審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2023-700230

冷菓

審判番号
2023-700230
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-034915
登録番号
7128374
請求日
2023年02月28日
審決日
2023年05月12日
公報発行日
2023年06月30日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社ロッテ
  • 【権利者代理人】稲葉 良幸
  • 【権利者代理人】赤堀 龍吾
  • 【権利者代理人】岩崎 正路
  • 【異議申立人】田村 奈緒美
審判長/審判官
  • 審判長 平塚 政宏
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 中村 和正
分類
P1651.113-Y (A23G) / P1651.121-Y (A23G) / P1651.537-Y (A23G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項2号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7128374号発明「冷菓」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7128374号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7128374号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)5月13日を国際出願日とする特願2021-535635号の一部を令和4年3月8日に新たな特許出願(特願2022-34915号)としたものであって、同年8月22日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年2月27日付け(受付日:同年同月28日)で特許異議申立人 田村 奈緒美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 アイスミックスと、 柑橘類に由来する食物繊維と、 食品固形物と、 を含む、冷菓であって、 前記食品固形物が、氷を含み、 前記氷の長さが、0.06~14mmであり、 前記氷の量が、前記冷菓の質量を基準として、15~75質量%である、冷菓。 【請求項2】 前記食品固形物が、氷以外の食品固形物を更に含み、 前記氷以外の食品固形物の長さが、0.9~14mmであり、 前記氷以外の食品固形物の量が、前記冷菓の質量を基準として、1~20質量%である、 請求項1に記載の冷菓。 【請求項3】 前記柑橘類が、ミカン属の柑橘類である、 請求項1又は2に記載の冷菓。 【請求項4】 前記ミカン属の柑橘類が、レモン又はオレンジである、 請求項3に記載の冷菓。 【請求項5】 前記柑橘類に由来する食物繊維の量が、前記冷菓の質量を基準として、0.005~3質量%である、 請求項1~4のいずれか一項に記載の冷菓。 【請求項6】 前記柑橘類に由来する食物繊維が、水不溶性食物繊維を含み、 前記水不溶性食物繊維の量が、前記柑橘類に由来する食物繊維の質量を基準として、50~90質量%である、 請求項1~5のいずれか一項に記載の冷菓。 【請求項7】 前記柑橘類に由来する食物繊維が、水溶性食物繊維を含み、 前記水溶性食物繊維の量が、前記柑橘類に由来する食物繊維の質量を基準として、5~30質量%である、 請求項1~6のいずれか一項に記載の冷菓。 【請求項8】 前記食品固形物の比重が、0.7~1.2である、 請求項1~7のいずれか一項に記載の冷菓。 【請求項9】 前記冷菓の表面に、液体を収容するための凹部が形成されている、 請求項1~8のいずれか一項に記載の冷菓。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和5年2月27日付け(受付日:同年同月28日)で特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1、2及び8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし9は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第4号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)請求項1及び2の記載が少なくとも1つの氷又は少なくとも1つの氷以外の食品固形物の長さが0.06~14mm又は0.9~14mmの範囲であれば本件特許発明の技術的範囲に含まれることを意味するものであるとした場合には、わずか1つの氷又は1つの氷以外の食品固形物によって、本件特許発明1又は2の課題が解決されないことは明らかである。よって、この場合には、本件特許発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、このことは、本件特許発明3ないし9についても同様である。 したがって、本件特許は、サポート要件を満たしていない出願に対してなされたものであるといえる。 (2)本件の請求項1は、食物繊維に関し「柑橘類に由来する」と特定するのみである。そして、出願時の技術常識に照らしても、現存する全ての柑橘類から得られた食物繊維が、上記と同様の作用を有し、本件の課題を解決し得るものであるかを把握することはできない。 より具体的には、本件の請求項1は、甲第2号証に記載の一般的なシトラスファイバーを包含するように記載されているのみならず、従来のアイスミックスに必然的に含まれ得る柑橘類などの果実由来の食物繊維も包含するように記載されている。そして、甲第2号証の記載によれば、少なくとも一般的なシトラスファイバーは、保水量が小さいため、本件特許発明の課題を解決できないものと把握されるものである。 よって、出願時の技術常識に照らしても、本件の実施例は、本件特許発明1ないし9の範囲にまで、その内容を拡張ないし一般化できるものではない。 4 申立理由4(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 請求項1及び2では、氷及び氷以外の食品固形物のそれぞれの総数の何%以上が0.06~14mm又は0.9~14mmの範囲であることが明確にされていない。 また、食品固形物の総数は、観察方法(特に拡大倍率)に依存して大きく変動することは技術常識である。より具体的には、肉眼蜆察では把握されない食品固形物が、顕微鏡観察では把握され得るため、これらの観察方法のそれぞれでは食品固形物の総数が異なることとなる。これは顕微鏡観察における解像度を適宜変更した場合にも当てはまる。そして、本件明細書では、複数の観察方法が記載されているため、食品固形物の総数を一義的に理解することができない。 よって、当業者であっても、本件特許発明1及び2の範囲を理解することができず、本件特許発明1及び2は不明確であるといえる。また、請求項1又は2に従属する請求項3ないし9に記載の本件特許発明3ないし9も不明確であるといえる。 したがって、本件特許は、明確性要件を満たしていない出願に対してなされたものであるといえる。 5 証拠方法 甲第1号証:特開2018-42535号公報 甲第2号証:食品と開発 Vol.53 No.4 75~77頁 甲第3号証:国際公開第2015/098273号 甲第4号証:米国特許出願公開第2018/010365号 甲第5号証:月刊フードケミカル 2011-6 60~64頁 証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断 1 主な証拠に記載された事項等 (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「チップ状油性食品入り冷菓及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。 ・「【請求項1】 氷片と、シロップと、チップ状油性食品とを含む冷菓であり、 前記氷片は、その80質量%以上のものが氷片の最も長い軸上の長さが0.65mm~4.00mmの大きさであり、前記チップ状油性食品は、その95質量%以上のものがチップ状油性食品の最も長い軸上の長さが1.00mm~9.40mmの大きさであり、 前記氷片、シロップ、及びチップ状油性食品の全量に対し、前記氷片が25~45質量%、前記シロップが55~75質量%、前記チップ状油性食品が2~20質量%であることを特徴とする冷菓。」 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、チップ状油性食品とみぞれ状の氷とを含有する冷菓及びその製造方法に関する。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 ・・・(略)・・・ 【0010】 よって、本発明の目的は、口の中に入れた時の氷のシャリシャリ感とチップ状油性食品のパリパリ感とを融合して味わうことができる冷菓を提供することにある。」 ・「【0015】 本発明の冷菓においては、前記チップ状油性食品は、風味原料として、果実由来原料、野菜由来原料、コーヒー、抹茶、及び紅茶からなる群から選択されたいずれか1種を含有しており、・・・(略)・・・ 【0017】 本発明の冷菓においては、前記シロップは、風味原料として、果実由来原料、野菜由来原料、コーヒー、抹茶、及び紅茶からなる群から選択されたいずれか1種を含有しており、・・・(略)・・・」 ・「【0034】 本発明に用いる油性食品は、カカオマス、ココアパウダー、ココアバター、油脂類等を使用した油性食品全般を意味するものとする。・・・(略)・・・ 【0036】 また、油性食品には、風味原料として、イチゴなどの果実由来原料、芋などの野菜由来原料、コーヒー、抹茶、紅茶などを混合することができる。果実由来原料、野菜由来原料としては、果実や野菜の乾燥粉砕物、搾汁液の乾燥粉末などが使用できる。」 ・「【0041】 本発明に用いるシロップは、公知の方法で得ることができる。例えば、材料となる水、砂糖、油脂、水あめ、食塩、乳原料、乳化剤等各種原料を混合・加水溶解した後、殺菌して得られる。 ・・・(略)・・・ 【0043】 また、シロップには、風味原料として、イチゴなどの果実由来原料、芋などの野菜由来原料、コーヒー、抹茶、紅茶などを混合することができる。果実由来原料、野菜由来原料としては、果実や野菜の粉砕物、搾汁液、それらの乾燥物、乾燥粉砕物などが使用できる。コーヒー、抹茶、紅茶としては、それらの抽出液、抽出液の乾燥粉末、茶葉の粉末などが使用できる。・・・(略)・・・ 【0044】 なお、本発明で用いる果実由来原料の果実としては、特に限定されないが、イチゴ、バナナ、パイナップル、リンゴ、メロン、柑橘類、ナシ、洋ナシ、スイカ、ブドウ、カキ、モモ等が挙げられ、野菜由来原料の野菜としては、特に限定されないが、芋類、トマト、スイカ、キュウリ、ニンジン、セロリ、ピーマン、ホウレンソウ等が挙げられる。」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に【請求項1】に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「氷片と、シロップと、チップ状油性食品とを含む冷菓であり、 前記氷片は、その80質量%以上のものが氷片の最も長い軸上の長さが0.65mm~4.00mmの大きさであり、前記チップ状油性食品は、その95質量%以上のものがチップ状油性食品の最も長い軸上の長さが1.00mm~9.40mmの大きさであり、 前記氷片、シロップ、及びチップ状油性食品の全量に対し、前記氷片が25~45質量%、前記シロップが55~75質量%、前記チップ状油性食品が2~20質量%である冷菓。」 (2)甲4に記載された事項等 ア 甲4に記載された事項 甲4には、「FROZEN CONFECTION」(訳:冷菓)に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲4は外国語文献のため、抄訳を摘記する。 ・「「発明の概要 [0012] 本発明者らは、プロトン移動反応質量分析(PTR-MS)を用いて、6000rpmで作動する高速撹拌機を用いて調製した2質量%のヒマワリ油及び0.7質量%のシトラス繊維を含むウォーターアイスが、同じ方法で調製された2質量%のヒマワリ油又は0.7質量%のシトラス繊維のいずれかを含むウォーターアイスと比較したときに、エステル(例えばヘキサン酸エチル、酪酸エチル、及びオクタン酸エチル)等のフルーティーな知覚を有するフレーバー化合物とのin vivoでのリアルタイムのフレーバー放出における相乗的なアップレギュレーションを示したことを観察した。 [0013] また、本発明者らは、時間強度官能評価方法を用いて、600barで作動するホモジナイザーを用いて調製された2質量%のヒマワリ油、0.7質量%のシトラス繊維、及び0.015質量%の酪酸エチル(logP 1.8)を含むウォーターアイスが、ヒマワリ油及びシトラス繊維を含まないか、0.7質量%のシトラス繊維又は2質量%のヒマワリ油を含まない対照ウォーターアイスと比較して、知覚される風味強度の有意な増加及びより長い持続風味知覚を示したことを観察した。同様の結果は、シトラス繊維をサトウキビ繊維に置き換えた場合にも見られた。」 ・「[0031] 好ましくは、前記冷菓は、≧55、好ましくは≧60質量%の氷を含む。好ましくは、前記冷菓は、≦80、好ましくは≦75質量%の氷を含む。」 ・「実施例1 In-vivoでのリアルタイムのフレーバーリリース評価 [0036] ヘルバセルAQプラス シトラス繊維(Herbafood Ingredients GmbH) [0037] グルコース 28 DE(Cargill) [0038] ショ糖エステル S1670(Ryoto) [0039] 16.5質量%の砂糖、5.5質量%のグルコース、0.2質量%のローカストビーンガム、0.2質量%のクエン酸、及び量を種々変更したシトラス繊維(0、0.7及び2質量%)、及びヒマワリ油(0、2及び5質量%)を含むウォーターアイスを調製した。ショ糖エステルは乳化剤として使用し、食用油:乳化剤の質量比を20:1とした。この溶液を、大気圧下、6000rpmの高速撹拌機を用いて均質化した。均質化後の溶液にフレーバー化合物を0.015質量%の濃度で添加した。その後、溶液をブラストフリーザーで-20℃に凍結し、その後、テストに供するまで-18℃で保存した。フレーバー化合物は、ヘキサン酸エチル、酪酸エチル、オクタン酸エチルから選択した。」 ・「結果 [0041] 結果は、(対照に対して)標準化された曲線下の面積(AUC)の形で示され、表1に要約されており、ウォーターアイス処方に2質量%のヒマワリ油を添加すると、フレーバーリリースが約1.5倍改善されたことが認められる。同様に、0.5又は0.7質量%のシトラス繊維のみを添加すると、ヒマワリ油と同じ桁数において総AUCが増加した。驚くべきことに、シトラス繊維とヒマワリ油の組み合わせにより、標準化されたAUCが2.5倍以上増加した。 [図:0001398321000001.jpg] [図:0001398321000002.jpg] 」 イ 甲4に記載された発明 甲4に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。 <甲4発明> 「16.5質量%の砂糖、5.5質量%のグルコース、0.2質量%のローカストビーンガム、0.2質量%のクエン酸、及び量を種々変更したシトラス繊維(0.7及び2質量%)、及びヒマワリ油(2及び5質量%)を含むウォーターアイスを調製し、ショ糖エステルは乳化剤として使用し、食用油:乳化剤の質量比を20:1とし、この溶液を、大気圧下、6000rpmの高速撹拌機を用いて均質化し、均質化後の溶液にフレーバー化合物を0.015質量%の濃度で添加し、その後、溶液をブラストフリーザーで-20℃に凍結した、冷菓。」 (3)甲2に記載された事項 甲2には、「シトラス由来食物繊維「ヘルバセルAQプラス」の特性と食品への応用」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、図や写真の摘記は省略した。 ・「1.基本特性 「ヘルバセルAQプラス」は、ヘルバフード社(ドイツ)が製造している。ヘルバフード社は世界的なペクチンメーカーであるヘルプシュトライト&フォックスグループの一員である。同社はペクチン製造で培ったノウハウを活かして、シトラスフルーツを脱汁、乾燥したピールを特殊粉砕して本品を製造している。 本製品は85%以上の食物繊維を含有する。主成分はシトラスの細胞壁に由来するセルロースやヘミセルロースといった不溶性食物繊維である。一部に水溶性食物繊維としてペクチン質を含む(図1)。 本品は、保水力が他の食物繊維と比較して高いという特徴を持つ。各種食物繊維を水に分散して24時間静置後に、遠心分離を行って水分を保持した食物繊維を分離し、重量測定を行って保水量を算出した。その結果、「ヘルバセルAQプラス」は1g当たり20g以上保水し、その也の食物繊維の2倍以上保水力が高いことが分かる(図2)。このような高保水性を有する理由は、独自製法により原料フルーツ由来の細胞構造を保持しており、スポンジ状の多孔質の構造をしているからである。本製品に水分を与えると固く絞ったスポンジに水分を含ませたときのように膨潤し、水分を保持する(写真1)。さらに、ホモジナイズ処理のような高せん断処理を施すことで繊維構造の膨潤が進み、ホモジナイズ処理をしていないときよりも高保水性を示し、保型性のあるペースト状になる(写真2の右)。ホモジナイズ処理によってペースト状になった本品は各種の食品にボディ感と保型性を付与する。このように、「ヘルバセルAQプラス」の特性を十分に発揮するためにホモジナイズ処理をすることが望ましい。さらに特筆すべきは、このペースト状の「ヘルバセルAQプラス」の食感が“粘さ”のない果実繊維由来の自然なものであることである。」(第75及び76ページ) ・「2.食品への応用 (1)保型性の付与 「ヘルバセルAQプラス」の水溶液にホモジナイズ処理をすると繊維構造が膨潤し、保型性のあるペースト状になる。この性質のために、各種食品に保型性を付与できる。写真3はサラダクリーミードレッシングヘの応用例である。本品の添加により保型性が向上し、角立ちが良くなっている。保型性の付与には増粘多糖類が使用されることが多いが、食感が粘くて不自然になるという課題がある。一方、「ヘルバセルAQプラス」は保型性を付与しながらも粘さがなく自然な食感であり、画期的である。 また、本品は冷菓の保型性向上にも応用できる。写真4はシャーベットヘの応用例である。増粘多糖類(0.3%ローカストビーンガム、0.06%グアーガム)と比較すると、1.0%ヘルバセルAQプラス添加品の方が保型性に優れている。バータイプやソフトクリーム型の冷菓においては保型性が求められており、従来技術では増粘多糖類が利用されることが多いが、増粘多糖類の添加量が多いと食感が粘くなり不自然になるという課題がある。本品の素晴らしいところは保型性を付与しながらも自然な食感であるという点であり、冷菓分野においても有用な素材である。」(第76ページ) ・「(2)懸濁安定性の付与 飲料やスープ、ドレッシングにおいては具材の沈降や浮遊が問題となる。「ヘルバセルAQプラス」は具材を懸濁安定させることができ、液体商品においても有用である。写真5は果実ジュースヘの応用例である 果実飲料においては果肉やピューレの沈降が問題となるが本品を添加するとこれらの沈降を防止できる。ペットボトルや瓶のように中身が見える商品においては見栄えが大事なのでこのような商品において特に有用である。さらに、食感は粘さのないピューレのような自然なものであり、飲みごたえのある商品になる。 写真6は野菜ジュースヘの応用例である。「ヘルバセルAQプラス」の添加により野菜由来の固形物の沈降を防止している。野菜由来の固形物が沈降して容器の底に付着してしまうと、野菜の成分を摂取できないというリスクがある。本品を利用することでこのようなリスクを回避できると同時に、飲みごたえのある食感を付与することができる。近年、スムージーが流行しており、本品を利用することで飲みごたえがあり、満腹感のある商品を作ることができる。 写真7はホエージュースヘの応用例である。ホエー(乳清)はタンパク・ミネラルが豊富に含まれていることから注目されている。このホエーと果物ジュースを混ぜてホエージュースを作ると乳タンパクが凝集して沈殿物が生じるが、この沈殿を「ヘルバセルAQプラス」で防ぐことができる。 本品の懸濁安定能は冷菓にも応用できる。写真8はイチゴ果肉を含む冷菓での応用例である。近年、冷菓分野においては大人向けの商品開発が盛んで、高級志向が強い大きな果肉を含む冷菓は高級感があり、本品を利用することで果肉が均一に分散した商品を作ることができる。」(第76及び77ページ) (4)甲5に記載された事項 甲5には、「ヘルバセルAQプラスのユニークな特徴と食品への応用」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、図や写真の摘記は省略した。 ・「2.ヘルバセルAQプラスとは ・・・(略)・・・ ヘルバセルAQプラスは85%以上の豊富な繊維成分を含んでおり,また水溶性と不溶性の食物繊維をバランスよく含む食物繊維素材である(図1)。ヘルバセルAQプラスの最大の特徴として挙げられるのが食物繊維1g当たり20ml以上という高い保水力であり,これは他の食物繊維素材と比較しても非常に高い値である(図2)。このような高い保水力を生み出す鍵となっているのはヘルバセルAQプラスの独特の繊維構造であり、これは従来の食物繊維素材と比べて非常にユニークな点である。ヘルバセルAQプラスの繊維構造は図3に示すように原料のシトラスフルーツ由来の細胞構造を保持しており,この細胞構造に水分を与えると固く絞ったスポンジに水分を含ませたときのように膨潤し,個々の細胞構造に多くの水分が保持される。その結果としてヘルバセルAQプラスは高い保水力を示すことができ,またホモジナイズ処理によって均一に細胞構造を膨潤させることでより一層ヘルバセルAQプラスの特徴を引き出すことができる。ヘルバセルAQプラスは保水力の高さを生かして加工食品の物性改善にも利用でき,従来の食物繊維の使用法にとどまらない用途でも優れた効果を発揮することができる。 3.ヘルバセルAQプラスの加工食品への応用 3.1 保形性 ・・・(略)・・・ ヘルバセルAQプラスは冷菓やデザートの保形性向上目的でも使用することができる。図5はシャーベットでの保形性を示したものであるが,ヘルバセルAQプラスを1%添加したものはコントロールに用いた安定剤(0.3%LBG,0.06%グアーガム)に比べても高い保水性を示すことがわかる。常温(20℃)で60分間静置した後でもヘルバセルAQプラスを添加したシャーベットはその形を保っており,保水力を生かして非常に高い保形性を保持していることが分かる。また,食感においても増粘性を使用したものに比べ,口当たりがあっさりとしており食感改良の面でも滴した素材であるといえる。 3.2 懸濁安定性 飲料への使用においてもヘルバセルAQプラスはその魅力を十分に発揮することができ,飲料の中でもヘルバセルAQプラスの特徴を最も生かせるのは野菜ジュースや果肉ジュースである。ヘルバセルAQプラスを使用することで飲料へ懸濁安定性を付与できることに加え,繊維感や果肉感を付与することができるのが最大の訴求点である。」(第60ないし62ページ) 2 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「シロップ」は本件特許発明1における「アイスミックス」に相当し、以下同様に、「氷片」及び「チップ状油性食品」は「食品固形物」に、「氷片」は「食品固形物」に含まれる「氷」に、それぞれ相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「アイスミックスと、 食品固形物と、 を含む、冷菓であって、 前記食品固形物が、氷を含む、冷菓。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点1-1> 本件特許発明1においては、「柑橘類に由来する食物繊維と」「を含む」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点1-2> 本件特許発明1においては、「前記氷の長さが、0.06~14mmであり、 前記氷の量が、前記冷菓の質量を基準として、15~75質量%である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「前記氷片は、その80質量%以上のものが氷片の最も長い軸上の長さが0.65mm~4.00mmの大きさであり」、「前記氷片、シロップ、及びチップ状油性食品の全量に対し、前記氷片が25~45質量%」「である」と特定されている点。 イ 判断 相違点1-1について検討する。 甲1には、「柑橘類に由来する食物繊維」を、「シロップ」や「チップ状油性食品」とは別に含ませることは記載も示唆もされていない。 したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。 そして、甲1には、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 ウ 特許異議申立人の主張について (ア)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次の主張(以下、順に「主張1」及び「主張2」という。)をしている。 a 主張1 「a 甲1発明について 甲第1号証には、記載事項1-1、1-3からみて、次の発明(以下、甲1発明)が記載されているといえる。 [甲1発明] A1 シロップと、 B1 前記シロップに含まれる果実由来原料として、柑橘類である果実の粉砕物、搾汁液、乾燥物、又は乾燥粉砕物と、 C1 氷片及びチップ状油性食品と、 D1 を含む、冷菓であって、 E1 前記氷片は、最も長い軸上の長さが0.65mm~4.00mmの大きさであり、 F1 前記シロップ、前記氷片、及び前記チップ状油性食品の全量に対し、前記氷片が2~20質量%であり、 G1 前記チップ状油性食品は、最も長い軸上の長さが1.00mm~9.40mmの大きさであり、 H1 前記シロップ、前記氷片、及び前記チップ状油性食品の全量に対し、前記チップ状油性食品は2~20質量%である、冷菓。」 b 対比(新規性について) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1の発明特定事項C、D、E、Fのそれぞれが、甲1発明の発明特定事項C1、D1、E1、F1と一致することは明らかである。 また、発明特定事項Aのアイスミックスに関し、本件明細書の【0017】には、アイスミックスが糖質、油脂、乳化剤、水、塩などで構成されるものであることが記載されている。一方、発明特定事項A1のシロップに関し、甲第1号証の記載事項1-3には、シロップが水、砂糖や水あめといった糖質、油脂、食塩、乳化剤などで構成されるものであることが記載されている。よって、発明特定事項Aは、発明特定事項A1に一致するといえる。 また、発明特定事項B1に関し、柑橘類である果実の粉砕物などには、当該果実由来の食物繊維が必然的に含まれることは技術常識である。なお、柑橘類に食物繊維が含まれることが技術常識であることは、「日本食品標準成分表、文部科学省科学技術学術審査会資源調査分科会報告」などから把握することができる。よって、発明特定事項B(当審注:本件特許発明1における「柑橘類に由来する食物繊維」のことである。)は、発明特定事項B1に一致するといえる。 これらのことから、本件発明1と甲1発明とは、発明特定事項が全て一致するといえる。したがって、本件発明1は、甲1発明と同一であり、新規性がないものである。」(特許異議申立書第28ないし30ページ) b 主張2 「c 進歩性について 仮に、本件発明1の発明特定事項Bが甲1発明の発明特定事項B1と一致せず、その点において、本件発明1が甲1発明と相違するとしても、次の理由により、本件発明1は、少なくとも進歩性がないものである。 (a)容易想到性について ・・・(略)・・・ このように、甲1発明と甲2発明とは、それぞれの課題が、冷菓における固形物を分散させること、及び、冷菓の風味強度を増加させることの少なくとも2つの点で共通している。よって、甲1発明に甲2発明の技術的事項を適用することの強い動機付けがあるといえる。 ・・・(略)・・・ (b)効果について ・・・(略)・・・ よって、飲料に近いものを対象とする本件発明の効果は、当業者であれば当然に予測可能である。 (c)小括 以上のことから、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明、及び甲第5号証の事項に基づいて極めて容易に成し得るものであり、その効果も既に知られていた効果であるか少なくとも十分に予測可能なものであるため、少なくとも進歩性がないものである。」(特許異議申立書第30ないし35ページ) (イ)特許異議申立人の主張についての検討 そこで、上記主張について検討する。 a 上記主張1について 甲1において、「柑橘類」は「果実由来原料」の「果実」として記載され(甲1の【0044】)、「果実由来原料」は「油性食品」又は「シロップ」の「風味原料」として記載されている(同【0015】、【0017】、【0036】及び【0043】)。すなわち、甲1に記載された「柑橘類」は「油性食品」又は「シロップ」を構成するものであって、「油性食品」又は「シロップ」とは別の物ではない。 したがって、仮に「柑橘類である果実の粉砕物」などに当該果実由来の食物繊維が含まれることが技術常識であったとしても、甲1発明の発明特定事項として、「シロップ」とは別の「柑橘類である果実の粉砕物」を認定することはできないから、「発明特定事項Bは、発明特定事項B1に一致するといえる。」とはいえない。 よって、上記主張1は採用できない。 b 上記主張2について 甲1発明の課題は、「口の中に入れた時の氷のシャリシャリ感とチップ状油性食品のパリパリ感とを融合して味わうことができる冷菓を提供すること」(甲1の【0010】)である。 他方、甲2には、「シトラス由来繊維(ヘルバセルAQプラス)」が保型性に優れ、冷菓分野においても有用な素材であること及び懸濁安定性を付与することができ、冷菓にも応用できることが記載され(甲2の第76及び77ページ)、甲5にも同様の事項が記載されている(甲5の第60ないし62ページ)。そうすると、甲2又は5に記載された技術的事項は、保型性及び懸濁安定性に優れた素材を提供することを課題とするものといえる。 すなわち、甲1発明と甲2又は5に記載された技術的事項の課題は異なる。 したがって、甲1発明に甲2又は5に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。 よって、「このように、甲1発明と甲2発明とは、それぞれの課題が、冷菓における固形物を分散させること、及び、冷菓の風味強度を増加させることの少なくとも2つの点で共通している。よって、甲1発明に甲2発明の技術的事項を適用することの強い動機付けがあるといえる。」とはいえないし、「本件発明1は、甲1発明及び甲2発明、及び甲第5号証の事項に基づいて極めて容易に成し得るものであり」ともいえないので、上記主張2も採用できない。 エ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件特許発明2及び8について 本件特許発明2及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明3ないし7及び9について 本件特許発明3ないし7及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明1、2及び8は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし9は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。 3 申立理由2(甲4に基づく進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲4発明を対比する。 甲4発明における「16.5質量%の砂糖、5.5質量%のグルコース、0.2質量%のローカストビーンガム、0.2質量%のクエン酸」、「ヒマワリ油(2及び5質量%)」及び「ショ糖エステル」を含む「溶液」は本件特許発明1における「アイスミックス」に相当する。 甲4発明における「シトラス繊維」は本件特許発明1における「柑橘類に由来する食物繊維」に相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「アイスミックスと、 柑橘類に由来する食物繊維と、 を含む、冷菓。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点4-1> 本件特許発明1においては、「食品固形物と」「を含み」と特定された上に、「前記食品固形物が、氷を含み、 前記氷の長さが、0.06~14mmであり、 前記氷の量が、前記冷菓の質量を基準として、15~75質量%である」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 相違点4-1について検討する。 甲4には、「好ましくは、前記冷菓は、≧55、好ましくは≧60質量%の氷を含む。好ましくは、前記冷菓は、≦80、好ましくは≦75質量%の氷を含む。」([0031])という記載があるものの、「氷の長さ」に関する記載は全くないから、甲4発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲4及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲4発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 ウ 特許異議申立人の主張について (ア)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次の主張(以下、「主張3」という。)をしている。 ・主張3 「a 甲4発明について 甲第4号証の記載事項4-3からみて、甲第4号証には、次の発明(以下、甲4発明)が記載されているといえる。 ・・・(略)・・・ そして、甲4発明は、記載事項4-1からみて、冷菓たるウォーターアイスの風味強度を増加させることを課題とするものである。 b 対比 本件発明1と甲4発明とを対比すると、本件発明1の発明特定事項A、B、C、D、が、それぞれ、甲4発明の発明特定事項A4、B4、C4、D4と一致することは明らかである。 一方、本件発明1は、発明特定事項E、Fを備える点において、甲4発明とは相違する。 しかしながら、甲第1号証には、上記で認定したとおりの甲1発明が記載され、この甲1発明は、記載事項1-1からみて、如何にして冷菓における風味原料の味わいを高めるかを課題としており、より具体的には、口の中において、氷片が溶けるタイミングと、チップ状油性食品の口溶けのタイミングとをマッチさせて風味を良好に味わわせることを課題としている。そして、かかる課題を解決するために、甲1発明は、氷片の長さを0.65mm~4.00mmとし(発明特定事項E1)、かつ、氷片を25~45質量%含ませ(発明特定事項F1)、並びに、チップ状油性食品の長さを1.00mm~9.4mmとし(発明特定事項G1)、かつ、チップ状油性食品を2~20質量%含ませる(発明特定事項H1)との手段(技術的事項)を採用していると認められる。 このように、甲4発明と甲1発明とは、課題の共通性が認められる。そして、風味強度を増加させるように機能する甲4発明に、風味原料の味わいを高めるように機能する甲1発明の前記技術的事項を採用することの強い動機付けがあるといえる。 また、甲第1号証の背景技術に記載されているように(特に【0002】~【0003】)、氷の大きさ及び氷の含有量を調整することは、冷菓の種類に応じて付与すべき食感や清涼感を考慮して適宜なされる設計的事項である。なお、かかる調整が設計的事項であることは、本件の特許権者も自認していることであり、このことは、本件明細書の【0026】における「食品固形物の長さは、食品固形物の種類に応じて適宜変更すればよい。」との記載、【0029】における「食品固形物の量は、食品固形物の種類に応じて適宜変更すればよい。」との記載から明らかである。加えて、本件の実施例には、上述したとおり、食品固形物たる氷の大きさについては一切の記載がなく、このことは、本件特許権者が当該技術事項を設計的事項と自認していたことに基づくものといえる。 よって、本件発明1は、甲4発明及び甲1発明に基づいて、極めて容易に想到され得るものである。 また、「(4)具体的理由;ア 新規性欠如及び進歩性欠如-1;(ウ)本件発明1について;c 進歩性について;(b)効果について」で述べたとおり、本件発明1の効果は、公知の事項であり、少なくとも十分に予測可能なものである。また、本件明細書の実施例を参照してみても、これらの数値については何ら評価されておらず、氷の長さや量の数値範囲の臨界的意義は認められない。 よって、本件発明1は、進歩性がないものである。」(特許異議申立書第48ないし50ページ) (イ)特許異議申立人の主張についての検討 そこで、上記主張3について検討する。 甲4の[0012]及び[0013]によると、甲4発明の課題は、「風味強度」を「増加」し「持続」させることである。 他方、甲1発明の課題は、上記2(1)ウ(イ)bのとおり、「口の中に入れた時の氷のシャリシャリ感とチップ状油性食品のパリパリ感とを融合して味わうことができる冷菓を提供すること」である。 すなわち、両者の課題は異なる。 したがって、甲4発明に甲1発明を適用する動機付けがあるとはいえない。 よって、「甲4発明と甲1発明とは、課題の共通性が認められる。そして、風味強度を増加させるように機能する甲4発明に、風味原料の味わいを高めるように機能する甲1発明の前記技術的事項を採用することの強い動機付けがあるといえる。」とはいえず、上記主張3は採用できない。 エ まとめ したがって、本件特許発明1は、甲4発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明2ないし9について 本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。 4 申立理由3(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。 (3)サポート要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0001】ないし【0005】によると、本件特許発明1ないし9の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「固形物の分離を、製品の粘度を上昇させることなく、抑制することを目的として、脱アシル化ジェランガムを使用することを開示する特許文献1とは異なる方法にて、液体と固形物(固形物が複数種存在する場合は、少なくとも1種の固形物)との分離が抑制された冷菓を提供すること」である。 また、発明の詳細な説明の【0006】には「柑橘類に由来する食物繊維を使用することにより、上記目的を達成できることを見出した。」と記載され、同【0007】には、本件特許発明1ないし9に対応する記載がある。 そして、発明の詳細な説明の【0012】には「柑橘繊維は、不溶性食物繊維で構成される長く大きな粒子を含み、加水加圧されると膨潤し、隙間が生じる。複雑に交差し合った柑橘繊維の隙間に固形物が捕捉されることにより、固液分離が抑制されると想定される。実際、柑橘繊維を含む冷菓では、表面が濡れたようなウェットな外観となっているが、これは、柑橘繊維が、水を含んだ状態で、固形物を捕捉していることに起因すると想定される。このような外観は、アイスミックスの分離抑制のために一般的に使用されるローカストビーンガム等の水溶性多糖類を使用した場合には観察されない。なお、従来の水溶性多糖類は、水溶液中でネットワークを構築し、前記ネットワーク中に脂質等の微粒子を分散させ、安定化させているが、比重の大きな固形物が入ると、ネットワーク内で捕捉しきれずに分離してしまう。」と記載され、同【0030】ないし【0041】において、柑橘類に由来する食物繊維を使用した実施例では、固液分離を抑制することができ、柑橘類に由来する食物繊維を使用しなかった比較例では、固液分離を抑制することができなかったことを確認している。 そうすると、当業者は、「柑橘類に由来する食物繊維を含む冷菓」は、発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1ないし9は、上記発明の課題を解決できると認識できる「冷菓」をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 (4)特許異議申立人の主張についての検討 特許異議申立人の上記第3 3の主張について検討する。 ア 上記第3 3(1)の主張について 特許異議申立人の上記第3 3(1)の主張は、「請求項1及び2の記載が少なくとも1つの氷又は少なくとも1つの氷以外の食品固形物の長さが0.06~14mm又は0.9~14mmの範囲であれば本件特許発明の技術的範囲に含まれることを意味するものである」ことを前提とする主張であるところ、下記5(3)のとおりであるから、該主張はその前提から誤っている。 したがって、特許異議申立人の上記第3 3(1)の主張は当然採用できない。 イ 上記第3 3(2)の主張について 甲2から、「ヘルバセルAQプラス」が一般的なシトラスファイバーより高い保水量を示すものであることはいえるかもしれないが、一般的なシトラスファイバーを使用した場合に、発明の課題を解決できないことを示すものであるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記第3 3(2)の主張も採用できない。 (5)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。 5 申立理由4(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2)明確性要件の判断 本件特許の請求項1ないし9の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はない。 したがって、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3)特許異議申立人の主張についての検討 特許異議申立人の上記第3 4の主張について検討する。 本件特許の請求項1の「前記食品固形物が、氷を含み、 前記氷の長さが、0.06~14mmであり、 前記氷の量が、前記冷菓の質量を基準として、15~75質量%である」という記載が、「食品固形物」が「長さが0.06~14mmの氷」を「冷菓の質量を基準」として「15~75質量%」含むことを意味することは当業者に明らかである。 すなわち、「長さが0.06~14mm」のものが本件特許発明1における「氷」であり、その範囲外のものは本件特許発明1における「氷」ではないし、観察方法によっては「長さが0.06~14mm」の範囲外の「氷」の量に違いが生じるかもしれないが、「長さが0.06~14mm」の範囲外の「氷」は本件特許発明1における「氷」ではないから、そのようなものの量の増減は、本件特許発明1の範囲に含まれるかどうかとは関係がない。 したがって、本件特許発明1の範囲は明確に理解できる。 また、本件特許の請求項2の「前記食品固形物が、氷以外の食品固形物を更に含み、 前記氷以外の食品固形物の長さが、0.9~14mmであり、 前記氷以外の食品固形物の量が、前記冷菓の質量を基準として、1~20質量%である」という記載が、「食品固形物」が「長さが0.9~14mmの氷以外の食品固形物」を「冷菓の質量を基準」として「1~20質量%」含むことを意味することも当業者に明らかである。 すなわち、「長さが0.9~14mm」のものが本件特許発明2における「氷以外の食品固形物」であり、その範囲外のものは本件特許発明2における「氷以外の食品固形物」ではないし、観察方法によっては「長さが0.9~14mm」の範囲外の「氷以外の食品固形物」の量に違いが生じるかもしれないが、「長さが0.9~14mm」の範囲外の「氷以外の食品固形物」は本件特許発明2における「氷以外の食品固形物」ではないから、そのようなものの量の増減は、本件特許発明2の範囲に含まれるかどうかとは関係がない。 したがって、本件特許発明2の範囲は明確に理解できる。 よって、特許異議申立人の上記第3 4の主張は採用できない。 (4)申立理由4についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。 第5 結語 上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700230

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決43件(株式会社ロッテ、田村 奈緒美)
  • 2024-700841異議申立 / 2025-03-19 / 維持鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造および鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法
    同じ当事者: 田村 奈緒美
  • 2023-700304異議申立 / 2024-08-27 / 訂正認容研磨用組成物
    同じ当事者: 田村 奈緒美
  • 2024-700257異議申立 / 2024-07-05 / 維持研磨パッド及び研磨パッドの製造方法
    同じ当事者: 田村 奈緒美
  • 2024-700397異議申立 / 2024-06-27 / 維持セメント組成物
    同じ当事者: 田村 奈緒美
  • 2023-701039異議申立 / 2024-05-29 / 訂正認容研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法、および半導体基板の製造方法
    同じ当事者: 田村 奈緒美
同じ論点・分野の審決(審決分類)76件(113・A23G、121・A23G、537・A23G)
  • 2025-700552異議申立 / 2026-05-13 / 訂正認容冷菓
    共通の審決分類: 113・A23G、121・A23G、537・A23G
  • 2022-700876異議申立 / 2023-09-08 / 訂正認容中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを含むチョコレート類
    共通の審決分類: 113・A23G、121・A23G、537・A23G
  • 2022-700576異議申立 / 2023-02-24 / 請求成立(取消)装飾材、菓子類及び装飾材の作成方法
    共通の審決分類: 113・A23G、121・A23G、537・A23G
  • 2021-700861異議申立 / 2022-01-14 / 維持チョコレートの砂糖使用量低減方法
    共通の審決分類: 113・A23G、121・A23G、537・A23G
  • 2021-700261異議申立 / 2021-12-23 / 訂正認容菓子組成物及び菓子組成物の改良方法
    共通の審決分類: 113・A23G、121・A23G、537・A23G

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存