特許拒絶査定不服審判
2023-004155
石によって装飾された黒色のコンポーネントとその製造方法
- 審判番号
- 2023-004155
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-063278
- 請求日
- 2023年03月10日
- 審決日
- 2024年03月06日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オメガ・エス アー
- 【請求人代理人】山川 茂樹
- 【請求人代理人】小池 勇三
- 審判長/審判官
- 審判長 中塚 直樹
- 審判官 濱本 禎広
- 審判官 九鬼 一慶
- 分類
- P18 .121-Z (G04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 63278「石によって装飾された黒色のコンポーネントとその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 2月25日出願公開、特開2022- 32946〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年4月2日(パリ条約による優先権主張2020年8月11日、欧州特許庁)の出願であって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。なお、2020年8月11日を、以下「優先日」という。
令和3年 4月 2日 :翻訳文の提出
令和4年 3月29日付け:拒絶理由通知書
同年 6月10日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 8月 9日付け:拒絶理由通知書
同年11月 8日 :意見書の提出
同年12月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(令和5年 1月10日 :原査定の謄本の送達)
令和5年 3月10日 :審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年6月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「【請求項1】
計時器又は宝飾品の内部部品又はムーブメントのためのコンポーネントであって、
部分的に黒色の層(3)で被覆された基材(2)を備え、
前記基材(2)は、前記基材(2)に形成されたハウジング(5)内に配置される少なくとも1つの石(4)によって装飾され、
前記黒色の層(3)は、カーボンナノチューブ又は酸化アルミニウムを含み、
前記基材(2)には、少なくとも、前記石(4)に対向する部分において、黒色の層(3)がない
ことを特徴とするコンポーネント。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
(進歩性の欠如)本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開平7-92276号公報
引用文献2.米国特許出願公開第2018/0157214号明細書
引用文献3.実願昭53-95299号(実開昭54-17763号)のマイクロフィルム
第4 引用文献に記載された発明の認定等
1 引用文献1に記載された事項と引用発明の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、優先日前に発行された前記引用文献1(特開平7-92276号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は当合議体において付したものであり、以下同様である。
ア 【0001】
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はダイヤモンド,ルビー等の貴石を付けた時計用文字板の製造方法に関するものである。」
イ 【0012】、【図1】~【図2】
「【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。図1は本発明の第1実施例に係る時計用文字板の要部断面図で、図2は時計用文字板の平面図である。図において1は金属からなる文字板基板であり、その上面にはダイヤモンド,ルビー等の貴石を固定するための凸部2が文字板基板1と一体的に形成されており、この凸部2の上面は鏡面に、他の面は旭光,ストライプ等の目付模様が形成され、且つ全面にAu,Rh等の表面処理3が施されている。又、前記凸部2の中心にはダイヤモンド,ルビー等の貴石が固定しやすいように穴4が設けられている。そしてこの凸部2にはダイヤモンド,ルビー等の貴石5が接着剤6を介して前記穴4に固定されている。」
「【図1】
[図:0001412842000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001412842000002.jpg]
」
ウ 【0018】~【0021】、【図7】~【図13】
「【0018】図7は本発明の第2実施例に係る時計用文字板の要部断面図である。図において7は文字板基板であり、その上面にはダイヤモンド,ルビー等の貴石を固定するための凸部8が文字板基板7と一体的に形成されている。そして凸部8の上面は鏡面に仕上げられており、且つメッキによりAu,Rh等の表面処理9が施されており、他の上面には旭光,ストライプ等の目付模様が形成され更に前記凸部8に施されたAu,Rh等の表面処理とは色調の異なる表面処理10が施され、更には又その上にクリヤー塗装11が施されている。又前記凸部8の中心にはダイヤモンド,ルビー等の貴石を固定しやすいように穴12が設けられている。そしてこの凸部8にダイヤモンド,ルビー等の貴石13が接着剤14を介して前記穴12に固定されている。
【0019】次に上記時計用文字板の製造方法を図8乃至図13の要部断面図に基づいて説明する。先ず図8に示すように金属材料をエンボス加工により凸部8を有する文字板基板7を一体的に形成し、次に図9の如く機械加工により凸部8の中心に穴12を形成する。この穴12は後述するダイヤモンド,ルビー等の貴石を接着固定しやすくするものである。
【0020】次に上記文字板基板7の上面全面に旭光,ストライプ等の目付模様を形成した後、図10に示すように全面にメッキによりAu,Rh等の表面処理10を施し更に図11に示すようにクリヤー塗装11を施す。次に図12に示すように凸部8の上面をダイヤカットして鏡面に仕上げ、更に図13に示すように前記表面処理10とは異なる色調を有する表面処理9を施すことにより凸部8の上面に表面処理9を形成する。そして最後に図7に示すようにダイヤモンド,ルビー等の貴石13を接着剤14を介して凸部8に固定する。
【0021】上記製造方法によれば、貴石13を固定する凸部8の上面の色調と文字板基板7の色調とを種々変えることが可能となり、よりバラエティに富んだものとなる。」
「【図7】
[図:0001412842000003.jpg]
」
「【図8】
[図:0001412842000004.jpg]
」
「【図9】
[図:0001412842000005.jpg]
」
「【図10】
[図:0001412842000006.jpg]
」
「【図11】
[図:0001412842000007.jpg]
」
「【図12】
[図:0001412842000008.jpg]
」
「【図13】
[図:0001412842000009.jpg]
」
エ 【0027】~【0028】
「【0027】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によればエンボス加工により文字板基板の上面にダイヤモンド,ルビー等の貴石を固定するための凸部を文字板基板と一体的に形成し、この凸部の上面をダイヤカットにより鏡面としたため、あたかも別体である台座に貴石が取り付けられた如く見え、且つ貴石がよりキラキラ輝いて見えるため、非常に高級感を有する貴石の付いた時計用文字板を非常に安価に提供できるものである。
【0028】又、貴石を固定する凸部の上面をダイヤカットする前に文字板基板の上面に表面処理を施し、更にクリヤー塗装をした後凸部の上面をダイヤカットして表面処理を施すため、文字板基板の表面の色調と台座に見える凸部の色調とを異なったものにすることができ、バラエティに富んだデザインが可能となるものである。」
(2) 引用発明の認定
ア 引用文献1の【図7】から、凸部8の上面が、貴石13に対向する部分であることが読み取れる。
イ また、引用文献1の【図7】及び【図12】から、凸部8に形成された穴12に、貴石の下部(パビリオン部)が嵌められることで、貴石を穴12の位置に固定する構成が読み取れる。
ウ 前記(1)の記載事項及び前記ア及びイの認定事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明>
「ダイヤモンド,ルビー等の貴石を付けた時計用文字板であって、(【0001】)
文字板基板7の上面にはダイヤモンド,ルビー等の貴石を固定するための凸部8が文字板基板7と一体的に形成され、凸部8の上面は鏡面に仕上げられており、且つメッキによりAu,Rh等の表面処理9が施されており、他の上面には旭光,ストライプ等の目付模様が形成され更に前記凸部8に施された表面処理とは色調の異なる、メッキによるAu,Rh等の表面処理10が施され、更には又その上にクリヤー塗装11が施されており、前記凸部8の中心にはダイヤモンド,ルビー等の貴石を固定しやすいように穴12が設けられ、この凸部8にダイヤモンド,ルビー等の貴石13が接着剤14を介して前記穴12に固定され、(【0018】、【0020】)
このことにより、貴石13を固定する凸部8の上面の色調と文字板基板7の色調とを種々変えることが可能となり、よりバラエティに富んだものとなり、(【0021】)
凸部8の上面が、貴石13に対向する部分であり、(前記アの認定事項)
凸部8に形成された穴12に、貴石の下部(パビリオン部)が嵌められることで、貴石を穴12の位置に固定する、(前記イの認定事項)
時計用文字板。」
2 引用文献2に記載された事項と引用文献2技術事項の認定
(1) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した前記引用文献2(米国特許出願公開第2018/0157214号明細書)には、以下の事項が記載されている。日本語訳は、当合議体によるものである。
ア [0001]~[0003]
「 TECHNICAL FIELD
[0001] The present invention concerns a method of fabrication of a black watch dial, and a black watch dial manufactured with this method.
PRIOR ART
[0002] The elements of accoutrement used particularly in the making of timepieces, eyeglasses, or writing implements pose particular problems with regard to fabrication and quality of finish. These elements are in fact intended to be observed very close up, so the slightest aesthetic defect will result in a rejection of the item. This is especially the case with watch dials, whose manufacture poses difficult technical challenges in order to meet the very elevated aesthetic requirements of the makers and the customers.
[0003] For example, one often wishes to make black watch dials. Besides a fashion statement, black enables a conspicuous contrast with the index numbers and the clock hands which are often made of shiny metal and coated with luminescent material. Thus, a black dial improves the legibility of the display.」
(技術分野
[0001] 本発明は、黒色時計文字板の製造方法及びこの方法で製造された黒色時計文字板に関する。
従来の技術
[0002] 特に時計、眼鏡又は筆記用具の製造に使用される装飾要素は、製造及び仕上げの品質に関して特に問題を提起する。これらの要素は、実際には非常に接近して観察されることが意図されているので、ごくわずかな美的欠陥であっても物品を不合格とすることになる。これは、特に、製造者及び顧客の非常に高い美的要求を満たすために製造が困難な技術的課題を提起する腕時計の文字盤の場合である。
[0003] 例えば、しばしば黒色時計文字板を作ることが望まれる。
ファッションステートメントに加えて、黒色は、しばしば光沢のある金属で作られ、発光材料でコーティングされたインデックス番号及び時計針との顕著なコントラストを可能にする。したがって、黒色文字板はディスプレイの視認性を向上させる。)
イ [0008]~[0011]
「[0008] According to the invention, these purposes are achieved in particular by a method of fabrication of a black watch dial, comprising the following steps:
[0009] providing a substrate;
[0010] deposition of a black coating on said substrate, said coating comprising carbon nanotubes.
[0011] Carbon nanotubes have the property, known in itself, of absorbing light, particularly light parallel to the axis of the nanotubes, which is trapped in the tube and very seldom can escape from it. The coefficient of absorption of the light by the carbon nanotubes is thus higher than that of all other currently known materials. Consequently, the use of carbon nanotubes on the dial makes it possible to obtain a very black surface. For example, mats of carbon nanotubes have been created which are able to absorb up to 99.955% of the light received.」
([0008] 本発明によれば、これらの目的は、特に、以下のステップを含む黒色時計文字板の製造方法によって達成される。
[0009] 基板を提供する工程。
[0010] 前記基板上に黒色コーティングを堆積させるステップと、前記コーティングはカーボンナノチューブを含む。
[0011] カーボンナノチューブは、それ自体知られているように、光、特にナノチューブの軸に平行な光を吸収する特性を有し、この光は管内に捕捉され、管から逃げることはほとんどない。したがって、カーボンナノチューブによる光の吸収係数は、現在知られている他の全ての材料の吸収係数よりも高い。
その結果、文字板上でのカーボンナノチューブの使用は、非常に黒い表面を得ることを可能にする。例えば、受光した光の最大99.955%を吸収することができるカーボンナノチューブのマットが作製されている。)
(2) 引用文献2技術事項の認定
前記(1)の記載事項を総合すると、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
<引用文献2技術事項>
「ファッションステートメントに加えて、インデックス番号及び時計針との顕著なコントラストを可能にし、ディスプレイの視認性を向上させる黒色時計文字板を、基板上にカーボンナノチューブを含む黒色コーティングを堆積させることで製造すること。([0003]、[0008]、[0010])」
第5 対比
1 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
(1)ア 引用発明の「ダイヤモンド,ルビー等の貴石を付けた時計用文字板」は、本願発明の「計時器又は宝飾品の内部部品」「のためのコンポーネント」に相当する。
イ よって、本願発明と引用発明は、「計時器又は宝飾品の内部部品又はムーブメントのためのコンポーネント」の発明である点において一致する。
(2)ア 引用発明の「文字板基板7」及びそれと「一体的に形成され」た「凸部8」は、本願発明の「基材」に相当する。
イ また、引用発明においては、凸部8が文字板基板7と一体的に形成されており同じ色であると理解されるところ、凸部8の上面にはメッキによりAu,Rh等の表面処理9が施されており、他の上面には前記凸部8に施された表面処理とは色調の異なる、メッキによるAu,Rh等の表面処理10が施されているから、凸部8の上面にはメッキにより着色層が形成され、他の上面には前記着色層と色調が異なる、メッキによる着色層が形成されていることになり、すなわち、引用発明の「文字板基板7」及びそれと「一体的に形成され」た「凸部8」は、メッキによる着色層で被覆されていると認められる。
ウ よって、本願発明と引用発明は、「着色層で被覆された基材を備え」る点において共通する。
(3)ア 引用発明の「ダイヤモンド,ルビー等の貴石13」は、本願発明の「少なくとも1つの石」に相当する。
イ(ア) 本願発明の「ハウジング」について、本願明細書には、次のとおり記載されている。
「【0017】
基材2には、図2に概略的に示しているハウジング5が形成され、このハウジング5は、石4のための、特に、石4のパビリオン部のための、座部としてはたらく。」
(イ) 引用発明の「凸部8の中心に」設けられた「穴12」は、ダイヤモンド,ルビー等の貴石を固定しやすいように設けられるものであり、貴石の下部(パビリオン部)が嵌められることで、貴石を穴12の位置に固定する、すなわち、座部としてはたらくものであるから、前記(ア)の本願明細書の記載を踏まえると、本願発明の「基材に形成されたハウジング」に相当する。
ウ 引用発明においては、ダイヤモンド,ルビー等の貴石により、凸部8及び文字板基板7が装飾され、高級感が演出されていることは明らかである。
エ よって、本願発明と引用発明は、「前記基材は、前記基材に形成されたハウジング内に配置される少なくとも1つの石によって装飾され」ている点において一致する。
2 一致点及び相違点
前記1の対比分析の検討結果を総合すると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次に示すとおりである。
(1) 一致点
計時器又は宝飾品の内部部品又はムーブメントのためのコンポーネントであって、
着色層で被覆された基材を備え、
前記基材は、前記基材に形成されたハウジング内に配置される少なくとも1つの石によって装飾される、
コンポーネント、である点。
(2) 相違点
本願発明においては、
「部分的に黒色の層で被覆された基材を備え」、
「前記黒色の層は、カーボンナノチューブ又は酸化アルミニウムを含み」、
「前記基材には、少なくとも、前記石に対向する部分において、黒色の層がない」のに対して、
引用発明においては、文字板基板7が黒色の層を被覆されたものではない点。
第6 判断
1 相違点について
前記相違点について検討する。
(1) 前記第4の2(2)に示したとおり、引用文献2には、以下の技術事項が記載されている。
「ファッションステートメントに加えて、インデックス番号及び時計針との顕著なコントラストを可能にし、ディスプレイの視認性を向上させる黒色時計文字板を、基板上にカーボンナノチューブを含む黒色コーティングを堆積させることで製造すること。」
(2)ア インデックス番号及び時計針との顕著なコントラストを可能にし、ディスプレイの視認性を向上させるという課題は、時計用文字板一般において共通のものであるから、引用発明に引用文献2技術事項を適用して、引用発明の文字板基板7に、メッキに換えてカーボンナノチューブを含む黒色コーティングを堆積させる処理を行い、「前記黒色の層は、カーボンナノチューブ(を含む)」構成を実現することは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ そして、引用発明において、文字板基板7に黒色コーティングを堆積させる処理を行う際には、引用発明が、凸部8の上面に施される表面処理9と、他の上面に施される表面処理10を、異なる色調を有する表面処理とすることで、文字板基板の表面の色調と台座に見える凸部の色調を異なったものにし、バラエティに富んだデザインを可能にするものであるから、凸部8の上面と、それ以外の他の上面に施される表面処理のいずれかが、黒色以外の色の処理となることは明らかである。
さらに、引用発明においては「凸部8の上面は鏡面に仕上げられて(いる)」ものであるが、これは「文字板基板31の表面31aが鏡面の場合は、貴石34が鏡面に反射してキラキラとより美しく輝いて見える」(本願明細書の段落【0004】)という効果を求めるものであり、この点を考慮すれば、凸部8の上面を黒色以外のものとすべきことは明らかといえる。
ウ そうすると、引用発明に引用文献2技術事項を適用した場合、貴石13に対向する部分である凸部8の上面には、黒色以外の色のコーティングを堆積させる表面処理9が施されることになるから、「部分的に黒色の層で被覆された基材を備え」、「前記基材には、少なくとも、前記石に対向する部分において、黒色の層がない」構成を備えることになることは明らかである。
(3) したがって、引用発明において、前記相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明の奏する作用効果としては、引用発明及び引用文献2技術事項から予測されるものを超え、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
審判請求書における請求人の主張は、以下のア及びイに示されるとおりである。
ア 引用文献1に係る課題は、「簡単な方法で文字板基板に直接ダイヤモンド,ルビー等の貴石を固定し、別体である台座を有するが如く高級感を呈する時計用文字板を容易に製造する方法を提供する」ことである(段落0007)。また、引用文献1の段落0004には、「・・・又文字板基板31の表面31aが鏡面の場合は、貴石34が鏡面に反射してキラキラとより美しく輝いて見えるが、旭光目付,凹凸模様等鏡面以外の場合は、貴石34のみの輝きのため、これも高級感が薄れてしまうという課題があった。」との記載がある。そしてこのような課題を解決する手段として、貴石13の周囲の基板表面に、鏡面仕上げ、Au、Rh等によるメッキ、およびクリヤー塗装11等の表面処理を施しているものと思料する(段落0012-段落0020等)。このような引用文献1に係る発明によれば、上記課題に対して時計用文字板の反射率を向上させる効果を奏する。一方、引用文献2に係る発明のカーボンナノチューブを含む黒色のコーティング2は、光の反射率を低下させる効果を奏する。つまり、引用文献1に係る発明の効果と、引用文献2に係る発明の効果とは夫々全く異なる。従って、引用文献1の表面処理10の色調を表面処理9とは異なるものとしてもよいとの示唆を受けても、引用文献2に記載された構成を表面処理10に当業者が適用する動機はないものと思料する。
イ 仮に表面処理10として文献2に記載された構成を採用した場合であっても、引用文献1には表面処理10の上に更にクリヤー塗装11が施されることが記載されている。従って、クリヤー塗装11がなされた部分において反射率が増大するため、貴石13のコントラストは増大しないものと思料する。また、クリヤー塗装11を除外することに関して何ら記載されていない。すなわち、上述したように引用文献1の段落0004には、「・・・又文字板基板31の表面31a(図7における表面処理10の部分に相当)が鏡面の場合は、貴石34が鏡面に反射してキラキラとより美しく輝いて見えるが、旭光目付,凹凸模様等鏡面以外の場合は、貴石34のみの輝きのため、これも高級感が薄れてしまうという課題があった。」と記載されている(図20)。従って、鏡面と同じく反射率の高いクリヤー塗装11を除外すると、このような課題を解決できない。従って、当業者がクリヤー塗装11を除外することに想到することは困難なものと思料する。
(2) 請求人の主張についての検討
ア 前記(1)アに示された主張について検討する。
(ア) 請求人は、引用文献1の【0004】には、「・・・又文字板基板31の表面31aが鏡面の場合は、貴石34が鏡面に反射してキラキラとより美しく輝いて見えるが、旭光目付,凹凸模様等鏡面以外の場合は、貴石34のみの輝きのため、これも高級感が薄れてしまうという課題があった。」との記載があるから、光の反射率を低下させる効果を奏する、引用文献2に係る発明のカーボンナノチューブを含む黒色のコーティングを適用する動機はないと主張している。
当該主張は、引用文献1には、貴石34が文字板基板31の表面を反射してキラキラとより美しく輝いて見えることが記載されているから、引用発明の文字板基板7の表面に、反射を妨げる黒色のコーティングをする動機はないという主張であると理解される。
(イ) しかしながら、引用発明においては、貴石が鏡面に反射してキラキラとより美しく輝いて見える効果は、主として、鏡面に仕上げられ、且つ、貴石に対向する部分にある凸部8の上面において奏するものであると認められるから、鏡面に仕上げられることについての特定がなく、貴石の輝きを反射する箇所に存在しない、凸部8の上面以外の他の上面に、黒色のコーティングを適用する動機がないとまではいえない。
イ 前記(1)イに示された主張について検討する。
(ア) 請求人は、引用発明は、凸部8に施された表面処理とは色調の異なる表面処理10が施され、その上にクリヤー塗装11が施されているものであるから、引用文献2技術事項を適用して、表面処理10として黒色のコーティング処理を施しても、クリヤー塗装11によりコントラストが増大しないと主張している。
(イ) しかしながら、クリヤー塗装11があったとしても、表面処理10として黒色のコーティング処理を施すことにより、例えば文字板基板の全面に金色又は銀色の表面処理が行われる場合と比較して、コントラストが向上することは明らかであるから、必ずしもクリヤー塗装11を除外する必要は無いものである。
ウ よって、請求人の前記主張はいずれも認められず、前記1の結論を左右するものではない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-004155