特許異議申立
2023-700313
口腔用組成物
- 審判番号
- 2023-700313
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-226446
- 登録番号
- 7143198
- 請求日
- 2023年03月27日
- 審決日
- 2023年11月15日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サンスター株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】椛澤 貴正
- 【異議申立人代理人】樺澤 聡
- 【異議申立人代理人】山田 哲也
- 審判長/審判官
- 審判長 原田 隆興
- 審判官 吉田 佳代子
- 審判官 渕野 留香
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K) / P1651.841-YAA(A61K) / P1651.851-YAA(A61K) / P1651.854-YAA(A61K) / P1651.855-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7143198号発明「口腔用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7143198号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7143198号の請求項1~3に係る特許を維持する。
特許第7143198号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7143198号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成30年12月3日に出願され、令和4年9月16日にその特許権の設定登録がされ、同年9月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年3月27日に特許異議申立人 椛澤 貴正(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 6月 8日付け 取消理由通知
同年 7月 31日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 同月23日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 9月27日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否
1 請求の趣旨及び訂正の内容
令和5年7月31日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、「特許第7143198号の特許請求の範囲を本請求書に添付した特許請求の範囲の通り、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1及び2からなるものである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に「銅クロロフィリンナトリウム及び塩化セチルピリジニウムを質量比1:1.2~100又は1.2~20:1で含有し、塩化セチルピリジニウムを0.005~0.09質量%含有する、口腔用組成物。」と記載されているのを、「銅クロロフィリンナトリウム及び塩化セチルピリジニウムを質量比1:1.2~100又は1.2~20:1で含有し、且つ、銅クロロフィリンナトリウムを0.001~0.1質量%含有し、塩化セチルピリジニウムを0.005~0.09質量%含有する、口腔用組成物(ただし、プロポリスエキスを含有する口腔用組成物、エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の糖アルコールを含有する口腔用組成物、並びに、ディプテロカルプス オブツシフォリウス(Dipterocarpus obtusifolius)、パルキア レリギオサ(Parkia religiosa)、ユーゲニア ジャバニカ( Eugenia javanica)、ユーゲニア パニアラ(Eugenia paniala)、ユーゲニア シアメンシス(Eugenia siamensis)、リノシエラ マクロフィラ ウォール(Linociera macrophylla wall)、及びアキラス サポタル(Achras sapotal)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を含有する口腔用組成物を除く)。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項4を削除する。
なお、訂正前の請求項2~4は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項1によって訂正される訂正前の請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1~4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当するものであるので、本件訂正は一群の請求項について請求されたものである。
2 訂正適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明に記載された「銅クロロフィリンナトリウム」について、訂正前の請求項4に記載された「銅クロロフィリンナトリウムを0.001~0.1質量%含有する」という事項で特定する訂正事項(以下「訂正事項1-1」という。)、及び訂正前の請求項1に係る発明の「口腔用組成物」から、「ただし、プロポリスエキスを含有する口腔用組成物、エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の糖アルコールを含有する口腔用組成物、並びに、ディプテロカルプス オブツシフォリウス(Dipterocarpus obtusifolius)、パルキア レリギオサ(Parkia religiosa)、ユーゲニア ジャバニカ( Eugenia javanica)、ユーゲニア パニアラ(Eugenia paniala)、ユーゲニア シアメンシス(Eugenia siamensis)、リノシエラ マクロフィラ ウォール(Linociera macrophylla wall)、及びアキラス サポタル(Achras sapotal)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を含有する口腔用組成物を除く」ことを特定する訂正事項(以下「訂正事項1-2」という。)を含むので、以下、それぞれについて検討する。
イ 訂正事項1-1について
まず、訂正事項1-1は、訂正前の請求項1に係る発明において、口腔用組成物に含有されている銅クロロフィリンナトリウムの含有量を、「0.001~0.1質量%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、「0.001~0.1質量%」という範囲は、訂正前の請求項4に記載された範囲であり、願書に添付した明細書【0022】に記載されているから、訂正事項1-1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであって、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 訂正事項1-2について
訂正前の請求項1に係る発明は、「銅クロロフィリンナトリウム及び塩化セチルピリジニウムを」所定量「含有する、口腔用組成物」として特定され、また、本件特許明細書には、「本発明の効果を損なわない範囲で、口腔用組成物に配合し得る任意成分を・・・含有してもよい。」(【0030】)、「湿潤剤として、ソルビット、・・・キシリット・・・を組み合わせて配合することができる。」(【0034】)、「なお、本発明の口腔用組成物には、さらに、薬効成分として・・・を組み合わせて配合することができる。」(【0038】)と説明されるように、任意の成分として様々な成分を含有し得る口腔用組成物であるところ、訂正事項1-2は、訂正前の請求項1に係る発明から「プロポリスエキスを含有する口腔用組成物、エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の糖アルコールを含有する口腔用組成物、並びに、ディプテロカルプス オブツシフォリウス(Dipterocarpus obtusifolius)、パルキア レリギオサ(Parkia religiosa)、ユーゲニア ジャバニカ( Eugenia javanica)、ユーゲニア パニアラ(Eugenia paniala)、ユーゲニア シアメンシス(Eugenia siamensis)、リノシエラ マクロフィラ ウォール(Linociera macrophylla wall)、及びアキラス サポタル(Achras sapotal)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を含有する口腔用組成物」という具体的な態様を除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、本件特許明細書等には、本件訂正事項1-2によって除かれた口腔用組成物の態様において含まれる、「プロポリスエキス」、「エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の糖アルコール」並びに、「ディプテロカルプス オブツシフォリウス(Dipterocarpus obtusifolius)、パルキア レリギオサ(Parkia religiosa)、ユーゲニア ジャバニカ( Eugenia javanica)、ユーゲニア パニアラ(Eugenia paniala)、ユーゲニア シアメンシス(Eugenia siamensis)、リノシエラ マクロフィラ ウォール(Linociera macrophylla wall)、及びアキラス サポタル(Achras sapotal)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物」という成分を、ジンジパイン活性又は殺菌効果を高めるための必須成分として口腔用組成物に含めることについては、本件特許明細書等には記載がなく、上記各成分は上述のとおり口腔用組成物に配合してもよい任意の成分でしかない。
そうすると、訂正事項1-2によって、上記各成分を任意成分として含む口腔用組成物の態様について、本件訂正前の特許請求の範囲から除くことは新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、訂正事項1-2の訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、新たな技術的事項を導入するものではない。
エ 申立人の主張について
令和5年9月27日提出の意見書(4(1)ア及びイ)において、申立人は「「殺菌効果」「ジンジパイン活性抑制」「歯周病の予防又は治療」などに影響することが知られている「プロポリスエキス」、「エリスリトール」、「キシリトール」、及び「ソルビトール」を含有する口腔用組成物を除くという技術的思想が本件特許発明の明細書に記載されているとはいえない」、「本件特許明細書の段落[0034]には、口腔用組成物に配合することができる成分の例として、「キシリット、ソルビット」が記載されているので、本件特許出願の出願当初の明細書には、「キシリット、ソルビトール」を加えるという思想は含まれるものの、その反対に、・・・除く思想は、本件特許発明には含まれないと解するのが相当である。」と主張する。
また、上記意見書(4(1)ウ)において、申立人は特許庁の審査基準を引用し、除くクレームが許容されるのは、先行技術との重なりのみを除く場合であるところ、ディプテロカルプス オブツシフォリスなどが記載されている甲3号証は、先行技術と重なりの無い進歩性違反で引用された文献であるから、上記ディプテロカルプス オブツシフォリスなどを除く訂正は、先行技術との重なりのみを除く場合には該当せず、新たな技術的事項を導入するものである旨の主張をしている。
しかしながら、本件訂正前の請求項1に係る発明は、歯周病の予防及び/又は治療のためには、ジンジパイン活性を抑制し、且つPorphyromonas gingivalis(P.g)菌の殺菌効果をも備えた口腔用組成物を調整するため、ジンジパイン活性を抑制する銅クロロフィリンナトリウム(以下「SCC」ともいう。)と殺菌効果を奏する成分である塩化セチルピリジニウム(以下「CPC」ともいう。)とを組み合わせて用いると、期待されたほどのジンジパイン活性抑制効果が得られない場合があるという課題(明細書【0006】~【0007】)を解決するために、SCCとCPCとを本件発明で特定する濃度範囲において、特定の質量比で組み合わせて用いるという手段を採用するものであって、「プロポリスエキス」、「エリスリトール」、「キシリトール」、「ソルビトール」及び「ディプテロカルプス オブツシフォリスの植物の抽出物など」の有する殺菌効果等の活性を利用することを前提としてはいないことは、本件特許明細書の実施例において効果を検証している組成物中にこれらの成分が含まれていないことからも明らかである。
本件特許明細書の段落[0034]の記載も、「湿潤剤」として配合することができる成分の一例として、「ソルビット」、「キシリット」に言及するものに過ぎず、使用しなくてもよいものである。
そして上記ウで述べたとおり、「プロポリスエキス」、「エリスリトール」、「キシリトール」、「ソルビトール」及び「ディプテロカルプス オブツシフォリスの植物の抽出物など」の任意成分を含む口腔用組成物を除外する訂正は、新たな技術的事項を導入するものとはいえないものであるから、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人の主張する審査基準の「除くクレームが許容される場合」の例は、新規事項の追加とならない典型例を記載するものではあるが、新規事項に該当するか否かは、当初明細書等に記載された技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきものであり、上記典型例以外は新規事項に当たるという申立人の主張は採用できない。
オ したがって、訂正事項1-1及び訂正事項1-2を含む訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1-1及び訂正事項1-2を含む訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、新たな技術的事項を導入するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4の記載を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、新たな技術的事項を導入するものでもない。
3 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、本件訂正に関して、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~4]について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1~4に係る発明は、訂正特許請求の範囲1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、それぞれを請求項の順に従い、「本件発明1」等といい、本件発明1~3をまとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
銅クロロフィリンナトリウム及び塩化セチルピリジニウムを質量比1:1.2~100又は1.2~20:1で含有し、且つ、銅クロロフィリンナトリウムを0.001~0.1質量%含有し、塩化セチルピリジニウムを0.005~0.09質量%含有する、口腔用組成物(ただし、プロポリスエキスを含有する口腔用組成物、エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の糖アルコールを含有する口腔用組成物、並びに、ディプテロカルプス オブツシフォリウス(Dipterocarpus obtusifolius)、パルキア レリギオサ(Parkia religiosa)、ユーゲニア ジャバニカ(Eugenia javanica)、ユーゲニア パニアラ(Eugenia paniala)、ユーゲニア シアメンシス(Eugenia siamensis)、リノシエラ マクロフィラ ウォール(Linociera macrophylla wall)、及びアキラス サポタル(Achras sapotal)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を含有する口腔用組成物を除く)。
【請求項2】
抗歯周病のための口腔用組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
抗歯周病が、歯周病進行抑制である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
(削除)」
第4 特許異議申立理由及び取消理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人が、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~4に係る特許に対して申し立てた特許異議の申立理由は、概略、以下の(1)~(3)のとおりであって、申立人は、特許異議申立書及び意見書に添付して、証拠方法として、下記(4)の甲第1~26号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出した。
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1及び4に係る発明は、甲1又は甲2に記載された発明であり、本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲2に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、本件訂正前の請求項1、2及び4に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲1~12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であり、特許法29条2項の規定に違反するものであるから、本件訂正前の請求項1~4に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、下記アの点で、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法36条6項1号に規定される要件を満たしていないから、本件訂正前の請求項1~4に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 本件特許の明細書の記載された実施例のうち、公知技術や本件特許発明の比較例に比して「SCCによるジンジパイン活性抑制作用とCPCによる殺菌作用の両方を効率的に発揮できるという効果」を奏することができるものは、実施例3(CPCが500μg/ml、SCC125μg/ml)の1点のみであり、本件訂正前の請求項1~4に係る発明の数値範囲まで拡張できるとはいえない。
(4)甲号証
甲1:特開2005-29498号公報
甲2:特開2008―303188号公報
甲3:特開2010-18546号公報
甲4:特開2002-302429号公報
甲5:特開2013―1701号公報
甲6:特開2017-178906号公報
甲7:Yonago Acta Medica、2015年、Vol.58、No.3、p.129-136
甲8:Archives of Oral Biology、2013年、Vol.58、p.1686-1691
甲9:特開2017-214307号公報
甲10:特開2017-193538号公報
甲11:FEMS Microbiology Letters、1990年、Vol.72、p.169-172
甲12:栄養と食糧、1969年、第22巻、第6号、p.23-28
(以上、特許異議申立書に添付した証拠)
甲13:Journal of Dental Research、2018年、Vol.97、No.8、p.928-936
甲14:Adv.Clin.Exp.Med.、2012年、Vol.21、No.1、p.81-92
甲15:J.Periodontol.、2016年、Vol.87、No.12、p.1418-1426
甲16:Journal of Oral Microbiology、2017年、Vol.9、1337477、DOI:10.1080/20002297.2017.1337477
甲17:Molecular Oral Microbiolgy、2013年、Vol.28、p.435-451
甲18:特開2008―303188号公報
甲19:J.Periodontol.、2014年、Vol.85、No.6、p.e212-e223
甲20:J.Oral Med.Pain、2016年、Vol.41、No.4、p.155-160
甲21:Planta Med.、2018年、Vol.84、p.1232-1248
甲22:特開2005-239652号公報
甲23:特開2005-239653号公報
甲24:特開2005-239654号公報
甲25:特開2005―239655号公報
甲26:特開2005-220087号公報
(以上、意見書に添付した証拠)
2 取消理由の概要
令和5年6月8日付け取消理由通知書で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
なお、甲1~甲3は、異議申立理由の甲1~甲3と同じ証拠である。
(1)取消理由1(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1又は甲2に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するものであるから、本件訂正前の請求項1~4に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。(申立理由1と同趣旨である。)
(2)取消理由2(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1~甲3に記載された発明及び甲1~甲3に記載された事項、並びに本願出願日当時の技術常識(甲4~10)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。(申立理由2と同趣旨である。)
第5 取消理由通知に記載した取消理由1及び2(新規性及び進歩性欠如)についての判断
1 甲1を主引用文献とする判断
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(特許請求の範囲、【0008】~【0009】、【0012】~【0016】、特に【0016】【表1】の実施例3)によれば、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「塩化セチルピリジニウムを0.01質量%、イソプロピルメチルフェノールを0.05質量%、プロポリスエキスを10.0質量%、リン酸水素カルシウムを20.0質量%、ピロリン酸カルシウムを5.0質量%、無水ケイ酸を5.0質量%、濃グリセリンを10.0質量%、ソルビット液(70%)を20.0質量%、カラギーナンを1.0質量%、ラウリル硫酸ナトリウムを0.5質量%、銅クロロフィンナトリウムを0.002質量%、ステビアエキスを0.05質量%、香料1.0質量%及び精製水を適量含有する練り歯磨剤。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明におけるSCCとCPCの質量比は、0.002質量%:0.01質量%=1:5である。
よって、両発明は、「銅クロロフィリンナトリウム及び塩化セチルピリジニウムを質量比1:1.2~100又は1.2~20:1で含有し、且つ、銅クロロフィリンナトリウムを0.001~0.1質量%含有し、塩化セチルピリジニウムを0.005~0.09質量%含有する、口腔用組成物」で一致し、本件発明1は、「プロポリスエキスを含有する」ものを除くことを特定するのに対し、甲1発明は、「プロポリスエキス」を含有する点で、少なくとも相違する。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
イ また、甲1発明は、「二次汚染を防止するのに充分な防腐効果を発揮するとともに、低刺激性で安全性の高い口腔用組成物を提供する」という課題を解決する手段として、「プロポリスエキスを0.01~20.0質量%含有する」構成を採用するものであるから(甲1【0003】-【0004】)、甲1発明において、敢えてその課題解決手段である「プロポリスエキス」を除いた組成物を構成する動機付けは存在しない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲1に記載された事項並びに本願出願日当時の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明ではなく、甲1発明及び甲1に記載された事項並びに本願出願日当時の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 甲2を主引用文献とする判断
(1)甲2に記載された発明
甲2の記載(特許請求の範囲、【0010】~【0012】、【0014】、【0022】、【0024】、【0026】、【0030】、特に【0030】の実施例12)によれば、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「ショ糖ステアリン酸エステルを1質量%、エリスリトールを40質量%、キシリトールを15質量%、ソルビトールを35質量%、塩化セチルピリジニウムを0.02質量%、スクラロースを0.03質量%、銅クロロフィリンナトリウムを0.01質量%、粉末香料を0.5質量%、シリカを1.45質量%、デキストリンを適量含有するトローチ剤。」(以下「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明におけるSCCとCPCの質量比は、0.01質量%:0.02質量%=1:2である。
よって、両発明は、「銅クロロフィリンナトリウム及び塩化セチルピリジニウムを質量比1:1.2~100又は1.2~20:1で含有し、且つ、銅クロロフィリンナトリウムを0.001~0.1質量%含有し、塩化セチルピリジニウムを0.005~0.09質量%含有する、口腔用組成物」で一致し、本件発明1は、「エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の糖アルコールから選ばれる1種又は2種以上の糖アルコールを含有する」ものを除くことを特定するのに対し、甲2発明は、「エリスリトール、キシリトール、及びソルビトール」を含有する点で、少なくとも相違する。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。
イ また、甲2発明は、「カンジダ菌由来のバイオフィルムの除去剤を提供する」という課題を解決する手段として、「エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールから選ばれる糖アルコールに対してカチオン性殺菌剤を質量比で0.0001~0.5含有する」構成を採用するものであるから(甲2【0007】-【0009】)、甲2発明において、敢えてその課題解決手段である「エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールから選ばれる糖アルコール」を除いた組成物を構成する動機付けは存在しない。
したがって、本件発明1は、甲2発明及び甲2に記載された事項並びに本願出願日当時の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明ではなく、甲2発明及び甲2に記載された事項並びに本願出願日当時の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 甲3を主引用文献とする判断
(1)甲3に記載された発明
甲3の記載(特許請求の範囲、【0007】、【0030】、【0033】~【0038】、【0087】~【0093】、特に【0087】の実施例57)によれば、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。なお、実施例57の「%」は、質量%である(【0038】)。
「無水ケイ酸を20.0質量%、二酸化チタンを0.5質量%、カラギーナンを1.0質量%、プロピレングリコールを3.0質量%、70%ソルビット液を20.0質量%、グリセリンを20.0質量%、パラオキシ安息香酸メチルを0.1質量%、モノフルオロリン酸ナトリウムを0.05質量%、塩化セチルピリジニウムを0.1質量%、ラウリル硫酸ナトリウムを1.7質量%、ラウロイルサルコシンナトリウムを0.3質量%、銅クロロフィリンナトリウムを0.05質量%、DL-α-トコフェロールを0.1質量%、ポリエチレングリコールを1.0質量%、実施例1の抽出物(ディプテロカルプス オブツシフォリウスの抽出物)を0.1質量%、香料を1.0質量%、精製水を残部で含む練歯磨剤。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明におけるSCCとCPCの質量比は、0.05質量%:0.1質量%=1:2である。
よって、両発明は、「銅クロロフィリンナトリウム及び塩化セチルピリジニウムを質量比1:1.2~100又は1.2~20:1で含有し、且つ、銅クロロフィリンナトリウムを0.001~0.1質量%含有し、塩化セチルピリジニウムを0.005~0.09質量%含有する、口腔用組成物」で一致し、本件発明1は、「ディプテロカルプス オブツシフォリウス(Dipterocarpus obtusifolius)、パルキア レリギオサ(Parkia religiosa)、ユーゲニア ジャバニカ( Eugenia javanica)、ユーゲニア パニアラ(Eugenia paniala)、ユーゲニア シアメンシス(Eugenia siamensis)、リノシエラ マクロフィラ ウォール(Linociera macrophylla wall)、及びアキラス サポタル(Achras sapotal)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を含有する」ものを除くことを特定するのに対し、甲3発明は、「ディプテロカルプス オブツシフォリウスの抽出物」を含有する点で、少なくとも相違する。
したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明ではない。
イ また、甲3発明は、「人体に対し安全性が高く優れた効果を発揮できるコラゲナーゼ阻害剤を提供する」という課題を解決する手段として、「ディプテロカルプス オブツシフォリウス(Dipterocarpus obtusifolius)、パルキア レリギオサ(Parkia religiosa)、ユーゲニア ジャバニカ( Eugenia javanica)、ユーゲニア パニアラ(Eugenia paniala)、ユーゲニア シアメンシス(Eugenia siamensis)、リノシエラ マクロフィラ ウォール(Linociera macrophylla wall)、及びアキラス サポタル(Achras sapotal)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分として含有する」構成を採用するものであるから(甲3【0005】-【0006】)、甲3発明において、敢えてその課題解決手段である「ディプテロカルプス オブツシフォリウス(Dipterocarpus obtusifolius)の抽出物」を除いた組成物を構成する動機付けは存在しない。
したがって、本件発明1は、甲3発明及び甲3に記載された事項並びに本願出願日当時の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人の意見書における主張について
令和5年9月27日提出の意見書(4(2)ア(イ))において、甲3発明において、「「ディプテロカルプス オブツシフォリウス・・・からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を含有する口腔用組成物」などを除くことは単なる設計変更に過ぎない」旨を主張する。
しかしながら、イに説示したとおり、「ディプテロカルプス オブツシフォリウス・・・からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物」は、甲3発明における課題解決手段を成す構成であり、そのような発明の主要な構成を除くことを単なる設計事項とみなすことはできない。甲1、2、4~12の記載事項を考慮しても、単なる設計事項とみなすことはできないことに変わりない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲3に記載された発明ではなく、甲3発明及び甲3に記載された事項並びに本願出願日当時の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件発明1~3は、甲1~3のいずれかに記載された発明ではなく、また、甲1~3のいずれかに記載された発明、甲1~3のいずれかに記載された事項並びに本件特許の出願日当時の技術常識(甲4~12)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、取消理由1及び2には理由がない。
第6 取消理由通知に採用しなかった申立理由3(サポート要件)についての判断
1 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるので、以下に検討する。
2 本件発明の有する課題及びその解決手段
本件特許明細書段落【0005】~【0009】に記載されるように、本件発明は、歯周病の予防及び/又は治療のために、ジンジパイン活性を抑制し、且つP.g菌の殺菌効果をも備えた口腔用組成物を調製するため、ジンジパイン活性を抑制するSCCと殺菌効果を奏する成分であるCPCとを組み合わせて用いると、期待されたほどのジンジパイン活性抑制効果が得られない場合があるとの課題を見出し、SCCとCPCとを本件発明で特定する濃度範囲において、特定の質量比で組み合わせる構成により当該課題を解決し、効率よくジンジパイン活性を抑制でき、且つ、SCCを単独で用いる場合に比べて殺菌効果が向上した口腔用組成物を調製できるというものである。
したがって、本件発明の解決しようとする課題は「効率よくジンジパイン活性を抑制でき、且つ、SCCを単独で用いる場合に比べて殺菌効果を向上した口腔用組成物を調製すること」である。
3 本件特許明細書等における記載
一方、SCCとCPCの含有量及び組み合わせる質量比について、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には以下の記載がある。
(1)「【0020】
本発明の口腔用組成物は、SCCとCPCとを質量比(SCC:CPC)1:100~20:1で含有する組成物であって、但し1:1.2~1.2:1で含有する組成物を除く(但し、好ましくは1:1.2及び1.2:1で含有する組成物は除かれない)、口腔用組成物ということもできる。意外にも、SCCとCPCの含有質量が1:1に近づくにつれ、SCC単独により奏されるジンジパイン活性抑制効果に比べて、SCC及びCPCを組み合わせて得られるジンジパイン抑制効果が急激に低下する。(下線は当審による。)このため、前記の質量比範囲(1:1.2~1.2:1)でSCCとCPCとを含有する口腔用組成物は本発明の口腔用組成物からは除かれる(但し、好ましくは1:1.2及び1.2:1で含有する組成物は除かれない)。」
(2)「【0022】
本発明の口腔用組成物におけるSCCの含有量は、好ましくは0.001~0.1質量%程度である。当該範囲の下限は、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.011、0.012、0.013、0.014、又は0.015質量%程度であってもよい。また、当該範囲の上限は、0.09、0.08、0.07、0.06、又は0.05質量%程度であってもよい。
【0023】
また、本発明の口腔用組成物におけるCPCの含有量は、好ましくは0.005~0.1質量%程度である。当該範囲の下限は、0.01、0.015、0.02、0.025、0.03、0.035、0.04、0.045、又は0.05質量%程度であってもよい。また、当該範囲の上限は、0.09、0.08、0.07、0.06、又は0.05質量%程度であってもよい。
【0024】
なお、CPCの含有量が、0.025質量%以上であると、CPC含有量がSCC含有量と同量若しくはそれ以上でなくても、CPCによる殺菌効果が効率的に奏される。(下線は当審による。)このため、CPCによる殺菌効果が、より効率的に奏されるという観点からは、CPC含有量は、0.025質量%以上であることがさらに好ましい。
・・・
【0027】
なお、CPCの濃度が、250μg/ml以上であると、CPC含有量がSCC含有量と同量若しくはそれ以上でなくても、CPCによる殺菌効果が効率的に奏される。(下線は当審による。)このため、CPCによる殺菌効果が、より効率的に奏されるという観点からは、CPC濃度は、250μg/ml以上であることがさらに好ましい。
【0028】
なお、特に制限はされないが、ジンジパイン活性を特に効率よく抑制し、且つCPCの殺菌効果も特に効率よく得られるという観点からは、本発明の口腔用組成物において、CPCの含有量が0.025~0.1質量%程度、SCC含有量が0.012~0.1質量%であって、その含有質量比(SCC:CPC)が1:2.5~8又は1.2~4:1程度であることが特に好ましい。特に、本発明の口腔用組成物が液状組成物である場合には、当該観点からは、CPCの含有濃度が250~1000μg/ml程度、SCC含有濃度が120~1000μg/ml程度であって、その含有質量比(SCC:CPC)が1:2.5~8又は1.2~4:1程度であることが特に好ましい。」
(3)「【0044】
SCCによるジンジパイン活性の抑制効果の検討
P.g菌(P.gingivalis W83)をGAM培地にて培養し、吸光度(O.D(600))=1.0に調整した。当該菌液を10000rpmで遠心分離し、上清を回収した。回収した上清中にジンジパインが含まれる。各濃度に調整した銅クロロフィリンナトリウム(SCC)を、回収した上清と混合し、3分間放置した。3分後、PBSで100倍希釈したジンジパインの基質(Z-His-Glu-Lys-MCA又はZ-Phe-Arg-MCA;株式会社ペプチド研究所)と混合し、遮光して37℃1時間静置した。なお、Z-His-Glu-Lys-MCAはBenzyloxycarbonyl-L-Histidyl-L-Glutamyl-L-Lysine 4-methylcoumaryl-7-amide (Hydrochloride Form)であり、Lys-ジンジパイン(Kgp)活性により切断されて蛍光を発する試薬である。また、Z-Phe-Arg-MCAはBenzyloxycarbonyl-L-phenylalanyl-L-arginine 4-methylcoumaryl-7-amide (Hydrochloride Form)であり、Arg-ジンジパイン(Rgp)活性により切断されて蛍光を発する試薬である。1時間後、蛍光プレートリーダー(Gemini XPS)にて蛍光強度(励起光:380nm、放出光:440nm)を測定した。薬剤濃度が0μg/mLでの蛍光強度を100%になるように換算し、各濃度のSCCを処理した際のジンジパイン活性を算出した。なお、各濃度について検討はn=2で行い、算出する値は平均値とした。算出された値が小さいほど、ジンジパイン活性が抑制されたことを示す(下線は当審による。)。結果を図1に示す。」
(4)「
[図:0001406702000001.jpg]
」(図1)
(5)「【0045】
SCC及びCPCによるP.g菌のジンジパイン活性の抑制効果の検討
上記と同様にして、SCC及びCPCを組み合わせて用いた際のP.g菌のジンジパイン活性の抑制効果を検討した。すなわち、次のようにして検討した。P.g菌(P.gingivalis W83)をGAM培地にて培養し、吸光度(O.D(600))=1.0に調整した。当該菌液を10000rpmで遠心分離し、上清を回収した。回収した上清中にジンジパインが含まれる。各濃度に調整した薬剤(銅クロロフィリンナトリウム(SCC)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、及びその混合物)を、回収した上清と混合し、3分間放置した。3分後、PBSで100倍希釈したLys-ジンジパイン(Kgp)の基質(Z-Phe-Arg-MCA;株式会社ペプチド研究所)と混合し、遮光して37℃1時間静置した。1時間後、蛍光プレートリーダー(Gemini XPS)にて蛍光強度(励起光:380nm、放出光:440nm)を測定した。薬剤濃度が0μg/mLでの蛍光強度を100%になるように換算し、各濃度の薬剤を処理した際のジンジパイン活性を算出した。なお、各濃度について検討はn=2で行い、算出する値は平均値とした。算出された値が小さいほど、ジンジパイン活性が抑制されたことを示す。(下線は当審による。)結果を表1にまとめて示す。
【0046】
【表1】
[図:0001406702000002.jpg]
」
(6)「【0047】
SCC及びCPCによるP.g菌殺菌効果の検討
P.g菌(P.gingivalis W83)をGAM培地にて培養し、吸光度(O.D(600))=1.0に調整した。各処理濃度の倍の濃度に調整した薬剤(銅クロロフィリンナトリウム(SCC)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、及びその混合物)を、調整した菌液と等量混合し、3分間放置した。3分後、当該薬剤及び菌液の混合液に、殺菌剤不活化PBS(0.07%レシチン+0.5%Tween 80)を1/10量加え、殺菌効果を停止させた。その後、GAM培地にの当該混合液を10倍量加え、37℃嫌気条件下で16時間培養した。培養後、吸光プレートリーダー(xMark マイクロプレートリーダー)にて培地の吸光度(O.D(600))を測定し、濁度を測定して殺菌効果を確認した。吸光度が小さいほど菌が増殖していないことから、吸光度が小さいほど殺菌効果が高いということができる。(下線は当審による。)結果を表2にまとめて示す。
【0048】
【表2】
[図:0001406702000003.jpg]
」
4 判断
(1)ジンジパイン活性の抑制効果について
ア 上記3(2)~(5)の記載事項によれば、実施例で検証されたSCCの濃度15.625μg/ml(約0.0015625質量%)~1000μg/ml(約0.1質量%)は、概ね本件発明1で特定するSCCの濃度範囲の「0.001~0.1質量%」に対応し、この範囲ではSCC単独で濃度依存的にジンジパイン活性を抑制することが示されている(特に図1及び表1のCPC「0」の欄)。
また、上記3(2)及び(5)の記載事項によれば、実施例で検証されたCPCの濃度62.5μg/ml(約0.00625質量%)~1000μg/ml(約0.1質量%)も、概ね本件発明1で特定するCPCの濃度範囲「0.005~0.09質量%」に対応し、この範囲では、CPC単独で濃度依存的にジンジパイン活性を抑制する効果が見られるが、SCCに比べて抑制効果は弱いことが示されている(特に表1のSCC「0」の欄)。
イ そして、上記表1の例えばSCCが250μg/mlの行を見ると、SCC250μg/mlとCPCを62.5~125μg/mlの範囲又は500μg/mlの濃度で組み合わせた場合は、CPCが0μg/mlの場合とほぼ同等であるか、又は若干CPCの濃度に依存したジンジパイン活性の抑制効果がみられており、この結果は、上記アで述べたジンジパイン活性の抑制効果は、SCCが強く、CPCはSCCに比べて弱いということから期待されるとおりの結果といえる。
しかしながら、CPC濃度が、SCC:CPCが1:1となる250μg/mlの場合は、CPCを他の濃度、特により低濃度の125又は62.5μg/mlで組み合わせる場合よりも、ジンジパイン活性の抑制効果が顕著に低下することが示されている。これは、上記アで述べた、SCC又はCPCを単独で使用した場合には、濃度依存的にジンジパイン活性の抑制効果がみられたという結果からは予想されない現象である。
そして、このようなSCC:CPCが1:1の割合となる際のジンジパイン活性の抑制効果が低下する現象は、実施例で検証されたSCCの各濃度において見られるものである。
ウ そうすると、上記3(2)~(5)の記載事項に基づけば、上記3(1)に記載されるとおり、本件発明において特定されるSCC及びCPCの濃度範囲の全体において、「SCCとCPCの質量比が1:1に近づくにつれ、SCC単独により奏されるジンジパイン活性抑制効果に比べて、SCC及びCPCを組み合わせて得られるジンジパイン抑制効果が急激に低下する」こと、すなわち、SCCの濃度当たりのジンジパイン活性の抑制効果の効率が低下することが理解できる。そして、このようにジンジパイン活性の抑制効果を低下することなく、当該抑制効果を効率よく発揮させるためには、SCCとCPCの質量比を1:1に近づけなければよいことを、当業者が理解することができるものといえる。
(2)殺菌効果について
ア 上記(1)アで述べたとおり、実施例で検証されたSCC及びCPCの濃度範囲は、それぞれ概ね本件発明1で特定する範囲に対応するものであるが、上記3(6)の記載事項によれば、このCPCの濃度範囲ではCPCが含有されれば殺菌効果が発揮されるが、SCC単独では殺菌効果がほとんどないことが示されている。
イ そうすると、本件発明において特定されるSCC及びCPCの濃度範囲の全体において、SCC及びCPCを含有すれば、SCC単独を含有した場合よりも高い殺菌効果が得られることを当業者が理解することができるように記載されているものといえる。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許明細書等の発明の詳細な説明には、SCCの「0.001~0.1質量%」という濃度範囲、及びCPCの「0.005~0.09質量%」という濃度範囲のほぼ全範囲に亘って、「SCCとCPCを質量比1:1.2~100又は1.2~20:1で含有」することにより、SCCの有するジンジパイン活性抑制効果を効率よく発揮し、且つ、SCCを単独で用いる場合に比べて殺菌効果を向上できることが実験的裏付けを持って具体的に示されているから、当業者は、本件発明が上記2に記載した本件発明の有する課題を解決できることを認識できるものといえる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、異議申立書(11頁 カ)において、公知技術や本件特許発明の比較例に比して「SCCによるジンジパイン活性抑制作用とCPCによる殺菌作用の両方を効率的に発揮できるという効果」を奏することができるものは、実施例3の1点のみである旨主張するが、本件発明の有する課題は、上記2に記したとおりであり、任意の公知技術に比して効果を高めることを課題とするものではない。
イ また、令和5年9月27日提出の意見書(9頁2段落)において、「本件特許明細書に記載された実施例のうち、取消理由通知にて審判官殿の認定された「本件明細書の表1からは、・・・両物質が同量になったときにのみ、この低下傾向が崩れてKgp活性が一時的に増加することができるという(効果1)」を奏することができるものは、実施例1~24のうち実施例1~12のみ(審決注:ここでいう本件特許明細書【0046】~【0048】(表1及び表2)に記載される実施例の番号は、上記意見書6頁の表の記載に従う。)である」旨主張する。
しかしながら、上記(1)イで説示したとおり、表1に記載されるSCCの各濃度において、SCC:CPCの質量比が1:1の場合には、SCCの濃度当たりのジンジパイン活性の抑制効率が顕著に低下することが示されている。
ウ 以上であるから、申立人の主張はいずれも採用することはできず、申立理由3には理由がない。
第7 令和5年9月27日提出の意見書において初めて主張された異議申立理由について
申立人が上記意見書(4(2)ア(ア))においてする、甲9を主引用文献とした進歩性欠如の主張については、特許異議申立が可能な時期に提出された特許異議申立書には記載されていなかった理由であり、時機に遅れた新たな主張であるから採用することはできないが、予備的に以下に検討する。
甲9の記載(【0048】、表1、実施例1又は2)によれば、甲9には「0.01質量%の銅クロロフィリンナトリウムと0.01質量%の塩化セチルピリジニウムとを含有する練歯磨組成物」の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されているものと認められる。
本件発明1と甲9発明とを対比すると、SCCとCPCの質量比が、本件発明1では1:1.2~100又は1.2~20:1であるのに対し、甲9発明では1:1のみである点で少なくとも相違する。
一方、甲9にはCPCに関して、【0036】に、「成分(A)以外の殺菌剤・・・を含有することができる。」とあるものの表1以外には記載がなく、CPCは任意成分として添加されているものに過ぎないといえる。
そうすると、公知の知見(甲4)及び本願出願日当時の技術常識(甲1~4、甲22~26)を踏まえても、甲9発明において、任意成分に相当するCPCに敢えて着目し、SCCとCPCの質量比を1:1以外の範囲に調整して好適化する強い動機付けはない。
また、甲9には、SCCの含有量を0.001質量以上0.5質量以下とすることが記載されており(特許請求の範囲、【0013】)、この記載に基づき、甲9発明におけるSCCの含有量を増減し、SCCとCPCの質量比を本件発明1で特定する範囲へ変更することができたとしても、上記第6(1)イで説示したとおり、SCCとCPCの質量比を1:1以外に変更することによって、質量比1:1の場合に急激に低下していたジンジパイン活性の抑制効果が回復し、効率よくジンジパイン活性を抑制できるという本件発明の奏する効果は、甲1~12、22~26のいずれにも記載されておらず、予測することができない効果である。
したがって、本件発明1は甲9発明及び甲1~12、22~26の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を、取消理由通知書で通知された取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって取り消すことはできない。
また、請求項4に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による、請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700313