特許異議申立
2021-701196
樹脂組成物
- 審判番号
- 2021-701196
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-224647
- 登録番号
- 6891461
- 請求日
- 2021年12月16日
- 審決日
- 2022年10月27日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋インキSCホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】家入 健
- 【権利者代理人】秦 恵子
- 【権利者】トーヨーカラー株式会社
- 【権利者代理人】家入 健
- 【権利者代理人】秦 恵子
- 【異議申立人】工藤 知江
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 細井 龍史
- 審判官 杉江 渉
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6891461号発明「樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6891461号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第6891461号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6891461号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成28年11月18日に出願された特願2016-224647号であって、令和3年5月31日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年6月18日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月16日に特許異議申立人である工藤 知江(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後、令和4年5月9日付けで取消理由通知が通知された後に同年7月8日に、特許権者である東洋インキSCホールディングス株式会社及びトーヨーカラー株式会社(以下、これらを併せて「特許権者」という。)により訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年同月19日付けで特許法第120条の5第5項の通知を行い、申立人より同年8月18日に意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年3月7日付けの本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「樹脂組成物100質量%中の、前記前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、」とあるのを、「樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3乃至請求項5も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、0.1~10質量%である」とあるのを、「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、0.1~1質量%である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3乃至請求項5も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「導電性樹脂組成物」を、「樹脂組成物の成形体の表面抵抗率が2.0×103Ω/□以下であり、」「導電性樹脂組成物」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3乃至請求項5も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の「導電性樹脂組成物」を、「前記導電性無機粒子は繊維状物質を含まない導電性樹脂組成物」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3乃至請求項5も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「樹脂組成物100質量%中の、前記前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、」とあるのを、「樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3乃至請求項5も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、0.1~10質量%である」とあるのを、「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、0.1~1質量%である」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3乃至請求項5も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2の「導電性樹脂組成物」を、「樹脂組成物の成形体の熱伝導率が1.1W/mK以上であり、」「導電性樹脂組成物」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3乃至請求項5も同様に訂正する)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2の「導電性樹脂組成物」を、「前記導電性無機粒子は繊維状物質を含まない導電性樹脂組成物」」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3乃至請求項5も同様に訂正する)。
(9)一群の請求項
請求項3ないし5は、それぞれ請求項1又は請求項2を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1ないし4又は訂正事項5ないし8によって記載が訂正される請求項1又は請求項2に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「前記前記」を「前記」と訂正するもので、誤記の訂正ないしは明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2による請求項1についての訂正は、「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の限定した事項については、願書に添付した明細書の【実施例】の実施例4,6に四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率を1質量%したことが記載されているから、訂正事項2による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3による訂正について
訂正事項3による請求項1についての訂正は、「樹脂組成物の成形体の表面抵抗率が2.0×103Ω/□以下」という発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の限定した事項については、願書に添付した明細書の【実施例】の実施例11に「樹脂組成物の成形体の表面抵抗率が2.0×103Ω/□」であること記載されており、同明細書段落【0003】の「スーパーエンプラを使用した成形体に・・・導電性、または熱伝導性といった機能性を付与させる要望が出ている」等の本件特許発明の背景技術や同段落【0020】【0024】【0040】等からみて、成形体の導電性を高めること、すなわち、成形体の表面抵抗率を低くすることが求められていることが明らかであるから、「樹脂組成物の成形体の表面抵抗率が2.0×103Ω/□以下」とすることも記載されているといえるから、訂正事項3による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4による訂正について
訂正事項4による請求項1についての訂正は、「導電性無機粒子」について、「繊維状物質を含まない」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の限定した事項については、願書に添付した明細書の段落【0020】【0023】に、導電性無機粒子について、「繊維状物質を含む」ものと「繊維状物質を含まない」ものが記載されているから、訂正事項4による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5による訂正について
訂正事項5による請求項2についての訂正は、「前記前記」を「前記」と訂正するもので、誤記の訂正ないしは明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項6による訂正について
訂正事項6による請求項2についての訂正は、「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の限定した事項については、願書に添付した明細書の【実施例】の実施例4,6に四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率を1質量%したことが記載されているから、訂正事項6による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項7による訂正について
訂正事項7による請求項2についての訂正は、「樹脂組成物の成形体の熱伝導率が1.1W/mK以上」という発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の限定した事項については、願書に添付した明細書の【実施例】の実施例10に「樹脂組成物の成形体の熱伝導率が1.1W/mK」であること記載されており、同明細書段落【0003】の「スーパーエンプラを使用した成形体に・・・導電性、または熱伝導性といった機能性を付与させる要望が出ている」等の本件特許発明の背景技術や同段落【0019】【0026】等からみて、成形体の熱伝導率を高めることが求められていることが明らかであるから、「樹脂組成物の成形体の熱伝導率が1.1W/mK以上」とすることも記載されているといえるから、訂正事項7による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(8)訂正事項8による訂正について
訂正事項8による請求項2についての訂正は、「熱伝導性無機粒子」について、「繊維状物質を含まない」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の限定した事項については、願書に添付した明細書の段落【0020】に記載されているから、訂正事項8による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、請求項1ないし5についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし5を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および導電性無機粒子を含み、
前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、球状粒子であり、
前記導電性無機粒子は、平均粒子径が0.001~200μmであり、
熱可塑性樹脂は、ナイロン9T、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、液晶ポリマー、およびポリフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、0.1~1質量%であり、
樹脂組成物の成形体の表面抵抗率が2.0×103Ω/□以下であり、前記導電性無機粒子は繊維状物質を含まない導電性樹脂組成物。
【請求項2】
融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および熱伝導性無機粒子を含み、
前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、球状粒子であり、
前記熱伝導性無機粒子は、平均粒子径が0.001~200μmであり、
熱可塑性樹脂は、ナイロン9T、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、液晶ポリマー、およびポリフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、0.1~1質量%であり、
樹脂組成物の成形体の熱伝導率が1.1W/mK以上であり、前記熱伝導性無機粒子は繊維状物質を含まない熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の平均粒子径が0.1~100μmである、請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、前記無機粒子および四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の合計100質量%中に前記無機粒子を0.1~80質量%含む、請求項1~3いずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに酸化防止剤を含む、請求項1~4いずれか1項に記載の樹脂組成物。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という 。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は 外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件特許発明1ないし5に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は、下記第6 1(5)の主張ア及び主張イのとおりである。
(4)申立理由4(明確性要件)
本件特許発明ないし5に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は、下記3(1)アないしウのとおりである。
2 証拠方法
甲第1号証:特開平11-279405号公報
甲第2号証:特開2002-364762号公報
甲第3号証:高分子新素材One Point-1 エンジニアリングプラスチック、片岡 俊郎ほか、1991年10月15日、初版8刷、p. 59~61
甲第4号証:株式会社喜多村 KTL・KTシリーズのカタログ 2004年7月
甲第5号証:特開2000-348537号公報
甲第6号証:特開2015-122212号公報
甲第7号証:特開2002-226706号公報
甲第8号証:特開平5-230343号公報
甲第9号証:特願2016-224647号の令和2年8月21日付け意見書
(以下、順に「甲1」ないし「甲9」という。)
3 取消理由の概要
令和4年5月9日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(明確性要件)
本件特許発明1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は、以下のとおりである。
ア 本件特許発明1は、「導電性無機粒子」及び当該粒子を含む「導電性樹脂組成物」における「導電性」が、どの程度の導電性を意図するのか当業者の出願当時における技術常識を参酌しても不明確である。
イ 本件特許発明2は、「熱伝導性無機粒子」及び当該粒子を含む「熱伝導性樹脂組成物」における「熱伝導性」が、どの程度の熱伝導性を意図するのか当業者の出願当時における技術常識を参酌しても不明確である。
ウ 本件特許発明1における「導電性無機粒子」及び本件特許発明2における「熱伝導性無機粒子」について、繊維状物質が包含されるのか、当業者の出願当時における技術常識を参酌しても不明確である。すなわち、甲9において、特許権者は、「しかし、本願は、ガラス繊維や炭素繊維ではなく無機粒子であって、かつその平均粒子径が0.001~200μmである点で異なります」と主張しており、本件請求項1及び本件請求項1に係る無機粒子(導電性無機粒子及び熱伝導性無機粒子)には、カーボンファイバーが含まれない旨を主張している。また、本件明細書によれば、無機粒子(導電性無機粒子及び熱伝導性無機粒子を含む)には、カーボンファイバーなどの繊維状物質も包含されるところ、特許権者は、本件請求項1において、無機粒子であり、かつその平均粒子径を特定することで、カーボンファイバーを除いているものと考えられる。しかしながら、本件請求項1に係る「導電性無機粒子及び本件請求項2に係る「熱伝導性無機粒子」に、他の繊維状物質(例えば、段落0020に記載されているカーボンナノファイバー等)が包含されるかは不明である。
また、本件特許発明1又は2を直接ないしは間接的に引用する本件特許発明3ないし5も同様である。
(2)取消理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)取消理由3(甲2に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 取消理由についての当審の判断
取消理由1(明確性要件) は、申立理由4(明確性要件)と同旨であり、取消理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)は、申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)と同旨であり、取消理由3(甲2に基づく新規性・進歩性)は、申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)と同旨であるから、以下、併せて検討する。
1 取消理由1(明確性要件)について
(1)取消理由1のアについて
上記取消理由1のアは、「本件特許発明1は、「導電性無機粒子」及び当該粒子を含む「導電性樹脂組成物」における「導電性」が、どの程度の導電性を意図するのか当業者の出願当時における技術常識を参酌しても不明確である。」というものである。
上記第2、第3に示したように、本件特許発明1は、「樹脂組成物の成形体の表面抵抗率が2.0×103Ω/□以下であり」を加える訂正がなされ、「導電性樹脂組成物」における「導電性」の程度は明確となった。
また、当該訂正により、「導電性無機粒子」は、これを所定量配合した「樹脂組成物の成形体の表面抵抗率が2.0×103Ω/□以下」となる程度の「導電性」を有するものであることは明らかであるから、「導電性無機粒子」の導電性の程度も当業者に明らかであると解される。
よって、当該取消理由は解消された。
(2)取消理由1のイについて
上記取消理由のイは、「本件特許発明2は、「熱伝導性無機粒子」及び当該粒子を含む「熱伝導性樹脂組成物」における「熱伝導性」が、どの程度の熱伝導性を意図するのか当業者の出願当時における技術常識を参酌しても不明確である。」というものである
しかしながら、上記第2、第3に示したように、本件特許発明2は、「樹脂組成物の成形体の熱伝導率が1.1W/mK以上であり」を加える訂正がなされ、「熱伝導性樹脂組成物」における「熱伝導性」が明確となった。
また、当該訂正により、「熱伝導性無機粒子」も、熱伝導性無機粒子を配合した「樹脂組成物の成形体の熱伝導率が1.1W/mK以上」となる程度の「熱伝導性」を有することが明らかとなった。
よって、当該取消理由は解消された。
(3)取消理由1のウについて
上記取消理由のウは、「本件特許発明1における「導電性無機粒子」及び本件特許発明2における「熱伝導性無機粒子」について、繊維状物質が包含されるのか、当業者の出願当時における技術常識を参酌しても不明確である。」というものである
しかしながら、上記第2、第3に示したように、本件特許発明1は、「前記導電性無機粒子は繊維状物質を含まない」を加える訂正がなされ、本件特許発明2は、「前記熱伝導性無機粒子は繊維状物質を含まない」を加える訂正がなされ、当該無機粒子が繊維状物質を含まないものであることが明らかとなった。
よって、当該取消理由は解消された。
(4)申立人の主張について
ア 申立人の主張
申立人は、令和4年8月18日に提出された意見書の第3ないし6ページにおいて、以下の主張をしている。
「訂正発明1における「導電性無機粒子」には繊維状物質が含まれないことは明確であるとしても、「導電性樹脂組成物」自体に繊維状物質が含まれることについては排除されているかが明確ではない。
一方、本件特許に係る出願の審査過程での意見書(甲第9号証)において、特許権者は、「しかし本願は、ガラス繊維や炭素繊維ではなく無機粒子であって、かつその平均粒子径が0.001~200μmである点で異なります。」、「しかし本願は、ガラス繊維や炭素繊維といった繊維状充填剤や、チタン酸カリウムウィスカーやホウ酸アルミニウムウィスカーといった針状充填剤ではなく、無機粒子、であって、かつその平均粒子径が0.001~200μmである点で異なります。」と述べている。
この主張は、各引用文献との差別化の観点で述べられており、「ガラス繊維や炭素繊維ではなく無機粒子であって」(下線部は特許異議申立人が追記)、「繊維状充填剤や、針状充填剤ではなく、無機粒子、であって」(下線部は特許異議申立人が追記)と述べられているように、訂正発明1では、各引用文献に記載された樹脂組成物に含まれるガラス繊維や炭素繊維等の置き換えとして、無機粒子(訂正発明1では導電性無機粒子)が用いられている。すなわち、上記意見書の主張の意図からして、特許権者は、繊維状物質が「導電性無機粒子」に含まれないことのみならず、繊維状物質が「導電性樹脂組成物」に含まれないことも主張している。そうすると、訂正発明1における「導電性樹脂組成物」において繊維状物質が含まれるのか不明確となっている。」
「訂正発明2における「熱伝導性樹脂組成物」についても、上記の訂正発明1における「導電性樹脂組成物」と同様に、繊維状物質が含まれるのか不明確となっている。」
イ 検討
本件特許発明1の「導電性樹脂組成物」は、「導電性無機粒子」以外の「繊維状物質」も含まないことを特定するものではないし、本件特許発明2の「熱伝導性樹脂組成物」も、「熱伝導性無機粒子」以外の「繊維状物質」も含まないことを特定するものではないから、本件特許発明1の「導電性樹脂組成物」自体に、「導電性無機粒子ではない繊維状物質」が含まれることを排除していないことは明確であるし、本件特許発明2の「熱伝導性樹脂組成物」自体に、熱伝導性無機粒子ではない繊維状物質が含まれることを排除していないことは明確である。
また、甲9で、出願人(特許権者)が述べている「本願は、ガラス繊維や炭素繊維といった繊維状充填剤や、チタン酸カリウムウィスカーやホウ酸アルミニウムウィスカーといった針状充填剤ではなく、無機粒子、であって、かつその平均粒子径が0.001~200μmである点で異なります。」との文章は、「無機粒子」が繊維状充填剤や針状充填剤ではないことを述べたものであって、本件特許発明1の「導電性樹脂組成物」は、「導電性無機粒子」以外の「繊維状物質」を含まないことや、本件特許発明2の「熱伝導性樹脂組成物」は、「熱伝導性無機粒子」以外の「繊維状物質」を含まないことを意図していたとは読み取れない。
よって、申立人の主張は、首肯できない。
(5)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由1及び申立理由4によっては取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、「ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付したものである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)ポリアリーレンスルフィド50~96重量%、(B)フッ素樹脂3~30重量%、及び(C)導電性カーボンブラック1~20重量%を含有する樹脂成分100重量部に対して、(D)アミノアルコキシシラン化合物0.01~10重量部を含有せしめてなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】 (C)導電性カーボンブラックが、DBP吸油量360ml/100g以上のものである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】 体積抵抗率が、1×102~9×1015Ω・cmの範囲である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形してなる摺動部材。
【請求項5】 摺動部材が、電子写真方式の画像形成装置における現像ロールのギャップ保持コロ軸受、加熱ロールの滑り軸受、または加圧ロールの滑り軸受である請求項4記載の摺動部材。」
「【0002】
【従来の技術】ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略記)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記)は、耐熱性、難燃性、耐薬品性、寸法安定性、機械的物性などに優れたエンジニアリングプラスチックであり、電気・電子部品、精密機器部品、自動車部品などとして、広範な用途に使用されている。近年、PASは、軸受やギアなどの摺動部材の材料としての用途においても、その需要が増大している。一般に、合成樹脂製の摺動部材には、耐熱性、摺動特性(低動摩擦係数、耐摩耗性)、機械的物性などに優れると共に、射出成形により精密成形が可能で、しかも摺動する相手材を傷つけないことなどが要求される。さらに、合成樹脂製の摺動部材には、適用分野によっては、帯電防止機能を要求されることが多い。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐熱性、摺動特性、機械的物性、溶融流動性などに優れる共に、体積抵抗率が所望の範囲内に制御されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、前記諸特性に優れた樹脂組成物からなる摺動部材を提供することにある。また、本発明の目的は、前記諸特性に優れ、かつ、軟質金属部品などの相手材を傷つけることがない摺動部材を提供することにある。
【0007】本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、PASに、フッ素樹脂と導電性カーボンブラックを配合し、さらに、アミノアルコキシシラン化合物を添加することにより、PASが本来有する耐熱性、難燃性、耐薬品性などの諸特性を保持しつつ、摩擦・摩耗特性が顕著に改善され、しかも体積抵抗率を所望の低い範囲内に制御することができる樹脂組成物の得られることを見いだした。本発明の樹脂組成物は、用途によってはアラミド繊維などの補強材を添加してもよいが、このような補強材は必須ではないため、摺動特性や帯電防止性に優れることに加えて、軟質金属部品などの相手材を傷つけることがない摺動部材を与えることができる。本発明の樹脂組成物は、電子写真方式の画像形成装置に配置されている軸受などの各種摺動部材用の樹脂材料として特に好適である。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。」
「【0009】
【発明の実施の形態】ポリアリーレンスルフィド(PAS)
本発明で使用するPASとは、式[-Ar-S-](ただし、-Ar-は、アリーレン基である。)で表されるアリーレンスルフィドの繰り返し単位を主たる構成要素とする芳香族ポリマーである。[-Ar-S-]を1モル(基本モル)と定義すると、本発明で使用するPASは、この繰り返し単位を通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有するポリマーである。アリーレン基としては、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、置換フェニレン基(置換基は、好ましくは炭素数1~6のアルキル基、またはフェニル基である。)、p,p′-ジフェニレンスルホン基、p,p′-ビフェニレン基、p,p′-ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基などを挙げることができる。PASとしては、主として同一のアリーレン基を有するポリマーを好ましく用いることができるが、加工性や耐熱性の観点から、2種以上のアリーレン基を含んだコポリマーを用いることもできる。
【0010】これらのPASの中でも、p-フェニレンスルフィドの繰り返し単位を主構成要素とするPPSが、加工性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから特に好ましい。この他に、ポリアリーレンケトンスルフィド、ポリアリーレンケトンケトンスルフィドなどを使用することができる。コポリマーの具体例としては、p-フェニレンスルフィドの繰り返し単位とm-フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンスルホンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマーなどを挙げることができる。これらのPASは、結晶性ポリマーであることが好ましい。また、PASは、靭性や強度などの観点から、直鎖状ポリマーであることが好ましい。このようなPASは、極性溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロゲン置換芳香族化合物とを重合反応させる公知の方法(例えば、特公昭63-33775号公報)により得ることができる。」
「【0016】フッ素樹脂
本発明で使用するフッ素樹脂は、特に制限はなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、プロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルパーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン/イソブチレン共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチルビニルエーテル共重合体等を挙げることができる。これらの中でも、耐熱性、摺動性などの点で、PTFE、FEP、PFAなどが好ましい。樹脂成分中のフッ素樹脂の配合割合は、3~30重量%であり、好ましくは5~25重量%、より好ましくは8~20重量%である。フッ素樹脂の配合割合が過大であると、クリープ特性が不充分となり、過小であると、摺動特性が不充分になる場合がある。」
「【0019】導電性カーボンブラックの配合割合は、導電性カーボンブラックの導電性、構造、DBP吸油量、PASの溶融粘度、樹脂組成物の目標体積抵抗率に依存し、一概には規定できないが、本発明の目的を達成するには、樹脂成分中の導電性カーボンブラックの配合割合は、1~20重量%であり、好ましくは2~15重量%、より好ましくは3~10重量%である。導電性カーボンブラックの配合割合が過大であると成形性や機械的物性が低下し、過小であると所望の体積抵抗率を達成することが困難となる。望ましい体積抵抗率は1×102~9×1015Ω・cm、より望ましくは1×105~1×1015Ω・cmである。」
「【0024】その他の添加剤
本発明の樹脂組成物には、前記以外のその他の添加剤として、例えば、エポキシ基含有α-オレフィン系共重合体のような衝撃改質材、エチレングリシジルメタクリレートのような樹脂改良剤、ペンタエリスリトールテトラステアレートのような滑剤、熱硬化性樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ポロンナイトライドのような核剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤等を適宜添加することができる。これらの中でも、エポキシ基含有α-オレフィン系共重合体は、樹脂組成物の靭性(引張伸び)を高める上で好ましい。エポキシ基含有α-オレフィン系共重合体としては、例えば、α-オレフィンと不飽和グリシジル基含有単量体との共重合体、α-オレフィンと不飽和グリシジル基含有単量体との共重合体の存在下にビニル単量体を重合して得られるグラフト化前駆体(特開平1-131220号公報、特開平1-138214号公報)などが挙げられる。エポキシ基含有α-オレフィン系共重合体は、樹脂成分中、通常、0~30重量%の割合で使用される。」
「【0027】
【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、物性の測定方法は、以下に示すとおりである。
(1)引張り物性(引張強さ、引張伸び)
樹脂組成物の引張強さ及び引張伸び(引張破断伸び)は、ASTM D638に準拠して、測定温度23℃、標点間距離50mm、クロスヘッド速度5mm/分で測定した。
(2)曲げ物性(曲げ弾性率、曲げ強さ)
樹脂組成物の曲げ弾性率及び曲げ強さは、ASTM D790に準拠して、測定温度23℃、支持間距離80mm、クロスヘッド速度3.5mm/分で測定した。
(3)体積抵抗率
樹脂組成物の体積抵抗率は、JIS K6911に準拠して測定した。
(4)動摩擦係数及び摩耗量
樹脂組成物の動摩擦係数及び摩耗量は、鈴木式摩擦摩耗試験に従って、荷重5×105Pa、速度0.2m/s、相手材アルミニウム、走行時間15時間の条件で測定した。
(5)溶融粘度
PASの溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機社製)を用いて、温度310℃、剪断速度1200/秒の条件で測定した。
(6)PASのpH
アセトン:水=1:2(容積比)の混合溶媒中で、PASのpHを測定した。より具体的には、ポリマー20gに対して、アセトン50mlを添加してよく混合し、さらにイオン交換水100mlを加え、振盪機にて30分間振盪した後、上澄み液60mlを分取し、そのpHを測定した。
【0028】[合成例1]PAS(A)の合成
重合缶に、N-メチルピロリドン(NMP)720kgと、46.21重量%の硫化ナトリウム(Na2S)を含む硫化ナトリウム・5水塩420kgとを仕込み、窒素ガスで置換後、攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水160kgを留出させた。このとき、同時に62モルのH2Sが揮散した。上記脱水工程後、重合缶にp-ジクロロベンゼン(pDCB)364kgと、NMP250kgを加え、攪拌しながら220℃で4.5時間反応させた。その後、攪拌を続けながら水59kgを圧入し、255℃に昇温して5時間反応させた。反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗2回と水洗3回を順次行い洗浄ポリマーを得た。さらに、この洗浄ポリマーを3%塩化アンモニウム水溶液で洗浄した後、水洗を行った。脱水後、回収した粒状ポリマーは、105℃で3時間乾燥した。このようにして得られたポリマー(A)の収率は89%で、溶融粘度は140Pa・s、pHは6.5、平均粒径は約900μmであった。
【0029】[合成例2]PAS(B)の合成
重合缶にNMPを800kgと46.10重量%のNa2Sを373kg仕込み、合成例1と同様に脱水処理を行ったところ、水142kgと54モルのH2Sが留出した。次に、重合缶にpDCB320kg、1,2,4-トリクロロベンゼン0.79kg、NMP274kg、及び水0.9kgを加え、攪拌しながら220℃で1時間反応後、230℃で3時間反応させた。次いで、攪拌を続けながら水77kgを圧入し、255℃に昇温して1時間反応させ後、245℃で3時間反応を継続した。反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗2回、さらに水洗4回を行い、洗浄ポリマーを得た。脱水後、回収した粒状ポリマーは、105℃で3時間乾燥した。このようにして得られたポリマー(B)の収率は90%で、溶融粘度は517Pa・s、pHは7.5、平均粒径は約800μmであった。
【0030】[合成例3]PAS(C)の合成
重合缶にN-メチルピロリドン(NMP)720kgと、46.21重量%の硫化ナトリウム(Na2S)を含む硫化ナトリウム・5水塩420kgとを仕込み、窒素ガスで置換後、攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水158kgを留出させた。このとき、62モルのH2Sが揮散した。上記脱水工程後、重合缶にp-ジクロロベンゼン(pDCB)371kgと、NMP189kgを加え、攪拌しながら220℃で4.5時間反応させた。その後、攪拌を続けながら水49kgを圧入し、255℃に昇温して5時間反応させた。反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗2回さらに水洗3回を行い、洗浄ポリマーを得た。さらに、この洗浄ポリマーを0.6%塩化アンモニウム水溶液で洗浄した後、水洗を行った。脱水後、回収した粒状ポリマーは、105℃で3時間乾燥した。このようにして得られたポリマー(C)の収率は92%で、溶融粘度は55Pa・s、pHは6.2、平均粒径は約500μmであった。
【0031】[実施例1]表1に示す各ポリマー成分をヘンシェルミキサーで均一にドライブレンドし、46mmφ二軸混練押出機(池貝鉄工社製PCM-46)へ供給し、シリンダー温度260~340℃にて混練を行いペレット状物を得た。得られたペレット状物を150℃で6時間乾燥した後、射出成型機(東芝機械社製IS-75)により、金型温度145℃、シリンダー温度300~340℃で、引張試験片、曲げ試験片、及び体積抵抗率測定のための平板を作製した。結果を表1に示す。
【0032】[実施例2~6、及び比較例1~4]各成分の種類と配合割合を表1に示すように替えたこと以外は、実施例1と同様にして、各試験片を作成した。結果を表1に示す。」
【0033】
【表1】
[図:0001393993000001.jpg]
【0034】
(1)PTFE:ポリテトラフルオロエチレン粉末(喜多村社製、商品名KTL-610)
(2)FEP:テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(三井・デュポンフロロケミカル社製、商品名テフロン100-J)
(3)エポキシ基含有α-オレフィン共重合体:モデイパーA4400(日本油脂社製)
(4)導電性カーボンブラック(DBP吸油量500ml/100g):ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)
(5)アミノアルコキシシラン:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン
(6)測定値中、Eの表記は、常法に従って、例えば、3E+12の場合、3×1012を表し、また、2.1E-06は、2.1×10-6を表すものとする。」
(イ)甲1発明
甲1に記載された事項について、特に実施例4(段落【0017】ないし【0033】【0034】【表1】)に着目すると共に、【請求項1】の記載にならって整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
「(A)重合缶に、N-メチルピロリドン(NMP)720kgと、46.21重量%の硫化ナトリウム(Na2S)を含む硫化ナトリウム・5水塩420kgとを仕込み、窒素ガスで置換後、攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水160kgを留出させた後、重合缶にp-ジクロロベンゼン(pDCB)364kgと、NMP250kgを加え、攪拌しながら220℃で4.5時間反応させ、その後、攪拌を続けながら水59kgを圧入し、255℃に昇温して5時間反応させ、反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗2回と水洗3回を順次行い洗浄ポリマーを得、さらに、この洗浄ポリマーを3%塩化アンモニウム水溶液で洗浄した後、水洗脱水後、回収し105℃で3時間乾燥して得られたポリマーPAS(A)50.0重量%と、重合缶にN-メチルピロリドン(NMP)720kgと、46.21重量%の硫化ナトリウム(Na2S)を含む硫化ナトリウム・5水塩420kgとを仕込み、窒素ガスで置換後、攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水158kgを留出させた後、重合缶にp-ジクロロベンゼン(pDCB)371kgと、NMP189kgを加え、攪拌しながら220℃で4.5時間反応させ、その後、攪拌を続けながら水49kgを圧入し、255℃に昇温して5時間反応させ、反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗回さらに水洗3回を行い、洗浄ポリマーを得、さらに、この洗浄ポリマーを0.6%塩化アンモニウム水溶液で洗浄した後、水洗脱水後、回収し105℃で3時間乾燥して得られたポリマーPAS(C)36.2重量%、(B)PTFE:ポリテトラフルオロエチレン粉末(喜多村社製、商品名KTL-610)10.0重量%、及び(C)導電性カーボンブラック:ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)3.8重量%を含有する樹脂成分100重量部に対して、(D)アミノアルコキシシラン化合物0.7重量部を含有せしめてなり、体積抵抗率が4×1013Ω・cmであるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」(以下、「甲1実施例4発明」という。)
イ 甲3に記載された事項
甲3には、ポリフェニレンスルフィドについて、以下の事項が記載されている。
(ア)「A.緒言
a.合成法
ポリフェニレンスルフィド(PPS)は式(1)に示すベンゼン環とイオウが
結合した単純な構造を有するポリマーで,・・・
[図:0001393993000002.jpg]
・・・
最終的に商業生産的に成功したのは、1967年にEdmondとHillが開発した極
性溶媒中でp-ジクロロベンゼンと硫化ナトリウムを反応させてPPSを得るフ
ィリップス法である9)。同社により1973年から商業生産されている。
[図:0001393993000003.jpg]
」(第59ページ第1行~第60ページ第4行)
(イ)「c.ポリマー特性
PPSは斜方晶系の結晶構造を有する結晶性ポリマーであり11)、融点は277~288℃、Tgは85~93℃である。」(第60ページ下から第2~4行)
ウ 甲4に記載された事項
甲4には、株式会社喜多村が発行している4フッ化エチレン樹脂固体潤滑粉であるKTL・KTシリーズについて、以下の事項が記載されている。
(ア)「
[図:0001393993000004.jpg]
」(第3ページ)
エ 甲5に記載された事項
甲5には、「カーボンブラック」について、以下の事項が記載されている。
「【0032】〔実施例1〕導電性カーボンブラックとしてケッチェンブラックEC(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製;以下ECという)及びケッチェンブラックEC600JD(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製;以下600JDという)を準備した。これらの代表的な性状を下記表1に示す。
【0033】
【表1】
[図:0001393993000005.jpg]
*DBP(ジブチルフタレート)給油量:ASTM D-2414-79に準拠し測定した。
*比表面積:BET法にて測定した。
*一次粒子径:TEMにより測定した。」
オ 甲6に記載された事項
甲6には、「熱伝導性フィラー」について、以下の事項が記載されている。
「【0030】
第1フッ素ゴム層15に熱伝導性を付与するために、第1熱伝導性樹脂組成物は通常、熱伝導性フィラーを含む。熱伝導性フィラーとしては、特に制限されず、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、結晶性酸化ケイ素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ホウ素(六方晶BNや立方晶BN)、窒化アルミニウム(AlN)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭化ケイ素(SiC)、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)、炭素繊維、ダイヤモンド、黒鉛等を用いることができる。熱伝導性フィラーとして、1種の熱伝導性フィラーを単独で用いてもよいし、2種以上の熱伝導性フィラーを混合して用いてもよい。」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1実施例4発明とを対比する。
甲1実施例4発明の「ポリマーPAS(A)」及び「ポリマーPAS(C)」は、甲3の上記(1)イ(ア)に示される製造方法からみて、極性溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)中でp-ジクロロベンゼン(pDCB)と硫化ナトリウム(Na2S)を反応させたものであるから、「ポリフェニレンサルファイド」であり、甲3の上記(1)イ(イ)には、「PPSは斜方晶系の結晶構造を有する結晶性ポリマーであり11)、融点は277~288℃、Tgは85~93℃である。」と記載されていることから、本件特許発明1の「融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂」である「ポリフェニレンサルファイド」に相当する。
また、甲1実施例4発明の「(B)PTFE:ポリテトラフルオロエチレン粉末(喜多村社製、商品名KTL-610)」について、甲4には「完全に焼成されたPTFE微粉末」と記載されており、また、掲載されている写真から、その形状は「球状」であると認識できるから、本件特許発明1の「球状粒子」である「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子」に相当し、その含有量は、9.9質量%(=10/(100+0.7))で重複一致する。
さらに、甲1実施例4発明の「(C)導電性カーボンブラック:ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)」は、本件特許発明1の「導電性無機粒子」に相当する。そして、甲1実施例4発明の「ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」は、上記「(C)導電性カーボンブラック」を含有し、体積抵抗率が4×1013Ω・cmであり、甲1の段落【0007】に、「帯電防止性に優れる」と記載されていることから、本件特許発明1の「導電性樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。
<一致点>
融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および導電性無機粒子を含み、
前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、球状粒子であり、
熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンサルファイドである、導電性樹脂組成物。
<相違点>
<相違点1-1-1>
「導電性無機粒子」の粒子径が、本件特許発明1は「平均粒子径が0.001~200μm」であるのに対し、甲1実施例4発明は不明である点
<相違点1-1-2>
「樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率」が、本件特許発明1は「0.1~1質量%」であるのに対し、甲1実施例4発明は「9.9質量%」である点
<相違点1-1-3>
樹脂組成物の導電性が、本件特許発明1は「樹脂組成物の成形体の表面抵抗率が2.0×103Ω/□以下」であるのに対し、甲1実施例4発明は「体積抵抗率が4×1013Ω・cm」である点
そこで、上記<相違点>について検討する。
事案に鑑み、<相違点1-1-2>から検討する。
まず、新規性について検討するに、当該相違点は実質的な相違点であり、甲1実施例4発明は本件特許発明1ではない。
よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明でない。
次いで、進歩性について検討する。
本件特許発明1の技術的意義について見てみるに、本件特許明細書の段落【0007】より、本件特許発明1は、「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する成形体を製造可能な、スーパーエンプラを含む樹脂組成物の提供」を目的とするものであり、同段落【0009】に、「本発明によれば、スーパーエンプラと相溶しない四フッ化ポリエチレン焼結物粒子を配合することで、樹脂組成物を製造する際の目ヤニの発生を抑制し、成形体の機械強度低下を抑制できる」こと、同段落【0033】には、「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、樹脂組成物100質量%中に0.1~20質量%含むことが好ましく、1~10質量%含むことがより好ましい。0.1~20質量%の範囲内で使用すると四フッ化ポリエチレン焼結物粒子が分散しやすく、目ヤニ抑制効果がより向上する。」という効果が奏されることが記載されている。
一方、甲1実施例4発明は、甲1の段落【0006】より、「耐熱性、摺動特性、機械的物性、溶融流動性などに優れる共に、体積抵抗率が所望の範囲内に制御されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供すること」を目的として発明されたものである。
そして、フッ素樹脂について、甲1の段落【0016】に、「本発明で使用するフッ素樹脂は、特に制限はなく、・・・これらの中でも、耐熱性、摺動性などの点で、PTFE、FEP、PFAなどが好ましい。樹脂成分中のフッ素樹脂の配合割合は、3~30重量%であり、好ましくは5~25重量%、より好ましくは8~20重量%である。フッ素樹脂の配合割合が過大であると、クリープ特性が不充分となり、過小であると、摺動特性が不充分になる場合がある。」と記載されている。すなわち、甲1には、フッ素樹脂を用いる目的は、耐熱性、摺動性であることしか記載されておらず、当該目的は本件特許発明1の「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する」ことと異なるものであるし、また、その配合量も「3~30重量%」と「0.1~1質量%」の範囲外とすることしか記載されていない。
そうすると、甲1には、甲1実施例4発明において、「(B)PTFE:ポリテトラフルオロエチレン粉末(喜多村社製、商品名KTL-610)」の配合量を「0.1~1質量%」とする動機付けはない。
よって、甲1実施例4発明において、<相違点1-1-2>に係る発明特定事項を当業者が容易に想到することはできない。
そして、本件特許発明1は「樹脂組成物を製造する際の目ヤニの発生を抑制し、成形体の機械強度低下を抑制できる。」という効果を奏するものである。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1実施例4発明、すなわち甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上検討したとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明でないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1実施例4発明とを対比する。
例えば、甲6の段落【0030】に記載されているように、カーボンブラックが熱伝導性を有することは、本件出願時点の技術常識であるから、甲1実施例4発明の「(C)導電性カーボンブラック:ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)」は、本件特許発明2の「熱伝導性無機粒子」に相当するといえる。そして、甲1実施例4発明の「ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」は、「熱伝導性無機粒子」に相当する「(C)導電性カーボンブラック:ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)」を含有するのであるから、本件特許発明2の「熱伝導性樹脂組成物」に相当するといえる。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。
<一致点>
融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および熱伝導性無機粒子を含み、
前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、球状粒子であり、
熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンサルファイドである、熱伝導性樹脂組成物。
<相違点>
<相違点1-2-1>
「熱伝導性無機粒子」の粒子径が、本件特許発明2は「平均粒子径が0.001~200μm」であるのに対し、甲1実施例4発明は不明である点
<相違点1-2-2>
「樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率」が、本件特許発明2は「0.1~1質量%」であるのに対し、甲1実施例4発明は「9.9質量%」である点
<相違点1-2-3>
樹脂組成物の熱伝導性が、本件特許発明2は「樹脂組成物の成形体の熱伝導率が1.1W/mK以上」であるのに対し、甲1実施例4発明は不明である点
そこで、上記<相違点>について検討する。
事案に鑑み、<相違点1-2-2>から検討する。
まず、新規性について検討するに、当該相違点は実質的な相違点であり、甲1実施例4発明は本件特許発明2ではない。
よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明でない。
次いで、進歩性について検討する。
<相違点1-2-2>は、上記アの<相違点1-1-2>と同じであるから、上記アで示したのと同じ理由により、甲1実施例4発明において、<相違点1-2-2>に係る発明特定事項を当業者が容易に想到することはできない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1実施例4発明、すなわち甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明3ないし5について
本件特許発明3ないし5は、請求項1、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1又は本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は本件特許発明2と同様の理由で、本件特許発明3及び4は、甲1に記載された発明ではないし、また、本件特許発明3ないし5は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第10ページにおいて、「甲第1号証の表1に示すように、当該樹脂組成物では四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率(表1中の「10.0」、「15.0」)が検討されている。また、樹脂分野において、樹脂組成物の所望の特性を得るべく、それに含まれる四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率を適宜調整することは、当業者にとって設計的事項である。」と主張する。
しかしながら、上記(2)アで述べたように、甲1には、フッ素樹脂を用いる目的は、耐熱性、摺動性であることしか記載されておらず、当該目的は本件特許発明1及び2の「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する」ことと異なるものであるし、また、その配合量も「3~30重量%」と本件特許発明1及び2において特定される「0.1~1質量%」の範囲外とすることしか記載されていない。
そうすると、甲1実施例4発明において、「(B)PTFE:ポリテトラフルオロエチレン粉末(喜多村社製、商品名KTL-610)」の配合量を「0.1~1質量%」とする動機付けはない。
よって、申立人の主張は首肯できない。
(4)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号 に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、取消理由2及び申立理由1によっては取り消すことはできない。
3 取消理由3(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項及び甲2発明
(ア)甲2に記載された事項
甲2には、「切換弁および樹脂製部品」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
「【請求項6】 冷凍サイクル内で使用され、かつ樹脂組成物を成形してなる樹脂製部品であって、前記冷凍サイクルはフロンガス代替冷媒を使用した冷凍サイクルであり、前記樹脂組成物は、樹脂組成物全体に対して、フッ素系樹脂を 3~35 重量%含むポリエーテルケトン系樹脂組成物であることを特徴とする樹脂製部品。」
「【0011】本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、耐熱性に優れ、フロンガス代替冷媒等の高圧条件での運転においても、変形、破壊しない切換弁であり、冷媒および添加剤が含有された冷凍機油に対しても十分な耐性を有して強度やシール性を維持することができるヒートポンプの切換弁および樹脂製部品を提供することを目的とする。」
「【0017】本発明で使用できる市販芳香族PEKの例を以下に列記する。また、PEKは、例えば特開昭S4-90265等に記載されている方法で作製できる。【化3】
[図:0001393993000006.jpg]
化3は、ビクトレックスMC社よりPEEK150P、PEEK450Pの商品名で市販されているPEKである。」
「【0021】本発明に使用できるフッ素系樹脂は、特に限定されることなく射出成形可能なフッ素樹脂を含めて、以下に示す種々のフッ素系樹脂が挙げられる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、PTFEと略称する)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(以下、PFAと略称する)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(以下、FEPと略称する)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体樹脂、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂、ポリビニルフルオライド樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂等を挙げることができる。また、上述のフッ素系樹脂を構成するモノマーを、例えば 1:10~10:1 のモル比で共重合させた共重合体や3元共重合体などの固体潤滑特性を示すフッ素化ポリオレフィン樹脂であってもよい。
【0022】フッ素系樹脂の中でも、熱分解開始温度が高く、耐熱特性に優れているパーフルオロ系のPTFE、PFA、FEP等がスライド弁などを製造する過程での熱に耐えるため好ましい。例えば、PFA、FEPの溶融粘度は、約 380℃においてそれぞれ 103~104Pa・s 、約 4×104~105Pa・s であり、またPTFEの溶融粘度は、約 340~380℃において約 1010~1011Pa・s である。本発明に使用できるフッ素系樹脂は、約 340~380℃において約 103~1011Pa・s 程度の溶融粘度を有するフッ素系樹脂が好ましい。
【0023】特にPTFEは、PEK樹脂の融点( 340~370℃)よりも 60~100℃以上熱分解点が高いので好ましい。このPTFEは、テトラフルオロエチレンの重合体であり成形用の粉末であっても、また、いわゆる固体潤滑用の微粉末であってもよい。PTFEは、再生PTFE粉末であっても使用できる。再生PTFE粉末とは、バージン材を一度焼成した後、粉砕して得られる粉末であり、このものは繊維状になり難い性質を有しており、配合した樹脂組成物を良好な溶融粘度に維持するので、成形性を改善する優れた添加剤であり特に好ましい。フッ素系樹脂としては、例えばテフロン7J、340J(いずれも三井デュポンフロロケミカル社製商品名)、テフゼル200(三井フロロケミカル社製商品名)、フルオンG163、L169、PFA-P63(いずれも旭硝子社製商品名)、ポリフロンM12、ルブロンL5(いずれもダイキン工業社製商品名)、KTL610、KT400H(いずれも喜多村社製商品名)などが例示できる。
【0024】フッ素系樹脂は、その形状と大きさとを特に限定することなく用いることができるが、粒状で粒径が 70μm 以下、好ましくは 1~50μm の粒径が樹脂組成を均一にするため好ましい。
【0025】PEK組成物の配合割合は、PEK組成物全体に対して、フッ素系樹脂を 3~35重量%配合することが好ましい。特に好ましい配合量としては、15~25重量%が強度、摺動性、シール性の観点から望ましい。フッ素系樹脂をこの範囲内で配合することにより、スライド弁の駆動が低トルクとなり、良好な切換え動作が得られる。フッ素系樹脂が 35 重量%をこえると、所定の強度、弾性率が得られず、スライド弁の強度不足により使用時の高圧のため変形や破壊が生じ、シール性を保てなくなるおそれがある。」
「【0028】本発明に使用できるマイカとしては、特に限定することなく一般市販品を使用できる。市販品としてはS325(カナダマイカ社製)が挙げられる。また、タルクも一般市販品を使用できる。市販品としてはクラウンタルクPP(松村産業社製)が挙げられる。また、黒鉛としては、天然品、人造品のどちらでも限定することなく、一般的に市販されている黒鉛が使用でき、市販品としてはACP(日本黒鉛社製)が挙げられる。」
「【0030】本発明では、さらにまた本発明の要旨を逸脱しない範囲において水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン等の無機難燃剤、ハロゲン系、リン系等の有機難燃剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、滑剤、分散剤、カップリング剤、発泡剤、架橋剤、着色剤、可塑剤等の添加剤を添加することができる。」
「【0032】
【実施例】実施例1~実施例9、比較例1~比較例7
実施例および比較例に用いたスライド弁の原材料を以下に説明する。[ ]内は表1に記載した略号を示す。
(1)ポリエーテルケトン樹脂[PEK]:PEK220G(ビクトレックス社製商品名)
(2)ポリエーテルエーテルケトン樹脂[PEEK]:PEEK450P(ビクトレックス社製商品名)
(3)ポリフェニレンサルファイド樹脂[PPS]:T4AG(トープレン社製商品名)
(4)テトラフルオロエチレン樹脂[PTFE]:KTL610(喜多村社製商品名)
(5)炭素繊維[CF]:ベスファイトCMF0160NS(東邦レーヨン製商品名)
(6)タルク[タルク]:クラウンタルクPP(松村産業社製商品名)
(7)マイカ[マイカ]:S325(カナダマイカ社製商品名)
(8)ウィスカ[ウィスカ]:チタン酸カリウムウィスカ、ティスモ-N(大塚化学社製商品名)
(9)黒鉛[黒鉛]:ACP(日本黒鉛社製商品名)
これらの材料を表1に示した割合で配合し、二軸押出機を用いてペレット状に造粒し、射出成形で図3および図4に示したスライド弁(家庭用エアコン 7kw相当品)を形成した。図3および図4に示すように、スライド弁1は、弁座に対する摺接面12を有する本体13より構成されている。なお、14は流体通路を、15は溝をそれぞれ示す。
【0033】得られたスライド弁を用いて、曲げ弾性率(ASTM D638)を測定するとともに、以下に示す実機耐久試験および高温耐圧試験を行なった。
【0034】実機耐久試験
図1および図2に示したヒートポンプを使用し、切換弁にスライド弁を取り付け 150℃、4MPa の条件のもとで、初期および耐久運転( 20,000 回往復運動)後のスライド弁のシール性、外観調査として変形の有無、発泡およびクラックの有無を調査した。
【0035】高温圧縮破壊試験
図1および図2に示したヒートポンプを使用し、切換弁にスライド弁を取り付け、温度 170℃にて、5MPa の圧力をかけ、2 時間放置し破壊や変形の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
[図:0001393993000007.jpg]
」
(イ)甲2発明
甲2に記載された事項について、特に実施例6(段落【0032】ないし【0036】【表1】)に着目して、【請求項6】にならって整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
「(2)ポリエーテルエーテルケトン樹脂[PEEK]:PEEK450P(ビクトレックス社製商品名)80重量%、(4)テトラフルオロエチレン樹脂[PTFE]:KTL610(喜多村社製商品名)10重量%、(9)黒鉛[黒鉛]:ACP(日本黒鉛社製商品名)10重量%、配合したポリエーテルケトン系樹脂組成物」(以下、「甲2実施例6発明」という。)
イ 甲4に記載された事項
甲4には、上記1(1)ウのとおりの記載がある。
ウ 甲6に記載された事項
甲6には、上記1(1)オのとおりの記載がある。
エ 甲8に記載された事項
甲8には、「黒鉛」について、以下の記載がある。
「【0029】
【実施例】本発明を、実施例により更に詳細に説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の好適な態様を示すものである。まず、実施例および比較例に使用した原材料を一括して示す。
(A)テレフタル酸、4-ヒドロキシ安息香酸および4,4'-ジヒドロキシジフェニルからなるサーモトロピック液晶コポリエステル(上記成分のモル比1:2:1、DSCによる融点420℃)、(B)フェノール系熱硬化性樹脂を炭素化させることにより得られた球状のガラス状炭素、(C)平均粒径10μm の鱗片状黒鉛ACP(商品名、日本黒鉛社製)。」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2実施例6発明とを対比する。
甲2実施例6発明の「ポリエーテルエーテルケトン樹脂[PEEK]:PEEK450P(ビクトレックス社製商品名)」は、ポリエーテルケトン樹脂[PEK]の一種であり、甲2の段落【0023】に「PEK樹脂の融点(340~370℃)」と記載されていることから、本件特許発明1の「融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂」である「ポリエーテルエーテルケトン」に相当する。
また、甲2実施例6発明の「(4)テトラフルオロエチレン樹脂[PTFE]:KTL610(喜多村社製商品名)」は、上記2(2)アで述べたように、本件特許発明1の「球状粒子」である「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子」に相当し、配合量も10質量%で重複一致する。
さらに、甲2実施例6発明の「黒鉛[黒鉛]:ACP(日本黒鉛社製商品名)」は、本件特許発明1の「導電性無機粒子」に相当する。そして、甲2実施例6発明の「ポリエーテルケトン系樹脂組成物」は、「黒鉛」を含有するものであるから、本件特許発明1の「導電性樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。
<一致点>
融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および導電性無機粒子を含み、
前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、球状粒子であり、
熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトンである、導電性樹脂組成物。
<相違点>
<相違点2-1-1>
「導電性無機粒子」の粒子径が、本件特許発明1は「平均粒子径が0.001~200μm」であるのに対し、甲2実施例6発明は不明である点
<相違点2-1-2>
「樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率」が、本件特許発明1は「0.1~1質量%」であるのに対し、甲2実施例6発明は「10質量%」である点
<相違点2-1-3>
樹脂組成物の導電性が、本件特許発明1は「樹脂組成物の成形体の表面抵抗率が2.0×103Ω/□以下」であるのに対し、甲2実施例6発明は不明である点
そこで、上記<相違点>について検討する。
事案に鑑み、<相違点2-1-2>から検討する。
まず、新規性について検討するに、当該相違点は実質的な相違点であり、甲2実施例6発明は本件特許発明1ではない。
よって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明でない。
次いで、進歩性について検討する。
本件特許発明1は、本件特許明細書の段落【0007】より、「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する成形体を製造可能な、スーパーエンプラを含む樹脂組成物の提供」を目的とするものである。
一方、甲2実施例6発明は、甲2の段落【0011】より、「耐熱性に優れ、フロンガス代替冷媒等の高圧条件での運転においても、変形、破壊しない切換弁であり、冷媒および添加剤が含有された冷凍機油に対しても十分な耐性を有して強度やシール性を維持することができるヒートポンプの切換弁および樹脂製部品を提供すること」を目的として発明されたものである。
そして、フッ素系樹脂について、甲2の段落【0025】に、「PEK組成物の配合割合は、PEK組成物全体に対して、フッ素系樹脂を 3~35重量%配合することが好ましい。特に好ましい配合量としては、15~25重量%が強度、摺動性、シール性の観点から望ましい。」と記載されている。すなわち、甲2には、フッ素系樹脂を用いる目的は、摺動性、シール性であることしか記載されておらず、当該目的は本件特許発明1の「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する」ことと異なるものであるし、また、その配合量も「3~35重量%」と「0.1~1質量%」の範囲外とすることしか記載されていない。
そうすると、甲2には、甲2実施例6発明において、「(4)テトラフルオロエチレン樹脂[PTFE]:KTL610(喜多村社製商品名)」の配合量を「0.1~1質量%」とする動機付けはない。
よって、甲2実施例6発明において、<相違点2-1-2>に係る発明特定事項を当業者が容易に想到することはできない。
そして、本件特許発明2は「樹脂組成物を製造する際の目ヤニの発生を抑制し、成形体の機械強度低下を抑制できる。」という効果を奏するものである。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2実施例6発明、すなわち甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上検討したとおり、本件特許発明1は、甲2に記載された発明でないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲2実施例6発明とを対比する。
例えば、甲6の段落【0030】に記載されているように、黒鉛が熱伝導性を有することは当業者の技術常識であるから、甲2実施例6発明の「黒鉛[黒鉛]:ACP(日本黒鉛社製商品名)」は、本件特許発明2の「熱伝導性無機粒子」に相当する。そして、甲2実施例6発明の「ポリエーテルケトン系樹脂組成物」は、「熱伝導性無機粒子」に相当する「黒鉛」を有するのであるから、本件特許発明2の「熱伝導性樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。
<一致点>
融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および熱伝導性無機粒子を含み、
前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、球状粒子であり、
熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトンであり、
樹脂組成物100質量%中の、前記前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、10質量%である、熱伝導性樹脂組成物。
<相違点>
<相違点2-2-1>
「熱伝導性無機粒子」の粒子径が、本件特許発明2は「平均粒子径が0.001~200μm」であるのに対し、甲2実施例6発明は不明である点
<相違点2-2-2>
「樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率」が、本件特許発明2は「0.1~1質量%」であるのに対し、甲2実施例6発明は「10質量%」である点
<相違点2-2-3>
樹脂組成物の熱伝導性が、本件特許発明2は「樹脂組成物の成形体の熱伝導率が1.1W/mK以上」であるのに対し、甲2実施例6発明は不明である点
そこで、上記<相違点>について検討する。
事案に鑑み、<相違点2-2-2>から検討する。
まず、新規性について検討するに、当該相違点は実質的な相違点であり、甲2実施例6発明は本件特許発明2ではない。
よって、本件特許発明2は、甲2に記載された発明でない。
次いで、進歩性について検討する。
<相違点2-2-2>は、上記アの<相違点2-1-2>と同じであるから、上記アで示したのと同じ理由により、甲2実施例6発明において、<相違点2-2-2>に係る発明特定事項を当業者が容易に想到することはできない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2実施例6発明、すなわち甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上検討したとおり、本件特許発明2は、甲2に記載された発明でないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明3ないし5について
本件特許発明3ないし5は、請求項1、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1又は本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は本件特許発明2と同様の理由で、本件特許発明3及び4は、甲2に記載された発明ではないし、また、本件特許発明3ないし5は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第13ページにおいて、「甲第2号証の表1に示すように、当該樹脂組成物では四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率(表1中の「3」、「5」、「10」、「35」)が検討されている。また、樹脂分野において、樹脂組成物の所望の特性を得るべく、それに含まれる四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率を適宜調整することは、当業者にとって設計的事項である。」と主張する。
しかしながら、上記(2)アで述べたように、甲2には、フッ素樹脂を用いる目的は、摺動性、シール性であることしか記載されておらず、当該目的は本件特許発明1及び2の「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する」ことと異なるものであるし、また、その配合量も「3~35重量%」と「0.1~1質量%」の範囲外とすることしか記載されていない。
そうすると、甲2実施例6発明において、「(4)テトラフルオロエチレン樹脂[PTFE]:KTL610(喜多村社製商品名)」の配合量を「0.1~1質量%」とする動機付けはない。
よって、申立人の主張は首肯できない。
(4)取消理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号 に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、取消理由3及び申立理由2によっては取り消すことはできない。
第6 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由3(サポート要件)のみである。
1 申立理由3(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。
(3) 発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、おもに以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来は、親水性シリカが水分を含みやすいため、溶融中に加水分解しやすいスーパーエンプラに使用すると、加工中の分解を促進してしまう。そのため、スーパーエンプラを使用した成形体は、所望の物性が得られないこと、および加水分解した樹脂塊が新たに目ヤニの原因となる問題があった。
【0007】
本発明は、製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する成形体を製造可能な、スーパーエンプラを含む樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および無機粒子を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記の本発明によれば、スーパーエンプラと相溶しない四フッ化ポリエチレン焼結物粒子を配合することで、樹脂組成物を製造する際の目ヤニの発生を抑制し、成形体の機械強度低下を抑制できる。
【0010】
本発明により製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度低下抑制することが可能な、スーパーエンプラを含む樹脂組成物を提供できる。」
「【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および無機粒子を含む。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と相溶しない四フッ化ポリエチレン焼結物粒子をあえて配合することで、熱可塑性樹脂と無機粒子との分散を助け、熱可塑性樹脂と無機粒子の混練装置への付着を抑制できたことで、例えば溶融混練を行う際に生じていた目ヤニの発生を抑制できた。この樹脂組成物を用いた成形体は、機械強度低下と導電性等の表面物性の低下を抑制できている。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、他の実施態様として、導電性無機粒子を含む成形用導電性樹脂組成物、または熱伝導性無機粒子を含む成形用熱伝導性樹脂組成物として使用することができる。
【0014】
<熱可塑性樹脂>
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、スーパーエンプラである。スーパーエンプラは、明確な基準は無いが、主に150℃以上の環境で連続使用できる耐熱性をもつ樹脂である。熱可塑性樹脂は、融点が275℃以上、または荷重たわみ温度が150℃以上である。なお、融点の上限は、特にないが、現在の技術では380℃程度である。また荷重たわみ温度の上限は、特にないが現在の技術では、300℃程度である。なお、荷重たわみ温度はJIS K7191に準拠し、1.82MPaの荷重をかけて測定した数値である。
熱可塑性樹脂は、所定の融点および所定の荷重たわみ温度を同時に満たしていても良い。
【0015】
融点275℃以上の熱可塑性樹脂は、例えばナイロン9T(PA9T)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルファイド(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の結晶質の樹脂が挙げられる。
【0016】
荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂は、例えばポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の半結晶質または非結晶質の樹脂が挙げられる。これらの中でも弾性や伸び物性に富み、無機粒子と相溶し易いポリフェニレンサルファイド、ナイロン9T、ポリエーテルエーテルケトンが好ましい。熱可塑性樹脂は、単独または2種類以上を併用できる。なお、融点275℃以上の熱可塑性樹脂は、荷重たわみ温度が150℃以上である場合が多い。
【0017】
融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂に含まれない他の熱可塑性樹脂も、課題を解決できる範囲内であれば併用できる。
他の熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリシリコーン等が挙げられる。
【0018】
<無機粒子>
本発明で用いる無機粒子は、無機物を核とする粒子である。そのため、無機物単独のみならず、無機物の核を覆う被覆層が有機物であるコアシェル型粒子であっても無機粒子である。また、核のみの粒子であっても良い。
【0019】
無機粒子は、例えばセラミックス、炭素材料、無機顔料が好ましい。また、無機粒子を機能面で例示すると導電性無機粒子、熱伝導性無機粒子が好ましい。
セラミックスは、絶縁性無機物であり、例えばその熱伝導率は15W/mK以上である。
炭素材料は、炭素の同素体である。
無機顔料は、セラミックスと炭素材料を除いた、例えばその熱伝導率が、およそ10W/mK未満の無機物を核とした粒子である。
セラミックスは、例えば酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、カオリンクレー、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム等の金属酸化物や窒化物やホウ化物、炭酸塩、リン酸塩が挙げられる。
炭素材料は、例えばグラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、フラーレン等が挙げられる。
無機顔料は、例えば硫酸バリウム、二酸化チタン、天然酸化鉄、カドミウム黄、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、含水酸化クロム、酸化クロム、クロム酸鉛、アルミ酸コバルト、タルク、マイカ、ハイドロタルサイト、合成ウルトラマリン青等のアルミニウム、亜鉛、鉛、チタン、カドミウム、鉄、コバルト等の酸化物、複合金属酸化物、硫化物、硫酸塩等が挙げられる。
【0020】
導電性無機粒子は、例えばグラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンファイバーが挙げられる。
【0021】
熱伝導性無機粒子は、例えば酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンファイバーが挙げられる。
【0022】
無機粒子は、分散性向上等のために粒子の表面に被覆層を形成することができる。被覆層を形成する表面処理方法は、例えばリン酸エステル、シランカップリング剤等の有機物で被覆する有機処理、例えば酸化アルミや酸化ケイ素等で被覆する無機処理が挙げられる。有機処理および無機処理は、単独または併用できる。
【0023】
無機粒子の平均粒子径は、0.001~200μmが好ましい。
セラミックスの場合、0.01~200μmが好ましく、1~80μmがより好ましい。また、炭素材料の場合、0.01~100μmが好ましく、0.05~50μmがより好ましい。炭素材料の内、カーボンナノチューブのようなアスペクト比が100以上ある繊維状物質は、平均繊維径が0.001μm~0.1μmが好ましく、0.005μm~0.05μmがより好ましく、長さは特に限定しない。
無機顔料の平均粒子径は、0.01~100μmが好ましく、0.1~50μmがより好ましい。
【0024】
無機粒子は、樹脂組成物100質量%中に0.1~80質量%含むことが好ましい。
セラミックスまたは無機顔料を使用する場合、樹脂組成物100質量%中に0.1~80質量%含むことが好ましく、10~80質量%含むことがより好ましい。
炭素材料を使用する場合、樹脂組成物100質量%中に0.1~40質量%含むことが好ましく、0.1~25質量%含むことがより好ましい。
【0025】
導電性無機粒子は、樹脂組成物100質量%中に0.1~40質量%含むことが好ましく、1~25質量%含むことがより好ましい。
【0026】
熱伝導性無機粒子は、樹脂組成物100質量%中に10~80質量%含むことが好ましく、50~80質量%含むことがより好ましい。
【0027】
無機粒子の配合量が0.1質量%以上になると無機粒子に期待される効果が得易くなる。また、配合量が80質量%以下になると無機粒子の分散性がより向上し、目ヤニを効果的に抑制でできる。
【0028】
<四フッ化ポリエチレン焼結物粒子>
本発明で用いる四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、熱可塑性樹脂および無機粒子と相溶せずに、両者の分散性を向上させた上、熱可塑性樹脂および無機粒子を混練装置内部に付着し難くする効果を有する。四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、300℃以上の高温域で変形せず溶融混練の際に粒子形状を保持できるため、効率の良い溶融混練ができる。四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、公知の化合物である四フッ化ポリエチレン(PTFE)を加熱後、冷却して結晶化した粒子である。なお、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子以外の四フッ化ポリエチレンは、通常150~200℃付近で溶融または変形するため、300℃以上の温度域で粒子形状を保てず前記分散性向上等の効果が得られない。
【0029】
四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の平均粒子径は、0.1μm~100μmが好ましく、10~30μmがより好ましい。平均粒子径を0.1μm~100μmにすることで目ヤニをより効果的に抑制できる。四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(日本電子(JEOL)社製、JSM-6700M))を用いて観察し、撮影した。次いで、撮影された画像にて任意の四フッ化ポリエチレン焼結物粒子20個程度の粒子径の平均値である。
【0030】
四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の製造は、例えば四フッ化ポリエチレン(PTFE)を窒素雰囲気下、350℃以上で加熱後、冷却して、結晶化させる方法が挙げられる
【0031】
四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、所望の分散効果が得られれば良いためその形状は限定されない。四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、例えば薄片状、球状、葉状、樹枝状、鱗片状、繊維状、棒状が挙げられる。これらに中でも四フッ化ポリエチレン焼結物粒子自体が異物になり難く、樹脂組成物を製造する加工機内で熱可塑性樹脂および無機粒子の混練物が摺動し易い面で球状、鱗片状が好ましく、球状がより好ましい。
【0032】
四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の形状を、球状にする手法は、公知の方法を使用できる。例えば、粉砕と分級を繰り返す方法、または液体窒素で凍結させてから粉砕する方法が挙げられる。または四フッ化ポリエチレン焼結物の粗大粒子に放射線を適宜照射し表面を劣化させた上で粉砕すると球状粒子に形状に加工し易くなる。四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の市販品は、例えば、喜多村社製のKT/KTLシリーズが挙げられる。
【0033】
四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、樹脂組成物100質量%中に0.1~20質量%含むことが好ましく、1~10質量%含むことがより好ましい。0.1~20質量%の範囲内で使用すると四フッ化ポリエチレン焼結物粒子が分散しやすく、目ヤニ抑制効果がより向上する。
【0034】
四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、TG―DTA測定(示差熱・熱重量同時測定)において、窒素雰囲気下10℃/1minで昇温させ、420℃の状態で25分間保持した場合の質量減少が5%以下であることが好ましく、350℃まで昇温時の質量減少が2%以下であることがより好ましい。これにより本発明の課題をより解決し易くできる。
【0035】
<酸化防止剤>
本発明に用いる酸化防止剤は、樹脂組成物及び成形体製造時に熱可塑性樹脂の熱劣化を抑制できる。
酸化防止剤は、公知の化合物を使用できる。酸化防止剤は、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、アミド系酸化防止剤が挙げられる。
酸化防止剤は、単独または2種類以上を併用できる。
【0036】
酸化防止剤は、分散不良が生じない限度で使用すれば良く、例えば樹脂組成物100質量%中に0.01~5質量%含むことが好ましく、0.1~3質量%含むことがより好ましい。」
「【0040】
<導電性樹脂組成物>
本発明の導電性樹脂組成物は、融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および導電性無機粒子を含む。
導電性樹脂組成物に配合する成分およその配合量等は、既に説明した通りである。
導電性樹脂組成物を溶融混練し、成形加工して作製した成形体は、導電性とスーパーエンプラ由来の強度を合わせ持つ。その用途は、例えば電子搬送用筐体、OA機器用ベルト部材、電子機器の導通スイッチが挙げられる。
【0041】
<熱伝導性樹脂組成物>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および熱伝導性無機粒子を含む。
熱伝導性樹脂組成物に配合する成分およその配合量等は、既に説明した通りである。
熱伝導性樹脂組成物を溶融混練し、成形加工して作製した成形体は、熱伝導性とスーパーエンプラ由来の強度と耐熱性を合わせ持つ。その用途は、例えばLED反射板、電子機器の筐体、モーター等の発熱体の外装部材、ICチップ保護部材、回転体の軸部材が挙げられる。」
「【0045】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は、本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。表中の配合量は、質量%である。
【0046】
[実施例1]
(樹脂組成物の製造)
熱可塑性樹脂(A1)48.9%および無機フィラー(B1)50%、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C1)1%、添加剤(D4)0.1%をスーパーミキサー(カワタ社製)に投入し、25℃にて3分間撹拌して混合物を得た。次いで前記混合物を二軸押出し機(日本プラコン社製)に投入し、320℃で混錬し、吐出物をペレタイザーでカットすることでペレット状の樹脂組成物E1を得た。
【0047】
(成形体F1の作製)
樹脂組成物E1を、150mm幅のT型フィッシュテールダイスを装着したラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を表1に示す混練温度300℃に設定し、幅15cm×長さ1m×厚み0.2mmのシート形状の成形体F1を作製した。
【0048】
[実施例2~15]および[比較例1~6]
実施例1の熱可塑性樹脂(A)、無機粒子(B)、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)、添加剤(D)を表1および表2に記載された原料および配合量に変更した以外は、実施例1と同様に行うことでそれぞれ樹脂組成物(E2)~(E26)を作製した。
ただし、実施例1~3、5、7~16は参考例である。
【0049】
得られた樹脂組成物(E2)~(E26)を使用して、実施例1と同様に表1または表2に示す混練温度に設定し、幅15cm×長さ1m×厚み0.2mmのシート形状の成形体(F2)~(F26)を作製した。
【0050】
実施例で使用した原料は、以下の通りである。
<熱可塑性樹脂(A)>
(A1)ナイロン9T(製品名:N1001A、密度1.11g/cm3、融点:300℃ クラレ社製)
(A2)ポリアリレート(製品名:U-100、荷重たわみ温度:177℃、密度:1.21g/cm3 ユニチカ社製)
(A3)ポリフェニレンサルファイド(製品名:FZ-2100、密度:1.35、融点:280℃、荷重たわみ温度:110℃、DIC社製)
(A4)ポリエーテルサルホン(製品名:E1010、密度:1.37、荷重たわみ温度:200℃、BASF社製)
(A5)ポリエーテルエーテルケトン(製品名:1000P、密度:1.30、融点:340℃、荷重たわみ温度:155℃、エボニック・インダストリー社製)
【0051】
<無機粒子(B)>
(B1)二酸化チタン(JR1000、平均粒子径 1μm、テイカ社製)
(B2)酸化マグネシウム(CX-150、平均粒子径 3.5μm、神島化学工業製)
(B3)カーボンブラック(ensaco250G、平均粒子径 0.3μm、イメリス・ジーシー・ジャパン社製、)
(B4)Pigment blue #29(青色顔料、平均粒子径 2μm)
【0052】
<四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)>
(C1)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(KT-600M、喜多村社製)平均粒子径:14μm、平板状粒子
(C2)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(KTL-610A、喜多村社製)平均粒子径:12μm、球状粒子
(C3)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(KT-300M、喜多村社製)平均粒子径:40μm、鱗片状粒子
(C4)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(KTL-4N、喜多村社製)平均粒子径:3μm、球状粒子
【0053】
<添加剤(D)>
(D1)ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製)
(D2)四フッ化ポリエチレン(FX5910A、3M社製)
(D3)シリコーンオイル(TSF451-10000ST、東芝シリコーン社製)
(D4)酸化防止剤(IRGANOX B225、BASF社製)
【0054】
得られた樹脂組成物および成形体を下記項目で評価した。
【0055】
<目ヤニ試験>
150mm幅のT型フィッシュテールダイスを装着したラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を表1または表2に示す混練温度に設定し、フルフライトスクリュー回転数80rpmで得られた樹脂組成物300gを投入し、厚さ0.2mmのシート成形物に押出した後、ダイリップへの異物(目ヤニ)付着の有無を観察した。
○:目ヤニが無い
×:目ヤニが付着した
【0056】
<堆積試験>
150mm幅のT型フィッシュテールダイスを装着したラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を表1または表2に示す混練温度に設定し、フルフライトスクリュー回転数80rpmの条件下、得られた樹脂組成物300gを投入し、厚さ0.2mmのシート成形物に押出した。次に、樹脂組成物で使用した熱可塑性樹脂のみ3000gを同条件で押出し、ダイスを分解し、内部のフィッシュテール部を観察した。なお、T型フィッシュテールダイス内部に残存している樹脂組成物が堆積物である。
○:内部に堆積物の付着が無い
×:内部に堆積物の付着が有る
【0057】
<測色値>
二酸化チタンを使用した成形体Fについて、色差計(NIPPONDENSHOKU社製、SpectroColorMeterSE2000)を用いてJIS Z8729で規定されるL*a*b*表色系における明度(L*)を測定した。L値とは、国際照明委員会の定めたCIE1976L*a*b*(CIELAB)の色空間で示される明度を表し、L*=0は黒を表し、L*=100は白を示す。なお、有機物は熱劣化により茶色または黒色へと変色し、L*値が低下する。つまり、成形体FがL*値がより高い値を示す場合は熱劣化の抑制を指し、L*値が低くなった場合は、有機物の熱劣化を指す。
【0058】
<引張破壊点伸び率および引張り破壊点強度測定>
得られた成形体Fについて、JIS K-6251に規定されている2号ダンベル型に打抜いて厚さ0.2mmの試験片を準備した。次いで、得られた試験片を使用してJIS K-7127に準じて、引張り速度100mm/分の条件で、引張破壊点伸び率および引張破壊点強度を測定した。引張破壊点伸び率は、試験前の試験片の長さを100%とし、その状態から120%の長さになった場合、伸び率20%と表記した。引張破壊点伸び率および引張破壊点強度の数値が低いほど試験片の機械強度が不足している。樹脂組成物を製造する際、熱可塑性樹脂が加水分解することによる劣化、堆積物または目ヤニの発生による異物多く含まれることが理由である。
【0059】
【表1】
[図:0001393993000008.jpg]
【0060】
【表2】
[図:0001393993000009.jpg]
【0061】
<熱伝導率>
熱伝導性無機粒子を使用した成形体F10、F24について、ホットディスク法熱物性測定装置(TPS-500 京都電子工業製)を使用して、成形体の熱伝導率(W/mK)を測定した。なお、測定には直径7mmφのセンサーを用いた。
【0062】
<表面抵抗率>
導電性無機粒子を使用した成形体F11およびF25について、抵抗率計「ロレスタGP」(0.5cm間隔の4端子プローブ)を用い、成形体の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。
【0063】
【表3】
[図:0001393993000010.jpg]
【0064】
表1および表2の結果から、実施例1~16は、特定の割合で無機粒子及び四フッ化ポリエチレン焼結物粒子を使用することにより目ヤニ及び堆積物を抑制されていることがわかる。熱可塑性樹脂の結晶性を問わず、種々のスーパーエンプラに対し目ヤニを抑制する効果があることがわかる。特に、球状の四フッ化ポリエチレン焼結物粒子を使用した実施例4と実施例6では、引張試験での物性向上を確認できた。
一方、比較例1~5の樹脂組成物を使用した成形品は、目ヤニ試験、堆積物試験を満たすもの無く、さらに機械強度も実施例と比較して低い値をとった。
また表3の結果から実施例10,11は、比較例4,5と比較して熱伝導性または導電性に優れた成形体を得られることがわかる。」
(4) サポート要件の判断
ア 本件特許発明の課題
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】等によると、本件特許発明1の解決しようとする課題(以下、「本件特許発明1の課題」という。)は、「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する成形体を製造可能な、スーパーエンプラを含む導電性樹脂組成物」を提供することである。本件特許発明2の解決しようとする課題(以下、「本件特許発明2の課題」という。)は、「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する成形体を製造可能な、スーパーエンプラを含む熱伝導性樹脂組成物」を提供することである。
イ 検討
(ア)本件特許発明1について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の一般的記載について見てみる。
段落【0011】及び【0012】には、「本発明の樹脂組成物は、融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および無機粒子を含む。本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と相溶しない四フッ化ポリエチレン焼結物粒子をあえて配合することで、熱可塑性樹脂と無機粒子との分散を助け、熱可塑性樹脂と無機粒子の混練装置への付着を抑制できたことで、例えば溶融混練を行う際に生じていた目ヤニの発生を抑制できた。この樹脂組成物を用いた成形体は、機械強度低下と導電性等の表面物性の低下を抑制できている。」と記載され、また、段落【0033】に、「四フッ化ポリエチレン焼結物粒子は、樹脂組成物100質量%中に0.1~20質量%含むことが好ましく、1~10質量%含むことがより好ましい。0.1~20質量%の範囲内で使用すると四フッ化ポリエチレン焼結物粒子が分散しやすく、目ヤニ抑制効果がより向上する。」と記載されており、前記熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および無機粒子を含む樹脂組成物が、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子を0.1~20質量%含むことにより、目ヤニの発生を抑制し、その成形体が機械強度の低下と表面導電性の低下を抑制できることが示されている。
次いで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【実施例】(段落【0045】~【0064】)について見てみる。
【実施例】には、16個の実施例(なお、実施例1~3、5、7~16は参考例。)と5つの比較例が示されている。
実施例1~12、比較例1~5は、融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂(A)として、「(A1)ナイロン9T(製品名:N1001A、密度1.11g/cm3、融点:300℃ クラレ社製)」を用いている。この中で、実施例1~3、7~12は、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)として、「(C1)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(KT-600M、喜多村社製)平均粒子径:14μm、平板状粒子」を0.2~18質量%配合したものであり、実施例4は、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)として、「(C2)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(KTL-610A、喜多村社製)平均粒子径:12μm、球状粒子」を1質量%配合したもの、実施例5は、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)として、「(C3)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(KT-300M、喜多村社製)平均粒子径:40μm、鱗片状粒子」を1質量%配合したもの、実施例6は、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)として、「(C4)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(KTL-4N、喜多村社製)平均粒子径:3μm、球状粒子」を1質量%配合したものである。
そして、本件特許発明1の課題に対応する<目ヤニ試験>、<堆積試験>、<引張り破壊点強度>の結果について見てみると、これらすべての実施例において、<目ヤニ試験>は、「○:目ヤニが無い」、<堆積試験>も「○:内部に堆積物の付着が無い」ものとなっていると共に、<引張り破壊点強度>は、20.8~28.5MPaとなって、「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する成形体」が得られている。
一方、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)を配合しない比較例は、<目ヤニ試験>は、「×:目ヤニが付着した」、<堆積試験>も「×:内部に堆積物の付着が有る」となり、引張り破壊点強度は、16.1~20.1MPaとなって、「製造時の目ヤニを抑制し、成形体の機械強度の低下を抑制する成形体」が得られていない。
上記実施例及び比較例の結果は、上記発明の詳細な説明の一般的記載に示された事項を裏付ける結果となっている。
また、実施例1~3と実施例4、6の対比から、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の形状に関係なく、目ヤニ及び堆積物の抑制ができている。
そして、実施例11では、無機粒子(B)として、(B3)カーボンブラック(ensaco250G、平均粒子径 0.3μm、イメリス・ジーシー・ジャパン社製、)である導電性粒子を用いて表面抵抗率が2.0×103Ω/□である導電性組成物が得られている。
そうすると、当業者は、「融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および導電性粒子を含み、樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、0.1~20質量%である、樹脂組成物」という技術的事項により、本件特許発明1の課題を解決できると認識できるものである。
そして、本件特許発明1は、上記技術的事項を有し、実施例を基に四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率をさらに限定して発明特定事項とするものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件特許発明1の課題を解決できることを認識できるものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件特許発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(イ)本件特許発明2について
上記(ア)に示したように、実施例、比較例の結果は、上記発明の詳細な説明の一般的記載である「本発明の樹脂組成物は、融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および無機粒子を含む。本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と相溶しない四フッ化ポリエチレン装置への付着を抑制できたことで、例えば溶融混練を行う際に生じていた目ヤニの発生を抑制できた。この樹脂組成物を用いた成形体は、機械強度低下と導電性等の表面物性の低下を抑制できている。」ことを裏付ける結果となっている。
そして、実施例10では、無機粒子(B)として、(B2)酸化マグネシウム(CX-150、平均粒子径 3.5μm、神島化学工業製)の熱伝導率粒子を用いて、熱伝導率が1.1W/mKである熱伝導性組成物が得られている。
そうすると、当業者は、「融点275℃以上または荷重たわみ温度が150℃以上の熱可塑性樹脂、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子、および熱伝導性粒子を含み、樹脂組成物100質量%中の、前記四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率は、0.1~20質量%である、樹脂組成物」という特定事項により、本件特許発明2の課題を解決できると認識するものである。
そして、本件件特許発明2は、上記特定事項を有し、実施例を基に四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の含有率をさらに限定するものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明2の課題を解決できると認識できるものである。
したがって、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件特許発明2の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(ウ)本件特許発明3ないし5について
本件特許発明3ないし5は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(ア)、(イ)に示したのと同じ理由により、本件特許発明3ないし5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(5)申立人の主張について
ア 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書及び令和4年8月18日に提出された意見書において以下の主張をしている。
主張ア
「(ア)本件特許発明1について
・・・本件明細書の実施例において、導電性樹脂組成物の例は、実施例11のみであり、目ヤニ及び堆積物の発生や導電性に影響する導電性無機粒子の含有量については、20質量%という特定の含有量の試験しか行われていない。
ここで、樹脂組成物において、導電性無機粒子の含有量が少なくなれば、樹脂組成物の導電性が低下することは技術常識である。
このような技術常識を鑑みれば、20質量%という特定の含有量の実施例11しか本件明細書に記載されていない以上、導電性無機粒子が20質量%よりも少量の場合(導電性が低下する)、あるいは、多量の場合(目ヤニが発生しやすくなる)においても、実施例11の20質量%と同様に、目ヤニ及び堆積物を抑制し且つ導電性を有するという、発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。」(特許異議申立書第32~34ページ)
「イ 本件特許発明2について
・・・本件明細書の実施例において、熱伝導性樹脂組成物の例は、 実施例10のみであり、目ヤニ及び堆積物の発生や熱伝導性に影響する熱伝導性無機粒子の含有量については、50質量%という特定の含有量の試験しか行われていない。
ここで、樹脂組成物において、熱伝導性無機粒子の含有量が少なくなれば、樹脂組成物の熱伝導性が低下することは技術常識である。このような技術常識を鑑みれば、50質量%という特定の含有量の 実施例10しか本件明細書に記載されていない以上、熱伝導性無機粒子が50質量%よりも少量の場合(熱伝導性が低下する)、あるいは、多量の場合(目ヤニが発生しやすくなる)においても、実施例10の50質量%と同様に、目ヤニ及び堆積物を抑制し且つ熱伝導性を有す るという、発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。」(特許異議申立書第34~35ページ)
主張イ
「特許権者は、上記取消理由通知書の指摘に対して、明確性違反を解消するべく、樹脂組成物の表面抵抗率が「2.0×103Ω/□以下」であることについて、本件特許明細書の段落0063の実施例11に基づいて訂正している。
しかし、本件特許明細書の段落0048に、「ただし、実施例1~3、5、7~16は参考例である。」と記載されるように、実施例11の樹脂組成物は、あくまで「参考例」である。つまり、実施例11の樹脂組成物は、訂正発明1の要件を全て満たすものではなく、具体的には、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子が球状粒子ではなく平板状粒子になっている。そして、上記訂正によって、訂正発明1をサポートする実施例は、本件特許明細書に存在しなくなっている。
このように、訂正発明1に追加された樹脂組成物の表面抵抗率は、当該訂正発明1を具現化した実施例に基づくものではなく、表面抵抗率が「2.0×103Ω/□以下」に特定された訂正発明1に係る導電性樹脂組成物が、当該発明の課題を解決し得る組成物であると直ちにいうことはできない。・・・」(意見書の第6~8ページ)
「特許権者は、上記取消理由通知書の指摘に対して、明確性違反を解消するべく、樹脂組成物の熱伝導率が「1.1W/mK以上」であることについて、本件特許明細書の段落0063の実施例10に基づいて訂正している。
しかし、本件特許明細書の段落0048に、「ただし、実施例1~3、5、7~16は参考例である。」と記載されるように、実施例10の樹脂組成物は、あくまで「参考例」である。つまり、実施例10の樹脂組成物は、訂正発明2の要件を全て満たすものではなく、具体的には、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子が球状粒子ではなく平板状粒子になっている。そして、上記訂正によって、訂正発明2をサポートする実施例は、本件特許明細書に存在しなくなっている。
このように、訂正発明2に追加された樹脂組成物の熱伝導率は、当該訂正発明2を具現化した実施例に基づくものではなく、熱伝導率が「1.1W/mK以上」に特定された訂正発明2に係る熱伝導性樹脂組成物が、当該発明の課題を解決し得る組成物であると直ちにいうことはできない。」
イ 検討
(ア)主張アについて
a 本件特許発明1について
実施例1~3、7~9は、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)として、「(C1)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(KT-600M、喜多村社製)平均粒子径:14μm、平板状粒子」を用い、無機粒子(B)として、(B1)二酸化チタン(JR1000、平均粒子径 1μm、テイカ社製)を1質量%、50質量%、70質量%用いもので、いずれも、<目ヤニ試験>は、「○:目ヤニが無い」もので、<堆積試験>も「○:内部に堆積物の付着が無い」ものとなっている。そして、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)として、実施例1~3、7~9と同じ(C1)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子を用いた実施例11においても、<目ヤニ試験>は、「○:目ヤニが無い」もので、<堆積試験>も「○:内部に堆積物の付着が無い」ものとなっている。
そうすると、導電性粒子を用いた実施例11を基にして、実施例1~3、7~9の結果を考慮すれば、導電性無機粒子が20質量%よりも少量の場合(1質量%)、あるいは、多量の場合(50質量%、70質量%)においても、実施例11の20質量%と同様に、目ヤニ及び堆積物を抑制し且つ導電性を有するという、発明の課題を解決できると認識できるものである。
そして、申立人は、実施例以外の範囲が課題を解決しない可能性を指摘するだけで、具体的な証拠を示していない。
よって、申立人の主張は首肯することができない。
b 本件特許発明2について
四フッ化ポリエチレン焼結物粒子(C)として、実施例1~3、7~9と同じ(C1)四フッ化ポリエチレン焼結物粒子を用いた実施例10においても、<目ヤニ試験>は、「○:目ヤニが無い」もので、<堆積試験>も「○:内部に堆積物の付着が無い」ものとなっている。
そうすると、熱伝導性粒子を用いた実施例10を基にして、実施例1~3、7~9の結果を考慮すれば、熱伝導性無機粒子が50質量%よりも少量の場合(1質量%)、あるいは、多量の場合(70質量%)においても、実施例10の50質量%と同様に、目ヤニ及び堆積物を抑制し且つ熱伝導性を有するという、発明の課題を解決できると認識できるものである。
そして、申立人は、実施例以外の範囲が課題を解決しない可能性を指摘するだけで、具体的な証拠を示していない。
よって、申立人の主張は首肯することができない。
(イ)主張イについて
実施例11は、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子が「球状粒子」ではなく「平板状粒子」であることにより参考例となっているものの、上記(4)イで示したように、実施例1~3と実施例4、6の対比から、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子の形状に関係なく、目ヤニ及び堆積物の抑制ができている。
そうすると、「導電性粒子」を用いた実施例11を基にして、四フッ化ポリエチレン焼結物粒子が「球状粒子」である実施例4、6の結果を考慮すれば、訂正された本件特許発明1を具現化した実施例がなくとも、実施例11と同様に、目ヤニ及び堆積物を抑制し且つ導電性を有するという、発明の課題を解決できると認識できるものである。
このため、単に訂正発明1に追加された樹脂組成物の表面抵抗率は、当該訂正発明1を具現化した実施例に基づくものではないことを理由とする申立人の主張は首肯することができない。
また、本件特許発明2についても同様である。
(6)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第7 むすび
上記第5及び第6のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701196