特許拒絶査定不服審判
2023-009474
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物及びその硬化物
- 審判番号
- 2023-009474
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-233893
- 請求日
- 2023年06月07日
- 審決日
- 2025年07月22日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】阪本薬品工業株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 加藤 幹
- 審判官 松本 直子
- 分類
- P18 .121-WZ (C08F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-233893「活性エネルギー線硬化型樹脂組成物及びその硬化物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018-178071〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年12月6日(優先権主張 平成29年4月21日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年 9月27日付け:拒絶理由通知
令和 4年 2月18日提出:意見書、手続補正書
同年 7月12日付け:拒絶理由通知
令和 5年 2月10日付け:拒絶査定
同年 6月 7日提出:審判請求書、手続補正書
同年 8月10日提出:手続補正書(方式) 2通
同年10月16日付け:前置報告
令和 7年 2月28日付け:拒絶理由通知
同年 5月12日提出:意見書、手続補正書
同年 5月29日提出:手続補正書(方式)
第2 本願発明
1 本願発明の要旨の認定
本願の請求項1~5に係る発明は、令和7年5月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」といい、本願の願書に添付された明細書を「本願明細書」という。)は、以下のとおりである。
【請求項1】
平均重合度が4であるポリグリセリン及びアルキレンオキサイドからなるポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート(A)と、(A)成分を除く3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)を含有し、重量比が(A):(B)=10:90~80:20であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
2 本願発明の技術的意義
本願発明は、本願明細書の段落0005等の記載からみて、「高い表面硬度と低カール性が両立した硬化物が得られる活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の提供」を課題とするものであると認められる。
ここで、本願明細書には、「(A)成分は、平均重合度が4~20であるポリグリセリン及びアルキレンオキサイドからなるポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレートである」(段落0010)と記載され、また、実施例1~8及び比較例1~3として11の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を調製し、それらの硬化物の硬化率、硬化速度、表面硬度(鉛筆硬度)、カール性及び密着性を測定したこと、その結果(A)成分のポリグリセリンの平均重合度が4である実施例1、2及び5~8に係る硬化性組成物は、(A)成分のポリグリセリンの平均重合度が2である比較例1に係る硬化性組成物と比較して硬化物の硬化率、硬化速度、表面硬度(鉛筆硬度)、カール性及び密着性に優れたものであったことが記載され(段落0028~0046)、「本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いることで、酸素の存在下でも少ない照射量で硬化し、硬化率が高く、なおかつ高い表面硬度と低カール性が両立した硬化物を得ることができる」(段落0007)と記載されている。
しかし、本願明細書には、(A)成分のポリグリセリンの平均重合度が4であることにより硬化性組成物が硬化物の硬化率、硬化速度、表面硬度(鉛筆硬度)、カール性及び密着性に優れたものとなること並びに酸素の存在下でも少ない照射量で硬化することの作用機序については記載されていない。
また、本願明細書には、実施例1~8及び比較例1~3として、平均重合度が4であるテトラグリセリンのエチレンオキサイド付加物の6個の水酸基を全てアクリル酸でエステル化したものであるA1及びA2、平均重合度が10であるデカグリセリンのエチレンオキサイド付加物の12個の水酸基を全てアクリル酸でエステル化したものであるA3及びA4並びに平均重合度が2であるジグリセリンのエチレンオキサイド付加物の4個の水酸基を全てアクリル酸でエステル化したものであるA5を(A)成分として用いた例が記載されているにとどまり(段落0028~0030。なお、ポリグリセリンの重合度xとポリグリセリンの水酸基数yとの間には y=x+2 という関係が成立する。)、ポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の水酸基の「一部」をアクリル酸でエステル化したものを用いた例は記載されていない。そして、硬化性組成物の硬化率や硬化速度、硬化後の物性にその原料成分における(メタ)アクリル基数(重合性基数)が大きく影響することは技術常識であるところ、本願明細書には(A)成分のポリグリセリンの平均重合度が同じであれば(A)成分の(メタ)アクリル基数によらず硬化物の硬化率、硬化速度、表面硬度(鉛筆硬度)、カール性及び密着性に優れたものとなることはされていないし、そうしたことが本願優先日当時の技術常識であるともいえない。したがって、実施例1~8及び比較例1~3に係る硬化性組成物の硬化物の硬化率、硬化速度、表面硬度(鉛筆硬度)、カール性及び密着性の相違が(A)成分のポリグリセリンの平均重合度に起因するのか、それとも(A)成分のアクリル基数に起因するのかは判然としない。
そうすると結局、本願明細書の記載及び本願優先日当時の技術常識からは(A)成分のポリグリセリンの平均重合度が4であることの技術的意義を確認することはできない。
第3 当審において通知した拒絶の理由
当審における令和7年2月28日付けの拒絶理由通知で通知した拒絶の理由は、
「3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
「・請求項 1~4
・引用文献等 5
…」
「 <引用文献等一覧>
…
5.特開2016-23235号公報…」
という理由を含むものである。
第4 引用文献及び引用文献の記載
1 引用文献5の記載
令和7年2月28日付けの拒絶理由通知で引用した、本願優先日前である平成28年2月8日に頒布された刊行物である引用文献5には次のとおりの記載がある。
「【0049】
(B)多官能重合性化合物
(B)成分として用いられる多官能重合性化合物は、3個以上の重合性二重結合を有する。重合性二重結合を含む基は、典型的には(メタ)アクリロイル基であるが、これに限られない。多官能重合性化合物は、重合性二重結合を含む基として、下記一般式(2-1)又は(2-2)で表される一価の基を1個、2個又は3個以上有していてもよい。重合性二重結合を含む基として式(2-1)又は(2-2)の基を導入したことにより、形成されるコート層の高い強度を維持しつつ、コート層が変形したときの応力を緩和することができる。その結果、コート層の優れた屈曲性が得られる。多官能重合性化合物が3個以上の重合性二重結合を有していることにより、コート層の耐擦傷性が向上する。多官能重合性化合物中の重合性二重結合の数は、6個以上9個以下であってもよい。…
【0050】
【化4】
[図:0001427161000001.jpg]
【0051】
【化5】
[図:0001427161000002.jpg]
【0052】
式(2-1)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、dは2~4の整数を示し、eは1~6の整数を示す。式(2-2)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、mは5であり、nは1~4の整数を示す。
【0053】
上記多官能重合性化合物の二重結合当量は、130以上500以下、130以上300以下、又は130以上250以下であってもよい。これにより、保護膜の耐擦傷性の点で、より優れた効果を得ることができる。
【0054】
多官能重合性化合物として、アルキレンオキシド変性又はカプロラクトン変性多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルを使用することにより、高い硬度を保ちながらも優れた柔軟性を有する保護膜をより容易に形成することができる。
【0055】
本明細書において、「アルキレンオキシド変性」とは、アルコール化合物のヒドロキシル基にエチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加させて形成されるオキシエチレン基又はポリオキシエチレン基を有する化合物であることを意味する。エチレンオキシド変性を「EO変性」、プロピレンオキシド変性を「PO変性」と略記することがある。アルキレンオキシド変性多価アルコールに由来する多官能重合性化合物は、式(2-1)の一価の基を有する。
…
【0057】
アルキレンオキシド変性又はカプロラクトン変性多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、下記一般式(20)で表される。
【0058】
(HO)y-R10-(O-Z)x (20)
【0059】
式(20)中、R10は3個以上のヒドロキシル基を有する多価アルコールの残基(ヒドロキシル基を除いた部分)を示し、Zは式(2-1)若しくは(2-2)で示される一価の基、又はこれら以外の重合性二重結合を有する一価の基を示し、xは3以上の整数を示し、yは0以上の整数を示し、x+yはR10の価数に等しい。一分子中の複数のZは同一でも異なっていてもよく、複数のZのうち1個以上は、式(2-1)又は(2-2)で示される一価の基である。x+y(多価アルコールのヒドロキシル基の総数)は3~12であってもよく、xは3~9であってもよい。
【0060】
R10に対応する多価アルコールは、例えば、ポリグリセリン、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール及びトリメチロールプロパンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり得る。
【0061】
多官能重合性化合物の具体例としては…アルキレンオキシド変性又はカプロラクトン変性ポリグリセリンのポリアクリレートが挙げられる。…」
「【0089】
コートフィルムは、例えば、プラスチックフィルム上に硬化性組成物の膜を形成する工程と、硬化性組成物の膜から必要に応じて溶剤を除去してから、活性エネルギー線等によって硬化性組成物を硬化させて、硬化性組成物の硬化膜をコート層として形成させる工程とを含む方法により、製造することができる。
…
【0091】
硬化性組成物を硬化させるための活性エネルギー線は、紫外線、電子線等を使用することができる。加熱により硬化性組成物を硬化させてもよい。この場合、硬化性組成物が熱ラジカル重合開始剤を含んでいてもよい。」
「【0095】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
…
【0097】
2.原材料
(A)重合性二重結合を有するアクリル樹脂(高分子アクリルアクレート)の合成
(合成例1)
グリシジルメタクリレート(GMA)80質量部、メチルメタクリレート(MMA)18質量部、及びエチルアクリレート(EA)2質量部を、メチルイソブチルケトン(MIBK)中で常法に従って溶液重合させて、グリシジルメタクリレートに由来するエポキシ基を有するアクリル樹脂を合成した。得られたアクリル樹脂のエポキシ基とアクリル酸との反応により、アクリロイルオキシ基を有するアクリル樹脂(高分子アクリルアクリレート)を得た。重合反応に用いたGMA1当量に対して、1当量のアクリル酸を反応に用いた。得られた高分子アクリルアクリレートの重量平均分子量は15000であり、二重結合当量は256であった。
…
【0103】
(B)~(E)成分
B、C、D及びE成分として以下を使用した。
(B)多官能重合性化合物
B1:カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製、KAYARAD DPCA-20、カプロラクトン2モル付加(式(2-2)におけるnが一分子中の合計で平均2)、六官能)
B2:エチレンオキシド変性ポリグリセリンポリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエコノマー A-PG5027E、エチレンオキシド27モル付加(式(2-1)におけるeが一分子中の合計で平均27)、九官能)
…
(C)アルキレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート
C1:EO変性ビスフェノールAジアクリレート(日立化成株式会社製 ファンクリル FA-323A、式(3)におけるR1が水素原子、fが2、g+hが30である化合物)
…
(D)低二重結合当量モノマー
D1:10官能ウレタンアクリレート(二重結合当量:116、日立化成株式会社製 ヒタロイド HA7909-1)
…
(E)光開始剤
E1:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製 IRGACURE184)
【0104】
3.硬化性組成物の調製
各成分を、表1~6に示す比率で溶媒としてのMIBK150質量部に加え、40℃で1時間攪拌して、均一な硬化性組成物を得た。表中の数値は質量部であり、「固形分合計」は、硬化性組成物の溶剤以外の成分の合計を意味する。
【0105】
4.評価
得られた硬化性組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製 ルミラーU46 膜厚50μm)、又はポリカーボネート(PC)フィルム(三菱ガス化学株式会社製 ユーピロン FE2000 膜厚100μm)上にバーコーターを用いて塗布した。塗膜を80℃の熱風式乾燥機中で1分間乾燥して硬化性組成物の膜(膜厚2μm)を形成した。その後、コンベア式高圧水銀灯を用いて、窒素雰囲気下、積算光量400mJ/cm2、照度300mW/cm2で照射して硬化性組成物を硬化させることで、PETフィルム又はPCフィルムの片面を覆うコート層として、硬化性組成物の硬化膜を形成させた。」
「【0109】
【表1】
[図:0001427161000003.jpg]
」
2 引用文献Aの記載
当審において技術の内容を明らかにするものとして新たに引用する特開2014-218612号公報(以下「引用文献A」という。)には次のとおりの記載がある。
「【0085】
【化9】
[図:0001427161000004.jpg]
ポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレート(略称、A-PG5027E)
理論分子量≒2200(k≒5,t≒3 k及びtは平均値を示す)
(実施例4における造膜成分)」
第5 引用発明の認定
引用文献5の合成例1に係る高分子アクリルアクリレート(段落0097)が引用文献5の表1に係る高分子アクリルアクリレートA1(段落0109)であることは、段落0099~0102の合成例2~5が、合成例1と同様に合成され、それぞれ「高分子アクリルアクリレートA2」~「A5」であることからみて、明らかである。したがって、引用文献5の実施例1に係る硬化性組成物(段落0095、0097、0103~0105及び0109)に着目すると、引用文献5には、
「17質量部の高分子アクリルアクリレートA1、
18質量部の多官能重合性化合物B1(カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製、KAYARAD DPCA-20、カプロラクトン2モル付加、六官能))、
43質量部の多官能重合性化合物B2(エチレンオキシド変性ポリグリセリンポリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエコノマー A-PG5027E、エチレンオキシド27モル付加、九官能))、
15質量部のEO変性ビスフェノールAジアクリレートC1(日立化成株式会社製、ファンクリルFA-323A)、
3質量部の低二重結合当量重合性化合物D1(10官能ウレタンアクリレート(二重結合当量:116、日立化成株式会社製 ヒタロイド HA7909-1)
)、及び
4質量部の光開始剤E1(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製 IRGACURE184))
を溶媒としてのMIBK150質量部に加え、40℃で1時間攪拌して得た、コンベア式高圧水銀灯を用いて、窒素雰囲気下、積算光量400mJ/cm2、照度300mW/cm2で照射して硬化膜を形成させるための、均一な硬化性組成物。
ここで、前記高分子アクリルアクリレートA1は、グリシジルメタクリレート(GMA)80質量部、メチルメタクリレート(MMA)18質量部、及びエチルアクリレート(EA)2質量部を、メチルイソブチルケトン(MIBK)中で常法に従って溶液重合させて、グリシジルメタクリレートに由来するエポキシ基を有するアクリル樹脂を合成し、重合反応に用いたGMA1当量に対して1当量のアクリル酸を用い、得られたアクリル樹脂のエポキシ基とアクリル酸との反応により得た、重量平均分子量は15000であり、二重結合当量は256である、アクリロイルオキシ基を有するアクリル樹脂である。」
の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されているといえる。
第6 本願発明についての当審の判断
1 引用発明5と本願発明との対比
引用発明5を本願発明と対比すると、両者の構成の対応は以下のとおりとなる。
(a)引用発明5における「多官能重合性化合物B2(エチレンオキシド変性ポリグリセリンポリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエコノマー A-PG5027E、エチレンオキシド27モル付加、九官能))」は、引用文献Aの段落0085の記載からみて
[図:0001427161000005.jpg]
(k≒5,t≒3 k及びtは平均値を示す)
という構造を有する化合物であるといえる。そして、この構造中添え字kを有する括弧内の構造及びその左右の構造はグリセリン残基であるから、これらの総体は「平均重合度が7であるポリグリセリン」であるといえる。また、この構造中添え字tを有する括弧内の構造はエチレンオキシド残基であるところ、エチレンオキシドはアルキレンオキサイドの一種である。さらに、この構造中各末端はアクリル酸に由来するアクリロイル基であるといえる。
そうすると、引用発明5における「多官能重合性化合物B2(エチレンオキシド変性ポリグリセリンポリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエコノマー A-PG5027E、エチレンオキシド27モル付加、九官能))」は、本願発明における「平均重合度が4であるポリグリセリン及びアルキレンオキサイドからなるポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート(A)」と、「ポリグリセリン及びアルキレンオキサイドからなるポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート(A)」という限りで一致する。
(b)引用発明5における「高分子アクリルアクリレートA1」はグリシジルメタクリレートをモノマーとして合成されたアクリル樹脂のグリシジル基(エポキシ基)にアクリル酸を反応させて得られたものであり、引用発明5における「多官能重合性化合物B1」はジペンタエリスリトール由来のヘキサアクリレートであり、引用発明5における「低二重結合当量重合性化合物D1」は10官能ウレタンアクリレートであることから、いずれも本願発明における「(A)成分を除く3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)」に相当する。
(c)引用発明5は「多官能重合性化合物B2」、「高分子アクリルアクリレートA1」、「多官能重合性化合物B1」及び「低二重結合当量重合性化合物D1」の配合量がそれぞれ43質量部、17質量部、18質量部及び3質量部である。そしてこのことは、
多官能重合性化合物B2の質量部:(高分子アクリルアクリレートA1の質量部+多官能重合性化合物B1+低二重結合当量重合性化合物D1の質量部)=43:(17+18+3)=43:38=約53:約47
ということであるから、前記(a)及び(b)を踏まえると、本願発明における「重量比が(A):(B)=10:90~80:20である」に相当する。
(d)引用発明5における「コンベア式高圧水銀灯を用いて、窒素雰囲気下、積算光量400mJ/cm2、照度300mW/cm2で照射して硬化膜を形成させるための、均一な硬化性組成物」は、引用文献5の活性エネルギー線等によって硬化性組成物を硬化させる旨の記載(段落0089)及び硬化性組成物を硬化させるための活性エネルギー線は、紫外線、電子線等を使用することができ旨の記載(段落0091)からみて、本願発明における「活性エネルギー線硬化型樹脂組成物」に相当する。
2 一致点、相違点
前記1から、本願発明と引用発明5とは、
「ポリグリセリン及びアルキレンオキサイドからなるポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート(A)と、(A)成分を除く3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)を含有し、重量比が(A): (B)=10:90~80:20であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」
という点で一致し、
(相違点1)ポリグリセリンの平均重合度が、本願発明は4であるのに対し、引用発明5は7である点
で相違する。
3 相違点について
引用文献5(段落0049~0061)には、引用発明5の多官能重合性化合物B2が属する(B)成分について、多官能重合性化合物中の重合性二重結合の数は6個以上9個以下であってもよいこと(段落0049)、多官能重合性化合物の具体例としてアルキレンオキシド変性ポリグリセリンのポリアクリレートが挙げられること(段落0061)が記載されている。
そうすると、引用発明5において、九官能、すなわち重合性二重結合の数が9個である多官能重合性組成物B2を、重合性二重結合の数が6個以上9個以下の範囲で調節することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、前記多官能重合性化合物B2が、前記1(a)で述べたように、エチレンオキシド変性ポリグリセリンのすべての水酸基がアクリレートに変性されており、ポリグリセリンの平均重合度(=k+2)が7の化学構造を有することは、当業者にとって自明であるから、前記調節により重合性二重結合の数を6個にする際に、ポリグリセリンの重合度を3減じる、すなわち平均重合度を4とすることは、前記化学構造からみて、当業者が当然選択し得るといえる。
4 効果について
本願明細書には、本願発明の効果として「本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いることで、酸素の存在下でも少ない照射量で硬化し、硬化率が高く、なおかつ高い表面硬度と低カール性が両立した硬化物を得ることができる」(段落0007)と記載されているとともに、「本発明の平均重合度が4~20であるポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート(A)と3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(B)からなる活性エネルギー線硬化型樹脂組成物から得られる硬化物は、重合度が2のポリグリセリンを用いた比較例1、(B)成分を単独で用いた比較例2及び3と同等又はそれ以上の硬化性及び表面硬度が得られる。また、カール性に関しても、比較例1~3よりも小さく抑えられ、さらに密着性も良好であることが分かる」(段落0047)と記載されている。
しかし、前記第2の2で検討したとおり、本願明細書の記載及び本願優先日当時の技術常識からは(A)成分のポリグリセリンの平均重合度が4であることの技術的意義を確認することはできないから、前記効果が引用発明5と比較した有利な効果であるとすることはできない。
したがって、本願発明の効果が顕著なものであるということはできない。
5 本願発明についてのまとめ
以上のとおり、本願発明は当業者が引用発明5並びに引用文献5の記載及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものである。
6 請求人の主張について
令和7年5月12日提出の意見書の「4.本発明1と引用文献との対比」の(2)において、請求人は「引用文献5の発明は、耐屈曲性、十分な耐擦傷性を有する硬化性組成物を得るという課題に対し、(A)重合性二重結合を有するアクリル樹脂、(B)多官能重合性化合物、C)アルキレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、及び、(D)重合性化合物としたものであります。多官能重合性化合物として、「A-PG5027E」、及び、本発明における(B)に相当する高分子アクリルアクリレートA1、10官能ウレタンアクリレートを含有しておりますが、これらの内から、平均重合度が4~20であるポリグリセリン及びアルキレンオキサイドからなるポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート(A)を含有することで、少ない照射量で硬化し、高い硬化率の高い硬化物が得られるという本発明1に至らないものであります」と主張する。
しかし、引用発明5において、多官能重合性組成物B2のポリグリセリンの平均重合度を4とすることでその重合性二重結合の数を6個とすることは引用文献5(段落0049~0061)の記載に基づいて当業者が容易になし得たことであることは、前記3で述べたとおりである。
また、本願明細書の記載及び本願優先日当時の技術常識からは(A)成分のポリグリセリンの平均重合度が4であることの技術的意義を確認することはできず、本願発明の効果が顕著なものであるということはできないことは、前記4で述べたとおりである。加えて、「平均重合度が4~20であるポリグリセリン及びアルキレンオキサイドからなるポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート(A)を含有する」ことによる「少ない照射量で硬化し、高い硬化率の高い硬化物が得られる」という効果は、平均重合度が7であるポリグリセリン及びエチレンオキサイドからなるポリグリセリンエチレンオキサイド付加物のアクリレートを含有するものである引用発明5も自ずと奏する効果であるといえる。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願の請求項2~5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-009474