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特許拒絶査定不服審判

2023-008103

GI管障害を治療するための方法

審判番号
2023-008103
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-021155外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年05月17日
審決日
2024年10月15日
公報発行日
2025年03月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2021- 21155「GI管障害を治療するための方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 6月10日出願公開、特開2021- 88575〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 12項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2013年12月19日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年12月24日 米国(US))を国際出願日とする特願2015-549742号(以下「第1世代出願」という。)の一部を、平成29年5月31日に新たな特許出願とした特願2017-108370号(以下「第2世代出願」という。)の一部を、平成30年11月14日に新たな特許出願とした特願2018-213361号の一部を新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概要は次のとおりである。

令和3年 2月12日 手続補正書の提出

同年 7月 5日 手続補正書の提出

令和4年 3月16日付け 拒絶理由通知

同年 9月28日 意見書・手続補正書の提出

令和5年 1月12日付け 拒絶査定

同年 5月17日 拒絶査定不服審判の請求

第2 特許請求の範囲の記載

本願の請求項1~25に係る発明は、令和4年9月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~25に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」ということがある。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
慢性的に投与するためのメトピマジンのメタンスルホン酸塩
[図:0001419730000001.jpg]
。」

第3 原査定の拒絶理由

令和4年9月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、令和4年3月16日付け拒絶理由通知で通知され、令和5年1月12日付け拒絶査定の理由となった拒絶理由は、理由1及び2からなるところ、そのうち、理由1は次のとおりのものである。

「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

そして、拒絶査定の理由1については、請求項1~25が対象請求項とされ、引用文献として次の文献1~文献4が提示されている。

1.American Journal of Cancer, 2006, Vol.5, No.2, p.123-136

2.Il Farmaco - edizione pratica, 1980, Vol.35, No.10, p.516-523

3.GOULD, Philip L.,Salt selection for basic drugs,International Journal of Pharmaceutics,1986年,Vol. 33,pp. 201-217,ISSN 0378-5173, 特にp. 202, TABLE 1(周知技術を示す文献)

4.THE COMPLETE BLOG FOR THE PREPARATION OF PHARMACEUTICAL SALTS,KILOMENTOR ARCHIVE [ONLINE],2008年02月,http://kilomentor.chemicalblogs.com/55_kilomentor/archive/552_the_complete_blog_for_the_preparation_of_pharmaceutical_salts.html(周知技術を示す文献)

なお、令和4年3月16日付け拒絶理由通知の対象となった特許請求の範囲の請求項1について、その記載は、次に示す、令和3年7月5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1のとおりのものである。

「【請求項1】
メトピマジンのメタンスルホン酸塩
[図:0001419730000002.jpg]
。」

第4 当審の判断

当審合議体は、原査定の拒絶理由のうち、理由1(進歩性)に示したとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、文献1~文献4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。

その理由は次のとおりである。

1 引用文献の記載事項

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(1)文献1(American Journal of Cancer, 2006, Vol.5, No.2, p.123-136)の記載事項

本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である文献1には、以下の事項が記載されている(表を除き、翻訳で示す。下線は当審合議体による。)。

1a)「メトピマジン

化学療法による悪心・嘔吐の治療における使用に関する総説」(123頁表題)

1b)「要約

メトピマジン(Vogalene○R(原文は○の中にR))は、悪心と嘔吐の予防と治療のためにフランスで長年使用されてきたドーパミンD2受容体拮抗薬である。ガイドラインは、中等度の催吐性化学療法後の遅延化学療法誘発性悪心及び嘔吐(CINV)の予防、並びに難治性症例の追加療法としてのドーパミン受容体拮抗薬の役割を示唆している。メトピマジンの舌下投与に関する最近のデータは、中等度から高度の催吐性非シスプラチンベースの化学療法を受けている患者の遅延CINVの予防において、オンダンセトロンの代替として役割を果たす可能性があることを示唆している。メトピマジンと遅延性CINVの予防に使用される他の薬剤と比較した試験は興味深い。データはまた、初期治療に抵抗性であるか、又はコルチコステロイドを服用できない中等度の催吐性化学療法を受けている患者の急性嘔吐の治療における追加療法としてのメトピマジンの使用を支持している。これは、ガイドラインでドーパミン受容体拮抗薬にも提案されている役割であり、ブレークスルー症状がある患者の救助療法での使用の可能性も示唆されている。」(124頁「Abstract」の欄)

1c)「薬理学的性質

メトピマジンは、抗ドーパミン作動性活性を有するフェノチアジン誘導体である。ドーパミンD2受容体(かつα1-アドレナリン受容体及びヒスタミンH1受容体)に対して高い親和性を示すが、セロトニン5-HT3受容体に対しては親和性がない。メトピマジンは化学受容体トリガーゾーンを介してその制吐効果を発揮する。メトピマジン自体は血液脳関門を通過することができるが、薬物の主要な循環形態であるその酸代謝物は非常に限られた範囲でしか通過せず、錐体外路効果及びプロラクチンへの影響はまれである。メトピマジンは時に起立性低血圧と関連している可能性があるが、これはおそらくα1-アドレナリン受容体に対する親和性に関連している。

ピーク血清濃度は、空腹時経口投与後60分以内に到達する(舌下錠剤の場合は約20分)。経口メトピマジンのバイオアベイラビリティは19~34%である。経口吸収は食物によって減少する。メトピマジンは急速に代謝されて活性酸代謝産物になり、循環薬物の約78~89%を構成する。用量の約30%が尿中に回収され(主に酸性形態として)、親薬物の消失半減期は約4.5時間である。」(124頁「Pharmacologic Properties」の欄)

1d)「忍容性

メトピマジンは一般的に忍容性が良好である。CINV試験では、メトピマジン単剤療法による有害事象の全体的な発生率は、プラセボ及びオンダンセトロンで見られたものと同様であった。しかし、メトピマジンはオンダンセトロンよりも胃腸の有害事象が有意に少なかった。

CINVの大規模臨床試験でメトピマジン単剤療法の舌下投与で報告された最も一般的な有害事象は、便秘、下痢、腹痛、頭痛、無力症(脱毛症及び粘膜炎もあったが、これらは患者が受けた化学療法に関連している可能性が最も高い。)であった。

定期的な安全性更新報告の要約によると、メトピマジン(全ての製剤、がん及び非がん適応症)で最も頻繁に報告された有害事象には、傾眠、胸焼け、口渇、下痢、便秘、めまい、頻脈、排尿障害、頭痛、そう痒症が含まれる。メトピマジンは、高用量で起立性低血圧と関連している可能性がある。ジスキネジアを含む錐体外路症状は非常にまれである。」(125頁「Tolerability」の欄)

1e)「

[図:0001419730000003.jpg]

[図:0001419730000004.jpg]

」(128~129頁、表3)

1f)上記1eとして摘記した、表3について以下の事項が記載されている。

「表3。化学療法誘発性の悪心と嘔吐の予防におけるメトピマジン(MTZ)と他の制吐薬の併用の有効性。急性期(1日目)又は遅延期(2-5日目又は2-6日目)、又は全体(1-3日目、1-5日目、又は1-6日目)に嘔吐又は悪心がない患者(pts)の割合。データはランダム化比較試験からのものである。MTZによる治療は、化学療法の24時間後に開始された1件の試験を除き、化学療法前に開始した。結果は、治療意図又は有効性評価可能な集団について示されている。嘔吐を伴わない患者の割合の統計的比較は、2つの試験を除く全ての試験で報告された。また、悪心がなかった患者については、1件の試験(遅延期)のみが報告された。」

また、表3の下から2番目の試験結果として以下の事項が記載されている。

試験[デザインの詳細](報告年):ブロッホら[23][非盲検、クロスオーバー](2005年)

化学療法レジメン(静脈内):種々(一般的には多剤併用化学療法。最も一般的に使用される薬剤には、フルオロウラシル、シクロホスファミド、エピルビシン、カルボプラチン及びオキサリプラチンが含まれていた。11患者はシスプラチン単剤療法を受けた。)

制吐レジメン(mg;示されていない限り経口投与)[治療期間]:舌下 メトピマジン 15 1日3回+メチルプレドニゾロン 48 1日1回[5日間](化学療法の翌日から)

患者数:87人

嘔吐なしの患者(完全応答)[%]遅延期:74%(主要評価項目、嘔吐なし、悪心1回以下)

1g)「遅延性CINV予防に対する、オンダンセトロン8mg1日2回(n=97)と比較したメトピマジン舌下錠15mg1日3回(n=103)の単剤療法の有効性を二重盲検試験で評価した。[17]サンプルサイズは、20%の成功率の群間差を検出する80%の検出力に基づいている。試験治療は、中等度から高度の催吐性、非シスプラチンベースの化学療法(ヘスケスレベル3-5またはレベル2の細胞毒性薬剤の組み合わせ)の投与後24時間から5日間投与された。

・・・

メトピマジン又はオンダンセトロンで治療された患者のうち、5日間の評価期間中に治療成功(嘔吐なし、悪心なし、主要評価項目)[53%対50%]、又は悪心(58%対56%)若しくは嘔吐(77%対69%)のいずれかの完全制御を達成した患者の割合[個別に分析した場合]には、統計的に有意な差が認められた。[17]治療成功率の群間差は3.9%で、メトピマジンが優勢であった(95%CI-9.9、17.8)。」(130頁「4.2.1 Monotherapy」の欄)

1h)「メトピマジンを含む併用療法の遅延CINVに対する効果を具体的に調べた唯一の試験は、非盲検クロスオーバー試験であり、メトピマジン15mgを1日3回舌下投与又は1日2回口腔内崩壊するオンダンセトロン8mg(いずれもメチルプレドニゾロン48mgと1日1回併用)を、患者が中等度又は高度の催吐性化学療法(ヘスケスレベル3-5;患者の大多数で非シスプラチンベース;一般に複数の薬物の併用)を受けた後、2-6日目に投与された。[23]

・・・

5日間の治療成功率(遅発性嘔吐がない、及び悪心のエピソードが1回以下;主要評価項目)は、メトピマジンとメチルプレドニゾロンの併用療法は、オンダンセトロンとメチルプレドニゾロンの併用療法よりも有意に高かった(表III)。[23]」(130頁「4.2.2 Combination Therapy」の欄)

1i)「4.4 複数サイクルの化学療法

2件の研究(4.1.2および4.2.2節で論じた)[18、20]では、催吐性が中等度の(シスプラチンをベースとしない)化学療法を9サイクル実施する際の制吐効果の維持について、メトピマジンをベースとする療法が評価された。[18、20]」(131頁「Multiple Cycles of Chemotherapy」の欄)

(2)文献2(Il Farmaco - edizione pratica, 1980, Vol.35, No.10, p.516-523)の記載事項

本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である文献2には、以下の事項が記載されている(翻訳で示す。)。

2a)「要約-ラット胃の運動性に対するメトピマジンの効果をin vitroで、またモルモット胃と幽門の運動性に対するメトピマジンの効果をin vivoで検討した。さらに、in vivoでのウサギ結腸の推進活性に対する薬物の影響も評価した。

その結果、薬物は両動物種の胃に対して抑制作用を示し、幽門の運動活性を低下させた。結腸の推進力に対する作用は観察されなかった。しかし、ボーラス下に痙攣が出現して蠕動運動が妨げられていた2つの症例では、メトピマジンはその痙攣を抑制し、推進運動を開始させた。」(516頁「SUMMARY」の欄)

(3)文献3(GOULD, Philip L.,Salt selection for basic drugs,International Journal of Pharmaceutics,1986年,Vol. 33,pp. 201-217,ISSN 0378-5173)の記載事項

本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である文献3には、以下の事項が記載されている(表を除き、翻訳で示す。)。

3a)「要約

Kepner-Tregoeの決定分析アプローチを用いて、基本的な薬剤の塩選択に根拠を与える試みがなされている。選択目標は、「必須」(MUSTS)と「望ましい」(WANTS)の観点から検討されている。次に、共役酸の十分な強度と毒物学的適合性を考慮した塩形態の望ましい特性について、様々な重要な物理化学的特性、すなわち、融点、水溶性、水溶解速度、安定性、疎水性に基づいて説明する。いくつかの傾向が確立されており、それらは基本的な薬物の特定の問題を克服するために評価する塩の形態の範囲を決定するのに役立つ。開発のための塩の形態の選択を妥協の産物と見なすことが重要であり、特に、最もバランスの取れた選択を得るための正しく重み付けされた要求に焦点を当てることが重要であると結論付けられる。」(201頁「Summary」の欄)

3b)

「はじめに
塩の形成は、化学構造を変更することなく、その物理化学的特性及び結果として生じる生物学的特性を変化させる手段を提供する。薬物の「正しい」塩形態を選択することの重要性は、公開された総説(Berge et al.,1977)によく概説されているが、塩形態は薬物の全体的な特性に劇的な影響を及ぼすことがあるものの、所望の特性の組み合わせを示す塩形態の選択は、依然として半経験的な難しい選択である。」(201頁左欄1~12行)

3c)「表1

FDAが承認した市販塩

[図:0001419730000005.jpg]

aパーセンテージは、1974年までに使用されたアニオン性塩またはカチオン性塩の総数に基づく。」(202頁右欄表1)

3d)「塩溶解度と塩溶液のpH

塩の形成による薬物の水溶性の向上は、飽和塩溶液のpHの違いによって起こりうる。弱塩基性薬物の可溶性酸塩は、塩を溶液に加えるとpHが低下する。このpH低下は、今度はより多くの薬物の溶解を引き起こし、このプロセスは最大溶解度のpHに達するまで続く(図4参照)。・・・

したがって、塩の溶解時にpHが大きくシフトすることは、大量の共役酸が解離し、比較的高い溶解度が得られることを示唆している。生理的pHを考慮すると、水溶性の高い共役酸のpKaが低ければ、pHmaxが最も低く、塩の水溶性が最も高くなる。例えば、ある薬剤候補の一連の塩の溶解度と飽和溶液のpHは以下のとおりであった:

[図:0001419730000006.jpg]

より強い酸(HCl、メタンスルホン酸)の塩が、最も低いスラリーpHと最も高い塩溶解度をもたらすことを示している。」(208頁右欄24行~209頁右欄3行)

(4)文献4(THE COMPLETE BLOG FOR THE PREPARATION OF PHARMACEUTICAL SALTS,KILOMENTOR ARCHIVE,[ONLINE],2008年02月,http://kilomentor.chemicalblogs.com/55_kilomentor/archive/552_the_complete_blog_for_the_preparation_of_pharmaceutical_salts.html)の記載事項

本願優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献4には、以下の事項が記載されている(翻訳で示す。)。

4a)「安定な塩を形成する官能基を持たない薬物もあるが、塩を形成する薬物も多い。創薬化学者は、塩を形成する官能基を候補構造に組み込むことを頻繁に計画する。なぜなら、医薬塩を作ることで、医薬品の成功に重要なバイオアベイラビリティを調節することができるからである。

医薬品候補の非常に好ましい塩の形を見つけることは頻繁に行われるため、新薬を探索する企業の間では、好ましい組成を同定するための効率的なプロトコールが整備されている。スクリーニングのステップの多くは自動化されている。その証拠に、最良の医薬用塩候補を決定するためのツール、ステップ、および本質的な考慮事項は、熟練した塩選択の実務家にはよく知られており、興味を持つすべての人のために一次および二次文献で教えられているという命題に反論することは困難である。」(第1及び第2段落)

4b)「医薬品塩は通常、非イオン種よりも溶解性が高く、胃液や腸液に速やかに溶解するため、固形剤形として有用である。さらに、その溶解度はpHの関数であることが多いため、消化管の一部または別の部分における選択的溶解が可能であり、この能力は遅延放出および持続放出挙動の一側面として操作することができる。また、塩形成分子は中性形態と平衡状態にあるため、生体膜の通過性を調整することができる。」(第5段落)

4c)「1.第一のクラスの塩形成剤は、・・・

2.第二のクラスの塩形製剤は、天然には存在しないが、これまでのところ、大量に使用される中で、毒性が低く、良好な忍容性を示すものと考えられている。」(第11~第12段落)

4d)「第二のクラスの酸はアルファベット順で:アルギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、(+)カンファー酸、カプリル酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシ-、ゲンチジン酸、2-オキソグルタル酸、イソ酪酸、ラクトビオン酸、マロン酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、2-ナフトエ1-ヒドロキシ酸、ニコチン酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パモ酸、プロピオン酸、(-)-L-ピログルタミン酸、p-トルエンスルホン酸である。」(第17段落)

4e)「メタンスルホン酸

メタンスルホン酸は第一のクラスの酸ではないが、酸塩のトップ15に入る。メタンスルホン酸は、低分子量で水溶性に優れた強酸であり、低分子量、高酸性、トルエンのような無極性の有機溶媒にもある程度溶解する混和性の液体であること、水に完全に溶解すること、常温で液体であること等の利点がある。無水の形で安価に入手できる。メチル、エチル又はイソプロピルメシレートが生成される可能性があるので、これらのアルコール溶媒でのこの酸の使用に注意するよう警告されている。主なリスクは、酸に含まれる少量のメタンスルホニルハライドがアルコールと反応することである。メタンスルホン酸塩は水和物を形成する傾向はない。」(「Methanesulfonic」の欄)

2 引用発明

文献1には、化学療法による悪心及び嘔吐の治療におけるメトピマジンの使用について記載されており、具体的な試験結果等が記載されている(摘記1a~1g)。

したがって、文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「メトピマジン。」

3 本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「メトピマジン」は、本願発明の「メトピマジン」に相当する。

また、本願明細書に「【0060】【図1】メトピマジンの化学構造を示す図である。」と記載され、本願の図1に「

[図:0001419730000007.jpg]

」と記載されているから、本願発明の「

[図:0001419730000008.jpg]

」はメトピマジンの化学構造を示したものである。そして、引用発明は「メトピマジン」であるから、本願発明の上記化学構造を有するものである。

してみると、本願発明と引用発明とは、

「メトピマジン
[図:0001419730000009.jpg]
。」に関する物である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

メトピマジンに関する物について、本願発明は「慢性的に投与するための」と特定されているのに対し、引用発明はかかる特定がされていない点。

<相違点2>

メトピマジンに関する物について、本願発明は「メトピマジンのメタンスルホン酸塩」であり、その化学構造が、

「
[図:0001419730000010.jpg]
」であるのに対し、引用発明は「メトピマジン」である点。

4 相違点の判断

上記各相違点について検討する。

(1)相違点1について

「慢性的に投与するための」との記載は、その語句からみて、化合物である「メトピマジンのメタンスルホン酸塩」を、用途によって特定しようとするものであると解されるところ、化合物は純物質であるから、当該用途に適した構造、形状、組成等を特定するものとはいえない。また、上記用途による特定は、化合物である「メトピマジンのメタンスルホン酸塩」の有用性を示すものにすぎないから、その用途を特定しようとする記載が付されていても、当該記載のない化合物と、化合物として何ら異なるところはなく、互いに区別することはできない。

したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

以上のとおりであるものの、仮に、「慢性的に投与するための」との記載によって、化合物の用途が特定され、当該化合物が限定されるものとして以下検討する。

本願発明における「慢性的に投与」について、本願明細書の

「【0109】
対象は、無制限の時間、本明細書において記載される化合物の有効量を安全に投与されてもよい。対象は、急性的にまたは慢性的に、化合物の有効量を安全に投与されてもよい。たとえば、対象は、1日間、2日間以上、3日間以上、4日間以上、5日間、5日間超の間、6日間超の間、7日間(1週間)超の間、2週間超の間、3週間超の間、4週間超の間、5週間超の間、6週間超の間、7週間超の間、8週間超の間、9週間超の間、10週間超の間、11週間超の間、12週間超の間、3か月間超の間、4か月間超の間、5か月間超の間、6か月間超の間、7か月間超の間、8か月間超の間、9か月間超の間、10か月間超の間、11か月間超の間、12か月(1年)間超の間、2年間超の間、5年間超の間、または10年間超の間に一度、化合物の有効量を安全に投与されてもよい。」

との記載を参酌しても、どの程度の期間の投与が「慢性的に投与」を意味するかは必ずしも明らかではない。

しかし、メトピマジンを有効成分とする発明である、第1世代出願の特許請求の範囲の請求項1及び第2世代出願の特許請求の範囲の請求項1には、「該対象に慢性的に投与され、該投与は5日間超の間行われる」と記載されていることから、本願発明においては、5日間程度投与すれば、「慢性的に投与」するといえると解される。

一方、文献1には、化学療法誘発性悪心及び嘔吐に対して、メトピマジンを5日間投与したこと、化学療法を9サイクル実施する際の制吐効果の維持を評価したことが記載されている(摘記1a~摘記1i、特に摘記1e~摘記1i)ところ、化学療法の1サイクルは、通常週単位の期間を要し(要すれば、特表2012-511502号公報、【0270】~【0290】を参照。)、仮にそうでないとしても、9サイクル実施するには少なくとも5日間超継続してメトピマジンを投与したといえる。

したがって、仮に、「慢性的に投与するための」との記載によって化合物の用途が特定されるとしても、本願発明は、引用発明と実質的に相違しない。

(2)相違点2について

文献1及び文献2に記載のとおり、メトピマジンは悪心、嘔吐等に治療に用いられる医薬であるところ、文献3及び文献4に記載のとおり(摘記3a~摘記3d及び摘記4a~摘記4e)、医薬に用いられる化合物について、塩の形成は、化学構造を変更することなく、その物理化学的特性及び結果として生じる生物学的特性を変化させる手段を提供すること、医薬塩を作ることで、医薬品の成功に重要なバイオアベイラビリティを調節することができるため、創薬化学者は、塩を形成する官能基を候補構造に組み込むことを頻繁に計画すること、並びに医薬品塩は通常、非イオン種よりも溶解性が高く、胃液や腸液に速やかに溶解するため、固形剤形として有用であることは、本願優先日時の周知の技術的事項であるから、引用発明のメトピマジンについて塩の形態とする動機付けがあるといえる。

そして、塩を形成する酸には、多数の種類があるものの(摘記3c、摘記4c及び摘記4d)、メタンスルホン酸(Mesylate)は、FDAが承認した市販薬の約2%を占めるものであり、最も高い塩溶解度をもたらす酸であること(摘記3c及び摘記3d)、メタンスルホン酸塩は、天然には存在しないが、これまでのところ、大量に使用される中で、毒性が低く、良好な忍容性を示すものと考えられているクラスに属する塩であること(摘記4c及び摘記4d)、酸塩のトップ15に入ること、低分子量で水溶性に優れた強酸であり、低分子量、高酸性、トルエンのような無極性の有機溶媒にもある程度溶解する混和性の液体であること、並びに水に完全に溶解すること、常温で液体であること等の利点があること(摘記4e)が知られている。

してみると、本願優先日における技術常識に基づいて、塩の形態とする動機付けがあるメトピマジンについて、塩を形成する酸としてメタンスルホン酸を選択し、メトピマジンのメタンスルホン酸塩とすることに、当業者は格別の創意を要したものとはいえない。

したがって、引用発明において、相違点2に係る技術的事項を採用することは、文献1~4に記載された事項に基いて当業者が容易になし得た事項である。

5 本願発明の効果について

本願明細書には、メタンスルホン酸塩、すなわち、本願発明の「メトピマジンのメタンスルホン酸塩」に関する記載は、

「【0132】
本明細書において記載される化合物は、薬学的に許容され得る塩として形成されてもよいおよび/または使用されてもよい。医薬の許容され得る塩のタイプは、(1)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタリン酸、およびその他同種のものなどのような薬学的に許容され得る無機酸;または酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、トリフルオロ酢酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-メチルビシクロ-[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、4,4-メチレンビス-(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第3級ブチル酢酸(tertiary butylacetic acid)、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸、およびその他同種のものなどのような有機酸と、化合物の遊離塩基形態を反応させることによって形成される酸付加塩;親化合物中に存在する酸性プロトンが、金属イオン、たとえばアルカリ金属イオン(たとえばリチウム、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類イオン(たとえばマグネシウムもしくはカルシウム)、またはアルミニウムイオンと交換される;または有機塩基と配位結合する場合に形成される塩を含むが、これらに限定されない。許容され得る有機塩基は、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミン、およびその他同種のものを含む。許容され得る無機塩基は、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、およびその他同種のものを含む。」(下線は当審合議体による。)

との記載のみであり、メタンスルホン酸塩は、酸付加塩を形成する多数列挙された酸のうちの一つとして記載されているにすぎない。

また、本願明細書には、実施例として、メトピマジン及びメトピマジン酸は、選択的で効力のあるドーパミンD2受容体アンタゴニストであること(実施例1)、メトピマジン及びメトピマジン酸はhERGチャネルと相互作用しないこと(実施例2)、メトピマジン及びカルビドパはイヌ科の動物において胃運動を促進すること(実施例3)、げっ歯動物における胃排出に対するメトピマジンの効果(実施例5)、並びにインビボにおける心臓活動電位に対するメトピマジン及びメトピマジン酸の効果(実施例6)がそれぞれ記載されているが(なお、実施例4はカルビドパなる本願発明の化合物とは全く異なる化合物の薬理試験に関するものである。)、それら実施例に記載された化合物は全てメトピマジンのメタンスルホン酸塩ではない。

以上のとおりであるから、本願明細書には、メトピマジンのメタンスルホン酸塩それ自体が奏する効果についての記載は存在しない。

仮に、メトピマジンのメタンスルホン酸塩が、本願明細書の実施例等にメトピマジンについて記載されたものと同様の効果を奏するとしても、メトピマジン自体は文献1及び文献2に記載された化合物であって、文献1及び文献2に記載されたメトピマジンは本願明細書の実施例に記載された作用及び効果を当然に有するものであるから、本願明細書の実施例に記載された効果が、引用発明と比べて格別顕著な効果であるとはいえない。

したがって、本願発明は当業者が予測し得る範囲を超える格別顕著な効果を奏するとはいえない。

6 まとめ

以上のとおりであるから、本願発明は、文献1~文献4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 請求人の主張について

(1)請求人の主張

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請求人は、令和4年9月28日提出の意見書及び審判請求書において、概要、以下のア及びイの主張をしているので、検討する。

主張ア

引用文献1~4のいずれも、本願発明の化合物を、「本願発明の用途のために、慢性的に投与すること」を示唆しておらず、引用文献は「慢性的」な投与は忌避すべきことを教示している。

主張イ

本願発明のメトピマジンのメタンスルホン酸塩の「慢性的」な投与は、予想外に優れた効果をもたらす。本願明細書の段落【0006】等に記載されるように、ドーパミンD2受容体アンタゴニストは、悪心及び嘔吐の治療ために使用することが提案されたことがあったものの、深刻な安全性の問題、例えば、これら作用物質と心臓活動電位に関与するイオンチャネルとの相互作用によって引き起こされる副作用、及び血液脳関門を横断して脳の中に入るドーパミンアンタゴニストの作用によって引き起こされる望まれない運動機能不全により、その使用は控えられていた。多くのドーパミン受容体アンタゴニストがhERGチャネル(カリウムチャネルの一種)を阻害し、異常な心臓活動電位リズムによって特徴付けられる心臓の状態である、薬剤誘発性のQT延長症候群を引き起こすことが確立されていた。メトクロプラミドは12週間以上服用することができず、CNS関連性の副作用を引き起こすことが警告されていた。したがって、本願発明の開示以前には、ドーパミンD2受容体アンタゴニストを利用した治療にはリスクが存在することが認識されており、引用文献1~4に接した当業者といえども本願発明に到達することはなかった。一方、本願発明者らは、本願明細書の例えば段落【0227】~【0248】に示すように、メトピマジンがhERG阻害を最低限に抑制しつつ、胃排出を著明に促進することを実証した。胃排出の促進により、本願発明に係る腸神経系障害の症状、例えば胃不全麻痺を改善することができる。さらに、本願発明はhERG阻害において最小限の影響しか与えないことから、他の腸神経系障害治療に比して、より長期の投与用法を安全に行うことが可能となる。

(2)請求人の主張の検討

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ア 請求人の主張アについて

本願発明と引用発明とで「慢性的に投与するための」との特定事項が実質的な相違点ではないことは上記4(1)で述べたとおりであるところ、文献1には、メトピマジンの慢性的投与を忌避すべきであるとの記載はなく、忌避すべきであることを示唆する記載もない。また、本願発明には「慢性的に投与するための」との特定以外に用途を特定しようとする記載はないから、「本願発明の用途のために」との主張は本願発明の発明特定事項に基づかない主張である。

したがって、請求人の主張アは採用できない。

イ 請求人の主張イについて

本願明細書において、hERG阻害についての薬理試験結果及びその他の薬理試験結果が記載されているのはメトピマジンのメタンスルホン酸塩についてのものではなく、メトピマジンについてのものであるところ、メトピマジンは引用発明の化合物であるから、本願明細書に記載されたhERG阻害についての効果及び胃排出の促進の効果等の効果は引用発明も奏する効果であるといえる。そして、メトピマジンのメタンスルホン酸塩がメトピマジンと比較してhERG阻害等の効果が異なることを示す記載は本願明細書に存在しない。

請求人の主張する副作用について実質的に検討するとしても、文献1には、メトピマジンの有害事象としてQT延長症候群に相当する事象を有することは記載されておらず、メトピマジン自体は血液脳関門を通過することができるが、薬物の主要な循環形態であるその酸代謝物は非常に限られた範囲でしか通過しないことが記載されているから(摘記1c)、文献1の記載からは、メトピマジンのメタンスルホン酸塩が、請求人が具体的に主張する、薬剤誘発性のQT延長症候群の発生、CNS関連性の副作用等の副作用を発現しないとしても格別のことであるとはいえない。

したがって、本願発明が格別顕著な効果を奏するとはいえない。

よって、請求人の主張イも採用できない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、本願については、その余の事項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

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2023-008103

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