特許拒絶査定不服審判
2023-020552
時計、計器、機械式ムーブメント、機械式ムーブメントまたは計器用の金属シャフト及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-020552
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-168340
- 請求日
- 2023年12月04日
- 審決日
- 2025年03月12日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オメガ・エス アー
- 【請求人代理人】山川 茂樹
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 喜々津 徳胤
- 審判官 道祖土 新吾
- 分類
- P18 .121-Z (G04B) / P18 .575-Z (G04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-168340「時計、計器、機械式ムーブメント、機械式ムーブメントまたは計器用の金属シャフト及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 1月11日出願公開、特開2022- 3351〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)2月20日を国際出願日とする特許出願(特願2018-557229号)の一部を、令和2年5月20日に新たな特許出願とした特願2020-87874号の一部を令和3年10月13日に新たな外国語書面出願としたものであって(パリ条約による優先権主張、2016年2月19日、欧州特許庁)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和3年10月13日 :翻訳文の提出
令和4年11月16日付け:拒絶理由通知書
令和5年 1月16日 :意見書、手続補正書の提出
同年 2月22日付け:拒絶理由通知書
同年 5月26日 :意見書、手続補正書の提出
同年 7月26日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 8月 8日 :原査定の謄本の送達)
同年12月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出
以下、2016年2月19日を「優先日」という。
第2 令和5年12月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年12月4日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和5年12月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和5年5月26日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
1.01未満の比透磁率を有する時計用または計器用の機械式ムーブメントの金属シャフトであって、
該金属シャフト(12、21、24、26、33、34、41)は、ベリリウム銅、コバルト及びニッケルを含む合金で作られ、該合金の硬質化のための非磁性被膜が施された
金属シャフト。」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
1.01未満の比透磁率を有する時計用または計器用の機械式ムーブメントの金属シャフトであって、
該金属シャフト(12、21、24、26、33、34、41)は、ベリリウム銅、コバルト及びニッケルを含む合金で作られ、該合金の硬質化のための非磁性被膜が施されているとともに、前記金属シャフト(12,21,24,26,33,34,41)の前記合金は、1.8%~2%のベリリウム(Be)、0.2%~0.6%の鉛(Pb)、コバルト(Co)とニッケル(Ni)と鉄(Fe)の合計含有量が0.6%以下、かつ他の物質が0.5%以下、および残りの銅(Cu)で構成される
金属シャフト。」
2 補正の目的
本件補正のうち請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載された「金属シャフト」の「ベリリウム銅、コバルト及びニッケルを含む合金」について、「1.8%~2%のベリリウム(Be)、0.2%~0.6%の鉛(Pb)、コバルト(Co)とニッケル(Ni)と鉄(Fe)の合計含有量が0.6%以下、かつ他の物質が0.5%以下、および残りの銅(Cu)で構成される」ことを限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
3 独立特許要件の判断
本件補正は、前記2のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものである。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性を有さない時計機構、時計、および計測装置、ならびにそれらを製造するための方法およびシャフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気が望ましくない、さらには危険を伴うような、特定の状況がある。例えば、爆発物除去の分野では、弱い磁場であっても、十分に爆弾または地雷を起爆させる引き金となる。従って、爆発物除去の分野で使用する非磁性用具の検査のためNATO規格STANAG 2897では、全磁力が5nT(ナノテスラ)以下であることを要求している。
【0003】
先行技術による金属部品を用いた電気式または機械式の時計は、必ず磁気特性を有する。デジタル時計またはクォーツ時計の電流は、このような状況で比較的高い磁場を発生し、これにより強い磁気特性を形成する。一方、純粋に機械式の時計であっても、使用されている金属によって、必ず残留磁気を示し、それだけでも過度に強い磁気特性を形成する。そのような残留磁気は、日常生活で受ける磁場に起因し、これが金属部品を磁化させることにより、金属部品は、その後は磁場がなくても残留磁気を示す。このため、磁場の影響を受ける状況では時計を装着することができない。
【0004】
しかしながら、時計業界では、機械式時計の動作に対する磁場の影響を軽減する問題にのみ重点を置いているので、環境における時計の影響は、あまり知られていない問題である。これまでに、STANAG 2897規格を満たす腕時計は知られていない。
【0005】
機械式時計の動作に対する磁場の影響を軽減する問題を解決するために、時計機構の可動部品の一部に、1.01未満の比透磁率を有する非磁性材料を使用することが、特許文献1で知られている。ところが、時計機構のすべての部品が非磁性であるわけではないので、そこで開示されているソリューションによって、磁場において時計の良好な機能性は得られるものの、1.01超の透磁率を有する時計の残りの可動部品および/または非可動部品が、磁場を離れた後に残留磁気を示すことは避けられない。特に、駆動シャフトに非磁性材料を使用することについて、ソリューションは開示されていない。
【0006】
特許文献2は、プラスチック射出成形、青銅、またはベリリウム銅で構成される非磁性の駆動シャフトについて開示している。これらの提案されている非磁性材料は、十分な精度品質を実現するには、柔らかすぎる。
【0007】
また、非磁性の時計の問題を見過ごしていることに加えて、時計メーカは、時計業界で知られている非磁性金属が、時計機構における加工性、摩耗、硬度、他の部品との相互作用などのような様々な要件を満たすことができないため、金属製の時計機構を非磁性金属のみで実現することは不可能であると考えている。これは、特に、駆動シャフトに使用される金属について言えることであるが、例えば圧延バネなどのような多様な小部品についても言えることである。例えば、特許文献2で提案されているベリリウム銅は、駆動シャフトについて、スイス時計工業規格(NIHS)の多くを満たすには、柔らかすぎる。例えば、NIHS 91-10規格(2016年改訂版)で規定されている衝撃によって、駆動シャフトのピニオン(カナ)の歯は曲がる。また、時計機構の機構に作用する力は、ベリリウム銅で構成された駆動シャフトには大きすぎるため、ピニオンのホゾおよび歯の係合領域が短時間で摩耗し、NIHS規格が要求する精度を満たさなくなる。従って、このような損耗によって、このような時計は、時計が磁場を受けるかどうかに関わりなく日差30秒の精度が要求される非磁性の時計のためのNIHS 90-10規格(2003年改訂版)を、極めて早急に満たさなくなる。このように、これまで、STANAG 2897規格を満たすと同時にNIHS 91-10の耐衝撃性規格を満たし、かつ/または、非磁性の時計のためのNIHS 90-10のようないくつかの規格で要求される6ヶ月使用後の精度を示す腕時計は知られていない。
【0008】
同様の問題は、例えば深度計、圧力計、速度計、または高度計のような他の計測器においても生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許第1932257号明細書
【特許文献2】米国特許第3620005号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって、目的は、環境における影響が最小限である時計機構、時計、計測器、およびシャフトを見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本目的は、その個々の部品がすべて1.01未満の比透磁率を有する、時計または計測器によって達成される。
【0012】
本目的は、その個々の部品がすべて1.01未満の比透磁率を有する、時計機構によって達成される。
【0013】
本目的は、時計機構用または計測器用の、1.01未満の比透磁率を有する特にピニオンシャフトであるシャフトによって達成される。
【0014】
1.01未満の比透磁率を有する個々の部品のみを使用することによって、時計機構または時計または計測器の部品はいずれも、磁場において磁化不可能である。従って、このような時計機構は、強い磁場を受けた後であっても、残留磁気を示さない。このように、環境における時計機構の影響は軽減される。
【0015】
さらなる効果的な実施形態は、従属請求項で規定している。
【0016】
例示的な一実施形態では、機械式時計機構、時計、または計測器は、ベリリウム銅で構成されるとともにベリリウム銅の硬度を向上させる好ましくはニッケル層である被膜で硬質化された少なくとも1つの部品を有する。この金属で構成される少なくとも1つの部品は、好ましくは、他の部品を回転取り付けするためのシャフトである。この金属合金は、非磁性であるとともに、時計機構の場合には複雑である時計のピニオンシャフトのようなシャフトの形状の切削加工またはフライス加工のために十分に軟質である。この材料を好ましくはその後に非磁性被膜で硬質化することによって、第1に、シャフトの磁気特性が損なわれることなく、第2に、時計機構の摩耗、摩擦、および精度の要件を満たすための所要の硬度が実現される。時計製作では特にピニオンシャフト用としては知られていない、この材料は、その非磁性、その良好な加工性、その硬度、を特徴とする。この金属合金で構成されるシャフトおよびその他の部品は、上記の時計機構または計測器以外の時計機構または計測器に用いることもできる。」
「【0031】
部品の回転取り付け用のものとして記載したシャフト(および記載していないシャフト)は、好ましくは、硬質化された銅合金で構成される。その銅合金は、好ましくはベリリウム銅である。ベリリウム銅は、好ましくは鉛を含む。銅合金は、好ましくは、1.8%~2%のベリリウム(Be)、0.2%~0.6%の鉛(Pb)、1.1%未満の他の物質、および残りの銅(Cu)で構成される。1.1%未満の他の物質は、好ましくは、コバルト(Co)とニッケル(Ni)の合計含有量が0.2%以上、コバルト(Co)とニッケル(Ni)と鉄(Fe)の合計含有量が0.6%以下、かつ他の物質が0.5%以下(合金の総重量に対する割合)である。合金の物質含有量に関する上記および下記の割合は、特に明記されない限り、常に重量パーセントを意味する。この銅合金で構成される材料ブロックから、所望のシャフトを切削加工し、好ましくは回転フライス加工する。低表面粗度の表面品質を得るためには、切削工具としてダイヤモンドを用いることが好ましい。この材料の硬度が、わずか約380HV(ビッカース硬さ)であることによって、この材料は、機械加工が容易に可能であり、このことは、特に、ピニオンシャフトに形成されるピニオンのような回転非対称要素にとって重要である。所望のシャフトを形成した後に、好ましくは化学機械研磨工程である研磨工程を実施することが好ましい。銅合金で形成されたシャフトは、その上に第2の材料(またはベリリウム銅とは異なる材料)で構成される非磁性層を施すことによって、硬質化される。この第2の材料は、好ましくは、(ガラス状合金とも呼ばれる)アモルファス金属である。好ましくは、付与される被膜は、0.5μm(マイクロメートル)よりも厚く、好ましくは2.5μmよりも厚く、好ましくは5μmよりも厚く、好ましくは7μmよりも厚い。好ましくは、第2の材料で構成される硬質化層は、少なくとも、ホゾの領域、および/またはピニオンの歯の領域におけるピニオンシャフトに施される。最も単純な場合では、シャフト全体を、第2の材料で構成された被膜で包囲する。第2の材料で被覆されたシャフトは、好ましくは、それらの部品または被膜をさらに硬質化するために、析出硬化(時効硬化)を施す。これは、一般的に、熱処理によって行われる。非磁性層として、好ましくはニッケルを用いる。このような層は、例えば、電気メッキおよび/または化学ニッケルメッキによって施すことができる。ニッケル層は、時計業界では、磁性材料として知られており、非磁性材料としては使用されていない。しかしながら、ニッケルを非磁性層として形成および付与することが可能である。これは、例えば、アモルファスニッケル層によって実現することができる。追加的または代替的に、非磁性層は、好ましくは10%超のリン含有量で、ニッケル層にリンを含むことによって実現することもできる。追加的または代替的に、非磁性層は、化学ニッケルメッキによって実現することもできる。このニッケル被膜によって、600HV超の硬度、好ましくは700HV超の硬度、好ましくは800HV超の硬度を、実現することができる。上記の銅合金で構成された成形シャフトに、厚さ3μmの化学ニッケルメッキを用いて、約900HVの硬度が得られる。このようにして製造されるシャフトは、被覆前のシャフトの良好な成形性、時計機構が低摩耗かつ高精度で動作するために必要なシャフトの被覆後の硬度、シャフトの非磁気特性、という特徴を最適に兼ね備える。」
(2) 各引用文献の記載事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開平11-44782号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(イ)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
a 【0001】~【0009】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マイクロ発電機、特に時計仕掛ムーブメント用のマイクロ発電機、またはその他のミニチュア化電子または電気機械装置用のマイクロ発電機に関する。本発明は同様に、このようなマイクロ発電機を包含する電子モジュール及び時計仕掛ムーブメントにも関するものである。
【0002】
【従来の技術】このようなマイクロ発電機は、例えば腕時計、補聴器、写真機、またはラジオ受信機のような携帯式のミニチュア化装置に特に利用されている。例えばスイス特許CH 597 636(Ebauches SA)には、ぜんまいが歯車列及び交流電圧供給発電機を介して、時間表示装置を駆動する時計仕掛ムーブメントについて記述されている。このマイクロ発電機は整流器に給電し、整流器は容量性コンポーネントに給電し、容量性コンポーネントは安定クォーツ発振器を備えた電子レファレンス回路及び電子制御回路に給電する。電子制御回路は、比較器論理回路と、この比較器論理回路の出力に接続され、比較器論理回路を介し電力消費を制御できるエネルギ消散回路とを有する。比較器論理回路の一方の入力は電子照合回路(the electronic reference circuit)に接続され、他方の入力はマイクロ発電機に接続されている。比較器論理回路は、電子照合回路から来るクロックパルス信号をマイクロ発電機から発生するクロック信号と比較し、この比較の結果に基づきエネルギ消散回路の電力消費の量を制御し、このようにして制御回路電力消費を制御することにより、マイクロ発電機の回転角速度を制御し、時間表示装置の速度を制御している。従って、このような腕時計は、機械時計の利点とクォーツ時計の利点とを兼ね備えている。
【0003】このスイス特許CH 597 636に記載されているマイクロ発電機は、歯車列を介しぜんまいにより回転されるロータと、少なくとも1つのコイルにより形成されるステータとにより成る。ロータは2つの円板により作られ、一方の円板には、交互にN極とS極とに磁化されている6個の永久磁石を備えている。このロータの回転中に、永久磁石はコイルに交流電圧を誘起するのである。
【0004】欧州特許EP 0 170 303(Kinetron)、EP 0 474 101(Micromag)及び特にEP 0 547 083(Kinetron)には他の形式のマイクロ発電機が記載されている。このような各種設計のマイクロ発電機はまた、1970年ベルリン、ニューヨーク、ハイデルベルグの Springerverlag 社発行、K.Schuler 及びK.Brinkmann 著の”Dauermagnete, Werkstoffe & Anwendungen " 殊にその第9章「永久磁石を備えた電気時計」にも記載され公知である。
【0005】本発明の目的は、改良されたマイクロ発電機、殊に時計仕掛ムーブメントに用いられるマイクロ発電機を提供することにある。
【0006】特に、本発明の目的は、マイクロ発電機の摩擦損失及び慣性モーメントを減少するために被駆動質量をできるだけ小さくしたマイクロ発電機を提供することにある。このような方法でのマイクロ発電機は、空間要求が最小限で済むぜんまいによって駆動することが可能となる。
【0007】本発明の他の目的は、マイクロ発電機自体の空間要求を減少し、これによりマイクロ発電機を、ミニチュア化した装置内、例えば時計仕掛ムーブメント内に容易に収容され得るようにすることである。
【0008】本発明の更なる他の目的は、簡単な構造で、組み立てが容易で、商品価値が高いマイクロ発電機を提供することにある。
【0009】本発明によれば、これらの目的は、請求項1項に記載の特徴を備えたマイクロ発電機によって得ることができる。また、好適な変形形態が従属項に開示されている。」
b 【0010】~【0016】、【図1】、【符号の説明】
「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の幾つかの実施形態を、添付図面を参照して詳述する。
【0011】図1は、時計仕掛ムーブメント内に装架したマイクロ発電機の側部断面を示す図で、本発明の理解に必要な部品のみを示している。この時計仕掛ムーブメントは、ぜんまいの形とした機械エネルギの蓄積手段(図示していない)を有している。このぜんまいは、巻き上げ装置(図示していない)か、好適には腕時計をしている人の腕の運動によって振動可能重錘によって巻き上げられる。従来の歯車列(図示していない)を介して、ぜんまいは、腕時計の針やインディケータ、殊に秒軸70に装架されている秒針を駆動する。」
「【図1】
[図:0001425205000001.jpg]
」
「【符号の説明】
【符号の説明】
10 シャフト 11 円板 12 磁石
13 円板 14 磁石 15 ピニオン
19 リング 20,21,22 誘導コイル
30 基板 31 軸受
35 透明のバックカバー 40 バー 41 軸受
50 第2の中間ピニオン 51 第2の中間歯車
60 第1の中間ピニオン 61 第1の中間歯車
70 秒軸 71 秒歯車」
「【0012】秒軸70に装架されている秒歯車71は第1の中間ピニオン60を駆動し、中間ピニオン60は中間歯車61を介して第2の中間ピニオン50を駆動する。第1の中間ピニオン60とその軸とは鋼製またはその他の適当な金属製のものである。これと対照的に、第2の中間ピニオン50及びその軸は非磁性材料、好適には銅ベリリウム合金からできており、中間歯車に作用する磁石の力のためにマイクロ発電機に位置モーメントが加わることがない。第2の中間歯車に磁性材料を使用するとすれば、マイクロ発電機の位置モーメントがぜんまいの駆動モーメントよりも数倍大きくなり、マイクロ発電機の始動が不能となるのである。
【0013】第2の中間ピニオン50は、第2の中間歯車51及びピニオン15を介してマイクロ発電機のロータのシャフト10を駆動する。シャフト10は、2つの合成樹脂材料製の衝撃吸収軸受31及び41間で回転を続ける。第1の衝撃吸収軸受31は時計仕掛の基板30に接続され、第2の衝撃吸収軸受41は、以下において更に記述するようにバー40に接続されている。
【0014】ロータは上部の円板11と下部の円板13からできており、これら円板はシャフト10にしっかりと接続されている。ロータの慣性を減少させるために、円板11及び13は、好適には高い飽和係数の鋼板(約2.4テスラの残留磁気)製とする。これは、非常に薄い鋼板を使用することを可能とする。この実施形態における上部の円板11の下面は6個の個別の磁石12を有する。これらの磁石は円板11の周辺近くに等間隔で配置されている。磁石12は、好適には円筒形のものとし、円板11上に接着される。それらの残留磁気は1テスラ位であって、N-S-Nと極性が交番に並ぶように配設されている。下部の円板13の上面は、同様に6個の個別の磁石14を備えており、上部の円板の6個の磁石に対して対称的に配置されている。
【0015】以下の寸法を有する供試マイクロ発電機では良好な結果が得られた。即ち、ロータ直径大略5ミリ、磁石直径1.45ミリ、相互間隔約0.9ミリである。第2の中間ピニオン50は、この実施形態ではロータの縁部から少なくとも0.5ミリの所に配置されている。銅ベリリウム合金のシャフトを選択したことは更に、第2の中間ピニオン50の帯磁を許容し、このようにして位置モーメントを厳密に最少限に減らされることを可能にしている。
【0016】ステータは3つの誘導コイル20,21,22を有し、これらは円板11及び13の間に装架されている。これらのコイルは互いに直列に接続され、モジュール上に固定されている。このモジュールは同時に電子回路用のプリント配線基板支持体としての役も果たしている。マイクロ発電機は、時計仕掛ムーブメントの基板30とバー40との間に装架されており、バー40はコイルを含むマイクロ発電機全体を隠している。この構造は、以下に述べる著しい特徴を有する。即ち、バー40が電気を導通する材料で作られているならば、金属製の基板30と共にマイクロ発電機の周囲に電磁遮へいを形成する。この電磁遮へいはマイクロ発電機を電磁干渉から防護する。コイル20,21,22を包含する電子部品のすべては、バー40の下に隠されるので、透明のバックカバー35をした腕時計であっても、これらの電子部品は外から見えず、多くの人にとって美観上優れたものとなる。」
(イ) 引用発明の認定
前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、【図1】に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「時計仕掛ムーブメント内の第2の中間ピニオン50の軸であって、非磁性材料の銅ベリリウム合金からできている、中間ピニオン50の軸」
イ 引用文献2、12に記載された事項及び技術常識A、Bの認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である米国特許第3683616号明細書(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。括弧内に、当合議体で作成した和訳を示す。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
a 第3欄第35~51行
「According to the invention there is provided a watch with
improved antimagnetic characteristics which has a timekeeping
mechanism in which all the parts mounted on the balance staff, all
parts mounted on the pallet arbor, the escapement wheel mounted on
the escapement drive, and at least the main part of the material of
the balance staff consist solely of materials having a magnetic
permeability ≦ 1.01. Materials, having amagnetic permeability ≦
1.01, are escribed by engineers as non-magnetic, whereas materials
having a magnetic permeabilityμ≧ 1.01 are described as magnetic.
The stipulation that all the abovementioned parts must only consist
of non-magnetic materials means, inter alia, that no part may
exhibit a surface treated with layers of magnetic materials;
this rules out the step of coating parts with a galvanically applied
thin nickel layer prior to gold plating.」
(本発明によれば、天真に取り付けられた全ての部品、アンクル軸に取り付けられた全ての部品、脱進機駆動装置に取り付けられたガンギ車、及び、天真の少なくとも主要部分の材料が、透磁率≦1.01を有する材料のみで構成されている計時機構を有する、耐磁性特性が改善された時計が提供される。技術者は、透磁率≦1.01を有する材料を非磁性と称し、透磁率μ≧1.01を有する材料を磁性と称する。上記の全ての部品が非磁性材料のみで構成しなければならないという規定は、とりわけ、どの部品も磁性材料の層で処理された表面を呈してはならないことを意味する。このため、金メッキの前に、部品を電気メッキで塗布した薄いニッケル層でコーティングする工程が排除される。)
b 第4欄第21~25行
「Brass, nickel silver, copper-beryllium or age-hardenable bronze
may be employed for the balance, the roller table, the collet, for
the pallet and for the escapement wheel, since these materials will
have a permeability μ lying between 1.0001 and 1.005.」
(真鍮、洋白、銅ベリリウム又は時効硬化型青銅は、1.0001~1.005の透磁率μを有するため、テンプ、ローラーテーブル、コレット、アンクル、ガンギ車に使用できる。)
(イ) 引用文献12に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である日本合成樹脂技術協会編、「プラスチック金型ハンドブック」、初版、日刊工業新聞社、1989年、第503~504頁(以下「引用文献12」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
a 第503~504頁
「(3)ベリリウム銅合金の非磁性
ベリリウム銅合金は優れた非磁性材料である.表3.3.9に代表的な非磁性材であるオーステナイト系ステンレスとベリリウム銅の透磁率の測定結果を示す.この優れた非磁性を利用し,プラスチックマグネット成形用金型に広く適用されている.
[図:0001425205000002.jpg]
」
(ウ) 技術常識Aの認定
前記(ア)に示した引用文献2の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識A」という。)。
<技術常識A>
「非磁性材料というとき、通常は比透磁率が1.01未満であること。」
(エ) 技術常識Bの認定
前記(ア)及び(イ)に示した引用文献2及び引用文献12の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識B」という。)。
<技術常識B>
「ベリリウム銅の比透磁率は1.01未満であること。」
ウ 引用文献6、13、14に記載された事項及び技術常識Cから技術常識Eの認定
(ア) 引用文献13に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である「伸銅品用語(伸銅品JIS対応)JCBA T902:2006」、平成18年7月1日制定、日本伸銅協会、[令和7年2月17日検索]、インターネット<URL:https://www.copper-brass.gr.jp/standard/files/JCBA-T902-2006.pdf>(以下「引用文献13」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
a 第3~4頁
「1116 ベリリウム銅
銅にベリリウム0.4~2.2質量%と少量のコバルト,ニッケル及び鉄を添加した析出硬化型の高銅合金(1191参照)。
参考 冷間加工(2300参照)と時効硬化(2535参照)処理によって鋼に匹敵する強度が得られ,ばね材料などに用いられる。」
「1117 快削ベリリウム銅
銅にベリリウム0.4~2.0質量%,鉛0.2~1.2質量%に少量のコバルト,ニッケル及び鉄を添加した析出硬化型の高銅合金(1191参照)。
参考 鉛を添加してベリリウム銅の被削性(3172参照)を改良したもので,通常,棒として供給されコネクタなどに用いられる。」
b 第6頁
「1191 高銅合金
銅を主成分とし,それに合金元素(5101参照)を添加し,銅96.0質量%以上で他の合金系に属さないもの(1110~1118参照)。」
(イ) 引用文献6に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開昭52-117244号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
a 第1頁左下欄第10~16行
「本発明は、腕時計用外装部品に関するものである。詳しくは、通常の金又は、金合金に匹敵し、ステンレス鋼に勝る耐蝕性,耐擦傷性を有し、且つ、ステンレス鋼と同等の加工性を有し、従来の合金又は表面処理方法等にては、得ることのできなかった、赤色系黄金色を有する硬質金色系腕時計外装部品に関するものである。」
b 第2頁左上欄第1~19行
「本発明の要旨は、時効硬化性が高く且つ、被削性の高いPb入りBe-Cu系合金の表面に、金又は金合金を表面拡散させることである。なおこの表面拡散処理によって、上記合金の時効硬化の同時処理を行うことも可能である。これにより、耐蝕性,耐擦傷性にすぐれ且つ、従来一般的でなかった赤色系黄金色をもった腕時計用外装部品を潤沢に供給できるわけである。
Pb入りBe-Cu系合金の組成は、いずれも重量比で、0.5~3.5%のBe,残部Cuからなる従来のBe-Cu材に0.1~5.0%のPbを添加することによって構成される。ここで0.1~5.0%のPb全添加することによって被削性が従来材の200~500%向上することができ、従来材同様時効硬化処理によって、Hv450~500程度まで、硬度を上げることができる。
尚本発明の材料組成としては、必要に応じて、Ni,Co,Fe,Al,Ag,Si,Cr,Mn,Mg等と単独あるいは、混合して含有せしめることもできる。」
(ウ) 引用文献14に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である高橋恒夫ほか編、「新版 非鉄金属材料選択のポイント 第2版」、日本規格協会、2002年、第118~119、128~130頁(以下「引用文献14」という。)には、次の記載がある。
a 第118~119頁
「
[図:0001425205000003.jpg]
」
b 第128~129頁(当審注:「○1」は、「1」の○囲いを意味する。)
「(2)高銅合金
近年,エレクトロニクス機器をはじめとして種々の機器・機械の仕様が高度化し,使用条件が厳しくなり,構成材料である伸銅品の使用温度が上昇し,常温及び高温での強さの向上が要求されている.しかも,銅のもつ電気伝導度,熱伝導度,耐食性,加工性を備えていることが必要とされる.そのため,銅に少量の種々の元素を添加した合金が,685N/mm2以上の高強度合金,並びに再結晶温度が高くかつ高導電率を保持する導電体合金として開発され,実用に供されている.ベリリウム銅,チタン銅はJISに規格化されている代表的な高強度ばね用合金で,このほかにコルソン合金があり,高導電率・耐熱性導電体・伝熱体合金として,銀入り銅,ジルコニウム銅,すず入り銅,クロム銅,銅・鉄合金などが使用されている.
(a)種類
○1 ベリリウム銅(Cu-Be-Co合金) ベリリウム銅は,Cu-1.7% Be-0.2% Co(+Ni)合金(C1700)及びCu-1.9% Be-0.3% Co(+Ni)合金(C1720)で,著しい析出強化型銅合金であり,銅合金中最高強度をもつ.Co及びNiの添加は,溶体化処理の際の結晶粒粗大化防止と時効硬化処理(焼戻し)における粒界反応型析出を抑え,軟化を防止するためである.
Cu-2%Be-0.3%Co合金の引張強さ及び導電率と時効硬化処理条件(温度及び時間)との関係を図3.1.7に示す.316℃,4時間の時効処理で,引張強さは約1370N/mm2の最高強度に達し,導電率は25%IACSである.なお硬さはHV400,伸びは3~4%程度である.343℃以上の時効処理では最高強さは低く,すぐに過時効状態になって軟化する.時効処理による析出の進行とともに,Beの固溶量が減少し,導電率は上昇する.
JISに規定されていないがBe0.5%,Co(+Ni)2.5%の組成の合金は強さは上記の合金より低いが,導電率が約50%IACSであり,汎用されている黄銅,りん青銅,洋白よりも高い導電率の高強度合金である.引張強さ800N/mm2,硬さHV230,伸び10%の機械的性質をもつ.」
c 第130頁
「ベリリウム銅は上記のように,強度と硬さが著しく高く,導電率も良好で,優れた耐疲労性,耐摩耗性,耐食性をもつため,高級高性能ばね材料,精密機械部品,溶接用電極,金型材料として使われており,また打撃時に火花が飛ばないため,精油所,鉱山などでの安全工具用材料としても利用される.」
(エ) 技術常識Cの認定
前記(ア)に示した引用文献13の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識C」という。)。
<技術常識C>
「ベリリウム銅とは、銅にベリリウム0.4~2.2質量%と少量のコバルト、ニッケル及び鉄を添加した析出硬化型の高銅合金であること。」
(オ) 技術常識Dの認定
前記(ア)及び(イ)に示した引用文献13及び引用文献6の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識D」という。)。
<技術常識D>
「快削ベリリウム銅は、銅にベリリウム0.4~2.0質量%、鉛0.2~1.2質量%に少量のコバルト、ニッケル及び鉄を添加した析出硬化型の高銅合金であって、鉛を添加してベリリウム銅の被削性を改良したものであること。」
(カ) 技術常識Eの認定
前記(ウ)に示した引用文献14の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識E」という。)。
<技術常識E>
「強度、硬さ、耐摩耗性に優れたベリリウム銅として、銅にベリリウム1.8~2質量%とコバルト、ニッケル及び鉄を合計含有量が0.6質量%以下となるよう添加した析出硬化型の銅合金C1720があること。」
エ 引用文献4に記載された事項及び技術常識Fの認定
(ア) 引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開昭57-82786号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
a 特許請求の範囲
「磁石を有するロータとそれに噛み合う歯車とを有する電子腕時計において、該歯車表面に、少なくとも一層又は多層の非磁性皮膜を形成した事を特徴とする電子腕時計。」
b 発明の詳細な説明
「本発明は、表面に非磁性皮膜を形成した歯車を有する電子腕時計に関するものである。
従来より、腕時計に用いられる歯車は第1図の断面図に示す如く、歯車素地1の表面に耐食性向上及び表面強度向上のため、その表面にニツケル皮膜2を形成していた。あるいは第2図の断面図に示す如く、外観向上及び潤滑性向上のためそのニツケル皮膜の表面にさらに金皮膜3を形成していた。この第2図におけるニツケル皮膜は、歯車1への金の拡散を防止するため下地として施されるものであつた。」
「第1図
[図:0001425205000004.jpg]
」
「第2図
[図:0001425205000005.jpg]
」
「しかし、これらのニツケル皮膜は磁性体であるため、第5図に示す如くロータ4と噛み合う歯車5においては、歯車素地1に非磁性材料を用いた場合でも、歯車5と、ロータ4に固定された磁石6のすき間tが小さくなると、歯車5が磁石6の磁力により磁石方向に引きつけられ、歯車の回転抵抗が増大する事により歯車の正常な回転が妨げられて、時計の遅れ又は止りが生ずると言う欠点を有していた。特に、磁石の表面磁束密度が200~350ガウスで、すき間tが0.2mm以下の場合に影響が大きく、電子腕時計製造上の大きな障害となつていた。」
「第5図
[図:0001425205000006.jpg]
」
「本発明は、上記歯車5が磁石6に引きつけられると言う欠点を除去し、歯車と磁石のすき間の大小にかかわらず、電子腕時計の正常な動作を得る事を目的としたものである。
本発明は、磁石を有するロータとそれに噛み合う歯車とを有する電子腕時計において、該歯車表面に一層又は多層の非磁性皮膜を形成する事により、磁石の磁力によつて歯車が引きつけられる事がなく、回転抵抗の増加を防止でき、上記問題点を解決した。
以下実施例により説明する。
実施例1第3図は、本発明における歯車の断面図であり、1は非磁性体の歯車素地、7はリン含有率10~15%の非磁性ニツケル-リン合金皮膜である。また第6図は本発明における各部品の関係図であり、4はロータ、6は表面磁束密度200~350ガウスの磁石、8は非磁性皮膜を形成した歯車である。tは歯車8と磁石6のすき間であり、すき間tを変化させた時の本発明における電子腕時計の動作、並びに第1図及び第5図に示した歯車5を用いた、従来の電子腕時計の動作を表1に示す。」
「第3図
[図:0001425205000007.jpg]
」
「第6図
[図:0001425205000008.jpg]
」
「実施例2
第4図は、本発明における歯車の断面図であり、1は非磁性体の歯車素地、7はリン含有率10~15%の非磁性ニツケル-リン合金皮膜、3は非磁性体である金皮膜である。この歯車を第6図の関係図における歯車8として用い、その他は実施例1と同様にして本発明における電子腕時計の動作、及び従来の電子腕時計の動作を調べた結果、表1と全く同一の結果であつた。」
「第4図
[図:0001425205000009.jpg]
」
「 表1
[図:0001425205000010.jpg]
」
「なお上記実施例では、非磁性皮膜として非磁性ニツケル-リン合金皮膜一層の場合、及び非磁性ニツケル-リン合金皮膜と金皮膜の二層の場合について述べたが、この他にスズ皮膜、銅皮膜、パラジウム皮膜、パラジウム合金皮膜、ロジウム皮膜等の非磁性皮膜の、一層又は多層皮膜の場合でも同様な結果が得られる事は言うまでもない。
以上述べたように、本発明によれば、磁石を有するロータと噛み合う歯車表面に、一層又は多層の非磁性皮膜を形成する事により、磁石の磁力により該歯車が磁石方向に引きつけられる事がなくなり、歯車と磁石のすき間の大小にかかわらず、電子腕時計の正常な動作が得られるという効果があり、電子腕時計設計上の自由度が大幅に向上した。」
(イ) 技術常識Fの認定
前記(ア)に示した引用文献4の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識F」という。)。
<技術常識F>
「金属機械部品の表面の硬度を強化する被膜として非磁性被膜材料があること。」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 金属シャフトの観点
a 引用発明における「時計仕掛ムーブメント」は、本件補正発明における「時計用」の「機械式ムーブメント」に相当する。
b また、引用発明の「時計仕掛ムーブメント内の第2の中間ピニオン50の軸」は、「銅ベリリウム合金からできて[いる]」ことから、本件補正発明の「機械式ムーブメントの金属シャフト」に相当する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、「時計用または計器用の機械式ムーブメントの金属シャフト」の発明である点において一致する。
(イ) 比透磁率の観点
a 本願明細書の【0005】における「1.01未満の比透磁率を有する非磁性材料」等の記載を参酌すると、本件補正発明の「金属シャフト」は「1.01未満の比透磁率」を有するから、非磁性材料であるといえる。
b そうすると、引用発明の「中間ピニオン50の軸」は「非磁性材料の銅ベリリウム合金からできて[いる]」から、本件補正発明と引用発明は、非磁性材料である点において共通する。
c その一方、本件補正発明と引用発明は、次の点において相違する。
透磁率について、
本件補正発明は、「1.01未満の比透磁率を有する」との特定があるのに対して、
引用発明は、比透磁率が明示されていない点。
(ウ) 合金組成の観点
a 本件補正発明の「金属シャフト」は、「ベリリウム銅、コバルト及びニッケルを含む合金で作られ」、前記合金は、「1.8%~2%のベリリウム(Be)、0.2%~0.6%の鉛(Pb)、コバルト(Co)とニッケル(Ni)と鉄(Fe)の合計含有量が0.6%以下、かつ他の物質が0.5%以下、および残りの銅(Cu)で構成される」ものである。
b 引用発明の「中間ピニオン50の軸」は、「銅ベリリウム合金」からできているところ、引用発明における「銅ベリリウム」は、少なくとも銅とベリリウムを含む合金であるから、本件補正発明における「ベリリウム銅を含む合金」に相当するといえる。
c そうすると、本件補正発明と引用発明は、合金組成の観点において次の(a)の点において一致し、後記(b)の点において相違する。
(a) 合金組成の観点での一致点
「金属シャフト」は、「ベリリウム銅」を含む合金(少なくとも銅とベリリウムを含む合金)で作られている点。
(b) 合金組成の観点での相違点
「ベリリウム銅」を含む合金について、
本件補正発明においては、
「コバルト及びニッケルを含む」ものであり、かつ、「1.8%~2%のベリリウム(Be)、0.2%~0.6%の鉛(Pb)、コバルト(Co)とニッケル(Ni)と鉄(Fe)の合計含有量が0.6%以下、かつ他の物質が0.5%以下、および残りの銅(Cu)で構成される」との限定があるのに対して、
引用発明においては、
コバルト、ニッケル、鉄及び鉛の含有量が明示されていない点。
(エ) 非磁性被膜の観点
a 本件補正発明の「金属シャフト」は、「合金の硬質化のための非磁性被膜が施されている」。
b 一方、引用発明の「中間ピニオン50の軸」は、「合金の硬質化のための非磁性被膜が施されている」点が特定されていない。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において相違する。
本件補正発明においては、
「金属シャフト」は「合金の硬質化のための非磁性被膜が施されている」のに対して、
引用発明においては、
「中間ピニオン50の軸」は「合金の硬質化のための非磁性被膜が施されている」ことが特定されていない点。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の(ア)に示す一致点において一致し、後記(イ)に示す相違点において相違すると認められる。
(ア) 一致点
「非磁性材料である時計用または計器用の機械式ムーブメントの金属シャフトであって、
該金属シャフトは、ベリリウム銅を含む合金で作られる金属シャフト」である点。
(イ) 相違点
a 相違点1(透磁率)
透磁率について、
本件補正発明においては、「1.01未満の比透磁率を有する」との特定があるのに対して、
引用発明においては、比透磁率について明示されていない点。
b 相違点2(合金組成)
<部分相違点2A>
「ベリリウム銅」を含む合金(少なくとも銅とベリリウムを含む合金)について、
本件補正発明においては、「コバルト(Co)とニッケル(Ni)と鉄(Fe)」を含むのに対して、
引用発明においては、コバルト、ニッケル、鉄の含有について明示されておらず(以下、ここまでを「部分相違点2A」という。)、
<部分相違点2B>
さらに、本件補正発明においては、微量の「鉛(Pb)」を含み、「1.8%~2%のベリリウム(Be)、0.2%~0.6%の鉛(Pb)、コバルト(Co)とニッケル(Ni)と鉄(Fe)の合計含有量が0.6%以下、かつ他の物質が0.5%以下、および残りの銅(Cu)で構成される」との限定があるのに対して、
引用発明においては、コバルト、ニッケル、鉄及び鉛の含有量が明示されていない点(以下「部分相違点2B」という。)。
c 相違点3(非磁性被膜)
本件補正発明の「金属シャフト」は「合金の硬質化のための非磁性被膜が施されている」のに対して、
引用発明の「中間ピニオン50の軸」は、「合金の硬質化のための非磁性被膜が施されている」点が特定されていない点。
(4) 判断
前記相違点について検討する。
ア 相違点1(比透磁率)について
(ア) 「非磁性材料というとき、通常は比透磁率が1.01未満であること」は技術常識であり(前記技術常識Aを参照)、また、「ベリリウム銅の比透磁率は1.01未満であること」は技術常識である(前記技術常識Bを参照)。
(イ) そうすると、前記相違点1は、透磁率の値を明示的に示しただけの相違にすぎず、実質的な相違点ではない。
イ 相違点2(合金組成)について
(ア) 部分相違点2A(コバルト、ニッケル及び鉄の含有)について
a 「ベリリウム銅とは、銅にベリリウム0.4~2.2質量%と少量のコバルト、ニッケル及び鉄を添加した析出硬化型の高銅合金であること」は技術常識である(前記技術常識Cを参照)。
b したがって、当業者にとっては、明示の特定は無くとも、引用発明における「銅ベリリウム合金」として、少量のコバルト、ニッケル及び鉄が添加されたものが自ずと想定されるから、前記部分相違点2Aは実質的な相違点ではない。
(イ) 部分相違点2B(鉛の含有及び具体的な合金組成)について
a 鉛の含有について
(a) 引用発明において、「中間ピニオン50の軸」は通常合金を所望の形状に切削加工することによって製造されるものであることから、「銅ベリリウム合金」として切削加工のしやすいものを選択することは、当業者が当然配慮すべき事項である。
(b) そして、「快削ベリリウム銅は、銅にベリリウム0.4~2.0質量%、鉛0.2~1.2質量%に少量のコバルト、ニッケル及び鉄を添加した析出硬化型の高銅合金であって、鉛を添加してベリリウム銅の被削性を改良したものであること」は技術常識であるから(前記技術常識Dを参照)、引用発明において被削性が良好な上記「快削ベリリウム銅」を用いることは、当業者が自ずと想起する事項である。
(c) したがって、鉛を0.2~1.2質量%の範囲で含有させることは、当業者には自明である。
b 具体的な合金組成について
(a) 合金材料として「快削ベリリウム銅」を採用して実際に「中間ピニオン50の軸」を製造するに際しては、ベリリウムや鉛等の含有量を具体的に選択する必要があるところ、引用発明の「中間ピニオン50の軸」は動力を伝達する軸部材であり、その材料である「銅ベリリウム合金」に一定の強度、硬さ、耐摩耗性が要求されるから、当該物性を考慮して合金組成を選択することは、当業者にとっては、当然の設計指針・配慮事項にすぎない。
(b) ここで、「強度、硬さ、耐摩耗性に優れたベリリウム銅として、銅にベリリウム1.8~2質量%とコバルト、ニッケル及び鉄を合計含有量が0.6質量%以下となるよう添加した析出硬化型の銅合金C1720があること」は技術常識である(前記技術常識Eを参照)。
(c) そうすると、引用発明の「銅ベリリウム合金」について、当業者に広く知られた上記銅合金C1720の組成をベースとして、ベリリウムの含有量を1.8~2質量%とし、コバルト、ニッケル及び鉄の合計含有量を0.6質量%以下とする条件の中から組成量を具体的に選択し、その上で、鉛の含有量を0.2~1.2質量%の中から好的化したものである当該数値範囲の下側の0.2~0.6質量%を選択することは、当業者にとっては自明の設計指針に沿った通常の創作能力の発揮にすぎない。
(d) 以上検討のとおり、引用発明の「銅ベリリウム合金」の具体的組成として相違点2Bに係る組成を選択することは、当業者にとっては適宜なし得る設計上の事項にすぎず、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点3(非磁性被膜)について
(ア) 前記イ(イ)b(a)において検討したとおり、引用発明の「銅ベリリウム合金」に一定の強度、硬さ、耐摩耗性が要求されることは自明であり、また、一般に被膜を設けて表面の硬さを強化することは常套手段である。
(イ) さらに、「金属機械部品の表面の硬度を強化する被膜として非磁性被膜材料があること」は技術常識である(前記技術常識Fを参照)。
(ウ) そうすると、引用発明の「中間ピニオン50の軸」は非磁性を目的とするものであるから、引用発明の「中間ピニオン50の軸」の「表面の硬度を強化する被膜として非磁性被膜材料」を採用するべきことは、当業者には自明のことにすぎない。
(エ) したがって、引用発明において、前記相違点3に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
エ 総合評価
前記ア~ウにおいて検討したとおり、引用発明において、前記相違点1~3に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明及び技術常識A~Fに基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、前記相違点1~3を総合的に勘案しても、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び技術常識A~Fに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張の内容
請求人は、審判請求書において、次の主張をしている。
本件補正発明のベリリウム銅合金は一般的なものではなく、本件補正発明は「前記金属シャフトの前記合金は、1.8%~2%のベリリウム(Be)、0.2%~0.6%の鉛(Pb)、コバルト(Co)とニッケル(Ni)と鉄(Fe)の合計含有量が0.6%以下、かつ他の物質が0.5%以下、および残りの銅(Cu)で構成される」という構成を有するから、本件補正発明は進歩性を有する。
(イ) 請求人の主張についての検討
請求人の主張は、前記相違点2に係る構成についてのものであるところ、前記相違点2が、技術常識C~技術常識Eを備える当業者にとって自明であることは、前記(4)イにおいて説示したとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。
(5) 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本願補正発明は、引用発明及び技術常識A~Fに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記3(5)のとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如) 本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
<主たる引用文献>
引用文献1.特開平11-44782号公報
<周知技術等を示す文献>
引用文献2.米国特許第3683616号明細書
引用文献3.特開昭54-85127号公報
引用文献4.特開昭57-82786号公報
引用文献5.特開昭63-252284号公報
引用文献8.特開昭63-223151号公報
引用文献9.特開平9-217611号公報
3 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等
引用文献1に記載された事項並びに引用発明及び技術常識A~Fは、前記第2の3(2)ア(イ)、イ(ウ)、イ(エ)、ウ(エ)、ウ(オ)、ウ(カ)及びエ(イ)において示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の2において検討したとおり、「金属シャフト」の「ベリリウム銅、コバルト及びニッケルを含む合金」について、本件補正発明から「1.8%~2%のベリリウム(Be)、0.2%~0.6%の鉛(Pb)、コバルト(Co)とニッケル(Ni)と鉄(Fe)の合計含有量が0.6%以下、かつ他の物質が0.5%以下、および残りの銅(Cu)で構成される」の限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、その発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3(4)において説示したとおり、引用発明及び技術常識A~Fに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により引用発明及び技術常識A~Fに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-020552