特許拒絶査定不服審判
2021-013718
置換イミダゾール塩系化合物、その調製方法、医薬組成物およびその応用
- 審判番号
- 2021-013718
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-543929外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年10月08日
- 審決日
- 2023年05月26日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】厦門華綽生物医薬科技有限公司
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 分類
- P18 .113-Z (C07D) / P18 .121-Z (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-543929「置換イミダゾール塩系化合物、その調製方法、医薬組成物およびその応用」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月11日国際公開、WO2018/184561、令和2年5月28日国内公表、特表2020-515527〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年4月4日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年4月7日(CN)中国〕を国際出願日とする出願であって、令和2年9月30日付けの拒絶理由通知に対し、令和3年4月13日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年6月1日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年10月8日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。
第2 令和3年10月8日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和3年10月8日付けの手続補正を却下する。
〔理由〕
1 補正の内容
令和3年10月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(A)から(B)とする補正事項aを含むものである(下線部は補正部分である。)。
(A)補正前 「【請求項1】
下記一般式の化合物:
[図:0001403058000001.jpg]
[式中、
R1はC1-C24アルキル、C1-C24酸素含有アルキル、C1-C24フッ素含有アルキル、C1-C24フッ素および酸素含有アルキルから選択され、
R2は水素、C1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキルから選択され、
R3は
[図:0001403058000002.jpg]
(式中、(i)Z1及びZ4、(ii)Z1及びZ5、(iii)Z2及びZ4、並びに(iv)Z2及びZ5のいずれか一つの組み合わせは独立してフルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードまたはメトキシから選択され、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5のうちの残りは水素であり:Z6は水素である)
であり、
環Aは非存在であり、
X-は薬学的に許容される無機酸塩または有機酸塩のアニオンである]
または前記化合物の立体異性体、その薬学的に許容される塩またはその薬学的に許容される溶媒和物であって、
ただし、
[図:0001403058000003.jpg]
ではない化合物。」
(B)補正後 「【請求項1】
下記一般式の化合物:
[図:0001403058000004.jpg]
[式中、
R1はC1-C24アルキル、C1-C24酸素含有アルキル、C1-C24フッ素含有アルキル、C1-C24フッ素および酸素含有アルキルから選択され、
R2は水素、C1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキルから選択され、
R3は
[図:0001403058000005.jpg]
(式中、(i)Z1及びZ4、(ii)Z1及びZ5、(iii)Z2及びZ4、並びに(iv)Z2及びZ5のいずれか一つの組み合わせは独立してフルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードまたはメトキシから選択され、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5のうちの残りは水素であり:Z6は水素である)
であり、
環Aは非存在であり、
X-は薬学的に許容される無機酸塩または有機酸塩のアニオンである]
または前記化合物の立体異性体、その薬学的に許容される塩またはその薬学的に許容される溶媒和物であって、
ただし、
[図:0001403058000006.jpg]
、
[図:0001403058000007.jpg]
、
1-セチル-2-メチル-3-(2,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド、
1-テトラデシル-2-メチル-3-(2,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド、
1-テトラデシル-2-メチル-3-(2,6-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド、
1-セチル-2-メチル-3-(2,5-ジクロロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド、
1-テトラデシル-2-メチル-3-(2,6-ジクロロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド、又は1-セチル-2-メチル-3-(2,5-ジクロロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド
ではない化合物。」
2 補正の目的
上記補正事項aは、補正前の請求項1の「下記一般式の化合物:・・・または前記化合物の立体異性体、その薬学的に許容される塩またはその薬学的に許容される溶媒和物」(以下「・・・」は記載の省略を表す。)について、
「
[図:0001403058000008.jpg]
」、
「1-セチル-2-メチル-3-(2,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」、
「1-テトラデシル-2-メチル-3-(2,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」、
「1-テトラデシル-2-メチル-3-(2,6-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」、
「1-セチル-2-メチル-3-(2,5-ジクロロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」、
「1-テトラデシル-2-メチル-3-(2,6-ジクロロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」及び
「1-セチル-2-メチル-3-(2,5-ジクロロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」
という7つの化合物(以下「除外7化合物」という。)を更に除外して、補正前の特許請求の範囲を減縮する補正を含むものである。
そして、当該補正により、補正前の請求項1に記載される発明と、補正後の請求項1に記載される発明の「産業上の利用分野」及び「解決しようとする課題」が変更されることはない。
そうすると、当該補正事項aは、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載される発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とする補正を含むものといえる。
そこで、本件補正による補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか否か)について、以下検討する。
3 独立特許要件について
(1) 本願補正発明
本件補正による請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)は、上記1(B)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(2) 引用文献の記載事項
ア 原査定の拒絶理由において引用された「特開2009-215200号公報」(以下、原査定と同様に「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
(下線は当審合議体が一部追記した。)
(5a) 「【請求項1】
下記、一般式(I)
【化1】
[図:0001403058000009.jpg]
〔式中、R1は下記置換基群Aから選ばれた1若しくは2以上の置換基によって置換されていてもよい炭素数4~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は下記置換基群Aから選ばれた1若しくは2以上の置換基によって置換されていてもよい炭素数2~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキニル基を表し、R2は水素原子又は炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、R3は下記置換基群Aから選ばれた1若しくは2以上の置換基によって置換されていてもよいフェニル基又は下記置換基群Aから選ばれた1若しくは2以上の置換基によって置換されていてもよい炭素数2~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキニル基を表し、Xa-はF-、Cl-、Br-、I-、BF4-、PF6-、CF3BF3-、C2F5BF3-、又は(CF3SO3)2N-を表し、置換基群Aはハロゲン原子、トリメチルシリル基、エチルシリル基、及びフェニル基からなる群である。〕で表される化合物。」
(5b) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイミダゾリウム誘導体塩、ピロリジニウム誘導体塩、及びピペリジニウム誘導体塩に関する。これらの化合物は抗菌剤などとして利用することができる。・・・
【0065】
反応時間も特に限定されないが、10~48時間とすることが好ましく、15~25時間とすることが更に好ましい
一般式(I)~(III)で表される化合物は、抗菌活性を持つので、抗菌剤として使用することができる。抗菌剤としては、ヒトや食品用の抗菌剤としても用いることができるが、工業用の抗菌剤として使用するのが好ましい。」
(5c) 「【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0072】
〔合成例1〕1-セチル2-メチルイミダゾール
フラスコにメチルイミダゾール (50 mmol)とセチルブロミド(16.8 g, 55 mmol)、水素化ナトリウム(2.2 g, 1.7 eq.)、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(0.89 ml, 0.05 eq.)を入れ、さらに乾燥したテトラヒドロフラン(150 ml)を加えたのち、混合物を室温にて20時間撹拌した。生成物を酢酸エチルを用いて抽出したのち、抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去したのち、1-セチル2-メチルイミダゾールを得た。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (3 H, t, J=7.14 Hz), 1.25 (22 H), 1.59 (4 H), 1.70 (2 H, m), 2.37 (3 H), 3.80 (2 H, t, J=7.14 Hz), 6.80 (1 H, d, J=1.37 Hz), 6.90 (1 H, d, J=1.37 Hz).・・・
【0075】
〔実施例1〕ヨウ化1-セチル2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウム
フラスコに1-セチル2-メチルイミダゾール(0.84 g, 3 mmol)、ベンジルブロミド(1.23 g)、ヨウ化カリウム(4,98 g)とクロロホルム(100 ml)を入れたのち、フラスコ内をアルゴンで置換した。混合物を80℃で12時間反応させた後、溶媒を減圧下で留去し、ヨウ化1-セチル2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウム(化合物1)を得た。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (3 H, t, J=6.87 Hz), 1.22-1.32 (28 H, m), 1.60 (2 H, m), 1.80-1.90 (2 H, m)」
(5d) 「【0082】
〔実施例8〕臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,3-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム
フラスコに1-ドデシル-2-メチルイミダゾール(0.05 g, 0.2 mmol)、2,3-ジフルオロベンジルブロミド(33.1 ml, 0.26 mmol)と塩化メチレン(1.17 ml)を入れ、22時間加熱還流したのち、溶媒を減圧下に留去し、臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,3-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム(化合物8)を85%の收率で得た。・・・
【0085】
〔実施例11〕臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,4-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム
2,3-ジフルオロベンジルブロミドの代わりに2,4-ジフルオロベンジルブロミドを用いた以外は、実施例8と同様の方法で、臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,4-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム(化合物11)を得た。」
(5e) 「【0088】
〔実施例14〕ヨウ化1-セチル2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム
ベンジルブロミドの代わりに3,5-ジフルオロベンジルブロミドを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ヨウ化1-セチル2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム(化合物14)を得た。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (3 H, t, J=7.08 Hz), 1.20-1.38 (20 H), 1.59 (6 H), 1.88 (2 H, m), 2.83 (3 H), 4.14 (2 H, t, J=7.08 Hz), 5.65 (2 H, s), 6.82-6.92 (2 H, m), 7.26-7.51 (3 H). 19F NMR (CDCl3): δ 54.9-55.0 ppm from ext. C6F6.」
(5f) 「【0090】
〔実施例16〕臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,3,4-トリフルオロ)ベンジルイミダゾリウム
2,3-ジフルオロベンジルブロミドの代わりに2,3,4-ジフルオロベンジルブロミドを用いた以外は、実施例8と同様の方法で、臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,3,4-トリフルオロ)ベンジルイミダゾリウム(化合物16)を得た。・・・
【0091】
〔実施例17〕臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,3,5-トリフルオロ)ベンジルイミダゾリウム
2,3-ジフルオロベンジルブロミドの代わりに2,3,5-ジフルオロベンジルブロミドを用いた以外は、実施例8と同様の方法で、臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,3,5-トリフルオロ)ベンジルイミダゾリウム(化合物17)を得た。・・・
【0092】
〔実施例18〕臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,3,6-トリフルオロ)ベンジルイミダゾリウム
2,3-ジフルオロベンジルブロミドの代わりに2,3,6-ジフルオロベンジルブロミドを用いた以外は、実施例8と同様の方法で、臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,3,6-トリフルオロ)ベンジルイミダゾリウム(化合物18)を得た。・・・
【0093】
〔実施例19〕臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,4-ジクロロ-5-フルオロ)ベンジルイミダゾリウム
2,3-ジフルオロベンジルブロミドの代わりに2,4-ジクロロ-5-フルオロベンジルブロミドを用いた以外は、実施例8と同様の方法で、臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(2,4-ジクロロ-5-フルオロ)ベンジルイミダゾリウム(化合物19)を得た。・・・
【0101】
〔実施例27〕臭化1-ドデシル-2-メチル-3-プロパルギルイミダゾリウム
フラスコに1-ドデシル-2-メチルイミダゾール(50 mg, 0.2 mmol)、臭化プロパルギル(19.5 μl, 0.26 mmol)と塩化メチレン(1 ml)を入れ、20時間加熱還流したのち、溶媒を留去し臭化1-ドデシル-2-メチル-3-プロパルギルイミダゾリウム(化合物27)を收率76%で得た。・・・
【0102】
〔実施例28〕臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(3-ペンチル)プロパルギルイミダゾリウム
臭化プロパルギルの代わりに臭化 (3-ペンチル)プロパルギルを用いた以外は、実施例27と同様の方法で、臭化1-ドデシル-2-メチル-3-(3-ペンチル)プロパルギルイミダゾリウム(化合物28)を得た。・・・
【0111】
〔実施例37〕臭化1-ドデシル-3-(3-ペンチル)プロパルギルイミダゾリウム
ドデシルイミダゾリウム(5 mmol)と1-ブロモ-2-オクチン(6 mmol)をクロロホルム(50 ml)に溶解し、80℃で12時間加熱還流したのち溶媒を留去し、臭化1-ドデシル-3-(3-ペンチル)プロパルギルイミダゾリウム(化合物37)を得た。」
(5g) 「 【0148】
〔試験例2〕 抗菌活性の測定
(1)実験方法
日本化学療法学会標準法に基づく寒天平板希釈法により、各化合物の抗菌活性を調べた。
【0149】
(1-1)培地及び試験菌株
Mueller Hinton Broth (DIFICO)に、Agar Powder (WAKO)を1.5%になるように加えたものをオートクレーブ (TOMY BS325)で滅菌した後にシャーレに分注した。室温で固化後、45℃に設定された恒温機 (AS-ONE DO-450A)で約1時間乾燥させた。その後にシャーレに試験菌を接種し、30℃の恒温機で16-20時間培養した。使用した試験菌株は以下の通りである。
【0150】
Escherichiacoli MG 1655株(グラム陰性菌)
Bacillussubtilis 168株(グラム陽性菌)
Pseudomonasputida NBRC 14164株(グラム陰性菌)
Staphylococcusaureussubspaureus NRBC 15035株(グラム陽性菌)
Salmonellatyphimurium NBRC 13245株(グラム陰性菌)
Corynebacteriumglutamicum ATCC 31831株(グラム陽性菌)
(1-2)菌の調製
接種した菌のシングルコロニーを採取し、LB Broth (DIFCO)中で30℃、16-20時間振とう培養した。
【0151】
(1-3)活性測定用アガープレートの作製
まず、Agar Powder 0.45 g の入ったファルコンチューブにMueller Hinton Broth 0.63 g 、純水30 mlを加え、攪拌後、オートクレーブにより滅菌した。次に、実施例で合成した化合物を、メタノールに10 mg/ mlになるように溶解させ、氷中に保存した。60 ℃以下に保った滅菌後の各ファルコンチューブ内の培地に、各化合物を入れ、混和し、ペトリディッシュ上に分注した。固化後、45 ℃の恒温機にて2時間平板表面を乾燥させた。
【0152】
(1-4)接種菌液の調製
培養した各菌を10-1~10-6倍に系列希釈をした。なお、希釈には生理食塩水(0.85 %)を用いた。
【0153】
(1-5)活性の判定
調製された各濃度の菌体を10 μlずつを、作製したアガープレートにスポットした。その後、30 ℃の恒温機にて16~20時間培養し、活性の有無を判定した。活性の有無の判定は、106 cells/ mlの濃度のスポットで肉眼観察により菌の発育の有無により行い、発育が認められない化合物の最低濃度を最小発育阻止濃度とした。
【0154】
(2)実験結果
試験菌株に対する各化合物の最小発育阻止濃度を表2に示す。
【0155】
【表2】
[図:0001403058000010.jpg]
」
イ 原査定の拒絶理由において引用された「国際公開第2013/079613号」(以下、原査定と同様に「引用文献7」という。)には、以下の事項が記載されている。(訳文にて示す。)
(7a) 「例
含浸に使用するのに適したイオン性液体は、以下のようにして調製した。イオン性液体の構造を表2に示す。
表2
・・・
イオン性液体 構造 融点
・・・
[図:0001403058000011.jpg]
・・・
[図:0001403058000012.jpg]
・・・
[図:0001403058000013.jpg]
」(45頁)
(7b) 「請求項3 式(Ia)又は(Ib)のイオン性液体である請求項1-2のいずれかによる平面クロマトグラフィーを行う方法:
・・・
[図:0001403058000014.jpg]
そこでは、
Aは、[Br]、[Cl]、[PF6]、[AsF6]、[SbF6]、[N(S02CF3)2]、[BF4]、[CF4SO3]、[CH3C02]、[CF3S02]、[N02]、[N03]、[Cl04]、[I]及び[AIR104-nR11n]であり;
R10は、ハロ又はC1-12アルキル;好ましくはハロ又はC1-6アルキルであり;
R11はハロであり;
nは、0、1、2、3又は4から選択される整数であり;
L1は、C1-6アルキレンであり;
各R13は、水素、C1-6アルキル及びC1-6アルコキシから独立して選択され;
各R14は、ハロ、ハロC1-6アルキル、及びハロC1-6アルコキシからなる群から独立して選択され;
R15は、C1-6アルキル又は水素から独立して選択され;
pは、1、2又は3から選択される整数であり、
qは、1、2又は3から選択される整数である。」(特許請求の範囲)
(3) 引用文献5を主引例とする場合
ア 新規性について
(ア) 引用文献5に記載された発明
摘記(5b)によれば、引用文献5は、抗菌剤などとして利用できる新規なイミダゾリウム誘導体塩などに関する発明が記載された文献であり、抗菌剤としては、ヒトや食品用の抗菌剤としても用いることができる旨が(摘記(5b))、イミダゾリウム誘導体塩として、請求項1に一般式(I)で表される化合物が(摘記(5a))、実施例14では、ヨウ化1-セチル2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウムを合成し、1H NMRの結果や(摘記(5e))、菌体に対する活性も判定結果が(摘記(5g))示されている。
そうすると、引用文献5(特に原査定の「[0086]~[0089]」との指摘にある実施例14の具体的態様の記載)には、次に示す引用発明5が記載されていると認められる。
<引用発明5>
ヨウ化1-セチル2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム。
(イ) 対比・判断
本願補正発明と引用発明5とを対比する。
引用発明5の「ヨウ化1-セチル2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム」は、「1-セチル-2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」とも称されるものでもあり、
「
[図:0001403058000015.jpg]
」で表される化合物である。
また、本願明細書【0068】には、「ヨウ化水素酸塩」が「薬学的に許容される塩」と例示されていることから、ヨードイオンである「I-」が、本願補正発明の「薬学的に許容される無機酸塩のアニオン」であることは明らかである。
そうすると、引用発明5は、本願補正発明の一般式
[図:0001403058000016.jpg]
の化合物において、
R1がC1-C24アルキルである「C16アルキル」のセチルであり、R2はC1-C6アルキルである「C1」のメチルであり、
R3の式中
[図:0001403058000017.jpg]
(iii)Z2及びZ4がともにフルオロであり、Z1、Z3、Z5及びZ6は水素であり、
環Aは非存在であり、
X-は薬学的に許容される無機酸塩のアニオンであるヨードイオンであって、引用発明5は本願補正発明の一般式の化合物に該当するといえる。
また、引用発明5は、本願補正発明で除かれる
「
[図:0001403058000018.jpg]
」、
「
[図:0001403058000019.jpg]
」、
「1-セチル-2-メチル-3-(2,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」、
「1-テトラデシル-2-メチル-3-(2,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」、
「1-テトラデシル-2-メチル-3-(2,6-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」、
「1-セチル-2-メチル-3-(2,5-ジクロロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」、
「1-テトラデシル-2-メチル-3-(2,6-ジクロロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」及び
「1-セチル-2-メチル-3-(2,5-ジクロロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド」(以下、まとめて「除外8化合物」という。)のいずれにも該当しない。
そうすると、本願補正発明と引用発明5との間には差異がない。
よって、本願補正発明は引用文献5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
イ 進歩性について
仮に、本願補正発明が「ヨウ化1-セチル2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム(別称:1-セチル-2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド)」を除外し、本願補正発明と引用発明5が、その点のみで相違している場合について、念のため以下検討する。
まず、本願明細書【0068】には、「臭化水素酸塩」が「薬学的に許容される塩」と例示されていることから、臭素イオンである「Br-」が、本願補正発明の「薬学的に許容される無機酸塩のアニオン」であることは明らかである。
また、摘記(5a)によれば、引用文献5に記載の一般式(I)で表される化合物の「Xa-」は、「F-、Cl-、Br-、I-、BF4-、PF6-、CF3BF3-、C2F5BF3-、又は(CF3SO3)2N-」であり、摘記(5d)及び(5f)によれば、カチオン部が引用発明5とは異なるものの、「Xa-」が「Br-(臭化塩)」である実施例も多数記載されている。
そうすると、引用発明5において、「I-」を「Br-」に変更した化合物は、当業者が容易に想到することであり、当該想到した化合物が引用発明5と同程度に抗菌剤として機能し、効果を奏することは、技術常識も考慮すれば、当業者が当然に理解できる事項である。
ここで、当該想到した化合物は、本願補正発明の一般式の化合物に上記ア(イ)で示したのと同様の理由により、本願補正発明の一般式の化合物といえ、かつ、本願補正発明で除かれる「除外8化合物」に該当しないし、当然に引用発明5の化合物でもない。
よって、本願補正発明が「ヨウ化1-セチル2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム(別称:1-セチル-2-メチル-3-(3,5-ジフルオロ)ベンジルイミダゾリウム ヨーダイド)」を除外していたとしても、当該発明は、引用文献5に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
ウ 請求人の主張について
審判請求書「3.(3)・引用文献5」の「引用文献5に具体的に記載された化合物は補正後の請求項からはディスクレームされている。」との主張について、引用文献5の実施例14の化合物は、ディスクレームされていないから、当該主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、本件補正の補正事項aによる補正後の請求項1に係る発明は、引用文献5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないし、また、引用文献5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
(4) 引用文献7を主引例とする場合
ア 新規性について
(ア) 引用文献7に記載された発明
摘記(7a)によれば、引用文献7には、具体的な実施例のイオン性液体3として、
「
[図:0001403058000020.jpg]
」という化合物が記載されているから、引用文献7(特に原査定の「表2には化合物3、5、9が記載されている」との指摘にある化合物3の記載)には、次に示す引用発明7が記載されていると認められる。
<引用発明7>
次の式で示されるイオン性液体。
[図:0001403058000021.jpg]
(イ) 対比・判断
本願補正発明と引用発明7とを対比する。
まず、引用発明7の「イオン性液体」は「塩である化合物」の1種である。
また、本願明細書【0068】には、「薬学的に許容される塩」が例示されているものの、単に薬学的といっても、必ずしもヒトに対して効能があるものに限らず、ヒト以外に対して、効能があるもの(治療効果等)又は毒性(抗癌剤や抗菌剤や農薬等)があるものも含み得るから、「BF4-」は、本願補正発明の「薬学的に許容される無機酸塩のアニオン」であるともいえる。
さらに、例えば、特表平10-509957号公報の請求項13及び第9頁には、癌細胞に対して選択的な毒性を持つヒト又は動物の体の処置における使用のための化合物において、「最小限の又は良性の毒性を有するアニオン」として「PF6」などが「薬学的に受容可能なアニオン」として例示されているところ、ヒトの健常細胞に対して最小限の毒性を有していても、ヒトの癌細胞に対して選択的な毒性を有するのであれば、薬学的に許容されるものといえる。
そうすると、引用発明7は、本願補正発明の一般式
[図:0001403058000022.jpg]
の化合物において、
R1がC1-C24アルキルである「C1アルキル」のメチルであり、R2は水素であり、
R3の式中
[図:0001403058000023.jpg]
(ii)Z1及びZ5がともにブロモであり、Z2、Z3、Z4及びZ6は水素であり、
環Aは非存在であり、
X-は薬学的に許容される無機酸塩のアニオンであるBF4-であって、引用発明7は本願補正発明の一般式の化合物に該当するといえる。
また、引用発明7は、本願補正発明で除かれる「除外8化合物」に該当しない。
よって、本願補正発明と引用発明7との間には差異がない。
さらに、引用発明7と同様の理由により、本願補正発明と引用文献7の表2に記載のイオン性液体5の化合物についての発明との間にも差異がない。
よって、本願補正発明は引用文献7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
イ 進歩性について
仮に、引用発明7の「BF4-」が本願補正発明の「薬学的に許容される無機酸塩または有機酸塩のアニオンである」に該当しないとした場合について、念のため以下検討する。
本願補正発明と引用発明7とを対比すると、上記アで述べたことを考慮すると、両者は、
「下記一般式の化合物:
[図:0001403058000024.jpg]
[式中、
R1はC1-C24アルキル、C1-C24酸素含有アルキル、C1-C24フッ素含有アルキル、C1-C24フッ素および酸素含有アルキルから選択され、
R2は水素、C1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキルから選択され、
R3は
[図:0001403058000025.jpg]
(式中、(i)Z1及びZ4、(ii)Z1及びZ5、(iii)Z2及びZ4、並びに(iv)Z2及びZ5のいずれか一つの組み合わせは独立してフルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードまたはメトキシから選択され、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5のうちの残りは水素であり:Z6は水素である)
であり、
環Aは非存在であり、
X-は塩のアニオンである]
または前記化合物の立体異性体、その薬学的に許容される塩またはその薬学的に許容される溶媒和物であって、
ただし、「除外8化合物」ではない化合物。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。
相違点:塩である化合物のアニオンに関し、本願補正発明はアニオンが「薬学的に許容される無機酸塩または有機酸塩のアニオン」であるのに対し、引用発明7はアニオンが「BF4-」である点
まず、本願明細書【0068】には、ハロゲンの塩である「塩酸塩」又は「ヨウ化水素酸塩」が「薬学的に許容される塩」と例示されていることから、塩化物イオンである「Cl-」又はヨードイオンである「I-」が、本願補正発明の「薬学的に許容される無機酸塩のアニオン」であることは明らかである。
また、摘記(7b)によれば、引用発明7は、引用文献7に記載の式(Ib)で表される化合物であるところ、「A-」の「A」は、[Br]、[Cl]、[PF6]、[AsF6]、[SbF6]、[N(SO2CF3)2]、[BF4]、[CF4SO3]、[CH3CO2]、[CF3SO2]、[NO2]、[NO3]、[ClO4]、[I]及び[AIR104-nR11n]のいずれかであり、摘記(7a)によれば、引用発明7のアニオンをハロゲン塩である臭化塩にした化合物の実施例も記載されている。
そうすると、引用発明7において、「BF4-」を、塩のアニオンである「A-」として示唆があるハロゲンイオンの「Cl-」又は「I-」の塩に変更した化合物は、当業者が容易に想到することであり、当該塩化合物が本願発明と同程度に機能し、効果を奏することは、技術常識も考慮すれば、当業者が当然に理解できる事項である。
よって、本願補正発明は、引用文献7に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
ウ 請求人の主張について
審判請求書「3.(3)・引用文献7」の「化合物3、5のアニオン部分は、それぞれ、BF4-、PF6-であるが、これらは有害なアニオンであり、本発明のX(薬学的に許容されるアニオン)ではない。」との主張について、PF6-などは、抗ガン剤などで許容されるアニオンとして知られているから、当該主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、本件補正の補正事項aによる補正後の請求項1に係る発明は、引用文献7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないし、また、引用文献7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
(5) 補正の却下の決定のまとめ
以上総括するに、本件補正は、独立特許要件違反があるという点において同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明1
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の発明は、令和3年4月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、上記第2の1(A)に示したとおりのものである(以下、当該請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由(理由2及び3)のうち、その一部の概要は、次のとおりである。
理由2’:(新規性)本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献5及び7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3’:(進歩性)本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献5及び7に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献5:特開2009-215200号公報
引用文献7:国際公開第2013/079613号
3 引用文献の記載事項及び引用発明
引用文献5及び7の記載事項は、上記第2の3(2)に示したとおりであり、引用文献5及び7に記載された引用発明5及び7は、それぞれ、上記第2の3(3)ア(ア)及び同(4)ア(ア)に示したとおりのものと認められる。
4 本願発明1と引用発明との対比・判断
本願発明1は、上記第2の3において、その独立特許要件を検討した本願補正発明に対して、「除外7化合物」を除いていないものであるから、本願補正発明を含む発明であるといえる。
そして、上記第2の3において検討のとおり、本願補正発明は、引用文献5及び7に記載された発明であるから、本願発明1も同様に、引用文献5及び7に記載された発明である。また、本願補正発明は、引用文献5及び7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、本願発明1も同様に、引用文献5及び7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献5及び7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、また、引用文献5及び7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、原査定に誤りはなく、その余の理由及び請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-013718