特許異議申立
2023-700072
ケラチン物質を洗浄するための組成物
- 審判番号
- 2023-700072
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-209028
- 登録番号
- 7106261
- 請求日
- 2023年01月25日
- 審決日
- 2023年04月21日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ロレアル
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【異議申立人】椛澤 貴正
- 【異議申立人代理人】樺澤 聡
- 【異議申立人代理人】山田 哲也
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬良 聡機
- 審判官 関 美祝
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P1651.121-Y (A61K) / P1651.537-Y (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7106261号発明「ケラチン物質を洗浄するための組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7106261号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7106261号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成29年10月30日の出願であって、令和4年7月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項に対し、令和5年1月25日付けで特許異議申立人 椛澤 貴正(以下「申立人」という。)より、特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~14に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
以下、本件特許の請求項1~14に係る発明を、それぞれ請求項順に、「本件特許発明1」などといい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。
「【請求項1】
(a)組成物の総質量に対して0.1~10質量%の、少なくとも1種の塩基性アミノ酸と、
(b)組成物の総質量に対して0.1~10質量%の、少なくとも1種のベタイン型両性界面活性剤と、
(c)水と、
(d)少なくとも1種の増粘剤と
を含む組成物であって、9.0以上のpHを有し、(c)水の量が、組成物の総質量に対して少なくとも50質量%である、組成物。
【請求項2】
(a)塩基性アミノ酸が、アルギニン及びリジンから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(b)ベタイン型両性界面活性剤が、アルキルベタイン、アルキルアミドアルキルベタイン、スルホベタイン、ホスホベタイン及びアルキルアミドアルキルスルホベタインから選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(b)ベタイン型両性界面活性剤が、(C8~C24)アルキルベタインから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
(c)水が、組成物の総質量に対して60質量%以上の量で存在する、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
10.0以上のpHを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1種の非イオン性界面活性剤を更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1種のポリオールを更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1種の増粘剤が、アクリル酸若しくはメタクリル酸並びに/又はそれらの塩及び/若しくはエステルのホモポリマー又はコポリマーから選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
組成物の総質量に対して2質量%以下の量のアニオン性界面活性剤を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
いかなるアニオン性界面活性剤も含まない、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ケラチン物質を洗浄するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
透明である、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物をケラチン物質に適用する工程を含む、ケラチン物質を洗浄するための美容方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、下記3に示す甲第1号証及び甲第2号証を提出し、次の申立理由1及び申立理由2を主張している。
なお、以下では、甲第1号証及び甲第2号証を、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。
1 申立理由1(進歩性)
本件特許発明1~9及び12~14は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1及び甲2に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~9及び12~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。
2 申立理由2(明確性要件)
本件特許発明1及び6はpHを規定するが、本件特許明細書にはpHの測定条件についての記載がないため、pHの値が記載された本件特許発明1~14は、本件特許明細書の記載を参酌してもその範囲を特定することができず、不明確である。
したがって、本件特許発明1~14に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。
3 証拠方法
甲1:特開2011-178681号公報
甲2:特開2001-139998号公報
第4 判断
当審合議体は、本件特許発明1~14に係る特許は、上記第3に概要を示した申立理由1及び申立理由2によっては、取り消すことはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。
なお、以下の下線は、当審合議体で追加した。また、証拠の転記はすべて全角で表記する。本決定全体についても同様である。
1 甲各号証の記載事項
(1)甲1の記載事項
(甲1a)「【請求項1】
次の成分(A)~(E):
(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸又はその塩 0.25~18質量%、
(B)成分(A)以外のカルボキシル基を有するアニオン界面活性剤 2~15質量%、
(C)両性界面活性剤 0.5~15質量%、
(D)アクリル酸/メタクリル酸アルキル共重合体 0.1~1.2質量%、
(E)水
を含有し、成分(B)及び(C)の質量割合が(C)/(B)=0.2~1.5であり、かつ成分(A)、(B)及び(C)の質量割合が(A)/((B)+(C))=0.1~0.6である皮膚洗浄剤組成物。」
(甲1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、洗浄剤を容器から手に取る際、曳糸性がなく、手に取りやすいこと、手に取った際には、剤が手から垂れにくいこと、剤を肌に塗布する過程では、肌の上で伸ばしやすく、且つ、十分な洗浄実感が得られる皮膚洗浄剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸又はその塩及びそれ以外のカルボキシル基を有するアニオン界面活性剤とともに、更に、特定の界面活性剤、水溶性ポリマーを組み合わせて用いることにより、上記の課題を解決した皮膚洗浄剤が得られることを見出した。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮膚洗浄剤組成物は、曳糸性がなく、手に取りやすく、剤を手に取った際には垂れにくく、剤を肌に塗布した際には、伸びが良く、厚み感・コク感(塗布時に、剤の厚みが感じられ、手と肌が接触しない感じ)に優れ、洗浄実感が高いものである。」
(甲1c)「【0019】
本発明で用いる成分(B)は、成分(A)以外のカルボキシル基を有するアニオン界面活性剤である。特に、高級脂肪酸又はその塩、N-アシルアミノ酸又はその塩等を用いることができる。
高級脂肪酸又はその塩としては、次の一般式(2)で表されるものが好ましい。
【0020】
【化2】
R2-COOX1(2)
【0021】
(式中、R2は炭素数11~23のアルキル基又はアルケニル基を示し、X1は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルカノールアンモニウム又は塩基性アミノ酸を示す)
【0022】
一般式(2)中、R2としては、特に炭素数11~16の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましい。また、X1としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;アンモニウム;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン由来のアンモニウム;アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸由来のカチオンなどが挙げられる。
【0023】
より具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。これらのうち、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びこれらの塩が好ましく、特に、これらのカリウム塩が好ましい。
・・・
【0030】
成分(B)は、本発明の洗浄剤の洗浄主基材となる。更には、後述する成分(C)~(E)との組み合わせで、特殊な液性を発現させるものである。
成分(B)は、1種又は2種以上を用いることができ、酸として全組成中に2~15質量%、好ましくは5~10質量%含有される。この範囲内であれば、粘度を高めることができ、良好な泡立ちを得ることができる。」
(甲1d)「【0031】
本発明で用いる成分(C)の両性界面活性剤としては、カルボン酸型両性界面活性剤、スルホン酸型両性界面活性剤、リン酸エステル型両性界面活性剤等が挙げられる。
カルボン酸型両性界面活性剤としては、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられ、スルホン酸型両性界面活性剤としては、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、リン酸エステル型両性界面活性剤としては、アルキルヒドロキシホスホベタイン等が挙げられる。
・・・
【0034】
本発明で用いる成分(D)は、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体である。
具体的には、例えばカーボポールETD-2020、カーボポール1342、カーボポール1382、ペムレンTR-1、ペムレンTR-2(以上、ノベオン(NOVEON)社製)等が挙げられる。
・・・
【0036】
本発明で用いる成分(E)の水は、成分(A)~(D)の残部を占めることができる。その量は、全組成中に40~90質量%、特に60~85質量%含有するのが好ましい。」
(甲1e)「【実施例】
【0047】
実施例1~4、比較例1~8
表1及び表2に示す組成の皮膚洗浄剤組成物を製造し、初期粘度、pHを測定するとともに、官能評価を行った。・・・結果を表1及び表2に併せて示す。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
・・・
【0049】
(評価方法)
(1)粘度の測定:
・・・
【0050】
(2)pHの測定:
各皮膚洗浄剤組成物を30℃の恒温槽につけて十分に馴化させた後、サンプル瓶に1gを精秤し、精製水で20倍に希釈し(5%)、室温(25℃)で、水溶液のpHを測定した(堀場製作所社製、型番F-22)。
【0051】
(3)官能評価:
使用感は、サンプルを手に採り、泡立てて泡立ちを評価した後、水道水で流してすすぎ性を評価した。続いて、水道水で予備洗浄した前腕部内側に手で皮膚洗浄剤組成物を塗布し、垂れにくさ、伸ばしやすさ、塗布感(厚み感・コク感)、曳糸性を評価した後、水道水で流して、すすぎ性を評価した。
・・・
【0062】
【表1】
[図:0001397238000001.jpg]
」
(2)甲2の記載事項
(甲2a)「【請求項1】 水酸基を含んでいてもよい直鎖もしくは分枝鎖の炭素数8~22の飽和または不飽和脂肪酸を0.9ないし1.5当量アルギニンで中和した脂肪酸アルギニン塩20~60重量%と一般式(1)
【化1】
[図:0001397238000002.jpg]
[但し式中nは1以上の整数を示す。]で示されるポリプロピレングリコールと水を含有することを特徴とする透明ゲル状洗浄剤組成物。」
(甲2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、脂肪酸アルギニン塩を主成分とする透明ゲル洗浄剤組成物に関するものである。
・・・
【0010】
【発明が解決しようとする課題】以上のように従来技術では、ゲルを使用しやすい固さにコントロールすることができず、泡立ちも不充分で曳糸現象に対する対処も不充分であり、さらにハンドリング性の悪い固さしか安定処方できなかったため、これらの改良が強く望まれている。
【0011】本発明が解決しようとする第1の課題は、低温ないしは高温に保存しても安定で使用し易い固さの透明ゲルであり、起泡性にも優れれた刺激性が少ない透明ゲル状洗浄剤組成物を提供することである。
【0012】本発明が解決しようとする第2の課題は、上記課題に加えて、曳糸現象のない透明ゲル状洗浄剤組成物を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者は、脂肪酸アルギニン塩と多価アルコールと水からなる配合系において、ゲル状組成物の低温安定性とゲルの強度に関する研究を行った結果、特定の非イオン性物質が添加量の極めて少ない範囲で脂肪酸アルギニン塩主剤のゲル状洗浄剤組成物の安定性を上昇させ、ゲルの強度を上げず、強度を下げる性質があることを見出し、さらに使用する脂肪酸組成を特定の比率で行うことにより曳糸現象も解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(甲2c)「【0021】脂肪酸の中和をアルギニンと他のカチオン性物質、例えばトリエタノールアミン、カリウム等で併用中和も可能であるが、ゲルの長期安定性が悪化するため、アルギニン単独で中和することが望ましい。
【0022】本発明においては、脂肪酸アルギニン塩は透明ゲル状洗浄剤組成物当たり20~60重量%配合される。より好ましくは25~35重量%の配合であり、20重量%未満の配合ではゲルが弱くなるかゲル化しない。60重量%以上を超えて配合すると、結晶が析出し、透明性を保てない。」
(甲2d)「【0042】
【実施例】更に本発明の効果を実施例により詳細に説明する。
【0043】実施例1~5、比較例1~9
下記表1の重量配合比率で各サンプルを調製して、ゲル形態を保ったサンプルに関して以下の評価をおこなった。
・・・
【0049】
【表1】
[図:0001397238000003.jpg]
」
2 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1は、成分(A)~(E)を含有する皮膚洗浄剤組成物に関する技術的事項を開示するものである(上記1(1)(甲1a)。以下、上記1の甲各号証の記載事項については、単に(甲1a)などと示す。)。
そして、その具体例を示した実施例1からみて(甲1e)、甲1には、次の「甲1発明」が記載されていると認める。
なお、各成分の配合量は、市販品についてはその有効成分の量である。
甲1発明:
「次の組成からなる、pHが10.0である、皮膚洗浄剤組成物。
(質量%)
ポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸 2.16
ラウリン酸 4.22
ミリスチン酸 1.46
パルミチン酸 0.32
水酸化カリウム 2.52
ラウリルヒドロキシスルホベタイン 2.43
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.78
フェノキシエタノール 0.20
香料 0.60
精製水 87.47」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)本件特許明細書【0001】に「本発明は、ケラチン物質の洗浄のための、特に、皮膚・・・の洗浄のための化粧用組成物に関する。」と記載されているから、甲1発明の「pHが10.0である、皮膚洗浄剤組成物」は、本件特許発明1の「9.0以上のpH」を有する「組成物」に該当する。
(イ)甲1発明の「ラウリルヒドロキシスルホベタイン」は、甲1における成分(C)の両性界面活性剤であり(甲1d)、皮膚洗浄剤組成物中に2.43質量%の量で含まれるから、本件特許発明1の「(b)組成物の総質量に対して0.1~10質量%の、少なくとも1種のベタイン型両性界面活性剤」に該当する。
(ウ)甲1発明の「アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体」は、甲1における成分(D)であり(甲1d)、本件特許明細書【0090】に記載の増粘剤の例示にある「アクリル酸若しくはメタクリル酸並びに/又はそれらの塩及び/若しくはエステルのホモポリマー又はコポリマー」に該当するから、本件特許発明1の「(d)少なくとも1種の増粘剤」に該当する。
(エ)甲1発明の「精製水」は、甲1における成分(E)であり(甲1d)、皮膚洗浄剤組成物中に87.47質量%の量で含まれるから、本件特許発明1の「(c)水」であって「(c)水の量が、組成物の総質量に対して少なくとも50質量%である」に該当する。
(オ)よって、両発明は、次の一致点及び相違点を有する。
一致点:
「(b)組成物の総質量に対して0.1~10質量%の、少なくとも1種のベタイン型両性界面活性剤と、
(c)水と、
(d)少なくとも1種の増粘剤と
を含む組成物であって、9.0以上のpHを有し、(c)水の量が、組成物の総質量に対して少なくとも50質量%である、組成物。」である点。
相違点:
本件特許発明1は、さらに「(a)組成物の総質量に対して0.1~10質量%の、少なくとも1種の塩基性アミノ酸」を含むと特定しているのに対し、
甲1発明は、塩基性アミノ酸を含まない点。
イ 判断
(ア)甲1は、洗浄剤を容器から手に取る際には、曳糸性がなく取りやすく、手に取った際には、手から垂れにくく、肌に塗布する過程では、肌の上で伸ばしやすく、且つ、十分な洗浄実感が得られる皮膚洗浄剤を提供することを課題とし、成分(A)~(E)を特定の含有量及び質量割合で含有する皮膚洗浄剤組成物としたことで、上記課題を解決したものといえる((甲1a)及び(甲1b))。
そして、成分(B)である「成分(A)以外のカルボキシル基を有するアニオン界面活性剤」について、R2-COOX1で表される高級脂肪酸又はその塩を用いることができ、R2としては、特に炭素数11~16の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましいこと、X1としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のほか、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸由来のカチオンなどが挙げられることが記載され、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸のカリウム塩が好ましいことが記載されている(甲1c)。
甲1発明には、塩基性アミノ酸は含まれていないが、上記成分(B)についての記載から、塩基性アミノ酸由来のカチオンを高級脂肪酸の対イオンと想定した場合には、本件特許明細書【0039】の「ここでの「アミノ酸」という用語は、アミノ酸自体のみならず、その塩の形態のアミノ酸も包含する。」という定義を考慮すると、本件特許発明1の塩基性アミノ酸が例示に含まれる可能性はあるものの、対イオンとして特に好ましいとされるカリウム塩ではなく、あえてそのような選択を行う動機付けはなく、甲1発明から、甲1の記載に基づき、相違点に係る構成とすることが容易になし得る技術的事項とはいえない。
(イ)甲2には、「水酸基を含んでいてもよい直鎖もしくは分枝鎖の炭素数8~22の飽和または不飽和脂肪酸を0.9ないし1.5当量アルギニンで中和した脂肪酸アルギニン塩20~60重量%と一般式(1)・・・で示されるポリプロピレングリコールと水を含有する」「透明ゲル状洗浄剤組成物」に関する技術的事項が記載されている(甲2a)。
そして、脂肪酸アルギニン塩を主成分とし、多価アルコールと水からなる透明ゲル洗浄剤組成物であること、低温ないしは高温に保存しても安定で使用し易い固さの透明ゲルであり、起泡性にも優れた刺激性が少ない透明ゲル状洗浄剤組成物を提供すること、曳糸現象のない透明ゲル状洗浄剤組成物を提供することが記載されている(甲2b)。
また、ゲルの長期安定性のために、脂肪酸をアルギニン単独で中和することが望ましいことが記載され(甲2c)、実施例では、ラウリン酸、ミリスチン酸、L-アルギニン、PPG400などのポリプロピレングリコール及び精製水からなるサンプルを調製し、ゲルの安定性や曳糸性を評価した結果が示されている(甲2d)。
(ウ)上記(ア)及び(イ)から、甲1と甲2とは、洗浄剤組成物であって、曳糸性を防止するという課題が共通したものといえるが、甲1は、成分(A)~(E)を特定の含有量及び質量割合で含有することで、課題を解決したものであるのに対し、甲2は、脂肪酸アルギニン塩を主成分とし、ポリプロピレングリコールと水とを組み合わせたことで、課題を解決したものであるから、両者は課題を解決する手段が異なっている。
その上、甲1には、成分(B)については、高級脂肪酸の塩とともにN-アシルアミノ酸又はその塩が例示され、全組成物中に2~15質量%であることで、粘度を高め、良好な泡立ちを得ることができることが記載されているとおり(甲1c)、特にアルギニンを主成分とするものではない。
一方、甲2においては、脂肪酸アルギニン塩は主成分であり、その含有量は20~60重量%とされ、20重量%未満の配合ではゲルが弱くなるかゲル化しないことが記載されている(甲2c)。
そうすると、甲1に、成分(B)について、高級脂肪酸であるラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸の塩として、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸由来のカチオンが例示されているとしても、甲2に示された事項から、甲1発明の皮膚洗浄剤組成物においては、成分(A)及び(C)~(E)と組み合わせて、合計で8.52質量%の量でしか含まれていない「ラウリン酸」、「ミリスチン酸」、「パルミチン酸」及び「水酸化カリウム」に着目した上に、たまたま甲2において示された含有量の異なる脂肪酸アルギニン塩を配合する動機付けはなく、ましてや、本件特許発明1で特定する0.1~10質量%となる量で、脂肪酸アルギニン塩とする動機付けはない。
よって、上記相違点は、当業者が容易になし得たものではない。
(エ)効果についても検討すると、曳糸性のほか、甲1には、垂れにくさ、伸ばしやすさ、塗布感(厚み感・コク感)、すすぎ性を評価したことが記載され(甲1e)、甲2には、ゲルの安定性を評価したことが一応記載されている(甲2d)。
しかしながら、甲1及び甲2の記載からは、本件特許明細書、特に実施例において確認された、良好な染料除去効果や、長時間にわたり透明な外観を示す安定性という、本件特許発明1の奏する効果については予測することができるとはいえず、顕著なものである。
ウ 小括
よって、本件特許発明1は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件特許発明2~9及び12~14について
本件特許発明2~9及び12~13は、それぞれ本件特許発明1を引用して、組成物についてさらに限定するものである。
また、本件特許発明14は、本件特許発明1の組成物を用いる美容方法に関するものである。
そうすると、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2~9及び12~14についても、上記(2)で検討したのと同様の理由により、甲1及び甲2に記載された発明に基いて容易になし得たものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1(進歩性)は理由がない。
3 申立理由2(明確性要件)について
(1)判断
本件特許発明1及び6で規定する、組成物のpHについて、本件特許明細書には、その測定方法について定義などしたところはない。
しかしながら、本件特許発明は、特に皮膚などのケラチン物質の洗浄のための化粧用組成物に関するものであるから、そのpHの値は、製品として保存したり使用したりする場合を想定した、甲1にも記載されているような(甲1e)、25℃程度での値であると、当業者であれば理解できるといえ、本件特許明細書の記載及び技術常識に照らして、不明確なところはない。
よって、本件特許発明1~14は、明確である。
(2)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、日本工業規格JIS Z 8802:2011(pH測定方法)について言及し、pHは測定温度によりその値が大きく変化するものである(例えば、ほう酸塩のpH値の典型値は、0℃で9.46、25℃で9.18、95℃で8.83である)と主張する。
しかしながら、上記規格は、pH標準液の一つであるほう酸塩pH標準液について、校正のための値として、各温度におけるpH値の典型値を示したものに過ぎず、pH標準液においては、95℃などの極端な温度では、大きく値が変化することがあるとしても、そのような温度で使用することが想定されない、化粧用組成物に関する本件特許発明(本件特許明細書【0001】)についてのpH値の記載は、上述のとおり、製品として保存したり使用したりする場合を想定した、25℃程度での値であると当業者が理解するから、第三者の不測の不利益を生じるほどに不明確なものとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2(明確性要件)は理由がない。
第5 むすび
したがって、申立人の特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~14に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1~14に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700072