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特許拒絶査定不服審判

2023-016929

チーグラー・ナッタにより触媒されたポリイソプレン物品

審判番号
2023-016929
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-512360外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年10月05日
審決日
2025年12月08日
公報発行日
2026年05月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (C08F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条6項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第66条第3項第4号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-512360「チーグラー・ナッタにより触媒されたポリイソプレン物品」拒絶査定不服審判事件〔平成31年3月7日国際公開、WO2019/045651、令和2年11月12日国内公表、特表2020-532618〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成30年8月30日(パリ条約による優先権主張 2017年8月31日(US)米国、2018年8月29日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 4年 8月25日付け:拒絶理由通知 令和 5年 2月27日提出:意見書、手続補正書 同年 5月29日付け:拒絶査定 同年10月 5日提出:審判請求書 令和 7年 3月27日付け:拒絶理由通知 同年10月 1日提出:意見書 同年 同月 2日提出:手続補足書 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年2月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリイソプレン材料を含む架橋された合成ポリイソプレン粒子を含むエラストマー層を含む、ポリマー物品であって、 前記合成ポリイソプレン粒子は、粒子内硫黄架橋を有し、 前記ポリイソプレン材料は、分枝マクロ構造を含み、且つ、 95重量%以上のcis-1,4異性体含量; 1重量%以下のtrans-1,4異性体含量;および 5重量%以下の3,4異性体含量を含み、 前記エラストマー層は、11,000g/mol未満の架橋点間分子量(Mc)を有する後加硫構造を含む、ポリマー物品。」 第3 当審において通知した拒絶の理由 当審において、令和7年3月27日付けで通知した拒絶の理由は、概要、 「1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 本願発明の「架橋点間分子量(Mc)」が明確であるとはいえないから、本願発明が明確であるとはいえない。」 「3.(進歩性)本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献2:特表2011-519606号公報」 という理由を含むものである。 第4 当審における判断 1 理由1(明確性)について (1)明確性の判断手法 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである(知財高判平22.8.31平成21年(行ケ)10434号参照。)。 (2)本願明細書の記載 本願発明の「架橋点間分子量(Mc)」について、本願明細書には次のとおりの記載がある。 「【0038】 本開示による実施形態は前加硫および後加硫法の使用を含み、その技術は、本願の譲受人に譲渡された米国特許第8,087,412号;8,464,719号;9,074,027号;および9,074,029号(全体として参照により組み込まれる)において開示される。架橋点間分子量Mcを決定するための方法は米国特許第8,087,412号;8,464,719;9,074,027号;および9,074,029号において開示される。」 「【0062】 実施例 表1の調合物によるコンドームを生成させた。 【0063】 分子量分布を測定し、架橋密度を計算する方法は、コンドーム試料からディスクを切断し、ディスク試料をトルエン中で平衡となるまで膨潤させることを必要とする。ディスクを最初に秤量し、膨潤後、それらを再び秤量した。膨潤したゴムの平衡体積分率を以下で示される式を使用して計算した。この式ではPrはゴムの密度であり(0.92g/cm3)、Psはトルエンの密度であり(0.862g/cm3)、Wrは膨潤前のゴムの重量であり、Wsは膨潤したゴムの重量である。 【0064】 WrPrWrPr+Ws-WrPs 【0065】 体積分率を以下で示されるFlorey-Rehner式において使用して架橋密度を計算した。この式で、nは架橋密度であり、Vsは、トルエン、106.3cm3/molである膨潤溶媒のモル体積であり、Vrは膨潤したゲルにおけるゴム相の体積分率であり、χはトルエン-cisポリイソプレン相互作用パラメータであり、これは0.39である。 【0066】 n=-1/Vs(掛ける)[ln (1-Vr)+Vr+χ Vr2][Vr13-0.5 Vr] 【0067】 架橋点間分子量を下記式により計算した。Mc=Prn 【0068】 実施例1 以下で示される表4は、主題開示の実施形態に従い製造した合成ポリイソプレンコンドームのいくつかについての、測定した架橋点間分子量および対応する架橋密度を報告する。架橋点間分子量が高いほど、架橋密度がより低くなる。 【0069】 提示されたデータは、本開示のプロセスにより、非常に一貫した架橋点間分子量を有する合成ポリイソプレンコンドームが得られ、十分な機械的特性を有するコンドームが提供されることを示す。本実施形態によるコンドームについての架橋点間分子量(Mc)は0.0000845mol/cm3であり、これは、0.0000159mol/cm3の架橋密度を有する天然ゴムのそれに匹敵する。 【表4】 [図:0001434481000001.jpg] 」 (3)検討 本願明細書の段落0067には、架橋点間分子量McはPrとnとの積である旨が記載されている。 ここで、本願明細書の段落0063にはPrはゴムの密度である旨が記載され、同段落0065にはnは架橋密度である旨が記載されている。そして、立体における何らかの密度が (何らかの質量や何らかの個数等)1(体積)-1 という次元の物理量であることは本願出願当時の技術常識である。したがって、本願明細書の段落0067に記載された式により定義される架橋点間分子量Mcの次元は、少なくとも (体積)-2 すなわち (長さ)-6 を含むといえる。 一方、本願明細書の段落0069の「架橋点間分子量(Mc)は0.0000845mol/cm3」という記載によれば、この架橋点間分子量Mcは1立方センチメートルあたりのモル数であり、したがってその次元は (長さ)-3 であるといえる。 また、本願明細書の段落0069の表4の「Mc g/mol」という記載によれば、この架橋点間分子量Mcは1モルあたりのグラム質量であり、したがってその次元は (質量)1 であるといえる。 そうすると、本願明細書には次元が(長さ)-6を含む架橋点間分子量Mc、次元が(長さ)-3である架橋点間分子量Mc、次元が(質量)1である架橋点間分子量Mcという異なる3種類の架橋点間分子量Mcが記載されていることになる。 そして、本願発明における「架橋点間分子量(Mc)」がこれら3種類の架橋点間分子量Mcのいずれであるかあるいはその他であるのかについては、本願明細書には何ら記載されていない。 また、特許請求の範囲の用語を一般に解釈される意味ではなく特定の意味で使用することはままあることであることに照らせば(特許法施行規則第24条の2及び同規則様式第29条の2〔備考〕9参照。)、本願出願当時の技術常識を考慮しても、本願発明における「架橋点間分子量(Mc)」が本願明細書に記載された上記3種類の架橋点間分子量Mcのいずれであるかあるいはその他であるのかは判然としない。 そのため、本願発明における「架橋点間分子量(Mc)」は、本願発明に類する発明を実施しようとする第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえる。 したがって、本願発明における「架橋点間分子量(Mc)」が明確であるとはいえない。 (4)請求人の主張について 請求人は意見書において以下(a)~(d)のとおり主張する。 (a)「本願明細書[0064]および[0066]で定義されている式は、Mc値(架橋点間分子量)の計算方法を示しています」 (b)「本願明細書[0038]には「架橋点間分子量Mc値を決定するための方法は米国特許第8,087,412号;8,464,719号;9,074,027号;および9,074,029号において開示される」と明確に記載されています。また、Mc値の測定方法に関して米国特許第9,074,027号を参照文献とすべきであることも明確に示されています。したがって、当業者は、これらの文献が必要な情報を得るための信頼できる資料として提供されていることを容易に理解することができます。当該情報は、例えば、米国特許第9,074,027号と同一の式を開示する教科書「Kautschuk Technologie(ゴム技術)」(提出物件の(1)文献1)の517ページを参照することで裏付けることができます」 (c)「本願明細書で引用されているすべての文献は、Mc値の算出に通常用いられる式としてFlorey-Rehner式を明示し、本願明細書の記載の式と全く同一の形で定義しています。Mc値を決定する方法について依拠すべき上記4件の文献は本願明細書で引用されており、いずれもFlorey-Rehner式を開示しています。これらの文献と本願明細書は、架橋密度を求める当業者がFlorey-Rehner式を選択すべきであることを一義的に教示しています」 (d)「Mc値は、当該技術分野で通常用いられているパラメータであり、当業者には一般的に理解されている概念です。本願明細書および引用文献(段落[0038])や教科書(提出物件の(1)文献1)で詳細に説明されているように、その測定が可能です」 そこで、請求人の上記主張について、以下検討する。 主張(a)について 本願明細書の段落0064に記載されている式は同段落0063に記載された「膨潤したゴムの平均体積分率」の計算式であり、同段落0066に記載されている式は同段落0065に記載された「架橋密度」の計算式であって、いずれも架橋点間分子量Mcの計算式ではない。したがって、請求人の主張は当を得たものではないといわざるを得ない。 主張(b)について 公開代償という特許制度の趣旨や、特許法における公開の対象は明細書等それ自体に限られ(特許法第66条第3項第4号参照。)、明細書等で引用される文献の記載は公開の対象ではないこと、特許法施行規則様式第24条に「願書に添付すべき明細書は、様式第二十九により作成しなければならない。」と規定され、同様式第29〔備考〕6に「他の文献を引用して明細書の記載に代えてはならない。」と規定されていることに照らして、本願明細書の段落0038で米国特許の特許番号が引用されているからといって、そのことを根拠としてその特許番号に対応する米国特許明細書の記載が本願明細書の一部をなすものであるとすることはできない。また、仮にその特許番号に対応する米国特許明細書の記載が本願明細書の一部をなすものであるとしても、上記(3)で述べたとおり特許請求の範囲の用語を一般に解釈される意味ではなく特定の意味で使用することはままあることであるから、本願明細書に異なる複数種類の架橋点間分子量Mcが記載されており、本願発明における「架橋点間分子量(Mc)」がそのいずれであるかあるいはその他であるのかは判然としないという状況に変わりはない。 主張(c)について 請求人が指摘する米国特許明細書は、それらの15欄において、架橋点間分子量を [図:0001434481000002.jpg] (ここで、 [図:0001434481000003.jpg] であり、ここで、Vrは [図:0001434481000004.jpg] である。) と定義している。すなわち、これらの米国特許明細書は架橋点間分子量Mcを本願明細書の段落0064、0065及び0067に記載されている式と全く同一の形ではなく異なる形で定義しているといえる。したがって、請求人の主張は当を得たものではないといわざるを得ない。 主張(d)について 架橋点間分子量Mcは当業界で通常用いられているパラメータであって当業者には理解されているという主張それ自体は首肯し得るとしても、上記(3)で述べたとおり特許請求の範囲の用語を一般に解釈される意味ではなく特定の意味で使用することはままあることであるから、本願明細書に異なる複数種類の架橋点間分子量Mcが記載されており、本願発明における「架橋点間分子量(Mc)」がそのいずれであるかあるいはその他であるのかは判然としないという状況に変わりはない。 以上から、意見書における請求人の主張は上記(3)における判断を左右しない。 (5)理由1(明確性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本願発明が明確であるとはいえない。 2 理由3(進歩性)について (1)引用文献 ア 令和7年3月27日付けで通知した拒絶の理由で引用した文献 引用文献2:特表2011-519606号公報 引用文献3:服部岩和,ゴムの工業的合成法 第2回 イソプレンゴム,日本ゴム協会誌,88巻,6号,2015年,227-231頁,URL:https://doi.org/10.2324/gomu.88.227 引用文献4:和田義彰,シスポリイソプレンゴム,日本ゴム協会誌,45巻,3号,1972年,283-290頁,URL:https://doi.org/10.2324/gomu.45.283 引用文献5:木檜章,合成ゴム,日本ゴム協会誌,45巻,2号,1972年,94-104頁,URL:https://doi.org/10.2324/gomu.45.94 引用文献6:理化学研究所編,ポリイソプレンラバー(IR)の話,理化学研究所ニュース,21号,1970年,3-4頁,URL:https://www.riken.jp/pr/publications/news/1970/index.html,https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/publications/news/1970/rn197006.pdf 引用文献7:高分子学会編,ゴムの性質と加工 高分子工学講座7,地人書館,再版,1966年,38-40頁 引用文献8:阿部充雄,ゴム中の分岐鎖の決定,日本ゴム協会誌、43巻,1号,1970年,4-12頁,URL:https://doi.org/10.2324/gomu.43.4 引用文献9:対馬恭吾,コンドームで培ったラテックスの製膜技術,日本ゴム協会誌,88巻,9号,2015年,358-362頁,URL:https://doi.org/10.2324/gomu.88.358 ここで、上記引用文献3~9は技術常識又は周知技術を示すために引用した文献である。 イ 技術常識を示すために新たに引用する文献 引用文献10:小松智幸,加硫促進剤,日本ゴム協会誌,82巻,1号,2009年,33-38頁,URL:https://doi.org/10.2324/gomu.82.33 (2)引用文献の記載 ア 引用文献2の記載 「【請求項1】 前加硫及び硬化されている、ポリイソプレン粒子内架橋及びポリイソプレン粒子間架橋によって互いに結合された合成ポリイソプレン粒子を含む合成ポリイソプレンエラストマー物品であって、 該ポリイソプレン粒子内架橋及び該ポリイソプレン粒子間架橋が、前記合成ポリイソプレンラテックス物品中で実質的に均一である合成ポリイソプレンエラストマー物品。」 「【請求項6】 分子量が、架橋間で約6800g/mol未満である、請求項1に記載の合成ポリイソプレンエラストマー物品。」 「【請求項13】 合成ポリイソプレン粒子の水性ラテックスに、可溶性硫黄、ジチオカルバミン酸亜鉛及び界面活性剤を含む前加硫組成物を添加するステップと、 前記ラテックス中の該合成ポリイソプレン粒子を前加硫するステップと、 前記ラテックスに後加硫組成物を添加するステップと、 手袋又はコンドームの形の、凝固剤なしの又は凝固剤被覆されたフォーマーを前記ラテックス中に1回以上浸漬させて、ラテックスフィルムを形成するステップと、 後加硫の間に前記ラテックスフィルムを硬化させて、合成ポリイソプレン粒子内に粒子間架橋を生成し、前記粒子間に粒子内架橋を生成するステップと を含み、 該ポリイソプレン粒子内架橋及び該ポリイソプレン粒子間架橋が実質的に均一である、合成ポリイソプレンエラストマー物品を製造する方法。」 「【0002】 コンドーム及び手袋は通常、加硫天然ゴムからできている。天然ゴムは、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)の木によりラテックス形態で産出され、独特の特性を有する。これらの特性は、天然ゴムを特にバリア防護製品の調製にとって有用にする。天然ゴムの独特の特性の中に、その高いレベルの立体規則性があり、構成されるそのポリマーが、シス-1,4イソプレン単位からほとんど排他的になる分子鎖であることを意味する。天然ゴムラテックスは、高分子量及び広い分子量分布を有する高度に分岐したポリマーでもある。ベースラテックスのこれらの特性は、強度及び弾性の独特の組合せを有する加硫ゴムフィルム製品をもたらす。しかし、天然ポリイソプレンは、一部の感受性個人に皮膚アレルギー反応を生じることが示されたタンパク質も含む。 【0003】 合成ポリイソプレンは、天然ゴムの利点を有する材料を提供し、タンパク質アレルギーの可能性をなくすために開発されてきた。しかし、天然ゴムの真の代替品の開発は、困難であることがわかってきて、アニオン付加重合によるKraton Inc.により製造されたものなどの合成変形物は通常、より低いレベルの立体規則性(すなわち、90%未満のシス1,4イソプレン)及び低下した分子量の特性を有する。この分子特性は、その結果として、加硫天然ゴムフィルムのものと比較して劣った特性バランスを有する合成ポリイソプレンフィルムをもたらした。したがって、架橋剤の添加は、後加硫の間に、より多くの粒子間架橋及びより少ない粒子内架橋を生じる傾向があり、粒子間領域における裂け目の形成による空隙及び亀裂などの、不十分な強度及び伸び特性を有するラテックスフィルム物品の原因となる不均一硬化特性をもたらす。さらに、合成ポリイソプレンラテックスはより容易にフロック化し、浸漬フィルムに欠陥を生じ、ラテックス浸漬槽は、浸漬させる物品に利用可能な寿命が非常に限られる。したがって、合成ポリイソプレンフィルムがより良く架橋して、天然ゴムの分岐ポリマー構造を模倣して、改善された特性を得ることが不可欠である。」 「【0017】 本発明は、凝固剤を全く使用することなく、コンドーム成形フォーマーを前加硫合成ラテックスエマルジョンに浸漬し、このように製造されたコンドームを硬化させることによって成形されるラテックス物品を提供する。合成ポリイソプレンラテックスは、Kratonから入手でき、これは、高シス-1,4含有量を有してアニオン重合によって製造される。ラテックスエマルジョン中の合成ラテックス粒子は、ラテックス粒子のすきま内の硫黄の取り込みによって前加硫される。この合成ラテックス粒子内の硫黄の取り込みは、1)高含有量のS8環構造の可溶性硫黄を有する硫黄エマルジョンを用いること、2)前記環構造がジチオカルバミン酸亜鉛の触媒活性で分断又は破壊されて、ラテックスエマルジョン中の合成ポリイソプレンの粒子中への容易な移動に適合した、ラテックスエマルジョン中の線状硫黄鎖をもたらすこと、3)カプリル酸カリウム界面活性剤及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)界面活性剤を用いて、ラテックスエマルジョン中の合成ポリイソプレンの粒子を湿潤させ、それにより、硫黄捕捉ジチオカルバミン酸亜鉛と一緒の硫黄鎖が前記粒子中への浸透に利用可能になること、4)20℃~30℃の範囲の選択されたプロセス温度で十分な時間、前記合成ポリイソプレン粒子中に硫黄を漸進的に浸透させること、5)合成ポリイソプレン粒子がもはやあまり粘着性ではないが、イソプロパノール指数3のより小さい粘着度を示すイソプロパノール指数試験によって硫黄浸透及び前加硫を確認することによって得られる。ジチオカルバミン酸亜鉛は、ジチオカルバミン酸塩の亜鉛錯体であり、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛を含む。さらに、合成ポリイソプレンラテックスエマルジョンは、加硫又は硬化サイクルの間に粒子間領域を硬化させるための他の架橋剤、例えば、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDBC)、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲン、テトラエチルチウラムジスルフィド、キサントゲンスルフィドなどを有する。ラテックスエマルジョンに添加された硫黄中に存在する無定形硫黄又は多硫黄などの不溶性硫黄は、後加硫硬化温度で可溶性になり、ジチオカルバミン酸亜鉛促進剤と反応して、粒子間領域を硬化させる。後加硫硬化の間に、浸透した硫黄と一緒の前加硫合成ポリイソプレン粒子も、粒子内領域で完全に硬化する。したがって、前加硫促進剤パッケージ及び後加硫促進剤パッケージを用いるこの方法論を用いて、実質的に均一な硬化合成ラテックスコンドームフィルムが製造される。」 「【0020】 典型的な合成ポリイソプレンラテックスエマルジョン組成物は、乾燥ゴムの100重量部(phr)で与えられる。前加硫組成物は、0.6~1.8重量%の範囲で硫黄を含み、促進剤パッケージは、反応性酸化亜鉛活性化剤と一緒に、ZDEC及び/又はZDBC促進剤、SDBC促進剤、DXP促進剤を含み、0.6重量%~2.5重量%の総促進剤含有量で用いられる。界面活性剤パッケージは、カプリル酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテルを含み、界面活性剤は0.3~1.5重量%の範囲であり、Winsgtay L、すなわちp-クレゾール及びジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物の酸化防止剤保存剤は、0.3~1重量%の範囲であり、水酸化アンモニウムは、0~0.36重量%の範囲である。先に示されたように、合成ポリイソプレンラテックス組成物の前加硫組成物は、可溶性硫黄、ZDEC及び/又はZDBC促進剤、カプリル酸カリウム界面活性剤及びSDBS界面活性剤並びにポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテル界面活性剤を含む。後加硫組成物は、特に不溶性である硫黄、SDBC促進剤、DXP促進剤、ZDEC及び/又はZDBCを含む。前加硫組成物は、水性合成ポリイソプレンエマルジョン中の合成ポリイソプレンラテックス粒子へ硫黄の利用性をもたらし、粒子内領域を前加硫し、合成ポリイソプレンの粒子全体は、加硫硬化サイクルの間に架橋される。後加硫組成物は、合成ポリイソプレンの粒子間の領域すなわち粒子間領域を架橋する能力をもたらし、それにより、高い品質の実質的に均一に硬化した合成ポリイソプレン製品を保証する。」 「【0035】 以下の表1は、前加硫挙動を示す組成物の例を示す。 【0036】 【表1】 [図:0001434481000005.jpg] 【0037】 水性合成ラテックスエマルジョンの典型的な混合順序を表2に示す。この表は、ステップ及び関連する期間を記載する。 【0038】 【表2】 [図:0001434481000006.jpg] 」 「【0044】 界面活性剤-安定化された、前加硫合成ポリイソプレンラテックス組成物を用いるコンドームの浸漬順序は通常、合成ポリイソプレンラテックスエマルジョン槽の平均寿命である、5日間の期間内である。コンドームフォーマーは、第1の浸漬において本組成物に浸漬され、ラテックスフィルムの厚さは、浸漬槽中の組成物の総固形物含有量及びフォーマーの移動速度によって調節される。ラテックスフィルムは、約60~80℃で約1~3分間乾燥させる。フォーマー上のラテックスフィルムは、組成物中に再度浸漬され、第2の浸漬コーティングを適用する。第2の浸漬後のラテックスフィルムは、約60~80℃で約1~3分間乾燥させる。コンドームの自由端を巻いて、ビーズリングを作製し、約70~100℃で約1~3分間乾燥させる。ラテックスフィルムを約110~130℃で約11~15分間後加硫する。ラテックスフィルムを水中約70~80℃で約1~2分間浸出させ、ラテックスフィルムから残存界面活性剤及び架橋剤を除去する。次いで、ラテックスフィルムをフォーマーから引き剥がす。製造されたラテックス物品は、低立体規則性合成ポリイソプレンが用いられる場合でさえも、より高い強度及び改善された伸張を示す。合成ポリイソプレン物品は、刺激原因となるタンパク質を含まず、ラテックス感受性の長い未解決の問題を解決する。」 「【0050】 コンドームの破裂圧及び破裂容量は、その性能の重要な尺度である。表6A及び表6Bは、破裂容量及び破裂圧のデータを示す。 【0051】 【表6】 [図:0001434481000007.jpg] 【0052】 【表7】 [図:0001434481000008.jpg] 」 「【0059】 以下に示される表7では、主題発明の実施形態によって製造された、いくつかの合成ポリイソプレンコンドームについて、架橋間の測定分子量及び対応する架橋密度が報告される。英国GB2,436,566LRC特許出願によって恐らくは製造された、Durexにより市販される合成ポリイソプレンコンドームの値も示される。天然ゴムコンドームの値も示される。架橋間の分子量が高いほど、架橋密度は低くなる。 【0060】 提示されたデータは、本発明のプロセスが、架橋間で非常に一貫した分子量を有する合成ポリイソプレンコンドームをもたらすことを示す。Durexポリイソプレンコンドームは、架橋間のより高い値の分子量を有するので、架橋密度は、本プロセスにより製造されたものより低い。本発明によるコンドームの架橋間の分子量は、天然ゴムのものに匹敵し、適切な機械的特性を有する。 【0061】 【表8】 [図:0001434481000009.jpg] 」 「【0063】 上記を考慮して、本発明は、上記の表面活性剤安定化の、前加硫合成ポリイソプレンラテックスエマルジョン組成物から製造された物品を提供する。この物品は欠点をもたず、少なくとも約600%の破損まで伸張を有する。表5は、破損時に1000%を超える伸びを示す。この物品は、粒子内及び粒子間架橋を有し、透過型電子顕微鏡検査(TEM)下で、TEM顕微鏡写真内で場所によって約5%未満の偏差で暗染色の均一分布を有する。この合成ポリイソプレン物品は、好ましくはコンドーム又は手袋である。」 イ 引用文献3の記載 「イソプレンゴムはイソプレンのホモポリマーである。ポリイソプレンともいう。ポリマー構造と性質は天然ゴム(NR)に非常に類似している。略号はIRである。」(「1.イソプレンゴムとは」の項) 「機械的特性はNRがIRより多くの点で優れている。」(「2.イソプレンゴムの生産能力とメーカー」の項の228頁右欄12~13行) 「イソプレンの代表的な重合触媒とミクロ構造の関係をTable 4に示す。…有機リチウム化合物と極性溶剤で3,4-IRが製造され、有機リチウム触媒と炭化水素溶剤でLow cis-IRが製造され、Ti化合物と有機Al化合物との触媒でHigh cis-IRが製造され、さらにV化合物と有機Al化合物との触媒でtrans-IRが製造されている。」(「3.イソプレンゴムの製造法」の項) 「世界で生産される90%以上がcis-IRと推定されている。 このcis-IRはZiegler系触媒で製造されるHigh cis-IRと有機Li系開始剤で製造されるLow cis-IRに分けられる。これにNRを加えた3種類のcis-IRは加硫配合系で使用する場合、ある程度の許容範囲で同等に使用することができるが、詳細に比較すると違いがいくつかある。… IRの用途はNRと同じく、タイヤトレッド・サイドウォール・カーカス・ベルト・各種工業品等である。しかし、IRは高い品質の安定性があり、明色配合にも適しており、より精度の高いゴム製品に使用されている。」(「4.イソプレンゴムの物性と用途」の項) 「 [図:0001434481000010.jpg] 」(Table 4) ウ 引用文献4の記載 「 [図:0001434481000011.jpg] 」(287頁) 「 [図:0001434481000012.jpg] 」(288頁) エ 引用文献5の記載 「 [図:0001434481000013.jpg] 」(100頁) オ 引用文献6の記載 「cisIRはアルキルリチウム触媒による重合によっても得られるが、cis構造の含量が少ない… 高cisIRはZiegler触媒を使用し…重合させることにより得られる… 高cisIRを天然ゴムと比較すると、cis含量は約97%で天然ゴムとは化学的にもよく似た構造であり、したがって物性も極めて似ている。… 天然ゴムはあらゆるゴムの中で、全ての点でバランスのとれた性能を持ち、耐老化性、耐油性以外の諸物性において第1級の性質を持つともいわれる。特に高い引裂抵抗性や低い蓄熱性等で、重荷重のかかる、たとえばトラック用、航空機用当のタイヤの製造には欠くべからざるものである。」(「-高CisIR-」の項) カ 引用文献7の記載 「分枝が発達すると三次元的な構造をもち、溶剤に不溶性となり、いわゆるゲル状ゴムを呈するが、分枝が発達しない限り可溶性である。 分枝したゴムも架橋されるならば、分枝点も一つの架橋点と考えてよい。…」(40頁1~4行) キ 引用文献8の記載 「 [図:0001434481000014.jpg] 」(11頁) ク 引用文献9の記載 「 [図:0001434481000015.jpg] 」(360頁) 「 [図:0001434481000016.jpg] 」(361頁) 「 [図:0001434481000017.jpg] 」(362頁) ケ 引用文献10の記載 「加硫は加硫促進剤と酸化亜鉛が重要となり、加硫促進剤、または酸化亜鉛の一方が欠けると促進効果が著しく低下し、加硫トルクは大幅に低くなる。図3にMBTの加硫機構を示す。酸化亜鉛が不在の場合、硫黄の結合部分は弱い箇所で切断し、MBTがモノスルフィドでゴムに結合する。この場合、架橋前駆体にならない(Not a Crosslink Precursor)。酸化亜鉛が存在した場合、亜鉛の影響により硫黄の結合はSxとSyの間で切断し、MBTがポリスルフィドの化合物になる。この化合物は架橋前駆体(Crosslink Precursor)となり、再び加硫反応を続けると考えられている。」(「3.1硫黄、加硫促進剤、酸化亜鉛の効果」の項) (3)引用発明並びに技術常識及び周知技術等 ア 引用文献2に記載された発明 引用文献2(請求項1及び6)の請求項6に係る合成ポリイソプレンエラストマー物品に着目すると、引用文献2には、 「 前加硫及び硬化されている、ポリイソプレン粒子内架橋及びポリイソプレン粒子間架橋によって互いに結合された合成ポリイソプレン粒子を含む合成ポリイソプレンエラストマー物品であって、 該ポリイソプレン粒子内架橋及び該ポリイソプレン粒子間架橋が、前記合成ポリイソプレンラテックス物品中で実質的に均一であり、 分子量が、架橋間で約6800g/mol未満である、 合成ポリイソプレンエラストマー物品。」 の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 イ 本願優先日当時の技術常識及び周知技術等 (ア)イソプレンゴムと天然ゴム イソプレンゴムにはチーグラー系触媒を使用して製造されたHigh cis-イソプレンゴムや有機リチウム触媒と炭化水素溶剤を使用して製造されたLow cis-イソプレンゴムがあること(引用文献3の「3.イソプレンゴムの製造法」参照。)及びこれに天然ゴムを加えた3種類のイソプレンゴムは加硫配合系で使用する場合ある程度の許容範囲で同等に使用することができること(引用文献3の「4.イソプレンゴムの物性と用途」の項参照。)は本願優先日当時の技術常識である。 (イ)イソプレンゴムの構造及び物性 イソプレンゴムのポリマー構造と性質は天然ゴムに非常に類似しているが(引用文献3の「1.イソプレンゴムとは」の項参照。)、機械的特性は天然ゴムがイソプレンゴムより多くの点で優れていること(引用文献3の「イソプレンゴムの生産能力とメーカー」の項の228頁右欄12~13行参照。)、cis構造の含量が多いイソプレンゴムは、高い引裂抵抗性やバランスのとれた性能を有する天然ゴムとよく似た構造であり、物性も極めて似ていること(引用文献6の「-高CisIR-」の項)及びイソプレンゴムはcis構造の含量が多いほど引張強さ、引張応力、伸びといった物性に優れること(引用文献4の288頁及び引用文献5の100頁参照。)は本願優先日当時の技術常識である。 (ウ)天然ゴムとHigh cis-イソプレンゴムの構造 天然ゴムはcis-1,4異性体含量が97%、trans-1,4異性体含量が1%、1,2異性体含量が0%、3,4異性体含量が2%であること(引用文献5の表9及び引用文献6の「-高CisIRの項-」参照。)、及びチーグラー・ナッタ触媒を使用したHigh cis-イソプレンゴムは例えばcis-1,4異性体含量が96.9あるいは96%、trans-1,4異性体含量が0あるいは0.5%、1,2異性体含量が0%、3,4異性体含量が3.1あるいは3.5%程度であることは、本願優先日当時の技術常識である(引用文献3の229頁のTable 4及び引用文献5の表9参照。)。 (エ)コンドームの課題 コンドームにさらなる薄膜化を可能とするさらなる機械的特性が求められることは本願優先日当時周知の課題である(引用文献9の「5.コンドームの国際規格」及び「6.おわりに」の項参照。)。 (オ)High cis-イソプレンゴムの分枝鎖 High cis-イソプレンゴムは30%程度がゲル分であり、そのゲル分には分岐鎖が含まれることは本願優先日当時の技術常識である(引用文献4の287頁の表4、引用文献7の40頁1~2行及び引用文献8の11頁参照。)。 (カ)ポリイソプレンゴムの利点1 合成ポリイソプレンゴムが明色配合に適していることは本願優先日当時の技術常識である(引用文献3の229頁「4.イソプレンゴムの物性と用途」の項参照。)。 (キ)ポリイソプレンゴムの利点2 合成ポリイソプレンはアレルゲンを含有しないことは本願優先日当時の技術常識である(引用文献2の段落0002及び0003)。 (ク)コンドームにおける配合剤の添加量 コンドームにおける配合剤の添加量を加硫に必要な最低限の量とすることは本願優先日当時の技術常識である(引用文献9の「4.3ラテックスのフィルム形成プロセス」の項参照。)。 (ケ)加硫における酸化亜鉛 酸化亜鉛は周知かつ慣用の加硫助剤であり(引用文献9の「4.1配合ラテックス」の項の(2)参照。)、その添加量が不足すれば加硫が不足することになることは本願優先日当時の技術常識である(引用文献10の「3.1硫黄、加硫促進剤、酸化亜鉛の効果」の項参照。)。 (4)対比 引用発明2を本願発明と対比すると、両発明の構成の対応は以下のとおりとなる。 (a)引用発明2における「前加硫及び硬化されている、ポリイソプレン粒子内架橋及びポリイソプレン粒子間架橋によって互いに結合された合成ポリイソプレン粒子」は、本願発明における「ポリイソプレン材料を含む架橋された合成ポリイソプレン粒子」に相当する。 (b)また、引用発明2における「前加硫及び硬化されている、ポリイソプレン粒子内架橋及びポリイソプレン粒子間架橋によって互いに結合された合成ポリイソプレン粒子」は、引用文献2(段落0020)に硫黄を含有する前加硫組成物によって粒子内領域が前加硫され合成ポリイソプレン粒子全体が架橋される旨が記載されていることから、本願発明における「粒子内硫黄架橋を有」する「合成ポリイソプレン粒子」にも相当する。 (c)引用発明2における「合成ポリイソプレンエラストマー物品」は、本願発明における「エラストマー層を含む、ポリマー物品」と、「エラストマーを含む、ポリマー物品」という限りにおいて一致する。 (d)引用発明2における「分子量が、架橋間で約6800g/mol未満である」が「エラストマー」の構造であることは明らかである。一方、本願発明における「11,000g/mol未満の架橋点間分子量(Mc)を有する」ものは「エラストマー層」に含まれる「後加硫構造」である。そうすると、引用発明2における「分子量が、架橋間で約6800g/mol未満である…エラストマー」は、本願発明における「エラストマー層は、11,000g/mol未満の架橋点間分子量(Mc)を有する後加硫構造を含む」と、「エラストマーは、11,000g/mol未満の架橋点間分子量(Mc)を有する構造を含む」という限りにおいて一致する。 (5)一致点、相違点 上記(4)から、本願発明と引用発明2とは、 「ポリイソプレン材料を含む架橋された合成ポリイソプレン粒子を含むエラストマーを含む、ポリマー物品であって、 前記合成ポリイソプレン粒子は、粒子内硫黄架橋を有し、 前記エラストマーは、11,000g/mol未満の架橋点間分子量(Mc)を有する構造を含む、ポリマー物品。」 という点で一致し、 (相違点1)「エラストマー」の形状が、本願発明は「層」であるのに対し、引用発明2はそのような特定はされていない点 (相違点2)「ポリイソプレン材料」が、本願発明は「分枝マクロ構造を含み、且つ、95重量%以上のcis-1,4異性体含量;1重量%以下のtrans-1,4異性体含量;および5重量%以下の3,4異性体含量を含」むのに対し、引用発明2はそのようなポリイソプレン材料を含むのか明らかではない点 (相違点3)「エラストマー」が含む「11,000g/mol未満の架橋点間分子量(Mc)を有する構造」が、本願発明は後加硫構造であるのに対し、引用発明2はどのようなものか特定されていない点 で相違する。 (6)検討 ア 相違点1について 引用文献2(段落0044)には、ラテックスフィルムが合成ポリイソプレン物品である旨が記載されている。そうすると、引用発明2における「合成ポリイソプレンエラストマー物品」がラテックスフィルムであることは引用文献2に記載されているに等しいといえる。そして、フィルムは「層」であるといえる。 したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。 また、仮にそうでないとしても、引用発明2において、エラストマー物品の形状をフィルム状すなわち層状として相違点1に係る構成を備えるようにすることは、当業者が引用文献2の記載に基づいて容易になし得たことである。 イ 相違点2について 引用文献2には、合成ポリイソプレンコンドームは、天然ゴムの利点を有し欠点であるタンパク質アレルギーの可能性がない天然ゴムの代替品として開発されてきたが、アニオン付加重合により製造されたものなどは通常90%未満のシス1,4イソプレン及び低下した分子量という特性を有するため天然ゴムと比較して特性に劣る旨(段落0002及び0003)、アニオン重合によって製造された合成ポリイソプレンラテックスに前加硫促進剤パッケージ及び後加硫促進剤パッケージを用いる旨(段落0017)、これにより天然ゴムのものに匹敵する架橋間分子量を有し適切な機械的特性を有するコンドームとなる旨(段落0059~0061)が記載されている。 したがって、上記技術常識及び課題(上記(3)イ(ア)~(エ))を踏まえると、引用文献2に係る発明でありコンドームへの応用が想定されるものである引用発明2において、合成ポリイソプレンの物性を天然ゴムに近似させるために、チーグラー・ナッタ触媒を使用してシス1,4イソプレン含量の高い合成ポリイソプレンを得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。 その結果、引用発明2は「分枝マクロ構造を含み、且つ、95重量%以上のcis-1,4異性体含量;1重量%以下のtrans-1,4異性体含量;および5重量%以下の3,4異性体含量を含」むという相違点2に係る構成を備えることになるといえる(上記(3)イ(ウ)及び(オ))。 ウ 相違点3について まず本願発明における「後加硫構造」の意義について検討する。ゴムラテックスの加硫には、水分の存在下でゴム粒子の表面で行われその後粒子の内部へ少しずつ拡散していく加硫(前加硫)と、水分が除去されたのちに行われるゴム粒子の結合が進行する加硫(後加硫)とがあることは本願優先日当時の技術常識である(引用文献9の「4.1配合ラテックス」の項の360頁右欄下から5行~下から1行参照。)。このような技術常識及び本願明細書の段落0020~0027の記載からみて、本願発明における「後加硫構造」とは、「後加硫前のエラストマーの構造と後加硫により形成された構造との総和」を意味すると認められる。 ここで、引用文献2(段落0063)には、前加硫合成ポリイソプレンラテックスエマルジョン組成物から製造された物品は破損するまでに少なくとも約600%伸張する旨が記載されている。そうすると、引用発明2における「前加硫及び硬化されている、ポリイソプレン粒子内架橋及びポリイソプレン粒子間架橋によって互いに結合された合成ポリイソプレン粒子」自体が引用発明2における「合成ポリイソプレンエラストマー」であるといえる。 また、引用発明2における「前加硫及び硬化」の「前加硫」は引用文献2の請求項13の「前加硫」であるといえ、「硬化」は同請求項13の「前記ラテックスに後加硫組成物を添加」し「後加硫の間に前記ラテックスフィルムを硬化させて、合成ポリイソプレン粒子内に粒子間架橋を生成し、前記粒子間に粒子内架橋を生成する」(当審合議体注:「粒子間架橋」及び「粒子内架橋」は誤りで「粒子内架橋」及び「粒子間架橋」が正しいことは上記技術常識から当業者に明らかである。)という工程における「硬化」すなわち後加硫による硬化であるといえる。したがって、引用発明2における合成ポリイソプレン粒子の「前加硫及び硬化されている、ポリイソプレン粒子内架橋及びポリイソプレン粒子間架橋によって互いに結合された」という状態は後加硫により合成ポリイソプレンの粒子内に粒子内架橋が生成し、粒子間に粒子間架橋が生成した後の状態であるといえる。 以上から、引用発明2における合成ポリイソプレンエラストマー物品が含む合成ポリイソプレン粒子の「前加硫及び硬化されている、ポリイソプレン粒子内架橋及びポリイソプレン粒子間架橋によって互いに結合された合成ポリイソプレン粒子」という状態は、後加硫により架橋が生成した後の合成ポリイソプレンエラストマーの状態であるといえるから、本願発明における「後架橋構造」に相当する。 したがって、相違点3は実質的な相違点ではない。 (7)効果について 本願明細書(段落0026)には、「後加硫組成物は合成ポリイソプレンの粒子間の領域または粒子間領域を架橋する能力を提供し、これにより、高い品質の実質的に均一に硬化された合成ポリイソプレン製品が確保される」と記載されている。 しかし、上記(6)ウに照らして、この効果は「前記ラテックスに後加硫組成物を添加」し「後加硫の間に前記ラテックスフィルムを硬化させ」ることで得られる、「該ポリイソプレン粒子内架橋及び該ポリイソプレン粒子間架橋が、前記合成ポリイソプレンラテックス物品中で実質的に均一である」ポリイソプレンラテックス物品である引用発明2が有する効果であるといえる。 したがって、この効果が当業者の予測を超える顕著なものであるとはいえない。 また、本願明細書(段落0031)には、(a)天然ゴムコンドームより薄い色を有するコンドームを製造することができ、より広い範囲の着色コンドームの製造が可能になる。(b)天然ゴムコンドームと同様の硬度及び引張強さ特性が維持される。(c)製造されたコンドーム中の残留溶媒含量はより低くなり、より低いアレルゲン性に役立つ。(d)チーグラー・ナッタにより触媒された調合物から製造されたコンドームのアレルゲン性は、促進剤及び硫黄の量がより少ないために、天然ゴムおよびアニオン性調合物と比べて低くなる。(e)チーグラー・ナッタにより触媒された合成ポリイソプレンの分枝分子構造は、アニオン性触媒により生成されるラテックスの線形分子構造よりも大きな強度を提供する。(f)チーグラー・ナッタにより触媒された合成ポリイソプレンはまた、アニオンに触媒されたポリイソプレンよりも大きな量のポリイソプレン分子のcis特性、例えば、cis-1,4異性体を含み、チーグラー・ナッタにより触媒された合成ポリイソプレンを用いて製造された製品の強度特性が改善される、旨が記載されている。 しかし、効果(a)は、合成ポリイソプレンゴムは明色配合に適しているという本願優先日当時の技術常識(上記(3)イ(カ))に基づいて当業者が予測し得た効果である。 また、効果(b)、(e)及び(f)は、チーグラー・ナッタ触媒を使用したHigh cis-イソプレンゴムは天然ゴムに近い優れた機械的特性を有するという本願優先日当時の技術常識(上記(3)イ(イ)及び(ウ))に基づいて当業者が予測し得た効果である。 さらに、効果(c)及び(d)について、天然ゴムと比較してアレルゲン性が低くなることは、合成ポリイソプレンはアレルゲンを含有しないという本願優先日当時の技術常識(上記(3)イ(キ))から当業者が予測し得た効果である。また、製造されたコンドーム中の残留溶媒含量や促進剤、硫黄の量がより少ないためにアニオン性調合物と比べてアレルゲン性が低くなるという効果には根拠がない。仮にこの効果を「同程度の強度を得るために必要となる溶媒や促進剤、硫黄の量が少ない」という意味のものとして善解したとしても、このような効果はそもそも溶媒や促進剤、硫黄の量を特定するものでも架橋点間分子量(Mc)の下限を特定するものでもない本願発明の効果であるとはいえないし、効果(b)、(e)及び(f)と前提を異にするし、High cis-イソプレンゴムの方がLow cis-イソプレンゴムと比較して同程度の強度を得るために必要となる溶媒や促進剤、硫黄の量が少ないことはチーグラー・ナッタ触媒を使用したHigh cis-イソプレンゴムは天然ゴムに近い優れた機械的特性を有するという本願優先日当時の技術常識(上記(3)イ(イ)及び(ウ))から当業者に明らかであり、かつ配合剤の添加量を加硫に必要な最低限の量とすることも本願優先日当時の技術常識である(上記(3)イ(ク))。 したがって効果(a)~(f)は、いずれも当業者の予測を超える顕著なものであるとはいえない。 以上から、本願明細書に記載された本願発明の効果が当業者の予測を超える顕著なものであるとはいえない。 (8)請求人の主張について 請求人は意見書において以下(a)~(c)のとおり主張する。 (a)「本願発明が奏するこれらの顕著な効果を裏付けるために、本審判請求人は得られたコンドームの破裂圧力に対するMc値の重要性を確認するための一連の実験を行いました(提出物件の(3)追加実験報告書、(4)その翻訳文)。 ISO23409:2011により、コンドームは最低破裂圧力0.9kPaが要求されており、破裂圧力は重要なパラメータです。追加実験報告書によって、本願発明で規定するMc値(11,000g/mol未満)を有するコンドームは、当該要件を満たしていないもの(11,000g/molを超えるMc値)よりも優れた破裂圧力(0.9kPa以上)を示すことが明確に確認できました。さらに、この実験結果は、酸化亜鉛濃度0.05phrなどの条件を含む引用文献2に開示された条件では、必ずしも所望のMc値を有するポリマーが得られないことを示しています。 したがって、有利な特性の組合せを有する本願発明は、引用例2を基に当業者が容易に想到できるものではありません」 (b)「また当業者であれば、アニオン重合による合成ポリイソプレンラテックスが線状分子構造を有するのに対し、チーグラー・ナッタにより触媒されたポリイソプレン材料は分岐構造であり、立体規則性や分子量が大きく異なることから、引張強度や破断強度が向上していることは容易に理解できます。したがって、改良されたチーグラー・ナッタ触媒によるポリイソプレン材料を設計しようとする当業者は、アニオン重合材料にフォーカスした文献を参照したり、その中の単一パラメータを抜き出したりしてチーグラー・ナッタ触媒によるポリイソプレン材料に適用することは通常考えられません」 (c)「引用文献2は、アニオン重合によって得られる特定の材料に関する発明であり、本願発明の重要なポイントである架橋点間分子量(Mc)を11,000g/mol未満とする数値限定について、そのような値を選択する動機付けや技術的示唆は一切示されていません。また、引用例2はアニオン重合材料の性質を前提とするものであり、チーグラー・ナッタ触媒によるポリイソプレンに上記数値限定を適用する教示もありません。 本願発明は、前加硫および後加硫を採用することにより、架橋点間分子量が11,000g/mol未満のエラストマー構造を実現することを示していますが、このような材料選択と数値範囲の設定は引用文献2の内容から容易に導き出せないものであると思料します。 引用文献2の記載から本願発明が規定するMc値を選択し、さらにアニオン重合材料とは異なる材料に適用するための具体的な技術的動機付けを得ることは当業者にとって容易ではなく、たとえ引用文献3~9を組み合わせたとしても本願発明は容易に想到できるものではありません」 そこで、請求人の上記主張について、以下検討する。 主張(a)について 上記(5)及び(6)ウに照らして、引用発明2の「分子量が、架橋間で約6800g/mol未満である、合成ポリイソプレンエラストマー物品」という構成は、本願発明の「エラストマー層は、11,000g/mol未満の架橋点間分子量(Mc)を有する後加硫構造を含む」という構成に相当する。そして、引用文献2に記載された具体的な配合量及び配合の時機(段落0035~0038)並びに製造されたコンドームの架橋間の分子量(段落0059~0061)からみて、引用文献2には引用発明2のこの構成の十分な根拠があるといえる。したがって、請求人が「エラストマー層は、11,000g/mol未満の架橋点間分子量(Mc)を有する後加硫構造を含む」という構成に起因する本願発明の効果であると主張する、高い破裂圧力は、引用発明2に内在する物性及び効果であるといえる。実際、引用文献2の段落0050~0052には、厚さは不明であるものの、令和7年10月2日提出の手続補足書に添付された甲第4号証に記載された結果と同等あるいはそれ以上の破裂圧力を有する、引用発明2の実施例であるコンドームが記載されていることからもこのことが裏付けられているといえる。 また、酸化亜鉛は周知かつ慣用の加硫助剤であり、その添加量が不足すれば加硫が不足することは当業者に明らかであるから(上記(3)イ(ケ))、上記甲第4号証に酸化亜鉛の添加量が0.05phrである場合には得られたコンドームの破裂圧力が規格値を下回った旨が記載されていることは、引用文献2には引用発明2の「分子量が、架橋間で約6800g/mol未満である、合成ポリイソプレンエラストマー物品」という構成の十分な根拠があるという判断を左右しない。 主張(b)について 発明の進歩性は、その発明に当業者が容易に想到する論理付けが1つできれば、他の論理付けができるかどうかにかかわらず否定されるものである。そして、コンドーム等のゴム物品の製造に携わる当業者は、「改良されたチーグラー・ナッタ触媒によるポリイソプレン材料を設計しようとする者」のみではなく「ゴム物品」全般の通常の知識を有する者であるから、上記(6)イで述べたとおり、チーグラー・ナッタ触媒を使用したHigh cis-イソプレンゴムは天然ゴムに近い優れた機械的特性を有することが本願優先日当時の技術常識(上記(3)イ(イ)及び(ウ))である以上、そのような優れた材料を採用しようとすることは十分な動機付けとなり得る。したがって、「改良されたチーグラー・ナッタ触媒によるポリイソプレン材料を設計しようとする当業者」を前提とする論理付けができないかどうかは、本願発明の進歩性の判断に影響しない。 主張(c)について 上記(5)及び(6)ウに照らして、引用発明2の「分子量が、架橋間で約6800g/mol未満である、合成ポリイソプレンエラストマー物品」という構成は、本願発明の「エラストマー層は、11,000g/mol未満の架橋点間分子量(Mc)を有する後加硫構造を含む」という構成に相当するから、数値範囲の設定は引用文献2の内容から容易に導き出せないかどうかは本願発明の進歩性の判断に影響しない。また、材料選択は引用文献2の内容から容易に導き出せない旨の主張は、上記(6)イにおける検討に照らして、採用できない。 以上から、意見書における請求人の主張は上記(6)及び(7)における判断を左右しない。 (9)理由3(進歩性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が引用発明2並びに引用文献2の記載及び技術常識・周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 上記第4の1のとおり、本願発明は明確であるとはいえないから、本願は本願発明について特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。また、上記第4の2のとおり、本願発明は当業者が引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-016929

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