特許異議申立
2023-700074
熱可塑性樹脂組成物
- 審判番号
- 2023-700074
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-560980
- 登録番号
- 7106191
- 請求日
- 2023年01月24日
- 審決日
- 2024年06月06日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】渡部 崇
- 【異議申立人】石川 琢也
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 細井 龍史
- 審判官 藤井 勲
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7106191号発明「熱可塑性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7106191号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正すること、及び、本件特許の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の明細書について訂正することを認める。
特許第7106191号の請求項1ないし6、8ないし10に係る特許を維持する。
特許第7106191号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7106191号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、令和元年9月11日に出願(優先日 平成30年9月21日 韓国(KR)、令和元年9月6日 韓国(KR))された特願2020-560980号であって、令和4年7月15日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年1月24日に石川 琢也(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされたものである。
その後の経緯は以下の通り。
令和5年 4月28日付け 取消理由通知
同年 8月 4日 訂正請求及び意見書(特許権者)の提出
同年 同月21日 訂正請求があった旨の通知(申立人宛)
同年 9月12日 意見書(申立人)の提出
同年12月25日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和6年 4月 9日 訂正請求及び意見書(特許権者)の提出
同年 同月16日 訂正請求があった旨の通知(申立人宛)
同年 5月15日 意見書(申立人)の提出
なお、令和5年8月4日付けの訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年4月9日提出の訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)
の内容は、以下の(1)ないし(6)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、」と記載されているのを、
「前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、
前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量が55,000から95,000g/molであり、
前記第1共重合の共役ジエン系重合体は、前記第1共重合体の総重量に対して、55から65重量%で含まれ、
前記第1共重合体の芳香族ビニル系単量体は、前記第1共重合体の総重量に対して、25から35重量%で含まれ、
前記第1共重合体のビニルシアン系単量体は、 前記第1共重合体の総重量に対して、5から15重量%で含まれ、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。」と記載されているのを、「請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。」と記載されているのを、「請求項1~6及び8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。」と記載されているのを、「請求項1~6、8及び9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0013】に「グラフト率(%)=[(乾燥物の重量)-(共役ジエン系重合体の重量)]/[共役ジエン系重合体の重量]×100」と記載されているのを、「グラフト率(%)=[(第1共重合体粉末の重量)-(乾燥物の重量)-(共役ジエン系重合体の重量)]/[共役ジエン系重合体の重量]×l00」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1及び当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし10を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2ないし10は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1及び当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし10は一群の請求項であって、訂正事項1による訂正は、一群の請求項〔1-10〕について請求されたものである。
また、訂正事項6による明細書の訂正は「グラフト率」に関するものであり、訂正前の請求項1には「グラフト率」に関する規定がされていることから、訂正事項6は、訂正前の請求項1及び当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし10と関係し、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行うものであるから特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第4項に適合するものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、第1共重合体について、「前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量が55,000から95,000g/mol」(以下、「訂正事項1-1」という。)と、グラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量を所定の数値範囲に限定すると共に、「前記第1共重合の共役ジエン系重合体は、前記第1共重合体の総重量に対して、55から65重量%で含まれ、前記第1共重合体の芳香族ビニル系単量体は、前記第1共重合体の総重量に対して、25から35重量%で含まれ、前記第1共重合体のビニルシアン系単量体は、 前記第1共重合体の総重量に対して、5から15重量%で含まれ」(以下、「訂正事項1-2」という。)と、第1共重合体の各単量体の割合を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記訂正事項1-1については、願書に添付した明細書の段落【0014】及び訂正前の特許請求の範囲の請求項7に記載されており、上記訂正事項1-2については、願書に添付した明細書の段落【0033】、【0036】及び【0039】に記載されているから、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、請求項1を直接又は間接的に引用している請求項2ないし6、8ないし10も同様である。
(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2による請求項7についての訂正は、特許請求の範囲の請求項を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項2による訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3ないし5による訂正について
訂正事項3ないし5による請求項8ないし10についての訂正は、訂正前の請求項の記載が訂正前の請求項7を引用する記載であったものを、訂正事項2により訂正前の請求項7を削除したことに伴い、請求項7を引用しないように変更するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定する「特許請求の範囲の減縮」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項3ないし5による訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項6による訂正について
訂正事項6は、本件特許明細書の段落【0013】に「グラフト率(%)=[(乾燥物の重量)-(共役ジエン系重合体の重量)]/[共役ジエン系重合体の重量]×100」と記載されているのを、「グラフト率(%)=[(第1共重合体粉末の重量)-(乾燥物の重量)-(共役ジエン系重合体の重量)]/[共役ジエン系重合体の重量]×100」に訂正するものである。
当該訂正は、令和5年4月28日付けで通知した取消理由(後記第4 3(1)ア)において、「本件優先日時の技術常識(必要であれば、甲2の段落【0015】等を参照。)を参酌すると、グラフト率(%)とは、「ゴム質重合体(a)にグラフトした単量体成分の割合」を意味するため、上記式の分子は、「グラフトした共重合体」の重量であるべきである。そうすると、上記式の「乾燥物」は、「共役ジエン系重合体と当該重合体にグラフトした共重合体」の重量でなければならないが、上記の記載では「グラフトされていない部分」となっており、上記技術常識と整合していない。」との指摘に対して、訂正されたものである。
そして、本件特許優先日時の上記技術常識を参酌すると、グラフト率(%)とは、「ゴム質重合体(a)にグラフトした単量体成分の割合」を意味するため、上記式の分子は、「グラフトした共重合体」の重量であるべきである。そうすると、「(乾燥物の重量)」は、第1共重合体のグラフトされていない部分であるため、第1共重合体粉末中の「共役ジエン系重合体と当該重合体にグラフトした共重合体の重量」は「(第1共重合体粉末の重量)-(乾燥物の重量)」であることは、当業者には明らかである。
よって、訂正前の本件特許明細書の段落【0013】に記載された「グラフト率(%)」を表す「[(乾燥物の重量)-(共役ジエン系重合体の重量)]/[共役ジエン系重合体の重量]×100」は、本来、「[(第1共重合体粉末の重量)-(乾燥物の重量)-(共役ジエン系重合体の重量)]/[共役ジエン系重合体の重量]×l00」と定義すべきものと解される。
したがって、訂正事項6は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項6による訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正すること、及び、本件特許の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の明細書について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められるため、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし10を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第1共重合体;及び芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第2共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、
前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量が55,000から95,000g/molであり、
前記第1共重合の共役ジエン系重合体は、前記第1共重合体の総重量に対して、55から65重量%で含まれ、
前記第1共重合体の芳香族ビニル系単量体は、前記第1共重合体の総重量に対して、25から35重量%で含まれ、
前記第1共重合体のビニルシアン系単量体は、 前記第1共重合体の総重量に対して、5から15重量%で含まれ、
前第2共重合体は、重量平均分子量が85,000から115,000g/mo1であり、
残留オリゴマーを1.1重量%以下;
前記第1共重合体を10から30重量%;及び
前記第2共重合体を70から90重量%で含む、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記第2共重合体は、90,000g/molから115,000g/mo1である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
残留オリゴマーを1重量%以下で含む、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
流動指数が220℃、10kgの条件下で30g/10分以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
流動指数が220℃、10kgの条件下で30から50g/10分である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記第1共重合体は、グラフト率が35から45%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記共役ジエン系重合体は、平均粒径が0.05から0.5μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記第1共重合体は、残留オリゴマーを1.5重量%以下で含む、請求項1~6及び8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記第2共重合体は、残留オリゴマーを1.6重量%以下で含む、請求項1~6、8及び9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法及び取消理由の概要
1 申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1-1(甲第1号証を主引用文献とする新規性)
本件特許の請求項1ないし3、6ないし10係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由1-2(甲第2号証を主引用文献とする新規性)
本件特許の請求項1ないし5、8及び9係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由2-1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、6ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という 。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由2-2(甲第2号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由2-3(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
(1)申立書に添付された証拠
甲第1号証:国際公開第2014/192766号
甲第2号証:特開2002-206043号公報
甲第3号証:特表2006-528722号公報
甲第4号証:申立人が作成した甲第1号証に記載された樹脂等の重量平均分子量(Mw)に係る実験成績証明書
甲第5号証:申立人が作成した甲第2号証に記載された樹脂等の重量平均分子量(Mw)に係る実験成績証明書
(2)令和5年9月12日付け意見書(申立人)に添付された証拠
甲第6号証:POLYMER HANDBOOK, J.BRANDRUP, Wiley-Interscience, 第4版,内表紙,奥付及びpp. VII/5, VII/27~VII/29
以下、順に、「甲第1号証」等を「甲1」等という。
(3)令和6年4月9日付けの意見書(特許権者)に添付された証拠
参考資料1:Acrylonitrile-butadiene-styrene(ABS) a review, J.D,MOORE, COMPOSITES. MAY 1973
参考資料2:POLYMER HANDBOOK, J.BRANDRUP, Wiley-Interscience, 第4版, pp. VII/2~ VII/5, VII/27、VII/28(上記甲6と同じ文献)
以下、順に、「参考資料1」等を「参1」等という。
3 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
当審が令和5年12月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由2(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし6、8ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし6、8ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
申立理由1-1(甲1を主引用文献とする新規性)、申立理由2-1(甲1を主引用文献とする進歩性)は、取消理由2(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)と証拠を同じくするものであるから、当該理由と併せて検討する。
(1)証拠等の記載
ア 甲1
甲1に記載された発明の認定
甲1の実施例1、実施例2、比較例1、比較例2のゴム強化熱可塑性樹脂組成物に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「下記グラフト共重合体(A)25質量部、下記共重合体(B)75質量部に対して、着色剤としてSumiplast Black HB(住友化学株式会社製)を1.0質量部混合してなる、総揮発性物質の含有量0.29質量%のゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
グラフト共重合体(A):耐圧容器に、1,3-ブタジエン93質量部、スチレン7質量部、n-ドデシルメルカプタン0.5質量部、過硫酸カリウム0.24質量部、ロジン酸ナトリウム1.5質量部、水酸化ナトリウム0.1質量部及び脱イオン水150質量部を仕込み、70℃で15時間反応させた後、冷却して反応を終了させることで、ゴム状重合体(a-1)を得、撹拌槽にゴム状重合体(a-1)270部、10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液0.09質量部を添加して10分間撹拌した後、5%リン酸水溶液0.8質量部を10分間に亘り添加し、その後、10%水酸化カリウム水溶液1質量部を添加することで、ゴム状重合体(a-2)(重量平均粒子径は0.25μm)を得、窒素置換した反応器にゴム状重合体(a-2)48質量部(固形分)、水140質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1質量部、硫酸第1鉄0.001質量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3質量部を入れ、60℃に加熱後、スチレン39質量部、アクリロニトリル13質量部、t-ドデシルメルカプタン0.6質量部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2質量部からなる混合物とオレイン酸カリウム1.5質量部及び水15質量部からなる混合物を4時間に亘り連続的に添加し、添加終了後さらに60℃で2時間重合し、その後、塩析・脱水・乾燥することにより得られたグラフト共重合体(A)(グラフト率40%、アセトン可溶分の還元粘度0.39dl/g、総揮発性物質の含有量0.52%)
共重合体(B)であるAS樹脂(B-1): 窒素置換した反応器にスチレン66.2質量部、アクリロニトリル22.1質量部、エチルベンゼン11.7質量部、t-ドデシルメルカプタン0.20質量部、パーブチルパーオキサイド0.1質量部からなる単量体混合物を連続的に供給して、95℃で重合を行ない、反応器より重合液を予熱器と真空槽より成る分離回収工程に導き、回収、押出して得られた共重合体AS樹脂(B-1)(還元粘度0.66dl/g、総揮発性物質の含有量0.46%)」(以下、「甲1実施例1発明」という。)
「下記グラフト共重合体(A)25質量部、下記共重合体(B)75質量部に対して、着色剤としてSumiplast Black HB(住友化学株式会社製)を1.0質量部混合してなる、総揮発性物質の含有量0.32質量%のゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
グラフト共重合体(A):耐圧容器に、1,3-ブタジエン93質量部、スチレン7質量部、n-ドデシルメルカプタン0.5質量部、過硫酸カリウム0.24質量部、ロジン酸ナトリウム1.5質量部、水酸化ナトリウム0.1質量部及び脱イオン水150質量部を仕込み、70℃で15時間反応させた後、冷却して反応を終了させることで、ゴム状重合体(a-1)を得、撹拌槽にゴム状重合体(a-1)270質量部、10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液0.09質量部を添加して10分間撹拌した後、5%リン酸水溶液0.8質量部を10分間に亘り添加し、その後、10%水酸化カリウム水溶液1質量部を添加することで、ゴム状重合体(a-2)(重量平均粒子径は0.25μm)を得、窒素置換した反応器にゴム状重合体(a-2)48質量部(固形分)、水140質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1質量部、硫酸第1鉄0.001質量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3質量部を入れ、60℃に加熱後、スチレン39質量部、アクリロニトリル13質量部、t-ドデシルメルカプタン0.6質量部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2質量部からなる混合物とオレイン酸カリウム1.5質量部及び水15質量部からなる混合物を4時間に亘り連続的に添加し、添加終了後さらに60℃で2時間重合し、その後、塩析・脱水・乾燥することにより得られたグラフト共重合体(A)(グラフト率40%、アセトン可溶分の還元粘度0.39dl/g、総揮発性物質の含有量0.52%)
共重合体(B)AS樹脂(B-2):窒素置換した反応器にスチレン66.2質量部、アクリロニトリル22.1質量部、エチルベンゼン11.7質量部、t-ドデシルメルカプタン0.20質量部、パーブチルパーオキサイド0.1質量部からなる単量体混合物を連続的に供給して、95℃で重合を行ない、反応器より重合液を予熱器と真空槽より成る分離回収工程に導き、回収、押出して得られた共重合体AS樹脂(B-2)(還元粘度0.50dl/g、総揮発性物質の含有量0.51%)」(「以下、甲1実施例2発明」という。)
「下記グラフト共重合体(A)25質量部、下記共重合体(B)75質量部に対して、着色剤としてSumiplast Black HB(住友化学株式会社製)を1.0質量部混合してなる、総揮発性物質の含有量0.29質量%のゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
グラフト共重合体(A):耐圧容器に、1,3-ブタジエン93質量部、スチレン7質量部、n-ドデシルメルカプタン0.5質量部、過硫酸カリウム0.24質量部、ロジン酸ナトリウム1.5質量部、水酸化ナトリウム0.1質量部及び脱イオン水150質量部を仕込み、70℃で15時間反応させた後、冷却して反応を終了させることで、
ゴム状重合体(a-1)を得、撹拌槽にゴム状重合体(a-1)270部、10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液0.09質量部を添加して10分間撹拌した後、5%リン酸水溶液0.8質量部を10分間に亘り添加し、その後、10%水酸化カリウム水溶液1質量部を添加することで、ゴム状重合体(a-2)(重量平均粒子径は0.25μm)を得、窒素置換した反応器にゴム状重合体(a-2)48質量部(固形分)、水140質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1質量部、硫酸第1鉄0.001質量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3質量部を入れ、60℃に加熱後、スチレン39質量部、アクリロニトリル13質量部、t-ドデシルメルカプタン0.6質量部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2質量部からなる混合物とオレイン酸カリウム1.5質量部及び水15質量部からなる混合物を4時間に亘り連続的に添加し、添加終了後さらに60℃で2時間重合し、その後、塩析・脱水・乾燥することにより得られたグラフト共重合体(A)(グラフト率40%、アセトン可溶分の還元粘度0.39dl/g、総揮発性物質の含有量0.52%)
共重合体(B)であるAS樹脂(B-4):窒素置換した反応器にスチレン66.2質量部、アクリロニトリル22.1質量部、エチルベンゼン11.7質量部、t-ドデシルメルカプタン0.20質量部からなる単量体混合物を連続的に供給して、140℃で重合を行ない、反応器より重合液を予熱器と真空槽より成る分離回収工程に導き、回収、押出して得られた共重合体AS樹脂(B-4)(還元粘度0.66dl/g、総揮発性物質の含有量1.25%)」(以下、「甲1比較例1発明」という。)
「下記グラフト共重合体(A)25質量部、下記共重合体(B)75質量部に対して、着色剤としてSumiplast Black HB(住友化学株式会社製)を1.0質量部混合してなる、総揮発性物質の含有量0.32質量%のゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
グラフト共重合体(A):耐圧容器に、1,3-ブタジエン93質量部、スチレン7質量部、n-ドデシルメルカプタン0.5質量部、過硫酸カリウム0.24質量部、ロジン酸ナトリウム1.5質量部、水酸化ナトリウム0.1質量部及び脱イオン水150質量部を仕込み、70℃で15時間反応させた後、冷却して反応を終了させることで、ゴム状重合体(a-1)を得、撹拌槽にゴム状重合体(a-1)270質量部、10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液0.09質量部を添加して10分間撹拌した後、5%リン酸水溶液0.8質量部を10分間に亘り添加し、その後、10%水酸化カリウム水溶液1質量部を添加することで、ゴム状重合体(a-2)(重量平均粒子径は0.25μm)を得、窒素置換した反応器にゴム状重合体(a-2)48質量部(固形分)、水140質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1質量部、硫酸第1鉄0.001質量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3質量部を入れ、60℃に加熱後、スチレン39質量部、アクリロニトリル13質量部、t-ドデシルメルカプタン0.6質量部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2質量部からなる混合物とオレイン酸カリウム1.5質量部及び水15質量部からなる混合物を4時間に亘り連続的に添加し、添加終了後さらに60℃で2時間重合し、その後、塩析・脱水・乾燥することにより得られたグラフト共重合体(A)(グラフト率40%、アセトン可溶分の還元粘度0.39dl/g、総揮発性物質の含有量0.52%)
共重合体(B)AS樹脂(B-5):窒素置換した反応器にスチレン66.2質量部、アクリロニトリル22.1質量部、エチルベンゼン11.7質量部、t-ドデシルメルカプタン0.40質量部からなる単量体混合物を連続的に供給して、140℃で重合を行ない、反応器より重合液を予熱器と真空槽より成る分離回収工程に導き、回収、押出して得られた共重合体AS樹脂(B-5)(還元粘度0.50dl/g、総揮発性物質の含有量1.46%)」(「以下、甲1比較例2発明」という。)
イ 甲4
甲4は、甲1の段落[OO46]に記載されたAS樹脂(B-1)(還元粘度0.66dl/g)、段落[OO47]に記載されたAS樹脂 (B-2)(還元粘度0.51dl/g)、および段落[OO44]に記載されたグラフト共重合体(A)のアセトン可溶分(還元粘度0.39dl/g)のそれぞれが有する重量平均分子量(Mw)を求めた実験成績証明書であり、以下の事項が記載されている。
[図:0001414145000001.jpg]
[図:0001414145000002.jpg]
[図:0001414145000003.jpg]
[図:0001414145000004.jpg]
ウ 参2
参2には、以下の事項が記載されている。なお、当審の翻訳のみ示す。
「A イントロダクション
1.粘度-分子量との関係性
溶液における限界粘度数[η]は、長く極限粘度と呼ばれるものである。
・・・特定の一連のポリマー同族体内で、[η]は分子量Mが増加するにつれて増加します。したがって、それはMの尺度です。
セクションCは、様々な溶媒、様々な温度における高分子の極限粘度と分子量との関係性を示す。表にはMARK-Houwink-Sakurada方程式として知られる [η]=KMa(A2)の定数が含まれます。
・・・
通常の良溶媒では、得られる定数 Kとaは、Mのかなり限られた範囲内でのみ有効です(3,4)。
したがって、示された Mの範囲外では、表にまとめられた関係が誤っている可能性が非常に高くなります。」(VII/2ページ左欄)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)甲1実施例2発明との対比・判断
a 対比
本件特許発明1と甲1実施例2発明とを対比する。
(a)甲1実施例2発明の「ゴム状重合体(a-2)」は、モノマーとして、「1,3-ブタジエン」を用いて重合したものであるから、本件特許発明1の「共役ジエン系重合体」に相当する。
また、甲1実施例2発明の「グラフト共重合体(A)」は、「ゴム状重合体(a-2)」の存在下に、モノマーとして、芳香族ビニル系単量体である「スチレン」とシアン化ビニル単量体である「アクリロニトリル」のみを用いて重合したものであるから、本件特許発明1の「共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第1共重合体」に相当する。
(b)甲1実施例2発明の「共重合体(B)であるAS樹脂(B-2)」は、モノマーとして、芳香族ビニル系単量体である「スチレン」とシアン化ビニル単量体である「アクリロニトリル」のみを用いて重合したものであるから、本件特許発明1の「芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第2共重合体」に相当する。
(c)甲1実施例2発明の「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。
そして、甲1実施例2発明の「熱可塑性樹脂組成物」は、グラフト共重合体(A)を25重量部、共重合体(B)であるAS樹脂(B-2)を75重量部含むものであり、両者の和を100重量%とすると、グラフト共重合体(A)が25重量%、共重合体(B)であるAS樹脂(B-2)が75重量%となり、本件特許発明1の「前記第1共重合体を10から30重量%;及び前記第2共重合体を70から90重量%」範囲と重複一致する。
(d)甲1実施例2発明の「グラフト共重合体(A)」の「グラフト率40%」は、本件特許発明1の「第1共重合体」の「グラフト率が32から50%」である範囲と重複一致する。
よって、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第1共重合体;及び芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第2共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、
前記第1共重合体を10から30重量%;及び
前記第2共重合体を70から90重量%で含む、熱可塑性樹脂組成物。
<相違点1-2-1-1>
前記第2共重合体の重量平均分子量が、本件特許発明1は、「85,000から115,000g/mol」であるのに対し、甲1実施例2発明は不明である点
<相違点1-2-1-2>
残留オリゴマーの含有量が、本件特許発明1は、「1.1重量%以下」であるのに対し、甲1実施例2発明は不明である点
<相違点1-2-1-3>
前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量が、本件特許発明1は、「55,000から95,000g/mol」であるのに対し、甲1実施例2発明は不明である点
<相違点1-2-1-4>
前記第1共重合について、本件特許発明1は「前記第1共重合の共役ジエン系重合体は、前記第1共重合体の総重量に対して、55から65重量%で含まれ、前記第1共重合体の芳香族ビニル系単量体は、前記第1共重合体の総重量に対して、25から35重量%で含まれ、前記第1共重合体のビニルシアン系単量体は、 前記第1共重合体の総重量に対して、5から15重量%で含まれ」と特定されているのに対し、甲1実施例2発明は、単量体の組成割合がゴム状重合体(a-2)48質量部(固形分)、スチレン39質量部、アクリロニトリル13質量部である点
b 新規性についての判断
本件特許発明1と甲1実施例2発明とは、「グラフト共重合体(A)」における単量体の組成割合が異なるのであるから、<相違点1-2-1-4>は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明1は、甲1実施例2発明ではなく、新規性を有するものである。
c 進歩性についての判断
事案に鑑み、<相違点1-2-1-3>及び<相違点1-2-1-4>を併せて検討する。
甲1には、「グラフト共重合体(A)」における単量体の組成割合に関する記載はなく、実施例の特定の組成割合の開示にとどまるものである。
このため、甲1実施例2発明における単量体の組成割合を、他の組成割合に変更する動機付けはない。
訂正後の本件特許明細書の段落【0019】によると、本件特許発明1の「前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分」の「重量平均分子量」は、「アセトン可溶分」から算出されるものである。そうすると、甲1実施例2発明の「グラフト共重合体(A)」の「アセトン可溶分」から算出される「重量平均分子量」は、本件特許発明1の「前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分」の「重量平均分子量」に相当する。本件特許明細書及び甲1実施例2発明の「アセトン可溶分」の樹脂は、結局のところ、「アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)」そのものである。
ところで、参2には、MARK-Houwink-Sakurada方程式として知られる
[η]=KMa(A2)の方程式が記載されており、極限粘度[η]と分子量Mとの関係が示されている。そして、参2の表1によると、AS樹脂の単量体の組成割合により、K値と係数aの値が異なることが示されていることから、AS樹脂の単量体の組成割合が変化すると、AS樹脂の分子量と極限粘度との相関は変化するものと認められる。
そうすると、甲1実施例2発明における「グラフト共重合体(A)」のグラフトさせる単量体の組成割合が相違する場合においてまで、甲4に示される検量線を用いて重量平均分子量を予測する合理性はないし、また、単量体の組成割合を仮に変更した場合において、変更後の重量平均分子量が、変更前と同じ重量平均分子量であるとすべき特段の理由はない。
また、甲1には、「グラフト共重合体(A)」のグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量をどのような範囲とするかについて何ら記載も示唆もされていないから、甲1実施例2発明における「グラフト共重合体(A)」のグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量を「55,000から95,000g/mol」の範囲とする動機付けはない。
よって、甲1実施例2発明において、<相違点1-2-1-3>及び<相違点1-2-1-4>に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲1実施例2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)甲1実施例1発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例2発明との対比・判断
本件特許発明1と甲1実施例1発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例2発明とを併せて対比すると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第1共重合体;及び芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第2共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、
前記第1共重合体を10から30重量%;及び
前記第2共重合体を70から90重量%で含む、熱可塑性樹脂組成物。
<相違点1-1-1-1>
前記第2共重合体の重量平均分子量が、本件特許発明1は、「85,000から115,000g/mol」であるのに対し、甲1実施例1発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例2発明は不明である点
<相違点1-1-1-2>
残留オリゴマーの含有量が、本件特許発明1は、「1.1重量%以下」であるのに対し、甲1実施例1発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例2発明は不明である点
<相違点1-1-1-3>
前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量が、本件特許発明1は、「55,000から95,000g/mol」であるのに対し、甲1実施例1発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例2発明は不明である点
<相違点1-1-1-4>
前記第1共重合について、本件特許発明1は「前記第1共重合の共役ジエン系重合体は、前記第1共重合体の総重量に対して、55から65重量%で含まれ、前記第1共重合体の芳香族ビニル系単量体は、前記第1共重合体の総重量に対して、25から35重量%で含まれ、前記第1共重合体のビニルシアン系単量体は、 前記第1共重合体の総重量に対して、5から15重量%で含まれ」と特定されているのに対し、甲1実施例1発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例2発明は、単量体の組成割合がゴム状重合体(a-2)48質量部(固形分)、スチレン39質量部、アクリロニトリル13質量部である点
そこで、上記相違点について検討する。
上記<相違点1-1-1-3>及び<相違点1-1-1-4>は、上記(ア)aの<相違点1-2-1-3>及び<相違点1-2-1-4>と実質的に同じである。
よって、(ア)bで説示したのと同様、上記<相違点1-1-1-4>は、実質的な相違点であり、本件特許発明1は、甲1実施例1発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例2発明ではない。
また、(ア)cで説示したのと同様、甲1実施例1発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例2発明において、<相違点1-2-1-3>及び<相違点1-2-1-4>に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲1実施例1発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)小括
よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではないし、及び甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2ないし6、8ないし10について
本件特許発明2ないし6、8ないし10は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記(ア)で説示したのと同様の理由により、本件特許発明2ないし6、8ないし10は、甲1に記載された発明ではないし、及び甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和6年5月15日付けの意見書において、以下の主張をしている。
「さらに、訂正後の本件特許発明1では、
(i)「前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量」に加え、
(ii)「前記第1共重合の共役ジエン系重合体は、前記第1共重合体の総重量に対して、55から65重量%で含まれ(ること)」、
(iii)「前記第1共重合体の芳香族ビニル系単量体は、前記第1共重合体の総重量に対して、25から35重量%で含まれ(ること)」、
(iv)「前記第1共重合体のビニルシアン系単量体は、 前記第1共重合体の総重量に対して、5から15重量%で含まれ(ること)」
の発明特定事項による限定が行われています。
しかし、上記(ii)~(iv)について、特許権者は、これらの発明特定事項を通じて本件特許発明1が格別な効果を有していることやこれら含有量の範囲についての臨界的意義について何ら主張しておりません。
このことから、訂正後の本件特許発明1における上記(ii)~(iv)の各含有量の設定は設計事項に過ぎず、訂正後の本件特許発明1は、甲第1号証に記載の発明に基いて当業者が容易に想到し得るものです。」
そこで、上記主張について検討するに、上記(2)ア(ア)cで説示したとおり、甲1には、「グラフト共重合体(A)」における単量体の組成割合に関する記載はなく、実施例の特定の組成割合の開示にとどまるものである。
そうすると、甲1実施例2発明における単量体の組成割合を、その臨界的意義の有無にかかわらず、他の組成割合に変更する動機付けはない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、本件特許発明1ないし6、8ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし6、8ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし6、8ないし10に係る特許は、取消理由2、申立理由1-1、申立理由2-1によっては取り消すことはできない。
2 取消理由通知(決定の予告)の取消理由に採用しなかった申立理由について
(1)申立理由1-2(甲第2号証を主引用文献とする新規性)、申立理由2-2(甲第2号証を主引用文献とする進歩性)について
ア 証拠等の記載
(ア)甲2
甲2に記載された発明の認定
甲2の実施例6の熱可塑性樹脂組成物に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「下記グラフト共重合体組成物(A1-2)25重量部、下記共重合体(A2-2)75重量部、下記リン系難燃剤(B-2)7重量部からなり、オリゴマー成分量0.75重量%、流動性43g/10分(JIS K7210に準じて測定した。測定温度は220℃、荷重は98N)の熱可塑性樹脂組成物。
グラフト共重合体組成物(A1-2): ゴム質重合体(a)(平均粒径330nm、ゲル分率85%のポリブタジエンラテックス)50重量部、単量体成分としてスチレン38重量部およびアクリロニトリル12重量部、乳化剤としてロジン酸カリウムを用いて、乳化重合を行いラテックスを得、凝固剤として硫酸マグネシウムを用いてグラフト共重合体を析出させ、遠心分離機を用いて回収し、充分水洗と乾燥を行って得られたもの(グラフト率50%、オリゴマー含有量 検出限界(0.05%)以下)。
重合体(A2-2):スチレン75重量部およびアクリロニトリル25重量部、重合触媒としてターシャリブチルパーオキサイドを用いて、重合温度110℃で重合を行い、重合終了後、重合溶液は、ベント付き押出機を用いて、溶媒の除去と共重合体のペレット化を行い得られたもの(極限粘度〔η〕0.51dl/g)。
リン系難燃剤(B-2):下記一般式(I)のR1~R4が2,6-キシレニル基、Xがレゾルシノール残基、nが1.0の縮合リン酸エステル
【化1】
[図:0001414145000005.jpg]
」(以下、「甲2実施例6発明」という。)
(イ)甲5
甲5は、甲2の段落【0051】の【表1】に記載された共重合体(A2-2)(極限粘度0.51dl/g)の有する重量平均分子量(Mw)を求めた実験成績証明書であり、以下の事項が記載されている。
[図:0001414145000006.jpg]
[図:0001414145000007.jpg]
[図:0001414145000008.jpg]
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と甲2実施例6発明とを対比する。
(a)甲2実施例6発明のゴム質重合体(a)は、ポリブタジエンラテックスであるから、本件特許発明1の「共役ジエン系重合体」に相当する。
また、甲2実施例6発明の「グラフト共重合体組成物(A1-2)」は、ゴム質重合体(a)、単量体成分として、芳香族ビニル系単量体である「スチレン」とシアン化ビニル単量体である「アクリロニトリル」のみを用いて乳化重合を行いラテックスを得、凝固剤として硫酸マグネシウムを用いて「グラフト共重合体」を析出させ、遠心分離機を用いて回収し、充分水洗と乾燥を行って得られたも のであるから、本件特許発明1の「共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第1共重合体」に相当する。
(b)甲2実施例6発明の「共重合体(A2-2)」は、単量体成分として、芳香族ビニル系単量体である「スチレン」とシアン化ビニル単量体である「アクリロニトリル」のみを用いて重合したものであるから、本件特許発明1の「芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第2共重合体」に相当する。
(c)甲2実施例6発明の「熱可塑性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。
そして、甲2実施例6発明の「熱可塑性樹脂組成物」は、グラフト共重合体組成物(A1-2)25重量部、共重合体(A2-2)75重量部含むものであり、両者の和を100重量%とすると、グラフト共重合体(A)が25重量%、共重合体(B)であるAS樹脂(B-2)が75重量%となり、本件特許発明1の「前記第1共重合体を10から30重量%;及び前記第2共重合体を70から90重量%」範囲と重複一致する。
(d)甲2実施例6発明の「グラフト共重合体組成物(A1-2)」の「グラフト率50%」は、本件特許発明1の「第1共重合体」の「グラフト率が32から50%」である範囲と重複一致する。
(e)「残留オリゴマー」について、本件特許明細書には、「本発明において、残留オリゴマーは、ガスクロマトグラフィー(GC)で測定することができる。詳細には、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物2gをクロロホルム10mlに溶解させ、メタノール30mlで沈澱させた後、上澄液を取ってろ過(0.2μmディスクシリンジフィルター(disc syringe filter))してから、ALS-GC/FID(Automatic Liquid Sampler-Gas Chromatography/Flame Ionization Detector)で分析して測定することができる。」(段落【0011】)と記載されている。
そして、甲2には、「(3)オリゴマー成分含有量 熱可塑性樹脂組成物をメチルエチルケトンに溶解させた後、n-ペンタンでポリマー分を再沈し、その上澄み液をガスクロマトグラフィーにて分析し、ダイマー、トリマーの合計から、オリゴマー成分含有量(%)を定量した。」(段落【0044】)と記載されている。
両者は、同様の測定方法により含有量を測定しているといえるから、甲2実施例6発明の「オリゴマー」は、本件特許発明1の「残留オリゴマー」に相当し、甲2実施例6発明の「オリゴマー成分量0.75重量%」は、本件特許発明1の「残留オリゴマーの含有量1.1重量%以下」である範囲と重複一致する。
よって、両者は、以下の点で一致、以下の点で相違する。
<一致点>
共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第1共重合体;及び芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第2共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
残留オリゴマーの含有量を1.1重量%以下;
前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、
前記第1共重合体を10から30重量%;及び
前記第2共重合体を70から90重量%で含む、熱可塑性樹脂組成物。
<相違点2-6-1>
前記第2共重合体の重量平均分子量が、本件特許発明1は、「85,000から115,000g/mol」であるのに対し、甲2実施例6発明はその点不明である点
<相違点2-6-2>
前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量が、本件特許発明1は、「55,000から95,000g/mol」であるのに対し、甲2実施例6発明はその点不明である点
<相違点2-6-3>
前記第1共重合について、本件特許発明1は「前記第1共重合の共役ジエン系重合体は、前記第1共重合体の総重量に対して、55から65重量%で含まれ、前記第1共重合体の芳香族ビニル系単量体は、前記第1共重合体の総重量に対して、25から35重量%で含まれ、前記第1共重合体のビニルシアン系単量体は、 前記第1共重合体の総重量に対して、5から15重量%で含まれ」と特定されているのに対し、甲2実施例6発明は、単量体の組成割合がゴム質重合体(a)50重量部、単量体成分としてスチレン38重量部及びアクリロニトリル12重量部である点
b 新規性についての判断
本件特許発明1と甲2実施例6発明とは、「グラフト共重合体(A)」における単量体の組成割合が異なるのであるから、<相違点2-6-3>は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明1は、甲2実施例6発明ではなく、新規性を有するものである。
c 進歩性についての判断
事案に鑑み、<相違点2-6-2>から検討する。
甲2には、「グラフト共重合体組成物(A1-2)」のグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量に関する何らの情報もない。そうすると、甲2実施例6発明における「グラフト共重合体組成物(A1-2)」のグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量を特定の範囲とする動機付けはない。
よって、甲2実施例6発明において、<相違点2-6-2>に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲2実施例6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
d 小括
よって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではないし、及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件特許発明2ないし5、8及び9について
本件特許発明2ないし5、8及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記(ア)で説示したのと同様の理由により、本件特許発明2ないし5、8及び9は、甲2に記載された発明ではないし、及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1ないし5、8及び9は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし5、8及び9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る特許は、申立理由1-2及び申立理由2-2によっては取り消すことはできない。
(2)申立理由2-3(甲3を主引用文献とする進歩性)について
ア 証拠等の記載
甲3に記載された発明の認定
甲3の実施例6のゴム強化熱可塑性樹脂組成物に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「下記ゴム強化熱可塑性樹脂30重量部とスチレン系樹脂1(スチレンとアクリロニトリルの重量比が72:28で溶液重合法で製造した、重量平均分子量が110000であるスチレン-アクリロニトリル共重合体)70重量部とからなるゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
ゴム強化熱可塑性樹脂:加熱装置を取り付けた重合反応器内に、平均粒子直径が0.095μmであり、ゲル含量が83重量%であるゴムラテックス20重量部、平均粒子直径が0.31μmであり、ゲル含量が75重量%であるゴムラテックス35重量部、脱イオン水120重量部、アクリロニトリル3.0重量部、スチレン12重量部、ロジン酸カリウム0.5重量部、及び3級ドデシルメルカプタン0.1重量部を投入した後、反応器を昇温し、反応器内部の温度が45℃になったら、tert‐ブチルヒドロペルオキシド0.1重量部と、デキストロースとピロリン酸ナトリウムと硫酸第1鉄が50:40:1の混合比で構成された活性化剤0.25重量部を投入して重合反応を開始し、60分間で反応器温度を70℃まで昇温し(a段階)、別途の混合装置において、アクリロニトリル6重量部、スチレン24重量部、脱イオン水25重量部、及びロジン酸カリウム1.2重量部を混合して乳化液を作り、この単量体乳化液を約2時間で反応器内に連続的に投入し、これと別途に、tert‐ブチルヒドロペルオキシド0.15重量部を約2時間で反応器内に連続的に投入し、この時の重合温度は70℃を保持し(b段階)、単量体乳化液 の投入が終わった後、デキストロースとピロリン酸ナトリウムと硫酸第1鉄が50:40:1の混合比で構成された活性化剤0.12重量部、tert‐ブチルヒドロペルオキシド0.05重量部を一括して反応器に投入し、温度を80℃まで1時間にかけて昇温した後に反応を終了し(c段階)、反応完了された重合ラテックスにIR-1076(ヒンダードフェノール系酸化防止剤;Ciba製)0.7重量部を投入した後、10%硫酸水溶液で凝集させ、洗浄及び乾燥して得られた粉末状態のゴム強化熱可塑性樹脂(グラフト率48%)」(以下、「甲3実施例6発明」という。)
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と甲3実施例6発明とを対比する。
(a)甲3実施例6発明の「ゴムラテックス」は、甲3の段落【0003】より、共役ジエンを乳化重合により製造されたものであるため、本件特許発明1の「共役ジエン系重合体」に相当する。
また、甲3実施例6発明の「ゴム強化熱可塑性樹脂」は、「ゴムラテックス」の存在下に、モノマーとして、芳香族ビニル系単量体である「スチレン」とシアン化ビニル単量体である「アクリロニトリル」のみを用いて重合したものであるから、本件特許発明1の「共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第1共重合体」に相当する。そして、甲3実施例6発明の「ゴム強化熱可塑性樹脂」のグラフト率は48%であるから、本件特許発明1の「前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%」と重複一致する。
(b)甲3実施例6発明の「スチレン系樹脂1(スチレンとアクリロニトリルの重量比が72:28で溶液重合法で製造した、重量平均分子量が110000であるスチレン-アクリロニトリル共重合体)」は、モノマーとして、芳香族ビニル系単量体である「スチレン」とシアン化ビニル単量体である「アクリロニトリル」のみを用いて重合したものであるから、本件特許発明1の「芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第2共重合体」に相当する。
そして、甲3実施例6発明の「スチレン系樹脂1」の重量平均分子量は、「110000」であるから、 本件特許発明1の「前記第2共重合体は、重量平均分子量が85,000から115,000g/mol」の範囲と重複一致する。
(c)甲3実施例6発明の「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。そして、甲3実施例6発明の「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物」は、下記ゴム強化熱可塑性樹脂30重量部とスチレン系樹脂1 70重量部とからなるものであり、両者の和を100重量%とすると、それぞれ30重量%、70重量%となり、本件特許発明1の「前記第1共重合体を10から30重量%;及び前記第2共重合体を70から90重量%」範囲と重複一致する。
そうすると、両者は、以下の点で一致、以下の点で相違する。
<一致点>
共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第1共重合体;及び芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位のみからなる第2共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、
前記第2共重合体は、重量平均分子量が85,000から115,000g/molであり、
前記第1共重合体を10から30重量%;及び
前記第2共重合体を70から90重量%で含む、熱可塑性樹脂組成物。
<相違点3-6-1>
残留オリゴマーの含有量が、本件特許発明1は、「1.1重量%以下」であるのに対し、甲3実施例6発明は不明である点
<相違点3-6-2>
前記第1共重合体の共役ジエン系重合体にグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量が、本件特許発明1は、「55,000から95,000g/mol」であるのに対し、甲3実施例6発明は不明である点
<相違点3-6-3>
前記第1共重合について、本件特許発明1は「前記第1共重合の共役ジエン系重合体は、前記第1共重合体の総重量に対して、55から65重量%で含まれ、前記第1共重合体の芳香族ビニル系単量体は、前記第1共重合体の総重量に対して、25から35重量%で含まれ、前記第1共重合体のビニルシアン系単量体は、 前記第1共重合体の総重量に対して、5から15重量%で含まれ」と特定されているのに対し、甲3実施例6発明は、単量体の組成割合がゴム質重合体(a)55重量部(=20+35)、単量体成分としてスチレン36重量部(=12+24)及びアクリロニトリル9重量部(=3+6)である点
b 進歩性についての判断
事案に鑑み、<相違点3-6-2>から検討する。
甲3には、「ゴム強化熱可塑性樹脂」のグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量に関する何らの情報もない。そうすると、甲3実施例6発明における「ゴム強化熱可塑性樹脂」のグラフト重合された共重合体部分の重量平均分子量を特定の範囲とする動機付けはない。
よって、甲3実施例6発明において、<相違点3-6-2>に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲3実施例6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
よって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件特許発明2ないし6、8ないし10について
本件特許発明2ないし6、8ないし10は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記(ア)で説示したのと同様の理由により、本件特許発明2ないし6、8ないし10は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)まとめ
したがって、本件特許発明1ないし6、8ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし6、8ないし10に係る特許は、申立理由2-3によっては取り消すことはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし6、8ないし10に係る特許は、当審が通知した取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1ないし6、8ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700074