特許異議申立
2023-700333
マルチアングル効率を有する反射防止被膜を含む光学レンズ
- 審判番号
- 2023-700333
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-515594
- 登録番号
- 7145848
- 請求日
- 2023年04月03日
- 審決日
- 2023年06月27日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】エシロール アテルナジオナール
- 【権利者代理人】伊東 秀明
- 【異議申立人】安藤 宏
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 井口 猶二
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.113-Y (G02C) / P1651.121-Y (G02C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7145848号発明「マルチアングル効率を有する反射防止被膜を含む光学レンズ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7145848号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7145848号(以下「本件特許」という。)の請求項1~19に係る特許についての出願(特願2019-515594号)は、2017年(平成29年)6月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年(平成28年)9月29日 欧州)を国際出願日とする出願であって、令和4年9月22日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月3日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和5年4月3日に特許異議申立人 安藤 宏(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~19に係る発明(以下、項番に従って、「本件特許発明1」などという。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定される、次のものである。
「【請求項1】
表主面と裏主面とを有する基板を含み、前記表主面、及び前記裏主面の少なくとも一方の主面が反射防止被膜により被覆されてなる光学レンズであって
入射角θの範囲[0°-50°]において、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上の平均光反射率Rv(θ)は、範囲[20°-50°]に含まれる入射角θminに対して最小値Rvminを提示し、
不等式Rvmin/Rv(15°)<0.95を満足する、ことを特徴とする光学レンズ。
ここで、Rv(θ)は、ISO13666:1998標準規格において定義される380nm~780nmの全可視スペクトルにおける重み付けスペクトル反射平均であり、Rv(15°)は、前記被覆された前記少なくとも1方の主面上の15°の入射角θに対する平均光反射率であり、
前記反射防止被膜が後面被膜の場合、ISO13666:1998標準規格において定義された関数W(λ)により重み付けられた280nm~380nm間の後面上の平均反射率RUVは、35°の入射角に対し、5%未満である。
【請求項2】
不等式Rvmin/Rv(15°)<0.9を満足する、請求項1に記載の光学レンズ。
【請求項3】
不等式Rvmin/Rv(15°)<0.8を満足する請求項2に記載の光学レンズ。
【請求項4】
前記Rv(15°)は、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上で1.5%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学レンズ。
【請求項5】
前記Rv(15°)は、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上で1.0%以下である、請求項4に記載の光学レンズ。
【請求項6】
前記Rv(15°)は、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上で0.75%以下である、請求項4に記載の光学レンズ。
【請求項7】
前記被覆された前記少なくとも1方の主面上の35°の入射角θに対する平均光反射率であるRv(35°)は、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上で1.5%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の光学レンズ。
【請求項8】
前記Rv(35°)は、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上で1.0%以下である、請求項7に記載の光学レンズ。
【請求項9】
前記Rv(35°)は、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上で0.6%以下である、請求項7に記載の光学レンズ。
【請求項10】
前記Rv(θ)は、0°~45°の範囲の各入射角θに対して、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上で1.5%以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の光学レンズ。
【請求項11】
前記Rv(θ)は、0°~45°の範囲の各入射角θに対して、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上で1.0%以下である、請求項10に記載の光学レンズ。
【請求項12】
Rv(θ)は、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上の0°~40°の範囲の各入射角θに対して0.6%以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の光学レンズ。
【請求項13】
前記入射角θの範囲[0°-50°]において、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上の前記平均光反射率Rv(θ)は、範囲[20°-35°]に含まれる入射角θminに対して最小値Rvminを提示する、請求項1~12のいずれか一項に記載の光学レンズ。
【請求項14】
前記反射防止被膜は、15°の入射角に対して、240°~300°の範囲の国際比色分析系CIE L*a*b*に定義される色相角hを有する残色を表示する、請求項1~13のいずれか一項に記載の光学レンズ。
【請求項15】
前記基板の前記表主面と前記裏主面との両方は、請求項1に記載の前記Rvmin、及び前記Rvmin/Rv(15°)特性を有する同一、又は異なる反射防止被膜により被覆される、請求項1~14のいずれか一項に記載の光学レンズ。
【請求項16】
不等式0.159(Rvfront(15°)+Rvrear(15°))+0.341(Rvfront(35°)+Rvrear(35°))≦0.7を満足する請求項15に記載の光学レンズ。
ここで、Rvfront(θ)、及びRvrear(θ)は、それぞれ、入射角θに対する前記基板の前記表主面、及び前記裏主面上の平均光反射率Rv(θ)を表す。
【請求項17】
前記反射防止被膜により被覆される前記少なくとも1つの主面は、前記裏主面であり、280nm~380nmの前記裏主面上の平均反射率RUVは、35°の入射角に対して5%未満であり、
前記平均反射率RUVは、ISO13666:1998標準規格に定義された関数W(λ)によって重み付けられた平均である、請求項1~16のいずれか一項に記載の光学レンズ。
【請求項18】
さらに、眼鏡フレーム用の眼科用レンズとして定義される請求項1~17のいずれか一項に記載の光学レンズ。
【請求項19】
前記反射防止被膜は、15°の入射角に対して2.5%以下の平均光反射率Rvを少なくとも1つの主面へ与える、請求項1~18のいずれか一項に記載の光学レンズ。」
第3 特許異議申立ての理由の概要
1 特許異議申立人が主張する取消しの理由は、概略、以下のとおりである。
理由1(新規性):本件特許の請求項1~19に係る発明は、本件特許の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。
理由2(進歩性):本件特許の請求項1~19に係る発明は、本件優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
2 特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。
甲第1号証:特開2012-88700号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:国際公開第2015/170133号(以下「甲2」という。)
(当合議体注:甲1は、主引用例であり、甲2は、副引用例である。)
第4 当合議体の判断
1 甲1の記載、引用発明
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、下線は、当合議体が付与したもので、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック、特に、可視スペクトル範囲で透明なプラスチックから製作されたレンズ基材(12)と、少なくとも1つの高屈折率層(18)を含む複数の層(15)を含むコーティング(14)とを有する光学レンズ(10)であって、
前記レンズ基材(12)に隣接してハードコート層(20)が形成されており、前記コーティング(14)が超撥水性層(16)で完結しており、前記コーティング(14)全体が約380nmを超える厚さを有しており、高屈折率層(18)が1つだけの場合には、前記1つだけの高屈折率層(18)は40nm未満の厚さをもち、複数の高屈折率層(18)がある場合には、前記高屈折率層(18)は合わせて40nm未満の厚さをもつことを特徴とする、光学レンズ(10)。」
イ 「【0001】
本発明は、プラスチック製、より具体的には可視スペクトル範囲で透明なプラスチック製のレンズ基材と、少なくとも1つの高屈折率層を含む複数の層を含むコーティングとを有する光学レンズに関する。
・・・省略・・・
【0003】
プラスチック製光学レンズのこの機械的作用の受けやすさを最小限にするために、プラスチックにコーティングが施されて、機械的事象から光学レンズを保護することが意図されている。一般的にいうと、この保護機能はハードコートが担っている。高い光学的透明性を確保しながら、不要な色干渉を防止するためには、ハードコートは同じく可視範囲で透明でなければならず、かつ光学レンズに近い屈折率をもたなければならない。ハードコートの典型的な材料はシロキサンまたは有機修飾セラミックであるが、この有機修飾セラミックはポリシロキサンマトリックスを有しており、金属原子、例えばチタンは、酸素原子の代わりにポリシロキサンマトリックスに組み込まれる。
・・・省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、本発明の目的は、優れた反射防止特性を有すると同時に機械的作用を受けないコーティングの付いた光学レンズ、より具体的には眼鏡レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため、本発明によると、冒頭に明記した光学レンズを、超撥水性(超疏水性)層で、特にレンズ基材とは反対側において、コーティングを完結させるようにさらに開発し、少なくとも1つの高屈折率層、特に全体が40nm未満、より具体的には36nm未満の厚さをもち、かつ、さらにコーティング全体が約380nmを超える厚さをもつことが提案される。
・・・省略・・・
【0012】
ここで提示する発明は、プラスチック製の光学レンズの機械的耐久性の問題を、ベイヤー試験を施したときに、>17のベイヤー値で表現される、最小限の上昇レベルの散乱光しか生じないような特定の光学的広帯域反射防止層で解決する。
当のコーティングを施した光学レンズは、従来のPVDプロセスによって製造できる。あるいは、当該薄層システムを得るための他の周知のプロセスも考えられ、例としてCVD(化学蒸着)プロセス、および前述のプロセスのイオンアシストまたはプラズマアシストバージョンがあげられる。
【0013】
「高屈折率」とは、特に波長550nmで、屈折率がn>1.65の材料、特に材料の層と現在理解されている。この屈折率より低いと、また1.6または1.67の屈折率を有する使用されるレンズ基材物質のことも考えると、層は光の散乱媒質としてほとんど、またはまったく影響しない。特に、以下の材料の層は高屈折率層であり、高屈折率層を形成してもよい。すなわち、CeO2,Cr2O3,HfO2,ITO,La2O3-Nb2O混合物,La2O3-TiO2混合物,Nb2O5,Al2O3-Pr6O11混合物,Al2O3-Pr6O11混合物,Sc2O3,SiO,Ta2O5,TiO2,TiO2-Al2O3混合物,Ti-Pr酸化物,Y2O3,ZrO,ZrO2,ZrO2-TaO2混合物,ZrO2-TiO2混合物,ZnS,ZrO2-Y2O3混合物,SiOxNy,SiNx,Si3N4,ならびにこれら材料の混合物の層および/またはこれら材料の過剰化学量論種または準化学量論種(亜化学量論種)である。
【0014】
1より多くの高屈折率層が提供される場合、高屈折率層のすべてを同じ材料から作ってもよい。ただし、高屈折率層は前述の材料のうちの異なる材料から作ることも提供できる。
「中屈折率」とは、波長550nmで屈折率が1.5<n<=1.65の材料の層と現在理解することができる。特に、以下の材料の層は高屈折率層であり、中屈折率層を形成するかもしれない。すなわち、Al2O3,MgO,Al2O3-Pr6O11混合物,WO3,ならびにこれら材料の混合物の層および/またはこれら材料の過剰化学量論種または準化学量論種である。
【0015】
「低屈折率」とは、波長550nmで屈折率がn<=1.5の材料の層と現在理解することができる。特に、以下の材料の層は低屈折率層であるか、低屈折率層を形成するかもしれない。すなわち、SiO2,SiO2-Al2O3混合物,BaF2,CaF2,Na3AlF6,MgF2,YbF3,YbF3-CaF2混合物,YF3,YF3-BaF2混合物,ならびにこれら材料の混合物の層および/またはこれら材料の過剰化学量論種または準化学量論種である。
【0016】
したがって、上記提示した目的は完全に達成される。
そのため、優れた反射防止特性、すなわち可視波長範囲で、特に450nmないし650nmの範囲で実質的に2.5%未満の反射率と、高耐擦傷性、すなわちベイヤー値>17とを兼ね備えるためには、光学レンズはまず適したハードコートで被覆しなければならない。このハードコートはさらに、総厚が約380nmを超える、より具体的には約400nmを超える反射防止層の多層構造を施してもよい。これら反射防止層内で、高屈折率層は合計でできる限り薄くしておかなければならない。特に、少なくとも1つの高屈折率層は合計して40nmを超えない、より具体的には35nmを超えない厚さをもつようにする。
【0017】
さらに、プラスチックから構成されるレンズ基材とは反対側において、コーティングを超撥水性層で完結させるべきである。
好適な実施形態では、超撥水性層は水が90°を超える接触角をとる材料から作り、より具体的には超撥水性層は水が95°を超える、より具体的には100°を超える接触角をとる材料で作る。
・・・省略・・・
【0023】
本発明の別の改良形態では、少なくとも1つの高屈折率層はn>1.65の屈折率をもつことが提供できる。さらに、少なくとも1つの中屈折率層は1.5<n<=1.65の屈折率をもつとともに、少なくとも1つの低屈折率層がn<=1.5の屈折率をもつことを提供できる。
本発明の別の改良形態では、ハードコート層を除くコーティングの総厚を約380nm以上にすることが提供できる。この場合、コーティングの最低厚さの条件はハードコート層を除いて適用する。しかも超撥水性層と、反射防止層、すなわち低屈折率層、中屈折率層、および高屈折率層とは、全体で380nmを超える厚さをもたなければならない。
・・・省略・・・
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】広帯域反射防止層がない状態とある状態とで、屈折率n=1.6のプラスチック製の先行技術の眼鏡レンズの反射率曲線を示している。
【図2】本発明による光学レンズの模式図を示している。
【図3】本発明による光学レンズの別の実施形態の模式図を示している。
【図4】図3の光学レンズの反射率曲線を示している。
【図5】本発明による光学レンズの別の実施形態の模式図を示している。
【図6】図5の光学レンズの反射率曲線を示している。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、未被覆プラスチック製眼鏡レンズと比較した、広帯域反射防止コーティングを施した屈折率n=1.6の先行技術のプラスチック製眼鏡レンズの反射率曲線を示している。
この種の周知の光学レンズのコーティングは、典型的には各々が低い屈折率および高い屈折率を有し、各々が精密に画定された厚さの連続した複数の層を有する。特に高屈折率の眼鏡レンズの場合、当該広帯域反射防止コーティングは分裂反射を低減するために重要で、また非常に優れた透過率をもたせるためにも重要である。通常このような場合、相対的に高い屈折率をもつ複数の層が設けられており、相対的に低い屈折率をもつ層と合わせて所望の反射防止効果を生じさせる。このような構成で高い屈折率をもつ層の総層厚は約50~150nmである。したがって、同様に優れた反射率値をもつことに加えて、できるだけ高いベイヤー値をもつ光学レンズを提供することが本発明の目的である。
【0027】
これに応じて、図2は本発明の教示に従い設計されている光学レンズ10を示している。光学レンズ10は可視スペクトル範囲で透明で、プラスチックから製作したレンズ基材12を有している。このレンズ基材12にはコーティング14が施されており、コーティング14は複数の層15を有している。コーティング14はレンズ基材12の上に重ねられている。レンズ基材12とは反対側において、コーティング14は超撥水性層16で完結している。したがって、超撥水性層16は、レンズ基材12が「最下部」にあるといわれるなら、コーティング14の最上層を形成している。この超撥水性層は、水が90°を超える、特に100°を超える接触角をとる材料から作られている。
【0028】
また、複数の層15は少なくとも1つの高屈折率層18を含む。本文において高屈折率層とは、屈折率n>1.65の材料を意味する。
レンズ基材12に隣接して形成されているのが、ハードコート層20である。このハードコート層20の代表的な材料は当業者には周知であり、すでに先行技術で使用に供されている。
【0029】
最後に、複数の層15はさらに追加の反射防止層22を含んでおり、反射防止層22は低屈折率層と中屈折率層とさらに高屈折率層とをともに含んでもよい。ただし、図示する実施形態では、これら追加の反射防止層22の正確な構造にそれ以上の重要性は付与しておらず、構造も任意に選択できる。
コーティング14内のハードコート層20の機能の1つは、ハードコート層20が無機系反射防止層18,22の間の応力補償に役立つことである。反射防止層18,22は熱膨張係数が相対的に低い一方で、有機プラスチックから製作するレンズ基材12は高い熱膨張係数をもつ。さらに、ハードコート層20のレンズ基材12とは反対に向く側は、反射防止層22にとって優れた接着強度をもつ面を形成している。
【0030】
ベイヤー値を最大化するために、複数の層15はレンズ基材12から超撥水性層16に向かって増大する硬度勾配を付けて塗布するとよいことがわかってきた。実験では、最下層に近づく、すなわちレンズ基材12に向かう方向に近い方に位置している層を、最上部に近づく、すなわち超撥水性層16に向かう方向に近い方に位置している層よりも硬くすると、原則的には得られるベイヤー値が低くなることが明らかになっている。これは特に、超撥水性層16に近い方に位置している層が、コーティング14の場合と同じく、少なくとも1つの高屈折率層18を含む場合に現れる。したがって、複数の層15の硬度をハードコート層20から超撥水性層16の方向に増大させるための手段を設けるべきである。
【0031】
これに応じて、ハードコート層20は、硬度に関して、相対的に柔らかいプラスチック面と硬い反射防止層との間の中間位置を占める。さらに、ハードコート層20は反射防止層18,22を支持している。
コーティング14の総厚は約380nmより厚く、特に約400nmより厚くするべきである。特に、ハードコート層20を除くコーティング14、すなわち層16,18,22だけで、約380nmを超える、特に約400nmを超える厚さをすでにもつ。これにより、例えば、ベイヤー試験の過程で研磨試験エレメントにより生じる機械的負荷の場合のような機械的負荷のかかった状態でのコーティングの破壊を防止するので、その保護機能および/または反射防止機能の損失を防止する。しかし、少なくとも1つの高屈折率層18の総厚は、できる限り薄くしなければならない。少なくとも1つの高屈折率層18の存在は、十分な反射防止効果のために必要である。しかし>17のベイヤー値を得るためには、少なくとも1つの高屈折率層の総厚は40nmより厚く、特に35nmより厚くするべきではない。例えば、ベイヤー試験の研磨剤による、その周囲にある残りの反射防止層22と合わせた少なくとも1つの高屈折率層18の損傷は、損傷の質および量に呼応して、光の散乱効果が増幅する領域を生むことが明らかになっている。損傷および少なくとも1つの高屈折率層18の厚さによって、この散乱効果は多かれ少なかれ曇りをもつ表面を生じさせ、それによって全体としてのコーティング14が達成できる最高ベイヤー値が低下する。少なくとも1つの高屈折率層18の最大厚さに対して強制的な制限を課すことにより、この効果を最小限にでき、所与のコーティング14で最適なベイヤー値を達成できる。
【0032】
図3に、本発明による光学レンズ10の第1の実施形態を示している。
この実施形態では、酸化チタン(TiO2)の蒸着によって製作した1つだけの高屈折率層18をコーティング14に形成している。さらにコーティング14内に設けられているのは、石英(SiO2)で作った低屈折率層24および酸化アルミニウム(Al2O3)で作った中屈折率層26である。
【0033】
レンズ基材12上に形成されているのは、まずは、ハードコート層20で、厚さが1~10μmである。ハードコート層上に配設されているのが、まずは、酸化アルミニウム製の層26’で、厚さが25nmである。この層上に今度配列されているのが石英製の層24’で、厚さが同じく25nmである。この層上に配列されているのが酸化アルミニウム製の第2層26’’で、厚さが50nmで、その上に今度は石英製の第2層24’’が配列されており、厚さが60nmである。この層の次にさらに厚さ115nmの酸化アルミニウム製の第3層26’’’がくる。この酸化アルミニウム製の第3層26’’’の上に設けられているのが酸化チタン製の高屈折率層18で、厚さが13nmである。コーティング14全体で高屈折率層18は1つしかもたない。この層に今度さらに設けられているのが、厚さ10nmの酸化アルミニウム製の別の層26’’’’である。この次に厚さ101nmの石英製の別の第4層24’’’’がきて、その上の最後に配列されているのが超撥水性層16で、厚さが5nmであり、最上部でコーティング14を完結させている。
【0034】
石英の層24と酸化アルミニウムの層26とを交互に配列することにより、層15の剥離に至らない全体的な固有応力を達成することが可能である。これはこの例では、内部で引張応力が支配的である酸化アルミニウムの層26と、内部で圧縮応力が支配的である石英の層24とを交互にすることによって達成される。そのため、複数の層24および26の多重層構造は、受ける全体的な応力の点で機械的に有益であり、コーティング14の反射防止効果にも寄与する。原則的に、層24および26の多重層構造は任意に複数の層および様々な厚さの組み合わせを含んでもよく、図示する実施例に限定されない。これらは反射防止効果とベイヤー値との特に有利な組み合わせの1つを提供する好適な実施例にすぎない。
【0035】
図4は、図3で模式的に示した光学レンズ10の反射率曲線を示している。図3に示すコーティングによって、本発明の第1の実施形態による光学レンズ10は、20を超えるベイヤー値を達成できる。また、反射率曲線から明らかなように、光学レンズ10は非常に優れた反射防止特性を有している。可視スペクトル範囲では、透過率は98%を超える。したがって、第1の実施形態による光学レンズ10は反射防止効果の要件を満たすだけでなく、高いベイヤー値の要件も満たしている。
【0036】
図5は、本発明の第2の実施形態における光学レンズ10を示している。図5に示す実施形態は、特に図5に図示する第2の実施形態が2つの高屈折率層18,18’を有している点で、図3に示す実施形態とは異なる。これら2つの高屈折率層のうちの一方18’は厚さが約10nm、より具体的には図示する本実施例では正確に8.5nmである。したがって、他方の高屈折率層18の厚さは、高屈折率層18,18’全体で厚さが40nm未満、特に36nm未満になるように作られることになる。そのため、図5に図示する実施形態では、高屈折率層18は22nmの厚さで形成されている。
【0037】
図示する光学レンズ10の第2の実施形態では、ハードコート層20がまずレンズ基材12に塗布されており、厚さは1~10μmである。この層20上に配置されているのが酸化アルミニウム製の層26’で、厚さが57nmである。今度はこの層に塗布されているのが石英製の層24’で、厚さが25nmである。その上に配置されているのが厚さ44nmの酸化アルミニウム製の第2層26’’で、この次に厚さ61nmの石英製の第2層24’’が設けられている。この層の上に配置されているのが酸化アルミニウム製の第3層26’’’で、厚さが60nmである。その層にさらに設けられているのが、酸化チタン製の第1高屈折率層18’で、厚さが8.5nmである。今度はこの層の上に配置されているのが厚さ45nmの酸化アルミニウム製の層26’’’’で、さらに今度は厚さ22nmの酸化チタン製の第2高屈折率層18’’が設けられている。その層に設けられているのが、厚さ106nmの石英製の第3層24’’’で、レンズ基材12とは反対側の最上部において厚さ5nmの超撥水性層16でコーティング14が完結している。この種の構造のコーティング14も同様に、優れたベイヤー値を達成できる。図5に示すコーティング14は17を超えるベイヤー値を達成できる。
【0038】
図6は、図5に示す光学レンズ10の反射率曲線を示している。ここでも、可視スペクトル範囲で、光学レンズは優れた反射防止特性を有し、透過率は98%を超える。
最後に、図3および図5を見ると、コーティング14の総厚は、特にハードコート層20を除いても、いずれの事例でも400nmよりも厚いことがわかる。さらに、高屈折率層18,18’,18’’が2つの低屈折率層24の間、または2つの中屈折率層26の間、または1つの低屈折率層24と1つの中屈折率層26との間に必ず埋設された手段が施されている。図3および図5の実施例では、高屈折率層は酸化チタンから製作している。しかし、原則的には、酸化ジルコニウム(ZrO2)もしくは酸化タンタル(Ta2O5)または当初述べた材料のうちの他のいずれのものから製作してもよい。図示する実施形態の低屈折率層は石英(SiO2)から作製し、中屈折率層は酸化アルミニウム(Al2O3)から作製している。より具体的には、これら2つの材料はコーティング14内の機械的応力を補償するために交互に使用されている。しかし、あるいは、材料として例えばフッ化マグネシウム(MgF2)も提供できる。」
エ 図1
[図:0001399424000001.jpg]
オ 図2
[図:0001399424000002.jpg]
カ 図3
[図:0001399424000003.jpg]
キ 図4
[図:0001399424000004.jpg]
ク 図5
[図:0001399424000005.jpg]
ケ 図6
[図:0001399424000006.jpg]
(2)引用発明
甲1における「図6は、図5に示す光学レンズ10の反射率曲線を示している。」(【0038】)との記載によれば、図6の「ベイヤー値>17の広域反射防止コーティングを施したプラスチック製眼鏡レンズ」との記載における「プラスチック製眼鏡レンズ」は、図5に示す「光学レンズ10」である。
そうしてみると、甲1には、請求項1の光学レンズ(10)を具体化した第2の実施形態として、次の「光学レンズ10」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、「プラスチック製眼鏡レンズ」及び「コーティング」を、それぞれ、「光学レンズ10」及び「コーティング14」に用語を統一した。
「 ハードコート層20がまずレンズ基材12に塗布されており、厚さは1~10μmであり、この層20上に配置されているのが酸化アルミニウム製の層26’で、厚さが57nmであり、今度はこの層に塗布されているのが石英製の層24’で、厚さが25nmであり、その上に配置されているのが厚さ44nmの酸化アルミニウム製の第2層26’’で、この次に厚さ61nmの石英製の第2層24’’が設けられ、この層の上に配置されているのが酸化アルミニウム製の第3層26’’’で、厚さが60nmであり、その層にさらに設けられているのが、酸化チタン製の第1高屈折率層18’で、厚さが8.5nmであり、今度はこの層の上に配置されているのが厚さ45nmの酸化アルミニウム製の層26’’’’で、さらに今度は厚さ22nmの酸化チタン製の第2高屈折率層18’’が設けられ、その層に設けられているのが、厚さ106nmの石英製の第3層24’’’で、レンズ基材12とは反対側の最上部において厚さ5nmの超撥水性層16でコーティング14が完結している、ベイヤー値>17の広域反射防止コーティング14を施した光学レンズ10。」
2 本件特許発明1
(1)対比
本件特許発明1と引用発明とを対比する。
ア 基板及び光学レンズ
引用発明は、「レンズ基材12に」「ベイヤー値>17の広域反射防止コーティング14を施した光学レンズ10」である。
上記構成からみて、引用発明の「レンズ基材12」及び「光学レンズ10」は、それぞれ、本件特許発明1の「基板」及び「光学レンズ」に相当する。
また、引用発明の「レンズ基材12」が表主面と裏主面とを有することは明らかである。そうしてみると、引用発明の「レンズ基材12」は、本件特許発明1の「基板」の「表主面と裏主面とを有する」との要件を満たす。
さらに、上記構成からみて、引用発明の「光学レンズ10」は、「レンズ基材12」を含むものである。そうしてみると、引用発明の「光学レンズ10」は、本件特許発明1の「光学レンズ」の「基板を含み」との要件を満たす。
イ 反射防止被膜
上記アの構成からみて、引用発明の「広域反射防止コーティング14」は、本件特許発明1の「反射防止被膜」に相当する。
また、上記アの構成からみて、引用発明の「光学レンズ10」は、「レンズ基材12」の表主面及び裏主面の少なくとも一方の主面が「広域反射防止コーティング14」により被覆されてなるといえる。
そうしてみると、引用発明の「光学レンズ10」は、本件特許発明1の「光学レンズ」の「前記表主面、及び前記裏主面の少なくとも一方の主面が反射防止被膜により被覆されてなる」との要件を満たす。
(2)一致点・相違点
ア 一致点
上記(1)の対比結果からみて、本件特許発明1と引用発明は、次の点で一致する。
「表主面と裏主面とを有する基板を含み、前記表主面、及び前記裏主面の少なくとも一方の主面が反射防止被膜により被覆されてなる光学レンズ。」
イ 相違点
上記(1)の対比結果からみて、本件特許発明1と引用発明は、次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「入射角θの範囲[0°-50°]において、前記被覆された前記少なくとも一方の主面上の平均光反射率Rv(θ)は、範囲[20°-50°]に含まれる入射角θminに対して最小値Rvminを提示し、
不等式Rvmin/Rv(15°)<0.95を満足する」ものであって、「ここで、Rv(θ)は、ISO13666:1998標準規格において定義される380nm~780nmの全可視スペクトルにおける重み付けスペクトル反射平均であり、Rv(15°)は、前記被覆された前記少なくとも1方の主面上の15°の入射角θに対する平均光反射率であ」るのに対して、引用発明は、平均光反射率が上記のように特定されていない点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「前記反射防止被膜が後面被膜の場合、ISO13666:1998標準規格において定義された関数W(λ)により重み付けられた280nm~380nm間の後面上の平均反射率RUVは、35°の入射角に対し、5%未満である」のに対して、引用発明は、後面被覆の場合の平均反射率RUVが上記のように特定されていない点。
(3)判断
ア 新規性について
上記(2)イで示したように、本件特許発明1と引用発明とは上記相違点1及び2で相違するので、本件特許発明は、引用発明と同一ではない。
イ 進歩性について
事案に鑑み、上記相違点1について検討する。
引用発明において、「ハードコート層20」及び「超撥水性層16」の材料及び屈折率は明らかではない。そこで、甲1の明細書について検討する。
まず、ハードコート層について、甲1の【0003】には、「ハードコートの典型的な材料はシロキサンまたは有機修飾セラミックであるが、この有機修飾セラミミックはポリシロキサンマトリックスを有しており、金属原子、例えばチタンは、酸素原子の代わりにポリシロキサンマトリックスに組み込まれる。」と記載されているものの、上記記載のハードコートによっても材料及び屈折率が特定されるものではない。
また、甲1の【0028】には、「このハードコート層20の代表的な材料は当業者には周知であり、すでに先行技術で使用に供されている。」と記載されているものの、ハードコート層の材料は多岐にわたるものであって、ハードコート層の材料及び屈折率が特定されるものではない。
さらに、甲1の他の記載においても、ハードコート層の膜厚は記載されているものの、ハードコート層の材料及び屈折率についての記載はなく、また、ハードコート層の材料及び屈折率を特定のものとすることを窺わせる記載はない。
次に、超撥水性層について、甲1の【0017】及び【0027】には、それぞれ、「好適な実施形態では、超撥水性層は水が90°を超える接触角をとる材料から作り、より具体的には超撥水性層は95°を超える、より具体的には100°を超える接触角をとる材料で作る。」及び「この超撥水性層は、水が90°を超える、特に具体的には100°を超える接触角をとる材料から作られている。」と記載されている。
しかしながら、撥水性層の材料は多岐にわたるものであって、超撥水性層の材料及び屈折率が特定されるものではない。
さらに、甲1の他の記載においても、超撥水性層の膜厚は記載されているものの、超撥水性層の材料及び屈折率についての記載はなく、また、超撥水性層の材料及び屈折率を特定のものとすることを窺わせる記載はない。
甲1におけるハードコート層及び超撥水性層の記載によっても、甲1発明の「ハードコート層」及び「超撥水性層」の材料及び屈折率を特定することはできず、甲1発明における上記相違点1に係る平均光反射率を求めることはできない。
また、甲1には、上記相違点1に係る平均光反射率を特定の範囲とすることは、記載も示唆もされていない。
そして、引用発明において、上記相違点1に係る平均光反射率を特定の範囲とすることは、甲2にも記載されておらず、周知技術であるともいえない。
そうしてみると、引用発明において上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たとはいえない。
(4)他の実施形態を主引例とした場合
甲1の第1の実施の形態を主引例とした場合も同様である。
(5)本件特許発明1についてのまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明と同一であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
3 本件特許発明2~19
本件特許発明2~19は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明2~19も、本件特許発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明と同一であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
4 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「超撥水性層としては、屈折率が1.38の低屈折率であるクリーンコートを用いた。1.38という屈折率は超撥水性層の典型的な屈折率である。ハードコートには、標準的なハードコート材であるIM9060を用いた。IM9060の屈折率は約1.6(正確には1.612)である。」(17頁)とした上で角度依存の平均光反射係数を計算し、「上記の一応の相違点は実質的な相違点ではなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に該当する。」(19頁)と主張している(当合議体注:上記主張の一応の相違点は、上記2(2)イの相違点1である。)。
しかしながら、上記2(3)イで述べたように、ハードコート層及び撥水性層の材料及び屈折率は多岐にわたるものである。そうであるにもかかわらず、特許異議申立人は、根拠を示さずに「ハードコート」及び「超撥水性層」をそれぞれ「IM9060」及び「クリーンコート」としたものであるから、これらを用いて得られた平均反射光係数の結果も根拠のないものである。
そうしてみると、上記相違点1は、実質的な差異である。その余の点は、上記2(3)で述べたとおりであり、
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
第5 むすび
請求項1~19に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1~19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700333