特許拒絶査定不服審判
2023-017006
特に時計ムーブメント用の石、及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-017006
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-503517
- 請求日
- 2023年10月06日
- 審決日
- 2025年01月17日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コマディール・エス アー
- 【請求人代理人】山川 茂樹
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 貝沼 憲司
- 審判官 小島 寛史
- 分類
- P18 .575-Z (G04B) / P18 .121-Z (G04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項、特許法第159条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-503517「特に時計ムーブメント用の石、及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和3年2月4日国際公開、WO2021/018464、令和4年9月22日国内公表、特表2022-541286〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)6月16日を国際出願日とする外国語特許出願(優先権主張 2019年7月26日 欧州)であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。以下、2019年7月26日を「優先日」という。
令和4年 1月18日 :翻訳文の提出
令和5年 1月10日付け :拒絶理由通知書
同年 4月24日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 5月19日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
(6月 6日 :原査定の謄本の送達)
同年10月 6日 :審判請求書及び手続補正書の提出
第2 令和5年10月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年10月6日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の概要
令和5年10月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正であって、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の請求項1
「【請求項1】
Al2O3を含む単結晶型の鉱物体(10、20)又はAl2O3Cr型のポリルビー若しくはZrO2型のジルコニアを含む多結晶型の鉱物体(10、20)から、計時器用の石(30)を製造するための方法(1、5)であって、該方法は、アブレーションステップ(3、11)を含み、該ステップ中、前記物体(10、20)に、超短パルスレーザ照射を使用して、前記物体の少なくとも一面をスキャンすることによって少なくとも前記物体に対する垂直な切込みを含む材料アブレーションを施すが、前記レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、前記レーザ照射の光線を、前記垂直な切込みを得るよう前記レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内することを特徴とする、方法。」
(2) 本件補正後の請求項1
「【請求項1】
Al2O3を含む単結晶型の鉱物体(10、20)又はAl2O3Cr型のポリルビー若しくはZrO2型のジルコニアを含む多結晶型の鉱物体(10、20)から、計時器用の合成石(30)を製造するための方法(1、5)であって、該方法は、アブレーションステップ(3、11)を含み、該ステップ中、前記物体(10、20)に、超短パルスレーザ照射を使用して、前記物体の少なくとも一面をスキャンすることによって少なくとも前記物体に対する垂直な切込みを含む材料アブレーションを施すが、前記レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、前記レーザ照射の光線を、前記垂直な切込みを得るよう前記レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内することを特徴とする、方法。」
2 本件補正の目的について
(1) 本件補正による請求項1についての補正は、「石」について、「合成石」に限定をするものである。
(2) そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
(3) したがって、本件補正による請求項1についての補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
3 独立特許要件について
本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか否か、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明の認定等
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
本件補正後の請求項1を次のとおり構成Xと構成A及び構成Bに分説するとともに、参考図として本願の図5を符号の説明とともに示す。また、読みやすいように改行を適宜入れた。
本件補正発明の分説
構成A Al2O3を含む単結晶型の鉱物体又はAl2O3Cr型のポリルビー若しくはZrO2型のジルコニアを含む多結晶型の鉱物体から、
構成X 計時器用の合成石を製造するための方法であって、
構成B 該方法は、アブレーションステップを含み、
該ステップ中、前記物体に、超短パルスレーザ照射を使用して、前記物体の少なくとも一面をスキャンすることによって少なくとも前記物体に対する垂直な切込みを含む材料アブレーションを施すが、
前記レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、
前記レーザ照射の光線を、前記垂直な切込みを得るよう前記レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内することを特徴とする、方法。
<参考図>
「【図5】
[図:0001424076000001.jpg]
14 孔 27 リム
15a 下部分 28 受石用座面
15b 上部分 29 中央ゾーン
21 凸形状領域 30 石
22 周壁 31 内面
25 上面
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本件補正発明の技術上の意義の概略を理解するために、本件補正発明が解決しようとする課題及び本件補正発明の作用効果等に関連する本願明細書の発明の詳細な説明の記載の一部を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。
(ア) 【0001】~【0011】
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に時計ムーブメント用の石を製造する方法に関する。
【0002】
また、本発明は、リムを備えた、石、特に軸受にも関する。
【0003】
また、本発明は、かかる石を含む時計ムーブメントにも関する。
【背景技術】
【0004】
時計製造の現状技術では、ルビー又はサファイアの種類の石が、計時器でブッシュと呼ばれる受石又は案内要素を形成するのに特に使用されている。これら受石及び案内要素は、ピボットを回動可能にし、且つこの回動を最小限の摩擦で行うために、ピボットと接触するように意図されている。従って、受石及び案内要素は、例えば、回転するよう取付けられる軸の軸受の全て又は一部を形成する。一般に、案内要素は、ピボットピンを挿入するための貫通孔を含む。
【0005】
原則として、合成石が時計ムーブメントに使用される。特に、ベルヌイ式方法が、単結晶型の石を製造するのに知られている。多結晶型の石もあり、そうした石は、加圧ツールから将来の石のグリーン体を得るために前駆体を加圧することによって、製造される。その後、石は、所望する寸法の完成形状を得るように機械加工される。
【0006】
特に、多結晶石製の案内要素について、加圧ツールは、例えば、粗孔を作成する際に用いるワイヤを備える。単結晶型の石は、まず粗孔を得るためにレーザ穿孔される。その後、孔の最終寸法を、機械加工によって得る。
【0007】
しかしながら、これらの石を機械加工する技術では、石が単結晶であろうと多結晶であろうと、全ての所望する形状を得られるわけではない。実際、従来の機械加工では、一部の形状について十分に正確にはならない。特に、石の表面を、単なる粗孔又は凹部ではなく、後で仕上げをしてからではないと、機能させることは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2017/029210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特定の形状を作製可能で、表面を正確に機能可能にする石を製造する方法を提案することによって、前述した欠点の全て又は一部を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、本発明は、単結晶型の鉱物体又は多結晶型の鉱物体から、特に計時器用の石を製造するための方法であって、該方法は、アブレーションステップを含み、該ステップ中、該物体に、超短パルスレーザ照射を使用して、該物体の少なくとも一面をスキャンすることによって材料アブレーションを施すが、レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、レーザ照射の光線を、該レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内することを特徴とする方法に関する。
【0011】
従って、石から極めて正確に材料を除去でき、その結果、現状技術から既知のレーザ法では形成できない形状や表面を得ることが可能である。かかる装置は、レーザ光線を、高精度でレーザ光線を合焦できる一方で、レーザの合焦によるレーザの円錐角度を少なくとも部分的にキャンセルすることができる。実際、この合焦は、レーザを円錐形状で生成し、レーザ局所点で全高に亘って同一の直径にすることを可能にしないため、本発明の材料アブレーションを可能にしない。この装置により、光線の少なくとも一方側で円錐の角度をキャンセルでき、これにより、特に、垂直な切込みを得ることできる。これらの垂直な切込みは、従来の切断用レーザでは得られない。」
(イ) 【0034】~【0039】
「【発明を実施するための形態】
【0034】
以上で説明したように、本発明は、計時器の案内要素を形成する可能性が高い石を製造する方法に関する。この石は、例えば、ピボットを最小限の摩擦で回動可能にするために、ピボットと接触するように意図されている。そのため、本発明により、回転するよう取付けられる軸の軸受の全て又は一部を形成できる石を特に作製可能になると考えられる。
【0035】
石を、鉱物体から形成し、該鉱物体を、第1実施形態では、単結晶型とし、第2実施形態では、多結晶型とする。単結晶に関しては、物体は、例えば、AL2O3を含み、多結晶に関しては、物体は、例えば、al2O3Cr型のポリルビー又はZrO2型のジルコニアを含む。実施形態により、鉱物体を得るための方法は異なる。
【0036】
図1で表した方法1の第1実施形態では、方法1は、時計製造の分野で周知のベルヌイ式方法によって結晶性鉱物体を製造する第1ステップ2を含む。材料を、酸水素灯によって2000℃以上で溶かした粉末から形成する。鉱物体は、融点以下に冷却した後に、結晶化する。鉱物体を、特に今後の機械加工を容易にするために、所望する寸法に近い寸法を得るように寸法取りする。
【0037】
本発明によると、第1実施形態は、石を最終形状にするための第2レーザアブレーションステップ3を含む。レーザアブレーションステップについては、詳細な説明で後述する。最後に、第3仕上げステップ4により、石を、その石の使用に適合する表面状態にできる。例えば、表面状態Ra=0.025μmを得るようとする者もある。従って、かかる仕上げステップとして、最終寸法の調整、及び/又は隆起部の除去、及び/又は凸凹の局所的な修正を可能にするラップ仕上げ及び/又はブラシ仕上げ及び/又は磨き仕上げを含むことができる。
【0038】
図2で表した、本方法の第2実施形態5では、かかる方法は、バインダと少なくとも1つの粉末材料との混合物から前駆体を作る第1ステップ6を含む。この材料を、非限定的で非包括的に、セラミックとすることができる。このステップは、バインダで凝固させたセラミック系粉末から前駆体を形成するように意図される。
【0039】
これに関連して、セラミック系粉末は、少なくとも1つの金属酸化物、1つの金属窒化物又は1つの金属炭化物を含んでもよい。例えば、セラミック系粉末は、合成サファイアを形成するのにアルミニウム酸化物を、又は合成ルビーを形成するのにアルミニウム酸化物とクロム酸化物の混合物を、或いはまた酸化ジルコニウムを、含んでもよい。さらに、バインダは、例えば高分子系又は有機系等の様々な性質のものとすることができる。」
(ウ) 【0047】~【0056】、【図6】、【図7】
「【0047】
第2実施形態は、石を最終形状にするために、第5レーザアブレーションステップ11を含む。
【0048】
最後に、第6仕上げステップ12により、石を、石の使用に適合する表面状態にすることができる。従って、かかる仕上げステップとして、最終寸法の調整、及び/又は隆起部の除去、及び/又は凸凹の局所的な修正を可能にするラップ仕上げ及び/又はブラシ仕上げ及び/又は磨き仕上げを含むことができる。
【0049】
両実施形態は、実施形態に応じて、単結晶又は多結晶の一体物を提供する。
【0050】
本発明によると、レーザアブレーションステップ3、11中、物体に、超短パルスレーザ照射を使用して、物体の少なくとも一面をスキャンすることによって材料アブレーションを施すが、このレーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、このレーザ照射の光線を、レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内する。かかる装置は、例えば、国際公開第2017/029210号(特許文献1)に記載されている。レーザの円錐角度を少なくとも部分的にキャンセル可能な様々な種類の装置がある。5又は6軸の歳差運動方式を使用する装置もある。
【0051】
このように、レーザ光線は、石の表面を陥凹し、特定の形状にできるように、少なくとも1つの実質的に直線縁を有する。アブレーションを層毎に、物体の領域をレーザスキャンしながら実行して、その領域を陥凹する。各層の厚さは、例えば、1~10μmの範囲内、好適には、2~4μmの範囲内である。所望する形状を得るまで、材料を、層毎に除去する。
【0052】
レーザの波長は、例えば、400~600nm、好適には、450~550nm、より好適には500nmの範囲内でもある。パルスの持続時間は、ピコ秒未満であり、例えば、200~400フェムト秒、好適には、250~350フェムト秒、より好適には280~300フェムト秒の範囲内でもある。かかる特徴により、石を形成する材料の特性に影響を与えずに、物体を陥凹させることができる。
【0053】
図5及び図6で得た石で示すように、本方法により、石30の上面25に周囲リム27を得るように、物体20を特に陥凹させることができる。物体20の表面25を、該上面25の縁をそのまま残して、中央ゾーン29で層毎に陥凹する。レーザを数回通過させ、特定数の層を除去すると、リム27が形成される。この方法とレーザ装置により、リム27が得られ、該リムの内面31は、真直ぐで寸法精度が高い。リム27の高さは、除去した層の数と該層の厚さに依存する。石は、例えば、厚さ0.18mm、直径0.8mmであり、0.02~0.08mmのリムを有する。」
「【図6】
[図:0001424076000002.jpg]
」
「【0054】
また、本方法を使用して、部分的に上面25の凸形状21を形成できる、及び/又は幾つかのレベルを持つことができる。図5又は図6では、リム27を形成するために陥凹させた領域29は、受石用座面28を含み、該座面28から孔14まで凸形状を有する。座面28は、凸形状領域21より高くし、それにより受石が、この部分にのみ載置され、凸形状領域21の他の凸形状部には載置されないようにする。凸形状にすることで、受石の出来るだけ近くに、ピボットに対するのと同様に、貫通孔を有することができる。
【0055】
かかるリム27を有する上面により、例えば、図7で示したように、石の上面に配置された要素が側方に動くのを妨げる。石30を案内要素として使用する、てんぷ軸用軸受の場合、受石の石35を、座面28上に載置しながら、リム27の内面31によって横方向に動くのを妨げるように、配設できる。受石を、レーザアブレーションを施した石の領域29に対応するように寸法取りする。この要素は、ハウジング内に、受石の軸方向及び径方向の支持体を形成する。受石35を案内要素30内に嵌合して、受石35を軸方向に支持し、横方向に保持する。」
「【図7】
[図:0001424076000003.jpg]
」
「【0056】
このようにして、案内要素と受石を含む組立体を入手する。両方共、特にダンパ軸受で使用できる。かかる案内要素により、軸受内に案内要素を保持する嵌め込み台の必要がなくなる。」
(2) 引用文献1~4の記載事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された、優先日前に発行された文献である特表2008-501534号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は合議体が付したものであり、後記(イ)の「引用発明の認定」において直接用いる記載を示している。
a 【特許請求の範囲】
「【請求項1】
マイクロ機械部品またはナノ機械部品の製造方法であり、時間が5×10-13秒未満であり、レーザービーム-材料の相互作用面に対するパワーが1012ワットを超えるパルスレーザーを用いたレーザー切断過程によることを特徴とする部品の製造方法。
【請求項2】
時計製造業を対象とする部品の製造のために実施される、請求項1に記載の製造方法。」
b 【0001】~【0012】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ機械部品およびナノ機械部品の製造方法に関するものである。
【0002】
本発明はまた、この方法によって製造された部品にも関するものであり、該部品は、時計製造業における応用、あるいは時計製造業以外でも、たとえば、測定機器、光学機器、光電子工学機器の領域、または、生物由来物質の切断を除く、高い加工精度を必要とするその他の領域における応用を目的としたものである。
【0003】
本発明はまた、とりわけ時計製造への応用について、ベルト、プーリー、歯車などのような動力伝達機構の製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0004】
国際公開第04/006026号パンフレットには、動力伝達機構としてプーリーおよびベルトを用いる腕時計のムーブメントが記載されている。歯車、あるいは、同期または非同期であるその他のタイプの動力伝達機構を備えた腕時計のムーブメントは広く知られている。しかし、このようなムーブメントの構成要素を小型化することが常に必要である。
【0005】
これらのさまざまな動力伝達機構の製造は、用いようとする寸法および材料のために厳しい制約を受ける。構造および精度という意味での要求が厳しいのである。したがって、サイズが小さく、非金属材料、ポリマー材料、有機材料、あるいは混合材料で作られることの多い、ベルトのような柔軟な機械的動力伝達要素、または柔軟あるいは剛性の機械的機構の製造は、重大な困難を呈することになる。機構の寸法は2ミリメートル未満であることが多く、歯車の歯のピッチは2ミリメートル未満、さらには100分の1ミリメートルの単位である。
【特許文献1】国際公開第04/006026号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
…(中略)…
【0009】
パワー・レーザーによる部品の加工方法は先行技術で知られている。連続型または「長い」パルス型(500フェムト秒を越える)のYAGダイオードレーザーまたはCO2レーザーダイオードを利用することは、ポリマー用の金属またはエキシマーのような材料の加工においては比較的古典的である。これらの方法は、小さな寸法で作業するとき、または衝撃や熱応力に耐えられない材料を扱うときに制限される。実際、パルスレーザー、または連続レーザーを受けている間の材料における熱伝導が切断ゾーンの精度を制限することが確認されている。また、通常のレーザーによる切断ゾーンはビームの円筒形の形状に対応しており、このことが加工できる形状を制限している。加工深度はビームの出力および材料の特徴に依存しており、制御するのが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の方法は、超短パルスレーザーを用いた材料の切断による、小さな寸法の機構の加工に基づいている。特に、本発明は、時間が500フェムト秒(5×10-13秒)未満、レーザービーム-材料の相互作用面に対するパワーが1012ワットを超えるパルスレーザーを用いた切断に基づいている。このようなパルスレーザーは、以下でフェムトレーザーと称する特殊なレーザーによって生成される。
【0011】
フェムトレーザーはそれ自体既知であり、その技術も今日では熟知されているため、これらの機器は小型、多機能であり、信頼性がある。これらのレーザーは多様化し続けている。すなわち、今日得られるビームはすべての電磁スペクトル、X線からT線(赤外線の上位に位置するテラヘルツ光線)をカバーし、最大出力はペタワット(数十億メガワット)に達している。これらの装置はとりわけ、物理学、化学、生物学、医学、光学の分野で応用されている。
【0012】
フェムトレーザーのパルスの長さが極度に短いことから、該装置によってマイクロスコープレベルまたは原子レベルで成される超高速現象の研究が可能となっている。さらに、非常に強力なパワーをパルスの短い時間の間に生み出すことができ、核融合反応で見られる条件に匹敵することの多い、極度の条件が創出される。」
b 【0028】~【0046】、【図1】、【図面の簡単な説明】
「【0028】
本発明を実施するための装置
図1は、ここでは、動きまたはパワーを伝達するための同期または非同期の動力伝達機構である、部品10の製造装置を示しており、該装置は、以下のものを含んでいる。」
「【図1】
[図:0001424076000004.jpg]
【図1】同期/非同期動力伝達機構の加工に適合化された、本発明の方法による部品の製造装置を示す図である。」
「【0029】
この実施例では、プログラム可能な6本の軸(A、B、C、X、Y、Z)と、固定手段12(たとえばフランジ、粘着剤、磁石、真空固定のようなシステムなど)を備えた作業面11があり、該作業面は、軸が、遊び部分を詰める、または補う手段を備えた、情報機器17によって実行されるマイクロメーター単位の加工ロボット・プログラムによって操縦される。
【0030】
とりわけ、たとえば3DによるCADのような三次元のモデル化ソフトウェアを備えた情報機器13。
【0031】
焦点ゾーン(D)に集中したビーム16を放射することを可能にする光ヘッド15を含んだ、フェムトタイプの超短パルスレーザー14。
【0032】
移動のコントロール用/ 操縦用の情報機器17。
【0033】
加工方法情報機器13は、たとえばパーソナルコンピュータまたはワークステーションで構成することができ、該情報機器によって、加工すべき部品の三次元モデルを生成し、保存することを可能にするソフトウェアを実行し、そして、この三次元モデルに基づいた加工プログラムを生成することが可能になっている。
【0034】
加工プログラムは装置の軸を移動させる一連の命令を具備しており、部品の加工を可能にする三次元の経路にしたがって、フェムトレーザーの焦点ゾーンを移動させるようになっている。経路の生成は補間に基づいており、スライド・ピッチのサイズはとりわけ、要求される速度、精度および表面状態によって決定される。加工プログラムは一度だけで決定され、複数の同一部品の加工に応用することができる。
【0035】
コントロール/操縦用の情報機器17は加工プログラムを実行するものであり、たとえば、数値制御または産業用PCで構成することができ、該数値制御または産業用PCによって、モーターまたは軸の作動装置に命令し、レーザー14、関連する光学機器および/または加工すべき部品の移動軸の平行移動および回転移動を命令し、加工すべき部品10の照射ゾーンDの相対的な位置を修正できるようになっている。このように、情報機器17は、要求される精度と速度で軸の動きをかみ合わせる電気変速機および電気作動装置で構成されるパワー制御機構に向けて命令を出す。
【0036】
空間の六本の軸(A、B、C、X、Y、Z)にしたがった回転移動と平行移動の組み合わせによって、複雑であっても、あらゆる部品10を実際に加工することが可能になる。
【0037】
部品10、たとえばマイクロ-ベルトによる同期/非同期の動力伝達機構の製造方法は、とりわけ、たとえば以下の過程を含んでいる。
…(中略)…
【0045】
-材料に応じた時間、好ましくは500fs(5×10-13秒)未満の時間と、材料に応じた強度で、超短パルスのフェムトレーザーを調整する過程。
【0046】
-加工プログラムを起動し、フェムトレーザーによって部品10を加工する過程。加工プログラムは、照射ゾーンが通る連続する、または、不連続の経路に沿った一連のパルスレーザーを生成することで、照射されるゾーンの切断を引き起こすようになっている。切断ゾーンの経路、つまり加工すべき形状は、3DによるCADの平面で規定された構造に基づいて記述される。時間のピッチは、切断条件が最適化されるように加工材料と加工深度に応じて決定される。」
c 【0161】~【0162】
【0161】
最後に、多くのセラミックスも本発明の方法で加工することができる。セラミックスは、焼結アルミナタイプ、シリカタイプ、シリカ-アルミナまたはシリカ-マグネシウム化合物タイプ(コージライト、ムライト、ステアタイト)および、より広くは酸窒化物タイプ、サイアロンタイプ、炭化物タイプの、多結晶または多相あるいは合成の天然原料で構成される。好ましい材料は有機マトリクス、金属マトリクスあるいはセラミックマトリクスの内部に散在していえる単結晶の短い繊維である。金属炭化物のウィスカならびにSiCまたはSi3N4のような有機金属の先駆物質など、これらの材料は乾式プレス、熱可塑性噴射、連続鋳造などによって利用することができる。
【0162】
主要なセラミックスとしては、網羅的というわけではないが、アルミナAl2O3、アルミナ/シリカ(Al2O3 80/SiO2 20)、アルミナ/シリカ(Al2O3 96/SiO2 4)-Saffil(登録商標)、アルミナ/シリカ/酸化ホウ素(Al2O3 70/SiO2 28/B2O 2)、アルミナ/シリカ/酸化ホウ素(Al2O3 62/SiO2 24/B2O 14)、カリウム・白雲母・雲母のアルミナケイ酸塩、炭化ホウ素B4C、炭化ケイ素SiC、反応で結合された炭化ケイ素SiC、熱プレスされた炭化ケイ素SiC、炭化タングステン/コバルト(WC94/Co6)、加工可能なガラスのセラミックス(SiO2 46/Al2O3 16/MgO 17/K2O 10/B2O3 7)、透過性セラミックス(SiO2 50/ZrSiC 40/Al2O3 10)、二ホウ化チタンTiB2、二酸化チタンTiO2 99.6%、酸化マグネシウムMgO、窒化アルミニウムAlN、Shapal-M( 登録商標)で加工可能な窒化アルミニウム、窒化ホウ素BN、窒化シリコンSi3N4、反応結合した窒化シリコンSi3N4、熱プレスされた窒化シリコンSi3N4、窒化シリコン/窒化アルミニウム/アルミナ、サイアロン、酸化亜鉛/アルミナ(ZnO98/Al2O3 2)、酸化イットリウムY2O3、酸化ベリリウムBeO99.5、溶解水晶SiO2、ルビーAl2O3/Cr2O3/Si2O3、サファイアAl2O3 99.9、アルミナケイ酸塩(SiO2 53/Al2O3 47)、シリカSiO2 96、アルミノケイ酸ガラス(SiO2 57/Al2O3 36/CaO/MgO/BaO)、安定していないジルコンZrO2 99、イットリアで安定したジルコンZrO2/Y2O3、マグネシアで安定したジルコンZrO2/MgOなどがあげられる。」
(イ) 引用発明の認定
前記(ア)の引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、括弧内に認定の根拠となる記載箇所を示した。
[引用発明]
「マイクロ機械部品またはナノ機械部品の製造方法であり、時間が5×10-13秒未満であり、レーザービーム-材料の相互作用面に対するパワーが1012ワットを超えるパルスレーザーを用いたレーザー切断過程による部品の製造方法であって、(【請求項1】)
時計製造業を対象とする部品の製造のために実施されるものであり、(【請求項2】)
動きまたはパワーを伝達するための同期または非同期の動力伝達機構である部品10の製造装置を用い、(【0028】)
前記製造装置は、
プログラム可能な6本の軸(A、B、C、X、Y、Z)と、固定手段12(たとえばフランジ、粘着剤、磁石、真空固定のようなシステムなど)を備えた作業面11があり、該作業面は、軸が、遊び部分を詰める、または補う手段を備えた、情報機器17によって実行されるマイクロメーター単位の加工ロボット・プログラムによって操縦され、(【0029】)
焦点ゾーン(D)に集中したビーム16を放射することを可能にする光ヘッド15を含んだ、フェムトタイプの超短パルスレーザー14を有し、(【0031】)
加工プログラムは装置の軸を移動させる一連の命令を具備しており、部品の加工を可能にする三次元の経路にしたがって、フェムトレーザーの焦点ゾーンを移動させるようになっており、(【0034】)
コントロール/操縦用の情報機器17は加工プログラムを実行するものであり、数値制御または産業用PCで構成することができ、該数値制御または産業用PCによって、モーターまたは軸の作動装置に命令し、レーザー14、関連する光学機器および/または加工すべき部品の移動軸の平行移動および回転移動を命令し、加工すべき部品10の照射ゾーンDの相対的な位置を修正できるようになっており、(【0035】)
空間の六本の軸(A、B、C、X、Y、Z)にしたがった回転移動と平行移動の組み合わせによって、複雑であっても、あらゆる部品10を実際に加工することが可能になるものであり、(【0036】)
当該製造方法は、
-材料に応じた時間、好ましくは500fs(5×10-13秒)未満の時間と、材料に応じた強度で、超短パルスのフェムトレーザーを調整する過程と、(【0045】)
-加工プログラムを起動し、フェムトレーザーによって部品10を加工する過程であって、加工プログラムは、照射ゾーンが通る連続する、または、不連続の経路に沿った一連のパルスレーザーを生成することで、照射されるゾーンの切断を引き起こす過程と、を有し、(【0046】)
本方法では、
多くのセラミックスも加工することができ、セラミックスは、焼結アルミナタイプ、シリカタイプ、シリカ-アルミナまたはシリカ-マグネシウム化合物タイプ(コージライト、ムライト、ステアタイト)および、より広くは酸窒化物タイプ、サイアロンタイプ、炭化物タイプの、多結晶または多相あるいは合成の天然原料で構成され、(【0161】)
主要なセラミックスとしては、ルビーAl2O3/Cr2O3/Si2O3、サファイアAl2O3 99.9、安定していないジルコンZrO2 99、イットリアで安定したジルコンZrO2/Y2O3、マグネシアで安定したジルコンZrO2/MgOなどがあげられる、(【0162】)
部品の製造方法。」
イ 引用文献2の記載事項及び引用文献2記載技術事項の認定
(ア) 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された、優先日前に発行された文献である特表2018-530437号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は合議体が付したものである。
a 【0001】~【0004】
「【技術分野】
【0001】
第1の態様によれば、本発明は、機械加工装置に関し、特に、光により対象物の機械加工を行う機械加工装置に関するものである。第2の態様によれば、本発明は、光ビーム、好ましくはレーザービームにより対象物又は物質片の機械加工を行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、部品の機械加工には、レーザービームなどの光ビームを用いることができる。実際には、対象物の物質を融解又は蒸発して、穴や、例えば、彫刻デザインを作成したり、要素を二つに分割したりすることができる。
【0003】
レーザービームにより、線に沿って対象物の機械加工や彫刻を行う装置もある。このような装置は、「1D機械加工装置」と呼ばれることもある。用途によっては、機械加工により対象物に穴を開けることができる装置が望ましい。
【0004】
レーザービームが対象物にその表面と垂直に当たる場合、穴や切り口の側面は、その表面と完全に垂直にはならず、通常、そのビームが向けられた表面の法線に対して約4°の角度にオフセットされている。用途によっては、例えば、時計製造など、精密機器の用途において、ある特定の非常に耐性の低い部品にとって、このように処理中の表面に対して側面がずれることは好ましくはない。一つの解決法としては、レーザービームを対象物表面の法線に対して少し傾ける、一般的には、4°より大きい角度に傾ける。」
b 【0026】
「【0026】
可能な一好適実施例によれば、可動ミラーは、その法線に対する割線である回転軸を中心に完全に回転することができ、駆動手段は、そのミラーに回転軸を中心とした回転運動をさせることができる。つまり、本好適な実施例によれば、ミラーは、回転軸を中心に完全な回転(360°)を描くことができる。本好適な実施例では、駆動手段は、回転軸を中心としたミラーの完全な回転又は回転運動を発生させることができる。そして、駆動手段は、「ブラシレス」タイプの電気モータを備えていることが好ましい。集束手段より上流側では、本好適な実施例によれば、出射光ビームは、通常、円柱面を描き、ミラーの位置や方向に関係なく、所定方向と平行なままである。本好適な実施例によれば、出射光ビームに、集束手段より後方(又は下流側)に歳差運動を描かせることが特に容易となる。このような運動は、機械加工が施された端部がすべて、機械加工が行われている部品(又は対象物)の表面と垂直となるようにする場合に好ましい。従来技術の考察で述べたように、レーザービームが対象物にその表面と垂直な方向で当たる場合、その側面は、その表面と完全に垂直にはならず、通常、約4°の角度でオフセットされる。特許文献1及び特許文献2に記載のシステムとは異なり、本発明の装置の光学システムにおける駆動手段の駆動軸は、ここで光ビームがたどる光路とは干渉せず、いくつかの好適な実施例では、傾斜した可動ミラーの後方にしか存在しない。つまり、回転可能な傾斜したミラーは、入射光ビームから生じる光ビームが横切らない部分(例えば、後部)を有することができる。従って、駆動手段は、そこに光路に干渉せずに配置してもよい。こうして、本発明に係る装置は、簡素化と低コスト化が図られる。特許文献1及び特許文献2に記載のシステムでは、出射光ビームの歳差運動を発生させたい場合、光ビームを通過させる中空軸が必要となる。それと同時に、回転可能な部品数が、本発明の装置では傾斜されたミラーに限られ、特許文献1及び特許文献2のプリズムに比べて、より簡単かつ容易に回転させることができる。このため、駆動手段は、より小型で強度の低いものであってもよく、本発明の装置全体のさらなる小型化及び軽量化が図られる。特許文献1及び特許文献2に記載のような回転システムは、一般的に、例えば、30,000rpmと非常に高速な回転を行える必要がある。回転が必要な要素のサイズと重量が増大するにつれて、それらを回転させるのがより困難になる。例えば、特許文献1に記載するもののように、回転させる要素が大きくかつ重い場合、例えば、水冷システムなどの冷却システムを設ける必要がある。ミラーが回転可能である一好適実施例では、ミラーは、例えば、毎分100から200000回転の速度(rpm)で、より好ましくは、1000から100000rpmで回転させてもよい。その方向を2つ以上の非平行方向に対して変更可能なミラー(回転軸を中心に完全な回転運動をせずに傾斜可能なミラー)に関しては、回転可能なミラーを用いた機械加工装置の一好適実施例によれば、以下の利点が得られる。すなわち、機械加工により穴を形成する場合に効率化が図られ、ミラーの方向をより迅速に変更することができ、振動が少なくて済む。方向を変更する動きに比べて、回転運動がより連続的に行われる。」
c 【0045】
「【0045】
本発明者らに提案された機械加工装置によれば、負のコニシティ又は逃げ角を得ることができる。また、時計製造におけるムーブメント部品の切断を行うことができる。さらに、自動車のインジェクタポートを形成したり、医療機器の微細機械加工を行うのに用いることもできる。本発明者らに提案された機械加工装置は、調整可能なコニシティを有する穴、具体的には、ゼロコニシティを有する穴の形成に用いることもできる。」
d 【0083】
「【0083】
上述したさまざまな例においては、さまざまなタイプの光源33を用いることができる。限定されない例としては、以下のものが挙げられる。
かなりの厚さを有する金属の切断や穿孔を行うためのCO2レーザー
所要の精度や関係する加熱帯に応じて、ミリ秒又はナノ秒の連続モードのレーザーダイオードやファイバーレーザー(マルチモード又はモノモード)
高精度の微細切断や微細穿孔を行うための超短レーザー(ピコ秒又はフェムト秒)
パルス幅が300fsから10psであり、焦点距離が150mm未満(好ましくは100mm)のフェムト秒レーザー
UVレーザー(ns、ps又はfs)
可視レーザー(ns、ps又はfs)」
(イ) 引用文献2記載技術事項の認定
前記(ア)の引用文献2の記載事項を総合すると、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用文献2記載技術事項」という。)が記載されていると認められる。
[引用文献2記載技術事項]
「フェムト秒レーザーを用いて時計製造におけるムーブメント部品の切断を行う際に、出射光ビームに、集束手段より後方に歳差運動を描かせることで、ゼロコニシティを有する穴を形成すること。」
ウ 引用文献3及び引用文献4の記載事項及び周知技術の認定
(ア) 引用文献3の記載事項
優先日前に発行された文献である国際公開第2018/114149号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。括弧内に翻訳文を示した。
a 第3ページ25~27行
「
[図:0001424076000005.jpg]
」
(図1は、時計ムーブメントの歯車を回転駆動するための本発明による軸受の実装形態を概略的に示す図である。)
「Fig. 1
[図:0001424076000006.jpg]
」
b 第5ページ16行~第6ページ3行
「
[図:0001424076000007.jpg]
[図:0001424076000008.jpg]
」
(変形例によれば、軸受10a、10bは、ルビー、コランダム、スピネル又はキュービックジルコニア等の単結晶硬質材料から形成され、凹部14は、レーザビームによる材料のアブレーション、放電加工又は研磨によって機械加工される。別の変形例によると、軸受10a、10bは、コランダム、ルビー、セラミックス、アルミナ、ジルコニア、又は、代わりに超硬合金などの焼結された硬質材料で作製され、凹部14は、型打ちによって作製されるか、又は、アブレーションによって機械加工される。この技術は、特に本出願人名義の文献EP 2778801 A1に記載されている。
本方法が、結合剤中に含まれるセラミックを主成分とする粉末からセラミック前駆体を形成するための第1工程を含むことに留意すべきである。このセラミックベースの粉末は、少なくとも1つの金属酸化物、金属窒化物又は金属炭化物を有することができる。例として、セラミック系粉末は、合成サファイアを形成するための酸化アルミニウム、または合成ルビーを形成するための酸化アルミニウムおよび酸化クロムの混合物を含んでもよい。バインダーに関しては、これはポリマー型または有機型であってよい。)
(イ) 引用文献4の記載事項
優先日前に発行された文献である特開2019-90801号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。
「【発明を実施するための形態】
【0020】
上述のように、本発明は、真軸に接触して、最小限の摩擦で真軸を回転動可能にするための、時計27用のベアリングを形成することが可能な、穴石2に関するものである。この場合、本発明により、回転可能に取り付けられる要素のためのベアリング装置の全体または一部をなし得る穴石2を製造することが可能となることは明らかである。」
「【0028】
このシステム1は、図5に示す穴石2の製造方法を実施することができる。この方法は、少なくとも1種の粉末材料をバインダと混合したものから前駆体10を形成するステップ30を含む。この材料は、非限定的かつ非網羅的に、セラミック材料であり得る。ステップ30は、セラミック系粉末からバインダでセラミック前駆体10を形成するための工程である。
【0029】
この文脈で、セラミック系粉末は、少なくとも、1種の金属酸化物、1種の金属窒化物、または1種の金属炭化物を含有し得る。例として、セラミック系粉末は、合成サファイアを形成するための酸化アルミニウム、または合成ルビーを形成するための酸化アルミニウムと酸化クロムの混合物、を含み得る。また、バインダは、例えば、ポリマ系または有機系のような、各種タイプのものであってよい。」
(ウ) 周知技術1の認定
前記(ア)及び(イ)において摘記した引用文献3及び引用文献4の記載事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術1」という。)。
<周知技術1>
「時計用の軸受を合成サファイアや合成ルビーで形成すること。」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点
a 構成Xは、「計時器用の合成石を製造するための方法」である。
b(a) 「合成石」という用語の解釈について検討する。
(b) 本願明細書の発明の詳細な説明の関連する記載を参照すると、次の記載がある。括弧内に段落番号を示す。
「時計製造の現状技術では、ルビー又はサファイアの種類の石が、計時器でブッシュと呼ばれる受石又は案内要素を形成するのに特に使用されている。」(【0004】)
「原則として、合成石が時計ムーブメントに使用される。特に、ベルヌイ式方法が、単結晶型の石を製造するのに知られている。多結晶型の石もあり、そうした石は、加圧ツールから将来の石のグリーン体を得るために前駆体を加圧することによって、製造される。その後、石は、所望する寸法の完成形状を得るように機械加工される。」(【0005】)
「本発明の特定の実施形態によると、鉱物体は、多結晶型で、例えば、Al2O3Cr型のポリルビー又はZrO2型のジルコニアを含み、本方法は、以下の事前ステップ:
-バインダと少なくとも1つの粉末材料との混合物から前駆体を作製するステップ;
-グリーン体を形成するために、前駆体を加圧するステップであって、加圧を、上型と下型を用いて実行する、ステップ;及び
-上記少なくとも1つの材料から、将来の石の鉱物体を形成するために、上記グリーン体を焼結するステップ
を含む。」(【0018】)
「これに関連して、セラミック系粉末は、少なくとも1つの金属酸化物、1つの金属窒化物又は1つの金属炭化物を含んでもよい。例えば、セラミック系粉末は、合成サファイアを形成するのにアルミニウム酸化物を、又は合成ルビーを形成するのにアルミニウム酸化物とクロム酸化物の混合物を、或いはまた酸化ジルコニウムを、含んでもよい。さらに、バインダは、例えば高分子系又は有機系等の様々な性質のものとすることができる。」(【0039】)
(c) ここで、「グリーン体」とは、原料となるセラミックスの粉末とバインダー(結合剤)を混合し、金型で成型加工したもので、焼結する前のものである。
この点及び前記(b)に摘記した本願の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本件補正発明にいうところの「合成石」とは、「Al2O3やZrO2等の無機化合物よりなる結晶性物質であって、天然でない人工の単結晶又は多結晶であり、機械加工の被加工物として供され得る程度の安定性及び大きさを有するもの」と解するのが相当である。
c そうすると、引用発明における「パルスレーザー」により「加工することができ[る]」「セラミックス」は、「焼結アルミナタイプ、シリカタイプ、シリカ-アルミナまたはシリカ-マグネシウム化合物タイプ(コージライト、ムライト、ステアタイト)および、より広くは酸窒化物タイプ、サイアロンタイプ、炭化物タイプの、多結晶または多相あるいは合成の天然原料で構成され」、「マイクロ機械部品またはナノ機械部品の製造方法」における「パルスレーザー」による被加工物であるから、本件補正発明にいうところの「合成石」に相当するといえる。
d 引用発明における「部品」は、「マイクロ機械部品またはナノ機械部品」であって「時計製造業を対象とする部品」であり、「動きまたはパワーを伝達するための同期または非同期の動力伝達機構である」から、「計時器用」のものであるということができる。
e 以上を踏まえると、「計時器用の合成石を製造するための方法」である本件補正発明と、「マイクロ機械部品またはナノ機械部品の製造方法」の発明である引用発明は、「計時器用の合成石を製造するための方法」の発明である点において一致する。
(イ) 構成Aの観点について
a 構成Aは、「Al2O3を含む単結晶型の鉱物体又はAl2O3Cr型のポリルビー若しくはZrO2型のジルコニアを含む多結晶型の鉱物体から[合成石を製造すること]」である。
b 引用発明における「ルビーAl2O3/Cr2O3/Si2O3」の「多結晶」で構成される「セラミックス」は、本件補正発明における「Al2O3Cr型のポリルビー」「を含む多結晶型の鉱物体」に相当する。
また、引用発明における「安定していないジルコンZrO2 99、イットリアで安定したジルコンZrO2/Y2O3、マグネシアで安定したジルコンZrO2/MgO」の「多結晶」で構成される「セラミックス」は、「ZrO2型のジルコニアを含む多結晶型の鉱物体」に相当する。
b そうすると前記(ア)の結論も踏まえると、本件補正発明と引用発明は、次の構成要件を満たす点において一致する。
「Al2O3を含む単結晶型の鉱物体又はAl2O3Cr型のポリルビー若しくはZrO2型のジルコニアを含む多結晶型の鉱物体から計時器用の合成石を製造するための方法。」
(ウ) 構成Bの観点について
a 構成Bは、次のとおりである。
「該方法は、アブレーションステップを含み、
該ステップ中、前記物体に、超短パルスレーザ照射を使用して、前記物体の少なくとも一面をスキャンすることによって少なくとも前記物体に対する垂直な切込みを含む材料アブレーションを施すが、
前記レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、
前記レーザ照射の光線を、前記垂直な切込みを得るよう前記レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするよう構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式によって案内すること」である。
b(a) 引用発明における「加工プログラム」は、「超短パルスレーザ照射を使用して」、「照射されるゾーンの切断を引き起こす」ものであるから、本件補正発明における「前記物体に対する切り込みを含む材料アブレーションを施す」ものであって、「アブレーションステップ」に相当する。
(b) また、引用発明における「部品の加工を可能にする三次元の経路にしたがって、フェムトレーザーの焦点ゾーンを移動させる」ことは、本件補正発明における「超短パルスレーザ照射を使用して、前記物体の少なくとも一面をスキャンする」ことに相当する。
(c) そして、引用発明における「500fs(5×10-13秒)未満の時間」で、「超短パルスのフェムトレーザーを調整する過程」は、本件補正発明の「前記レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であ[る]」ことに相当する。
(d) さらに、引用発明における「フェムトレーザーの焦点ゾーンを移動させる」ことによって、「照射されるゾーンの切断を引き起こす」ことは、本件補正発明における「前記レーザ照射の光線を、切込みを得るよう前記レーザの合焦を案内する」ことに相当する。
c 前記b(a)~(d)の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Bの観点における一致点と相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Bの観点における一致点
「該方法は、アブレーションステップを含み、該ステップ中、前記物体に、超短パルスレーザ照射を使用して、前記物体の少なくとも一面をスキャンすることによって少なくとも前記物体に対する切込みを含む材料アブレーションを施すが、前記レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、前記レーザ照射の光線を、前記切込みを得るよう前記レーザを案内する」点。
(b) 構成Bの観点における相違点
「切込み」が、
本件補正発明においては「垂直な切込み」であるのに対して、
引用発明においては、垂直であるか不明であり、
レーザ照射の光線の案内方法が、
本件補正発明においては、「レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするように構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式」によって案内するのに対して、
引用発明においては、そのような限定が無い点。
イ 一致点及び相違点の認定
前記アの対比分析の検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点
「Al2O3を含む単結晶型の鉱物体又はAl2O3Cr型のポリルビー若しくはZrO2型のジルコニアを含む多結晶型の鉱物体から、計時器用の合成石を製造するための方法であって、該方法は、アブレーションステップを含み、該ステップ中、前記物体に、超短パルスレーザ照射を使用して、前記物体の少なくとも一面をスキャンすることによって少なくとも前記物体に対する切込みを含む材料アブレーションを施すが、前記レーザ照射の持続時間は、100ピコ秒未満であり、前記レーザ照射の光線を、前記切込みを得るよう前記レーザを案内する、方法」の発明である点。
(イ) 相違点
「切込み」が、
本件補正発明においては「垂直な切込み」であるのに対して、
引用発明においては、垂直であるか不明であり、
レーザ照射の光線の案内方法が、
本件補正発明においては、「レーザの合焦によるレーザ円錐の角度を少なくとも部分的にキャンセルするように構成した少なくとも3軸を有する歳差運動方式」によって案内するのに対して、
引用発明においては、そのような限定が無い点。
(4) 判断
ア(ア)a 「時計用の軸受を合成サファイアや合成ルビーで形成すること」は、周知の技術である(前記周知技術1)。
b 引用発明は、「時計製造業を対象とする部品の製造のために実施され[る]」ものであるところ、前記(2)ア(ア)で摘記した引用文献1の段落【0005】に「動力伝達機構の製造は、用いようとする寸法および材料のために厳しい制約を受ける。構造および精度という意味での要求が厳しいのである。」と記載されており、動力伝達機構の精度を高めることを目的としているところ、前記周知技術1を踏まえると、その構造の一つである歯車だけでなく、例えば、歯車を回転可能に支持する軸受などの凹部を有する部品についても、引用発明の「パルスレーザー」による加工の対象物である部品たりえることは、当業者が当然に認識できることである。
(イ) そうすると、精度良く嵌合する凹部を有する部品を形成する際に垂直な切込みを有する凹部を得るようにするために、引用発明におけるレーザ照射の光線の案内方法として前記引用文献2記載技術事項を採用し、出射光ビームに、集束手段より後方に歳差運動を描かせることで、ゼロコニシティを有する穴を形成する構成として、前記相違点に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ そして、本件補正発明の奏する作用効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることができない。
ウ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 請求人の主張について
ア 審判請求書の主張
請求人は、審判請求書において、次の主張をしている。
本件補正発明の方法は、全て合成石の製造、ベルヌーイ型法又は焼結法に関するものである。
引用発明のものは「時計製造への応用について、ベルト、プーリー、歯車などのような動力伝達機構の製造方法(段落【0003】)」に関するものであるが、時計の合成石に関するとの明示的な開示を何ら有するものではない。「振動質量(錘)」や「歯車」等は、本願に示すような「合成石」で作られることはなく、一般に金属によって製造されるものである。本願の石(合成石)は、ピボット端部を回転移動可能にするためにピボット端部と接触することを意図したガイド要素である。
引用文献2にもまた「合成石」で「ピボット端部を回転移動可能にするガイド要素」を製造することを示すものではない。
イ 請求人の主張についての検討
前記(3)ア(ア)において検討したとおり、引用発明における「パルスレーザー」により「加工することができ[る]」「セラミックス」は、「焼結アルミナタイプ、シリカタイプ、シリカ-アルミナまたはシリカ-マグネシウム化合物タイプ(コージライト、ムライト、ステアタイト)および、より広くは酸窒化物タイプ、サイアロンタイプ、炭化物タイプの、多結晶または多相あるいは合成の天然原料で構成され」、「マイクロ機械部品またはナノ機械部品の製造方法」における「パルスレーザー」による被加工物であるから、本件補正発明にいうところの「合成石」に相当するといえる。
そして、前記(4)アにおいて検討したとおり、「時計用の軸受を合成サファイアや合成ルビーで形成すること」は、周知の技術であるから、動力伝達機構の精度を高めることを目的としている引用発明において、その構造の一つである歯車だけでなく、例えば、歯車を回転可能に支持する軸受などの凹部を有する部品についても、「パルスレーザー」による加工の対象物である部品たりえることは、当業者は当然に認識できることである。
したがって、前記請求人の主張は、採用できない。
(6) 本件補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、特許法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1から18に係る発明は、令和5年4月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1から18に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1(1)に示した本件補正前の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち本願発明についての理由の概要は、本願発明は、本願の優先日前に発行された下記引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
記
引用文献1:特表2008-501534号公報
引用文献2:特表2018-530437号公報
3 引用文献の記載事項及び引用発明の認定
引用発明及び引用文献2記載技術事項は、前記第2の3(2)において示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の3において検討した本件補正発明において、前記第2の1の補正事項による限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、本願発明の発明特定事項の一部を更に限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3において検討したとおり、引用発明及び引用文献2記載技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2記載技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明及び引用文献2記載技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-017006