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特許異議申立

2023-700152

モノクローナル抗体、検出方法、及び検出装置

審判番号
2023-700152
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-013324
登録番号
7117824
請求日
2023年02月14日
審決日
2023年06月22日
公報発行日
2023年07月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社ミズホメディー
  • 【権利者代理人】平野 一幸
  • 【権利者】学校法人 久留米大学
  • 【権利者代理人】平野 一幸
  • 【異議申立人】松井 伸一
  • 【異議申立人】谷村 典洋
審判長/審判官
  • 審判長 上條 肇
  • 審判官 牧野 晃久
  • 審判官 天野 貴子
分類
P1651.121-Y (C07K) / P1651.16 -Y (C07K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条の2、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
データ出所
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特許第7117824号発明「モノクローナル抗体、検出方法、及び検出装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7117824号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7117824号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年 1月27日に出願され、令和 4年 8月 4日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月15日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和 5年 2月14日に特許異議申立人松井伸一(以下、「異議申立人A」という。)により、令和 5年 2月15日に特許異議申立人谷村典洋(以下、「異議申立人B」という。)により、それぞれ2件の特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明4」といい、これらを総称して、「本件特許発明」という。また、本件特許の設定登録時の明細書を「本件特許明細書」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定される、以下のとおりのものである。 【請求項1】 マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)のP30タンパクにおける、N末端より177番目から274番目までのC末端側に複数回出現するアミノ酸配列に特異的に反応するが、N末端から176番目までには反応せず、 前記アミノ酸配列は、PGMAPRP(Pro-Gly-Met-Ala-Pro-Arg-Pro)であると共に、アミノ酸配列PGMAPRには反応せず、且つ、ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しないモノクローナル抗体。 【請求項2】 マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)のP30タンパクにおける、N末端より177番目から274番目までのC末端側に複数回出現するアミノ酸配列に特異的に反応するが、N末端から176番目までには反応せず、 前記アミノ酸配列は、PHPGMAP(Pro-His-Pro-Gly-Met-Ala-Pro)であると共に、アミノ酸配列PGMAPRには反応せず、且つ、ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しないモノクローナル抗体。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体を用いて、マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma Genitalium)に反応性を示さず、マイコプラズマ・ニューモニエを特異的に検出する検出方法。 【請求項4】 多孔質担体と、請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体が固相化される検出区域とを有し、イムノクロマト法による免疫学的検出を行う検出装置。 第3 異議申立理由の概要及び提出した証拠 1 異議申立人Aの異議申立理由の概要 異議申立人Aが主張する異議申立理由の概要は、次のとおりのものである。 (1)申立理由A1(甲第1号証に基づく拡大先願) 本件特許の請求項1、3、4に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた甲第1号証の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)から、上記発明に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。 (2)申立理由A2(甲第2号証又は甲第2号証及び甲第3号証に基づく進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第2号証(主引例)に記載された発明、又は甲第2号証(主引例)及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記発明に係る本件特許は、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきである。 2 異議申立人Aが提出した証拠方法 甲第1号証:国際公開第2016/121831号 甲第1の2号証:PCT/JP2016/052381号の優先権証明書(特願2015-15253号の出願書類) 甲第2号証:国際公開第2015/25968号 甲第3号証:INFECTION AND IMMUNITY、July、1996、p2595-2601 以下、順に「甲A1」、「甲A1の2」、「甲A2」、「甲A3」という。 3 異議申立人Bの異議申立理由の概要 (1)申立理由B1(実施可能要件違反) 本件特許発明1~4に係る特許は、その発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。 4 異議申立人Bが提出した証拠方法 甲第1号証:令和3年(行ケ)第10094号 審決取消請求事件の判決文 甲第2号証の1:不服2018-14407の審判請求書の請求の理由を記載した手続補正書 甲第2号証の2:不服2018-14407の前置報告書 以下、順に「甲B1」、「甲B2の1」、「甲B2の2」という。 第4 当審の判断 当審は、異議申立人A及び異議申立人Bが主張する上記の申立理由は、いずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件特許発明1~4に係る特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきものと判断する。 1 申立理由A1(拡大先願)について (1) 甲A1の記載事項 甲A1の記載事項は以下に示すとおりである。なお、下線部は当審による。 ア 「[請求の範囲] [請求項1]マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体を用いる免疫測定法からなり、前記抗体が配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するP30タンパク質のエピトープに対する抗体であるマイコプラズマ・ニューモニエの検出法。 [請求項2]前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の検出法。 ・・・ [請求項11]マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体を少なくとも備えており、前記抗体が配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するP30タンパク質のエピトープに対する抗体であるマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的測定キット。 ・・・ [請求項18]配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するP30タンパク質のエピトープを認識する抗体。 [請求項19]前記抗体がモノクローナル抗体である請求項18に記載の抗体。」 イ 「[0026] P30タンパク質は分子量30KDaのタンパク質であり、P1タンパク質と同様に接着と病原性に関係する接着タンパク質の1つである。マイコプラズマ・ニューモニエの菌体においては、接着器官の先端部の細胞表面に局在しており、細胞膜内に埋没しているN末端領域と細胞膜外に存在するC末端領域を持つ膜貫通型タンパク質である。また、C末端領域にはプロリンを多く含むアミノ酸配列が存在し、前記配列の繰り返し構造が存在する。一般的にプロリンを多く含むアミノ酸配列からなる領域は、立体的な高次構造をとることが知られており、抗体の反応するエピトープとなる可能性が高いことが知られている。 本発明で使用する抗体は、配列番号1に示されるP30タンパク質の全アミノ酸のうち、配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するエピトープに対する抗体である。またこれらの抗体は他のマイコプラズマ属と反応せず、マイコプラズマ・ニューモニエのみに反応し、特異性に優れるものである。配列番号3乃至5のアミノ酸配列はP30タンパク質のエピトープを含む領域である。したがって、本発明で使用する抗体は配列番号3乃至5のアミノ酸配列の何れか1つに含まれる12~15アミノ酸残基からなるP30タンパク質の断片と抗原抗体反応する抗体と言い換えることができる。」 ウ 「[0047](実施例1:組換えP30タンパク質の発現と精製) マイコプラズマ・ニューモニエM129株のP30タンパク質のアミノ酸配列をDDBJ(国立遺伝学研究所データベース)より入手した。前記P30タンパク質のアミノ酸配列から、膜貫通ドメインを除いた細胞外領域である配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)を特定し、対応する遺伝子配列を合成した。His-tag発現用ベクターであるpET302/NT-Hisを制限酵素EcoRIで切断した後、脱リン酸化処理としてアルカリフォスファターゼにより処理し、前記遺伝子配列と混合し、DANLigationKitVer.2(タカラバイオ)を用いてライゲーション反応をおこなった。目的遺伝子を組み込んだ組換えP30プラスミドを組換え蛋白発現用宿主E.coliBL(DE3)pLysS(Novagen社の製品)に導入した。導入菌をLB寒天平板培地で培養し、得られたコロニーをLB液体培地で培養した。さらに1mMIPTG(タカラバイオ社の製品)を添加して組換えP30タンパク質の発現を誘導した後、E.coliを回収した。回収した菌を可溶化バッファー[0.5%TritonX-100(Sigma社の製品)、10mMImidazole、20mMPhosphateおよび0.5MNaCl(pH7.4)(Amersham社の製品)]に再浮遊し、超音波処理により可溶化した後、組換えP30タンパク質をHistrapKit(Amersham社の製品)を用いて精製した。この精製タンパク質をリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと称する)に対して透析し、目的の組換えP30タンパク質とした。 [0048](実施例2:組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体の作出) 実施例1で得られた組換えP30タンパク質を免疫用抗原として、組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体(以下、抗P30抗体と称する)を作出した。モノクローナル抗体の作出は常法に従っておこなった。100μgの組換えP30タンパク質と等量のAduvantCompleteFreund(Difco社の製品)を混合して、マウス(BALB/c、5週齢、日本SLC)に3回免疫し、その脾臓細胞を細胞融合に用いた。細胞融合には、マウスの骨髄腫細胞であるSp2/0-Ag14細胞(Shulmanら、1978)を用いた。細胞の培養には、Dulbecco’sModifiedEagleMedium(Gibco社の製品)にL-グルタミン0.3mg/ml、ペニシリンGカリウム100単位/ml、硫酸ストレプトマイシン100μg/ml、Gentacin40μg/mlを添加し(以下、DMEMと称する)、これに牛胎児血清(JRH社の製品)を10%となるように加えた培養液を用いた。細胞融合は、免疫マウスの脾臓細胞とSp2/0-Ag14細胞を混合し、そこにPolyethyleneglycolsolution(Sigma社の製品)を添加することにより行った。融合細胞はHAT-DMEM[0.1mMSodiumHypoxanthine、0.4μMAminopterinおよび0.016mMThymidine(Gibco社の製品)を含む血清加DMEM]で培養し、酵素結合抗体法(ELISA)により培養上清中の抗体産生を確認した。抗体産生陽性の細胞をHT-DMEM[0.1mMSodiumHypoxantineおよび0.16mMThmidineを含む血清加DMEM]で培養し、さらに血清加DMEMで培養を続けた。 [0049](実施例3:モノクローナル抗体の調製) クローニングした細胞は、2,6,10,14-Tetramethylpentadecane(Sigma社の製品)を接種しておいたマウス(BALB/c、リタイア、日本SLC)に腹腔内接種し、腹水を採取した。この腹水をプロテインGカラムに供し、モノクローナル抗体を精製した。作出したモノクローナル抗体のアイソタイプは、MouseMonoloconalAntibodyIsotypingReagents(Sigma社の製品)を用いて同定した。 最終的にP30タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞が6クローン得られた。」 エ 「[0052](実施例4:抗P30抗体のエピトープ解析) 配列番号1のマイコプラズマ・ニューモニエ由来のP30タンパク質のアミノ酸配列より、N末端側に存在するプロリンを多く含む領域からエピトープとなり得る可能性のあるアミノ酸配列を選択し、配列番号3乃至5のアミノ酸配列からなるポリペプチドを合成した。合成したポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から178-189番目のGMAPRPGMPPHP(配列番号3)、190-201番目のGMAPRPGFPPQP(配列番号4)および、250-262番目のGMAPRPGMQPPRP(配列番号5)であった。なお、配列番号3に示す配列は、N末端から202-213番目および226-237番目において同様の配列が存在し、また配列番号4に示す配列は214-225番目および238-249番目において同様の配列が存在する。すなわち、配列番号3および4のアミノ酸配列はP30タンパク質内に複数存在し、繰り返し構造を有している。 前記配列番号3乃至5に示すアミノ酸配列からなるペプチドを、96穴マイクロプレートに添加し固相化した。対照として、マイコプラズマ・ニューモニエ(M.pneumoniae)精製菌体、実施例1にて調製した精製P30タンパク質、P30タンパク質のN末端側から101-125番目のKRKEKRLLEEKERQEQLORIS(配列番号6)、126-145番目のAQQEEQQALEQQAAAEAHAE(配列番号7)からなるポリぺプチド、および参考例1にて調製したマイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質を固相化し、前記と同様に実施例3にて作出したモノクローナル抗体の反応性を確認した。 ペプチドを所定濃度にて固相化したマイクロプレートに、実施例3にて作製したモノクローナル抗体を添加し、室温にて1時間反応させた。次にウェル内の溶液を吸引除去し、洗浄後、ビオチン標識抗マウス抗体を反応させた。1時間の反応の後、ウェル内の溶液を吸引除去し洗浄した後、アビジン標識ホースラディッシュペルオキシダーゼを添加し反応させた。その後、発色基質として3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)溶液を添加し反応させ、2規定の硫酸により反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Biorad社の製品)にて主波長450nmにて吸光度を測定した。結果を表1に示す。」 オ 表1 「 [図:0001399400000001.jpg] 」 カ 「[0053] 上記結果より、モノクローナル抗体BLMP001は、配列番号5のアミノ酸配列からなるポリペプチドに最も強い反応を示した。また類似配列である配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドおよび配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対しても反応を示した。 モノクローナル抗体BLMP002は配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対し強い反応を示し、モノクローナル抗体BLMP003は配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドに強い反応を示した。モノクローナル抗体BLMP001と同様に、類似するアミノ酸配列からなる他のポリペプチドに対しても反応性を示した。 モノクローナル抗体BLMP004は、配列番号3、配列番号4および配列番号5のアミノ酸配列からなるポリペプチド全てに対し反応を示した。それぞれのアミノ酸配列における共通する配列を認識するモノクローナル抗体であることが推測される。 モノクローナル抗体BLMP001、BLMP002及びBLMP003はM.pneumoniae精製菌体および精製P30タンパク質に対し高い反応を示し、対照とした精製P1タンパク質に対し反応性を示さなかった。 よって、モノクローナル抗体BLMP001はP30タンパク質における配列番号5のアミノ酸配列からなるポリペプチドを認識し、モノクローナル抗体BLMP002は配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドを認識し、モノクローナル抗体BLMP003は配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドを認識する抗体であることが確認された。 [0054](実施例5:抗P30抗体を用いたイムノクロマトグラフィー法テストストリップの作製) (1)抗P30抗体の調製 実施例3で得られたモノクローナル抗体BLMP001産生細胞およびモノクローナル抗体BLMP004産生細胞をマウス腹腔に接種し得られた腹水それぞれを、さらに常法によりプロテインGを用いたIgG精製を行い、抗P30抗体とした。 [0055](2)白金-金コロイド粒子溶液の調製 使用するガラス器具の全てを王水で洗浄した。390mlの超純水をフラスコに入れて沸騰させ、この沸騰水に塩化金酸水溶液(水溶液1リットル当たり金として1g、片山化学工業株式会社製)30mlを加え、その後、1重量%クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、6分45秒後に、塩化白金酸水溶液(水溶液1リットル当たり白金として1g、和光純薬工業株式会社製)30mlを加えた。塩化白金酸水溶液添加から5分後に1重量%クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、4時間、還流を行い、白金-金コロイド懸濁液を得た。 [0056](3)白金-金コロイド標識抗P30抗体溶液の調製 白金-金コロイド標識する抗P30抗体として、上記(1)で得られたモノクローナル抗体BLMP001を用い、下記の手順で白金-金コロイド標識を行った。 抗P30抗体の蛋白換算重量1μg(以下、抗体の蛋白換算重量を示すとき、単に、その精製蛋白質の重量分析による重量数値で示す)と上記(2)の白金-金コロイド溶液1mlとを混合し、室温で2分間静置してこの抗体のことごとくを白金-金コロイド粒子表面に結合させた後、白金-金コロイド溶液における最終濃度が1%となるように10%ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と記す)水溶液を加え、この白金-金コロイド粒子の残余の表面をことごとくこのBSAでブロックして、白金-金コロイド標識抗P30抗体(以下、「白金-金コロイド標識抗体」と記す)溶液を調製した。この溶液を遠心分離(5600×G、30分間)して白金-金コロイド標識抗体を沈殿せしめ、上清液を除いて白金-金コロイド標識抗体を得た。この白金-金コロイド標識抗体を10%サッカロース・1%BSA・0.5%Triton-X100を含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に懸濁して白金-金コロイド標識抗体溶液を得た。 [0057](4)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質検出用イムノクロマトグラフィー法テストストリップの作製 (4-1)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位 幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。抗P30抗体1.0mg/mlが含有されてなる溶液0.5μlを、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布して、これを室温で乾燥し、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と白金-金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位31とした。この塗布用抗P30抗体として、上記(1)で得られたモノクローナル抗体BLMP004を用いた。 (4-2)白金-金コロイド標識抗体含浸部材 5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に、白金-金コロイド標識抗体溶液37.5μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて白金-金コロイド標識抗体含浸部材2とした。 (4-3)イムノクロマトグラフィー法テストストリップの作製 上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を用いて、図1と同様のイムノクロマトグラフィー法テストストリップを作製した。 [0058](5)試験 マイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の培養菌液を検体抽出液で希釈して、所定濃度に調製し、被検試料とした。そして、被検試料100μ1を用いて上記(4)で得られたテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットで滴下してクロマト展開し、室温で15分放置後、上記捕捉部位31で捕捉されたP30タンパク質と白金-金コロイド標識抗体との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で-(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)、+++(極めて顕著な着色)の5段階に区分して判定した。 その結果を表2に示す。表2から明らかなように、マイコプラズマ・ニューモニエの2株に対し高い反応性を示し、陰性対照であるマイコプラズマ・ジェニタリウムに対しては適用した濃度全てにおいて陰性を示した。2種の抗P30抗体を使用したイムノクロマトグラフィー測定法により、高感度かつ高精度にマイコプラズマ・ニューモニエを検出できることがわかった。」 キ 表2 「 [図:0001399400000002.jpg] 」 (2) 甲A3の記載事項 甲A3の記載事項は以下に示すとおりである。原文は英文であるから、申立人より提示された抄訳を参考に当審による翻訳文で示す。なお、下線部は当審による。 ア (タイトル) 「マイコプラズマ・ニューモニエ P30アドヘシンの生体機能ドメインについて」 イ (要約) 「P30アドヘシン欠損タンパク質プロファイルを示す自然発生的な血液吸着陰性(HA-)クラスIIマイコプラズマ・ニューモニエ変異体のP30アドヘシン遺伝子が解析された。P30欠損変異体の1つのサブクラスは、p30構造遺伝子全体を変化なく持っていた(予測分子量が29,743Daである275アミノ酸をコードする825ヌクレオチド[S.F.Dallo,A.Ch.F.Dallo,A.Chavoya,and J.B.Baseman,Infect.Immun.58:4163-4165、1990])。しかし、2つ目の変異体サブクラスは、25kDaペプチド(計算された分子量が24,823Daである227アミノ酸をコードする681ヌクレオチド)の発現をもたらすp30での欠損を含んでいた。 この切断されたP25ペプチドは、C末端の13個のプロリンリッチ繰り返しアミノ酸配列のうち8個を欠く。C末端に位置するプロリンリッチ繰り返しアミノ酸配列に対する抗体を用いてマイコプラズマ・ニューモニエの全細胞の放射性免疫沈降法を実施したところ、その表面への接近が示された。 一方、繰り返し配列の上流に位置するN末端アミノ酸配列に対して作成した抗体は、無傷のマイコプラズマに結合しなかった。P30アドへシンと真核生物の構造タンパク質が示すアミノ酸配列の相同性は、P30アドヘシンとフィブリノーゲン、ケラチン、ミオシンとの間に共通する交差反応エピトープによって裏付けられている。これらのデータは、細胞接着におけるP30タンパク質の重要性を補強し、また、マイコプラズマ・ニューモニエを介した病態に関連する感染後の自己免疫の分子基盤を提供する。」 ウ (第2596頁左欄第27~43行) 「抗体試薬。 アドヘシンP30のプロリンリッチなC末端繰り返し領域由来の2つの合成ペプチド(アミノ酸PGMAPRPGMPPH[リピートAおよびB]およびPGMAPRPGFPPCA[リピートAおよびC]、すなわち、アミノ酸171~269番目[10])およびこれらの繰り返し配列から上流の1つのペプチド(RLLEEKERQEQLAEQ[アミノ酸106~120番目])をペニンシュラ・ラボラトリー社(Belmont,Calif.)から購入し、ピアス社(Rockford,Ill.)から供給された方法によりキーホールリンペットヘモシアニンにカップリングした。真核生物の構造タンパク質およびヒトフィブリノーゲンに対するヤギ抗体はシグマ社から購入した。マイコプラズマ・ニューモニエのP30アドヘシンに反応するMAbsは、以前に記述した(31)。ウサギ単特異的抗体試薬は、The University of TexasHealth Science Center Institutional Immunology Facilityで作成した。この場合、2.5-kgの雄ニュージーランド白ウサギに、0.5mgのキーホールリンペットヘモシアニンが融合したP30合成ペプチドまたはキーホールリンペットヘモシアニン無関係ペプチドをフロイント不完全アジュバントで乳化したものを免疫した。24日目、43日目、59日目に、フロイント不完全アジュバントに乳化した結合ペプチドをそれぞれ300mg、400mg、3.5mgのブースターとしてウサギに投与した。すべての免疫療法は、複数の部位に皮下投与された。」 エ (図5A) 「 [図:0001399400000003.jpg] 」 オ (第2598頁左欄図5(A)、(B)説明文) 「図5(A)は、マイコプラズマ・ニューモニエの野生型P30アドヘシンおよび変異型P25関連ペプチドを模式的に示したものである。繰り返しドメインは、大文字A(アミノ酸PGMAPR)、B(PGMPPH)、及びC(PGFPPQ)によって示される。ドメインAとB、ドメインAとCから合成されたペプチドは、ウサギの単特異的抗体試薬の作製に使用された(材料と方法参照)。アスタリスクは、抗血清が作製された、非繰り返しでプロリンに富まない上流配列(アミノ酸106~120番目[RLLEEKERQEQLAEQ])を示している。(B)活性なP30アドヘシンおよびそのHopp及びWoods(17)の方法によって特定された不活性な短縮25kDa相当品(P25)の推定アミノ酸配列の疎水性プロット。横座標は、正の数がタンパク質の親水性ドメインを表し、負の数が疎水性ドメインを示す。縦座標の値はアミノ酸残基である。」 カ (第2598頁左欄第7行~第10行) 「しかしながら、繰り返し構造A(PGMAPR)は、野生型では7回存在し、変異型7は3回のみ存在した。繰り返し構造B(PGMPPH)及びC(PGFPPQ)は、野生型では3回存在し、変異型7は1回のみ存在した。」 キ (第2598頁左欄第15行~右欄第8行) 「P30プロリンリッチ繰り返しドメインの表面局在化 全細胞マイコプラズマ放射性免疫沈降法は、プロリンリッチA-B繰り返し領域とA-C繰り返し領域、および上流の非プロリンリッチ親水性領域に対して生成された抗体で実施された(図5A)。図6Bに示すように、プロリンリッチなA-B領域に対して反応する抗体は、野生型マイコプラズマ・ニューモニエの30kDタンパク質、変異型7の25kDタンパク質を沈殿させたが、変異型15のペプチドを沈殿させなかった。このパターンは、A-Cリピート領域に対して作成した抗体を用いた場合にも見られた(データは示さず)。上流の非プロリンリッチ領域および出血前コントロール血清に対して作製した抗体は、野生型または変異型マイコプラズマのいずれからも表面アクセス可能なエピトープを検出しなかった(図6A)。放射性免疫沈降法解析(図6)と一致して、非プロリンリッチな親水性領域(アミノ酸106から120)は、2つの膜貫通ドメイン(アミノ酸72から97および122から150)の間に位置し、細胞質内を向いていることが示唆された。」 ク (第2598頁右欄第9行~第33行) 「P30アドヘシンと哺乳類タンパク質の間で共有する交差反応性のエピトープ P30アドヘシンの多くの領域は、真核生物の構造プロテインと重要なアミノ酸相同性を示す(2、7、10)。例えば、図5A、Bに示すA-B-Cのプロリンリッチな表面露出繰り返しドメインと上流の表面接近型高親水性領域は、ケラチン、ミオシン、フィブリン-ゲンと42~56%のアミノ酸の配列同一性を示している。材料と方法に記載されているように、これらのP30領域に対するウサギの単特異的抗体を作製し(図5A)、これらの抗体をプールしてヒトケラチン、ミオシン、フィブリノーゲンとインキュベートした。図7は、これらのP30エピトープとヒト構造タンパク質との間で観察された免疫学的交差反応性を示している。個別に見ると、A-Bプロリンリッチリピートに対する抗体は、ヒトのケラチン、ミオシン、フィブリノーゲンと強く反応し、A-Cプロリンリッチ領域に対する抗体はフィブリノーゲンと強く反応し、上流の非繰り返し非プロリンリッチ領域に対する抗体はケラチン、ミオシン、アクチン、トロポニンと強く反応した(データは示さず)。また、ヒトフィブリノーゲンに対して作製したヤギ抗体は、野生型P30アドヘシンおよび変異型7のP25切断ペプチドと交差反応したが、変異型3のペプチドとは反応しなかった(図8)。さらに、マイコプラズマ・ニューモニエによる呼吸器感染症が確認された患者の代表的な血清は、ヒト構造タンパク質に対する抗体価の上昇を示した(41;未発表データ)。」 ケ (図6) 「 [図:0001399400000004.jpg] 」 コ (第2598頁右欄図6説明文) 「図6 野生型および変異型マイコプラズマ・ニューモニエの全細胞RIPを、図5Aの凡例に記載された合成ペプチドに対して上昇させたウサギ抗P30単特異的抗体で行った。(A)上流の非プロリンリッチなN末端配列に対して反応する抗体によるイムノブロット。(B)A-Bプロリンリッチなカルボキシ末端反復領域に対する抗体でイムノブロットした。A-C領域に対する抗血清を用いた場合、パネルBと同じ結果が得られた。Pbは出血前血清、Imは免疫血清。左の数字は分子サイズ(キロダルトン)である。アスタリスクはマイコプラズマ・ニューモニエのP30(30-kDa)アドへシンの位置を示している。」 サ (第2600頁左欄第43行~第54行) 「最近、我々は、感染後の自己免疫が、マイコプラズマのアドへシンと真核生物のマトリックス成分との間に存在する分子模倣から生じる可能性があるといったメカニズムについて述べた(7,8,41)。これらの観察と一致するように、我々はP30アドへジンの特定のドメインに対して作成した単特異的抗体が、ヒトフィブリノーゲン、ケラチン、ミオシンと交差反応することを示した(図7)。さらに、この共通の免疫反応性を示す証拠として抗フィブリノーゲン抗体を用いると、野生型P30アドヘシンおよび変異型P25ペプチドに結合した(図8)。これらの結果は、自己免疫疾患とマイコプラズマ感染症との臨床的関連性を補強するものである(7-9,41)。」 (3) 甲A1先願発明の認定 上記(1)エの記載事項には、配列番号1のマイコプラズマ・ニューモニエ由来のP30タンパク質のアミノ酸配列より、N末端側に存在するプロリンを多く含む領域からエピトープとなり得る可能性のあるアミノ酸配列を選択し、配列番号3乃至5のアミノ酸配列からなるポリペプチドを合成したこと、合成したポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から178-189番目のGMAPRPGMPPHP(配列番号3)、190-201番目のGMAPRPGFPPQP(配列番号4)および、250-262番目のGMAPRPGMQPPRP(配列番号5)であったこと、配列番号3に示す配列は、N末端から202-213番目および226-237番目において同様の配列が存在し、また配列番号4に示す配列は214-225番目および238-249番目において同様の配列が存在すること、記載事項1(1)カには、モノクローナル抗体BLMP004は、配列番号3、配列番号4および配列番号5のアミノ酸配列からなるポリペプチド全てに対し特異的に反応を示したことが記載されているといえる。 そして、上記(1)エ及びカの記載事項は、甲A1の2にも存在し、優先権主張の効果を受けることができるから、先の出願(特願2015-15253号)に係る以下の発明が記載されているものと認められる(以下、「甲A1先願発明」という。) 「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質の配列番号3(GMAPRPGMPPHP;178-189番目、202-213番目および226-237番目)、配列番号4(GMAPRPGFPPQP;190-201番目、214-225番目および238-249番目)及び配列番号5(GMAPRPGMQPPRP;250-262番目)のアミノ酸配列に特異的に反応するモノクローナル抗体BLMP4。」 (4) 本件特許発明1と甲A1先願発明との対比 上記(1)エの記載事項のとおり、甲A1には、配列番号3、配列番号4、及び配列番号5が、それぞれP30タンパク質のN末端から、178-189番目、190-201番目、及び250-262番目のアミノ酸配列を含むことが記載され、また、「配列番号3に示す配列は、N末端から202-213番目および226-237番目において同様の配列が存在し、また配列番号4に示す配列は214-225番目および238-249番目において同様の配列が存在する」ことが記載されていることから、甲A1先願発明は、「P30タンパクにおける、N末端より177番目から274番目までのC末端側に複数回出願するアミノ酸配列に特異的に反応する」ものであるといえる。 また、上記(1)エ、(1)オの記載事項のとおり、甲A1には、P30タンパク質のN末端側から178-189番目、190-201番目、及び250-262番目のアミノ酸配列に特異的に反応するモノクローナル抗体が、P30タンパク質のN末端側から101-125番目のアミノ酸配列番号及び126-145番目のアミノ酸配列に対して極めて低い反応性を示していることが記載されていること、及びP30タンパク質のN末端から177番目までに、配列番号3~5の配列が存在しないことを考慮すれば、甲A1先願発明は、「P30タンパク」の「N末端から176番目までには反応」しない蓋然性が高いものと認められる。 そうすると、本件特許発明1と甲A1先願発明は、 「マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)のP30タンパクにおける、N末端より177番目から274番目までのC末端側に複数回出現するアミノ酸配列に特異的に反応するが、N末端から176番目までには反応しないモノクローナル抗体。」であるという点で一致し、以下の点で相違していると認められる。 (相違点1) 本件特許発明1は、「モノクローナル抗体が特異的に反応するアミノ酸配列がPGMAPRP(Pro-Gly-Met-Ala-Pro-Arg-Pro)であると共に、アミノ酸配列PGMAPRには反応」しないのに対し、 甲A1先願発明は、モノクローナル抗体が特異的に反応するアミノ酸配列が配列番号3(GMAPRPGMPPHP)、配列番号4(GMAPRPGFPPQP)、及び配列番号5(GMAPRPGMQPPRP)である点 (相違点2) 本件特許発明1は、モノクローナル抗体が「ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しない」のに対し、 甲A1先願発明は、そのようなことが明らかではない点 (5) 相違点1~2の判断 <相違点1について> 甲A1先願発明の「モノクローナル抗体」は、配列番号3(GMAPRPGMPPHP)、配列番号4(GMAPRPGFPPQP)及び配列番号5(GMAPRPGMQPPRP)のアミノ酸配列に特異的に反応することから、その共通配列のうちの多くを占める「GMAPRP」をもエピトープとし、特異的に反応する蓋然性が高く、また、これと共通のアミノ酸配列を有する本件特許発明1の「PGMAPRP」についても反応する蓋然性が高いといえる。 他方、甲A1には、甲A1先願発明の「モノクローナル抗体」が「アミノ酸配列PGMAPR」に反応しないことについて具体的に記載はないものの、上述の同様の理由により、甲A1先願発明の「モノクローナル抗体」は、本件特許発明1の「PGMAPR」をもエピトープとし、反応する蓋然性が高いといえる。(下線部は当審による。) したがって、共通するアミノ酸配列を有するという観点からすると、甲A1先願発明が「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しないと認定することはできない。 なお、異議申立人Aは、異議申立書等において、甲A1先願発明の「モノクローナル抗体」が「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しないことを裏付ける証拠を提出していない。 <相違点2について> 甲A1には、配列番号3~5のアミノ酸配列に特異的に反応するモノクローナル抗体が「ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しない」ことについて何ら記載されていない。 他方で、上記の(2)クのとおり、甲A3には、「A-Bプロリンリッチリピートに対する抗体は、ヒトのケラチン、ミオシン、フィブリノーゲンと強く反応し、A-Cプロリンリッチ領域に対する抗体はフィブリノーゲンと強く反応し、上流の非繰り返し非プロリンリッチ領域に対する抗体はケラチン、ミオシン、アクチン、トロポニンと強く反応した(データは示さず)。また、ヒトフィブリノーゲンに対して作製したヤギ抗体は、野生型P30アドヘシンおよび変異型7のP25切断ペプチドと交差反応したが、変異型3のペプチドとは反応しなかった(図8)」と記載されており、P30タンパクのN末端から177番目以降のC末端側のアミノ酸配列に特徴的な繰り返し配列に対して結合する単特異的抗体がケラチン、ミオシン、フィブリノーゲンと免疫的な交差反応性を示す事実があることから、甲A1のP30タンパク質のN末端から178番目以降の繰り返し配列に特異的に反応するモノクローナル抗体は「ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しない」と認定することはできない。 なお、異議申立人Aは、甲A3で用いられている抗体は、P30タンパク質のC末端プロリンリッチ領域のアミノ酸配列をキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に連結してウサギに免疫することにより得られた単特異的抗体試薬であって、抗血清又はポリクローナル抗体と同視されるものであり、ハイブリドーマを取得して得られるモノクローナル抗体ではないので、P30タンパク質に対するモノクローナル抗体がケラチン、フィブリノーゲン、ミオシンなどの構造タンパクと交差反応することを開示するものではないとし、P30と相同性の低いケラチン、フィブリノーゲンと反応しないことは当業者に自明である旨、主張している。 しかしながら、上記の1(2)クのとおり、甲A3には、「例えば、図5A及びBに図示されたA-B-Cプロリンリッチ表面露出リピートドメイン及び上流の表面不達高親水性領域はケラチン、ミオシン及びフィブリノーゲンと42~56%の配列同一性を示す。・・・個別的に言えば、A-Bプロリンリッチリピートに対して生成した抗体はヒトケラチン、ミオシン及びフィブリノーゲンと強く反応し、A-Cプロリンリッチ領域に対する抗体はケラチン、ミオシン、アクチン及びトロポニンと強く反応した」こことが記載され、このことはP30タンパク質のC末端側のプロリンリッチ領域に対する単特異的抗体は、A-B-Cプロリンリッチ表面露出リピートドメインがケラチン、ミオシン及びフィブリノーゲンと42~56%の配列同一性しか有していないにも関わらず、これらのタンパク質と強く反応する事実を示すものである。 そして、ポリクローナル抗体と、モノクローナル抗体との間で事情を異にすると認められる特段の根拠が示されていないことからすると、甲第3号証において、モノクローナル抗体での具体例がないことをもって、「P30タンパク質に対するモノクローナル抗体がケラチン、フィブリノーゲン、ミオシンなどの構造タンパクと交差反応することを開示するものではない」と結論付けることはできない。 したがって、P30タンパクのC末端側のプロリンリッチ領域を標的とする抗体がケラチン、フィブリノーゲン、ミオシンなどの構造タンパクと交差反応性を示す事実がある以上、甲A1先願発明の「モノクローナル抗体」が「ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しない」とはいえない。 よって、相違点1ないし2は実質的な相違点であり、本件特許発明1は、甲A1先願発明と同一又は実質同一であるとは認められない。 (6) 小括 以上より、本件特許発明1は、甲A1先願発明と同一又は実質同一であるとは認められない。 また、本件特許発明3ないし4は、いずれも、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであり、相違点1ないし2の点で甲A1先願発明と相違するから、本件特許発明3ないし4もまた、甲A1先願発明と同一であるとも、実質的に同一であるともいえない。 したがって、本件特許発明1、3、4は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえないから、上記発明に係る特許は、申立理由A1によって取り消すことはできない。 2 申立理由A2(進歩性)について (1) 甲A2の記載事項 甲A2の記載事項は以下に示すとおりである。なお、下線部は当審による。 ア 「[請求の範囲] [請求項1]マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体を用いることを特徴とするマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法。 [請求項2]前記抗体が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識する抗体である、請求項1に記載の検出法。 [請求項3]前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1又は2に記載の検出法。 ・・・ [請求項14]マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体を少なくとも備えてなるマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的測定キット。 ・・・ [請求項22]マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を認識する抗体。 [請求項23]前記抗体が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識する抗体である、請求項22に記載の抗体。 [請求項24]前記抗体がモノクローナル抗体である請求項22又は23に記載の抗体。」 イ 「[0026] P30タンパク質は分子量30KDaのタンパク質であり、P1タンパク質と同様に接着と病原性に関係する接着タンパク質の1つである。マイコプラズマ・ニューモニエの菌体においては、接着器官の先端部の細胞表面に局在しており、細胞膜内に埋没しているN末端と細胞膜外に存在するC末端を持つ膜貫通型タンパク質である。また、C末端側にはプロリンを多く含むアミノ酸配列が存在し、前記プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造が存在する。一般的にプロリンを含むアミノ酸配列からなる領域は、立体的な高次構造をとることが知られており、抗体の反応するエピトープとなり得ることが知られている。 したがって、本発明で使用する抗体は、P30タンパク質の細胞外領域における、プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造からなる部分を認識する抗体である可能性が高い。また配列番号2のアミノ酸配列は、前記細胞外領域を構成するアミノ酸配列であり、前記プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造を含む領域を含み、P30タンパク質におけるエピトープを含むと考えられる領域である。 [0027] かくして、本発明の他の局面によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を認識する抗体が提供される。さらには、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識する抗体が提供される。」 ウ 「[0046](実施例1:組換えP30タンパク質の発現と精製) マイコプラズマ・ニューモニエ M129株のP30タンパク質のアミノ酸配列をDDBJ(国立遺伝学研究所データベース)より入手した。前記P30タンパク質のアミノ酸配列から、膜貫通ドメインを除いた細胞外領域である配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)を特定し、対応する遺伝子配列を合成した。His-tag発現用ベクターであるpET302/NT-Hisを制限酵素EcoRIで切断した後、脱リン酸化処理としてアルカリフォスファターゼにより処理し、前記遺伝子配列と混合し、DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ)を用いてライゲーション反応をおこなった。目的遺伝子を組み込んだ組換えP30プラスミドを組換え蛋白発現用宿主E.coli BL(DE3)pLysS(Novagen)に導入した。導入菌をLB寒天平板培地で培養し、得られたコロニーをLB液体培地で培養した。さらに1mM IPTG(タカラバイオ)を添加して組換えP30タンパク質の発現を誘導した後、E.coli回収した。回収した菌を可溶化バッファー[0.5%Triron X-100(sigma)、10mM Imidazole、20mM Phosphateおよび0.5M NaCl(pH7.4)(Amersham)]に再浮遊し、超音波処理により可溶化した後、組換えP30タンパク質をHis trap Kit(Amersham)を用いて精製した。この精製タンパク質をリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと称する)に対して透析し、目的の組換えP30タンパク質とした。」 エ 「[0047](実施例2:組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体の作出) 実施例1で得られた組換えP30タンパク質を免疫用抗原として、組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体(以下、抗P30抗体と称する)を作出した。モノクローナル抗体の作出は常法に従っておこなった。100μgの組換えP30タンパク質と等量のAduvant Complete Freund(Difco)を混合して、マウス(BALB/c、5週齢、日本SLC)に3回免疫し、その脾臓細胞を細胞融合に用いた。細胞融合には、マウスの骨髄腫細胞であるSp2/0-Ag14細胞(Shulmanら、1978)を用いた。細胞の培養には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Gibco)にL-グルタミン 0.3mg/ml、ペニシリンGカリウム 100単位/ml、硫酸ストレプトマイシン 100μg/ml、Gentacin 40μg/mlを添加し(DMEM)、これに牛胎児血清(JRH)を10%となるように加えた培養液を用いた。細胞融合は、免疫マウスの脾臓細胞とSp2/0-Ag14細胞を混合し、そこにPolyethylene glycol solution(Sigma)を添加することにより行った。融合細胞はHAT-DMEM[0.1mM Sodium Hypoxantine、0.4μM Aminopterinおよび0.016mM Thymidine(Gibco)を含む血清加DMEM]で培養し、酵素結合抗体法(ELISA)により培養上清中の抗体産生を確認した。抗体産生陽性の細胞をHT-DMEM[0.1mM Sodium Hypoxantineおよび0.16mM Thymidineを含む血清加DMEM]で培養し、さらに血清加DMEMで培養を続けた。」 オ 「[0048](実施例3:モノクローナル抗体の調製) クローニングした細胞は、2,6,10,14-Tetramethylpentadecane(Sigma)を接種しておいたマウス(BALB/c、リタイア、日本SLC)に腹腔内接種し、腹水を採取した。この腹水をプロテインGカラムに供し、モノクローナル抗体を精製した。作出したモノクローナル抗体のアイソタイプは、Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Reagents(Sigma)を用いて同定した。 最終的にP30タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞が5クローン得られた。これらのモノクローナル抗体のイムノグロブリンアイソタイプは全てIgG1であった。」 カ 「[0052](実施例4:抗P30抗体と抗P1抗体の反応性の比較検討) 実施例3により得られた抗P30抗体及び比較例2で得られた抗P1抗体の反応性を確認した。参考例1にて調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株及びFH株、マイコプラズマ・ジェニタリウムの菌液を所定濃度にて固相化したマイクロプレートに、実施例2及び比較例2にて作製した各抗体を添加し、室温にて1時間反応させた。次にウェル内の溶液を吸引除去し、洗浄後、ビオチン標識抗マウス抗体を反応させた。1時間の反応の後、ウェル内の溶液を吸引除去し洗浄した後、アビジン標識ホースラディッシュペルオキシダーゼを添加し反応させた。その後、発色基質として3,3‘,5,5’-テトラメチルベンジン(TMBZ)溶液を添加し反応させ、2規定の硫酸により反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Biorad)にて主波長450nmにて測定した。結果を表1から表3に示す。」 キ 表1~3 「 [図:0001399400000005.jpg] [図:0001399400000006.jpg] [図:0001399400000007.jpg] 」 ク 「[0056]表1から明らかなように、実施例2にて作製された抗P30抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株のいずれにも高い反応性を示し、陰性対照のマイコプラズマ・ジェニタリウムに対しては交差反応しないことを確認した。 また表2および表3から明らかなように、比較例2にて作製した抗P1抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエのM129株とFH株に対し、いずれか一方に反応性が偏る抗体であることが示された。反応性の偏りはP1遺伝子型によるものであり、P1遺伝子型によるP1タンパク質のアミノ酸配列の相違がモノクローナル抗体の反応性に表れている可能性が高い。また陰性対照としたマイコプラズマ・ジェニタリウムに対する若干の交差反応性を認めた。 したがって、P30タンパク質はマイコプラズマ・ニューモニエにおいて共通して保存されており、かつ、特異的なタンパク質であることが示され、さらにP30タンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体を取得した。 [0057](実施例5:抗P30抗体を用いたイムノクロマトグラフィーテストストリップの作製) (1)抗P30抗体の調製 実施例3で得られたハイブリドーマBLA-001およびBLA-002をマウス腹腔に接種し得られた腹水それぞれを、さらに常法によりプロテインGを用いたIgG精製を行い、抗P30抗体とした。 [0058](2)白金-金コロイド粒子溶液の調製 使用するガラス器具の全てを王水で洗浄した。390mlの超純水をフラスコに入れて沸騰させ、この沸騰水に塩化金酸水溶液(水溶液1リットル当たり金として1g、片山科学工業株式会社製)30mlを加え、その後、1重量%クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、6分45秒後に、塩化白金酸水溶液(水溶液1リットル当たり白金として1g、和光純薬工業株式会社製)30mlを加えた。塩化白金酸水溶液添加から5分後に1重量%クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、4時間、還流を行い、白金-金コロイド懸濁液を得た。 [0059](3)白金-金コロイド標識抗P30抗体溶液の調製 白金ー金コロイド標識する抗P30抗体として、上記(1)で得られたクローンBLA-002を用い、下記の手順で白金-金コロイド標識を行った。 抗P30抗体の蛋白換算重量1μg(以下、抗体の蛋白換算重量を示すとき、単に、その精製蛋白質の重量分析による重量数値で示す)と上記(2)の白金-金コロイド溶液1mlとを混合し、室温で2分間静置してこの抗体のことごとくを白金-金コロイド粒子表面に結合させた後、白金-金コロイド溶液における最終濃度が1%となるように10%ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と記す)水溶液を加え、この白金-金コロイド粒子の残余の表面をことごとくこのBSAでブロックして、白金-金コロイド標識抗P30抗体(以下、「白金-金コロイド標識抗体」と記す)溶液を調製した。この溶液を遠心分離(5600×G、30分間)して白金-金コロイド標識抗体を沈殿せしめ、上清液を除いて白金-金コロイド標識抗体を得た。この白金-金コロイド標識抗体を10%サッカロース・1%BSA・0.5%Triton-X100を含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に懸濁して白金-金コロイド標識抗体溶液を得た。 [0060](4)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップの作製 (4-1)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と白金―金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位 幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。抗P30抗体1.0mg/mlが含有されてなる溶液0.5μlを、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布して、これを室温で乾燥し、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と白金ー金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位31とした。この塗布用抗P30抗体として、上記(1)で得られたクローンBLA-001を用いた。 (4-2)白金-金コロイド標識抗体含浸部材 5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に、白金-金コロイド標識抗体溶液37.5μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて白金-金コロイド標識抗体含浸部材2とした。 (4-3)イムノクロマトグラフィーテストストリップの作製 上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を用いて、図1と同様のイムノクロマトグラフィーテストストリップを作製した。 [0061](5)試験 参考例1で得られたマイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の培養菌液を検体抽出液で希釈して、所定濃度に調製し、被検試料とした。そして、被検試料120μlを用いて上記(4)で得られたテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットで滴下してクロマト展開し、室温で15分放置後、上記捕捉部位31で捕捉されたP30タンパク質と白金ー金コロイド標識抗体との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で-(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)、+++(顕著な着色)の5段階に区分して判定した。 その結果を表4に示す。表4から明らかなように、2種の抗P30抗体を使用したイムノクロマトグラフィー測定法により、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を検出できることがわかった。またBlankにおける非特異的呈色も確認されなかった。」 ケ 表4 「 [図:0001399400000008.jpg] 」 コ 表5 「 [図:0001399400000009.jpg] 」 サ 「[0066] 表5から明らかなように、P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いた場合、M129株では1×107CFU/ml、FH株では1×106CFU/mlで顕著な呈色を示し、M129株では1×106CFU/ml、FH株では1×105CFU/mlで明確な呈色を示した。 一方、P1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いた場合には、M129株では1×108CFU/ml、FH株では1×107CFU/mlにて明確な呈色を示した。」 シ 「[0067]表5の結果から明らかなように、同じ呈色強度を示した被検試料の菌濃度を比較した結果、P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップが、P1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップに対し、M129株およびFH株との反応性において100倍の検出感度差があることが示された。 以上の結果より、抗P30抗体を用いた、P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップにより、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度かつ特異的に検出することが可能であることが示された。」 (2) 甲A2発明の認定 上記(1)ア、ウ~クの記載事項によれば、甲A2には、マイコプラズマ・ニューモニエの配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体が記載されていると認められる。 上記(1)ウの「P30タンパク質のアミノ酸配列から、膜貫通ドメインを除いた細胞外領域である配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)」から、配列番号2で示されるアミノ酸配列は、P30タンパク質のN末端から74~274番目のアミノ酸配列であると認められる。 以上より、甲A2には、以下の発明が記載されているものと認められる(以下、「甲A2発明」という。) 「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質のN末端から74~274番目のアミノ酸配列の領域に存在するエピトープを認識するモノクローナル抗体。」 (3) 本件特許発明1と甲A2発明との対比 本件特許発明1の「アミノ酸配列に特異的に反応する」は、甲A2発明の「アミノ酸配列の領域に存在するエピトープを認識する」に相当する。 したがって、本件特許発明1と甲A2発明は、 「マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)のP30タンパクにおけるアミノ酸配列に特異的に反応するモノクローナル抗体。」であるという点で一致し、以下の点で相違していると認められる。 (相違点3) モノクローナル抗体が特異的に反応するアミノ酸配列について、 本件特許発明1は、「P30タンパクにおける、N末端より177番目から274番目までのC末端側に複数回出現するアミノ酸配列」に特異的に反応し、「P30タンパク」の「N末端から176番目までには反応」しないものであるのに対し、 甲A2発明は、「P30タンパク質のN末端から74~274番目のアミノ酸配列」のいずれかに特異的に反応するものである点 (相違点4) モノクローナル抗体が特異的に反応するアミノ酸配列について、 本件特許発明1は、「PGMAPRP(Pro-Gly-Met-Ala-Pro-Arg-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しないものであるのに対し、 甲A2発明では、そのようなアミノ酸配列に反応しないことが明らかでない点 (相違点5) 本件特許発明1は、「ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しない」のに対し、 甲A2発明は、そのようなことが明らかではない点 (4) 相違点3~5の判断 <相違点3について> 上記(1)イのとおり、甲A2には、「C末端側にはプロリンを多く含むアミノ酸配列が存在し、前記プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造が存在する。一般的にプロリンを含むアミノ酸配列からなる領域は、立体的な高次構造をとることが知られており、抗体の反応するエピトープとなり得る」ことが記載されている。 また、本願明細書の段落[0058]には、P30タンパクの全長配列が記載され、P30タンパクは、N末端から149番目以降に、プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造を有するものである。 しかしながら、甲A2発明の「モノクローナル抗体」について、甲A2には、P30タンパク質の74~274番目のアミノ酸配列のうち、「N末端より177番目から274番目までのC末端側に複数回出現するアミノ酸配列」をエピトープとして認識し、他方、P30タンパク質の1~274番目の中から、「N末端から176番目」をエピトープとして認識しないものを選択することを動機付ける記載はないから、これを選択することは、当業者といえども容易に想到し得ることとはいえない。 <相違点4について> 本件特許発明1は、「PGMAPRP(Pro-Gly-Met-Ala-Pro-Arg-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しないものである。上記(1)イのとおり、甲A2には、「P30タンパク質の細胞外領域における、プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造からなる部分を認識する抗体」を用いることが記載されているにとどまり、PGMAPRP(Pro-Gly-Met-Ala-Pro-Arg-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しない抗体については記載も示唆もない。また、上記(2)ウのとおり、甲A3には、アドヘシンP30のプロリンリッチなC末端繰り返し領域由来の2つの合成ペプチド(アミノ酸PGMAPRPGMPPH[リピートAおよびB]およびPGMAPRPGFPPCA[リピートAおよびC])を免疫原として産生した抗体が記載されているものの、甲A2発明のモノクローナル抗体について、PGMAPRP(Pro-Gly-Met-Ala-Pro-Arg-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しない抗体を選択することを動機付ける記載がないから、甲A2発明に甲A3記載の事項を組み合わせたとしても、PGMAPRP(Pro-Gly-Met-Ala-Pro-Arg-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しない抗体を選択することは、当業者であっても容易に想到し得ることとはいえない。 なお、異議申立人Aは、「当業者であれば、配列番号2のアミノ酸配列の中でプロリンを多く含むアミノ酸配列とは、プロリンが連続して出現する部分、又は、プロリンが一つおきに出現する領域として特定することができ、・・・そのうち、PPQP(PPQ、PQPを含む)とPPHP(PPH、PHPを含む)とPRPなどの配列は頻回出現していることが認められる」旨、主張している。 しかしながら、甲A2の配列番号2には、異議申立人Aが主張するように、プロリンを多く含む繰り返し配列として、PPQP、PPHP、PRPなどが複数存在するところ、そのような複数のアミノ酸配列からPRPを選択し、さらに、より長いアミノ酸配列を有する「PGMAPRP」を選択した上で、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しない抗体を選択することは、甲A2、3の記載及び本件特許の出願時の技術常識に照らしても、当業者が容易に想到しうるとはいえない。 また、異議申立人Aは、異議申立書等において、甲A2発明の「モノクローナル抗体」は、「PGMAPRP(Pro-Gly-Met-Ala-Pro-Arg-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しないことを裏付ける証拠を提出していない。 <相違点5について> 甲A2には、甲A2発明の「モノクローナル抗体」が「ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しない」ことについて何ら記載されていない。 他方で、上記1(5)において、相違点2について述べたのと同様に、甲A3における上記1(2)クの記載事項より、甲A2のP30タンパク質のN末端から178番目以降の繰り返し配列に特異的に反応するモノクローナル抗体は「ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しない」と認定することはできない。 よって、本件特許発明1は、甲A2発明に基づいて、又は甲A2発明及び甲A3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 (5) 本件特許発明2と甲A2発明との対比 本件特許発明2と甲A2発明は、 「マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)のP30タンパクにおけるアミノ酸配列に特異的に反応するモノクローナル抗体。」であるという点で一致し、以下の点で相違していると認められる。 (相違点6) モノクローナル抗体が特異的に反応するアミノ酸配列について、 本件特許発明2は、「P30タンパクにおける、N末端より177番目から274番目までのC末端側に複数回出現するアミノ酸配列」に特異的に反応し、「P30タンパク」の「N末端から176番目までには反応」しないものであるのに対し、 甲A2発明は、「P30タンパク質のN末端から74~274番目のアミノ酸配列」のいずれかに特異的に反応するものである点 (相違点7) モノクローナル抗体が特異的に反応するアミノ酸配列について、 本件特許発明2は、「PHPGMAP(Pro-His―Pro-Gly-Met-Ala-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しないものであるのに対し、 甲A2発明では、そのようなアミノ酸配列に反応しないことが明らかでない点 (相違点8) 本件特許発明2は、「ケラチン、フィブリノーゲンにも反応しない」のに対し、 甲A2発明は、そのようなことが明らかではない点 (6) 相違点6~8の判断 <相違点6について> 相違点6は、上記(4)の相違点3と同じであり、上記(4)において相違点3について述べたとおり、当業者であっても容易に想到し得るものとはいえない。 <相違点7について> 本件特許発明2は、「PHPGMAP(Pro-His―Pro-Gly-Met-Ala-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しないものである。上記記載事項2(1)イに記載されているとおり、甲A2には、「P30タンパク質の細胞外領域における、プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造からなる部分を認識する抗体」を用いることが記載されているにとどまり、「PHPGMAP(Pro-His―Pro-Gly-Met-Ala-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しない抗体については記載も示唆もない。また、上記(5)において相違点4について述べたのと同様に、甲A3の記載をみても、甲A2発明のモノクローナル抗体として、「PHPGMAP(Pro-His―Pro-Gly-Met-Ala-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しない抗体を選択することを動機付ける記載はないから、甲A2発明に甲A3記載の事項を組み合わせたとしても、「PHPGMAP(Pro-His―Pro-Gly-Met-Ala-Pro)」に特異的に反応し、「アミノ酸配列PGMAPRには反応」しない抗体を選択することは、当業者であっても容易に想到し得ることとはいえない。 <相違点8について> 相違点8は、上記(4)の相違点5と同じであり、上記(4)において相違点5の判断で述べたとおり、当業者であっても容易に想到し得るものとはいえない。 よって、本件特許発明2は、甲A2発明に基づいて、又は甲A2発明及び甲A3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 (7) 小括 以上より、本件特許発明1ないし2は、甲A2発明に基づいて、又は甲A2発明及び甲A3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 本件特許発明3ないし4は、本件特許発明1ないし2を直接又は間接的に引用するものであり、相違点3ないし5の点で、本件特許発明1ないし2が甲A2発明に基づいて、又は甲A2発明及び甲A3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、本件特許発明3ないし4もまた甲A2発明に基づいて、又は甲A2発明及び甲A3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、上記発明に係る特許は、申立理由A2によっては取り消すことはできない。 3 申立理由B1(実施可能要件)について (1)本件明細書に記載された事項 本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審による。 本a. 「【発明を実施するための最良の形態】 【0048】 (開発の経緯) まず本発明者らが本願発明の完成に達するまでの経緯を述べる。 【0049】 モノクローナル抗体の作製は、免疫原にマイコプラズマ・ニューモニエFH株菌体の可溶化物を用いて常法に従って行った。 【0050】 すなわち、マイコプラズマ・ニューモニエFH株可溶化抗原と完全フロインドアジュバンドを混合して、エマルジョンを調製し、これをマウスの腹腔内に免疫した。 【0051】 免疫から二週間後、同じくマイコプラズマ・ニューモニエFH株可溶化抗原と不完全フロインドアジュバンドを混合してエマルジョンを調製し、前記マウスの腹腔内に追加免疫を3回行った。 【0052】 最終免疫の3日後に、マウスから脾臓を摘出し、その中に含まれる免疫細胞を取り出し、ポリエチレングリコールの存在下で、骨髄腫ミエローマ細胞と細胞融合を行い、ハイブリドーマを調製した。各ハイブリドーマから産生される培養上清中の抗体を、抗原結合プレート、及び抗マウスPOD(西洋わさびペルオキシダーゼ)標識ポリクローナル抗体を用いたELISA法で確認することにより抗原に反応するモノクローナル抗体生産株23種を選別した。 【0053】 選別されたモノクローナル抗体は、それぞれ腹水化を行った後に、プロテインGアフィニティークロマトカラムを用いてIgGとして精製し、これらを用いてイムノクロマト法 の試作を行い反応性の確認を行った。 【0054】 すなわち、それぞれのモノクローナル抗体を1mg/ml濃度でPBS緩衝液にて調製し、ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社:HF0135ハイフローメンブレン)に1.3μL/cmをライン状に塗布して結合させた。これを十分に乾燥させたのちに約5mm幅の短冊状に裁断してテストストリップを作製した。 【0055】 一方、それぞれのモノクローナル抗体は金コロイド粒子(平均粒径60μm)に結合させることで標識物を作製した。 【0056】 これらを組み立ててイムノクロマト法の抗原サンドイッチによる検出試薬として作製し、マイコプラズマ・ニューモニエ抗原との反応性を確認した。 【0057】 ここで、本発明者らは、P30タンパクに反応性を有する、特に検出感度の高い2種のモノクローナル抗体を選定し、これらをそれぞれ抗マイコプラズマ モノクローナル抗体#004(以下、抗体#004)、と抗マイコプラズマ モノクローナル抗体#006(以下、抗体#006)と名付けた。」 本b. 「【実施例】 【0068】 <実施例1> [合成ペプチドによるイムノクロマト競合法による測定] P30のアミノ酸配列PRPGMPPHPGMAPRPの中から以下に示すペプチドを作製した。これらを検体として使用し、マイコプラズマ・ニューモニエ抗原を固相に用いたイムノクロマト競合法による測定を行った。 【0069】 (合成ペプチド) ペプチド1-1:PRPGMPPHPGMAPRP ペプチド1-2:PGMPPHPGMAPRP ペプチド1-3:GMPPHPGMAPRP ペプチド1-4:MPPHPGMAPRP ペプチド1-5:PHPGMAPRP ペプチド1-6:PGMAPRP ペプチド1-7:PGMAPR ペプチド1-8:PGMAP ペプチド1-9:MPPHPGM ペプチド1-10:GMPPHPGMAP ペプチド1-11:MPPHPGMAP ペプチド1-12:GMPPHPGM ペプチド1-13:PPHPGM 【0070】 図1を参照しながら、以下検出装置の作製方法を示す。ここで、図1(a)は本発明の一実施の形態における検出装置の側面図、図1(b)、(b’)は同検出装置の正面図である。 【0071】 図1に示すように、この検出装置は、滴下部11、標識区域12、多孔質担体13、検出区域14、対象区域15、吸液部16を有する。 【0072】 また図中、Aは、マイコプラズマ・ニューモニエ、Bは、本発明のモノクローナル抗体を標識したモノクローナル抗体標識物、Cは複合体、Xは合成ペプチドである。 【0073】 この検出装置は、イムノクロマト競合法を利用した、モノクローナル抗体標識物の、種々の合成ペプチドへの反応性を確認するための装置であるが、他の要素は、イムノクロマト競合法を利用した検出装置として、通常使用されるもので差し支えない。以下、更に詳しく説明する。 【0074】 (標識成分の調製) G.Frens(Nature、241、20-22、1973)の方法に従い金コロイド粒子を作製した。この金コロイド10mLに対し、抗体♯004を40μg室温にて混合し、金コロイド標識抗体♯004を調製した。同様にして金コロイド標識抗体♯006も調製した。 【0075】 (標識区域12の調製) 金コロイド標識抗体♯004をOD520nm=1.0となるように調製し、反応確認のために対照として金コロイド標識ウサギγグロブリンをOD520nm=0.2となるように調製したものを混合し調製液を作製した。【0076】 この調製液をガラス繊維パッドにテスト当たり36μLずつそれぞれ塗布した後、凍結乾燥させ、標識区域12である金コロイド標識抗体♯004#塗布パッドを調製した。抗体♯006についても同様に金コロイド標識抗体♯006塗布パッドを調製した。 【0077】 (検出区域14の調製) マイコプラズマ・ニューモニエ FH株(ATCC♯15531)を8.1x108CFU/mLとなるようにPBS緩衝液で調製し、多孔質坦体13であるニトロセルロースメンブレン(ミリポア社)の所定位置に、テスト当たり0.73μLでライン状に塗布し検出区域14を形成した。 【0078】 また、検出区域14の下流側に、抗ウサギ抗体をテスト当たり0.73μLで塗布し、反応確認のための対照区域15を形成した。乾燥作業を経て、マイコプラズマ・ニューモニエ抗原固相化メンブレン(検出区域14の配置された多孔質担体13)を調製した。 【0079】 (検出装置の作製) 滴下部11としてのADVANTEC Grade60(商標)濾紙を用い、金コロイド標識抗体♯004塗布パッド、マイコプラズマ・ニューモニエ抗原固相化メンブレン、吸液部16としての濾紙とをそれぞれ重ね合わせ、粘着剤付きの台紙に貼付してイムノクロマト競合法を利用した検出装置を作製した。同様に抗体♯004の代わりに抗体♯006を用いた検出装置も作製した。 【0080】 (検体試料液の調製) 抽出液としてTris-HCl緩衝液を用い、この抽出液にて各ペプチドをそれぞれ1.0mg/mLとなるように調製し、検体試料液として用いた。対照として、抽出液のみを用いた。 【0081】 (反応性試験) 作製した2種の検出装置に検体試料液をピペットで100μL滴下した後、15分後の検出区域14のライン発色を確認した。ここで、マイコプラズマ・ニューモニエ抗原固相化メンブレンと、各モノクローナル抗体(抗体#004、抗体#006)は免疫反応して、金コロイドの赤紫色の発色ラインを形成するが、エピトープに対応するペプチドが存在すると競合的に阻害がかかり、発色ラインが形成されない。 【0082】 すなわち、発色の阻害があることで、モノクローナル抗体のエピトープを含むペプチドであることが確認される。 【0083】 (モノクローナル抗体#004の検討結果) 発色に阻害がかかったもの:ペプチド1-1、ペプチド1-2、ペプチド1-3、ペプチド1-4、ペプチド1-5、ペプチド1-6 【0084】 発色したもの:ペプチド1-7、ペプチド1-8、ペプチド1-9 以上の結果より、モノクローナル抗体♯004は「PGMAPRP(Pro-Gly-Met-Ala-Pro-Arg-Pro)」であることが判明した。 【0085】 (モノクローナル抗体#006の検討結果) 発色に阻害がかかったもの:ペプチド1-1、ペプチド1-2、ペプチド1-3、ペプチド1-4、ペプチド1-5、ペプチド1-10、ペプチド1-11 【0086】 発色したもの:ペプチド1-6、ペプチド1-9、ペプチド1-12、ペプチド1-13 【0087】 以上の結果より、モノクローナル抗体#006は「PHPGMAP(Pro-His-Pro-Gly-Met-Ala-Pro)」のペプチド配列に反応性を有することが確認された。 【0088】 さらに、抗体#006については、「PHPGMAP」の2つめのアミノ酸がRに置換された「P“R”PGMAP」および6番目がPに置換された「PHPGM“P”P」にも反応性を有することが確認された。」 本c. 「【0126】 (交差反応性試験) 非特許文献2によるとP30の繰り返し配列は、構造タンパクであるケラチン、フィブリノーゲン、ミオシンなどに免疫的に強い交差反応性を示すことが記載されている。 【0127】 そこで、検体としてマイコプラズマ・ニューモニエの入っていない陰性測定試料と0.2μg/mLにて添加した陽性測定試料を準備し、これにケラチン、フィブリノーゲンをそれぞれ100μg/mLになるように添加して反応性を確認した。 【0128】 【表4】 [図:0001399400000010.jpg] 【0129】 本検出系において、100μg/mL濃度のケラチン、フィブリノーゲンは陰性判定であり、交差反応による偽陽性はなかった。また、本来の陽性反応を示すマイコプラズマ・ニューモニエ陽性試料(FH株)を測定し、ケラチンおよびフィブリノーゲンを添加して反応性を確認したが、陽性判定に阻害はかからず反応への影響はなかった。 【0130】 したがって、抗マイコプラズマ・ニューモニエ モノクローナル抗体#004、および#006は、ケラチン、フィブリノーゲンとの交差反応を示さず、陰性反応、陽性反応共に影響を受けないことが確認された。」 (2)実施可能要件の考え方 物の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明が、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を作り、使用することができる程度のものであることを要する。 また、方法の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明が、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できることを要する。 (3)本件特許発明1、2の実施可能要件の判断 上記本a.のとおり、本願明細書の段落【0049】~【0057】には、免疫原にマイコプラズマ・ニューモニエFH株菌体の可溶化物を用いて常法に従って、モノクローナル抗体#004を作製したことが記載され、上記本b.のとおり、実施例1では、当該モノクローナル抗体#004が、P30タンパク質における「PGMAPRP」に反応し、「PGMAPR」に反応しないことが確認され、上記本c.のとおり、実施例2では、当該モノクローナル抗体#004がケラチン及びフィブリノーゲンとの交差反応を示さないことが確認されている。 一方で、上記本a.のとおり、本願明細書の段落【0049】~【0057】には、免疫原にマイコプラズマ・ニューモニエFH株菌体の可溶化物を用いて常法に従って、モノクローナル抗体#006を作製したことが記載され、上記本b.のとおり、実施例1では、当該モノクローナル抗体#006が、P30タンパク質における「PHPGMAP」に反応することが確認され、上記本c.のとおり、実施例2では、当該モノクローナル抗体#006がケラチン及びフィブリノーゲンとの交差反応を示さないことが確認されている。 以上のことから、発明の詳細な説明には、本件特許発明1、2のモノクローナル抗体について、それぞれ少なくとも1種類は製造できることが記載されているといえる。 これに加えて、本件特許についての出願の審査過程において、令和 4年 4月20日付けの手続補足書として、株式会社バイオマトリックス研究所により作成された、「マイコプラズマに対するモノクローナル抗体のリスト」と題する甲第2号証と、それら抗体のうち、#004、#003、#006、及び#025についての「Mycoモノクローナル抗体反応性の確認」と題する甲第3号証が提出された。 (甲第2号証) [図:0001399400000011.jpg] (甲第3号証) [図:0001399400000012.jpg] 甲第2号証には、左側欄外に1~93までの抗体番号と右側から2つ目の欄に「一次選定(23種)として、#001~#023までの23種類の抗体、右側から1つ目の欄に「二次選定」として、#0024~#0029の6種類の抗体が記載されている。 これらの抗体の中で、甲第2号証の右側から4つ目の欄の標題部分を除く上から1~16行目には、「Mycoplasma pneumoniae」と記載されているから、#001~#010、#024~#029までの16種類は、少なくともマイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体であると認められる。 そして、甲第3号証によると、モノクローナル抗体#004、#003は、合成ペプチドPGMAPRPと反応し、合成ペプチドPGMAPRと反応しないこと(合成ペプチドPGMAPRP、合成ペプチドPGMAPRとの#004、#003のケラチンの反応性について(一番上の表))、ケラチンにもフィブリノーゲンにも反応しないこと(#004、#003のケラチン、フィブリノーゲンとの交差反応性について(上から2番目の表))、モノクローナル抗体#006、#025は、合成ペプチドPHPGMAPと反応し、合成ペプチドPGMAPRと反応しないこと(合成ペプチドPHPGMAP、合成ペプチドPGMAPRとの#006、#025の反応性について(上から3番目の表))、ケラチンにもフィブリノーゲンにも反応しないこと(#006、#025のケラチン、フィブリノーゲンとの交差反応性について(上から4番目の表))が示されている。 そして、これらの記載のうち、モノクローナル抗体#004が合成ペプチドPGMAPRPと反応し、合成ペプチドPGMAPRと反応せず、ケラチンにもフィブリノーゲンにも反応しないこと、モノクローナル抗体#006が合成ペプチドPHPGMAPと反応し、合成ペプチドPGMAPRと反応せず、ケラチンにもフィブリノーゲンにも反応しないことは、上記本b.(段落【0081】~【0088】、上記本c.(段落【0126】~【0130】)と整合するものであり、令和 4年 4月20日付けの意見書の記載を踏まえると、これら甲第2号証及び甲第3号証は、出願前に得られていたモノクローナル抗体#004や#006を含むモノクローナル抗体群の性質をマイコプラズマ・ニューモニエFH株のモノクローナル抗体の開発委託先である株式会社バイオマトリックス研究所が再解析したものであると認められ、これに疑義を抱くべき格別の根拠も異議申立人Bからは示されていない。 そうすると、本件特許発明1に係るモノクローナル抗体は、本件明細書に記載されたモノクローナル抗体#004だけでなく、モノクローナル抗体#003についても、本件特許の出願前に取得できており、本件特許発明2に係るモノクローナル抗体は、本件明細書に記載されたモノクローナル抗体#006だけでなく、モノクローナル抗体#025についても、本件特許の出願前に取得できていたと認められるから、当業者は過度の試行錯誤を要することなく、発明の詳細な説明に記載された方法で、本件特許発明1、2のモノクローナル抗体を作製して使用することができているというべきである。 (4)異議申立人Bの主張について 異議申立人Bは、モノクローナル抗体は偶然の産物であって再現性をもって得られるものではないことは、この分野の技術常識として認められていること、及び、本件特許の明細書の実施例では、本件特許の請求項1及び請求項2に包含されるモノクローナル抗体が各1個ずつしか得られておらず、それらを産生するハイブリドーマは寄託されておらず、さらにそれらのCDR配列も記載されていないことから、当業者が、本件特許の請求項1又は請求項2に係るモノクローナル抗体を容易に取得することはできない旨主張している。 しかしながら、上記(3)で述べたとおり、本件特許の請求項1又は請求項2に包含されるモノクローナル抗体は各1個ずつしか得られていないものではなく、たかだか16種類のクローンの中から、各2個ずつと、極めて高確率で本件特許の請求項1又は請求項2に包含されるモノクローナル抗体を得ることができるものと認められることから、ハイブリドーマの寄託が無く、モノクローナル抗体のCDRの特定が無くても、再現性をもって、本件特許の請求項1又は請求項2に包含されるモノクローナル抗体については、当業者は過度の試行錯誤を要することなく、発明の詳細な説明に記載された方法で製造できるものといえる。 よって、上記異議申立人Bの主張は、理由がない。 (5)本件特許発明3、4の実施可能要件の判断 本件特許発明3は、マイコプラズマ・ジェニタリウムに反応性を示さないことを更に特定したものである。モノクローナル抗体#004と#006がマイコプラズマ・ジェニタリウムに反応性を示さないことは、本件明細書の記載事項(段落【0117】~【0125】)に記載されているとおりである。 そして、上記モノクローナル抗体#003と#025は、それぞれモノクローナル抗体#004と#006と同一の結合特性を有するのであるから、マイコプラズマ・ジェニタリウムに反応性を示さないと合理的に推認することができ、本件特許発明3のモノクローナル抗体についても、本件特許の出願前に少なくとも4種類取得できていたものと認められるから、当業者は過度の試行錯誤を要することなく、発明の詳細な説明に記載された方法で、本件特許発明3のモノクローナル抗体を用いて、マイコプラズマ・ニューモニエを特異的に検出する検出方法を使用することができているというべきである。 本件特許発明4は、モノクローナル抗体が固相化される検出区域とを有するイムノクロマト法による免疫学的検出を行う検出装置と更に特定したものであるが、上述のとおり、本件特許発明4のモノクローナル抗体は、本件特許の出願前に少なくとも4種類取得できていたものと認められるから、当業者は過度の試行錯誤を要することなく、発明の詳細な説明に記載された方法で、本件特許発明4のモノクローナル抗体が固相化される検出区域を有するイムノクロマト法による免疫学的検出を行う検出装置を作り、使用することができているというべきである。 (6)小括 本件特許発明1ないし4について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすものであるから、異議申立人Bの申立理由B1(実施可能要件)は、理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、本件特許に係る特許異議申立てにおいて異議申立人A及び異議申立人Bが主張する申立理由は、いずれも理由がないから、請求項1ないし4に係る特許は、取り消すことができない。 ほかに、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700152

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