特許拒絶査定不服審判
2023-019971
GLA遺伝子の突然変異を有する患者におけるファブリー病を治療する方法
- 審判番号
- 2023-019971
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-509744外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年11月27日
- 審決日
- 2025年09月10日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-509744「GLA遺伝子の突然変異を有する患者におけるファブリー病を治療する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月27日国際公開、WO2020/040806、令和 3年12月16日国内公表、特表2021-535107〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)1月16日(パリ条約による優先権主張 2018年8月20日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であり、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和4年 1月17日 手続補正書の受付
同年10月18日付け 拒絶理由通知
令和5年 4月25日 手続補正書・意見書の受付
同年 7月19日付け 拒絶査定
同年11月27日 審判請求書の受付
令和6年 1月11日 手続補正書(方式)の受付
(審判請求書の「請求の理由」の内容を補正するもの)
令和7年 4月18日付け 拒絶理由通知(当審)
同年 7月18日 手続補正書・意見書の受付
同年 7月28日 上申書の受付
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明は、令和7年7月18日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
ミガラスタット又はその塩を含む、ヒト患者におけるファブリー病を治療するための医薬であって、前記患者はD33Hのα-ガラクトシダーゼA突然変異を有する、医薬。」
第3 拒絶の理由
本願発明は、令和5年4月25日受付の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載した発明に相当する。
そして、当該請求項1に対して、当審において令和7年4月18日付けで通知した拒絶理由の要旨は、次のとおりのものである。
請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献一覧>
1.Genetics in Medicine,2017年,Vol.19, No.4,p.430-438、及びSupplementary information p.1-97
なお、令和7年7月18日受付の手続補正書では、特許請求の範囲について、補正前の請求項12を削除する補正のみがされたため、請求項1に対する手続違背はない。
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明
1 引用文献1の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項
(摘記1a)
「ミガラスタットを投与すべきファブリー病患者の同定における薬理遺伝学の検証」(タイトル)
(摘記1b)
「目的:ファブリー病は、α-ガラクトシダーゼA遺伝子の変異によって引き起こされるX連鎖性のライソゾーム貯蔵障害である。薬理学的シャペロンであるミガラスタットは、特定の変異型α-ガラクトシダーゼAに結合し、ライソゾーム活性を回復させる。
方法:薬理遺伝学的アッセイを用いて、ミガラスタットに適合可能なα-ガラクトシダーゼA変異型を同定した。600のファブリー病の原因となる変異がHEK-293(HEK)細胞で発現され、α-ガラクトシダーゼA活性の増加がGLP(Good Laboratory Practice)で検証されたアッセイ(GLP HEK/ミガラスタット適合可能性アッセイ)で測定された。このアッセイの予測的価値は、第II相及び第III相臨床試験におけるミガラスタットに対する薬力学的反応に基づいて評価された。
結果:男性患者におけるミガラスタットに対するin vivo白血球α-ガラクトシダーゼA反応におけるGLP HEKアッセイ結果の比較は、高い感度、特異性、陽性及び陰性予測値(≧0.875)を示した。GLP HEKアッセイの結果は、男性では腎臓グロボトリアオシルセラミドの減少、男性及び女性では血漿グロボトリアオシルスフィンゴシンの減少も予測した。適合可能変異の臨床試験サブセット(n = 51)は、GLP HEKアッセイで同定された268の適合可能変異すべてを代表するものであった。
結論:GLP HEKアッセイは、ミガラスタットによる治療の対象となる男性及び女性のファブリー患者を同定する臨床的に検証された方法である。」(要約)
(摘記1c)
「導入
ファブリー病(MIM 301500)は、ライソゾームのα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A; MIM 300644, EC3.2.1.22)の欠損に起因する希少かつ進行性のX連鎖性疾患である1。スフィンゴ糖脂質基質の蓄積により、腎臓、心臓、脳の機能が障害され、早期に死に至る2。
現在までに、α-Gal A(GLA)をコードする遺伝子に800以上のファブリー病関連変異が同定されている。約60%は、α-Gal Aの1アミノ酸置換をもたらすミスセンス変異である2,3。ミスセンス変異は、古典的なものから非古典的なものまで不均一な表現型をもたらす4,5,6,7。
低分子の薬理学的シャペロンである経口ミガラスタット(1-デオキシガラクトノジリマイシン、AT1001)は、静脈内酵素補充療法(ERT)の代替としてファブリー病のために開発されている。ミガラスタットは、α-Gal Aの特定の変異型の活性部位に結合し、酵素を安定化させ、酵素が基質を異化できるリソソームへの輸送を回復させる8,9,10,11。
ある種のファブリー病患者は、ミグラスタットに適合可能な変異型α-Gal Aを産生する。これらの患者は変異型α-Gal Aを発現しており、ミガラスタットによる治療後に細胞内総α-Gal A活性の増加を示す。これらの変異型は一般的にGLAのシングルミスセンス変異である10,11,12,13が、小さなフレーム内挿入、欠失、あるいは複数部位のミスセンス変異もある。α-Gal Aの合成を阻害したり、タンパク質の構造(例えば、フレームシフト、切断、大きな挿入又は欠失変異)や触媒活性に重大な影響を与えるGLAの変異は、ミガラスタットに応答して細胞活性の増加を示さないα-Gal Aの変異型につながると予想される。
細胞ベースの研究により、ミガラスタットは多くの異なる変異型α-Gal Aのレベルを増加させることが示されている11,14,15,16,17。 ミガラスタットを介した増加は、同じ変異を持つ異なる細胞株で一貫していた。臨床的に達成可能な濃度のミガラスタット(10μmol/l)に対する19のα-Gal A変異型の細胞ベースの反応は、ミガラスタットを経口投与した男性ファブリー患者の末梢血単核球(PBMC)において観察されたα-Gal A活性の上昇と概ね一致していた16。
本研究以前には、ファブリー病の原因となる約800のGLA変異のうち、ミガラスタットに対する反応が評価されたのはごく一部であった。
これらの研究9,11,12,14,15,16,17は、様々な手順、品質管理、許容基準で、様々な研究ベースのアッセイを用いていた。多くは、患者由来の細胞、体液、又は組織を用いて実施された。女性患者由来のサンプルは、細胞がα-Gal Aの野生型又は変異型のいずれかを発現する混合物であるため、困難が伴う18。これらの細胞で測定されたα-Gal A活性は、野生型酵素が支配的であり、この酵素はミガラスタットに反応するため、解釈が複雑になる。従って、女性ファブリー患者の細胞からは、ベースライン活性も変異型に対するミガラスタットの効果も正確に決定することはできない。
本研究では、ヒト胚性腎臓293(HEK)細胞で試験し、ミガラスタットに反応したα-Gal A活性の増加を測定するために、Good Laboratory Practice(GLP)で検証されたin vitroアッセイを用いて600個の主にミスセンスのファブリー病原因変異を発現させた。GLP HEK(すなわち、ミガラスタット適合可能性)アッセイにおけるα-Gal Aの適合可能変異型は、10μmol/lのミガラスタット存在下でのα-Gal A活性がベースラインの≧1.20倍であり、野生型α-Gal A活性の≧3.0%の絶対的増加によって定義された。本アッセイの臨床的妥当性は、第II相及び第III相臨床試験におけるファブリー病患者の薬力学的反応に基づいて評価された。これらの研究では73のユニークな適合可能変異と非適合可能変異が認められた。」(第430頁左欄第1行~第431頁左欄第37行)
(摘記1d)
「GLP HEKアッセイ法の概要
適格なファブリー病関連変異は、Human Gene Mutation Database (http://www.hgmd.cf.ac.uk/ac)、Shire Human Genetic Therapies Fabry Outcome Survey registry (https://www.fabryos.com;2009年6月30日以前にアクセス)、ミガラスタットを用いた臨床研究、及びその他の公開情報源から同定した。ヒトα-Gal A cDNAを含む哺乳類発現ベクター(pcDNA6/v5-His A)に、適格な変異(総数:600)を前述のように組み込んだ(Supplementary Figure S1 オンライン)16。
得られた組換え変異体、野生型(WT)、又はベクターpcDNAコンストラクトは、関連するGLP規則に従って、有効なDNA品質管理評価を受けた。あらかじめ規定されたDNA品質許容基準を満たすプラスミドがトランスフェクションに使用された。
HEK-293細胞を96ウェルプレートに播種し、個々の変異型GLA含有DNAプラスミドでトランスフェクトし、10μmol/lのミガラスタット存在下又は非存在下で5日間インキュベートした。その後、溶解バッファーを加えて細胞溶解液を得、これを総タンパク質とα-Gal A活性についてアッセイした。トランスフェクション効率は、qPCRで検出された細胞溶解液中のGLA cDNA量として測定した。
各細胞溶解液中のα-Gal A活性は、蛍光基質である4-methylumbelliferyl-α-d-galactopyranosideを用いて測定し、総タンパク質に対して正規化した。空ベクター導入細胞溶解液で測定した内因性α-Gal A活性を、変異型又は野生型導入細胞溶解液の活性から差し引いた。各α-Gal A変異型について、10μmol/lのミガラスタット存在下又は非存在下での結果活性を求め、10μmol/lのミガラスタットに対する反応を決定するために使用した。詳細な方法論はオンライン版補足資料を参照。」(第431頁右欄第1行~第32行)
(摘記1e)
「GLP HEKアッセイにおける変異型α-Gal Aの反応
試験された600のα-Gal A変異体は、GLA遺伝子の長さにまたがっており、ベースライン時及び10μmol/lのミガラスタットとのインキュベーション後に幅広い酵素活性を示した(Supplementary Figure S2 オンライン;Supplementary Table S1オンライン)。10μmol/lのミガラスタットに応答して、360の変異型がα-Gal A活性の統計的に有意な増加を示した;268の変異型(約45%)は適合可能変異の基準を満たし、332の変異型は適合可能変異の基準を満たさなかった。」(第432頁右欄Resultsの欄第1行~第9行)
(摘記1f)
「考察
GLPで検証されたHEKアッセイ(ミガラスタット適合可能性アッセイ)は、ミガラスタットによる治療が可能なα-Gal Aの適合可能変異型を有するファブリー患者を同定するために開発された。このアッセイは患者サンプルを必要とせず、男性患者にも女性患者にも適用可能である。現在までに約800のGLAファブリー病原因変異が同定されており、その大部分はミスセンスである。以前の報告では、ミガラスタットに対する変異型α-Gal A反応を測定するin vitroアッセイが、薬理学的シャペロンによる治療の対象となるファブリー患者の同定に有用であろうと推測されていた16,17。GLP HEKアッセイで得られた結果は、ミガラスタットによる治療の対象となるファブリー病患者を男女別に同定するためのアッセイの臨床的検証及び一般化可能性を提供するものである。」(第436頁左欄第19行~第32行)
(摘記1g)
「薬物遺伝学参照表(Supplementary Table S11A、Bオンライン)は、約800のファブリー病関連変異の適応性を分類している。600の適格なα-Gal A変異体形式がGLP HEKアッセイで試験された。そのうち268が適応性基準を満たした。適合可能な変異の大部分はミスセンス変異だったが、一部は小さなフレーム内挿入または欠失だった。GLP HEKアッセイでの試験に適格でなかったGLA変異は、主に大規模な欠失、挿入、トランケーション、フレームシフト変異、スプライスサイト変異であり、これらはしばしばタンパク質の主要な構造ドメインの喪失やα-Gal Aの発現喪失を引き起こした。これらの変異は、GLP HEKアッセイでの試験を行わずに非適応とされた。薬物遺伝学の参照表は、ミガラスタットによる治療対象患者を特定するために臨床実践に統合され、新たな変異が同定されるたびに更新可能である。ファブリー病患者の標準的な診断検査には、GLA変異の存在を確認するための遺伝子型解析が含まれる。」(第436頁右欄第21頁~第38頁)
(摘記1h)
「一過性トランスフェクション及びミガラスタットのインキュベーション
HEK-293細胞を96ウェルプレートに1ウェルあたり7500個、100μLの細胞培養液でプレーティングし、37℃、5% CO2で一晩インキュベートした。細胞をトランスフェクションするために、以前に記載されるとおりプラスミドDNAをFuGENE脂質ベースのトランスフェクション試薬とインキュベートし1、その後、5μLのトランスフェクション反応液1を96ウェルプレートの各ウェルの細胞に加えた。各プレートには3つのコントロールが含まれていた: カラム1にはWT-GLA、カラム2にはpcDNAベクターコントロール、カラム12にはミガラスタットに反応することが知られている変異体R301Qを入れた。 最大9つの異なるα-Gal A変異体発現プラスミドをプレートのカラム3-11に加え、各カラムに異なるプラスミドを入れた。トランスフェクションの1時間後、ミガラスタットを細胞培養培地で200μMに希釈し、200μMのAT1001を96ウェルプレートのE-H列に5.5μL添加し、最終濃度10μMのミガラスタットを最終容量110.5μLとした。5.5μLの細胞培養培地のみをプレートのA-D列に加えた。その後、細胞を37℃、5% CO2で5日間インキュベートした。長時間のインキュベーションによる蒸発を防ぐため、すべてのインキュベーションは湿度チェンバー内で相対湿度95%以上で行った。10μMのミガラスタット濃度がこのアッセイで使用されているのは、150mgの単回経口投与後のファブリー病患者の血漿中のミガラスタットのおおよその最大濃度であるためである2。
α-Gal A酵素活性測定
5日後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を2回洗浄し、ミガラスタットを含まない細胞培養培地で37℃、5% CO2で2時間インキュベートすることにより、過剰のミガラスタットを除去した。細胞をPBSで再度2回洗浄した後、溶解バッファー(27mMクエン酸ナトリウム、46mM二塩基性リン酸ナトリウム、0.5% Triton X-100、pH 4.6)を加えて溶解した。ウェルあたり65μLの溶解バッファー を加え、プレートをプレートシェーカーで150rpm、室温で30分間インキュベートした。
30分間の溶解後、可溶化したα-Gal Aを含む細胞溶解液を新しい96ウェルプレートに移した。α-Gal A活性は、原液及び0.1 μg/μLの未トランスフェクトHEK-293細胞溶解液で1:30に希釈した10 μLの細胞溶解液で、37℃で1時間、既述1のとおり4-methylumbelliferone-α-D-galactopyranoside及びN-acetyl-D-galactosamine とインキュベートすることにより測定した。」(Supplementary Information第4頁第1行~第30行)
(摘記1i)
「Table 1S: HEK-293細胞溶解液で測定した変異型α-Gal A活性に対するミガラスタットの効果
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」(Supplementary Information第12頁~第41頁)
(当審注:四角囲いは、当審において付したものである。)
(2)引用文献1に記載された発明(以下「引用発明」という。)
摘記1cには、「低分子の薬理学的シャペロンである経口ミガラスタット(1-デオキシガラクトノジリマイシン、AT1001)は、静脈内酵素補充療法(ERT)の代替としてファブリー病のために開発されている。ミガラスタットは、α-Gal Aの特定の変異型の活性部位に結合し、酵素を安定化させ、酵素が基質を異化できるリソソームへの輸送を回復させる」、「ある種のファブリー病患者は、ミグラスタットに適合可能な変異型α-Gal Aを産生する。これらの患者は変異型α-Gal Aを発現しており、ミガラスタットによる治療後に細胞内総α-Gal A活性の増加を示す。」との記載があることから、引用文献1には、ミガラスタットは、ファブリー病の治療薬であること、ファブリー病の患者の中に、ミガラスタットによる治療に応答する変異型α-Gal Aを発現する患者がいること、そのような患者では、ミガラスタットによる治療後にα-Gal A活性の増加を示すことが記載されているといえる。
そして、摘記1cの「ヒト胚性腎臓293(HEK)細胞で試験し、ミガラスタットに反応したα-Gal A活性の増加を測定するために、Good Laboratory Practice(GLP)で検証されたin vitroアッセイを用いて600個の主にミスセンスのファブリー病原因変異を発現させた。GLP HEK(すなわち、ミガラスタット適合可能性)アッセイにおけるα-Gal Aの適合可能変異型は、10μmol/lのミガラスタット存在下でのα-Gal A活性がベースラインの≧1.20倍であり、野生型α-Gal A活性の≧3.0%の絶対的増加によって定義された。」との記載から、引用文献1には、ミガラスタット治療に応答するα-Gal A変異を同定するために、HEK293細胞を用いて、α-Gal A活性を測定したこと、10μmol/lのミガラスタット存在下でα-Gal A活性がベースラインの≧1.20倍であり、野生型α-Gal A活性の≧3.0%の絶対的増加が示された場合、ミガラスタットへの適合可能性を有する変異と定義したことも記載されているといえる。
さらに、摘記1iのTable 1Sには、α-Gal A活性を測定した結果が示されており、Table 1Sのうち「Amino Acid Change」欄が「D33G」、「D33Y」の行(第13頁第16行目~第17行目)には、D33GとD33Yの変異を有するα-Gal A変異体をそれぞれ発現させたHEK細胞では、10μmol/lのミガラスタット処理により、α-Gal A活性の絶対的増加がそれぞれ41.3%WT、31.7%WTであり、10μMミガラスタット存在下でα-Gal A活性がベースラインのそれぞれ2.42倍、2.74倍であり、D33G、D33Yの変異はいずれも「Meets Amenable Mutation Criteria?」(当審注:「適合可能変異基準を満たすか?」)の欄が「yes」、すなわちミガラスタットへの適合可能変異基準を満たすことが記載されているから、引用文献1には、ミガラスタットが、α-Gal AのD33G、D33Y変異体を発現するHEK細胞において、α-Gal Aの活性を高めたことも記載されているといえる。
また、上記α-Gal A活性を測定する試験において、ミガラスタットは、ミガラスタットを含む組成物の形態で用いられたと解される。
そうすると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
<引用発明>
「ファブリー病の原因遺伝子であるα-Gal AのD33G、D33Y変異体を発現するHEK細胞においてα-Gal Aの活性を高めるための、ミガラスタットを含む組成物。」
第5 本願発明と引用発明の対比
引用発明の「ミガラスタット」は、本願発明1の「ミガラスタット又はその塩」に相当する。そして、本願発明1の「医薬」は、「ミガラスタット又はその塩」を含む組成物の形態で患者に投与されるものであると解される。
そうすると、本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ミガラスタット又はその塩を含む組成物。」の発明である点。
<相違点1>
本願発明1は、「ヒト患者におけるファブリー病を治療するための医薬」であって、「前記患者は、D33Hのα-ガラクトシダーゼA突然変異を有する」ことが特定されているのに対し、引用発明は、「ファブリー病の原因遺伝子であるα-Gal AのD33G、D33Y変異体を発現するHEK細胞において、α-Gal Aの活性を高める」ためのものである点。
第6 判断
1 相違点について
上記相違点1について検討する。
ア 引用文献1は、「ミガラスタットによる治療の対象となる男性及び女性のファブリー患者を同定する臨床的に検証された方法」である「GLP(Good Laboratory Practice)で検証されたアッセイ(GLP HEK/ミガラスタット適合可能性アッセイ)」について記載された文献であるところ(摘記1a、1b及び1f)、「ミガラスタットによる治療」という記載は、ミガラスタットを医薬の有効成分として用いることを前提とするものである。
そして、摘記1bの「このアッセイの予測的価値は、第II相及び第III相臨床試験におけるミガラスタットに対する薬力学的反応に基づいて評価された」という記載における「第II相及び第III相臨床試験」は、「ヒト患者」を対象とする臨床試験であり、上記「ミガラスタットによる治療の対象となる男性及び女性のファブリー患者」は「ヒト患者」であるといえるから、引用発明の組成物を「ヒト患者におけるファブリー病を治療するための医薬」にすることは、当業者が当然に試みる事項であるといえる。
イ また、引用文献1の摘記1fには、「GLPで検証されたHEKアッセイ(ミガラスタット適合可能性アッセイ)は、ミガラスタットによる治療が可能なα-Gal Aの適合可能変異型を有するファブリー患者を同定するために開発された。」ことが記載されている。そして、摘記1cの「ヒト胚性腎臓293(HEK)細胞で試験し、ミガラスタットに反応したα-Gal A活性の増加を測定するために、Good Laboratory Practice(GLP)で検証されたin vitroアッセイを用いて600個の主にミスセンスのファブリー病原因変異を発現させた。GLP HEK(すなわち、ミガラスタット適合可能性)アッセイにおけるα-Gal Aの適合可能変異型は、10μmol/lのミガラスタット存在下でのα-Gal A活性がベースラインの≧1.20倍であり、野生型α-Gal A活性の≧3.0%の絶対的増加によって定義された。」という記載から、上記「HEKアッセイ」とは、HEK細胞においてα-Gal A変異を発現させ、α-ミガラスタットの存在下で、α-Gal A活性を測定することにより、α-Gal A活性が増加した場合、α-Gal Aの適合可能変異型であることを同定するものであるといえる。
すなわち、引用発明において、ミガラスタットがファブリー病の原因遺伝子であるα-Gal AのD33G、D33Y変異体を発現する細胞において、α-Gal Aの活性を高めたということは、ミガラスタットによる治療が可能なα-Gal Aの適合可能変異型としてD33G、D33Y変異体を同定したことを意味する。
そして、引用文献1の(摘記1g)には、「薬物遺伝学の参照表は、ミガラスタットによる治療対象患者を特定するために臨床実践に統合され、新たな変異が同定されるたびに更新可能である。」と記載されており、ミガラスタットによる治療が可能なα-Gal Aの適合可能変異型がさらに同定される可能性が記載されている。
また、引用文献1のSupplementary InformationのTable 1S(摘記1i)に記載されるとおり、D33部位での変異では、D33G、D33Yの両方においてミガラスタット適合可能である。そして、3つのシングルミスセンス変異について試験されている他の部位での変異について確認すると、3つの変異のうち、全て適合可能(「Meets Amenable Mutation Criteria?」の欄が「yes」)である部位が7箇所(W24、L36、P60、G85、R356、G360、P409)、2つ適合可能で1つ非適合可能(「Meets Amenable Mutation Criteria?」の欄が「no」)である部位が16箇所(A15、A20、E66、M72、A156、G183、E203、Y207、A257、V269、T282、L300、V316、G325、G361、R363)、1つ適合可能で2つ非適合可能である部位が9箇所(E48、L89、D136、R256、N298、I317、N320、A352、G373)、全て非適合可能である部位が16箇所(L21、C63、W81、G132、Y134、C142、G171、C223、D231、S235、W236、A292、R342、L372、A389、I407)存在する。
すなわち、2つの適合可能変異が発見された部位について、同じ部位において、さらに3つ目の適合可能な変異が発見されるか否かを探索することは頻繁に試みられており、実際に2つの適合可能変異が発見された部位23箇所(7箇所+16箇所)のうち、同じ部位で3つ目の適合可能変異が発見された部位が7箇所も存在していたのであるから、約3割の部位で適合可能変位が発見されるといえ、今後も、2つの適合可能変異が発見された部位と同じ部位に3つ目の適合可能変異が発見されることを、当業者は当然に期待するといえる。
そうすると、引用発明において、既に2つの適合可能変異が発見されているD33部位に、3つ目の適合可能変異が発見されることを期待して、「ミガラスタット適合可能性アッセイ」(摘記1f)を用いてD33部位におけるその他の様々な変異をスクリーニングし、適合可能か否かを決定して、D33部位における新たな遺伝子変異を有する新規の患者群を特定することに、何ら困難性は見いだせない。
ウ したがって、上記ア及びイから、引用発明を「ヒト患者におけるファブリー病を治療するための医薬」として用い、ミガラスタット適合可能な変異としてD33Hのα-Gal A変異を発見し、上記「ヒト患者」を「D33Hのα-ガラクトシダーゼA突然変異を有する」患者に特定することは、当業者が容易になし得たことであるといえる。
2 本願発明の効果について
(1)本願明細書には、本願発明の効果について、α-Gal AのD33H突然変異型を用いて一過性でトランスフェクトしたHEK-293細胞から調製したライセート中でα-Gal A活性を測定し、10μMミガラスタットの非存在下若しくは存在下で5日間インキュベートしたところ、ベースラインα-Gal A活性は、36.1±2.4%WTであり、ミガラスタット存在下のα-Gal A活性は、68.8±4.3%WTであり、絶対的増加は32.7%WTであったことが記載されている(本願明細書【0083】~【0085】)。
(2)一方、引用文献1には、α-Gal AのD33G、D33Y変異型を用いて、上記(1)と同様に、一過性の発現でトランスフェクトしたHEK-293細胞から調製したライセート中でα-Gal A測定し、10μMミガラスタットの非存在下若しくは存在下で5日間インキュベートしたところ(摘記1d、1h)、D33G変異型の場合、ミガラスタット非存在下(当審注:「ベースライン」に相当)のα-Gal A活性は、29.3±1.8%WTであり、ミガラスタット存在下のα-Gal A活性は、70.6±2.4%WTであり、絶対的増加は、41.3%WTであったことが記載されている(摘記1i)。また、D33Y変異型の場合、ミガラスタット非存在下のα-Gal A活性は、18.0±1.2%WTであり、ミガラスタット存在下でのα-Gal A活性は、49.6±1.7%WTであり、絶対的増加は、31.7%WTであることも記載されている(摘記1i)。
(3)以上のとおり、上記(1)と上記(2)では、同様の実験によってミガラスタット存在下でのα-Gal A活性の絶対的増加が測定されており、当該「絶対的増加」が、本願発明の変異であるD33Hでは32.7%WTであるのに対し、引用文献1に記載の変異であるD33G、D33Yではそれぞれ41.3%WT、31.7%WTであるから、本願発明の変異であるD33Hにおける「絶対的増加」の程度は、引用文献1に記載の変異であるD33G、D33Yにおける「絶対的増加」と同程度にすぎず、引用文献1に記載の変異に比較し、優れているとはいえない。
そうすると、ミガラスタットによる、本願発明の「D33Hのα-ガラクトシダーゼA突然変異を有する患者」に対する治療効果が、D33G変異、D33Y変異を有する患者に対する治療効果よりも優れているとはいえないのであるから、本願発明の効果が当業者の予測を超えて優れているとはいえない。
3 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和7年7月18日受付の意見書、令和7年7月28日受付の上申書において、以下の(1)、(2)の趣旨の主張をしているので、検討する。
(1)審判請求書の添付物件として提出した「Table of Contents」、「表11SA」、「表11SB」を参照すると、3位において、現在までに1つだけ適用可能変異が見出されており、他の変異は同定されていいない一方で、24位において、3つの異なる変異が既に同定されている事実を踏まえると、同じ位置に既に適用可能変異が存在する状況を鑑みて、当業者がさらなる適用可能変異を同定しようとするとはいえない。
(2)審判請求書の添付物件として提出した表11SA及び11SBには、A20アミノ酸部位が、適合可能変異A20P及びA20D(表11SAを参照)および非適合可能変異A20V(表11SBを参照)の両方を含むことを示しており、H46アミノ酸部位は、適合可能変異H46P(表11SAを参照)および非適合可能変異H46Y、H46LおよびH46R(表11SBを参照)の両方を含むことを示しているから、特定の部位にいくつかの適合可能変異が存在することは、同じ部位の他の変異も適合可能変異であるかどうかを示すものではなく、特定の変異がミガラスタットに適しているかどうかは非常に予測不可能である点。
以下、上記主張(1)、(2)について検討する。
審判請求書の添付物件として提出した表11SA及び11SBには、請求人が意見書において指摘する24位を含め、3つ以上の適合可能変異型を有する部位が複数記載されている。そうすると、2つの適合可能変異型が発見された部位において、さらに3つ目の適合可能変異型が発見される可能性に対する期待を当業者は当然に持つといえる。
そして、A20部位やH46部位のように同じ部位に適合可能性がある変異とない変異があったとしても、3つ又はそれ以上の適合可能変異が見つかる可能性が否定されるわけではない。
そうすると、D33部位においてさらに適合可能変異が存在する可能性を期待して、「ミガラスタット適合可能性アッセイ」(摘記1f)を用いてD33部位におけるその他の様々な変異をスクリーニングし、適合可能か否かを決定して、D33部位における新たな遺伝子変異を有する新規の患者群を特定することに、何ら困難性は見いだせない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができず、本願発明は依然として進歩性を有しない。
第7 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-019971