特許拒絶査定不服審判
2023-016221
分散液
- 審判番号
- 2023-016221
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-075207外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年09月26日
- 審決日
- 2025年08月22日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】川本 真由美
- 【請求人代理人】式見 真行
- 【請求人代理人】畠中 省伍
- 分類
- P18 .121-WZ (C08F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-75207「分散液」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年11月 9日出願公開、特開2022-169275〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、令和3年4月27日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 6月16日付け 拒絶理由通知
同年 8月26日提出 期間延長請求書
同年10月 5日提出 意見書及び手続補正書
令和5年 1月27日付け 拒絶理由通知
同年 3月24日提出 意見書及び手続補正書
同年 6月19日付け 拒絶査定
同年 9月26日提出 拒絶査定不服審判の請求書及び手続補正書
同年12月27日付け 前置報告書
令和6年 9月27日提出 上申書
令和7年 4月21日付け 拒絶理由通知書
同年 6月19日提出 意見書及び手続補正書
第2 本願に記載された発明
請求項1~13に係る発明は、令和7年6月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「疎水性単量体(a1)から誘導される繰り返し単位、
塩化ビニル及び塩化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも一の塩化物単量体(a2)から誘導される繰り返し単位、
任意成分である、環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位、
任意成分である、架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位、及び
任意成分である、単量体(a1)~(a4)以外のその他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位、からなる非フッ素共重合体(A)、及び、
ヒドロキシ基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも二の基を有する水溶性有機溶媒(b1)を含む液状媒体(B)を含み、
未反応の塩化物単量体(a2)の濃度が3ppm以下であり、
前記疎水性単量体(a1)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において35重量%以上であり、
前記塩化物単量体(a2)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において3重量%以上であり、
前記環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であり、
前記架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であり、
前記その他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であり、
前記疎水性単量体(a1)が式:
CH2=C(-R12)-C(=O)-Y11-(R11)k
[式中、
R11は炭素数10~30の脂肪族炭化水素基であり、
R12は水素原子、メチル基、又は塩素原子であり、
Y11は
-O-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、又は-O-(CH2)m-NH-C(=O)-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-S(=O)2-又は-O-(CH2)m-S(=O)2-NH-[式中、mは1~5の整数である。]であり、
kは1である。]
で示される化合物である、分散液。」
第3 拒絶の理由
令和7年4月21日付け拒絶理由通知書における拒絶理由の概要は、以下のとおりのものである。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項 1、2、4~14
・引用文献等
6.特開2018-95879号公報(令和5年6月19日付け拒絶査定の参考文献6)
7.国際公開第2017/159754号(令和5年6月19日付け拒絶査定の参考文献7)
2.特開平4-80218号公報(令和4年6月16日付け拒絶理由通知の引用文献2)
以下、引用文献6等を、番号にあわせて「引6」等という。
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明の認定
上記第3の拒絶の理由は、下記第5に示すように、引6を主引例とする進歩性、及び引7を主引例とする進歩性に関するものである。
これらの進歩性の判断に関連する引6、引7、及び副引例である引2の各々に記載された事項、並びに引6及び引7に記載された発明は、以下のとおりである。
1 引6に記載された事項及び引6に記載された発明
(1)引6に記載された事項
引6には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
(A1)式:
CH2=CA11-C(=O)-O-A12
[式中、A11は、水素原子またはメチル基であり、
A12は、炭素数8~30の直鎖状または分岐状の炭化水素基である。]
で示される非フッ素(メタ)アクリレートエステル単量体から誘導された繰り返し単位、および
(A2)ラジカル重合性基を有するシリコーンマクロマーから誘導された繰り返し単位
を必須成分とする含ケイ素重合体を含む撥水剤。
【請求項2】
含ケイ素重合体が、さらに、塩化ビニルおよび塩化ビニリデンからなる群から選択された少なくとも1種のハロゲン化オレフィンから誘導された繰り返し単位を有する請求項1に記載の撥水剤。」
「【0001】
本発明は、フッ素原子を有しない含ケイ素重合体を含む撥水剤に関する。具体的には、本発明は、基材に、優れた撥水性、撥油性、防汚性を付与できる。」
「【0008】
本発明の1つの目的は、優れた撥水撥油性(特に撥水性)、柔軟な風合いおよび良好な耐チョークマーク性を繊維製品に与える表面処理剤(撥水撥油剤、特に撥水剤)を提供することにある。」
「【0013】
(A)含ケイ素重合体
含ケイ素重合体は、
(A1)非フッ素(メタ)アクリレートエステル単量体から誘導された繰り返し単位、
(A2)シリコーンマクロマーから誘導された繰り返し単位、および
(A3)必要により存在する、他の単量体から誘導された繰り返し単位
を有する。
【0014】
(A1)非フッ素(メタ)アクリレートエステル単量体
非フッ素(メタ)アクリレートエステル単量体は、式:
CH2=CA11-C(=O)-O-A12
[式中、A11は、水素原子またはメチル基であり、
A12は、炭素数8~30の直鎖状または分岐状の炭化水素基である。]
で示される化合物である。
A11は、水素原子であることが好ましい。
A12は、炭素数6~30の炭化水素基である。炭化水素基は、非環状(直鎖状または分岐状)である。炭化水素基は、直鎖状の炭化水素基であってよい。炭化水素基の炭素数は、10~28、例えば12~26、特に14~24、特別に18または22であることが好ましい。炭化水素基は、一般に飽和の脂肪族炭化水素基、特にアルキル基であってよい。
【0015】
非フッ素(メタ)アクリレートエステル単量体の具体例は、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートおよびベヘニル(メタ)アクリレートである。ステアリル(メタ)アクリレートおよびベヘニル(メタ)アクリレートが好ましい。
・・・
【0024】
(A3)他の単量体
本願発明において、非フッ素(メタ)アクリレートエステル単量体(A1)およびシリコーンマクロマー(A2)以外である他の単量体を使用してもよい。他の単量体は、非ケイ素非フッ素単量体、すなわちケイ素原子およびフッ素原子を有しない単量体であることが好ましい。
【0025】
他の単量体の例としては、
(i)ハロゲン化オレフィン、
(ii)非架橋性単量体、および
(iii)架橋性単量体
が挙げられる。
【0026】
ハロゲン化オレフィンは、1~10の塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されている炭素数2~20のハロゲン化オレフィンであってよい。ハロゲン化オレフィンは、炭素数2~20の塩素化オレフィン、特に1~5の塩素原子を有する炭素数2~5のオレフィンであることが好ましい。ハロゲン化オレフィンの好ましい具体例は、ハロゲン化ビニル、例えば塩化ビニル、臭化ビニル、ヨウ化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、例えば塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、ヨウ化ビニリデンである。塩化ビニルおよび塩化ビニリデン、特に塩化ビニルが好ましい。
・・・
【0034】
非フッ素(メタ)アクリレートエステル単量体(A1)の量は、含ケイ素重合体に対して、10~95重量%、例えば、50~90重量%、特に60~85重量%であってよい。
シリコーンマクロマー(A2)の量は、非フッ素(メタ)アクリレートエステル単量体(A1)100重量部に対して、0.2~50重量部、例えば、0.5~20重量部、特に1~15重量部であってよい。
他の単量体(A3)の量は、非フッ素(メタ)アクリレートエステル単量体(A1)100重量部に対して、200重量部以下、例えば、2~50重量部であってよい。
【0035】
ハロゲン化オレフィンの量は、含ケイ素重合体に対して、50重量%以下であってよい。ハロゲン化オレフィンの量は、含ケイ素重合体に対して、10.1重量%以上であってよい。ハロゲン化オレフィンの量は、含ケイ素重合体に対して、例えば1~40重量%、特に3~30重量%、好ましくは5~28重量%、より好ましくは10.1~26重量%、特に好ましくは12~24重量%である。このような範囲でハロゲン化オレフィンを含むことで、撥水性、撥水性の耐久性(例えば、洗濯後の撥水性)、良好な風合いおよびチョークマーク耐性を良好に兼ね備えることができる。」
「【0039】
(B)液状媒体
液状媒体は、水および/または有機溶媒である。液状媒体は、有機溶媒のみであってもよいが、水の単独、あるいは水と(水混和性)有機溶媒との混合物であることが好ましい。有機溶媒の量は、液状媒体に対して、30重量%以下、例えば10重量%以下(好ましくは0.1%以上)であってよい。液状媒体は、水の単独であることがさらに好ましい。液状媒体の量は、撥水剤に対して、30~99.9重量%、例えば50~99重量%、特に55~95重量%であってよい。」
「【0045】
放置安定性の優れた重合体水分散液を得るためには、高圧ホモジナイザーや超音波ホモジナイザーのような強力な破砕エネルギーを付与できる乳化装置を用いて、単量体を水中に微粒子化して重合することが望ましい。また、乳化剤としてはアニオン性、カチオン性あるいはノニオン性の各種乳化剤を用いることができ、単量体100重量部に対して、0.5~20重量部の範囲で用いられる。
・・・
単量体が完全に相溶しない場合は、これら単量体に充分に相溶させるような相溶化剤、例えば、水溶性有機溶媒や低分子量の単量体を添加することが好ましい。相溶化剤の添加により、乳化性および共重合性を向上させることが可能である。
【0046】
水溶性有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エタノールなどが挙げられ、水100重量部に対して、1~50重量部、例えば10~40重量部の範囲で用いてよい。」
「【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下において、部または%または比は、特記しない限り、重量部または重量%または重量比を表す。
試験の手順は次のとおりである。
【0066】
スプレー試験
JIS-L-1092(AATCC-22)のスプレー法に準じて処理布の撥水性を評価した。さらに、一部の処理布についてはJIS L-0217 103に従い、40℃の洗濯液で10回(HL10)または20回(HL20)洗濯後、タンブラー(60℃で30分)で乾燥して得た試験布の撥水性の評価結果を同様に表-4に示す。撥水性は下記に記載するように撥水性No.によって表す。点数が大きいほど撥水性が良好なことを示す。状態によっては中間値(95、85、75)をつける。
【0067】
降雨試験
JIS L-1092雨試験A法に準拠した降雨試験(ブンデスマン試験)を行った。降雨時間は、1分、5分および10分であった。評価方法はスプレー試験と同様に下記に示されるように撥水性No.によって表す。点数が大きいほど撥水性が良好である。降雨試験10分で漏れ水(g)および吸水率(%)を測定した。
【0068】
[図:0001428512000001.jpg]
【0069】
風合い試験
手の触感により5段階で風合いを評価した。5人の測定者によって評価を行った。
1: 非常に硬い
2: 硬い
3: 少し硬い
4: 柔らかい
5: 非常に柔らかい
【0070】
チョークマーク試験
処理布に先端が直径5mmのプラスチック製の棒を押し付けなぞった後、その痕跡が布上に残存するか(いわゆるチョークマークテスト)を目視観察し、下記のように5段階で評価した。
1: 明瞭な痕跡が認められる
2: 痕跡が認められる
3: 少し痕跡が認められる
4: 殆ど痕跡が認められない
5: 痕跡が全くない
【0071】
略号の意味は次のとおりである。
[図:0001428512000002.jpg]
【0072】
・・・
【0073】
製造例1
500mlのポリ容器にトリプロピレングリコール30g、ステアリルアクリレート76g、N-メチロールアクリルアミド1.5g、片末端メタクリル変性シリコーン(数平均分子量:4600)2.5g、純水180g、ジオクタデシルアンモニウムクロライド3g、ソルビタンモノオレエート2g、ポリオキシエチレントリデシルエーテル2.5g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル2.5gを仕込み、60℃に加熱し、ホモミキサーで1分、2000rpmで攪拌した後、超音波で15分間、乳化分散させた。乳化分散物を500mlのオートクレーブに移し、窒素置換後、ラウリルメルカプタン0.2g、塩化ビニルを20g仕込んだ。更に2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩1gを添加し、60℃に昇温し、4時間、反応させて重合体の水性分散液を得た。この分散液を更に純水で希釈して固形分濃度30%の水分散液1を調製した。
【0074】
製造例2~11および23
表1に示す配合で製造例1と同様の方法で重合し、水希釈することで固形分濃度30%の水分散液2~11を得た。
【0075】
製造例12
500mlのポリ容器にトリプロピレングリコール30g、ステアリルアクリレート76g、N-メチロールアクリルアミド1.5g、片末端メタクリル変性シリコーン(数平均分子量:4600)2.5g,純水180g、ジオクタデシルアンモニウムクロライド3g、ソルビタンモノオレエート2g、ポリオキシエチレントリデシルエーテル2.5g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル2.5gを仕込み、60℃に加熱し、ホモミキサーで1分、2000rpmで攪拌した後、超音波で15分間、乳化分散させた。乳化分散物を500mlのオートクレーブに移し、窒素置換後、ラウリルメルカプタン0.2g、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩1gを仕込み、60℃で1時間反応させた。1時間反応した後、ステアリルアクリレートは99モル%以上、反応していることを確認した。その後、塩化ビニル20gを圧入充填し、更に3時間反応させて重合体の水性分散液を得た。この分散液を更に純水で希釈して固形分濃度30%の水分散液12を調製した。
【0076】
製造例13~22および24
表2に示す配合で製造例12と同様の方法で重合し、水希釈することで固形分濃度30%の水分散液13~22を得た。
【0077】
【表1】
[図:0001428512000003.jpg]
【0078】
【表2】
[図:0001428512000004.jpg]
・・・
【0082】
試験例1
製造例1で調製した固形分濃度30%の水分散液1をさらに水道水で希釈して、固形分濃度1.5%の処理液を調製した。この処理液にポリエステル布を浸せきした後、マングルで絞った。ウエットピックアップは約55%だった。この処理布を170℃で1分間、ピンテンターに通し、乾燥、キュアリングした。このようにして処理された布について試験を行った。結果を表4に示す。
【0083】
試験例2~11および23
製造例2~11および23で調製した水分散液2~11および23を使用する以外は試験例1と同様の方法を繰り返した。結果を表4に示す。
・・・
【0085】
試験例12~22および24
製造例12~22および24で調製した水分散液12~22および24を使用する以外は試験例1と同様の方法を繰り返した。結果を表5に示す。
・・・
【0088】
【表4】
[図:0001428512000005.jpg]
【0089】
【表5】
[図:0001428512000006.jpg]
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の撥水剤は、種々の基材、例えば、繊維製品(例えば、カーペット)、紙、不織布、石材、静電フィルター、防塵マスク、燃料電池の部品に対して、表面処理剤として使用できる。本発明の撥水剤は、防汚剤および汚れ脱離剤の機能をも発揮できる。」
(2)引6に記載された発明
引6の製造例1に記載された水分散液及びその製造方法に着目すると、引6には以下の発明が記載されていると認める。
「500mlのポリ容器にトリプロピレングリコール30g、ステアリルアクリレート76g、N-メチロールアクリルアミド1.5g、片末端メタクリル変性シリコーン(数平均分子量:4600)2.5g、純水180g、ジオクタデシルアンモニウムクロライド3g、ソルビタンモノオレエート2g、ポリオキシエチレントリデシルエーテル2.5g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル2.5gを仕込み、60℃に加熱し、ホモミキサーで1分、2000rpmで撹拌した後、超音波で15分間、乳化分散させ、乳化分散物を500mlのオートクレーブに移し、窒素置換後、ラウリルメルカプタン0.2g、塩化ビニルを20g仕込み、更に2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩1gを添加し、60℃に昇温し、4時間、反応させて重合体の水性分散液を得、この分散液を更に純水で希釈して調製した、固形分濃度30%の水分散液。」(以下、「引6発明」という。)
2 引7に記載された事項及び引7に記載された発明
(1)引7に記載された事項
引7には、以下の事項が記載されている。
「[請求項1]
(1)第1単量体から形成されている第1重合体と、第2単量体から形成されている第2重合体を含んでなる共重合体であって、
共重合体がフッ素原子を含まず、
第2重合体が第1重合体の存在下の重合物であり、
第1単量体が、(a)式:
CH2=CA11-C(=O)-O-A12
[式中、A11は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
A12は、炭素数18~30の直鎖状または分岐状の炭化水素基である。]
で示される長鎖アクリレートエステル単量体を含み、
第1単量体が、(b)ハロゲン化オレフィン単量体を含まず、
第2単量体が、(b)ハロゲン化オレフィン単量体を含む
共重合体、
(2)ノニオン性界面活性剤を含む界面活性剤、ならびに
(3)水を含む液状媒体
を含む、水系エマルションである表面処理剤。」
「[0005] 本発明の目的は、優れた撥水撥油性を与え、含フッ素単量体、特にフルオロアルキル基含有単量体を使用しない表面処理剤を提供することにある。」
「[0008] 本発明の共重合体は、フルオロアルキル基を有しない共重合体である。本発明の共重合体は、フッ素原子を有しない非フッ素重合体であることが好ましい。
・・・
[0014] 共重合体は、フッ素原子を有してもよいが、フッ素原子を有しないことが好ましい。すなわち、共重合体は、非フッ素重合体であることが好ましい。
[0015] (a)長鎖アクリレートエステル単量体
共重合体は、長鎖アクリレートエステル単量体から誘導された繰り返し単位を有する。
長鎖アクリレートエステル単量体は、式:
CH2=CA11-C(=O)-O-A12
[式中、A11は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
A12は、炭素数18~30の直鎖状または分岐状の炭化水素基である。]
で示される。
[0016] 好ましい長鎖アクリレートエステル単量体の例は、式:
CH2=CA11-C(=O)-O-A12
[式中、A11は、水素原子、メチル基、ハロゲン、炭素数2~21の直鎖状または分岐状のアルキル基、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1~21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であり、
A12は、炭素数18~30の直鎖状または分岐状の炭化水素基である。]
で示される化合物である。
[0017] 長鎖アクリレートエステル単量体は、フルオロアルキル基を有しない。長鎖アクリレートエステル単量体は、フッ素原子を含有してもよいが、フッ素原子を含有しないことが好ましい。
A11の例は、水素、メチル基、Cl、Br、I、F、CN、CF3である。A11は、メチル基または塩素原子であることが好ましい。
A12は、直鎖状または分岐状の炭化水素基である。直鎖状または分岐状の炭化水素基は、特に直鎖状の炭化水素基であってよい。直鎖状または分岐状の炭化水素基は、炭素数が18~30である。直鎖状または分岐状の炭化水素基は、炭素数18~28、特に18または22であることが好ましく、一般に脂肪族炭化水素基、特に飽和の脂肪族炭化水素基、特別にアルキル基であることが好ましい。
[0018] 長鎖アクリレートエステル単量体の特に好ましい具体例は、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、ステアリルαクロロアクリレート、ベヘニルαクロロアクリレート、ステアリルαフルオロアクリレート、ベヘニルαフルオロアクリレート、である。
長鎖アクリレートエステル単量体が存在することにより、重合体が与える撥水性および撥油性が高くなる。
[0019] (b)ハロゲン化オレフィン単量体
共重合体は、ハロゲン化オレフィン単量体から誘導された繰り返し単位を有する。
ハロゲン化オレフィン単量体は、フッ素原子を有しないことが好ましい。
ハロゲン化オレフィン単量体は、1~10の塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されている炭素数2~20のオレフィンであることが好ましい。ハロゲン化オレフィン単量体は、炭素数2~20の塩素化オレフィン、特に1~5の塩素原子を有する炭素数2~5のオレフィンであることが好ましい。ハロゲン化オレフィン単量体の好ましい具体例は、ハロゲン化ビニル、例えば塩化ビニル、臭化ビニル、ヨウ化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、例えば塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、ヨウ化ビニリデンである。撥水撥油性(特に撥水撥油性の耐久性)が高くなるので、塩化ビニルおよび塩化ビニリデンが好ましい。
ハロゲン化オレフィン単量体が存在することにより、重合体が与える洗濯耐久性が高くなる。」
「[0034] 単量体(a)の量は、共重合体に対して40重量%以上、好ましくは50重量%以上であってよい。単量体(a)の量は、共重合体に対して、95重量%以下、例えば80重量%以下、あるいは75重量%以下、あるいは70重量%以下であってよい。
共重合体において、単量体(a)100重量部に対して、
繰り返し単位(b)の量が1~150重量部、好ましくは1~30重量部、
繰り返し単位(c)の量が0~100重量部、好ましくは1~30重量部、
繰り返し単位(d)の量が0~100重量部、好ましくは1~30重量部、
繰り返し単位(e)の量が0~50重量部、好ましくは1~10重量部、
繰り返し単位(f)の量が0~100重量部、好ましくは1~30重量部であってよい。」
「[0058] (3)液状媒体
液状媒体は、水の単独、あるいは水と(水混和性)有機溶媒との混合物であってよい。有機溶媒の量は、液状媒体に対して、30重量%以下、例えば10重量%以下(好ましくは0.1%以上)であってよい。液状媒体は、水の単独であることが好ましい。
液状媒体の量は、表面処理剤に対して、例えば、5~99.9重量%、特に10~80重量%であってよい。」
「[0069] 放置安定性の優れた共重合体水分散液を得るためには、高圧ホモジナイザーや超音波ホモジナイザーのような強力な破砕エネルギーを付与できる乳化装置を用いて、単量体を水中に微粒子化して重合することが望ましい。」
「実施例
[0088] 以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下において、部または%または比は、特記しない限り、重量部または重量%または重量比を表す。
試験の手順は次のとおりである。
[0089] ポリマーのタック性
重合体の水性分散液10gをメタノール20gに分散したものを60分間10000rpmで遠心分離器にかけて重合体と乳化剤を分離し、測定用サンプルポリマーを得た。このポリマーのタック性はタッキング試験機TAC-2((株)RHESCA社製)で測定した。サンプルポリマー0.1g,測定温度40℃,荷重500gfでタック性を測定した。
[0090] ガムアップ性
重合体の水性分散液を固形分濃度が1.8重量%になるように水道水で希釈し、40℃に温度調整できるパッドに処理浴を入れ、マングルロールには綿布を輪にして連続処理できるようにして、圧力5.5kgf/cm2で連続処理を行った。1時間後のマングルへのポリマーの付着状態を目視観察し、下記に記載する表2の基準によりガムアップ性を判定する。
[0091] [表2]
[図:0001428512000007.jpg]
[0092] カレンダーロール樹脂付着性
重合体の水性分散液を固形分濃度が1.8重量%になるように水道水で希釈して処理液を調製した。ポリエステル布を処理液に浸漬した後にマングルに通し、160℃で2分間熱キュアし、処理布を得た。カレンダーロールには処理布を輪にして連続処理できるようにして、温度160℃,圧力30kgf/cm2で連続処理を行う。1時間後のカレンダーロールへのポリマーの付着状態を目視観察し、下記にて樹脂付着性を評価した。
[図:0001428512000008.jpg]
[0093] 撥水性試験
JIS-L-1092(AATCC-22)のスプレー法に準じて処理布の撥水性を評価した。下記に記載する表3に示されるように撥水性No.によって表す。点数が大きいほど撥水性が良好なことを示し、状態によっては中間値(95、85、75)をつける。
[0094] [表3]
[図:0001428512000009.jpg]
[0095] 製造例1
500mLオートクレーブにステアリルアクリレート=80g、純水=180g、トリプロピレングリコール=30g、ソルビタンモノオレエート=3g、sec-C12-14H25-29(C2H4O)20H=4g、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド=3gを入れ、攪拌下に60℃で15分間、超音波で乳化分散させた。乳化後にラウリルメルカプタン=0.5gを入れ、オートクレーブ内を窒素置換後、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩=1gを添加し、60℃で1時間反応させた後(重合反応:ステアリルアクリレート99%終了)、塩化ビニル=20gを圧入充填し、さらに2時間反応させて重合体の水性分散液を得た。更に純水で固形分濃度を30%に調整した。
・・・
[0111] 実施例1
製造例1において製造した重合性分散液の物性を測定した。また、固形分濃度が1重量%になるよう水道水により希釈した試験溶液を調製し、ポリエステルおよびナイロン布をこの試験溶液に浸してからマングルに通し、160℃で2分間、熱処理した試験布で撥水性を評価した。洗濯耐久性は、JIS-L-0217-103法に準じて、40℃の洗濯液で10回洗濯後、タンブラー乾燥を行い、その後の撥水性を評価した。(HL10)
・・・
[0116] 各例の物性および撥水性を表4および表5に示す。
[0117] [表4]
[図:0001428512000010.jpg]
・・・
産業上の利用可能性
[0118] 本発明の処理剤は、撥水撥油剤または防汚剤として使用できる。本発明の処理剤は、繊維製品およびメーソンリーなどの基材に対して好適に使用でき、基材に優れた撥水撥油性を付与する。」
(2)引7に記載された発明
引7の請求項1では、水系エマルションである表面処理剤が特定されており、これを具体化した実施例の製造例1における、乳化分散させて重合を開始して得た水性分散液を更に希釈した水系エマルション及びその製造方法に着目すると、引7には以下の発明が記載されていると認める。
「500mLオートクレーブにステアリルアクリレート=80g、純水=180g、トリプロピレングリコール=30g、ソルビタンモノオレエート=3g、sec-C12-14H25-29(C2H4O)20H=4g、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド=3gを入れ、撹拌下に60℃で15分間、超音波で乳化分散させ、乳化後にラウリルメルカプタン=0.5gを入れ、オートクレーブ内を窒素置換後、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩=1gを添加し、60℃で1時間反応させた後(重合反応:ステアリルアクリレート99%終了)、塩化ビニル=20gを圧入充填し、さらに2時間反応させて重合体の水性分散液を得、更に純水で固形分濃度を30%に調整した水系エマルション。」(以下、「引7発明」という。)
3 引2に記載された事項
引2には、以下の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
1.ポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物と塩化ビニルまたは塩化ビニリデンおよびこのポリフルオロアルキル基含有の化合物に共重合可能な化合物とを共重合して得られる共重合体を含む撥水撥油剤中の未反応塩化ビニルモノマーまたは塩化ビニリデンモノマー濃度を10ppm以下としてなる水分散型撥水撥油剤。」(第1頁左下欄第4行~第12行)
「3.発明の詳細な説明
[産業上の利用分野]
本発明は、改良された撥水撥油剤に関するものであり、更に詳しく言えば、高い撥水撥油性と洗濯耐久性を有しかつ製品の経時変化のきわめて少ない撥水撥油剤に関するものである。
[従来の技術]
従来より、フッ素系撥水撥油剤として、ポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物に塩化ビニルまたは塩化ビニリデンおよびこのポリフルオロアルキル基含有の化合物に共重合可能な化合物とを共重合させたものが撥水撥油性に非常に有用である事が知られている。しかるにこれらの共重合体はエマルションの機会的安定性や長期の保存安定性に劣るという欠点を有していた。
[発明が解決しようとする課題]
本発明の目的は、従来技術が有していた塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合成分として含む水分散型のフッ素系撥水撥油剤において、洗濯やドライクリーニングなどの実用上の耐久性などを阻害する事なく従来品の懸案であった、保存時の経時変化にともなう撥水撥油剤の形態変化や性能の低下などの問題を有さない保存安定性に優れた撥水撥油剤を提供することである。
[課題を解決するための手段]
本発明者はポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物に塩化ビニルまたは塩化ビニリデンおよびこのポリフルオロアルキル基含有の化合物に共重合可能な化合物とを共重合させて得られる水分散型のフッ素系撥水撥油剤の優れた性能と、洗濯やドライクリーニングなどの耐久性をそこなうことなく、保存安定性に優れた撥水撥油剤を提供することを目的として種々の研究、検討を重ねた結果、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合成分として含む水分散型のフッ素系撥水撥油剤において、重合後に未反応モノマーとしてエマルション中に残存している塩化ビニル、塩化ビニリデンが、保存安定性を大きく阻害していることを見いだして本発明に至った。
すなわち本発明は、ポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物に塩化ビニルまたは塩化ビニリデンおよびこのポリフルオロアルキル基含有の化合物に共重合可能な化合物とを共重合させたのちに、エマルション中に含浸している未反応の塩化ビニル、塩化ビニリデンを減圧留去などの手法によってエマルション中から除外しエマルション中の未反応塩化ビニル、塩化ビニリデンの残存濃度を10ppm以下に抑えることで、保存時の形態変化や性能の低下などといった保存安定性上の問題を解消した優れた撥水撥油剤を供給するものである。」(第1頁右下欄第3行~第2頁右上欄第16行)
「重合反応の後に、エマルションから未反応の塩化ビニル、塩化ビニリデンを除く方法としては、特に限定することなく、既存の種々の方法が利用できる。たとえば、減圧による留去、常圧加熱下での撹拌による留去、加熱下での空気もしくは窒素気流、スチームのバブリングによる留去、充填塔やスピンコーター、円筒状の揮発装置などを利用する方法などが例示されるが特にこれらの例示に限定されない。」(第4頁右下欄第7行~第15行)
「[作用]
本発明において、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合成分として含む水分散型のフッ素系撥水撥油剤組成物において、エマルションから未反応の塩化ビニル、塩化ビニリデンの濃度を10ppm以下にせしめることによって、洗濯やドライクリーニングなどの実用上の耐久性などを阻害することなく従来品の懸案であった、保存時の経時変化にともなう撥水撥油剤の形態変化や性能の低下などの問題を有しない保存安定性に優れた撥水撥油剤組成物を提供することができたが、その理由は明確ではない。しかしながらエマルションの構成成分である塩化ビニル、塩化ビニリデンの部分は、水分散体中では、系中に溶存している塩素イオンによって分解が促進され、またその分解速度は、重合体中の塩化ビニル、塩化ビニリデン部分の分子量が低くなるほど加速されることが知られている。重合後のエマルション中に未反応の塩化ビニル、塩化ビニリデンが溶存しているとき、まず、これらの未反応モノマーが、系中に溶存している塩素イオンによって分解されて、新たな塩素イオンの供給源となりえる。この反応によって系中の塩素イオン濃度が上昇するため、モノマーの分解にひき続いて、重合体中の塩化ビニル、塩化ビニリデン部分の分解が加速され、エマルションが破壊し、長期の安定性が低下すると考えられる。そこでエマルション中から、未反応のモノマーを留去することによって、系中に溶存している塩素イオン濃度の上昇を抑え、その結果、重合体組成物の分解を抑制させることで、エマルションの長期の安定性を可能にさせていると考えられる。」(第5頁右上欄第7行~同頁左下欄第19行)
「[実施例]
次に本発明の実施例についてさらに具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない事はもちろんである。
以下の実施例中に示す撥水性、撥油性については、次の様な尺度で示した。すなわち、撥水性は、JIS L-1092のスプレー法による撥水性ナンバー(下記第1表参照)をもって表わし、撥油性は下記第2表に示された試験溶液を試験布の上、二ヶ所に数滴(径約4mm)置き、30秒後の浸透状態により判別した(AATCC-TM 118-1966)。
[図:0001428512000011.jpg]
[図:0001428512000012.jpg]
なお、撥水性ナンバー、撥油性ナンバーに、+印を付したものは、それぞれの性能がわずかに良好なものを示す。
実施例1、比較例1
熱電対式温度計、電流式撹拌機を装着した、ガラス製オートクレーブ(内容積1l)中に、パーフルオロアルキルエチルアクリレート(以下FA)[C8F17CH2CH2OCOCH=CH2]120g、ジオクチルマレート36g、NN-ジメチルアクリルアミド4g、ヒドロキシエチルアクリレート4g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル10g、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド2g、アセトン120g、水350g、アゾビス(ジブチルアミジン)2塩酸塩<和光化成品V-50>1gを加え、撹拌しながら約20分間窒素置換を行ない塩化ビニル76gを加えたのち、60℃に昇温し、重合を開始させる。60℃で15時間保温撹拌したのち冷却し、固形分濃度31%のエマルションを得た。ガスクロマトグラフィーによる共重合反応の転化率は99.0~99.8%(パーフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物に対して)であった。また、全反応モノマーに対する安定乳化エマルションの収率は95~99%であった。続いて、60℃に加熱し、撹拌させながら、窒素ガスによるバブリングを5時間おこない、未反応の塩化ビニルを除いた。ガスクロマトグラムで分析をおこなった結果、重合後に約1000ppmあった未反応の塩化ビニルは、6ppmまで減少した。バブリングによる未反応塩化ビニルを除去した物を実施例1、バブリング前で未反応塩化ビニルを高濃度含む重合組成物を比較例1とした。
実施例2~6、比較例2~6
実施例1と同様の方法にて、モノマー、乳化剤重合開始剤を変更し乳化重合をおこなった。引き続いて実施例1に示した未反応モノマーの除去操作をおこなった。一方比較例2~6では、実施例2~6と同じ仕込み、同じ操作で重合したが、そののち未反応モノマー除去の操作をおこなわなかった。用いたモノマー、乳化剤、重合開始剤を第3表、第4表に示した。
[図:0001428512000013.jpg]
[図:0001428512000014.jpg]
比較例7~11
実施例1と同様の方法にて、モノマー、乳化剤重合開始剤を変更し乳化重合を行なった。引き続いて実施例1に示した未反応モノマーの除去操作をおこなったがこの際、除去操作の時間を短縮することによって、未反応塩化ビニルモノマーの残存量を調節したサンプルを比較例7~11として得た。それぞれの比較例に残存する塩化ビニルモノマー量を第6表に示した。
以上の方法にて得られた乳化エマルションの固形分濃度を12重量%にしたラテックスを原液として、撥水撥油性能の試験を行なった。ラテックス原液を水により希釈し、原液の水に対する割合を、1.5%とした。これに併用樹脂としてメラミン樹脂を形成するスミテックスレジンM-3およびスミテックスアクセラレータ-ACXを加えて処理液とし、撥水撥油性能を測定した。試験はナイロンタフタ布について行ない、撥水撥油処理は次の様に行なった。即ち、前記のごとく希釈したラテックス処理液に試験布を30秒間浸漬し、2本のゴムローラーの間で布をしぼって、ウエットピックアップを30%とした。次いで、110℃で90秒間乾燥、更に170℃で60秒間熱処理した。かくして得られた処理布について撥水撥油性能を測定した結果を耐久性試験後の撥水撥油性能と共に、下記第5表、第6表にまとめて示した。
[図:0001428512000015.jpg]
[図:0001428512000016.jpg]
[発明の効果]
本発明は、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合成分として含むフッ素系水分散型撥水撥油剤において、重合反応ののちに、未反応の塩化ビニルまたは塩化ビニリデンをエマルション中から除去することによって、従来の高い耐久性を維持しながら、保存安定性に優れた撥水撥油剤を提供することが可能となった。また、保存安定性が向上したことによって、従来安定性の面から供給に問題のあった高濃度品を供給することが可能になった。」(第5頁右下欄第1行~第8頁右上欄第11行)
第5 当審の判断
1 引6を主引例とする理由(進歩性)について
(1)対比
本願発明1と引6発明とを対比する。
ア 引6発明の「ステアリルアクリレート」は、炭素数18のアルキル基を有するアクリル酸エステルであるから、本件発明の「疎水性単量体(a1)」の式において、「R11」が炭素数18の脂肪族炭化水素基であり、「R12」が水素原子であり、「Y11」が「-O-」であり、「k」が1である単量体である。
そうすると、引6発明の「ステアリルアクリレート」は、本願発明の「
前記疎水性単量体(a1)が式:
CH2=C(-R12)-C(=O)-Y11-(R11)k
[式中、
R11は炭素数10~30の脂肪族炭化水素基であり、
R12は水素原子、メチル基、又は塩素原子であり、
Y11は
-O-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、又は-O-(CH2)m-NH-C(=O)-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-S(=O)2-又は-O-(CH2)m-S(=O)2-NH-[式中、mは1~5の整数である。]であり、
kは1である」ことに相当する。
そして、引6発明の「ステアリルアクリレート」を反応させて、重合体の繰り返し単位となったときには、該繰り返し単位は、本願発明の「疎水性単量体(a1)から誘導される繰り返し単位」に相当する。
イ 引6発明の「塩化ビニル」を反応させて、重合体の繰り返し単位となったときには、該繰り返し単位は、本願発明の「塩化ビニル及び塩化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも一の塩化物単量体(a2)から誘導される繰り返し単位」に相当する。
ウ 引6発明の「N-メチロールアクリルアミド」は、本願明細書の段落【0037】に「架橋性単量体(a4)」の具体例として挙げられたものであるから、該「N-メチロールアクリルアミド」を反応させて、重合体の繰り返し単位となったときには、該繰り返し単位は、本願発明の「任意成分である、架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位」に相当する。
エ 引6発明の「片末端メタクリル変性シリコーン(数平均分子量:4600)」は、「ステアリルアクリレート」、「塩化ビニル」、及び「N-メチロールアクリルアミド」とは異なるものであり、環状炭化水素基含有単量体でもないことから、該「片末端メタクリル変性シリコーン(数平均分子量:4600)」を反応させて、重合体の繰り返し単位となったときには、該繰り返し単位は、本願発明の「任意成分である、単量体(a1)~(a4)以外のその他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位」に相当する。
オ 引6発明の「重合体」は、「ステアリルアクリレート」、「塩化ビニル」、「N-メチロールアクリルアミド」、及び「片末端メタクリル変性シリコーン(数平均分子量:4600)」を重合させたものであり、それらの各々の繰り返し単位を有するものであるが、本願発明1の「環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位」、「架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位」、及び「単量体(a1)~(a4)以外のその他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位」は、「任意成分である」単量体から誘導される繰り返し単位であることを踏まえると、引6発明の「重合体」は、本願発明の「疎水性単量体(a1)から誘導される繰り返し単位、・・・、その他の単量体(a5)から誘導される繰り返し単位、からなる非フッ素共重合体(A)」に相当する。
カ 引6発明の「重合体」は、単量体として「ステアリルアクリレート」76g、「塩化ビニル」20g、「N-メチロールアクリルアミド」1.5g、及び「片末端メタクリル変性シリコーン(数平均分子量:4600)」2.5gを重合して得られたものであるところ、一般的には、各々の単量体の仕込み量は重合体中の各々の繰り返し単位の量に等しいといえる。
そうすると、単量体の仕込み量の合計が100gであるから、各々の単量体の仕込み量(g)が、そのまま重合体中の各々の繰り返し単位の量(重量%)になることが理解できる。
してみると、引6発明の「ステアリルアクリレート」76g、「塩化ビニル」20g、「N-メチロールアクリルアミド」1.5g、及び「片末端メタクリル変性シリコーン(数平均分子量:4600)」2.5gを重合させた後の重合体の繰り返し単位の量は、「ステアリルアクリレート」に由来する繰り返し単位を76重量%、「塩化ビニル」に由来する繰り返し単位を20重量%、「N-メチロールアクリルアミド」に由来する繰り返し単位を1.5重量%、及び「片末端メタクリル変性シリコーン」に由来する繰り返し単位を2.5重量%を有するものといえ、これらは、順に、本願発明の「前記疎水性単量体(a1)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において35重量%以上であ」ること、「前記塩化物単量体(a2)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において3重量%以上であ」ること、「前記架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であ」ること、及び「前記その他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であ」ることに相当する。
そして、引6発明は、環状炭化水素基含有単量体を含むものではないから、本願発明において、「任意成分である、環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位」を含まず、「前記環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であ」ることを満たすものである。
キ 引6発明の「トリプロピレングリコール」は、化学式としてHO(C3H6O)3Hで表されるものであるから、本願発明の「ヒドロキシ基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも二の基を有する水溶性有機溶媒(b1)を含む液状媒体(B)」に相当する。
ク 引6発明の「水分散液」は、「重合体」、「トリプロピレングリコール」及び「水」を含む分散液を水で特定の固形分濃度に調製したものであるから、本願発明の「分散液」に相当する。
してみると、本願発明と引6発明とは、
「疎水性単量体(a1)から誘導される繰り返し単位、
塩化ビニル及び塩化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも一の塩化物単量体(a2)から誘導される繰り返し単位、
任意成分である、環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位、
任意成分である、架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位、及び
任意成分である、単量体(a1)~(a4)以外のその他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位、からなる非フッ素共重合体(A)、及び、
ヒドロキシ基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも二の基を有する水溶性有機溶媒(b1)を含む液状媒体(B)を含み、
前記疎水性単量体(a1)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において35重量%以上であり、
前記塩化物単量体(a2)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において3重量%以上であり、
前記環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であり、
前記架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であり、
前記その他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であり、
前記疎水性単量体(a1)が式:
CH2=C(-R12)-C(=O)-Y11-(R11)k
[式中、
R11は炭素数10~30の脂肪族炭化水素基であり、
R12は水素原子、メチル基、又は塩素原子であり、
Y11は-O-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、又は-O-(CH2)m-NH-C(=O)-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-S(=O)2-又は-O-(CH2)m-S(=O)2-NH-[式中、mは1~5の整数である。]であり、
kは1である。]
で示される化合物である、分散液。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明は、「未反応の塩化物単量体(a2)の濃度が3ppm以下であ」るの対し、引6発明は、そのような特定を有しない点
(2)検討
引2には、水分散型撥水撥油剤中の共重合体(エマルション)は少なくともポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物、塩化ビニル又は塩化ビニリデンとの共重合により形成されるものであるところ(請求項1)、エマルションの構成成分である塩化ビニル、塩化ビニリデン部分が水分散体中で系中に溶存している塩素イオンによって分解が促進されることが知られていること、重合後のエマルション中に未反応の塩化ビニル、塩化ビニリデンが溶存しているとき、これらが系中に溶存している塩素イオンによって分解され、新たな塩素イオンの供給源となり、上昇した塩素イオン濃度によって、重合体中の塩化ビニル、塩化ビニリデン部分の分解が加速され、長期の安定性が低下すること(以上を以下「引2の知見」という。)、エマルションから未反応の塩化ビニル、塩化ビニリデンを除く方法として減圧による留去、加熱下での空気もしくは窒素気流、スチームのバブリングによる留去などが例示され(第4頁右下欄第7行~第15行)、これらの方法を用いて、エマルション中から未反応モノマー(塩化ビニル、塩化ビニリデン)を除去すること(以下「引2の対処法」という。)により重合体組成物の分解を抑制でき、エマルションの長期の安定性を可能にすること(第5頁右上欄第8行~同左下欄第19行)、その際のエマルション中の未反応塩化ビニル、塩化ビニリデンの残存濃度を10ppm以下に抑えること(請求項1、第2頁右上欄第5行~第16行)が記載されている。
これらの記載によると、エマルションの長期の安定性は、共重合体中の塩化ビニル又は塩化ビニリデン部分と系中の塩素イオンとの関係によるものであり、未反応塩化ビニル、塩化ビニリデンの残存濃度を10ppm以下にすることで達成できることが理解できる。ここで、引2に記載された上記共重合体はコモノマーとしてフルオロアルキル基含有の化合物を含むものであるところ、コモノマーであるフルオロアルキル基含有の化合物の関与は認識されておらず、安定性は、共重合体中の塩化ビニル又は塩化ビニリデン部分と系中の塩素イオンとの関係によるものと理解できる。そうすると、該フルオロアルキル基含有の化合物が共重合体中の塩化ビニル、塩化ビニリデン部分の分解に関与しないと解せるから、コモノマーとしてフルオロアルキル基含有の化合物を含むことは、「引2の知見」に影響しないといえる。
一方で、引6には、放置安定性の優れた重合体水分散液を得るために、高圧ホモジナイザーや超音波ホモジナイザーのような強力な粉砕エネルギーを付与できる乳化装置を用いて、単量体を水中に微粒子化して重合すること(【0045】)が記載され、引2には、ポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物に塩化ビニル又は塩化ビニリデン及びその他の共重合可能な化合物を共重合させた水分散型撥水撥油剤は、エマルションの機械的安定性や長期の保存安定性に劣ること([従来の技術])及び「引2の知見」が記載されていることから、本願出願時には重合体水分散液における放置安定性は周知な課題であったと認められるところ、引6発明の重合体は塩化ビニル部分を含有するため、系中の塩素イオンによって、塩化ビニル部分が分解されるおそれがあるといえる。
そうすると、引6発明と引2に接した当業者であれば、引6発明の重合体の水分散液の放置安定性を改善するために、「引2の対処法」にしたがって、水分散液中の未反応の塩化ビニルを除去しようとすることは、当業者が容易に着想し得ることである。
その際に、「引2の知見」及び引2に記載された事項を参考にすれば、共重合体中の塩化ビニル部分の分解を抑制するためには、分散液中の未反応塩化ビニルの量は少なければ少ないほど良いといえ、その上限を設定することは当業者の設計事項であるから、未反応モノマー(塩化ビニル)の濃度を引2に記載される10ppm以下から、さらに3ppm以下にすることも、当業者にとって容易なことである。
したがって、相違点1は、当業者が容易になし得たことである。
ついで、本願発明1の効果について検討する。
本願発明の効果は、製品の安定性及び撥水性に優れる分散液を得ること、該分散液で製品を処理することで、耐チョークマーク性、摩擦堅牢度などの製品の使用感、耐久性等を改善することである(【0006】)。
そして、本願明細書には、「分散液中における未反応の塩化物単量体(a2)の濃度は、10.0ppm以下、9.0ppm以下、8.0ppm以下、7.0ppm以下、6.0ppm以下、5.5ppm以下、5.0ppm以下、4.5ppm以下、4.0ppm以下、3.5ppm以下、3.0ppm以下、2.5ppm以下、2.0ppm以下、1.5ppm以下、1.0ppm以下、0.8ppm以下、0.5ppm以下、0.3ppm以下、又は0.1ppm以下であってよい。」こと(【0103】)が記載されているだけであって、製品安定性(沈降量)や撥水性については言及されていない。
さらに、本願明細書の実施例(表2参照のこと。)において、実施例1(重合例1)~実施例8(重合例8)及び実施例9(重合例8)は、疎水性単量体(a1)及び塩化物単量体(a2)を必須とし、必要に応じて環状炭化水素基含有単量体(a3)及び/又は架橋性単量体(a4)からなる組合せを有する非フッ素共重合体(A)及び水溶性有機溶媒(b1)を含む液状媒体(B)であって、未反応塩化ビニル量が1~5ppmであるときに、撥水性試験、ブンデスマン試験、摩擦堅牢度試験、製品安定性試験(沈降量)、チョークマーク試験に優れることが示されている。しかしながら、未反応塩化ビニル量が1ppm又は2ppmであるときと、5ppmであるときとにおいて、上述の評価に顕著な差異はみあたらない。
比較例1は、実施例1(重合例1)において、水溶性有機溶媒(b1)をトリプロピレングリコールにかえてアセトンを使用したものであって、未反応塩化ビニル量は2ppmであるものの、撥水性試験、摩擦堅牢度試験、製品安定性試験(沈降量)、チョークマーク試験において、実施例1よりも劣る結果となっている。
比較例2、3は、それぞれ実施例1(重合例1)、同2(同2)において、未反応塩化ビニル量を2ppm、5ppmから各々20ppmにかえたものであって、摩擦堅牢度試験、製品安定性試験(沈降量)、及びチョークマーク試験において、実施例1、2よりも劣る結果となっている。
そうすると、実施例1~9及び比較例1~3の対比から、実施例1~9で用いている、特定の単量体からなる非フッ素共重合体(A)及び特定の水溶性有機溶媒(b1)を含む液状媒体(B)を含む分散液であって、未反応塩化ビニル量を1~5ppm以下とすることで、20ppmである場合に比べて、撥水性試験、ブンデスマン試験、摩擦堅牢度試験、製品安定性試験(沈降量)、チョークマーク試験が良好な結果を示すことが理解できる。
しかしながら、上述のとおり、「引2の知見」及び引2に記載された事項によると、共重合体中の塩化ビニル部分の分解を抑制するのであれば、分散液中の未反応塩化ビニルの量は少なければ少ないほど良いことが理解できるから、未反応モノマー(塩化ビニル)の濃度を3ppm以下にすれば長期の安定性が向上することは当業者が予測可能である。
そして、引2に記載された事項及び実施例に基づけば、残存塩化ビニル濃度が10ppm以下にすることで、保存安定性の問題を解消した撥水撥油剤が得られることが理解できるから、未反応モノマー(塩化ビニル)の濃度を3ppm以下にしても撥水性を維持することを当業者が予測可能である。
さらに、非含フッ素共重合体を含む水分散液を用いて撥水性、柔軟な風合い、及び耐チョークマーク性に優れることは引6の実施例から読み取れるから、これらの効果についても当業者には予測可能なものである。
以上を踏まえると、本願発明の上記効果は、引6に記載された事項並びに「引2の知見」及び引2に記載された事項から予測可能であるし、本願明細書の実施例の記載をみても、未反応塩化ビニル量が1ppm又は2ppmであるときと、5ppmであるときとにおいて、撥水性試験、ブンデスマン試験、摩擦堅牢度試験、製品安定性試験(沈降量)、及びチョークマーク試験のいずれの評価において、明らかに優劣があることも認められない。
してみると、未反応モノマー(塩化ビニル)の濃度として3ppmを境にして、製品安定性及び撥水性に優れるとはいえないから、3ppmという上限に臨界的意義があるとはいえない。
以上から、本願発明1は、引6発明及び引2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
(3)審判請求人の令和7年6月19日提出の意見書について
審判請求人は、
ア 引2には、未反応塩化ビニル量を3ppm以下とすることは開示も示唆もされていないし、未反応塩化ビニル量を10ppm以下とすることが記載されているものの、下限値として6ppm(実施例1)のみが記載されており、引2に接した当業者であれば、引6発明の撥水性、製品安定性(沈降量)といった性能をより改善するために、引2に記載されている最も低い未反応塩化ビニル量6ppmよりもさらに少量である3ppm以下へあえて設定する動機付けはないこと、
イ 引2の第5表によると残存塩化ビニル濃度が10ppm(実施例2、5、6)から6ppm(実施例1)へ低濃度にすると撥油性が低下する傾向が示されており、洗濯耐久試験後の撥水性は改善される傾向は示されていないし、発明が解決しようとする課題に優れた撥油性を与える表面処理剤を提供することが、引6(【0008】)に記載されているところ、引2の第5表で撥油性が低下する傾向が示されている残存塩化ビニル濃度6ppmよりも低い濃度で調整しようとすることは容易に想到しえないこと、
ウ:引6発明と引2に接した当業者であれば、未反応の塩化物単量体(a2)の濃度を引2に開示されている未反応塩化ビニル量6ppmよりもさらに極小量である3ppm以下まで低減する設計変更を行うことは生産性を顕著に低下させるものであり、阻害要因が存在するものであること、をそれぞれ主張している。
そこで、順に検討する。
(ア)主張アについて
上記(2)で示したように、「引2の知見」及び引2に記載された事項によれば、共重合体中の塩化ビニル部分の分解を抑制するために、分散液中の未反応塩化ビニルの量は少なければ少ないほど良いことが理解できるから、引2の最も低い未反応塩化ビニル量6ppmよりもさらに少量とすることへの動機付けがないという主張は妥当でない。
そして、引2において、未反応塩化ビニル量が6ppm(実施例1)であることは一例にすぎないものであって、該未反応塩化ビニル量の最低量を示している訳ではないから、当該主張も妥当でない。
(イ)主張イについて
引6の段落【0008】には、「本発明の1つの目的は、優れた撥水撥油性(特に撥水性)、柔軟な風合いおよび良好な耐チョークマーク性を繊維製品に与える表面処理剤(撥水撥油性、特に撥水性)を提供することにある。」と記載され、実施例ではスプレー試験として、JIS-L-1092(AATCC-22)のスプレー法に準じて撥水性を評価したこと(【0066】)、降雨試験として、JIS-L-1092雨試験A法に準拠した降雨試験(ブンデスマン試験)を行い、撥水性を評価したこと(【0067】)が記載されている。
これらの記載によると、引6は、撥水撥油性に優れることを目的としてはいるが、実施例での評価試験をみると、実質的には撥水性に優れることを目的としている。
また、引2の第5表における実施例1(未反応塩化ビニル量6ppm)も、実施例2、5、6(未反応塩化ビニル量10ppm)も、撥水撥油性(初期)と撥水撥油性(貯蔵試験後)とにおいて、撥水撥油性に変化がない点で同様の効果を奏するものである一方で、実施例1と、実施例2、5、6とにおいて、耐油性の評価に差があるのは、仕込みモノマー組成やノニオン系乳化剤が異なる組成物(第3表)を乳化重合して得られたエマルションであることが要因として考えられ、残存塩化ビニル濃度のみに起因するものとはいえない。
してみると、当該主張は妥当でない。
なお、引6は、撥水性に着目しているため、撥油性の評価に基づく主張は余り意味をなさないが、引2の第5表の「貯蔵安定性*1」について、その「*1」の説明として、「50℃での恒温槽中に2ヶ月間放置し、その後のエマルションの状態を目視で観察する。」と記載され、「沈降物なし」や「沈降物多い」といった観察により評価している。ちなみに、実施例1(第6頁右上欄第11行)の記載から、固形分濃度は31%のエマルションである。
ここで、上記「貯蔵安定性*1」は、本願実施例における「製品安定性試験(沈降量)」に該当するものであるが、該「製品安定性試験(沈降量)」は、固形分濃度を30重量%に調製した分散液を50℃にて2週間放置した後、分散液の状態を目視で観察したことが記載されている(【0217】)。
そうすると、引2の実施例と本願実施例とは、放置期間が異なる以外は、ほとんど同条件下での試験であるところ、引2の実施例1(6ppm)が、実施例2、5、6(10ppm)より撥油性が少し劣るとしても、本願実施例よりも、はるかに長い時間加熱下に放置した後での評価であるから、本願実施例と同じ放置期間であれば、残存塩化ビニル濃度が異なることによる撥油性の評価の差異は認められないと解される。
(ウ)主張ウについて
引6及び引2には、生産性の観点はないが、このことは本願明細書においても同様であって、本願発明が解決しようとする課題でもない。
そして、上記(2)で示したように、「引2の知見」及び引2に記載された事項によれば、共重合体中の塩化ビニル部分の分解を抑制するために、分散液中の未反応塩化ビニル量は少なければ少ないほど良いことが理解できるところ、分散液に求められる仕様やグレードに応じて、共重合体において許容される分解の程度はさまざまであるから、許容される未反応塩化ビニル量もさまざまであるといえ、生産性の観点だけで一概に論じることができないものと解される。
それゆえ、未反応塩化ビニル量を3ppm以下にすることが生産性を低下させるか否かは一義的に定まらないものであって、当該主張は妥当でない。
以上から、審判請求人の主張はいずれも採用できない。
(4)小括
以上から、本願発明は、引6に記載された発明及び引2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到しうることである。
2 引7を主引例とする理由(進歩性)について
(1)対比
本願発明と引7発明とを対比する。
ア 引7発明の「ステアリルアクリレート」は、炭素数18のアルキル基を有するアクリル酸エステルであるから、本件発明の「疎水性単量体(a1)」の式において、「R11」が炭素数18の脂肪族炭化水素基であり、「R12」が水素原子であり、「Y11」が「-O-」であり、「k」が1である単量体である。
そうすると、引7発明の「ステアリルアクリレート」は、本願発明の「
前記疎水性単量体(a1)が式:
CH2=C(-R12)-C(=O)-Y11-(R11)k
[式中、
R11は炭素数10~30の脂肪族炭化水素基であり、
R12は水素原子、メチル基、又は塩素原子であり、
Y11は
-O-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、又は-O-(CH2)m-NH-C(=O)-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-S(=O)2-又は-O-(CH2)m-S(=O)2-NH-[式中、mは1~5の整数である。]であり、
kは1である」ことに相当する。
そして、引7発明の「ステアリルアクリレート」を反応させて、重合体の繰り返し単位となったときには、該繰り返し単位は、本願発明の「疎水性単量体(a1)から誘導される繰り返し単位」に相当する。
イ 引7発明の「塩化ビニル」を反応させて、重合体の繰り返し単位となったときには、該繰り返し単位は、本願発明の「塩化ビニル及び塩化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも一の塩化物単量体(a2)から誘導される繰り返し単位」に相当する。
ウ 引7発明の「重合体」は、「ステアリルアクリレート」及び「塩化ビニル」を重合させたものであり、それらの各々の繰り返し単位を有するものであるが、本願発明の「環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位」、「架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位」、及び「単量体(a1)~(a4)以外のその他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位」は、「任意成分である」単量体から誘導される繰り返し単位であることを踏まえると、引7発明の「重合体」は、本願発明の「疎水性単量体(a1)から誘導される繰り返し単位、・・・、その他の単量体(a5)から誘導される繰り返し単位、からなる非フッ素共重合体(A)」に相当する。
エ 引7発明の「重合体」は、単量体として「ステアリルアクリレート」80g、「塩化ビニル」20gを重合して得られたものであるところ、一般的には、各々の単量体の仕込み量は重合体中の各々の繰り返し単位の量に等しいといえる。
そうすると、単量体の仕込み量の合計が100gであるから、各々の単量体の仕込み量(g)が、そのまま重合体中の各々の繰り返し単位の量(重量%)になることが理解できる。
してみると、引7発明の「ステアリルアクリレート」80g、「塩化ビニル」20gを重合させた後の重合体の繰り返し単位の量は、「ステアリルアクリレート」に由来する繰り返し単位を80重量%、「塩化ビニル」に由来する繰り返し単位を20重量%有するものといえ、これらは、順に、本願発明の「前記疎水性単量体(a1)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において35重量%以上であ」ること、「前記塩化物単量体(a2)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において3重量%以上であ」ることに相当する。
そして、引7発明は、環状炭化水素基含有単量体、架橋性単量体、及びその他単量体を含むものではないから、本願発明において、「任意成分である、環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位」、「任意成分である、架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位」、及び「任意成分である、・・・その他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位」を含まず、「前記環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であ」ること、「前記架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であ」ること、及び「前記その他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であ」ることを満たすものである。
オ 引7発明の「トリプロピレングリコール」は、化学式としてHO(C3H6O)3Hで表されるものであるから、本願発明の「ヒドロキシ基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも二の基を有する水溶性有機溶媒(b1)を含む液状媒体(B)」に相当する。
カ 引7発明の「水系エマルション」は、「重合体」、「トリプロピレングリコール」及び「水」を含む水性分散液を水で特定の固形分濃度に調製したものであるから、本願発明の「分散液」に相当する。
してみると、本願発明と引7発明とは、
「疎水性単量体(a1)から誘導される繰り返し単位、
塩化ビニル及び塩化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも一の塩化物単量体(a2)から誘導される繰り返し単位、
任意成分である、環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位、
任意成分である、架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位、及び
任意成分である、単量体(a1)~(a4)以外のその他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位、からなる非フッ素共重合体(A)、及び、
ヒドロキシ基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも二の基を有する水溶性有機溶媒(b1)を含む液状媒体(B)を含み、
前記疎水性単量体(a1)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において35重量%以上であり、
前記塩化物単量体(a2)から誘導された繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において3重量%以上であり、
前記環状炭化水素基含有単量体(a3)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であり、
前記架橋性単量体(a4)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であり、
前記その他単量体(a5)から誘導される繰り返し単位の量が、前記共重合体(A)において15重量%以下であり、
前記疎水性単量体(a1)が式:
CH2=C(-R12)-C(=O)-Y11-(R11)k
[式中、
R11は炭素数10~30の脂肪族炭化水素基であり、
R12は水素原子、水素原子、メチル基、又は塩素原子であり、
Y11は-O-、-O-(CH2)m-O-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-O-、又は-O-(CH2)m-NH-C(=O)-、-O-(CH2)m-NH-C(=O)-NH-、-O-(CH2)m-NH-S(=O)2-又は-O-(CH2)m-S(=O)2-NH-[式中、mは1~5の整数である。]であり、
kは1である。]
で示される化合物である、分散液。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1’>
本願発明1は、「未反応の塩化物単量体(a2)の濃度が3ppm以下であ」るの対し、引7発明は、そのような特定を有しない点
(2)検討
引2には、上記1(2)に示したように、「引2の知見」及び「引2の対処法」が記載されている。
ここで、引7には、放置安定性の優れた共重合体水分散液を得るために、高圧ホモジナイザーや超音波ホモジナイザーのような強力な粉砕エネルギーを付与できる乳化装置を用いて、単量体を水中に微粒子化して重合すること([0069])が記載され、引2には、ポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物に塩化ビニル又は塩化ビニリデン及びその他の共重合可能な化合物を共重合させた水分散型撥水撥油剤は、エマルションの機械的安定性や長期の保存安定性に劣ること([従来の技術])及び「引2の知見」が記載されていることから、本願出願時には共重合体水分散液における放置安定性は周知な課題であったと認められるところ、引7発明の重合体は塩化ビニル部分を含有するため、系中の塩素イオンによって、塩化ビニル部分が分解されるおそれがあるといえる。
してみると、引7発明と引2に接した当業者であれば、引7発明の水系エマルションの放置安定性を改善するために、「引2の対処法」にしたがって、水系エマルション中の未反応の塩化ビニルを除去しようとすることは、当業者が容易に着想し得ることである。
その際に、「引2の知見」及び引2に記載された事項を参考にすれば、共重合体中の塩化ビニル部分の分解を抑制するためには、水系エマルション中の未反応モノマー(塩化ビニル)の量は少なければ少ないほど良いといえ、その上限を設定することは当業者の設計事項であるから、未反応モノマー(塩化ビニル)の濃度を引2に記載される10ppm以下から、さらに3ppm以下にすることも、当業者にとって容易なことである。
したがって、相違点1'は、当業者が容易になし得たことである。
ついで、本願発明1の効果について検討するも、分散液の長期安定性、撥水性は、上記1(2)に示したとおりであるし、引7発明は、本願明細書の実施例の重合例1に類似した組成(ステアリルアクリレート、塩化ビニル、トリプロピレングリコールを使用)を有するものでもあるから、本願発明1と同様の作用効果(摩擦堅牢度、耐チョークマーク性)を奏すると認められる。
以上から、本願発明1は、引7発明及び引2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
(3)審判請求人の令和7年6月19日提出の意見書について
上記1(3)のア~ウにおいて、「引6」を「引7」にかえた以外は同旨の主張をしている。
そこで、順に検討する。
ア 主張ア及びウについて
上記1(3)(ア)及び(ウ)に示したとおりであり、審判請求人の主張は妥当でない。
イ 主張イについて
引7の段落[0005]には、「優れた撥水撥油性を与え、含フッ素単量体、特にフルオロアルキル基含有単量体を使用しない表面処理剤を提供することにある。」と記載され、実施例では撥水性試験として、JIS-L-1092(AATCC-22)のスプレー法に準じて撥水性を評価したこと([0093])が記載されている。
これらの記載によると、引7は、撥水撥油性に優れることを目的としてはいるが、実施例での評価試験をみると、実質的には撥水性に優れることを目的としている。
また、上記1(3)(イ)に示したとおり、引2の実施例1と、実施例2、5、6とにおいて、耐油性の評価に差があるのは、仕込みモノマー組成やノニオン系乳化剤が異なる組成物(第3表)を乳化重合して得られたエマルションであることが要因として考えられ、残存塩化ビニル濃度のみに起因するものとはいえない。
そして、上記1(3)(イ)の「なお書き」に示したとおり、引2の貯蔵試験を本願明細書の実施例と同様の条件で評価すれば、撥油性の評価の差異は認められない蓋然性が高いものである。
してみると、当該主張は妥当でない。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。
(4)小括
以上から、本願発明は、引7に記載された発明及び引2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうることである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-016221