である。
よって、相違点2-1は、実質的な相違点である。
b 相違点2-1の容易想到性について
(a)甲第5号証の第40ページ右欄下から第5行~最下行には、溶剤希釈形さび止め油の特徴として、「比較的低粘度(40℃:約2~7mm2/s)の製品が多く、スプレーや浸漬による塗油が容易である。」ことが記載されている。また、甲第6号証の第614ページ、「第8部 さび止め油剤」には、アンチラストテラミ(非Ba系)さび止め油において、「NP-3-2相当」(溶剤希釈形さび止め油3種2号相当)の40℃における動粘度の値が1.9~5.0mm2/sである例が記載されている。
一方、上記aのとおり、甲第2号証のさび止め油組成物の40℃における動粘度は、下限について特に好ましくは、3.5mm2/s以上、上限について更に好ましくは30mm2/s以下であるところ、上記甲第5、6号証の記載を考慮すると、甲2発明の40℃における動粘度を3.5~7mm2/s程度とする動機付けが一応はあるといえる。
(b)ここで、甲2発明のさび止め油組成物は、40℃における動粘度が480mm2/sの基油3を10.0質量%含有するものであるから、甲2発明の40℃における動粘度の値は、7mm2/sよりも大きいと解するのが自然である。そうすると、甲2発明の40℃における動粘度を3.5~7mm2/s程度にすることは、相対的に動粘度の値を小さくすることであるといえる。
ところで、さび止め油組成物の動粘度の値を小さくすると、さび止め油組成物が流れ落ちやすくなり、さび止め性が低下することが想定されるところ、甲2発明のさび止め性を維持したまま(JIS K 2246の塩水噴霧試験における、48時間、72時間経過後の評価結果がA)で、40℃における動粘度を3.5~7mm2/s程度に低下させることができるかは不明である。
そうすると、甲2発明のさび止め性の維持を考慮すると、甲2発明の40℃における動粘度を3.5~7mm2/s程度とする動機付けがあるとはいえない。
(c)したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
なお、本件明細書の記載によれば、本件発明1の発明特定事項を備えることにより、JISK2246「さび止め油」の中性塩水噴霧試験に準拠した、各例の溶剤希釈形さび止め油組成物のさび止め性評価において、72時間のさび発生度がA級(0%)という効果を奏するものであるところ、そのような効果は、甲第2号証及び甲第5~7号証の記載から当業者が予測し得ない格別顕著なものといえる。
(イ)以上のとおりであるから、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。このことは、甲第7号証に、「溶剤」の用語の意味が記載されていても変わるものではない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、4について
本件発明2、4は、本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウで述べたとおり、本件発明1が、甲第2号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、4についても同様に、甲第2号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
したがって、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、2、4に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(進歩性)
(1)甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の記載(請求項1、7、8、段落【0008】、【0016】、【0017】、【0020】、【0025】~【0041】)によれば、特に、実施例2の防錆油組成物に着目すると、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3発明>
基油(マシン油W10(谷口石油精製(株)製)) 87.1重量%、
アルキルベンゼンスルホネートCa塩(NCP、Chemtura Corporation製) 7.5重量%、
ダイマー酸(ハリダイマー200、ハリマ化成(株)社製) 0.4重量%、
軟質ラノリン脂肪酸メチル 5重量%の組成の防錆油組成物。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明における、「基油(マシン油W10(谷口石油精製(株)製))」は、本件発明1における、「(A)成分:基油」に相当する。
(イ)甲3発明の防錆油組成物が、「アルキルベンゼンスルホネートCa塩」を含むことは、本件発明1のさび止め油組成物が、「(B)成分:スルホン酸塩」及び「(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩」を含むことに相当する。
(ウ)甲3発明における、「防錆油組成物」と、本件発明1における、「溶剤希釈形さび止め油組成物」とは、「さび止め油組成物」である限りにおいて共通する。
(エ)そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「(A)成分:基油と、(B)成分:スルホン酸塩とを含有し、
前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩を含む、
さび止め油組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3-1>
本件発明1のさび止め油組成物は、「(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸」を含有し、「前記(C)成分が、ダイマー酸」を含むのに対し、甲3発明の防錆油組成物は、「ダイマー酸(ハリダイマー200、ハリマ化成(株)社製)」を含むものの、「ハリダイマー200」の炭素数が不明である点。
<相違点3-2>
本件発明1のさび止め油組成物は、「40℃における動粘度が1~10mm2/sである」のに対し、甲3発明の防錆油組成物は、「40℃における動粘度」が不明である点。
<相違点3-3>
本件発明1は、「溶剤希釈形」「さび止め油組成物」であるのに対し、甲3発明の「防錆油組成物」が、「溶剤希釈形」であるのか不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点3-2を検討する。
a 相違点3-2が実質的な相違点であるかについて
甲第3号証には、防錆油組成物の動粘度について、「基油(マシン油W10、谷口石油精製(株)製);40℃の動粘度9.6mm2/sの鉱油」との記載はあるものの(表1の下)、甲3発明の防錆油組成物の40℃における動粘度の具体的な値が記載されていないから、甲3発明の防錆油組成物の40℃における動粘度の値は不明である。また、技術常識を考慮しても、甲3発明の防錆油組成物の「40℃における動粘度が1~10mm2/s」であるかは不明である。
b 相違点3-2の容易想到性について
(a)甲第5号証及び甲第6号証には、上記2(2)イ(ア)b(a)に摘記した事項が記載されている。
一方、上記aのとおり、甲第3号証には、「マシン油W10」の動粘度の値は記載されているものの、防錆油組成物の40℃における動粘度を調整することが何ら記載されていないから、甲3発明の防錆油組成物において、40℃における動粘度を1~10mm2/sとすることが動機付けられるとはいえない。
(b)したがって、甲3発明において、相違点3-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
なお、本件明細書の記載によれば、本件発明1の発明特定事項を備えることにより、JISK2246「さび止め油」の中性塩水噴霧試験に準拠した、各例の溶剤希釈形さび止め油組成物のさび止め性評価において、72時間のさび発生度がA級(0%)という効果を奏するものであるところ、そのような効果は、甲第3号証及び甲第5~7号証の記載から当業者が予測し得ない格別顕著なものといえる。
(イ)以上のとおりであるから、相違点3-1、相違点3-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。このことは、甲第7号証に、「溶剤」の用語の意味が記載されていても変わるものではない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第3号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、4について
本件発明2、4は、本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウで述べたとおり、本件発明1が、甲第3号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、4についても同様に、甲第3号証(補助的に甲第7号証)に記載された発明及び甲第5、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
したがって、申立理由3(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、2、4に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(進歩性)
(1)甲第4号証に記載された発明
甲第4号証の記載(2.防錆油の開発目的)によれば、特に、第9ページ右欄下から第13~5行、図4の記載に着目すると、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲4発明>
基油、さび止め添加剤、酸化防止剤及び揮発性の溶剤を含む溶剤希釈形防錆油。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明における、「基油」は、本件発明1における、「(A)成分:基油」に相当する。
(イ)甲第4号証の表2には、主な防錆油添加剤として、スルフォネート類(中性、塩基性Na、Ca、Baスルフォネート)及び脂肪酸類その他(ダイマー酸等二塩基酸、脂肪酸、脂肪酸アミン塩類、リン酸エステル)が例示されているから、甲4発明における、「さび止め添加剤」(防錆油添加剤)と、本件発明1の「(B)成分:スルホン酸塩」としての「スルホン酸アルカリ土類金属塩」及び「(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸」としての「ダイマー酸」とは、「さび止め添加剤」である限りにおいて共通する。
(ウ)甲4発明における、「溶剤希釈形防錆油」は、本件発明1における、「溶剤希釈形さび止め油組成物」に相当する。
(エ)そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「(A)成分:基油と、さび止め添加剤を含む、溶剤希釈形さび止め油組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4-1>
本件発明1の溶剤希釈形さび止め油組成物は、「(B)成分:スルホン酸塩と、(C)成分:炭素数12~48のカルボン酸とを含有し、
前記(B)成分が、スルホン酸アルカリ土類金属塩を含み、
前記(C)成分が、ダイマー酸を含」むのに対し、甲4発明の溶剤希釈形防錆油は、「さび止め添加剤」を含むものの、どのような化合物を含むのか不明である点。
<相違点4-2>
本件発明1の溶剤希釈形さび止め油組成物は、「40℃における動粘度が1~10mm2/sである」のに対し、甲4発明の溶剤希釈形防錆油は、「40℃における動粘度」が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点4-2を検討する。
a 相違点4-2が実質的な相違点であるかについて
甲第4号証には、溶剤希釈形防錆油が低粘度である旨の記載はあるものの(第9ページ右欄下から第8行)、甲4発明の溶剤希釈形防錆油の40℃における動粘度の具体的な値が記載されていないから、甲4発明の溶剤希釈形防錆油の40℃における動粘度の値は不明である。また、技術常識を考慮しても、甲4発明の溶剤希釈形防錆油の「40℃における動粘度が1~10mm2/s」であるかは不明である。
b 相違点4-2の容易想到性について
(a)甲第5号証及び甲第6号証には、上記2(2)イ(ア)b(a)に摘記した事項が記載されている。また、甲第6号証の第614ページ、「第8部 さび止め油剤」には、アンチラストテラミ(非Ba系)さび止め油において、「NP-3-2相当」(溶剤希釈形さび止め油3種2号相当)の40℃における動粘度の値が12.5mm2/sである例(LS-H)も記載されている。
すなわち、甲第5号証は、溶剤希釈形さび止め油として、比較的低粘度(40℃:約2~7mm2/s)の製品が多いことを記載するにとどまり、溶剤希釈形さび止め油であれば、その動粘度が約2~7mm2/sであることを示すものとはいえない。また、甲第6号証には、アンチラストテラミ(非Ba系)さび止め油において、「NP-3-2相当」(溶剤希釈形さび止め油3種2号相当)の40℃における動粘度の値が1.9~5.0mm2/sである例に加えて、12.5mm2/sである例も記載されているから、溶剤希釈形さび止め油であれば、その動粘度が1.9~5.0mm2/sであることが記載されているとはいえない。
一方、上記aのとおり、甲第4号証には、単に、溶剤希釈形防錆油が低粘度である旨が記載されているだけで、溶剤希釈形防錆油の40℃における動粘度を調整することが何ら記載されていないから、甲4発明の溶剤希釈形防錆油において、40℃における動粘度を1~10mm2/sとすることが動機付けられるとはいえない。
(b)したがって、甲4発明において、相違点4-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
なお、本件明細書の記載によれば、本件発明1の発明特定事項を備えることにより、JISK2246「さび止め油」の中性塩水噴霧試験に準拠した、各例の溶剤希釈形さび止め油組成物のさび止め性評価において、72時間のさび発生度がA級(0%)という効果を奏するものであるところ、そのような効果は、甲第4号証~甲第6号証の記載から当業者が予測し得ない格別顕著なものといえる。
(イ)以上のとおりであるから、相違点4-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証~甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第4号証~甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、4について
本件発明2、4は、本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウで述べたとおり、本件発明1が、甲第4号証~甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、4についても同様に、甲第4号証~甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
したがって、申立理由4(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、2、4に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件請求項1、2、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項3に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700395