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特許拒絶査定不服審判

2023-010734

細胞傷害誘導治療剤

審判番号
2023-010734
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-559378外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年06月28日
審決日
2025年06月10日
公報発行日
2025年08月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (C07K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-559378「細胞傷害誘導治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月 8日国際公開、WO2018/203567、令和 2年 6月25日国内公表、特表2020-518584〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成30年5月2日(国内優先権主張 2017年5月2日)の出願であって、その主な手続きの経緯は以下のとおりである。 令和4年 4月19日付け 拒絶理由通知書 令和4年 8月18日 意見書・手続補正書の提出 令和4年10月26日付け 拒絶理由通知書 令和5年 1月27日 意見書・手続補正書の提出 令和5年 4月11日付け 拒絶査定 令和5年 6月28日 審判請求書の提出 令和7年 1月29日付け 拒絶理由通知書 令和7年 3月 4日 意見書・手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、令和7年3月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 ヒトRNF43結合活性を有する第1抗原結合ドメインと、ヒトCD3結合活性を有する第2抗原結合ドメインと、同じIgGアイソタイプの天然ヒトFc領域によるFcγ受容体への結合と比較して、ヒトFcγ受容体への結合が低下した改変ヒトIgG Fc領域とを含む多重特異性抗原結合分子であって、天然のRNF43陽性であるヒト腫瘍細胞に対してインビボのT細胞依存性の細胞傷害性を有する多重特異性抗原結合分子。」(以下、「本願発明」という。) 第3 当審における拒絶の理由の概要 本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明において、腫瘍抗原として引用文献1あるいは引用文献3に記載されたRNF43を用いることにより、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:国際公開第2015/095392号公報 引用文献3:国際公開第2015/164392号公報 第4 当審の判断 1 引用文献の記載事項 (1) 引用文献1(国際公開第2015/095392号公報) 当審における拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、以下の日本語訳による摘記は、引用文献1に対応する日本語出願の公表公報である特表2017-504314号公報の記載に基づくものである。その段落番号も便宜上そのまま記載した。下線は当審にて付記したものである。 ア 発明の名称 「抗CD3抗体および使用方法」 イ 特許請求の範囲 「【請求項1】 抗分化抗原群列3(CD3)抗体であって、次の6つの超可変領域(HVR)、すなわち、 (a)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1、 (b)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2、 (c)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3、 (d)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1、 (e)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (f)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3 を備える結合ドメインを含む、抗CD3抗体。」 「【請求項230】 前記抗CD3抗体が多重特異性抗体である、請求項1から請求項228のいずれか一項に記載の抗CD3抗体。 【請求項231】 前記多重特異性抗体が二特異性抗体である、請求項230に記載の抗CD3抗体。 【請求項232】 前記二特異性抗体が第2の生体分子に結合する第2結合ドメインを含み、前記第2生体分子が細胞表面抗原である、請求項231に記載の抗CD3抗体。 【請求項233】 前記細胞表面抗原が腫瘍抗原である、請求項232に記載の抗CD3抗体。」 ウ 発明の概要 「【背景技術】 ・・・ 【0003】 癌治療に対する長年のアプローチには化学療法、放射線療法、および固形腫瘍を除去するための外科手術が含まれる。最近、二特異性抗体による免疫療法が開発された。そのような二特異性抗体は、結合している細胞傷害性細胞が結合している腫瘍細胞を破壊することを意図して細胞傷害性細胞と腫瘍細胞の上にある細胞表面抗原へ同時に結合することができる。癌治療の治験を現時点で受けている既存の二特異性抗体はそれらの短い半減期および/または変わりやすい効力のために限られている。したがって、癌治療での使用に効果的な二特異性抗体の開発について当分野には満たされていない要求が存在する。 【発明の概要】 【0004】 本発明は抗分化抗原群列3(CD3)抗体および同抗体の使用方法に関する。」 「【0064】 関連の態様において本発明は、そのようなエピトープに結合し、且つ、多重特異性抗体である抗CD3抗体を特色とする。幾つかの実施形態では多重特異性抗体は二特異性抗体である。幾つかの実施形態では二特異性抗体は第2の生体分子に結合する第2結合ドメインを含み、第2生体分子は細胞表面抗原である。幾つかの実施形態では細胞表面抗原は腫瘍抗原である。幾つかの実施形態では腫瘍抗原はCD20、FcRH5(Fc受容体様分子5)、HER2、LYPD1、・・・RAGE-1、RBAF600、RGS5、RhoC、RNF43、RU2AS、SAGE、セセルニン(secernin)1、SIRT2、SNRPD1、SOX10、Sp17、SSX-2、SSX-4、STEAP1、サービニン、SYT-SSX1またはーSSX2融合タンパク質、TAG-1、TAG-2、テロメラーゼ、TGF-βRII、TRAG-3、トリオースリン酸イソメラーゼ、TRP-1/gp75、TRP-2、TRP2-INT2、チロシナーゼ、VEGF、WT1、XAGE-1b/GAGED2a、およびSLC53SLC35D3からなる群より選択される。幾つかの実施形態では腫瘍抗原はCD20、FcRH5、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、CD19、CD33、CD22、CD79A、CD79B、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、およびTenB2からなる群より選択される。好ましい実施形態では腫瘍抗原はCD20、HER2、FcRH5、およびLYPD1からなる群より選択される。」 「【0121】 「腫瘍抗原」という用語は、本明細書において使用される場合、腫瘍細胞上に提示されている抗原として理解され得る。これらの抗原は、多くの場合にその分子の膜貫通および細胞質部分とつながっている細胞外部分によって細胞表面に提示され得る。これらの抗原は腫瘍細胞によってのみ提示され、正常細胞によって提示されることが決してない場合が有り得る。」 「【0992】 c.Fc領域変異体 ある特定の実施形態では1つ以上のアミノ酸修飾を本発明の抗CD3抗体(例えば、CD3と第2生体分子、例えば細胞表面抗原、例えば腫瘍抗原に結合する本発明のTDB抗体またはその変異体などの本発明の二特異性抗CD3抗体)のFc領域に導入することによってFc領域変異体を作製してよい(例えば、米国特許出願公開第2012/0251531号明細書を参照されたい)。そのFc領域変異体は1か所以上のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば、置換)を備えるヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1 Fc領域、IgG2 Fc領域、IgG3 Fc領域、またはIgG4 Fc領域)を含み得る。 【0993】 ある特定の実施形態では本発明は全てのエフェクター機能ではなく幾つかのエフェクター機能を有する抗CD3抗体変異体を企図しており、それによってその抗体変異体は、インビボでの抗体半減期が重要であるがそれでもある特定のエフェクター機能(補体およびADCCなど)が不必要または有害である用途にとって望ましい候補になる。インビトロ細胞傷害アッセイおよび/またはインビボ細胞傷害アッセイを実施してCDC活性および/またはADCC活性の低下/除去を確認することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイを実施して抗体がFcγR結合を欠いている(したがって、ADCC活性を欠いている可能性が高い)がFcRn結合能を保持していることを確認することができる。・・・C1q結合アッセイを実施して抗体がC1qに結合することができず、したがってCDC活性を欠いていることを確認してもよい。・・・FcRn結合とインビボクリアランス/半減期の決定も当技術分野において知られている方法を用いて実施され得る。 【0995】 ある特定の実施形態では本抗体内の野生型ヒトFc領域の位置329のプロリンがグリシンまたはアルギニンまたはそのFcのプロリン329とFcgRIIIのトリプトファン残基Trp87およびTrp110との間に形成されるFc/Fcγ受容体接触面内のプロリン・サンドウィッチを破壊するほど充分に大きいアミノ酸残基で置換される(Sondermann et al.: Nature 406, 267ー273(2000年7月20日))。ある特定の実施形態では本抗体は少なくとも1つの追加のアミノ酸置換を含む。1つの実施形態ではその追加のアミノ酸置換はS228P、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D、またはP331Sであり、さらに別の実施形態ではその少なくとも1つの追加のアミノ酸置換はヒトIgG1 Fc領域のL234AおよびL235AまたはヒトIgG4 Fc領域のS228PおよびL235Eであり(例えば、米国特許出願公開第2012/0251531号明細書を参照されたい)、さらに別の実施形態ではその少なくとも1つの追加のアミノ酸置換はヒトIgG1 Fc領域のL234AおよびL235AおよびP329Gである。 」 エ 実施例 「【実施例1】 【1072】 抗CD3抗体の作製 CD3ε抗原 A.マウスIgG2a-Fcに融合した二特異性ヒトおよびカニクイザルCD3ε+CD3γ(CD3εγ-muFc) ・・・ 【1081】 抗CD3抗体13A3、72H6、および19B1の軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインのアミノ酸配列が図4Aに示されている。図4Aはそれら3つの抗体の各々のHVR配列の範囲も定めている。図4B、4C、5A、および5Bは他の抗CD3抗体の軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインの追加的なアミノ酸配列を示している。 【1082】 B.ウサギの免疫後のスクリーニング 8種類の固有の重鎖配列と6種類の固有の軽鎖配列を前記ハイブリドーマ細胞株からクローン化した。図7はこれらの抗体のうちの1つであるRab17の重鎖配列および軽鎖配 列を示している。高い配列類似性のため、6つの重鎖と軽鎖の対に集中することに決定した。それにより生じたそれらの6種類の抗体を小規模(293Sの100ml培養物)でキメラウサギ/ヒトIgGとして発現させ、ELISAによってCD3εへの結合についてスクリーニングした。・・・ 【1088】 B.ヒト化 ヒト/カニクイザルCD3εγ交差反応性ハイブリドーマの配列を最も相同性が高いヒトコンセンサス軽鎖および重鎖可変ドメインまたは生殖系列軽鎖および重鎖可変ドメインと整列させた(図7)。mu40G5cと呼ばれるコンセンサス配列が関連のハイブリドーマクローンの軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインから得られた(図7)。超可変領域(HVR)を操作して軽鎖ヒトアクセプターフレームワークおよび重鎖ヒトアクセプターフレームワークの中に組み入れてヒト化CDR移植体を作製した(例えば、図8A~8Fを参照されたい)。ヒト化変異体をFab断片の形態で、またはIgGとして評価した。・・・選択されたヒト化抗体の様々なCD3ε抗原に対する一価結合親和性が図10に示されている。ヒト化抗CD3抗体38E4の親和性変異体(38E4v1~38E4v9)および40G5cの結合親和性が図11に示されている。 【1092】 抗体結合に対するCD3中のアラニン突然変異の影響を定量するため、選択されたCD3アラニン突然変異体を非サプレッサー大腸菌株内で発現させた。抗CD3抗体UCHT1v9を使用して、分泌されたそれらのCD3εγ変異体を粗ペリプラズム画分より捕捉した。GEヘルスケア社の抗ヒトIgG(Fc)抗体キャプチャキット(BR-1008-39)を使用してアミンカップリングによりUCHT1v9をCM5シリーズSチップ上に固定化した。・・・」 「【実施例2】 【1103】 T細胞依存的二特異性(TDB)抗体の作製と選択 腫瘍細胞の撲滅にT細胞の高い細胞傷害能を利用する1つのアプローチはT細胞依存的二特異性(TDB)抗体の使用である。CD19/CD3二特異性BiTE抗体であるB細胞標的化ブリナツモマブなどの分子による臨床応答の促進が報告されている。しかしながら、多数の報告されている二特異性抗体治療法の治療上の有望性は、好ましくない薬物動態(PK)、毒性、および/または製造上の問題をはじめとする障害のために制限されている。したがって、我々は最初にノブ・イントゥー・ホール形式の完全長抗体として作製される抗CD3アームと抗腫瘍抗原アーム(例えば、抗CD20アーム、抗FcRH5アーム、抗HER2アーム、抗LYPD1アーム、抗LY6Eアーム、抗LY6G6Dアーム、抗PMEL17アーム、抗CD19アーム、抗CD22アーム、抗CD33アーム、抗CD79Aアーム、抗CD79Bアーム、抗EDARアーム、抗GFRA1アーム、抗MRP4アーム、抗RETアーム、抗Steap1アーム、抗TenB2アーム)の様々な組合せを有する抗CD3 TDB抗体を作製し、それらを特性分析した。予期せぬことに、我々は特定の組合せ(対)の抗CD3アームと抗腫瘍抗原アームが他のTDBよりも好ましい活性を示すTDBになることを見出した。 【1106】 A.結合親和性 それらのCD3/CD20 TDBの各々の結合親和性を抗CD3抗体について上で記載されたようにBiacore分析またはFACS分析によって検査した。・・・それらの結果は特定の組合せの抗CD3抗体アームと抗腫瘍抗原アーム(例えば、抗CD20アーム)がより好ましい結合特性を有するTDB抗体になることを示している。 【1107】 B.インビトロB細胞殺傷アッセイおよびT細胞活性化アッセイ 作製されたCD3/CD20 TDBはB細胞殺傷およびT細胞の細胞傷害作用の活性化を支援するそれらの能力についても検査された。・・・細胞殺傷のパーセント(%)を非TDB処理対照に基づいて計算した。活性化T細胞はCD69およびCD25の表面発現によって検出された。 【1108】 CD3と第2生体分子(この例ではCD20)に対する二特異性を有する作製された前記TDB抗体の様々な効力は、高い効力を有する例となるTDBの作製における両抗体アームの重要で予想できない貢献を強調している(図25~49を参照されたい)。」 「【実施例3】 【1109】 例となるCD3/CD20 TDB(CD20 TDB)の特性分析 我々は上記の例となるCD3/CD20 TDB(CD20 TDB)のうちの2つをさらに特性分析し、それらはインビトロB細胞殺傷アッセイおよびT細胞活性化アッセイにおいて高い効力を示した。・・・ 【1110】 材料と方法 A.抗体の作製 T細胞依存的二特異性(TDB)抗体をこれまでに記載された(Atwell et al. J. Mol. Biol. 270: 26-35, 1997)ようにヒトIgG1としてノブ・イントゥー・ホール形式の完全長抗体として作製した。・・・ 【1115】 従来の抗体PK特性を有する完全長ヒト化IgGとして作製された高品質CD20 TDB 抗原同一性、細胞外ドメインのサイズ、および膜からのエピトープの距離をはじめとするB細胞標的化TDB能力に影響し得る標的化特性を調べるため、我々はCD3ε、CD19、CD20、CD22、CD79a、およびCD79bの上のエピトープを標的とする40種類を超える様々なTDBを作製した。・・・ 【1124】 CD20 TDBはインビトロおよびインビボにおいてCLL B細胞の殺傷に効力を有する 我々は、B腫瘍量が通常多い一方でT細胞数が少なく、且つ、T細胞機能が損なわれている可能性があり得る(Riches et al. Semin. Cancer Biol. 20(6): 431-438, 2010)CLL患者の自家T細胞を使用するB白血病細胞の殺傷におけるCD20 TDBの効力も検査した。9人のCLL患者の末梢血液から単離されたPBMCを単回の1000ng/mLという高用量のCD20 TDBと共に最大で48時間にわたってインキュベートした。図61Aに示されているように、CD20 TDBは自家T細胞によるCLL B細胞の殺傷に効力を有する。・・・ 【1125】 CD20 TDBはマウスに移植されたCLL白血病細胞の除去にも効力を有する(図62A)。簡単に説明すると、患者由来自己活性化T細胞の移植に続いて患者白血病細胞をNSGマウスに移植し、その白血病移植体の定着を確認した後に処置を開始する。・・・0.1mg/kgまたは0.5mg/kgの用量でのCD20-TDB処理の単回投与の後に検出できたB細胞はほとんどなかった。・・・ 」 「【実施例4】 【1141】 例となるCD3/FcRH5 TDB(FcRH5 TDB)の作製と特性分析 我々は、異なる細胞表面抗原であるFcRH5を認識することによって腫瘍細胞の撲滅にT細胞の細胞傷害活性を動員するTDB抗体の能力も調査した。この目的のために我々は抗CD3アームと抗FcRH5アームを有する二特異性抗CD3抗体(FcRH5 TDB)を作製し、それらを特性分析した。・・・ 【1144】 B.インビトロMOLP-2標的細胞殺傷アッセイおよびT細胞活性化アッセイ 作製されたFcRH5 TDBは、FcRH5発現MOLP-2標的細胞の殺傷およびT細胞の細胞傷害作用の活性化を支援するそれらの能力についても検査された。・・・図71Aおよび71Bに示されているように、抗CD3アームにUCHT1v9または38E4v1を有するFcRH5 TDBは抗CD3アームとして40G5cを有するFcRH5 TDBと比較して堅固なインビトロMOLP-2標的細胞殺傷を示した。」 「【実施例5】 【1146】 例となるCD3/HER2 TDB(HER2 TDB)の作製と特性分析 我々は、異なる細胞表面抗原であるHER2を認識することによって腫瘍細胞の撲滅にT細胞の細胞傷害活性を動員するTDB抗体の能力も調査した。この目的のために我々は抗CD3アームと抗HER2アームを有する二特異性抗CD3抗体(HER2 TDB)を作製し、それらを特性分析した。・・・ 【1167】 HER2 TDBは免疫不全マウスにおいてインビボで腫瘍増殖を阻害する 内在性機能性T細胞およびB細胞を欠いており、且つ、減少したレベルのNK細胞種、DC細胞種、およびマクロファージ細胞種を有するNOD-SCIDマウスにおいてHER2 TDBのインビボ効力を検査した。・・・個々のマウスの腫瘍体積と処理群のフィッティング腫瘍体積が図99Aに提示されており、そこではHER2 TDBによってHER2発現腫瘍の増殖が妨げられた。」 「【実施例6】 【1176】 例となるCD3/LYPD1 TDB(LYPD1 TDB)の作製と特性分析 我々は、異なる細胞表面抗原であるLYPD1を認識することによって腫瘍細胞の撲滅にT細胞の細胞傷害活性を動員するTDB抗体の能力も調査した。この目的のために我々は抗CD3アームと抗LYPD1アームを有する二特異性抗CD3抗体(LYPD1 TDB)を作製し、それらを特性分析した。・・・ 【1179】 B.インビトロOVCAR3.Luc標的細胞殺傷アッセイおよびT細胞活性化アッセイ 作製されたLYPD1 TDBはLYPD1発現OVCAR3.Luc標的細胞の殺傷およびT細胞の細胞傷害作用の活性化を支援するそれらの能力についても検査された。・・・図105に示されているように、抗CD3アームにUCHT1v9、38E4v1、またはSP34を有するLYPD1 TDBは抗CD3アームとして40G5を有するLYPD1 TDBと比較して堅固なインビトロOVCAR3.Luc標的細胞殺傷を示した。」 (2) 引用文献3(国際公開第2015/164392号公報) 当審における拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献3には、次の事項が記載されている。なお、以下の日本語訳による摘記は、引用文献3に対応する日本語出願の公表公報である特表2017-518040号公報の記載に基づくものである。その段落番号も便宜上そのまま記載した。下線は当審にて付記したものである。 ア 発明の名称 「新規の抗RNF43抗体および使用方法」 イ 特許請求の範囲 「【請求項13】 ヒトRNF43(配列番号5)に結合する単離抗体であって、ヒトRNF43に対する結合について、 (1)配列番号78に示す軽鎖可変領域および配列番号80に示す重鎖可変領域、または (2)配列番号110に示す軽鎖可変領域および配列番号112に示す重鎖可変領域 を含む抗体と競合する、単離抗体。」 ウ 技術分野 「【0003】 発明の分野 本発明は、一般に、新規の抗RNF43抗体またはこの免疫反応性断片ならびにこれらを含む、がんおよびがんの再発または転移の処置、診断または予防のための組成物、例えば、抗体薬物コンジュゲートに関する。本発明の選択された実施形態は、このような抗RNF43抗体または抗体薬物コンジュゲートの、がんの処置のための、例えば腫瘍形成性細胞の出現頻度の減少のための、使用を提供する。」 エ 発明を実施するための形態 「【0024】 RNF43は、驚くべきことに、いくつかの腫瘍の生物学的マーカーとなることが見出された。この関係はそのような腫瘍の処置に利用し得る。」 「【0026】 I.RNF43生理学 RINGフィンガータンパク質43(RNF43;E3ユビキチン-タンパク質リガーゼRNF43またはRNF124としても知られる。)は、一回貫通I型膜タンパク質であり、WNTシグナル伝達の重要なフィードバック制御因子として機能する。」 「【0046】 驚くべきことに、RNF43発現が、様々な腫瘍形成性細胞小集団と関連していることが分かった。本発明は、特に腫瘍形成性細胞を標的化するために有用であり、腫瘍形成性細胞を鎮静する、敏感にする、中和する、出現頻度を減少させる、ブロックする、破棄する、干渉する、減少させる、妨害する、抑制する、制御する、枯渇させる、和らげる、介在する、縮小させる、再プログラムする、消去するまたは他の方法で阻害する(集約して、「阻害する」)ために使用することができ、したがって増殖性障害(例えば、がん)の処置、管理および/または予防を容易にする抗RNF43抗体を提供する。」 「【0051】 本発明の抗体は、例えば、フローサイトメトリ、磁気活性化細胞選別(MACS)、レーザー媒介の薄片化またはFACSなどの方法による、腫瘍形成性細胞の同定、特徴付け、監視、単離、薄片化または集団もしくは小集団の富化に有用であり得る。」 「【0059】 本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、マルチクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化および霊長類化抗体、CDRグラフト化抗体、ヒト抗体、組換え産生抗体、細胞内抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、一価抗体、多価抗体、抗イディオタイプ抗体、合成抗体、例えば、これらのムテインおよびバリアント、免疫特異的抗体断片、例えば、Fd、Fab、F(ab’)2、F(ab’)断片、単鎖断片(例えば、ScFvおよびScFvFc)ならびにFc融合および他の修飾を含むそれらの誘導体、ならびに決定因子との優先的会合または結合を示す限り、あらゆる他の免疫反応分子を含む。」 オ 実施例 「【0304】 [実施例4] がんゲノムアトラスを使用した腫瘍におけるRNF43の発現 様々な腫瘍におけるRNF43 mRNAの過剰発現を、がんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas、TCGA)として知られる大規模な公的に利用可能な原発腫瘍および正常試料のデータセットを使用して確認した。・・・これらのデータは実施例1~3の結果を確認するものであり、正常組織を上回る良好な治療指数が存在することを示唆し、したがって抗RNF43抗体およびADCが、これらの腫瘍の処置のための有用な治療薬となり得ることを示唆する。」 「【0310】 [実施例6] 抗RNF43抗体の生成 抗RNF43マウス抗体は、以下のように2つの異なる免疫化で産生した。第1の免疫化では、1匹の雌Balb/cマウスに、足蹠を介して、TiterMax(登録商標)に乳化させた10μgの組換えヒトRNF43-Fcタンパク質(rhRNF43-Fc、R&D Systems;番号7964-RN)およびCpGアジュバントを接種した。・・・ 【0311】 マウスを屠殺し、流入リンパ節(膝窩、鼠径および内腸骨)を解離し、抗体産生細胞源として使用した。B細胞(60x106細胞)の単一細胞懸濁液を、非分泌P3x63Ag8.653骨髄腫細胞(ATCC番号CRL-1580)と、1:1の比率で、エレクトロセルフュージョンにより、BTX Hybrimmuneシステム(BTX Harvard Apparatus)モデルを使用して融合した。・・・ 【0313】 ハイブリドーマを10日間培養し、以下の通りに実施したフローサイトメトリを使用して、hRNF43に特異的な抗体について上清をスクリーニングした。 【0314】 [実施例7] 抗RNF43抗体の特徴 実施例6で生成された抗RNF43抗体を、(i)アイソタイプ、(ii)RNF43に対する親和性および(iii)ZNRF3との交差反応性の点で特徴付けた。・・・選択された抗体は、hRNF43に対してナノモル範囲の親和性を示した(図5A)。」 「【0347】 [実施例14] 腫瘍におけるRNF43タンパク質発現 実施例1~3に記載される様々な腫瘍と関連したRNF43 mRNA転写レベルの上昇を考慮して、RNF43タンパク質発現が、PDX腫瘍においても上昇しているかを調べる作業を行った。 【0351】 図8は、正常組織と比較してRNF43タンパク質高発現を示した代表的GAおよびCR PDX腫瘍細胞株を示す。試験した正常組織は、副腎、動脈、結腸、食道、胆嚢、心臓、腎臓、肝臓、肺、末梢および坐骨神経、膵臓、骨格筋、皮膚、小腸、脾臓、胃、気管、赤血球および白血球ならびに血小板、膀胱、脳、乳房、眼、リンパ節、卵巣、下垂体、前立腺および脊髄を含んでいた。・・・これらのデータは、上記で示したRNF43発現についてのmRNA転写データと組み合わされて、RNF43決定因子が治療介入に対する魅力的な標的であるという説を、強力に支持する。」 「【0352】 [実施例15] インサイチュハイブリダイゼーションを使用した腫瘍表面上のRNF43の検出 RNF43 mRNAについてのRNAインサイチュハイブリダイゼーションは、RNAscope(登録商標)2.0試薬キット(Advanced Cell Diagnostics;Wangら、2012、PMID:22166544)を使用して実施した。・・・図9は、試験した21個のPDX株全てが、ある程度でRNF43を発現し、52.3%の腫瘍がスコア4の発現をしていたことを示す。」 「【0353】 [実施例16] 抗RNF43抗体はフローサイトメトリにより腫瘍におけるRNF43タンパク質発現を検出する フローサイトメトリを使用して、本発明の抗RNF43抗体が、CR PDX腫瘍細胞株表面の抗RNF43タンパク質の存在を特異的に検出する能力を評価した。 【0354】 ・・・図10は、本発明の抗RNF43抗体(黒線)が、ヒトCR PDX腫瘍生細胞(CR14、CR81、CR91、CR99、CR104、CR115)に対して、IgGアイソタイプ対照抗体(灰色塗りつぶしヒストグラム)よりも有意に大きな強度で、特異的に結合できたことを示している。」 2 判断 (1) 引用発明の認定 引用文献1は「抗CD3抗体および使用方法」の発明を開示する公報であって、その特許請求の範囲には、腫瘍抗原に結合する第2結合ドメインを含む抗CD3二特異性抗体が記載され(1(1)イ 請求項233)、発明の詳細な説明には、第2結合ドメインが結合する腫瘍細胞上に提示される腫瘍抗原として多種多様なものを採用し得ることが記載されている(1(1)ウ【0064】、【0121】)。 そして、実施例では、多種類の抗ヒトCD3 IgGモノクローナル抗体が作成され(1(1)エ【実施例1】、1(1)ウ【1082】、【1092】の記載からIgGが作成されたことが分かる。)、それらを用いて、第2結合ドメインが結合する腫瘍抗原がCD20、FcRH5、HER2及びLYPD1であるような二特異性抗体が、ヒトIgGとして作成され、インビトロやインビボで抗腫瘍効果を示したことが具体的データにより示されている(1(1)エ【1110】、【1115】、【1141】、【1146】、【1176】)。特に、腫瘍抗原がCD20やHER2の場合については、インビボで、当該腫瘍抗原を発現するヒト腫瘍細胞に対してT細胞依存的な細胞傷害性を有することが具体的なデータにより示されている(1(1)エ【1125】、【1167】)。 したがって、引用文献1には、「ヒトCD3に結合する結合ドメインと、ヒト腫瘍抗原に結合する第2結合ドメインを含む、抗CD3 ヒトIgG二特異性抗体であって、当該腫瘍抗原を発現するヒト腫瘍細胞に対してインビボのT細胞依存的な細胞傷害性を有する二特異性抗体。」(以下、「引用発明」という。)の発明が記載されていると認められる。 (2) 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「ヒトRNF43」は引用発明の「ヒト腫瘍抗原」の一種であり、引用発明の「二特異性抗体」は本願発明の「多重特異性抗原結合分子」に該当する。また、引用発明は「ヒトIgG」であって、ヒトIgG Fc領域を含むものであるから、両者は、「ヒト腫瘍抗原結合活性を有する第1抗原結合ドメインと、ヒトCD3結合活性を有する第2抗原結合ドメインと、ヒトIgG Fc領域とを含む多重特異性抗原結合分子であって、当該腫瘍抗原を発現するヒト腫瘍細胞に対してインビボのT細胞依存性の細胞傷害性を有する多重特異性抗原結合分子。」である点で一致し、次の2点で相違している。 <相違点1> 本願発明は「ヒト腫瘍抗原」が「ヒトRNF43」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 <相違点2> 「ヒトIgG Fc領域」が、本願発明では「同じIgGアイソタイプの天然ヒトFc領域によるFcγ受容体への結合と比較して、ヒトFcγ受容体への結合が低下した改変ヒトIgG Fc領域」であるのに対し、引用発明では改変は加えられていない点。 (3) 相違点についての判断 まず、相違点1について検討すると、引用文献1には、腫瘍抗原としてRNF43を含む各種腫瘍抗原が例示されている(1(1)ウ【0064】)ところ、例示されたもののうちCD20、FcRH5、HER2及びLYPD1という4つもの腫瘍抗原を標的とした二特異性抗体が抗腫瘍効果を発揮したことが具体的データにより示されているのだから、例示された各腫瘍抗原についても同様に、それらを標的とした二特異性抗体を作出すれば、当該各腫瘍抗原を発現する腫瘍に対する抗腫瘍効果を発揮するであろうことが十分理解できる。したがって、腫瘍抗原として例示されたものの中から治療対象とする腫瘍の種類に応じてRNF43を選択することは、当業者が適宜なし得る程度のことであるといえる。 また、引用文献3には、腫瘍においてRNF43タンパク質が発現していることからRNF43が治療介入にとって魅力的な標的であることが記載され、ヒトRNF43に結合する抗体を多数作成し、当該抗体を用いたフローサイトメトリによりヒト腫瘍細胞表面のRNF43を特異的に検出できることも記載されている(1(2)イ、ウ、エ)。したがって、引用文献1に記載された各種腫瘍抗原の中からRNF43を選択した当業者が、抗RNF43抗体に関する先行技術である引用文献3を参照すればなおのこと、本願発明の上記相違点1に係る構成は容易に想到し得たものである。 次に、相違点2について検討すると、引用文献1においては、「7.抗体変異体」の一項目として「c.Fc領域変異体」が挙げられ、その冒頭で、Fcγ受容体への結合性が低下したFc領域変異体を開示する「米国特許出願公開第2012/0251531号明細書」が引用されるとともに、引用文献1記載の二特異性抗体は血中半減期が重要であるがADCCなどの特定のエフェクター機能が不必要または有害なときに、FcγR結合活性を欠く変異が望ましい候補となることや、FcγR結合活性を低下させる具体的なアミノ酸置換について、学術文献や上記米国特許出願公開明細書を引用して記載されている(1(1)ウ 【0993】、【0995】)。 したがって、引用文献1に接した当業者にとって、引用発明において、天然の同じIgGアイソタイプのFc領域と比較して、低下したFcγR結合親和性を有するFc改変を行うことは容易に想到し得たことにすぎない。 そして、本願発明が引用文献1及び3に基づいて当業者が予測し得る範囲を超える顕著な効果を有するとは認めることができない。 (4) 小括 上記(1)~(3)の次第であるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明、あるいは、引用文献1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-010734

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