特許異議申立
2023-700263
クロマトグラフィー用検出器
- 審判番号
- 2023-700263
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-537910
- 登録番号
- 7136209
- 請求日
- 2023年03月10日
- 審決日
- 2023年09月06日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社島津製作所
- 【権利者代理人】阿久津 好二
- 【権利者代理人】妹尾 明展
- 【権利者代理人】岸本 雅之
- 【権利者代理人】江口 裕之
- 【異議申立人】所 智恵子
- 審判長/審判官
- 審判長 樋口 宗彦
- 審判官 伊藤 幸仙
- 審判官 上田 泰
- 分類
- P1652.113-Y (G01N) / P1652.121-Y (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7136209号発明「クロマトグラフィー用検出器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7136209号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7136209号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、2018年(平成30年)8月20日を国際出願日とする特許出願であって、令和4年9月5日にその請求項1-5に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年9月13日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1-3に係る特許に対して、令和5年3月10日に特許異議申立人 所智恵子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。その後本件特許に対し、当審より令和5年5月23日付けで取消理由が通知され、これに対し同年7月25日に特許権者から意見書が提出された。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1-3に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
測定光を発する固体発光素子であって、前記測定光の光束の中心領域は光量が安定している一方で、前記測定光の光束の周縁領域の光量は前記中心領域よりも変動が大きい固体発光素子と、
前記測定光の光路上に配置されたフローセルと、
前記フローセルを経た前記測定光を検出するための検出部と、
前記固体発光素子から前記検出部までの間における前記測定光の光路上に設けられ、前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の周縁領域の光量変動の影響を低減する光量変動低減素子と、を備え、
前記光量変動低減素子は、前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の中心領域のみを前記フローセルへ導き、前記中心領域よりも変動が大きい前記測定光の光束の周縁領域を遮光する、
クロマトグラフィー用検出器。
【請求項2】
前記光量変動低減素子は、開口遮光板である、請求項1に記載のクロマトグラフィー用検出器。
【請求項3】
前記開口遮光板は、前記固体発光素子から発せられる測定光の光束のうち周縁側の50%以上の光を遮光して中心領域のみを抽出するものである、請求項2に記載のクロマトグラフィー用検出器。」
第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として以下の甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、以下の異議申立理由(以下「異議申立理由1及び2」という。)によって、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
1.異議申立理由
●異議申立理由1.特許法第29条第1項第3号(新規性違反)について
本件発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第113条第2号の規定により取消されるべきである。
●異議申立理由2.特許法第29条第2項(進歩性違反)について
本件発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明と、本件特許出願時の周知技術または甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に開示された技術を参酌することにより、当業者にとって容易に想到できるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第113条第2号の規定により取消されるべきである。
2.証拠方法
甲第1号証:特許第3384843号公報
甲第2号証:国際公開第2018/003045号
甲第3号証:山田和明、服部昌、梁川敏,「ロータリエンコーダ用高精度LED光源の開発とその応用」, Koyo ENGINEERING JOURNAL,2004年9月,No.166,pp.64-69
甲第4号証:「赤外LED L11913 光学式エンコーダ用平行光LED」,浜松ホトニクス株式会社カタログ(Cat No.KLED1066J02),2017年12月発行,pp.1-4
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
本件特許の請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が令和5年5月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1(新規性)本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(進歩性)本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3及び4号証にも開示された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特許第3384843号公報
甲第3号証:山田和明、服部昌、梁川敏,「ロータリエンコーダ用高精度LED光源の開発とその応用」, Koyo ENGINEERING JOURNAL,2004年9月,No.166,pp.64-69
甲第4号証:「赤外LED L11913 光学式エンコーダ用平行光LED」,浜松ホトニクス株式会社カタログ(Cat No.KLED1066J02),2017年12月発行,pp.1-4
第5 甲第1ないし4号証の記載事項及び甲第1ないし4号証から認定される発明及び技術
1.甲第1号証
本件特許の国際出願日前である平成15年(2003年)3月10日に発行された特許第3384843号公報(以下「甲第1号証」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与。以下同様。)
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 単一の発光ダイオードを発光源とした発光系と、少なくとも一つの光路として設けられた被測定試料が通過するフローセルを光路中に含む測定用光路と、該測定用光路を通過した光を受光する受光系とを備えた吸光度検出器において、上記発光ダイオードの発光部を埋設したモールド樹脂が拡散性を有し、上記発光ダイオードの発光を点光源とするピンホール板、および該ピンホール板と上記測定用光路の間にピンホール板を通過した光を平行光とするコリメータレンズが配置されていることを特徴とする吸光度検出器。
【請求項2】 単一の発光ダイオードを発光源とした発光系と、被測定試料が通過するフローセルを光路中に含む測定用光路と、この測定用光路と併設されたリファレンス用光路と、これらの各光路を通過した光を受光する受光系とを備え、上記発光ダイオードが二つの上記光路に対して均等に光を入光するように位置決めされている吸光度検出器において、上記発光ダイオードの発光部を埋設したモールド樹脂が拡散性を有し、上記発光ダイオードの発光を点光源とするピンホール板、および該ピンホール板と二つの上記光路の間にピンホール板を通過した光を平行光とするコリメータレンズが配置されていることを特徴とする吸光度検出器。」
(2)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、液体クロマトグラフィー分析法あるいはフローインジェクション分析法のように、フローセルを流れる液体中の吸光性物質の濃度を測定するための装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、液体クロマトグラフィー分折法あるいはフローインジェクション分折法のように、フローセルを流れる液体中の吸光性物質の濃度を測定するために、被測定試料が通過する測定用光路とレファレンス用光路を設けたフローセルをもつ吸光度検出器が用いられている。光源にはタングステンランプや重水素ランプが一般的であるが、発光ダイオードの発光波長と吸光度測定に用いる波長(以下吸収波長という)が一致する場合には発光ダイオードも使われ、特に発光ダイオードは小型であり、熱の発生が少ないため、発光波長と吸収波長が一致する場合には吸光度検出器の発光源として好んで用いられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、生体由来の試料中に含有される微量成分の定量分析等を行う場合などにおいては、微量成分の検出感度をできるだけ増大させる工夫が必要となったり、上記の吸光度検出器の検出感度、検出精度を向上させることが、測定精度に直接影響することになる。
【0004】そこで本発明者は、種々の点から従来の吸光度検出器の問題点を検討したところ、この吸光度検出器の発光源として好んで用いられる発光ダイオードには以下のような問題のあることが分かった。
【0005】その一つは、一般に発光ダイオードと称される発光源は、非常に小さな点光源とみなされる発光部を樹脂モールドして構成されたものであり、発光部はその樹脂モールドの中心に位置するものと通常考えられている点にある。すなわち、極めて微小な変化分を測定するような場合には、共通の発光源から測定用光路とレファレンス用光路を通って受光系に受光される光強度に、発光系からこれら測定用光路,レファレンス用光路に入光する光量のバラツキ分が含まれているとすれば、測定結果に対する信頼性が低下することは言うまでもないが、本発明者が詳細に検討したところによれば、この測定用光路,レファレンス用光路への入光光量に、上記発光ダイオードの構造に由来するバラツキ分の含まれることが明らかとなったのである。
【0006】このことをより具体的に述べると、発光ダイオードは、樹脂モールドの内部に埋設される発光部のサイズが極めて小さく、また位置をモールドの中心に精度よく埋設することは一般に困難である。このため上記の吸光度検出器の発光源としてこれを用いる場合、樹脂モールド製品である発光ダイオードを測定用光路,レファレンス用光路に対して正確に位置決めして設置しても、実際の発光部の位置のばらつきの影響は避けられず、このために上記光路に対する入光光量を均等に与えることは難しいという問題があり、生化学定量分析の分野において用いられる吸光度検出器では、これらの光路に均等に光量を与えることができないことの影響は測定精度に直接影響する。
【0007】このような、位置のばらつきの影響を減らすためには、例えば発光ダイオードの樹脂モールドの前面に拡散板を密着設置することが考えられる。しかしながらこの方式では、発光部から拡散板の表面までの距離が増すため、拡散板上の発光部が広がりすぎてしまい、輝度が低下してしまうという問題を招く。」
(3)「【0008】本発明は、以上のような従来の問題を解消するためになされたものであり、発光源として発光ダイオードを使用する吸光度検出器において、発光ダイオードの構造に由来した上記のような測定用光路,レファレンス用光路に対する入光光量の不均等さによる影響をなくした吸光度検出器の提供を目的としてなされたものである。」
(4)「【0010】
【課題を解決するための手段】上記の目的を実現する本発明の吸光度検出器の特徴は、単一の発光ダイオードを発光源とした発光系と、少なくとも一つの光路として設けられた被測定試料が通過するフローセルを光路中に含む測定用光路と、該測定用光路を通過した光を受光する受光系とを備えた吸光度検出器において、上記発光ダイオードの発光部を埋設したモールド樹脂が拡散性を有しているところにある。
【0011】一般に吸光度検出器には、光源光の変動を補正するために測定用光路と平行してレファレンス用光路が設けられる。そこで上記構成の本発明においては、発光系と受光系の間に、被測定試料が通過するフローセルを光路中に含む測定用光路と、この測定用光路と併設されたリファレンス用光路とを設け、これら二つの上記光路に対して均等に光を入光できるように上記発光ダイオードを位置決めして設けることがよい。更に、発光ダイオードから出た発光を、それぞれ平行に設けられた上記測定用光路とレファレンス用光路に効率よく入射させるために、発光ダイオードとフローセルの間に集光レンズを設けることが好ましい。」
(5)「【0015】吸光度検出器の受光系を構成する検出素子は、特に限定されるものではなく、例えばフォトダイオード、光電管などを用いることができる。測定用光路とレファレンス用光路を設けた場合には、それぞれの光路に対向して検出素子を配置してもよいし、単一の検出素子を用いて交互に測定用光路とレファレンス用光路を通過した光を検出するようにすることもできる。」
(6)「【0017】本発明は、一般的には生化学分野の特に微量成分の定量分析用に好ましく適用して用いられる。」
(7)「【0019】
【実施例】以下本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。図1は、本発明により構成された吸光度検出器の一例を示したものであり、この図において1は発光ダイオードであり、発光ダイオードの発光を点光源とするピンホール板2と共に所定の位置関係をなすように保持枠3に固定されている。4はピンホール板2からの光を平行光とするコリメータレンズ、5は吸光度測定のために所定の波長の光のみを透過する干渉フィルターであり、これらは上記発光ダイオード1と所定の位置関係をなすように上記保持枠3と一体のケース6内に収容固定されている。
【0020】7は測定用光路、8はリファレンス用光路であり、これらは図1に示すように平行に設けられていて、上記干渉フィルター5からの光が透過されるようになっている。9,10はそれぞれ受光素子(フォトダイオード)であり、測定用光路7とリファレンス用光路8に対向して配置されている。そしてこれらの受光素子は、図示しない電流電圧変換回路、増幅器、A/D変換器等を通して、受光された光信号強度に基づき吸光度を測定するようにプログラムされたコンピュータに接続されている。またコリメータレンズの焦点距離の誤差を補正するために、受光素子の位置を前後調整できるように設けられている。
【0021】図2は、上記発光ダイオード1を拡大して示したものであり、本例ではシリカ微粉入りポリスチレンをモールド樹脂11として、発光部12を埋設モールドして構成されている。そしてこの発光部12は、発光ダイオード1の端面より0.5mmの深さにあり、一般市販品においては横方向の位置ずれが±0.15mmであるものが普通である。この発光ダイオードを正面から目視すると、発光ダイオードの端面に1mm程度の円形の発光部が観測される。」
(8)「【0024】本例装置の吸光度検出器においては、図2に示した発光ダイオードとして中心波長が約730nmのものを使用した。この発光ダイオードはポリスチレンモールド樹脂に対して、シリカ微粉を混入したものを用いた。またピンホール板には1mmφのピンホールを有するものを使用した。」
(9)「【0036】
【発明の効果】本発明によれば、発光ダイオードの樹脂モールド中に埋設された発光部にわずかな位置ずれがあっても、位置ずれを考慮せずに検出装置を組み立てることができるという効果がある。
【0037】また、発光ダイオードの全面に拡散板を使う方法に比べて、光源光の過剰な広がりを防止することができ、発光量を有効に利用することができるという効果も得られる。
【0038】そしてこれらのことにより、測定用光路,レファレンス用光路に対する入光光量を均等に与えることができ、検出感度,検出精度に優れた吸光度検出器を提供できるという効果が得られる。」
(10)「【図1】
[図:0001402785000001.jpg]
」
(11)「【図2】
[図:0001402785000002.jpg]
」
(12)上記甲第1号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「液体クロマトグラフィー分折法において用いられる、被測定試料が通過する測定用光路とレファレンス用光路を設けたフローセルをもつ吸光度検出器において、
単一の発光ダイオード1を発光源とした発光系と、
被測定試料が通過するフローセルを光路中に含む測定用光路7と、
この測定用光路7と併設されたリファレンス用光路8と、
これらの各光路を通過した光を受光する受光素子(フォトダイオード)9,10とを備え、
上記発光ダイオード1が二つの上記光路7,8に対して均等に光を入光するように位置決めされており、
上記発光ダイオード1の発光部12を埋設したモールド樹脂11が拡散性を有し、
上記発光ダイオード1の端面を正面から目視すると1mm程度の円形の発光部が観測され、その1mm程度の円形の発光部を点光源とする1mmφのピンホールを有するピンホール板2、および該ピンホール板2と二つの上記光路7,8の間にピンホール板2を通過した光を平行光とするコリメータレンズ4が配置されている、
吸光度検出器。」
2.甲第2号証
本件特許の国際出願日前である2018年(平成30年)1月4日に国際公開された国際公開第2018/003045号(以下「甲第2号証」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。
(1)「請求の範囲
[請求項1]
光を入射させる光入射面をもち、その光入射面に入射した光の一部を反射させ、残りの光を透過させるビームスプリッタであって、
前記光入射面の一領域として光を透過させる透過領域が設けられ、光を反射させる反射領域が前記透過領域の周囲を取り囲んで設けられているビームスプリッタ。
[請求項2]
前記光入射面がミラーとなっている基板の一部の領域に貫通孔が前記透過領域として設けられている請求項1に記載のビームスプリッタ。
[請求項3]
前記反射領域は光透過性基板の一表面に金属膜が蒸着された領域であり、前記透過領域は前記反射領域によって取り囲まれた前記金属膜が蒸着されていない領域である請求項1に記載のビームスプリッタ。
[請求項4]
光源と、
試料セルと、
前記光源からの光を前記試料セルへ導く光学系と、
前記試料セルを通過した光を検出するための測定用検出素子と、
前記光源から前記試料セルへと導かれる光の光路上であって前記試料セルの入射側の位置に配置された請求項1から3のいずれか一項に記載のビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタで反射した光を参照光として検出する参照用検出素子と、を備えた検出器。
[請求項5]
前記ビームスプリッタは、前記試料セルへ導かれる光束のうち中心側の一部の光のみを透過させ、それよりも外側の光を外側の光を反射するように設けられている請求項4に記載の検出器。」
(2)「技術分野
[0001] 本発明は、アパーチャ機能を有するビームスプリッタ及びそのビームスプリッタを備えた分光光度計などの検出器に関するものである。
背景技術
[0002] 液体クロマトグラフ用の検出器として分光光度計が知られている。分光光度計には前分光方式と後分光方式がある。
[0003] 前分光方式の分光光度計は、光源からの光を分光器によって分光し、分光された光のうち測定に用いる波長の光のみを試料セルに導き、試料セルを通過した光の量を検出素子で検出することにより、試料セル内の試料による特定波長の吸光度等を測定するものである。
[0004] 他方、後分光方式の分光光度計は、光源からの光を試料セルに照射し、試料セルを通過した光を分光器によって波長成分ごとに分光し、分光された各波長成分の光をフォトダイオードアレイ等の検出素子を用いて同時に検出することにより、試料セル内の試料の吸光度スペクトル等を取得するものである。
[0005] 上記分光光度計のような検出器では、光源の発光強度が変動すると、それに応じて測定用の検出素子に入射する光の光量も変動するため、測定結果の再現性を低下させる要因となる。そのため、ダブルビーム方式と呼ばれる分光光度計では、光源から試料セルに向かう光の一部をビームスプリッタによって参照光として取り出し、参照光を測定用の検出素子とは別の検出素子(参照用検出素子)によって検出する(特許文献1、2参照。)。そして、参照用検出素子の検出値に基づいて測定値を補正することで、光源の発光強度の変動による測定結果への影響が抑制される。」
(3)「発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0007] ダブルビーム方式の分光光度計では、ビームスプリッタによって光源からの光の一部を参照光として取り出すため、試料セルを通過した光を検出する測定用検出器への入射光量は低減され、光源で発せられた光の測定への利用効率が低下し、検出感度が低下する。
[0008] さらに、光源からの光が試料セルを通過する分光光度計のような検出器では、試料セルに入射した光りが試料セルの内壁にあたると、散乱や吸収によって試料セル内の液による光吸収がなくても測定用検出素子に入射する光量が変化することがある。しかし、そのような光量の変化は試料セル内の液による吸収によるものか光の散乱等によるものかの区別ができないため、測定の再現性を損なうこととなる。そのため、試料セルへの光の入射角度を絞る必要があるが、試料セルへの光の入射角度を絞ると、試料セルへ向かう光束のうちの外側部分を遮光して捨てることになるため、光源で発せられた光の利用効率が低下する。したがって、ここでも検出感度が低下する。
[0009] 以上のことから、従来の検出器では、光源で発せられた光のうち測定に使用されない光の割合が高く、検出感度の向上に限界があった。
[0010] そこで、本発明は、光源で発せられた光の測定への利用効率を改善し、検出器の検出感度を向上させることができるようにすることを目的とするものである。
課題を解決するための手段
[0011] 本発明に係るビームスプリッタは、光を入射させる光入射面をもち、その光入射面に入射した光の一部を反射させ、残りの光を透過させるものであり、前記光入射面の一領域として光を透過させる透過領域が設けられ、光を反射させる反射領域が前記透過領域の周囲を取り囲んで設けられている。」
(4)「[0015] 上記検出器において、ビームスプリッタは、前記試料セルへ導かれる光束のうち中心側の一部の光のみを透過させ、それよりも外側の光を外側の光を反射するように設けられていることが好ましい。そうすれば、試料セルへ入射する光を光束の中心側の一部の光のみに限定することができ、試料セルへの光の入射角度を絞って光の散乱等を抑制することができる。
発明の効果
[0016] 本発明に係るビームスプリッタでは、光入射面の一領域として光を透過させる透過領域が設けられ、光を反射させる反射領域が透過領域の周囲を取り囲んで設けられているので、光入射面に入射した光の光束のうち、中心側の一部のみを透過領域を通じて透過させ、残りの外周側部分を反射領域で反射させることができる。すなわち、本発明のビームスプリッタは、光入射面に入射した光りの一部を透過させて残りを反射させるというビームスプリッタとしての機能に加えて、光束のうち中心側部分のみを透過させるというアパーチャとしての機能を備えている。したがって、このビームスプリッタを分光光度計のような検出器に用いることで、光源から試料セルへ向かう光束の中心側部分のみを試料セルへ導くことによって試料セルへの光の入射角度を絞ることができるとともに、光束の外周側部分の光をすべて反射させて参照用検出素子へ導くことができるため、検出器における光の利用効率が向上し、検出感度の向上に寄与することができる。
[0017] 本発明に係る検出器では、光源からの光を、上述のビームスプリッタを用いて試料セル側と参照用検出素子側へ分配するようになっているので、光の利用効率が向上し、検出感度の向上を図ることができる。
図面の簡単な説明
[0018][図1]検出器の一実施例として分光光度計を示す概略構成図である。
[図2]同実施例のビームスプリッタの機能を説明するための概念図である。
[図3A]同ビームスプリッタの平面図である。
[図3B]ビームスプリッタの構造の一例を示す断面図である。
[図3C]ビームスプリッタの構造の他の例を示す断面図である。」
(5)「発明を実施するための形態
[0019] 以下、図面を用いて本発明に係るビームスプリッタ及び検出器の実施形態について説明する。
[0020] 図1は、ビームスプリッタを備えた検出器としての分光光度計を示す概略構成図である。
[0021] この実施例の分光光度計は、光源2からの光を分光器である回折格子8によって波長成分ごとに分光し、分光された光のうち測定に用いる波長成分の光をフローセル14に導いてフローセル14内を流れる液の吸光度を測定するように構成された前分光方式の吸光分光光度計である。
[0022] 光源2により発せられた光をフローセル14に導く光学系として、スリット4、ミラー6、回折格子8及びミラー10が設けられている。スリット4を介してミラー6に入射した光は回折格子8に導かれ、波長成分ごとに分光される。回折格子8は、測定に用いる波長成分の光がミラー10へ導かれるようにその位置が調整されており、ミラー10で反射した光はフローセル14へ導かれる。
[0023] フローセル14内には液を流通させるための試料セル16が設けられている。試料セル16内は、例えば液体クロマトグラフの分離カラムから溶出した溶出液が流れている。フローセル14のミラー10側(図において右側)の面とその反対側(図において左側)の面にはそれぞれ、測定光を透過させる入射窓及び出射窓が設けられている。ミラー10からの光は入射窓を介して試料セル16内に入射し、試料セル16内を通過した光が出射窓から出射する。
[0024] フローセル14の出射窓側に検出素子18が設けられている。検出素子18は、試料セル16を通過した光の光量を検出するための測定用検出素子である。検出素子18は、例えばフォトダイオードによって構成される。
[0025] ミラー10とフローセル14との間でミラー10で反射した光の光路上にビームスプリッタ12が設けられている。ビームスプリッタ12は、ミラー10で反射した光の一部を反射させ、残りを透過させるものである。ビームスプリッタ12で反射した光を受光する位置に検出素子20が設けられている。検出素子20は、ビームスプリッタ12で反射した光(参照光)の光量を検出するための参照用検出素子である。検出素子20は、例えばフォトダイオードによって構成される。
[0026] 検出素子18及び20の検出信号は演算処理部22に取り込まれる。演算処理部22は、検出素子18の検出信号値を検出素子20の検出信号値で補正し、補正後の信号値に基づいて試料セル16を流れる溶液の吸光度を算出する。算出された吸光度は、演算処理部22に接続された液晶ディスプレイ等の表示部24に表示される。演算処理部22は専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータによって実現される。」
(6)「[0027] ここで、ビームスプリッタ12について図2及び図3Aを用いて説明する。
[0028] ビームスプリッタ12は、光を入射させる光入射面に、透過領域12aと反射領域12bを有する。透過領域12aは中央部に設けられており、平面形状が例えば円形である。反射領域12は光入射面のうち透過領域12a以外の全領域であり、透過領域12aを取り囲んでいる。ビームスプリッタ12は、光入射面に入射した光のうち、透過領域12aに入射した光のみを透過させ、残りを反射させる。
[0029] この実施例において、ビームスプリッタ12は、ミラー10で反射した光の光束のうち、中心側の一部の光26のみが透過領域12aを通ってフローセル14へ導かれ、それよりも外側の光28がすべて反射領域12bで反射して光学素子20へ導かれるように設けられている。フローセル14に入射する光の入射角度は、光が試料セル16の内壁面に当たらない角度に絞られている。光のフローセル14への入射角度及び試料セル16側と検出素子20側へ導かれる光の割合は、ビームスプリッタ12の入射領域12aの大きさ、ミラー10とフローセル14の間におけるビームスプリッタ12の位置によって調整される。
[0030] ビームスプリッタ12がこの実施例のように、光束の一部の範囲のみを透過させるようなものでない場合、フローセル14への光の入射角度を絞るアパーチャを別途設けたり、ミラー10の反射面をマスク等によって制限したりする必要があるが、それらの方法では、測定光の一部を測定用としても参照用としても利用することなく捨てることとなる。
[0031] これに対し、この実施例の分光光度計におけるビームスプリッタ12は、測定光を測定用の光と参照用の光に分けるビームスプリッタとしての機能に加え、フローセル14への光の入射角度を絞るアパーチャとしての機能も備えている。これにより、この実施例の分光光度計では、回折格子8によって取り出された測定波長の光のすべてがフローセル14又は検出素子20のいずれかに導かれる。したがって、この分光光度計では、光の利用効率が従来よりも高くなり、検出感度の向上に寄与することができる。」
(7)「[0034] 以上において説明した検出器は前分光方式の分光光度計であるが、本発明はこれに限定されるものでなく、後分光方式の分光光度計についても適用することができる。後分光方式の分光光度計は、光源から試料セルに光を照射し、試料セルを通過した光を分光器によって分光し、分光された光をフォトダイオードアレイなどの検出素子によって検出するように構成されたものである。この場合、光源と試料セルとの間に、上述のビームスプリッタ12と同様の機能をもつビームスプリッタを配置することで、光源からの光束の一部を参照光として取り出すと同時に、試料セルへの光の入射角度を所望の角度に絞ることができる。
[0035] また、本発明のビームスプリッタは、分光光度計に限らず、試料セルに光を照射して試料による光の吸収等を測定する検出器であって、試料セルへの光の入射角度を絞る必要があり、かつ試料セルへ向かう光の一部を取り出す必要のある検出器に対して適用することができ、それによって光利用効率の向上を図り、検出感度の向上に寄与することができる。」
(8)「[図1]
[図:0001402785000003.jpg]
」
(9)「[図2]
[図:0001402785000004.jpg]
」
(10)「[図3A]
[図:0001402785000005.jpg]
」
(11)「[図3C]
[図:0001402785000006.jpg]
」
(12)上記甲第2号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「光源2からの光を分光器である回折格子8によって波長成分ごとに分光し、分光された光のうち測定に用いる波長成分の光をフローセル14に導いてフローセル14内を流れる液の吸光度を測定するように構成された前分光方式の吸光分光光度計において、
光源2により発せられた光をフローセル14に導く光学系として、スリット4、ミラー6、回折格子8、ミラー10及びビームスプリッタ12が設けられており、スリット4を介してミラー6に入射した光は回折格子8に導かれ、波長成分ごとに分光され、回折格子8は、測定に用いる波長成分の光がミラー10へ導かれるようにその位置が調整されており、ミラー10で反射した光の光束のうち、中心側の一部の光26のみが透過領域12aを通ってフローセル14へ導かれ、それよりも外側の光28がすべて反射領域12bで反射して光学素子20へ導かれるように設けられている光学系を備えた、
吸光分光光度計。」
(13)上記甲2発明は以下の技術(以下「甲2発明開示技術」という。)を開示していると認められる。
「光源2により発せられた光をフローセル14に導く光学系において、光源2からの光をスリット4で絞る技術」
3.甲第3号証
本件特許の国際出願日前である2004年(平成16年)9月に発行された「山田和明、服部昌、梁川敏,「ロータリエンコーダ用高精度LED光源の開発とその応用」, Koyo ENGINEERING JOURNAL,2004年9月,No.166,pp.64-69」(以下「甲第3号証」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
(1)「1.はじめに
我々は,以前FZP(Fresnel Zone Plate)を用いて光ビームを絞ることによりロータリエンコーダの高分解能化を試みた.
その時,実装面,光学素子の製作面から集光型の光学素子よりもインデックススケールとメインスケールのピッチが一致する波面再生型の光学素子を用いた方が光の利用効率,相間位相の精度の面からも有利であるという知見を得た.
そこで今回は, 光源の波長とスリットの周期で決まる距離にスリット像が再現される現象を用いて,ロータリエンコーダの高分解能化を狙うと共に,低分解能品ではスリット問ギャップ管理の緩和によりフィルムスリットの使用を可能にするなど,広レンジに適用できる光源を開発し,広範囲なエンコーダヘの適用を行った.」(第64頁左欄第1-16行)
(2)「3.光源ユニットの試作
3.1 開発目標
スリット板間距離の拡大や精度緩和による生産性向上,高分解能スリット板のフィルム化,および回折素子に利用可能,などの効果を得るためには,既製光源ユニットの光学特性では実現不可能であることから,表2に示すように光束の高度な平行性と均ーな強度分布を有す高性能光源ユニットの開発に取り組んだ.」(第65頁左欄第1-9行)
(3)「
[図:0001402785000007.jpg]
」(第65頁左欄)
(4)「発光部径は小さいほど光束の平行化などに有利であるが,回折を積横的に利用する用途以外ではφ0.05mmとφ0.15mmの優劣差が小さくなるため,光出カ・寿命で有利な発光部φ0.15mmのチップの方が好ましいと考えられた.」(第65頁左欄下から5-1行)
(5)「また発光部の形状・構造に関しては,従来品のように矩形発光部の中央に設けられた電極にワイヤボンディングされているものではワイヤの影が光強度分布むらとして現れ,光学性能を要求される用途には不向きであり,円形で電流狭窄を用いた点発光タイプのLEDチップを用いた(図2).」(第65頁右欄第1-6行)
(6)「
[図:0001402785000008.jpg]
」(第65頁右欄)
(7)「3.3 光源ユニット単体での光学評価
選定したLEDチップをステムにマウントし,新設計の樹脂成型キャップレンズを組み付けた試作光源ユニット(図3)について,まず単体での光学特性を評価した.
[図:0001402785000009.jpg]
図3 試作光源ユニット
LED illuminant unit prototype
3.3.1 光束の平行性
光束の平行性は,図4に示す「光拡がり角(θ)」を定義し評価した.その結果,従来品光源ユニットが拡がり角+2.4degであったのに対し,最終試作光源ユニットでは-0.3~0degと光束の高い平行性が得られた.
[図:0001402785000010.jpg]
図4 評価した光学特性の定義
Definition of evaluated optical performance
」(第65頁右欄下から5行目-第66頁左欄第10行)
(8)「3.3.2 有効照射径と光強度分布の均一性
有効照射エリアと均一性については光強度分布 プロファイル計測により評価した結果を図5に示す.
最終試作光源ユニットでは,有効照射エリア径φ4.50~4.60mm,光強度むら10%p-p以下となり目標値を達成することができた.
[図:0001402785000011.jpg]
図5 光強度分布プロファイル
Profile of luminous intensity」(第66頁左欄第11-19行)
」
4.甲第4号証
本件特許の国際出願日前である2017年(平成29年)12月に発行された「「赤外LED L11913 光学式エンコーダ用平行光LED」,浜松ホトニクス株式会社カタログ(Cat No.KLED1066J02),2017年12月発行,pp.1-4」(以下「甲第4号証」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。
(1)「光学式エンコーダ用平行光LED
光学式エンコーダ用に開発された赤外LEDです。従来製品L9437の3倍の放射照度を実現しました。」(第1頁第3-4行)
(2)「
[図:0001402785000012.jpg]
」(第3頁左下欄)
第6 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)特許法第29条第1項第3号(新規性違反)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
甲1発明を本件発明1と対比する。
a 甲1発明の「発光ダイオード1」は、「発光ダイオード1が二つの」「光路7,8に対して均等に光を入光するように位置決めされてお」り、該「光路7、8」は「測定用光路7と、この測定用光路7と併設されたリファレンス用光路8」であることから、本件発明1の「測定光を発する固体発光素子」に相当する。
b 甲1発明の「測定用光路7」の「光路中に含」まれる「被測定試料が通過するフローセル」及び「測定用光路7と併設されたリファレンス用光路8」は、発光ダイオード1からの光をピンホール板2及びコリメータレンズ4を通過させて平行光とした光が通る光路であることから、本件発明1の「測定光の光路上に配置されたフローセル」に相当する。
c 甲1発明の「各光路を通過した光を受光する受光素子(フォトダイオード)9,10」は、測定用光路7とリファレンス用光路8を通過した光を受光することから、本件発明1の「フローセルを経た」「測定光を検出するための検出部」に相当する。
すると、本件発明1と甲1発明とは、
「測定光を発する固体発光素子と、
前記測定光の光路上に配置されたフローセルと、
前記フローセルを経た前記測定光を検出するための検出部と、
を備えた、
クロマトグラフィー用検出器。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本件発明1は、「固体発光素子」が、「前記測定光の光束の中心領域は光量が安定している一方で、前記測定光の光束の周縁領域の光量は前記中心領域よりも変動が大きい」固体発光素子であり、「前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の中心領域のみを前記フローセルへ導き、前記中心領域よりも変動が大きい前記測定光の光束の周縁領域を遮光する」「光量変動低減素子」を「前記固体発光素子から前記検出部までの間における前記測定光の光路上に設け」ているのに対し、甲1発明は、「発光ダイオード1」が「発光ダイオード1の発光部12を埋設したモールド樹脂11が拡散性を有し」、「発光ダイオード1の端面を正面から目視すると1mm程度の円形の発光部が観測され」るものであり、「発光ダイオード1の端面の1mm程度の円形の発光部を点光源とする1mmφのピンホールを有するピンホール板2」と「ピンホール板2を通過した光を平行光とするコリメータレンズ4」を備えている点。
(イ)判断
上記相違点について、令和5年7月25日に提出された特許権者による意見書における主張を踏まえ、検討する。
a 上記「第5 1.(7)」で摘記したとおり、甲1発明の発光ダイオード1は、シリカ微粉入りポリスチレンをモールド樹脂11として、発光部12を埋設モールドして構成されていることから、拡散性を有するモールド樹脂11の中に発光部12を埋設モールドして構成されており、発光部12は、発光ダイオード1の端面より0.5mmの深さにあり、一般市販品においては横方向の位置ずれが±0.15mmであるものが普通であり、この発光ダイオードを正面から目視すると、発光ダイオードの端面に1mm程度の円形の発光部が観測されるものである。
b 一方、甲1発明では、発光ダイオード1からの光のうち「ピンホール板2を通過した光を平行光とするコリメータレンズ4」を備える構成であり、正面視方向にあるコリメータレンズ4からみた場合にも同様の現象が観測されると推察される。しかし、甲1発明の発光ダイオード1は、拡散性を有する樹脂でモールドされていることから、正面視方向以外の正面側方向に対しても光束を放射し、正面視方向以外の正面側方向からみた場合にも、その端面に相応の発光部が観測されることも推察されるし、甲1発明において、発光ダイオード1から放射される全光束の分布形態は不明である。
c また、甲1発明において、発光ダイオード1から出射された(正面視方向へ向かう)光束の網膜への投影像を観察することとなる目視の場合に、円形の発光部として観測される現象にとって有効な光束やその分布と、発光ダイオード1から一定の立体角内で発散した光束がコリメータレンズ4により平行光とされる光学系における有効な光束やその分布とは、相互に異なることが明らかであるから、後者の光学系にとって「円形の発光部」の位置づけは明らかでなく、同様の現象が推定されるとしても、その直径が目視での正面視の場合と同様であるかは明らかでない。
d 甲1発明の発光ダイオード1の端面からは、拡散性を有する樹脂による散乱を経て、発光ダイオード1の正面側の種々の方向に光束が放射されるものと推察される。よって、甲1発明のピンホール板2は、そうした種々の方向への光束の分布の中心付近にあたるといえる、『正面視方向近傍の特定の立体角内』の光束のみ選択的に通過させ、それ以外の、正面視方向からみて、前記『正面視方向近傍の特定の立体角内』に対し周縁領域あたる方向に向かう光束を遮蔽するものであるとはいえる。
e しかし、前記のとおり、甲1発明の発光ダイオード1から放射される全光束の分布形態は不明であるから、該発光ダイオード1が本件発明1の「前記測定光の光束の中心領域は光量が安定している一方で、前記測定光の光束の周縁領域の光量は前記中心領域よりも変動が大きい固体発光素子」に相当するかについては、発光ダイオード1の前記『正面視方向近傍の特定の立体角内』が本件発明1の「中心領域」に相当するとしても、光量分布の点まで一致するとはいえない。
f よって、甲1発明のピンホール2が、本件発明1の「前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の中心領域のみを前記フローセルへ導き、前記中心領域よりも変動が大きい前記測定光の光束の周縁領域を遮光する」「光量変動低減素子」に相当する機能を備えるものであるとまではいえない。
g 以上のことから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、令和5年3月10日提出の特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)において、甲1発明の発光ダイオード1は、発光部の位置のばらつきの影響は避けられない発光ダイオードであり、ピンホール板2は発光ダイオード1から発せられる測定光の光束の点光源のみをフローセルへ導き、光束の周縁領域を遮光するものであるから、甲1発明は、「前記測定光の光束の中心領域は光量が安定している一方で、前記測定光の光束の周縁領域の光量は前記中心領域よりも変動が大きい固体発光素子」及び「前記固体発光素子から前記検出部までの間における前記測定光の光路上に設けられ、」「前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の中心領域のみを前記フローセルへ導き、前記中心領域よりも変動が大きい前記測定光の光束の周縁領域を遮光する」ことにより「前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の周縁領域の光量変動の影響を低減する光量変動低減素子」を備えている旨主張する(異議申立書第42頁第15行-第43頁第5行参照。)。
b 上記申立人の主張について検討する。
(a) 甲1発明の発光ダイオード1については、上記「(イ)a」で検討したとおり、発光部12がモールド樹脂11内で横方向の位置ずれがあったとしても、拡散性を有するモールド樹脂11内での光の拡散により、発光ダイオードの端面に1mm程度の円形の発光部が観測されることを達成して、発光部の位置のばらつきの影響を回避した発光ダイオードである。ゆえに、甲1発明の発光ダイオード1は、発光部の位置のばらつきの影響は避けられない発光ダイオードではなく、「前記測定光の光束の中心領域は光量が安定している一方で、前記測定光の光束の周縁領域の光量は前記中心領域よりも変動が大きい固体発光素子」ではない。
(b) そして、上記申立人の主張は、甲第1号証の明細書の段落【0005】及び【0006】を根拠としてなされた主張であるが、上記段落【0005】及び【0006】は、【発明が解決しようとする課題】を説明する記載の段落であり、一般の発光ダイオードが備える課題を説明したものであり、甲1発明の発光ダイオード1についての記載ではない。
(c) さらに、甲1発明のピンホール板2については、その役割は、正面視方向からみた場合に端面に1mm程度の円形の発光部が観測される発光ダイオード1からの光を1mmφの点光源とするためのものであるから、仮に正面視方向への光束が前記端面の1mm程度の発光部からのものに限られるとしても、その中心領域のみを点光源として取り出すものとはいえない。また、上記「(イ)b,c及びe」で説示したとおり、発光ダイオード1は、モールド樹脂11内での光の拡散により、正面視方向以外へも光束を拡散すると推察され、該拡散する光束全体の性状は明らかでないから、ピンホール板2によって遮光される光束が、該遮光されない光束「よりも変動が大きい」といえるのかは定かでない。
(d) よって、甲1発明は、「前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の中心領域のみを前記フローセルへ導き、前記中心領域よりも変動が大きい前記測定光の光束の周縁領域を遮光する」という構成を備えるものではない。
(e) したがって、上記申立人の主張は採用することができない。
(エ)小括
以上のことから、本件発明1は甲1発明であるとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件特許の請求項1を直接または間接的に引用する発明であり、上記「ア」で検討したのと同様の理由により、甲1発明であるとはいえないから、本件特許の請求項2及び3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のことから、当審が令和5年5月23日付けで特許権者に通知した取消理由1は、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消す理由とはならない。
(2)特許法第29条第2項(進歩性違反)について
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比・判断については、上記「(1)ア」で述べたとおりであり、本件発明1と甲1発明とは、上記「(1)ア(ア)」に示した相違点で相違する。
(イ) また、甲2発明開示技術は、光源2からの光をスリット4で絞る技術ではあるが、甲第2号証の図1(上記「第5 2.(8)」参照。)を見ればわかるようにスリット4からの光は広がりを持ち、その広がる光をミラー6、回折格子8及びミラー10でフローセル14に導くようにしていることから、スリット4は「前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の中心領域のみを前記フローセルへ導き、前記中心領域よりも変動が大きい前記測定光の光束の周縁領域を遮光する」「光量変動低減素子」ではない。
(ウ) さらに、甲第3号証及び甲第4号証は、高い平行性を持つ光束を発するLED光源が周知であることを示しているが、この周知のLED光源を甲1発明の発光ダイオード1と置換すること検討すると、甲1発明の発光ダイオード1は、発光部12がモールド樹脂11内で横方向の位置ずれがあったとしても、拡散性を有するモールド樹脂11内での光の拡散により、発光ダイオードの端面に1mm程度の円形の発光部が観測されることを達成して、発光部の位置のばらつきの影響を回避した発光ダイオードであり、その発光ダイオード1を周知の高い平行性を持つ光束を発するLED光源に変更することは、甲1発明が解決しようとする課題を解決するための必須の技術事項を削除することとなる阻害要因があるから、当業者が容易になしえたものであるとはいえない。
(エ) そして、たとえ甲第3号証及び甲第4号証にも開示されたそれら周知のLED光源の変更が甲1発明においてなされたとしても、その場合はピンホール板2およびコリメータレンズ4を通過した光はほぼLED光源からの光束のままの大きさの光であり、測定用光路7及びリファレンス用光路双方に均等に光を入光するような大きさの平行光束を生じさせるとは認められず、甲1発明で達成していた、発光ダイオード1から発せられる光を点光源として広がる光のうち、コリメータレンズ4に入射する光を平行光にして被測定試料が通過するフローセルを光路中に含む測定用光路7及びリファレンス用光路8に均等に光を入光する構成は達成することができない。ゆえに、甲1発明においてその周知のLED光源へ変更することには阻害要因があるから、当業者が容易になしえたものであるとはいえない。
(オ) 以上のことから、上記相違点に係る構成は上記甲第2ないし4号証には開示されておらず、本件特許に係る出願前において周知の技術であるとも認められない。
(カ) そうすると、甲1発明に、甲第2ないし4号証に開示された技術事項及び周知技術を参酌しても、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならない。
イ 本件発明2及び3について
本件特許の請求項2及び3は、請求項1を直接または間接的に引用するものであるから、本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て備える発明である。したがって、本件発明2及び3は、甲1発明と少なくとも、上記相違点で相違する。
上記相違点については、上記「ア」で検討したとおり、甲1発明に、甲第2ないし4号証に開示された技術事項及び周知技術を参酌しても、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならないから、本件発明2及び3も上記「ア」と同様の理由により、甲1発明に、甲第2ないし4号証に開示された技術事項及び周知技術を参酌しても、上記相違点に係る本件発明2及び3の発明特定事項を有するものとはならない。
ウ 申立人の主張について
(ア) 申立人は、異議申立書において、本件発明1と甲1発明に仮に相違点が存在するとしても、かかる相違点は周知技術または甲第3号証及び甲第4号証に開示されている技術を参酌することにより、当業者にとって容易に想到できるものである旨主張する(異議申立書第43頁第7行-第45頁第6行参照。)。
(イ) しかしながら、上記「ア」で検討したとおり、本件発明1と甲1発明の相違点については、甲2発明開示技術のスリットや、甲第3号証及び甲第4号証にも開示された周知の高い平行性を持つ光束を発するLED光源を参酌しても、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならない。
(ウ) したがって、上記申立人の主張は採用することができない。
エ 小括
以上のことから、本件発明1ないし3を、甲1発明及び甲第2ないし4号証に開示された技術事項及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
したがって、当審が令和5年5月23日付けで特許権者に通知した取消理由2は、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消す理由とはならない。
2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
上記「第3」に示したように、異議申立理由1及び2は、上記「1.」で検討した取消理由1及び2と同内容であることから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。
3.まとめ
以上のとおりであるので、上記「第3」の異議申立理由及び上記「第4」の取消理由は、いずれも本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消す理由とはならない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700263