特許異議申立
2023-700297
屋根および屋根構造体
- 審判番号
- 2023-700297
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-236267
- 登録番号
- 7143203
- 請求日
- 2023年03月17日
- 審決日
- 2023年06月29日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】YKK AP株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人樹之下知的財産事務所
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 前川 慎喜
- 審判官 ▲高▼橋 祐介
- 審判官 蔵野 いづみ
- 分類
- P1651.113-Y (E04D) / P1651.121-Y (E04D) / P1651.536-Y (E04D) / P1651.537-Y (E04D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7143203号発明「屋根および屋根構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7143203号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7143203号の請求項1~4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成30年12月18日に特許出願されたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 4年 2月25日付け:拒絶理由通知
令和 4年 4月21日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 4年 7月 5日付け:特許査定
令和 4年 9月16日 :特許権の設定登録
令和 4年 9月28日 :特許掲載公報発行
令和 5年 3月17日 :特許異議の申立て(特許異議申立人藤江桂子)
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~4に係る発明は、令和4年4月21日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本件特許発明1」等という。)。なお、AからRの記号は、分説するため合議体が付与した。以下A等を付した事項を「特定事項A」等という。
【請求項1】
A 屋根枠内に屋根パネルが配置される屋根であって、
B 前記屋根枠は、第一枠材と、前記第一枠材に直交する第二枠材とを備えており、
C 前記第二枠材には、前記屋根パネルを押えるパネル押え部材が取り付けられており、
D 前記第一枠材の端部および前記第二枠材の端部によって構成される屋根コーナーには、前記第一枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第一端板部と、前記第二枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第二端板部とを有する付着端体が配置されており、
E 前記粘着剤は硬化後にも粘着性を備える特性を有しており、
F 前記第一端板部の上縁部には、前記パネル押え部材と干渉しないように凹んだ凹み部が形成されている
G ことを特徴とする屋根。
【請求項2】
H 請求項1に記載の屋根において、
I 前記付着端体は、前記第一端板部および前記第二端板部のうちの少なくとも一方の端板部から突出した突片部を有しており、
J 前記粘着剤は、前記一方の端板部のうち前記第一枠材および前記第二枠材のうちの少なくとも一方の枠材に対向する面と、前記突片部のうち前記一方の枠材の内面または外面に対向する面とに塗布されており、
K 前記一方の端板部における前記粘着剤は、前記一方の枠材の端面に付着しており、
L 前記突片部は、前記一方の枠材の内面または外面に付着する
M ことを特徴とする屋根。
【請求項3】
N 請求項1または請求項2に記載の屋根において、
O 前記付着端体は、前記第一端板部および前記第二端板部を有したキャップ部材と、前記キャップ部材の外側を覆うキャップカバーとを備えている
P ことを特徴とする屋根。
【請求項4】
Q 支柱と、前記支柱に固定された梁と、前記梁に設置された請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の屋根とを備える
R ことを特徴とする屋根構造体。
第3 特許異議の申立てについて
特許異議申立人(以下「申立人」という。)は、下記甲第1号証から甲第13号証(以下、申立人が提出した各甲号証を「甲1」等と略して示す。)を提出した。
甲1:「LIXIL パワーアルファ標準タイプ 取付け説明書」 株式会社 LIXIL 2015年3月1日発行
甲2:シャープ化学工業株式会社のホームページをプリントアウトしたもの(2023年3月2日取得)
甲3:三洋工業株式会社のホームページをプリントアウトしたもの(2023年3月2日取得)
甲4:特開平2-92984号公報
甲5:実公平6-36131号公報
甲6:実公平4-42945号公報
甲7:実公平4-28973号公報
甲8:特開平9-137618号公報
甲9:特開2014-194146号公報
甲10:特開平8-296339号公報
甲11:特開2004-116255号公報
甲12:特開2003-74155号公報
甲13:特開2008-179965号公報
そして、特許異議申立書(以下「申立書」という。)の第9頁から第10頁の「3 申立ての理由」「(3)申立ての根拠」の項、及び、第52頁の「(5) むすび」の項に記載された条文に鑑み、申立理由を整理すると、以下の申立理由を申立人は主張している。
(1) 申立理由1(新規性)
本件特許発明1~3は、甲1記載の発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2) 申立理由2(進歩性)
本件特許発明1~4は、甲1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許発明1~4は、甲11記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3) 申立理由3(サポート要件)
本件特許発明1~4は、「粘着剤」に関して、「粘着剤は硬化後にも粘着性を備える特性を有しており、」と特定しているが、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、UV硬化型の粘着剤のみしか記載されていない。
また、本件特許発明1~4は、「粘着剤は硬化後にも粘着性を備える特性を有しており、」と特定することにより、「粘着性」についての特定を行っているが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「粘着剤5の粘度は、常温で200~2000Pa・sであり」と、「粘度」で特定されており、本件特許発明1~4における粘着性は本件特許明細書の発明の詳細な説明によりサポートされていない。
よって、本件特許発明1~4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(4) 申立理由4(明確性要件)
ア 本件特許発明1~4は、「硬化後にも粘着性を備える特性」と特定しているが、一般的に、シール用粘着剤は徐々に自然硬化し、及び/又は硬化処理により硬化し、これらの硬化後も全体又は部分的に粘着性を有するが、徐々に自然硬化する場合が含まれると、上記「特性」がいつの時点におけるどのような硬化を意味するのか不明確であり、「硬化後」とは、どのような処理又は過程を意味するものであるのか不明確であり、さらに、「硬化後にも粘着性を有する特性」が例えば、温湿度等の環境により粘着性の変化度は異なるから、粘着剤の使用環境によって、同じ「物」であるにもかかわらず技術的範囲が異なることになり「物」として一義的に特定することができず、発明の技術的範囲が不明確である。
イ 本件特許発明1~4は、「粘着性」と特定しているが、「粘着性」の定義が不明確であり、また、どの程度の粘着性を有するのかも不明確である。
ウ 本件特許発明1~4における「塗布された第一端板部」、「塗布された第二端板部」は製造方法で特定されており、物として、枠材又は端板部に粘着剤がどのように付着した構造であるのか不明確である。
エ 以上のことから、本件特許発明1~4は、明確でなく、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(5) 申立理由5(実施可能要件)
本件特許明細書には、「硬化後にも粘着性を備える特性」を有する粘着剤について、当業者が作り、使用できる程度には記載されていない。
また、硬化処理としてUV照射を行う場合に、どのような方法で、どの程度のUVを照射するのかが説明されていない。
さらに、「粘着性」に関して、どの程度の粘着度を意味するのか、当業者が実施できる程度に説明されていない。
よって、本件特許発明1~4に対応する発明の詳細な説明は、当業者が当該発明を実施可能なように、明確かつ十分に記載されたものではなく、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
第4 当審合議体の判断
1 各甲号証の記載事項
(1) 甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1に記載された事項
甲1である「LIXIL パワーアルファ標準タイプ 取付け説明書」は、本件特許の出願前である2015年3月1日に頒布された刊行物であり、甲1には、以下の記載がある。
(ア) 甲1の第5頁~第8頁には、F型、RA型、RB型及びL型の4種類の構造物が記載されているところ、L型に着目すると、第8頁に、姿図として以下の図面が記載されている。
第8頁の姿図 L型
「
[図:0001399416000001.jpg]
」
(イ) 甲1の第16頁及び第17頁には、上記のF型、RA型、RB型及びL型の4種類の構造物のうち、RB型の構造説明図が記載されている。なお、上記の4種類の構造物は、構造物を構成する各部材に同じ名称の部材が用いられていることから、下記のRB型の構造説明図に記載された部材は、L型の構造物においても同様に用いられるものと認められる。
「
[図:0001399416000002.jpg]
」
「
[図:0001399416000003.jpg]
」
(ウ) 甲1の第3頁及び第4頁には、梱包明細表として、L型に関して、以下の図面が示されている。
「
[図:0001399416000004.jpg]
」
「
[図:0001399416000005.jpg]
」
「
[図:0001399416000006.jpg]
」
「
[図:0001399416000007.jpg]
」
「
[図:0001399416000008.jpg]
[図:0001399416000009.jpg]
」
「
[図:0001399416000010.jpg]
」
(エ) 甲1の第13頁には、シーリング個所を示す図として、以下の図面が示されている。
「
[図:0001399416000011.jpg]
」
(オ) 甲1の第18頁には、構造説明図として、前枠端部キャップの取付け部分を含めた構造物全体の斜視図が示されている。
「
[図:0001399416000012.jpg]
」
(カ) 甲1の第18頁には、構造説明図として、前枠端部キャップの取付けに関して以下の図面が示されている。
「
[図:0001399416000013.jpg]
」
イ 甲1の記載より認定できる事項
甲1の記載より、以下の点が認定できる、なお、下線は、甲1発明の認定に関連する認定部分であり、合議体が付与した。以下同様。
(ア) 上記ア(ア)に示した姿図より、甲1に記載されたL型の構造物は、2本の支柱に支えられた片持ち梁状の屋根構造を備えたものであることが看取でき、当該屋根構造は、互いに直交する二組の平行な位置関係にある部材により、その外郭構造が構成されるものであることが看取できることから、「屋根構造であって、当該屋根構造は、互いに直交する二組の平行な位置関係にある部材により、その外郭構造が構成されるものである点」(以下「認定事項ア」という。)が認定できる。
また、ア(イ)に示した構造説明図を参照すると、屋根構造の外郭構造は、両端に設けられた2本の端部垂木(4)と、前枠(3)及び垂木掛け(1)により構成されることが看取できることから、「屋根構造の両端に設けられた2本の端部垂木(4)と、前枠(3)及び垂木掛け(1)により、外郭構造が構成される点」(以下「認定事項イ」という。)が認定できる。
そして、2本の端部垂木(4)と、前枠(3)及び垂木掛け(1)により構成された外郭構造には、複数枚の屋根パネル(7)が取り付けられ、端部垂木(4)は、その上に設けられる端部垂木カバー(8)により、屋根パネル(7)を挟持することが看取できることから、「外郭構造には、複数枚の屋根パネル(7)が取り付けられ、端部垂木(4)は、その上に設けられる端部垂木カバー(8)により、屋根パネル(7)を挟持する点」(以下「認定事項ウ」という。)が認定できる。
(イ) 上記ア(オ)に示す構造物全体の斜視図を参照すると、前枠(3)と端部垂木(4)は、その接続部において、前枠端部キャップ(9)が設けられることが看取できることから、「前枠(3)と端部垂木(4)は、その接続部において、前枠端部キャップ(9)が設けられる点」(以下「認定事項エ」という。)が認定できる。
また、上記ア(カ)に示す前枠端部キャップの取付けに関する構造説明図を参照すると、前枠端部キャップ(9)は、その内側に前枠アタッチAを有することが看取できることから、「前枠端部キャップ(9)は、その内側に前枠アタッチAを有する点」(以下「認定事項オ」という。)が認定できる。
そして、上記ア(イ)に示す梱包明細表の組立て部品セット(L型)及び上記ア(カ)に示す前枠端部キャップの取付けに関する構造説明図を参照して前枠アタッチAの構成を検討すると、前枠アタッチAは、前枠(3)の端部が配置される平板部を有することが看取できることから、「前枠アタッチAは、前枠(3)の端部が配置される平板部を有する点」(以下「認定事項カ」という。)が認定できる。
(ウ) 上記ア(エ)に示すシーリング個所を示す図のうち、右端の図には、前枠(3)に接続された前枠アタッチAに、端部垂木(4)が接続された状態が記載されており、上記ア(カ)に示す前枠端部キャップの取付けに関する構造説明図のうち、下側の図を参照すると、前枠アタッチAは、前枠(3)の端部が配置される当接する平板部と直交する面を有し、その面に端部垂木(4)の端部が配置されて接続されていることが看取できることから、「前枠アタッチAは、前枠(3)の端部が配置される平板部と直交する面を有し、その面に端部垂木(4)の端部が配置されて接続された点」(以下「認定事項キ」という。)が認定できる。
(エ) 上記ア(エ)に示すシーリング個所を示す図のうち、左端の図には、前枠アタッチAに「先シーリング」をする個所が示されており、その個所が前枠(3)の端部が当接する平板部であり、また、右端の図には「後シーリング」をする個所として、端部垂木(4)の端部が配置される部分の周囲であることが看取できることから、「前枠アタッチAの、前枠(3)の端部が配置される平板部には「先シーリング」がされ、端部垂木(4)の端部が配置される部分の周囲には「後シーリング」がされる点」(以下「認定事項ク」という。)が認定できる。
(オ) 上記ア(カ)に示す前枠端部キャップの取付けに関する構造説明図の下側の図を参照すると、端部垂木カバー(8)が前枠アタッチAの上部まで延長されていることが看取でき、その部位において、前枠アタッチAが端部垂木カバー(8)と干渉しないための凹部が設けられたことが看取できることから、「端部垂木カバー(8)は、前枠アタッチAの上部まで延長され、前枠アタッチAは、その部位において、端部垂木カバー(8)と干渉しないための凹部が設けられた点」(以下「認定事項ケ」という。)が認定できる。
ウ 甲1発明
上記ア及びイより、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。なお、a等の符号は、本件特許発明1等に概略対応させて分説するため合議体が付与した。
「a 屋根構造であって、
b 当該屋根構造は、互いに直交する二組の平行な位置関係にある部材である屋根構造の両端に設けられた2本の端部垂木(4)と、前枠(3)及び垂木掛け(1)により、外郭構造が構成され(認定事項ア、認定事項イ)、
c 外郭構造には、複数枚の屋根パネル(7)が取り付けられ、端部垂木(4)は、その上に設けられる端部垂木カバー(8)により、屋根パネル(7)を挟持しており(認定事項ウ)、
d 前枠(3)と端部垂木(4)は、その接続部において、前枠端部キャップ(9)が設けられ(認定事項エ)、前枠端部キャップ(9)は、その内側に前枠アタッチAを有し(認定事項オ)、前枠アタッチAは、前枠(3)の端部が配置される平板部を有し(認定事項カ)、前枠アタッチAは、前枠(3)の端部が配置される平板部と直交する面を有し、その面に端部垂木(4)の端部が配置されて接続され(認定事項キ)、前枠アタッチAの、前枠(3)の端部が配置される平板部には「先シーリング」がされ、端部垂木(4)の端部が配置される部分の周囲には「後シーリング」がされ(認定事項ク)、
f 端部垂木カバー(8)は、前枠アタッチAの上部まで延長され、前枠アタッチAは、その部位において、端部垂木カバー(8)と干渉しないための凹部が設けられた(認定事項ケ)
g 屋根構造。」
(2) 甲11に記載された事項及び甲11発明
ア 甲11に記載された事項
甲11には、以下の記載がある。
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、支柱により片持ち状に支持される2組の片持ちカーポートを対向させて、各屋根体を中央枠を介して連結する合掌カーポートの構造に関し、より詳細には中央枠を伝う水を各屋根体の側方に排水する合掌カーポートの水処理構造に関する。」
(イ) 「【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1、図2はそれぞれ本発明の実施形態における合掌カーポートの正面図、側面図であり、図3、図4、図5はそれぞれ中央枠と各前枠の連結部の斜視図、上面図、平面図であり、図6は中央枠と各前枠を連結する際の組立図、図7は連結部材の斜視図である。
【0011】
本実施例における合掌カーポート1は、図1、図2に示すように、支柱16が屋根体10を片持ち状に支持してなる2組の片持ちカーポート2、2を対向させて形成されるものである。そして、この2組の片持ちカーポート2、2の屋根体10、10のそれぞれ対向する中央側側面部13、13を中央枠30と結合することによって連結してなる。本実施例における屋根体10、10はそれぞれ同形状でかつ同じ大きさであり、各屋根体10、10の前枠11、11同士、及び後枠12、12同士が面一状になるように、屋根体10、10は連結される。ここで、本実施例においては前枠11及び後枠12は中空状であり、断面は略半円形状である。また、中央枠30もその内部に中空部31を有する。
さらに、屋根体10、10の屋根パネル15、15を伝って流れてきた雨水を集水すると共に、地上に排水するための雨樋17、17が、各屋根体10、10の支柱側側面部14、14から各屋根体10、10を支持する支柱16、16にわたって設けられている。
【0012】
次に、本発明の特徴である合掌カーポート1の水処理構造について説明する。図3は中央枠30と各前枠11、11の連結部の拡大斜視図である。後枠12については、前枠11と同形状であり、従って連結も同様にして行われるので、ここでは説明は省略する。
中央枠30と各屋根体10、10の中央側側面部13、13、本実施例においては最中央側の屋根パネル15、15が結合され、また、中央枠30と前枠11、11はそれぞれ螺子(図示せず)で結合される。さらに、各前枠端部11a、11aが対向する対向空間部20には、前枠11の断面と略同形状のキャップ50が、また各前枠11、11上部には押え材51、51が取付けられている。
この状態においては、屋根体10の屋根パネル15上に降った雨は、その傾斜によって支柱側側面部14まで流れ、雨樋17によって集水され、地上に排水される。しかし、中央枠30上に降った雨の一部は、中央枠30をそのまま伝い、カーポート前部または後部からそのまま垂れ落ち、車の利用者がこの垂れ落ちた雨水によって濡れることがあり得る。
【0013】
そこで本発明においては、図7に示す連結部材40を用いる。この連結部材40は差込部41と水受け部42からなり、塩化ビニル等で形成される。差込部41はその外面が前枠11の内面と略合致するような略半円形状をした中空状に形成されている。また差込部41の外表面には、長手方向に沿って複数の線状凸部41a、41aが所定の間隔で形成されている。この凸部41a、41aは差込部41を前枠端部11aに差込んだ際に前枠11の内面と当接し、これによって差込部41の差込状態が容易にかつ強固に維持される。この差込部41は図4、図5に示すように、前枠端部11aにその略全部が差込まれる。
一方、水受け部42は上面が開口した略方形状の容器状に形成され、その略半分が差込部41と略直交して連通しており、したがって連結部材40全体としては上面からみると略L字状の形をしている。水受け部42の横幅(ここでは連結部剤40の前枠11への差込方向を横方向とする)は図5に示すように、中央枠30の中空部31の幅の略半分となっており、水受け部42の残り略半分が、図4に示すように中央枠端部30aに差込まれる。この水受け部42によって、中央枠30を伝ってカーポート前部または後部に垂れ落ちる雨水を集水する。水受け部42の底面42aは、図5に示すように、中央枠30に差込む側、及び差込部41と対峙する側が高く、差込部41の中空内部と連通する連通部43側が低くなるような下方傾斜状に形成されている。これにより、水受け部42が集水した雨水が差込部41側へ流れやすくなっている。
また、差込部41と水受け部42の連通部43は、図5に示すように、差込部41側の底面が低くなるような段部43aを有している。これにより、水受け部42から差込部41に流れ込んだ水が再び水受け部42側に戻らないようになっている。
【0014】
このような差込部41と水受け部42からなる連結部材40を、中央枠30と各前枠11、11及び各後枠12、12との連結に用いることにより、中央枠30を伝う雨水はこの中央枠30に差込んだ連結部材40の水受け部42によって集水され、差込部41、前枠11または後枠12の内部を通じ、その傾斜によって支柱側側面部14まで流れ、雨樋17又はその他の手段によって集水され、地上に排水される。これによって中央枠30を伝う雨水は、そのままカーポート前部又は後部に垂れ落ちることなく、車の利用者がこの垂れ落ちた雨水によって濡れることもなくなる。
【0015】
また、各前枠端部11a、11aが対向する対向空間部20には、キャップ50が取付けられる。このキャップ50は前枠11の外表面と略合致する略円弧状に形成されており、またその上部及び下部には平板状の取付部50a、50bを有する。この取付部50a、50bを中央枠端部30aの上部及び下部に挿嵌することによって、キャップ50を固定する。またこのとき、キャップ50の左右両端部は、各前枠11、11と重合する。
【0016】
なお、差込部41はその形状を前枠11の断面形状と略同形状である略半円形状としたが、例えば前枠11の断面形状が方形状であれば、これに合わせてその形状を方形状としてよく、同様に前枠11の断面形状に応じて自由に変更可能である。また、差込部41はその内部を中空状とした。しかし本発明においてはこれに限ることなく、例えば差込部41の上部を切欠いた形状としてもよい。また差込部41の役割が前枠11と中央枠30との連結状態の保持、及び水受け部41から流れ込んでくる水を前枠11内部に排水することであるから、これに必要な機能を果たす形状であればどのような形状でもよい。さらに差込部41はその略全部が前枠端部11aに差込まれるとしたが、これに限らず、その一部を差込む構成でもよい。または前枠端部11aに差込むのではなく、接着する構成でもよい。」
(ウ) 「【0018】
次に、このような合掌カーポート1の水処理構造の組立について説明する。図6は中央枠30と各前枠11、11を連結する際の組立図である。まず、対向する各前枠端部11a、11aにそれぞれ連結部材40、40の差込部41、41を差込む。差込部41を前枠端部11aに差込む際には、前枠11と差込部41の隙間から、流れ込んだ水が漏れぬよう、前枠端部11aにコーキング剤52によってコーキングを施してから差込部41を差込む。またコーキング剤以外でも、前枠11と差込部41の隙間を埋め、漏水を防止できるものであればよい。」
(エ) 「【図1】
[図:0001399416000014.jpg]
」
(オ) 「【図2】
[図:0001399416000015.jpg]
」
(カ) 「【図3】
[図:0001399416000016.jpg]
」
(キ) 「【図4】
[図:0001399416000017.jpg]
」
(ク) 「【図5】
[図:0001399416000018.jpg]
」
(ケ) 「【図6】
[図:0001399416000019.jpg]
」
イ 甲11の記載より認定できる事項
甲11の記載より、以下の点が認定できる、
(ア) 図1の記載を参照すると、片持ちカーポート2の屋根体10は、互いに平行に設けられた前枠11と後枠12により前後方向が規定され、また、左右方向は、中央側側面部13と支柱側側面部14により左右方向が規定されていることが看取できる。
そして、中央側側面部13に中央枠30が設けられていることを勘案すると、支柱側側面部14にも枠材(以下「支柱側枠材」という。)が設けられていると認められ、中央枠30と支柱側枠材とは互いに平行に設けられていることが認められる。
さらに、前枠11と後枠12に対して、中央枠30と支柱側枠材とは互いに直交しており、前枠11と後枠12と、中央枠30と支柱側枠材により、枠構造が構成され、その内部に屋根パネル15が設けられていることが看取できる。
以上のことから、「片持ちカーポート2の屋根体10は、互いに平行に設けられた前枠11と後枠12と、互いに平行に設けられた中央枠30と支柱側枠材により、枠構造が構成され、前枠11と後枠12に対して、中央枠30と支柱側枠材は直交している点」(以下「認定事項サ」という。)が認定できる。
(イ) 図3の記載を参照すると、「屋根パネル15が前枠11及び中央枠30に固定される点」(以下「認定事項シ」という。)が認定できる。
また、図6の記載を参照すると、「屋根パネル15は、前枠11と押え材51により挟持される点」(以下「認定事項ス」という。)が認定できる。
(ウ) 図6の記載を参照すると、「連結体40の水受け部42が中央枠30に差し込まれると、連結体40の差込部41の側面に中央枠30の端面が配置される点」(以下「認定事項セ」)が認定でき、また、「連結体40の差込部41が前枠11に差し込まれると、前枠端部11aが水受け部42の側面に配置される点」(以下「認定事項ソ」)が認定できる。
ウ 甲11発明
上記ア及びイより、甲11には、次の発明(以下「甲11発明」という。)が記載されていると認める。なお、a等の符号は、本件特許発明1等に概略対応させて分説するため合議体が付与した。
「a 支柱により片持ち状に支持される2組の片持ちカーポート2、2を対向させて、この2組の片持ちカーポート2、2の屋根体10、10のそれぞれ対向する中央側側面部13、13を中央部が中央側側面部13、13を中央枠30と結合することによって連結してなる合掌カーポートの屋根体10であって(【0001】、【0011】)、
b 屋根体10は、互いに平行に設けられた前枠11と後枠12と、互いに平行に設けられた中央枠30と支柱側枠材により、枠構造が構成され、前枠11と後枠12に対して、中央枠30と支柱側枠材は直交しており(認定事項サ)、前枠11及び後枠12は中空状で、断面は略半円形状であり、中央枠30もその内部に中空部31を有し(【0011】)、
c 前枠11上部には押え材51が取付けられ(【0012】)、屋根パネル15は、前枠11及び中央枠30に固定されるとともに(認定事項シ)、前枠11と押え材51により挟持され(認定事項ス)、
d 差込部41と水受け部42からなる連結部材40を、中央枠30と前枠11との連結に用い(【0014】)、連結部材40は、全体としては上面からみると略L字状の形をしており、差込部41はその外面が前枠11の内面と略合致するような略半円形状をした中空状に形成され、この差込部41は前枠端部11aにその略全部が差込まれ、水受け部42は上面が開口した略方形状の容器状に形成され、その略半分が差込部41と略直交して連通しており、水受け部42の横幅は中央枠30の中空部31の幅の略半分となっており(【0013】)、水受け部42が中央枠30に差し込まれると、差込部41の側面に中央枠30の端面が配置され(認定事項セ)、差込部41が前枠11に差し込まれると、前枠端部11aが水受け部42の側面に配置され(認定事項ソ)、差込部41を前枠端部11aに差込む際には、前枠端部11aにコーキング剤52によってコーキングを施してから差込部41を差込む(【0018】)、
g 屋根体10(【0011】)。」
(3)甲2~10、12、13に記載された事項
ア 甲2に記載された事項
甲2には、コーキング材(シーリング材)には、大きく分けると、湿気硬化型、乾燥硬化型、非硬化型、混合反応硬化型があり、乾燥硬化型としてブチルゴム系シーリング材があり、粘着力強であり、硬化後もべたつきが残ることが記載されている。
イ 甲3に記載された事項
甲3には、建材用のシーリング材として、乾燥硬化型のものに、ブチルゴム系のシーリング材があることが記載されている。
ウ 甲4に記載された事項
甲4の第1頁左下欄第5行~第9行、第2頁右上欄第2行~第7行、第3頁左下欄第17行~右下欄第1行、第4頁右上欄第1行~左下欄第17行等の記載を参照すると、粘着性で弾性ゴム状のアクリル系シーリング材が紫外線の照射により製造される点が記載されている。
また、第1頁右下欄第5行~第2頁左上欄第6行等の記載を参照すると、従来の技術として、シーシング材には、ブチルゴム系などがあり、それが高粘度のペースト状である点が記載されている。
エ 甲5に記載された事項
甲5の第2頁左欄第18行~第28行、右欄第19行~第27行、第1図等の記載を参照すると、屋根ふきの下地の構造において、接合部を充填材で充填することにより長期的に雨漏りしないようにする点が記載されており、使用される充填材として、ブチルゴム系の充填材が例示されている。
オ 甲6に記載された事項
甲6の第1欄第11行~第13行、第4欄第2行~第6行、第4図等の記載を参照すると、太陽電池パネル構造において、パネルをフレームに取り付けるにあたって、あらかじめブチルゴム等の流動性シーリング材をフレーム17に塗ることが記載されている。
カ 甲7に記載された事項
甲7の第1欄第18行~第20行、第3欄第38行~第42行、第1図等の記載を参照すると、建物の軒部に配設される軒樋の継手構造において、継手構造2の内面にブチル系ゴム等を塗り込んでおく点が記載されている。
キ 甲8に記載された事項
甲8の【0006】、【0007】、【0010】、図1等の記載を参照すると、柱1と屋根部Aからなるカーポートが記載されている。
ク 甲9に記載された事項
甲9の【0011】、【0013】、図5等の記載を参照すると、柱と、梁と、梁の上に設けた屋根とを備えたカーポートが記載されており、部材の突き合わせ部にシール材を充填することが記載されている。
ケ 甲10に記載された事項
甲10の【0010】、図3等の記載を参照すると、柱と屋根を備えたカーポートが記載されている、
コ 甲12に記載された事項
甲12の【0001】、【0019】、【0026】、【0032】、【0033】、図1、図7等の記載を参照すると、雨樋システムにおいて、建物の軒先の出・入隅部において軒樋の間に曲り継手を配置するにあたって、曲り継手の接続部の内周面に接着剤を塗布する点が記載されている。
サ 甲13に記載された事項
甲13の【0001】、【0018】、図3等の記載を参照すると、入隅や出隅などの家屋の軒先コーナー部で軒樋同士を接続する軒樋曲り継手において、接続により重合する軒樋の端部と軒樋曲り継手の端部には予め接着剤が塗布される点が記載されている。
2 検討
(1) 申立理由1について
ア 対比
申立理由1を検討するにあたって、本件特許発明1と甲1発明との対比を行う。
(ア) 本件特許発明1の特定事項Aに関して
甲1発明の構成cにおける「外郭構造」、「屋根パネル(7)」は、それぞれ、本件特許発明1の特定事項Aにおける「屋根枠」、「屋根パネル」に相当する。
そして、甲1発明のa及びcにおける「外郭構造に」「複数枚の屋根パネル(7)が取り付けられ」た「屋根構造」は、本件特許発明1の特定事項Aにおける「屋根枠内に屋根パネルが配置される屋根」に相当する。
よって、甲1発明は、本件特許発明1の特定事項Aに相当する構成を有する。
(イ) 本件特許発明1の特定事項Bに関して
甲1発明のbにおける「前枠(3)及び垂木掛け(1)」、「屋根構造の両端に設けられた2本の端部垂木(4)」は、それぞれ、本件特許発明1の特定事項Bにおける「第一枠材」、「第二枠材」に相当する。
そして、甲1発明のbにおける「外郭構造が」「互いに直交する二組の平行な位置関係にある部材である」「前枠(3)及び垂木掛け(1)」と「屋根構造の両端に設けられた2本の端部垂木(4)」「により構成され」ることは、本件特許発明1の特定事項Bにおける「前記屋根枠は、第一枠材と、前記第一枠材に直交する第二枠材とを備えて」いることに相当する。
よって、甲1発明は、本件特許発明1の特定事項Bに相当する構成を有する。
(ウ) 本件特許発明1の特定事項Cに関して
甲1発明のcにおける「端部垂木カバー(8)」は、本件特許発明1の特定事項Cにおける「パネル押え部材」に相当する。
そして、甲1発明のcにおける「屋根パネルを挟持する」「端部垂木カバー(8)」が「端部垂木(4)」に「設けられる」ことは、本件特許発明1の特定事項Cにおける「前記第二枠材には、前記屋根パネルを押えるパネル押え部材が取り付けられて」いることに相当する。
よって、甲1発明は、本件特許発明1の特定事項Cに相当する構成を有する。
(エ) 本件特許発明1の特定事項Dに関して
甲1発明のdにおける「前枠(3)と端部垂木(4)」の「接続部」は、本件特許発明1の特定事項Dにおける「前記第一枠材の端部および前記第二枠材の端部によって構成される屋根コーナー」に相当する。
また、甲1発明のdにおける「前枠アタッチA」は、本件特許発明1の特定事項Dにおける「付着端体」に相当する。
そして、甲1発明のdにおける「「先シーリング」がされ」る場合は、「前枠(3)の端部」が当接する部位に沿ってシーリング材を付着させるものと認められ、また、本件特許発明1における「硬化性の粘着剤」もシーリング材といえるから、甲1発明のdにおける「「先シーリング」がされ」ることと、本件特許発明の1の特定事項Dにおける「硬化性の粘着剤が塗布され」ることとは、シーリング材が塗布される点で一致し、甲1発明のdにおける「「先シーリング」がされ」た「前枠アタッチA」が「有」する「前枠(3)の端部が配置される平板部」と、本件特許発明1の特定事項Dにおける「付着端体」が「有」する「前記第一枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第一端板部」とは、「付着端体」が「前記第一枠材の端部に沿って付着する」シーリング材が「塗布された第一端板部」を「有」する点で一致する。
また、甲1発明のdにおける「「後シーリング」がされ」ることと、本件特許発明の1の特定事項Dにおける「硬化性の粘着剤が塗布され」ることとは、シーリング材が塗布される点では一致するが、「「後シーリング」がされ」る場合には、端部の当接面自体にシーリング材の塗布は行われず、端部の当接面の周囲にシーリング材の塗布が行われることになるから、その点においては、両者は相違すると認められ、甲1発明のdにおける「前枠アタッチA」が「有」する「端部垂木(4)の端部が配設されて接続され」、「端部垂木(4)の端部が配置される部分の周囲には「後シーリング」がされ」る「前枠(3)の端部が配設される平板部と直交する面」と、本件特許発明1の特定事項Dにおける「付着端体」が「有」する「前記第二枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第二端板部」とは、「付着端体」が「前記第二枠材の端部」に対応させてシーリング材が「塗布された第二端板部」を「有」する範囲において一致する。
(オ) 本件特許発明1の特定事項Fに関して
甲1発明のfにおける「端部垂木カバー(8)は、前枠アタッチAの上部まで延長され、前枠アタッチAは、その部位において、端部垂木カバー(8)と干渉しないための凹部が設けられた」ことは、本件特許発明1の特定事項Fにおける「前記第一端板部の上縁部には、前記パネル押え部材と干渉しないように凹んだ凹み部が形成されている」ことに相当する。
よって、甲1発明は、本件特許発明の特定事項Fに相当する構成を有する。
(カ) 本件特許発明1の特定事項Gに関して
甲1発明のgにおける「屋根構造」は、本件特許発明1の特定事項Gにおける「屋根」に相当する。
よって、甲1発明は、本件特許発明の特定事項Gに相当する構成を有する。
(キ) 一致点及び相違点
上記(ア)から(カ)より、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
A 屋根枠内に屋根パネルが配置される屋根であって、
B 前記屋根枠は、第一枠材と、前記第一枠材に直交する第二枠材とを備えており、
C 前記第二枠材には、前記屋根パネルを押えるパネル押え部材が取り付けられており、
D’前記第一枠材の端部および前記第二枠材の端部によって構成される屋根コーナーには、前記第一枠材の端部に沿って付着するシーリング材が塗布された第一端板部と、前記第二枠材の端部に対応させてシーリング材が塗布された第二端板部とを有する付着端体が配置されており、
F 前記第一端板部の上縁部には、前記パネル押え部材と干渉しないように凹んだ凹み部が形成されている
G 屋根。
そして、以下の点で両者は相違する。
<相違点1> (特定事項D及びEに関して)
シーリング材に関して、本件特許発明1は、シーリング材が硬化後にも粘着性を備える特性を有する硬化性の粘着剤であるのに対して、甲1発明は、シーリング材の特性が特定されていない点。
<相違点2> (特定事項Dに関して)
第二端板部におけるシーリング材に関して、本件特許発明1は、「第二端板部」が「第二枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された」ものであるから、第二枠材の端部が第二端板部に配置された時点では硬化性の粘着剤が既に塗布されていたものであるのに対して、甲1発明は、端部垂木(4)の端部が配置される部分の周囲に後シーリングすることから、端部垂木(4)の端部が配置されて接続される時点では、前枠アタッチAの端部垂木(4)の端部が配置される面にはシーリング材が塗布されていない点。
イ 判断
事案に鑑みて上記相違点2について検討する。
本件特許発明1と甲1発明とは、第二端板部に第二枠材の端部が配置される工程(平板部と直交する面に端部垂木(4)の端部が当接して接続される工程)と、第二端板部(平板部と直交する面)にシーリング材を塗布する工程に関して、その順序が逆になっており、本件特許発明1では、硬化性の粘着剤が存在する状態において第二枠材の端部が配置されるものと認められるのに対して、甲1発明は、端部垂木(4)の端部が当接して接続された後にシーリング材が塗布されることから、第二枠材の端部と第二端板部との接合面(平板部と直交する面と端部垂木(4)の端部との接合面)に着目すると、本件特許発明1では、当該接合面には塗布された硬化性の粘着剤が存在する状態で第二枠材の端部と第二端板部とが対向するのに対して、甲1発明は、「後シーリング」として、事後的にシーリング材が塗布されることから、シーリング材が平板部と直交する面と端部垂木(4)の端部との接合面まで浸潤しない場合が想定される。
してみると、本件特許発明1と甲1発明とは、第二枠材の端部と第二端板部との接合面(平板部と直交する面と端部垂木(4)の端部との接合面)においてシーリング材が存在するか否かに関して、異なる構成を有するものといえることから、本件特許発明1と甲1発明とは、実質的な相違点が存在し、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
また、本件特許発明2及び本件特許発明3は、本件特許発明1に、さらに構成要件を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明ではない。
ウ 小括
したがって、本件特許発明1の他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1、2及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許発明1、2及び3に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。
(2) 申立理由2について
ア 甲1に基づく容易性について
(ア) 対比
上記(1)において検討したとおり、本件特許発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び2において相違する。
(イ) 相違点2についての検討
上記(1)イにおいて検討したように、本件特許発明1と甲1発明とは、第二枠材の端部と第二端板部との接合面(平板部と直交する面と端部垂木(4)の端部との接合面)においてシーリング材が存在するか否かに関して、異なる構成を有するものといえる。
そして、端部垂木(4)の端部が配置される部分の周囲におけるシーリング材の塗布を、「後シーリング」から「先シーリング」に変更することについての示唆は、甲1には何ら記載も示唆もされていないとともに、甲2~13にも、シーリング材の塗布を、「後シーリング」から「先シーリング」に変更することについての記載も示唆もされていないことから、その点が本願出願前周知の事項とはいえず、本件特許発明1の上記相違点2に係る構成を、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
してみると、本件特許発明1の相違点1に係る構成について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
また、本件特許発明2から4は、本件特許発明1に、さらに構成要件を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
イ 甲11に基づく容易性について
(ア) 対比
a 本件特許発明1の特定事項Aに関して
甲11発明の構成bにおける「枠構造」、「屋根パネル15」は、それぞれ、本件特許発明1の特定事項Aにおける「屋根枠」、「屋根パネル」に相当する。
そして、甲11発明のb及びcにおける「枠構造」を「構成」する「前枠11及び中央枠30」に「屋根パネル15」が「固定され」た「屋根体10」は、本件特許発明1の特定事項Aにおける「屋根枠内に屋根パネルが配置される屋根」に相当する。
よって、甲11発明は、本件特許発明1の特定事項Aに相当する構成を有する。
b 本件特許発明1の特定事項Bに関して
甲11発明のbにおける「中央枠30と支柱側枠材」と、「前枠11と後枠12」は、それぞれ、本件特許発明1の特定事項Bにおける「第一枠材」、「第二枠材」に相当する。
そして、甲11発明のbにおける「枠構造が」「互いに平行に設けられた前枠11と後枠12と、」「前枠11と後枠12に対して」「直交して」いる「互いに平行に設けられた中央枠30と支柱側枠材により」「構成され」ることは、本件特許発明1の特定事項Bにおける「前記屋根枠は、第一枠材と、前記第一枠材に直交する第二枠材とを備えて」いることに相当する。
よって、甲11発明は、本件特許発明1の特定事項Bに相当する構成を有する。
c 本件特許発明1の特定事項Cに関して
甲11発明のcにおける「押え材51」は、本件特許発明1の特定事項Cにおける「パネル押え部材」に相当する。
そして、甲11発明のcにおける「前枠11上部に」「屋根パネル15」を「前枠11と」「挟持」する「押え材51」が「取付けられ」ることは、本件特許発明1の特定事項Cにおける「前記第二枠材には、前記屋根パネルを押えるパネル押え部材が取り付けられて」いることに相当する。
よって、甲11発明は、本件特許発明1の特定事項Cに相当する構成を有する。
d 本件特許発明1の特定事項Dに関して
甲11発明のdにおける「中央枠30と前枠11との連結」がされる部分は、本件特許発明1の特定事項Dにおける「前記第一枠材の端部および前記第二枠材の端部によって構成される屋根コーナー」に相当する。
また、甲11発明のdにおける「連結部材40」は、本件特許発明1の特定事項Dにおける「付着端体」に相当し、甲11発明のdにおける「水受け部42が中央枠30に挿入されると、」「中央枠30の端面が配置され」る「差込部41の側面」は、本件特許発明1の特定事項Dにおける「第一端板部」に相当し、甲11発明のdにおける「差込部41が前枠11に挿入されると、前枠端部11aが」「配置され」る「水受け部42の側面」は、本件特許発明1の特定事項Dにおける「第二端板部」に相当する。
そして、甲11発明のdにおける「コーキング剤52によってコーキングを施」すことと、本件特許発明1の特定事項Dにおける「硬化性の粘着剤が塗布され」ることとは、シーリング材が塗布される点で一致するものの、甲11発明は、「水受け部42の側面」に「コーキング剤52によってコーキングを施」すものではないことから、甲11発明のdにおける「前枠端部11aにコーキング剤52によってコーキングを施してから」「差込部41が前枠11に差し込まれると、前枠端部11aが」「配置され」る「水受け部42の側面」と、本件特許発明1の特定事項Dにおける「第二枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第二端板部」とは、「第二枠材の端部」が配置される「第二端板部」である点のみにおいて一致する。
よって、本件特許発明1と甲11発明とは、第一枠材の端部および第二枠材の端部によって構成される屋根コーナーには、前記第一枠材の端部が配置される第一端板部と、前記第二枠材の端部が配置される第二端板部とを有する付着端体が配置されている点で一致する。
e 本件特許発明1の特定事項Gに関して
甲11発明のgにおける「屋根体10」は、本件特許発明1の特定事項Gにおける「屋根」に相当する。
よって、甲11発明は、本件特許発明の特定事項Gに相当する構成を有する。
f 一致点及び相違点
上記aからeより、本件特許発明1と甲11発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
A 屋根枠内に屋根パネルが配置される屋根であって、
B 前記屋根枠は、第一枠材と、前記第一枠材に直交する第二枠材とを備えており、
C 前記第二枠材には、前記屋根パネルを押えるパネル押え部材が取り付けられており、
D’’前記第一枠材の端部および前記第二枠材の端部によって構成される屋根コーナーには、前記第一枠材の端部が配置される第一端板部と、前記第二枠材の端部が配置される第二端板部とを有する付着端体が配置されている
G 屋根。
そして、以下の点で両者は相違する。
<相違点3> (特定事項D及びEに関して)
シーリング材に関して、本件特許発明1は、シーリング材が、硬化後にも粘着性を備える特性を有する硬化性の粘着剤であるのに対して、甲11発明は、シーリング材の特性が特定されていない点。
<相違点4> (特定事項Dに関して)
第一端板部及び第二端板部のシーリング材の塗布に関して、本件特許発明1は、第一端板部が第一枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布され、また、第二端板部が第二枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布されたものであるのに対して、甲11発明は、連結部材40の水受け部20が差し込まれると中央枠30の端面が配置される差込部41の側面、及び、連結部材40の差込部41が前枠11に差し込まれると前枠端部11aが配置される水受け部42の側面には、シーリング材が塗布されていない点。
<相違点5> (特定事項Fに関して)
第一端板部の上縁部に関して、本件特許発明1は、パネル押え部材と干渉しないように凹んだ凹み部が形成されているのに対して、甲11発明は、中央枠30の端面が配置される差込部41の側面に凹んだ部分が形成されていない点。
(イ) 判断
事案に鑑みて上記相違点4について検討する。
甲11発明は、差込部41の側面、及び、水受け部42の側面に、シーリング材が塗布されていない点において、本件特許発明1とは異なる構成を有するものである。
そして、甲11には、差込部41の側面の前枠端部11aが水受け部42の側面に配置される部分、又は、水受け部42の側面の中央枠30の端面が配置される部分にシーリング材を塗布することについての記載や示唆されておらず、また、その点は、甲1~10、12及び13においても、記載も示唆もされていないことから、本件特許発明1の相違点4に係る構成は、本願出願前周知の事項ともいえない。
してみると、本件特許発明1の他の相違点に係る構成について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲11に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許発明2から4は、本件特許発明1に、さらに構成要件を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲11発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
(ウ) 小括
したがって、本件特許発明1~4は、甲1発明、又は、甲11発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許発明1~4に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。
(3) 申立理由3について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである(知財高裁平成29年(行ケ)第10138号)。
イ 本件特許発明1~4が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段について
(ア) 本件特許発明1~4が解決しようとする課題について
本件特許発明1~4が解決しようとする課題は、本件特許明細書の「発明が解決しようとする課題」における【0005】に「本発明の目的は、現場作業を簡略化しつつ地震や風を受けても水密性を維持できる屋根および屋根構造体を提供することにある。」と記載されていることから、「現場作業を簡略化しつつ地震や風を受けても水密性を維持できる屋根および屋根構造体を提供すること」であると認められる。
(イ) 課題を解決するための手段について
本件特許発明1~4は、上記の課題を解決するために、「前記第一枠材の端部および前記第二枠材の端部によって構成される屋根コーナーには、前記第一枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第一端板部と、前記第二枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第二端板部とを有する付着端体が配置され」る構成を備えるものである。
そして、「第一枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第一端板部」と「第二枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第二端板部」とを「有する付着端体」を配置することによって、現場作業の簡略化と水密性の維持という課題を解決するものであると認められる。
ウ 本件特許明細書に記載された事項と課題との関係について
本件特許明細書の【0016】には、「ここで、粘着剤5は、紫外線(UV)の照射によって硬化するUV硬化形粘着剤、本実施形態ではポリウレタンアクリレート系UV硬化樹脂製のUV硬化形粘着剤によって構成されており、キャップ部材60に塗布された後に紫外線が照射されて硬化され、粘性を有していると共に伸縮変形可能なゲル状態とされ、前枠21の端部や側枠23の端部に粘り着くようになっており、一旦剥がれても再着可能な特性を有している。」と記載されていることから、本件特許明細書には、「ポリウレタンアクリレート系UV硬化樹脂製のUV硬化形粘着剤によって構成され」、「塗布された後に紫外線が照射されて硬化され、粘性を有していると共に伸縮変形可能なゲル状態とされ」たものが例示されており、この例示されたものであれば、上記の課題を解決可能であると認められるとともに、同様の性質を備えるものであれば、本件特許明細書に記載されていないものであっても、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できると認められる。
してみると、本件特許明細書に記載されたものがUV硬化形の粘着剤のみであることを理由に本件特許発明1~4がサポート要件を満たしていないとまではいえない。
エ 粘着性について
本件特許明細書の【0016】には「本実施形態では粘着剤5の粘度は、常温で200~2000Pa・sであり、前述した各クリアランスに応じた厚さ寸法を維持可能な範囲で適宜設定される。」と記載されていることから、粘着剤の粘度は記載されているものの、「粘着性」に関する客観的な数値範囲等は記載されていない。
しかしながら、同【0016】には、「粘性を有していると共に伸縮変形可能なゲル状態とされ、前枠21の端部や側枠23の端部に粘り着くようになっており、一旦剥がれても再着可能な特性を有している」点が記載されており、どのような態様のものが「粘着性を備える」といえるのかは、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かに基づいて判断が可能であり、本件特許明細書に「粘着性」に関する客観的な特定が記載されていないことを理由に本件特許発明1~4がサポート要件を満たしていないとまではいえない。
オ 小括
以上のことから、本件特許発明1~4は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないとまではいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するとまではいえない。
よって、本件発特許発明1~4に係る特許は、申立理由3により、取り消されるべきものではない。
(4)申立理由4について
ア 明確性要件の判断基準
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである(知財高裁平成29年(行ケ)第10138号)。
以下、この観点に立って、本件特許発明1~4が明確であるか否かについて検討する。
イ 検討・判断
(ア) 「硬化後」に関して
本件特許発明1~4は、「硬化後にも粘着性を備える特性」と特定しているところ、本件特許明細書の【0016】に「粘着剤5は、紫外線(UV)の照射によって硬化するUV硬化形粘着剤、本実施形態ではポリウレタンアクリレート系UV硬化樹脂製のUV硬化形粘着剤によって構成されており、キャップ部材60に塗布された後に紫外線が照射されて硬化され、粘性を有していると共に伸縮変形可能なゲル状態とされ、前枠21の端部や側枠23の端部に粘り着くようになっており、一旦剥がれても再着可能な特性を有している。」と記載があることを勘案すると、「硬化後」とは、硬化処理を行った後であることは、当業者であれば当然に理解できることであり、徐々に自然硬化する場合は排除されることは明らかであり、本件特許発明1~4における「硬化後にも粘着性を備える特性」とした特定が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(イ) 「粘着性」に関して
本件特許発明1~4には、「粘着性」の定義がされていないが、本件特許明細書の【0016】に「前枠21の端部や側枠23の端部に粘り着くようになっており、一旦剥がれても再着可能な特性を有している」との記載が存在することから、本件特許発明1~4における「粘着性」は、本件特許明細書の記載に基づき、概ねどのような性質であるのかは理解可能であり、本件特許発明1~4が、粘着性の定義や、粘着性がどの程度のものであるのかの特定がされていないことによって、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(ウ) 「硬化性の粘着剤が塗布された第一端板部」及び「硬化性の粘着剤が塗布された第二端板部」に関して
本件特許発明1~4には、「前記第一枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第一端板部と、前記第二枠材の端部に沿って付着する硬化性の粘着剤が塗布された第二端板部とを有する付着端体が配置されており、」と特定されていることから、この特定に基づくと、付着端体が有する第一端板部及び第二端板部が、硬化性の粘着剤が塗布された状態の第一端板部及び硬化性の粘着剤が塗布された状態の第二端板部であることが理解でき、その特定は、第一端板部及び第二端板部の状態を表す特定であると認められ、その特定がされたことにより本件発明1~4が不明確であるとはいえない。
してみると、本件特許発明1~4における「硬化性の粘着剤が塗布された第一端板部」及び「硬化性の粘着剤が塗布された第二端板部」の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(エ) 小括
以上のことから、本件特許発明1~4は不明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものではない。
(5)申立理由5について
ア 実施可能要件の一般的な判断基準
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきであると解される(知財高裁平成29年(行ケ)第10138号)。
イ 本件特許明細書の記載について
本件特許明細書には、【0016】に、「粘着剤5は、紫外線(UV)の照射によって硬化するUV硬化形粘着剤、本実施形態ではポリウレタンアクリレート系UV硬化樹脂製のUV硬化形粘着剤によって構成されており、キャップ部材60に塗布された後に紫外線が照射されて硬化され、粘性を有していると共に伸縮変形可能なゲル状態とされ、前枠21の端部や側枠23の端部に粘り着くようになっており、一旦剥がれても再着可能な特性を有している。」と記載され、同【0026】に「粘着剤としては、例えばUV硬化形粘着剤が挙げられる。UV硬化形粘着剤は、紫外線(UV)の照射によって硬化する特性を有している。UV硬化形粘着剤は、付着端体に塗布され、塗布後に紫外線を照射して硬化させることで、ある程度の粘性を有したゲル状態にでき、このため、枠材および付着端体間に設定されたクリアランスに応じた厚さ寸法を維持できる。」と記載されていることから、本件特許明細書には、硬化形粘着剤の材料の種類が特定がされており、紫外線を照射させることによって硬化処理を行う点、粘着性を一旦剥がれても再着可能な特性を有する程度にする点も特定されている。
また、同【0026】に「予め工場で付着端板の所望箇所に粘着剤を設けておける」と記載され、その結果、同【0026】に記載された「現場で枠材および付着端板の間にシーリング処理する現場作業を行う必要をなくすことができ、現場作業を簡略化できる。」という作用効果をもたらすことも記載されていることから、粘着剤の塗布及び硬化処理を予め工場内で実施される点も記載されている。
そして、ポリウレタンアクリレート系UV硬化樹脂製のUV硬化形粘着剤として具体的に何を採用するか、どの程度の紫外線の照射によって硬化処理を行うか、粘着性を具体的にどの程度に調整するかは、出願当時の技術常識に基づいて、当業者が適宜実施し得るものと認められ、具体的な物質名や、紫外線の照射強度、照射時間等や、粘着性の客観的な程度の記載がされていなくても、当業者は過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができるものと認められる。
ウ 小括
以上のことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、その記載に基づいて本件特許発明1~4を実施することが不可能なものであるとまではいえない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものではなく、本件特許発明1~4に係る特許は、申立理由5により、取り消されるべきものではない。
4 まとめ
したがって、本件特許発明1~3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1~4は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許発明1~4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1及び2によって取り消すことはできない。
また、本件特許発明1~4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないとまではいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものではなく、本件特許発明1~4は不明確であるとはいえず、同法同条第6項第2号の規定に違反するものではなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、その記載に基づいて本件特許発明1~4を実施することが不可能ではなく、同法同条第4項第1号の規定に違反するものではないことから、本件特許発明1~4に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3~5によって取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、申立理由1~5にはいずれも理由がなく、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
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2023-700297