審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2023-008446

腎機能障害を有するファブリー患者の治療方法

審判番号
2023-008446
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-123392外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年05月24日
審決日
2025年07月24日
公報発行日
2026年01月30日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第44条第1項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-123392「腎機能障害を有するファブリー患者の治療方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年12月24日出願公開、特開2020-203886〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 1 出願分割の経緯 本願は、2018年(平成30年)5月30日(パリ条約による優先権主張 2017年5月30日、2018年2月6日いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2019-539797号を最先の出願とし、その一部を特許法第44条第1項の規定に基づく新たな特許出願(特願2019-229050号、出願日:令和1年12月19日)とし、さらにその一部を特許法44条第1項の規定に基づく新たな特許出願(特願2020-123392号、出願日:令和2年7月20日)としたものである。 2 本願手続の経緯 本願手続の経緯の概略は以下のとおりである。 令和3年 5月31日 手続補正書の提出 令和4年 6月 7日付け 拒絶理由通知 同年12月21日 手続補正書・意見書の提出 令和5年 1月12日付け 拒絶査定・補正の却下の決定 同年 5月24日 審判請求書・手続補正書の提出 同年 6月28日付け 前置報告 令和6年11月14日付け 拒絶理由通知(当審) 令和7年 3月19日 手続補正書・意見書の提出 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明は、令和7年3月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 a.患者の腎機能を安定化させるための、又は b.患者における血漿グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)を低下させるための、又は c.患者における白血球(WBC)α-ガラクトシダーゼA活性を増加させるための、又は d.患者における左室重量係数(LVMi)を低下させるための、 ミガラスタット又はその塩を含む医薬であって、 患者がファブリー病と診断され、且つ慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害を有し、ミガラスタット又はその塩が100mg~150mg遊離塩基当量(FBE)の量で1日おきに1回の頻度で投与される、医薬。」 第3 当審拒絶理由 当審において令和6年11月14日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうちの理由2(進歩性)は、以下の理由を含むものである。 本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、3、4の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (当審注:上記請求項1に係る発明は、令和5年5月24日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。そして、本願発明は、上記請求項1に係る発明において、「中等度または重度腎機能障害を有し、」との記載を「慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害を有し、」と補正したものである。) <引用文献一覧> 1.特表2010-525084号公報 3.Clinical Pharmacology in Drug Development,2015年,Vol. 4, No. 4,p. 256-261 4.日消誌,2004年,Vol. 101,pp.739-745 第4 引用文献等に記載された事項及び引用発明 1 引用文献1に記載された事項及び引用発明 (1)引用文献1に記載された事項 引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付与したものであり、以下同様である。 (摘記1a) 「【0071】 「1-デオキシガラクトノジリマイシン」(DGJ)は、(2R,3S,4R,5S)-2-(ヒドロキシメチル)ピペルジン-3,4,5-トリオールを意味する。この用語は、遊離塩基と任意の塩形態の両方を含む。DGJの塩酸塩は塩酸ミガラスタットとして知られている。α-GALについてのその他のシャペロンは、Fanらに対する米国特許第6,274,597号明細書、6,774,135号明細書および6,599,919号明細書の中で記述されており、α-3,4-ジ-エピ-ホモノジリマイシン、4-エピ-ファゴミン、およびα-アロ-ホモノジリマイシン、N-メチル-デオキシガラクトノジリマイシン、β-1-C-ブチル-デオキシガラクトノジリマイシン、およびα-ガラクト-ホモノジリマイシン、カリステジンA3、カリステジンB2、N-メチル-カリステジンA3、およびN-メチル-カリステジンB2を含む。 【0081】 ファブリー病 ファブリー病は、リソソーム酵素α-ガラクトシダーゼA(α-GAL)の欠損の結果としてのリソソーム蓄積障害である。症候は、腎不全そして心臓発作および卒中の危険性の増大を含め、重篤で衰弱性のものであり得る。ファブリー病患者におけるα-GALの欠損は、遺伝性の遺伝子突然変異によって引き起こされる。これらの突然変異のいくつかは、α-GALのアミノ酸配列の変化を引き起こし、その結果、その正しい3次元形状へ折畳まれない安定性の低いα-GALが生産される可能性がある。患者の細胞内で生産されるα-GALは、多くの場合、生物活性レベルに対する潜在力を多少保持しているものの、細胞の品質管理機序は、小胞体つまりER内の誤って折畳まれたα-GALが分解および除去のため細胞の別の部分まで最終的に移動させられるまでそれらを認識し保持する。したがって、α-GALは、通常GL-3を破壊することになるリソソームまで移動することがほとんどまたは全く無い。このため、細胞内にGL-3が蓄積することになり、これがファブリー病の症候の原因であると考えられている。さらに、ER内の誤って折畳まれたα-GAL酵素の蓄積は、細胞に対するストレスおよび炎症様の応答を導き、これが細胞の機能不全および疾病に寄与し得る。 【0082】 ファブリー病の臨床的徴候は、広い重症度範囲にわたり、患者の残留α-GALレベルとおおまかな相関関係を有する。現在治療されている患者の大部分は、古典的ファブリー病患者と呼ばれ、その大部分が男性である。これらの患者は、腎臓、心臓および脳を含めたさまざまな臓器の疾患を経験しており、疾患の症候は最初に青春期に現われ、典型的には40才または50才代で死亡するまで重症度が進行する。近年の数多くの研究が、通常は最初に成人期に現われる心機能または腎機能障害および卒中などの一連のファブリー病症候を有する未診断の男女が数多く存在するということを示唆している。遅発性ファブリー病と呼ばれるこのタイプのファブリー病を患う個体は、古典的ファブリー病患者の比べて高い残留α-GALレベルを有する傾向にある。遅発性ファブリー病を患う個体は典型的に、当初成人期に疾患症候を経験し、多くの場合、左心室の肥大または進行性腎不全などの単一の臓器に集中した疾患症候を有する。さらに、遅発性ファブリー病は同様に、原因不明の卒中の形でも存在し得る。 【0083】 GCaseに対するIFGと同様、DGJはα-GALの活性部位内に結合し、その活性を試験管内および生体内で増大させることが示されてきた(実施例5を参照のこと)。」 (摘記1b) 「【0192】 実施例3:安全性、耐容性および薬物動態およびα-ガラクトシダーゼA酵素活性に対する影響を評価するための単回用量DGJの投与 この実施例は、健常なボランティアにおける安全性、耐容性、薬物動態およびα-ガラクトシダーゼA(α-GAL)酵素活性に対するDGJの影響を評価するためのDGJの1日2回の経口用量の無作為化された2重盲検プラセボ対照第Ib相試験について記述している。 【0193】 試験の設計および持続時間 この試験は、経口投与後のDGJの経口投与後のDGJの安全性、耐容性、薬物動態およびα-GAL酵素活性に対する影響を評価するためのヒト初回投与、単一施設、第Ib相、無作為化、2重盲検、1日2回用量、プラセボ対照試験であった。この試験では、7日間の追訪を伴って連続7日間経口投与された、50または150mg1日2回の用量をDGJまたはプラセボを受けた8人の対象(6人が被験薬で2人がプラセボ)からなる2つのグループをテストした。対象は、投薬の14時間前から投薬終了24時間後まで、治療施設内に収容された。食事を予定表により制御し、薬物投与後4時間は対象が自由に行動できるようにした。 【0194】 薬物動態パラメータを1日目と7日目の血漿中DGJについて計算した。さらに、尿中に排泄された(投薬から12時間後)DGJの累積百分率を計算した。投薬開始前、そして試験開始後100時間、150時間そして336時間目にも、白血球(WBC)中のα-GAL活性を計算した。 【0195】 試験対象集団 対象は、一般社会人からなり、施設に収容されたことのない19才以上50才以下の年令の健常な非喫煙男性ボランティアであった。 【0196】 安全性および耐容性の査定 バイタルサイン、臨床検査パラメータ(血清化学、血液学および尿検査)、ECG、身体検査を評価することによっておよび治療期間中の有害事象を記録することによって安全性を判定した。 【0197】 薬物動態試料採取 投薬の前およびその後0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11および12時間の時点でEDTAの入った血液収集試験管内に血液試料(各10mL)を収集した。血液試料を氷浴中で冷却し、可能なかぎり早く冷却下で遠心分離した。血漿試料を2つのアリコートに分割し、検定中20±10℃で保管した。試験の終了時に、全ての試料を分析のためMDS Pharma Services Analytical Laboratories(Lincoln)に移送した。1日目と7日目にDGJ投与後の最初の12時間の腎クリアランスを判定するためにDGJを分析する目的で各対象から完全な尿排出量を収集した。 【0198】 WBCα-GAL酵素活性試料採取 投薬前およびその後100時間、150時間および336時間の時点で抽出されたEDTAおよびWBCを含有する血液収集試験管内に、血液試料(各10mL)を収集した。上述の通りに試料を処理し、Desnick, R.J. (ed) Enzyme therapy in genetic diseases. Vol 2. Alan R Liss, New York, pp 17-32.の中で記述されている通りに、WBCα-GAL酵素活性レベルを決定した。統計的分析。臨床検査評価、身体検査、有害事象、ECG監視およびバイタルサイン査定を含む安全性データを、治療グループおよび収集時点別にまとめた。定量的安全性データならびにベースラインとの差異について、記述統計データ(算術平均、標準偏差、中央値、最小および最大値)を計算した。定性的安全性データの分類のために、頻度計数値をコンパイルした。さらに、正常範囲外シフトを記載したシフト表を、臨床検査結果について提供した。身体検査の結果およびECGについても、正常-異常シフト表を提示した。 【0199】 MedDRA7.0バージョンディクショナリを用いて有害事象をコード化し、有害事象を報告している対象の数および報告された有害事象の数について治療別にまとめた。報告者用語、コード化された用語、治療グループ、重症度そして治療との関係を含めた対象別有害事象データリストを提供した。治療別に、併用薬および病歴を列挙した。 【0200】 記述統計データ(算術平均、標準偏差、変動係数、試料サイズ、最小値、最大値および中央値)を用いて、治療グループ別に薬物動態パラメータをまとめた。 【0201】 結果 プラセボで治療された対象はいずれもAEを有さず、50mg1日2回または150mg1日2回のDGJを受けたいかなる対象もAEを示さなかった。50mg1日2回および150mg1日2回で用量が投与された場合、健常な男性対象のこのグループにとって、DGJは安全で充分な耐容性があると思われた。 【0202】 臨床試験において正常範囲からの偏差が投薬後に発生したが、いずれも臨床的に有意であるとは判断されなかった。試験全体を通して調査されたいずれのパラメータにも、臨床的に関連性ある平均データシフトは全く存在しなかった。いずれのバイタルサイン、ECGまたは身体検査パラメータにも、臨床的に関連性ある異常は全く発生しなかった。 【0203】 薬物動態評価 以下の表は、試験中に得られた薬物動態データをまとめている。 【0204】 【表5】 [図:0001430366000001.jpg] 【0205】 DGJの薬物動態特性は全ての対象および全ての用量レベルにおいて充分に示された。平均して、全ての用量レベルについておよそ3時間でピーク濃度が発生した。DGJのCmaxは、用量を50mgから150mgまで増大させた場合に用量に比例して増加した。 【0206】 平均除去半減期(t1/2)は、1日目の50mgと150mgの用量レベルにおいて同程度であった(2.5時間対2.4時間)。 【0207】 投薬後12時間の期間にわたって排泄されたDGJの平均百分率は、1日目でそれぞれ50mgおよび150mgの用量レベルで16%と42%であり、7日目にはそれぞれ48%と60%まで増大した。 【0208】 α-ガラクトシダーゼA(α-GAL)酵素活性 試験中に得たα-GAL酵素活性データは、図1に示されている。DGJは、50mg1日2回又は150mg1日2回の投薬量で対象におけるWBCα-GAL酵素活性を阻害しなかった。その上、DGJは、健常なボランティアにおけるWBCα-GAL活性増加の用量依存的傾向を作り出した。α-GAL酵素レベルは、プラセボ、50mg1日2回のDGJおよび150mg1日2回のDGJが投与された対象のWBCで測定した。プラセボは、WBCα-GAL酵素レベルに全く影響を及ぼさなかった。プラセボに応答した酵素レベルの変動は、臨床的に有意なものではなかった。50mg1日2回および150mg1日2回のDGJは共に、正規化されたWBCα-GAL酵素レベルを増加させた。50mg1日2回のDGJに応答して、WBCα-GAL酵素活性は、それぞれ投薬後100時間、150時間および336時間で投薬前レベルの120%、130%および145%まで増大した。150mg1日2回のDGJに応答して、WBCα-GAL酵素活性は、それぞれ投薬後100時間、150時間および336時間で、投薬前レベルの150%、185%および185%まで増大した。」 (摘記1c) 「【0233】 実施例6 DGJ塩酸塩を用いたファブリー病治療のための投薬計画 この実施例は、ファブリー病患者におけるDGJ(1-デオキシガラクトノジリマイシンの試験について記述する。 【0234】 患者の登録 α-GAL内に公知のミスセンス突然変異を伴う(遺伝子型で確認)18人の男性および9人の女性ファブリー病患者が登録された。(男性患者の1人は試験を完了しなかった)。これらの患者のうち13人がERTの治療を受けておらず、一方14人は以前にERT(Fabrazyme(登録商標))を受けていたが、試験に先立ち21~274日間ERTを中断していた。この試験に登録した患者のファブリー病は、ファブリー遺伝子内の以下のミスセンス突然変異の1つによって引き起こされた:A143T、T411、A97V、M51K、G328A、S276G、L300P、L415P、P259R、R301Q、N215S、P205T、F295C、C94S、またはR112C。 【0235】 試験の設計 試験内の9人の男性(1人の男性は試験を完了しなかった)に、6週間(各投薬レベルで2週間)1日2回25、100そして次に250mgの逐次漸増用量を与え、その後1日2回25mgを6週間与えるかまたは試験の残りの期間50mg/日を与えた(グループA)。4人の男性患者に12週間単回150mgのQ.O.Dを与え(グループB)、一方5人の男性患者に24週間150mgのQ.O.D.を与えた(グループC)。最後に9人の女性患者を無作為化し、12週間50、150または250mgのQ.O.Dという3つの投薬量のうちの1つを与えた(グループD)(図8)。 【0236】 α-GAL活性 患者の白血球(leukocytes)(白血球(white blood cells;WBC)中のα-Galの酵素活性を、15人の健常なボランティアの白血球中の平均α-Gal活性の百分率として測定した。生検材料から得た分割組織中、および白血球および血漿(ベースラインでそして毎月収集する血液由来のもの)の中でα-GAL活性を査定した。 【0237】 GL-3被着物 ベースライン、治療後12週間および24週間目に腎正検を行ない、さまざまな腎細胞の中のGL-3被着物について評価した。組織内のGL-3の存在を組織学的にならびに質量分析法を使用して検査した。腎生検材料の光学顕微鏡分析を実施し、そこでは、参照により本明細書に援用されているKidney International, Vol. 62 (2002), pp. 1933-1946内で実施されている分類分析に類似した形で、組織内のGL-3の蓄積を分類した。細胞は、GL-3蓄積(「0」)無し;軽度GL-3蓄積有り(「1」);中度GL-3蓄積有り(「2」);または重度GL-3蓄積有り(「3」)として分類された。 【0238】 尿検査 尿は、GL-3についてベースラインで、および2~6週間おきに周期的に分析された。 【0239】 心臓分析 上述の生検に加えて、ひずみ速度評価を伴うMRI、心電図および心エコー図をベースラインにおいて、そして試験全体を通して周期的に実施し、心臓形態(例えば、左心室肥大)および心機能(例えば、駆出率および伝導/調律異常)を査定した。 【0240】 腎臓分析 糸球体ろ過率(GFR)を用いて、腎機能を評価した。」 (摘記1d) 「【0242】 結果 男性患者 α-GAL活性 グループAのプロトコルによる治療を受ける8人の男性患者からのα-Gal活性データが図9に示されている。患者は、治療後に正常なα-GA1活性の3%超であった酵素活性の絶対的増加を示し、さらに、かかる増加が突然変異体の治療前α-GAL活性レベルに比べて33%を超えた場合、患者を「高度」応答者として分類した。同じく突然変異体の治療前α-GAL活性レベルに比べて33%よりも大きい、正常なα-GAL活性の1~3%より大きい絶対増加を示した場合に、患者を「中度」の応答者として分類した。 【0243】 プロトコルグループBおよびグループCに従った治療を受けた9人の男性患者からのデータが、図10に示されている。「高度」応答者は、治療12週目までに正常な酵素活性の約8%に対するα-Gal活性の増加を特徴としていた。「中度」応答者は、治療後24週目までに正常な酵素活性の約1.5%までのα-Gal活性の増加を示した患者であった。「非」応答者は、治療中正常な酵素活性の1%を超えるα-Gal活性の増加を示したことのない患者であった。 【0244】 試験には11人の「高度」応答者が存在し、一方4人の患者は「中度」応答者であり、2人の患者は「非」応答者であった。「高度」応答者のうち、6人の患者は、試験の開始前に正常な酵素活性の3%を超える残留α-Gal活性を有しており、一方高度応答者のうち5人および中度および非応答者の全てが、正常レベルの3%未満の残留α-Gal活性を示した(図11)。 【0245】 図12および13に示されている通り、11人の「高度」応答者は、各患者の治療前後の活性レベルを比較した場合、WBCα-Gal活性の平均630%の増加を示した。高度応答者のうち6人は同様に、腎臓α-Gal活性の平均1090%の増加を示した。4人の「中度」応答者は全て、治療中に白血球α-Gal活性の平均170%の増加を示し、1人の「中度」応答者は平均100%の腎臓α-Gal活性の増加を示した。「非」応答者はいずれも、治療後に白血球または腎臓のα-Gal活性のいずれにおいても全体的増加を全く示さなかった。 ・・・ 【0247】 腎臓分析 組織学的分析および質量分光分析を用いて腎臓GL-3レベルを査定した。腎生検材料を、「高度」応答者のうち4人、「中度」応答者のうちの2人、そして「非」応答者のうちの2人において検査した。間質毛細管、遠位尿細管および有足細胞という3つの異なる腎細胞型において、GL-3の蓄積を検査した。高度応答者に関しては、1人の患者は、間質毛細管GL-3の減少を示し、1人の患者には、間質毛細管GL-3の検出不能の変化が見られ、1つの患者には間質毛細管GL-3の変化が全く見られなかった。遠位尿細管に関しては、高度応答者のうち3人にGL-3の減少が見られ、1人の高度応答者にGL-3の増加が見られた。有足細胞の治療後のGL-3レベルについては、4人の高度応答者全員にGL-3レベルの変化が全く見られなかった(図15Aを参照)。」 (摘記1e) 「【0250】 腎機能は、糸球体ろ過率(GFR)を用いて測定された(年令、性別および人種について調整された血清クレアチニンを用いてGFRを推定するために、MDRD等式を使用した)。全ファブリー病患者のおよそ半数が異常に低いGFR(90ml/分/1.73m2未満)を有している。自然史を研究すると、ファブリー病患者が、年令および腎臓疾患病期に応じて1年に約5~15単位の速度でGFRの漸進的減退を示すということが示唆されている。図17A-Bに示されているように、高度応答者は平均eGERを全治療手順の間90~120ml/分/1.73m2の正常なeGFR範囲内に維持した(図17A)が、一方未治療の個体の予測平均eGFRは、90ml/分/1.73m2より低く減退し続けるものと見込まれている(図17B)。」 (2)引用発明 上記(1)より、引用文献1には、「DGJ塩酸塩を用いたファブリー病治療のための投与計画」(摘記1c)として、「4人の男性患者に12週間単回150mgのQ.O.Dを与え(グループB)、一方5人の男性患者に24週間150mgのQ.O.D.を与えた(グループC)」こと(摘記1c)、これらの患者に対する投与結果として、「腎機能は、糸球体ろ過率(GFR)を用いて測定され」、「高度応答者は平均eGERを全治療手順の間90~120ml/分/1.73m2の正常なeGFR範囲内に維持した」こと(摘記1e)が記載されている。 ここで、引用文献1には、「プロトコルグループBおよびグループCに従った治療を受けた9人の男性患者からのデータが、図10に示されている。「高度」応答者は、治療12週目までに正常な酵素活性の約8%に対するα-Gal活性の増加を特徴としていた。」(摘記1d)と記載されることから、グループB、グループCの患者の中に高度応答者が存在したことが記載されている。 そして、引用文献1に明記されていないものの、ファブリー病患者にDGJ塩酸塩を投与する場合には、「医薬」として投与したものと解される。 そうすると、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。 <引用発明> 「ファブリー病患者の腎機能を正常なeGFR範囲内に維持するための150mgQ.O.Dでファブリー患者に与えられるDGJ塩酸塩を含む医薬。」 2 引用文献3に記載された事項 引用文献3には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献3は外国語の文献であるため、当審合議体による翻訳文で示す。 (摘記3a) 「目的: ファブリー病患者では腎機能が徐々に低下する可能性がある。本試験では、正常または軽度、中等度、重度の腎機能障害を有する被験者を対象に、ミガラスタット塩酸塩150mg単回経口投与の薬物動態、安全性および忍容性を評価した。 方法: ボランティアを、クレアチニンクリアランスのCockcroft-Gault式を用いて算出した腎機能で層別化した2つのコホートに登録した。測定された薬物動態パラメータは、投与後ゼロ時間から最終測定可能濃度までの濃度-時間曲線下面積(AUC)(AUC0-t)および無限大への外挿値(AUC0-∞)、最大観察濃度(Cmax)、Cmaxまでの時間(tmax)、投与後48時間の濃度(C48h)、終末消失半減期(t1/2)、経口クリアランス(CL/F)、および見かけの終末消失速度定数(λz)であった(ClinicalTrials. gov登録:NCT01730469)。 結果: 32名の被験者が登録し、試験を完了した(コホート1:n=24、コホート2:n=8)。ミガラスタットのクリアランスは腎機能障害の増加とともに減少し、その結果、ミガラスタット塩酸塩の血漿中t1/2、AUC0-∞およびC48hは腎機能正常の被験者と比較して増加した。有害事象の発現率は、すべての腎機能群で同等であった。 結論: 血漿中ミガラスタットのクリアランスは、腎障害の程度が高くなるにつれて減少した。ミガラスタット塩酸塩の臨床プログラムから得られたデータは、腎障害を有するファブリー病患者に対する投与量と投与間隔の指針となるであろう。」(第256頁Abstract) (摘記3b) 「安全性 TEAEの発現率はすべての腎機能群で同程度であり、頭痛の発現率が最も高かった。ほとんどのTEAEは軽度(95%)であり、重篤なものはなかった。SAEは報告されなかった。ミガラスタット塩酸塩150mgを投与された32人の被験者のうち、14人(43.8%)が合計21件の軽度または中等度のTEAEを経験した。5人(15.6%)の被験者が、試験薬に関連(治療関連)している可能性がある、おそらく、または間違いなく関連すると考えられる9件のTEAEを報告した。AEの頻度および種類は腎不全の程度とは関連しなかった。試験期間中、臨床検査評価、身体診察、心電図評価に臨床的に有意な変化は認められなかった。また、何らかの理由で試験から離脱した被験者はいなかった。」(第260頁左欄下から第9行~右欄第6行) 3 引用文献4に記載された事項 引用文献4には、以下の事項が記載されている。 (摘記4a) 「II 有効血中濃度 有効血中濃度とはPKとPDの関係を簡潔に表したものといえる(Figure 1).薬物血中濃度が上昇すると徐々に薬効が現れ、ある一定の濃度を超えると有用な効果が現れる.その濃度以上が有効血中濃度と考えて良いが,さらに血中濃度が上昇すると薬効は増加して100%の薬効を現す. 一方、薬物の有害作用(毒性)も血中濃度上昇にともなって増加する.その結果、図では、100%以上の薬効を発揮する血中濃度となると毒性が増加しており,このような薬物の例では100%にまで上昇した薬物としての有用性は,血中濃度上昇にともなう毒性の増加によって相殺されて低下してくる.十分な薬効を得るための代償としてのある程度の毒性は容認される場合もあるので,必ずしも一気に有用性がなくなってしまうことはない.許容出来る有用性の上限はもう少し上にあることが多く,その時の血中濃度が有効血中濃度の上限となる1).この血中濃度の範囲が「有効血中濃度」と定義され、その維持を目的に、特に薬物動態の複雑な例ではTDMを用いうることが多い(後述).」(第739頁右欄第5行~第740頁左欄第6頁) (摘記4b) 「 [図:0001430366000002.jpg] 」 4 参考文献5に記載された事項 本願優先日前の技術常識を示す文献である参考文献5(日腎薬誌 2016; 5(1): 3-18)には、以下の事項が記載されている。 (摘記5a) 「I . はじめに 腎機能低下患者では腎機能が低いほど、または薬物(活性体)の尿中排泄率が高いほど、1 回投与量を減量するか投与間隔を延長する必要がある。そのため患者の腎機能を正確に評価し、薬物の腎クリアランスを把握することは非常に重要である。」(第3頁左欄第1行~第6行) 5 参考文献6に記載された事項 本願優先日前の技術常識を示す文献である参考文献6(臨床薬理23(1) Mar 1992)には、以下の事項が記載されている。 (摘記6a) 「Digoxinやmetildigoxinは腎排泄のため腎機能障害を合併する場合には,血中濃度が上昇し,中毒が起こりやすい.」(第407頁左欄第25行~第27行) 第5 本願発明と引用発明の対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「患者の腎機能を正常なeGFR範囲内に維持するため」は、eGFRが腎機能障害等のリスクの進行を評価する指標であることから(特開2015-96835[0003]等)、本願発明の「a.患者の腎機能を安定化させるため」に相当し、したがって引用発明の「患者の腎機能を正常なeGFR範囲内に維持するため」は、本願発明の「a.患者の腎機能を安定化させるための、又は b.患者における血漿グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)を低下させるための、又は c.患者における白血球(WBC)α-ガラクトシダーゼA活性を増加させるための、 又は d.患者における左室重量係数(LVMi)を低下させるための」との特定を満たす。 本願明細書に「1-デオキシガラクトノジリマイシン(1-DGJ)又は(2R,3S,4R,5S)-2-(ヒドロキシメチル)ピペリジン(piperdine)-3,4,5-トリオールとしても知られる化合物ミガラスタット」(【0202】)と記載されており、引用文献1に、「DGJ(1-デオキシガラクトノジリマイシン」(摘記1c)と記載されているとおり、引用発明の「DGJ」は、1-デオキシガラクトノジリマイシンとしても知られる「ミガラスタット」であり、引用文献1に「DGJの塩酸塩は塩酸ミガラスタットとして知られている」(摘記1a)とも記載されているから、「DGJ塩酸塩」は、本願発明の「ミガラスタット又はその塩」に相当する。 引用発明の「ファブリー病患者」は、本願発明の「ファブリー病と診断され」た「患者」に相当する。 また、本願明細書の「塩酸塩の重量に起因して、僅か150mgのミガラスタット塩酸塩が、123mgの遊離塩基形態のミガラスタットと同程度のミガラスタットを提供する」(【0190】)との記載より、引用発明の「150mg」のDGJ塩酸塩は、123mgの遊離塩基形態のミガラスタットと同程度であるから、本願発明の「100mg~150mg遊離塩基当量(FBE)」に相当する。 そして、引用発明の「Q.O.D」は、本願明細書【0292】に「1日おき(QOD)」と記載されていることから、本願発明の「1日おきに1回の頻度で投与される」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「a.患者の腎機能を安定化させるための、又は b.患者における血漿グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)を低下させるための、又は c.患者における白血球(WBC)α-ガラクトシダーゼA活性を増加させるための、又は d.患者における左室重量係数(LVMi)を低下させるための、 ミガラスタット又はその塩を含む医薬であって、 患者がファブリー病と診断され、ミガラスタット又はその塩が100mg~150mg遊離塩基当量(FBE)の量で1日おきに1回の頻度で投与される、医薬。」 <相違点1> 本願発明は、患者が「慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害を有し」ていることが特定されているのに対し、引用発明はそのような特定がない点。 第6 判断 1 相違点1の判断 引用文献1には、「全ファブリー病患者のおよそ半数が異常に低いGFR(90ml/分/1.73m2未満)を有している。自然史を研究すると、ファブリー病患者が、年令および腎臓疾患病期に応じて1年に約5~15単位の速度でGFRの漸進的減退を示すということが示唆されている」(摘記1e)ことが記載されている。 また、引用文献3には、「ファブリー病患者では腎機能が徐々に低下する可能性がある。本試験では、正常または軽度、中等度、重度の腎機能障害を有する被験者を対象に、ミガラスタット塩酸塩150mg単回経口投与の薬物動態、安全性および忍容性を評価した。」(摘記3a)ことが記載されている。 そうすると、引用文献1、3から、ファブリー病患者では、腎機能が徐々に低下することが知られており、引用文献3によれば、正常な腎機能を有するファブリー病患者だけでなく、中等度、重度の腎機能障害を有するファブリー病患者を、ミガラスタットの投与対象にすることについて、当業者が認識していたといえる。 したがって、引用発明において、引用文献1及び3の記載を参酌し、慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害を有するファブリー病患者を投与対象とし、腎機能の安定化が図られるか否かを確認することは当業者が容易になし得たことである。 2 本願発明の効果について (1)本願明細書には以下の記載がある。なお、下線は当審にて付与したものである。 「【0292】 実施例5:腎機能障害及び/又は高タンパク尿を有するファブリー患者におけるミガラスタット療法の臨床結果 上記に記載したとおり、ファブリー患者において150mgのミガラスタット塩酸塩、1日おき(QOD)を使用して幾つかの試験が実施された。一つの試験は、67人のERT未経験患者における6ヵ月の二重盲検プラセボ対照期間を含む24ヵ月試験であった。他の試験は、12ヵ月非盲検延長(OLE)を伴う57人のERT経験患者における実薬対照18ヵ月試験であった。ERT未経験者試験及びERT経験者試験の両方とも、eGFRが≧30mL/min/1.73m2のファブリー患者を含んだ。これらの試験の試験デザインを図10A~図10Bに示す。 【0293】 ERT経験者試験では、主要有効性パラメータは、イオヘキソールクリアランスを使用したGFR計測値(mGFRイオヘキソール)及び慢性腎臓病疫学共同研究(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration:CKD-EPI)式を使用したeGFR(eGFRCKD-EPI)のベースラインから18ヵ月目までの年間変化(mL/min/1.73m2/年)であった。腎疾患の食事改善療法(Modification of Diet in Renal Disease)を使用したeGFR(eGFRMDRD)の年間変化もまた計算した。 【0294】 ERT未経験者試験では、主要有効性パラメータは、腎間質毛細血管当たりのGL-3封入体数であった。mGFRイオヘキソール、eGFRCKD-EPI及びeGFRMDRDによってもまた腎機能を評価した。 【0295】 ERT未経験者試験からのデータの事後分析により、中等度腎機能障害(30~<60mL/min/1.73m2)、軽度腎機能障害(60~<90mL/min/1.73m2)、及び正常腎機能(≧90mL/min/1.73m2)を有する適用可能患者についてベースライン時のeGFRに基づくサブ群におけるeGFRCKD-EPI年間変化率を調べた。ベースライン~18/24ヵ月のeGFRCKD-EPI年間変化率を図11に示す。図11から分かるとおり、中等度腎機能障害の患者はeGFRCKD-EPI平均年間変化率±SEMが-0.7±3.97mL/min/1.73m2/年であり、軽度腎機能障害の患者はeGFRCKD-EPI平均年間変化率が-0.8±1.01mL/min/1.73m2/年であり、及び正常腎機能の患者はeGFRCKD-EPI平均年間変化率が0.2±0.90mL/min/1.73m2/年であった。このデータは、ベースラインeGFRに関わらずミガラスタット治療による腎機能の安定化が観察されたことを示している。」 「【図11】 [図:0001430366000003.jpg] 」 (2)本願明細書の上記図11では、中等度腎機能障害(当審注:「慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害」に相当)の患者と軽度腎機能障害の患者はeGFRCKD-EPI平均年間変化率が同等であったことが示されている。 ここで腎機能障害の患者においては、一般的に薬物の腎クリアランスが低下し、血中濃度が上昇することから、副作用が生じる恐れがあるが(要すれば、参考文献5の(摘記5a)、参考文献6の(摘記6a))、血中濃度が上昇したからといって、薬物の有用性が低減するわけではない(要すれば、引用文献4の(摘記4a))。 そして、引用文献1には、ミガラスタットの薬効は、α-GALの活性部内に結合し、その活性を増大させることで発揮され(摘記1a)、「50mg1日2回および150mg1日2回のDGJは共に、正規化されたWBCα-GAL酵素レベルを増加させた。」(摘記1b)との記載があり、すなわち引用文献1から、本願発明の「ミガラスタット又はその塩が100mg~150mg遊離塩基当量(FBE)の量で1日おきに1回の頻度」との投与量の4倍以上もの用量である150mg1日2回で投与しても、α-GAL活性を増加させ、ファブリー病の治療に有効であることが理解されるといえる。 そうすると、中度腎機能障害によりミガラスタットの腎クリアランスが低下し、血中濃度が上昇する可能性があるからといって、腎機能障害のない患者や、軽度腎機能障害の患者に比べ、薬効が低下することが予想されたとはいえず、本願発明の中等度腎機能障害(当審注:「慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害」に相当)の患者と軽度腎機能障害の患者はeGFRCKD-EPI平均年間変化率が同等であったという効果が、当業者の予測を超えて優れているとはいえない。 また、ミガラスタットの副作用について検討すると、引用文献1には、「プラセボで治療された対象はいずれもAE(当審注:Adverse Event、有害事象)を有さず、50mg1日2回または150mg1日2回のDGJを受けたいかなる対象もAEを示さなかった。50mg1日2回および150mg1日2回で用量が投与された場合、健常な男性対象のこのグループにとって、DGJは安全で充分な耐容性があると思われた。」(摘記1b)と記載されており、本願発明における「ミガラスタット又はその塩が100mg~150mg遊離塩基当量(FBE)の量で1日おきに1回の頻度で投与される」という投与量の4倍もの用量である150mg1日2回で投与しても副作用は生じないことが記載されている。 加えて、引用文献3には、「正常または軽度、中等度、重度の腎機能障害を有する被験者を対象に、ミガラスタット塩酸塩150mg単回経口投与」(摘記3a)した結果、「TEAEの発現率はすべての腎機能群で同程度であり、頭痛の発現率が最も高かった。ほとんどのTEAEは軽度(95%)であり、重篤なものはなかった。」(摘記3b)(当審注:「TEAE」は、治療中に発生した有害事象を意味する。)ことが記載されており、中等度の腎機能障害を有する被験者においても、有害事象は発生しなかったことが記載されている。 これら引用文献1、引用文献3の記載によれば、慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害を有する患者にミガラスタットを投与した場合において、腎機能障害のない患者や、軽度の腎機能障害の患者に比べ、ミガラスタットの血中濃度が上昇したとしても、副作用を生じず安全に使用できることが予想される。 そうすると、ミガラスタットを慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害を有する患者に投与した場合においても、重篤な副作用を生じず使用できるという点も、当業者が予測し得る範囲内である。 第7 審判請求人の主張について 審判請求人は、令和8年3月19日提出の意見書において、次のとおり主張をしている。 「引用文献3には、腎機能障害を有するファブリー病患者のための如何なる具体的な用量や投与計画も記載も示唆もされていません。引用文献3の記載は、むしろ、患者の腎機能障害の重症度により、異なる用量及び投与計画が必要であることを教示し、示唆するものでさえあるといえます(特に、「血漿ミガラスタットのクリアランスは腎機能障害の程度増加に伴い減少した」と述べているため)。 ここで、本願の図11は軽度及び中等度の腎機能障害では、有意な差が認められないことが示されています。なお、補正の説明の項でご説明しましたとおり、補正後請求項1において、補正前の「中等度または重度腎機能障害」との記載を「慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害」としました。 中等度腎機能障害を有する場合であっても、当業者は、腎機能障害を有さない患者と同じ用量、投与計画が有効であるとは理解し得ません。 引用文献3を参照すれば、当業者は、患者が中等度腎機能障害を有する場合にどのような投与計画が有効であるかを臨床試験する必要があると理解するといえます。 したがって、引用文献3は、本願補正後請求項に記載の具体的な投与計画(ミガラスタット又はその塩が100mg~150mg遊離塩基当量(FBE)の量で1日おきに1回の頻度で投与される)を想起することをむしろ阻害する要因となり得るものであると思料します。」 以下、上記主張について検討する。 引用文献3には、血漿ミガラスタットのクリアランスが腎機能障害の程度の増加に伴い減少した(摘記3a)ことが記載されているから、腎機能障害を有する患者に対しては、ミガラスタットの有効血中濃度域を考慮しつつ、クリアランス状況に応じ、副作用発生の可能性を考慮しながら、有効血中濃度域を決定し、それぞれの投与量を好適化することは、当業者が通常行うことであるといえ、引用文献3の記載事項は、慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害を有する患者に対して、本願発明の投与量である「100mg~150mg遊離塩基当量(FBE)の量で1日おきに1回の頻度で投与」することを阻害するとまではいえない。 そして、第6の2で記載したとおり、引用文献3には、ミガラスタット塩酸塩150mg単回経口投与したところ、中等度の腎機能障害を有する被験者においても、有害事象は発生しなかったことが記載されており、引用文献1には、本願発明における「ミガラスタット又はその塩が100mg~150mg遊離塩基当量(FBE)の量で1日おきに1回の頻度で投与される」という投与量の4倍以上もの用量である150mg1日2回で投与しても副作用は生じないことが記載されている。 これらの記載から、当業者はミガラスタットの有効血中濃度域及び副作用について把握することができ、慢性腎臓病ステージの中等度に対応する腎機能障害によりクリアランスが低下し、血中濃度が上昇しても、軽度腎機能障害の患者と同じ用量で、副作用が発生することなく使用できることは、当業者が予測し得たことといえる。そして、ミガラスタットの血漿濃度が高くなっても、ミガラスタットの薬効の低減が予想されたわけではないことも第6の2で述べたとおりである。 したがって、請求人の主張は採用することができない。 第8 むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3、4、参考文献5、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-008446

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決10件(アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド)
  • 2023-019971拒絶査定不服審判 / 2025-09-10 / 請求不成立GLA遺伝子の突然変異を有する患者におけるファブリー病を治療する方法
    同じ当事者: アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド
  • 2023-010994拒絶査定不服審判 / 2025-08-27 / 原査定取消(特許/登録すべき)ファブリー病患者における心臓機能の強化及び/または安定化方法
    同じ当事者: アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド
  • 2024-006746拒絶査定不服審判 / 2025-08-14 / 原査定取消(特許/登録すべき)遺伝子治療構築物及び使用方法
    同じ当事者: アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド
  • 2022-005201拒絶査定不服審判 / 2024-05-14 / 原査定取消(特許/登録すべき)組換え酸性α-グルコシダーゼを含む製剤
    同じ当事者: アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド
  • 2020-005583拒絶査定不服審判 / 2021-03-15 / 原査定取消(特許/登録すべき)ポンペ病の処置のための高濃度α-グルコシダーゼ組成物
    同じ当事者: アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド
検索でもっと見る →
同じ根拠条文の審決7,656件(特許法29条2項)
  • 2024-012117拒絶査定不服審判 / 2026-05-25 / 請求不成立前処理剤、及び酸化染毛方法又は脱色方法
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-004310拒絶査定不服審判 / 2026-04-28 / 請求不成立皮膚外用クリーム剤
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-006319拒絶査定不服審判 / 2026-04-27 / 請求不成立男性活力用組成物及び組成物
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-008788拒絶査定不服審判 / 2026-04-13 / 請求不成立糖尿病を治療するための方法および試薬
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-000901拒絶査定不服審判 / 2026-03-26 / 請求不成立慢性便秘症を治療するための医薬組成物
    共通の条文: 特許法29条2項
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)4,292件(121・A61K)
  • 2024-009983拒絶査定不服審判 / 2026-08-28 / 原査定取消(特許/登録すべき)歯科用硬化性組成物
    共通の審決分類: 121・A61K
  • 2023-019302拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)加齢性黄斑変性症(AMD)におけるスタチン療法の機能的バイオマーカー
    共通の審決分類: 121・A61K
  • 2023-018795拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)癌のための予防および治療処置としてのIPSCベースのワクチン
    共通の審決分類: 121・A61K
  • 2024-009350拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)免疫増強剤
    共通の審決分類: 121・A61K
  • 2024-012557拒絶査定不服審判 / 2026-08-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)毛髪洗浄組成物
    共通の審決分類: 121・A61K

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存