特許異議申立
2023-700041
カーボンナノチューブ分散液およびその利用
- 審判番号
- 2023-700041
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-136275
- 登録番号
- 7103011
- 請求日
- 2023年01月17日
- 審決日
- 2024年01月23日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋インキSCホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者】トーヨーカラー株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【異議申立人】川口 結生
- 【異議申立人】新川 由紀子
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.131-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.851-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7103011号発明「カーボンナノチューブ分散液およびその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7103011号の、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。
特許第7103011号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7103011号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成30年7月20日を出願日とする特許出願であって、令和4年7月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和5年1月17日に、その請求項1~12に係る特許に対し、特許異議申立人川口結生(以下、「申立人1」という。)により、同年同月18日に、その請求項1~12に係る特許に対し、特許異議申立人新川由紀子(以下、「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがなされ、同年3月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である、同年6月1日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年7月25日に申立人1より、同年同月27日に申立人2より、それぞれ意見書の提出がなされたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
上記令和5年6月1日に提出された訂正請求書における訂正請求(以下、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その内容は、次の訂正事項1~2からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。」と記載されているのを、「溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液(但し、分散剤、カーボンナノチューブ及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物である場合と、チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるカーボンナノチューブ5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールがカーボンナノチューブに対して20質量%と、N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物である場合と、合計を50.0gとしたときに、ポリビニルアルコール0.5gと、蒸留水49.0gと、多層カーボンナノチューブ0.5gとを含む組成物である場合と、ポリビニルブチラールと、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるカーボンナノチューブと、エタノールとを含むスラリーである場合とを除く。)。」に訂正する。
(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2、4~12についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「カーボンナノチューブ(A)のラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、1.0~3.0であることを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブ分散液。」と記載されているのを、「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0であって、カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/gであり、溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4~12についても同様に訂正する。)
(3)別の請求単位とする求め
特許権者は、訂正後の請求項3については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項と別の請求単位とすることを求めている。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無
(1)訂正事項1
ア 上記訂正事項1のうち、「溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、」との特定を追加する訂正(以下、「訂正事項1-1」という。)は、「溶媒(B)」が、「水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒」であるものに限定するものである。
また、上記訂正事項1のうち、「・・・カーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「・・・カーボンナノチューブ分散液(但し、分散剤、カーボンナノチューブ及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物である場合と、チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるカーボンナノチューブ5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールがカーボンナノチューブに対して20質量%と、N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物である場合と、合計を50.0gとしたときに、ポリビニルアルコール0.5gと、蒸留水49.0gと、多層カーボンナノチューブ0.5gとを含む組成物である場合と、ポリビニルブチラールと、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるカーボンナノチューブと、エタノールとを含むスラリーである場合とを除く。)。」とする訂正(以下、「訂正事項1-2」という。)は、訂正前の請求項1の「・・・カーボンナノチューブ分散液。」の範囲から、「分散剤、カーボンナノチューブ及び結着材・・・電極用導電性樹脂組成物である場合と、チューブ外径幾何標準偏差σDが・・・N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物である場合と、合計を50.0gとしたときに、・・・多層カーボンナノチューブ0.5gとを含む組成物である場合と、ポリビニルブチラールと・・・エタノールとを含むスラリーである場合」との重なりを除外し、「カーボンナノチューブ分散液」の範囲を限定するものである。
そうすると、上記訂正事項1-1及び1-2からなる上記訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 上記訂正事項1-1は、訂正前のカーボンナノチューブ分散液を構成する本件明細書の【0051】の「本実施形態の溶媒(B)は、カーボンナノチューブ(A)が分散可能な範囲であれば特に限定されないが、水、及びまたは、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であることが好ましい。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。
上記訂正事項1-2は、訂正前の請求項1の「カーボンナノチューブ分散液」の範囲から、令和5年3月28日付けの取消理由通知で通知された特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)の理由で引用された甲第1-1号証(国際公開第2018/021073号、以下、「甲1-1」という。)の請求項1に記載された発明(分散剤、カーボンナノチューブ及び結着材・・・電極用導電性樹脂組成物である場合)、及び、甲第1-5号証(特開2017-206412号公報、以下、「甲1-5」という。)の比較例1に記載された発明(チューブ外径幾何標準偏差σDが・・・N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物である場合)、及び、甲第1-6号証(国際公開第2015/029949号、以下、「甲1-6」という。)の比較例1-3に記載された発明(合計を50.0gとしたときに、・・・多層カーボンナノチューブ0.5gとを含む組成物である場合)、及び、甲第2-1号証(S. Marchisio et al., “EFFICIENT DISPERSION OF CARBON NANOTUBES IN POLYVINYLBUTYRAL AND MECHANICAL PERFORMANCE OF COMPOSITES THEREOF”,PROCEEDINGS OF THE 15TH EUROPEAN CONFERENCE ON COMPOSITE MATERIALS, 2012,p.1-p.7、以下、「甲2-1」という。)の「2 Materials and testing methods」に記載された発明(ポリビニルブチラールと・・・エタノールとを含むスラリーである場合)との重なりを除外するものであり、本件明細書等に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものとはいえないことから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、上記訂正事項1-1及び1-2からなる上記訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2
訂正事項2のうち、「カーボンナノチューブ(A)のラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、1.0~3.0であることを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブ分散液。」を「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、 カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0であって、カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/gであり、分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。」とする訂正(以下、「訂正事項2-1」という。)は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用していたところ、請求項1を引用するものについて、請求項3を書き下した上で独立請求項へ改めるものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」を目的とするものであるし、請求項2を引用する請求項3が訂正後の請求項3では除かれていることになるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、この訂正事項2-1が本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
また、上記訂正事項2のうち、「溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、」との特定を追加する訂正(以下、「訂正事項2-2」という。)については、上記(1)で述べた訂正事項1-1と事情は同じである。
(3)訂正についてのまとめ
本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、且つ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、特許権者から、上記1(3)のとおり、訂正後の請求項3について、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがなされているが、訂正後の請求項4~12は直接的又は間接的に訂正後の請求項3と共に請求項1、2も引用し、訂正後の請求項1~12は一群の請求項を形成しているから、訂正後の請求項3についての、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めは認めることができない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。
(4)令和5年7月25日提出の意見書における申立人1の主張について
ア 申立人1の主張の概要
申立人1は、上記意見書で、本件訂正が訂正要件に違反していること、具体的には、新規事項の追加に該当するか、発明の範囲が実質的に変更されたものであること、または発明の範囲が不明確であることについて、概略、以下の(ア)~(オ)の主張をしている。
(ア)訂正事項1-2における、「(但し、・・・ポリビニルブチラールと、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるカーボンナノチューブと、エタノールとを含むスラリーである場合とを除く。)。」は、甲2-1に記載された発明との重なりのみを除く訂正とはなっていない。甲2-1には、特定の種類のPVB、Nanocyl NC7000、及びエタノールを、それぞれ特定の濃度や比率で超音波処理と長時間の機械的攪拌を行った場合にスラリーが得られることが記載されているのであって、「ポリビニルブチラールと、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるカーボンナノチューブと、エタノールとを含むスラリー」は、特許権者が甲2-1の記載の個別の箇所にある各用語を選択し、恣意的に作り上げた上位概念であり、このようなスラリーが甲2-1に開示されているわけではない。
(イ)訂正事項1-2における、「(但し、・・・チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるカーボンナノチューブ5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールがカーボンナノチューブに対して20質量%と、N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物である場合と・・・を除く。)。」は、甲1-5に記載された発明との重なりのみを除く訂正とはなっていない。この訂正は甲1-5の比較例1の「組成物」の組成の部分だけを除いたものであり、請求項1の発明特定事項の「カーボンナノチューブの動的光散乱法による平均粒子径(D50)が400nm以下である」の構成要件が除かれておらず、甲1-5において実施例にも比較例にもなる部分が除かれていることになる。
(ウ)訂正事項1-2における、「結着材」が何を指すのか不明確である。
(エ)訂正事項1-2における、「チューブ外径幾何標準偏差σD」が何を指すのか不明確である。
(オ)訂正事項1-2における、「スラリー」が何を指すのか不明確である。
イ 検討
本件訂正が、訂正要件に違反するものでないことは、上記(3)で述べたとおりであるが、念のため申立人1の主張について検討する。
(ア)上記ア(ア)の主張について
訂正において、新規事項の追加の有無の判断は、新たな技術的事項を追加するものであるか否かによって行うものであるところ、甲2-1に記載された発明を除く訂正において、甲2-1に記載された発明との重なりのみを除く訂正でなければならないというものではない。
そして、甲2-1に、具体的に記載されているのが、特定の種類のPVB、Nanocyl NC7000、及びエタノールを、それぞれ特定の濃度や比率で超音波処理と長時間の機械的攪拌を行った場合にスラリーが得られることだとしても、「ポリビニルブチラールと、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるカーボンナノチューブと、エタノールとを含むスラリー」は、甲2-1に記載された事項から包括的な技術的事項として記載されているものと理解できるため、除く訂正において、それを除くことに差し支えはない。
よって、上記ア(ア)の主張によっては上記(3)の判断は覆らない。
(イ)上記ア(イ)の主張について
訂正において、新規事項の追加の有無の判断は、新たな技術的事項を追加するものであるか否かによって行うものであるところ、甲1-5に記載された発明を除く訂正において、甲1-5に記載された発明との重なりのみを除く訂正でなければならないというものではない。
そして、甲1-5に、具体的に記載されているのは、カーボンナノチューブの動的光散乱法による平均粒子径(D50)が400n以下であるものであったとしても、「チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるカーボンナノチューブ5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールがカーボンナノチューブに対して20質量%と、N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物」は、甲1-5の比較例1の記載から、包括的な技術的事項として記載されているものと理解できるため、除く訂正において、それを除くことに差し支えはない。
よって、上記ア(イ)の主張によっては上記(3)の判断は覆らない。
(ウ)上記ア(ウ)の主張について
訂正において、用語が明確であるか否かは、訂正要件の判断を左右するものではない。なお、「結着材」は、樹脂組成物等に含有される成分として一般的に用いられる用語であるし、甲1-1には結着材についての説明として
「<結着剤>
結着材は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。結着材としてのポリマーの構造には制約がなく、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。これらの中では、耐酸化性の点でPVdFが好ましい。」(【0038】)
と記載されており、「結着材」の意味するところは明確である。
よって、上記ア(ウ)の主張によっては上記(3)の判断は覆らない。
(エ)上記ア(エ)の主張について
訂正において、用語が明確であるか否かは、訂正要件の判断を左右するものではない。なお、甲1-5の【0082】~【0084】には
「【0082】
(c-1)カーボンナノチューブ粉末のチューブ外径の幾何平均径及びチューブ外径の分布の幾何標準偏差の測定
カーボンナノチューブ粉末におけるチューブ外径の幾何平均径及びチューブ外径の分布の幾何標準偏差は、前記カーボンナノチューブの0.1%分散液を試料台にのせて乾燥させ、透過型顕微鏡(日本電子(株)社製 JEM-1200EXII型)により、2万倍で撮影した画像をA像くん(旭化成エンジニアリング(株)社製)で500点の繊維径(チューブ外径(D))を解析し、幾何平均径(MD)と幾何標準偏差(σD)は、以下の式により求めた。
[図:0001409088000001.jpg]
」
と記載されており、「チューブ外径幾何標準偏差σD」の意味するところは明確である。
よって、上記ア(エ)の主張によっては上記(3)の判断は覆らない。
(オ)上記ア(オ)の主張について
訂正において、用語が明確であるか否かは、訂正要件の判断を左右するものではない。なお、甲2-1の「2 Materials and testing methods」には、以下の記載がある。
「MWCNTs were dispersed in ethanol by sonication and then the polymer was added and the mixture was mechanically mixed. The slurry was then cast on a Mylar support, moving with a controlled speed, and the layer thickness was controlled by the height of the blade and the viscosity of the slurry.」
(日本語訳:MWCNTを超音波でエタノールに分散させ、ポリマーを加え、機械的に混合した。次に、スラリーをマイラー支持体上に、制御された速度で移動させながらキャスティングし、その層厚はブレードの高さとスラリーの粘性によって制御した。)
以上の記載によれば、カーボンナノチューブを超音波でエタノールに分散させ、ポリマーを加え、機械的に混合されたものがスラリーとされており、「スラリー」の意味するところは明確である。
よって、上記ア(オ)の主張によっては上記(3)の判断は覆らない。
(カ)小括
したがって、申立人1の上記アの主張によっては上記(3)の判断は覆らない。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~12に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて、「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0であって、
カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/gであり、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、
分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液(但し、分散剤、カーボンナノチューブ及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物である場合と、チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるカーボンナノチューブ5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールがカーボンナノチューブに対して20質量%と、N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物である場合と、合計を50.0gとしたときに、ポリビニルアルコール0.5gと、蒸留水49.0gと、多層カーボンナノチューブ0.5gとを含む組成物である場合と、ポリビニルブチラールと、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるカーボンナノチューブと、エタノールとを含むスラリーである場合とを除く。)。
【請求項2】
カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積が、200~550m2/gであることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0であって、
カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/gであり、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、
分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
カーボンナノチューブ(A)中の鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、シリカ、マンガン、およびモリブデンの総量が、0.5質量%未満であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
カーボンナノチューブ(A)の体積抵抗率が、1.0×10-2~2.5×10-2Ω ・cmであることを特徴とする請求項1~4いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°以上3°未満であることを特徴とする請求項1~5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
カーボンナノチューブ(A)の平均外径が、4nmを超えて16nm未満であることを特徴とする請求項1~6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
溶媒(B)が、アミド系有機溶媒または水であることを特徴とする請求項1~7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項9】
請求項1~8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液とバインダー(D)とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ樹脂組成物。
【請求項10】
請求項9記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物と活物質(E)とを含むことを特徴とする合材スラリー。
【請求項11】
請求項10記載の合材スラリーを塗工した電極膜(F)。
【請求項12】
正極と、負極と、リチウムを含む電解質とを具備してなるリチウムイオン二次電池であって、正極または負極の少なくとも一方が、請求項11記載の電極膜であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
第4 令和5年3月28日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった申立人1、2による特許異議の申立理由の概要
1 令和5年3月28日付けで通知した取消理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項1、2、5~12に係る発明は、甲第1-1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、設定登録時の請求項1、2、4~12に係る発明は、甲第1-1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由1」という。)。
イ 設定登録時の請求項1、2、5~8に係る発明は、甲第1-5号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また甲第1-5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由2」という。)。
ウ 設定登録時の請求項1、2、5~8に係る発明は、甲第1-6号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また甲第1-6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由3」という。)。
エ 設定登録時の請求項1、2、5~7に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、設定登録時の請求項1、2、4~7に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由4」という。)。
(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「取消理由5」という。)
本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0010】によれば、設定登録時の請求項1~12に係る発明は、以下のいずれかを課題としている。
ア 密着性および導電性の高い電極膜を得るためのカーボンナノチューブ分散液及びカーボンナノチューブ樹脂組成物を提供すること
イ 高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ樹脂組成物及び合材スラリーを提供すること
ウ 優れたレート特性を有するリチウムイオン二次電池を提供すること
ここで、「溶媒(B)」に関しては、本件明細書の発明の詳細な説明に「水」を「溶媒(B)」として選択できる技術的な根拠については記載されていないし、その実施例を参照しても、「溶媒 (B)」として「水」を用いた場合に、高い密着性及び導電性、分散性、レート特性を得られるとは理解できない。
したがって、本件発明の「溶媒(B)」として「水」を選択した場合に、上記ア~ウのいずれかの課題を解決できるとは認められず、設定登録時の請求項1~12に係る発明はサポート要件を満足するものとはいえない。
2 取消理由において採用しなかった申立人1による特許異議申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項3に係る発明は、甲第1-1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1」という。)。
イ 設定登録時の請求項1、2、5~12に係る発明は、甲第1-2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、設定登録時の請求項1~12に係る発明は、甲第1-2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2」という。)。
ウ 設定登録時の請求項1、2、5~12に係る発明は、甲第1-3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、設定登録時の請求項1~12に係る発明は、甲第1-3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由3」という。)。
エ 設定登録時の請求項1、2、5~8に係る発明は、甲1-4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、設定登録時の請求項1~8に係る発明は、甲第1-4号証及び甲第1-7号証~甲第1-12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由4」という。)。
(2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由5」という。)
設定登録時の請求項1~12に係る発明において、「溶媒」にはあらゆる溶媒が包含されるが、本件実施例で使用されているのはN-メチル-2-ピロリドンのみである。一方で、甲第1-13号証に示されるとおり、カーボンナノチューブは水に不溶であるため、例えば溶媒として水を用いた場合、カーボンナノチューブと水とビニルアルコールを単に混合しただけでは均一な分散液を得ることは難しい。そうすると、当業者が設定登録時の請求項1~12に係る発明を実施するには過度な試行錯誤が必要となる。
そうすると、設定登録時の請求項1~12に係る発明は、当業者が実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載されたものではない。
(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
ア 設定登録時の請求項4に係る発明は、カーボンナノチューブ中の鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、シリカ、マンガン及びモリブデンの総量を特定しているところ、本件明細書等にはカーボンナノチューブ中の特定の各種金属の測定方法も、実際に測定されたその総量も記載されていないため、発明の詳細な説明に記載された発明ではない(以下、「申立理由6」という。)。
イ 設定登録時の請求項1~12に係る発明について、発明の範囲内である実施例96では、得られたCNT及びCNT分散液を使用して作製したラミネート型リチウムイオン2次電池のレート特性と高温保存特性の評価である総合評価が×であるし、発明の範囲外となる実施例115では総合評価が△であり、発明の範囲内にある、実施例96の評価が発明の範囲外の実施例115より評価が劣ったものとなっている。そうすると、請求項1~12に係る発明は、課題を解決できない実施形態を含み、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。(以下、「申立理由7」という。)
3 取消理由において採用しなかった申立人2による特許異議申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項3、4に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、設定登録時の請求項3に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由8」という。)。
イ 設定登録時の請求項1~12に係る発明は、甲第2-2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第2-2号証に記載された発明及び甲第2-1号証若しくは甲第2-3号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由9」という。)。
(2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由10」という。)
設定登録時の請求項1~12に係る発明について、各実施例よりも比較例2~7の方が6rpmにおける粘度やTI値が低く、高い分散性を示している。そうすると、設定登録時の請求項1~12に係る発明は、従来の技術に対する優位性が理解できず、本発明が如何にして課題を解決することができるのか理解できない。
4 甲号証一覧
申立人1による特許異議申立書で証拠として提出される甲第1号証~甲第13号証を甲1-1~甲1-13といい、また、申立人2による特許異議申立書で証拠として提出される甲第1号証~甲第3号証を甲2-1~甲2-3という。
甲1-1:国際公開第2018/021073号
甲1-2:国際公開第2017/104178号
甲1-3:国際公開第2017/154949号
甲1-4:特表2016-539910号公報
甲1-5:特開2017-206412号公報
甲1―6:国際公開第2015/029949号
甲1-7:特願2014-073228の拒絶理由通知
甲1-8:“カーボンナノチューブ Future”、[online]、丸紅情報システムズ、[2017年12月6日検索]、インターネット
<https://web.archive.org/web/20160310031826/http://www.marubeni-sys.com:80/semi/cnt_web/cnano/index.html>
甲1-9:中国特許出願公開第104078090号明細書
甲1-10:国際公開第2016/024525号
甲1-11:国際公開第2015/119102号
甲1-12:特表2015-522103号公報
甲1-13:特開2016-6770号公報
甲2-1:S. Marchisio et al., “EFFICIENT DISPERSION OF CARBON NANOTUBES IN POLYVINYLBUTYRAL AND MECHANICAL PERFORMANCE OF COMPOSITES THEREOF”, PROCEEDINGS OF THE 15TH EUROPEAN CONFERENCE ON COMPOSITE MATERIALS, 2012, p.1 - p.7
甲2-2:国際公開第2017/099481号
甲2-3:再公表特許WO2018/047454号公報
第5 当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)甲号証の記載内容について
ア 甲1-1の記載内容
甲1-1には、下記の事項が記載されている(当審注:下線は当審による。また、「・・・」は当審による省略を意味する。以下同様。)。
(ア)「[請求項1] 分散剤、導電剤及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、
分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、
ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、
グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物。」
(イ)「[0009] 本発明は、上記問題と実情に鑑み、分散性及び耐酸化性が良好な電極用導電性樹脂組成物を提供することを課題とする。加えて、この電極用導電性樹脂組成物を用いて製造される分散性に優れた電極組成物、さらにそれらを用いて製造される低抵抗且つ結着性に優れた電極および高出力特性に優れ、良好なサイクル特性を有するリチウムイオン電池を提供することを課題とする。
[0010] 本発明者等は、上記課題を達成するために鋭意努力した結果、ポリビニルアルコールにアクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたポリマーを電極用導電性樹脂組成物中に分散剤として添加することで導電剤の分散性を向上させ且つ高い耐酸化性を示すことを見出した。
[0011] すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記より構成される。
(1)分散剤、導電剤及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000で、かつ鹸化度が90~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする電極用導電性樹脂組成物。」
(ウ)「[0040]<電極用導電性樹脂組成物>
電極用導電性樹脂組成物の製造には公知の方法を用いることができる。例えば、導電剤、結着材及びグラフト共重合体の溶媒分散溶液をボールミル、サンドミル、二軸混練機、自転公転式攪拌機、プラネタリーミキサー、ディスパーミキサー等により混合することで得られ、一般的には、スラリーにして用いられる。前記の導電剤、結着材及びグラフト共重合体としては、既述したものを用いればよい。電極用導電性樹脂組成物の分散媒としては、水、N-メチルピロリドン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。高分子結着材としてポリフッ化ビニリデンを使用する際は、溶解性の点でN-メチルピロリドンが好ましく、スチレン-ブタジエン共重合体を使用する際は水が好ましい。」
(エ)「[0053]<グラフト共重合体Aの合成>
得られたPVA1.65質量部を、ジメチルスルホキシド265.1質量部に添加し、60℃にて2時間撹拌して溶解させた。さらに、アクリロニトリル30.3質量部とジメチルスルホキシド3質量部に溶解させたペルオキソ二硫酸アンモニウム0.03質量部とを60℃にて添加し、60℃で撹拌しながらグラフト共重合させた。重合開始より4時間後、室温まで冷却し重合を停止させた。得られたグラフト共重合体Aを含む反応液297質量部をメタノール2970質量部中に滴下し、グラフト共重合体Aを析出させた。濾過してポリマーを分離して室温で2時間真空乾燥させ、更に80℃で2時間真空乾燥させた。得られたグラフト共重合体を含有する組成物の固形分は8.87質量部で、アクリロニトリルの重合率は前記固形分より前記式(3)を用いて計算すると23.8%であった。得られたグラフト共重合体A中のPANの質量は全ポリマーの81.4質量%であり、グラフト率は438%、PANのホモポリマーの質量平均分子量は256200であった。なお、グラフト率は、上記した式(1)を用いて算出した。
・・・
[0064]<実施例1>
(電極用導電性樹脂組成物の調製)
溶媒としてN-メチルピロリドン(関東化学株式会社製、以下、「NMP」と記載する。)、結着材としてポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、「HSV900」、以下、「PVdF」と記載する。)、導電剤としてカーボンブラック(デンカ社製、「Li-435」、以下、「Li-435」と記載する。)、分散剤として前記グラフト共重合体Aをそれぞれ用意した。PVdFが固形分で47.6質量%、Li-435が固形分で47.6質量%、グラフト共重合体Aが固形分で4.76質量%(分散剤の質量/導電剤の質量=0.1)となるように秤量して混合し、この混合物に固形分含有量が15質量%になるようにNMPを添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合し電極用導電性樹脂組成物を得た。
・・・
[0082]<実施例8>
実施例1の導電剤をカーボンナノチューブ(シーナノ社製、Flotube9000、以下、「CNT」と記載する。)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。」
イ 甲1-2の記載内容
甲1-2には、下記の事項が記載されている。
(ア)「[0001] 本発明は、正極用バインダー組成物及びこのバインダー組成物を用いた正極用スラリー、並びにこれを利用する正極及びリチウムイオン二次電池に関する。
・・・
発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は上記問題に鑑みて、耐酸化性が良好であるバインダーを提供することを目的とする。さらに、このバインダーを用いて製造される正極用スラリー、正極、及び正極からの金属溶出量を極めて低減したリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意努力した結果、ポリビニルアルコールにアクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合したポリマーが、耐酸化性が高いバインダーである事を見出した。」
(イ)「実施例
・・・
[0053] [実施例1]
(PVAの調製)
酢酸ビニル600質量部およびメタノール400質量部を仕込み、窒素ガスをバブリングして脱酸素したのち、重合開始剤としてビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.3質量部を仕込み、60℃で4時間重合させた。重合停止時の重合溶液の固形分濃度は48%であり、固形分から求めた酢酸ビニルの重合率は80%であった。得られた重合溶液にメタノール蒸気を吹き込んで、未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が40質量%になるようにメタノールで希釈した。
希釈したポリ酢酸ビニル溶液1200質量部に、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液20質量部を添加して、30℃で2時間鹸化反応を行った。
鹸化後の溶液を酢酸で中和し、濾過して100℃で2時間乾燥させてPVAを得た。得られたPVAの平均重合度は330、鹸化度は96.3モル%であった。
・・・
[0055] (バインダーAの調製)
以下にバインダーAの調製方法を記す。尚、本実施例において、バインダーとは本発明によるグラフト共重合体を意味する。
得られたPVA1.65質量部を、ジメチルスルホキシド265.1質量部に添加し、60℃にて2時間撹拌して溶解させた。さらに、アクリロニトリル30.3質量部とジメチルスルホキシド3質量部に溶解させたペルオキソ二硫酸アンモニウム0.03質量部を60℃にて添加し、60℃で撹拌しながらグラフト共重合させた。重合開始より4時間後 、室温まで冷却し重合を停止させた。」
(ウ)「[0061][表1]
[図:0001409088000002.jpg]
」
(エ)「[0062] [実施例2]
実施例1におけるビス(4-t-チルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部へ変更し、60℃で5時間重合した。重合率は80%であった。実施例1と同様に未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液2000質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で2.5時間鹸化反応を行った。
実施例1と同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度1650、鹸化度95.5モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてPANの重合を行い、バインダーBを調整した。バインダーBのPVAとPANの質量比は19:81であり、グラフト率は426%、PANのホモポリマー平均分子量は231100であった。この組成比、グラフト率、及びPANホモポリマーの質量平均分子量については、実施例1と同様の方法により測定した。以下の実施例3~9も同様である。
[0063] [実施例3]
実施例1における酢酸ビニルを900質量部、重合開始剤ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部に変更し、60℃5時間で重合させた。重合率は70%であった。ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液2000質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で2.5時間鹸化反応を行った。実施例1と同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度2940、鹸化度94.8モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてPANの重合を行い、バインダーCを調製した。バインダーCのPVAとPANの質量比は21:79であり、グラフト率は376%PANのホモポリマー質量平均分子量は253800であった。
[0064] [実施例4]
実施例1における酢酸ビニルを550質量部、重合開始剤ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部に変更し、60℃5時間で重合させた。重合率は75%であった。ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液2000質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で2時間鹸化反応を行った。実施例1と同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度1440、鹸化度91.2モル%のPVAを得た。得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてPANの重合を行い、バインダーDを調製した。バインダーCのPVAとPANの質量比は23:77であり、グラフト率は335%、PANのホモポリマー質量平均分子量は223900であった。
[0065] [実施例5]
実施例2における、鹸化反応時間を30℃で5時間鹸化反応を行った以外は実施例2と同様にしてバインダーEの調製を行った。得られたPVAの平均重合度は1650、鹸化度は99.9%、バインダーEのPVAとPANの質量比は22:78であり、グラフト率は355%、PANのホモポリマーの質量平均分子量は221600であった。」
(オ)「[0079] [実施例10]
バインダーAを使用し、以下の方法にて正極用スラリーを調製し、剥離接着強さを測定した。さらに正極用スラリーより正極およびリチウムイオン二次電池を作製し、電極の剥離強度強さ、放電レート特性、サイクル特性及びOCV維持率の評価を行なった。結果を表3に示す。
・・・
[0080] [表3]
[図:0001409088000003.jpg]
[0081] (正極用スラリーの調製)
得られたバインダーA:7質量部を、N-メチルピロリドン(以下、NMPと略す)92質量部に溶解させてバインダー溶液とした。さらに、アセチレンブラック(デンカ株式会社製のデンカブラック(登録商標)「HS-100」)3.72質量部、繊維状炭素としてCNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」のNMP分散液を固形分換算で1.86質量部、バインダー溶液を固形分換算で8質量部を撹拌混合した。混合後、LiNi0.5Mn1.5O4:87.42質量部を加えて撹拌混合し、正極用スラリーを得た。」
(カ)「[0090] [実施例11~14]
実施例10におけるバインダーAを、表3に示したバインダーに変更した。それ以外は実施例10と同様な方法で各評価を実施した。結果を表3に示す。」
ウ 甲1-3の記載内容
甲1-3には、下記の事項が記載されている。
(ア)「[0001] 本発明は、負極用バインダー組成物及びこのバインダー組成物を用いた負極用スラリー、並びにこれを利用する負極及びリチウムイオン二次電池に関する。
・・・
発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は上記問題に鑑みて、例えば、電極や活物質との結着性、更には耐還元性が良好であるバインダーを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意努力した結果、ポリビニルアルコールに(メタ)アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたポリマーが、耐還元性が高く結着性が良好なバインダーである事を見出した。」
(イ)「[実施例]
・・・
[0059] [実施例1]
(PVAの調製)
酢酸ビニル600質量部及びメタノール400質量部を仕込み、窒素ガスをバブリングして脱酸素したのち、重合開始剤としてビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.3質量部を仕込み、60℃で4時間重合させた。重合停止時の重合溶液の固形分濃度は48%であり、固形分から求めた酢酸ビニルの重合率は80%であった。得られた重合溶液にメタノール蒸気を吹き込んで、未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が40質量%になるようにメタノールで希釈した。希釈したポリ酢酸ビニル溶液1200質量部に、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液20質量部を添加して、30℃で1.5時間鹸化反応を行った。
鹸化後の溶液を酢酸で中和し、濾過して100℃で2時間乾燥させてPVAを得た。得られたPVAの平均重合度は320、鹸化度は86.3モル%であった。
・・・
[0061] (バインダーAの調製)
以下にバインダーAの調製方法を記す。尚、本実施例において、バインダーとは本発明によるグラフト共重合体を意味する。
得られたPVA8.00質量部を、ジメチルスルホキシド265.1質量部に添加し、60℃にて2時間撹拌して溶解させた。更に、アクリロニトリル30.3質量部とジメチルスルホキシド3質量部に溶解させたペルオキソ二硫酸アンモニウム0.03質量部を60℃にて添加し、60℃で撹拌しながらグラフト共重合させた。重合開始より4時間後、室温まで冷却し重合を停止させた。」
(ウ)「[0067]
[表1]
[図:0001409088000004.jpg]
」
(エ)「[0068] [実施例2]
実施例1におけるビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートを0.15質量部へ変更し、酢酸ビニルの仕込み量を630質量部へ変更し、60℃で5時間重合した。重合率は80%であった。実施例1と同様に未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液2000質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で2.5時間鹸化反応を行った。
実施例1と同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度1650、鹸化度95.2モル%のPVAを得た。得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてPANの重合を行い、バインダーBを調製した。バインダーBのPVAとPANの質量比は60.0:40.0であり、グラフト率は65%、PANのホモポリマー平均分子量は124500であった。この組成比、グラフト率、及びPANホモポリマーの質量平均分子量については、実施例1と同様の方法により測定した。以下の実施例3~9も同様である。
[0069] [実施例3]
実施例1における酢酸ビニルを930質量部、重合開始剤ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートを0.15質量部に変更し、60℃5時間で重合させた。重合率は70%であった。ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液2000質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で1.5時間鹸化反応を行った。
実施例1と同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度2990、鹸化度88.6モル%のPVAを得た。得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてPANの重合を行い、バインダーCを調製した。バインダーCのPVAとPANの質量比は41.5:58.5であり、グラフト率は137%、PANのホモポリマー質量平均分子量は156200であった。
[0070] [実施例4]
実施例1における酢酸ビニルを630質量部、重合開始剤ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートを0.15質量部に変更し、60℃5時間で重合させた。重合率は75%であった。ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液2000質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で0.5時間鹸化反応を行った。
実施例1と同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度1740、鹸化度71.4モル%のPVAを得た。得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてPANの重合を行い、バインダーDを調製した。バインダーDのPVAとPANの質量比は58.4:41.6であり、グラフト率は69%、PANのホモポリマー質量平均分子量は135600であった。
[0071] [実施例5]
実施例2における、鹸化反応時間を30℃で3時間鹸化反応を行った以外は実施例2と同様にしてバインダーEの調製を行った。得られたPVAの平均重合度は1610、鹸化度は98.2%、バインダーEのPVAとPANの質量比は59.6:40.4であり、グラフト率は66%、PANのホモポリマーの質量平均分子量は128400であった。」
(オ)「[0086] [実施例10]
バインダーAを使用し、以下の方法にて正極用スラリーを調製し、剥離接着強さを測定した。更に負極用スラリーより負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、電極の剥離強度強さ、放電レート特性、サイクル特性の評価を行なった。結果を表3に示す。
[0087]
[表3]
[図:0001409088000005.jpg]
[0088] (負極用スラリーの調製)
得られたバインダーA8質量部を、N-メチルピロリドン(以下、NMPと略す)92質量部に溶解させてバインダー溶液とした。
更に、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ株式会社製のデンカブラック(登録商標)「HS-100」)を、負極用スラリー中の固形分換算で1.5質量部、導電助剤として繊維状炭素としてCNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」のNMP分散液を、負極用スラリー中の固形分換算で1.5質量部、バインダー溶液を、負極用スラリー中の固形分換算で7質量部撹拌混合した。混合後、負極活物質として人造黒鉛(TIMICAL社製、商品名KS-6)を、負極用スラリー中の固形分換算で80質量部、負極活物質として珪素粉末(ニラコ社製、350メッシュ、純度:99.9%)を、負極用スラリー中の固形分換算で10質量部添加して撹拌混合し、負極用スラリーを得た。」
(カ)「[0094]
・・・
[実施例11~18] 実施例10におけるバインダーAを、表3に示したバインダーに変更した。それ以外は実施例10と同様な方法で各評価を実施した。結果を表3に示す。」
エ 甲1-4の記載内容
甲1-4には、下記の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ高含有流体に関する。」
(イ)「【0015】
別の実施形態では、離散カーボンナノチューブおよび界面活性剤を含む流体は、約0.2より大きくかつ約3より小さい、離散カーボンナノチューブの重量に対する界面活性剤の重量分率の範囲で、界面活性剤を含む。・・・界面活性剤は、ポリマーまたはポリマーの組合せを含むことができ、それは、流体の重量に対してポリマーの少なくとも0.5重量%まで、流体内で可溶性である。ポリマーは、酸素部分および/または硫酸部分、好ましくは、ポリビニルアルコールまたはその共重合体をさらに含むことができる。
・・・
【0020】
別の実施形態は、離散カーボンナノチューブおよび界面活性剤を含む流体を含むリチウムイオン電気活性ペーストを含む。リチウムイオン電気活性ペーストは、リチウムイオンの吸収および脱着を可能にするようにリチウムと合金を形成する化合物または元素を含むリチウムを含むことができる。化合物を含むリチウムの例としては、限定されないが、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸マンガンリチウム、チタン酸リチウムおよびニッケルマンガンコバルト酸リチウム等、リチウム遷移金属酸化物またはリン酸塩が挙げられる。
【0021】
リチウムと合金を形成する元素は、たとえば、範囲は限定されないが、珪素、炭素、珪素炭素合金および錫である。電気活性ペーストのさらなる成分は、範囲は限定されないが、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール共重合体およびスチレン-ブタジエン共重合体等の結合剤を含むことができる。」
(ウ)「【0030】
本明細書で用いる「離散カーボンナノチューブ」という用語は、実質的にそれ以上破壊することなく個別のチューブになるように分離されるカーボンナノチューブを指す。」
(エ)「【0046】
離散カーボンナノチューブ(DCNT)またはMolecular Revar(MR)を作製する全体的なプロセス
カーボンナノチューブを製造する際、離散カーボンナノチューブを作製するために、繊維の束の形態であるCNTは異なる供給源から取得することができる。しかしながら、本明細書で用いる例では、CNanoから入手されるカーボンナノチューブ、グレードFlotube 9000を用いることができる。」
(オ)「【0052】
離散カーボンナノチューブを作製する例示的なプロセスは以下の通りである。>65%硝酸における1.2%CNT(CNanoから入手、Flotube 9000)の16リットル混合物を、34mm超音波端子(sonitrode)を用いて1000ワットHielscherセルを通して1.5l/分で圧送する。背圧は30psiであり、振幅を85%に設定し、記録されたワットは500~600である。16リットルのすべてがセルを通して圧送された後、CNTスラリーを超音波処理装置タンク内に再度排出し、たとえば、光学顕微鏡法および/またはUV吸収によって試験されるように、CNTが所望の仕様まで剥離されるまで、プロセスを繰り返す。材料を処理するかまたは繰り返す回数は、所望の剥離の程度に達するために必要な全体的なエネルギーの量によって決まる。・・・終了すると、CNTは、離散カーボンナノチューブ、すなわちMolecular Rebarに変換されている。」
(カ)「【0067】
実施例2
30gのMolecular Rebar(約900ナノメートルの平均長さL、約13ナノメートルの平均径D、1.8重量%の酸化および1.6重量%の残留含有量)と570mlの水とを、1リットルビーカ内に配置する。15gのポリビニルアルコール、PVA(Sigma、87%~0%加水分解、分子量、30kDa~70kDaの範囲の重量平均)を、100mlの15%ストック溶液として添加し、800rpmで回転しているオーバーヘッド攪拌機を用いて15mlの追加の水と混合する。これにより、重量で1割合MR対0.5割合のPVA比が得られる。撹拌の5分後、1M NaOHでpHを7に調整する。混合物は、その粘度を大幅に低下させるように観察され、オーバーヘッド混合機を300rpmに減速させる。水を用いて体積を合計1Lに調整して、pH7での3.0重量%のMolecular Rebarと1.5重量%のポリビニルアルコール(1:0.5)の最終的な混合物をもたらす。そして、この混合物を、低温室で2時間、オーバーヘッド撹拌によって8℃まで冷却する。Matten-Gaulin混合機を、50MPaの圧力でそのシステムを通して1リットルの氷冷水を流すことによって事前に冷却した。そして、冷却されたMR混合物を器具に2回通す。完全な分散は、数週間の期間にわたって3cPである乳状液の流動性を保持し、観察可能な変化が全くかほとんどなく、完全な分散を維持する。」
オ 甲1-5の記載内容
甲1-5には、下記の事項が記載されている。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は分散性、分散安定性が高く、高濃度であっても粘度が低いカーボンナノチューブ分散液を提供することにある。 」
(イ)「【0082】
(c-1)カーボンナノチューブ粉末のチューブ外径の幾何平均径及びチューブ外径の分布の幾何標準偏差の測定
カーボンナノチューブ粉末におけるチューブ外径の幾何平均径及びチューブ外径の分布の幾何標準偏差は、前記カーボンナノチューブの0.1%分散液を試料台にのせて乾燥させ、透過型顕微鏡(日本電子(株)社製 JEM-1200EXII型)により、2万倍で撮影した画像をA像くん(旭化成エンジニアリング(株)社製)で500点の繊維径(チューブ外径(D))を解析し、幾何平均径(MD)と幾何標準偏差(σD)は、以下の式により求めた。
[図:0001409088000006.jpg]
」
(ウ)「【0094】
以下の方法でカーボンナノチューブサンプルを合成した。
・・・
【0099】
[サンプルE]
Nanocyl s.a. 製のカーボンナノチューブ「NC7000」。
【0100】
サンプルA~Eのカーボンナノチューブの特性を表1に示す。
【0101】
【表1】
[図:0001409088000007.jpg]
」
(エ)「【0104】
[実施例1]
チューブ外径幾何標準偏差σDが1.37であるカーボンナノチューブAが10重量%、分散剤としてのポリビニルブチラール(PVB)(積水化学工業(株)製)がカーボンナノチューブに対して10重量%になるよう、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に投入し、超音波分散機SONIFIER MODEL450D(BRANSON製)を用いて、出力20Wで30分処理することによって、分散液中におけるカーボンナノチューブの動的光散乱粒子径(D50)が198nmで、粘度が44.1mPa・sであるカーボンナノチューブ分散液を得た。
・・・
【0118】
[比較例1]
チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるカーボンナノチューブEが5重量%、分散剤としてのPVBがカーボンナノチューブに対して20重量%になるよう、NMPに投入し、超音波分散機SONIFIER MODEL450D(BRANSON製)を用いて、出力20Wで90分処理したが、分散できずに半固形の塊になってしまった。」
カ 甲1-6の記載内容
甲1-6には、下記の事項が記載されている。
(ア)「[0027] 繊維状導電性カーボン材料の具体例としては、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等が挙げられるが、導電性、分散性、入手性などの観点からCNTが好ましい。」
(イ)「[0070][比較例1-3]
ポリビニルアルコール(東亞合成(株)製、JF-17)0.5gと、蒸留水49.0gとを混合し、さらにそこへ多層CNT(Nanocyl社製“NC7000”)0.5gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて室温で30分間超音波処理を行い、導電性炭素材料分散液の調製を試みたが、処理後も混合物中には凝集物が存在し、均一な分散液を得ることができなかった。」
(ウ)「[0074] 以上の結果からわかるように、実施例の導電性炭素材料分散液においては凝集物が発生しておらず、これらの分散液は均一であったのに対し、分散剤としてポリビニルピロリドンを用いた場合は凝集物を含まない導電性炭素材料分散液が得られたものの、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウムまたはポリアクリル酸アンモニウムを用いた場合、凝集物が発生して均一な導電性炭素材料分散液を得ることができなかった。
以上のことから、オキサゾリンポリマーが、導電性炭素材料を水へ分散するための分散剤として有効に作用することがわかった。」
キ 甲1-7の記載内容
「上記の「FloTubeTM 9000」という商品は、物性データ表(必要であれば、文献Bを参照)によると、表面積が180~250m2/g(本願の請求項1の「BET比表面積値が70~250m2/g」に相当)、純度が95.0~97.5%(本願の請求項4の「C純度が90%以上」に相当)である。」(「●理由2について ●理由3について」の2段落目)
ク 甲1-8の記載内容
甲1-8は、ウェイバックマシン(URL:https://web.archive.org)を利用して、URLが「http://www.marubeni-sys.com」であるウェブページを検索し、2016年3月10日の箇所を選択して表示させたウェブページであるから、甲1-8の内容は本件特許に係る出願日前に公知であったと認められる。
そして、甲1-8には、下記の事項が記載されている。
「
[図:0001409088000008.jpg]
」
ケ 甲1-9の記載内容
「
[図:0001409088000009.jpg]
」
(日本語訳:5質量部のカーボンナノチューブ(北京天海有限会社により製造された、直径約11nm、平均長10μm、及び比表面積180~250m2/gのFlotube 9000)、1.2質量部の分散剤PVP、及び93.8質量部の混合溶媒を均一に攪拌し、サンドミルで数回研磨し、カーボンナノチューブ分散液を得た。)
コ 甲1-10の記載内容
(ア)「[0044]
[図:0001409088000010.jpg]
」
(イ)「[0063]<比較例1>
導電剤をCNano社製CNF(Flotube9000)とした以外は、実施例1と同様にして正極スラリーを作製した。このCNFはD/G値が1.7、メジアン径D50値が43μmであり、極板抵抗は実施例1、2に劣る結果となった。結果を表2に示す。」
サ 甲1-11の記載内容
「[0071]
[表2]
[図:0001409088000011.jpg]
・・・
[0079] (比較例9)
市販のCNF(CNano社、Flotube9000)の体積抵抗率、D/G値、比表面積および粒度分布を測定した。結果を表2に示す。」
シ 甲1-12の記載内容
「【0002】
様々な形態のカーボンナノチューブが開示されてきた。しかし、繊維には絡まる性質があるため、繊維または微小繊維の形態である従来のカーボンナノチューブは「凝集」して、とうてい理想的とは言えずその最大能力まで有用とすら言い難いものとなる。本発明は、これらのナノチューブを個々の繊維および微小繊維に分離するための方法を提供するものであり、これらの分離された「離散した」(絡まっていない)カーボンナノチューブ繊維は、他の材料の補強を含めた多くの用途に有用である。本発明のある実施形態では、離散カーボンナノチューブ繊維は、とりわけ、発泡体、接着剤、シーラント、塗膜、およびエラストマーを作製するために、ウレタンポリマーおよびプレポリマーに使用される。
・・・
【0028】
Molecular Rebarである離散カーボンナノチューブの製造
離散カーボンナノチューブを生成するための実例となる方法は以下の通りである。3リットルの硫酸(97パーセントの硫酸および3パーセントの水を含有する)、および1リットルの濃硝酸(70パーセントの硝酸および30パーセントの水を含有する)を、超音波処理器および撹拌機が取り付けられた10リットルの温度制御式反応器に添加する。酸混合物を撹拌し、温度を30℃に維持しながら、40グラムの非離散カーボンナノチューブ(グレードFlowtube 9000、CNano corporation製)を反応器内に入れ、超音波処理器の出力を130~150ワットに設定し、反応を3時間継続させる。3時間後に、粘性の溶液を5ミクロンのフィルタメッシュを備えたフィルタに移し、酸混合物の大半を、100psiの圧力を使用する濾過によって除去する。濾過ケークを約4リットルの脱イオン水で1回洗浄し、続いて約4リットルのpHが9より大きい水酸化アンモニウム溶液で1回洗浄し、次いで4リットルの脱イオン水でさらに2回洗浄する。最終洗浄で得られるpHは4.5である。」
ス 甲1-13の記載内容
「【0070】
[比較例1-3]
ポリビニルアルコール(東亞合成(株)製、JF17)0.5gと、蒸留水49.0gとを混合し、さらにそこへ多層CNT(Nanocyl社製“NC7000”)0.5gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて室温で30分間超音波処理を行い、導電性炭素材料分散液の調製を試みたが、処理後も混合物中には凝集物が存在し、均一な分散液を得ることができなかった。
【0071】
[比較例1-4 ]
ポリアクリルアミド水溶液(Aldrich製、重量平均分子量10,000、固形分濃度50質量%)1.0gと、蒸留水48.5gとを混合し、さらにそこへ多層CNT(Nanocyl社製“NC7000”)0.5gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて室温で30分間超音波処理を行い、導電性炭素材料分散液の調製を試みたが、処理後も混合物中には凝集物が存在し、均一な分散液を得ることができなかった。
【0072】
[比較例1-5]
ポリアクリル酸ナトリウム(PAA-Na)を含む水溶液であるアロンA-7195(東亞合成(株)製、固形分濃度19質量%)2.63gと、蒸留水46.87gとを混合し、さらにそこへ多層CNT(Nanocyl社製“NC7000”)0.5gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて室温で30分間超音波処理を行い、導電性炭素材料分散液の調製を試みたが、処理後も混合物中には凝集物が存在し、均一な分散液を得ることができなかった。
【0073】
[比較例1-6]
ポリアクリル酸アンモニウム(PAA-NH4)を含む水溶液であるアロンA-30(東亞合成(株)、固形分濃度31.6質量%)1.58gと、蒸留水47.92gとを混合し、さらにそこへ多層CNT(Nanocyl社製“NC7000”)0.5gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて室温で30分間超音波処理を行い、導電性炭素材料分散液の調製を試みたが、処理後も混合物中には凝集物が存在し、均一な分散液を得ることができなかった。
【0074】
以上の結果からわかるように、実施例の導電性炭素材料分散液においては凝集物が発生しておらず、これらの分散液は均一であったのに対し、分散剤としてポリビニルピロリドンを用いた場合は凝集物を含まない導電性炭素材料分散液が得られたものの、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウムまたはポリアクリル酸アンモニウムを用いた場合、凝集物が発生して均一な導電性炭素材料分散液を得ることができなかった。
以上のことから、オキサゾリンポリマーが、導電性炭素材料を水へ分散するための分散剤として有効に作用することがわかった。」
セ 甲2-1の記載内容
甲2-1には、下記の事項が記載されている。
(ア)「In this paper, we present the results about dispersion of carbon nanotubes in ethanol by use of polyvinyl butyral as dispersing agent, and the use of such a polymer as the matrix in the preparation, by tape casting, of composite tapes with improved mechanical properties. Polyvinyl butyral is a thermoplastic polymer, easily commercially available with various brands, used in many applications as adhesive, matrix, binder.
The purpose of this paper is not only to obtain carbon nanotubes-polymer composites with suitable characteristics, but also to produces them with low cost raw materials. Therefore we used for our experiments industrial grade nanotubes Nanocyl NC7000. These MWNT are produced by Nanocyl by CVD in large amounts and are currently among the cheaper CNTs on the market.」(第1頁下から2行~第2頁第8行)
(日本語訳:本論文では、分散剤としてポリビニルブチラールを用いたエタノール中へのカーボンナノチューブの分散を示す。本論文では、ポリビニルブチラールを分散媒として用いたエタノール中へのカーボンナノチューブの分散についての結果と、機械的特性を向上させた複合テープのテープキャスティングによる作製におけるマトリックスとしてのこのようなポリマーの利用を発表する。ポリビニルブチラールは熱可塑性ポリマーで、様々なブランドで市販されており、接着剤、マトリックス、バインダーとして多くの用途で使用されている。
本論文の目的は、適切な特性を持つカーボンナノチューブ-ポリマー複合材料を得ることだけでなく、安価な原材料でそれらを製造することである。そのため、我々は工業用グレードのナノチューブであるNanocyl NC7000を実験に使用した。このMWNTは、Nanocyl社によってCVDにより大量に生産されているもので、現在市販されているCNTの中では安価な部類に入る。)
(イ)「2 Materials and testing methods
Polyvinyl butyral (PVB) has been used in the form of the commercial Butvar product (produced by Solutia), and two kinds of PVB were used: PVB-98, containing between 18 and 20% of PVOH and with a molecular weight between 5000 and 6000; PVB-76, containing between 12 and 14% of PVOH and with a molecular weight between 10000 and 11000. Nanocyl NC7000 nanotubes were used, with an average diameter of 9.5 nm, average length of 1.5 μm, 90% carbon purity, 10% metal oxide residuum after burning out of the carbon, and a surface are around 250-300 m2/g.
Tape casting process consist in casting a viscous slurry over a polymeric support, through the use of a doctor blade with controlled gap. The processing method involved the following steps: slurry preparation, tape casting and solvent evaporation. MWCNTs were dispersed in ethanol by sonication and then the polymer was added and the mixture was mechanically mixed. The slurry was then cast on a Mylar support, moving with a controlled speed, and the layer thickness was controlled by the height of the blade and the viscosity of the slurry. The organic solvents were then slowly removed by controlled evaporation in air at ambient temperature. Different samples were prepared by modifying the amount of CNTs.」(第2頁第9行~第24行)
(日本語訳:2.材料と試験方法
ポリビニルブチラール(PVB)は、市販のButvar製品(Solutia社製)の形で使用し、2種類のPVBを使用した。PVB-98は、18~20%のPVOHを含み、分子量は5000~6000の間であり、PVB-76は12~14%のPVOHを含み、分子量は10000~11000の間である。使用したNanocyl NC7000ナノチューブは、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gである。
テープキャスティングプロセスは、粘性のあるスラリーをポリマー支持体上にキャスティングするもので、ギャップを制御したドクターブレードを使用する。この加工法は、次のような工程、スラリーの調製、テープキャスティング、溶媒の蒸発を含む。MWCNTを超音波でエタノールに分散させ、ポリマーを加え、機械的に混合した。次に、スラリーをマイラー支持体上に、制御された速度で移動させながらキャスティングし、その層厚はブレードの高さとスラリーの粘性によって制御した。有機溶媒は、大気中、室温でゆっくりと蒸発させて除去した。CNTの量を変更することで、異なる材料を調製した。)」
(ウ)「By increasing the quantity of PVB it is possible to increase the amount of nanotubes in suspension, even if it is necessary to go up to PVB/CNT=80 to obtain a complete dispersion of the nanotubes.」(第4頁第11行~第13行)
(日本語訳:PVBの量を増やすことで、懸濁液中のナノチューブの量を増加させることができるが、ナノチューブの完全な分散液を得るためにはPVB/CNT=80まで上げる必要がある。)
ソ 甲2-2の記載内容
甲2-2には、下記の事項が記載されている。
(ア)「[20]
[図:0001409088000012.jpg]
」
(日本語訳:また、本発明の他の実施形態によると、上述の正極を含むリチウム二次電池、電池モジュール及び電池パックをそれぞれ提供する。」
(イ)「[41]
[図:0001409088000013.jpg]
」
(日本語訳:具体的には、本発明の一実施形態に係る二次電池用正極は、正極活物質と、導電材と、分散剤とを含む正極活物質層を含み、前記導電材は、カーボンナノチューブ単位体の平均ストランド直径が15nm以下の束型カーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブは、波長532nmのレーザを用いたラマン分光分析により得られた1580±50cm -1 におけるGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm -1 のDバンド の最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.7であり、標準偏差値が1.3~2.0%であり、前記正極活物質層は3.0g/cc以上の充填密度を有し、前記充填 密度における水銀圧入法による細孔径分布測定時、下記式(1)による平均細孔径(P)が0.1μm~0.5μmである。」
(ウ)「[101]
[図:0001409088000014.jpg]
」
(日本語訳:本発明で使用可能なカーボンナノチューブのBET比表面積は200m2/g~330m2/gであり、より具体的には240m2/g~280m2/gであり得る。)
(エ)「[111]
[図:0001409088000015.jpg]
[図:0001409088000016.jpg]
」
(日本語訳:具体的には、前記カーボンナノチューブは、触媒由来金属元素の中でも、Fe、Ni及びMoの金属元素を総合計量で3mg/kg以下、より具体的には2mg/kg以下の含有量で含むことができ、より具体的には 上記の金属元素、すなわち、Fe、NiおよびMoの少なくともいずれか、特にFeを含まないものであってもよい。)
(オ)「[157]
[図:0001409088000017.jpg]
」
(日本語訳:分散剤はニトリル系ゴムである得る、より具体的には部分的または全体として水素化されたニトリルブタジエン系ゴムであり得る。)
(カ) 「[179]
[図:0001409088000018.jpg]
」
(日本語訳:また、本発明の一実施形態に係る二次電池用正極において、前記正極活物質層は、活物質粒子同士の付着力及び正極活物質と集電体との接着力を向上させるためにバインダーをさらに含んでもよい。)
(キ)「[180]
[図:0001409088000019.jpg]
」
(日本語訳:バインダーは、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(ポリアクリロニトリル)、カルボキシメチル セルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化- EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはそれらの様々なコポリマーなどが挙げられ、これらのうちの1種単独または2種以上の混合物を使用することができる。)
(ク) 「[184]
[図:0001409088000020.jpg]
」
(日本語訳:具体的には、前記正極活物質層形成用組成物は、カーボンナノチューブおよび分散剤を溶媒の中に分散させて導電材分散液を製造した後、これに正極活物質及びバインダー、また、必要な場合に溶媒をさらに添加し、混合することで製造され得る。)
(ケ) 「[0187]
[図:0001409088000021.jpg]
」
(日本語訳:また、前記導電材分散液において、前記溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;・・・ などのエステル類などが挙げられ、これらのいずれか1つまたは2つ以上の混合物を使用することができる。)
タ 甲2-3の記載内容
「【0023】本発明で用いるMWCNTは、9.8Mpaの荷重下で測定した粉体抵抗率が0.035Ω・cm以下である。粉体抵抗率が0.035Ω・cmを超えると、活物質と電極間の導電性が低下する。
・・・
【0070】
【表2】
[図:0001409088000022.jpg]
」
(2)甲1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6、2-1、2-2に記載された発明について
ア 甲1-1に記載された発明
上記(1)ア(ア)によれば、甲1-1には、「分散剤、導電剤及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物。」が記載されている。
また、上記同(ウ)によれば、「電極用導電性樹脂組成物」は「分散媒」を含んでおり、「導電剤、結着材及びグラフト共重合体の溶媒分散溶液を」「混合することで得られ、一般的には、スラリーにして用いられる」ものである。
さらに、上記同(エ)よれば、導電剤を変更した以外、実施例1と同様とされる実施例8に注目すると、「電極用導電性樹脂組成物」として、導電剤として「シーナノ社製」の「カーボンナノチューブ」である「Flotube9000」、溶媒(分散媒)として「N-メチルピロリドン」、分散剤として「グラフト共重合体A」及び結着材を「均一になるまで混合し」たものが記載されている。
そうすると、甲1-1には、以下の発明が記載されているといえる。
甲1-1発明
「 分散剤、導電剤、分散媒及び結着材を含有し、スラリーにして用いられる電極用導電性樹脂組成物であって、
導電剤は、シーナノ社製のカーボンナノチューブであるFlotube9000であり、
分散媒はN-メチルピロリドンであり、
分散剤は、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物。」
イ 甲1-2に記載された発明
甲1-2に記載された事項を整理する。
上記(1)イ(イ)、(ウ)、(エ)によれば、バインダーA、C、D、Eは、ポリビニルアルコールにアクリロニトリルをグラフト共重合させたグラフト共重合体である。
同(オ)によれば、実施例10として、「バインダーA」を「N-メチルピロリドン」に溶解させたバインダー溶液に、「CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」のNMP分散液」を攪拌混合したものが記載されており、同(カ)によれば、実施例11~13として、バインダーC(実施例11)、バインダーD(実施例12)、バインダーE(実施例13)を「N-メチルピロリドン」に溶解させたバインダー溶液に「CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」のNMP分散液」を攪拌混合したものが記載されている。
そうすると、甲1-2には以下の発明が記載されているといえる。
甲1-2発明
「 ポリビニルアルコールにアクリロニトリルをグラフト共重合させたグラフト共重合体であるバインダーをN-メチルピロリドンに溶解させたバインダー溶液に、CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」のNMP分散液を攪拌混合したもの。」
ウ 甲1-3に記載された発明
甲1-3に記載された事項を整理する。
上記(1)ウ(イ)、(ウ)、(エ)によれば、バインダーA~Iは、ポリビニルアルコールにアクリロニトリルをグラフト共重合させたグラフト共重合体である。
同(オ)によれば、実施例10として、「バインダーA」を、「N-メチルピロリドン」に溶解させたバインダー溶液、「アセチレンブラック」、「CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」のNMP分散液」を攪拌混合したものが記載されており、同(カ)によれば、実施例11~18として、バインダーB(実施例11)、バインダーC(実施例12)、バインダーD(実施例13)、バインダーE(実施例14)、バインダーF(実施例15)、バインダーG(実施例16)、バインダーH(実施例17)、バインダーI(実施例18)と、「N-メチルピロリドン」に溶解させたバインダー溶液、「アセチレンブラック」、「CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」のNMP分散液」を攪拌混合したものが記載されている。
そうすると、甲1-3には以下の発明が記載されているといえる。
甲1-3発明
「 ポリビニルアルコールにアクリロニトリルをグラフト共重合させたグラフト共重合体であるバインダーをN-メチルピロリドンに溶解させたバインダー溶液、アセチレンブラック、CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」のNMP分散液を攪拌混合したもの。」
エ 甲1-4に記載された発明
甲1-4に記載された事項を整理する。
上記(1)エ(カ)には、実施例2として、Molecular Rebarと水にポリビニルアルコールを添加し混合したものが記載され、「完全な分散は、数週間の期間にわたって3cPである乳状液の流動性を保持し、観察可能な変化がほとんどなく、完全な分散を維持する」との記載によれば、これは「分散液」であるといえる。また、同(オ)の記載によれば、Molecular Rebarとは、CNanoから入手されるカーボンナノチューブであるFlotube 9000を>65%硝酸と混合し、超音波処理を行うことによって、CNanoから入手されるカーボンナノチューブであるFlotube 9000を所望の仕様まで剥離させたものであるといえる。
そうすると、甲1-4には、以下の発明が記載されているといえる。
甲1-4発明
「 CNanoから入手されるカーボンナノチューブであるFlotube 9000を所望の仕様まで剥離されるようにした離散カーボンナノチューブすなわちMolecular Rebarと、水と、ポリビニルアルコールを混合した分散液。」
オ 甲1-5に記載された発明
上記(1)オ(エ)の比較例1において、同(ウ)によれば、「カーボンナノチューブE」は、Nanocyl s.a. 製のカーボンナノチューブ「NC7000」であり(【0099】)、同(エ)によれば、「NMP」は、N-メチル-2-ピロリドンである(【0104】)。
さらに、同(ウ)によれば、「カーボンナノチューブE」のBET比表面積は275m2/gであり、チューブ外径の幾何平均径は11.4nmである(【0101】【表1】)。
これらを踏まえると、甲1-5には、以下の発明が記載されていると認められる。
甲1-5発明
「 チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるNanocyl s.a.製のカーボンナノチューブ「NC7000」を5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールをカーボンナノチューブに対して20重量%になるように、N-メチル-2-ピロリドンに投入し、超音波分散機を用いて処理した結果、分散できなかった半固形の塊であって、
「NC7000」のBET比表面積は、275m2/gである、組成物。」
カ 甲1-6に記載された発明
上記(1)カ(ア)の記載を比較例1-3の記載に注目して整理すると、甲1-6には、以下の発明が記載されていると認められる。
甲1-6発明
「 ポリビニルアルコール0.5gと、蒸留水49.0gとを混合し、さらに多層カーボンナノチューブであるNanocyl社製「NC7000」0.5gとを混合し、得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて超音波処理を行った凝集物が存在する処理物。」
キ 甲2-1に記載された発明
上記(1)セ(ア)には、分散剤としてポリビニルブチラールを用いたエタノール中へのカーボンナノチューブの分散液が記載されているといえるところ、同(ア)には、カーボンナノチューブとして「Nanocyl NC7000」を使用することが記載されている。また、同(イ)には、Nanocyl NC7000が平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであることが記載されている。そうすると甲2-1には、以下の発明が記載されていると認められる。
甲2-1発明
「 分散剤としてポリビニルブチラールを用いた、エタノール中への、Nanocyl NC7000のカーボンナノチューブの分散液であって、
Nanocyl NC7000は、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gである分散液。」
ク 甲2-2に記載された発明
(ア)上記(1)ソ(イ)によれば、導電材であるカーボンナノチューブは、ラマン分光分析により得られた1580±50cm -1 におけるGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm -1 のDバンドの最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.7を有する。
(イ)同(ウ)によれば、カーボンナノチューブのBET比表面積は200m2/g~330m2/gである。
(ウ)同(ク)には、カーボンナノチューブ及び分散剤を溶媒の中に分散させた導電材分散液が記載されているところ、同(カ)、(キ)によれば、分散液はポリビニルアルコールであるバインダーを含むことができる。
(エ)同(ケ)によれば、溶媒はN-メチルピロリドンを使用することができる。
そうすると、甲2-2には以下の発明が記載されているといえる。
甲2-2発明
「 カーボンナノチューブ、分散剤及びバインダーであるポリビニルアルコールを、N-メチルピロリドンである溶媒中に分散させた導電材を含む分散液であって、
カーボンナノチューブは、ラマン分光分析により得られた1580±50cm -1 におけるGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm -1 のDバンド の最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.7であり、200~330m2/gのBET比表面積を有する分散液。」
(3)取消理由1及び申立理由1について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-1発明を対比する。
a 甲1-1発明の「分散媒」及び「スラリー」は、それぞれ、本件発明1の「溶媒(B)」及び「分散液」に相当するから、甲1-1発明の「分散剤、導電剤、分散媒及び結着材を含有し、スラリーにして用いられる電極用導電組成物であって、導電剤は、シーナノ社製のカーボンナノチューブであるFlotube9000」であるものは、本件発明1の「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液」に相当する。
b 甲1-1発明の「分散媒」の「N-メチルピロリドン」は水溶性有機溶媒であるため、甲1-1発明の「分散媒はN-メチルピロリドン」は、本件発明1の「溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒」であることに相当する。
c 甲1-1発明の「ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体」は、部分的にビニルアルコール骨格を含有するグラフト共重合体を意味する。そして、本件明細書の【0056】の「ビニルアルコール骨格含有樹脂は、ビニルアルコール骨格の含有率が10~90mol%のものが好ましく、20~85mol%のものがさらに好ましい」という記載からすれば、本件発明1の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」は、部分的にビニルアルコール骨格を含有するものを包含すると解される。そうすると、甲1-1発明の「分散剤」が「ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%である」ことは、本件発明1の「分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂である」ことに相当する。
d したがって、両者は、
「 カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、
分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であるカーボンナノチューブ分散液。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、「カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0」であるのに対し、甲1-1発明では、カーボンナノチューブがシーナノ社製のカーボンナノチューブであるFlotube9000である点。
<相違点2>
本件発明1では、「カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であるのに対し、甲1-1発明では、カーボンナノチューブがシーナノ社製のカーボンナノチューブであるFlotube9000である点。
<相違点3>
本件発明1ではカーボンナノチューブ分散液について、但し、「分散剤、カーボンナノチューブ及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物である場合と、チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるカーボンナノチューブ5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールがカーボンナノチューブに対して20質量%と、N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物である場合と、合計を50.0gとしたときに、ポリビニルアルコール0.5gと、蒸留水49.0gと、多層カーボンナノチューブ0.5gとを含む組成物である場合と、ポリビニルブチラールと、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるカーボンナノチューブと、エタノールとを含むスラリーである場合」(以下、「除外条件」といい、「分散剤、カーボンナノチューブ及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物である場合」を「除外条件1」、「チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるカーボンナノチューブ5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールがカーボンナノチューブに対して20質量%と、N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物である場合」を「除外条件2」、「合計を50.0gとしたときに、ポリビニルアルコール0.5gと、蒸留水49.0gと、多層カーボンナノチューブ0.5gとを含む組成物である場合」を「除外条件3」、「ポリビニルブチラールと、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるカーボンナノチューブと、エタノールとを含むスラリーである場合」を「除外条件4」という。)を除く、とされているのに対し、甲1-1発明は「分散剤、導電剤、分散媒及び結着材を含有し、スラリーにして用いられる電極用導電性樹脂組成物であって、導電剤は、シーナノ社製のカーボンナノチューブであるFlotube9000であり、分散媒はN-メチルピロリドンであり、分散剤は、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物。」である点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み、ここでは上記相違点3について検討する。
甲1-1発明において、導電剤はカーボンナノチューブであるから、除外条件1に記載された組成物は、甲1-1発明を包含するものである。
したがって、除外条件1が除かれている本件発明1は、甲1-1発明であるとはいえず、相違点3は実質的な相違点である。
次に、相違点3の容易想到性について検討する。
上記(1)ア(イ)、(エ)の記載によれば、甲1-1発明は「分散性及び耐酸化性が良好な電極用導電性樹脂組成物を提供すること」、「この電極用導電性樹脂組成物を用いて製造される分散性に優れた電極組成物、さらにそれらを用いて製造される低抵抗且つ結着性に優れた電極および高出力特性に優れ、良好なサイクル特性を有するリチウムイオン電池を提供すること」を課題としており([0009])、「分散剤、導電剤及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000で、かつ鹸化度が90~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする電極用導電性樹脂組成物」とし、「導電剤をカーボンナノチューブ」とすること([0082])により上記課題を解決したとされている([0011])。
してみると、除外条件1は、甲1-1において課題を解決するために必須の構成であるといえ、甲1-1発明において、除外条件1に記載された組成物以外の組成物を用いることは想定されておらず、甲1-1には、それ以外の組成物を用いる動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点3に係る本件発明1の構成をなすことは、当業者といえども容易に想到し得ないものである。
したがって、上記相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
イ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲1-1発明を対比する。
上記ア(ア)での検討を踏まえると、本件発明3と甲1-1発明は、
「 カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、
分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であるカーボンナノチューブ分散液。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1’>
本件発明3では、「カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0」であるのに対し、甲1-1発明では、カーボンナノチューブがシーナノ社製のカーボンナノチューブであるFlotube9000である点。
<相違点2’>
本件発明3では、「カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であるのに対し、甲1-1発明では、カーボンナノチューブがシーナノ社製のカーボンナノチューブであるFlotube9000である点。
(イ)相違点の判断
相違点1’について検討する。
本件明細書の【0130】【表1】には、「Cnano社製 Flotube9000」の欄に、「G/D比」が「0.87」であることが記載されている。甲1-1発明のカーボンナノチューブは、シーナノ社製のFlotube9000であるところ、通常、同じ品番の製品であれば、同じ構造及び物性を有すると推定されるから、甲1-1発明のカーボンナノチューブも、G/D比は0.87程度であり、本件発明3のG/D比を満たしていないといえる。
そして、甲1-1には、導電剤として用いるカーボンナノチューブとしてはシーナノ社製のFlotube9000が記載されるのみであり、「ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0」であるカーボンナノチューブについては記載も示唆もされていない。さらに、甲1-1発明は、上記ア(イ)で述べたように、「分散性及び耐酸化性が良好な電極用導電性樹脂組成物を提供すること」、「この電極用導電性樹脂組成物を用いて製造される分散性に優れた電極組成物、さらにそれらを用いて製造される低抵抗且つ結着性に優れた電極および高出力特性に優れ、良好なサイクル特性を有するリチウムイオン電池を提供すること」という課題を、特に「ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000で、かつ鹸化度が90~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする電極用導電性樹脂組成物」とし、「導電剤をカーボンナノチューブ」とすること([0082])により上記課題を解決したとされている。
そうすると、甲1-1発明は、特定の分散剤及び導電剤を用いることにより課題を解決するものであり、何らカーボンナノチューブのG/D比に注目するものではない。そうすると、甲1-1発明には、電極用導電性樹脂組成物中のカーボンナノチューブのG/D比を調整しようとする動機づけがない。
以上によれば、甲1-1発明において、「粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0」であるカーボンナノチューブを採用することは、当業者といえども容易に想到し得ないものである。
したがって、上記相違点2’について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1-1発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
ウ 本件発明2、4~12について
本件発明2、4~12は、本件発明1又は3を引用するものであって、本件発明1又は3の特定事項を全て含むものであるから、上記ア、イに示した理由と同様の理由により、甲1-1発明ではないし、甲1-1発明から当業者が容易に発明することができたともいえない。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人1は、令和5年7月25日に提出した意見書において、甲1-1の[0016]に「本実施形態で用いる分散剤は、樹脂分(ポリマー分)として、グラフト共重合体自体のほか、PANホモポリマー及び/又はPVAホモポリマーを含有してもよい」と記載されているので、甲1-1発明において、分散剤としてグラフト共重合体以外のものも想定でき、除外条件1に記載された組成物ではない分散剤としてPVAホモポリマーを用いることを容易に想到できるため、甲1-1発明に基づいて本件発明1を容易に発明できる旨主張している。
しかし、上記記載は、グラフト共重合体の他にPVAホモポリマーを含有すること、すなわちグラフト共重合体及びPVAホモポリマーを含有する場合を許容することを意味しているのであって、PVAホモポリマーのみからなる場合を許容することを意味するものではない。そうすると、甲1-1の[0016]に記載される場合も、除外条件1に該当する。
したがって、上記申立人1の主張によって上記ア~ウの判断は覆らない。
(イ)申立人2は、令和5年7月27日に提出した意見書において、「除く」訂正によって、訂正後の請求項に係る本件発明がこれら公知文献に対してどのような顕著な特徴を有することになるのかは実質的に説明されていないため、進歩性を有さない旨主張している。
しかし、発明が新規性及び進歩性を有するか否かの判断は、公知文献に対して顕著な特徴を有するか否かではなく、まずは、本件発明の構成が甲1-1に記載されているか否か、本件発明の構成が甲1-1発明から容易に想到しうるか否かで判断するものであるため、訂正後の請求項に係る本件発明の構成における顕著な特徴の有無によって、直ちに、本件発明の新規性、進歩性が否定されることはない。
したがって、上記申立人2の主張によって上記ア~ウの判断は覆らない。
(4)取消理由2について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-5発明を対比する。
a 甲1-5発明の「N-メチル-2-ピロリドン」は、本件発明1の「溶媒(B)」に相当するから、甲1-5発明の「チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるNanocyl s.a.製のカーボンナノチューブ「NC7000」を5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールをカーボンナノチューブに対して20重量%になるように、N-メチル-2-ピロリドンに投入」することは、本件発明1の「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含む」ことに相当する。
b 甲1-5発明の「N-メチルピロリドン」は水溶性有機溶媒であるため、本件発明1の「水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒」である「溶媒(B)」に相当する。
c 甲1-5発明の「「NC7000」のBET比表面積は、275m2/g」であることは、本件発明1の「カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であることに相当する。
d 甲1-5発明の「ポリビニルブチラール」について、本件明細書の【0054】に「本実施形態の分散剤(C)は、ビニルアルコール骨格含有樹脂である。本発明で用いるビニルアルコール骨格含有樹脂の製造方法については特に制限はないが、・・・ポリビニルアルコール樹脂を原料として・・・アセタール化反応することによって得られた・・・ポリビニルアセタール樹脂、について記述する」と記載され、ポリビニルアセタールの一種がポリビニルブチラールであることからすれば、甲1-5発明の「ポリビニルブチラール」は、本件発明1の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」に相当するから、甲1-5発明の「分散剤」が「ポリビニルブチラール」であることは、本件発明1の「分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂である」ことに相当する。
e したがって、両者は、
「 カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むものであって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、
カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/gであり、
分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であるもの。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明1では、「カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0」であるのに対し、甲1-5発明では、カーボンナノチューブがNanocyl s.a.製の「NC7000」である点。
<相違点5>
本件発明1は、「カーボンナノチューブ分散液」であるのに対し、甲1-5発明は、「超音波分散機を用いて処理した結果、分散できなかった半固形の塊」「である組成物」である点。
<相違点6>
本件発明1では除外条件が設けられ、除外条件2では、カーボンナノチューブ分散液について、「チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるカーボンナノチューブ5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールがカーボンナノチューブに対して20質量%と、N-メチル-2-ピロリドンとを含む組成物である場合」を除く、とされているのに対し、甲1-5発明は、「チューブ外径幾何標準偏差σDが1.29であるNanocyl s.a.製のカーボンナノチューブ「NC7000」を5重量%と、分散剤としてのポリビニルブチラールをカーボンナノチューブに対して20重量%になるように、N-メチル-2-ピロリドンに投入し、超音波分散機を用いて処理した結果、分散できなかった半固形の塊」「である組成物」である点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み、上記相違点6について検討すると、除外条件2に記載された組成物は、甲1-5発明を包含するものである。
したがって、除外条件2が除かれている本件発明1は、甲1-5発明であるとはいえず、相違点6は実質的な相違点である。
次に、相違点6の容易想到性について検討する。
甲1-5発明は、上記比較例1に基づいて認定された発明であり、「超音波分散機を用いて処理した結果、分散できなかった反固形の塊」とあるように、上記(1)オ(エ)に記載される「実施例1」のカーボンナノチューブ分散液に比べ、分散液にすらならなかったものであり、上記(1)オ(ア)に記載されているとおり、「分散性、分散安定性が高く、高濃度であっても粘度が低いカーボンナノチューブ分散液を提供すること」という甲1-5の課題を解決しなかったものである。そうすると、甲1-5において、敢えて「比較例」とされている例を選び、その組成その他を変更し、本件発明1とする動機があるとはいえない。
したがって、上記相違点4、5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-5発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
イ 本件発明2、5~8について
本件発明2、5~8は、本件発明1又は3を引用するものであって、本件発明1又は3の特定事項を全て含むものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲1-5発明ではないし、甲1-5発明から当業者が容易に発明することができたともいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人2は、令和5年7月27日に提出した意見書において、「除く」訂正によって、訂正後の請求項に係る本件発明が公知文献に対してどのような顕著な特徴を有することになるのかは実質的に説明されていないため、進歩性を有さない旨主張している。
しかし、上記主張は、上記(3)エ(イ)での申立人2の主張と同様であるから、上記(3)エ(イ)で述べたように、上記申立人2の主張によって上記ア、イの判断は覆らない。
(5)取消理由3について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-6発明を対比する。
a 甲1-6発明の「ポリビニルアルコール」、「蒸留水」、「多層カーボンナノチューブであるNanocyl社製「NC7000」」は、それぞれ、本件発明1の「分散剤(C)」、「溶媒(B)」である「水」、「カーボンナノチューブ(A)」に相当するから、甲1-6発明の「ポリビニルアルコール0.5gと、蒸留水49.0gとを混合し、さらに多層カーボンナノチューブであるNanocyl社製「NC7000」0.5gとを混合し」たものは、本件発明1の「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含」み、「溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒」であることに相当する。
b 甲1-6発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」に相当する。
c したがって、両者は、
「 カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むものであって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、
分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であるもの。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点7>
本件発明1では、「カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0」であるのに対し、甲1-6発明では、カーボンナノチューブがNanocyl社製「NC7000」である点。
<相違点8>
本件発明1では、「カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であるのに対し、甲1-6発明では、カーボンナノチューブがNanocyl社製「NC7000」である点。
<相違点9>
本件発明1は、「カーボンナノチューブ分散液」であるのに対し、甲1-6発明は、「得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて超音波処理を行った凝集物が存在する処理物」である点。
<相違点10>
本件発明1では除外条件が設けられ、除外条件3では「合計を50.0gとしたときに、ポリビニルアルコール0.5gと、蒸留水49.0gと、多層カーボンナノチューブ0.5gとを含む組成物である場合」を除く、とされているのに対し、甲1-6発明は「ポリビニルアルコール0.5gと、蒸留水49.0gとを混合し、さらに多層カーボンナノチューブであるNanocyl社製「NC7000」0.5gとを混合し、得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて超音波処理を行った凝集物が存在する混合物。」である点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み、上記相違点10について検討すると、除外条件3に記載された組成物は、甲1-6発明を包含するものである。
したがって、除外条件3が除かれている本件発明1は、甲1-6発明であるとはいえず、相違点10は実質的な相違点である。
次に、相違点10の容易想到性について検討する。
甲1-6発明は、比較例1-3に基づいて認定された発明であるところ、上記(1)カ(ウ)の記載によれば、凝集物が発生していない導電性炭素材料分散液の実施例に対し、凝集物が発生して、均一な導電性炭素材料分散液を得ることができなっかったものである。そうすると、甲1-6において、敢えて「比較例」とされている例を選び、その組成その他を変更し、本件発明1とする動機があるとはいえない。
したがって、上記相違点7~9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-6発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
イ 本件発明2、5~8について
本件発明2、5~8は、本件発明1又は3を引用するものであって、本件発明1又は3の特定事項を全て含むものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲1-6発明ではないし、甲1-6発明から当業者が容易に発明することができたともいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人2は、令和5年7月27日に提出した意見書において、「除く」訂正によって、訂正後の請求項に係る本件発明が公知文献に対してどのような顕著な特徴を有することになるのかは実質的に説明されていないため、進歩性を有さない旨主張している。
しかし 上記主張は、上記(3)エ(イ)での申立人2の主張と同様であるから、上記(3)エ(イ)で述べたように、上記申立人2の主張によって上記ア、イの判断は覆らない。
(6)取消理由4及び申立理由8について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2-1発明を対比する。
a 甲2-1発明の「エタノール」は、本件発明1の「溶媒(B)」に相当し、エタノールは水溶性有機溶媒であるから、甲2-1発明の「分散剤としてポリビニルブチラールを用いた、エタノール中への、Nanocyl NC7000のカーボンナノチューブの分散液」は、本件発明1の「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって」「溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であ」るものに相当する。
b 甲2-1発明の「ポリビニルブチラール」は、本件発明1の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」に相当するから、甲2-1発明の「分散剤としてポリビニルブチラールを用いた」ことは、本件発明1の「分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂である」ことに相当する。
c したがって、両者は、
「 カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、
分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であるカーボンナノチューブ分散液。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点11>
本件発明1では、「カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0であって、」であるのに対し、甲2-1発明では、カーボンナノチューブがNanocyl NC7000である点。
<相違点12>
本件発明1では、カーボンナノチューブ(A)の「BET比表面積」が、200~800m2/gであるのに対し、甲2-1発明のカーボンナノチューブであるNanocyl NC7000は「表面積」約250~300m2/gである点。
<相違点13>
本件発明1では除外条件が設けられ、除外条件4では「ポリビニルブチラールと、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるカーボンナノチューブと、エタノールとを含むスラリーである場合」を除く、とされているのに対し、甲2-1発明は「分散剤としてポリビニルブチラールを用いた、エタノール中への、Nanocyl NC7000のカーボンナノチューブの分散液であって、Nanocyl NC7000は、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gである分散液」である点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み、上記相違点13について検討すると、除外条件4に記載された組成物は、甲2-1発明を包含するものである。
したがって、除外条件4が除かれている本件発明1は、甲2-1発明であるとはいえず、相違点13は実質的な相違点である。
次に相違点13の容易想到性について検討する。
甲2-1には、上記(1)セ(ア)に、「本論文の目的は、適切な特性を持つカーボンナノチューブ-ポリマー複合材料を得ること」とあり、そのために「分散剤としてポリビニルブチラールを用いたエタノール中へのカーボンナノチューブの分散」を用いることが記載されている。また、「安価な原材料でそれらを製造すること」も目的としており、「そのため、我々は工業用グレードのナノチューブであるNanocyl NC7000を実験に使用した。このMWNTは、Nanocyl社によってCVDにより大量に生産されているもので、現在市販されているCNTの中では安価な部類に入る」とも記載されており、安価な原材料として、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、炭素純度90%、炭素燃焼後の金属酸化物残渣10%、表面積約250~300m2/gであるNanocyl NC7000を使用している。そうすると、除外条件4は甲2-1発明において課題を解決するために必須の構成であるといえ、甲2-1発明において、除外条件4に記載された分散液以外のものを用いることは想定されず、それ以外の分散液を用いることに、動機があるとはいえない。
よって、甲2-1発明において、相違点13に係る本件発明1の構成をなすことは、当業者といえども容易に想到し得ないものである。
したがって、上記相違点11、12について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-1発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
イ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲2-1発明を対比する。
上記ア(ア)での検討を踏まえると、本件発明3と甲2-1発明は、
「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であり、
分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であるカーボンナノチューブ分散液。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点11’>
本件発明3では、「カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0」であるのに対し、甲2-1発明では、カーボンナノチューブがNanocyl NC7000である点。
<相違点12’>
本件発明3では、カーボンナノチューブ(A)の「BET比表面積」が、200~800m2/gであるのに対し、甲2-1発明のカーボンナノチューブであるNanocyl NC7000は「表面積」が約250~300m2/gである点。
(イ)相違点の判断
上記相違点11’について検討する。
本件明細書の【0130】【表1】には、「Nanocyl社製 NC7000」の欄に、「G/D比」が「0.96」であることが記載されている。
そして、甲2-1発明のカーボンナノチューブも、Nanocyl社製のカーボンナノチューブ「Nanocyl NC7000」であるところ、通常、同じ品番の製品であれば、同じ構造及び物性を有すると推定されるから、甲2-1発明のカーボンナノチューブも、G/D比が0.96程度であり、本件発明3のG/D比を満たしていない。
したがって、相違点11’は実質的な相違点である。
次に、相違点11’の容易想到性について検討する。上記ア(イ)で述べたように、甲2-1発明は、「適切な特性を持つカーボンナノチューブ-ポリマー複合材料を得ること」を目的としており、そのために「分散剤としてポリビニルブチラールを用いたエタノール中へのカーボンナノチューブの分散」を用いるものであるから、何ら、カーボンナノチューブのG/D比に注目するものではない。
また、上記(6)ア(イ)で述べたように、甲2-1発明は、安価な原材料を用いるという目的のため、G/D比が0.96であるといえるNanocyl NC7000を使用しているのであるから、この材料を変更しようとすることはない。
そうすると、甲2-1には、カーボンナノチューブを変更し、G/D比を調整しようとする動機づけがない。以上によれば、甲2-1発明において、相違点11’に係る本件発明3の構成を採用することは、当業者が容易に想到しうることではない。
したがって、相違点12’について検討するまでもなく、本件発明3は、甲2-1発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
ウ 本件発明2、4~7について
本件発明2、4~7は、本件発明1又は3を引用するものであって、本件発明1又は3の特定事項を全て含むものであるから、上記ア、イに示した理由と同様の理由により、甲2-1発明ではないし、甲2-1発明から当業者が容易に発明することができたともいえない。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人1は、令和5年7月25日に提出した意見書において、以下の主張をしている。
a 甲2-1において「スラリ-」の意味は明確ではないものの、MWCNTを超音波でエタノールに分散させ、ポリマーを加え、機械的に混合して得られたものを指すとするならば、甲2-1の実験ではポリマーを加えた直後の、MWCNTとエタノールとポリマーとの分散液ではあるが、機械的攪拌が不十分でスラリーとなっていない状態のものは本件発明1のカーボンナノチューブ分散液に相当する。
b 甲2-1において、NC7000以外の市販のカーボンナノチューブを使用することに阻害要因はない。
c 本件明細書には、G/D比が1.0~3.0であることの技術的意義や、そのことにより解決される課題が記載されていないため、本件発明3は進歩性を有さない。
上記主張について検討する。
a 申立人1の主張は、ポリマーを加えた直後の、MWCNTとエタノールとポリマーを含む液が分散液であることを前提としているが、MWCNTを超音波でエタノールに分散させたものが分散液であり、それにポリマーを加えて機械的に混合したものがスラリーだとしても、ポリマーを加えて機械的混合をする前の段階のものが、分散状態を保ち、「分散液」となっていると認められる記載はない。したがって、甲2-1に「ポリマーを加えた直後の、MWCNTとエタノールとポリマーとの分散液」が記載されているとはいえないため、本件発明1の、ビニルアルコール骨格含有樹脂であるポリマーを含むカーボンナノチューブ分散液に相当するものは記載されているとはいえない。
b 上記(1)セ(ア)によれば、甲2-1には、「安価な原材料でそれらを製造すること」をも目的とすることが記載されており、「そのため、我々は工業用グレードのナノチューブであるNanocyl NC7000を実験に使用した。このMWNTは、Nanocyl社によってCVDにより大量に生産されているもので、現在市販されているCNTの中では安価な部類に入る」とも記載されている。そうすると、甲2-1発明において、阻害要件の有無にかかわらず、NC7000以外の市販のカーボンナノチューブを用いる動機づけはない。
c 発明が新規性及び進歩性を有するか否かの判断は、技術的意義や、そのことにより解決される課題の有無ではなく、まずは、本件発明の構成が、甲2-1に記載されているか否か、本件発明の構成が、甲2-1発明から容易に想到しうるか否かで判断するするものであるため、本件発明3の構成の技術的意義や、そのことにより解決される課題の有無によって、直ちに、本件発明の新規性、進歩性が否定されることはない。
したがって、上記申立人1の主張によって上記ア~ウの判断は覆らない。
(イ)申立人2は、令和5年7月27日に提出した意見書において、「除く」訂正によって、訂正後の請求項に係る本件発明がこれら公知文献に対してどのような顕著な特徴を有することになるのかは実質的に説明されていないため、進歩性を有さない旨主張している。
しかし、上記主張は、上記(3)エ(イ)での申立人2の主張と同様であるから、上記(3)エ(イ)で述べたように、上記申立人2の主張によって上記ア~ウの判断は覆らない。
(7)申立理由2について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-2発明を対比する。
a 甲1-2発明の「N-メチルピロリドン」は、水溶性有機溶媒であって、本件発明1の「溶媒(B)」に相当し、「CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」」は「カーボンナノチューブ」である。
b 上記(3)ア(ア)cで述べたのと同様に、甲1-2発明の「ポリビニルアルコールにアクリロニトリルをグラフト共重合させたグラフト共重合体であるバインダー」は、本件発明1の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」に相当する。
c 本件発明1のカーボンナノチューブ分散液と、甲1-2発明の、バインダーをN-メチルピロリドンに溶解させたバインダー溶液にカーボンナノファイバーのNMP分散液を撹拌混合したものは、「もの」である点で共通する。
d 甲1-2発明のものが本件発明1の除外条件に該当しないことは明らかである。
e したがって、両者は、
「 カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)とを含むものであって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であるもの(但し、除外条件の場合を除く)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点14>
ビニルアルコール骨格含有含有樹脂について、本件発明1では、「分散剤(C)」とされているのに対し、甲1-2発明では、「バインダー」とされている点。
<相違点15>
本件発明1は「カーボンナノチューブ(A)」が「粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0であって、カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であるのに対し、甲1-2発明では、カーボンナノチューブが、CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」である点。
<相違点16>
本件発明1では、カーボンナノチューブ等を含むものが「カーボンナノチューブ分散液」であるのに対し、甲1-2発明では、「カーボンナノチューブ分散液」であるのか明らかでない点。
(イ)相違点の判断
相違点14について検討する。
本件発明1では「分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂である」とされているところ、その「ビニルアルコール骨格含有樹脂」は分散剤としての性質を有するものである。一方、甲1-2発明では、ビニルアルコール骨格含有樹脂として「ポリビニルアルコールにアクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合したポリマー」という特定の樹脂を「バインダー」として用いている。
ここで、本件発明1において「分散剤」とは、カーボンナノチューブを「分散」させるものであるのに対し、甲1-2発明の「バインダー」とは、カーボンナノファイバー等を「結着」するものであり、本件発明1の「分散剤」は、甲1-2発明の「バインダー」とは性質を異にするものである。
そうすると、甲1-2発明においても「ビニルアルコール骨格含有樹脂」は用いられているものの、そこで用いられているのは、バインダーとしての性質を有する「ポリビニルアルコールにアクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合したポリマー」という、特定の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」であって、「分散剤」の性質を有する「ビニルアルコール骨格含有樹脂」ではない。
したがって、相違点14は実質的な相違点である。
次に相違点14の容易想到性について検討する。
上記(1)イ(ア)によれば、甲1-2発明は「耐酸化性が良好であるバインダーを提供すること」を課題としており、「ポリビニルアルコールにアクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合したポリマー」という特定のビニルアルコール骨格含有樹脂を用いることによって、上記課題を解決するものである。そして、甲1-2には、分散性の向上を課題とすることは記載されていない。そうすると、甲1-2発明において、「ポリビニルアルコールにアクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合したポリマー」というカーボンナノファイバーなどを結着し、耐酸化性が良好であることを意図する特定のビニルアルコール骨格含有樹脂に代えて、バインダーに求められる性質と異なる、分散性を有するビニルアルコール骨格含有樹脂を用いる動機はない。
そうすると、甲1-2発明において、「分散剤(C)」を含むものとし、「分散剤(C)」として「ビニルアルコール骨格含有樹脂」を採用することは、当業者が容易に想到しうることとはいえない。
したがって、上記相違点15、16について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-2発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
イ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲1-2発明を対比する。
上記ア(ア)での検討を踏まえると、本件発明3と甲1-2発明は、
「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)とを含むものであって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であるもの。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点14’>
ビニルアルコール骨格含有樹脂が、本件発明3では「分散剤(C)」とされているのに対し、甲1-2発明では、「バインダー」とされている点。
<相違点15’>
本件発明3は、「カーボンナノチューブ(A)」が「粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0であって、カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であるのに対し、甲1-2発明では、カーボンナノチューブが「CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」」である点。
<相違点16’>
本件発明3では、カーボンナノチューブ等を含むものが「カーボンナノチューブ分散液」であるのに対し、甲1-2発明では、「カーボンナノチューブ分散液」であるのか明らかでない点。
(イ)相違点の判断
相違点14’について検討すると、上記ア(イ)と事情は同じであり、相違点14’について本件発明3の構成とすることは当業者が容易に想到しうることではない。
したがって、上記相違点15’、16’について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1-2発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
ウ 本件発明2、4~12について
本件発明2、4~12は、本件発明1又は3を引用するものであって、本件発明1又は3の特定事項を全て含むものであるから、上記ア、イに示した理由と同様の理由により、甲1-2発明ではないし、甲1-2発明から当業者が容易に発明することができたともいえない。
(8)申立理由3について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-3発明を対比する。
a 甲1-3発明の「N-メチルピロリドン」は、本件発明1の「溶媒(B)」に相当し、「N-メチルピロリドン」は、水溶性有機溶媒であるので水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒」に相当し、「CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」」は本件発明1の「カーボンナノチューブ」に相当する。
b 上記(3)ア(ア)cで述べたのと同様に、甲1-3発明の「ポリビニルアルコールにアクリロニトリルをグラフト共重合させたグラフト共重合体」は、本件発明1の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」に相当する。
c 本件発明1のカーボンナノチューブ分散液と、甲1-3発明の、バインダーをN-メチルピロリドンに溶解させたバインダー溶液にカーボンナノファイバーのNMP分散液を撹拌混合したものは、「もの」である点で共通する。
d 甲1-3発明のものが本件発明1の除外条件に該当しないことは明らかである。
e したがって、両者は、
「 カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)とを含むものであって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であるもの(但し、除外条件の場合を除く)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点17>
ビニルアルコール骨格含有樹脂について、本件発明1では「分散剤(C)」とされているのに対し、甲1-3発明では、「バインダー」とされている点。
<相違点18>
本件発明1では「カーボンナノチューブ(A)」が「粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0であって、カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であるのに対し、甲1-3発明では、カーボンナノチューブが、「CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」」である点。
<相違点19>
本件発明1では、カーボンナノチューブ等を含むものが「カーボンナノチューブ分散液」であるのに対し、甲1-3発明では「カーボンナノチューブ分散液」であるのか明らかでない点。
(イ)相違点の判断
相違点17について検討する。
本件発明1では「分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂である」ところ、その「ビニルアルコール骨格含有樹脂」は分散剤としての性質を有するものである一方、甲1-3発明では、ビニルアルコール骨格含有樹脂として「ポリビニルアルコールに(メタ)アクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合したポリマー」という特定の樹脂を「バインダー」として用いている。
ここで、本件発明1において「分散剤」とは、カーボンナノチューブを「分散」させるものであるのに対し、甲1-3発明の「バインダー」とは、カーボンナノファイバー等を「結着」するものであり、本件発明1の「分散剤」は、甲1-3発明の「バインダー」とは性質を異にするものである。
そうすると、甲1-3発明においても「ビニルアルコール骨格含有樹脂」は用いられているものの、そこで用いられているのは、バインダーとしての性質を有する「ポリビニルアルコールに(メタ)アクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合したポリマー」という、特定の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」であって、「分散剤」の性質を有する「ビニルアルコール骨格含有樹脂」ではない。
したがって、相違点17は実質的な相違点である。
次に相違点17の容易想到性について検討する。
上記(1)ウ(ア)によれば、甲1-3発明は「電極や活物質との結着性、更には耐還元性が良好であるバインダーを提供すること」を課題としており、「ポリビニルアルコールに(メタ)アクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合したポリマー」という特定のビニルアルコール骨格含有樹脂を用いることによって、上記課題を解決するものである。そして、甲1-3には、分散性の向上を課題とすることは記載されていない。そうすると、甲1-3発明において、「ポリビニルアルコールに(メタ)アクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合したポリマー」というカーボンナノファイバー等を結着し、耐還元性が良好であることを意図する特定のビニルアルコール骨格含有樹脂に代えて、バインダーに求められる性質と異なる、分散性を有するビニルアルコール骨格含有樹脂を用いる動機はない。
そうすると、甲1-3発明において、「分散剤(C)」を含むものとし、「分散剤(C)」として「ビニルアルコール骨格含有樹脂」を採用することは、当業者が容易に想到しうることとはいえない。
したがって、上記相違点18、19について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-3発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
イ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲1-3発明を対比する。
上記ア(ア)での検討を踏まえると、本件発明3と甲1-3発明は、
「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)とを含むものであって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であるもの。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点17’>
ビニルアルコール骨格含有樹脂について、本件発明3では「分散剤(C)」とされているのに対し、甲1-3発明では、「バインダー」とされている点。
<相違点18’>
本件発明3では「カーボンナノチューブ(A)」が「粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0であって、カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であるのに対し、甲1-3発明では、カーボンナノチューブが、「CNano社製のカーボンナノファイバー「Flotube9000」」である点。
<相違点19’>
本件発明3では、カーボンナノチューブ等を含むものが「カーボンナノチューブ分散液」であるのに対し、甲1-3発明では「カーボンナノチューブ分散液」であるのか明らかでない点。
(イ)相違点の判断
相違点17’について検討すると、上記ア(イ)と事情は同じであり、相違点17’について本件発明3の構成とすることは当業者が容易に想到しうることではない。
したがって、上記相違点18’、19’について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1-3発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
ウ 本件発明2、4~12について
本件発明2、4~12は、本件発明1又は3を引用するものであって、本件発明1又は3の特定事項を全て含むものであるから、上記ア、イに示した理由と同様の理由により、甲1-3発明ではないし、甲1-3発明から当業者が容易に発明することができたともいえない。
(9)申立理由4について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-4発明を対比する。
a 甲1-4発明における「水」は、本件発明1の「溶媒(B)」に相当し、本件発明1の「水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒」に相当する。
b (1)エ(ウ)によれば、「本明細書で用いる「離散カーボンナノチューブ」という用語は、実質的にそれ以上破壊することなく個別のチューブになるように分離されるカーボンナノチューブを指す」とされており、してみれば甲1-4発明の「離散カーボンナノチューブ」は本件発明1の「カーボンナノチューブ」に相当する。
c 甲1-4発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」に相当する。
d 甲1-4発明の分散液が本件発明1の除外条件に該当しないことは明らかである。
e したがって、両者は
「 カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒である、
カーボンナノチューブ分散液(但し、除外条件の場合を除く)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点20>
ビニルアルコール骨格含有樹脂について、本件発明1では「分散剤(C)」とされているのに対し、甲1-4発明ではそのような特定がない点。
<相違点21>
本件発明1では「カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0であって、カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であるとされているのに対し、甲1-4発明ではカーボンナノチューブが「CNanoから入手されるカーボンナノチューブであるFlotube 9000を所望の仕様まで剥離されるように離散したカーボンナノチューブすなわちMolecular Rebar」である点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み、ここでは上記相違点21について検討する。
甲1-4発明でカーボンナノチューブとして用いられている「CNanoから入手されるカーボンナノチューブであるFlotube 9000を所望の仕様まで剥離されるようにした離散カーボンナノチューブすなわちMolecular Rebar」について、(1)エ(ウ)には、「本明細書で用いる「離散カーボンナノチューブ」という用語は、実質的にそれ以上破壊することなく個別のチューブになるように分離されるカーボンナノチューブを指す。」と記載されており、上記(1)エ(オ)によれば、「>65%硝酸における1.2%CNT(CNanoから入手、Flotube 9000)の16リットル混合物を、34mm超音波端子(sonitrode)を用いて1000ワットHielscherセルを通して1.5l/分で圧送する。背圧は30psiであり、振幅を85%に設定し、記録されたワットは500~600である。16リットルのすべてがセルを通して圧送された後、CNTスラリーを超音波処理装置タンク内に再度排出し、たとえば、光学顕微鏡法および/またはUV吸収によって試験されるように、CNTが所望の仕様まで剥離されるまで、プロセスを繰り返す。」ことにより得られるものである。
そうすると、離散カーボンナノチューブは、>65%硝酸を含むCNT混合物を超音波処理することによって得られるものであり、個別のナノチューブに剥離されたものであるといえる。
ここで、本件明細書の【0042】には「2θが25°±2°の位置にピークが出現することで単層ではなく、多層構造を有している組成物を含んでいることが判断できる」こと、「2θが25°±2°」の「ピークの半価幅が小さいほど多層カーボンナノチューブの層数が多いと考えられる。逆にこのピークの半価幅が大きいほど、カーボンナノチューブの層数が少ないと考えられる」と記載されており、【0046】には「ラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるラマンシフトは、グラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm-1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このG/D比が高いカーボンナノチューブほど、グラファイト化度が高い」と記載されている。そうすると、本件発明1の「粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し」とは、カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブを含有していることを示しており、「そのピークの半価幅が2°~6°であり」はカーボンナノチューブの層数を半価幅で規定するものであり、G/D比は、グラファイトと、アモルファスカーボンやグラファイトの欠陥の比率を示すものであるといえる。
また、本件明細書の【0130】【表1】には、「Cnano社製 Flotube9000」の欄に、「半価幅(°)」が「2.4」、「G/D比」が「0.87」であることが記載されており、上記(1)キ~ケに記載したとおり、甲1-7~甲1-9には、Flotube9000のBET比表面積が180~250m2/gであることが、上記(1)コ、(1)サによれば、甲1-10、甲1-11には、Flotube9000のBET比表面積が241m2/gであることが示されている。通常、同じ品番の製品であれば、同じ構造及び物性を有すると推定されるから、甲1-4発明のFlotube9000は、半価幅(°)が2.4程度、G/D比が0.87程度、BET比表面積が180~250m2/g程度であるといえる。
しかし、甲1-4発明で用いられているのは、Flotube9000ではなく、Flotube9000を>65%硝酸とともに超音波処理することによって得られた離散カーボンナノチューブである。離散カーボンナノチューブは、「実質的にそれ以上破壊することなく個別のチューブになるように分離されるカーボンナノチューブ」とされているものの、>65%硝酸という強酸の存在下での超音波処理を経ても、そのFlotube9000の層数、グラファイトと、アモルファスカーボンやグラファイトの欠陥の比率、比表面積が保たれたまま離散カーボンナノチューブとなるとまでいえる証拠はない。
そして、(1)シによれば、甲1-12号証には、Molecular Rebarが、カーボンナノチューブを離散させたものであることは記載されているが、Molecular Rebarが、層数、グラファイトと、アモルファスカーボンやグラファイトの欠陥の比率、比表面積を保ったまま離散カーボンナノチューブとなっていることは記載されていない。
したがって、カーボンナノチューブの層数を反映しているといえる、回折角2θ=25°±2°のピークの存在やその半価幅、アモルファスカーボンやグラファイトの欠陥の比率を反映しているといえるG/D比、カーボンナノチューブの表面積に係る相違点21は、実質的な相違点である。
次に、相違点21の容易想到性について検討する。甲1-4発明において、カーボンナノチューブの層数、グラファイトとアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥の比率、比表面積を調整することは、なんら記載されていない。そうすると、甲1-4発明において、カーボンナノチューブの層数、グラファイトとアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥の比率すなわちG/D比、及び、比表面積を調整する動機はない。
してみれば、甲1-4発明において、カーボンナノチューブとして本件発明1で特定される粉末X線回折分析におけるピークおよびラマンスペクトルのピークを有するものを採用することは、当業者が容易に想到しうることとはいえない。また、甲1-7~甲1-12には、上記相違点21に係る事項は記載されていない。
したがって、上記相違点20、22について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-4発明及び甲1-7~甲1-12に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたとはいえない。
イ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲1-4発明を対比する。
上記ア(ア)での検討を踏まえると、本件発明3と甲1-4発明は、
「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒である、
カーボンナノチューブ分散液。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点20’>
ビニルアルコール骨格含有樹脂について、本件発明1では「分散剤(C)」とされているのに対し、甲1-4発明ではそのような特定がない点。
<相違点21’>
本件発明3では「カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0であって、カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/g」であるとされているのに対し、甲1-4発明ではカーボンナノチューブが「CNanoから入手されるカーボンナノチューブであるFlotube 9000を所望の仕様まで剥離されるようにした離散カーボンナノチューブすなわちMolecular Rebar」である点。
相違点21’について検討すると、上記ア(イ)と事情は同じであり、相違点21’について本件発明3の構成とすることは当業者が容易に想到しうることではない。
したがって、上記相違点20’について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1-4発明及び甲1-7~甲1-12に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたとはいえない。
ウ 本件発明2、4~8について
本件発明2、4~8は、本件発明1又は3を引用するものであって、本件発明1又は3の特定事項を全て含むものであるから、上記ア、イに示した理由と同様の理由により、甲1-4発明ではないし、甲1-4発明及び甲1-7~甲1-12記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたともいえない。
(10)申立理由9について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2-2発明を対比する。
a 甲2-2発明の「200~330m2/gのBET比表面積を有する」「カーボンナノチューブ」は、本件発明1の「BET比表面積は、200~800m2/gであ」る「カーボンナノチューブ(A)」に相当する。
b 「N-メチルピロリドン」は、水溶性有機溶媒であるから、甲2-2発明の「N-メチルピロリドンである溶媒」は本件発明1の「「溶媒(B)」に相当し、かつ、「水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒」に相当する。
c 甲2-2発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「ビニルアルコール骨格含有樹脂」に相当する。
d 甲2-2発明の分散液が本件発明1の除外条件に該当しないことは明らかである。
e そうすると、両者は
「 カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)を含むカーボンナノチューブ分散液であって、
カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/gであり、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒である、
カーボンナノチューブ分散液(但し、除外条件の場合を除く)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点22>
本件発明1ではカーボンナノチューブが「粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0」のものであるのに対し、甲2-2発明のカーボンナノチューブでは「ラマン分光分析により得られた1580±50cm -1 におけるGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm -1 のDバンド の最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.7」である点。
<相違点23>
「ビニルアルコール骨格含有樹脂」が、本件発明1では「分散剤(C)」であるのに対し、甲2-2発明では「バインダー」である点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み、上記相違点23について検討する。
本件発明1では「分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂である」とされているところ、その「ビニルアルコール骨格含有樹脂」は分散剤としての性質を有するものである。一方、上記(1)ソ(カ)、(キ)によれば、甲2-2発明において、ビニルアルコール骨格含有樹脂であるポリビニルアルコールは、「バインダー」として添加するとされており、(1)ソ(オ)には、甲2-2において、「分散剤」としては、ニトリル系ゴム等を用いることとされている。そうすると、甲2-2発明においても「ビニルアルコール骨格含有樹脂」は用いられているものの、用いられている「ビニルアルコール骨格含有樹脂」は分散剤としての性質を有するものとはいえない。
したがって、相違点23は実質的な相違点である。
次に、相違点23の容易想到性について検討する。
上記のとおり、甲2-2において、分散剤としてはニトリル系ゴムなどが想定されていると認められる。
してみれば、甲2-2発明において、甲2-1の記載を参照しても、分散剤としての性質を持たず、バインダーとして添加される「ポリビニルアルコール」に代えて、「分散剤」の性質を有する「ポリビニルアルコール」を採用することは、当業者が容易に想到しうることではない。
したがって、上記相違点22について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-2発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。また、甲2-1には「分散剤」として「ビニルアルコール骨格含有樹脂」を用いることが記載されてはいるが、甲2-2発明においてこの構成を採用する動機はないため、甲2-1、甲2-3の記載事項にかかわらず、本件発明1が甲2-2発明及び甲2-1、甲2-3に記載された事項によって当業者が容易に発明し得たとはいえない。
イ 本件発明3について
(ア)本件発明3と甲2-2発明を対比する。
上記ア(ア)での検討を踏まえると、本件発明3と甲2-2発明は、
「カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)を含むカーボンナノチューブ分散液であって、
カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は、200~800m2/gであり、
溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒である、
カーボンナノチューブ分散液。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点22’>
本件発明3ではカーボンナノチューブが「粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が1.0~3.0」であるものなのに対し、甲2-2発明では「ラマン分光分析により得られた1580±50cm -1 におけるGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm -1 のDバンド の最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.7」である点。
<相違点23’>
ビニルアルコール骨格含有樹脂が、本件発明3では「分散剤(C)」であるのに対し、甲2-2発明では「バインダー」である点。
相違点23’について検討すると、上記ア(イ)と事情は同じであり、甲2-2発明について、相違点23’に係る本件発明3の構成とすることは当業者が容易に想到しうることではない。
したがって、上記相違点22’について検討するまでもなく、本件発明3は、甲2-2発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。また、ア(イ)に記載したのと同様に、本件発明3は、甲2-1、甲2-3に記載の事項を勘案しても、甲2-2発明及び甲2-1、甲2-3に記載された事項から当業者が容易に発明することができたともいえない。
ウ 本件発明2、4~12について
本件発明2、4~12は、本件発明1又は3を引用するものであって、本件発明1又は3の特定事項を全て含むものであるから、上記ア、イに示した理由と同様の理由により、甲2-2発明ではない。また、分散剤としてビニルアルコール骨格含有樹脂を用いる甲2-1、特定の粉体抵抗率を有するMWCNTが記載された甲2-3の記載事項を勘案したとしても、甲2-2発明及び甲2-1、甲2-3記載の事項から当業者が容易に発明することができたともいえない。
2 特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号所定の規定違反(サポート要件違反及び実施可能要件違反)
(1)取消理由5及び申立理由5について
ア 本件発明1は、「溶媒(B)が水、及び/または、水溶性有機溶媒のいずれか一種、もしくは二種以上からなる混合溶媒である」ものである。そして、本件明細書の実施例では水溶性有機溶媒である「N-メチル-2-ピロリドン」が用いられている。
疎水性であるカーボンナノチューブは、水や親水性である水溶性有機溶媒中では 分散性は低いことが想定されるが、ここに、分散剤であるビニルアルコール骨格含有樹脂が加えられることによって、ビニルアルコール骨格含有樹脂が界面活性剤のように働き、水や親水性の溶媒中での疎水性のカーボンナノチューブの分散が可能となるものと理解される。そして、親水性の有機溶媒中でカーボンナノチューブの分散が可能な状態であるならば、水中でもカーボンナノチューブの分散は可能であると認められる。
また、特許権者は乙第1号証(以下、「乙1」という)を提出しており、乙1には、特に過度の試行錯誤なく水を溶媒としてカーボンナノチューブを分散させた例が記載されている。
そうすると、溶媒(B)が水であってもカーボンナノチューブ分散液を得られるといえ、水に分散すれば、それにより得られる電極は溶媒が除かれたものであり、N-メチル-2-ピロリドンを溶媒としたものと相違するものとはいえないから、N-メチル-2-ピロリドンを溶媒としたものと同様に、本件発明のカーボンナノチューブ分散液は、密着性および導電性の高い電極膜を得られるものであり、高い分散性を有し、優れたレート特性を有するリチウムイオン2次電池を得ることができ、本件発明の課題を解決するものである。そして、当業者であれば、上述のように過度の試行錯誤なく水にカーボンナノチューブを分散できるのであるから、取消理由5及び申立理由5は理由がない。
イ 申立人の主張
(ア)申立人1は、令和5年7月25日に提出した意見書において、特許権者は、令和5年6月1日に、意見書とともに、実験例1、2を実施した実験成績証明書を提出しており、その実験成績証明書には、甲1-5の比較例1と同じ型番のカーボンナノチューブを用いている本願発明の実施例22において、溶媒をNMPから水に変更した実験例1、溶媒として水を使い、分散液が得られなかった甲1-6の比較例3において、CNT、溶媒、分散剤の混合比は変更せずに、分散処理方法を本願発明の実施例22の方法に変更した結果、分散液が得られた実験例2が示されているところ、特許権者は、実施例22に記載された方法でなければ、水を溶媒として、高い分散性を有する分散液は得られないことを示している旨主張し、そうすると、「甲1-5の比較例1の組成物や、甲1-6の比較例1-3の組成物とわずかに成分の量だけが異なる組成物」は本件発明に包含されるにもかかわらず、高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を得られないことは明らかであるため、本件発明は高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を得るという課題を解決しない範囲を包含することとなり、サポート要件を満たさない旨主張している。
しかし、甲1-5の比較例1の組成物や、甲1-6の比較例1-3の組成物とわずかに成分の量だけが異なる組成物を用いた場合についても、本願発明の実施例22記載の分散方法で分散処理を行えば分散性の高い分散液が得られると考えるのが合理的であるから、甲1-5の比較例1の組成物や、甲1-6の比較例1-3の組成物とわずかに成分の量だけが異なる組成物である場合についても分散性の高い分散液を得るという課題は解決されているといえるため、本件発明が課題を解決しない範囲を包含するという申立人1の主張は理由がない。
したがって、上記申立人1の主張によって上記アの判断は覆らない。
(イ)申立人2は、令和5年7月27日に提出した意見書において、溶媒(B)としてどのような溶媒を使用した場合であっても、配合量として十分に大きな量を設定すれば高い分散性が得られるし、令和5年6月1日に提出された実験成績証明書の結果は、溶媒(B)として水を使用した場合に、「常に」高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を提供するという課題が解決されたことを示すものではないため、上記実験成績証明書は採用されるべきではない旨主張している。
しかし、どのような溶媒を使用した場合であっても、配合量として十分に大きな量を設定すれば高い分散性が得られるという技術常識はないし、そのようなことを示す文献も示されていない。また、水を使用した場合に、水のみで「常に」高い分散性を有する分散液が提供される必要はなく、上記アで記載したとおり、溶媒として水を使用した場合、分散剤であるビニルアルコール骨格含有樹脂が加えられることによって、ビニルアルコール骨格含有樹脂が界面活性剤のように働き、水や親水性の溶媒中での疎水性のカーボンナノチューブの分散が可能となるものと認められるため、高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液が得られるといえる。
したがって、申立人2の上記主張によって、上記アの判断は覆らない。
(2)申立理由6について
本件明細書の【0102】には、「CNTをマイクロ波試料前処理装置(マイルストーンゼネラル社製、ETHOS1)を使用し、酸分解し、CNTに含まれる金属を抽出した。その後、マルチ型ICP発光分光分析装置(Agilent社製、720-ES)を用いて分析を行い、抽出液に含まれる金属量を算出した。CNTの純度は次のようにして計算した。
(式1)CNT純度(%)=((CNT質量-CNT中の金属質量)÷CNT質量)×100」
と記載されているように、CNTに含まれる金属量の測定方法が記載されている。この測定方法によれば、算出される金属量は本件発明4で特定される金属である「鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、シリカ、マンガン、モリブデン」以外の金属も含んだ量となるが、上記測定方法によって測定される金属の総量が0.5質量%未満となるならば、カーボンナノチューブ中の特定の各種金属の量が明らかでなくとも、当然に、本件発明4で特定される金属量も0.5%未満となる。
そして、本件明細書の【0130】の【表1】には、上記(式1)で算出されたCNT純度が記載されているため、CNT中の金属量も実際に測定されているといえる。
したがって、「鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、シリカ、マンガン、モリブデン」を含む金属の金属量が0.5質量%未満であることを測定する方法は記載されているし、測定した例も記載されている。
したがって取消理由6は理由がない。
(3)申立理由7について
本件明細書の【0010】によれば、本件発明は、以下のいずれかを課題としている。
ア 密着性および導電性の高い電極膜を得るためのカーボンナノチューブ分散液及びカーボンナノチューブ樹脂組成物を提供すること
イ 高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ樹脂組成物及び合材スラリーを提供すること
ウ 優れたレート特性を有するリチウムイオン二次電池を提供すること
ここで、実施例96は、カーボンナノチューブAを用いた分散液A4を用いたものであるところ、【0137】によれば、分散液A4(実施例4)は分散性の指標であるTI値が3.5であり、高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液である。また、【0145】に分散液A4を用いた分散液による電極膜(実施例50)は導電性が+++であり、密着性も+であり、導電性が高く密着性も十分なものとなっている。そして、【0152】には、分散液A4を用いた電極膜について、レート特性+とされており、十分なレート特性を有するものである。
そうすると、カーボンナノチューブAを用いた分散液A4は、上記の課題ア~ウをすべて満たすものであるといえる。
そして、申立人1のいうところの「総合評価」は、レート特性および高温特性による評価であるとすれば、「高温特性」については本件発明において課題とされているものではないため高い高温保持特性を有さないことは、本件発明の課題を解決しないことを意味しない。
また、仮に本件発明の範囲外の例が課題を解決していたり、好ましい物性を有していたとしても、そのことによって本件発明におけるサポート要件の判断は影響されない。
したがって、申立理由7は理由がない。
3 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)
申立理由10について
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かにより判断するものである。
そうすると、比較例の物性は、実施可能要件の判断に影響しない。そして、本件発明のカーボンナノチューブ分散液は、【0097】~【0155】に記載されている実施例1~115により本件発明に対応するものが、実際に製造されることが記載されている。
したがって、申立理由10は理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~12に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700041