特許異議申立
2022-700876
中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを含むチョコレート類
- 審判番号
- 2022-700876
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-057951
- 登録番号
- 7031773
- 請求日
- 2022年09月07日
- 審決日
- 2023年09月08日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】不二製油株式会社
- 【異議申立人】中野 圭二
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 三上 晶子
- 分類
- P1651.113-YAA(A23G) / P1651.121-YAA(A23G) / P1651.537-YAA(A23G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7031773号発明「中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを含むチョコレート類」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7031773号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、3、4、5、6、7について訂正することを認める。
特許第7031773号の請求項3ないし7に係る特許を維持する。
特許第7031773号の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7031773号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、令和3年3月30日を出願日とする特許出願であって、令和4年2月28日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年3月8日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年9月7日に特許異議申立人 中野 圭二(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和5年2月27日付けで取消理由が通知され、同年4月25日に特許権者 不二製油株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)とともに意見書が提出され、同年5月26日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を特許異議申立人に対して行ったところ、同年6月27日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求における請求の趣旨は、「特許第7031773号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記ランダム化された油脂がMCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油である請求項1又は2に記載のチョコレート類。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含み、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類であって、ランダム化された油脂がMCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油であるチョコレート類。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させる、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類の製造方法。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」と記載されているのを、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来であって、ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させる、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類の製造方法。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含有させる、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類の食感改善方法。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」と記載されているのを、「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含有させる、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類の食感改善方法であって、ランダム化された油脂がMCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油であるチョコレート類の食感改善方法。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「ランダム化された油脂であって、中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを15~28重量%含有する、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類用の食感改良油脂。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」と記載されているのを、「ランダム化された油脂であって、MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油である、中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを15~28重量%含有する、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類用の食感改良油脂。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」に訂正する。
なお、訂正請求書の訂正事項6における「但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」の記載は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載から、「但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」の誤記であると認めた。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3に「前記ランダム化された油脂がMCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油である請求項1又は2に記載のチョコレート類。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」とあるうち、請求項1及び2を引用するものについて、独立形式に改め、「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含み、無脂乳固形分を15重量%以上含み、粉乳を20~50重量%含むチョコレート類であって、ランダム化された油脂がMCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油であるチョコレート類。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」と記載し、新たに請求項7とする。
ク 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし3について、請求項3は、請求項1又は2を引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1及び2に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし3に対応する訂正後の請求項1ないし3及び7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
ケ 別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項3及び7については、当該請求項の訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1及び2について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであり、訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項3の訂正は、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用する記載であるところ、請求項間の引用関係を解消し、かつ、請求項1の記載に基づいて独立形式で記載したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、当該訂正が願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項4について
訂正事項4に係る請求項4の訂正は、訂正前の請求項4に記載された「中鎖脂肪酸結合トリグリセリド」を、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来」であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正は、本件特許明細書の段落【0012】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項5及び6について
訂正事項5に係る請求項5の訂正は、訂正前の請求項5に記載された「ランダム化された油脂」を、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であるものに限定するものであり、訂正事項6に係る請求項6の訂正は、訂正前の請求項6に記載された「ランダム化された油脂」を、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正は、本件特許明細書の段落【0012】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項7について
訂正事項7の訂正は、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用する請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式で記載されたものを請求項7として追加したものであるから、当該訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、当該訂正が願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし6に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、3、4、5、6、7について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。また、総称として「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
削除
【請求項2】
削除
【請求項3】
ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含み、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類であって、ランダム化された油脂がMCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油であるチョコレート類。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。
【請求項4】
MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来であって、ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させる、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類の製造方法。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。
【請求項5】
ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含有させる、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類の食感改善方法であって、ランダム化された油脂がMCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油であるチョコレート類の食感改善方法。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。
【請求項6】
ランダム化された油脂であって、MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油である、中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを15~28重量%含有する、無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類用の食感改良油脂。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。
【請求項7】
ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含み、無脂乳固形分を15重量%以上含み、粉乳を20~50重量%含むチョコレート類であって、ランダム化された油脂がMCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油であるチョコレート類。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年9月7日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(甲第5号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
6 申立理由6(甲第6号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
7 申立理由7(甲第7号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
8 申立理由8(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記(1)ないし(4)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許発明1ないし6の「中鎖脂肪酸結合トリグリセリド」について、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許出願時の技術常識に照らしても本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、実施例(エステル交換油1、エステル交換油2及びMCT油)の記載より、中鎖脂肪酸結合トリグリセリド全般にまで拡張できるとはいえない。
(2)本件特許発明1ないし5の「0.85~15.0重量%」について、本件特許の発明の詳細な説明には、チョコレートに含まれる中鎖脂肪酸結合トリグリセリドが、中鎖脂肪酸が3つ結合したトリグリセリドのみの場合、チョコレート中の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドの含有量が15.0重量%未満、10.0重量%未満、5.0重量%未満、特に1.0重量%未満の場合は、本件特許出願時の技術常識に照らしても本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、実施例(15.0重量%)の記載より、「0.85~15.0重量%」にまで拡張できるとはいえない。
(3)本件特許発明1、2及び4ないし6は、本件特許発明の課題を解決しない甲1-1,甲1-2及び甲1-4発明のうちの比較例14,16,17を包含していることから、少なくとも甲1-1,甲1-2及び甲1-4発明で使用しているランダム化された油脂(実施例3の油脂(a))を使用した場合において課題を解決しないものを包含している。
(4)本件特許発明1ないし6の「無脂乳固形分を15重量%以上含む」について、本件特許の発明の詳細な説明には、チョコレート中の無脂乳固形分の含有量が18.7重量%を超える場合、20重量%を超える場合、25重量%を超える場合、30重量%を超える場合、35重量%を超える場合、40重量%を超える場合、45重量%を超える場合、特に50重量%を超える場合は、本件特許出願時の技術常識に照らしても本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、実施例(16.4~18.7重量%)の記載より、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」にまで拡張できるとはいえない。
9 申立理由9(明確性要件)
本件特許の請求項3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明3の「長鎖脂肪酸油脂」は、長鎖脂肪酸を含む油脂という意味であったとしても、長鎖脂肪酸をどの程度含めば「長鎖脂肪酸油脂」であるのかは、当業者であっても、理解できない。
10 証拠方法
・甲第1号証:特開平9-121771号公報
・甲第2号証:欧州特許出願公開第2443935号明細書
・甲第3号証:特開平11-98952号公報
・甲第4号証:特開昭55-60599号公報
・甲第5号証:特開2009-17821号公報
・甲第6号証:英国特許出願公告第1495254号明細書
・甲第7号証:国際公開第2009/057451号
・甲第8号証:特開昭54-31407号公報
・甲第9号証:中澤君敏著、「マーガリン ショートニング ラード-可塑性油脂のすべて-」、光琳、昭和54年8月3日、p.175-183
・甲第10号証:「油脂・脂質の基礎と応用-栄養・健康から工業まで-」、社団法人日本油化学会、平成17年4月1日、p.5,28,48-49
・甲第11号証:藤田哲著、「食用油脂-その利用と油脂食品-」、幸書房、2000年4月5日、p.87
・甲第12号証:国際公開第2007/129590号
・甲第13号証:特開2010-142153号公報
・甲第14号証:Ralph E. Timms著(佐藤清隆監修、蜂屋巌翻訳)、「製菓用油脂ハンドブック」、幸書房、2010年2月14日、p.150-151
また、令和5年6月27日に提出された意見書に添付して、次の証拠も提出している。
・参考文献1:J-Platpatにて「請求の範囲」を対象に「長鎖脂肪酸油」を検索した結果
・参考文献2:国際公開第2012/141316号(抜粋)
証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、「甲第1号証」ないし「甲第14号証」を、「甲1」ないし「甲14」という。
第5 令和5年2月27日付けで特許権者に通知した取消理由の概要
本件特許に対して、当審が令和5年2月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次の1ないし7のとおりである。なお、取消理由は、申立理由のうち、申立理由1ないし7を包含する。
取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由5(甲5に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由6(甲6に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由7(甲7に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
1 令和5年2月27日付けで特許権者に通知した取消理由についての判断
(1)取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲1の記載事項等
(ア)甲1の記載事項
甲1には、「チョコレート用食感改良剤およびチョコレート組成物」について、次の記載がある。
・「【請求項1】 次の油脂(a)及び乳化剤(b)を含有して成るテンパリング型チョコレートの食感改良剤。
(a)全脂肪酸組成中ラウリン酸が25~50%であり、飽和脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸であるSOS型トリグリセリド(S:飽和脂肪酸,O:オレイン酸)が5~30%であり、かつ前記SOS型トリグリセリドの飽和脂肪酸中のSt/P比(St:ステアリン酸,P:パルミチン酸)が2以上である、植物性油脂。
(b)親油性ソルビタン脂肪酸エステル。」
・「【0015】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明が解決しようとする課題は、従来のチョコレートのシャープな口溶けを示しながら、唾液に溶出したチョコレートの粘着性を大幅に軽減させて、従来技術では製造困難であった口中で後残りが少ないさっぱり感のあるチョコレートを提供することである。さらに本発明が解決しようとする課題は、より安価にて前記のチョコレートを提供することである。さらにもう一つの本発明が解決しようとする課題は、前記チョコレートを製造するための食感改良剤を提供することである。」
・「【0026】実施例3
ヤシ油80部とパーム油20部を、触媒としてナトリウムメトキシドを用いてエステル交換し、ヨウ素価17.2、上昇融点22.0℃のラウリン系油脂Cを得た。一方、パーム油とステアリン酸のエチルエステルを、リパーゼを用いてグリセリドの1,3位で選択的にエステル交換し、これをエステル留去した後、溶剤を用いて中融点部分を分別濃縮し、ヨウ素価34.0、上昇融点38.0℃、StOSt成分41.5%、POSt成分35.0%、POP成分7.8%のSOS系油脂3○(当審注:3○は丸付き数字3を意味する。)を得た。上記ラウリン系油脂C80部とSOS系油脂3○20部を混合し、ラウリン酸含量30.2%、SOS含量16.8%で、かつSOS中のSt/Pが2.5である油脂を得た。」
・「【0040】実施例7
実施例1により調製した油脂(a)と乳化剤(b)としてソルビタントリステアレート(花王 エマゾールS-30F)を75:25の割合で加熱溶解し、食感改良剤を得た。」
・「【0057】E.食感を改良するための分を別個に添加して成るテンパリング型チョコレート組成物
油脂(a)と乳化剤(b)からなる食感改良剤を添加するのではなく、食感改良剤中の種々の成分を別個にチョコレート生地に添加してテンパリング型チョコレートを作製した。
・・・(略)・・・
【0059】実施例13
カカオマス20部、全粉乳21部、カカオバター8部、実施例3により調製した油脂(a)8部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)1部、大豆レシチン0.3部の配合により、常法に準じてテンパリング型チョコレートを作製した。
・・・(略)・・・
【0061】比較例14
カカオマス20部、全粉乳21部、実施例3により調製した油脂(a)12部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)1部、大豆レシチン0.3部の配合により、常法に準じてテンパリング型チョコレートを作製した。
・・・(略)・・・
【0063】試験例4
実施例12~13および比較例13~15のテンパリング型チョコレートにつき、50名のパネラーによる食感の官能評価を行った。この結果を、試作したテンパリング型チョコレートの全油脂脂肪酸組成中のラウリン酸含量と合わせて表4に示した。
【0064】
【表4】
[図:0001404761000001.jpg]
表4に示した結果より、チョコレートの全脂肪酸組成中のラウリン酸含量が約0.5~10%であるチョコレート組成物が良好であることが示唆された。
【0065】F.食感を改良するための成分を別個に添加して成るテンパリング型チョコレート組成物における乳化剤(b)の含量
上記E.の食感改良剤中の種々の成分を別個にチョコレート生地に添加して成るテンパリング型チョコレートにおいて、乳化剤(b)の含量が及ぼす影響について検討するため、次のテンパリング型チョコレートを試作した。
・・・(略)・・・
【0068】実施例16
カカオマス20部、全粉乳21部、カカオバター11部、実施例3により調製した油脂(a)5部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)1部、大豆レシチン0.3部の配合により、常法に準じてテンパリング型チョコレートを作製した。
【0069】実施例17
カカオマス20部、全粉乳21部、カカオバター11部、実施例3により調製した油脂(a)5部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)3部、大豆レシチン0.3部の配合により、常法に準じてテンパリング型チョコレートを作製した。
【0070】比較例16
カカオマス20部、全粉乳21部、カカオバター11部、実施例3により調製した油脂(a)5部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)6部、大豆レシチン0.3部の配合により、常法に準じてテンパリング型チョコレートを作製した。
【0071】試験例5
実施例14~17および比較例16のテンパリング型チョコレートにつき、口中での後残りの違いを客感的に比較するために前述の方法で粘着性を測定した。その成績を、チョコレート組成物中の乳化剤(b)(この場合ソルビタントリステアレート)の割合とともに表5に示した。
【0072】
【表5】
[図:0001404761000002.jpg]
表5に示すように、実施例14~17によるテンパリング型チョコレートの粘着性が低く、口中での後残りが軽減されていることが判る。
【0073】G.卵黄レシチンを併用した食感が改良されたテンパリング型チョコレート組成物
前述のように、本出願人は本発明の前に、卵黄レシチンのチョコレート組成物への1~3重量%の添加が本発明の目的と同様の食感改良効果をもたらすことを見い出している。卵黄レシチンを本発明の油脂(a)および乳化剤(b)と併用することは当然に可能であると思料されるため、その効果を検討するために以下のテンパリング型チョコレートを試作した。
【0074】実施例18
カカオマス20部、全粉乳21部、カカオバター11部、実施例3により調製した油脂(a)5部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)1部、卵黄レシチン0.3部の配合により、常法に準じてテンパリング型チョコレートを作製した。
【0075】実施例19
カカオマス20部、全粉乳21部、カカオバター11部、実施例3により調製した油脂(a)5部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)1部、卵黄レシチン0.2部、大豆レシチン0.1部の配合により、常法に準じてテンパリング型チョコレートを作製した。
【0076】比較例17
カカオマス20部、全粉乳21部、カカオバター11部、実施例3により調製した油脂(a)5部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)1部、大豆レシチン0.3部の配合により、常法に準じてテンパリング型チョコレートを作製した。
【0077】試験例6
実施例18~19および比較例17のテンパリング型チョコレートにつき、嗜好調査として50名の女子高校生パネラーによる食感の官能評価を行うとともに、口中での後残りの違いを客感的に比較するために前述の方法で粘着性を測定した。その成績を表6に示した。
【0078】
【表6】
[図:0001404761000003.jpg]
表6に示した結果から、卵黄レシチンを使用したチョコレートの方が、明らかに食感が良好であることが判る。また、粘着性においても僅かながら卵黄レシチンを使用したものが良好であった。」
(イ)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、【0015】における「チョコレートを製造するための食感改良剤」の記載、及び実施例13について整理すると、次の発明が記載されているものと認める。
「カカオマス20部、全粉乳21部、カカオバター8部、ヤシ油80部とパーム油20部を触媒としてナトリウムメトキシドを用いてエステル交換して得たヨウ素価17.2、上昇融点22.0℃のラウリン系油脂C80部とパーム油とステアリン酸のエチルエステルをリパーゼを用いてグリセリドの1,3位で選択的にエステル交換しこれをエステル留去した後溶剤を用いて中融点部分を分別濃縮して得たヨウ素価34.0、上昇融点38.0℃、StOSt成分41.5%、POSt成分35.0%、POP成分7.8%のSOS系油脂3○20部を混合して得た、ラウリン酸含量30.2%、SOS含量16.8%で、かつSOS中のSt/Pが2.5である油脂(a)8部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)1部、大豆レシチン0.3部の配合により、常法に準じて作製する、テンパリング型チョコレートの製造方法。」(以下、「甲1製造方法発明1」という。)
「カカオマス20部、全粉乳21部、カカオバター8部、ヤシ油80部とパーム油20部を触媒としてナトリウムメトキシドを用いてエステル交換して得たヨウ素価17.2、上昇融点22.0℃のラウリン系油脂C80部とパーム油とステアリン酸のエチルエステルをリパーゼを用いてグリセリドの1,3位で選択的にエステル交換しこれをエステル留去した後溶剤を用いて中融点部分を分別濃縮して得たヨウ素価34.0、上昇融点38.0℃、StOSt成分41.5%、POSt成分35.0%、POP成分7.8%のSOS系油脂3○20部を混合して得た、ラウリン酸含量30.2%、SOS含量16.8%で、かつSOS中のSt/Pが2.5である油脂(a)8部、砂糖42部、香料0.1部、実施例7で使用した乳化剤(b)1部、大豆レシチン0.3部の配合により、常法に準じて作製した、テンパリング型チョコレートの食感を改良する方法。」(以下、「甲1食感改良方法発明1」という。)
「甲1食感改良方法発明1のための、油脂(a)。」(以下、「甲1食感改良油脂発明1」という。)
また、甲1に記載された事項を、実施例16、17、18及び19並びに比較例14、16及び17について、実施例13と同様に整理した「テンパリング型チョコレートの製造方法」、「テンパリング型チョコレートの食感を改良する方法」及び「油脂(a)」を、それぞれ「甲1製造方法発明2」ないし「甲1製造方法発明8」、「甲1食感改良方法発明2」ないし「甲1食感改良方法発明8」、「甲1食感改良油脂発明2」ないし「甲1食感改良油脂発明8」、という。
イ 本件特許発明1及び2について
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項1及び2は削除された。そうすると本件特許発明1及び2については取消理由1の対象は存在しない。
ウ 本件特許発明4について
(ア)甲1製造方法発明1との対比・判断
本件特許発明4と甲1製造方法発明1とを対比する。
甲1製造方法発明1の「テンパリング型チョコレート」は、本件特許発明4の「チョコレート類」に相当する。
また、甲1製造方法発明1は、全粉乳を含有していることから、本件特許発明4の「無脂乳固形分」を含むことは明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「無脂乳固形分を含むチョコレート類の製造方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明4は、「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させ」、「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」のに対し、甲1製造方法発明1は、そのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明4は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲1製造方法発明1は、そのような特定がない点。
<相違点1-3>
中鎖脂肪酸結合トリグリセリドに関して、本件特許発明4は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来」であるのに対し、甲1製造方法発明1は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点1-3について検討する。
甲1には、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」についての記載はなく、甲1製造方法発明1の「油脂(a)」が「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であることを示す具体的な証拠もない。
そうすると、相違点1-3は、実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1製造方法発明1において、相違点1-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1製造方法発明1において、相違点1-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「無脂乳固形分を多く含むチョコレート類の、ねちゃつき感を軽減することができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0013】)という効果は、甲1製造方法発明1並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲1製造方法発明1ではないし、甲1製造方法発明1、甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(イ)甲1製造方法発明2ないし8との対比・判断
本件特許発明4と甲1製造方法発明2ないし8を対比すると、上記(ア)と同様の相当関係が成り立ち、上記(ア)と同様の一致点及び一応の相違点があり、その判断も上記(ア)のとおりである。
よって、本件特許発明4は、甲1製造方法発明2ないし8ではないし、甲1製造方法発明2ないし8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件特許発明5について
(ア)甲1食感改良方法発明1との対比・判断
本件特許発明5と甲1食感改良方法発明1とを対比すると、上記ウ(ア)と同様の相当関係が成り立ち、さらに、甲1食感改良方法発明1の「食感を改良する方法」は、本件特許発明5の「食感改善方法」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「無脂乳固形分を含むチョコレート類の食感改善方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1-4>
本件特許発明5は、「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含有させ」、「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」のに対し、甲1食感改良方法発明1は、そのような特定がない点。
<相違点1-5>
本件特許発明5は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲1食感改良方法発明1は、そのような特定がない点。
<相違点1-6>
ランダム化された油脂に関して、本件特許発明5は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であるのに対し、甲1食感改良方法発明1は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点1-6について検討すると、上記ウ(ア)の相違点1-3と同旨であるから、上記ウ(ア)と同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲1食感改良方法発明1ではないし、甲1食感改良方法発明1、甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(イ)甲1食感改良方法発明2ないし8との対比・判断
本件特許発明5と甲1食感改良方法発明2ないし8を対比すると、上記(ア)と同様の相当関係が成り立ち、上記(ア)と同様の一致点及び一応の相違点があり、その判断も上記(ア)のとおりである。
よって、本件特許発明5は、甲1食感改良方法発明2ないし8ではないし、甲1食感改良方法発明2ないし8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 本件特許発明6について
(ア)甲1食感改良油脂発明1との対比・判断
本件特許発明6と甲1食感改良油脂発明1とを対比すると、上記ウ(ア)と同様の相当関係が成り立ち、さらに、甲1食感改良油脂発明1の「甲1食感改良方法発明1のための、油脂(a)」は、本件特許発明6の「食感改良油脂」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「無脂乳固形分を含むチョコレート類用の食感改良油脂。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1-7>
本件特許発明6は、「ランダム化された油脂」である「中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを15~28重量%含有」し、「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」のに対し、甲1食感改良油脂発明1は、そのような特定がない点。
<相違点1-8>
本件特許発明6は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲1食感改良油脂発明1は、そのような特定がない点。
<相違点1-9>
ランダム化された油脂に関して、本件特許発明6は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であるのに対し、甲1食感改良油脂発明1は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点1-9について検討すると、上記ウ(ア)の相違点1-3と同旨であるから、上記ウ(ア)と同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲1食感改良油脂発明1ではないし、甲1食感改良油脂発明1、甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(イ)甲1食感改良油脂発明2ないし8との対比・判断
本件特許発明6と甲1食感改良油脂発明2ないし8を対比すると、上記(ア)と同様の相当関係が成り立ち、上記(ア)と同様の一致点及び一応の相違点があり、その判断も上記(ア)のとおりである。
よって、本件特許発明6は、甲1食感改良油脂発明2ないし8ではないし、甲1食感改良油脂発明2ないし8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
カ 取消理由1についてのまとめ
上記イないしオのとおりであるから、取消理由1はその理由がない。
(2)取消理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲2の記載事項等
(ア)甲2の記載事項
甲2には、「食品」について、次の記載がある。なお、甲2は外国語の文献のため、実施例5([0085]、[0088]及び[0089])、実施例6([0092]、[0093]及び[0095])、実施例7([0097])の訳文のみを摘記した。
・「[0085]
以下からなる脂肪ブレンド6を調製した:
57重量% IV36.4のシアステアリン、
28重量% 以下の脂肪酸組成の中鎖トリグリセリド油
:C8 59.3重量%、C10 40.2重量%、C12 0.3重量%
15重量% IV87.3の高オレイン酸ヒマワリ油」
・「[0088]
表9のレシピに従って、脂肪ブレンド5および6を使用した製菓用クリームを調製した。
[図:0001404761000004.jpg]
[0089]
クリームは、材料を混合し、得られた混合物を3本ロールリファイナーでリファイニングし、リファイニングされたものを57.6℃でコンチングすることによって調製した。
コンチング中に0.1%のレシチンを添加した。次に、クリームは29℃で冷却し、組成物の重量に対して0.2重量%のチョコシードAが添加された。チョコシードAは、ベータ型で結晶化されたSUS-トリグリセリドの最小使用量を含む不二製油の製品である。コンチング及び冷却されたクリームとチョコシードとをよく混合した。Alカップに充填した後、それらは、10℃で30分間冷却した。次に、充填されたカップを20℃のインキュベーターに4日間入れた。その温度におけるクリームのテクスチャーを、SMSテクスチャメーターで測定した(直径3mmのプローブを使用し、プローブ速度0.5mm/秒、深さ10mmの条件で測定した)。」
・「[0092]
脂肪ブレンドAは、25重量%の標準的なパーム核油と75重量%の高オレイン酸ヒマワリ油をブレンドすることによって調製した。
[0093]
脂肪ブレンドB、ブレンドAの化学的エステル交換によって調製した。
・・・(略)・・・
[0095]
これらの脂肪ブレンドを使用して、3つの新しい脂肪ブレンドを準備した。
1.脂肪ブレンド7:36重量%のIV33.7の酵素的に調製されたSOS脂肪と、64重量%のブレンドAとを混合した。
2.脂肪ブレンド8:36重量%のIV33.7の酵素的に調製されたSOS脂肪と、64重量%のブレンドBとを混合した。
3.脂肪ブレンド9:36重量%のIV33.7の酵素的に調製されたSOS脂肪と、64重量%のブレンドCとを混合した。
・・・(略)・・・
[0097]
実施例6の脂肪ブレンド7、8、9を使用した本発明の3つの製菓用クリームを、実施例5の手順に従い、表11のレシピで調製した。
[図:0001404761000005.jpg]
」
(イ)甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、実施例5について整理すると、次の発明が記載されているものと認める。
「57重量%のIV36.4のシアステアリン、28重量%のC8 59.3重量%、C10 40.2重量%、C12 0.3重量%の脂肪酸組成の中鎖トリグリセリド油及び15重量%のIV87.3の高オレイン酸ヒマワリ油からなる脂肪ブレンド6である脂肪40重量%、砂糖30重量%並びに脱脂粉乳30重量%を混合し、得られた混合物を3本ロールリファイナーでリファイニングし、リファイニングされたものを57.6℃でコンチングし、コンチング中に0.1%のレシチンを添加することによって調製したクリームを、29℃で冷却し、組成物の重量に対して0.2重量%のチョコシードAが添加され、コンチング及び冷却されたクリームとチョコシードとをよく混合し、Alカップに充填した後、10℃で30分間冷却し、次に、充填されたカップを20℃のインキュベーターに4日間入れて得られる、製菓用クリームの製造方法。」(以下、「甲2製造方法発明1」という。)
また、甲2に記載された事項を、実施例7について整理すると、次の発明が記載されているものと認める。
「IV33.7の酵素的に調製されたSOS脂肪36重量%と、25重量%の標準的なパーム核油と75重量%の高オレイン酸ヒマワリ油をブレンドすることによって調製した脂肪ブレンドAの化学的エステル交換によって調製した脂肪ブレンドB64重量%からなる脂肪ブレンド8である脂肪37重量%、砂糖32%並びに脱脂ヨーグルトパウダー31重量%を混合し、得られた混合物を3本ロールリファイナーでリファイニングし、リファイニングされたものを57.6℃でコンチングし、コンチング中に0.1%のレシチンを添加することによって調製したクリームを、29℃で冷却し、組成物の重量に対して0.2重量%のチョコシードAが添加され、コンチング及び冷却されたクリームとチョコシードとをよく混合し、Alカップに充填した後、10℃で30分間冷却し、次に、充填されたカップを20℃のインキュベーターに4日間入れて得られる、製菓用クリームの製造方法。」(以下、「甲2製造方法発明2」という。)
イ 本件特許発明1及び2について
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項1及び2は削除された。そうすると本件特許発明1及び2については取消理由2の対象は存在しない。
ウ 本件特許発明4について
(ア)甲2製造方法発明1との対比・判断
本件特許発明4と甲2製造方法発明1とを対比する。
甲2製造方法発明1の「製菓用クリーム」は、油脂類、粉乳類及びチョコシードを含有するものであるから、本件特許発明4の「チョコレート類」に相当する。
甲2製造方法発明1の「C8 59.3重量%、C10 40.2重量%、C12 0.3重量%の脂肪酸組成の中鎖トリグリセリド油」は、本件特許発明4の「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリド」に相当する。
また、甲2製造方法発明1の「中鎖トリグリセリド油」は、製菓用クリーム中に約11.2重量%(=28×0.4×100/100.3)含有していることから、本件特許発明4の「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させる」との特定事項を満たす。
さらに、甲2製造方法発明1は、脱脂粉乳を含有していることから、本件特許発明4の「無脂乳固形分」を含むことは明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させる、無脂乳固形分を含むチョコレート類の製造方法。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明4は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲2製造方法発明1は、そのような特定がない点。
<相違点2-2>
中鎖脂肪酸結合トリグリセリドに関して、本件特許発明4は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来」であるのに対し、甲2製造方法発明1は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
甲2には、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」についての記載はなく、甲2製造方法発明1の「中鎖トリグリセリド油」が「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であることを示す具体的な証拠もない。
そうすると、相違点2-2は、実質的な相違点である。
また、甲2には、甲2製造方法発明1において、相違点2-2に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲2製造方法発明1において、相違点2-2に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「無脂乳固形分を多く含むチョコレート類の、ねちゃつき感を軽減することができる」という効果は、甲2製造方法発明1並びに甲2及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲2製造方法発明1ではないし、甲2製造方法発明1、甲2及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(イ)甲2製造方法発明2との対比・判断
本件特許発明4と甲2製造方法発明2とを対比する。
甲2製造方法発明2の「製菓用クリーム」は、上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明4の「チョコレート類」に相当する。
さらに、甲2製造方法発明2は、脱脂ヨーグルトパウダーを含有していることから、本件特許発明4の「無脂乳固形分」を含むことは明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「無脂乳固形分を含むチョコレート類。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2-3>
本件特許発明1は、「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させ」、「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」のに対し、甲2製造方法発明2は、そのような特定がない点。
<相違点2-4>
本件特許発明4は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲2製造方法発明2は、そのような特定がない点。
<相違点2-5>
中鎖脂肪酸結合トリグリセリドに関して、本件特許発明4は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来」であるのに対し、甲2製造方法発明2は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点2-5について検討すると、上記(ア)の相違点2-2と同旨であるから、上記(ア)と同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲2製造方法発明2ではないし、甲2製造方法発明2、甲2及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由2についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、取消理由2はその理由がない。
(3)取消理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲3の記載事項等
(ア)甲3の記載事項
甲3には、「油脂含有食品及びその製造方法」について、次の記載がある。
・「【0007】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本研究者らはかかる問題に鑑み、チョコレートに限らず広く油脂含有食品に用いる事が可能であり、美味しくて尚且つ低カロリーな油脂含有食品を得る事を目的とした。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討した結果、各種用途に適当な物理性状を得る方法として、中鎖脂肪酸トリグリセリドとSUS型トリグリセリドを組み合わせる事で硬さ及び物性の調整を実施し、尚且つ、カルシウム塩を組み合わせる事により、風味及び物性を損なうことなく低カロリー化を実現できる事を見出し、本発明を完成するに至った。」
・「【0017】以下、中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、MCTということがある)とSUS型トリグリセリド及びカルシウム塩を用いた場合の脂肪吸収特性をラットを用いて確認を行った。
【0018】試験例
試験方法:市販固形食(「オリエンタルCRF-1」オリエンタル酵母工業(株))により1週間予備飼育を行った5週齢のSD系雄ラット(体重120~140g)を、各群6匹に群分けし、表-1に示す高油分試験食を与え、温度23℃±1℃、湿度55%±5%、明暗サイクル12時間(7:00-19:00)で1週間飼育した。この時各試験群について油脂の吸収率を測定し表-3に示した。尚、試験群はMCT/SUS(20/80),MCT/SUS(40/60)MCT/SUS(60/40)の油脂群についてCa有り、無しの計6群を用いた。また、カルシウム塩としては、等モルの炭酸カルシウムを用いた。一方、MCTは、C8純度95%のC8トリグリセリド(Unichema社製)を用いた。
【0019】1○(当審注:1○は丸付き数字1を意味する。)SUS油脂の調整
高オレイン酸ヒマワリ油とステアリン酸エチルを混合した後、1,3位選択性のあるリパーゼを用いてエステル交換を行い、反応油を得た。この反応油よりエチルエステルを蒸留により留去し、アセトンを用いて溶剤分別を行い、SUS成分約87%(SOS/66.4%,POS/12.0%,SLS/8.5%)の中融点部分(SUS油脂(1) )を得た。」
・「【0024】
【実施例】以下に実施例及び比較例を例示するが、これは例示であって本発明の精神がこれらの例示に限定されるものではない。なお、例中に示す部は重量基準を意味する。
【0025】実施例1及び比較例1
以下の配合にてフィリングクリームを試作し、食感、風味について検討を行なった。
────────────────────────────
実施例1(部) 比較例1(部)
────────────────────────────
全 粉 乳 15.0 15.0
脱脂粉乳 10.0 10.0
砂 糖 41.0 41.0
SUS油脂(1) 18.0 ─
MCT 12.0 ─
ココアバター ─ 30.0
卵殻カルシウム* 4.0 4.0
────────────────────────────
レシチン 0.4 0.4
バニリン 0.02 0.02
────────────────────────────
*カルシウム純度:約34~38%
【0026】上記配合のフィリングクリームを常法により作製し、テンパリング処理を施したのち、焼菓子(シュー)に充填して常法により冷却し、スナック菓子を試作した。
【0027】実施例1及び比較例1のクリームを充填したスナック菓子の食感風味を比較したところ、実施例1は噛み出しが適度に軟らかく良好な口溶けを持つが、比較例1は噛み出しが硬くゴリゴリとしてスナック菓子としては不適であった。
・・・(略)・・・
【0030】
【発明の効果】本発明により得られる油脂含有食品は、油脂の吸収率が低く、低カロリーであり、且つ食感、風味において良好で嗜好性の高いものであり、非常に意義深いものである。」
(イ)甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、【0027】及び【0030】における食感及び風味についての記載、並びに実施例1について整理すると、次の発明が記載されているものと認める。
「全粉乳15.0部、脱脂粉乳10.0部、砂糖41.0部、SUS油脂(1)18.0部、MCT12.0部、卵殻カルシウム4.0部を配合し、常法により作製する、フィリングクリームの製造方法。」(以下、「甲3製造方法発明」という。)
「全粉乳15.0部、脱脂粉乳10.0部、砂糖41.0部、SUS油脂(1)18.0部、MCT12.0部、卵殻カルシウム4.0部を配合し、常法により作製する、フィリングクリームの食感風味を良好とする方法。」(以下、「甲3食感改良方法発明」という。)
イ 本件特許発明1及び2について
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項1及び2は削除された。そうすると本件特許発明1及び2については取消理由3の対象は存在しない。
ウ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲3製造方法発明とを対比する。
甲3製造方法発明の「フィリングクリーム」は、粉乳及び油脂を含有する食品であるから、本件特許発明4の「チョコレート類」に相当する。
甲3製造方法発明の「MCT」は、本件特許発明1の「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリド」に相当する。
また、甲3製造方法発明の「MCT」は、フィリングクリーム中に約11.9重量%(=12×100/100.42)含まれることから、本件特許発明4の「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させる」との特定事項を満たす。
さらに、甲3製造方法発明は、全粉乳及び脱脂粉乳を含有していることから、本件特許発明4の「無脂乳固形分」を含むことは明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させる、無脂乳固形分を含むチョコレート類の製造方法。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明4は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲3製造方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点3-2>
中鎖脂肪酸結合トリグリセリドに関して、本件特許発明4は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来」であるのに対し、甲3製造方法発明は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点3-2について検討する。
甲3には、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」についての記載はなく、甲3製造方法発明の「MCT」が「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であることを示す具体的な証拠もない。
そうすると、相違点3-2は、実質的な相違点である。
また、甲3には、甲3製造方法発明において、相違点3-2に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲3製造方法発明において、相違点3-2に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「無脂乳固形分を多く含むチョコレート類の、ねちゃつき感を軽減することができる」という効果は、甲3製造方法発明並びに甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲3製造方法発明ではないし、甲3製造方法発明、甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲3食感改良方法発明とを対比すると、上記ウ(ア)と同様の相当関係が成り立ち、さらに、甲3食感改良方法発明の「食感風味を良好とする方法」は、本件特許発明5の「食感改善方法」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含有させる、無脂乳固形分を含むチョコレート類の食感改善方法。但し前記中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点3-3>
本件特許発明5は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲3食感改良方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点3-4>
ランダム化された油脂に関して、本件特許発明5は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であるのに対し、甲3食感改良方法発明は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点3-4について検討すると、上記ウの相違点3-2と同旨であるから、上記ウと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲3食感改良方法発明ではないし、甲3食感改良方法発明、甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 取消理由3についてのまとめ
上記イないしエのとおりであるから、取消理由3はその理由がない。
(4)取消理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲4の記載事項等
(ア)甲4の記載事項
甲4には、「製菓用油脂組成物」について、次の記載がある。
・「しかしながら、このような溶剤分別法は危険な溶剤の取扱いの安全性に留意しなければならず、かつ収率が低いため経済的見地からも優れた方法とはいえないという理由から、ラウリン系油脂を水素添加した硬化油をエステル交換する方法も試みられているが、それでも口溶けが悪いかまたは常温での固さが不十分であるなど融解性状に劣る欠点を有する。」(1頁右欄10~18行)
・「本発明者らは、これらの諸点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ラウリン系油脂とC12及びまたはC14を主体とする中鎖脂肪酸エステルとがエステル交換された特定組成の油脂がカカオ脂代用脂として適した油脂組成物、即ち風味安定性が良く、かつ融解性状に優れた特性を有する製菓用油脂組成物となり得るという知見を得た。」(2頁右上欄12~18行)
・「製造例1
沃素価(IV)0.39、ケン化価(SV)244.2、酸化(AV)0.03の硬化パーム核油200gと40gのラウリン酸メチルエステルとを反応容器に仕込み、2mmHgの減圧下105°~110℃にて10分間攪拌し充分脱水した後、80℃まで冷却した。これにナトリウムメチラート1gを添加し約5分間攪拌を続けなから2mmHgの減圧下で加熱し、約20分後に140℃まで昇温させ、その状態で20分間維持して遊離する低級脂肪酸エステルを留去させた後、90℃まで冷却した。次いで更にナトリウムメチラート1gとラウリン酸メチルエステル15gを添加し、同様に約5分間撹拌した後2mmHgの減圧下にて140℃まで昇温させ20分間維持した後、90℃まで冷却した。この操作を更に2度繰り返した後、70℃まで冷却し常圧攪拌下に蒸留水10mlを加えて触媒を失活させた。次いで活性白土20gを加え脱水処理した後常法通り脱色脱臭し180gの生成物を得た。性状は次の通り。尚、固体脂含有指数(Solid Content Index)はフルトン(Fulton)等(J.Am.Oil.Chem.Soc. 31,98頁(1954))の方法に準じ測定した。
IV,0.49,SV,242.9,AV,0.04,融点(軟化点Spt)33.5℃
[図:0001404761000006.jpg]
」(3頁右上欄17行~右下欄11行)
・「使用例1
製造例1で得た油脂を使用し、以下に記す配合にて常法通りロール掛けしコンチングした後、テンパリング処理することなく直ちに型に流し、冷却後型からはずしてチョコレートを得た。
本発明の製菓用油脂組成物は優れたノンテンパー型油脂であって、型離れは非常に良好であった。得られたチョコレートは表面の艶が良く、20 °~25℃で充分硬くスナップ性も優れていた。
[図:0001404761000007.jpg]
」(4頁左下欄16行~右下欄14行)
(イ)甲4に記載された発明
甲4に記載された事項を、「風味安定性が良く、かつ融解性状に優れた特性を有する製菓用油脂組成物となり得る」との記載、及び実施例1について整理すると、次の発明が記載されているものと認める。
「沃素価(IV)0.39、ケン化価(SV)244.2、酸化(AV)0.03の硬化パーム核油200gと40gのラウリン酸メチルエステルとを反応容器に仕込み、2mmHgの減圧下105°~110℃にて10分間攪拌し充分脱水した後、80℃まで冷却した。これにナトリウムメチラート1gを添加し約5分間攪拌を続けなから2mmHgの減圧下で加熱し、約20分後に140℃まで昇温させ、その状態で20分間維持して遊離する低級脂肪酸エステルを留去させた後、90℃まで冷却し、次いで更にナトリウムメチラート1gとラウリン酸メチルエステル15gを添加し、同様に約5分間撹拌した後2mmHgの減圧下にて140℃まで昇温させ20分間維持した後、90℃まで冷却した。この操作を更に2度繰り返した後、70℃まで冷却し常圧攪拌下に蒸留水10mlを加えて触媒を失活させ、次いで活性白土20gを加え脱水処理した後常法通り脱色脱臭して得られる、C6が0.1%、C8が1.5%、C10が2.0%、C12が57.4%、C14が11.8%、C16が9.0%、C18が18.0%の脂肪酸組成の生成物を本発明油脂として用い、粉糖42.5重量%、ココアパウダー6.5重量%、全脂粉乳7.5重量%、脱脂粉乳12.0重量%、本発明油脂31.0重量%、食塩0.1重量%、バニリン0.03重量%、レシチン0.4重量%の配合にて常法通りロール掛けしコンチングした後、テンパリング処理することなく直ちに型に流し、冷却後型からはずして得る、チョコレートの製造方法。」(以下、「甲4製造方法発明」という。)
「沃素価(IV)0.39、ケン化価(SV)244.2、酸化(AV)0.03の硬化パーム核油200gと40gのラウリン酸メチルエステルとを反応容器に仕込み、2mmHgの減圧下105°~110℃にて10分間攪拌し充分脱水した後、80℃まで冷却した。これにナトリウムメチラート1gを添加し約5分間攪拌を続けなから2mmHgの減圧下で加熱し、約20分後に140℃まで昇温させ、その状態で20分間維持して遊離する低級脂肪酸エステルを留去させた後、90℃まで冷却し、次いで更にナトリウムメチラート1gとラウリン酸メチルエステル15gを添加し、同様に約5分間撹拌した後2mmHgの減圧下にて140℃まで昇温させ20分間維持した後、90℃まで冷却した。この操作を更に2度繰り返した後、70℃まで冷却し常圧攪拌下に蒸留水10mlを加えて触媒を失活させ、次いで活性白土20gを加え脱水処理した後常法通り脱色脱臭して得られる、C6が0.1%、C8が1.5%、C10が2.0%、C12が57.4%、C14が11.8%、C16が9.0%、C18が18.0%の脂肪酸組成の生成物を本発明油脂として用い、粉糖42.5重量%、ココアパウダー6.5重量%、全脂粉乳7.5重量%、脱脂粉乳12.0重量%、本発明油脂31.0重量%、食塩0.1重量%、バニリン0.03重量%、レシチン0.4重量%の配合にて常法通りロール掛けしコンチングした後、テンパリング処理することなく直ちに型に流し、冷却後型からはずして得る、チョコレートを風味安定性が良く、かつ融解性状に優れるものとする方法。」(以下、「甲4食感改良方法発明」という。)
イ 本件特許発明1及び2について
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項1及び2は削除された。そうすると本件特許発明1及び2については取消理由4の対象は存在しない。
ウ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲4製造方法発明とを対比する。
甲4製造方法発明の「チョコレート」は、本件特許発明4の「チョコレート類」に相当する。
また、甲4製造方法発明は、全脂粉乳及び脱脂粉乳を含有していることから、本件特許発明4の「無脂乳固形分」を含むことは明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「無脂乳固形分を含むチョコレート類の製造方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点4-1>
本件特許発明4は、「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させ」、「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」のに対し、甲4製造方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点4-2>
本件特許発明4は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲4製造方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点4-3>
中鎖脂肪酸結合トリグリセリドに関して、本件特許発明4は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来」であるのに対し、甲4製造方法発明は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点4-3について検討する。
甲4には、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」についての記載はなく、甲4製造方法発明の「本発明油脂」が「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であることを示す具体的な証拠もない。
そうすると、相違点4-3は、実質的な相違点である。
また、甲4には、甲4製造方法発明において、相違点4-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲4製造方法発明において、相違点4-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「無脂乳固形分を多く含むチョコレート類の、ねちゃつき感を軽減することができる」という効果は、甲4製造方法発明並びに甲4及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲4製造方法発明ではないし、甲4製造方法発明、甲4及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲4食感改良方法発明とを対比すると、上記ウと同様の相当関係が成り立ち、さらに、甲4食感改良方法発明の「風味安定性が良く、かつ融解性状に優れるものとする方法」は、本件特許発明5の「食感改善方法」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「無脂乳固形分を含むチョコレート類の食感改善方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点4-4>
本件特許発明5は、「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85~15.0重量%含有させ」、「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」のに対し、甲4食感改良方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点4-5>
本件特許発明5は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲4食感改良方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点4-6>
ランダム化された油脂に関して、本件特許発明5は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であるのに対し、甲4食感改良方法発明は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点4-6について検討すると、上記ウの相違点4-3と同旨であるから、上記ウと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲4食感改良方法発明ではないし、甲4食感改良方法発明、甲4及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 取消理由4についてのまとめ
上記イないしエのとおりであるから、取消理由4はその理由がない。
(5)取消理由5(甲5に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲5の記載事項等
(ア)甲5の記載事項
甲5には、「被覆チョコレート用油脂組成物」について、次の記載がある。
・「【0028】
実施例6
極度硬化したラウリン系油脂(A)としてラウリン系極度硬化油(1)20部を、また20℃で液体又は液状である油脂(B)としてパームオレイン(ヨウ素価68、融点10℃以下)10部を用い、さらに中融点油脂としてヤシ油、パーム油、高エルシン酸なたね油の極度硬化油を40:50:10の比率で調合した後、常法によりランダムエステル交換を行い得られた油脂7部、ココアバター3部を融解し、この一部を全粉乳12部、脱脂粉乳13部、砂糖35部、バニラ香料0.1部に加え、55℃に加熱しながらミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂およびレシチン0.3部を加えながらコンチングを行いホワイトチョコレートを得た。このチョコレートを用いてドーナツに被覆し、評価方法に従い評価を行い、これらの結果を表2にまとめた。」
・「【0034】
実施例6~実施例11についてチョコレート配合、油脂組成、チョコレートの評価結果を表2にまとめた。
【表2】
[図:0001404761000008.jpg]
」
(イ)甲5に記載された発明
甲5に記載された事項を、実施例6について整理すると、次の発明が記載されているものと認める。
「極度硬化したラウリン系油脂(A)としてラウリン系極度硬化油(1)20部を、また20℃で液体又は液状である油脂(B)としてパームオレイン(ヨウ素価68、融点10℃以下)10部を用い、さらに中融点油脂としてヤシ油、パーム油、高エルシン酸なたね油の極度硬化油を40:50:10の比率で調合した後、常法によりランダムエステル交換を行い得られた油脂7部、ココアバター3部を融解し、この一部を全粉乳12部、脱脂粉乳13部、砂糖35部、バニラ香料0.1部に加え、55℃に加熱しながらミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂およびレシチン0.3部を加えながらコンチングを行う、ホワイトチョコレートの製造方法。」(以下、「甲5製造方法発明」という。)
イ 本件特許発明1及び2について
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項1及び2は削除された。そうすると本件特許発明1及び2については取消理由5の対象は存在しない。
ウ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲5製造方法発明とを対比する。
甲5製造方法発明の「ホワイトチョコレート」は、本件特許発明4の「チョコレート類」に相当する。
また、甲5製造方法発明は、全粉乳及び脱脂粉乳を含有していることから、本件特許発明4の「無脂乳固形分」を含むことは明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「無脂乳固形分を含むチョコレート類の製造方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点5-1>
本件特許発明4は、「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させ」、「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」のに対し、甲5製造方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点5-2>
本件特許発明4は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲5製造方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点5-3>
中鎖脂肪酸結合トリグリセリドに関して、本件特許発明4は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来」であるのに対し、甲5製造方法発明は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点5-3について検討する。
甲5には、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」についての記載はなく、甲5製造方法発明の「中融点油脂としてヤシ油、パーム油、高エルシン酸なたね油の極度硬化油を40:50:10の比率で調合した後、常法によりランダムエステル交換を行い得られた油脂」が「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であることを示す具体的な証拠もない。
そうすると、相違点5-3は、実質的な相違点である。
また、甲5には、甲5製造方法発明において、相違点5-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲5製造方法発明において、相違点5-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「無脂乳固形分を多く含むチョコレート類の、ねちゃつき感を軽減することができる」という効果は、甲5製造方法発明並びに甲5及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲5製造方法発明ではないし、甲5製造方法発明、甲5及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由5についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、取消理由5はその理由がない。
(6)取消理由6(甲6に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲6の記載事項等
(ア)甲6の記載事項
甲6には、「食用油脂組成物」について、次の記載がある。なお、甲6は外国語の文献のため、該当箇所の訳文のみを摘記した。
・「実施例1
ヨウ素価52の粗パーム油を乾燥分画することにより、上昇融点48℃、ヨウ素価42のパームステアリンを得た。オレイン部は廃棄し、ステアリン部残渣は中和、乾燥して遊離脂肪酸が0.1%未満、水分含有量が0.02%以下とした。
パームステアリン35%と、同様に水分および遊酸含量が低いヨウ素価8の精製ヤシ油の65%との混合物を調製した。
混合物を、触媒として0.3%ナトリウムメトキシドを用いて110℃でエステル交換した。触媒は、反応が完了した1/4時間後に除去した。
混合物を洗浄し、乾燥させた後のスリップ融点が31℃であった。1%新鮮な担持ニッケル触媒を用いて、180℃、20~30psigの条件下、段階的に水素添加し、表Iに示すように、種々のヨウ素価および融解特性の一連の生成物を得た。表Iは、水素添加を行っていない試料の特性も含んでいる。最終生成物の結合脂肪酸分析値は以下の通りであった
[図:0001404761000009.jpg]
[図:0001404761000010.jpg]
表Iの項目のうち、ヨウ素価が4~8のものは、全て適合していたが、この範囲未満の項目は、上昇融点が高いことから明らかなように、口どけが満足いかなかった。この実施例の対照にあたるヨウ素価12を超える試料として、水素添加されたものと、水素添加されてないものの両方が調製された。これらは、20℃の拡張が1000以下と満足いくものではなかった。
表IIの配合に従って、満足のいくクーベルチュールを調製した。
[図:0001404761000011.jpg]
」(2頁62行~4頁1行)
(イ)甲6に記載された発明
甲6に記載された事項を、実施例1のミルク配合について整理すると、次の発明が記載されているものと認める。
「パームステアリン35%と、同様に水分および遊酸含量が低いヨウ素価8の精製ヤシ油の65%との混合物を調製し、混合物を、触媒として0.3%ナトリウムメトキシドを用いて110℃でエステル交換し、混合物を洗浄し、乾燥させた後、1%新鮮な担持ニッケル触媒を用いて、180℃、20~30psigの条件下、段階的に水素添加し、最終生成物の結合脂肪酸分析値が、飽和C6が0.4%、飽和C8が6.9%、飽和C10が4.8%、飽和C12が29.5%、飽和C14が11.3%、飽和C16が24.9%、飽和C18が18.4%、C18不飽和モノが3.8%である生成物を脂肪として用い、ココアパウダー5.0部、砂糖43.0部、脱脂粉乳16.5部、当該脂肪35.5部、レシチン0.45部、バニリン0.07部、塩0.05部を配合し、調製する、クーベルチュールの製造方法。」(以下、「甲6製造方法発明」という。)
イ 本件特許発明1について
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項1は削除された。そうすると本件特許発明1については取消理由6の対象は存在しない。
ウ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲6製造方法発明とを対比する。
甲6製造方法発明の「クーベルチュール」は、本件特許発明4の「チョコレート類」に相当する。
また、甲6製造方法発明は、脱脂粉乳を含有していることから、本件特許発明4の「無脂乳固形分」を含むことは明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「無脂乳固形分を含むチョコレート類の製造方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点6-1>
本件特許発明4は、「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させ」、「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」のに対し、甲6製造方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点6-2>
本件特許発明4は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲6製造方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点6-3>
中鎖脂肪酸結合トリグリセリドに関して、本件特許発明4は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来」であるのに対し、甲6製造方法発明は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点6-3について検討する。
甲6には、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」についての記載はなく、甲5製造方法発明の「最終生成物の結合脂肪酸分析値が、飽和C6が0.4%、飽和C8が6.9%、飽和C10が4.8%、飽和C12が29.5%、飽和C14が11.3%、飽和C16が24.9%、飽和C18が18.4%、C18不飽和モノが3.8%である生成物」が「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であることを示す具体的な証拠もない。
そうすると、相違点6-3は、実質的な相違点である。
また、甲6には、甲6製造方法発明において、相違点6-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲6製造方法発明において、相違点6-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「無脂乳固形分を多く含むチョコレート類の、ねちゃつき感を軽減することができる」という効果は、甲6製造方法発明並びに甲6及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲6製造方法発明ではないし、甲6製造方法発明、甲6及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由6についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、取消理由6はその理由がない。
(7)取消理由7(甲7に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲7の記載事項等
(ア)甲7の記載事項
甲7には、「被覆チョコレート用油脂組成物」について、次の記載がある。
・「[0022] 実験例1(油脂A-1の調製)
ヤシ油(ヨウ素価8)50部、パーム分別ステアリン(ヨウ素価31)40部、高エルシン酸菜種極度硬化油(ヨウ素価1以下)10部を混合した油脂に、金属触媒(ナトリウムメトキシド)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、次いで定法に従い精製を行いエステル交換油脂A-1とした。C12以下の合計31.0%、C20以上の合計5.5%、上昇融点は35℃であった。」
・「[0031] 実施例2
エステル交換油脂A-1を31部、非エステル交換ラウリン系油脂B-1を7部及びB-3を7部融解し、この一部を砂糖40部、脱脂粉乳15部、バニラ香料0.03部に加え、50℃に加熱しながらミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂およびレシチン0.4部を加えながらコンチングを行いホワイトチョコレートを得た。このチョコレートを用いてドーナツに被覆し、評価方法に従い評価を行ったところいずれも良好であった。これらの結果を表2にまとめた。
[0032] 実施例3
エステル交換油脂A-1を10部、非エステル交換ラウリン系油脂B-4を35部を融解し、この一部を砂糖40部、脱脂粉乳15部、バニラ香料0.03部に加え、50℃に加熱しながらミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂およびレシチン0.4部を加えながらコンチングを行いホワイトチョコレートを得た。このチョコレートを用いてドーナツに被覆し、評価方法に従い評価を行ったところいずれも良好であった。これらの結果を表2にまとめた。」
・「[0036] 実施例1~実施例6について被覆チョコレート配合、被覆チョコレート中の油脂組成、被覆チョコレートの評価結果を表2にまとめた。
[表2]
[図:0001404761000012.jpg]
[図:0001404761000013.jpg]
」
・「[0039] 比較例1
エステル交換油脂A-1を34部、非エステル交換ラウリン系油脂B-1を11部融解し、この一部を砂糖40部、脱脂粉乳15部、バニラ香料0.03部に加え、50℃に加熱しながらミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂およびレシチン0.4部を加えながらコンチングを行いホワイトチョコレートを得た。このチョコレートを用いてドーナツに被覆し、評価方法に従い評価を行ったところ乾き時間が長く好ましくないものであった。これらの結果を表3にまとめた。」
・「[0046] 比較例1~比較例7について被覆チョコレート配合、被覆チョコレート中の油脂組成、被覆チョコレートの評価結果を表3にまとめた。
[表3]
[図:0001404761000014.jpg]
[図:0001404761000015.jpg]
」
(イ)甲7に記載された発明
甲7に記載された事項を、実施例2について整理すると、次の発明が記載されているものと認める。
「ヤシ油(ヨウ素価8)50部、パーム分別ステアリン(ヨウ素価31)40部、高エルシン酸菜種極度硬化油(ヨウ素価1以下)10部を混合した油脂に、金属触媒(ナトリウムメトキシド)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させ、次いで定法に従い精製を行って得たエステル交換油脂A-1を31部、非エステル交換ラウリン系油脂B-1を7部及びB-3を7部融解し、この一部を砂糖40部、脱脂粉乳15部、バニラ香料0.03部に加え、50℃に加熱しながらミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂およびレシチン0.4部を加えながらコンチングを行う、ホワイトチョコレートの製造方法。」(以下、「甲7製造方法発明1」という。)
また、甲7に記載された事項を、実施例3及び比較例1について、実施例2と同様に整理した「ホワイトチョコレートの製造方法」を、「甲7製造方法発明2」及び「甲7製造方法発明3」という。
イ 本件特許発明1について
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項1は削除された。そうすると本件特許発明1については取消理由7の対象は存在しない。
ウ 本件特許発明4について
(ア)甲7製造方法発明1との対比・判断
本件特許発明4と甲7製造方法発明1とを対比する。
甲7製造方法発明1の「ホワイトチョコレート」は、本件特許発明4の「チョコレート類」に相当する。
また、甲7製造方法発明1は、脱脂粉乳を含有していることから、本件特許発明4の「無脂乳固形分」を含むことは明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「無脂乳固形分を含むチョコレート類の製造方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点7-1>
本件特許発明4は、「ランダム化により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85~15.0重量%含有させ」、「中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸を表す」のに対し、甲7製造方法発明1は、そのような特定がない点。
<相違点7-2>
本件特許発明4は、「無脂乳固形分を15重量%以上含む」のに対し、甲7製造方法発明1は、そのような特定がない点。
<相違点7-3>
中鎖脂肪酸結合トリグリセリドに関して、本件特許発明4は、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油由来」であるのに対し、甲7製造方法発明1は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点7-3について検討する。
甲7には、「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」についての記載はなく、甲7製造方法発明1の「エステル交換油脂A-1」が「MCT油と長鎖脂肪酸油脂のランダムエステル交換油」であることを示す具体的な証拠もない。
そうすると、相違点7-3は、実質的な相違点である。
また、甲7には、甲7製造方法発明1において、相違点7-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲7製造方法発明1において、相違点7-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「無脂乳固形分を多く含むチョコレート類の、ねちゃつき感を軽減することができる」という効果は、甲7製造方法発明1並びに甲7及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲7製造方法発明1ではないし、甲7製造方法発明1、甲7及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(イ)甲7製造方法発明2及び3との対比・判断
本件特許発明4と甲7製造方法発明2及び3を対比すると、上記(ア)と同様の相当関係が成り立ち、上記(ア)と同様の一致点及び一応の相違点があり、その判断も上記(ア)のとおりである。
よって、本件特許発明4は、甲7製造方法発明2及び3ではないし、甲7製造方法発明2及び3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由7についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、取消理由7はその理由がない。
2 令和5年2月27日付けで特許権者に通知した取消理由以外の特許異議申立理由についての判断
取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は次のとおりである。
・申立理由8(サポート要件)
・申立理由9(明確性要件)
以下、順に検討する。
(1)本件特許発明1及び2について
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項1及び2は削除された。そうすると本件特許発明1及び2については申立理由8及び9の対象は存在しない。
(2)申立理由8(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
イ 判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0010】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「粉乳などに由来する無脂乳固形分を多く含むチョコレート類に特有の問題点である咀嚼、嚥下時のねちゃつき感を軽減する方法を提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】には、「無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類に咀嚼、嚥下時のねちゃつき感が顕著に表れること。さらにエステル交換又はエステル合成などのランダム化工程により生成された中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを、0.85重量%以上含有させること」で発明の課題を解決することが記載され、また、同【0016】には「無脂乳固形分を15重量%以上含むと喫食時に明らかにねちゃつきを感じるため食感の改良が必要となる。」こと、同【0017】には「中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85重量%以上含有すると喫食時のねちゃつきが改善される。」こと、同【0026】には「ランダム化された油脂はチョコレート類用の食感改良油脂と捉えることもできる。本発明の食感改良剤は中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを15~28重量%含有する必要があり、好ましくは17~25重量%である。」ことも記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0030】ないし【0046】には、実施例1ないし9の「チョコレート類」が、「無脂乳固形分を15重量%以上」かつ「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85重量%以上」の範囲内であり、咀嚼、嚥下時のねちゃつき感の評価がいずれも良好であること、比較例1ないし3、6ないし9及び15の「チョコレート類」が、「無脂乳固形分を15重量%以上」の範囲内であるが「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85重量%以上」の範囲外であり、咀嚼、嚥下時のねちゃつき感の評価がいずれも良好ではないこと、及び比較例10ないし15の「チョコレート類」が、「無脂乳固形分を15重量%以上」の範囲外であるが、咀嚼、嚥下時のねちゃつき感の評価がいずれも良好であり、上記発明の課題が存在しないこと、を確認する記載もある。
そうすると、当業者は、チョコレート類が「無脂乳固形分を15重量%以上」かつ「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85重量%以上」の条件を充足することにより、発明の課題を解決できると認識できるとともに、中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを含有するランダム化された油脂が、「無脂乳固形分を15重量%以上含むチョコレート類用の食感改良油脂」として、発明の課題を解決することが認識できる。
そして、本件特許発明3ないし7は、当該チョコレート類、その製造方法、その食感改善方法、その食感改良油脂についてさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明3ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明3ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 8(1)ないし(4)の主張について検討する。
(ア)上記第4 8(1)の主張について
特許異議申立人は、当該主張とともに、令和5年6月27日提出の意見書においても上記第4 8(1)と同様の主張をしている(3ページ下から4行~6ページ3行)。
しかしながら、特許異議申立人が「配合されるトリグリセリドに結合した脂肪酸の種類が異なれば、得られるチョコレートの食感が異なることは広く知られていることである」根拠として示した甲10には、飽和脂肪酸について「炭素鎖長が増すにつれて融点が高くなる」ことが記載されているものの、チョコレート類の食感、特にねちゃつき感についての記載はないことから、甲10はチョコレート類が「無脂乳固形分を15重量%以上」かつ「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85重量%以上」の条件を充足しても発明の課題を解決しない場合があることを示す根拠となるといえず、他に示された技術的根拠もないことから、上記イで検討したとおり、当業者は、チョコレート類が「無脂乳固形分を15重量%以上」かつ「ランダム化された油脂由来の中鎖脂肪酸結合トリグリセリドを0.85重量%以上」の条件を充足することにより、発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、上記主張はその理由はない。
(イ)上記第4 8(2)及び(4)の主張について
特許異議申立人は、当該各主張について何ら具体的な技術的根拠を示していない。
そうすると、上記(ア)と同様の理由で、上記各主張はその理由はない。
(ウ)上記第4 8(3)の主張について
本件特許発明3ないし7は、甲1の比較例14,16,17を包含しないものとなったことから、甲1の比較例14,16,17を包含することを前提とした当該主張はその理由はない。
エ 申立理由8についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由8はその理由がない。
(5)申立理由9(明確性要件)について
ア 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
イ 判断
本件特許の請求項3ないし7の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、明細書の記載とも整合する。
したがって、本件特許発明3ないし7に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第4 9の主張とともに、令和5年6月27日提出の意見書において以下の主張をしている。
・「長鎖脂肪酸油脂」が一般的な用語ではなく、その意義が一義的でないため、本件特許発明3ないし7を不明確としている。
・「本件特許発明3ないし7の「長鎖脂肪酸油脂」が長鎖脂肪酸を含む油脂でありさえすればよいという意味であるとするならば、「中鎖脂肪酸油(脂)」として通常、当業者に認識されているパーム核油やヤシ油などまでをも包含するものと解釈し得ることになりますが、そのような一般的でない解釈を許容するような定義解釈が妥当と言えるのか疑問を呈さざるを得ません。」
上記各主張について検討すると、「長鎖脂肪酸油脂」に関して、本件特許明細書の【0018】には「ここで中鎖脂肪酸は炭素数6~10の脂肪酸、長鎖脂肪酸は炭素数12~22の脂肪酸である。」との記載があり、同【0024】には「ここで長鎖脂肪酸油脂としては、炭素数18の不飽和脂肪酸を主体として含む液状油が好ましい。」との記載がある。
そうすると、当該記載から、「長鎖脂肪酸油脂」が長鎖脂肪酸を含む油脂であり、長鎖脂肪酸の炭素数についても記載されているといえることから、「長鎖脂肪酸油脂」の範囲は明確であるといえる。
そして、「長鎖脂肪酸油脂」が「中鎖脂肪酸油(脂)」を包含するかどうかは、「長鎖脂肪酸油脂」についての明確性の判断に影響を与えるものではなく、「長鎖脂肪酸油脂」が「中鎖脂肪酸油(脂)」を包含するとしても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ということはできない。
したがって、上記各主張はいずれもその理由はない。
エ 申立理由9についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由9はその理由がない。
第7 結語
上記第6のとおり、本件特許の請求項3ないし7に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項1及び2に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700876