特許拒絶査定不服審判
2023-015300
シリコン時計製造用構成要素の製造方法
- 審判番号
- 2023-015300
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-550771
- 請求日
- 2023年09月11日
- 審決日
- 2024年10月31日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】パテック フィリップ ソシエテ アノニム ジュネーブ
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】須田 洋之
- 【請求人代理人】倉澤 伊知郎
- 【請求人代理人】山本 泰史
- 【請求人代理人】鈴木 博子
- 審判長/審判官
- 審判長 中塚 直樹
- 審判官 貝沼 憲司
- 審判官 谷垣 圭二
- 分類
- P18 .121-Z (G04B) / P18 .575-Z (G04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-550771「シリコン時計製造用構成要素の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和1年9月26日国際公開、WO2019/180596、令和3年8月2日国内公表、特表2021-518548〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)3月19日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張 2018年3月20日(以下「優先日」という。) 欧州)、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和4年 8月12日付け:拒絶理由通知書
同年12月12日 :意見書、手続補正書の提出
同月28日付け:拒絶理由通知書
令和5年 4月 5日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月 1日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月11日 :原査定の謄本の送達)
同年 9月11日 :審判請求書の提出
第2 本願発明について
1 本願発明の認定
本願の請求項1~21に係る発明は、令和5年4月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~21に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次の記載により特定されるとおりのものである。なお、参考図として、本願の【図1】及び【図15】に図面の簡単な説明及び部材の名称を加筆したものを掲載する。
「【請求項1】
計時器構成要素を製造する方法であって、以下の順番で、
a)第1のシリコン層(2)、第2のシリコン層(3)、およびその間の中間酸化シリコン層(4)を備える基板(1)を準備するステップと、
b)前記第1のシリコン層(2)をエッチングして、内部に前記計時器構成要素を形成するステップと、
c)エッチングされた前記第1のシリコン層(2)の少なくとも全てまたは一部によって形成されたウェハー(8)を前記基板(1)から離して前記計時器構成要素を構成するステップと、
d)前記計時器構成要素を熱酸化し、次に脱酸するステップと、
e)熱酸化または堆積によって、前記計時器構成要素上に酸化シリコン層(10)を形成するステップと、
f)前記ウェハー(8)から前記計時器構成要素を切り離すステップと、
を含む、方法。」
<参考図>
「【図1】
[図:0001420941000001.jpg]
【図1】本発明の特定の実施形態による方法のステップを概略的に示す。」
「【図15】
[図:0001420941000002.jpg]
【図15】エッチングされたシリコンウェハーが複合基板から切り離される、本発明の特定の実施形態による方法のステップを概略的に示す。」
2 作用効果等に関する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願発明の技術上の意義の概略を理解するために、明細書の発明の詳細な説明の記載のうち本願発明の作用効果等に関連する部分の記載を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものである。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンで作られた、ひげぜんまい、アンクル、歯車、針、ロッカー、レバー、ばね、またはテンプなどの計時器構成要素を製造する方法に関する。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高品質のシリコン計時器構成要素を製造する方法を提案することを目的としている。」
「【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の特定の実施形態による、特に腕時計用のシリコン計時器構成要素を製造するための方法は、図1~図11に示された一連のステップを含む。
【0010】
第1のステップ(図1)において、シリコン・オン・インシュレーター(SOI)タイプの基板1が示される。基板1は、上部シリコン層2、下部シリコン層3、およびその間の中間酸化シリコン層4を含む。シリコンは、単結晶、多結晶、または非結晶質である。これはドープすることができ、またはドープしなくてもよい。上部シリコン層2の厚さは、製造される部品の厚さに応じて選択される。下部シリコン層3は、基板1に、その取り扱いおよび以下に説明する工程の実施を容易にするのに十分な剛性を与える機能を果たす。
【0011】
第2のステップ(図2)において、フォトリソグラフィーによって構造化されるフォトレジスト層5を上部シリコン層2上に堆積する。正確には、フォトレジスト層5を、転写される典型的にはクロムで作られている構造体7を支持する、典型的にはガラスまたは石英で作られているマスク6を通して紫外線に露光させる。次に、フォトレジスト層5を成長させて硬化させる(図3)。これらの工程の終了時、フォトレジスト層5は、構造体7と同じ形状を有し、結果としてマスクを構成し、この形状は、製造される計時器構成要素群の形状に対応する。
【0012】
次のステップ(図4)において、上部シリコン層2は、この層2内に計時器構成要素を形成するために、深反応性イオンエッチング(DRIE)によってフォトレジストマスク5を通してエッチングされる。エッチングは、中間の酸化シリコン層4によって停止するので、計時器構成要素の正確な厚さを定めることができる。エッチングパラメータは、例えば、粗さまたはフランク角に関して特定の特性を得るために、構成要素に照らして調整をすることができる。上部シリコン層2内に形成された計時器構成要素は好ましくは同一であるが、代替的に、各々が構成要素の1つに対応する複数のグループに分けることができる。例えば、計時器構成要素は、以下のタイプの構成要素、すなわち、ひげぜんまい、アンクル、歯車、詳細にはガンギ車、針、ロッカー、レバー、ばね、テンプ、またはそのような構成要素の一部のうちの少なくとも1つを含む。本発明による方法は、特に有機的構成要素を調整するのに適しており、より一般的には、低質量および/または低慣性を必要とする計時器動作構成要素に適している。
【0013】
次に、フォトレジストマスク5を化学エッチングまたはプラズマエッチングで除去する(図5)。
【0014】
次のステップ(図6)において、エッチングされた上部シリコン層2の少なくとも全て又は一部によって形成されたウェハー8を、後述する方法で基板1から離す。このウェハー8は、基本的構造体と、該基本的構造体にエッチング中に残されたが材料ブリッジによって取り付けられた計時器構成要素とを含む。
【0015】
次に、ウェハー8を、酸化炉に入れて、通常600℃から1300℃で熱処理して計時器構成要素の外面全体を酸化させる(図7)。次に、ウェハー8、詳細には計時器構成要素を覆うシリコン酸化膜(SiO2)層9を、ウェハー8からシリコンを消費することで形成し、これはシリコンとシリコン酸化膜との間の境界面がシリコンの表面欠陥を弱めて軽減するようにさせる。続いて、シリコン酸化膜を除去して(図8)、ウェットエッチング、蒸気エッチング、またはドライエッチングすることで、良好な表面仕上げを有する計時器構成要素を得る。特に、DRIEエッチングによる側面粗さおよび表面結晶欠陥が大幅に減少する。
【0016】
本方法のこの段階では、計時器構成要素またはそれらの一部の物理的特性、特にそれらの寸法を測定することが可能である。前の酸化-脱酸ステップのおかげで、これらの物理的特性は、明確に定義され、従って、表面欠陥によって妨げられないので正確に測定することができる。所定のひげぜんまいに関して、それらの剛性を決定することができる。所与のひげぜんまいに関して、剛性は、ひげぜんまいをウェハー8に取り付いた状態でまたはウェハー8から切り離した状態で所定の慣性のテンプに結合して、テンプ-ひげぜんまい組立体の周波数を測定してこの測定値から推定し、ひげぜんまいの剛性を計算することで決定することができる。より詳細には、欧州特許第3181938号に記載されている方法、すなわち、ひげぜんまいの剛性を決定し、所望の剛性を得るためにひげぜんまいから除去される材料厚さを計算し、次に所望の剛性のひげぜんまいを得るためにこの材料の厚さを除去する方法を実施することができる。この材料厚さを除去するために、図7および8を参照して上述したのと同じ方法で、ウェハー8およびその計時器構成要素を、熱酸化し(図9)、次に脱酸する(図10)ことができる。剛性を決定し、除去する厚さを計算し、酸化-脱酸によってこの厚さを除去する工程は、必要であれば、ひげぜんまいの寸法精度を改善するために繰り返すことができる。
【0017】
本方法のさらに他のステップにおいて(図11)、シリコン酸化膜(SiO2)層10を、例えば、熱酸化もしくは化学的または物理的気相成長(CVD、PVD)によって、ウェハー8およびその計時器構成要素上に形成する。計時器構成要素を被覆するこのシリコン酸化膜層10は、これらの機械的強度を高める。ひげぜんまいの場合、シリコン酸化膜層10は、欧州特許第1422436号および欧州特許第2215531号に記載されているようにテンプ-ひげぜんまい発振子の周波数が温度に鈍感であるように、シリコンコアの弾性率の温度依存性変動ならびにひげぜんまいを備えることが意図されたテンプの慣性モーメントの温度依存変動を補償するのを可能にする厚さを有する。
【0018】
最後のステップにおいて、計時器構成要素をウェハー8の基本構造体から切り離す。」
第3 原査定の概要
原査定の本願発明に係る拒絶の理由2の概要は、次のとおりである。
(進歩性の欠如)本願発明は、本願の優先日前に発行された下記の引用文献2、引用文献3、引用文献5及び引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献2.特開2016-173356号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2017-111131号公報
引用文献5.特開2016-133495号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開2015-179013号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項及び引用発明等の認定
(1) 引用文献3の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された特開2017-111131号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は合議体が付したものである。
(ア) 段落【0001】~【0005】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の剛性をもつひげぜんまいを製作する方法に関し、より詳細には、補償ひげぜんまいとして使用し、所定の慣性を有するてんぷと協働して所定の振動数を有する共振器を形成するひげぜんまいに関する。
【背景技術】
【0002】
参照により本出願に組み込まれる欧州特許第1422436号では、補償ひげぜんまいの形成の仕方を説明しており、この補償ひげぜんまいは、二酸化シリコンで被覆したシリコン心部を備え、所定の慣性を有するてんぷと協働して共振器全体を熱補償する。
【0003】
そのような補償ひげぜんまいの製作は、多くの利点をもたらすが、欠点も有する。実際、いくつかのひげぜんまいを1つのシリコン・ウエハ内でエッチングするステップは、同じウエハのひげぜんまいの間に著しい形状のばらつきをもたらし、異なる時間でエッチングした2つのウエハのひげぜんまいの間ではより大きなばらつきをもたらす。付随的に、同じエッチング・パターンでエッチングした各ひげぜんまいの剛性は変動しやすく、著しい製作のばらつきをもたらす。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
更なる修正作業を必要としないほど寸法が十分に正確であるひげぜんまいの製作方法を提案することによって、上記した欠点の全て又は一部を克服することが本発明の目的である。」
(イ) 段落【0040】~【0062】、【図7】、【図8】
「【0040】
したがって、本発明は、ひげぜんまい5cを製作する方法31に関する。本発明によれば、方法31は、図8に示すように、少なくとも1つのひげぜんまい5aの形成を目的とする第1のステップ33を含み、ひげぜんまい5aは、例えばシリコン製であり、所定の剛性Cをもつ前記ひげぜんまい5cを得るのに必要な寸法Dbよりも大きい寸法Daにある。図3からわかるように、ひげぜんまい5aの断面は、高さH1及び厚さE1を有する。」
「【図8】
[図:0001420941000003.jpg]
」
「【0041】
好ましくは、ひげぜんまい5aの寸法Daは、所定の剛性Cをもつ前記ひげぜんまい5cを得るのに必要なひげぜんまい5cの寸法Dbよりも実質的に1%から20%の間大きい。
【0042】
好ましくは、本発明によれば、ステップ33は、図7に示すように、シリコンベース材料ウエハ23内での深掘り反応性イオン・エッチングにより達成される。対向する面F1、F2は、波形になっていることに留意されたい。というのは、ボッシュ深掘り反応性イオン・エッチングは、エッチング及び不活性化の連続ステップにより構成される、波形のエッチングをもたらすためである。」
「【図7】
[図:0001420941000004.jpg]
」
「【0043】
当然、方法を特定のステップ33に限定することはできない。例として、ステップ33は、例えばシリコンベース材料ウエハ23内での化学エッチングにより得ることもできる。更に、ステップ33は、1つ又は複数のひげぜんまいを形成することを意味し、即ち、ステップ33は、1つの材料ウエハ内で、個別のばらのひげぜんまいを形成する、又は代替的に、複数のひげぜんまいを形成することができる。
【0044】
したがって、ステップ33では、いくつかのひげぜんまい5aを同じウエハ23内に寸法Da、H1、E1で形成することができ、寸法Da、H1、E1は、所定の剛性Cをもついくつかのひげぜんまい5c、又はいくつかの所定の剛性Cをもついくつかのひげぜんまい5cを得るのに必要な寸法Db、H3、E3よりも大きい。
【0045】
ステップ33は、所定の剛性Cをもつひげぜんまい5cを得るのに必要な寸法Db、H3、E3よりも大きい寸法Da、H1、E1で、単一材料を使用して作製するひげぜんまい5aを形成することに限定するものでもない。したがって、ステップ33は、所定の剛性Cをもつひげぜんまい5cを得るのに必要な寸法Db、H3、E3よりも大きい寸法Da、H1、E1で、複合材料から作製した、即ちいくつかの個別の材料を備えるひげぜんまい5aを形成することもできる。
【0046】
方法31は、ひげぜんまい5aの剛性の決定を目的とする第2のステップ35を含む。このステップ35は、ウエハ23に取り付けたままのひげぜんまい5a、又はウエハ23から前もって取り外したひげぜんまい5a、又はウエハ23に取り付けたままのひげぜんまいの全て若しくは1つのサンプル、又はウエハ23から前もって取り外したひげぜんまいの1つのサンプル、に対し直接実施することができる。
【0047】
好ましくは、本発明によれば、ひげぜんまい5aをウエハ23から取り外したか否かに関わらず、ステップ35は、ひげぜんまい5a、及びひげぜんまい5aに結合させた所定の慣性Iを有するてんぷを備える組立体の振動数fを測定することを目的とする第1の段階を含み、次に、第2の段階において、関係式(5)を使用して、第1の段階からひげぜんまい5aの剛性Cを推測する。
【0048】
この測定段階は、具体的には、動的なものであり、本出願内に参照により組み込まれる欧州特許第2423764号の教示に従って実施することができる。しかし、代替的に、ひげぜんまい5aの剛性Cを決定するために、欧州特許第2423764号の教示に従って実施する静的な方法を実施することもできる。
【0049】
当然、上記で説明したように、方法は、ウエハ毎に唯一のひげぜんまいをエッチングすることに限定するものではないため、ステップ35は、代表サンプルの平均剛性、又は同じウエハ上で形成した全てのひげぜんまいの平均剛性の決定から構成してもよい。
【0050】
有利には、本発明によれば、ひげぜんまい5aの剛性Cの決定に基づき、方法31は、ステップ37を含み、ステップ37は、所定の剛性Cをもつ前記ひげぜんまい5cを得るのに必要な全体寸法Dbを得るために、関係式(2)を使用してひげぜんまい全体から除去すべき材料の厚さを計算すること、即ち、ひげぜんまい5aの表面から均一又は非均一に除去すべき材料の体積を計算することを目的とする。
【0051】
方法は、ステップ39に続き、ステップ39は、所定の剛性Cをもつ前記ひげぜんまい5cを得るのに必要な寸法Dbを達成するために、ひげぜんまい5aから余剰材料を除去することを目的とする。したがって、式(2)に従って、コイルの剛性を決定するのは乗積h・e3であることを考えると、形状変動がひげぜんまい5aの厚さ及び/又は高さ及び/又は長さに生じていることは重要ではないことを理解されたい。
【0052】
したがって、外表面から均一な厚さを除去する、外表面から非均一な厚さを除去する、外表面の一部のみから均一な厚さを除去する、又は外表面の一部のみから非均一な厚さを除去することができる。例として、ステップ37は、ひげぜんまい5aの厚さE1又は高さH1のみから材料を除去することから構成することができる。
【0053】
シリコンベース材料に関連する第1の変形形態では、ステップ39は、第1の段階d1を含み、第1の段階d1は、ひげぜんまい5aを酸化することを目的とし、前記厚さの除去すべきシリコンベース材料を二酸化シリコンに変換し、それにより酸化ひげぜんまい5bを形成するようにする。この段階d1は、例えば熱酸化によって得ることができる。この熱酸化は、例えば、800から1200℃の間の酸化雰囲気中で、水蒸気又は二酸素ガスを用いて達成し、ひげぜんまい5a上に酸化シリコンを形成することができる。
【0054】
図4からわかるように、ひげぜんまい5aの断面は、高さH2及び厚さE2を有する。ひげぜんまい5bは、前記所定の剛性Cをもつひげぜんまい5cに必要な全体寸法Dbにある中央シリコンベース部22、及び周辺二酸化シリコン部24から形成されることに留意されたい。更に、波形形状が周辺部24の一部分上には常にもたらされるが、中央部22上にはもはや存在しない又はほとんど存在しないことがわかる。
【0055】
ステップ39は、図5に示すように、第2の段階d2で終了し、第2の段階d2は、ひげぜんまい5bから酸化物を除去し、シリコンベース部22のみを有するひげぜんまい5cを得ることを目的とし、このひげぜんまい5cは、前記所定剛性Cを得るのに必要な全体寸法Dbにあり、具体的には断面が高さH3及び厚さE3を有する。この段階d2は、例えば化学エッチングによって得ることができる。化学浴は、例えばフッ化水素酸を含み、ひげぜんまい5bからこの酸化シリコンを除去することができる。
【0056】
第2の変形形態では、ステップ39は、1つの段階d3のみを含み、1つの段階d3は、ひげぜんまい5aを化学エッチングし、前記所定の剛性Cのために必要な寸法Db、H3、E3でシリコンベースひげぜんまい5cを得ることを目的とする。当然、使用する材料に応じて、レーザー・エッチング又は集束イオン・ビーム・エッチング等の他の変形形態を想定することができ、所定の剛性Cをもつ前記ひげぜんまい5cを得るのに必要な寸法Dbまでひげぜんまい5aから余分な材料を除去することを可能にする。
【0057】
方法31は、ステップ39で終了することができる。しかし、ステップ39の後、方法31は、少なくとももう一度ステップ35、37及び39を実施し、ひげぜんまいの寸法の質を更に改良することができる。ステップ35、37及び39のこれらの繰返しは、例えば、ウエハ23に取り付けたままのひげぜんまいの全て若しくは1つのサンプルに対しステップ35、37及び39の第1の繰返しを実施し、次に、第2の繰返しにおいて、ウエハ23から前もって取り外した、第1の繰返しを受けているひげぜんまいの全て若しくは1つのサンプルに対し実施すると、特に有利であり得る。
【0058】
方法31は、図8に示す、任意選択のステップ41、43及び45を含む工程40の全て又は一部に続くことができる。有利には、本発明によれば、方法31は、このようにステップ41に続くことができ、ステップ41は、ひげぜんまいの少なくとも一部の上に、熱変動にあまり反応しないひげぜんまい5、15を形成する一部分28を形成することを目的とする。
【0059】
第1の変形形態では、ステップ41は、段階e1から構成することができ、段階e1は、所定の剛性Cをもつ前記ひげぜんまい5cの外表面の一部の上に層を堆積させることを目的とする。
【0060】
部分22がシリコンベース材料であるケースでは、段階e1は、ひげぜんまい5cを酸化してひげぜんまい5cを二酸化シリコンで被覆し、温度補償ひげぜんまいを形成するようにすることから構成してもよい。この段階e1は、例えば熱酸化によって得ることができる。この熱酸化は、例えば、800から1200℃の間の酸化雰囲気中で、水蒸気又は二酸素ガスを用いて達成し、ひげぜんまい5c上に酸化シリコンを形成することができる。
【0061】
図6に示す補償ひげぜんまい5、15はこのように得られ、補償ひげぜんまい5、15は、本発明によれば、有利にはシリコン心部26及び酸化シリコン被覆部28を備える。したがって、本発明によれば、有利には補償ひげぜんまい5、15は、特に高さH4及び厚さE4に関して非常に高い寸法精度を有し、付随的に、共振器1全体に対し非常に優れた温度補償も有する。
【0062】
シリコンベースひげぜんまいの場合、全体寸法Dbは、欧州特許第1422436号の教示を使用して求め、上記で説明したように、共振器1の構成部品の全てを製作、即ち補償することを目的とする共振器1に適用することができる。」
イ 引用発明の認定
前記アの引用文献3の記載事項を総合すると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「ひげぜんまい5cを製作する方法31に関し、方法31は、少なくとも1つのひげぜんまい5aの形成を目的とする第1のステップ33を含み、(【0040】」
ステップ33は、例えばシリコンベース材料ウエハ23内での化学エッチングにより得ることもでき、ステップ33は、1つの材料ウエハ内で、個別のばらのひげぜんまいを形成し、又は代替的に、複数のひげぜんまいを形成し、(【0043】)
方法31は、ひげぜんまい5aの剛性の決定を目的とする第2のステップ35を含み、このステップ35は、ウエハ23に取り付けたままのひげぜんまい5aに対し直接実施することができ、(【0046】)
ステップ35は、ひげぜんまい5a、及びひげぜんまい5aに結合させた所定の慣性Iを有するてんぷを備える組立体の振動数fを測定することを目的とする第1の段階を含み、次に、第2の段階において、第1の段階からひげぜんまい5aの剛性Cを推測し、(【0047】)
ひげぜんまい5aの剛性Cの決定に基づき、方法31は、ステップ37を含み、ステップ37は、所定の剛性Cをもつ前記ひげぜんまい5cを得るのに必要な全体寸法Dbを得るために、ひげぜんまい全体から除去すべき材料の厚さを計算すること、即ち、ひげぜんまい5aの表面から均一又は非均一に除去すべき材料の体積を計算し、(【0050】)
ステップ39は、第1の段階d1を含み、第1の段階d1は、ひげぜんまい5aを酸化することを目的とし、前記厚さの除去すべきシリコンベース材料を二酸化シリコンに変換し、それにより酸化ひげぜんまい5bを形成し、この段階d1は、例えば熱酸化によって得ることができ、この熱酸化は、例えば、800から1200℃の間の酸化雰囲気中で、水蒸気又は二酸素ガスを用いて達成し、ひげぜんまい5a上に酸化シリコンを形成し、(【0053】)
ステップ39は、第2の段階d2で終了し、第2の段階d2は、ひげぜんまい5bから酸化物を除去し、シリコンベース部22のみを有するひげぜんまい5cを得ることを目的とし、このひげぜんまい5cは、前記所定剛性Cを得るのに必要な全体寸法Dbにあり、具体的には断面が高さH3及び厚さE3を有し、この段階d2は、例えば化学エッチングによって得ることができ、化学浴は、例えばフッ化水素酸を含み、ひげぜんまい5bからこの酸化シリコンを除去することができ、(【0055】)
ステップ39の後、方法31は、少なくとももう一度ステップ35、37及び39を実施し、ひげぜんまいの寸法の質を更に改良することができ、ステップ35、37及び39のこれらの繰返しは、ウエハ23に取り付けたままのひげぜんまいに対しステップ35、37及び39の第1の繰返しを実施し、次に、第2の繰返しにおいて、ウエハ23から前もって取り外した、第1の繰返しを受けているひげぜんまいに対し実施すると、特に有利であり、(【0057】)
ステップ41は、段階e1から構成することができ、段階e1は、所定の剛性Cをもつ前記ひげぜんまい5cの外表面の一部の上に層を堆積させることを目的とし、(【0059】)
部分22がシリコンベース材料であるケースでは、段階e1は、ひげぜんまい5cを酸化してひげぜんまい5cを二酸化シリコンで被覆し、温度補償ひげぜんまいを形成するようにすることから構成してもよく、この段階e1は、例えば熱酸化によって得ることができ、この熱酸化は、例えば、800から1200℃の間の酸化雰囲気中で、水蒸気又は二酸素ガスを用いて達成し、ひげぜんまい5c上に酸化シリコンを形成することができ、(【0060】)
ひげぜんまい5cを製作する方法31。(【0040】)」
(2) 引用文献5の記載事項、引用文献6の記載事項及び技術常識1の認定
ア 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された特開2016-133495号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は合議体が付したものである。
(ア) 段落【0001】~【0009】
「【技術分野】
【0001】
この発明は、時計における機械部品を構成する時計部品の製造方法および時計部品に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式時計の駆動機構は、ひげぜんまいやてん輪などによって構成される調速機構(てんぷ)や、がんぎ車およびアンクルによって構成される脱進機を備えている。ひげぜんまいは、従来、金属を加工して形成することが広くおこなわれていたが、その加工精度のばらつきや金属が有する内部応力の影響などによって、設計通りの形状が得られないことがあった。また、金属製のひげぜんまいは、長期間伸縮を繰り返すことにより変形してしまうことがあった。
【0003】
このようなひげぜんまいを用いて構成される時計は計時の精度に劣るため、従来、金属材料に代えて、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料をエッチング加工することによって、金属製のひげぜんまいよりも高精度かつばらつきを抑えたひげぜんまいを製造する技術があった。また、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料は金属と比較して環境温度に対して変形が少ないため、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料を用いて形成したひげぜんまいは、金属製のひげぜんまいよりも良好な温度特性を示す。
【0004】
一方で、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料は脆性材料であるため、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料を用いたひげぜんまいは、金属製のひげぜんまいと比較して、耐衝撃性に劣る。
【0005】
関連する技術として、具体的には、従来、たとえば、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品を、シリコン製のコアと当該コアの表面に成膜した二酸化珪素などの非晶質材料とによって形成するようにした技術があった(たとえば、下記特許文献1~3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3154091号公報
【特許文献2】特許第5378654号公報
【特許文献3】特許第4515913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1~3に記載された従来の技術は、いずれも、時計部品の外表面を被覆する膜(被覆、被覆層あるいは外側層)を、当該膜によって被覆されるコアを形成した後に成膜しているため、製造される時計部品の外形寸法にばらつきが生じてしまうという問題があった。
【0008】
そして、時計部品の外形寸法にばらつきが生じることにより、このような時計部品を、たとえば、特許文献1~3に記載された従来の技術のように、ひげぜんまいとして用いる場合には、振動数の精度が低下してしまい、当該時計部品を用いて構成される時計による計時の精度が低下してしまうという問題があった。
【0009】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、温度特性に優れ、耐久性の高い時計部品を、高精度に製造することができる時計部品の製造方法および時計部品を提供することを目的とする。」
(イ) 段落【0037】~【0063】、【図3A】~【図3K】、【図4】
「【0037】
(実施の形態1)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態1においては、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品として、ひげぜんまい108の製造方法について説明する。
【0038】
図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3J、図3Kおよび図4は、この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。実施の形態1の製造方法によるひげぜんまい108の製造に際しては、まず、支持層311の一面側に、酸化膜312(Box層)を形成する(図3Aを参照)。支持層311は、シリコンからなる。酸化膜312は、二酸化珪素(SiO2)からなる。」
「【図3A】
[図:0001420941000005.jpg]
」
「【0039】
この実施の形態1においては、以降、支持層311における酸化膜312が形成される一面、すなわち、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける支持層311の紙面上側の面を、支持層311の「おもて面」として説明する。また、この実施の形態1においては、以降、支持層311におけるおもて面とは反対側の面、すなわち、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける支持層311の紙面下側の面を、支持層311の「裏面」として説明する。
【0040】
酸化膜312は、以降の工程において、深掘りRIE技術によるエッチング加工をおこなう際のストッパとして機能する。酸化膜312は、公知の各種の成膜技術や公知の各種の酸化技術を用いて形成することができる。酸化膜312の形成方法については説明を省略する。
【0041】
この実施の形態1においては、上記の支持層311と同様に、以降、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける酸化膜312の紙面上側の面を、酸化膜312の「おもて面」として説明する。また、この実施の形態1においては、以降、酸化膜312におけるおもて面とは反対側の面、すなわち、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける酸化膜312の紙面下側の面を、酸化膜312の「裏面」として説明する。
【0042】
つぎに、酸化膜312のおもて面に、Si層(活性層)313を形成する(図3Aを参照)。この実施の形態1においては、上記の支持層311や酸化膜312と同様に、以降、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける活性層313の紙面上側の面を、活性層313の「おもて面」として説明する。また、この実施の形態1においては、以降、活性層313における酸化膜312側の面、すなわち、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける活性層313の紙面下側の面を、活性層313の「裏面」として説明する。
【0043】
活性層313は、公知の各種の成膜技術を用いて形成することができる。活性層313の形成方法については説明を省略する。この実施の形態1において、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品であるひげぜんまい108は、活性層313に形成される。ここに、支持層311、酸化膜312および活性層313により、積層基板(SOI基板)314が実現される。
【0044】
SiO2のヤング率の温度特性は、Siのヤング率とは逆の温度特性を示す。ヤング定数(Young’s modulus)は、フックの法則が成立する弾性範囲における同軸方向のひずみと応力との比例定数であって、物体に対して当該物体を引っ張る方向に外力を加えた場合における、当該物体の伸びと当該物体に加えられた外力との関係から求められる。ヤング定数は、縦弾性係数、曲げ剛性あるいはたわみ剛性などとも称される。具体的に、たとえば、断面積(S)の物体に力(F)が加えられることによって、当該物体の元の長さ(L)が(ΔL)だけ伸びた場合のヤング率(E)は、E=(F/S)/(ΔL/L)であらわされる。
【0045】
つぎに、積層基板314における活性層313のおもて面に、フォトレジストを塗布し、塗布したフォトレジストを、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の形状に基づいたパターン状に露光する。この実施の形態1においては、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品を、たとえば、ひげぜんまい108によって形成する例について説明する。このため、この実施の形態1においては、活性層313のおもて面に塗布したフォトレジストを、ひげぜんまい108の形状に基づいたパターン状に露光する。
【0046】
ひげぜんまい108の形状に基づいたパターンは、たとえば、ひげぜんまい108の形状を規定する部品パターンと、当該ひげぜんまい108の周囲においてひげぜんまい108を囲むように設けられる枠パターンと、これら2つのパターン(部品パターンと枠パターン)を接続する接続用パターンと、からなる(図4を参照)。部品パターンと枠パターンとを接続する接続用パターンは、たとえば、ひげぜんまい108における外周側の端部(ひげ持203)と、ひげぜんまい108の周囲に設けられる枠パターンと、を接続する。」
「【図4】
[図:0001420941000006.jpg]
」
「【0047】
フォトレジストは、光(あるいは電子線など)に露光されることによって現像液に対する溶解性などの物性が変化する感光性の物質であって、たとえば、露光されることによって現像液に対して溶解性が増大するポジ型のフォトレジストを用いることができる。あるいは、ポジ型のフォトレジストに代えて、たとえば、露光されることによって現像液に対して溶解性が低下するネガ型のフォトレジストを用いてもよい。
【0048】
その後、露光後のSOI基板を現像液によって処理することによって、活性層313のおもて面側に、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品であるひげぜんまい108の形状に基づいたマスク321を形成する(図3Bを参照)。ここに、マスク321を形成する工程によって、この発明にかかる時計部品の製造方法におけるマスク形成工程を実現することができる。」
「【図3B】
[図:0001420941000007.jpg]
」
「【0049】
マスク321は、上記の露光におけるパターンにしたがって、ひげぜんまい108の形状を規定する部品パターンと、ひげぜんまい108を囲むように設けられる枠パターンと、接続用パターンと、からなる(図4を参照)。このような、フォトリソグラフィ技術を用いてマスク321を形成することにより、マスク321を、ひげぜんまい108の形状にしたがって高精度に形成することができる。
【0050】
つぎに、活性層313に対して、マスク321部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなう(図3Cを参照)。ここに、活性層313に対するマスク321を用いたエッチング加工をおこなう工程によって、エッチング工程を実現することができる。活性層313に対するエッチング加工は、エッチングガスなどの反応性の気体、イオン、ラジカルなどによって材料をエッチングするドライエッチング加工によって実現することができる。上記のように、フォトリソグラフィ技術を用いて高精度に形成されたマスク321を用いてエッチング加工をおこなうことにより、活性層313を、ひげぜんまい108の形状にしたがって高精度に加工することができる。」
「【図3C】
[図:0001420941000008.jpg]
」
「【0051】
活性層313に対するエッチング加工は、ドライエッチング加工の一つである反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)が好ましく、深掘りRIE技術によるドライエッチング加工によって実現することがより好ましい。活性層313に対するエッチング加工を、深掘りRIE技術によるドライエッチング加工によって実現することにより、高い精度での微細加工をおこなうことができる。具体的には、この実施の形態1の時計部品の製造方法においては、たとえば、SF6(六フッ化硫黄)とC4F8(八フッ化シクロブタン)との混合ガス(SF6+C4F8)を用いて、活性層313を深掘りRIE技術でドライエッチングする。
【0052】
反応性イオンエッチングは、ドライエッチングに分類される微細加工技術の一つであり、反応室内でエッチングガスに電磁波などを与えプラズマ化するとともに、試料が載置される陰極に高周波電圧を印加することにより試料とプラズマの間に自己バイアス電位を生じさせ、この自己バイアス電位によってプラズマ中のイオン種やラジカル種を試料方向に加速して衝突させ、イオンによるスパッタリングと、エッチングガスの化学反応とを同時に生じさせることによって試料の加工をおこなう。深掘りRIE(Deep Reactive Ion Etching)は、反応性イオンエッチング(RIE)の一つであり、狭く深い範囲のエッチング加工、すなわち、アスペクト比の高いエッチング加工をおこなうことができる。
【0053】
図4は、活性層313に対するエッチング加工をおこなった後の積層基板314を示す平面図である。図4においては、活性層313に対するエッチング加工をおこなった後の積層基板314を、当該積層基板314における活性層313側から見た状態を示している。図4において、エッチング加工をおこなうことにより、活性層313には、部品パターンに基づく部品部401と、枠パターンに基づく枠部402と、接続用パターンに基づく接続部403と、が形成される。
【0054】
接続部403は、部品部401と枠部402とを接続する。接続部403の外形寸法(太さ)は、ひげぜんまい108のひげ玉202となる部分の外形寸法(太さ)よりも細い。活性層313に対するエッチング加工をおこなった後の積層基板314においては、枠部402の内側に、接続部403を介して接続された部品部401が浮いている状態とされる。
【0055】
つぎに、活性層313に形成したマスク321を除去(剥離)した(図3Dを参照)後、支持層311の裏面にマスク351を形成する(図3Eを参照)。マスク321は公知の各種の方法によって容易に除去可能であるため、マスク321の除去方法や除去手順などについては説明を省略する。マスク351は、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品であるひげぜんまい108を構成する部分を回避した位置および形状とされる。」
「【図3D】
[図:0001420941000009.jpg]
」
「【図3E】
[図:0001420941000010.jpg]
」
「【0056】
すなわち、マスク351は、支持層311の板厚方向に沿って支持層311を見た場合に、マスク351が、活性層313においてひげぜんまい108を構成する部分と重複しない位置に形成する。マスク351は、上記のマスク321と同様にして形成することができる。マスク351は、支持層311の板厚方向に沿って支持層311を見た場合に、少なくとも一部が枠パターンと重複するように設けられる。
【0057】
つぎに、支持層311に対して、マスク351部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこない(図3Fを参照)、その後、マスク351を除去する(図3Gを参照)。支持層311に対するエッチング加工は、上記の活性層313に対するエッチング加工と同様にしておこなうことができる。また、マスク351の除去は、上記の活性層313に形成したマスク321の除去と同様にしておこなうことができる。」
「【図3F】
[図:0001420941000011.jpg]
」
「【図3G】
[図:0001420941000012.jpg]
」
「【0058】
つぎに、酸化膜312を除去(剥離)する(図3Hを参照)。酸化膜312の除去に際しては、具体的には、たとえば、フッ酸を用いて、支持層311および活性層313をマスク321としたウエットエッチングをおこなうことによって酸化膜312を除去することができる。上記のように、マスク351は、支持層311の板厚方向に沿って支持層311を見た場合に、活性層313においてひげぜんまい108を構成する部分と重複しない位置に形成されているため、支持層311に対してマスク351部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなうことにより、ひげぜんまい108を構成する部分のみが中空に浮いた状態とされる。ここに、支持層311および酸化膜312をエッチングにより除去する工程によって、この発明にかかる時計部品の製造方法における除去工程を実現することができる。なお、酸化膜312を除去した活性層313の表面はフラットであり、いわゆる鏡面となっている。」
「【図3H】
[図:0001420941000013.jpg]
」
「【0059】
つぎに、活性層313に対して酸素イオンを注入する(図3Iおよび矢印Gを参照)。酸素イオンは、たとえば、活性層313の全体にわたって注入する。ここに、活性層313に対して酸素イオンを注入することによって、この発明にかかる時計部品の製造方法におけるイオン注入工程を実現することができる。具体的には、酸素イオンは、たとえば、活性層313がなす表面全体にわたって注入するとともに、活性層313の厚み方向に沿っても全体に注入する。」
「【図3I】
[図:0001420941000014.jpg]
」
「【0060】
あるいは、酸素イオンは、活性層313の内部に極部的に注入してもよい。この場合、具体的には、たとえば、活性層313の厚み方向における任意の位置において、活性層313の面方向の全体にわたって分布するように、酸素イオンを注入する。あるいは、この場合、具体的には、たとえば、活性層313の厚み方向における任意の複数箇所において、それぞれが活性層313の面方向の全体にわたって分布するように、酸素イオンを注入してもよい。あるいは、この場合、具体的には、たとえば、活性層313の内側に集中して分布するように酸素イオンを注入してもよく、活性層313の表面に分布するように酸素イオンを注入してもよい。酸素イオンは、一回の工程によって注入するものに限らず、注入方向や注入量などを調整しながら複数回にわたって注入してもよい。
【0061】
つぎに、活性層313に酸素イオンが注入された積層基板314、すなわち、酸素イオンが注入された活性層313を加熱する(図3Jを参照)。この実施の形態においては、たとえば、活性層313に酸素イオンが注入された積層基板314を、1100℃に過熱する。ここに、酸素イオンが注入された活性層313を加熱する工程によって、この発明にかかる時計部品の製造方法における加熱工程を実現することができる。」
「【図3J】
[図:0001420941000015.jpg]
」
「【0062】
酸素イオンが注入された活性層313を加熱することにより、活性層313におけるシリコンを熱酸化させ、シリコン酸化物によって形成される領域310を形成することができる。以降、活性層313において、熱酸化によるシリコン酸化物によって形成される領域310をシリコン酸化物310とし、残余の部分であるシリコンによって形成される領域をシリコン領域として説明する(図5B、図5C、図5D、図5Eおよび図5Fを参照)。
【0063】
その後、シリコン酸化物310が形成された積層基板314から、ひげぜんまい108を構成する部分をもぎ取って、ひげぜんまい108を取り外す(図3Kを参照)。ひげぜんまい108は、たとえば、接続部403をピンセットなどによってつまみ、当該部分を折って、シリコン酸化物における枠部402から、当該シリコン酸化物における部品部401を分離して取り外すことができる。これにより、ひげぜんまい108が製造される。」
「【図3K】
[図:0001420941000016.jpg]
」
イ 引用文献6の記載事項
原査定において引用された特開2015-179013号公報(以下「引用文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は合議体が付したものである。
(ア) 段落【0001】~【0023】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用のひげぜんまいに関し、特にシリコンを主成分とするひげぜんまいの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の機械式時計においては、機械の運転を規則正しく一定の速度に保つために、ひげぜんまいとてん輪(てん真付)とで構成される調速機(てんぷ)が使われている。等時性のあるひげぜんまいの伸縮によりてん輪が規則正しく往復回転運動を行う。
【0003】
てんぷには、がんぎ車とアンクルとで構成される脱進機という機構が接続されており、ぜんまいからエネルギーが伝達されて、振動を持続するようになっている。
【0004】
知られているひげぜんまいは、金属を加工して形成する場合が多い。このため、その加工精度のばらつきや金属が有する内部応力の影響などによって、設計通りの形状が得られない場合がある。
【0005】
ひげぜんまいは規則的にてんぷを振動させる必要があるから、設計通りの形状が得られないとてん輪も等時性のある運動ができなくなり、時計の歩度ずれが生じてしまう。時計の歩度とは、一日あたりの時計の進み又は遅れの程度を示すものである。
【0006】
ところで近年、シリコン基板をエッチング加工することによって時計部品を製造する試みがなされている。従来の金属部品を用いる時計部品の製造に比べ軽量にできるという利点と、安価で大量生産ができる利点とがあると言われている。これにより、小型軽量の時計を製造することができると期待されている。
【0007】
シリコン基板をエッチングする際、近年ではドライエッチング技術である反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)技術が進歩してきた。中でも、深堀りRIE(Deep RIE)技術が開発され、アスペクト比が高いエッチングが可能になってきた。
【0008】
この技術によると、エッチングがフォトレジストなどでマスクした部分の下に回り込まないために、垂直深さ方向にマスクパターンを忠実に再現できるようになり、シリコン基板をエッチングする際に、時計部品を設計通りの形状で精度よく製造することが可能となってきた(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
そもそもシリコンは、金属よりも温度特性が良い。従来のひげぜんまいの材料として用いられる金属よりも環境温度に対して変形しにくいという特徴がある。このことから、時計の調速機構にもこの技術を応用することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2011-505003号公報(第6頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に示した従来技術に代表されるような、シリコンを深堀りRIE技術を用いてエッチングし、ひげぜんまいを形成すると、形状が設計通りにならないという問題が発生することが判明した。
【0012】
本来は、深堀りRIE技術を用いてシリコンをエッチングすると、設計通り、すなわち、マスクパターン通りにひげぜんまいができ上がるのである。
しかし、エッチングしてなる対象物がひげぜんまいの場合、そうならず、局所的なオーバーエッチングが生じてしまうのである。すなわち、マスクパターン通りにエッチングされる箇所と、マスクパターンより細くエッチングされてしまう箇所とがある。
【0013】
その理由はひげぜんまいの形状にある。ひげぜんまいは、一端をひげ玉に接続し、他端をひげ持に接続したぜんまい腕を、ひげ玉に巻回する形状である。なお、巻回されているぜんまい腕をぜんまい部と称する。
このため、平面的にみて、隣接する部分があるところと、そうではないところとがある。このような状態を、形状の密度に粗密があると称する。
【0014】
例えば、ぜんまい部においては、ひげ玉の近傍は形状的に間隔が空いており、形状の密度が粗い状態である。順次巻回されているぜんまい部は隣接する他のぜんまい腕との間隔が狭く、形状の密度が狭い状態、つまり密である。
【0015】
深堀りRIEでエッチング加工してなるひげぜんまいは、その形状通りのマスクパターンを用いる。ひげぜんまいの形状的な粗密は、マスクパターンの粗密でもある。
【0016】
このため、このマスクパターンの粗密により、パターンが粗い部分にサイドエッチングが発生し、ひげぜんまいがエッチング加工し終わったときに、サイドエッチングが生じた部分のみ、マスクパターンよりも形状が細く加工されてしまうのである。
【0017】
これは、深堀りRIEでのエッチングの際に、隣接するマスクパターンとの距離が遠いと(パターンの形状の密度が粗いと)、エッチングの最中に、プラズマ環境下で発生したイオンやラジカルがマスクパターンの横方向からも到来してしまい、サイドエッチングが進行してしまうことが原因である。
【0018】
ちなみに、隣接するマスクパターンとの距離が近いと(パターンの形状の密度が密であると)、横方向から到来するイオンやラジカルは、その隣接するパターンが妨げになり、サイドエッチングが進行してしまうことはない。
【0019】
すでに説明したように、マスクパターンはひげぜんまいの形状に由来するものであるから、自由にマスクパターンの粗密を変えることはできない。
【0020】
このため、特許文献1に代表される従来技術では、設計通りの形状にひげぜんまいが加工できず、これを組み込んだ機械式時計は、歩度ずれを起こしてしまうのである。
【0021】
この問題を解決する案としては、マスクパターンの密度が粗い部分は、エッチングを2回に分けて行う方法が知られている。
すなわち、まず設計よりも細い溝幅で第1回目のエッチングを行って垂直性を出した後に、再度マスクパターンを形成し、設計通りの広い溝幅で第2回目のエッチングを行うという方法である。
【0022】
しかしながら、この方法は、エッチングを行う作業工程が2回必要になって大変手間のかかる作業になっていた。更に、2回目のエッチング工程では、1回目で形成した形状との正確な位置合わせが必要である。このため、不良率も高く、製造コストも高かった。
【0023】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、精度よくひげぜんまい製造できる製造方法を提供するものである。」
(イ) 段落【0046】~【0069】、【図3】、【図5】
「【0046】
[製造方法の説明:図2~図5]
次に、上記の形状をなすひげぜんまい11の製造方法を図2~図5を用いて説明する。
図3は、製造工程を説明するために、図2の平面図の一部を抜き出し模式的に示した断面図であって、ひげぜんまい11の中心部にあるひげ玉11aとそれに連結するゼンマイ部11bの一部領域を取り出して描いた図である。
【0047】
図3(a)に示すように、SOI(Silicon on insulator)基板を準備する。SOI基板1は、シリコン(Si)を主成分とする、例えば厚み400~500μmのベース層2上に、厚み1~3μmのからなるシリコン酸化膜層(SiO2層)3を形成し、更に、シリコン酸化膜層3の上にシリコン(Si)を主成分とする活性層4を形成してなる3層構造である。」
「【図3】
[図:0001420941000017.jpg]
」
「【0048】
活性層4は、ひげぜんまい11を構成する層であるので、その厚みは製造するひげぜんまいによって決める。なお、ひげぜんまい11の生産性を考慮に入れれば、ひげぜんまい11が多数個取り出せる大きさのSOI基板1である方が好ましい。
【0049】
次に、図3(b)に示すように、SOI基板1の活性層4上に、所定の膜厚のレジスト膜5をスピンコート法などの公知の手法で形成する。
レジスト膜5を形成するためのレジスト液には、ポジ型とネガ型があり、用いるマスクフィルムと共に適宜に選択する。本発明の実施形態の説明においては、ポジ型のレジスト液を用いる例で説明する。
【0050】
レジスト膜5を塗布した後は、例えば80~100°Cの温度でプリベーク処理を行ってレジスト液に含まれる有機溶剤を蒸発させ、レジスト膜5を活性層4に密着させる。
【0051】
次に、図3(c)に示すように、公知の技術を用いて第1のマスクパターン10と第2のマスクパターン20とを形成する。
【0052】
レジスト膜5へのマスクパターンの形成は、例えば、次に示す手法を用いる。
まず、図示しない所定のガラス表面に、クロム(Cr)などを主成分とする第1のマスクパターンに相当する第1のクロムパターンと、第2のマスクパターンに相当する第2のクロムパターンとを有するガラスマスクを用意する。
【0053】
次に、ガラスマスクを公知の露光装置に載置し、このガラスマスクを通してSOI基板1の表面のレジスト膜5に所定の波長の紫外線を照射してレジスト膜5を露光させる。後に露光した部分を現像して、第1のマスクパターン10と第2のマスクパターン20とを転写する。
【0054】
次に、図3(d)に示すように、図3(c)に示す第1のマスクパターン10及び第2のマスクパターン20の形状通りに、活性層4をエッチングする。活性層4のエッチングは、深堀りRIE技術を用いてドライエッチングを行う。
【0055】
深堀りRIEによるエッチングの最中にあっては、第1のマスクパターン10の横方向から侵入しようとするイオンやラジカルが、第2のマスクパターン20により遮蔽されるので、第1のマスクパターン10の下部の活性層にはサイドエッチングが抑制され、第1のマスクパターン10の形状通りに活性層がエッチングされる。
【0056】
ところで、第2のマスクパターン20は、第1のマスクパターン10に対するサイドエッチングの防壁となるが、第2のマスクパターン20自体の下部の活性層は、部分的にサイドエッチングが起きてしまう。しかし、この第2のマスクパターン20によりエッチングされる活性層は、そもそもひげぜんまいの形状に関するものではないので、問題はない。
【0057】
ここで、エッチングされた活性層には、説明しやすいように、それぞれ名称を付与する。第1のマスクパターン10に対応する活性層、すなわち、ひげぜんまいを構成する活性層は、第1の活性層形状10a、10bとする。第2のマスクパターン20に対応する活性層、すなわち、サイドエッチングを防止するための防壁となった活性層は、第2の活性層形状20a、20bとする。
【0058】
次に、図3(e)に示すように、レジスト層である第1のマスクパターン10と第2のマスクパターン20とを、例えば、アセトンなどの有機溶剤を用いて剥離する。
これにより、第1の活性層形状10a、10bと第2の活性層形状20a、20bとが露出する。
【0059】
次に、図3(f)に示すように、第1の活性層形状10a、10b及び第2の活性層形状20a、20bをベース層2から切り離す。この工程は、公知のリフトオフと呼ばれる技術を用いて行う。リフトオフ工程は、シリコン層には耐性がありシリコン酸化膜は溶解する薬剤、例えば、フッ酸(フッ化水素酸)を入れた液槽を用意し、これにSOI基板1を浸漬してなる。
【0060】
このリフトオフ工程により、シリコン酸化膜層3のみが溶解するので、第1の活性層形状10a、10b及び第2の活性層形状20a、20bは、ベース層2と分離するのである。
【0061】
第1の活性層形状10a、10b及び第2の活性層形状20a、20bは、リフトオフ工程で、フッ酸の液槽の底部に向かい漂いながら落下してしまうが、その液槽にシリコン製などの網形状のフィルタを設けておけば、液槽の底部までの落下を防止できる。そうすれば、第1の活性層形状10a、10b、つまり、ひげぜんまいのみ掬うことができる。
【0062】
このとき、当該フィルタは、第2の活性層形状20a、20bは通過させ、ひげぜんまい11のみを通過させないような大きさの網目や穴形状にすれば、ひげぜんまい11と第2の活性層形状20a、20bとを簡単に選別することができる。
【0063】
もちろん、リフトオフ工程で、ひげぜんまい11をフッ酸の液槽に落下させないようにすることもできる。以下、図4及び図5を用いて説明する。
【0064】
[第3のマスクパターンの説明:図4、図5]
図4は、図2に対応するマスクパターンを示す平面図であり、第3のマスクパターン30を説明する図である。
図4に示すように、第3のマスクパターン30は、枠の形状で第1のマスクパターン10及び第2のマスクパターン20の周囲を囲うと共に、ひげぜんまい11の一部、例えば、ひげ持11cの端部部分と接続部35にて接続している。なお、第3のマスクパターン30は、第2のマスクパターン20とは接していない。
【0065】
第3のマスクパターン30は、図3(c)に示すように、第1のマスクパターン10及び第2のマスクパターン20を形成した後に、これらのマスクパターンと同様な手法を用いて第3のマスクパターン30をレジスト膜5の上部に設ける。
【0066】
または、すでに説明した図示しないガラスマスクに予め第3のマスクパターン30に対応する第3のクロムパターンを形成しておいてもよい。
そうすると、第1のマスクパターン10及び第2のマスクパターン20のレジスト膜5へのマスクパターンの転写の際に、第3のマスクパターン30も転写できる。レジスト膜5へのマスクパターンの転写が1度で済むので便利である。
【0067】
このようにしてレジスト膜5を第1から第3のマスクパターンの形状に形成した後、深堀りRIE技術を用いて活性層をエッチングする。そして、レジスト膜5を剥離する。
その後、リフトオフ工程を経てベース層2から活性層を分離すると、その活性層は、図5に示すような形状となる。ここで、第3のマスクパターン30に対応する活性層、すなわち、ひげぜんまいの周囲を囲う枠形状の活性層は、第3の活性層形状30aとする。」
「【図5】
[図:0001420941000018.jpg]
」
「【0068】
すでに説明したように、第1のマスクパターン10のひげ持11cの一部と、第3のマスクパターン30の接続部35で接続しているから、第2のマスクパターン20は、リフトオフ工程により取れ落ちてしまうが、第1のマスクパターン10は、接続部35に相当する第3の活性層形状30aの接続部35aの部分で接続され、そのまま残るのである。
これにより、ひげぜんまい11に対応する第1のマスクパターン10と第2の活性層形状である第2のマスクパターン20とを選別することができる。
【0069】
その後、図5に示す状態から、図1に示すひげぜんまい11を取り出すには、接続部3
5aの部分を破断することでなす。
この破断は、例えば、ピンセットによる手動での破断や、ダイシングソーのような機械による破断を用いることができる。」
ウ 周知技術1の認定
前記アに摘記した引用文献5の記載事項及び前記イに摘記した引用文献6の記載事項に示されるように、次の技術事項は周知技術(以下「周知技術1」という。)である。
[周知技術1]
「ひげぜんまいの製造方法として、基板として、シリコン活性層とシリコン基板の間に酸化シリコン層を形成したSOI基板を準備し、シリコン活性層をエッチングしてひげぜんまいを形成し、ひげぜんまいを含む活性層からシリコン基板と酸化シリコン層を除去してひげぜんまいを含むシリコン活性層のみの部分を得ること。」
(3) 引用文献2の記載事項及び周知技術2の認定
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された特開2016-173356号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は合議体が付したものである。
(ア) 段落【0001】~【0008】
「【技術分野】
【0001】
この発明は、機械式時計用部品等のシリコン製機械部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式時計は、歩度(一日あたりの時計の進み又は遅れの程度)を一定に保つために、ひげぜんまいとテン輪等によって構成する調速機構(てんぷ)が用いられている。ひげぜんまいは、優れた等時性を有するように設計され、そのひげぜんまいのバネ力によって、てんぷは規則正しく往復運動を行う。
【0003】
さらに、そのてんぷにはガンギ車とアンクルで構成される脱進機構が接続されており、ひげぜんまいからエネルギーが伝達されて、てんぷの往復運動が回転運動に変換される。
ひげぜんまいは、通常、金属を加工して形成されるが、加工精度のばらつきや金属が有する内部応力の影響などによって、設計通りの形状が得られない場合が多い。
【0004】
そこで、金属材料ではなく、シリコン材料を用いて、エッチング技術によってひげぜんまいを製造する提案がなされている。エッチング加工技術は、よく知られているように、シリコン材料を高精度に加工することが可能であり、一般的な金属によるひげぜんまいよりも加工精度のばらつきが少ないので、設計どおりの形状のひげぜんまいを製造することができる。
また、シリコンは金属よりも温度特性が良好なので、金属よりも環境温度に対して変形しにくいという特徴がある。
【0005】
しかしながら、シリコン等の結晶構造を有する材料は脆性材料であるので、それを用いたひげぜんまいは耐衝撃性や耐久性などに問題があった。
そのため、例えば特許文献1には、シリコン等の結晶構造を有する材料で形成したひげぜんまいの表面に、金属等の導電性材料層を成膜して機械的な強度を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-256290号公報(第4頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した方法でひげぜんまいの強度を高めるには、シリコン等をエッチング加工して形成したひげぜんまいの表面に、導電性材料層を均一に成膜する作業工程が不可欠となる。このような導電性材料層をひげぜんまいの表面に均一に形成することは難しく、ひげぜんまいの形状にばらつきが生じ、等時性が悪化してしまうことがある。また、ひげぜんまいの製造工程が複雑になり、量産性に大きな問題が生じる。
このような問題は、機械式時計に使用する他の部品、例えばガンギ車、アンクル、歯車等、あるいは一般の精密機器等に使用する機械部品をシリコン等で製造する場合にも、同様に生じる。
【0008】
この発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、機械式時計用部品等のシリコン製機械部品を、精度よく且つ充分な耐衝撃性及び耐久性を有するように、効率よく製造できるようにすることを目的とする。」
(イ) 段落【0034】~【0045】、【図12】
「【0034】
〔ひげぜんまいの製造方法の実施形態〕
そこで、この発明の一実施形態として、シリコン製機械部品であるひげぜんまいの製造方法を図12によって説明する。図12は、そのひげぜんまいの製造方法を説明するための工程図である。
この図12におけるひげぜんまい10は、図1のA-A線に沿う断面の図2に示した端面に相当するが、図示の便宜上大幅に簡略化して示している。
この実施形態のひげぜんまいの製造方法では、図12に示す(a)~(l)の工程を順に実行する。」
「【図12】
[図:0001420941000019.jpg]
」
「【0035】
(a)の工程では、シリコン基板20としてSOI(Silicon On Insulator)基板(「SOIウエハ」ともいう)を準備する。SOI基板は、シリコンウエハによる支持層21の上面に二酸化珪素(SiO2)によるエッチングストップ層であるボックス層22が、さらにそのボックス層22の上面にシリコン(Si)による活性層23が、順に積層された構造になっている。活性層23がひげぜんまいを形成するシリコン層である。
シリコン基板20として、SOI基板を使用せずに、単結晶シリコン基板の内部に、SiO2の層(ボックス層に相当)を形成し、単結晶シリコンの層でこのSiO2の層を上下(上が活性層、下が支持層に相当)から挟んだような基板を使用してもよい。
【0036】
(b)の工程では、シリコン基板20の活性層23上にさらに、エッチングマスクを形成するための二酸化珪素(SiO2)膜31を成膜する。
そして、(c)の工程で、その二酸化珪素膜31上の全面にフォトレジスト32を塗布し、それをフォトリソグラフィ技術によって、製造するひげぜんまいの平面形状にパターニングする。
【0037】
(d)の工程では、そのひげぜんまいの形状にパターニングされたフォトレジスト32をマスクとして二酸化珪素膜31をRIE技術によってエッチングし、製造するひげぜんまいの平面形状にパターニングする。
(e)の工程ではさらに、そのパターニングされた二酸化珪素膜31をエッチングマスクとして、深掘りRIE(Deep-RIE)技術によって、活性層23をひげぜんまい10の平面形状に、ボックス層22に達するまでエッチングする。
【0038】
その深掘りRIE技術は、エッチングガスとして六フッ化硫黄(SF6)や、それと八フッ化シクロブタン(C4F8)との混合ガスなどを使用する、アスペクト比が高いエッチングが可能なドライエッチングであるが、これは公知の技術である。
このとき、ひげぜんまい10は、その一部分が図1に示した接続部14によって、活性層23のエッチングされなかった部分に接続した状態で支持されている。シリコン基板20をこのように加工した状態を加工基板20Aとする。
【0039】
その後、(f)の工程で二酸化珪素膜31上のフォトレジスト32を除去する。ここまでの工程が、シリコン基板20をエッチング加工して、機械部品であるひげぜんまい10を形成する部品形成工程である。なお、ひげぜんまい10は、その一部分だけがシリコン基板20のエッチングされなかった部分に接続した状態で支持されるように、加工基板20Aを形成する。
ここまでは、シリコン基板をエッチング加工してひげぜんまいのような機械部品を製造する際の従来の工程と同様である。
【0040】
次の(g)の工程からがこの実施形態に特有の工程である。
(g)の工程では、加工基板20Aの支持層21の下面の全面にフォトレジスト33を塗布し、それをフォトリソグラフィ技術によって、少なくともひげぜんまい10に対応する全領域を含む大きさの開口33aを形成するようにパターニングする。
そして、(h)の工程で、開口33aを形成したフォトレジスト33をマスクとして、加工基板20Aの支持層21を、RIE技術又は深掘りRIE技術によってボックス層22に達するまでエッチングする。それによって、フォトレジスト33の開口33aと同じ大きさの開口21aを支持層21に形成する。この状態のシリコン基板を加工基板20Bとする。
【0041】
その後、(i)の工程でフォトレジスト33を剥離し、(j)の工程で、フッ酸によって加工基板20Bのボックス層22とマスクに使用した二酸化珪素膜31を除去する。ボックス層22は、支持層21と活性層23に挟まれた部分が、エッチングされずに僅かに残る。この状態のシリコン基板を加工基板20Cとする。
【0042】
この加工基板20Cでは、ひげぜんまい10が図1に示した接続部14のみによって活性層23と接続された片持ち状態で、支持層21の開口21a内にすべて露出する。そのため、ひげぜんまい10は自重と弾性によって、ひげ玉12を設けた中央部が最も低くなるように下がって若干傾斜するが、支持層21の開口21a内で下がるため、支持層21に接触することはない。
上記(g)~(j)の工程が、機械部品であるひげぜんまい10が加工基板20Cのひげぜんまい10以外の部分と接触しないように加工基板20Aを加工する工程である。
【0043】
この状態で、次の(k)の工程で、ひげぜんまい10を保持する加工基板20C全体を水素アニール処理用のチャンバー内に配置し、そのチャンバー内全体を高温の水素雰囲気にして水素アニール処理を行う。その処理条件として、例えば、水素(H2)ガスの流量を0.5slm、圧力を50kPaで、温度を800℃で5分→1100℃で15分→800℃で5分の処理を順次実施するとよい。
水素アニールの処理条件はこれに限るものではなく、求められる性能により800℃から1200℃程度の高温水素雰囲気中で、予め設定したガス流量、圧力、時間、例えばガス流量0.5~2slm、圧力5~100kPaで、15分~9時間ほどアニール処理を行うとよい。
【0044】
この水素アニール処理によって、ひげぜんまい10の表面のスキャロップ等の加工荒れが除去されて表面が平滑化し、角部に丸み(R)が付く。それによって、シリコンで形成されたひげぜんまい10の品質が向上し、耐衝撃性及び耐久性が高まる。
そして、ひげぜんまい10は水素アニール処理中、図1に示した接続部14以外は加工基板20Cのどこにも接触していないので、その全表面に均一に水素アニール処理を施すことができる。しかも、張り付きが発生することはない。
【0045】
そのため、(l)の工程で、図1に示した接続部14を切断すれば、加工基板20Cから、ひげ玉12を設けたひげぜんまい10を、損傷することなく分離して容易に取り出すことができる。
この工程が、機械部品であるひげぜんまい10を、活性層23と接続した部分(接続部14)を切断して加工基板20Cから分離する工程である。
このようにして、水素アニール処理によって角部にRを付けて強度を高めたシリコン製のひげぜんまいを、容易且つ確実に製造することができる。」
イ 周知技術2の認定
前記アに摘記した引用文献2の記載事項、前記(2)アで示した引用文献5の記載事項及び前記(2)イで示した引用文献6の記載事項に示されるように、次の技術事項は周知技術(以下「周知技術2」という。)である。
[周知技術2]
「ウェハからひげぜんまいの取り外しを、組み付け前の製造工程としては最後の工程で行うこと。」
2 対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 「計時器構成要素を製造する方法」の観点
(ア) 本願発明の「計時器構成要素」に関して、本願明細書の段落【0001】に「本発明は、シリコンで作られた、ひげぜんまい、アンクル、歯車、針、ロッカー、レバー、ばね、またはテンプなどの計時器構成要素」とあり、本願発明の「計時器構成要素」とはひげぜんまいを含むことから、引用発明の「ひげぜんまい5cを製作する方法31」は、本願発明の「計時器構成要素を製造する方法」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、「計時器構成要素を製造する方法」の発明である点において一致する。
イ 「ステップ a)」の観点
本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
本願発明は「第1のシリコン層(2)、第2のシリコン層(3)、およびその間の中間酸化シリコン層(4)を備える基板(1)を準備するステップ」を有するのに対して、
引用発明は当該ステップを有しない点。
ウ 「ステップ b)」の観点
(ア) 引用発明の「ステップ33」は、「シリコンベース材料ウエハ23内での化学エッチングにより得ることもでき」、「1つの材料ウエハ内で」「ひげぜんまいを形成して[いる]」ことから、「シリコンベース材料ウエハ23」を「エッチング」して「ウエハ内」に「ひげぜんまいを形成して[いる]」ステップであるといえる。
(イ) 前記アを踏まえると、このステップは本願発明の「前記第1のシリコン層(2)をエッチングして、内部に前記計時器構成要素を形成するステップ」と、「シリコン層(2)をエッチングして、内部に前記計時器構成要素を形成するステップ」である点で共通し、エッチングされるシリコン層が前記「ステップ a)」の「第1のシリコン層」ではない点で相違する。
エ 「ステップ c)」の観点
本願発明と引用発明は、次の点において相違する。
本願発明は「エッチングされたシリコン層(2)の少なくとも全てまたは一部によって形成されたウェハー(8)を前記基板(1)から離して計時器構成要素を構成するステップ」を有するのに対して、
引用発明は当該ステップを有しない点。
オ 「ステップ d)」の観点
(ア) 引用発明の「ステップ39」は、「第1の段階d1」と「第2の段階d2」とを含み、「第1の段階d1」の「熱酸化によって得ることができ[る]」「ひげぜんまい5aを酸化する」ことは、前記アを踏まえると、本願発明の「前記計時器構成要素を熱酸化[する]」ことに相当する。
(イ) 本願発明の「前記計時器構成要素を」、「脱酸するステップ」について、本願明細書の段落【0016】には、「所望の剛性のひげぜんまいを得るためにこの材料の厚さを除去する方法」に関するものであることが説明されている。
そうすると、前記「第2の段階d2」の「化学エッチングによって得ることができ[る]」「ひげぜんまい5bから酸化物を除去[する]」ことは、前記アを踏まえると、本願発明の「前記計時器構成要素を」、「脱酸する」ことに相当する。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記計時器構成要素を熱酸化し、次に脱酸するステップ」を含む点。
カ 「ステップ e)」の観点
(ア) 引用発明の「ステップ41」は、「熱酸化によって」「ひげぜんまい5cを二酸化シリコンで被覆」するステップであるといえ、これは前記アを踏まえると、本願発明の「熱酸化」「によって、前記計時器構成要素上に酸化シリコン層(10)を形成するステップ」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「熱酸化または堆積によって、前記計時器構成要素上に酸化シリコン層を形成するステップ」を有する点。
キ 「ステップ f)」の観点
(ア) 引用発明は「ステップ39の後、…ステップ35、37及び39のこれらの繰返しは、…第2の繰返しにおいて、ウエハ23から前もって取り外した、第1の繰返しを受けているひげぜんまいに対し実施する」ものであり、このうち「ウエハ23から前もって取り外[す]」工程は、前記アを踏まえると、本願発明の「前記ウェハー(8)から前記計時器構成要素を切り離すステップ」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記ウェハーから前記計時器構成要素を切り離すステップ」を含む点。
ク 「ステップの順番」の観点
(ア) 引用発明の「ステップ33」、「ステップ39」、「ステップ41」はこの順番で実施されていることは明らかであり、これは前記ウ、オ及びカを踏まえると、「ステップ b)」、「ステップ d)」、「ステップ e)」が「以下の順番」で含まれることに相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、「ステップ b)」、「ステップ d)」、「ステップ e)」がこの順番で実施される点で一致し、その他のステップの順番で相違する。
(2) 一致点及び相違点の認定
上記(1)の対比分析の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次のアに示す一致点において一致し、後記イに示す相違点において相違する。
ア 一致点
「計時器構成要素を製造する方法であって、b)、d)、e)が以下の順番で実施され、
b)シリコン層をエッチングして、内部に前記計時器構成要素を形成するステップと、
d)前記計時器構成要素を熱酸化し、次に脱酸するステップと、
e)熱酸化または堆積によって、前記計時器構成要素上に酸化シリコン層を形成するステップと、
f)前記ウェハーから前記計時器構成要素を切り離すステップと、
を含む、方法。」である点。
イ 相違点
(ア) 相違点1(「ステップ a)~c)」及び「ステップの順番」の観点)
本願発明においては、「第1のシリコン層(2)、第2のシリコン層(3)、およびその間の中間酸化シリコン層(4)を備える基板(1)を準備するステップ」を含んでおり、ステップb)c)で処理されるシリコン層は「前記第1のシリコン層(2)」であるのに対して、
引用発明においては、「ひげぜんまい」を構成する「シリコンベース材料ウエハ23」として、そのような構造の基板を最初に準備するステップを有していない点。
(イ) 相違点2(「ステップ c)」及び「ステップの順番」の観点)
本願発明においては、「エッチングされたシリコン層(2)の少なくとも全てまたは一部によって形成されたウェハー(8)を前記基板(1)から離して計時器構成要素を構成するステップ」を有するのに対して、
引用発明においては、ステップの順番も含め、当該構成を有しない点。
(ウ) 相違点3(「ステップ f)」及び「ステップの順番」の観点)
本願発明においては、「ステップ e)」「熱酸化または堆積によって、前記計時器構成要素上に酸化シリコン層を形成するステップ」の後に「ステップ f)」「前記ウェハー(8)から前記計時器構成要素を切り離すステップ」が行われているのに対して、
引用発明においては、「段階e1」の「ひげぜんまい5cを酸化してひげぜんまい5cを二酸化シリコンで被覆[する]」前にウエハ23からひげぜんまいが取り外される点。
3 判断
(1) 相違点1及び2について
「ひげぜんまいの製造方法として、基板として、シリコン活性層とシリコン基板の間に酸化シリコン層を形成したSOI基板を準備し、シリコン活性層をエッチングしてひげぜんまいを形成し、ひげぜんまいを含む活性層からシリコン基板と酸化シリコン層を除去してひげぜんまいを含むシリコン活性層のみの部分を得ること」は本願の優先日前に周知技術である(前記1(2)ウの「周知技術1」参照)。
そして、引用発明の「ひげぜんまい」を形成する工程の一部として、前記周知技術1を採用することは、当業者が容易になし得たものである。またシリコン基板と酸化シリコン層を除去する際に、その一部を残すようにするか(引用文献5の【0058】及び【図3H】を参照。)、全体を切り離すようにするか(引用文献6の【0059】及び【図3】(f)を参照。)は、その後の部材の取り扱いの便宜などを考慮して当業者が適宜選択すべき設計事項である。
したがって、引用発明の「ひげぜんまい」の製造方法として、本願発明のステップa)~c)の順番で製造することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 相違点3について
「ウェハからひげぜんまいの取り外しを、組み付け前の製造工程としては最後の工程で行うこと」は、本願の優先日前に周知技術であり(前記1(3)イの「周知技術2」参照。)、引用発明において、最終工程を含めたどのタイミングでひげぜんまい5aをウエハ23から取り外すかは、後の製造工程における部材の取り扱いの便宜などを考慮して当業者が適宜決定すべき設計事項にすぎない。
(3) 総合評価
前記(1)及び(2)において検討したとおり、相違点1~3は、引用発明及び周知技術1~2に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
そして、相違点1~3を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果としては、当業者にとって予測困難であり、かつ、格別顕著なものを認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術1~2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 請求人の主張について
ア 請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において、おおよそ次の(ア)及び(イ)について主張している。
(ア) 引用発明に記載の方法は、単なるシリコンウエハをエッチングしてひげぜんまいを得るものであり、本願発明のような、第1のシリコン層、第2のシリコン層及び中間酸化シリコン層を備える基板を準備するステップa)を備えていない。したがって当然に、引用文献3には、第1のシリコン層をエッチングして計時器構成要素を構成するステップb)も、第1シリコン層の少なくとも全てまたは一部によって形成されたウェハーを基板から離して計時器構成要素を構成するステップc)も開示されていない。
(イ) 引用発明の方法では、ウエハ23からひげぜんまいを切り離すステップが開示されているが、このステップは、本願発明1とは異なり、ひげぜんまいをウエハから切り離すステップは、ステップ41の前に行われる。引用文献3の段落番号0057に記載されるように、ステップ35,37,39の最後の繰り返しの際にはひげぜんまいをウエハ23から取り外して行うので、続くステップ41では、熱酸化によってひげぜんまいに温度補償二酸化シリコン層を形成する工程は、ウエハから取り外されたひげぜんまいに対して行われる。これに対して、本願発明では、ステップf)は、ステップe)の後に行われる。酸化工程の後に計時器構成要素を切り離すことは、方法の実施を著しく改善して容易にする。特に、各処理の間、同じ時間だけ全ての計時器構成要素を一つの支持部品で支持することができる。また、重力や熱の影響による計時器構成要素の永久変形の防止が容易になる。
引用文献1,2及び5にも、本願発明のような、e)熱酸化または堆積によって、前記計時器構成要素上に酸化シリコン層(10)を形成するステップの後に、f)前記ウェハー(8)から前記計時器構成要素を切り離すステップを有する構成は開示されていない。
イ 請求人の主張についての検討
(ア) 上記1(2)イで認定したように、「ひげぜんまいの製造方法として、基板として、シリコン活性層とシリコン基板の間に酸化シリコン層を形成したSOI基板を準備し、シリコン活性層をエッチングしてひげぜんまいを形成し、ひげぜんまいを含む活性層からシリコン基板と酸化シリコン層を除去してひげぜんまいを含むシリコン活性層のみの部分を得ること」は周知技術であって、引用発明に当該周知技術を採用することに困難性は認められない。
(イ) 上記3(2)で説示したように、ウエハからひげぜんまいをどのタイミングで取り外すかは、後の製造工程における部材の取り扱いの便宜などを考慮して、当業者が適宜決定すべき設計的事項にすぎず、請求人の主張する効果も格別のものとは認められない。
よって、前記主張は認められない。
第5 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1~2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-015300