審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2023-013066

ウェハにイオンを注入するための方法

審判番号
2023-013066
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-182528外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年08月04日
審決日
2024年09月12日
公報発行日
2025年02月28日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (H01J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-182528号「ウェハにイオンを注入するための方法」拒絶査定不服審判事件〔令和4年2月1日出願公開、特開2022-20768号〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成29年(2017年)11月27日に出願した特願2019-522784号(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2016年11月25日、ドイツ)の一部を令和2年9月15日に新たな特許出願(特願2020-154450号)とし、さらにその一部を令和3年11月9日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。 令和3年11月 9日 :上申書の提出 令和4年 7月 5日付け:拒絶理由通知書 同年12月 8日 :意見書、手続補正書の提出 同年12月13日付け:拒絶理由通知書 令和5年 3月17日 :意見書の提出 同年 3月24日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 同年 8月 4日 :審判請求書の提出 第2 本願発明について 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年12月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1の記載は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 注入フィルタ(6)を通過するイオンビーム(2)によってウェハ(8)を照射する工程を含む、ウェハにイオンを注入するための方法であって、 前記注入フィルタ(6)は、構造化フィルタ膜(18)を有するエネルギーフィルタであり、 前記ウェハ(8)は、前記注入中に200℃を超える温度に加熱されることを特徴とする方法。」 第3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の本願発明に対する拒絶の理由の概要は、以下の理由を含むものである。 (進歩性)本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1.Weijiang Zhao et al., A study on Silicon Carbide (SiC) wafer using ion implantation, Proceedings of 2014 20th International Conference on Ion Implantation Technology (IIT), 2014年6月 引用文献2.Constantin Csato et al., Energy filter for tailoring depth profiles in semiconductor doping application, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms, 2015年12月15日, Volume 365, Part A, Pages 182-186 第4 引用文献の記載及び引用発明等の認定 1 引用文献2の記載事項及び引用発明の認定 (1) 引用文献2の記載事項 原査定で引用された前記引用文献2には、以下の事項が記載されている(下線は当合議体が付した。日本語訳は当合議体が作成した。以下同じ。)。 ア 「1. Introduction (・・・途中省略・・・) It is generally known that a more accurate doping is provided by ion implantation, reaching easily a doping homogeneity well below ±5% even for high volume production and large wafer sizes. (・・・途中省略・・・) The use of energy filter{3,4} able to produce a pre-defined tailored dopant depth-profile via a single monoenergetic ion implantation offers a suitable workaround. In particle tumor therapy, similar filters have been in use for long{5,6}. In this paper we present the energy-filter-implantation(EFI) technique.」(182頁左欄1行~右欄3行) (日本語訳:1.イントロダクション (・・・途中省略・・・) 一般に、イオン注入によってより正確なドーピングが行われ、大量生産でウェハのサイズが大きい場合であっても、ドーピングの均一性が容易に±5%を十分に下回ることが知られている。 (・・・途中省略・・・) エネルギーフィルタ{3、4}を使用すると、1回の単一エネルギーイオン注入によって、あらかじめ規定された適合化ドーパント深さプロファイルを生成でき、適切な次善策が得られる。腫瘍の粒子線治療では、同様のフィルタが長い間使用されてきた{5、6}。本稿では、エネルギーフィルタを用いた注入(EFI)技術を紹介する。) イ 「2. Principle of the energy filter method The basic principle of the energy filter can easily be explained by analyzing the ion tracks, as displayed in Fig.1. The filter prongs transform the monoenergetic incident ion beam into an ion beam with a broad energy distribution due to energy loss of ions along their individual paths in the filter. As ion 1 travels the minimum distance within the filter material, a maximum implantation depth in the substrate is achieved (solid line). Ion 2 travels the longest distance within the filter, which causes a minimal implantation depth (dashed line). All other ion trajectories are in between. Thus the energy filter changes a monoenergetic ion beam’s typical Gaussian implantation distribution into a rectangular shape profile. The supporting layer shifts the energy distribution by a constant offset. The lateral homogeneity of the doping profile across a wafer influenced by the filter-substrate distance. Experimental data addressing this issue will be presented in Section 4.」(182頁右欄下から14行~183頁左欄3行) (日本語訳:2.エネルギーフィルタ法の原理 エネルギーフィルタの基本原理は、図1に示すように、イオン飛跡を分析することで簡単に説明できる。フィルタ突起は、フィルタ内の個々の経路におけるイオンのエネルギー損失により、単一エネルギー入射イオンビームを幅広いエネルギー分布を持つイオンビームに変換する。イオン1はフィルタ材料内で最小距離を移動するとき、基板への最大注入深さが達成される(実線)。イオン2はフィルタ内で最長距離を移動するため、注入深さは最小となる(破線)。他のすべてのイオン軌道は、その中間である。このようにエネルギーフィルタは、単一エネルギーイオンビームの典型的なガウス注入分布を矩形のプロファイルに変える。支持層は、エネルギー分布を一定のオフセット量で変化させる。ウェハ全体のドーピングプロファイルの横方向の均一性は、フィルタ・基板間距離に影響される。この問題を扱った実験データは、セクション4で紹介する。 ウ 「3. Filter manufacturing and structure (・・・途中省略・・・) As displayed in Fig.5, a Si filter with a 2 μm supporting layer and trapezoidal microstructure is used for the implantation experiments in this work. The trapezoid has a height of 4 μm, a periodicity of 8.42 μm and a slope angle of 54.74°. Unlike the ideal triangular structure, in our experiment the dopant profile is additionally modified by the top plane on the trapezoidal microstructure which is perpendicular to the ion beam.」(183頁右欄10~28行) (日本語訳:3.フィルタの製造と構造 (・・・途中省略・・・) 図5に示すように、本研究の注入実験では、支持層が2μmであり、台形の微細構造を持つSiフィルタを使用している。この台形は、高さ4μm、周期性8.42μm、傾斜角54.74°である。理想的な三角形構造とは異なり、我々の実験では、イオンビームに垂直な台形の微細構造上の頂面によって、ドーパントプロファイルがさらに変化する。) エ 「5. Temperature effect of beam current For future commercial applications of the filter, its degradation and achievable wafer throughput are essential factors. Limitations of filter lifetime may arise from (i) deterioration of the filter structure by ion sputtering(ii) accumulation of implanted species successively changing the filter properties with increasing fluence, and (iii) thermal instability of the filter. Here, just the effect of filter heating is considered. When passing the filter ions are decelerated and thus energy is being deposited inside the material which is almost completely transformed into heat. Consequently a dependency of heating characteristics on ion current density and ion energy is expected. (・・・途中省略・・・) With rising energy and ion current density the temperature of the membrane increases. At the maximum beam power density of the 4.2 Wcm-2, which corresponds to 0.7μAcm-2 at 6MeV ion current, the measured membrane temperature was about 700 ℃. (・・・途中省略・・・) This temperature gradient between membrane and frame may lead to stress, but optical microscope inspection of the membrane after the experiment shows no visible degradation.」(185頁左欄40行~右欄下から6行) (日本語訳:5.ビーム電流の温度効果 将来的なフィルタの商業的応用のためには、その劣化と達成可能なウェハスループットが不可欠な要素である。フィルタ寿命の限界は、(i)イオンスパッタリングによるフィルタ構造の劣化、(ii)フルエンスが増加するにつれてフィルタ特性を連続的に変化させる注入種の蓄積、(iii)フィルタの熱不安定性、から生じる可能性がある。ここでは、フィルタ加熱の効果のみを考慮する。フィルタを通過する際、イオンは減速されるため、エネルギーは材料内部に蓄積され、ほぼ完全に熱に変換される。その結果、加熱特性はイオン電流密度およびイオンエネルギーに依存することが予想される。 (・・・途中省略・・・) エネルギーとイオン電流密度の上昇に伴い、膜の温度は上昇する。最大ビームパワー密度4.2Wcm-2(6MeVのイオン電流で0.7μAcm-2に相当)では、測定された膜温度は約700℃であった。 (・・・途中省略・・・) この膜とフレームの間の温度勾配によって応力が生じる可能性があるが、実験後の膜の光学顕微鏡検査では、目に見える劣化は見られない。)」 オ 「6. summary (・・・途中省略・・・) Maximum heating was restricted to 700℃ within the selected parameter range used in this experiment. (・・・途中省略・・・) Our results suggest the possibility of an economically interesting application for doping of SiC and a broad range of further applications for different substrate-materials and different forms of implantation profiles.」(186頁左欄6行~下から4行) (日本語訳:6.まとめ (・・・途中省略・・・) 本実験で使用したパラメータ選択範囲では、最大加熱は700℃に制限された。 (・・・途中省略・・・) これらの結果は、SiCのドーピングに対する経済的に興味深い応用の可能性と、異なる基板材料および異なる注入プロファイルの形状に対するさらに幅広い応用の可能性を示唆している。) カ Fig.1 「 [図:0001418766000001.jpg] Fig.1 (Left side) Basic principle of a triangular energy filter with supporting layer. (Right side) Corresponding implantation profile with filter and without the filter where E is the ion energy, d is the depth and c is the dopant concentration, E1, E2, d1, d2 denote energy and projected range of ion 1 and ion 2 respectively.」 (Fig.1(日本語訳) [図:0001418766000002.jpg] Fig.1(左側)支持層を持つ三角形エネルギーフィルタの基本原理。(右側)フィルタがある場合とない場合の対応する注入プロファイル。(Eはイオンエネルギー、dは深さ、cはドーパント濃度であり、E1、E2、d1、d2はそれぞれイオン1、イオン2のエネルギーと投影飛程を示す。) (2) 引用文献2の記載事項から当業者が把握できる事項 前記(1)アの「イオン注入」及び「エネルギーフィルタを用いた注入(EFI)技術」との記載から、当業者は、エネルギーフィルタを用いたイオン注入方法を把握することができる。 (3) 引用発明の認定 前記(1)で摘記した引用文献2の記載事項から、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる箇所を参考までに括弧内に付してある。 <引用発明> 「エネルギーフィルタを用いたイオン注入方法であって、(前記(2)) フィルタ突起は、フィルタ内の個々の経路におけるイオンのエネルギー損失により、単一エネルギー入射イオンビームを幅広いエネルギーを持つイオンビームに変換し、イオン1はフィルタ材料内で最小距離を移動するとき、基板への最大注入深さが達成され、イオン2はフィルタ内で最大距離を移動するため、注入深さは最小となり、(前記(1)イ) エネルギーフィルタとして、支持層が2μmであり、台形の微細構造を持つSiフィルタを使用する、(前記(1)ウ) イオン注入方法。」 2 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された技術的事項の認定 (1) 引用文献1の記載事項 原査定で引用された前記引用文献1には、以下の事項が記載されている。 ア 「I. INTRODUCTION SiC wafers are often used for making high level power electronic devices, such as SiC-MOS devices[1] or SiC-IGBTs[2]. High Purity Semi-Insulating Silicon Carbide (HPSI- SiC) wafers are widely used for high power high frequency devices [1][3], radiation detectors [4], and high power photoconductive semiconductor switches [5]. Ion implantation is an essential process for making these high level power electronic devices. During the ion implant process, a SiC wafer will be heated up to 500℃ to make the implant damages to be recovered and make a high dopant activity. IMPHEAT(R) [6] is developed to implant ions such as Aluminum, Boron, Phosphine and others into SiC wafers while heating the SiC wafers to high temperature. An Electro-Static Chuck (ESC, E-Chuck) with a heater embedded is installed for holding and heating SiC wafers during implantation. Sometimes the wafer will be implanted several times and the temperature of the SiC wafer has to be measured for the correct temperature prior to ion implantation. IMPHEAT(R) can measure the wafer temperature by using a pyrometer before implant and the heater power is controlled during implant.」(1頁左欄12~32行) (日本語訳:I. はじめに SiCウェハは、SiC-MOSデバイス[1]やSiC-IGBT[2]等の高レベルのパワーエレクトロニクスデバイスの製造によく使用される。高純度半絶縁性炭化ケイ素(HPSI-SiC)ウェハは、高出力高周波デバイス[1][3]、放射線検出器[4]、高出力光伝導性半導体スイッチ[5]に広く使用されている。イオン注入は、このような高レベルのパワーエレクトロニクスデバイスの製造に不可欠なプロセスである。イオン注入プロセスでは、SiCウェハを500℃まで加熱し、注入によるダメージを回復させ、ドーパント活性を高める。IMPHEAT(R)[6]は、SiCウェハを高温に加熱しながら、アルミニウム、ボロン、ホスフィン等のイオンをSiCウェハに注入するために開発された。ヒーターを組み込んだ静電チャック(ESC、Eチャック)を設置し、注入中にSiCウェハを保持しながら加熱する。場合によってはウェハに対し数回注入が行われ、イオン注入の前にSiCウェハの温度を測定し、適切な温度にする必要がある。IMPHEAT(R)は、注入前には高温計を用いてウェハの温度を測定し、注入中にはヒーター電力を制御することができる。) イ 「C. SIMS measurement result Fig. 10 shows the depth profiles of Aluminum ions injected into the HPSI-SiC wafers. The profiles with and without PFG usage are different. The Rp without PFG is smaller than the Rp with PFG. This is thought to be because of the charge-up phenomenon to HPSI-SiC wafer which has a high resistivity. The SiC wafer's potential was increased due to wafer "charge-up", the final energy and injection angle (beam trajectory) of ions changed, leading to a shallower Rp. On the other hand, when PFG is ON during ion implantation, the charges on SiC wafer are neutralized by the electrons from the PFG plasma. Subsequently the ion beam can be injected into the wafer with a correct final energy and angle leading to a deeper profile. The colors of the HPSI-SiC wafer after implantation are different with and without PFG usage (Fig.11). This indicates a different physical property of HPSI-SiC wafers for implants with and without a PFG. In order to have a correct implantation characteristic, in the case of HPSI-SiC wafer implantation, a PFG system is an essential unit for ion implant tool. 」(3頁右欄31行~4頁左欄6行) (日本語訳: C. SIMS測定結果 図10はHPSI-SiCウェハに注入されたアルミニウムイオンの深さプロファイルを示す。PFGを使用した場合としなかった場合のプロファイルは異なる。PFG不使用時のRpは、PFG使用時のRpよりも小さい。これは、抵抗率の高いHPSI-SiCウェハへのチャージアップ現象によるものと考えられる。ウェハの「チャージアップ」によりSiCウェハの電位が上昇し、イオンの最終エネルギーと注入角度(ビーム軌道)が変化し、その結果Rpが浅くなった。一方、イオン注入時にPFGをONにすると、SiCウェハ上の電荷はPFGプラズマからの電子によって中和される。その後、正しい最終エネルギーと角度でイオンビームをウェハに注入することで、より深いプロファイルを得ることができる。 注入後のHPSI-SiCウェハの色は、PFG使用のあり、なしで異なっている(図11)。このことは、HPSI-SiCウェハの物性が、PFGを使用した注入と使用しない注入とで異なることを示している。HPSI-SiCウェハへの注入において、正しい注入特性を得るために、PFGシステムはイオン注入装置に不可欠なユニットである。) (2) 引用文献1に記載された技術的事項の認定 前記(1)で摘記した引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の技術的事項(以下「引用文献1に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる箇所を参考までに括弧内に付してある。 <引用文献1に記載された技術的事項> 「イオン注入プロセスで、注入によるダメージを回復させ、ドーパント活性を高めるために、SiCウェハを500℃まで加熱しながら、アルミニウム、ボロン、ホスフィン等のイオンをSiCウェハに注入すること。(前記(1)ア)」 第5 対比・判断 1 対比分析 本願発明と引用発明を対比する。 (1) 本願発明の「注入フィルタ(6)を通過するイオンビーム(2)によってウェハ(8)を照射する工程を含む、ウェハにイオンを注入するための方法であって、」との発明特定事項について 引用発明の「エネルギーフィルタ」は、イオン注入方法に用いられるから、本願発明の「注入フィルタ(6)」に相当する。 引用発明の「イオンビーム」は、本願発明の「イオンビーム(2)」に相当する。 引用発明の「基板」は、本願発明の「ウェハ(8)」に相当する。 また、引用発明では、「フィルタ突起は、フィルタ内の個々の経路におけるイオンのエネルギー損失により、単一エネルギー入射イオンビームを幅広いエネルギーを持つイオンビームに変換[する]」ことを踏まえると、引用発明の「イオンビーム」は、本願発明の「注入フィルタ(6)を通過するイオンビーム(2)」に相当する。 さらに、引用発明は、「イオン1はフィルタ材料内で最小距離を移動するとき、基板への最大注入深さが達成され、イオン2はフィルタ内で最大距離を移動するため、注入深さは最小とな[る]」「イオン注入方法」であることから、引用発明は、本願発明の「イオンビーム(2)によってウェハ(8)を照射する工程を含む、ウェハにイオンを注入するための方法」であることが理解できる。 以上によれば、引用発明は、上記発明特定事項を備える。 (2) 本願発明の「前記注入フィルタ(6)は、構造化フィルタ膜(18)を有するエネルギーフィルタであり、」との発明特定事項について 引用発明の「エネルギーフィルタ」は、「支持層が2μmであり、台形の微細構造を持つSiフィルタ」であるから、構造化されたフィルタであるといえる。したがって、引用発明の「エネルギーフィルタ」は、本願発明の「構造化フィルタ膜(18)を有するエネルギーフィルタ」に相当する。 以上によれば、引用発明は、上記発明特定事項を備える。 2 一致点及び相違点 以上によれば、本願発明と引用発明は、以下の点において一致する。 【一致点】 「注入フィルタ(6)を通過するイオンビーム(2)によってウェハ(8)を照射する工程を含む、ウェハにイオンを注入するための方法であって、 前記注入フィルタ(6)は、構造化フィルタ膜(18)を有するエネルギーフィルタである方法」である点。 一方で、本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。 【相違点】 本願発明は、「ウェハ(8)」が、「注入中に200℃を超える温度に加熱される」のに対して、引用発明は、基板が、イオン注入中に加熱されない点。 3 判断 (1) 相違点について イオンビームによって基板を照射することで、前記基板に前記イオンを注入するに際して、注入により基板にダメージが生じることは例を挙げるまでもない周知の技術的課題であったといえる。ここで、「イオン注入プロセスで、注入によるダメージを回復させ、ドーパント活性を高めるために、SiCウェハを500℃まで加熱しながら、アルミニウム、ボロン、ホスフィン等のイオンをウェハに注入すること」(引用文献1に記載された技術的事項)が公知の技術的事項であった。また、引用文献2には、「これらの結果は、SiCのドーピングに対する経済的に興味深い応用の可能性と、異なる基板材料および異なる注入プロファイルの形状に対するさらに幅広い応用の可能性を示唆している」(前記第4の1(1)オ参照)ことが記載されており、SiC基板へのドーピングが示唆されている。そうすると、当業者は、注入によるダメージを回復させるためにSiC基板を加熱する引用文献1に記載された技術的事項を、イオンビームによるイオン注入方法であり、SiC基板へのイオン注入が示唆されている引用発明に適用する十分な動機があるといえる。 したがって、引用発明に引用文献1に記載された技術的事項を適用して、引用発明の基板を500℃まで加熱しながらイオン注入することにより、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2) 効果について そして、本願発明の奏する作用効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 (3) 請求人の主張について ア 請求人の主張内容 請求人は、以下の旨を主張している。 (ア)引用発明のエネルギーフィルタ膜は、高温で熱的に不安定な影響を受けやすい要素であるため、エネルギーフィルタ膜の熱的不安定性を回避するために、エネルギーフィルタ膜を冷却する十分な理由があり、当業者であればエネルギーフィルタ膜をさらに加熱するいかなる手段も望ましくないと考え、また、エネルギーフィルタ膜はウェハのごく近くに設置する必要があるから、引用文献1のヒーターを内蔵したE-チャックを引用発明に適用することはないから、引用発明と引用文献1に記載された技術的事項を組み合わせることには阻害要因がある。 (イ)引用文献1では、プラズマフラッドガンPFGはウェハに非常に近い位置に配置されているが、当該プラズマフラッドガンPFGは引用文献1の構造における中心的かつ最も重要な要素であるから省略することは考えられないのに対して、引用文献2に記載されたエネルギーフィルタ膜は、既にウェハに近い空間を占めているので、プラズマフラッドガンPFGを引用文献2の組立体に組み込むことは構成上できないから、引用発明と引用文献1に記載された技術的事項を組み合わせることには阻害要因がある。 イ 請求人の主張についての検討 (ア) 上記ア(ア)の点について まず、引用文献2には請求人が主張するエネルギーフィルタの冷却を行うことについての直接的な明記はないところ、引用文献2には、フィルタ寿命の限界は、フィルタの熱不安定性から生じる可能性があること、フィルタを通過する際、イオンは減速されるため、エネルギーは材料内部に蓄積され、ほぼ完全に熱に変換されること、エネルギーとイオン電流密度の上昇に伴い、膜の温度は上昇し、最大ビームパワー密度4.2Wcm-2(6MeVのイオン電流で0.7μAcm-2に相当)では、測定された膜温度は約700℃であったこと、及び、膜とフレームの間の温度勾配によって応力が生じる可能性があるが、実験後の膜の光学顕微鏡検査では、目に見える劣化は見られなかったことが記載されており(前記第4の1(1)エ参照)、イオンビームのエネルギーが熱に変換されることにより膜温度が約700℃となったが、膜の光学顕微鏡検査では、目に見える劣化は見られないとされている。 これに対して、引用文献1に記載された技術的事項は、SiCウェハを500℃まで加熱するものであるが、引用発明のエネルギーフィルタは基板を加熱するか否かに関わらずイオンビームにより加熱されるものであるし、引用文献1に記載された技術的事項であるSiCウェハを500℃まで加熱する構成を引用発明に適用しても、引用発明のエネルギーフィルタが、目に見える劣化は見られない膜温度である700℃よりも高い温度に至ることはないから、引用発明に引用文献1に記載されたウェハを500℃まで加熱する構成を適用することに阻害要因があるとはいえない。 (イ) 上記ア(イ)の点について 引用文献1のプラズマフラッドガンPFGは、SiCウェハ上の電荷をPFGプラズマからの電子によって中和することにより、正しい最終エネルギーと角度でイオンビームをウェハに注入することで、より深いプロファイルを得るためのものであるところ(前記第4の2(1)イ参照)、イオン注入プロセスにおける基板のダメージは、プラズマフラッドガンPFGの有無に関わらず生じることは技術常識である。そうすると、当業者は、「イオン注入プロセス」において、「SiCウェハを500℃まで加熱し、注入によるダメージを回復させ、ドーパント活性を高める」こと(引用文献1に記載された技術的事項)は、プラズマフラッドガンPFGの有無に関わらず採用できる、プラズマフラッドガンPFGとは独立した技術的な手段であることを理解できる。 そして、引用発明から出発した当業者は、引用発明において把握される課題を解決するために、引用文献1に記載された技術的な手段を適宜取捨選択できるのであって、仮にプラズマフラッドガンPFGが引用文献1において不可欠なユニットであったとしても、これとは独立した技術的な手段である、「SiCウェハを500℃まで加熱し、注入によるダメージを回復させ、ドーパント活性を高める」こと(引用文献1に記載された技術的事項)を選択して引用発明に適用することができるのであり、その際に、プラズマフラッドガンPFGを合わせて適用する必然性はないというべきである。したがって、引用発明において引用文献1に記載された技術的事項を採用することに阻害要因があるとはいえない。 (ウ) したがって、請求人の上記主張は採用できない。 4 小括 以上検討したとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-013066

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ根拠条文の審決7,656件(特許法29条2項)
  • 2023-005532拒絶査定不服審判 / 2024-07-18 / 請求不成立マルチビーム検査装置を使用してサンプルをスキャンするためのシステム及び方法
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2023-006843拒絶査定不服審判 / 2024-06-10 / 請求不成立複数のグリッドを有するX線源
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2022-020460拒絶査定不服審判 / 2024-01-29 / 請求不成立広アクティブ領域高速検出器のアーキテクチャ
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2022-019523拒絶査定不服審判 / 2023-12-04 / 請求不成立イオン注入システムのための四フッ化ゲルマニウムと水素の混合物
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2022-020317拒絶査定不服審判 / 2023-11-13 / 請求不成立基材を照射するための紫外線システム及び方法
    共通の条文: 特許法29条2項
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)105件(121・H01J)
  • 2024-019623拒絶査定不服審判 / 2026-04-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)グラフェンの官能化方法、装置、及び官能化されたグラフェン生成物
    共通の審決分類: 121・H01J
  • 2024-020872拒絶査定不服審判 / 2026-03-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)電子ビームの特性評価
    共通の審決分類: 121・H01J
  • 2024-004370拒絶査定不服審判 / 2026-02-02 / 原査定取消(特許/登録すべき)マルチビームSEMツール用の自己参照型健全度監視システム
    共通の審決分類: 121・H01J
  • 2024-013260拒絶査定不服審判 / 2026-01-26 / 請求不成立イオン注入システム及び新規な加速器段構成を有する線形加速器
    共通の審決分類: 121・H01J
  • 2024-001371拒絶査定不服審判 / 2026-01-08 / 原査定取消(特許/登録すべき)自動試料ハンドリング装置
    共通の審決分類: 121・H01J

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存