特許拒絶査定不服審判
2023-009437
タイヤ用ゴム組成物及びタイヤ
- 審判番号
- 2023-009437
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-039537外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年06月07日
- 審決日
- 2025年03月27日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】住友ゴム工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人WisePlus
- 分類
- P18 .121-Z (C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 39537「タイヤ用ゴム組成物及びタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月10日出願公開、特開2020-143200〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
特願2019-039537「タイヤ用ゴム組成物及びタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔令和2年9月10日出願公開、特開2020-143200〕について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年3月5日の出願であって、以降の手続の経緯は次のとおりである。
令和4年11月21日付け 拒絶理由通知(最初)
令和5年 1月11日 意見書及び手続補正書の提出
同 年 1月31日付け 拒絶理由通知(最後)
同 年 3月13日 意見書の提出
同 年 3月27日付け 拒絶査定
同 年 6月 7日 審判請求書及び手続補正書の提出
同 年 8月15日付け 前置報告
同 年 9月13日 上申書の提出
第2 令和5年6月7日になされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和5年6月7日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1の
「スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、下記式で表される化合物とを含み、
前記化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
[図:0001422879000001.jpg]
」
を、
「スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、下記式で表される化合物と、脂肪酸亜鉛とを含み、前記化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
[図:0001422879000002.jpg]
」(下線は補正箇所である。)
とするものである。
2 補正の適否
(1)補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1のタイヤ用ゴム組成物において、「脂肪酸亜鉛」を当該組成物の必須成分としてさらに含むものとし、タイヤ用ゴム組成物の範囲を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)独立特許要件についての検討
本件補正は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
ア 本願補正発明
本願補正発明は、次のとおりである。
「スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、下記式で表される化合物と、脂肪酸亜鉛とを含み、前記化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
[図:0001422879000003.jpg]
」(当審注:以下、「【化1】」は省略する。)
イ 本願補正発明の技術的意義について
本願明細書の【0011】には「本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドとを含む。該ゴム組成物は、低燃費性、操縦安定性等の他のタイヤ性能を維持しつつ、耐摩耗性を改善できる」ことが、【0012】には「N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドは3級アミンで、シリカとの相互作用が生じる。また、シリカと併用するメルカプト系シランカップリング剤には、ゴム中のシリカ分散を促進する機能が発揮される。これにより、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドもシリカと共にゴム中に分散されていく。更に、ゴム成分としてスチレンブタジエンゴム等を用いる場合、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドが芳香環を2つ有しているため、π-π相互作用によりスチレンブタジエンゴム等を疑似的に弱く架橋する。以上のメカニズムにより、加硫ゴムのE*が向上し、耐摩耗性が向上するものと推察される」ことが記載されている。
上記記載から、本願補正発明においてゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドとを含むことにより、「他のタイヤ性能を維持しつつ、耐摩耗性を改善」するという課題を解決できると解される。
そして、本願明細書の【0137】~【0144】の記載によると、実施例(1-1)~(1-4)と比較例(1-1)との比較、実施例(2-1)~(2-4)と比較例(2-1)との比較、実施例(3-1)~(3-4)と比較例(3-1)との比較、実施例(4-1)と比較例(4-1)との比較、実施例(5-1)と比較例(5-1)との比較、実施例(6-1)と比較例(6-1)との比較から、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドが配合されたタイヤ用ゴム組成物は、良好なE*(操縦安定性)、tanδ(低燃費性)を確保しながら、耐摩耗性が顕著に(相乗的に)改善されることを具体的に確認している。
また、同様に、実施例(1-3)と比較例(1-3)との比較から、メルカプト系シランカップリング剤が配合されたタイヤ用ゴム組成物は、良好なE*(操縦安定性)、tanδ(低燃費性)を確保しながら、耐摩耗性が顕著に(相乗的に)改善されることを具体的に確認している。
一方で、本願明細書では、スチレンブタジエンゴム中のスチレン含有量について、耐摩耗性を良好にするために、【0016】に「SBRのスチレン含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。・・・上記範囲内にすることで、良好な耐摩耗性能が得られる傾向がある」ことが記載されるにとどまり、その作用機序は明らかにされていないうえ、スチレン含有量が25~45質量%を満たすことによる優位な効果や含有量の臨界的意義については、実施例及び比較例等で何ら確認されていない。
同様に、本願明細書では、配合される脂肪酸亜鉛について、【0114】に「前記ゴム組成物は、脂肪酸亜鉛を含んでもよい。脂肪酸亜鉛としては、炭素数14~20の複数の炭素数からなる飽和脂肪酸亜鉛を好適に使用できる」ことが、【0115】に「脂肪酸亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。該含有量は、好ましくは6.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下である。上記範囲内であると、良好な耐摩耗性が得られる傾向がある」ことが記載されるにとどまり、脂肪酸亜鉛の作用機序は明らかにされていないうえ、脂肪酸亜鉛を所定量配合することによる優位な効果についても、実施例及び比較例等で何ら確認されていない。
ウ 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
(ア)引用文献1の記載事項
拒絶査定において引用文献1として引用された、本願の出願日(平成31年3月5日)前の平成28年11月17日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2016-194018号公報には、以下の事項が記載されている。(下線は合議体が付した。以下同様。)
「【請求項1】
ジエン系ゴムに、シリカと、メルカプトシランカップリング剤と、N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドを混合するノンプロ練り工程と、
前記ノンプロ練り工程で得られた混合物に、加硫剤と加硫促進剤を添加し混合するプロ練り工程と、
を含むゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により得られたゴム組成物。」
「【0013】
このように、本実施形態では、スルホンアミド化合物をノンプロ練り工程で添加することにより、メルカプトシランカップリング剤の分散性を高めて当該カップリング剤とシリカとの反応量を高めることができるものと推測される。そのため、未加硫ゴム粘度の経時変化を抑制することができるとともに、低発熱性能や耐疲労性の向上も図ることができる。従来、スルホンアミド化合物は加硫遅延剤としてプロ練り工程で添加されており、ノンプロ練り工程で添加することにより上記のような効果が奏されることは予想外であった。この点について詳述すると、一般に加硫遅延剤は、ごく少量の添加により加硫速度を遅延させるものであるため、生産性が損なわれないように、厳密に反応量を制御して添加することが求められる。そのため、加硫遅延剤は加硫剤や加硫促進剤とともにプロ練り工程で添加されている。ノンプロ練り工程では、シリカ等のフィラー表面に吸着され、一部が失活して添加量通りの遅延効果が発揮されないためである。従って、加硫遅延剤として公知のスルホンアミド化合物を添加する場合もプロ練り工程で添加するのが当業者の技術常識であるといえる。本実施形態は、かかる技術常識に反してなされたのであり、スルホンアミド化合物の新たな用途を見出したものである。」
「【0014】
本実施形態において、ゴム成分としてのジエン系ゴムとしては、特に限定されない。使用可能なジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合ゴム、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。より好ましくは、NR、SBR、BR、又はこれらの2種以上のブレンドゴムである。」
「【0035】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原材料は以下の通りである。
【0036】
・変性SBR:アルコキシル基及びアミノ基末端変性溶液重合SBR、JSR(株)製「HPR350」
・SBR:JSR(株)製「SBR1502」
・NR:RSS3号
・BR:宇部興産(株)製「BR150B」
・シリカ:エボニック・デグサ社製「Ultrasil VN3」(BET:175m2/g)
・カーボンブラック:HAF、東海カーボン(株)製「シースト3」
・オイル:JX日鉱日石エネルギー(株)製「プロセスNC140」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ワックス:日本精鑞(株)製「OZOACE0355」
・シランカップリング剤1:エボニック・デグサ社製「VP Si363」
・シランカップリング剤2:東京化成工業(株)製「3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン
・スルホンアミド化合物:N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミド、LANXESS社製「Vulkalent E/C」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤1:DPG、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
・加硫促進剤2:CBS、住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0037】
[第1実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第1工程(ノンプロ練り工程)で、ジエン系ゴムに対し、同工程の欄に記載の各成分を添加し混合し、排出温度=160℃にてバンバリーミキサーから排出し、常温下で放置することよりノンプロゴム混合物を冷却した。次いで、第2工程(プロ練り工程)で、ノンプロゴム混合物をバンバリーミキサーに投入し、同工程の欄に記載の各成分を添加し混合し、排出温度=100℃にてバンバリーミキサーから排出し、タイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。」
「【0043】
【表1】
[図:0001422879000004.jpg]
【0044】
[第2実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従い、第1実施例と同様の第1工程及び第2工程を実施してゴム組成物を調製した。得られたゴム組成物について、加工安定性を評価するとともに、混合工程終了1日経過後の未加硫ゴム組成物を用いて150℃×30分で加硫した試験片を作製し、低発熱性能と耐疲労性と評価した。各評価方法は、第1実施例と同じであるが、低発熱性能と耐疲労性についてはともに比較例6の値を100とした指数で示した。」
「【0046】
【表2】
[図:0001422879000005.jpg]
」
(イ)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、請求項1に記載されるゴム組成物の製造方法により得られる請求項2のゴム組成物が記載されており、その具体的な例として実施例5が開示されている。
そして、【0036】の原材料の記載、【0037】の第1実施例であるタイヤトレッド用ゴム組成物の製造方法の記載、【0044】の第1実施例と同様の製造方法である第2実施例の製造方法の記載及び【0046】の【表2】の記載に着目して、実施例5のゴム組成物について整理すると、引用文献1には次の発明が記載されていると認める。
「バンバリーミキサーを使用し、第1工程(ノンプロ練り工程)として、80質量部のSBR(JSR(株)製「SBR1502」)、20質量部のBR(宇部興産(株)製「BR150B」)、60質量部のシリカ(エボニック・デグサ社製「Ultrasil VN3」(BET:175m2/g))、20質量部のカーボンブラック(HAF、東海カーボン(株)製「シースト3」)、30質量部のオイル(JX日鉱日石エネルギー(株)製「プロセスNC140」)、3質量部の亜鉛華(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」)、2質量部のステアリン酸(花王(株)製「ルナックS-20」)、2質量部の老化防止剤(大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」)、2質量部のワックス(日本精鑞(株)製「OZOACE0355」)、5質量部のシランカップリング剤2(東京化成工業(株)製「3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン」)、1質量部のスルホンアミド化合物(N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミド、LANXESS社製「Vulkalent E/C」)を混合し、排出温度=160℃にてバンバリーミキサーから排出し、常温下で放置することよりノンプロゴム混合物を冷却した後、第2工程(プロ練り工程)として、ノンプロゴム混合物をバンバリーミキサーに投入し、さらに、2質量部の硫黄(鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」)、1.8質量部の加硫促進剤1(DPG、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」)、1.8質量部の加硫促進剤2(CBS、住友化学(株)製「ソクシノールCZ」)を添加し混合し、排出温度=100℃にてバンバリーミキサーから排出し、調製したタイヤトレッド用ゴム組成物。」(以下、「引用発明」という。)
エ 引用文献5~7、9~16の記載事項
(ア)引用文献5の記載事項
拒絶査定において引用文献5として引用された、本願の出願日前の平成30年8月9日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2018-123225号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0045】
本実施形態において、変性共役ジエン系重合体が、ブタジエン-スチレンのランダム共重合体である場合、結合スチレン量は10~75質量%であるのが好ましく、ビニル含有量は10~75mol%であるのが好ましい。結合スチレン量及びビニル含有量が上記範囲であれば、タイヤ用の他、あらゆる用途に適合可能なスチレンブタジエンゴム(SBR)が工業的に得られる。また、結合スチレン量が25~45質量%であり、ビニル含有量が18~45mol%である場合、耐摩耗性に優れたゴム組成物が得られる。また、結合スチレン量が5~25質量%であり、ビニル含有量が45~65mol%である場合、天然ゴムとの配合ゴム組成物において、ヒステリシスロスが小さく、強度が優れる省燃費タイヤ用ゴム組成物が得られる。なお、結合スチレン量及びビニル含有量(「1,2-ビニル結合量」ともいう。)は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。」
「【0166】
[図:0001422879000006.jpg]
【0167】
[図:0001422879000007.jpg]
」
「【0184】
[図:0001422879000008.jpg]
」
「【0185】
表3に示すように、実施例1~11及び13の加硫ゴム組成物は、比較例1の加硫ゴム組成物と比較して、50℃のtanδが低くてヒステリシスロスが少なく、タイヤの低転がり抵抗が実現されている。
また、実施例1~4及び7~13は、0℃のtanδが高く、ウェットグリップ特性が向上していることで、ウェットスキッド抵抗性に優れていることが少なくとも確認された。
また、実施例1~12の加硫ゴム組成物は、実用十分な加工性を有していること、さらには優れた耐摩耗性、引張特性、及び耐疲労性を有していることが確認された。
一方、バッチ重合品を用いた実施例13の加硫ゴム組成物は、耐疲労性が向上するとともに、非常に良好な省燃費性能を有していることが確認された。
原料ゴムとしてハイシスBRを併用した実施例14~15の加硫ゴム組成物は、比較例2の加硫ゴム組成物と比較して、優れた省燃費性能、加工性、耐摩耗性、引張特性、耐疲労性を有し、特に実施例14の加硫ゴム組成物は、ウェットグリップ特性が向上していることで、優れたウェットスキッド抵抗性を有していることが確認された。
特に本願実施例1~15では、低ヒステリシスロス性が向上しており、しかも優れた耐疲労性を維持又は向上していることを確認できた。」
(イ)引用文献6の記載事項
拒絶査定において引用文献6として引用された、本願の出願日前の平成29年12月14日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2017-218583号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、ゴム組成物、とりわけ、タイヤ用ゴム組成物の製造方法、該製造方法により製造されたゴム組成物、並びに、該ゴム組成物を用いて作製されたタイヤトレッドおよびタイヤに関する。」
「【0010】
<ゴム成分>
ゴム成分は、スチレンブタジエンゴム(SBR)を含むものである。SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)およびこれらの変性体(変性S-SBR、変性E-SBR)などを使用できる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性された変性SBR、スズ、ケイ素化合物などでカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するものなど)などが挙げられる。」
「【0012】
SBRのスチレン含有量は、充分なウェットグリップ性能およびドライグリップ性能の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。また、該スチレン含有量は、良好な耐摩耗性および温度依存性(温度変化に対する性能変化が抑えられた状態)の観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。」
「【0057】
<ゴム組成物の製造に用いた各種薬品>
S-SBR:LANXESS社製のBuna VSL 2525-0(溶液重合SBR、結合スチレン量:25質量%、ビニル含有量:25モル%、Tg=-49℃)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のN220(N2SA:114m2/g)
水酸化アルミニウム:昭和電工(株)製のハイジライトH-43(商品名)(平均一次粒子径:0.75μm)
アルミニウム有機化合物:川研ファインケミカル(株)製のアルミニウムイソプロピレート(化合物名)PADM(商品名)
オイル:ジャパンエナジー(株)製のTDAE
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン)(6PPD)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド:CBS)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン:DPG)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄」
「【0064】
(耐摩耗性指数)
ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で加硫ゴム組成物の摩耗量を測定した。基準比較例の耐摩耗性指数を100として、以下の計算式により、各配合の摩耗量を指数表示した。摩耗量が少ないほど、また耐摩耗性指数が大きいほど、耐摩耗性が優れている。
(耐摩耗性指数)=(基準比較例の摩耗量)/(各配合の摩耗量)×100」
「【0066】
[図:0001422879000009.jpg]
」
(ウ)引用文献7の記載事項
拒絶査定において引用文献7として引用された、本願の出願日前の平成29年12月7日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2017-214509号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分は、芳香族ビニル共役ジエンゴムを含むジエン系ゴムである。芳香族ビニル共役ジエンゴムとしては、例えばスチレンブタジエンゴムが挙げられる。スチレンブタジエンゴムは、溶液重合スチレンブタジエンゴム、乳化重合スチレンブタジエンゴムのいずれでもよい。
【0011】
スチレンブタジエンゴムのスチレン量は、特に制限されるものではないが、好ましくは10~50質量%、好ましくは15~45質量%である。スチレンブタジエンゴムのスチレン量が10質量%未満であると、ゴム強度が低くなり、またグリップ性能も低下する虞がある。またスチレンブタジエンゴムのスチレン量が50質量%を超えると、耐摩耗性が悪化する虞がある。なおスチレンブタジエンゴムのスチレン量は1H-NMRにより測定するものとする。」
「【0042】
耐摩耗性
上記で得られた空気入りタイヤを、それぞれサイズ15×6Jのリムに組み、空気圧200kPaを充填し、テスト車両の4輪に装着し、テストドライバーがウェット条件のサーキットコース(1周約2km)を10周連続走行させた後、空気入りタイヤのトレッドにおける溝深さを計測した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として、表1の「耐摩耗性」に示した。この指数が大きいほど、ウェット条件の耐摩耗性が優れることを意味する。
【0043】
[図:0001422879000010.jpg]
【0044】
表1において、使用した原材料の種類は、以下の通りである。
・SBR:乳化重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1739、スチレン量が40質量%、ビニル含有量が14%、ガラス転移温度が-31℃、重量平均分子量が72万、スチレンブタジエンゴム00質量部にオイル成分37.5質量部を添加した油展品
・シリカ:ローディア社製Zeosil 1165MP、N2SA=165m2/g
・カーボンブラック、東海カーボン社製シースト9、N2SA=142m2/g
・水酸化アルミ:昭和電工社製 ハイジライトH-43
・アルミニウムアルコキシド-1:アルミニウムエトキシド、川研ファインケミカル社製アルミニウムエトキサイド
・アルミニウムアルコキシド-2:アルミニウムイソプロポキシド、川研ファインケミカル社製PADM
・シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック社製Si69
・樹脂:軟化点が145℃の芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル社製YSレジンT-145
・オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S」
(エ)引用文献9の記載事項
前置報告において引用文献9として引用された、本願の出願日前の平成22年11月25日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2010-265431号公報には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
少なくともゴム成分と、硫黄と、酸化亜鉛と、脂肪酸及び/又は脂肪酸亜鉛とを含有するゴム組成物であって、該ゴム組成物を加硫した際に加硫ゴム中に含まれる脂肪酸亜鉛の重量当たりの平均融点が105℃以下であることを特徴とするゴム組成物。」
「【請求項9】
請求項1~8の何れか一つに記載のゴム組成物がタイヤトレッド用組成物であることを特徴とするゴム組成物。」
「【0006】
しかしながら、上記特許文献1~5に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物や空気入りタイヤは、脂肪酸亜鉛を加えることで、主として作業性の改良を目的とするものであり、積極的に耐破壊性、耐摩耗性の向上を目的とするものではないものである。
これに対して、本願発明は、従来用いられているステアリン酸を本願発明とする脂肪酸、脂肪酸亜鉛に置換することで、積極的に耐破壊性、耐摩耗性の向上を目的とするものであり、上記特許文献1~5とは、その目的、技術思想(構成及びその作用効果)が相違するものである。」
(オ)引用文献10の記載事項
前置報告において引用文献10として引用された、本願の出願日前の平成6年9月6日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開平06-248114号公報には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 重量平均分子量が35万以上であって、スチレン結合含有量が15~30重量%およびブタジエン部分のビニル結合含有量が9~60重量%である溶液重合スチレン-ブタジエン共重合ゴムを少なくとも70重量部を含むジエン系ゴム100重量部に対し、脂肪酸亜鉛塩からなる加工助剤1~10重量部配合してなり、加工性および加硫後の物性が改良されることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明者等は、上述の如き実情に鑑み、低燃費用タイヤ、特に加硫ゴムの動的特性の改良と未加硫ゴムの加工性とのバランスをはかるべく、先ずトレッド用ゴムとしてS-SBR を選び、この加工助剤として脂肪酸金属塩との関係において両者の化学構造的関連性について鋭意研究を重ねた結果、ある特定範囲にある結合スチレン量とブタジエン部分の結合ビニル量を有するS-SBR に対して特定の脂肪酸誘導体が未加硫ゴムの粘度を下げて加工性を改良すると同時に、加硫ゴムの転がり抵抗の増加をよくコントロールすると共に耐摩耗性向上保持にも効果があるという知見を得、本発明を完成するに至った。」
(カ)引用文献11の記載事項
前置報告において引用文献11として引用された、本願の出願日前の平成30年4月5日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2018-053219号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0065】
本発明に係るタイヤ用ゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で一般に使用される配合剤、例えば、シリカ以外の補強用充填剤、加工助剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、粘着樹脂などの軟化剤、オイル、ワックス、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤などを適宜含有することができる。」
「【0070】
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪酸金属塩、アミドエステル、脂肪酸金属塩とアミドエステル若しくは脂肪酸アミドとの混合物が好ましく、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物が特に好ましい。
【0071】
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、飽和または不飽和脂肪酸(好ましくは炭素数6~28(より好ましくは炭素数10~25、さらに好ましくは炭素数14~20)の飽和または不飽和脂肪酸)が挙げられ、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ネルボン酸などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、飽和脂肪酸が好ましく、炭素数14~20の飽和脂肪酸がより好ましい。
【0072】
脂肪酸金属塩を構成する金属としては、例えば、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛、ニッケル、モリブデンなどが挙げられる。なかでも、亜鉛、カルシウムが好ましく、亜鉛がより好ましい。
【0073】
脂肪酸アミドとしては、飽和脂肪酸アミドでも不飽和脂肪酸アミドでもよい。飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、N-(1-オキソオクタデシル)サルコシン、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。
【0074】
脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物の具体例としては、脂肪酸カルシウムと脂肪酸アミドとの混合物であるストラクトール社製のWB16などが挙げられる。また脂肪酸亜鉛塩の具体例としては、パフォーマンスアディティブス社製のUltra-Flow440などが挙げられる。
【0075】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.8質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましい。0.8質量部未満であると、添加による効果が充分に得られないおそれがある。また、加工助剤の含有量は、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。10質量部を超えると、ポリマー相間の滑りが生じ、ポリマー相が相互に入り組んだ構造となりにくくなり、耐摩耗性が悪化する傾向、破壊強度が低下する傾向がある。」
(キ)引用文献12の記載事項
前置報告において引用文献12として引用された、本願の出願日前の平成14年4月2日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2002-097304号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0024】本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物には、脂肪酸亜鉛塩もしくは脂肪酸ナトリウム塩のうち少なくともいずれか一方を含む脂肪酸塩を1~5重量部含有させることが可能である。前記脂肪酸塩の含有量が1重量部よりも少ない場合にあっては加工性が比較的悪化するからであり、前記脂肪酸塩の含有量が5重量部よりも多い場合にあっては空気入りタイヤの耐摩耗性が比較的低下する可能性があるからである。」
(ク)引用文献13の記載事項
周知の技術的課題を示す文献として新たに引用された、本願の出願日前の平成30年1月11日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献13(特開2018-002780号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加工性および低燃費性を低下させずに、ウェットグリップ性能および耐摩耗性に優れたゴム組成物、および当該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤを提供することを目的とする。」
(ケ)引用文献14の記載事項
周知の技術的課題を示す文献として新たに引用された、本願の出願日前の2018年1月4日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献14(国際公開第2018/003526号)には、以下の事項が記載されている。
「発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明の目的は、空気入りタイヤの優れたウェットグリップ性能を確保しながら、雪上性能、耐カット性、耐摩耗性および加工性を従来レベル以上に向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。」
(コ)引用文献15の記載事項
公知技術を示す文献として新たに引用された、本願の出願日前の昭和53年に頒布された、引用文献15(山中樹好、他2名、「加硫ゴム製品中の脂肪酸の分析」、1978年51巻4号、234-245ページ、1978年4月15日、日本ゴム協会誌、https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/51/4/51_234/_pdf)には、以下の事項が記載されている。
第234ページ右欄
「2.2 ステアリン酸を添加する理由
ゴムへのステアリン酸の添加量は,・・・
(1) 加硫促進剤の助剤として働く.
ステアリン酸はゴムの成形加工上,・・・ステアリン酸は加硫中酸化亜鉛と反応し,金属セッケンを生成して・・・」
第241ページ左欄
「4. 加硫ゴム分析への応用
ゴムに添加されたステアリン酸の一部は,別の添加剤である酸化亜鉛と反応してステアリン酸亜鉛を生成するものと思われる.」
(サ)引用文献16の記載事項
公知技術を示す文献として新たに引用された、本願の出願日前の平成21年6月25日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献16(特開2009-137539号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0040】
更に、実施例6のタイヤは、配合した遊離脂肪酸の含有量が高いにもかかわらず、混練り温度が高いことにより、遊離脂肪酸と酸化亜鉛が反応し、脂肪酸亜鉛となるため、加硫後の遊離脂肪酸の含有量を低減することができ、その結果、接着耐久性を大幅に向上できることが分かった。なお、実施例4のタイヤにおいて、加硫後のゴム組成物中に遊離脂肪酸の存在が確認されたのは、ステアリン酸亜鉛由来の遊離脂肪酸が存在するためと思われる。」
(シ)引用文献17の記載事項
公知技術を示す文献として新たに引用された、本願の出願日前の平成21年5月28日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献17(特開2009-114367号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0026】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、さらに、脂肪酸を配合することが好ましい。脂肪酸を配合することで、酸化亜鉛と反応し、ゴム組成物中で脂肪酸亜鉛として存在する。これにより、亜鉛の分散性が向上するという利点がある。」
(ス)引用文献18の記載事項
公知技術を示す文献として新たに引用された、本願の出願日前の平成22年4月21日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献18(特許第4455907号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0030】
・SBR2:JSR社製「SBR1502」(スチレン含有量=24重量%、ガラス転移点Tg=-66℃、重量平均分子量Mw=約60万)。」
オ 本願補正発明と引用発明との対比
(ア)引用発明においては、引用文献1の【0014】の記載から、「SBR(JSR(株)製「SBR1502」)」及び「BR(宇部興産(株)製「BR150B」)」はジエン系ゴムとしてのゴム成分であることが理解できるから、引用発明の「80質量部のSBR(JSR(株)製「SBR1502」)、20質量部のBR(宇部興産(株)製「BR150B」)」は、本願補正発明の「スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分」に相当する。
そして、引用発明の「SBR(JSR(株)製「SBR1502」)」は、上記エ(ス)によると、スチレンの含有量が24質量%であるから、本願補正発明の「スチレン含有量25~45質量%のスチレンブタジエンゴム」と、「スチレンブタジエンゴム」である限りにおいて一致する。
(イ)引用発明の「シリカ(エボニック・デグサ社製「Ultrasil VN3」(BET:175m2/g))」は、本願補正発明の「シリカ」に相当する。
(ウ)引用発明の「シランカップリング剤2(東京化成工業(株)製「3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン」)」は、メルカプト基を有するカップリング剤であるから、本願補正発明の「メルカプト系カップリング剤」に相当する。
(エ)N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミドは、以下の構造を有する化合物であるところ(“ChemicalBook”、[online]、[令和7年2月21日検索]<
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB2923794.htm>)、
[図:0001422879000011.jpg]
引用発明の「スルホンアミド化合物(N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミド、LANXESS社製「Vulkalent E/C」)」は、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドである本願補正発明の「【化1】」に相当する。
そして、引用発明においては、上記(ア)のとおり80質量部のSBRと20質量部のBRがゴム成分であるところ、その合計100質量部に対して、スルホンアミド化合物(N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミド)は1質量部含まれるから、引用発明の80質量部のSBRと20質量部のBRを合わせたゴム成分100質量部に、「1質量部のスルホンアミド化合物(N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミド、LANXESS社製「Vulkalent E/C」)」を混合することは、本願補正発明の「下記式で表される化合物」「【化1】」の含有量が「前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部である」ことに相当する。
(オ)引用発明の「タイヤトレッド用ゴム組成物」は、本願補正発明の「タイヤ用ゴム組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、下記式で表される化合物とを含み、前記化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
[図:0001422879000012.jpg]
」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
スチレンブタジエンゴムのスチレン含有量が、本願補正発明では「25~45質量%」であるのに対し、引用発明では「24質量%」である点
<相違点2>
タイヤ用ゴム組成物が、本願補正発明では「脂肪酸亜鉛」を含むのに対し、引用発明ではそのような特定はない点
カ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
上記エ(ア)~(ウ)に記載されるように、タイヤトレッド用ゴム組成物に用いられるスチレンブタジエンゴムとして、スチレン含有量を25~45質量%程度有するものは周知のものであり、引用文献1にはスチレンブタジエンゴムにおけるスチレン含有量を上記範囲にする阻害要因は認められないから、タイヤトレッド用ゴム組成物である引用発明におけるSBRとして、スチレン含有量が24質量%に近い、スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを適用してみる程度のことは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
また、引用文献1には、「メルカプトシランカップリング剤を配合したシリカ配合のゴム組成物における未加硫ゴム粘度の経時変化を抑えること」を解決すべき課題とすることが記載されている(【0006】)ものの、「他のタイヤ性能を維持しつつ、耐摩耗性を改善」するという本願補正発明の課題は記載されていないところ、一般に、タイヤトレッドにおいて、ウェットグリップ性や低燃費性等の性能を維持しつつ、耐摩耗性を向上させることは、上記エ(ク)、(ケ)に記載されるように、本願の出願日前に当業者にとって周知の技術的課題であるから、引用発明も同様の課題を内在しているといえる。
そうすると、上記エ(ア)~(ウ)の記載から、タイヤトレッド用ゴム組成物に用いられるスチレンブタジエンゴムとして、耐摩耗性等を考慮してスチレン含有量を25~45質量%程度有するものを用いることも、本願の出願日前における周知技術であるといえるし、引用文献1にはSBR中のスチレン含有量にする阻害要因は認められないから、当該周知技術を参考に、耐摩耗性等の向上のために、引用発明におけるSBR(JSR(株)製「SBR1502」)に代えて、スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを採用することも、当業者が適宜なし得ることである。
(イ)相違点2について
上記エ(コ)~(シ)に記載されるように、タイヤ用ゴム組成物の製造においては、混練り時に添加されている脂肪酸と酸化亜鉛が反応して、ゴム組成物中で脂肪酸亜鉛として存在することは、本願の出願日前における公知の事項である。
そして、引用発明は、引用文献1の【0037】、【0044】に記載されるように、タイヤトレッド用ゴム組成物を製造する第1工程において、亜鉛華(ZnO)と脂肪酸であるステアリン酸を共に用いてノンプロ練りを行うものであるところ、引用発明におけるタイヤトレッド用ゴム組成物中には、亜鉛華と脂肪酸であるステアリン酸が反応したステアリン酸亜鉛、すなわち、脂肪酸亜鉛が存在している蓋然性が高い。
そうすると、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
仮に、引用発明において、脂肪酸亜鉛が存在していないとしても、上記エ(エ)~(キ)に記載されるように、タイヤトレッド用のゴム組成物に加工助剤として脂肪酸亜鉛を添加することは、本願の出願日前における周知技術であるから、引用発明において、タイヤトレッド用ゴム組成物に、加工性や耐摩耗性等を考慮して加工助剤である脂肪酸亜鉛を添加することは、当業者が適宜なし得ることである。
(ウ)本願補正発明の効果について
上記イで述べたとおり、本願補正発明においてゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドとを含むことにより、「他のタイヤ性能を維持しつつ、耐摩耗性を改善」するという課題を解決できると解される。
そして、引用発明はゴム成分と、シリカと、メルカプト系シランカップリング剤と、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドを含む点で本願補正発明と一致しており、さらに、それ以外の成分が上記作用効果を阻害することが明らかであるともいえないことから、本願補正発明と同様に上記作用効果が得られると解される。
そうすると、引用発明により、上記発明の効果は自ずと奏されるといえる。
また、上記エ(ア)~(ウ)には、スチレン含有量が25~45重量%であるスチレンブタジエンゴムを用いることにより耐摩耗性を改善することが記載されていること、及び、上記エ(エ)~(キ)には、脂肪酸亜鉛を用いることにより耐破壊性や加工性とともに耐摩耗性を向上できることが記載されていることに鑑みれば、上記発明の効果は当業者の予測の範囲内のものである。
さらに、上記イで述べたとおり、本願明細書には、スチレン含有量が25~45質量%であるスチレンブタジエンゴムを用いることによる優位な効果や含有量の臨界的意義、脂肪酸亜鉛を含むことによる優位な効果や含有量の臨界的意義については、本願明細書の実施例及び比較例等で何ら確認されていない。
そうすると、本願補正発明が、タイヤ用ゴム組成物として、スチレン含有量が25~45質量%であるスチレンブタジエンゴムを用い、脂肪酸亜鉛を含むことによって、当業者が予測できない格別顕著な効果が得られるとも認められない。
キ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求書における主張
審判請求人は、審判請求書において、
「(3-1)本願発明は、スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、上記式で表される化合物と、脂肪酸亜鉛とを含み、前記化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部であるタイヤ用ゴム組成物とすることにより、低燃費性、操縦安定性等の他のタイヤ性能を維持しつつ、耐摩耗性を改善できるもので、特に良好な操縦安定性、低燃費性を確保しながら耐摩耗性を顕著に改善できるものです。
(3-2)これに対して、引用文献1、4-7は、脂肪酸亜鉛を配合することについて一切開示も示唆もしていません。したがって、引用文献1に引用文献5-7を組み合わせても、また、引用文献4に引用文献5-7を組み合わせても、本願発明に容易に想到し得ないことは明白です。
(3-3)そして、引用文献1、4-7は、スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、上記式で表される化合物と、脂肪酸亜鉛とを含み、前記化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部であるタイヤ用ゴム組成物とすることにより、低燃費性、操縦安定性等の他のタイヤ性能を維持しつつ、耐摩耗性を改善でき、特に良好な操縦安定性、低燃費性を確保しながら耐摩耗性を顕著に改善できる、という本願発明の技術的思想について一切開示も示唆もしていません。してみると、本願発明の技術的思想について開示も示唆もしていない引用文献1、4-7に基づいて、引用文献1に引用文献5-7を組み合わせても、また、引用文献4に引用文献5-7を組み合わせても、本願発明の技術的思想に想到することは当業者にとって容易ではないことも明白です。
(3-4)よって、引用文献1、4-7をもとにして、本願発明の進歩性を否定することはできません。」
と主張する。
(イ)上申書における主張
審判請求人は、上申書において、
「(2-2)本願発明は、スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、下記式で表される化合物と、脂肪酸亜鉛とを含み、前記化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部であるタイヤ用ゴム組成物とすることにより、低燃費性、操縦安定性等の他のタイヤ性能を維持しつつ、耐摩耗性を改善できるもので、特に良好な操縦安定性、低燃費性を確保しながら耐摩耗性を顕著に改善できるものです。
[化1]
[図:0001422879000013.jpg]
(2-3)これに対して、引用文献1、5-7は、脂肪酸亜鉛を配合することについて一切開示も示唆もしていません。そして、引用文献1、5-7、9-12は、スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、上記式で表される化合物と、脂肪酸亜鉛とを含み、前記化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部であるタイヤ用ゴム組成物とすることにより、低燃費性、操縦安定性等の他のタイヤ性能を維持しつつ、耐摩耗性を改善でき、特に良好な操縦安定性、低燃費性を確保しながら耐摩耗性を顕著に改善できる、という本願発明の技術的思想について一切開示も示唆もしていません。してみると、本願発明の技術的思想について開示も示唆もしていない引用文献1、5-7、9 -12に基づいて、本願発明の技術的思想に想到することは当業者にとって容易ではないことは明白です。
(2-4)よって、引用文献1、5-7、9-12をもとにして、本願発明の進歩性を否定することはできません。」
と主張する。
(ウ)審判請求人の主張についての検討
上記(イ)の主張について検討すると、上記カ(ア)、(イ)で述べたとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術から容易に想到することができるものであるし、上記イ、カ(ウ)で述べたとおり、その効果についても当業者が予測できる範囲のものである。
また、上記(ア)の主張について検討すると、本願補正発明と引用発明とは、ゴム成分と、シリカと、メルカプト系シランカップリング剤と、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドを含む組成物である点で一致している。そして、本願補正発明におけるスチレンブタジエンゴムのスチレン含有量の臨界的意義及び脂肪酸亜鉛の有無によって、引用発明における同スチレン含有量が24質量%であること及び脂肪酸亜鉛を含有しないことで、発明の効果を著しく阻害する特段の事項があるともいえないから、上記発明の効果は自ずと奏されるといえる。
また、スチレン含有量が25~45質量%であるスチレンブタジエンゴムを用いること及び脂肪酸亜鉛を用いることによる効果についても、上記カ(ウ)で述べたとおり、当業者であれば予測し得るものであるし、格別顕著なものであるともいえない。
さらに、引用文献1の【0043】【表1】及び【0046】【表2】からは、N-フェニル-N-(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミドを含む実施例1や実施例5のものが、同化合物を含まない比較例1や比較例6のものと比較して低発熱性能、耐疲労性、加工安定性に優れることが見てとれることを考慮すれば、低発熱性能、耐疲労性、加工安定性といった「他のタイヤ性能を維持しつつ」耐摩耗性を向上できることは、当業者であれば予測し得るものである。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することができない。
ク 独立特許要件についてのまとめ
よって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明並びに本願の出願日における周知技術及び公知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和5年6月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和5年1月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「スチレン含有量が25~45質量%のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト系カップリング剤と、下記式で表される化合物とを含み、
前記化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3~5.00質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
[図:0001422879000014.jpg]
」
2 拒絶査定における拒絶の理由の概要
令和5年3月27日付け拒絶査定は、この出願の請求項1に係る発明が、その出願日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
3 本願発明の技術的意義について
本願発明の技術的意義は、上記第2の2(2)イで述べたとおりである。
4 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
拒絶査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2の2(2)ウに記載したとおりである。
5 対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、実質的に「脂肪酸亜鉛とを含み」という要件を除いたものということができる。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は上記第2の2(2)オで述べた相違点1において相違する。
そして、相違点1については、上記第2の2(2)カ(ア)で述べたように、引用文献1に記載された発明及び本願の出願時点における周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することである。
よって、本願発明を限定的に減縮した本願補正発明が、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというべきであり、したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-009437