特許拒絶査定不服審判
2022-003887
条件的活性型ポリペプチド及びそれを生成する方法
- 審判番号
- 2022-003887
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-531861
- 請求日
- 2022年03月15日
- 審決日
- 2024年09月24日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バイオアトラ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 審判長/審判官
- 審判長 福井 悟
- 審判官 高堀 栄二
- 審判官 中根 知大
- 分類
- P18 .121-WZ (C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-531861「条件的活性型ポリペプチド及びそれを生成する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 8日国際公開、WO2018/044619、令和 1年10月10日国内公表、特表2019-528323〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年 8月22日(パリ条約による優先権主張 2016年 8月31日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和 3年11月 9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和 4年 3月15日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。その後の当審における手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 5年11月21日付け 拒絶理由通知書
令和 6年 2月19日付け 意見書、手続補正書
第2 本願発明
本願の請求項1~12に係る発明は、令和 6年 2月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】
親抗体、親一本鎖抗体または親抗原結合性抗体断片から条件的活性型抗体、条件的活性型一本鎖抗体または条件的活性型抗原結合性抗体断片を調製する方法であって、
i.前記親抗体、親一本鎖抗体または親抗原結合性抗体断片をコードするDNAを、前記DNA中の荷電アミノ酸残基のコドンの全数の増加、前記DNA中の非荷電アミノ酸残基のコドンの全数の減少及びそれらの組み合わせから選択される1つ以上の技術を用いて前記親抗体、親一本鎖抗体または親抗原結合性抗体断片の正味電荷を増加させて、突然変異体DNAをもたらすように進化させる工程であって、前記荷電アミノ酸残基が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リシン及びヒスチジンから選択される、工程と、
ii.前記突然変異体DNAを発現させて突然変異体抗体、突然変異体一本鎖抗体または突然変異体抗原結合性抗体断片を取得する工程と、
iii.突然変異体抗体、突然変異体一本鎖抗体または突然変異体抗原結合性抗体断片を、第1のpHのpH6.0での抗原に対する結合活性の第1のアッセイ、第2のpHのpH7.4での抗原に対する結合活性の第2のアッセイ、および第2のアッセイの第2のpHをpH6.0に調節して得られたアッセイ媒体中の抗原に対する結合活性のアッセイに供してpH7.4での結合活性の可逆的不活性化を判断する工程と、
iv.第1のpHのpH6.0での第1のアッセイにおいて、第2のpHのpH7.4での第2のアッセイにおける同じ結合活性と比較して、結合活性の増加を呈し、且つ結合活性が第2のpHのpH7.4で可逆的に不活性化される前記条件的活性型抗体、条件的活性型一本鎖抗体または条件的活性型抗原結合性抗体断片を前記突然変異体抗体、突然変異体一本鎖抗体または突然変異体抗原結合性抗体断片から選択する工程と
を含む方法。」
第3 当審で通知した拒絶の理由
令和 5年11月21日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由1(進歩性)の概要は、請求項1~12に係る発明は、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1~2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:国際公開第2016/036916号
引用文献2:特表2013-541940号公報
第4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定
当審の拒絶理由で引用文献1として引用した、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である国際公開第2016/036916号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は合議体による。)。
ア.「1. 条件的活性型生物学的タンパク質を作製する方法であって、
i.野生型生物学的タンパク質を選択する工程と、
ii.前記野生型生物学的タンパク質をコードするDNAを、1つ以上の進化的技術を用いて、突然変異体DNAをもたらすように進化させる工程と、
iii.真核細胞産生宿主で前記突然変異体DNAを発現させて、突然変異体タンパク質を取得する工程と、
iv.前記突然変異体タンパク質及び前記野生型タンパク質を、正常生理条件下でのアッセイ及び異常条件下でのアッセイに供する工程と、
v.工程(iii)で発現した前記突然変異体タンパク質であって、(a)前記正常生理条件での前記アッセイにおいて、前記野生型タンパク質と比較して、活性の低下、及び(b)前記異常条件下での前記アッセイにおいて、前記野生型タンパク質と比較して、活性の増加、のうちの少なくとも1つを呈する条件的活性型生物学的タンパク質を前記突然変異体タンパク質から選択する工程と、
vi.工程(iii)で使用したのと同じ真核細胞産生宿主で前記条件的活性型生物学的タンパク質を作製する工程と
を含む方法。
2. 前記条件的活性型生物学的タンパク質が、(a)前記正常生理条件での前記アッセイにおいて、前記野生型タンパク質と比較して、活性の低下、及び(b)前記異常条件下での前記アッセイにおいて、前記野生型タンパク質と比較して、活性の増加の両方を呈する、請求項1に記載の方法。
3. 前記野生型生物学的タンパク質が抗体である、請求項1又は2に記載の方法。
・・・・・・・・・・・・
6. 前記正常生理条件が、正常生理温度、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス及び電解質濃度のうちの1つ以上から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
・・・・・・・・・・・・
8. 前記進化させる工程が、PCR、エラープローンPCR、シャッフリング、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発、アセンブリPCR、セクシャルPCR突然変異誘発、インビボ突然変異誘発、カセット突然変異誘発、再帰的アンサンブル突然変異誘発、指数関数的アンサンブル突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、遺伝子リアセンブリ、遺伝子部位飽和突然変異誘発、インビトロ突然変異誘発、リガーゼ連鎖反応、オリゴヌクレオチド合成及びこれらの組み合わせからなる群から選択される技法を含む、請求項1又は2に記載の方法。
・・・・・・・・・・・・
25. 請求項1~24のいずれか一項に記載の方法によって調製される条件的活性型生物学的タンパク質であって、正常生理条件で可逆的又は不可逆的に不活性化される条件的活性型生物学的タンパク質。」(請求項1~25)
イ.「[00032] 用語「抗体」は、本明細書で使用されるとき、インタクトな免疫グロブリン分子、並びにFab、Fab’、(Fab’)2、Fv、及びSCA断片などの抗原のエピトープとの結合能を有する免疫グロブリン分子の断片を指す。これらの抗体断片は、それが由来する抗体の抗原(例えばポリペプチド抗原)に選択的に結合するいくらかの能力を保持しているものであり、・・・・・・・・・・・・キメラ抗体、ヒト様抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体が、ヒト患者への投与に特に有用である。」([00032])
ウ.「[000124] 本明細書で使用されるとき、用語「一本鎖抗体」は、概してスペーサーペプチドを介して連結された、ポリペプチド連鎖におけるVHドメインとVLドメインとを含むポリペプチドであり、且つアミノ末端及び/又はカルボキシ末端に追加的なアミノ酸配列を含み得るものを指す。例えば、一本鎖抗体は、コードポリヌクレオチドに連結するための係留セグメントを含み得る。例として、scFvは一本鎖抗体である。・・・・・・・・・・・・」([000124])
エ.「[000144] 本明細書で使用されるとき、用語「野生型」は、ポリヌクレオチドがいかなる突然変異も含まないことを意味する。「野生型(wild type)タンパク質」、「野生型(wild-type)タンパク質」、「野生型(wild-type)生物学的タンパク質」、又は「野生型(wild type)生物学的タンパク質」は、自然から単離することのできる、自然中に見られる活性レベルで活性であり、且つ自然中に見られるアミノ酸配列を含むタンパク質を指す。野生型タンパク質は、ヒトタンパク質、哺乳類タンパク質、ヒトウイルスタンパク質又は哺乳類タンパク質であり得る。用語「親分子」及び「標的タンパク質」も野生型タンパク質を指す。野生型タンパク質は好ましくは、より高い結合親和性及び/又は酵素活性、特定の温度及び/又はpHにおけるより良好な安定性、向上した選択性及び/又は溶解度など、何らかの所望の特性を有する。かかる野生型タンパク質は、タンパク質ライブラリを所望の特性に関してスクリーニングして得ることができる。」([000144])
オ.「[000146] 本開示はまた、野生型条件において可逆的に又は不可逆的に不活性であるが、野生型条件と同じ又は等しいレベルの非正常条件において活性である新規な分子を生成するためのタンパク質を操作又は進化させる方法を指示する。これらの新規なタンパク質はまた、「Mirac」タンパク質として本明細書に参照される。Miracタンパク質は、宿主内において短い又は限定的な期間において活性化する新規な治療薬の開発において特に価値がある。宿主に有害であるが、限定された活性が、所望の治療を実行するのに必要である、投与されるタンパク質の拡張された操作において、これは特に価値がある。有益な適用の実施例は、高濃度においての局所的治療と同様に、高投与量での局所的又は全身的治療を含む。生理的条件下での不活性化は、投与の組み合わせ及びタンパク質の不活性化の割合によって決定されることがある。この条件に基づいた不活性化は、触媒活性が比較的短い期間において実質的に負の影響を引き起こすとき、酵素治療において特に重要である。」([000146])
カ.「親分子からの進化させた分子の生成
[000264] 条件的活性型生物学的タンパク質は、野生型タンパク質の突然変異誘発プロセスと、非野生型条件での活性が野生型条件での活性と同じに留まるか、又はそれより良好でありながら野生型条件では活性が低下することに関する個々の突然変異のスクリーニングとによって生成することができる。
[000265] 任意の化学的合成又は組換え突然変異誘発方法を用いて変異ポリペプチド集団を生成し得る。本発明の実施には、特に指示されない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、及び免疫学の従来技術を用い得る。かかる技法は文献に十分に説明されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,2nd Ed.,ed.by Sambrook,Fritsch and Maniatis(Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989);DNA Cloning,Volumes I and II(D.N.Glover ed.,1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.,1984);Mullisらの米国特許第4,683,195号明細書;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames&S.J.Higgins eds.1984);Transcription And Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins eds.1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);the treatise,Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Cabs eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology,Vols.154 and 155(Wu et al.eds.),Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,Volumes l-IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986);Manipulating the Mouse Embryo,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照のこと。
・・・・・・・・・・・・
[000269] 開始分子から選択的タンパク質を作るために、現在、広く使われている突然変異誘発の方法は、オリゴヌクレオチド指定突然変異技術、エラープローンポリメラーゼ鎖反応(エラープローンPCR)及びカセット突然変異誘発であり、そこでは、最適化される特定の領域は、合成的に突然変異を誘発されたオリゴヌクレオチドと置換される。これらの場合、多くの突然変異部位は元の配列における特定の部位の周辺で発生する。
[000270] オリゴヌクレオチド指定突然変異において、短い配列は、合成的に突然変異を誘発されたオリゴヌクレオチドと置換される。オリゴヌクレオチド指定突然変異において、ポリヌクレオチドの短い配列は、制限酵素消化を使用する合成ポリヌクレオチドから除かれ、様々な塩基が元の配列から変更された合成ポリヌクレオチドと置換される。ポリヌクレオチド配列は化学的突然変異誘発によって変更されることもある。化学的突然変異ゲ原は、例えば、重亜硫酸ナトリウム、亜硝酸、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、又はギ酸を含む。ヌクレオチド前駆体と類似の他の薬剤は、ニトロソグアニジン、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、又はアクリジンを含む。一般的に、これらの薬剤は、それにより配列を変位させるヌクレオチド前駆体の代わりにPCR反応に加えられる。プロフラビン、アクリフラビン、キナクリンなどのような薬剤の挿入が使用されることもある。ポリヌクレオチド配列のランダムな突然変異誘発は、X線又は紫外線照射によって得られることがある。一般的に、突然変異誘発されたプラスミドポリヌクレオチドは、大腸菌(E.coli)内に導入され、交雑プラスミドのプール又はライブラリとして伝播される。
[000271] エラープローンPCRは、長い配列にわたってランダムに点突然変異の低レベルを導入するための低忠実度重合条件を使用する。未知の配列の断片の混合物において、エラープローンPCRは、混合物を突然変異誘発するのに用いられることがある。
[000272] カセット突然変異誘発において、単一テンプレートの配列遮断は、典型的にはランダム配列によって(部分的に)置換される。Reidhaar-Olson J F and Sauer R T:Combinatorial cassette mutagenesis as a probe of the informational content of protein sequences.Science 241(4861):53-57,1988。
・・・・・・・・・・・・
[000274] 部位飽和点突然変異誘発の1つの方法は、米国特許出願公開第2009/0130718号明細書に記載されており、本明細書に参照により組み込まれている。この方法は、テンプレートポリヌクレオチドのコドンに対応する一連の変性プライマーを提供し、及び変性プライマーに対応する配列を含む子孫ポリヌクレオチドを製造するためのポリメラーゼ伸長を実行する。子孫ポリヌクレオチドは、直接的進化において発現され、及びスクリーニングされる。具体的には、これは、一連の子孫ポリペプチドを製造するための方法であって、工程(a)テンプレートポリペプチド配列をエンコードするコドンの複数からそれぞれなるテンプレートポリペプチドのコピーを提供する工程、及び(b)テンプレートポリヌクレオチドの各コドンにおいて、(1)一連の変性プライマーを提供する工程、そこでは、各プライマーはテンプレートポリヌクレオチドのコドンに対応する変性コドンからなり、少なくとも1つの隣接配列は、テンプレートポリヌクレオチドのコドンに隣接する配列に相同である、(2)プライマーがテンプレートポリヌクレオチドのコピーにアニール可能な条件を提供する工程、及び(3)テンプレートに沿ったプライマーからのポリメラーゼ伸長反応を実行する工程の(1)~(3)の工程を実行し、それによって子孫ポリヌクレオチドを提供し、それぞれがアニールされたプライマーの変性コドンに対応する配列を含み、それによって一連の子孫ポリヌクレオチドを製造する。
[000275] 部位飽和突然変異誘発は、核酸の誘導された進化及び例えば核酸活性及び/又は特異的タンパク質、特に酵素、対象の活性のような結果として生じる対象の活性において進化した核酸を含むクローンのスクリーニングに関するものである。
[000276] この技術によって提供された突然変異誘発された分子は、糖、脂質、核酸及び/又はタンパク質組成物を含む生物学的分子を含む、キメラ分子及び点突然変異を有する分子を有することがあり、及び特異的であるが非限定的なこれらの実施例は、抗生物質、抗体、酵素、及びステロイド及び非ステロイドホルモンを含む。
[000277] 部位飽和突然変異誘発は、1)分子の子孫世代を調製する工程(ポリヌクレオチド配列からなる分子、ポリペプチドからなる分子、及びポリヌクレオチド配列の部分及びポリペプチド配列の部分からなる分子を含む)、これは少なくとも1つの点突然変異、付加、欠失及び/又はキメラ化を1つ以上の祖先又は親世代テンプレートから得るための突然変異誘発である、2)子孫生成分子をスクリーニングする工程 - 好適には、対象の少なくとも1つの性質(例えば、酵素活性における改良、又は安定性の増加、又は新規の化学療法的効果)において、高スループット法を使用する工程、3)親及び/又は子孫世代分子に関する構造及び/又は機能的情報を任意選択により得る及び/又は一覧にする工程、及び4)任意の工程1)~3)を任意選択により繰り返す工程からなる方法を一般的に意味する。
[000278] 部位飽和突然変異誘発において、生成された(例えば、親ポリヌクレオチドテンプレートから)「コドン部位飽和突然変異誘発」と称されるポリヌクレオチドの子孫世代は、全てのコドン(又は同じアミノ酸をエンコードする変性コドンの全系統)が各コドン位置で表れるように、それぞれが、3つ以上の隣接点突然変異(すなわち、新しいコドンからなる異なる塩基)の少なくとも1組を有する。このポリヌクレオチドの子孫世代に対応する、及びこのポリヌクレオチドの子孫世代によってエンコードされるのは、それぞれ少なくとも1つの単一アミノ酸点突然変異を有する、生成された一連の子孫ポリペプチドである。好適な態様において、生成された「アミノ酸部位飽和突然変異誘発」と称される一例は、ポリペプチドに沿った各アミノ酸位置及び全アミノ酸位置でアルファアミノ酸置換を形成する、自然にエンコードされる19のポリペプチドのそれぞれにおける変異ポリペプチドである。この収量は - 親ポリペプチドに沿った各アミノ酸位置及び全アミノ酸位置 - 元のアミノ酸を含む20の異なる子孫ポリペプチドの全て、又は付加アミノ酸が、20の自然にエンコードされたアミノ酸の代わりに、又は付加されてのいずれかで使用される場合、潜在的に21以上の異なる子孫ポリペプチドである。」([000264]~[000278])
キ.「変異体のスクリーニングによる可逆的又は非可逆的変異体の同定
[000323] 望ましい分子の同定は、許容型の条件及び野生型の条件におけるタンパク質活性を測定することによって、非常に直接的に達成される。最も高い活性の比(許容型/野生型)を示す変異体を、次いで選択し、標準的な方法を用いて個々の変異を組み合わせることで、点変異の並べ替え(permutation)を生成することができる。次いで、この組み合わせた並べ替えタンパク質ライブラリから、許容型と野生型の活性に最も大きい差を示すタンパク質をスクリーニングする。
[000324] 上清の活性を、様々な方法、例えば、蛍光アッセイなどのハイスループットな活性アッセイを使ってスクリーニングして、希望する特性(温度、pHなど)に感受性を有する、タンパク質変異体を同定することが可能である。例えば、時間的感受性の変異体をスクリーニングするためには、個々の変異体ごとに、低い温度(25℃など)と、元のタンパク質が機能する温度(37℃など)とにおいて、商業的に利用可能な基質を用いて、酵素活性又は抗体活性の測定を行う。反応は、最初は96ウェルアッセイなどのマルチウェルアッセイの形式で行われ、14mlチューブ形式などの異なる形式を用いて確認されてもよい。
[000325] 本開示は、酵素を同定するためのスクリーニングアッセイをさらに提供するものであって、アッセイは、(a)複数の核酸又はポリペプチドを提供する工程と、(b)複数の核酸又はポリペプチドから、酵素活性をテストするためのポリペプチドの候補を取得する工程と、(c)候補の酵素活性をテストする工程と、(d)これらのポリペプチドの候補であって、例えば、温度、pH、酸化的ストレス、浸透圧性、電解質濃度、又は浸透圧の条件が、異常な条件又は非生理的な条件下において、野生型酵素タンパク質に比べてより高い酵素活性を示し、通常の生理的な条件下において、より低い酵素活性を示すものである、ポリペプチドの候補を同定する工程とを有するものである。
[000326] 一態様において、本方法は、候補の条件的生物活性をテストする前に、少なくとも1つの核酸又はポリペプチドを修飾する工程をさらに含み、別の態様において、テストする工程(c)は、宿主細胞又は宿主生物におけるポリペプチドの発現の向上をテストする工程をさらに含み、さらなる態様において、テストする工程(c)は、約pH3~約pH12のpH範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。さらなる態様において、テストする工程(c)は、約pH5~約pH10のpH範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。さらなる態様において、テストする工程(c)は、約pH6~約pH8のpH範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。さらなる態様において、テストする工程(c)は、約pH6.7及び約pH7.5で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、テストする工程(c)は、約4℃~約55℃の温度範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、テストする工程(c)は、約15℃~約47℃の温度範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、テストする工程(c)は、約20℃~約40℃の温度範囲内で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、テストする工程(c)は、約25℃及び約37℃で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、テストする工程(c)は、正常な浸透圧下、及び異常な(正又は負の)浸透圧下で酵素活性をテストする工程をさらに含む。別の態様において、テストする工程(c)は、正常な電解質濃度下、及び異常な(正又は負の)電解質濃度下で酵素活性をテストする工程をさらに含む。テストされる電解質濃度は、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩素、重炭酸、及びリン酸濃度の1つから選択され、別の態様において、テストする工程(c)は、安定した反応産物をもたらす酵素活性をテストする工程をさらに含む。
[000327] 別の態様において、本開示は、酵素活性を有する本開示のポリペプチド又はその断片に特異的に結合する精製抗体を提供する。一態様において、本開示は、酵素活性を有するポリペプチドに特異的に結合する抗体の断片を提供する。
[000328] スクリーニング分析の正常生理条件及び異常条件は、温度、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化、及び電解質濃度から選択される任意の条件、並びに2つ以上のかかる条件の組み合わせであり得る。例えば、温度に関する正常生理条件は37.0℃の正常なヒト体温であってもよく、一方、温度に関する異常条件は、37.0℃の温度と異なる温度であってもよい。正常生理条件及び異常条件はまた、正常な生理的pH及び異常なpHであってもよい。
[000329] 正常生理条件下及び異常条件下の両方とも、分析は、例えば緩衝液を含有し得る媒体、例えば液体媒体を使用して実施され得る。一般的なスクリーニング緩衝液はクレブス緩衝液である。しかしながら、分析に好適であることが当業者に公知の他の緩衝液が用いられてもよい。これらの緩衝液の多くは、血清又はリンパ液などの体液の組成を模擬しようとするものである。本発明の方法で使用される緩衝液は、哺乳動物又はヒトの体液に一般に見出される無機化合物、イオン及び有機分子の1つ以上から選択される少なくとも1つの構成成分を含有し得る。かかる構成成分の例としては、少なくとも栄養素及び代謝産物、並びに体液に見られ得る任意の他の構成成分が挙げられる。これらの実施形態において、緩衝液中の構成成分の濃度は、哺乳動物、好ましくはヒトの天然に存在する体液中に典型的に見られる同じ構成成分の濃度と同じ又は実質的に同じであり得る。これは、体液中のその構成成分の正常生理的濃度と称され得る。
[000330] 一実施形態において、正常生理条件下での分析は、正常な生理的pH、例えばpH7.4の組成物で実施される。この分析は、哺乳動物又はヒトの体液に一般に見出される無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される少なくとも1つの構成成分の存在下で行われる。異常条件下での分析は、緩衝液など同じ構成成分の存在下で、pH6など、正常な生理的pHと異なる異常なpHで実施される。従って、この実施形態において両分析が行われる流体は、好ましくは正常な生理的濃度の範囲内であるか又はそれに近いものであるべき同じ濃度の同じ1つ又は複数の構成成分を含む。」([000323]~[000330])
ク.「[000356] 一実施形態において、条件的活性型生物学的タンパク質は抗体であり、これは異常条件での活性と正常生理条件での活性との比が少なくとも約5:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約7:1、又は少なくとも約8:1、又は少なくとも約9:1、又は少なくとも約10:1であり得る。一実施形態において、この条件的活性型生物学的タンパク質は腫瘍部位の標的化に使用され、条件的活性型生物学的タンパク質は腫瘍部位で特別な活性を有し、非腫瘍部位(正常生理条件)では同じ活性に関して活性が大幅に低いか、又は不活性である。」([000356])
ケ.「[000431] 一部の実施形態において、本発明は、BBB-Rに対する親抗体又は野生型抗体から生成される条件的活性型抗体を提供する。この条件的活性型抗体は、BBBの血液側ではBBB-Rに結合し、BBBの脳側ではBBB-Rに対する親和性が親抗体又は野生型抗体より低い。一部の他の実施形態において、この条件的活性型抗体は、BBBの血液側では野生型抗体又は親抗体と比べてBBB-Rに対する親和性を有し、BBBの脳側ではBBB-Rに対する親和性を有しない。」([000431])
コ.「腫瘍に対する条件的活性型生物学的タンパク質の操作
[000452] 固形腫瘍の癌細胞は、その周囲に腫瘍微小環境を形成して癌細胞の成長及び転移を支援する能力を有する。腫瘍微小環境は、周囲血管、免疫細胞、線維芽細胞、他の細胞、可溶性因子、シグナル伝達分子、細胞外マトリックス、並びに新生物形質転換を促進し、腫瘍成長及び浸潤を支援し、腫瘍を宿主免疫から保護し、治療抵抗性を助長し、及び潜伏転移が発育するためのニッチを提供することのできる機械的キューを含めた、腫瘍が存在する細胞環境である。・・・・・・・・・・・・
[000454] 加えて、腫瘍細胞は、酸素を必要としない乳酸発酵によって生成されるエネルギーに頼る傾向がある。そのため腫瘍細胞は、酸素を必要とする通常の好気的呼吸を使用することが少ない。乳酸発酵を使用する結果、腫瘍微小環境は酸性となり(pH6.5~6.9)、これは典型的に中性又は弱塩基性のいずれかである体の他の部分と対照的である。例えば、ヒト血漿は約7.4のpHを有する。・・・・・・・・・・・・
[000456] 従って、腫瘍微小環境は、血漿中における生理条件など、体の他の部分の生理条件と異なる少なくともいくつかの生理条件を有する。腫瘍微小環境は、体の他の部分、特に血漿(pH7.4)と比べてpH(酸性)が低い。腫瘍微小環境は、血漿などの体の他の部分と比べて酸素濃度が低い。また、腫瘍微小環境は、体の他の部分、特に血漿と比べて栄養素の利用可能性も低い。腫瘍微小環境はまた、体の他の部分、特に血漿にはあまり見られないいくつかの特徴的な細胞型も有する。
・・・・・・・・・・・・
[000462] 一部の実施形態において、本発明は、腫瘍治療候補であり得る野生型生物学的タンパク質から生成される条件的活性型生物学的タンパク質を提供する。この条件的活性型生物学的タンパク質は、血漿などの腫瘍微小環境以外の体の部分における少なくとも1つの生理条件下で野生型生物学的タンパク質より低い活性を有し、一方、腫瘍微小環境における少なくとも1つの生理条件下で野生型生物学的タンパク質より高い活性を有する。かかる条件的活性型生物学的タンパク質は、腫瘍を治療するため腫瘍微小環境にある癌細胞に優先的に作用することができ、従って副作用を引き起こしにくい。生物学的タンパク質が腫瘍細胞の表面上の抗原(抗原が腫瘍微小環境に曝露している)に対する抗体である実施形態において、条件的活性型抗体は、体の他の部分、例えば非腫瘍微小環境では抗原に対する親和性が野生型抗体より低く、一方、腫瘍微小環境では抗原に対する親和性が野生型抗体より高い。かかる条件的活性型抗体は、体の他の部分では抗原に弱く結合し得るか、又は全く結合せず、しかし、腫瘍微小環境では抗原により高い結合性を有し、又は強力且つ緊密に結合する。」([000452]~[000462])
サ.「実施例6.最適な抗体発現のためのFcコドン変異体ライブラリの作成及びスクリーニング
[000547] 本例は、親型のFcポリペプチドと比較して産生宿主細胞における発現が向上するように最適化されたFc変異体を得るためのFcコドン変異体ライブラリの作成方法及びスクリーニング方法を提供する。
Fcコドン変異体ライブラリの設計及び構築
[000548] 標的範囲(この場合ヒトIgG1分子のFc部)の各コドンについて、標的コドン及び両側に20塩基を含む縮重プライマー(フォワード及びリバース)の対を設計する。標的コドンの3番目の位置(ゆらぎ位置)は、同じコドンを使用した標的位置における全てのサイレント突然変異の発生を可能にする混合塩基(表2)を含有する(例A)。同じコドン位置について、対応するアミノ酸が別のコドンよってコードされ得る場合、第2の縮重プライマーの組を設計する(例B)。対応するフォワード及びリバース縮重プライマーを1:1混合し、テンプレートにアニールし、且つ耐熱性DNAポリメラーゼを使用したストランド置換によって完全長産物に伸長する。テンプレートをDpnIで消化し、完全長伸長産物を大腸菌(E.coli)に形質転換する。突然変異誘発反応当たり最大12個のコロニーを配列決定する。配列が確認された変異体を96ウェルプレートにアレイ化し、グリセロール保存する。このグリセロールストックを使用して、哺乳類細胞へのトランスフェクション及びスクリーニング用のプラスミドDNAをミニプレップする。
Fcコドン変異体ライブラリの発現及びELISAベースのスクリーニング
[000549] Fcコドン変異体ライブラリからのクローンを哺乳類細胞株にトランスフェクトした。完全長IgGが産生され、培地中に分泌された。親クローンより高いIgG発現レベルに関して、発現したFcコドン変異体の上清をELISA分析を用いてスクリーニングした。ELISAデータは、トランスフェクション効率を計測することによってβ-ガラクトシダーゼ分析で正規化した。一次スクリーニングで同定された上位ヒットの再トランスフェクション及び再スクリーニングを3回行い、発現レベルの増加を確認した。
実施例7:scFv条件的活性型抗体の作成
[000550] 薬物標的Xに対する2つの条件的活性型抗体(CAB-scFv-63.9-4及びCAB-scFv-63.9-6)を野生型ヒトIgG1 Fcとのホモ二量体として発現させ(図2~図3の二価抗体CAB-scFv-63.9-4-01及びCAB-scFv-63.9-6-01が得られた)、並びにノブインホールシステムのヘテロ二量体として発現させて一価scFvを得た(図2~図3の一価抗体scFv CAB-scFv-63.9-4-02及びCAB-scFv-63.9-6-02が得られた)。
[000551] pH6.0及びpH7.4での薬物標的Xに対するこれらの抗体の結合親和性をELISA分析によって計測した。図2に示されるように、これらのscFv抗体はpH6.0及びpH7.4の両方で薬物標的Xに親和性を示し、この親和性は完全二価抗体と同等であった。さらに、図3に示されるように、pH7.4と比べたpH6.0でのこれらのscFv抗体の選択性も完全二価抗体と同等であった。この例では、本発明の条件的活性型抗体がscFv抗体又は完全二価抗体のいずれとしても同等の親和性及び選択性を有することが実証された。従って、本発明の条件的活性型抗体は、本発明のCAR-TプラットフォームにおいてCARをコードするDNA分子に単一DNA鎖として挿入し得る。
実施例8:条件的活性型抗体の発現
[000552] 本発明の一実施形態において、選択性及び親和性、並びにpH6.0及びpH7.4の両方での発現レベルに関して同時にスクリーニングすることにより、薬物標的Xに対する条件的活性型抗体を生成した。血清中にスクリーニングに関して偽陽性を生じ得るヒト抗体があったため、スクリーニングは血清中でFLAGタグを使用して行った。スクリーニング緩衝液は、カーボネート緩衝液(リンゲル標準緩衝液を含むがPBSとは異なるクレブス緩衝液)であった。生成された条件的活性型抗体は、両方ともに野生型抗体との比較において、pH6.0で薬物標的Xに対してより高い親和性を有するが、同じ薬物標的Xに対してpH7.4では親和性がより低いことが分かった。さらに、これらの条件的活性型抗体は全て、以下の表3に示すように(列「クローン」は抗体を示し、及び発現レベル「mg/ml」が2番目の列に示される)、高い発現レベルを有する。
[000553] これらの抗体のクローンを依頼発現レベル(「注文量」、予想発現レベル)と共にサービス提供者に送った。しかしながら、これらの抗体の実際の発現レベル(「納品量」)は極めて高く、予想発現レベルを超えていた。
[000554] 図4に例としてBAP063.9-13-1抗体を使用して示すように、条件的活性型抗体は緩衝液中で凝集を示さなかった。BAP063.9-13-1抗体はサイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。図4では唯1つのピークが検出され、抗体の凝集がほとんど又は全くないことが実証された。
[000555] 条件的活性型抗体はまた、表面プラズモン共鳴(SPR)も用いて分析し、薬物標的Xに対するそのオン及びオフ速度を計測した。SPR分析は、条件的活性型抗体のオン及びオフ速度を計測することが知られている。SPR分析は重炭酸塩の存在下で実施した。条件的活性型抗体のインビボでの(動物及びヒトにおける)オン及びオフ速度は、条件的活性型抗体にとって極めて重要な特徴である。
[000556] 条件的活性型抗体は、陰性対照(BAP063 10F10、これはpH6.0及びpH7.4の両方で同様のオン速度を有する)との比較において、pH6.0でオン速度が速く、pH7.4ではより遅いオン速度であることが観察された(図5)。加えて、室温から60℃に温度を上げても、SPR分析結果が大幅に変わることはない(図5)。SPR分析はまた、これらの条件的活性型抗体が、pH7.4と比較したときpH6.0で極めて選択的であることも示した(図6A~図6Bは例として1つの抗体を示す)。
[000557] 条件的活性型生物学的抗体について、表4に要約する。これらの抗体のうちの2つはscFvとして発現させた(BAP063.9-13.3及びBAP063.9-48.3)。抗体を60℃で1時間インキュベートしたが、抗体の多くの親和性は変化しなかった(「熱安定性」)。SPRを用いたpH6.0及びpH7.4での結合活性の計測データを報告する2つの列において(表4の最後2つのカラム)、「BAP063.6-hum10F10-FLAG」(陰性対照、表4の第2列)との比較を行った。これらの抗体の選択性は、2つの最終カラムのデータ間の差により決定し得る。2つのscFv抗体は極めて高い選択性(pH7.4で0%に対し、pH6で75%及び50%)を有した。
」([000547]~[000557])
シ.「実施例9:抗体の軽鎖又は重鎖を進化させる
[000558] 抗体F1-10F10の重鎖及び軽鎖を、CPEを用いて別個に進化させた。軽鎖変異体をスクリーニングすると、条件的活性を有する26個の軽鎖変異体が見付かり、この場合、変異体は、pH6.0では野生型と比べて活性がより高く、且つ変異体はpH7.4で野生型と比べて活性が低かった。26個の軽鎖変異体は、軽鎖の8つの異なる位置にその突然変異を有した。それらの8つの位置のうちの3つは、26個の軽鎖変異体のうちの6個以上に見られた。これらの3つの位置を、軽鎖におけるホットスポットと見なした。重鎖変異体をスクリーニングすると、条件的活性を有する28個の重鎖変異体が見付かった。これらの28個の重鎖変異体は、重鎖の8つの異なる位置にその突然変異を有した。それらの8つの位置のうちの3つは、28個の重鎖変異体のうちの6個以上に見られた。これらの3つの位置を、重鎖におけるホットスポットと見なした。軽鎖変異体及び重鎖変異体の条件的活性は、ELISA分析によって確認した。
[000559] この例で生成された最良の条件的活性型抗体は、pH7.4でのその活性に対するpH6.0でのその活性が17倍の差であった。加えて、条件的活性型抗体の多くが、7.4の正常生理的pHと6.0の異常pHとの間のpHで可逆の活性を有した。興味深いことに、ELISA分析によって5.0~7.4のpH範囲で条件的活性型抗体の活性を試験したとき、この例で生成された条件的活性型抗体のほとんどが約5.5~6.5のpHで最適な結合活性を呈した。
[000560] この例で生成された条件的活性型抗体の活性はまた、全細胞を使用したFACS(蛍光活性化細胞選別)分析によっても確認し、ここではCHO細胞を使用して、pH6.0及びpH7.4で抗体の抗原を発現させた。条件的活性型抗体をCHO細胞に加えることにより、結合活性を計測した。FACS分析により、pH7.4と比べたpH6.0での条件的活性型抗体の選択性に関するELISA分析の結果に一般的な傾向が確認された。
実施例10:特殊緩衝液中における条件的活性型抗体の選択
[000561] 本発明における進化させる工程によって生成した変異体抗体を、7.4の正常生理的pHでの分析及び6.0の異常なpHでの分析に供した。両方の分析とも、ヒト血清に見られる重炭酸塩を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液を使用して実施した。溶液中の重炭酸塩の濃度は、ヒト血清中の典型的な重炭酸塩濃度、すなわち生理的濃度であった。重炭酸塩を含有しない同じPBS溶液を使用して、比較試験を行った。
[000562] この例の変異体抗体又は条件的活性型抗体の結合活性を計測するための分析は、ELISA分析であった。重炭酸塩を含有するPBS緩衝溶液における分析は、条件的活性型抗体の選択に関して有意に高い成功率をもたらしたことが分かった。加えて、重炭酸塩を含有するPBS緩衝溶液を使用して選択された条件的活性型抗体は、pH7.4での活性に対するpH6.0でのその活性の比がはるかに高い傾向があり、従って有意に高い選択性をもたらした。
[000563] さらに、選択された条件的活性型抗体(重炭酸塩を含むPBS緩衝溶液を使用)を、重炭酸塩を含まないPBS緩衝溶液中で試験したとき、pH7.0と比べたpH6.0での条件的活性型抗体の選択性は有意に低下したことが確認された。しかしながら、このPBS緩衝溶液に生理的量の重炭酸塩を添加すると、同じ条件的活性型抗体の選択性が回復した。
[000564] 別の分析において、選択された条件的活性型抗体を、重炭酸塩を添加したクレブス緩衝溶液で試験した。pH7.4での活性に対するpH6.0での活性のより高い比が、重炭酸塩を添加したこのクレブス緩衝溶液においても観察された。これは、少なくとも部分的には、クレブス緩衝溶液中の重炭酸塩の存在に起因した可能性があるものと思われる。
[000565] PBS緩衝溶液中で重炭酸塩濃度をその生理的濃度未満の濃度に低下させると、7.4の正常な生理的pHにおける条件的活性型抗体の活性が増加したことが観察された。pH7.4での条件的活性型抗体の活性の増加は、PBS緩衝溶液中の重炭酸塩濃度の低下に関係することが観察された。
[000566] 野生型抗体は、pH7.4で分析したとき、条件的活性型抗体について試験したPBS緩衝溶液中の同じ重炭酸塩濃度のいずれにおいてもその活性が同じままであったため、PBS緩衝溶液中の重炭酸塩量の違いによる影響は受けなかった。
実施例11:異なる緩衝液における条件的活性型抗体の選択
[000567] 本発明に係る進化させる工程によって生成した変異体抗体を、正常な生理的pH(7.4)でのELISA分析及び異常なpH(6.0)でのELISA分析に供した。いずれのELISA分析も、ウシ血清アルブミン(BSA)含有クレブス緩衝液ベースの緩衝液、並びに重炭酸塩及びBSA含有PBS緩衝液ベースの緩衝液を含む種々の緩衝液を使用して実施した。
[000568] 重炭酸塩含有PBS緩衝溶液中での分析を用いて選択された条件的活性型抗体は、重炭酸塩を含まないPBS緩衝溶液中での分析を用いて選択されたものとの比較において、pH7.4での活性に対するpH6.0での活性の比がはるかに高かった。加えて、重炭酸塩が添加されたクレブス緩衝溶液も、重炭酸塩を含まないPBS緩衝溶液中での分析と比較したとき、pH7.4での活性に対するpH6.0での活性の比がより高かった。望ましい条件的活性型抗体の選択に重炭酸塩が重要であるものと思われる。」([000558]~[000568])
当審の拒絶理由で引用文献2として引用した、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特表2013-541940号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による。)。
ス.「【請求項1】
腫瘍を治療し、中性pHよりも低pHで活性である治療用タンパク質を同定/選択する方法であって、
a)低pHを含む条件下でタンパク質の活性を試験することと、
b)中性pHを含む条件下でタンパク質の活性を試験することと、
c)a)における活性を、b)における活性と比較することと、
d)b)と比較して、a)においてより大きな活性を有するタンパク質を選択/同定し、それによって、高pHよりも低pHで活性であるタンパク質を同定することと
を含む方法。
【請求項2】
低pHが、7.4未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
低pHが、5.8~6.8の間またはほぼ5.8~6.8の間である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
中性pHが、7.2~7.6の間またはほぼ7.2~7.6の間である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
中性pHが、約7.4であるかまたは7.4である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
・・・・・・・・・・・・
【請求項8】
非腫瘍微小環境においてよりも腫瘍微小環境においてより活性である治療用タンパク質を同定/選択する方法であって、
a)腫瘍微小環境において存在するが、活性が望まれる非腫瘍環境には存在しない条件下でタンパク質の活性を試験することと、
b)非腫瘍微小環境において存在する条件下でタンパク質の活性を試験することと、
c)a)における活性を、b)における活性と比較することと、
d)b)と比較して、a)において大きな活性を有するタンパク質を選択/同定し、それによって、非腫瘍微小環境においてよりも腫瘍微小環境においてより活性であるタンパク質を同定することと
を含む方法。
・・・・・・・・・・・・
【請求項12】
a)およびb)の各々を、腫瘍微小環境において存在するが非腫瘍微小環境においては存在しない条件(単数または複数)を除いて、同一条件下で実施する、請求項8から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
腫瘍微小環境において存在する条件が、血管新生の増大、低酸素、pHの低下、乳酸濃度の上昇、ピルビン酸濃度の上昇、間質液圧の増大および代謝産物の変更または腫瘍を示す代謝の中から選択される1つまたは複数の特性を含む、請求項8から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
腫瘍微小環境において存在する条件が、中性より低いpHまたは非腫瘍微小環境よりも低いpHを含む、請求項8から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
腫瘍微小環境において存在する条件が、7.4未満のpHを含む、請求項8から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
腫瘍のpHが、ほぼ5.8~6.8(5.8および6.8を含む)または5.8~6.8(5.8および6.8を含む)であり、腫瘍微小環境において存在する条件が、5.8~6.8の間またはほぼ5.8~6.8の間のpHを含む、請求項8から15のいずれかに記載の方法。
・・・・・・・・・・・・
【請求項28】
複数のタンパク質を、a)およびb)の各々において試験し、
各タンパク質を、a)およびb)の各々において試験し、
b)と比較して、a)においてより大きな活性を有する任意のタンパク質を選択する、請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
複数のタンパク質が、治療用タンパク質の修飾された変異体を含むか、または治療用タンパク質の修飾された変異体であり、変異体の収集物を、a)およびb)の各々において試験する、請求項28に記載の方法。
・・・・・・・・・・・・
【請求項32】
治療用タンパク質が、抗体、酵素、ホルモンまたはサイトカインである、請求項1から31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
治療用タンパク質が、抗体である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
治療用タンパク質が、抗腫瘍抗体である、請求項1から33のいずれかに記載の方法。
・・・・・・・・・・・・
【請求項36】
修飾された変異体が、治療用タンパク質の修飾されていない形態と比較して、アミノ酸残基(単数または複数)のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含有する、請求項29から35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
試験されるタンパク質が、抗体の修飾されていない形態と比較して、相補性決定領域(CDR)中に1つまたは複数のアミノ酸置換を含む変異型抗体である、請求項1から36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
各変異型タンパク質が、治療用タンパク質の修飾されていない形態と比較して、単一アミノ酸置換を含有する、請求項29から37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
各変異型タンパク質が、治療用抗体の修飾されていない形態と比較して、2、3、4、5、6、7、8、9またはそれ以上のアミノ酸置換を含有する、請求項29から37のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
収集物中で、変化している位置各々のアミノ酸が、その位置の元のアミノ酸以外の最大1~19種のアミノ酸で置換され、
治療用タンパク質またはその選択された部分の長さに沿ってどのアミノ酸も置換される、請求項29から39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
置換アミノ酸が、治療用タンパク質中の対応する位置のアミノ酸とは異なるという条件で、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrおよびValの中から選択される、請求項29から40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
ヒスチジンが、置換アミノ酸であるか、またはタンパク質中のヒスチジンが、非塩基性もしくは非荷電アミノ酸で置換される、請求項29から41のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
修飾が、Arg、Asp、Glu、HisおよびLysの中から選択されるアミノ酸とのアミノ酸置換を含む、請求項29から42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
修飾が、Hisとのアミノ酸置換を含む、請求項29から43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
タンパク質が、抗体であり、修飾される選択された部分が、CDRである、請求項29から44のいずれかに記載の方法。
・・・・・・・・・・・・
【請求項79】
複数回反復し、各反復において、選択されたタンパク質(単数または複数)のさらなる変異体を作製し、試験し、それによって、治療用タンパク質が、非腫瘍環境においてよりも腫瘍環境において活性の増大を示すよう発展(evolved)し、それによって、毒性の低減または有害な副作用の低減を示す、請求項1から78のいずれかに記載の方法。」(特許請求の範囲)
セ.「【0195】
2.条件的活性についての、2種の異なる生理学的条件下での活性のスクリーニングまたは試験
・・・・・・・・・・・・
【0205】
(1)pH
腫瘍微小環境をシミュレートするための条件セットの一部の例では、1種または複数のバッファーのpHが、腫瘍の微小環境をシミュレートするよう調整される。・・・・・・・・・・・・したがって、活性を低pHをシミュレートする条件下で、また正常な生理学的pH(例えば、中性pH)をシミュレートする条件下で測定するアッセイを使用して、腫瘍微小環境において条件的に活性である生物学的有効性を有する分子を同定できる。
【0206】
例えば、正常な微小環境条件のpHは、生理学的条件下で存在する任意のpH、例えば、約7.0~約7.8の任意のpH、例えば、少なくともpH7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7もしくは7.8または約pH7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7もしくは7.8またはpH7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7もしくは7.8(例えば、米国特許第7781405号を参照のこと)、一部の例では、pH7.4であり得る。
【0207】
腫瘍微小環境のpHは、正常微小環境からより酸性であるpH、例えば、約5.6~6.8の任意のpH、例えば、pH5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7もしくは6.8未満または約pH5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7または6.8未満またはpH5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7または6.8未満を有するよう選択される。したがって、正常微小環境をシミュレートする条件セットのpHは、腫瘍条件よりも塩基性であり得る。当業者に公知の、または本明細書に記載された任意のバッファーを、所望のpHに調整できる。
【0208】
一部の例では、腫瘍のpH環境は、アッセイに使用されるバッファーのpHを変更することによってアッセイにおいてシミュレートされる。pHおよび緩衝能は、アッセイ条件の関数であり、当業者によって経験的に決定または選択され得る。当業者に公知の、または本明細書に記載された任意のバッファーを、所望のpHに調整し、本明細書に記載されたアッセイにおいて使用できる。当業者ならば、HClなどの酸またはNaOHなどの塩基を添加することによってバッファーのpHを調整できる。通常、バッファーは、アッセイ条件の温度を平衡化でき、バッファーのpHは、使用前に必要に応じて、確認され、調整される。」(【0195】~【0208】)
ソ.「【0217】
3.条件的に活性である修飾されたタンパク質の検出および同定
本方法では、条件(単数または複数)を選択した後、治療用タンパク質または修飾された治療用タンパク質、例えば、修飾された抗EGFR抗体などの試験分子が、第1の条件
および第2の条件下での活性について評価される。分子またはタンパク質の活性を評価するための種々のアッセイは、当業者に公知であり、特定の分子またはタンパク質に応じて変わる。例えば、アッセイは、結合アッセイまたは機能アッセイを含む。例示的アッセイは、以下の節Cに記載されている。例えば、抗EGFR抗体の活性を評価するために、EGFRとの結合が評価され得る。
【0218】
次いで、各条件下で得られた活性を比較する。通常、腫瘍環境において存在するなどの病変条件をシミュレートするかまたは再現する条件である第1の条件セット下でより大きな活性を示す分子またはタンパク質が同定され、選択される。例えば、腫瘍微小環境をシミュレートする条件下での活性(例えば、結合活性)を、非腫瘍または正常な生理学的環境をシミュレートする条件下での同一活性(例えば、結合活性)と比較する。比較のために、活性は、第1の条件セット(例えば、非病変正常微小環境の条件)下と比較した、第2の条件(例えば、疾患微小環境の条件)下での活性の割合として表され得る。例えば、第1および第2の条件間で異なるパラメータが、pHである場合には、活性は、酸性pH対より中性のpHで観察される活性の割合、例えば、pH6.0/7.4での活性の割合として表され得る。1より大きい割合を示し、その結果、分子が、病変または腫瘍微小環境においてより大きな活性を示す、治療用タンパク質または修飾された治療用タンパク質、例えば、抗体または変異型抗体、例えば、修飾された抗EGFR抗体などの試験分子が同定され、選択される。例えば、割合は、1.5~100の間またはほぼ1.5~100の間、例えば、2~50、例えば、5~30以上である。したがって、本方法では、条件的に活性であるタンパク質または変異体が同定され得る。
【0219】
さらに、活性を、突然変異を含有しないタンパク質などの対照と比較して、突然変異(単数または複数)を含有しないタンパク質と比較して、病変または腫瘍微小環境において増大した活性を示すタンパク質を同定できる。一部の例では、修飾されたタンパク質の活性は、非修飾タンパク質の活性に対して正規化できる。したがって、修飾されたタンパク質の条件的活性は、正規化された活性に基づいて決定され得る。例示的な例として、非修飾タンパク質が、それぞれ、正常微小環境および病変微小環境において10および1の活性を有し、修飾されたタンパク質が、それぞれ、正常微小環境および病変微小環境において2および1の活性を有する場合に、正常および病変環境における修飾されたタンパク質の正規化された活性は、それぞれ、0.2(2/10)および1(1/1)である。したがって、この仮説上の例では、修飾されたタンパク質は、正常微小環境において、病変微小環境においての2倍活性であるが、病変環境における修飾されたタンパク質の正規化された活性が、正常環境における正規化された活性の5倍(1/0.2=5)であるので、病変微小環境について条件的に活性であり得る。したがって、本明細書において提供される方法を使用して、修飾されたタンパク質の正規化された活性の割合を変更し得る修飾を同定できる。
【0220】
4.反復法
一例では、本明細書を実施した後に、任意の同定された条件的活性分子を、条件的活性を増大するまたは最適化するために修飾またはさらに修飾できる。例えば、同定された治療用タンパク質または変異体を鋳型として使用し、最初に同定された条件的活性タンパク質にさらなる修飾を導入することによって二次ライブラリーを作製できる。例えば、条件的活性を増大すると同定された修飾を組み合わせることができる。二次ライブラリーは、本明細書に記載されたアッセイおよび方法を使用して試験できる。
【0221】
本方法の反復性態様の別の例では、所望により、活性ではないかまたは第1の条件セット下で増大した活性を有さないような条件的活性を示さないと同定される分子を、さらに修飾し、条件的活性について再試験してもよい。さらなる修飾は、分子の活性および/または安定性と関連している特定の領域(例えば、特定のアミノ酸残基)付近にターゲッティングできる。例えば、分子の活性および/または安定性と関連している残基は、一般に、重大な残基であり、構造的フォールディングまたは結合などの分子のその他の活性に関与している。
【0222】
重大な残基は、突然変異されると、タンパク質の正常な活性が取り除かれるかまたは減少するので、同定できる。例えば、突然変異されると、治療用タンパク質のそのコグネイト結合パートナーとの減少した結合活性かまたは取り除かれた結合活性を示す重大な残基が同定できる。重大な残基は、結合ポケット中にある残基を含み得る。特に、本明細書における目的上、条件的活性が、pHの相違(例えば、腫瘍環境の酸性pH環境)に依存している場合には、荷電アミノ酸残基(例えば、Asp、Glu、Lys、ArgおよびHis)に突然変異されると、コグネイト結合パートナーとの結合が取り除かれるかまたは減少する重大な残基を同定することによって、タンパク質相互作用に対する荷電効果を決定することができる。次いで、重大な残基は、それらが活性にとって必要であるので、条件的活性タンパク質を作製するための突然変異誘発の標的とされてはならない残基として同定される。それにもかかわらず、同定された重大な残基に隣接するかまたはその付近の残基は、変化され得る、結合などの特定の活性に影響を及ぼし得る特定の標的であり得る。例えば、隣接する残基の突然変異は、結合のポケットに影響を及ぼし、それによって結合活性を変更し得る。
【0223】
したがって、本方法の任意選択の工程の一例では、本明細書において重大な残基と呼ばれる、タンパク質活性および/または安定性、および特に、結合(例えば、酸性pHでの)にとって重要であるアミノ酸残基を同定できる。次いで、同定された重大なアミノ酸残基の付近を標的とする、例えば、同定された重大なアミノ酸残基に隣接するアミノ酸突然変異を用いて修飾されたタンパク質のさらなるライブラリーを作製できる。一部の例では、突然変異は、隣接する位置での最大19種のその他のアミノ酸残基のうちの任意のその他のものへのアミノ酸置換であり得る。その他の例では、突然変異は、例えば、発展している特定の条件付き活性に応じて合理的にかまたは経験的に行うことができる。例えば、pH条件下での条件的活性が発展している場合には、重大な残基の付近のまたはそれに隣接するアミノ酸残基の突然変異は、荷電残基へ、特に、弱く荷電しており、6.5~6.8あたりのpKを有するヒスチジン(H)残基へであり得る。例えば、各々、重大なアミノ酸残基に隣接するかまたはその付近のアミノ酸残基でのヒスチジンへの単一アミノ酸置換を含有する複数の突然変異体または変異型タンパク質が作製される、タンパク質突然変異体のライブラリーを作製できる。
【0224】
重大な残基に隣接する残基で突然変異を含有する新しい複数の突然変異体各々の活性を、評価または決定できる。例えば、さらなるライブラリーの各メンバーは、個々に発現させ、上記で本明細書において記載されるように、第1の条件および第2の条件で活性について個々に試験できる。両条件下で試験した後、第2の条件(例えば、正常組織の生理学的環境または中性pH環境などの望ましくない環境)下で、発現されないかまたは優先的結合を示すタンパク質変異体を排除する。したがって、いずれの条件下でも同様の活性を示す(すなわち、結合などの活性に影響を及ぼさない)および/または第1の条件で優先的活性を示す変異体のみを選択する。突然変異された残基の正体を決定でき、重要な残基と呼ばれる。
【0225】
次いで、重要な残基位置での突然変異の組合せを含むさらなるコンビナトリアルライブラリーを作製する。重要な残基での突然変異は、19種のその他のアミノ酸残基のうち任意のその他のものへのアミノ酸置換であり得る。その他の例では、突然変異は、発展している特定の条件付き活性に応じて合理的にかまたは経験的に行うことができる。例えば、pH条件下での条件的活性が発展している場合には、重要なアミノ酸残基での突然変異は、荷電残基へ、特に、ヒスチジン(H)残基へであり得る。例えば、11個の重要な残基が同定されている場合には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個または11個すべての残基が変化しているタンパク質変異体を、任意の組合せで含有するコンビナトリアルライブラリーを作製することができる。例として、重要な残基のみがヒスチジン(H)残基に突然変異されているコンビナトリアルライブラリーが作製される場合には、各位置は、野生型アミノ酸またはヒスチジンであり得、突然変異され得る11部位があり、組み合わせられるので、ライブラリー中の突然変異体の数(ライブラリーの大きさ)は、211個のメンバーまたは2048の組合せの突然変異体として算出できる。野生型および11種の単一His突然変異(上記ですでに試験された)を排除すると、ライブラリーは、2036の組合せを含有するということは理解される。ライブラリーの大きさは、同定された重要な残基の数および重要な残基位置各々で行われるアミノ酸置換の数に応じて増大または減少し得るということも理解される。次いで、本明細書に上記に記載される方法においてさらなるライブラリーをスクリーニングして、非腫瘍または健常環境よりも腫瘍環境において増大した活性などの、所定の条件で条件的活性タンパク質を同定できる。
【0226】
例えば、正常微小環境(例えば、pH7.4)と比較して、腫瘍微小環境(例えば、pH6.0)をシミュレートする条件下で増大した活性を有する、条件的活性の修飾された、治療用抗体、例えば、アービタックスなどの治療用タンパク質を選択するために、治療用タンパク質中のアミノ酸を突然変異させて、単一アミノ酸が修飾された治療用タンパク質のライブラリーを形成してもよい。このライブラリーを、腫瘍微小環境および正常環境をシミュレートするインビトロアッセイ条件下でアッセイして、突然変異されると、両条件下で活性の喪失をもたらす重大な残基を同定することができる。例えば、ライブラリーの1種または複数のメンバーとして、2つのpH条件間でプロトン化状態を変更し得るイオン化できる基を有するアミノ酸(例えば、Asp、Glu、Lys、Arg、Hisなど)で独立に置換され得る修飾されたタンパク質が挙げられる。タンパク質中のイオン化できる残基のプロトン化状態は、タンパク質の1つまたは複数の活性(親和性、触媒活性、溶解度、電荷および安定性など)をpH依存的に変更し得る(Rostkowski et al. (2011), BMC Struct. Biol. 11:6)。重大な残基は、荷電アミノ酸に突然変異されると、両条件下で活性がなくなるアミノ酸位置として定義され得る。したがって、残基は、結合ポケット中にある、および/または、その他の形でそのコグネイト結合パートナーとの結合への荷電効果と関連しているものである。ELISAスクリーニングなどの活性スクリーニングから、pH6.0および7.4で、荷電残基に突然変異されると、結合を失う重大な残基が同定され得る。
【0227】
第2の工程では、重大な残基を同定した後に、重大な残基に隣接するアミノ酸の置換を含有するタンパク質変異体の活性を、決定または評価できる。置換アミノ酸は、すべての可能性あるアミノ酸から、またはすべての可能性あるアミノ酸のサブセットから無作為に選択され得る。例えば、置換アミノ酸は、帯電しているアミノ酸残基などの、上記で論じたように腫瘍および正常状態間でイオン化状態を変更し得るアミノ酸を含み得る。特定の例では、隣接する残基で置換されるアミノ酸がヒスチジンである。重大な残基に隣接する残基で突然変異を含有する新規の複数の突然変異体各々の活性は、腫瘍環境の条件(例えば、酸性pHおよび/または高乳酸の条件)を摸倣またはシミュレートする第1の条件で、また非腫瘍環境を摸倣またはシミュレートする第2の条件(例えば、中性pH7.4および/または低乳酸濃度の条件)で評価または決定できる。いずれの条件下でも同様の活性を示し(すなわち、結合などの活性に影響を及ぼさない)、発現され、および/または第1の条件で優先的活性を示す変異体が選択される。選択された突然変異体の突然変異された残基の正体が決定され、重要な残基と呼ばれる。
【0228】
次いで、最終工程として、同定された重要な残基位置での突然変異体のすべての組合せを含有するさらなるコンビナトリアルライブラリーを作製する。正常微小環境(例えば、pH7.4)と比較して、腫瘍微小環境(例えば、pH6.0)をシミュレートする条件下で増大した活性を有する、条件的活性の修飾された、治療用抗体、例えば、アービタックス(Erbitrux)などの治療用タンパク質を選択するために、置換アミノ酸は、2つのpH条件間でプロトン化状態を変更し得るイオン化できる基を有するもの(例えば、Asp、Glu、Lys、Arg、Hisなど)である。例えば、各重要な残基での置換アミノ酸がヒスチジンであるコンビナトリアルライブラリーを作製する。コンビナトリアルライブラリーの各メンバーの活性は、腫瘍環境の条件(例えば、pH6.0などの酸性pHおよび/または高乳酸の条件)を摸倣またはシミュレートする第1の条件で、また非腫瘍環境を摸倣またはシミュレートする第2の条件(例えば、中性pH7.4および/または低乳酸濃度の条件)で評価または決定できる。第1の条件で増大した活性を示す変異体が、条件的活性タンパク質として同定されるかまたは選択される。」(【0217】~【0228】)
引用文献1には、野生型生物学的タンパク質が抗体である場合(上記記載事項ア.)には、野生型生物学的タンパク質が親抗体に相当し、親抗体から条件的活性型抗体が生成されることが記載されている(上記記載事項エ.、ケ.)。
また、引用文献1には、pH6.0の異常条件下での抗原に対する結合活性のアッセイ、pH7.4の正常生理条件下での抗原に対する結合活性のアッセイを行い(上記記載事項ア.、キ.、サ.、シ.)、pH6.0の異常条件下でのアッセイにおいて、pH7.4の正常生理条件下でのアッセイにおける同じ結合活性と比較して、活性の増加を呈する条件的活性型抗体を調製すること、結合活性がpH7.4の正常生理条件下で可逆的に不活性化される条件的活性型抗体を調製すること(上記記載事項ア.、オ.、キ.、ク.、サ.、シ.)が記載されている。
また、引用文献1には、「正常生理条件下及び異常条件下の両方とも、分析は、例えば緩衝液を含有し得る媒体、例えば液体媒体を使用して実施され得る。・・・・・・一実施形態において、正常生理条件下での分析は、正常な生理的pH、例えばpH7.4の組成物で実施される。この分析は、哺乳動物又はヒトの体液に一般に見出される無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される少なくとも1つの構成成分の存在下で行われる。異常条件下での分析は、緩衝液など同じ構成成分の存在下で、pH6など、正常な生理的pHと異なる異常なpHで実施される。従って、この実施形態において両分析が行われる流体は、好ましくは正常な生理的濃度の範囲内であるか又はそれに近いものであるべき同じ濃度の同じ1つ又は複数の構成成分を含む。」(上記記載事項キ.)、「実施例8:条件的活性型抗体の発現・・・・・・・・・・・・条件的活性型生物学的抗体について、表4に要約する。これらの抗体のうちの2つはscFvとして発現させた(BAP063.9-13.3及びBAP063.9-48.3)。・・・・・・SPRを用いたpH6.0及びpH7.4での結合活性の計測データを報告する2つの列において(表4の最後2つのカラム)、「BAP063.6-hum10F10-FLAG」(陰性対照、表4の第2列)との比較を行った。これらの抗体の選択性は、2つの最終カラムのデータ間の差により決定し得る。2つのscFv抗体は極めて高い選択性(pH7.4で0%に対し、pH6で75%及び50%)を有した」こと(上記記載事項サ.)、「実施例9:抗体の軽鎖又は重鎖を進化させる・・・・・・・・・・・・この例で生成された最良の条件的活性型抗体は、pH7.4でのその活性に対するpH6.0でのその活性が17倍の差であった。加えて、条件的活性型抗体の多くが、7.4の正常生理的pHと6.0の異常pHとの間のpHで可逆の活性を有した」こと(上記記載事項シ.)が記載されているから、引用文献1に記載されている条件的活性型抗体の調製方法において、「pH7.4の正常生理条件下でのpHの値をpH6.0に調節して得られたアッセイ媒体中の抗原に対する結合活性のアッセイに供してpH7.4での結合活性の可逆的不活性化を判断」しているものと認められる。
そうすると、上記記載事項ア.~シ.から、引用文献1には、「親抗体から条件的活性型抗体を調製する方法であって、
i.前記親抗体をコードするDNAを、1つ以上の進化的技術を用いて、突然変異体DNAをもたらすように進化させる工程と、
ii.前記突然変異体DNAを発現させて、突然変異体抗体を取得する工程と、
iii.前記突然変異体抗体を、pH6.0の異常条件下での抗原に対する結合活性のアッセイ、pH7.4の正常生理条件下での抗原に対する結合活性のアッセイ、およびpH7.4の正常生理条件下でのpHの値をpH6.0に調節して得られたアッセイ媒体中の抗原に対する結合活性のアッセイに供してpH7.4での結合活性の可逆的不活性化を判断する工程と、
iv.pH6.0の異常条件下でのアッセイにおいて、pH7.4の正常生理条件下でのアッセイにおける同じ結合活性と比較して、活性の増加を呈し、且つ結合活性がpH7.4の正常生理条件下で可逆的に不活性化される前記条件的活性型抗体を前記突然変異体抗体から選択する工程と
を含む方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「pH6.0の異常条件下での抗原に対する結合活性のアッセイ」は、本願発明の「第1のpHのpH6.0での抗原に対する結合活性の第1のアッセイ」に相当し、引用発明の「pH7.4の正常生理条件下での抗原に対する結合活性のアッセイ」は、本願発明の「第2のpHのpH7.4での抗原に対する結合活性の第2のアッセイ」に相当し、引用発明の「pH6.0の異常条件下でのアッセイ」は、本願発明の「第1のpHのpH6.0での第1のアッセイ」に相当し、引用発明の「pH7.4の正常生理条件下でのアッセイ」は、本願発明の「第2のpHのpH7.4での第2のアッセイ」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、「親抗体から条件的活性型抗体を調製する方法であって、
i.前記親抗体をコードするDNAを、1つ以上の技術を用いて、突然変異体DNAをもたらすように進化させる工程と、
ii.前記突然変異体DNAを発現させて突然変異体抗体を取得する工程と、
iii.突然変異体抗体を、第1のpHのpH6.0での抗原に対する結合活性の第1のアッセイ、第2のpHのpH7.4での抗原に対する結合活性の第2のアッセイ、および第2のアッセイの第2のpHをpH6.0に調節して得られたアッセイ媒体中の抗原に対する結合活性のアッセイに供してpH7.4での結合活性の可逆的不活性化を判断する工程と、
iv.第1のpHのpH6.0での第1のアッセイにおいて、第2のpHのpH7.4での第2のアッセイにおける同じ結合活性と比較して、結合活性の増加を呈し、且つ結合活性が第2のpHのpH7.4で可逆的に不活性化される前記条件的活性型抗体を前記突然変異体抗体から選択する工程と
を含む方法。」である点で一致し、両者は以下の点で相違する。
相違点:親抗体をコードするDNAを突然変異体DNAをもたらすように進化させる工程が、本願発明は、親抗体をコードするDNA中の荷電アミノ酸残基のコドンの全数の増加、前記DNA中の非荷電アミノ酸残基のコドンの全数の減少及びそれらの組み合わせから選択される1つ以上の技術を用いて前記親抗体の正味電荷を増加させて、前記荷電アミノ酸残基が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リシン及びヒスチジンから選択されるのに対し、引用発明は、そのような特定は記載されていない点。
第6 当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
引用文献2には、条件的活性型抗体の2種の異なる生理学的条件下での活性のスクリーニングを、腫瘍微小環境のpH5.8~6.8でのアッセイ、正常な微小環境条件のpH7.4でのアッセイで行うことが記載されている(上記記載事項セ.、ス.)。
そして、引用文献2には、「pH条件下での条件的活性が発展している場合には、重大な残基の付近のまたはそれに隣接するアミノ酸残基の突然変異は、荷電残基へ、特に、弱く荷電しており、6.5~6.8あたりのpKを有するヒスチジン(H)残基へであり得る。例えば、各々、重大なアミノ酸残基に隣接するかまたはその付近のアミノ酸残基でのヒスチジンへの単一アミノ酸置換を含有する複数の突然変異体または変異型タンパク質が作製される、タンパク質突然変異体のライブラリーを作製できる。」、「pH条件下での条件的活性が発展している場合には、重要なアミノ酸残基での突然変異は、荷電残基へ、特に、ヒスチジン(H)残基へであり得る。例えば、11個の重要な残基が同定されている場合には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個または11個すべての残基が変化しているタンパク質変異体を、任意の組合せで含有するコンビナトリアルライブラリーを作製することができる。」、「置換アミノ酸は、帯電しているアミノ酸残基などの、上記で論じたように腫瘍および正常状態間でイオン化状態を変更し得るアミノ酸を含み得る。特定の例では、隣接する残基で置換されるアミノ酸がヒスチジンである。重大な残基に隣接する残基で突然変異を含有する新規の複数の突然変異体各々の活性は、腫瘍環境の条件(例えば、酸性pHおよび/または高乳酸の条件)を摸倣またはシミュレートする第1の条件で、また非腫瘍環境を摸倣またはシミュレートする第2の条件(例えば、中性pH7.4および/または低乳酸濃度の条件)で評価または決定できる。いずれの条件下でも同様の活性を示し(すなわち、結合などの活性に影響を及ぼさない)、発現され、および/または第1の条件で優先的活性を示す変異体が選択される。選択された突然変異体の突然変異された残基の正体が決定され、重要な残基と呼ばれる。」、「次いで、最終工程として、同定された重要な残基位置での突然変異体のすべての組合せを含有するさらなるコンビナトリアルライブラリーを作製する。正常微小環境(例えば、pH7.4)と比較して、腫瘍微小環境(例えば、pH6.0)をシミュレートする条件下で増大した活性を有する、条件的活性の修飾された、治療用抗体、例えば、アービタックス(Erbitrux)などの治療用タンパク質を選択するために、置換アミノ酸は、2つのpH条件間でプロトン化状態を変更し得るイオン化できる基を有するもの(例えば、Asp、Glu、Lys、Arg、Hisなど)である。例えば、各重要な残基での置換アミノ酸がヒスチジンであるコンビナトリアルライブラリーを作製する。コンビナトリアルライブラリーの各メンバーの活性は、腫瘍環境の条件(例えば、pH6.0などの酸性pHおよび/または高乳酸の条件)を摸倣またはシミュレートする第1の条件で、また非腫瘍環境を摸倣またはシミュレートする第2の条件(例えば、中性pH7.4および/または低乳酸濃度の条件)で評価または決定できる。第1の条件で増大した活性を示す変異体が、条件的活性タンパク質として同定されるかまたは選択される。」と記載されている(上記記載事項ソ.、ス.)ように、pH7.4の正常微小環境条件下と比較して、pH6.0の腫瘍微小環境条件下で増大した活性を有する条件的活性型抗体を選択するために、同定された重要な残基のすべてをAsp、Glu、Lys、Arg、Hisなどの荷電アミノ酸残基に突然変異させた突然変異体抗体のライブラリーを作製することが記載されているから、引用発明において、親抗体をコードするDNAにおいて、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リシン及びヒスチジンから選択される荷電アミノ酸残基のコドンの全数を増加させるなどして、前記親抗体の正味電荷を増加させることは、当業者が容易に想到し得ることである。
第7 審判請求人の主張
審判請求人は、令和 6年 2月19日付け意見書において、以下の(ア)~(ウ)の点を主張しているので、以下この点について検討する。
(ア)引用文献1は、pH6.0の第一のアッセイで可逆的に活性化され、pH7.4の第二のアッセイで可逆的に不活性化される突然変異体抗体等から、条件的活性型抗体等を選択することを教示も示唆もするものではなく、また、請求項1の工程iiiで規定される「第2のアッセイの第2のpHをpH6.0に調節して得られたアッセイ媒体中の抗原に対する結合活性のアッセイに供してpH7.4での結合活性の可逆的不活性化を判断する」ことを教示も示唆もするものではない。
(イ)引用文献2の段落0222および0226の開示は、条件的活性型タンパク質を得ることを目的とする場合、変異させるべきではない重大な残基を特定する目的で、荷電アミノ酸を導入することに関するもので、引用文献2は、荷電アミノ酸残基を導入することによって条件的活性型タンパク質を得ることを教示も示唆もしておらず、むしろ、条件的活性型タンパク質を得ようとする場合、変異させるべきではない重大な残基を特定するために、荷電アミノ酸を使用しているから、引用文献2を引用文献1と組み合わることに阻害要因があったといえる。
(ウ)本願発明の条件的活性型抗体等は、正常生理学的pH7.4では不活性であり、さらにpH6.0で可逆的に活性化されるという特徴を有するため、投与時の副作用を低減またはなくすことができるということは、引用文献1及び2の抗体に対する予期せぬ利点および改善であるといえる。
主張(ア)について
上記第4で述べたように、引用文献1には、「25. 請求項1~24のいずれか一項に記載の方法によって調製される条件的活性型生物学的タンパク質であって、正常生理条件で可逆的又は不可逆的に不活性化される条件的活性型生物学的タンパク質。」(上記記載事項ア.)、「本開示はまた、野生型条件において可逆的に又は不可逆的に不活性であるが、野生型条件と同じ又は等しいレベルの非正常条件において活性である新規な分子を生成するためのタンパク質を操作又は進化させる方法を指示する。」(上記記載事項オ.)、「この条件的活性型生物学的タンパク質は腫瘍部位の標的化に使用され、条件的活性型生物学的タンパク質は腫瘍部位で特別な活性を有し、非腫瘍部位(正常生理条件)では同じ活性に関して活性が大幅に低いか、又は不活性である。」(上記記載事項ク.)と記載されているから、引用文献1には、pH6.0の第一のアッセイで可逆的に活性化され、pH7.4の第二のアッセイで可逆的に不活性化される突然変異体抗体等から、条件的活性型抗体等を選択することが記載されているといえる。
また、上記第4で述べたように、引用文献1には、「正常生理条件下及び異常条件下の両方とも、分析は、例えば緩衝液を含有し得る媒体、例えば液体媒体を使用して実施され得る。・・・・・・一実施形態において、正常生理条件下での分析は、正常な生理的pH、例えばpH7.4の組成物で実施される。この分析は、哺乳動物又はヒトの体液に一般に見出される無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される少なくとも1つの構成成分の存在下で行われる。異常条件下での分析は、緩衝液など同じ構成成分の存在下で、pH6など、正常な生理的pHと異なる異常なpHで実施される。従って、この実施形態において両分析が行われる流体は、好ましくは正常な生理的濃度の範囲内であるか又はそれに近いものであるべき同じ濃度の同じ1つ又は複数の構成成分を含む。」(上記記載事項キ.)、「実施例8:条件的活性型抗体の発現・・・・・・・・・・・・2つのscFv抗体は極めて高い選択性(pH7.4で0%に対し、pH6で75%及び50%)を有した」こと(上記記載事項サ.)、「実施例9:抗体の軽鎖又は重鎖を進化させる・・・・・・・・・・・・この例で生成された最良の条件的活性型抗体は、pH7.4でのその活性に対するpH6.0でのその活性が17倍の差であった。加えて、条件的活性型抗体の多くが、7.4の正常生理的pHと6.0の異常pHとの間のpHで可逆の活性を有した」こと(上記記載事項シ.)が記載されているから、引用文献1に記載されている条件的活性型抗体の調製方法において、「pH7.4の正常生理条件下でのpHの値をpH6.0に調節して得られたアッセイ媒体中の抗原に対する結合活性のアッセイに供してpH7.4での結合活性の可逆的不活性化を判断」しているものと認められる。
したがって、審判請求人の上記主張(ア)は採用できない。
主張(イ)について
上記第6で述べたように、そして、引用文献2には、重大な残基を特定する目的以外に、「pH条件下での条件的活性が発展している場合には、重要なアミノ酸残基での突然変異は、荷電残基へ、特に、ヒスチジン(H)残基へであり得る。例えば、11個の重要な残基が同定されている場合には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個または11個すべての残基が変化しているタンパク質変異体を、任意の組合せで含有するコンビナトリアルライブラリーを作製することができる。」、「置換アミノ酸は、帯電しているアミノ酸残基などの、上記で論じたように腫瘍および正常状態間でイオン化状態を変更し得るアミノ酸を含み得る。特定の例では、隣接する残基で置換されるアミノ酸がヒスチジンである。重大な残基に隣接する残基で突然変異を含有する新規の複数の突然変異体各々の活性は、腫瘍環境の条件(例えば、酸性pHおよび/または高乳酸の条件)を摸倣またはシミュレートする第1の条件で、また非腫瘍環境を摸倣またはシミュレートする第2の条件(例えば、中性pH7.4および/または低乳酸濃度の条件)で評価または決定できる。いずれの条件下でも同様の活性を示し(すなわち、結合などの活性に影響を及ぼさない)、発現され、および/または第1の条件で優先的活性を示す変異体が選択される。選択された突然変異体の突然変異された残基の正体が決定され、重要な残基と呼ばれる。」、「次いで、最終工程として、同定された重要な残基位置での突然変異体のすべての組合せを含有するさらなるコンビナトリアルライブラリーを作製する。正常微小環境(例えば、pH7.4)と比較して、腫瘍微小環境(例えば、pH6.0)をシミュレートする条件下で増大した活性を有する、条件的活性の修飾された、治療用抗体、例えば、アービタックス(Erbitrux)などの治療用タンパク質を選択するために、置換アミノ酸は、2つのpH条件間でプロトン化状態を変更し得るイオン化できる基を有するもの(例えば、Asp、Glu、Lys、Arg、Hisなど)である。例えば、各重要な残基での置換アミノ酸がヒスチジンであるコンビナトリアルライブラリーを作製する。コンビナトリアルライブラリーの各メンバーの活性は、腫瘍環境の条件(例えば、pH6.0などの酸性pHおよび/または高乳酸の条件)を摸倣またはシミュレートする第1の条件で、また非腫瘍環境を摸倣またはシミュレートする第2の条件(例えば、中性pH7.4および/または低乳酸濃度の条件)で評価または決定できる。第1の条件で増大した活性を示す変異体が、条件的活性タンパク質として同定されるかまたは選択される。」と記載されている(上記記載事項ソ.、ス.)ように、引用文献1に記載されている条件的活性型抗体と同様のpH7.4の正常微小環境条件下と比較して、pH6.0の腫瘍微小環境条件下で増大した活性を有する条件的活性型抗体を選択するために、重要なアミノ酸残基をAsp、Glu、Lys、Arg、Hisなどの荷電アミノ酸残基に突然変異させた突然変異体抗体のライブラリーを作製することが記載されているから、引用文献2を引用文献1と組み合わることに阻害要因があったとはいえない。
したがって、審判請求人の上記主張(イ)は採用できない。
主張(ウ)について
引用文献1には、「[000462] 一部の実施形態において、本発明は、腫瘍治療候補であり得る野生型生物学的タンパク質から生成される条件的活性型生物学的タンパク質を提供する。この条件的活性型生物学的タンパク質は、血漿などの腫瘍微小環境以外の体の部分における少なくとも1つの生理条件下で野生型生物学的タンパク質より低い活性を有し、一方、腫瘍微小環境における少なくとも1つの生理条件下で野生型生物学的タンパク質より高い活性を有する。かかる条件的活性型生物学的タンパク質は、腫瘍を治療するため腫瘍微小環境にある癌細胞に優先的に作用することができ、従って副作用を引き起こしにくい。生物学的タンパク質が腫瘍細胞の表面上の抗原(抗原が腫瘍微小環境に曝露している)に対する抗体である実施形態において、条件的活性型抗体は、体の他の部分、例えば非腫瘍微小環境では抗原に対する親和性が野生型抗体より低く、一方、腫瘍微小環境では抗原に対する親和性が野生型抗体より高い。かかる条件的活性型抗体は、体の他の部分では抗原に弱く結合し得るか、又は全く結合せず、しかし、腫瘍微小環境では抗原により高い結合性を有し、又は強力且つ緊密に結合する。」と記載されており(上記記載事項コ.)、また、引用文献2には、「【請求項79】 複数回反復し、各反復において、選択されたタンパク質(単数または複数)のさらなる変異体を作製し、試験し、それによって、治療用タンパク質が、非腫瘍環境においてよりも腫瘍環境において活性の増大を示すよう発展(evolved)し、それによって、毒性の低減または有害な副作用の低減を示す、請求項1から78のいずれかに記載の方法。」と記載されている(上記記載事項ス.)から、本願発明の条件的活性型抗体等の「正常生理学的pH7.4では不活性であり、さらにpH6.0で可逆的に活性化されるという特徴を有するため、投与時の副作用を低減またはなくすことができる」という審判請求人が主張する効果は、引用文献1及び2の記載から当業者が予測することができる範囲の効果である。
したがって、審判請求人の上記主張(ウ)は採用できない。
第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1~2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-003887