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特許拒絶査定不服審判

2022-016091

免疫反応が弱化された結合体

審判番号
2022-016091
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-550535
請求日
2022年10月07日
審決日
2025年01月16日
公報発行日
2025年06月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
  • 【請求人代理人】田中 伸一郎
  • 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
  • 【請求人代理人】須田 洋之
  • 【請求人代理人】山崎 一夫
  • 【請求人代理人】市川 さつき
  • 【請求人代理人】服部 博信
  • 【請求人代理人】松田 七重
  • 【請求人代理人】小林 真知
審判長/審判官
  • 審判長 長井 啓子
  • 審判官 名和 大輔
  • 審判官 高堀 栄二
分類
P18 .113-WZ (C07K) / P18 .121-WZ (C07K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-550535「免疫反応が弱化された結合体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月14日国際公開、WO2018/105988、令和 1年12月19日特許出願公表、特表2019-536823〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成29年12月 5日(パリ条約による優先権主張 2016年12月 5日(KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年11月 8日付け:拒絶理由通知書 令和4年 2月10日 :意見書、手続補正書の提出 令和4年 6月 6日付け:拒絶査定 令和4年10月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和4年11月 2日 :手続補正書(請求の理由)の提出 令和6年 5月14日付け:拒絶理由通知書 令和6年 8月15日 :意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、令和6年8月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 下記(a)及び(b)の特性を有する、ヒト血清由来の免疫グロブリンGまたはそのFc断片に比べて免疫反応が弱化された免疫グロブリンFc断片に生理活性ポリペプチドが連結された、生理活性ポリペプチド-免疫グロブリンFc断片の結合体であって: (a)前記結合体が、生理活性ポリペプチド単独による免疫反応に比べても弱化された免疫反応を示し; (b)前記結合体が、前記免疫グロブリンFc断片自体の免疫反応と相応したり、減少された程度の免疫反応を示し、 前記免疫グロブリンFc断片は、非糖鎖化されたIgG4 Fc断片であり、Fcガンマ受容体との結合力がヒト血清由来の免疫グロブリンGまたはそのFc断片に比べて90%以下に減少し、前記免疫グロブリンFc断片は、補体1qとの結合力がヒト血清由来の免疫グロブリンGまたはそのFc断片に比べて90%以下に減少し、 前記生理活性ポリペプチド及び免疫グロブリンFc断片が、非ペプチド性リンカーを介して連結され、 ポリエチレングリコールである非ペプチド性リンカーが生理活性ポリペプチドのN末端またはC末端に連結され、ポリエチレングリコールである非ペプチド性リンカーが免疫グロブリンFc断片のN末端に連結され、 前記生理活性ポリペプチドは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、好中球増加因子(G-CSF)、グルカゴン、オキシントモジュリン、インスリン、エクセンディン、イミグルセラーゼ及びこれらのアナログからなる群から選択される、前記結合体。」(以下、「本願発明」という。) 第3 当審における拒絶の理由の概要 令和6年5月14日付けで当審が通知した拒絶理由は、次の理由を含むものである。 本願発明は、本願の優先権主張の日(以下、「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1、3~6に記載された発明に基いて、その本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特表2009-513110号公報 引用文献3:特表2016-510003号公報 引用文献4:国際公開第2015/186988号 引用文献5:特表2016-511752号公報 引用文献6:特開2015-146805号公報 第4 当審の判断 1 引用文献の記載事項 (1)引用文献1(特表2009-513110号公報) 引用文献1には、以下の事項が記載されている。下線は、当審にて付したものである(以下、同様である)。 ア 発明の名称 「開始メチオニン残基が除去された免疫グロブリンFc領域の大量生産方法」 イ 特許請求の範囲 「【請求項1】 ペプチド結合を介して免疫グロブリンヒンジ領域のN末端に連結された免疫グロブリンヒンジ領域を含む組み換え免疫グロブリンFc領域をコードする核酸配列を含む組み換え発現ベクターを製造する段階と、 前記組み換え発現ベクターで原核細胞を形質転換して形質転換体を製造する段階と、 前記形質転換体を培養し、前記免疫グロブリンFc領域を凝集体形態で発現させる段階と、 前記免疫グロブリンFc領域を分離精製する段階とを含む、開始メチオニン残基が除去された免疫グロブリンFc領域を大量生産する方法。 ・・・ 【請求項8】 前記免疫グロブリンFc領域が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、およびこれらの組み合わせおよびハイブリッドよりなる群から選ばれるIgGのFc領域である、請求項7に記載の方法。 ・・・ 【請求項12】 前記原核細胞が大腸菌である、請求項1に記載の方法。」 ウ 背景技術 「【0002】 遺伝工学技術の発展に伴い、多種のタンパク質医薬品が製造されて用いられている。ところが、タンパク質医薬品の場合、容易に変性し或いは生体内プロテアーゼなどによって容易に分解して生体内濃度および力価を長らく持続させることができないという致命的な欠点を持っている。したがって、タンパク質の安定性を増加させてタンパク質医薬品の血中、生体内濃度を適正の水準に維持させることは、効果的な治療だけでなく、頻繁に注射などによりタンパク質の供給を受けるべき患者の不便軽減および経済的な側面でも非常に重要な問題である。 したがって、タンパク質医薬品の生体内安定性を増加させるために、タンパク質の剤形を変化させるか、他のタンパク質を融合させるか、或いはタンパク質の表面に適当な高分子を化学的または生物学的方法で付着させるなどの多様な方法が長い前から試みられてきた。 他のタンパク質との融合によってタンパク質の安定性を増加させるための試みの一つが、免疫グロブリンFcとタンパク質との融合である。 ・・・ ところが、前記Fcとの融合タンパク質は、目的タンパク質の血中半減期が増加するが、これと同時に、Fc領域の持っているエフェクター機能が発揮されるという問題点がある(米国特許第5,349,053号)。Fc領域のエフェクター機能によって補体を固定させ、或いはFcγRsを発現する細胞に結合して特定の細胞を破壊させ、炎症を誘発する様々なサイトカインの生成および分泌を誘導することにより、所望しない炎症を誘発させる。また、融合部位のタンパク質配列は、人体に存在しない新規のタンパク質配列なので、長期投与の際に免疫反応誘発可能性もあるなどいろいろの欠点を持っている。 そこで、長い血中半減期を維持するがエフェクター機能の欠失された免疫グロブリン、或いは免疫グロブリン断片を利用しようとする研究が行われてきた。・・・ ・・・ かかる点を改善するために、本発明者らは、従来の組み換え方法による融合ではなく、Fc領域およびタンパク質医薬品を各最上の発現システムで個別のポリペプチドに製造した後、共有結合させてFcを薬物のキャリアとして使用したことがある。この場合、糖化されたポリペプチド薬物と非糖化されたFcの結合体を製造することができるので、不適切な免疫反応は除去され、これと同時に生理学的薬物活性、生体的持続性および安定性は全て充足させる。 前記の場合、Fcは非糖化された形態が好ましいので、大腸菌などの原核細胞発現システムを利用するようにする。大腸菌の発現体系を利用する生産方法は、既存の動物細胞を用いた方法に比べて様々な利点があるが、大腸菌は発現ベクターの製作が容易であって発現有無を速く検証することができ、成長速度が非常に速いため低いコストで大量生産することができ、比較的単純な発現方法を適用することができるから、商業的利用の側面でも他の宿主細胞を用いることより有用である。 大腸菌においてFc領域を過発現させる場合、Fc領域は大部分、凝集体形態で発現される。Fc領域を産業的に利用するために、水溶性状態で発現されるFc領域を利用しようとする試みがあった。・・・ このような背景の下に、本発明者らは、糖鎖が除去されて免疫反応誘発のおそれがない活性型の免疫グロブリンFc領域を産業化可能な、より改善された収率で大量に生産する方法を探そうと努力したところ、特定のヒンジ領域を免疫グロブリンFc領域のN末端に連結させて発現させると、凝集体形態で発現された免疫グロブリンFc領域が、水溶化およびリフォールディング過程によって開始メチオニン残基の除去された二量体または単量体形態の免疫グロブリンFc領域として生産されることを確認し、メチオニン開始コドンが除去された免疫グロブリンFc領域を大量に生産する本発明を完成した。」(第3頁第18行~第5頁第36行) エ 発明を実施するための最良の形態 「前記方法によって大腸菌などの原核細胞で生産された免疫グロブリンFc領域の産業的適用は特に限定されない。一つの例示的適用は、任意の薬物との結合体形成のためのキャリアとして使用することである。免疫グロブリンFc領域と薬物とが結合した結合体の形態は特に限定されない。例えば、免疫グロブリンFc領域と薬物とは多様な割合で結合可能であり、リンカーなどによって結合が媒介されることも可能である。 薬物はポリペプチド、化合物、抽出物、核酸などを含むが、好ましくはポリペプチド(タンパク質と同等な用語で使用)薬物である。リンカーは、ペプチド性リカーまたは非ペプチド性リンカーを全て含むが、好ましくは非ペプチド性リンカーであり、より好ましくは非ペプチド性重合体である。免疫グロブリン重鎖領域の好適な例はFcである。 本発明の方法で製造された免疫グロブリンFc領域と結合して使用できる生理活性ポリペプチドとしては、血中半減期を増加させる必要があるものであればいずれも特別な制限なく使用することができる。例えば、ヒトの疾病を治療または予防する目的で使用されるサイトカイン、インターロイキン、インターロイキン結合タンパク質、酵素、抗体、成長因子、転写調節因子、血液因子、ワクチン、構造タンパク質、リガンドタンパク質または受容体、細胞表面抗原、受容体拮抗物質などの多様な生理活性ポリペプチド、これらの誘導体または類似体を例示することができる。 具体的に、生理活性ポリペプチドは、ヒト成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出ペプチド、インターフェロン類とインターフェロン受容体類(例えば:インターフェロン-α、βおよびγ、水溶性タイプIインターフェロン受容体など)、コロニー刺激因子、インターロイキン類(例えば:インターロイキン-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-12、-13、-14、-15、-16、-17、-18、-19、-20、-21、-22、-23、-24、-25、-26、-27、-28、-29、-30等)とインターロイキン受容体類(例えば:IL-1受容体、IL-4受容体など)、酵素類(例えば:グルコセレブロシダーゼ(glucocerebrosidase)、イズロネート-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)、α-ガラクトシダーゼ-A、アガルシダーゼα、β、α-L-イズロニダーゼ(alpha-L-iduronidase)、ブチリルコリンエステラーゼ(butyrylcholinesterase)、キチナーゼ(chitinase)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamate decarboxylase)、イミグルセラーゼ(imiglucerase)、リパーゼ(lipase)、ウリカーゼ(uricase)、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(platelet-activating factor acetylhydrolase)、中性エンドペプチダーゼ(neutral endopeptidase)、ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)、インターロイキンおよびサイトカイン結合タンパク質類(例えば:IL-18bp、TNF-結合タンパク質など)、マクロファージ活性因子、マクロファージペプチド、B細胞因子、T細胞因子、タンパク質A、アレルギー抑制因子、細胞怪死糖タンパク質、免疫毒素、リンホトキシン、腫瘍怪死因子、腫瘍抑制因子、転移成長因子、α-1アンチトリプシン、アルブミン、α-ラクトアルブミン、アポリポタンパク質-E、赤血球生成因子、高糖化赤血球生成因子、アンジオポイエチン類、ヘモグロビン、トロンビン、トロンビン受容体活性ペプチド、トロンボモジュリン、血液因子VII、血液因子VIIa、血液因子VIII、血液因子IX、血液因子XIII、プラズミノゲン活性因子、フィブリン結合ペプチド、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ヒルジン(hirudin)、タンパク質C、C-反応性タンパク質、レニン抑制剤、コラゲナーゼ抑制剤、スーパオキシドジスムターゼ、レプチン、血小板由来成長因子、上皮細胞成長因子、表皮細胞成長因子、アンジオスタチン、アンジオテンシン、骨形成成長因子、骨形成促進タンパク質、カルシトニン、インスリン、アトリオペプチン、軟骨誘導因子、エルカトニン、結合組織活性因子、組織因子経路抑制剤(tissue factor pathway inhibitor)、濾胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、神経成長因子類(例えば、神経成長因子、毛様体神経栄養因子(cilliary neurotrophic factor)、アキソジェネシス因子-1(axogenesis factor-1)、脳ナトリウム利尿ペプチド(brain-natriuretic peptide)、神経膠由来神経栄養因子(glial derived neurotrophic factor)、ネトリン(netrin)、中性球抑制因子(neurophil inhibitor factor)、神経栄養因子、ニュートリン(neuturin)など)、副甲状腺ホルモン、リラキシン、セクレチン、ソマトメジン、インシュリン様成長因子、副腎皮質ホルモン、グルカゴン、コレシストキニン、膵臓ポリペプチド、ガストリン放出ペプチド、副腎皮質刺激ホルモン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、自己毒素(autotaxin)、ラクトフェリン(lactoferrin)、ミオスタチン(myostatin)、受容体類(例えば:TNFR(P75)、TNFR(P55)、IL-1受容体、VEGF受容体、B細胞活性因子受容体など)、受容体拮抗物質(例えばIL1-Raなど)、細胞表面抗原(例えば、CD2、3、4、5、7、11a、11b、18、19、20、23、25、33、38、40、45、69など)、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片類(例えば:scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFd)、ウィルス由来ワクチン抗原などを例示することができるが、これに限定されるものではない。・・・本発明の具体的な実施では、形質転換体HM11201から生産された免疫グロブリンFc領域をポリエチレングリコールを用いてヒト赤血球生成促進因子(Erythropoietin;EPO)に結合させてEPO-PEG-免疫グロブリンFc領域タンパク質結合体を製造し、前記タンパク質結合体が、天然型EPO、および増加した血中半減期を示す2世代EPOとして知られているアラネスプ(Aranesp)(Amgen社)より優れた血中半減期を示すことを確認した。したがって、本発明によってヒンジ領域を用いて凝集体から生成された開始メチオニン残基の除去された免疫グロブリンFc領域は、免疫反応を誘発する危険性なしで生理活性ポリペプチドの血中半減期を増加させ、生理活性を改善させるのに有用に使用できることが分かる。」(第10頁下から第1段落~第12頁第1段落) オ 実施例 「<実施例1>ヒト免疫グロブリンIgG4 Fc領域発現ベクターの製作、IgG4 Fc領域の発現および精製、並びにN末端配列の確認 ・・・ <1-1>IgG4 Fc領域発現ベクターの製作 IgG4のヒンジ領域を含む重鎖Fc領域をクローニングするために、ヒトの血液から収得した血球細胞のRNAを鋳型として次のようにRT-PCRを行った。・・・ ・・・ それぞれ製作された発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換させて大腸菌形質転換体BL21/pmSCPFc(HM11200)、BL21/pmPSCFc(HM11201)、BL21/pmCPSFc(HM11204)およびBL21/pmCPFc(HM11205)を製造し・・・ <1-2>IgG4Fc領域の発現および精製 前記実施例<1-1>で収得した微生物形質転換体を発酵器(Marubishi社)に接種して発酵させた後、免疫グロブリンFc領域断片の発現有無を確認した。・・・ ・・・ <1-3>N末端配列の確認 前記実施例で凝集体をリフォールドして二量体形態で発現されるFcは、開始コドンであるメチオニンが付加されているため、天然型とは異なる配列を持つ。このようなメチオニン残基が大腸菌プロテアーゼによってプロセスされるかを確認するために、基礎科学支援研究所のソウル分所に前記タンパク質のN末端配列分析を依頼した。・・・」 「<実施例4>活性酵素免疫測定によるClq結合能の確認 前記実施例<1-2>で大腸菌形質転換体から発現されて精製された免疫グロブリンFc領域タンパク質がヒトClqと結合するか否かを確認するために、下記のように活性酵素免疫測定分析法(ELISA)を行った。・・・ ・・・ 図2に示すように、本発明によって大腸菌で生産した免疫グロブリンFc領域タンパク質は、糖があるものに比べて著しく低下したClqに対する結合能を示すため、生理活性ポリペプチドとの結合タンパク質形成の際にキャリアとして使用されて人体に投与される場合にも、細胞毒性や炎症などの免疫反応を誘発する危険性が非常に低いことが分かる。」 「<実施例5>活性酵素免疫測定によるヒトFcγRI、FcγRIII、FcRnαβ2との結合能の確認 免疫グロブリンFcは、生体内血液細胞の受容体であるFcγRI、FcγRIIIと結合して抗体依存的細胞毒性のようなエフェクター機能を行うものと知られている。大腸菌で生産した免疫グロブリンFcもこのようなエフェクター機能を引き起こすかを調べるために、各受容体を収得した後、活性酵素免疫測定法を行ってその結合能を確認した。・・・ ・・・ <5-4>FcγRIII結合能の確認 実施例<1-2>で精製されたHM11200とHM11201産物、そして対照群として糖鎖のあるヒト由来serumIgGとserumIgGをパパイン処理して分離したFcをそれぞれ9μg/mLの濃度で炭酸塩緩衝溶液(pH9.0)で希釈した後、さらに炭酸塩緩衝溶液で1/3ずつ7段階希釈して96ウェルプレート(Nunc,Maxisorp)にウェル当り100μLずつ分注して4℃の冷蔵状態で18時間反応させてウェルの底部に結合するようにした。・・・ ・・・図4から分かるように、大腸菌で生産したFcはFcγRIIIとほぼ結合せず、糖鎖のあるヒト由来IgGとFcの場合は強く結合することが分かる。」 「<実施例6>ヒト赤血球生成促進因子結合体の製造および薬物動力学 ・・・ <6-2>ヒト赤血球生成因子-PEG連結体の製造 両側末端にアルデヒド反応基を持つ分子量3.4kDaのポリエチレングリコールALD-PEG-ALD(Shearwater社)を、前記で生産されたEPOが5mg/mLの濃度で溶解している100mMリン酸塩緩衝液に、EPO:PEGのモル比が1:1、1:2.5、1:5、1:10および1:20となるように添加した。ここに還元剤としてのナトリウムシアノボロヒドリド(NaCNBH3、Sigma社)を最終濃度が20mMとなるように添加し、4℃で徐々に攪拌しながら2時間反応させた。EPOのアミノ末端部位に選択的にPEGが連結され、PEGとインターフェロンαが1:1で結合した連結体を得るために、前記反応混合物をもってスーパーデキス(SuperdexR、Pharmacia社)サイズ排除クロマトグラフィーを行った。溶出液として10mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)を用いてEPO-PEG連結体を精製し、PEGに結合していないEPO、未反応PEG、および2つのEPOがPEGと連結された二量体副産物を除去した。精製されたEPO-PEG連結体を5mg/mLの濃度で濃縮した。これから反応性が最も良く、二量体などの副産物が少ないEPO:PEGの最適反応モル比は1:2.5~1:5であることを確認した。 <6-3>ヒト赤血球生成因子-PEG連結体と組み換え免疫グロブリンFc領域の結合体の製造 前記実施例<6-2>で製造したEPO-PEG連結体と、実施例<1-3>でHM11201形質転換体で生産した免疫グロブリンFc領域とを結合させた。具体的に、実施例<1-3>で準備された免疫グロブリンFc領域断片(約53kDa)を10mMリン酸塩緩衝液に溶解させた後、EPO-PEG連結体:Fc領域断片のモル比がそれぞれ1:1、1:2、1:4および1:8となるようにEPO-PEG連結体と混合して反応させた。反応液を100mMリン酸塩緩衝溶液状態に作り、還元剤としてNaCNBH3を最終濃度が20mMとなるように添加した後、4℃で20時間徐々に攪拌しながら反応させた。これから反応性が最も良く、二量体などの副産物が少ないEPO-PEG連結体:Fc領域断片の最適反応モル比は1:2であることを確認した。 結合反応の後、未反応物質および副産物を除去し、生成されたEPO-PEG-免疫グロブリンFc領域タンパク質結合体を精製するために、高圧液体クロマトグラフィーを行った。カップリング反応液を脱塩カラムHiPrep26/10(Pharmacia社)を用いて10mM Tris緩衝液(pH8.0)で交換した後、Q HP 26/10カラム(Pharmacia社)50mLに8mL/分の流速で負荷して結合させた後、直線濃度勾配(塩化ナトリウム濃度0M→0.2M)方法で所望の分画を得た。溶出された分画を、10mM酢酸緩衝液(pH5.2)で平衡化されたpolyCAT21.5×250カラム(polyLC社)に15mL/分の流速で再び結合させた後、直線濃度勾配(塩化ナトリウム濃度0.1M→0.3M)方法で溶出して高純度の分画を得ることができた。」 カ 図面 「【図2】ヒト免疫グロブリンIgG4 Fc領域のC1qとの結合能を確認した結果である。 [図:0001422779000001.jpg] 」 「【図4】ヒト免疫グロブリンIgG Fc領域のFcγRIIIとの結合能を確認した結果である。 [図:0001422779000002.jpg] 」 (2)引用文献3(特表2016-510003号公報) 引用文献3には、以下の事項が記載されている。 ア 発明の名称 「新規なインスリンアナログ及びその用途」 イ 発明の概要 「【0013】 本発明の非天然型のインスリンアナログは、天然型に比べてインスリン力価が減少しただけなく、インスリン受容体に対する結合力減少により生体内除去メカニズムを回避して生体内血中半減期が延長したインスリンアナログを提供するだけでなく、それを用いたインスリンアナログ-免疫グロブリンFc結合体は血中半減期を大幅に延長させることにより、インスリン投与を必要とする患者の利便性を向上させることができる。」 ウ 発明を実施するための形態 「【0045】 ヒト由来のFc領域を微生物から得られた組換え免疫グロブリンFc領域であることが好ましい。 また、免疫グロブリンFc領域は、天然糖鎖、天然型に比べて増加した糖鎖、天然型に比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法及び微生物を用いた遺伝工学的方法などの通常の方法が用いられる。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)の結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞毒性又は補体依存性細胞毒性が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このような点から、薬物のキャリアとして本発明の目的に適する形態は、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFc領域であると言えるであろう。」 エ 実施例 「【0094】 ・・・ 実施例8:インスリンアナログ(7番)-免疫グロブリンFc結合体の作製 インスリンアナログβ鎖のN末端を3.4K ALD2 PEG(NOF,日本)でペグ化するために、インスリンアナログ:PEGのモル比を1:4とし、インスリンアナログ濃度を5mg/mlとして4℃で約2時間反応させた。ここで、反応はpH6.0の50mMクエン酸ナトリウム(Sodium Citrate)、45%イソプロパノールで行われ、3.0mMの濃度のシアノ水素化ホウ素ナトリウム還元剤を添加して反応させた。反応液はクエン酸ナトリウム(pH3.0)、45%エタノールが含まれる緩衝液とKCl濃度勾配を用いたSP-HP(GE Healthcare,米国)カラムを用いて精製した。 【0095】 インスリンアナログ-免疫グロブリンFcフラグメント結合体を作製するために、上で精製されたモノペグ化された(mono-PEGylated)インスリンアナログと免疫グロブリンFcフラグメントのモル比が1:1~1:2になるようにし、総タンパク質濃度を約20mg/mlとして25℃で13時間反応させた。ここで、反応緩衝液条件は100mMHEPES、pH8.2であり、還元剤として20mMシアノ水素化ホウ素ナトリウムを添加した。こうすることにより、FcフラグメントのN末端にPEGが結合した。 【0096】 反応終了後、Q HP(GE Healthcare,米国)カラムにおいて、Tris-HCl(pH7.5)緩衝液とNaCl濃度勾配を用いて、反応液から反応していない免疫グロブリンFcフラグメント、モノペグ化されたインスリンアナログを分離精製した。 【0097】 その後、Source 15ISO(GE Healthcare,米国)を2次カラムとして用いて、残留している免疫グロブリンFcフラグメント及びインスリンアナログが免疫グロブリンFcフラグメントに2つ以上結合された結合体を除去し、インスリンアナログ-免疫グロブリンFcフラグメント結合体を得た。ここで、Tris-HCl(pH7.5)が含まれる硫酸アンモニウムの濃度勾配を用いて溶出し、溶出したインスリンアナログ-免疫グロブリンFc結合体は、タンパク質電気泳動(SDS-PAGE,図4)及び高圧クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析した(図5)。その結果、約99%の純度に精製されたことが確認された。」 (3)引用文献4(国際公開第2015/186988号) 引用文献4には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献4は、英文で記載されているところ、以下の日本語訳による摘示は、引用文献4のパテントファミリーである特表2017-521381号公報の記載に基づくものであり、その段落番号も便宜上そのまま記載した。 ア 発明の名称 「タンパク質及びペプチドの免疫原性を減少させる方法」 イ 発明を実施するための形態 「【0028】 本発明は、生理活性タンパク質またはペプチドの非末端内部残基にキャリアを結合させる工程を含む、キャリアが結合されていない生理活性タンパク質またはペプチドに比べて生理活性タンパク質またはペプチドの免疫原性を減少させる方法に関する。 【0029】 本発明において本発明者らは、生理活性タンパク質またはペプチドの末端より内部残基に非ペプチジルリンカーとFc断片を結合して、目的タンパク質またはペプチドが抗原として作用しメカニズムを阻害することにより、生理活性タンパク質またはペプチドの免疫原性を低下させる方法を開発した。本発明者らは、このような方法を使用する場合、ペプチドのN末端などの他の位置に修飾して結合体を製造することに比べて、 T細胞の活性化及び動物における抗体の生成反応を顕著に抑制することを確認した。その結果、本発明者らは、既存のタンパク質医薬製剤として使用された生理活性タンパク質またはペプチド結合体を生理活性タンパク質またはペプチドの免疫原性減少用組成物、または方法として新たな用途で使用することができることを発見した。」 ウ 実施例 「【0119】 <実施例2>:CAエキセンディン-4リジン残基のペグ化(Pegylation)と位置異性体分離 3.4K PropionALD(2)PEGをCAエキセンディン-4(米国のAmerican Peptides)のリジン(Lys)残基にペグ化させるため、3mg/ml濃度のCAエキセンディン-4とPEGとのモル比を1:30にして、4℃で3時間反応させた。CAエキセンディン-4は、天然型エキセンディンのN-末端ヒスチジン残基でアルファ炭素が削除され、側鎖のβ-炭素が直接カルボキシル炭素に結合したN-末端変形エキセンディン-4である。」 「【0128】 <実施例5>:EpiScreenTMエクス・ビボ(ex vivo)T細胞増殖試験 代表的な生理活性タンパク質またはペプチドであるインスリン分泌ペプチドのペグ化位置に応じた免疫原性抑制メカニズムを確認するために、非結合天然型エキセンディン-4、非結合CAエキセンディン-4、CAエキセンディン-4のリジン残基にペグ化された連結体ペプチド(CAエキセンディン-4-PEG(inter))及び天然型エキセンディン-4のN-末端にペグ化された連結体ペプチド(エキセンディン-4-PEG(N-term))のT細胞増殖能を比較した。この時、CAエキセンディン-4はペグ化することができるN-末端残基を有していないため、CAエキセンディン-4に対してはN-末端ペグ化連結体を製造していなかった。 【0129】 T細胞の増殖試験のために、前記ドナーの末梢血単核細胞(PBMC)を解凍して細胞数と生存率を測定した。細胞は、AIM-V培地で4-6x106細胞/mlになるように希釈した。各ドナー細胞を24ウェル培養プレートに分注した後、試験試料を最終濃度50μg/mlになるように添加した(n=3)。各ドナー細胞に対する再現性の確認のために抗原ペプチドKLH処理群を準備して置いた。すべての試験群と対照群は、37℃、5%CO2の条件の培養器で8日間培養した。5、6、7、8日目にそれぞれ細胞の一部を取って、96ウェルの培養プレートに移して細胞増殖率を測定した。細胞増殖率の測定のためにウェル当り0.75μi[3H]-Thymidine(Perkin Elmer Buckinghamshire、UK)を添加して18時間培養した後、TomTec Mach III細胞回収器を利用して96ウェルのフィルタープレートに細胞を回収した。各ウェルの放射線活性度(cpm、count per minute)は1450 Microbeta Wallac Trilux Liquid Scintillation Counter(Perkin Elmer Buckinghamshire、UK)を用いて測定した。その結果、刺激指標(SI、stimulation index)の実験的閾値に基づいて2以上(SI≧2、p<0.05)の場合を陽性(P)と判定した。SI≧1.9に該当する境界値を含む場合には、別途表示(P*)した。その結果、CAエキセンディン-4及びエキセンディン-4に対してそれぞれ12%及び10%のドナーから陽性反応を確認した。しかし、前記ペプチドの内部残基にペグ化されたCAエキセンディン-4は、すべてのドナーから陰性と確認された。一方、N-末端にペグ化されたエキセンディン-4は、6%のドナーで陽性を示した。・・・ ・・・ 【0131】 表3は、T細胞の増殖反応強度及び頻度(SI≧1.9境界値を含む)を示す。 【0132】 【表3】 [図:0001422779000003.jpg] 【0133】 上記のような結果は、生理活性タンパク質またはペプチドの末端ではなく、内部残基に非ペプチド性ポリマー、特にPEGを連結した連結体の免疫原性が阻害されることを示唆するものである。」 「【0134】 <実施例6>:EpiScreenTMエクス・ビボ(ex vivo)インターロイキン-2(IL-2)分泌試験 代表的な生理活性タンパク質またはペプチドであるインスリン分泌ペプチドのペグ化位置に応じた免疫原性抑制メカニズムを確認するために、EpiScreenTMT細胞の増殖アッセイでの同じ試料及びドナー細胞を用いて、実施例5のペグ化されたエキセンディン-4及び非結合エキセンディン-4に対してインターロイキン-2分泌能を比較測定した。抗インターロイキン-2抗体(R&D Systems、Abingdon、UK)はELISpotプレート(Millipore、Herts、UK)に結合させた。前記プレートをPBS(phosphate-buffered saline)で3回洗浄した後、1%の牛血清アルブミンが補充されたPBSを添加して反応させた。AIM-V培養培地で洗浄した後、AIM-V培養培地で希釈(4-6x106細胞/ml)したドナー細胞を100μl/ウェルずつ分注した。最終濃度が50μg/mlになるように試験試料を50μlずつ添加した(n=6)。8日間培養した後、ELISpotプレートにビオチン標識されたインターロイキン-2検出抗体とストレプトアビジン-AP(R&D Systems、Abingdon、UK)を順次的に結合させた後、スポットを表現するためにBCIP/NBT((R&D Systems、Abingdon、UK)をプレートに添加した。蒸留水で洗浄して前記反応を終了させた後、プレートを乾燥させた。Immunoscan Analyserを使用し、ウェル当り生成されたスポット(spw、spots per well)をスキャンして分析した。前記エクス・ビボ(ex vivo)T細胞活性度の測定試験の結果は、刺激指標(SI、stimulation index)の実験的閾値に基づいて、2以上(SI≧2、p<0.05)の場合を陽性(E)と判定した。SI≧1.9に該当する境界値を含む場合には、別途表示(E*)した。その結果、CAエキセンディン-4及びエキセンディン-4に対してそれぞれ12%及び16%のドナーからの陽性反応が確認された。しかし、ペプチド内部残基にペグ化されたCAエキセンディン-4は、ドナーから2%のみであった。一方、N-末端にペグ化されたエキセンディン-4は、6%のドナーで陽性を示した。即ち、N-末端よりペプチドの内部リジン残基にペグ化された場合、前記ペプチドの免疫原性は顕著に阻害された(表2~4)。表4は、T細胞のインターロイキン-2の分泌反応の強度及び頻度(SI≧1.9境界値を含む)を示す。 【0135】 【表4】 [図:0001422779000004.jpg] 【0136】 上記のような結果は、生理活性タンパク質またはペプチドの末端ではなく、内部残基に非ペプチド性ポリマー、特にPEGを連結した連結体の免疫原性が阻害されることを示唆するものである。」 (4)引用文献5(特表2016-511752号公報) 引用文献5には、以下の事項が記載されている。 ア 発明の名称 「代謝障害の処置における組成物及び使用方法」 イ 発明の概要 「【0009】 概要 本開示は、様々な疾患、障害、及び状態、ならびに/またはそれらの症状を処置する、及び/または予防するための、本明細書に記載される薬剤及びその組成物の使用を想定する。いくつかの実施形態では、疾患、障害、及び状態、ならびに/またはそれらの症状は、グルコース代謝障害及び他の代謝関連障害に関し、一方、他の実施形態では、それらは体重障害に関する。例として、薬剤及びその組成物は、真性糖尿病(例えば、2型糖尿病)、インスリン抵抗性、ならびにインスリン抵抗性を特徴とする疾患、障害、及び状態、インスリン産生の減少、高血糖、低インスリン血症、ならびに代謝症候群の処置及び/または予防に使用され得るが、これらに限定されない。薬剤及びその組成物は、例えば、食欲抑制をもたらすことにより、肥満及び他の体重障害の処置及び/または予防にも使用され得る。 ・・・ 【0019】 本開示のいくつかの実施形態では、ポリペプチドに対する修飾は、ペグ化、グリコシル化、ポリシアル酸化、HES化、アルブミン融合、共役脂肪酸鎖を介したアルブミン結合、Fc融合、またはPEG模倣体との融合を含む。」 ウ 発明を実施するための形態 「【0137】 ペグ化:タンパク質治療薬の臨床的効果は、短い血漿半減期及びプロテアーゼ分解を受けやすいことにより制限されることが多い。様々な治療用タンパク質(例えば、フィルグラスチム)の研究は、そのような困難が、様々な非タンパク質性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、またはポリオキシアルキレンのいずれかにポリペプチド配列をコンジュゲートする、または連結する(例えば、典型的には、タンパク質と非タンパク質性ポリマー、例えば、PEGの両方に共有結合する連結部分を介して)ことを含む、様々な修飾により克服され得ることを示した。そのようなPEGコンジュゲート生体分子は、良好な物理的及び熱的安定性、酵素分解への感受性に対する保護、溶解度の増加、より長いインビボ循環半減期、及びクリアランスの減少、免疫原性及び抗原性の減少、ならびに毒性の減少を含む、臨床的に有用な性質を保有することを示した。」 (5)引用文献6(特開2015-146805号公報) 引用文献6には、以下の事項が記載されている。 ア 発明の名称 「アミノ酸変異が導入されたIgG2を有する抗体」 イ 発明を実施するための形態 「【0020】 本発明は、アゴニスト活性を示す、IgG2-AASである重鎖定常領域を有するヒトCD40に結合するモノクローナル抗体に関する。 ・・・ 【0044】 ・・・ 本発明のモノクローナル抗体は、CD40に結合するモノクローナル抗体に放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、抗体などの蛋白質などを化学的あるいは遺伝子工学的に結合させた抗体の誘導体を包含する。 ・・・ 【0050】 高分子の薬剤としては、ポリエチレングリコール(以下、PEGと表記する)、アルブミン、デキストラン、ポリオキシエチレン、スチレンマレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、またはヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどがあげられる。これらの高分子化合物を抗体に結合させることにより、(1)化学的、物理的あるいは生物的な種々の因子に対する安定性の向上、(2)血中半減期の顕著な延長、(3)免疫原性の消失または抗体産生の抑制、などの効果が期待される[バイオコンジュゲート医薬品,廣川書店(1993)]。例えば、PEGと抗体を結合させる方法としては、PEG化修飾試薬と反応させる方法などがあげられる[バイオコンジュゲート医薬品,廣川書店(1993)]。PEG化修飾試薬としては、リジンのε-アミノ基への修飾剤(日本国特開昭61-178926号公報)、アスパラギン酸およびグルタミン酸のカルボキシル基への修飾剤(日本国特開昭56-23587号公報)、またはアルギニンのグアニジノ基への修飾剤(日本国特開平2-117920号公報)などがあげられる。」 2 判断 (1)引用発明の認定 引用文献1には、免疫グロブリンFcとタンパク質との融合によってタンパク質の安定性を増加させることが知られているが、Fc領域の持つエフェクター機能が発揮されるという問題点があり、大腸菌などの原核細胞発現システムで得られる非糖化されたFcをタンパク質と結合させることにより、不適切な免疫反応は除去され、これと同時に安定性等が充足されること、このような背景の下、糖鎖が除去されて免疫反応誘発のおそれがない活性型の免疫グロブリンFc領域を大量に生産する方法として、特定のヒンジ領域をFc領域のN末端に連結させ、開始メチオニン残基の除去されたFc領域を大量に生産する発明を完成したことが記載されている(前記1(1)ウ)。 上記のとおりに作製したFc領域の適用として、Fc領域を生理活性ポリペプチド等の薬物とリンカーを介して結合させること、この際の生理活性ポリペプチドとして、コロニー刺激因子、グルカゴン、インスリン、イミグルセラーゼ等が挙げられること、本発明の具体的な実施では、EPO-PEG-Fc領域タンパク質結合体を製造して、当該結合体が優れた血中半減期を示すことを確認したことも記載されている(前記1(1)エ)。 そして、上記の非糖化されたFcとして、具体的には、IgG4のヒンジ領域を含むFc領域を大腸菌で発現、精製させて、そのN末端配列を確認したこと(前記1(1)オ、実施例1、<1-2>、<1-3>)とともに、実施例<1-2>で精製されたFc領域、すなわち当該IgG4のヒンジ領域を含むFc領域に対するC1qの結合能が、糖を有するFc領域に比べて著しく低下したこと(前記1(1)オ、実施例4)、同じく実施例<1-2>で精製されたFc領域、すなわち当該IgG4のヒンジ領域を含むFc領域はFcγRIIIとほぼ結合せず、糖鎖のあるヒト由来IgGとFcの場合は強く結合すること(前記1(1)オ、実施例5、<5-4>)が記載されている。 さらに、上記EPO-PEG-Fc領域タンパク質結合体の具体的な製造方法として、両側末端にアルデヒド反応基を持つPEGを用い、EPOのN末端部位にPEGが連結されたEPO-PEG連結体を製造した後(前記1(1)オ、実施例6、<6-2>)、当該連結体に実施例<1-3>で生産したFc領域、すなわちIgG4のヒンジ領域を含むFc領域を結合させるために、EPO-PEG連結体:Fc領域断片のモル比を最適な1:2として、反応液は100mMリン酸塩緩衝溶液、還元剤として20mMのNaCNBH3を用い、4℃で20時間徐々に撹拌という条件で反応させて、EPO-PEG連結体とFc領域の結合体を製造したこと(前記1(1)オ、実施例6、<6-3>)が記載されている。 以上のとおり、引用文献1の実施例には、大腸菌で発現されたIgG4のFc領域であって、糖鎖のあるヒト由来IgGのFcに比べてC1q、FcγRIIIとの結合が著しく低下したものが開示され、EPOのN末端部位にPEGが連結してなるEPO-PEG-Fc結合体が具体的に開示されているのだから、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されている。 「大腸菌で発現され、糖鎖のあるヒト由来IgGのFcに比べてC1q、FcγRIIIとの結合が著しく低下した、IgG4のFc領域に、PEGでEPOを結合した結合体であって、当該EPOのN末端に連結された、前記結合体。」(以下、引用発明という。) (2)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用文献1における、「Fcは非糖化された形態が好ましいので、大腸菌などの原核細胞発現システムを利用するようにする」(前記1(1)ウ)、「本発明によって大腸菌で生産した免疫グロブリンFc領域タンパク質は、糖があるものに比べて著しく低下したClqに対する結合能を示すため・・・細胞毒性や炎症などの免疫反応を誘発する危険性が非常に低い」(前記1(1)オ、実施例4)との記載、大腸菌で発現したIgG4のFcと糖鎖を有するIgGのFcとを比較してC1q又はFcγRIIIとの結合能を示す具体的なデータ(前記1(1)カ)を参酌すると、引用発明における「大腸菌で発現され、糖鎖のあるヒト由来IgGのFcに比べてC1q、FcγRIIIとの結合が著しく低下した、IgG4のFc領域」は、糖鎖のあるヒトIgGのFcに比べて免疫反応が弱化されたものと認められ、本願発明における「ヒト血清由来の免疫グロブリンまたはそのFc断片に比べて免疫反応が弱化された免疫グロブリンFc断片」、及び「非糖鎖化されたIgG4 Fc断片であり、Fcガンマ受容体との結合力がヒト血清由来の免疫グロブリンGまたはそのFc断片に比べて90%以下に減少し、前記免疫グロブリンFc断片は、補体1qとの結合力がヒト血清由来の免疫グロブリンGまたはそのFc断片に比べて90%以下に減少し」た免疫グロブリンFc断片に相当する。 また、引用発明における「IgG4のFc領域に、PEGでEPOを結合した結合体であって、当該EPOのN末端に連結された、前記結合体」は、本願発明における「免疫グロブリンFc断片に生理活性ポリペプチドが連結された、生理活性ポリペプチド-免疫グロブリンFc断片の結合体であって」「前記生理活性ポリペプチド及び免疫グロブリンFc断片が、非ペプチド性リンカーを介して連結され、」「ポリエチレングリコールである非ペプチド性リンカーが生理活性ポリペプチドのN末端またはC末端に連結され」た結合体に相当する。 そうすると、両者の一致点及び一応の相違点は、以下のとおりである。 <一致点> ヒト血清由来の免疫グロブリンGまたはそのFc断片に比べて免疫反応が弱化された免疫グロブリンFc断片に生理活性ポリペプチドが連結された、生理活性ポリペプチド-免疫グロブリンFc断片の結合体であって: 前記免疫グロブリンFc断片は、非糖鎖化されたIgG4 Fc断片であり、Fcガンマ受容体との結合力がヒト血清由来の免疫グロブリンGまたはそのFc断片に比べて90%以下に減少し、前記免疫グロブリンFc断片は、補体1qとの結合力がヒト血清由来の免疫グロブリンGまたはそのFc断片に比べて90%以下に減少し、 前記生理活性ポリペプチド及び免疫グロブリンFc断片が、非ペプチド性リンカーを介して連結され、 ポリエチレングリコールである非ペプチド性リンカーが生理活性ポリペプチドのN末端またはC末端に連結される、前記結合体。 <一応の相違点1> 生理活性ポリペプチド-免疫グロブリンFc断片の結合体の性質について、本願発明では「(a)前記結合体が、生理活性ポリペプチド単独による免疫反応に比べても弱化された 免疫反応を示し;(b)前記結合体が、前記免疫グロブリンFc断片自体の免疫反応と相応したり、減少された程度の免疫反応を示し」と特定されるのに対し、引用発明では当該特定がない点。 <一応の相違点2> 生理活性ポリペプチド-免疫グロブリンFc断片の結合体の構造について、本願発明では、「前記生理活性ポリペプチドは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、好中球増加因子(G-CSF)、グルカゴン、オキシントモジュリン、インスリン、エクセンディン、イミグルセラーゼ及びこれらのアナログからなる群から選択され」、「ポリエチレングリコールである非ペプチド性リンカーが免疫グロブリンFc断片のN末端に連結され」るのに対し、引用発明では、生理活性ポリペプチドがEPOであり、ポリエチレングリコールがFcのどの位置に連結されているか明記されていない点。 (3)一応の相違点についての判断 まず、前記(2)で示した、結合体の性質に係る一応の相違点1について、以下に検討する。 生理活性ポリペプチドに対してPEGを付加することにより、本願明細書の実施例5で使われているT細胞増殖試験、IL-2分泌試験といったアッセイで測定される免疫反応が抑制されることは、本願優先日前に一般的に知られていた事項である。 例えば、引用文献1と同一出願人である引用文献4には、生理活性タンパク質の免疫原性を減少させる方法として、同タンパク質の末端より内部末端に非ペプチジルリンカーとFc断片を結合することが記載され(前記1(3)イ)、具体的には、インスリン分泌ペプチドのペグ化位置に応じた免疫原性抑制メカニズムを確認するために、(1)非結合天然型エキセンディン-4、(2)非結合CAエキセンディン-4、(3)CAエキセンディン-4のリジン残基にペグ化された連結体ペプチド(CAエキセンディン-4-PEG(inter))、及び(4)天然型エキセンディン-4のN-末端にペグ化された連結体ペプチド(エキセンディン-4-PEG(N-term))を準備し、EpiScreenTM エクス・ビボ(ex vivo)T細胞増殖試験、及びEpiScreenTM エクス・ビボ(ex vivo)インターロイキン-2(IL-2)分泌試験を行い、PEGを結合しない(1)及び(2)に比べて、PEGを結合した(3)及び(4)が、T細胞増殖及びIL-2分泌という点で、免疫反応が抑制され、その効果は、PEGをN末端に結合した(4)に比べてPEGを内部末端に結合した(3)が高かったことが示されている(前記1(3)ウ、実施例5、6)。ここで、引用発明と比較して一応の相違点1と認定した、本願発明の「(a)前記結合体が、生理活性ポリペプチド単独による免疫反応に比べても弱化された 免疫反応を示し;(b)前記結合体が、前記免疫グロブリンFc断片自体の免疫反応と相応したり、減少された程度の免疫反応を示し」という性質は、本願明細書の「実験例5:EpiScreen分析を介した免疫原性の確認」(【0156】~【0162】)で開示される、T細胞の増殖頻度とIL-2の分泌度を確認する試験に基づく結果に対応するものといえ、本願明細書における当該試験は、その名称と内容から、引用文献4に記載される上記のEpiScreenTM エクス・ビボ(ex vivo)T細胞増殖試験、及びEpiScreenTM エクス・ビボ(ex vivo)インターロイキン-2(IL-2)分泌試験と同等のものと認められる。 さらに、引用文献5には、様々な疾患、症状を処置、予防するための薬剤、組成物の使用において(前記1(4)イ)、タンパク質治療薬をPEG化することにより、良好な物理的及び熱的安定性、免疫原性及び抗原性の減少等の臨床的に有用な性質が得られること(前記1(4)ウ)、引用文献6には、高分子の薬剤等を結合させたモノクローナル抗体の誘導体について(前記1(5)イ、【0020】、【0044】)、高分子の薬剤としてPEG等が挙げられ、高分子の薬剤を抗体に結合させることにより、安定性の向上とともに、免疫原性の消失又は抗体産生の抑制等の効果が期待させること(前記1(5)イ、【0050】)が記載されている。 このとおり、生理活性ポリペプチドに対してPEGを付加することにより、免疫反応が抑制されることは、本願優先日前に一般的に知られていた事項であって、引用発明の結合体は、生理活性ポリペプチドに対して、免疫反応を抑制させる性質を有するPEGをリンカーとして、免疫反応誘発のおそれがない免疫グロブリンFc領域を連結させたものであるから、当該生理活性ポリペプチド単独による免疫反応に比べて弱化された免疫反応を示し、さらに当該免疫グロブリンFc領域自体の免疫と相応する、又は減少された程度の免疫反応を示す蓋然性が極めて高いと認められる。 したがって、上記一応の相違点1は、実質的な相違点とは認められない。 次に、前記(2)で示した、結合体の構造に係る一応の相違点2について、以下に検討する。 引用文献1には、EPO-PEG-Fc結合体を製造する方法として、両側末端にアルデヒド反応基を持つPEGを用い、EPOのN末端部位にPEGが連結されたEPO-PEG連結体を製造した後、Fc領域を結合させたこと、その反応条件は、EPO-PEG連結体:Fc領域断片のモル比を1:2とし、100mMリン酸塩緩衝溶液、還元剤として20mMのNaCNBH3を反応液とし、4℃で20時間徐々に撹拌したことが記載されており(前記1(1)オ、実施例6、<6-2>、<6-3>)、ここで、NaCNBH3の存在下でアルデヒド基とアミノ基が反応して結合することは文献を挙げるまでもなく一般的に知られた事項であるところ、上記記載から、PEGの末端にあるアルデヒド反応基がFcのアミノ基に対して結合したことを把握でき、FcのN末端の露出しているアミノ基にPEGが結合した結合体が得られているものと認められる。 この点は、引用文献1と出願人が同一の引用文献3において、インスリンアナログ-Fc結合体の具体的な製造方法として、、引用文献1に記載された上記の反応条件と同等の反応条件(前記1(2)エ、【0094】~【0095】)によって、FcのN末端にPEGを結合させたことが明記されていることからも明らかである。 また、引用文献1には、結合体に用いる生理活性ポリペプチドとして、EPO以外に、コロニー刺激因子、イミグルセラーゼ、インスリン、グルカゴン等の種々のポリペプチドが例示されるとともに、これらに限定されるものではないと記載されており(前記1(1)エ)、引用発明において、EPOを公知の種々のポリペプチドに変更することは、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。 そうすると、上記一応の相違点2は、実質的な相違点とは認められない。 仮に上記一応の相違点1、2が実質的な相違点であるとしても、いずれも軽微な相違点にすぎず、本願発明は、引用文献1、3~6の記載に基づいて、当業者が容易になし得た範囲のものである。 (4)請求人の主張について 請求人は、令和6年8月15日提出の意見書において、新規性及び進歩性に関して、以下の点を主張している。 ア 引用文献4には、生理活性ペプチドの非末端内部残基にPEGを連結して免疫原性を低下させることによる顕著な効果を示すことが示唆されている一方、本願発明においては、PEGは、生理活性ペプチドの末端に結合し、PEGの他端が免疫グロブリンFc断片に結合していることを特徴としており、引用文献4に記載の技術とは異なる。 イ 本願発明における、(a)結合体が、生理活性ポリペプチド単独による免疫反応に比べても弱化された免疫反応を示し、(b)結合体が、前記免疫グロブリンFc断片自体の免疫反応と相応したり、減少された程度の免疫反応を示す、という技術的特徴は、非糖鎖化されたIgG4 Fc断片のN末端と生理活性ポリペプチドのN末端又はC末端にPEGを連結して結合体を形成することにより達成されるが、どの引用文献にも、これらの技術的特徴は記載されていない。 上記主張アについて、引用文献4の実施例5、6(前記1(3)ウ)には、生理活性ペプチドの末端残基にPEGを連結させる場合も、免疫原性が低下することが具体的に記載されているから、前記(3)に述べたとおり、引用発明の結合体は、本願発明の(a)及び(b)の性質を有するものと合理的に認められる。 上記主張イでは、当該性質について、「非糖鎖化されたIgG4 Fc断片のN末端と生理活性ポリペプチドのN末端又はC末端にPEGを連結して結合体を形成することにより達成される」と述べられているところ、引用発明の結合体は、PEGが生理活性ポリペプチドのN末端に連結され、さらに当該PEGが、糖鎖が除去されたIgG由来のFc領域のN末端に連結されたものであるから、引用発明の結合体は、自ずと本願発明の(a)及び(b)の性質を有するものとなり、これは、前記(3)の判断と整合する。 (5)小括 前記(1)~(4)の次第であるから、本願発明は、引用文献3、4~6を参考文献とした上で、引用文献1に記載された発明であり、また、引用文献1、3~6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができず、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-016091

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