特許拒絶査定不服審判
2022-019523
イオン注入システムのための四フッ化ゲルマニウムと水素の混合物
- 審判番号
- 2022-019523
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-564398
- 請求日
- 2022年12月02日
- 審決日
- 2023年12月04日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】インテグリス・インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P18 .121-Z (H01J) / P18 .575-Z (H01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-564398号「イオン注入システムのための四フッ化ゲルマニウムと水素の混合物」拒絶査定不服審判事件〔令和元年11月21日国際公開、WO2019/221812号、令和3年9月13日国内公表、特表2021-524648号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)3月15日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2018年(平成30年)5月17日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和3年 1月27日 :手続補正書の提出
同年12月27日付け:拒絶理由通知書
令和4年 4月 6日 :意見書、手続補正書の提出
同年 7月21日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年12月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年12月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年12月2日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和4年12月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正を含むものであって、本件補正前(令和4年4月6日にされた手続補正後をいう。)の特許請求の範囲の請求項9及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項9の記載は、それぞれ次の(1)及び(2)に示すとおりである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項9】
基板にゲルマニウムを注入する方法であって、四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)を含むガス混合物をイオン注入チャンバーに供給する、GeF4ガスおよびH2ガスをイオン注入チャンバーに導入することを含み、H2が、42%~57%の範囲の量で存在する、またはGeF4およびH2が、29:21~43:57の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する、方法。」
(2) 本件補正後
「【請求項9】
基板にゲルマニウムを注入する方法であって、
四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)をイオン注入チャンバーに導入することを含み、
当該導入により、GeF4ガスおよびH2ガスを含むガス混合物が、GeF4およびH2が29:21~43:57の範囲の体積比(GeF4:H2)でイオン注入チャンバーに供給され、ガス混合物は、1種または複数のドーパントガスおよび1種または複数の非ドーパントガスを含んでいてもよい、方法。」
2 本件補正の適否についての当審の判断
(1) 本件補正の目的について
ア 本件補正で請求項9についてする補正は、以下の補正事項を含むものである。
(ア) 本件補正前の請求項9に、「H2が、42%~57%の範囲の量で存在するまたはGeF4およびH2が、29:21~43:57の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する」とあったものを、「当該導入により、GeF4およびH2が29:21~43:57の範囲の体積比(GeF4:H2)でイオン注入チャンバーに供給され」と限定する事項。
(イ) GeF4およびH2を含むガス混合物について、「四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)を含むガス混合物をイオン注入チャンバーに供給する、GeF4ガスおよびH2ガスをイオン注入チャンバーに導入する」であったものを、「四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)をイオン注入チャンバーに導入する」と補正して、「ガス混合物は、1種または複数のドーパントガスおよび1種または複数の非ドーパントガスを含んでいてもよい」との限定を付加する事項。
イ そして、本件補正前の請求項9に記載された発明と本件補正後の請求項9に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
ウ したがって、本件補正で請求項9についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
(2) 独立特許要件について
前記(1)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。そこで、本件補正後の請求項9に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項9に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
イ 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に発行された米国特許出願公開第2010/0176306号明細書(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(日本語訳は当合議体が作成し、下線は当合議体が付したものである。以下同じ。)
a 技術分野及び背景技術
「[0002] The present disclosure relates to semiconductor fabrication generally and ion beam generation in particular.
BACKGROUND
[0003] Extrinsic semiconductors rely on dopants to provide a desired density of charge carriers. Dopant implantation is a major step in extrinsic semiconductor processing. In conventional CMOS manufacturing, an ion beam implants dopants into the wafer. Chemical species are deposited into semiconductor wafers by bombarding the substrate with energized ions. The amount of dopant deposited controls the type and conductivity of the resulting semiconductor. The ability to control the active device characteristics depends on the ability to deposit a predetermined dosage of a dopant uniformly throughout the various regions of the substrate.
[0004] Commercially available ion implanter systems are used to perform implantation. The implanter includes an ion source head, which generates the energized ions. It has been observed experimentally that the source head lifetime was shorter when used to implant Ge than other species, such as As, B, BF2, and P. More severe tool symptoms were observed during Germanium (Ge) implantation, resulting in worse source head condition and poor beam uniformity and stability. The inventors observed a high current implanter experience poor source head life time during Ge implantation as short as 10 hours mean time between failure. It was observed that WF6 whiskers were deposited on the aperture of the arc chamber of the ion source, degrading beam uniformity. The whiskers were the result of the tungsten material of the arc chamber wall being consumed in the following reaction:」
(日本語訳:[0002] 本開示は、一般に半導体製造に関し、特にイオンビーム生成に関する。
背景
[0003] 外因性半導体は、ドーパントに依存して電荷キャリアの所望の密度を提供している。ドーパント注入は、外因性半導体加工における主要なステップである。従来のCMOS製造では、イオンビームがドーパントをウェハ内に注入する。化学種は、通電されたイオンを基板に照射することにより、半導体ウェハ内に堆積される。堆積されたドーパントの量が、得られる半導体の種類と伝導性を制御する。能動素子特性を制御する能力は、所定のドーパント量を基板のさまざまな領域全体に均一に堆積する能力に依存している。
[0004] 市販のイオン注入器システムが注入を行うために使用される。注入器は、通電イオンを発生させるイオン源ヘッドを含んでいる。源ヘッドの寿命は、Geを注入するために使用する場合、As、B、BF2、及びPなどの他の化学種の場合よりも短いことが実験的に観察されている。より深刻なツールの症状がゲルマニウム(Ge)注入時に観察されており、源ヘッド状態の更なる悪化と、ビームの均一性及び安定性の低下となった。発明者らは、高電流注入器のGe注入時の平均寿命が悪化し、平均故障間隔が10時間と短くなることを観察した。WF6ウィスカーがイオン源のアークチャンバの開口部に堆積し、ビームの均一性を低下させていることが観察された。ウィスカーは、アークチャンバ壁のタングステン材料が以下の反応で消費された結果であった。)
b 詳細な説明(図3に係る実施形態)
「[0027] In other embodiments, the gas source includes a plurality of reservoirs or conduits that feed individual constituents directly into the arc chamber 102 to be mixed within the chamber.
[0028] For example, FIG. 3 shows an alternative embodiment in which the reservoir 112 is omitted, and the dilutant supply means and the dopant supply means have separate conduits for supplying the dilutant and dopant, respectively, to the arc chamber 202. Items in FIG. 3 that are the same as those in FIG. 2 are indicated by a reference numeral having the same two least significant digits, but increased by 100.
[0029] In FIG. 3, the dopant supply means include a dopant supply 212a, with an associated control valve 208a. The dilutant supply means include a xenon supply 212b, with an associated control valve 208b, and a hydrogen supply 212c with an associated control valve 208c. The Control valves 208a to 208c are all fluidly coupled to the arc chamber 202 to deliver the constituents directly to the arc chamber 202 where they are mixed. For a given period of time, the controller 210 is configured to control the control valves 208b and 208c to dispense substantially equal volumes of xenon and hydrogen into the arc chamber 202 (assuming the xenon and hydrogen are at equal temperatures and pressures). The controller 210 is also configured to control the valve 208a to dispense a volume of GF4 gas that is 0.7 times the volume of xenon dispensed (assuming the xenon and GF4 are at equal temperatures and pressures). In other words, the controller 210 controls the valves 208a-208c to dispense substantially equal numbers of xenon and hydrogen molecules, and a number of molecules of GF4 that is about 0.7 times the number of molecules of xenon.」
(日本語訳:[0027] 他の実施形態では、ガス源は、個々の成分をアークチャンバ102内に直接供給してチャンバ内で混合されるようにする複数のリザーバ又は導管を含む。
[0028] 例えば、図3は、リザーバ112が省略され、希釈剤供給手段とドーパント供給手段が、それぞれ希釈剤とドーパントをアークチャンバ202に供給するための別個の導管を有する代替実施形態を示す。図3の項目で図2と同じものは、同じ最下位2桁を有するが100増加した参照数字で示されている。
[0029] 図3において、ドーパント供給手段は、関連する制御弁208aを有するドーパント供給部212aを含む。希釈剤供給手段は、関連する制御弁208bを有するキセノン供給部212b、及び関連する制御弁208cを有する水素供給部212cを含む。制御弁208a~208cは全てアークチャンバ202に流体的に結合されて、構成成分をアークチャンバ202に直接配送し、そこでそれらが混合される。所与の期間、コントローラ210は、制御弁208b及び208cを制御して、(キセノンと水素が等しい温度と圧力にあると仮定して)実質的に等しい体積のキセノンと水素をアークチャンバ202内に吐出するように構成される。コントローラ210はまた、弁208aを制御して、(キセノンとGeF4(当審注:原文の「GF4」は「GeF4」の明らかな誤記と認められるので、誤記を正して摘記する。以下同じ。)が等しい温度と圧力であると仮定して)吐出されたキセノンの体積の0.7倍の体積となる体積のGeF4ガスを吐出するように構成されている。言い換えると、コントローラ210は、弁208a~208cを制御して、実質的に等しい数のキセノン分子と水素分子と、キセノンの分子数の約0.7倍の分子数のGeF4を吐出する。)
c 詳細な説明(図3の装置を使用する方法に係る実施形態)
「[0030] FIG. 4 is a flow chart of an exemplary method of using the apparatus of FIG. 2 or the apparatus of FIG. 3.
[0031] At step 400, a dopant gas is supplied to an arc chamber 102 of an ion source 100. The dopant may comprise any species suitable for implantation in a semiconductor wafer. For example, Ge, As, B, BF2, and P. The dopant gas may also comprise a halogen, such as fluorine. In one embodiment, a GeF4 gas is supplied to the arc chamber 102.
[0032] At step 402, a dilutant is supplied to the arc chamber to dilute the dopant gas. The dilutant comprises about 98.5 wt. % xenon and about 1.5 wt. % hydrogen (or approximately equal volumes of xenon and hydrogen at the same temperature and pressure). The dilutant may be input from the same inlet as the dopant or from a separate inlet.
[0033] At step 404, an ion beam is generated from the diluted dopant gas using the ion source. Improved ion source mean time between failure (MTBF) is provided using this dilutant gas.」
(日本語訳:[0030] 図4は、図2の装置又は図3の装置を使用する例示的な方法のフローチャートである。
[0031] ステップ400では、ドーパントガスがイオン源100のアークチャンバ102に供給される。ドーパントは、半導体ウェハへの注入に適した任意の種を含んでもよい。例えば、Ge、As、B、BF2、及びPである。ドーパントガスはまた、フッ素などのハロゲンを含んでもよい。一実施形態では、GeF4ガスがアークチャンバ102に供給される。
[0032] ステップ402では、希釈剤がドーパントガスを希釈するためにアークチャンバに供給される。希釈剤は、約98.5重量%のキセノンと約1.5重量%の水素(又は同じ温度と圧力でほぼ等しい体積のキセノンと水素)を含む。希釈剤は、ドーパントと同じ入口から投入されてもよく、又は別の入口から投入されてもよい。
[0033] ステップ404では、イオンビームが、希釈されたドーパントガスからイオン源を使用して生成される。この希釈剤ガスを使用して、イオン源平均故障間隔(MTBF)の改善がもたらされる。)
d 特許請求の範囲
「1. A method comprising:
supplying a dopant gas in an arc chamber of an ion source;
supplying a dilutant to dilute the dopant gas, the dilutant comprising about 98.5 wt. % xenon and about 1.5 wt. % hydrogen; and
generating an ion beam from the diluted dopant gas using the ion source.
2. The method of claim 1, wherein the diluted dopant gas comprises between 20 wt % and 60 wt % dopant gas and between 40 wt % and 80 wt % dilutant.」
(日本語訳:請求項1.イオン源のアークチャンバにドーパントガスを供給すること、前記ドーパントガスを希釈するために希釈剤を供給することであって、前記希釈剤が約98.5重量%のキセノンと約1.5重量%の水素を含むこと、及び、前記希釈されたドーパントガスから前記イオン源を使用してイオンビームを生成すること、を含む方法。
請求項2.前記希釈されたドーパントガスが、20重量%~60重量%のドーパントガスと、40重量%~80重量%の希釈剤(ガス)を含む、請求項1に記載の方法。)
e FIG.3-FIG.4
FIG.3
「
[図:0001409732000001.jpg]
」
(日本語訳:図3
[図:0001409732000002.jpg]
)
FIG.4
「
[図:0001409732000003.jpg]
」
(日本語訳:図4
[図:0001409732000004.jpg]
)
(イ) 引用文献1に記載された事項から認定できる事項
a 前記(ア)cで摘記した[0030]の「図4は、図2の装置又は図3の装置を使用する例示的な方法のフローチャートである」との記載から、引用文献1には、図3の装置を使用する図4の方法が記載されている。
b 前記(ア)aで摘記した[0003]の「従来のCMOS製造では、イオンビームがドーパントをウェハ内に注入する。化学種は、通電されたイオンを基板に照射することにより、半導体ウェハ内に堆積される」との記載、及び、同[0004]の「市販のイオン注入器システムが注入を行うために使用される。注入器は、通電イオンを発生させるイオン源ヘッドを含んでいる」との記載から見て、[0033]のステップ404において生成されるイオンビームをウェハへ注入することは、引用文献1に記載されているに等しい事項であるといえる。
(ウ) 引用発明の認定
前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項及び前記(イ)で認定した事項を総合すると、引用文献1には、図3の装置を使用する方法の発明として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(なお、認定の根拠となる段落を参考までに括弧内に付してある。)
<引用発明>
「ドーパントガスであるGeF4ガスをイオン源のアークチャンバに供給するステップ、([0031])
約98.5重量%のキセノンと約1.5重量%の水素(又は同じ温度と圧力でほぼ等しい体積のキセノンと水素)を含む希釈剤を、ドーパントガスを希釈するために、前記アークチャンバに供給するステップ、([0032])
イオンビームが、希釈されたドーパントガスからイオン源を使用して生成されるステップ([0033])、
イオンビームをウェハへ注入するステップ、(上記(イ)b)
を含む方法であって、
実質的に等しい体積のキセノンと水素を前記アークチャンバ内に吐出し、([0029]、上記(イ)a)
吐出されたキセノンの体積の0.7倍の体積となる体積のGeF4ガスを吐出する、([0029]、上記(イ)a)
方法。」
(エ) 引用文献1に記載された技術的事項の認定
前記(ア)dに摘記した引用文献1の記載事項から、引用文献1には、次の技術的事項(以下「引用文献1に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献1に記載された技術的事項>
「イオン源のアークチャンバにドーパントガスを供給すること、
前記ドーパントガスを希釈するために希釈剤を供給することであって、前記希釈剤が約98.5重量%のキセノンと約1.5重量%の水素を含むこと、
前記希釈されたドーパントガスが、20重量%~60重量%のドーパントガスと、40重量%~80重量%の希釈剤(ガス)を含むこと、及び、
前記希釈されたドーパントガスから前記イオン源を使用してイオンビームを生成すること、を含む方法。」
ウ 対比
(ア) 対比分析
a 本件補正発明の「基板にゲルマニウムを注入する方法」との発明特定事項について
(a) 引用発明の「ウェハ」は、本件補正発明の「基板」に相当する。
(b) 引用発明は「イオンビームをウェハへ注入する」ものであるところ、ドーパントガスがGeF4ガスあるから、ウェハへ注入されるイオンビームがGeイオンビームであることは明らかである。
(c) したがって、引用発明は、本件補正発明の「基板にゲルマニウムを注入する方法」との発明特定事項を満たす。
b 本件補正発明の「四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)をイオン注入チャンバーに導入することを含[む]」との発明特定事項について
(a) 引用発明の「アークチャンバ」は、本件補正発明の「イオン注入チャンバー」に相当する。
(b) 引用発明の「ドーパントガスであるGeF4ガスをイオン源のアークチャンバに供給するステップ、約98.5重量%のキセノンと約1.5重量%の水素(又は同じ温度と圧力でほぼ等しい体積のキセノンと水素)を含む希釈剤を、ドーパントガスを希釈するために、前記アークチャンバに供給するステップ」は、少なくとも「ドーパントガスであるGeF4ガス」と「水素」をアークチャンバに導入しているから、本件補正発明の「四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)をイオン注入チャンバーに導入することを含[む]」との発明特定事項を満たす。
c 本件補正発明の「当該導入により、GeF4ガスおよびH2ガスを含むガス混合物が、GeF4およびH2が29:21~43:57の範囲の体積比(GeF4:H2)でイオン注入チャンバーに供給され[る]」との発明特定事項について
(a) 引用発明は、「実質的に等しい体積のキセノンと水素を前記アークチャンバ内に吐出し」、「吐出されたキセノンの体積の0.7倍の体積となる体積のGeF4ガスを吐出する」から、「ドーパントガスであるGeF4ガスをイオン源のアークチャンバに供給するステップ、約98.5重量%のキセノンと約1.5重量%の水素(又は同じ温度と圧力でほぼ等しい体積のキセノンと水素)を含む希釈剤を、ドーパントガスを希釈するために、前記アークチャンバに供給するステップ」により、GeF4ガス及び水素を含むガス混合物が、GeF4及び水素が0.7:1の体積比(GeF4:水素)でアークチャンバに供給されるものであるといえる。
(b) ここで、本件補正発明と引用発明のGeF4:H2の体積比を合計100となるように統一して整理すると、本件補正発明は58:42~43:57であるのに対して、引用発明は41:59である。
(c) したがって、本件補正発明の上記発明特定事項と引用発明は、「当該導入により、GeF4ガスおよびH2ガスを含むガス混合物が、GeF4およびH2が所定の体積比(GeF4:H2)でイオン注入チャンバーに供給され[る]」点で共通する。
d 本件補正発明の「ガス混合物は、1種または複数のドーパントガスおよび1種または複数の非ドーパントガスを含んでいてもよい」との発明特定事項について
引用発明の「ドーパントガスであるGeF4ガス」は、本件補正発明の「1種」「のドーパントガス」に相当し、引用発明の「希釈剤」に含まれる「約98.5重量%のキセノンと約1.5重量%の水素(又は同じ温度と圧力でほぼ等しい体積のキセノンと水素)」は、本件補正発明の「複数の非ドーパントガス」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の「ガス混合物は、1種」「のドーパントガスおよび」「複数の非ドーパントガスを含んでい[る]」との発明特定事項を満たす。
(イ) 一致点及び相違点
前記(ア)の対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のa及びbに示すとおりである。
a 一致点
「基板にゲルマニウムを注入する方法であって、
四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)をイオン注入チャンバーに導入することを含み、
当該導入により、GeF4ガスおよびH2ガスを含むガス混合物が、GeF4およびH2が所定の体積比(GeF4:H2)でイオン注入チャンバーに供給され、ガス混合物は、1種のドーパントガスおよび複数の非ドーパントガスを含んでいてもよい、方法。」
b 相違点
GeF4ガスおよびH2ガスを含むガス混合物における、GeF4とH2の体積比(GeF4:H2)が、本件補正発明は、29:21~43:57、すなわち、58:42~43:57の範囲であるのに対して、引用発明は0.7:1、すなわち、41:59である点。
エ 判断
(ア) 相違点についての判断
前記相違点について検討する。
a 本件補正発明のGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)が29:21~43:57であることの技術上の意義
(a) 相違点に係る本件補正発明の「GeF4とH2の体積比(GeF4:H2)が29:21~43:57」との発明特定事項の技術上の意義について発明の詳細な説明及び図面(以下「本願明細書等」という。)の記載を参酌すると、次の記載がある。
(i) 【0014】~【0015】
「【0014】イオン注入機器が、タングステンアークチャンバー、ライナー、イオン注入プロセスの間にチャンバーでフッ化タングステンを生成するフィラメントおよび/または陰極を含むとき、H2ガスを、混合物中でまたはGeF4ガスに対して一定量で使用することにより、タングステン-フッ素反応が妨害され、フッ化タングステンの形成が低減する。さらに、本開示に従って望ましい量のGeF4およびH2ガスを使用すると、イオン注入手順の間、顕著なGe+電流の増大およびW+ピークの低減がもたらされた。
【0015】これにより、イオン注入機器の陰極および他の源構成要素のフッ化タングステンによる被覆または堆積が低減し、それによって機能が改善し、イオン源の故障によって注入手順が妨げられる可能性が顕著に低減する。」
(ii) 【0026】~【0035】
「【0026】
本開示のガス補給アセンブリおよび方法では、H2は「非ドーパントガス」として使用されるが、これは、GeF4ガスとともに使用されるとき、タングステン-フッ素反応を妨害し、フッ化タングステンの形成を低減するのに有効である。本開示によるH2の使用はまた、イオン注入手順の間、改善するGe+電流の増大およびW+ピークの低減などの他の利益を提供しうる。本開示の好ましい態様では、非ドーパントガスは、H2からなる、またはH2から本質的になる(すなわち、H2の量に対して測定して、1%体積未満の、H2とは異なる任意の他の1種または複数の非ドーパントガス種が存在する)。他の態様では、H2は、任意選択で、1種または複数の他の異なる非ドーパントガス種とともに使用されうる。そのような他の非ドーパントガス種は、「希釈ガス」または「捕捉ガス」または「補助種(co-species)ガス」と記載されうる。H2とは異なる非ドーパントガス種の例として、ヘリウム、窒素、ネオン、アルゴン、キセノンおよびクリプトンが挙げられ、これらは不活性ガスともみなされ、本開示のガス補給アセンブリまたはイオン注入機器に関連する他の化合物または材料と反応性ではない。
【0027】
1種または複数の異なる非ドーパントガス種が使用される場合、H2は、好ましくは、好ましくはガス補給アセンブリまたは関連する方法で使用される非ドーパントガス種の合計量の50%超、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上などの、システムで使用される主要なガス種である(すなわち、任意の他の任意選択の非ドーパントガス種より多くの量で使用される)。1種または複数の任意選択の非ドーパントガス種が補給アセンブリまたは関連する方法で使用される場合、使用されるH2の量は、GeF4ガスの量に対して測定されてもよい。
【0028】
一般的に、ガス補給アセンブリは、イオン注入チャンバーに、四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)ガスを含むガス混合物を供給でき、H2は、約25%~約67%(体積)の範囲の量で混合物に存在する、またはGeF4およびH2は、約3:1~約33:67の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する。例えば、一部の実施形態では、ガス補給アセンブリは、GeF4およびH2からなる、またはそれから本質的になる(すなわち、存在する場合、1%未満のGeF4でもH2でもないガスのうちの1種または複数が存在する)ガス混合物を供給できる。したがって、混合物は、約33%~約75%の範囲の体積のGeF4および約25%~約67%の範囲の体積のH2を含みうる。ガス補給アセンブリは、本明細書に記載されるより特定の量または比範囲のいずれかのGeF4およびH2からなる、またはそれから本質的になるガス混合物を供給できる場合がある。
【0029】
GeF4とは異なるドーパントガスまたはH2とは異なる非ドーパントガスのうちの1種または複数がGeF4および水素H2ガスとともに使用される場合、GeF4およびH2の相対量は、本明細書に記載の比範囲内に留まってもよい。例えば、ガス補給アセンブリが約90%のGeF4とH2のガス混合物を供給できる場合、残りの10%のガスは、GeF4とは異なるドーパントガスおよび/またはH2とは異なる非ドーパントガスのうちの1種または複数であってもよい。したがって、そのような状況で、かつ例として、混合物は、約20%~約60%の範囲の体積のGeF4および約30%~約70%の範囲の体積のH2を含むことができる。異なる量のGeF4でもH2でもないガスのうちの1種または複数が使用される実施形態では、GeF4およびH2の他の量の範囲は、本明細書に提供される指針を考慮して容易に決定されうる。
【0030】
より特定の実施形態では、ガス補給アセンブリは、イオン注入チャンバーに、GeF4およびH2ガスを含むガス混合物を供給でき、H2は、約37%~約67%(体積)の範囲の量で混合物に存在する、またはGeF4およびH2は、約63:37~約33:67の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する。
【0031】
より特定の実施形態では、ガス補給アセンブリは、イオン注入チャンバーに、GeF4およびH2ガスを含むガス混合物を供給でき、H2は、約42%~約62%(体積)の範囲の量で混合物に存在する、またはGeF4およびH2は、約29:21~約19:31の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する。
【0032】
より特定の実施形態では、ガス補給アセンブリは、イオン注入チャンバーに、GeF4およびH2ガスを含むガス混合物を供給でき、H2は、約45%~約59%(体積)の範囲の量で混合物に存在する、またはGeF4およびH2は、約11:9~約41:59の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する。
【0033】
より特定の実施形態では、ガス補給アセンブリは、イオン注入チャンバーに、GeF4および水素H2ガスを含むガス混合物を供給でき、H2は、約47%~約57%(体積)の範囲の量で混合物に存在する、またはGeF4およびH2は、約53:47~約43:57の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する。
【0034】
より特定の実施形態では、ガス補給アセンブリは、イオン注入チャンバーに、GeF4およびH2ガスを含むガス混合物を供給でき、H2は、約49%~約55%(体積)の範囲の量で混合物に存在する、またはGeF4およびH2は、約51:49~約9:11の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する。
【0035】
より特定の実施形態では、ガス補給アセンブリは、イオン注入チャンバーに、GeF4および水素H2ガスを含むガス混合物を供給でき、H2は、約51%~約53%(体積)の範囲の量で混合物に存在する、またはGeF4およびH2は、約49:51~約47:53の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する。」
(iii) 【0044】
「【0044】
流れ回路は、GeF4およびH2ガスを、それらがイオン注入チャンバーに存在するとき、GeF4およびH2が、約1:3~約33:67の範囲、約63:37~33:67の範囲、約29:21~約19:31の範囲、約11:9~約41:59の範囲、約53:47~約43:57の範囲、約51:49~約9:11の範囲、または約49:51~約47:53の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在するように分配するように構成されうる。」
(iv) 【0049】-【0053】
「【0049】
方法は、望ましい動作条件、例えば、望ましいビーム電流、アーク電圧、源ビーム電流、ガス流量および圧力を使用して実施することができる。例示的実施様式では、また本開示に関連する本発明の研究によると、イオン注入機器が、イオン注入プロセスの間にチャンバーで1種または複数のフッ化タングステン種(WF6、WF5、WF4、WF3、WF2、WF)を生成しうるタングステンフィラメントを含むとき、H2ガスを、混合物中でまたはGeF4ガスに対して一定量で使用することにより、フッ化タングステン種の形成が妨げられ、フィラメントの損失およびタングステン堆積物の蓄積が低減される。
【0050】
様々に上述されたガス補給アセンブリでは、また種々の方法の実施形態では、GeF4ガスとともに本明細書に記載の量で使用され、かつイオン注入チャンバーで混在するとき、H2ガスは、タングステン-フッ素反応を妨害し、フッ化タングステンの形成を低減させる。
【0051】
結果として、材料堆積物がアークチャンバーの表面に形成されるのを防止する効果が生じうる。例えば、本明細書に記載の量で使用されるGeF4とH2のガス混合物は、アークチャンバーの壁表面における、絶縁体における、または他の表面における堆積物を防止するのに有効でありうる。アークチャンバー内の残留物の存在が減少することにより、イオン注入システムの性能の改善に影響が及ぶ可能性がある。一例として、絶縁体に存在する残留物は、絶縁体上にたまる残留物によって直接引き起こされうる、短絡による電気的故障の発生を低減させる、または防止する可能性がある。
【0052】
また、本明細書に記載の量で使用されるGeF4とH2のガス混合物を使用することにより、フィラメントの性能またはフィラメントの寿命を改善することができる。例えば、H2ガスを使用してタングステン-フッ素反応を防止すると、その結果としてフッ化タングステンの形成が低減され、アークチャンバー材料の減少を防止することができる。結果として、寿命が延び、イオン注入の性能を改善することができる。
【0053】
例えば、イオン注入システムの動作時間の間、フィラメントおよび/または陰極に電流または電力を流すと同時に、注入チャンバーに、本明細書に記載の量で使用されるGeF4とH2の混合物を供給する。例えば、動作時間前後のフィラメントまたは陰極の重量変化を比較することによって決定されうる、フィラメントまたは陰極材料の減少または増加がある場合、重量減少または増加は、同じ時間および動作条件であるが、本明細書に記載の量のH2の導入を伴わない場合のフィラメントの重量減少または増加より少ない。例えば、H2ガスをGeF4ガスに対する量で使用すると、フィラメントまたは陰極の重量減少または増加は、同じ時間および動作条件であるが、本明細書に記載の量のH2を使用しない場合より低減しうる。」
(b) 上記(a)で摘記した記載によれば、H2ガスをGeF4ガスに対して一定量で使用することにより、タングステン-フッ素反応が妨害され、フッ化タングステンの形成が低減し、イオン注入手順の間、顕著なGe+電流の増大およびW+ピークの低減がもたらされ、フィラメント又は陰極の重量減少または増加を低減し得ることは理解できるものの、具体的な体積比についての技術上の意義については記載されておらず、相違点に係る本件補正発明の構成である、GeF4とH2の体積比(GeF4:H2)が29:21~43:57であることの技術上の意義は不明である。
(c) 一方、本願明細書等には実施例として、次の記載がある。
(i) 【0078】、【図3】
「【0078】
実施例1
GeF4/H2混合物を使用するイオン注入(ビーム電流)
以下の構成:傍熱型陰極(IHC)源と、タングステンアークチャンバーおよびライナーを有する注入試験スタンドを持つイオン注入機器を、90Vのアーク電圧(ArcV)および30mAの源ビームで動作させた。注入チャンバーへのGeF4の流れは、1sccmの一定の速度に保持した。チャンバーへのH2の混合は、0%~67%で変動した。ビーム電流は、チャンバーへのH2の混合パーセンテージが変化する毎に測定した。結果を図3に示す。」
「
[図:0001409732000005.jpg]
」
(ii) 【0079】、【図4】
「【0079】
実施例2
GeF4/H2混合物を使用するイオン注入(陰極の重量変化)
実施例1によるイオン注入機器を、90V、75Vおよび60Vの種々のアーク電圧(ArcV)ならびに30mAの源ビームで動作させた。注入チャンバーへのGeF4の流れは、1sccmの一定の速度に保持した。チャンバーへのH2の混合パーセンテージは0%~56%で変動した。実行時間後に陰極の重量変化率(グラム/時間)を測定した。結果を図4に示す。」
「
[図:0001409732000006.jpg]
」
(iii) 【0080】、【図5】
「【0080】
実施例3
GeF4/H2混合物を使用するイオン注入(ビームスペクトル分析)
実施例1によるイオン注入機器を、90Vのアーク電圧および30mAの源ビームで動作させた。注入チャンバーへのGeF4の流れは、1sccmの一定の速度に保持した。チャンバーへのH2の混合パーセンテージは、0%、50%および67%で変動した。AMUのビームスペクトル分析を実施し、種々のイオン種のビーム電流の変化を比較した。結果を図5に示す。」
「
[図:0001409732000007.jpg]
」
(d) 上記(c)で摘記した記載事項から、H2の混合パーセンテージに関して以下のことが見てとれる。
(i) 図3から、ドーパントであるGe+ビーム電流は、GeF4/H2混合物のH2混合パーセンテージが、0%から60%付近までは上昇し、60%付近から70%までは低下していること、つまり、ドーパントであるGe+ビーム電流の観点からは、H2混合パーセンテージは60%付近が一番望ましいこと。
(ii) 上記(a)(iv)で摘記した、「H2ガスをGeF4ガスに対する量で使用すると、フィラメントまたは陰極の重量減少または増加は、同じ時間および動作条件であるが、本明細書に記載の量のH2を使用しない場合より低減しうる。」(【0053】)との記載を踏まえると、図4における重量変化(グラム/時間)が0であるH2パーセンテージが望ましいと解されるところ、図4から、重量変化(グラム/時間)が0であるH2パーセンテージは、アーク電圧であるARCVが90Vの場合は47~48%が望ましく、ARCVが75Vの場合は52~53%が望ましく、ARCVが60Vの場合は54~55%が望ましいこと。
(iii) 図5から、W+ビーム電流(mA)の値は、GeF4/H2混合物のH2混合パーセンテージが、0%、50%、67%の順に大きく低下していること、つまり、W+のビーム電流の観点からは、H2パーセンテージは、0%、50%、67%の順に望ましいこと。
(e) 上記(d)によれば、GeF4とH2の体積比(GeF4:H2)は、図3からH2混合パーセンテージが60%付近、図5からH2混合パーセンテージが67%付近が一番望ましいことが見てとれるところ、本件補正発明で特定するGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)が29:21(H2混合パーセンテージ42%)~43:57(H2混合パーセンテージ57%)は、図3、図5から見て一番望ましい範囲よりも、ドーパントであるGe+ビーム電流の観点及びW+のビーム電流の観点では効果の劣る範囲となっている。
また、図4で示される陰極の重量変化率の観点については、アーク電圧により望ましいH2パーセンテージが変化する(例えば、アーク電圧が60Vから90Vに変化すると、望ましいH2パーセンテージは54~55%から47~48%に変化する)ところ、本件補正発明ではアーク電圧が特定されておらず、本件補正発明で特定するGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)である29:21(H2混合パーセンテージ42%)~43:57(H2混合パーセンテージ57%)に対応する陰極の重量変化率を特定することはできない。
b 引用発明におけるGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)について
引用文献1には、引用発明と同様のイオン源のアークチャンバにドーパントガスを供給すること、前記ドーパントガスを希釈するために希釈剤を供給すること、前記希釈されたドーパントガスから前記イオン源を使用してイオンビームを生成すること、を含む方法において、「希釈剤が約98.5重量%のキセノンと約1.5重量%の水素を含むこと」及び「希釈されたドーパントガスが、20重量%~60重量%のドーパントガスと、40重量%~80重量%の希釈剤(ガス)を含むこと」(引用文献1に記載された技術的事項)が記載されている。すなわち、当該引用文献1に記載された技術的事項では、ドーパント(GeF4):水素(H2)の重量%比率が20:(80×1.5/100)~60:(40×1.5/100)=20:1.2~60:0.6であり、これをGe、F、Hの原子量を概略73、19、1として、つまり、GeF4、H2の分子量を概略149、2として、体積比率に換算すると、ドーパント(GeF4):水素(H2)の体積比が20/149:1.2/2~60/149:0.6/2=0.134:0.6~0.402:0.3=18:82~57:43である。
すなわち、引用文献1に記載された技術的事項を踏まえれば、引用発明における「吐出されたキセノンの体積の0.7倍の体積となる体積のGeF4ガスを吐出する」とのドーパントガスと希釈剤ガスの比率はあくまで実施形態の一例にすぎないと解される。
したがって、引用文献1には、「吐出されたキセノンの体積の0.7倍の体積となる体積のGeF4ガスを吐出する」ことに限らず、すなわち、GeF4とH2の体積比(GeF4:H2)は41:59に限らず、18:82~57:43の範囲とすることも記載又は示唆されているといえる。
c 引用発明におけるGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)を29:21~43:57とすることについて
上記bのとおり、引用文献1においてGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)を18:82~57:43の範囲とすることも記載又は示唆されているといえるところ、上記aで検討した図3~図5から把握される望ましいH2混合パーセンテージの観点で、引用発明の41:59(GeF4:H2)という体積比と、本件補正発明で特定するGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)である29:21(H2混合パーセンテージ42%)~43:57(H2混合パーセンテージ57%)の優劣を比較すると、少なくともドーパントであるGe+ビーム電流量の観点(図3)及びW+のビーム電流の観点(図5)では、引用発明の方がより優れた効果を示している。
また、陰極の重量変化率の観点(図4)については、本件補正発明ではアーク電圧が特定されていないため陰極の重量変化率を特定することはできないことは上記aで説示したとおりであり、本件補正発明で特定するGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)である29:21(H2混合パーセンテージ42%)~43:57(H2混合パーセンテージ57%)の方が、引用発明の41:59(GeF4:H2)という体積比よりも常に有利な効果を奏するということはできない。
したがって、引用発明においてGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)を29:21~43:57とする点には格別の技術上の意義は認められず、また、引用文献1においてそのような範囲とすることの記載又は示唆もあることを勘案すれば、この点は当業者が適宜なし得る設計変更に過ぎないというほかない。
よって、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
d 効果について
以上詳細に検討したとおり、本件補正発明の奏する効果としては、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項からは予測困難な効果、又は、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ) 請求人の主張について
a 請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において概略以下の主張をしている。
(a) 本願明細書等の【0078】-【0079】及び図3-図4には、GeF4/H2混合物を使用したイオン注入において、H2をガス混合物の42%~57%(体積)の範囲の量で存在させることにより、高いビーム電流と陰極への堆積物の蓄積の減少とが得られたことが確認できる。引用文献1には、イオン源の寿命を向上させるために水素量を変化させることについて、記載も示唆もされておらず本件補正発明により、引用文献1からは予測し得ない格別顕著な効果が奏される。
(b) 本件補正発明はGeF4ガスおよびH2ガスを含むガス混合物が、GeF4およびH2が29:21~43:57の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在するものであるのに対して、引用文献1は、希釈剤中の水素の量を「約1.5重量%」とすることが明確に開示され、希釈剤中の水素の量を「約1.5重量%」以外の値に変更することは、何ら具体的に開示されていない。
b 請求人の主張についての検討
審判請求書における請求人の主張について検討する。
(a) 上記a(a)の主張について
上記(ア)で検討したとおり、引用発明においてGeF4とH2の体積比(GeF4:H2)を29:21~43:57とする点には格別の技術上の意義は認められず、また、引用文献1にそのような範囲とすることの記載又は示唆もあることを勘案すれば、この点は当業者が適宜なし得る設計変更に過ぎないというほかないから、上記a(a)の主張は採用できない。
(b) 上記a(b)の主張について
引用文献1に記載された技術的事項は、「希釈剤が約98.5重量%のキセノンと約1.5重量%の水素を含む」ものにおいて「前記希釈されたドーパントガスが、20重量%~60重量%のドーパントガスと、40重量%~80重量%の希釈剤を含む」ものであり(上記イ(エ))、希釈剤中の水素の量を「約1.5重量%」とした上で、ドーパントガスと希釈剤ガスの比率を変更することで、本件補正発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことであることは、前記(ア)で述べたとおりである。
よって、請求人の主張は採用できない。
オ 独立特許要件についての当審の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3) 本件補正の適否についての当審の判断のまとめ
前記(2)に示したとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項9に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項9(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由3.(進歩性の欠如)本願の請求項9に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において発行された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
1.米国特許出願公開第2010/0176306号明細書
3 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定は、前記第2の2(2)イにおいて示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の、「当該導入により、GeF4およびH2が29:21~43:57の範囲の体積比(GeF4:H2)でイオン注入チャンバーに供給され」との発明特定事項を、「H2が、42%~57%の範囲の量で存在するまたはGeF4およびH2が、29:21~43:57の範囲の体積比(GeF4:H2)で存在する」とするとともに、「ガス混合物は、1種または複数のドーパントガスおよび1種または複数の非ドーパントガスを含んでいてもよい」との限定を除いた上で、「四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)をイオン注入チャンバーに導入する」を、「四フッ化ゲルマニウム(GeF4)および水素(H2)を含むガス混合物をイオン注入チャンバーに供給する、GeF4ガスおよびH2ガスをイオン注入チャンバーに導入する」としたものである。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、当該発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の2(2)において説示したとおり、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明も、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-019523