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特許拒絶査定不服審判

2023-007641

CD20結合分子およびその使用方法

審判番号
2023-007641
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-186950外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年05月10日
審決日
2025年02月18日
公報発行日
2025年08月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
行政事件訴訟法46条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-186950「CD20結合分子およびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 3月11日出願公開、特開2021- 36885〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2016年3月4日(パリ条約による優先権主張 2015年3月4日 (US)米国)を国際出願日とする特願2017-546081号の一部を令和2年11月10日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和4年 4月11日付け 拒絶理由通知書

同 年10月13日 意見書、手続補正書の提出

令和5年 1月 4日付け 拒絶査定

同 年 5月10日 審判請求書、手続補正書の提出

令和6年 4月11日 上申書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1~26に係る発明は、令和5年5月10日付け手続補正書の特許請求の範囲1~26に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
2つまたは6つの二価結合単位を含む多量体結合分子であって、各結合単位が、抗原結合ドメインと各々会合している2つの重鎖定常領域を含み、前記結合分子の少なくとも1つの抗原結合ドメインが、以下を含むCD20抗原結合ドメインである、前記多量体結合分子:
(a) 6つの免疫グロブリン相補性決定領域HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3であって、ここでHCDR1が配列番号:39のアミノ酸配列を含み;HCDR2が配列番号:40のアミノ酸配列を含み;HCDR3が配列番号:41のアミノ酸配列を含み;LCDR1が配列番号:43のアミノ酸配列を含み;LCDR2が配列番号:44のアミノ酸配列を含み;およびLCDR3が配列番号:45のアミノ酸配列を含む、前記6つの免疫グロブリン相補性決定領域、または
(b) 抗体重鎖可変領域(VH)および抗体軽鎖可変領域(VL)であって、ここでVHが配列番号:38のアミノ酸配列を含み、かつVLが配列番号:42のアミノ酸配列を含む、前記抗体重鎖可変領域(VH)および前記抗体軽鎖可変領域(VL)。」

第3 原査定の拒絶理由

本願発明に対する原査定の拒絶の理由1(B)の概要は、以下のとおりである。

(理由1(B))本願発明は、本願優先日前に頒布された下記引用文献に記載された発明と、本願優先日前に抗体に関する技術分野において広く行われていた事項に基いて、本願出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(引用文献)特表2008-541758号公報

上記理由1(B)について、以下で検討する。

第4 当審の判断

1 引用文献の記載

引用文献には、以下の事項が記載されている。

なお、下線は当審で付した(以下同様。)。

(1) 特許請求の範囲

「【請求項1】
CD20に結合し、且つGYSFTSYWIG(配列番号201)のアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域1(CDR1)を含む標的結合剤。
【請求項2】
CD20に結合し、且つKISNRFS(配列番号202)のアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域2(CDR2)を含む標的結合剤。
続きを表示(全12行)
……
【請求項16】
前記標的結合剤は、モノクローナル抗体1.5.3(ATCC受入番号PTA-7330)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の標的結合剤。
……
【請求項20】
前記標的結合剤は、配列番号30の配列を有する重鎖ポリペプチドを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の標的結合剤。
【請求項21】
前記標的結合剤は、配列番号32の配列を有する軽鎖ポリペプチドを含む、請求項20に記載の標的結合剤。」

(2) 段落0008

「【0008】
発明の概要
本発明の実施形態は、CD20に特異的に結合すると共に、CD20を発現する細胞の成長を阻害する標的結合剤に関する。これを達成することができるメカニズムは、限定されないが、CD20を発現する細胞のアポトーシスを誘起するステップ、CD20を発現する細胞における抗体依存細胞傷害活性(ADCC)を誘起するステップ、またはCD20を発現する細胞における補体依存性細胞傷害作用(CDC)を誘起するステップのいずれかを含むことができ、これにより、CD20+リンパ腫細胞、CD20+白血病細胞および通常のB細胞を含むCD20陽性B細胞を根絶する。」

(3) 段落0126~0128

「【0126】
抗体配列
本発明の実施形態は、以下の表1に列挙された特定の抗CD20抗体を含む。この表は、対応する重鎖および軽鎖遺伝子の可変領域の配列番号と共に、各抗CD20抗体の識別番号を報告する。
……
続きを表示(全12行)
【0128】
【表1-1】
[図:0001424964000001.jpg]
……
【表1-2】
……
[図:0001424964000002.jpg]
……」

(4) 段落0130

「【0130】
所望の場合には、例えば異なるアイソタイプの生物学的特性を生かすために、抗CD20抗体のアイソタイプは転換されることができる。例えば、いくつかの状況において、CD20に対する治療的抗体としての抗体の生成に関連して、抗体は、補体に結合し、および補体依存性細胞傷害作用(CDC)に関与することができることが望ましい場合がある。限定されないが、以下の:マウスIgM、マウスIgG2a、マウスIgG2b、マウスIgG3、ヒトIgM、ヒトIgA、ヒトIgG1、およびヒトIgG3を含む、同じことができる多数の抗体のアイソタイプがある。他の実施形態において、CD20に対する治療的抗体としての抗体の生成に関連して、抗体は、Fc受容体をエフェクター細胞に結合することができ、抗体依存傷害作用(ADCC)に関与することが望ましい場合がある。限定されないが、以下の:マウスIgG2a、マウスIgG2b、マウスIgG3、ヒトIgG1、およびヒトIgG3を含む、同じことができる多数の抗体のアイソタイプがある。生成される抗体は、初めからアイソタイプを具える必要はなく、むしろ、生成された抗体はいずれかのアイソタイプを具えることができ、および抗体はその後、技術分野において周知である従来の技術用いてアイソタイプ転換されることができることが認識されるであろう。このような技術は、とりわけ、直接的組み換え型技術(例えば、米国特許第4,816,397号明細書を参照のこと)、細胞-細胞融合技術(例えば、米国特許第5,916,771号明細書および米国特許第6,207,418号明細書を参照のこと)の使用を含む。」

(5) 配列表「配列番号30」

「<210> 30
<211> 122
<212> PRT
<213> Homo sapiens
続きを表示(全21行)
<400> 30
Glu Val Gln Leu Val Gln Ser Gly Ala Glu Val Lys Lys Pro Gly Glu
1 5 10 15
Ser Leu Lys Ile Ser Cys Lys Gly Ser Gly Tyr Ser Phe Thr Ser Tyr
20 25 30
Trp Ile Gly Trp Val Arg Gln Met Pro Gly Lys Gly Leu Glu Trp Met
35 40 45
Gly Ile Ile Tyr Pro Gly Asp Ser Asp Thr Arg Tyr Ser Pro Ser Phe
50 55 60
Gln Gly Gln Val Thr Ile Ser Ala Asp Lys Ser Ile Thr Thr Ala Tyr
65 70 75 80
Leu Gln Trp Ser Ser Leu Lys Ala Ser Asp Thr Ala Met Tyr Tyr Cys
85 90 95
Ala Arg His Pro Ser Tyr Gly Ser Gly Ser Pro Asn Phe Asp Tyr Trp
100 105 110
Gly Gln Gly Thr Leu Val Thr Val Ser Ser
115 120 」

(6) 配列表「配列番号32」

「<210> 32
<211> 112
<212> PRT
<213> Homo sapiens
続きを表示(全19行)
<400> 32
Asp Ile Val Met Thr Gln Thr Pro Leu Ser Ser Pro Val Thr Leu Gly
1 5 10 15
Gln Pro Ala Ser Ile Ser Cys Arg Ser Ser Gln Ser Leu Val Tyr Ser
20 25 30
Asp Gly Asn Thr Tyr Leu Ser Trp Leu Gln Gln Arg Pro Gly Gln Pro
35 40 45
Pro Arg Leu Leu Ile Tyr Lys Ile Ser Asn Arg Phe Ser Gly Val Pro
50 55 60
Asp Arg Phe Ser Gly Ser Gly Ala Gly Thr Asp Phe Thr Leu Lys Ile
65 70 75 80
Ser Arg Val Glu Ala Glu Asp Val Gly Val Tyr Tyr Cys Val Gln Ala
85 90 95
Thr Gln Phe Pro Leu Thr Phe Gly Gly Gly Thr Lys Val Glu Ile Lys
100 105 110 」

2 周知例の記載

(1) 周知例1の記載

本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2013/120012号(以下、「周知例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 請求の範囲

「1.配列番号78~99のいずれか1つに示す配列を有する相補性決定領域3(CDRH3)を含む重鎖を含む、CDIMに結合する単離された抗原結合タンパク質。
2.配列番号104又は105のいずれか1つに示す配列を有する相補性決定領域3(CDRL3)を含む軽鎖を更に含む、請求項1に記載の抗体。
……
4.配列番号1~22のいずれか1つに示すフレームワーク1(FR1)を含む重鎖を更に含む、請求項1、請求項2、又は請求項3に記載の単離された抗原結合タンパク質。
続きを表示(全13行)
5.(a)配列番号76に示す配列を有するCDRH1、及び配列番号77に示す配列を有するCDRH2を含む重鎖、及び、
(b)配列番号100又は102に示す配列を有するCDRL1、及び配列番号101又は103に示す配列を有するCDRL2を含む軽鎖、
を更に含む、請求項1、請求項2、請求項3、又は請求項4に記載の単離された抗原結合タンパク質。
……
20.モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、又はこれらの抗体断片である、請求項1~請求項19のいずれか1項に記載の単離された抗原結合タンパク質。
……
24.IgA、IgD、IgM、IgG、及びIgEからなる群より選択される、請求項20に記載の単離された抗原結合タンパク質。
25.IgMである、請求項24に記載の単離された抗原結合タンパク質。
……」

イ 実施例1~3

「[00099]
実施例1 代表的なCDIM結合タンパク質の作成及び配列測定
[000100]
プラスミドDNAの構築。
続きを表示(全23行)
5’末端及び3’末端それぞれにXbaI-Kpn1部位を有するHシリーズμ鎖構築物重鎖可変領域(H1~H22と命名)を、Genscriptにより全て合成した。全てのHシリーズμ鎖構築物を、各重鎖可変領域をXbaI-Kpn1断片として単離し、そしてμ定常領域(constant mu region)を範囲に含むKpn1-BamHI断片を用いて3部ライゲーション(three part ligation)でこれら断片を、XbaI及びBamHIで消化した発現ベクターAB11と共に連結することにより組み立てた。ライゲーションしたプラスミドをコンピテント・バクテリアにトランスフォームした。得られたクローン化プラスミドを直接配列決定法により確認した。CHO-S細胞にトランスフェクションするためのDNAが適切な量得られるように、Qiagenを用いてプラスミドミディプレップを作成した。
[000101]
軽鎖プラスミドも同様に構築した。λインサートを3部ラゲーションでクローン化した;λ可変領域をXbaI-EcoRI断片として設計し、これをEcoRI-BamHIλ定常領域断片と混合し、そしてXbaI部位とBamHI部位の間でAB2ベクターにライゲーションした。L2κインサートをXbaI-BamHI断片として単離し、そしてAB2-κベクターにライゲーションした。
[000102]
H1~H22/L2プラスミドDNAによるCHO-S細胞のトランスフェクション。
重鎖及び軽鎖に対応するDNAを、PEI技法を用いて同時トランスフェクション用として調製した(等しい量のL2及びH1~22)。トランスフェクションで用いられるCHO-S細胞(1E8個の対数増殖段階)をRPMI1640培地中で増殖させた。DNA:PEIを1:2で混合し、そしてこのDNA:PEI混合物を、0.5×Pen/Strep、Glutamax、及びHTを補充したCD OptiCHO中のCHO-S細胞に添加した。シェイカーフラスコ中、オーバーナイトでインキュベーションした後、培地を0.5×P/S、Gluを含むCD OptiCHOに置換した。トランスフェクション後の7日目に、細胞の遠心分離により細胞培養物上清(100ml)を採取した。これらIgM例について特徴付けを行うために、15mlの細胞培養上清をCentriconで10倍に濃縮した。
[000103]
22個の異なる重鎖可変領域のアミノ酸配列を図1A~Dに示す。2つの異なる軽鎖可変領域のアミノ酸配列を図1Eに示す。重鎖及び軽鎖の定常領域のアミノ酸配列を図1Fに示す。κ又はλ定常領域のいずれも利用可能と理解される。識別及び単離されたCDIM結合タンパク質、IGM1~IGM44を代表するアミノ酸配列を図2A~2Vに示す。H1~H22のCDR3配列を図3に示す。
[000104]
44個の開示するCDIM結合タンパク質をコードするのに利用可能なポリヌクレオチド配列の例を、図4A~Lに示す。遺伝子コードの縮重に起因して、全く同一のアミノ酸配列をコードするのにその他の配列も利用可能であることが理解される。抗体の重鎖可変領域の様々な相補性決定領域(CDRH)及びフレームワーク(FR)領域について、その配列を、フレームワーク1(FR1)、相補性決定領域1(CDRH1)、フレームワーク2(FR2)、相補性決定領域2(CDRH2)、フレームワーク3(FR3)及び相補性決定領域3(CDRH3)を含め決定した。
[000105]
実施例2 CDIM結合タンパク質の作成
[000106]
本実施例は、いくつかの開示する結合タンパク質の作成方法について記載する。配列は重鎖及び軽鎖可変領域変異体から構成された(κ及びλ定常領域の両方がコードされた)。重鎖及び軽鎖変異体の特定の組み合わせを、CHO細胞、すなわちDG44CHO細胞にトランスフェクションし、一時的トランスフェクションを実施した。10~100μg/mlの発現レベルが、初回トランスフェクションから得られた。IgM抗体を、アフィニティークロマトグラフィーにより精製し、ゲル電気泳動による評価を行い、そして細胞結合、細胞毒性分析、及びELISA試験により、複数の生体分子に対する結合について生物活性を試験した。機能分析から得られた結果を、第一選択候補の指針として用いた。選択したら、第一候補を、CHO細胞に安定的にトランスフェクションし、20プレート(約2000ウェル)にサブ-クローン化し、そして最高レベルの分泌についてELISAによりスクリーニングした。トップ50のクローンをT75フラスコで増殖させ、その後ベスト24のクローンをシェイカーフラスコに移した。これら24クローンに由来するIgMを精製、定量し、そしてトップ6のクローン(IgM抗体分泌レベルにより選択した)を、高レベルで分泌する細胞株の増殖を促進するために、メトトレキサート(50nM、100nM、200nM、400nM)中での更なる選択条件下で増殖させた。
[000107]
実施例3 非還元式SDS-PAGEを用いたIgM発現評価
……
[000111]
図5は、コロイダルブルー染色プロトコール(Life Technologies社、Carlsbad、CA)に基づき染色したSDSゲルを示し、1,048kDに明瞭なバンドを認め、これはIgM五量体を表し、また1,236kDにも明瞭なバンドを認め、これはIgM六量体を表す。図で認識可能なように、IgMの例について六量体形成と比較すると、五量体形成の方(実線矢印)が支配的である。同様に、単離されたヒトIgM216も、5量体型(点線矢印)の方が支配的であるが、但しこのIgMフォーマットに含まれるλ軽鎖はより短いことに起因して低めの分子量として認められる。」

ウ 図5

「
[図:0001424964000003.jpg]
(題目部分の訳文は以下のとおり。
「非還元SDS-PAGE:パネルAはIGM23~IGM29を示し、パネルBはIGM31~IGM43を示す」)」

(2) 周知例2

本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2005/005636号(以下、「周知例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 請求の範囲

「1.100mg/L以上のIgMを産生できる形質転換細胞。
……
8.CHO細胞株である請求項7に記載の形質転換細胞。
……
続きを表示(全12行)
24.請求項1~請求項8、並びに請求項14~請求項23のいずれかに記載の細胞を培養し、IgMを採取する工程を含むIgMを製造する方法。
25.請求項1~請求項8、並びに請求項14~請求項23のいずれかに記載の細胞培養物の培養上清からIgMを精製する工程を含む、実質的に純粋なIgMを製造する方法。
26.請求項24に記載の方法により得られるIgM。
27.請求項25に記載の方法により得られる実質的に純粋なIgM。
28.ヒト抗体、マウス抗体、ヒトキメラ抗体またはヒト化抗体である請求項26または請求項27に記載のIgM。
29.実質的に純粋な5量体あるいは6量体である請求項26~請求項28のいずれかに記載のIgM。
30.CHO細胞が付加する糖鎖を有する実質的に純粋な5量体または6量体IgM。
……」

イ 12ページ16~24行

「次にH鎖またはL鎖の遺伝子について述べる。一般にイムノグロブリンの遺伝子の取得においては、その可変領域をを含む領域をコードする塩基配列が重要である。イムノグロブリンの定常領域の構造は保存されている。そのため、いったんクローニングされれば、可変領域を組み換えることによって、目的とする抗原結合活性を有するイムノグロブリンを再構成できると考えられている。したがって、通常は、可変領域やCDRの遺伝子を取得し、先にクローニングされた定常領域やフレームワークに移植することによって、イムノグロブリン全体をコードする塩基配列が構築される。IgMを構成するμ鎖のH鎖あるいはL鎖の定常領域の構造は既に明らかにされている。」

ウ 実施例2~3

「〔実施例2〕ガングリオシドGM2に対する組換え型ヒト抗体L55の作製
2.1 抗ガングリオシドGM2ヒト抗体H鎖遺伝子の構築
ガングリオシドGM2に結合するヒト抗体(以下、L55と表記する)のH鎖をコードする遺伝子は、Epstein-Barrウイルスで形質転換されたヒトB細胞(以下、L55発現B細胞と表記する)より抽出したTotal RNAを用いて、RT-PCR法によって増幅した。L55のH鎖可変領域遺伝子の塩基配列については、Nishinakaらにより報告されている(Immunogenetics 1998;48:73-75)。
……
続きを表示(全25行)
増幅した遺伝子断片は、制限酵素XhoI(宝酒造社製)および制限酵素SalI(宝酒造社製)で消化した後に、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製し、pUCAGの制限酵素XhoI部位に連結し、クローニングした。完成したプラスミドをpUCAG/L55Hと命名した。本プラスミドに含まれるL55H鎖の塩基配列およびアミノ酸配列を配列番号:19および配列番号:20に示す。
2.2 抗ガングリオシドGM2ヒト抗体L鎖遺伝子の構築
L55のL鎖をコードする遺伝子はL55発現B細胞より抽出したTotal RNAを用いて、RT-PCR法によって増幅した。L55のL鎖可変領域遺伝子の塩基配列については、Nishinakaらにより報告されている(Immunogenetics 1998;48:73-75)。
……
増幅した遺伝子断片は、制限酵素EcoRI(宝酒造社製)および制限酵素NotI(宝酒造社製)で消化した後に、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製し、pCXND3の制限酵素EcoRIおよびNotI切断部位に連結し、クローニングした。完成したプラスミドをpCXND3/L55Lと命名した。本プラスミドに含まれるL55L鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号:21および配列番号:22に示す。
2.3 抗ガングリオシドGM2ヒト抗体の発現ベクターの構築
L55発現ベクターを作製するために、pUCAG/L55Hを制限酵素HindIII(宝酒造社製)で消化して得られる約4.0kbpの断片をpCXND3/L55Lの制限酵素HindIII切断部位に連結し、クローニングした。完成したプラスミドをpCXND3/L55IgMと命名した。本プラスミドは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、DHFR遺伝子、L55遺伝子を発現する。
2.4 動物細胞を用いた抗ガングリオシドGM2ヒト抗体の発現
CHO細胞(DG44株)を用いた安定発現細胞株の作製は次のようにして行った。Gene PulserII(BioRad社製)を用いたエレクトロポレーション法により遺伝子導入した。
J鎖を発現しない細胞株の遺伝子導入について以下に述べる。L55発現ベクターpCXND3/L55IgM(25μg)とPBSに懸濁したCHO細胞(1×107細胞/ml)の0.75mlを混合したものを氷上で10分間冷却し、キュベットに移した後に1.5kV、25μFDの容量にてパルスを与えた。
……
同様の培地で50倍希釈溶液を作製し、96ウェル培養用プレートに100μl/ウェルで分注した。CO2インキュベーター(5%CO2)で24時間培養後、0.5mg/mL濃度のGeneticin(Invitrogen社製)および0.6mg/mL濃度のZeocin(Invitrogen社製)を添加して2週間培養した。Geneticin、Zeocin耐性を示す形質転換細胞のコロニーが観察されたウェルの培養上清中のIgM量について実施例1.6に示す濃度定量法で測定した。L55高発現細胞株を順次拡大培養し、L55安定発現細胞株LJ05、LJ23、LJ32、LJ49、およびLJ61を得た。
各種L55安定発現細胞株を75cm2培養フラスコ内で初発細胞密度2x105cells/mLで培養し、培養上清中のIgM濃度を実施例1.6で示した方法で測定した。結果を表2に示す。IgM産生量は培養3日目で7~70mg/L、培養7日目で50~150mg/Lであり、単一細胞が産生する能力を示す産生能は5~40pg/cell/dayであった。
実施例1.6で示した組換え型L612産生細胞株と同等またはそれ以上の産生量が得られた。この結果より、CHO細胞において高い産生量の組換え型IgM発現細胞株が安定的に作製できることが明らかになった。
〔実施例3〕
3.1 組換え型L612(実施例1)および組換え型L55(実施例2)の多量体形成の解析
組換え型L612(実施例1)および組換え型L55の多量体の解析は、非還元SDS-PAGEを用いて行なった。非還元SDS-PAGE用の電気泳動ゲルは、以下のとおり作成した。……
実施例1および実施例2で得られた組換え型L612(実施例1、J鎖+、およびJ鎖-)および組換え型L55(実施例2、J鎖+、およびJ鎖-)の培養上清を上記の電気泳動ゲル、電気泳動バッファー、2×サンプルバッファーを用いて定電圧60Vで13時間、電気泳動を行なった。その後、抗μ鎖抗体を一次抗体に用いたWestern-blottingにより検出した。Western-blottingは以下のとおりに行なった。
……
その結果、組換え型L612(J鎖+)は、主にL612発現B細胞から得られたL612の5量体に相当するバンドが得られた(図1)。組換え型L612(J鎖-)は、主にL612発現B細胞から得られたL612の6量体に相当するバンドが得られた。電気泳動の各バンドについては5量体、あるいは6量体であることを電子顕微鏡で確認済みである。組換え型L55においても同様の結果が得られた。(図2)
この結果より、IgM産生細胞の培養上清中の、5量体、あるいは6量体の確認ができることが明らかになった。また、J鎖+で発現させた組換え型IgMは主に5量体を形成しており、J鎖-で発現させた組換え型IgMは主に6量体を形成していることが明らかになった。J鎖の有無をコントロールすることで、組換え型IgMの5量体、および6量体を作り分けできることが明らかになった。」

(3) 周知例3

本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2015-501291号公報(以下、「周知例3」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 特許請求の範囲

「【請求項1】
各々がIgGアイソタイプもしくはIgAアイソタイプであるCH2領域およびCH3領域、ならびに、Cμ3領域およびCμ4領域を、N末端からC末端に向かって順に含む免疫グロブリン重鎖定常領域を含むことを特徴とする抗体または融合タンパク。
……
【請求項3】
前記免疫グロブリン重鎖は、さらに、前記ヒンジ領域のN末端にCH1領域を含むことを特徴とする請求項1に記載の抗体または融合タンパク。
【請求項4】
前記重鎖定常領域が重鎖可変領域に融合した抗体であって、さらに、軽鎖可変領域および定常領域を含む軽鎖を含む抗体であることを特徴とする請求項3に記載の抗体または融合タンパク。
……
【請求項40】
N末端IgG定常領域区分およびC末端IgM定常領域区分を含むハイブリッド定常領域を含む抗体または融合タンパクであって、前記抗体は、pH依存性FcRn結合を呈し、プロテインGに特異的に結合し、前記IgM定常領域を介して多量化して少なくとも五量体または六量体を形成することを特徴とする抗体または融合タンパク。」

イ 段落0056~0058

「【0056】
基本的な抗体構造ユニットは、サブユニットの四量体である。各四量体は、2つの同一のポリペプチド鎖対を含み、各対は1つの「軽」(約25kDa)鎖および「重」(約50~70kDa)鎖を有する。各鎖のアミノ末端部分は、抗原認識に主要な関与をする、約100~110個またはそれより多数のアミノ酸の可変領域を含む。この可変領域は、最初、開裂可能なシグナルペプチドに連結して発現される。シグナルペプチドを有しない可変領域は、成熟可変領域と呼ばれることもある。したがって、たとえば、軽鎖成熟可変領域は、軽鎖シグナルペプチドを有しない軽鎖可変領域を意味する。ただし、可変領域と呼ぶことは、シグナル配列が必ず存在することを意味せず、実際のところ、本発明の抗体または融合タンパクは、発現され分泌されると、シグナル配列が開裂する。重鎖可変領域と軽鎖可変領域との対は、抗体の結合領域を規定する。軽鎖および重鎖のカルボキシ末端部分は、それぞれ、軽鎖定常領域および重鎖定常領域を規定する。……IgM抗体において、μ重鎖定常領域(Cμ)は、4つの領域、Cμ1,Cμ2,Cμ3およびCμ4にさらに区分される。Cμ3領域およびCμ4領域は、1つ以上のJ鎖と協働して、天然IgM抗体および本発明の抗体または融合タンパクにおいて、多量化機能を提供することがある。ミュー尾部は、IgM重鎖定常領域のC末端に位置する18アミノ酸長のポリペプチドである。IgMは多量化して、J鎖が存在するときは五量体構造を、J鎖が存在しないときは六量体構造を、形成する。
【0057】
軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロンに分類され、それぞれ、抗体アイソタイプをIgG,IgM,IgA,IgDまたはIgEと規定する。軽鎖および重鎖において、可変領域および定常領域は、約12個またはそれより多数のアミノ酸の「J」区分によって結合されており、重鎖は、約10個またはそれより多数のアミノ酸の「D」区分も含む(……)(あらゆる目的のために、参照によってその全体が組み込まれる)。
【0058】
軽鎖/重鎖の各対の成熟可変領域は、抗体結合部位を形成する。したがって、抗体全体は、2つの結合部位を有し、すなわち2価である。天然の抗体において、これらの結合部位は同じである。ただし、2つの結合部位が異なる二重特異性抗体を作製することが可能である(……)。可変領域はすべて、相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる3つの超可変領域によって連結され、比較的保存されている同じ一般構造のフレームワーク領域(FR)を示す。各対の2つの鎖からのCDRは、フレームワーク領域によって整合され、これにより特異的エピトープへの結合が可能になっている。N末端からC末端に向かって、軽鎖および重鎖の両者は、FR1,CDR1,FR2,CDR2,FR3,CDR3およびFR4のドメインを含む。……」

ウ 実施例1~2

「【0143】
実施例1:発現ベクター
本研究における遺伝子クローニング、突然変異生成、およびプラスミド構築は、標準的な生物学的手法を用いて行った。……
【0144】
続きを表示(全35行)
マウス抗ヒトCD79aモノクローナル抗体9G6(Ch9G6-IgG1)からキメラIgG1を生成するための哺乳類発現ベクターpCh9G6-IgG1(図1)を、次の遺伝要素を含むように構築した。図1のpCh9G6-IgG1のSalI部位から時計回りに進んで、プラスミドは、抗体重鎖遺伝子の転写を開始する、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)主要最初期プロモーターおよびエンハンサー(図におけるCMV-P)で始まる重鎖転写ユニットを含む。CMVプロモーターに続いて、SpeI部位およびHindIII部位が隣接するマウス抗ヒトCD79aモノクローナル抗体9G6の重鎖可変領域エクソン(9G6 VH)、介在するイントロン共に、CH1エクソン(CH1(γ1))、ヒンジエクソン(h(γ1))、CH2エクソン(CH2(γ1))およびCH3エクソン(CH3(γ1))を含むヒトγ-1重鎖定常領域を含むゲノム配列、ならびに、ヒトγ-1重鎖遺伝子のポリアデニル化部位が存在する。重鎖遺伝子配列の後には、CMVプロモーター(CMV-P)で始まる軽鎖転写ユニットがあり、これに続いて、NheI部位およびEcoRI部位が隣接するマウス抗ヒトCD79aモノクローナル抗体9G6の軽鎖可変領域エクソン(9G6 VL)、イントロンの一部が先行するヒトカッパー鎖定常領域エクソン(CL)を含むゲノム配列、ならびに、CLエクソンに続くヒトカッパー鎖遺伝子のポリアデニル化部位が存在する。その後、軽鎖遺伝子には、SV40早期プロモーター(SV40-P)、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシル転移遺伝子(gpt)、および、SV40ポリアデニル化部位(SV40-A)を含む区分が続く。最後に、プラスミドは、細菌起原の複製(pUC ori)およびβラクタマーゼ遺伝子(β lactamase)を含むプラスミドの一部pUC19を含む。図における矢印は、転写の方向を示す。
……
【0149】
pCh9G6-IgG1にコードされる免疫グロブリン重鎖定常領域のアミノ酸配列を以下に示す。
【0150】
pCh9G6-IgG1にコードされる重鎖定常領域(配列番号3):
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK。
【0151】
pCh9G6-IgG1にコードされる免疫グロブリン軽鎖定常領域のアミノ酸配列を以下に示す。
【0152】
pCh9G6-IgG1にコードされる軽鎖定常領域(配列番号4):
TVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC。
【0153】
発現ベクターpCh9G6-IgG1を変更して、ヒトμ重鎖のCH3領域およびCH4領域(それぞれCμ3およびCμ4)をコードするcDNA由来のフラグメントが、pCh9G6-IgG1のヒンジ領域の最後のアミノ酸にインフレームで融合するように、新たな発現ベクターpCh9G6-IgG1/Mを構築した。Cμ3およびCμ4のアミノ酸配列を以下に示す。
【0154】
ヒトμ重鎖のCμ3およびCμ4(配列番号5):
DQDTAIRVFAIPPSFASIFLTKSTKLTCLVTDLTTYDSVTISWTRQNGEAVKTHTNISESHPNATFSAVGEASICEDDWNSGERFTCTVTHTDLPSPLKQTISRPKGVALHRPDVYLLPPAREQLNLRESATITCLVTGFSPADVFVQWMQRGQPLSPEKYVTSAPMPEPQAPGRYFAHSILTVSEEEWNTGETYTCVVAHEALPNRVTERTVDKSTGKPTLYNVSLVMSDTAGTCY。
……
【0157】
発現ベクターpCh9G6-IgG1もまた、Cμ3およびCμ4のコード化領域が、pCh9G6-IgG1のCH3エクソンの最後のアミノ酸にインフレームで融合するように、変更した。軽鎖配列は変更しなかった。得られたプラスミドpCh9G6-MVIgG1の模式的な構造を図1に示す。pCh9G6-MVIgG1にコードされる重鎖定常領域のアミノ酸配列を以下に示す。
【0158】
pCh9G6-MVIgG1にコードされる重鎖定常領域(配列番号7):
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKDQDTAIRVFAIPPSFASIFLTKSTKLTCLVTDLTTYDSVTISWTRQNGEAVKTHTNISESHPNATFSAVGEASICEDDWNSGERFTCTVTHTDLPSPLKQTISRPKGVALHRPDVYLLPPAREQLNLRESATITCLVTGFSPADVFVQWMQRGQPLSPEKYVTSAPMPEPQAPGRYFAHSILTVSEEEWNTGETYTCVVAHEALPNRVTERTVDKSTGKPTLYNVSLVMSDTAGTCY。
【0159】
pCh9G6-IgG1,pCh9G6-IgG1/MおよびpCh9G6-MVIgG1から産生される単量体型の抗体(それぞれ、Ch9G6-IgG1,Ch9G6-IgG1/MおよびCh9G6-MVIgG1)の模式的な構造を、図2に示す。図中の記号「CH1」、「ヒンジ」、「CH2」および「CH3」は、ヒトガンマ重鎖のCH1領域、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域をそれぞれ示す。記号「Cμ3」および「Cμ4」は、ヒトμ重鎖のCH3領域およびCH4領域をそれぞれ示す。記号「CL」は、ヒトカッパー定常領域を示す。
【0160】
実施例2:多価抗CD79a IgG1抗体の発現、精製および特徴付け
発現ベクターpCh9G6-IgG1,pCh9G6-IgG1/MおよびpCh9G6-MVIgG1を、マウス骨髄腫細胞株NS0(European Collection of Animal Cell Cultures,Salisbury,Wiltshire,UK)に導入して、それぞれCh9G6-IgG1抗体,Ch9G6-IgG1/M抗体およびCh9G6-MVIgG1抗体を安定的に産生する細胞株を得た。NS0細胞を、7.5%CO2インキュベータにおいて、37℃にて、10%ウシ胎仔血清(FBS;HyClone,Logan,UT)を含有するDME培地で培養した。NS0への安定導入を、Bebbington et al.(Bio/Technology 10:169-175,1992)に記載されているように、エレクトロポレーションによって行った。導入に先立ち、各発現ベクターを、FspIを用いて直線化した。一般的な実験において、約107個の細胞に、20μgの直線化プラスミドを形質移入し、10%FBSを含有するDME培地に懸濁し、96ウェルプレートに播いた。48時間後、選択培地(10%FBS、HT培地添加物(Sigma,St.Louis,MO)、0.25mg/mlキサンチンゲルおよび1μg/mlミコフェノール酸を含有するDME培地)を適用した。選択開始の約10日後、形質転換体の培養上清を、抗体産生についてアッセイした。
……
【0164】
Ch9G6-IgG1,Ch9G6-IgG1/MおよびCh9G6-MVIgG1の天然型での分子サイズを、球状タンパクの分離範囲が5kDa~5,000kDaであるSuperose 6 10/300 GLカラムを有する、AKTA Basic FPLCシステム(GE Healthcare,Indianapolis,IN)を用いるゲルろ過により分析した。溶出緩衝液にはPBSを使用した。図3C~図3Eに、Ch9G6-IgG1(図3C)、Ch9G6-IgG1/M(図3D)およびCh9G6-MVIgG1(図3E)の溶出パターンを示す。Ch9G6-IgG1およびCh9G6-MVIgG1については、それぞれ、溶出量16.7mlおよび9.9mlに、1つの主要なピークのみが観察され、一方、Ch9G6-IgG1/Mについては、2つの主要なピークと、いくつかの小さなピークが存在した。骨髄腫細胞株から精製したヒトモノクローナルIgM抗体(Jackson ImmunoResearch,West Grove,PA)は、10.4mlに溶出した(図3B)。分子量標準物質(Gel Filtration Standard,BioRad,Hercules,CA)の溶出パターン(図3A)と比較することにより、溶出量11.7mlおよび14.8mlの2つの大きなピークにおけるCh9G6-IgG1/Mの分子量は、それぞれ、約800kDaおよび220kDaと見積もられた。主要なピークにおけるCh9G6-IgG1の分子量は、154kDaと見積もられ、これは、SDS-PAGE上でのその重鎖および軽鎖のサイズに基づく、Ch9G6-IgG1単量体の予測分子量(160kDa)に対応する。ヒトIgMが10.4mlに溶出したのに対して、Ch9G6-MVIgG1は9.9mlに溶出しており、これは、Ch9G6-MVIgG1がヒトIgMよりも僅かに大きいことを示唆している。SDS-PAGE分析は、Ch9G6-MVIgG1の重鎖および軽鎖の分子量が、それぞれ、76kDaおよび26kDaであることを示唆しているので、Ch9G6-MVIgG1の単量体の分子量は約200kDaであると計算され、これは、ヒトIgMの単量体(概略180kDa)よりも僅かに大きい。骨髄腫細胞から精製したヒトIgMは、五量体として(または、おそらく六量体として)存在し易いので、したがって、NS0細胞から精製したCh9G6-MVIgG1もまた、天然型では五量体または六量体として存在すると結論付けられた。」

エ 実施例9~12

「【0185】
実施例9:多価抗CD79a IgG4抗体の生成
pCh9G6-IgG1におけるヒトガンマ-1重鎖のゲノムCH1領域、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域の配列を、ヒトガンマ-4重鎖のCH1領域、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域(図中、それぞれCH1(γ4),h(γ4),CH2(γ4)およびCH3(γ4))(図1)をコードするcDNA由来フラグメントで置き換えることによって、キメラ抗CD79a IgG4モノクローナル抗体を発現するためのpCh9G6-IgG4ベクターを構築した。pCh9G6-IgG4にコードされるガンマ-4重鎖定常領域のアミノ酸配列を以下に示す。
【0186】
続きを表示(全38行)
pCh9G6-IgG4にコードされる重鎖定常領域(配列番号10):
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK。
【0187】
Cμ3領域およびCμ4領域(配列番号5)を、pCh9G6-IgG4(図1)のCH3領域の最後のアミノ酸にインフレームで融合することによって、多価キメラ抗CD79a IgG4モノクローナル抗体を発現するためのpCh9G6-MVIgG4ベクターを構築した。pCh9G6-MVIgG4にコードされる重鎖定常領域のアミノ酸配列を以下に示す。
【0188】
pCh9G6-MVIgG4にコードされる重鎖定常領域(配列番号11):
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGKDQDTAIRVFAIPPSFASIFLTKSTKLTCLVTDLTTYDSVTISWTRQNGEAVKTHTNISESHPNATFSAVGEASICEDDWNSGERFTCTVTHTDLPSPLKQTISRPKGVALHRPDVYLLPPAREQLNLRESATITCLVTGFSPADVFVQWMQRGQPLSPEKYVTSAPMPEPQAPGRYFAHSILTVSEEEWNTGETYTCVVAHEALPNRVTERTVDKSTGKPTLYNVSLVMSDTAGTCY。
【0189】
Ch9G6-MVIgG4を産生するNS0安定形質転換体の生成を、実施例2に記載のように行った。プロテインAアフィニティクロマトグラフィーによるCh9G6-MVIgG4の精製を、実施例2に記載の方法で行った。還元条件下でのSDS-PAGE分析は、Ch9G6-MVIgG4が約25kDaの軽鎖および約78kDAの重鎖を含むことを示した。
【0190】
天然Ch9G6-MVIgG4の分子サイズを、実施例2に記載のように、Superose 6 10/300 GLカラムを用いるゲルろ過によって分析した。1つの大きいピーク(溶出量10.1ml)および1つの小さいピーク(溶出量14.1ml)が、Ch9G6-MVIgG4の溶出パターンに観察された(図12)。BioRadの分子量標準物質(図12A)およびヒトIgM(10.4mlに溶出;図12B)と比較し、単量体型のCh9G6-MVIgG4(~208kDa)およびIgM(~180kDa)の予想サイズを考慮することによって、10.1mlに溶出するCh9G6-MVIgG4は、五量体または六量体であると結論付けられた。このような多量体型Ch9G6-MVIgG4が、全精製抗体の83%を成した。
【0191】
実施例10:多価IgG3抗体の発現、精製および特徴付け
キメラ抗CD79a IgG3モノクローナル抗体およびその2つの誘導体を発現するために、3つのベクターを構築した。pCh9G6-IgG1におけるヒトガンマ-1重鎖のゲノムCH1領域、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を担持するdIII~EagIフラグメントを、ヒトガンマ-3重鎖のゲノムCH1領域、第4ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域(図中、それぞれCH1(γ3),h(γ3),CH2(γ3)およびCH3(γ3))(図1)を担持するHindIII~EagIフラグメントで置き換えることによって、pCh9G6-IgG3Dベクターを構築した。pCh9G6-IgG3Dにおいて、第1、第2および第3のヒンジ領域のコード化配列は除外した。pCh9G6-IgG3Dにコードされる重鎖定常領域のアミノ酸配列を以下に示す。
【0192】
pCh9G6-IgG3Dにコードされる重鎖定常領域(配列番号12):
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYTCNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDTPPPCPRCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVQFKWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTFRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKTKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESSGQPENNYNTTPPMLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNIFSCSVMHEALHNRFTQKSLSLSPGK。
【0193】
ヒトμ重鎖のCμ3領域およびCμ4領域(配列番号5)を、pCh9G6-IgG3D(図1)のヒンジ領域の最後のアミノ酸にインフレームで融合することによって、pCh9G6-IgG3D/Mを構築した。pCh9G6-IgG3D/Mにおいて、ヒトガンマ-3重鎖のCH2エクソンおよびCH3エクソンは除いた。N末端からC末端に向かって、ヒトガンマ-3重鎖のCH1領域および第4ヒンジ領域、ならびに、ヒトμ重鎖のCH3領域およびCH4領域から成る、pCh9G6-IgG3D/Mにコードされる得られた重鎖定常領域は、Sorensen et al.(Int.Immunol.12:19-27 2000)により報告されているIgG-Cμ3-Cμ4重鎖定常領域と同一であった。pCh9G6-IgG3D/Mにコードされる重鎖定常領域のアミノ酸配列を以下に示す。
【0194】
pCh9G6-IgG3D/Mにコードされる重鎖定常領域(配列番号13):
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYTCNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDTPPPCPRCPDQDTAIRVFAIPPSFASIFLTKSTKLTCLVTDLTTYDSVTISWTRQNGEAVKTHTNISESHPNATFSAVGEASICEDDWNSGERFTCTVTHTDLPSPLKQTISRPKGVALHRPDVYLLPPAREQLNLRESATITCLVTGFSPADVFVQWMQRGQPLSPEKYVTSAPMPEPQAPGRYFAHSILTVSEEEWNTGETYTCVVAHEALPNRVTERTVDKSTGKPTLYNVSLVMSDTAGTCY。
【0195】
ヒトμ重鎖のCμ3領域およびCμ4領域(配列番号5)を、pCh9G6-IgG3D(図1)のヒトガンマ-3重鎖のCH3エクソンの最後のアミノ酸に、インフレームで融合することによって、pCh9G6-MVIgG3Dベクターを構築した。pCh9G6-MVIgG3Dにコードされる得られた重鎖定常領域のアミノ酸配列を以下に示す。
【0196】
pCh9G6-MVIgG3Dにコードされる重鎖定常領域(配列番号14):
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYTCNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDTPPPCPRCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVQFKWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTFRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKTKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESSGQPENNYNTTPPMLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNIFSCSVMHEALHNRFTQKSLSLSPGKDQDTAIRVFAIPPSFASIFLTKSTKLTCLVTDLTTYDSVTISWTRQNGEAVKTHTNISESHPNATFSAVGEASICEDDWNSGERFTCTVTHTDLPSPLKQTISRPKGVALHRPDVYLLPPAREQLNLRESATITCLVTGFSPADVFVQWMQRGQPLSPEKYVTSAPMPEPQAPGRYFAHSILTVSEEEWNTGETYTCVVAHEALPNRVTERTVDKSTGKPTLYNVSLVMSDTAGTCY。
【0197】
pCh9G6-IgG3D,pCh9G6-IgG3D/MおよびpCh9G6-MVIgG3Dから産生される抗体の単量体型の模式的構造(それぞれ、Ch9G6-IgG3D,Ch9G6-IgG3D/MおよびCh9G6-MVIgG3D)を図2に示す。
【0198】
Ch9G6-IgG3D抗体、Ch9G6-IgG3D/M抗体およびCh9G6-MVIgG3D抗体の各々を産生するNS0安定形質転換体の生成を、実施例2に概説したように行った。Ch9G6-IgG3D抗体、Ch9G6-IgG3D/M抗体およびCh9G6-MVIgG3D抗体を産生するNS0安定形質転換体を、Hybridoma SFMを用いる無血清媒体での増殖に適用し、実施例2に記載のようにローラーボトルに展開した。遠心分離およびろ過の後、Ch9G6-IgG3DおよびCh9G6-MVIgG3Dについて、培養上清をプロテインGセファロースカラム(GE Healthcare)に載せた。プロテインGセファロースカラムをPBSで洗浄し、その後、0.1Mグリシン-HCl(pH2.5)で抗体を溶出した。1M Tris-HCl(pH8)で中和した後、溶出した抗体の緩衝液を透析によってPBSに変えた。
……
【0203】
Ch9G6-MVIgG3Dでは、単一の主要なピークが、溶出量10.4mlに観察された(図13E)。ヒトIgMも10.4mlに溶出した(図13B)。SDS-PAGEの結果から見積もられたCh9G6-MVIgG3D(~200kDa)およびIgM(~180kDa)の単量体のサイズを考慮して、Ch9G6-MVIgG3Dは、天然型では五量体または六量体で産生されると結論付けられた。」

(4) 周知例4

本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるVirginie Pascal, et al., Haematologica 2012;97(11):1686-1694, doi:10.3324/haematol.2011.061408(以下、「周知例4」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 要約(1686ページ)

「背景
抗体ベースの治療のほとんどは、その生物学的特性がよく知られていることからIgGを使用しているが、これらの抗体の機能上の制限により、他の治療機能を持つ誘導体の開発が求められている。血清中の量はIgGより少ないものの、IgAはヒトで最も多く産生されるIgクラスである。二量体形態が粘膜領域に特異的に標的化されることに加え、IgAは特定の標的に対してIgG1よりも効率的に多形核好中球を動員することが示されている。
……
結論
抗CD20 IgA抗体は、リンパ腫細胞に対する独自の治療特性を持ち、強い直接効果、細胞傷害性のために好中球を動員する能力、さらには間接的な方法ではあるものの補体の動員も行うことを示している。」

イ 導入(1687ページ)

「……単量体IgA(mIgA)……ポリマーIgA(pIgA)……。pIgAには、結合鎖 (J鎖)に結合した二量体(dIgA)、三量体、またはより高次のポリマーの混合物が含まれる。……
治療用抗体の中でも、キメラ抗CD20リツキシマブは多くのリンパ腫の治療におけるゴールドスタンダードとなっており、その作用はおそらく最も広く研究されている。CD20に結合するリツキシマブは、リンパ腫細胞株のサブセットにおいて増殖阻害およびアポトーシス誘導を引き起こす。しかし、さまざまなin vitroおよびin vivo実験では、CD20細胞の除去は主にリツキシマブのγ1定常鎖によるものであり、これが補体依存性細胞傷害(CDC)を誘発し、ナチュラルキラー細胞を動員してADCCを引き起こすことが報告されている。マウスモデルでのin vivo実験では、CD20架橋による直接的な増殖阻害およびアポトーシスシグナル伝達は、CD20移植腫瘍を制御するのに十分ではないことも示された。本研究では、IgG1と比較して抗CD20 IgAの治療可能性と作用機序を分析した。この目的のために、我々はリツキシマブ可変領域を特徴とするIgGまたはIgAクラスのキメラCD20抗体を生成し、in vitroまたはin vivoアッセイを通じてCD20発現腫瘍細胞を殺す能力を分析した。」

ウ 表1

「
[図:0001424964000004.jpg]
(説明部分の訳文:
除去ヒト血清の存在下で抗CD20IgAにより誘発されるCDCの評価。DHL-4細胞を、正常ヒト血清(NHS)、熱不活化血清、または特異的に除去された血清(C1q-、C2-、または因子B-を欠く血清)のいずれかでモノクローナル抗体(10 mg/mL)とともに37°で4時間インキュベートした。CDCは、ヨウ化プロピジウム陽性細胞の割合として評価した。データは、3つの独立した実験の平均±SEMとして示されている(アスタリスクは、無対応のないt検定で各除去血清とNHSで観察された値間の統計的に有意な差を示す:*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、ns:有意ではない)。)」

エ 表4A

「
[図:0001424964000005.jpg]
表4 抗CD20-IgAの生体内保護効果。(A)RAG2γc-/-に106個のDHL-4 細胞を腹腔内注射した。また、細胞注射直後に、さまざまな量の抗CD20またはコントロールモノクローナル抗体を腹腔内投与した。個々のマウスにおけるDHL-4特異的殺傷は、DHL-4細胞とJurkat参照細胞の比率として計算された。データは、3つの独立した実験の平均±SEMとして示されている。」

3 対比・判断

(1) 引用発明

上記1で挙げた摘示事項(特に、【請求項16】及び【表1-2】)の記載からみて、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「CD20に結合するモノクローナル抗体1.5.3(ATCC受入番号PTA-7330)であって、重鎖可変領域をコードするアミノ酸配列が配列番号30、軽鎖可変領域をコードするアミノ酸配列が配列番号32である、標的結合剤。」

(2) 対比

本願発明と引用発明を対比する。

引用発明のモノクローナル抗体1.5.3はCD20に結合する活性を有すること、抗体はそれぞれ1本の軽鎖が会合する2本の重鎖が会合する単位構造をとること、重鎖と軽鎖との会合により結合ドメインを構成する、二価の結合単位を含む分子であるから、これは本願発明の「二価結合単位を含む」「結合分子であって、各結合単位が、抗原結合ドメインと各々会合している2つの重鎖定常領域を含み、前記結合分子の少なくとも1つの抗原結合ドメインが、」「CD20抗原結合ドメインである」ものに相当する。

また、引用発明の「配列番号30」で表されるアミノ酸配列は「重鎖可変領域をコードするアミノ酸配列」と記載され、技術常識と引用文献の請求項20の記載からみて「重鎖可変領域のアミノ酸配列」を指すものと解すべきところ、これは本願発明の配列番号38で表されるアミノ酸配列と同一であり、本願発明の配列番号39~41で表されるアミノ酸配列を含む。同様に、引用発明の「配列番号32」で表されるアミノ酸配列は「軽鎖可変領域をコードするアミノ酸配列」とされ、技術常識と引用文献の請求項21の記載からみて「軽鎖可変領域のアミノ酸配列」を指すものと解すべきところ、これは本願発明の配列番号42で表されるアミノ酸配列と同一であり、本願発明の配列番号43~45で表されるアミノ酸配列を含む。さらに、重鎖及び軽鎖のCDR1~3の配置は抗体に共通であるから、引用発明と本願発明の重鎖及び軽鎖のCDRの位置は共通したものである。

そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである(なお、以下の配列番号は本願発明のものを用いた。)。

【一致点】

「二価結合単位を含む結合分子であって、各結合単位が、抗原結合ドメインと各々会合している2つの重鎖定常領域を含み、前記結合分子の少なくとも1つの抗原結合ドメインが、以下を含むCD20抗原結合ドメインである、前記結合分子:
(a) 6つの免疫グロブリン相補性決定領域HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3であって、ここでHCDR1が配列番号:39のアミノ酸配列を含み;HCDR2が配列番号:40のアミノ酸配列を含み;HCDR3が配列番号:41のアミノ酸配列を含み;LCDR1が配列番号:43のアミノ酸配列を含み;LCDR2が配列番号:44のアミノ酸配列を含み;およびLCDR3が配列番号:45のアミノ酸配列を含む、前記6つの免疫グロブリン相補性決定領域、または
(b) 抗体重鎖可変領域(VH)および抗体軽鎖可変領域(VL)であって、ここでVHが配列番号:38のアミノ酸配列を含み、かつVLが配列番号:42のアミノ酸配列を含む、前記抗体重鎖可変領域(VH)および前記抗体軽鎖可変領域(VL)。」

【相違点】

本願発明は「2つまたは6つの二価結合単位を含む多量体結合分子」であるのに対し、引用発明の「モノクローナル抗体1.5.3(ATCC受入番号PTA-7330)」はアイソタイプが明らかにされておらず、「2つまたは6つの二価結合単位を含む多量体」であるかどうか判然としない点。

(3) 判断

引用文献の段落0130には、異なるアイソタイプの生物学的特性を生かすために、抗CD20抗体のアイソタイプを転換できることや、転換先のアイソタイプとして抗体分子が2量体となるIgAや5量体又は6量体となるIgMを含む各種のものが挙げられるとともに、技術分野において周知である従来の技術を用いてアイソタイプを転換できることが記載されている。そして、周知例1~4には、抗体の重鎖、軽鎖における可変領域を用いて、遺伝子組換えの手法を用いて抗体を生成すること、その際にIgAのような2量体やIgMのような6量体とすることができる点が記載されており、このような方法は当業者において周知技術であったといえる。

そして当業者であれば、これらの記載に基づいて、変換先として、特有の生物学的特性を有し、多量体であることが周知のアイソタイプである2量体のIgAや6量体のIgM(周知例1~4)を選択することは、適宜なし得る程度のことである。

(4) 本願発明の効果について

本願明細書をみると、実施例としてCD20に結合する活性を有する抗体を用いた多量体の生成、及び、生成した多量体を用いた補体依存性細胞障害、T細胞活性化アッセイ等に関する試験結果が記載されている。しかし、2量体の抗体に関する試験結果は記載がなく、6量体の抗体に関しても、抗体は生成されるもののその生理活性、薬理活性に関する試験結果は記載されていない。

そうすると、本願明細書の記載を参酌しても、本願発明が、引用文献に記載された発明及び本願優先日より前に周知であった技術からは当業者が予測できない顕著な効果を奏するものとは推認できない。

4 審判請求人の主張について

(1) 審判請求人の主張

折りたたみ中(クリックで表示)

審判請求人が審判請求書、及び令和6年4月11日に提出した上申書においてする主張は、概略以下のとおりである。

ア 引用文献の段落0130では、各アイソタイプについて特段の順位をつけることなく幾つかの選択肢として列挙しているに過ぎず、他のアイソタイプにスイッチすることを導くよう示唆するものではない。

イ 抗体の精製に有用であるプロテインAおよびプロテインGは、ヒトIgGに特異的に結合するが、IgAまたはIgMには結合しない。

ウ IgGに比べて、IgAやIgMの血清中半減期は短く、当業者であれば、指摘されているような目的で改変しようなどとは想起しようがない。

(2) 判断

審判請求人による上記主張ア~ウは、いずれも採用することができない。その理由は、以下のとおりである。

ア 審判請求人の主張アについて

上記3(3)で検討したように、引用文献の段落0130の記載に基づき、異なるアイソタイプの生物学的特性を生かすために、抗CD20抗体のアイソタイプを転換しようとすることや、転換先のアイソタイプとして抗体分子が2量体となるIgAや5量体又は6量体となるIgMを採用することについては十分に示唆されたものといえる。

イ 審判請求人の主張イについて

抗体の精製はプロテインAやプロテインGに限定されるものではなく、また、具体的な遺伝子組換え等の技術を用いてIgAまたはIgMを得ることは当業者に周知の技術であるところ、精製についても当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項といえる。

ウ 審判請求人の主張ウについて

引用文献の段落0130にはアイソタイプの異なる抗体を用いる目的として異なるアイソタイプの生物学的特性を生かすことが記載されるなど、抗体としての効果が血清中半減期にのみで決まるものではないから、IgGとIgAやIgMの血清中半減期に差があるとしても、抗体アイソタイプの改変を妨げるものとはいえない。

5 まとめ

以上からみて、審判請求人の主張はいずれも採用できず、本願発明は、引用文献に記載された発明及び本願優先日より前に周知であった技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第5 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

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2023-007641

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