2023-019906
光学デバイスを製造する方法、および結果として得られる光学デバイス
- 審判番号
- 2023-019906
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-552118外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年11月24日
- 審決日
- 2024年12月16日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】モロー・エン・フェー
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 分類
- P18 .121-Z (G02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 13項目
第1 手続の経緯の概要
折りたたみ中(クリックで表示)
本願は、平成30年(2018年)12月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成29年(2017年)12月12日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
同年 7月13日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
第2 本願発明
本願の請求項12に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和5年4月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項12に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項12の記載は、次のとおりである。
<本願発明>
「液晶材料で充填されたシールされた空洞(7)の両側に1対の第1および第2の光学的に透明な電極層(8、9)を備え、前記空洞(7)が、境界部(6)によって横方向に取り囲まれ、前記第1および第2の光学的に透明な電極(8、9)がそれぞれ、第1および第2の光学的に透明な層(2、3)上に存在し、ブレーズド格子、フレネルレンズ、またはフレネルアキシコンなどの回折構造を備える回折光学素子(4)は前記空洞(7)に位置付けられ、少なくとも1つのスペーサ(5)が、前記回折光学素子(4)と前記第2の光学的に透明な層(3)との間に存在し、その回折光学素子が、前記境界部(6)によって横方向に取り囲まれる、光学デバイスであって、- 前記回折光学素子(4)、前記少なくとも1つのスペーサ(5)、およびオプションで、前記境界部(6)の下側部分が、ナノインプリントによってパターニングされる、前記第1の光学的に透明な層(2)上に存在する層(18)内に、存在し、- 前記境界部の上側部分が、前記空洞(7)と直接接触する接着剤(15)を備え、前記第2の光学的に透明な層(3)が、前記空洞(7)を閉じ、前記第2の光学的に透明な電極層(9)がその上に形成された前記第2の光学的に透明な層(3)が、前記接着剤(15)に取り付けられる、光学デバイス。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
本願発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 各引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2009-80152号公報(以下「引用文献1」という。)には、実施例1の液晶可変レンズにおいて、【0050】に記載のように「何れか一方の透明基板にフレネルレンズ面を備え」る構成について、以下の記載がある(下線は当合議体が付した。以下同様。)。
【請求項1】
フレネルレンズ面を有する第1の透明基板と、第2の透明基板とで、液晶を挟持する液晶可変焦点レンズにおいて、
前記フレネルレンズ面は、型の転写により形成された配向層を有する
ことを特徴とする液晶可変焦点レンズ。
【0001】
本発明は、透明基板上のフレネルレンズ面に配向層を有する液晶可変焦点レンズとその製造方法に関する。
【実施例1】
【0018】
[構成の説明]
まず、本発明にかかる実施例1の液晶可変焦点レンズの構成について説明する。図1は実施例1の液晶可変焦点レンズ1の構成を示す説明図である。図1(a)は、液晶可変焦点レンズ1の断面形状の模式図であり、図1(b)は、図1(a)のAで示す箇所の拡大図である。
図1に示すように、実施例1の液晶可変焦点レンズ1は、透明電極16、17がそれぞれ形成された2枚の対向する透明基板11、12によって、液晶層13が挟持された構造を有している。ここで透明基板11、12の材質として、例えば、ガラスやポリカーボネートなどが用いられる。液晶として、例えば、ホモジニアス配向型または垂直配向型の液晶が用いられる。(当合議体注:引用文献1には「2枚の対抗する透明基板11、12」と記載されているが、これは「2枚の対向する透明基板11、12」の誤記であることは明らかであるから、誤記を正して摘記した。)
【0019】
透明基板11、12の間には、周縁部にシール10が設けられており、液晶の漏れを防止するとともに、液晶層13を所定の厚さに保っている。さらに、各透明基板11、12の向かい合う面にはそれぞれ、透明のフレネルレンズ面14、15が形成されている。フレネルレンズ面14、15は、例えば、ポリカーボネートやアクリルなどの光学材料または、環状オレフィン系などの透明樹脂により形成されることが望ましい。このフレネルレンズ面14、15における段差をなくし、表面を接続した連続面は、単純な球面でも良いが、収差の低減の観点からは、非球面形状をしていることが望ましい。
【0020】
各フレネルレンズ面14、15の表面には、液晶を所定の方向に配向させるための配向層18、19が設けられている。液晶可変焦点レンズ1では、図1(b)に示すように、フレネルレンズ面14、15の形成材に直接、配向層18、19が形成されている。この配向層18、19の作製方法については、後述する。
【0021】
次に、液晶可変焦点レンズ1の動作について説明する。液晶可変焦点レンズ1は、例えばフレネルレンズ面14、15と液晶層13の屈折率をガラスと同じにすればレンズ効果のない素ガラスと同じ働きをし、液晶層13がフレネルレンズ面14、15と異なる屈折率を持っている場合は、フレネルレンズ面14、15の形状に応じて、凸レンズや凹レンズとして機能する。透明電極16、17へ電圧を印加すると液晶の屈折率が変わるので、レンズのパワーを変化させることができる。透明電極16、17へ印加される駆動電圧は、例えばパルス高さ変調(PHM)またはパルス幅変調(PWM)された交流電圧である。
[製造方法の説明]
【0022】
次に、実施例1の液晶可変焦点レンズ1の製造方法例について説明する。まず、配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する方法について説明する。
<フレネルレンズ面および配向層の第1の作製方法>
【0023】
まず、配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する第1の作製方法について説明する。図2は、フレネルレンズ面および配向層の第1の作製方法で用いられる型(モールド4)の説明図である。図2(a)は、モールド4を示す断面形状の模式図であり、図2(b)は、図2(a)のBで示す箇所の拡大図である。
モールド4はフレネルパターン42を有する。モールド4のフレネルパターン42の表面には、図2(b)のように、フレネルレンズ面の配向層を形成するための微細な配向パターン41が設けられている。
【0027】
次に、図3を用いて、透明基板上に、配向層が形成されたフレネルレンズ面を作製する方法について説明する。図3は、フレネルレンズ面および配向層の第1の作製方法におけるフレネルレンズ面および配向層の作製方法を示す断面形状の模式図である。
【0028】
図3(a)は透明電極17(16)が形成された透明基板12(11)上に樹脂20を塗布した状態を示す。例えば、樹脂20はスピンコートやディップコートによって透明基板12(11)上に塗布される。ここで、透明基板12(11)と樹脂20との密着性が悪い場合は、透明基板12(11)と樹脂20の材料に応じたプライマ剤を用いることで、透明基板12(11)と樹脂20との密着力を向上させることができる。
【0029】
以下では、異なる特徴をもつ、代表的な2種類の樹脂について、分けて説明する。
【0030】
まず、樹脂20が光硬化する樹脂である場合について説明する。図3(a)に示すように、透明基板12(11)に光硬化する樹脂20を塗布する。その後、図2で説明したモールド4を、図3(b)の状態から図3(c)の状態まで、樹脂20に接触させる。図3(c)の状態になったのち、紫外線(UV)を当て樹脂を硬化させる。モールド4が石英など透明な素材であれば、モールド4側からの樹脂2にUVを照射することが可能である。透明基板12(11)側からUVを照射する場合は、透明基板12(11)は、UVの吸収がない、もしくはUVの吸収が少ない基板であることが好ましい。
樹脂20にUVを照射し、樹脂20が十分硬化したのち、図3(d)に示すように、モールド4を樹脂20から離型する。これにより、フレネルレンズ面15(14)と配向層19(18)とが同時に転写されて形成される。
【0031】
次に、樹脂20が熱可塑性の樹脂である場合について説明する。図3(a)に示すように、透明基板12(11)に熱可塑性の樹脂20を塗布する。その後、図2で説明したモールド4と一緒に樹脂20を樹脂20のガラス転移温度以上まで加熱する。
その後、モールド4を、図3(b)の状態から図3(c)の状態まで、樹脂20に接触させる。図3(c)の状態のまま所定の温度に下がるまで保持した後、図3(d)に示すように、モールド4を樹脂から離型する。これにより、フレネルレンズ面15(14)と配向層19(18)とが同時に転写され、透明電極17(16)が形成された透明基板12(11)上に、フレネルレンズ面15(14)及び配向層19(18)が作製される。
図3では、モールド4が透明基板12(11)に対して上側に位置して、フレネルレンズ面15(14)及び配向層19(18)が作製される例を示しているが、透明基板12(11)が、モールド4に対して上側に位置しても、フレネルレンズ面15(14)及び配向層19(18)の作製は可能である。
【0032】
図3に示すフレネルレンズ面15(14)および配向層19(18)の第1の作製方法では、1つのモールド4の転写により、フレネルレンズ面15(14)および配向層19(18)が一度に作製される。このため、フレネルレンズ面15(14)上への配向層19(18)作製工程にかかる時間を短縮できる。
<フレネルレンズ面および配向層の第2の作製方法>
次に、配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する第2の作製方法について説明する。フレネルレンズ面および配向層の第2の作製方法は、透明基板11、12上にフレネルレンズ面14、15を作製したのち、フレネルレンズ面14、15上に配向層18、19を作製する方法である。フレネルレンズ面および配向層の第2の作製方法では、フレネルレンズ面14(15)および配向層18(19)を形成する樹脂として、熱可塑性の樹脂を用いる。
【0035】
上述した、配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する第1および第2の方法では、フレネルレンズ面を形成する樹脂に配向層を形成する方法であるため、配向層を形成するための配向材料を別途塗布する方法と比較して、配向層を形成する材料の残膜がなく作製できる。これにより、後述する方法により液晶可変焦点レンズを作製した際に、光学的な不具合の発生を抑え、所望のレンズ特性を得ることができる。
【0037】
上述した第1または第2の作製方法により作製したフレネルレンズ面を有する透明基板11または透明基板12に、スクリーン印刷などの方法によりシール10を塗布した後、透明基板11と透明基板12とをシール10を介して貼り合わせる。これにより、透明基板11、透明基板12及びシール10で構成される空セル構造が作製される。
その後、スクライブブレイク法などにより、一列に並んだ空セル構造毎に切断して、短冊状の空セル構造を形成した後に、シール10に設けられた注入口から各セル構造に液晶を注入し、注入口を封止材で封止する。その後、ダイシング法などによりセル構造ごとに切断して、図1に示すような液晶可変焦点レンズを作製する。
【0038】
上記のように、本発明の実施例1の液晶可変焦点レンズの製造方法によれば、モールド4の転写によりフレネルレンズ面15(14)上に配向層19(18)が均一に形成される。これにより、液晶層を均一に配向させて、所望のレンズ特性を持った液晶可変焦点レンズを得ることができる。
【0050】
上述した各実施例の液晶可変焦点レンズでは、両方の透明基板にフレネルレンズ面を備える構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、何れか一方の透明基板にフレネルレンズ面を備え、フレネルレンズ面上に型の転写で形成された配向層を備える構成としてもよい。
【図1】
[図:0001423059000001.jpg]
【図2】
[図:0001423059000002.jpg]
【図3】
[図:0001423059000003.jpg]
(2)引用文献1の記載から当業者が把握することができる事項
【0018】に「透明電極16、17がそれぞれ形成された2枚の対向する透明基板11、12によって、液晶層13が挟持された構造を有している」こと、【0019】に「透明基板11、12の間には、周縁部にシール10が設けられており、液晶の漏れを防止するとともに、液晶層13を所定の厚さに保っている」ことが記載されていることを踏まえると、図1(a)から、当業者は、液晶可変焦点レンズ1は、「上下方向に透明電極16、17が対向して配置され、前記透明電極16、17とシール10によって囲まれた空間を備え、透明電極16、17の向かい合う面に形成されたフレネルレンズ面14、15は、前記空間に位置しており、前記空間が液晶層13を構成する材料で充填されている」ことを把握することができる。
そして、このことに、【0050】の「何れか一方の透明基板にフレネルレンズ面を備え」てもよい旨の記載を合わせると、当業者は、「上下方向に透明電極16、17が対向して配置され、前記透明電極16、17とシール10によって囲まれた空間を備え、透明電極17の透明電極16に向かう面に形成されたフレネルレンズ面15は、前記空間に位置しており、前記空間が液晶層13を構成する材料で充填されている」ことを把握することができる。
(3)引用発明の認定
前記(1)及び(2)によれば、引用文献1には、実施例1に係る液晶可変焦点レンズにおいて、【0050】に記載のように「何れか一方の透明基板にフレネルレンズ面を備え」る構成、すなわち、透明基板11、12のうち透明基板12のみにフレネルレンズ面15を備える構成であって、フレネルレンズ面15および配向層19を第1の作製方法(【0032】)で製造する構成について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(引用発明等の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。
<引用発明>
「フレネルレンズ面15を有する透明基板12と、透明基板11とで、液晶を挟持する液晶可変焦点レンズ1において、前記フレネルレンズ面15は、型の転写により形成された配向層19を有し、(【請求項1】・【0050】)液晶可変焦点レンズ1は、透明電極16、17がそれぞれ形成された2枚の対向する透明基板11、12によって、液晶層13が挟持された構造を有し、透明基板11、12の材質として、例えば、ガラスやポリカーボネートなどが用いられ、(【0018】)透明基板11、12の間には、周縁部にシール10が設けられており、液晶の漏れを防止するとともに、液晶層13を所定の厚さに保っており、透明基板12の透明基板11と向かう面には、透明のフレネルレンズ面15が形成されており、(【0019】・【0050】)続きを表示(全12行)上下方向に透明電極16、17が対向して配置され、前記透明電極16、17とシール10によって囲まれた空間を備え、透明電極17の透明電極16に向かう面に形成されたフレネルレンズ面15は、前記空間に位置しており、前記空間が液晶層13を構成する材料で充填されており、(前記(2))フレネルレンズ面15の表面には、液晶を所定の方向に配向させるための配向層19が設けられ、フレネルレンズ面15の形成材に直接、配向層19が形成されており、(【0020】・【0050】)透明基板上に、配向層が形成されたフレネルレンズ面を作製する方法は、透明電極17が形成された透明基板12上に樹脂20を塗布し、(【0027】・【0028】・【0050】)モールド4を、樹脂20に接触させ、樹脂20が十分硬化したのち、モールド4を樹脂20から離型するものであり、これにより、フレネルレンズ面15と配向層19とが同時に転写されて形成され、(【0030】・【0031】)モールド4はフレネルパターン42を有し、モールド4のフレネルパターン42の表面には、フレネルレンズ面の配向層を形成するための微細な配向パターン41が設けられており、(【0023】)フレネルレンズ面15および配向層19の第1の作製方法では、1つのモールド4の転写により、フレネルレンズ面15および配向層19が一度に作製され、(【0032】・【0050】)第1の作製方法により作製したフレネルレンズ面を有する透明基板12に、スクリーン印刷などの方法によりシール10を塗布した後、透明基板11と透明基板12とをシール10を介して貼り合わせ、これにより、透明基板11、透明基板12及びシール10で構成される空セル構造が作製され、その後、スクライブブレイク法などにより、一列に並んだ空セル構造毎に切断して、短冊状の空セル構造を形成した後に、シール10に設けられた注入口から各セル構造に液晶を注入し、注入口を封止材で封止し、その後、ダイシング法などによりセル構造ごとに切断して、液晶可変焦点レンズを作製して得られた、(【0037】・【0050】)液晶可変焦点レンズ。」
2 引用文献2に記載された事項及び引用文献2技術事項の認定
(1)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2014-182330号公報(以下「引用文献2」という。)には、第2実施例及び「他の変形例」(【0070】~【0075】)に係る液晶光学素子について、以下の記載がある。
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板上方に配置された、第1の電極層及び傾斜断面構造層の積層構造と、
前記積層構造上方に配置された液晶層と、
前記液晶層上方に配置された第2の電極層と、
前記第2の電極層上方に配置された第2の基板と、
セル厚を保持するスペーサーとして機能する複数の突起部を有する突起層と
を有し、
前記突起層が前記第2の電極層及び前記突起層の積層構造として前記第2の基板側に形成され、前記第1の基板及び前記第2の基板の両方がフィルム基板であるか、または、
前記突起層が前記第1の電極層及び傾斜断面構造層及び前記突起層の積層構造として前記第1の基板側に形成され、少なくとも前記第1の基板がフィルム基板である液晶光学素子。
【0001】
本発明は、液晶光学素子とその製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
傾斜断面構造層を有する液晶光学素子にフィルム基板を用いることにより、素子の軽量化が図られる。また、傾斜断面構造層を有しフィルム基板を用いた液晶光学素子において、第1または第2の基板側の積層構造として形成された突起層によるスペーサーは、例えばギャップ散布剤によるスペーサーに比べて、安定したギャップ保持性能を有する。
【0010】
フィルム基板1上に、電極層2が形成されている。フィルム基板11上に、電極層12が形成されている。電極層2と電極層12とが対向するように、フィルム基板1とフィルム基板11とが対向配置されている。
【0011】
フィルム基板1、11として、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)等で形成された透明なプラスチックフィルムを用いることができる。なお、画像の表示を行なう液晶表示素子の基板材料としては、リターデーション(複屈折)の小さい材料が求められる。しかし、本実施例による液晶光学素子は、液晶とプリズムとの屈折率の差による光偏向を行うものであり、複屈折による性能への影響は少ない。従って、フィルム基板1、11として、PET等の複屈折を有するフィルムを用いることもできる。
【0021】
なお、フィルム基板を用いた液晶素子は、スペーサーを設けていても、フィルム基板の可撓性に起因して、基板が押されたりした時等、セル厚が変動しやすい。セル厚の変動は、画像の表示を行なう液晶表示素子では性能に大きく影響するが、本実施例のような光偏向を行う液晶光学素子では、性能にそれほど大きく影響しない。
【0045】
実施例による液晶光学素子は、スペーサーを突起層13により形成している。この方法は、例えばギャップ剤散布によるスペーサー形成に比べて、ロールトゥロール方式による液晶セルの形成工程への適合性が高い。また、散布したギャップ剤を用いる場合、フィルム基板の可撓性により、素子の使用中にギャップ剤が移動し凝集してギャップ保持機能が失われ、上下基板が密着して液晶光学素子の機能が失われる懸念もある。突起層13によるスペーサーは、例えばギャップ剤を用いたスペーサーに比べて、安定したギャップ保持性能を有する。
【0063】
図7は、第2実施例による液晶光学素子を示す概略断面図である。第2実施例の液晶光学素子は、基板1側に、プリズムと突起部33Pとが一体化された構造の(プリズム層と突起層とが積層された構造の)プリズム/突起層33が形成されている点が、第1実施例と異なる。突起部33Pは、配向膜14及び電極層12を介して対向基板11に接し、液晶セルのセル厚を保持するスペーサーとして機能する。
【0064】
図8は、第2実施例による液晶光学素子の製造装置の概略断面図である。第2実施例の製造装置では、プリズム/突起層33の形成されるプリズム/スペーサー側基板21が搬送される側は、プリズム/突起層33の形成用のロール状金型102が配置されているが、対向基板22が搬送される側は、第1実施例で突起層形成用に配置されていたロール状金型112が省略されている。ロール状金型102により、紫外線硬化樹脂33aに、プリズム及び突起パターンを転写して、プリズム/突起層33を形成する。
【0065】
図9A及び図9Bを参照して、プリズム/突起層33の形成用の金型の形成方法例について説明する。図9A及び図9Bは、第2実施例による金型の形成工程を示す概略断面図である。
【0066】
まず、第1の形成方法例について説明する。金属平板に、突起部に対応する穴部を画定するレジストパターンを形成し、これをマスクとしてエッチングにより穴を形成する(図9A参照)。穴部の形成された金属平板に、さらに切削により、プリズムに対応する片のこぎり断面状の溝部を形成する(図9B参照)。このような金属平板を、ロール状に丸めてロール状金型を作製することができる。なお、この方法では、平板を丸めてロール状の金型を形成するため、型上につなぎ目が存在する。
【0067】
次に、第2の形成方法例について説明する。ロール状の金型原版に、突起部に対応する幅を持つバイトを用いて、溝状に切削を行う。この溝を、例えばレジスト剤で部分的に埋めることで、突起部に対応する穴部を形成することができる(図9A参照)。穴部の形成されたロール状金型原版に、さらに切削により、プリズムに対応する片のこぎり断面状の溝部を形成する(図9B参照)。このようにして、ロール状金型を作製することもできる。なお、この方法では、つなぎ目のない金型を作製できる。
【0068】
図8に戻って説明を続ける。プリズム/突起層33の形成された基板21と、(電極層12の形成されたフィルム基板11である)基板22とに、第1実施例と同様、それぞれ、配向膜4、14を形成し、メインシール剤23、液晶層5を形成し、両基板の重ね合わせを行って、液晶セル構造24を形成する。その後、第1実施例と同様にして、長尺のシート状液晶セル構造24を液晶セル1つ分ずつに切断し、エンドシール剤を形成して封止し、第2実施例による液晶光学素子が形成される。
【0069】
第2実施例による液晶光学素子の製造方法は、片方の基板側にプリズム及び突起部を形成するので、プリズムと突起部とを別々の基板側に形成した第1実施例と比べて、金型が少なくて済む。
【0070】
図10A~図10Cを参照して、さらに他の変形例について説明する。図10Aは、プリズム形成用ロール状金型の概略斜視図である。第1実施例では、プリズム長さ方向が搬送方向と直交したプリズム層を形成したのに対し、本変形例では、プリズム長さ方向が搬送方向に沿ったプリズム層を形成する。このようなプリズム層は、プリズム長さ方向が搬送方向と交差したプリズム層に比べて、搬送方向へのラビング処理が容易となる。
【0071】
光線を一定方向に偏向させるプリズムパターンに限らず、フレネルレンズパターン等を形成することもできる。フレネルレンズも、プリズムと類似した傾斜断面構造により、光線の向きを変える偏向機能を有する。プリズムやフレネルレンズ等、液晶層と協同して、所望の斜面を有する断面の繰り返し構造により光の向きを制御する層を、傾斜断面構造層と呼ぶこととする。ロール状金型は、所望の傾斜断面構造層に応じて作製することができる。
【0072】
図10Bは、プリズムの他の傾斜断面構造層の例として、フレネルレンズの概略平面図を示す。このような傾斜断面構造層に対しても、スペーサーとして、突起層を形成することができる。
【0073】
なお、第1実施例のように、傾斜断面構造層に対向する突起層を形成する場合、所望の傾斜断面構造層の形状に対応させて、例えば、一定高さに突起部の端が配置されるように、突起部の形状や配置を定めることができる。
【0074】
なお、第2実施例のように、傾斜断面構造と突起部が一体化された傾斜断面構造/突起層を形成する場合は、突起部が傾斜断面構造の対向側に接するので、第1実施例の構造に比べて、突起部の形状や配置の自由度が高い。
【0075】
図10Cは、液晶光学素子の概略断面図である。上記第1実施例等との違いは、プリズム側基板1において、プリズム層3の上に電極層2が形成されていることである。このような電極層2は、基板1上へのプリズム層3の形成後、例えば、インクジェット方式の供給ヘッドによりプリズム層3上に透明導電膜材料を塗布することで形成できる。プリズム層3上に電極層2を配置することにより、液晶層5の屈折率制御に要する電圧の低下が図られる。
【図7】
[図:0001423059000004.jpg]
【図8】
[図:0001423059000005.jpg]
【図9】
[図:0001423059000006.jpg]
【図10】
[図:0001423059000007.jpg]
(2)引用文献2の記載から当業者が把握することができる事項
【0070】~【0075】には、「他の変形例」についての記載があるところ、それらのうち、【0071】並びに【0072】及び関連して図10Bには、傾斜断面構造として、プリズムに代えて「フレネルレンズ」を形成できることが記載されており、また、【0074】には、第2実施例(図7)のような、傾斜断面構造と突起部が一体化された傾斜断面構造/突起層を形成するメリットが記載されている。そうすると、当業者であれば、第2実施例(図7)が、「プリズム」に関するもの、具体的には、基板1側に、プリズムと突起層33Pとが一体化された構造の(プリズム層と突起層とが積層された構造の)プリズム/突起層33が形成されているものである(【0063】)としても、当該「プリズム」に代えて「フレネルレンズ」を形成した構造、つまり、「基板1側に、フレネルレンズと突起部33Pとが一体化された構造の(フレネルレンズ層と突起層とが積層された構造の)フレネルレンズ/突起層33が形成されている」構造を把握することができる。
(3)引用文献2技術事項の認定
前記(1)及び(2)によれば、引用文献2には、他の変形例においてフレネルレンズパターン(図10B)を形成した液晶光学素子について、次の技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献2技術事項>
「散布したギャップ剤を用いる場合、フィルム基板の可撓性により、素子の使用中にギャップ剤が移動し凝集してギャップ保持機能が失われ、上下基板が密着して液晶光学素子の機能が失われる懸念もあることから、(【0045】)例えばギャップ剤を用いたスペーサーに比べて、安定したギャップ保持性能を有するようにするために、(【0007】)基板1側に、フレネルレンズと突起部33Pとが一体化された構造の(フレネルレンズ層と突起層とが積層された構造の)フレネルレンズ/突起層33が形成されており、突起層33の突起部33Pは、配向膜14及び電極層12を介して対向基板11に接し、液晶セルのセル厚を保持するスペーサーとして機能し、(【0063】・前記(2))フレネルレンズ/突起層33の形成用の金型は、金属平板に、突起部に対応する穴を形成し、穴部の形成された金属平板に、さらに切削により、フレネルレンズに対応する溝部を形成することを含む、(【0065】・【0066】・前記(2))技術事項。」
第5 本願発明と引用発明の対比、一致点及び相違点並びに判断
1 本願発明と引用発明の対比
(1)本願発明の「液晶材料で充填されたシールされた空洞(7)の両側に1対の第1および第2の光学的に透明な電極層(8、9)を備え、前記空洞(7)が、境界部(6)によって横方向に取り囲まれ、前記第1および第2の光学的に透明な電極(8、9)がそれぞれ、第1および第2の光学的に透明な層(2、3)上に存在し、ブレーズド格子、フレネルレンズ、またはフレネルアキシコンなどの回折構造を備える回折光学素子(4)は前記空洞(7)に位置付けられ、少なくとも1つのスペーサ(5)が、前記回折光学素子(4)と前記第2の光学的に透明な層(3)との間に存在し、その回折光学素子が、前記境界部(6)によって横方向に取り囲まれる、光学デバイスであって、」との特定事項について
ア 引用発明の「液晶層13を構成する材料」、「透明電極17、16」、「透明基板12、11」及び「液晶可変焦点レンズ」は、それぞれ、本願発明の「液晶材料」、「第1および第2の光学的に透明な電極層(8、9)」、「第1および第2の光学的に透明な層(2、3)」及び「光学デバイス」に相当する。
引用発明の「液晶可変焦点レンズ1」には、「フレネルレンズ面15」が形成されていることから、当該「フレネルレンズ面15」からなる光学要素を観念できるところ、当該「フレネルレンズ面15」からなる光学要素は、本願発明の「ブレーズド格子、フレネルレンズ、またはフレネルアキシコンなどの回折構造を備える回折光学素子(4)」に相当する。
イ 引用発明の「上下方向に透明電極16、17が対向して配置され、前記透明電極16、17とシール10によって囲まれた空間」及び「シール10」は、それぞれ、本願発明の「空洞(7)」及び「境界部(6)」に相当する。
そして、当該「空間」は、本願発明でいう「両側に1対の第1および第2の光学的に透明な電極層(8、9)を備え」るものといえるし、「液晶層13を構成する材料で充填されて」いることから、本願発明でいう「液晶材料で充填されたシールされた」ものともいえる。また、当該「空間」は、「上下方向に」「対向して配置され」た「透明電極16、17」と「シール10によって囲まれ」ているものであるから、本願発明でいう「境界部(6)によって横方向に取り囲まれ」たものといえる。
ウ 引用発明の「透明電極16、17」は、それぞれ「透明基板11、12」に形成されたものであって、ここでいう「形成」とは、透明基板11、12の「上に」前記透明電極16、17が位置づけられることであるのが明らかであるから、引用発明は本願発明でいう「前記第1および第2の光学的に透明な電極(8、9)がそれぞれ、第1および第2の光学的に透明な層(2、3)上に存在」するものといえる。
エ 引用発明の「フレネルレンズ面15」は、「前記空間に位置して」いることから、当該「フレネルレンズ面15」からなる光学要素(前記ア)は、本願発明でいう「前記空洞(7)に位置づけられ」るものといえる。
オ 引用発明の「フレネルレンズ面15」が、「前記空間に位置して」いることと前記イに照らせば、前記空間に位置するフレネルレンズ面15からなる光学要素も、本願発明でいう「前記境界部(6)によって横方向に取り囲まれる」といえる。
カ したがって、本願発明と引用発明は、「液晶材料で充填されたシールされた空洞(7)の両側に1対の第1および第2の光学的に透明な電極層(8、9)を備え、前記空洞(7)が、境界部(6)によって横方向に取り囲まれ、前記第1および第2の光学的に透明な電極(8、9)がそれぞれ、第1および第2の光学的に透明な層(2、3)上に存在し、ブレーズド格子、フレネルレンズ、またはフレネルアキシコンなどの回折構造を備える回折光学素子(4)は前記空洞(7)に位置付けられ、その回折光学素子が、前記境界部(6)によって横方向に取り囲まれる、光学デバイス」である点で共通するが、本願発明は、「少なくとも1つのスペーサ(5)が、前記回折光学素子(4)と前記第2の光学的に透明な層(3)との間に存在」するのに対して、引用発明は、そのようなスペーサが存在するか不明である。
(2)本願発明の「前記回折光学素子(4)、前記少なくとも1つのスペーサ(5)、およびオプションで、前記境界部(6)の下側部分が、ナノインプリントによってパターニングされる、前記第1の光学的に透明な層(2)上に存在する層(18)内に、存在し、」との特定事項について
ア 引用発明の「樹脂20」は、「透明電極17が形成された透明基板12上に」「塗布」されることから、前記(1)アにも照らせば、本願発明の「前記第1の光学的に透明な層(2)上に存在する層(18)」に相当する。
そして、引用発明の当該「樹脂20」は、「モールド4を」「接触させ」て「フレネルレンズ面15」が「作製され」るものであるから、当該「フレネルレンズ面15」からなる光学要素は、本願発明でいう「前記第1の光学的に透明な層(2)上に存在する層(18)内に、存在」するものといえる。
イ 引用発明の「フレネルレンズ面15」は、「モールド4を、樹脂20に接触させ、樹脂20が十分硬化したのち、モールド4を樹脂20から離型する」ことにより「作製」されるものであることから、本願発明の「前記回折光学素子(4)、前記少なくとも1つのスペーサ(5)、およびオプションで、前記境界部(6)の下側部分が、ナノインプリントによってパターニングされる」ことと引用発明は、「前記回折光学素子(4)」「が、」インプリント「によってパターニングされる」点で共通している。
ウ したがって、本願発明と引用発明は、「前記回折光学素子(4)」「が、」インプリント「によってパターニングされる、前記第1の光学的に透明な層(2)上に存在する層(18)内に、存在」する点で共通するが、層(18)にパターニングされる構造について、本願発明が「前記少なくとも1つのスペーサ(5)」を有するのに対して、引用発明はスペーサを有するかすら不明であり、インプリントについて、本願発明が「ナノインプリント」であるのに対して、引用発明は「モールド4を、樹脂20に接触させ、樹脂20が十分硬化したのち、モールド4を樹脂20から離型するもの」であって、「1つのモールド4の転写により、フレネルレンズ面15および配向層19が一度に作製され」るものであり、作製されるものが「フレネルレンズ面15および配向層19」である。
(3)本願発明の「前記境界部の上側部分が、前記空洞(7)と直接接触する接着剤(15)を備え、前記第2の光学的に透明な層(3)が、前記空洞(7)を閉じ、前記第2の光学的に透明な電極層(9)がその上に形成された前記第2の光学的に透明な層(3)が、前記接着剤(15)に取り付けられる、」との特定事項について
ア(ア)引用発明は、「透明基板12に、スクリーン印刷などの方法によりシール10を塗布した後、透明基板11と透明基板12とをシール10を介して貼り合わせ、これにより、透明基板11、透明基板12及びシール10で構成される空セル構造が作製され」るものであることから、当業者は、当該「シール10」が接着剤としての作用を有していることを認識でき、そのため、当該「シール10」は、本願発明の「接着剤(15)」に相当する。
(イ)本願発明の上記の「前記境界部の上側部分が、前記空洞(7)と直接接触する接着剤(15)を備え」るとの特定事項は、「前記境界部」の「上側部分」を含む全体が、前記空洞(7)と直接接触する「接着剤(15)」からなる態様を含むと解される。すなわち、本願発明は、「オプションで、前記境界部(6)の下側部分が、ナノインプリントによってパターニングされる」と特定されていることから、「前記境界部(6)の下側部分」がナノインプリントによってパターニングされない態様を含むのであり、とすれば、当該態様においては、「境界部(6)の下側部分」がどのような部材で構成されるかが特定されていないといえる。そして、本願の明細書の発明の詳細な説明の【0031】及び【0050】には、境界部全体が接着剤から形成されてもよい旨が記載されている。そうすると、本願発明における上記特定事項は、上記のとおり、「前記境界部」の「上側部分」を含む全体が、前記空洞(7)と直接接触する「接着剤(15)」からなる態様を含むと解するのが相当である。
これを引用発明についてみると、引用発明の「シール10」は、本願発明の「境界部(6)」に相当する(前記(1)イ)とともに、「接着剤(15)」にも相当する(前記(ア))ことから、引用発明は、本願発明でいう「境界部」が全て接着剤(15)により構成されていることになり、そのため、本願発明でいう「前記境界部の上側部分が、」「接着剤(15)を備え」るものといえる。
(ウ)また、引用発明は、「透明電極16、17とシール10によって囲まれた空間」を備えるものであるから、当該「シール10」は、本願発明でいう「前記空洞(7)と直接接触する」ものといえる。
イ 前記(1)ウにおいて説示したとおり、引用発明は、透明基板11、12の「上に」前記透明電極16、17が位置づけられるものであるため、引用発明では、「透明基板11と透明基板12とをシール10を介して貼り合わせ」ることによって、透明基板11、12の上に形成された透明電極16、17が対向して、「透明電極16、17とシール10によって囲まれた空間」が形成される、すなわち、前記空間が閉じられるものであるといえる。このように、引用発明は、「透明基板11」(本願発明の「第2の光学的に透明な層(3)」に相当。)は、透明基板12とシール10を介して貼り合わせられることによって、「空間」を閉じているといえることから、引用発明は、本願発明でいう「前記第2の光学的に透明な層(3)が、前記空洞(7)を閉じ」るものといえる。さらに、引用発明は、「透明基板11」上の「透明電極16」(本願発明の「第2の光学的に透明な電極層(9)」に相当。)が「シール10」(本願発明の「接着剤(15)」に相当。)に貼り合わせられていることから、引用発明は、本願発明でいう「前記第2の光学的に透明な電極層(9)がその上に形成された前記第2の光学的に透明な層(3)が、前記接着剤(15)に取り付けられる」ものといえる。
ウ したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を備えている。
2 前記1によれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「液晶材料で充填されたシールされた空洞(7)の両側に1対の第1および第2の光学的に透明な電極層(8、9)を備え、前記空洞(7)が、境界部(6)によって横方向に取り囲まれ、前記第1および第2の光学的に透明な電極(8、9)がそれぞれ、第1および第2の光学的に透明な層(2、3)上に存在し、ブレーズド格子、フレネルレンズ、またはフレネルアキシコンなどの回折構造を備える回折光学素子(4)は前記空洞(7)に位置付けられ、その回折光学素子が、前記境界部(6)によって横方向に取り囲まれる、光学デバイスであって、- 前記回折光学素子(4)が、インプリントによってパターニングされる、前記第1の光学的に透明な層(2)上に存在する層(18)内に、存在し、- 前記境界部の上側部分が、前記空洞(7)と直接接触する接着剤(15)を備え、前記第2の光学的に透明な層(3)が、前記空洞(7)を閉じ、前記第2の光学的に透明な電極層(9)がその上に形成された前記第2の光学的に透明な層(3)が、前記接着剤(15)に取り付けられる、光学デバイス。」である点。
<相違点1>
本願発明は、「少なくとも1つのスペーサ(5)が、前記回折光学素子(4)と前記第2の光学的に透明な層(3)との間に存在」するのに対して、引用発明は、そのようなスペーサが存在するか不明である点。
<相違点2>
層(18)にパターニングされる構造について、本願発明が「前記少なくとも1つのスペーサ(5)」を有するのに対して、引用発明がスペーサを有するかすら不明である点。
<相違点3>
前記第1の光学的に透明な層(2)上に存在する層(18)内に、存在する回折光学素子のインプリントが、本願発明は「ナノインプリント」であるのに対して、引用発明は「モールド4を、樹脂20に接触させ、樹脂20が十分硬化したのち、モールド4を樹脂20から離型するもの」であって、「1つのモールド4の転写により、フレネルレンズ面15および配向層19が一度に作製され」るものであり、作製されるものが「フレネルレンズ面15および配向層19」である点。
3 判断
(1)相違点1及び2について
ア 引用発明から出発した当業者が相違点1及び2に係る本願発明の構成に至るためには、(i)「透明基板12」に有された「フレネルレンズ面15」と「透明基板11」上に形成された「透明電極16」との間に、少なくとも1つのスペーサが存在するようにし、(ii)前記スペーサが、(硬化前の)樹脂20に対して「1つのモールド4の転写により、フレネルレンズ面15および配向層19が一度に作製され」る際に、同時に、樹脂20に形成されるようにすれば足りる。
イ そこで、上記当業者が(i)及び(ii)の構成に至るかについて検討する。
(ア)引用発明の「シール10」をみると、これは、「透明基板11、12の間」に設けられているものであって、「液晶の漏れを防止するとともに、液晶層13を所定の厚さに保」つ機能を備えている。そして、引用発明は、「シール10」が塗布される「透明基板11、12」の材質として、「ガラスやポリカーボネートなどが用いられ」るものであるところ、これらの材質、特に「ポリカーボネート」を用いた「透明基板」には、一定程度の可撓性があることが自明であるし、それをさておくとしても、ある程度の面積があるものである。
そうすると、引用発明から出発した当業者は、液晶層13を所定の厚さに保つべく「透明基板11、12の間」に「シール10」を設けているとしても、「透明基板11」と「透明基板12」との間隔が変動する可能性があるという課題を認識できるといえる。
(イ)他方、引用文献2技術事項は、前記第4の2(3)のとおりであるところ、要するに、フィルム基板に可撓性がある場合には、散布したギャップ剤を用いてもギャップ保持機能が失われることがあるから、「配向膜14及び電極層12を介して対向基板11に接し、液晶セルのセル厚を保持するスペーサーとして機能」する「突起部33P」と、「フレネルレンズ」「とが一体化された構造」、つまり、「フレネルレンズ層と突起層とが積層された構造」を1つの金型で形成するものである。
しかるに、引用文献2技術事項は、本願発明及び引用発明と共通する技術分野に属するといえることから、前記(ア)で説示した課題を認識した当業者は、引用文献2技術事項に接することができる。そして、引用文献2技術事項は、「フレネルレンズ」にスペーサーとして機能する突起部を1つの金型によって同時に形成するものであることから、上記当業者は、引用発明のように、「フレネルレンズ面15」が有された「透明基板12」を備えるとともに、「1つのモールド4の転写により、フレネルレンズ面15および配向層19が一度に作製され」る構造において、上記課題を解決するのに好適であることも認識できるといえる。
(ウ)このように、引用発明から出発した当業者は、液晶層13を所定の厚さに保つべく「透明基板11、12の間」に「シール10」を設けているとしても、「透明基板11」と「透明基板12」との間隔が変動する可能性があるという課題を認識することができるとともに、その課題の解決のために、引用文献2技術事項を採用することができるといえる。
そして、そのような採用がされた構成では、引用発明の「透明基板12」に有された「フレネルレンズ面15」に、「配向層19」とスペーサーとして機能する突起部が金型(ないしモールド)により、同時に、樹脂20に形成されたものとなっているのであり、このような構成は、(i)及び(ii)の構成を満たすといえる。
(エ)以上のとおり、引用発明から出発した当業者は、引用文献2技術事項を採用することにより、相違点1及び2に係る本願発明の構成に容易に至る。
(2)相違点3について
引用発明は、「モールド4はフレネルパターン42を有し、モールド4のフレネルパターン42の表面には、フレネルレンズ面の配向層を形成するための微細な配向パターン41が設けられて」いるものであることから、フレネルパターン42よりもさらに微細な配向パターン41をもモールド4により形成しており、当該モールド4を利用する引用発明のインプリントは、微細な構造を形成するためのものであって、相違点3に係る本願発明の「ナノプリント」に該当するといってよい。そのため、相違点3は実質的な相違点ではない。
仮に相違点3が実質的な相違点であるとしても、焦点距離を可変とした液晶レンズにおいて、フレネルレンズ等の光学素子をナノインプリントによって形成することは、原査定の拒絶の理由で引用された、特開2010-224424号公報(引用文献3)の【0033】、【0048】、【0084】、図2等のほか、同じく原査定の拒絶の理由で引用された、特開2009-210964号公報(引用文献4)の【0057】、【0058】、図7等に記載されているように周知技術である。そして、引用発明において、前記周知技術を適用して、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、形成する光学構造の大きさ、生産性等に応じて当業者が適宜選択し得る事項である。
4 本願発明の効果について
本願発明の効果は、回折光学素子と第2の光学的に透明な層との間に配置され、したがって空洞内に配置された1つまたは複数の局在スペーサが、空洞を安定化させ、そのような安定化が、光学デバイスの表面領域(すなわち光学的機能を備えた領域)にわたって2つの光学的に透明な層間の距離がばらつくことなく、境界部の少なくとも上側部分を接着剤から作り出すことを可能にするというもの(【0015】)であるが、当該効果は、「シール10」(本願発明の「境界部」及び「接着剤」に相当。)を備える引用発明において、液晶セルのセル厚を保持する突起部とフレネルレンズとが一体化された構造を金型で形成する引用文献2技術事項を適用した構成が奏するものとして当業者が予測可能であるといえる。
また、本願発明の、接着剤が空洞と直接接触するので、気泡混入をより容易に回避することができる(【0049】)との効果は、引用発明との相違点に係る構成に由来するものではない。
したがって、本願発明の効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明、引用文献2技術事項及び必要であれば周知技術に基づいて、当業者が予測し得ない格別顕著なものであるとはいえない。
5 請求人の主張について
(1)請求人は、引用発明では、「シール10」が既にスペーサとして機能しているので、当業者であれば、引用発明のレンズに引用文献2技術事項のスペーサ(突起13)をあえて追加する構成に至ることはない旨主張するが、前記3(1)イ(ア)で説示したとおりである。
(2)請求人は、引用文献2には、フレネルレンズの概略平面図が図10Bに示されているだけであって、フレネルレンズパターンを含む具体的な構成は開示されていない旨主張するが、前記第4の2(2)で説示したとおり、引用文献2技術事項を認定するのに何ら差し支えはない。
(3)請求人は、引用文献3は境界を開示しているが、境界の一部であるシール70にスペーサ82が設けられることも開示している旨主張するところ、その主張の趣旨は判然としないものの、引用文献3には、シール70内にセルギャップを出すためのスペーサ82を混入させていることが記載されており(【0029】)、これを踏まえると、引用発明に引用文献3に記載された技術事項を適用しても、シール10内にセルギャップを出すためのスペーサを設けることに至るにとどまり、引用文献3の存在は、引用発明に引用文献2技術事項を適用する動機付けとはならない旨の主張であると考えられる。しかしながら、前記3(1)イで説示したとおり、引用発明から出発した当業者は、液晶層13を所定の厚さに保つべく「透明基板11、12の間」に「シール10」を設けているとしても、「透明基板11」と「透明基板12」との間隔が変動する可能性があるという課題を認識することができることができるとともに、引用発明と構造上類似した構造をもつ引用文献2技術事項が、その課題を解決するのに好適であることも認識できるといえる。
そして、引用文献3において、シールにスペーサが設けられることが記載されているとしても、前記の判断を左右するものではない。
(4)したがって、請求人の主張には理由がない。
6 小括
以上によれば、本願発明は、引用発明、引用文献2技術事項及び必要であれば周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2023-019906