特許拒絶査定不服審判
2023-005594
フルオロポリマー粉末の製造方法
- 審判番号
- 2023-005594
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-514226外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年04月06日
- 審決日
- 2025年05月30日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人とこしえ特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (C08F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-514226「フルオロポリマー粉末の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和2年10月22日国際公開、WO2020/213691〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
理由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年4月16日の出願であって、以降の手続の経緯は次のとおりである。
令和4年 6月 3日付け 拒絶理由通知(最初)
同 年 8月15日 意見書及び手続補正書の提出
同 年12月26日付け 拒絶査定
令和5年 4月 6日 審判請求書及び手続補正書の提出
同 年 6月22日付け 前置報告
同 年 8月14日 上申書の提出
令和6年12月 3日付け 拒絶理由通知
令和7年 2月10日 意見書の提出
第2 本願に記載された発明
請求項1~8に係る発明は、令和5年4月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「カルボン酸型炭化水素系界面活性剤を用いた重合により得られたフルオロポリマー水性分散液に酸を添加し、pHを4.0以下に調整して凝析して下記一般式(1A)で示される含フッ素化合物を含む湿潤フルオロポリマー粉末を得る工程(A1)、及び、
前記湿潤フルオロポリマー粉末を170℃以上230℃以下で熱処理する工程(B1)を含む
ことを特徴とするフルオロポリマー粉末の製造方法。
一般式(1A):H-(CF2)m-COOH
(式中、mは3~19)」
第3 拒絶の理由
令和6年12月3日付けで当審において通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりのものである。
●理由1(進歩性)
この出願の下記の請求項1~8に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1:国際公開第2019/031617号に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明の認定
1 引用文献1に記載された事項及び発明
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は当審で強調のため付与。以下同じ。)
「[0016]本発明の精製PTFE水性分散液の製造方法は、炭化水素系界面活性剤を用いて得られたポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と表記することがある)水性分散液から一般式(1)又は(2)で示される化合物を除去又は低減する工程(以下「除去工程」ともいう)を含む。
一般式(1):(H-(CF2)m-COO)pM1(式中、mは3~19、M1は、H、金属原子、NR54(R5は、同一でも異なっていてもよく、H又は炭素数1~10の有機基)、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム、又は、置換基を有していてもよいホスホニウムである。pは1又は2である。)
一般式(2):(H-(CF2)n-SO3)qM2(式中、nは4~20である。M2はH、金属原子、NR54(R5は、同一でも異なっていてもよく、H又は炭素数1~10の有機基)、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム、又は、置換基を有していてもよいホスホニウムである。qは1又は2である。)
上記金属原子としては、1、2価の金属原子が挙げられ、アルカリ金属(1族)又はアルカリ土類金属(2族)が挙げられ、具体的には、Na、K、Li等が例示される。
上記R5としては、4つのR5は、同一でも異なっていてもよい。R5としては、H又は炭素数1~10の有機基が好ましく、H又は炭素数1~4の有機基がより好ましい。また、好ましくは炭素数1~10のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。以下で記載する全てのR5に上記規定は適用できる。
一般式(1)において、mは5~11であってもよい。
一般式(2)において、nは6~12であってもよい。」
「[0060]上記熱処理の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。熱処理の温度は、150℃以上であることが好ましい。また、一般式(1)又は(2)で示される化合物の除去又は低減の観点から、熱処理の温度は、160℃以上がより好ましい。すなわち、上記除去工程は、炭化水素系界面活性剤を用いて得られたPTFE粉末を160℃以上の温度で熱処理する工程を含むことが好ましい。
熱処理の温度は、170℃以上がより好ましく、180℃以上が更に好ましく、200℃以上が更により好ましく、210℃以上が殊更に好ましく、220℃以上が特に好ましく、230℃以上が最も好ましい。
また、熱処理の温度は、310℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、290℃以下が更に好ましく、280℃以下が更により好ましく、270℃以下が殊更に好ましい。上記熱処理は、水分の乾燥を伴うものであってもよい。
すなわち、上記熱処理は、炭化水素系界面活性剤を用いて得られた重合上がりのPTFE分散液を凝析することによって得られた水分を含む湿潤PTFE粉末を乾燥するものであってもよい。乾燥時に一般式(1)又は(2)で示される化合物や、後述する一般式(7)で示される化合物が低減される。
また、乾燥後の水分を含まないPTFE粉末を、再度熱処理することが好ましい。具体的には、上記湿潤PTFE粉末を乾燥して水分除去し、その後、連続的にさらに上記温度領域まで温度を上げて、熱処理を行ってもよい。この場合、上記乾燥は、上記した各温度範囲未満で行ってよく、例えば、150℃未満で行ってもよい。
本発明の改質PTFE粉末の製造方法は、炭化水素系界面活性剤を用いて得られたPTFE分散液を凝析し、水分を含む湿潤PTFE粉末を得る工程を含んでもよい。」
「[1084]合成例3
10-オキソウンデカン酸(1.8g)を1.0MKOH水に加えて、水を留去して、10-オキソウンデカン酸カリウム(2.2g)を得た。
得られた10-オキソウンデカン酸カリウム(以下、界面活性剤Bという)のスペクトルデータを以下に示す。 1H-NMR(CDCl3) δppm:1.04(m,8H)、1.30-1.32(m,4H)、1.89-2.01(m,5H)、2.27-2.33(t,J=7.6,4H)
[1085]合成例4
内容積1Lのガラス製のオートクレーブに550gの脱イオン脱気水、30gのパラフィンワックス、0.0145gの界面活性剤Bを加えた。反応器を密閉し、系内を窒素で置換を行ない、酸素を取り除いた。反応器を70℃に昇温し、TFEを反応器に充填して、
反応器を0.78MPaにした。重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)0.110gを仕込んだ。反応圧力が0.78MPa一定となるように、TFEを仕込んだ。TFEを50g仕込んだ時に、撹拌を停止し、反応器が大気圧になるまで脱圧を行なった。水性分散液を反応器より取り出し、冷却後、パラフィンワックスを分離し、PTFE水性分散液Bを得た。得られたPTFE水性分散液Bに含まれる粒子の平均粒子径は、216nmであった。また、得られたPTFE水性分散液Bの固形分含有量は、8.2質量%であった。
得られたPTFE水性分散液Bの一般式(1)及び(2)で示される化合物の含有量を測定した。結果を下記表11に示す。
[1086]実験例4
合成例4で得られたPTFE水性分散液Bに脱イオン水を加え、比重(25℃)を1.080に調整した。アンカー型撹拌翼と邪魔板を備えた内容量が6Lのガラス製凝析槽に、比重調整したPTFE水性分散液2.5Lを加え、内温が34℃になるように温度調節した。調節後直ちに硝酸(10%)16gを添加すると同時に撹拌速度500rpmで撹拌を開始した。撹拌開始後、水性分散液がスラリー状態を経て、湿潤PTFE粉末が形成されたことを確認し、更に1分間撹拌を継続した。
続いて、湿潤PTFE粉末を濾別し、湿潤PTFE粉末と脱イオン水2.5Lを凝析槽内に仕込み、25℃に調整して、撹拌速度500rpmでポリマー粉末を洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄の後、湿潤PTFE粉末を濾別し、150℃の熱風循環式乾燥機内に18時間静置して乾燥させ、PTFE粉末を得た。
得られたPTFE粉末のSSGは、2.261であった。このことより、得られたPTFEは、高分子量PTFEであることが分かった。
得られたPTFE粉末の一般式(1)及び(2)で示される化合物の含有量を測定した。結果を下記表11に示す。
[1087]実験例5
実験例4で得られたPTFE粉末30gを反応器に入れたこと以外は、実験例3と同条件でフッ素化処理を行い、得られたPTFE粉末の一般式(1)及び(2)で示される化合物の含有量を測定した。結果は下記表11に示す。
[1088]
[表11]
[図:0001424934000001.jpg]
nが5、7、9、11、13、15、17及び19、mが4、6、8、10、12、14、16及び18のピークについては定量限界以下であった。
定量限界は、水性分散液の場合が86ppbであり、粉末の場合が13ppbである。」
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)に記載されるように、[0016]の「炭化水素系界面活性剤を用いて得られたポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と表記することがある)」旨の記載、[1084]の「10-オキソウンデカン酸カリウム(以下、界面活性剤Bという)」旨の記載、[1085]のPTFE水性分散液Bの製造方法である合成例4、[1086]のPTFE粉末の製造方法である実験例4の記載に着目すると、引用文献1には次の発明が記載されていると認める。
「内容積1Lのガラス製のオートクレーブに550gの脱イオン脱気水、30gのパラフィンワックス、0.0145gの10-オキソウンデカン酸カリウムである界面活性剤Bを加え、反応器を密閉し、系内を窒素で置換を行ない、酸素を取り除き、反応器を70℃に昇温し、TFEを反応器に充填して反応器を0.78MPaにし、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.110gを仕込み、反応圧力が0.78MPa一定となるようにTFEを仕込み、TFE50g仕込んだ時に撹拌を停止し、反応器が大気圧になるまで脱圧を行い、水性分散液を反応器より取り出し、冷却後、パラフィンワックスを分離してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水性分散液Bを得て、これに脱イオン水を加え、比重(25℃)を1.080に調整し、アンカー型撹拌翼と邪魔板を備えた内容量が6Lのガラス製凝析槽に比重調整したPTFE水性分散液2.5Lを加え、内温が34℃になるように温度調節した後、直ちに硝酸(10%)16gを添加すると同時に撹拌速度500rpmで撹拌を開始し、撹拌開始後、水性分散液がスラリー状態を経て湿潤PTFE粉末が形成されたことを確認し、さらに1分間撹拌を継続し、続いて、湿潤PTFE粉末を濾別し、湿潤PTFE粉末と脱イオン水2.5Lを凝析槽内に仕込み、25℃に調整して、撹拌速度500rpmでポリマー粉末を洗浄する操作を2回繰り返した後、湿潤PTFE粉末を濾別し、150℃の熱風循環式乾燥機内に18時間静置して乾燥させる、PTFE粉末の製造方法。」(以下、「引用発明1」という。)
第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「10-オキソウンデカン酸カリウムである界面活性剤B」は、10-オキソウンデカン酸のカリウム塩であるから、その構造中にカルボン酸由来の構造を有し、また、ウンデカン基は、脂肪族炭化水素基であることは明らかであるから、本願発明の「カルボン酸型炭化水素系界面活性剤」に相当する。
そうすると、引用発明1の「内容積1Lのガラス製のオートクレーブに550gの脱イオン脱気水、30gのパラフィンワックス、0.0145gの10-オキソウンデカン酸カリウムである界面活性剤Bを加え、反応器を密閉し、系内を窒素で置換を行ない、酸素を取り除き、反応器を70℃に昇温し、TFEを反応器に充填して反応器を0.78MPaにし、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.110gを仕込み、反応圧力が0.78MPa一定となるようにTFEを仕込み、TFE50g仕込んだ時に撹拌を停止し、反応器が大気圧になるまで脱圧を行」う工程、及び、「水性分散液を反応器より取り出し、冷却後、パラフィンワックスを分離してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水性分散液Bを得て、これに脱イオン水を加え、比重(25℃)を1.080に調整し」た「比重調整したPTFE水性分散液」は、各々、本願発明の「カルボン酸型炭化水素系界面活性剤を用いた重合」を行う工程、及び、「フルオロポリマー水性分散液」に相当する。
そして、引用発明1の「比重調整したPTFE水性分散液2.5Lを加え、内温が34℃になるように温度調節した後、直ちに硝酸(10%)16gを添加すると同時に撹拌速度500rpmで撹拌を開始」する工程は、本願発明の「フルオロポリマー水性分散液に酸を添加」する工程に相当する。
また、引用発明1の「湿潤PTFE粉末」は、本願発明の「湿潤フルオロポリマー粉末」に相当する。
さらに、引用発明1の「撹拌開始後、水性分散液がスラリー状態を経て湿潤PTFE粉末が形成されたことを確認し、さらに1分間撹拌を継続」することは、ガラス製凝析槽内でPTFE水性分散液から湿潤PTFE粉末を形成するものであり、また、本願明細書の【0632】に記載される「攪拌開始後、水性分散液がスラリー状態を経て、湿潤PTFE粉末が形成されたことを確認し、更に1分間攪拌を継続」して、凝析槽内でPTFE水性分散液から湿潤PTFE粉末を形成する工程と同様であることから、本願発明の「凝析」することに相当する。
次に、本願明細書の【0054】の「熱処理は、上記湿潤フルオロポリマー粉末を乾燥するものであることが好ましい」旨の記載を参照すると、引用発明1の「150℃の熱風循環式乾燥機内に18時間静置して乾燥させる」工程は、湿潤フルオロポリマーに対して加熱という熱処理を施しているといえるから、本願発明の「前記湿潤フルオロポリマー粉末を170℃以上230℃以下で熱処理する」工程と、湿潤フルオロポリマーを熱処理する限りにおいて一致する。
また、引用発明1の「PTFE粉末の製造方法」は、ポリテトラフルオロエチレンはフルオロポリマーであるから、本願発明の「フルオロポリマーの製造方法」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
・一致点
「カルボン酸型炭化水素系界面活性剤を用いた重合により得られたフルオロポリマー水性分散液に酸を添加し、凝析して湿潤フルオロポリマー粉末を得る工程、及び、前記湿潤フルオロポリマー粉末を熱処理する工程を含むことを特徴とするフルオロポリマー粉末の製造方法。」
そして、両者は以下の点で相違する。
・相違点1
酸を添加して凝析するに際し、本願発明は「pHを4.0以下に調整」するのに対し、引用発明1はpHの値については不明である点
・相違点2
本願発明は、得られる湿潤フルオロポリマー粉末が一般式(1A):H-(CF2)m-COOH(式中、mは3~19)(以下、単に「一般式(1A)」という)で示される含フッ素化合物を含むのに対し、引用発明1は、一般式(1A)で示される含フッ素化合物を含むか否か明記されていない点
・相違点3
湿潤フルオロポリマー粉末の熱処理に関し、本願発明は「170℃以上230℃以下」で行うのに対し、引用発明1は「150℃」で行う点
2 判断
(1)上記相違点1~3についての検討
ア 相違点1についての検討
引用発明1は、重合したPTFE水性分散液について「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水性分散液Bに脱イオン水を加え、比重(25℃)を1.080に調整し、アンカー型撹拌翼と邪魔板を備えた内容量が6Lのガラス製凝析槽に比重調整したPTFE水性分散液2.5Lを加え、内温が34℃になるように温度調節した後、直ちに硝酸(10%)16gを添加する」ものであるところ、本願発明が、本願明細書の【0632】に記載の「合成例2で得られたPTFE水性分散液に脱イオン水を加え、比重(25℃)を1.080に調整した。撹拌翼と邪魔板を備えた内容量が6Lの凝析槽に、比重調整したPTFE水性分散液2.5Lを加えた。直ちに硝酸(10%)16gを添加して、pHを1.8に調整する」ことにより製造されることに鑑みると、両者は同様の工程であるから、引用発明1において硝酸を添加することにより、pHは4.0以下に調整されている蓋然性が高い。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。
イ 相違点2についての検討
引用発明1は、PTFE水性分散液の製造にあたり、界面活性剤として10-オキソウンデカン酸カリウムを、また、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを用いてTFEを重合させて得るものであり、引用文献1の[1088]の[表11]の合成例4によれば、酸を添加して凝析する前のPTFE水性分散液には一般式(1):(H-(CF2)m-COO)pM1(式中、mは3~19、M1は、H、金属原子、NR54(R5は、同一でも異なっていてもよく、H又は炭素数1~10の有機基)、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム、又は、置換基を有していてもよいホスホニウムである。pは1又は2である。)(以下、単に「一般式(1)」という)で示される化合物が含まれることが理解できる。
ここで、本願明細書の【0082】の「フルオロポリマー水性分散液に含まれる一般式(1)で示される含フッ素化合物としては、・・・フルオロポリマー水性分散液に酸を添加し、pHを4.0以下に調整することによって、このような含フッ素化合物を、一般式(1A)で示される含フッ素化合物に変化させることができる」旨の記載、【0084】の「酸を添加してpHを4.0以下に調整することで、上記のように一般式(1A)で示される含フッ素化合物の塩を実質的に含まないフルオロポリマー水性分散液とすることができる」旨の記載、【0087】の「上記工程(A1)及び工程(A2)において、酸を添加し、pHを4.0以下に調整して凝析することによって、一般式(1A)で示される含フッ素化合物を含む湿潤フルオロポリマー粉末を得ることができる」旨の記載、【0631】の合成例2の製造方法の記載を参酌すると、引用発明1は本願発明と同様の界面活性剤及び重合開始剤を用い、同様の製造条件で湿潤PTFE粉末を得るといえるから、引用発明1における湿潤PTFE粉末は、一般式(1A)で示される含フッ素化合物を含む蓋然性が高い。
ウ 相違点3についての検討
湿潤PTFE粉末の乾燥に関し、引用文献1の[0060]には、「熱処理の温度は、150℃以上であることが好ましい。また、一般式(1)又は(2)で示される化合物の除去又は低減の観点から、熱処理の温度は、160℃以上がより好ましい。すなわち、上記除去工程は、炭化水素系界面活性剤を用いて得られたPTFE粉末を160℃以上の温度で熱処理する工程を含むことが好ましい。
熱処理の温度は、170℃以上がより好ましく、180℃以上が更に好ましく、200℃以上が更により好ましく、210℃以上が殊更に好ましく、220℃以上が特に好ましく、230℃以上が最も好ましい。また、熱処理の温度は、310℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、290℃以下が更に好ましく、280℃以下が更により好ましく、270℃以下が殊更に好ましい。上記熱処理は、水分の乾燥を伴うものであってもよい」ことが記載されている。
このことから、引用文献1には、湿潤PTFE粉末を乾燥する温度として、170℃以上で行うことが示唆されているといえる。また、引用発明1は、PTFE粉末を得るための製造方法であるところ、PTFEの融点は327℃ではあるが、融点以下の融点に近い温度において、PTFE粉末同士が融着することが技術常識であること(必要であれば、特開平04-020534号公報の第3頁左下欄第18行~右下欄第17行を参照のこと)を考慮すると、得ようとするPTFE粉末の乾燥処理における粉末同士の融着を避けるべく、引用発明1においてその乾燥温度範囲を調整して170℃以上230℃以下とすることは、当業者であれば適宜なし得ることである。
(2)本願発明の効果についての検討
引用文献1の[0060]には、熱処理によって湿潤PTFE粉末を乾燥でき、一般式(1)又は一般式(2):(H-(CF2)n-SO3)qM2(式中、nは4~20、M2は、H、金属原子、NR54(R5は、同一でも異なっていてもよく、H又は炭素数1~10の有機基)、置換基を有していてもよいイミダゾリウム、置換基を有していてもよいピリジニウム、又は、置換基を有していてもよいホスホニウムである。qは1又は2である。)(以下、単に「一般式(2)」という)で示される化合物を除去又は低減できることが記載されているから、一般式(1)又は一般式(2)で示される化合物を除去又は低減できるという本願発明の効果は格別顕著なものとはいえず、当業者が予測できる範囲のものである。
また、本願明細書の【0036】等に記載される、得られるフルオロポリマー粉末が融着することを抑制することができる効果については、引用発明1がPTFEの粉末を得る製造方法であるところ、連続使用温度以上の温度で乾燥のための熱処理を行えば、PTFE粉末同士が融着する恐れが高まることは当業者にとって自明のことといえるから、PTFE粉末の乾燥に際し、上記乾燥温度範囲の効果は当業者の予測の範囲のものである。さらに、本願明細書中の実施例等において、乾燥温度の違いにより、得られるフルオロポリマー粉末の融着を抑制できる効果を確認しているとはいえないから、本願発明が格別顕著な効果を奏するものともいえない。
(3)審判請求人の主張についての検討
ア 審判請求書における主張
審判請求人は、審判請求書において、本願発明の効果をより明確なものとするために、本願明細書の合成例2で得られたPTFE水性分散液を使用して、乾燥時の温度条件を「210℃」から「150℃」に変更し、本願明細書の実施例1と同様にした得たPTFEを比較例3として、一般式(1)及び(2)で示される化合物の含有量を測定した結果、比較例3で得られたPTFEは一般式(1)の化合物が相当量含まれる結果となったから、本願発明の効果は顕著であることを主張する(主張1)。
また、審判請求人は、熱処理温度を210℃としたことの効果は当業者が十分に予測可能なもので、格別顕著なものではないとする拒絶査定での審査官に主張に対し、引用文献1の[0060]の記載は、一般式(1)及び(2)で示される化合物の量と乾燥温度との関係を記載も示唆もするものではなく、熱処理の温度が向上すると一般式(1)又は(2)で示される化合物の除去又は低減が好適に行われることを示唆するとまでは言えない旨主張する(主張2)。
さらに、審判請求人は、引用文献1の実施例4において、特に、pHを4.0以下に調整して凝析して湿潤フルオロポリマー粉末を得ることと、湿潤フルオロポリマー粉末を170℃以上230℃以下で熱処理することを組み合わせて行うことについて動機付けはない旨主張する(主張3)。
イ 令和7年2月10日に提出された意見書における主張
審判請求人は、令和7年2月10日に提出された意見書において、上記(1)アの相違点1に関し、引用文献1の実験例4と、本願明細書の実施例1とは、明らかに相違するものであり、同様の工程ではないことを主張する。
具体的には、本願の請求項1において、「フルオロポリマー水性分散液に酸を添加し、pHを4.0以下に調整して凝析して」と規定されているように、本願明細書の実施例1では、硝酸を添加して、pHを1.8に調整すると同時に撹拌を開始して、スラリー状態を経て、湿潤粉末を形成するものであり、つまり、本願明細書の実施例1では、硝酸を添加することで、pHを4.0以下に調整する工程を経て、凝析を行うものであるが、これに対して、引用文献1の実験例4では、「調節後直ちに硝酸(10%)16gを添加すると同時に撹拌速度500rpmで撹拌を開始した。」と記載されているように、硝酸を添加すると同時に撹拌を開始して、スラリー状態を経て、湿潤粉末を形成するものであって、つまり、引用文献1の実験例4では、硝酸の添加と同時に凝析を行うものであり、pHを4.0以下に調整する工程を経ずに、凝析を開始するものであるという主張(主張4)である。
そして、比較実験として、「比較例4」として、湿潤PTFE粉末の乾燥を「150℃の熱風循環式乾燥機内に18時間静置して乾燥」から、「210℃の熱風循環式乾燥機内に18時間静置して乾燥」に変更した以外は、引用文献1の実験例4と同様にして、硝酸を添加すると同時に撹拌を開始して、pHを4.0以下とする工程を経ずにPTFE粉末を得た場合の一般式(1)で示される含フッ素化合物の除去効果を確認し、本願発明のようにpHを4.0以下とする工程を経てから凝析を行う場合の方が、pHを4.0以下とする工程を経ない場合と比べて、一般式(1)で示される含フッ素化合物を低減できるという、顕著な効果を奏することができることを主張(主張5)している。
ウ 上記主張についての検討
上記アの主張1及び2について検討すると、引用文献1の[0060]には、一般式(1)又は(2)で示される化合物の除去又は低減に求められる熱処理温度範囲が記載されているといえ、具体的に170℃以上がより好ましいとされ、270℃以下が殊更に好ましい温度範囲と記載されているから、これらの記載からは、単に熱処理温度が上昇又は低下すると、一般式(1)又は(2)で示される化合物の除去又は低減が好適に行われるということではなく、一般式(1)又は(2)で示される化合物の除去又は低減が好適に行われる温度範囲の上限及び下限を示したものと解するのが合理的である。そうすると、連続使用温度も合わせて考慮すると、この温度範囲内で所望の温度を設定することに困難性は認められないし、一般式(1)又は(2)で示される化合物を除去又は低減できる効果は明記されているから、その効果は当業者であれば当然に予測できるものである。
ここで、請求人は、比較例3を比較対象として熱処理温度の効果を主張しているが、引用文献1の[0060]の記載から、一般式(1)又は(2)の除去又は低減の効果が当業者にとって予測し得ない効果であるとは言えないから、比較例3の150℃で確認を行った結果をもとに、本願発明が格別顕著な効果を有するとは認められない。
上記アの主張3について検討すると、上記(1)アで説示したとおり、凝析の際のPTFE水性分散液のpHはそもそも4.0以下に調整されている蓋然性が高いうえ、引用発明1は、湿潤PTFE粉末を所望の温度で熱処理して乾燥するものであるところ、その乾燥温度については引用文献1の[0060]の記載を参考に調整することは当業者であれば通常行うことといえるから、審判請求人のいうpHと熱処理温度の組み合わせの動機付けがない旨の主張は採用できない。
上記イの主張4について検討すると、審判請求人は上記イのとおり、本願発明では、硝酸を添加することで、pHを4.0以下に調整する工程を経て、凝析を行うこと、すなわち、硝酸を添加し、pHを4.0以下に調整した「後」に凝析を行うものであることを主張していると認められる。
しかしながら、本願発明は「フルオロポリマー水性分散液に酸を添加し、pHを4.0以下に調整して凝析して」と記載されるもので、「pHを・・・調整して凝析して」という記載からは、pHを4.0以下に調整した「後」に凝析を行うものであると解することはできないから、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、これを採用することはできない。
ここで本願明細書には、凝析の工程について、「pHを4.0以下に調整して凝析して」という記載のほかは、以下の記載がある。
「【0039】上記酸を添加して凝析する方法としては、例えば、酸を添加しながら水性分散液の攪拌を行う方法が挙げられる。より具体的には、撹拌機付きの容器中で撹拌を行うことによってフルオロポリマーを凝析して、一般式(1A)で示される含フッ素化合物を含む湿潤フルオロポリマー粉末を得ることができる。上記凝析は、また、インラインミキサー等を使用して連続的に行ってもよい。」
「【0632】実施例1
合成例2で得られたPTFE水性分散液に脱イオン水を加え、比重(25℃)を1.080に調整した。攪拌翼と邪魔板を備えた内容量が6Lの凝析槽に、比重調整したPTFE水性分散液2.5Lを加えた。
直ちに硝酸(10%)16gを添加して、pHを1.8に調整すると同時に攪拌速度500rpmで攪拌を開始した。」
これらの記載からは、本願発明の「水性分散液に酸を添加し、pHを4.0に調整して凝析して」は、水性分散液に酸を添加してpHを調整した後に凝析を開始することが記載されていると解することはできない。
さらに、上記【0039】の「酸を添加して凝析する方法としては、例えば、酸を添加しながら水性分散液の攪拌を行う方法が挙げられる」なる記載は、酸の添加と撹拌を同時に行って凝析するものと解され、pH4.0以下の酸性溶液中に水性分散液を滴下するのとは異なり、上記イの主張4のような「凝析開始時から、pHが4.0以下に調整されている」ことを意味するとは解せない。
そうすると、請求人の上記イの主張4は、明細書の記載に基づかない主張であって、これを採用することはできない。
さらに、上記イの主張5に係る審判請求人が示す比較実験について検討すると、本願明細書に記載の実施例1に用いる合成例2(【0631】)で得られるPTFEと、引用文献1の[1085]に記載の合成例4で得られるPTFEとは、互いに異なる界面活性剤及び重合開始剤を用いて重合して得られるものである。
審判請求人は、比較実験として、本願発明である実施例1と比較例4とは、凝析における工程が異なることを根拠に一般式(1)の含有量に違いが出るから、本願発明の進歩性は否定されない旨を主張するものの、凝析に供するPTFEが同じものではないし、乾燥温度は210℃のみで行うものでもないから、比較実験に基づく上記イの主張5が上記(1)ア~ウで検討した進歩性の判断に影響を及ぼすものではない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することができない。
(4)小括
以上より、本願発明は、引用発明1及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上から、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-005594