特許異議申立
2023-700036
硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、および、電子部品
- 審判番号
- 2023-700036
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-062885外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7101513
- 請求日
- 2023年01月13日
- 審決日
- 2023年08月31日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7101513号発明「硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、および、電子部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7101513号の特許請求の範囲を令和5年6月5日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7101513号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7101513号(以下、「本件特許」という。)は、平成30年3月28日を出願日とする特許出願(特願2018-62885号)に係るものであって、令和4年7月7日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、令和5年1月13日に特許異議申立人 廣川 博美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以降の経緯は次のとおりである。
令和5年3月31日付け 取消理由通知
同年6月5日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者)
同年同月13日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人宛)
同年7月7日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否について
令和5年6月5日にした訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項を含むものである。
(下線は当審で付与した。また、設定登録時の本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記(D)熱硬化性樹脂として、(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物、および、(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物を含む」とあるのを、「前記(D)熱硬化性樹脂として、(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物、および、(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物を含み、前記(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物の配合割合が、前記(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物および前記(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物の合計量あたり、40~95質量%である」に訂正する。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項2~5は、それぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正前の請求項1~5は一群の請求項である。
よって、本件訂正は、一群の請求項〔1-5〕に対してなされたものである。
2 判断
(1)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物」および「(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物」について、「前記(D-1)・・・の配合割合が、前記(D-1)・・・および前記(D-2)・・・の合計量あたり、40~95質量%である」ことを特定するものであり、(D-1)及び(D-2)の合計量に対する(D-1)の配合割合を限定するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1による訂正は、本件明細書の【0081】に「前記(D-1)および(D―2)の熱硬化性樹脂の配合割合は、前記(D-1)および(D-2)の熱硬化性樹脂の合計量あたり、(D-1)の割合が40~95質量%であることが好ましく」と記載されていることに基づくものであるから、新規事項の追加に当たるものではなく、また、(D-1)及び(D-2)の合計に対する(D-1)の配合割合を限定するものであるから、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は適法であるので、特許第7101513号の請求項1~5に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1~5に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
(A)アルカリ可溶性樹脂と、(B)光重合開始剤と、(C)エチレン性不飽和基を有する化合物と、(D)熱硬化性樹脂とを含む硬化性樹脂組成物であって、
前記(A)アルカリ可溶性樹脂として、カルボキシル基含有樹脂を含み、
前記(D)熱硬化性樹脂として、(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物、および、(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物を含み、
前記(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物の配合割合が、前記(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物および前記(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物の合計量あたり、40~95質量%であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
[図:0001403674000001.jpg]
(式(d-1-4)中、Rは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。ただし、Rが全て水素原子である場合を除く。)
【請求項2】
前記(A)アルカリ可溶性樹脂が、下記式(1)および(2)で表される少なくとも一方の構造とアルカリ可溶性官能基とを有するアミドイミド樹脂を含むことを特徴とする請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
[図:0001403674000002.jpg]
【請求項3】
請求項1または2記載の硬化性樹脂組成物が、フィルム上に塗布、乾燥されて得られた樹脂層を有することを特徴とするドライフィルム。
【請求項4】
請求項1または2記載の硬化性樹脂組成物または請求項3記載のドライフィルムの樹脂層が硬化されてなることを特徴とする硬化物。
【請求項5】
請求項4記載の硬化物を備えてなることを特徴とする電子部品。」
第4 特許異議申立理由の概要、取消理由通知の概要及び証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年1月13日に申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲1による新規性・進歩性)
本件特許の請求項1,3~5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第5号証に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲2による新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第5号証に記載された周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由通知の概要
令和5年3月31日付け取消理由通知書で通知された取消理由の概要は次のとおりである。
取消理由1(甲1による新規性・進歩性)
本件特許の請求項1,3~5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由2(甲2による新規性・進歩性)
本件特許の請求項1,4,5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1,3~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法
(1)申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:特開2001-40049号公報
甲第2号証:特開平9-54434号公報
甲第3号証:特開2010-202758号公報
甲第4号証:特開2006-232915号公報
甲第5号証:特開2003-96158号公報
甲第6号証:製品ご案内,東都化成株式会社,1998年,p8~9
以下、順に「甲1」ないし「甲6」という。
(2)当審が職権調査により発見した証拠方法
引用文献1:特開2008-25025号公報(以下、「引1」という。)
第5 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、取消理由1,2及び申立理由1,2によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
以下、詳述する。
1 取消理由1,申立理由1について
取消理由1,申立理由1は、いずれも甲1を主引用文献とする新規性、進歩性欠如をいうものであるから、まとめて検討する。
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、「ポリオール化合物(a)と分子中に2個の酸無水物基を有する多塩基酸無水物(b)とエチレン性不飽和基含有ポリヒドロキシ化合物(e)を反応させて得られるカルボキシル基含有オリゴマー(A)、希釈剤(B)、光重合開始剤(C)及び熱硬化成分(D)を含有することを特徴とする樹脂組成物。」が記載されており(請求項1)、その具体例として、【0057】の表3に「実施例2」として、「a-1」という成分と、「b-2」という成分からなるレジストインキ組成物が記載され、それを用いて【0050】に記載されるように試験基板を作製し、アルカリ現像性等の特性評価を行ったことが記載されている。また、「a-1」、「b-2」の成分の詳細は【0046】~【0049】に記載され、「a-1」に含まれる「合成例1で得た樹脂」については【0042】に記載がある。
したがって、上記実施例2に着目すると、甲1には次の発明が記載されているといえる。
「下記配合成分(a-1)と配合成分(b-2)を混合して得られるレジストインキ組成物。
・配合成分(a-1)
下記合成例1で得た樹脂(固形分80%)を125部、
光重合開始剤であるチバ・スペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー907」を10部、
光重合開始剤である日本化薬(株)製「KAYACURE DETX-S」(2,4-ジエチルチオキサントン)を1.2部、
光重合性モノマーである日本化薬(株)製「KAYARAD DHPA」(ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート混合物)を16部、
微粉シリカを10部、
エポキシ硬化促進剤であるメラミンを1.2部、
シリコーン系消泡剤である信越化学工業(株)製「KS-66」を1部
・配合成分(b-2)
東都化成(株)製「ST-5100」を70部
油化シェルエポキシ(株)製「YX-4000」(ビキシレノールエポキシ樹脂)を10部
・合成例1で得た樹脂
ポリテトラメチレングリコール(水酸基価;129mgKOH/g、分子量870)1740g、無水ピロメリット酸(酸価:1011mgKOH/g)654g、カルビトールアセテート599g及びトリエチルアミン7.2gを仕込み、85℃で10時間反応し、末端酸無水物基含有プレポリマー(固形分の酸価;187.5mgKOH/g)を得て、次いで2-ヒドロキシエチルアクリレート232g、p-メトキシフェノール1.6g及びカルビトールアセテート58gを仕込み、85℃で10時間反応させることによって得られた、固形分の酸価が102mgKOH/gで、重量平均分子量が約3500(GPL法による。)のカルビトールアセテート20重量%で希釈されたカルボキシル基含有オリゴマー(A-1)」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「下記合成例1で得た樹脂(固形分80%)」は、「カルボキシル基含有オリゴマー」であり、本件明細書の【0017】に「カルボキシル基含有樹脂の具体例としては、以下に列挙するような化合物(オリゴマーおよびポリマーのいずれでもよい)が挙げられる。」と記載されていることからみて、本件発明1の「カルボキシル基含有樹脂」としての「アルカリ可溶性樹脂」に相当する。
甲1発明の「光重合開始剤であるチバ・スペシャリティーケミカルズ(株)製「イルガキュアー907」及び「光重合開始剤である日本化薬(株)製「KAYACURE DETX-S」(2,4-ジエチルチオキサントン)」は、本件発明1の「光重合開始剤」に相当する。
甲1発明の「光重合性モノマーである日本化薬(株)製「KAYARAD DHPA」(ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート混合物)」は、アクリレート部分にエチレン性不飽和基が含まれることや、本件明細書の【0070】に「エチレン性不飽和基を有する化合物としては、・・・ジペンタエリスリトール・・・の多価アクリレート類」と記載されていることからみて、本件発明1の「エチレン性不飽和基を有する化合物」に相当する。
甲1発明の「東都化成(株)製「ST-5100」」は、甲6の8頁「8 水添BPAエポキシ樹脂」(すなわち、水添されたビスフェノールA樹脂)の項目中に「ST-5100」が含まれていることから、2官能のエポキシ樹脂であり、また、エポキシ当量が900~1100(g/eq)であることから、その数平均分子量は900~1100×2(官能)=1800~2200と計算される。そうすると、甲1発明の「東都化成(株)製「ST-5100」」は、本件発明1の「(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物」に相当する。
甲1発明の「油化シェルエポキシ(株)製「YX-4000」」は、「ビキシレノールエポキシ樹脂」(すなわち、ベンゼン環にメチル基が2個置換したビフェニルエポキシ樹脂)であり、本件明細書の【0076】に「前記(D-1)の熱硬化性樹脂」のうち「式(d-1-4)のメチル基を有するビフェニル構造」の例として記載されている「三菱ケミカル社製YX-4000(メチル基を有するビフェニル型エポキシ樹脂)」と同じものと認められるから、本件発明1の「(D-1)下記式・・・(d-1-4)で表される構造・・・を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物」に相当する。
また、甲1発明の「レジストインキ組成物」は、甲1の請求項4や【0050】に硬化させることが記載されていることからみて、本件発明1の「硬化性樹脂組成物」に相当する。
そして、甲1発明における、「YX-4000」の「YX-4000」及び「ST-5100」の合計量あたりの配合割合は、12.5質量%(=10/(10+70)×100)である。
そうすると、両者は、
「(A)アルカリ可溶性樹脂と、(B)光重合開始剤と、(C)エチレン性不飽和基を有する化合物と、(D)熱硬化性樹脂とを含む硬化性樹脂組成物であって、
前記(A)アルカリ可溶性樹脂として、カルボキシル基含有樹脂を含み、
前記(D)熱硬化性樹脂として、(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物、および、(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
[図:0001403674000003.jpg]
(式(d-1-4)中、Rは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。ただし、Rが全て水素原子である場合を除く。)」
である点において一致し、以下の点において相違する。
<相違点1>
「前記(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物および前記(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物の合計量あたり」の「前記(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物の配合割合」が、本件発明1では「40~95質量%」であるのに対し、甲1発明では12.5質量%である点。
イ 相違点1についての判断
甲1には、「YX-4000」及び「ST-5100」に関して、次の記載がある。
「【0027】本発明では、熱硬化成分(D)を使用する。これを用いることにより、半田耐熱性や電気特性に優れたプリント配線板用材料とすることができる。本発明で用いる熱硬化成分(D)としては、カルボキシル基含有オリゴマー(A)と熱硬化する官能基を分子中に有するものであればよく、特に限定されるものではなく、例えばエポキシ樹脂、メラミン化合物、尿素化合物、オキサゾリン化合物、フェノール化合物などを挙げる事ができる。
【0028】エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポきし樹脂、フェノール・のぼらっく型エポキシ樹脂、クレゾール・ノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ビキレノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル類;3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポキシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサンなどの脂環式エポキシ樹脂;フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル類;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのグリシジルアミン類;トリグリシジルイソシアヌレートなどの複素環式エポキシ樹脂などが挙げられる。なかでも、融点が50℃以上のエポキシ樹脂が乾燥後タックのない光重合性皮膜を形成することができ好ましい。」
上記のように、甲1には、甲1発明で用いられている「YX-4000」及び「ST-5100」に関する記載として、熱硬化性成分としてエポキシ樹脂が挙げられること、エポキシ樹脂として「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」(当審注:「ST-5100」が含まれる)や「ビキレノール型エポキシ樹脂」(当審注:「ビキシレノール型エポキシ樹脂」の誤記と認められ、「YX-4000」が含まれる。)が挙げられることは記載されているが、「YX-4000」(本件発明1の(D-1)に相当)の配合割合を、「YX-4000」と「ST-5100」(本件発明1の(D-2)に相当)の合計量に対して40~95質量%とすることについては、直接的な記載も、それを示唆するような記載もないから、当業者が動機づけられることではない。
そして、本件明細書の【0081】には、
「前記(D-1)および(D―2)の熱硬化性樹脂の配合割合は、前記(D-1)および(D-2)の熱硬化性樹脂の合計量あたり、(D-1)の割合が40~95質量%であることが好ましく、より好ましくは50~90質量%である。上記の範囲とすることにより、より現像性に優れ、かつ、硬化物の柔軟性、密着性および耐熱性により優れた硬化物を得ることができる。」
と記載され、相違点1の構成を採用することによって「より現像性に優れ、かつ、硬化物の柔軟性、密着性および耐熱性により優れた硬化物を得ることができる。」という効果が得られることが記載されており、実施例1~12では、(D-1)および(D-2)の合計量あたり、(D-1)の割合が50~90質量%となるように配合したものが記載され(【0112】の【表1】)、それらが現像性、密着性、耐熱性等に優れるものであることが具体的に確認されている。
また、本件明細書の【0081】に記載された効果は、特許権者が令和5年6月5日に提出した意見書9頁の[表A]に記載された、実施例8((D-1)の(D-1)及び(D-2)の合計量に対する割合が50質量%)と追加比較例((D-1)の(D-1)及び(D-2)の合計量に対する割合を30質量%とした以外は実施例8と同じ)において、実施例8の方が密着性、現像性、耐熱性に優れていることからも理解できる。
このような効果は、「YX-4000」及び「ST-5100」が、それぞれ、「現像性」、「硬化物の柔軟性」、「密着性」、「耐熱性」といった特性にどのような影響を与えるのか記載がなく、単にエポキシ樹脂の例として両者を組み合わせて配合した実施例2(甲1発明)の記載があるだけにすぎない甲1の記載から、当業者が予測できるものではない。
よって、甲1発明において、相違点1の構成を採用することは、当業者が容易に想到することではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和5年7月7日提出の意見書において、主に以下の2点を主張する。
(ア)(D-1)の配合割合を、(D-1)および(D-2)の合計量あたり40~95質量%とすることは、一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化に該当する。現像タイプの樹脂組成物において、現像性は必須の構成であり、その課題の解決のために上記配合割合を調整することは当たり前のことである。
また、(D-2)のエポキシ化合物の数平均分子量が高いので、比較的に現像性に悪影響があることも、当業者であれば当然考慮できることである(例えば、特開2007-171812号公報の【0044】,特許第6561832号公報の【0010】等)。
(イ)特許権者が意見書で提示した追加比較例ではD成分中のD-1が30質量%であるため、現像性が×評価となっているが、これは、そもそもA成分(特にアルカリ可用性樹脂2)の現像性が低いという、本件発明の特徴点に起因している。甲1発明又は甲2発明では、配合割合が本件発明1の範囲外でも現像性の問題は生じていない。してみると、上記追加比較例の効果は「引用発明と比較した有利な効果」とはいえない。特許権者が追加比較例の効果を主張するのであれば、請求項に、「本件明細書の段落【0106】で合成した式(1)と式(2)の構造を有するカルボキシル基含有アミドイミド樹脂」に関する構成を追加した上で、その効果を主張すべきである。
主張(ア)について検討すると、甲1には、甲1発明で用いられている「YX-4000」及び「ST-5100」が、それぞれ、「現像性」、「硬化物の柔軟性」、「密着性」、「耐熱性」といった特性にどのような影響を与えるのか記載がなく、単にエポキシ樹脂の例として両者を組み合わせて配合した実施例2(甲1発明)の記載があるだけであるから、その記載から相違点1の構成を採用することにより、「より現像性に優れ、かつ、硬化物の柔軟性、密着性および耐熱性により優れた硬化物を得ることができる。」という効果が得られることを予測することができるとはいえない。
また、申立人が提示した特開2007-171812号公報の【0044】及び申立人が提示した特許第6561832号公報の【0010】には、概略、感光性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の数平均分子量が1000よりも大きくなると、現像性が悪化するおそれがあることが記載されているにとどまり、甲1発明において、「YX-4000」(D-1)の配合割合を、12.5質量%から「40~95質量%」とすることが動機づけられるとはいえないし、分子量が大きく現像性に劣ると考えられる「ST-5100」(D-2)を「YX-4000」(D-1)と所定割合で併用することで、「現像性」だけでなく「硬化物の柔軟性、密着性および耐熱性により優れた硬化物を得ることができる。」(本件明細書の【0081】)という効果が得られることまで予測できるとはいえない。
主張(イ)について検討すると、本件明細書の実施例における現像性の評価は、本件明細書の【0110】に記載された以下の条件で行われたものである。
「<現像性の評価>
厚さ38μmのPETフィルムに、ギャップ30μmのアプリケーターで各樹脂組成物を塗布し、熱風循環式乾燥炉にて80℃20分間乾燥させ、各組成物の樹脂層を形成したフィルムを作製した。作製したフィルムの樹脂層面を、厚さ1.6mmのFR-4銅張積層板前記工程に、真空ラミネーターにて90℃、圧力0.4MPaの条件で60秒間圧着し、各組成物の樹脂層をラミネートして、PETフィルムを剥がした。次いで、得られた評価基板に対して、30℃の1質量%炭酸ナトリウム水溶液をスプレー圧0.2MPaの条件で現像した。10分以下で現像できたサンプルを現像できる。10分以上の現像でも現像できないサンプルを現像できないとした。
評価基準は以下のとおりである。
○:現像できる
×:現像できない」
一方、甲1発明における現像性の評価は、甲1の【0051】に記載された以下の条件で行われたものである。
「【0051】(1)現像性:80℃で60分間塗膜の乾燥を行い、30℃の1%炭酸ナトリウム水溶液でのスプレー現像による現像性を評価した。○・・・・目視により残留物無し。×・・・・目視により残留物有り。」
両者の評価は同じとはいえないから、甲1発明の組成物が本件明細書の実施例でいう現像性の評価においても優れるとは直ちにはいえないし、たとえ甲1発明の組成物が現像性においては本件明細書に記載された条件で良好な結果が得られるとしても、相違点1の構成を採用することによって、より現像性が向上することは本件明細書の【0081】に記載されており、アルカリ可溶性樹脂の現像のしやすさによってある程度変動するとしても、その効果は本件明細書の実施例で用いられている特定のアルカリ可溶性樹脂だけでなく、任意のアルカリ可溶性樹脂において得られることは明らかである。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
エ まとめ
よって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとも、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1に記載された発明であるとも、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2~5についても、甲1に記載された発明であるとも、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)取消理由1、申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~5は、甲1に記載された発明であるとも、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、取消理由1及び申立理由1によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2、申立理由2(甲2による新規性・進歩性)について
取消理由2,申立理由2は、いずれも甲2を主引用文献とする新規性、進歩性欠如をいうものであるから、まとめて検討する。
(1)甲2に記載された発明
甲2には、「(A)下記化1の一般式(1)で示されるエポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸をエステル化反応させてアクリル変性し、更に酸無水物を付加して酸価60~120mgKOH/gとした希アルカリ水溶液に可溶の感光性プレポリマー、(B)下記化2の一般式(2a)で示される1分子中に2個のエポキシ基を有するジグリシジルエーテル型のエポキシ化合物の少なくとも1種を含むエポキシ化合物、(C)光重合開始剤、及び(D)希釈剤を含有し、上記各成分の配合量が、感光性プレポリマー(A)100重量部に対し、それぞれ、エポキシ化合物(B)が5~120重量部、光重合開始剤(C)が0.1~30重量部の範囲にあることを特徴とするアルカリ現像型の光硬化性・熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
[図:0001403674000004.jpg]
【化2】
[図:0001403674000005.jpg]
」
が記載されており(請求項1)、その具体例として、【0045】の表3に「実施例3」として、「a-1」という成分と、「b-3」という成分からなるレジストインキ組成物が記載され、それを用いて【0038】に記載されるように試験基板を作製し、アルカリ現像性等の特性評価を行ったことが記載されている。また、「a-1」、「b-3」の成分の詳細は【0036】~【0037】の【表1】~【表2】に記載され、「a-1」に含まれる「樹脂(A-1)」については【0033】に記載がある。なお、【0033】は「感光性プレポリマー」(請求項1の成分(A))の合成に関するものであることを考慮すると、【0033】の「前記一般式(2)」は「前記一般式(1)」を意味するものと認められる。
したがって、上記実施例3及び請求項1に着目すると、甲2には次の発明が記載されているといえる。
「下記(a-1)と(b-3)を混合して得られる、アルカリ現像型の光硬化性・熱硬化性のレジストインキ組成物
(a-1)
下記合成例1で得られた、固形分酸価が100mgKOH/gである、希アルカリ水溶液に可溶の感光性プレポリマーである樹脂(A-1)(固形分65%)を154部、
光重合開始剤であるチバガイギー社製「イルガキュアー907」を10部、
光重合開始剤であるジエチルチオキサントンを1.2部、
光重合性モノマーである第一工業製薬社製「TMP-3」(トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド付加物のトリアクリレート化物)を16部、
微粉シリカを10部、
エポキシ硬化促進剤であるメラミンを1.2部、
シリコーン系消泡剤である信越化学工業(株)製「KS-66」を1部
(b-3)
東都化成(株)製「ST-5100」を70部
油化シェルエポキシ(株)製「YX-4000」(ビキシレノールエポキシ樹脂)を10部
(合成例1で得られた感光性プレポリマー樹脂(A-1))
下記一般式(1)においてYがCH2 、平均の重合度nが6.2であるビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量950g/eq、軟化点85℃)380部とエピクロルヒドリン925部をジメチルスルホキシド462.5部に溶解させた後、攪拌下70℃で98.5%NaOH60.9部(1.5モル)を100分かけて添加し、添加後さらに70℃で3時間反応を行い、反応終了後、水250部を加え水洗を行い、油水分離後、油層よりジメチルスルホキシドの大半及び過剰の未反応エピクロルヒドリンを減圧下に蒸留回収し、残留した副製塩とジメチルスルホキシドを含む反応生成物をメチルイソブチルケトン750部に溶解させ、更に30%NaOH10部を加え、70℃で1時間反応させ、反応終了後、水200部で2回水洗を行い、油水分離後、油層よりメチルイソブチルケトンを蒸留回収して、エポキシ当量310g/eq、軟化点69℃のエポキシ樹脂(a)を得て、このエポキシ樹脂(a)310部及びカルビトールアセテート282部をフラスコに仕込み、90℃に加熱・攪拌し、溶解し、得られた溶液を一旦60℃まで冷却し、アクリル酸72部(1モル)、メチルハイドロキノン0.5部、トリフェニルホスフィン2部を加え、100℃に加熱し、約60時間反応させ、酸価が0.2mgKOH/gの反応物を得て、これにテトラヒドロ無水フタル酸140部(0.92モル)を加え、90℃に加熱し、固形分酸価が100mgKOH/gになるまで反応を行って得られた、固形分濃度65%の感光性プレポリマー樹脂(A-1)
(一般式(1))
[図:0001403674000006.jpg]
」
(以下「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「下記合成例1で得られた、固形分酸価が100mgKOH/gである、希アルカリ水溶液に可溶の感光性プレポリマーである樹脂(A-1)(固形分65%)」は、「希アルカリ水溶液に可溶」なものであり、かつ、その製造工程である「合成例1」において、「テトラヒドロ無水フタル酸140部(0.92モル)を加え、90℃に加熱し、固形分酸価が100mgKOH/gになるまで反応」させたものであり、甲2の【0015】に「このような感光性プレポリマーは、バックボーン・ポリマーの側鎖に多数の遊離のカルボキシル基を付与したものであるため、希アルカリ水溶液による現像が可能となる」と記載されていることも考慮すると、カルボキシル基を含有するものと認められる。
そうすると、甲2発明の「下記合成例1で得られた、固形分酸価が100mgKOH/gである、希アルカリ水溶液に可溶の感光性プレポリマーである樹脂(A-1)(固形分65%)」は、本件発明1の「アルカリ可溶性樹脂」としての「カルボキシル基含有樹脂」に相当する。
甲2発明の「光重合開始剤であるチバガイギー社製「イルガキュアー907」」は、本件発明1の「光重合開始剤」に相当する。
甲2発明の「光重合性モノマーである第一工業製薬社製「TMP-3」(トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド付加物のトリアクリレート化物)」は、アクリレート部分にエチレン性不飽和基が含まれることや、本件明細書の【0070】に「エチレン性不飽和基を有する化合物としては、・・・トリメチロールプロパン・・・のエチレンオキサイド付加体・・・の多価アクリレート類」と記載されていることからみて、本件発明1の「エチレン性不飽和基を有する化合物」に相当する。
甲2発明の「東都化成(株)製「ST-5100」」は、上記1(2)アで検討したのと同様の理由により、甲6の記載からみて、本件発明1の「数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物」に相当する。
甲2発明の「油化シェルエポキシ(株)製「YX-4000」(ビキシレノールエポキシ樹脂)」は、上記1(2)アで検討したのと同様の理由により、本件発明1の「(D-1)下記式・・・(d-1-4)で表される構造・・・を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物」に相当する。
また、甲2発明の「アルカリ現像型の光硬化性・熱硬化性のレジストインキ組成物」は、本件発明1の「硬化性組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「(A)アルカリ可溶性樹脂と、(B)光重合開始剤と、(C)エチレン性不飽和基を有する化合物と、(D)熱硬化性樹脂とを含む硬化性樹脂組成物であって、
前記(A)アルカリ可溶性樹脂として、カルボキシル基含有樹脂を含み、
前記(D)熱硬化性樹脂として、(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物、および、(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
[図:0001403674000007.jpg]
(式(d-1-4)中、Rは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。ただし、Rが全て水素原子である場合を除く。)」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
「前記(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物および前記(D-2)数平均分子量が1000~3000で2官能のエポキシ化合物の合計量あたり」の「前記(D-1)下記式(d-1-1)~(d-1-4)で表される構造のうちいずれか1つ以上を含み、かつ数平均分子量が1000以下である多官能エポキシ化合物の配合割合」が、本件発明1では「40~95質量%」であるのに対し、甲2発明では12.5質量%(=10/(10+70)×100)である点。
イ 相違点2についての判断
甲2には、甲2発明で用いられている「油化シェルエポキシ(株)製「YX-4000」」(本件発明1の(D-1)に相当)の配合割合を、「YX-4000」と「東都化成(株)製「ST-5100」」(本件発明1の(D-2)に相当)の合計量に対して40~95質量%とすることは記載されていない。
そして、甲2には、「YX-4000」及び「ST-5100」に関して、次の記載がある。
「【0017】(B)成分の1分子中に2個のエポキシ基を有するジグリシジルエーテル型のエポキシ化合物は、樹脂組成物の加熱硬化を目的として配合されるものであって、このようなエポキシ化合物としては、前記一般式(2a)で示されるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、及びそれらの二塩基酸変性ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。このような重合鎖の両末端にエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、前記一般式(2a)における重合度mが0~12程度、二塩基酸変性部分の重合度nが0~10程度のものが好ましく、さらに好ましくは重合度mが0~6程度、重合度nが0.1~6程度のものである。重合度m及びnが上記範囲を超えて大きくなると、希アルカリ水溶液に対する溶解性が著しく低下し、未露光部のエポキシ樹脂が現像後に残留してしまう恐れがあるので好ましくない。なお、ここでいう重合度とは、上記エポキシ樹脂の合成の際に生成する種々の重合度のものの平均重合度をいう。
【0018】特に、前記(B)ジグリシジルエーテル型のエポキシ化合物としては、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂又は水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を二塩基酸で変性した前記一般式(2b)で示される二塩基酸変性ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含有することが、前記したように組成物の現像性を向上させることができるため好ましい。前記一般式(2b)で示される二塩基酸変性ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂における二塩基酸変性部分の重合度nは、0.1~10程度、好ましくは6以下である。なお、重合度mは前記一般式(2a)の場合と同様である。
【0019】前記1分子中に2個のエポキシ基を有するジグリシジルエーテル型のエポキシ化合物(B)の市販品としては、エピコート828、エピコート834、エピコート1001、エピコート1002(いずれも油化シェルエポキシ社製)等のビスフェノールAジグリシジルエーテル;エピコート807等のビスフェノールFジグリシジルエーテル;EBPS-200(日本化薬社製)、エピクロンEXA-1514(大日本インキ化学工業社製)等のビスフェノールSジグリシジルエーテル;YL-6121(油化シェルエポキシ社製)等のビフェノールジグリシジルエーテル;YX-4000(油化シェルエポキシ社製)等のビキシレノールジグリシジルエーテル;ST-2004、ST-2007(いずれも東都化成社製)等の水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0020】また、前記二塩基酸変性ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の市販品としては、ST-5100、ST-5080(いずれも東都化成社製)などが挙げられる。変性に用いられる二塩基酸としては、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸などが挙げられる。」
上記のように、甲2には、甲2発明で用いられている「YX-4000」及び「ST-5100」に関する記載として、(B)成分として所定の1分子中に2個のエポキシ基を有するジグリシジルエーテル型のエポキシ化合物が用いられること、そのようなエポキシ化合物として、一般式(2a)で表される化合物が挙げられるが、その中でも特に一般式(2b)で表される二塩基酸変性ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含有することが、組成物の現像性を向上させることができるため好ましいことが記載されている。
そして、「1分子中に2個のエポキシ基を有するジグリシジルエーテル型のエポキシ化合物」の例として「YX-4000」が例示され(【0019】)、より好ましいとされる「二塩基酸変性ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂」の例として「ST-5100」が例示されている(【0020】)。
しかし、「YX-4000」(本件発明1の(D-1)に相当)の配合割合を、「YX-4000」と「ST-5100」(本件発明1の(D-2)に相当)の合計量に対して40~95質量%とすることについては、直接的な記載も、それを示唆するような記載もないから、当業者が動機づけられることではない。
そして、本件明細書の【0081】には、
「前記(D-1)および(D―2)の熱硬化性樹脂の配合割合は、前記(D-1)および(D-2)の熱硬化性樹脂の合計量あたり、(D-1)の割合が40~95質量%であることが好ましく、より好ましくは50~90質量%である。上記の範囲とすることにより、より現像性に優れ、かつ、硬化物の柔軟性、密着性および耐熱性により優れた硬化物を得ることができる。」
と記載され、相違点2の構成を採用することによって「より現像性に優れ、かつ、硬化物の柔軟性、密着性および耐熱性により優れた硬化物を得ることができる。」という効果が得られることが記載されている。
また、上記効果は、特許権者が令和5年6月5日に提出した意見書9頁の[表A]に記載された、実施例8((D-1)の(D-1)及び(D-2)の合計量に対する割合が50質量%)と追加比較例((D-1)の(D-1)及び(D-2)の合計量に対する割合を30質量%とした以外は実施例8と同じ)において、実施例8の方が密着性、現像性、耐熱性に優れていることからも理解できる。
このような効果は、単にエポキシ樹脂として「YX-4000」と「ST-5100」が例示されるだけで、「YX-4000」の組成物中での働きが記載されず、「ST-5100」の方が好ましい旨と、エポキシ樹脂の例として両者を組み合わせた実施例3(甲2発明)の記載があるだけにすぎない甲2の記載から、当業者が予測できるものではない。
よって、甲2発明において、相違点2の構成を採用することは、当業者が容易に想到することではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和5年7月7日提出の意見書において、上記1(2)ウで挙げた2点(ア),(イ)を主張している。
そのうち、主張(ア)については、上記1(2)ウで述べたのと同様の理由により、採用することはできない。
主張(イ)について検討すると、甲2発明における現像性の評価は、甲2の【0039】に記載された以下の条件で行われたものである。
「(1)アルカリ現像性:80℃で塗膜の乾燥を行い、20分目から10分毎に70分目まで試験基板を取り出し、30℃の1wt%Na2 CO3 水溶液でのスプレー現像による現像性を評価した。
○:目視により残留物無し。
×:目視により残留物有り。」
この評価は上記1(2)ウで述べた本件明細書の実施例の現像性の評価と同じとはいえないから、甲2発明の組成物が本件明細書の実施例でいう現像性の評価においても優れるとは直ちにはいえないし、たとえ甲2発明の組成物が現像性においては本件明細書に記載された条件で良好な結果が得られるとしても、相違点2の構成を採用することによってより現像性が向上することは本件明細書の【0081】に記載されており、アルカリ可溶性樹脂の現像のしやすさによってある程度変動するとしても、その効果は本件明細書の実施例で用いられている特定のアルカリ可溶性樹脂だけでなく、任意のアルカリ可溶性樹脂において得られることは明らかである。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
エ まとめ
よって、本件発明1は甲2に記載された発明であるとも、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明3~5について
本件発明3~5は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲2に記載された発明であるとも、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明3~5についても、甲2に記載された発明であるとも、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)取消理由2、申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1,3~5は、甲2に記載された発明であるとも、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、取消理由2及び申立理由2によっては、本件発明1,3~5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由1,2及び申立理由1,2に記載した理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700036