特許異議申立
2023-701196
光学物品用コーティング組成物、眼鏡レンズ、眼鏡および眼鏡レンズの製造方法、ならびに光学物品および光学物品の製造方法
- 審判番号
- 2023-701196
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-067814
- 登録番号
- 7274911
- 請求日
- 2023年11月13日
- 審決日
- 2024年07月22日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
- 【権利者代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】加藤 浩志
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 本田 博幸
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.113-YAA(G02C) / P1651.121-YAA(G02C) / P1651.537-YAA(G02C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第36条、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7274911号発明「光学物品用コーティング組成物、眼鏡レンズ、眼鏡および眼鏡レンズの製造方法、ならびに光学物品および光学物品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7274911号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7274911号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7274911号の請求項1~14に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019-67814号)は、平成31年(2019年)3月29日に特許出願したものであって、令和5年5月9日にその特許権の設定登録がされ、令和5年5月17日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和5年11月13日に、特許異議申立人 加藤 浩志(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和6年1月23日付け:取消理由通知書
令和6年4月22日 :意見書(特許権者)の提出
令和6年4月22日 :訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂
正の請求を以下「本件訂正請求」という。)
令和6年6月19日 :意見書(特許異議申立人)の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7274911号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める、というものである。
(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「分子量600以上の非環状の2官能メタクリレートと、」との記載を、「分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートと、」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4~14についても、同様に訂正する。)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1における「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、を含み、かつ分子量600以上の非環状の2官能メタクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含む」との記載を以下に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4~14についても、同様に訂正する。)。
「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、
他の(メタ)アクリレートと、
を含み、
前記他の(メタ)アクリレートは、分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレートの1種以上であり、
前記分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートは、下記一般式1:
【化1】
一般式1
[図:0001415297000001.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であり、
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、
分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含み、かつ
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して5質量%以上含む」
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2における「前記2種以上の(メタ)アクリレートは」との記載を、「前記他の(メタ)アクリレートは」に訂正する(請求項2の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様に訂正する。)。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3における「分子量500以上の非環状の2官能メタクリレート」との記載を、「分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」に訂正する(請求項3の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様に訂正する。)。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3における「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、を含み、前記2種以上の(メタ)アクリレートは、分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレートを更に含み、かつ前記分子量500以上の非環状の2官能メタアクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含む」との記載を以下に訂正する(請求項3の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様に訂正する。)。
「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、
を含み、
前記分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートは、下記一般式1:
【化2】
一般式1
[図:0001415297000002.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であり、
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、
前記2種以上の(メタ)アクリレートは、分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレートを更に含み、
前記分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタアクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含み、かつ
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して5質量%以上含む」
(3)一群の請求項
本件訂正は、一群の請求項〔1~14〕に対して請求されたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「分子量600以上の非環状の2官能メタクリレート」について、「分子量」「2000以下」であることを限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4~14についても、同様である。)。
イ 新規事項の有無
訂正事項1における「分子量」「2000以下」であることについて、本件特許明細書の【0014】には、「また、光応答性にも優れるフォトクロミック層を形成する観点からは、上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。」と記載されている(下線は当合議体で付与した。以下、同様である。)。
してみると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであって、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4~14についても、同様である。)。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4~14についても、同様である。)。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
(ア)訂正事項2-1
訂正事項2に係る訂正のうち、「2種以上の(メタ)アクリレートは、」「他の(メタ)アクリレートと、を含み、前記他の(メタ)アクリレートは、分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレートの1種以上であ」ること(以下「訂正事項2-1」という。)については、特許請求の範囲の請求項1に記載された「2種以上の(メタ)アクリレート」を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項2-2
訂正事項2に係る訂正のうち、「前記分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートは、下記一般式1:
【化1】
一般式1
[図:0001415297000003.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であ」ること(以下「訂正事項2-2」という。)については、特許請求の範囲の請求項1に記載された「非環状の2官能メタクリレート」の分子量と種類を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(ウ)訂正事項2-3
訂正事項2に係る訂正のうち、「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であ」ること(以下「訂正事項2-3」という。)については、特許請求の範囲の請求項1に記載された「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート」の種類を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(エ)訂正事項2-4
訂正事項2に係る訂正のうち、「分子量600以上の非環状の2官能メタクリレート」について、「分子量」「2000以下」とすること(以下「訂正事項2-4」という。)については、特許請求の範囲の請求項1に記載された「非環状の2官能メタクリレート」の分子量を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(オ)訂正事項2-5
訂正事項2に係る訂正のうち、「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを、」「2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して5質量%以上含む」こと(以下「訂正事項2-5」という。)については、特許請求の範囲の請求項1に記載された「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート」の含有量を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項2-1~2-5からなる訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4~14についても、同様である。)。
イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項2-1
訂正事項2-1について、本件特許明細書の【0016】には、「(他の(メタ)アクリレート)
上記組成物は、(メタ)アクリレートとして、分子量500以上の非環状の2官能メタクリレートを1種または2種以上含むことができ、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを1種または2種以上含むことができる。上記組成物は、これらの(メタ)アクリレートに加えて、他の(メタ)アクリレートを1種以上含んでもよく、含まなくてもよい。他の(メタ)アクリレートは、例えば組成物の粘度調整等のために使用することができる。他の(メタ)アクリレートは、例えば非環状または環状の2官能以上の(メタ)アクリレートであることができる。他の(メタ)アクリレートは、2~5官能の(メタ)アクリレートであることができ、2~4官能であることが好ましく、2官能または3官能であることがより好ましく、2官能であることが更に好ましい。他の(メタ)アクリレートの分子量は、例えば150以上もしくは200以上であることができ、また例えば400以下もしくは350以下であることができるが、上記範囲に限定されるものではない。」と記載されている。
(イ)訂正事項2-2
訂正事項2-2について、本件特許明細書の【0013】には、「(分子量500以上の非環状の2官能メタクリレート)
上記非環状の2官能メタクリレートとしては、ポリアルキレングリコールジメタクリレートを挙げることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートは、下記一般式1:
【化1】
一般式1
[図:0001415297000004.jpg]
により示すことができ、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。」と記載されており、【0014】には、「また、光応答性にも優れるフォトクロミック層を形成する観点からは、上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。」と記載されている。
(ウ)訂正事項2-3
訂正事項2-3について、本件特許明細書の【0015】には、「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。と記載されている。
(エ)訂正事項2-4
訂正事項2-4について、本件特許明細書の【0014】には、「また、光応答性にも優れるフォトクロミック層を形成する観点からは、上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。」と記載されている。
(オ)訂正事項2-5
訂正事項2-5について、本件特許明細書の【0018】には、「一方、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートの含有率は、上記組成物に含まれる2種以上の(メタ)アクリレートの合計量を100質量%とすると、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。」と記載されている。
したがって、訂正事項2-1~2-5からなる訂正事項2に係る訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4~14についても、同様である。)。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4~14についても、同様である。)。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項2が引用する請求項1の訂正に伴い、請求項2に記載された「分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレート」について、「他の(メタ)アクリレート」に含まれることを限定するものであるから、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する(請求項2の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様である。)。
イ 新規事項の有無
訂正事項3における「分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレート」が「他の(メタ)アクリレート」に含まれることについて、本件特許明細書の【0016】には、「(他の(メタ)アクリレート)
上記組成物は、(メタ)アクリレートとして、分子量500以上の非環状の2官能メタクリレートを1種または2種以上含むことができ、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを1種または2種以上含むことができる。上記組成物は、これらの(メタ)アクリレートに加えて、他の(メタ)アクリレートを1種以上含んでもよく、含まなくてもよい。他の(メタ)アクリレートは、例えば組成物の粘度調整等のために使用することができる。他の(メタ)アクリレートは、例えば非環状または環状の2官能以上の(メタ)アクリレートであることができる。他の(メタ)アクリレートは、2~5官能の(メタ)アクリレートであることができ、2~4官能であることが好ましく、2官能または3官能であることがより好ましく、2官能であることが更に好ましい。他の(メタ)アクリレートの分子量は、例えば150以上もしくは200以上であることができ、また例えば400以下もしくは350以下であることができるが、上記範囲に限定されるものではない。」と記載されている。
してみると、訂正事項3に係る訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである(請求項2の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様である。)。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項3は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する(請求項2の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様である。)。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項3に記載された「分子量500以上の非環状の2官能メタクリレート」について、「分子量」「2000以下」であることを限定するものであり、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する(請求項3の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様である。)。
イ 新規事項の有無
訂正事項4における「分子量」「2000以下」であることについて、本件特許明細書の【0014】には、「上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、500以上であり、510以上であることが好ましく、520以上であることがより好ましい。また、光応答性にも優れるフォトクロミック層を形成する観点からは、上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。」と記載されている。
してみると、訂正事項4に係る訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである(請求項3の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様である。)。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項4は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する(請求項3の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様である。)。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
(ア)訂正事項5-1
訂正事項5に係る訂正のうち、「分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートは、下記一般式1:
【化2】
一般式1
[図:0001415297000005.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であ」ること(以下「訂正事項5-1」という。)については、特許請求の範囲の請求項3に記載された「非環状の2官能メタクリレート」の分子量及び種類を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項5-2
訂正事項5に係る訂正のうち、「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であ」ること(以下「訂正事項5-2」という。)については、特許請求の範囲の請求項3に記載された「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート」の種類を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(ウ)訂正事項5-3
訂正事項5に係る訂正のうち、「分子量500以上の非環状の2官能メタクリレート」について、「分子量」「2000以下」とすること(以下「訂正事項5-3」という。)については、特許請求の範囲の請求項3に記載された「非環状の2官能メタクリレート」の分子量を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(エ)訂正事項5-4
訂正事項5に係る訂正のうち、「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを、」「2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して5質量%以上含む」こと(以下「訂正事項5-4」という。)については、特許請求の範囲の請求項3に記載された「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート」の含有量を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項5-1~5-4からなる訂正事項5に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する(請求項3の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様である。)。
イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項5-1
訂正事項5-1について、本件特許明細書の【0013】には、「(分子量500以上の非環状の2官能メタクリレート)
上記非環状の2官能メタクリレートとしては、ポリアルキレングリコールジメタクリレートを挙げることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートは、下記一般式1:
【化1】
一般式1
[図:0001415297000006.jpg]
により示すことができ、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。」と記載されており、【0014】には、「上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、500以上であり、510以上であることが好ましく、520以上であることがより好ましい。また、光応答性にも優れるフォトクロミック層を形成する観点からは、上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。」と記載されている。
(イ)訂正事項5-2
訂正事項5-2について、本件特許明細書の【0015】には、「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。と記載されている。
(ウ)訂正事項5-3
訂正事項5-3について、本件特許明細書の【0014】には、「上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、500以上であり、510以上であることが好ましく、520以上であることがより好ましい。また、光応答性にも優れるフォトクロミック層を形成する観点からは、上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。」と記載されている。
(エ)訂正事項5-4
訂正事項5-4について、本件特許明細書の【0018】には、「一方、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートの含有率は、上記組成物に含まれる2種以上の(メタ)アクリレートの合計量を100質量%とすると、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。」と記載されている。
したがって、訂正事項5-1~5-4からなる訂正事項5に係る訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである(請求項3の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様である。)。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項5は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する(請求項3の記載を引用して記載された請求項4~14についても、同様である。)。
(6)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明14」という。また、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項によって特定される、以下のものである。
「【請求項1】
フォトクロミック化合物および2種以上の(メタ)アクリレートを含み、
前記2種以上の(メタ)アクリレートは、
分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートと、
非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、
他の(メタ)アクリレートと、
を含み、
前記他の(メタ)アクリレートは、分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレートの1種以上であり、
前記分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートは、下記一般式1:
【化1】
一般式1
[図:0001415297000007.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であり、
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、
分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含み、かつ
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して5質量%以上含む、光学物品用コーティング組成物。
【請求項2】
前記他の(メタ)アクリレートは、分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載の光学物品用コーティング組成物。
【請求項3】
フォトクロミック化合物および2種以上の(メタ)アクリレートを含み、
前記2種以上の(メタ)アクリレートは、
分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートと、
非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、
を含み、
前記分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートは、下記一般式1:
【化2】
一般式1
[図:0001415297000008.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であり、
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、
前記2種以上の(メタ)アクリレートは、分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレートを更に含み、
前記分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタアクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含み、かつ前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して5質量%以上含む、光学物品用コーティング組成物。
【請求項4】
レンズ基材と、
請求項1~3のいずれか1項に記載の光学物品用コーティング組成物を硬化させたフォトクロミック層と、
を有する眼鏡レンズ。
【請求項5】
請求項4に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【請求項6】
基材と、
請求項1~3のいずれか1項に記載の光学物品用コーティング組成物を硬化させたフォトクロミック層と、
を有する光学物品。
【請求項7】
ゴーグル用レンズである、請求項6に記載の光学物品。
【請求項8】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項6に記載の光学物品。
【請求項9】
ヘルメットのシールド部材である、請求項6に記載の光学物品。
【請求項10】
基材上に請求項1~3のいずれか1項に記載の光学物品用コーティング組成物を塗布すること、および、
前記塗布された光学物品用コーティング組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成すること、
を含む光学物品の製造方法。
【請求項11】
前記光学物品は、眼鏡レンズである、請求項10に記載の光学物品の製造方法。
【請求項12】
前記光学物品は、ゴーグル用レンズである、請求項10に記載の光学物品の製造方法。
【請求項13】
前記光学物品は、サンバイザーのバイザー部分である、請求項10に記載の光学物品の製造方法。
【請求項14】
前記光学物品は、ヘルメットのシールド部材である、請求項10に記載の光学物品の製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 特許異議申立人が提示した証拠方法
甲第1号証:特開2017-52869号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2017-19973号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2014-56140号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:国際公開第2014/136804号(以下「甲4」という。)
甲第5号証:国際公開第2018/054507号(以下「甲5」という。)
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1~14に係る特許に対して、当合議体が令和6年1月23日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由は、概略次のとおりである。
理由1(新規性)本件特許の請求項1、6、10に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、請求項1、6、10に係る特許は、いずれも、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性)本件特許の請求項1、4~14に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、4~14に係る特許は、いずれも、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
理由3(サポート要件)本件特許の請求項1~14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、請求項1~請求項14に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 令和6年1月23日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由についての当合議体の判断
1 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)甲1を主引用例とする場合
ア 甲1に記載された発明
甲1の【0211】表1の「フォトクロミック硬化性組成物(Z2)」から把握される発明を「甲1組成物発明」という。
イ 本件特許発明1について
(ア)対比、一致点・相違点
本件特許発明1と甲1組成物発明を対比すると、両者は下記aの点で一致し、また、下記bの点で相違する。
a 一致点
「フォトクロミック化合物および2種以上の(メタ)アクリレートを含み、
前記2種以上の(メタ)アクリレートは、
分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートと、
非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、
他の(メタ)アクリレートと、
を含み、
前記分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートは、下記一般式1:
【化1】
一般式1
[図:0001415297000009.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であり、
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、
分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含み、かつ
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して5質量%以上含む、光学物品用コーティング組成物。」
b 相違点
「他の(メタ)アクリレート」について、本件特許発明1は、「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレートの1種以上であ」るのに対し、甲1組成物発明は、「GMA」及び「MA1」が、いずれも「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」ではない点。
(イ)判断
a 新規性について
上記相違点は実質的な差異であることは明らかであるから、本件特許発明1は、甲1組成物発明と同一ではない。
b 進歩性について
上記相違点について検討する。
甲1には、「(A4)成分」として、「その他、(A1)成分、及び(A2)成分に該当しない、分子内に(メタ)アクリル基を2つ以上有する(メタ)アクリルモノマー成分を含むこともできる」旨が記載されており(【0119】)、「(A4)成分は、公知のモノマーを使用することができ」、本件特許明細書の実施例において「他の(メタ)アクリレート」として使用されている「ネオペンチルグリコールジメタクリレート」を含む非常に多数の(メタ)アクリルモノマーが具体的に例示されている(【0120】)。
しかしながら、甲1には、「本発明において、(A1a)成分を使用した場合には、(A1a)成分が低温で固体になり易いことから、分子量が600未満のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリルモノマー、好ましくは分子量が500~600未満のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリルモノマーを使用することができる。具体的には、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が536、(メタ)アクリル当量 268)が挙げられる。」と記載されており(【0123】)、実施例及び比較例において使用されている「(A4)成分」も、平均分子量が536である「9G」と平均分子量が804である「BPE500」のみである(【0201】、【0211】【表1】)。
そして、甲1組成物発明は、(A1a)成分として「14G」を使用しているから、仮に「(A4)成分」を含有させるとしても、当業者が好ましく使用できる「分子量が500~600未満のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリルモノマー」ではなく、より分子量が小さい「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」を使用する動機付けはない。
したがって、当業者であっても、甲1組成物発明に基づいて上記相違点に係る本件特許発明1の構成を満たすものとすることは、容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)令和6年6月19日に提出された意見書について
特許異議申立人は、令和6年6月19日に提出された意見書において、「甲第1号証の【0119】~【0120】には、分子内に(メタ)アクリル基を2つ以上有する(メタ)アクリルモノマー成分(A4)成分として、分子量400以下の非環状の化合物が挙げられている。同様に、甲第2号証の【0058】、及び甲第3号証の【0091】には、分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレートが挙げられている。従って、当業者にとって、甲第1号証の【0211】表1のフォトクロミック組成物(Z2)に分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレートを添加することへの示唆があるといえる。また、本願の実施例において、「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」を含まない例として、適切な比較例は開示されていない。従って、上記相違点に係る効果は、当業者の予測を超える格別顕著な効果であるとはいえない。訂正請求項2についても同様である。また、訂正請求項2と訂正請求項3との実質的な相違点は、前者が「分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」を含み、後者が「分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」を含む点のみである。従って、訂正請求項3についても訂正請求項1と同様である。」と主張している(以下「主張1」という。)。
そこで、上記主張1について検討するに、上記1(1)イ(イ)bで検討したとおり、甲1組成物発明は、(A1a)成分として「14G」を使用しているから、仮に「(A4)成分」を含有させるとしても、当業者が好ましく使用できる「分子量が500~600未満のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリルモノマー」ではなく、「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」又は「分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレート」を使用する動機付けはない。
したがって、当業者にとって、甲1組成物発明に分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレートを添加することへの示唆があるとする、上記主張は採用できない。
(エ)小括
以上のことから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明2も、本件特許発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
エ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1組成物発明とを対比すると、2種以上の(メタ)アクリレートについて、本件特許発明3は、「分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレートを更に含」むのに対し、甲1組成物発明は、「GMA」及び「MA1」が、いずれも「分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレート」ではない点で相違する。
そうすると、本件特許発明3も、本件特許発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
オ 本件特許発明4~14について
本件特許発明4~14は、本件特許発明1又は本件特許発明3の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明4~14も、本件特許発明1又は本件特許発明3と同じ理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)甲2を主引例とする場合
ア 甲2に記載された発明
甲2の【0167】表1の実施例2の「フォトクロミック組成物」から把握される発明を「甲2組成物発明」という。
イ 本件特許発明1について
(ア)対比、一致点・相違点
本件特許発明1と甲2組成物発明を対比すると、両者は下記aの点で一致し、また、下記bの点で相違する。
a 一致点
「フォトクロミック化合物および2種以上の(メタ)アクリレートを含み、
前記2種以上の(メタ)アクリレートは、
分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートと、
非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、
他の(メタ)アクリレートと、
を含み、
前記分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートは、下記一般式1:
【化1】
一般式1
[図:0001415297000010.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であり、
分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含み、かつ
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して5質量%以上含む、光学物品用コーティング組成物。」
b 相違点
(相違点1)
「2種以上の(メタ)アクリレート」について、本件特許発明1は、「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレートの1種以上であ」る「他の(メタ)アクリレート」を含むのに対し、甲2組成物発明は、「他の(メタ)アクリレート」を含まない点。
(相違点2)
「非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート」について、本件特許発明1は、「ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であ」るのに対し、甲2組成物発明の「グラフトポリマー(A-4)」は、上記群から選ばれる1種ではない点。
(イ)判断
a 新規性について
上記相違点1及び2は、実質的な差異であることは明らかであるから、本件特許発明1は、甲2組成物発明と同一ではない。
b 進歩性について
事案に鑑み、上記相違点1について検討する。
甲2には、「フォトクロミック組成物の粘度上昇を抑え、且つ(A)重合性官能基含有グラフトポリマーによるフォトクロミック性向上効果をより効果的に発揮させるために」配合する「(B)重合性モノマー」として挙げることができる「(B1)ラジカル重合性モノマー」が、「(メタ)アクリル系重合性モノマー、ビニル基を有するビニル系重合性モノマー、アリル基を有するアリル系重合性モノマー、シルセスキオキサン系重合性モノマーに分類される」ことが記載されており(【0055】~【0057】)、「(メタ)アクリル系重合性モノマー」の具体例として、本件特許明細書の実施例において「他の(メタ)アクリレート」として使用されている「ネオペンチルグリコールジメタクリレート」を含む非常に多数の(メタ)アクリルモノマーが例示されている(【0058】)。
しかしながら、甲2には、「(B)重合性モノマー」として、「(メタ)アクリル系重合性モノマー」だけでなく、その他にも非常に多数の重合性モノマーが記載されており(【0055】~【0097】)、「(B)重合性モノマー」として、「(メタ)アクリル系重合性モノマー」である「14G」が使用されている甲2組成物発明において、他の「(B)重合性モノマー」を更に加える場合に、特に「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」を使用する動機付けはない。
したがって、当業者であっても、甲2成物発明に基づいて上記相違点に係る本件特許発明1の構成を満たすものとすることは、容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
以上のことから、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。また、本件特許発明1は、当業者であっても、甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明2も、本件特許発明1と同じ理由により、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
エ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲2組成物発明とを対比すると、2種以上の(メタ)アクリレートについて、本件特許発明3は、「分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレートを更に含」むのに対し、甲2組成物発明は、「他の(メタ)アクリレート」を含まない点で少なくとも相違する。
そうすると、本件特許発明3も、本件特許発明1と同じ理由により、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
オ 本件特許発明4~14について
本件特許発明4~14は、本件特許発明1又は本件特許発明3の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明4~14も、本件特許発明1又は本件特許発明3と同じ理由により、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)甲3を主引例とする場合
ア 甲3に記載された発明
甲3の【0235】表3の実施例15の「フォトクロミックコーティング液」から把握される発明を「甲3コーティング液発明」という。
イ 本件特許発明1について
(ア)対比、一致点・相違点
本件特許発明1と甲3コーティング液発明を対比すると、両者は下記aの点で一致し、また、下記bの点で相違する。
a 一致点
「フォトクロミック化合物および2種以上の(メタ)アクリレートを含み、
前記2種以上の(メタ)アクリレートは、
分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートと、
非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、
他の(メタ)アクリレートと、
を含み、
前記分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートは、下記一般式1:
【化1】
一般式1
[図:0001415297000011.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であり、
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、
分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含み、かつ
前記非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して5質量%以上含む、光学物品用コーティング組成物。」
b 相違点
「他の(メタ)アクリレート」について、本件特許発明1は、「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレートの1種以上であ」るのに対し、甲3コーティング液発明は、「MSC-SQ」及び「GMA」が、いずれも「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」ではない点。
(イ)判断
a 新規性について
上記相違点は、実質的な差異であることは明らかであるから、本件特許発明1は、甲3コーティング液発明と同一ではない。
b 進歩性について
上記相違点について検討する。
甲3には、「((I-4)他のラジカル重合性単量体)
本発明で使用するラジカル重合性単量体(I)は、上述した2官能重合性単量体(I-1)、ラジカル重合性シルセスキオキサン成分(I-2)、多官能重合性単量体(I-3)以外の重合性単量体を含むこともできる。」と記載されており(【0074】)、「他のラジカル重合性単量体(I-4)」として使用することができる「アルカンジオールジ(メタ)アクリレート」の具体例として、本件特許明細書の実施例において「他の(メタ)アクリレート」として使用されている「ネオペンチルグリコールジメタクリレート」を含む非常に多数の「アルカンジオールジ(メタ)アクリレート」が挙げられている(【0091】)。
また、甲3には、「その他のラジカル重合性単量体(I-4)として、一般式(4)、(5)で示される単官能重合性単量体、ウレタン(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレートを、それぞれ、単独或いは組み合わせで使用することにより、硬化物の硬度やフォトクロミック特性をさらに向上させ、或いはフォトクロミック硬化性組成物の粘度等の物性を適宜の範囲に調整することができる。その他、スチレン系モノマーも配合することが可能である。」と記載されている(【0097】)。
しかしながら、甲3には、「他のラジカル重合性単量体(I-4)」として、「アルカンジオールジ(メタ)アクリレート」だけでなく、その他にも非常に多数の重合性単量体が記載されており(【0074】~【0097】)、「他のラジカル重合性単量体(I-4)」として、「GMA」が使用されている甲3コーティング液発明において、これら多数の重合性単量体の中から、「GMA」に代えて、あるいは、「GMA」に更に加えて「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」を使用する動機付けはない。
したがって、当業者であっても、甲3コーティング液発明に基づいて上記相違点に係る本件特許発明1の構成を満たすものとすることは、容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
以上のことから、本件特許発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえない。また、本件特許発明1は、当業者であっても、甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明2も、本件特許発明1と同じ理由により、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
エ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲3コーティング液発明とを対比すると、2種以上の(メタ)アクリレートについて、本件特許発明3は、「分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレートを更に含」むのに対し、甲3コーティング液発明は、「MSC-SQ」及び「GMA」が、いずれも「分子量400以下の非環状の2官能(メタ)アクリレート」ではない点で相違する。
そうすると、本件特許発明3も、本件特許発明1と同じ理由により、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
オ 本件特許発明4~14について
本件特許発明4~14は、本件特許発明1又は本件特許発明3の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明4~14も、本件特許発明1又は本件特許発明3と同じ理由により、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
2 理由3(サポート要件)について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び請求項3が、上記「第3」のとおりに訂正されたことにより、請求項1、3及び請求項1、3を直接又は間接的に引用する請求項2、4~14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。
したがって、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。
(1)令和6年6月19日に提出された意見書について
特許異議申立人は、令和6年6月19日に提出された意見書において、「訂正請求項1及び訂正請求項3では、「分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」、「分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」がそれぞれ特定されている。しかしながら、本件の実施例【0034】~【0037】には、上記「分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」又は「分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」として、ポリエチレングリコールジメタクリレート(分子量736)が開示されているのみである。従って、訂正請求項1及び訂正請求項3の一般式1における、R(アルキレン基)の炭素数によって、例えば分子量が1000を超えるような非環状の2官能メタクリレートによって、課題を解決できることは示されていない。
また、訂正請求項1では、「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」が特定され、訂正請求項2では、「分子量400以下の非環状の2官能の(メタ)アクリレート」が特定されている。しかしながら、本件の実施例【0034】~【0037】には、上記「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」として、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(分子量240)を、(メタ)アクリレートの合計100質量%に対して、20質量%用いた例しか記載されていない。従って、分子量が非常に小さいもの、化学構造に分岐鎖を有しないもの、含有量が非常に多いもの等が訂正請求項1の範囲に含まれるところ、その範囲の全てに亘って課題を解決できることは示されていない。」と主張している(以下「主張2」という。)。
そこで、上記主張2について検討するに、訂正請求項1及び訂正請求項3では、「分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」及び「分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」について、「下記一般式1:
・・・中略・・・
一般式1
[図:0001415297000012.jpg]
により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、一般式1中、Rはアルキレン基を表し、nは2以上であ」ることが特定されている。
ここで、本件の実施例【0034】~【0037】には、上記「分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」又は「分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」として、特許異議申立人が主張するポリエチレングリコールジメタクリレート(分子量736)を使用した実施例1だけでなく、ポリエチレングリコールジメタクリレート(分子量536)を使用した実施例2も記載されており、「発色濃度の観点から、実施例1、2の眼鏡レンズが、比較例1、2の眼鏡レンズより優れている」ことも記載されている(【0043】、【図1】)。
また、本件特許明細書の【0014】には、「上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、500以上である。分子量が500以上の非環状の2官能メタクリレートを非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートとともに含むことが、上記組成物から形成されるフォトクロミック層において、光照射を受けたフォトクロミック化合物が高濃度で発色可能な理由と推察される。・・・中略・・・。上記非環状の2官能メタクリレートの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。」と記載されており、本件特許発明の課題を解決するためには、上記「分子量600以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」又は「分子量500以上2000以下の非環状の2官能メタクリレート」の分子量は500以上であればよく、「2000」という分子量の上限は、「高濃度で発色可能」という本願発明の課題とは直接関係のない「フォトクロミック層の高硬度化」のために規定されたものである。
そして、上記「一般式1により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレート」において、分子量が異なるのは、一般式1中のアルキレン基(R)の種類又はアルキレンオキサイド(RO)の繰り返し数(n)を変更した場合のみであり、これらのアルキレン基(R)の種類又はアルキレンオキサイド(RO)の繰り返し数(n)のみが異なる「一般式1により表されるポリアルキレングリコールジメタクリレート」が類似の性質を示すことは、本件出願時の技術常識であり、当該類似の性質は、上記非環状の2官能メタクリレートの分子量が500~2000程度で維持されるものと認められる。
また、本件特許明細書の【0034】~【0037】には、特許異議申立人の主張どおり、上記「分子量400以下の2~5官能の(メタ)アクリレート」として、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(分子量240)を、(メタ)アクリレートの合計100質量%に対して、20質量%用いた例しか記載されていないが、本件特許明細書の【0016】に「他の(メタ)アクリレートは、例えば組成物の粘度調整等のために使用することができる。」と記載されているように、「他の(メタ)アクリレート」は、組成物の粘度調整等に使用されるものであるから、使用者が求める組成物の粘度等に応じて、その分子量や化学構造、含有量を適宜変更可能なものである。
したがって、本件出願時の技術常識に照らせば、請求項1及び請求項3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるものと認められる。また、他の従属項においても同様である。従って、請求項1~14は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されており、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。
第6 取消理由通知書により通知しなかった特許異議の申立ての理由の概要
令和6年1月23日付け取消理由通知書により特許権者に通知しなかった特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
1 進歩性(甲4を主引例とした場合)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲4に記載された発明に基づいて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
なお、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、本件訂正請求により訂正する前の本件特許の請求項1~14に係る発明に対してなされたものである。
第7 取消理由通知書により通知しなかった特許異議の申立ての理由についての合議体の判断
1 進歩性(甲4を主引例とした場合)
甲4の実施例16、22のフォトクロミック硬化性組成物は、「分子量600以上の非環状メタクリレート」ではなく「分子量600以上の非環状アクリレート」を含有する点で本件特許発明1と相違し、また、「分子量500以上の非環状メタクリレート」ではなく「分子量500以上の非環状アクリレート」を含有する点で本件特許発明3と相違する。
そして、本件特許明細書の【0034】~【0044】及び【図1】~【図2】に記載されているように、置換基が「アクリロイル基」であるか「メタクリロイル基」であるかのみが異なる「分子量500以上の非環状の2官能(メタ)アクリレート」を含有する「実施例1」と「比較例2」、「実施例2」と「比較例1」の評価結果を比較すると、発色濃度の観点から、「実施例1」の眼鏡レンズが「比較例2」の眼鏡レンズより優れており、また、「実施例2」の眼鏡レンズが「比較例1」の眼鏡レンズより優れているという、当業者が予測できない顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1、3及びは、当業者であっても、甲4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本件特許発明1又は3を直接あるいは間接的に引用する本件特許発明2、4~14についても同様である。
第8 むすび
本件特許発明1~14は、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1~14を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701196