特許拒絶査定不服審判
2023-002745
ジフルオロリン酸リチウムに基づく新規な電池システム
- 審判番号
- 2023-002745
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-506241
- 請求日
- 2023年02月17日
- 審決日
- 2024年04月03日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】テスラ,インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
- 【請求人】パナソニックホールディングス株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P18 .113-Z (H01M) / P18 .121-Z (H01M) / P18 .575-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-506241「ジフルオロリン酸リチウムに基づく新規な電池システム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月 7日国際公開、WO2019/025980、令和 2年10月 8日国内公表、特表2020-529718〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年7月31日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2017年7月31日 米国(US) 2017年9月29日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 1月22日付け:拒絶理由通知
令和3年 8月 2日 :手続補正書、意見書の提出
令和4年 1月20日付け:最後の拒絶理由通知
令和4年 6月 6日 :手続補正書、意見書の提出
令和4年10月12日付け:令和4年6月6日の手続補正についての補正
の却下の決定
令和4年10月12日付け:拒絶査定(原査定)
令和5年 2月17日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年2月17日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和5年2月17日の手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
令和5年2月17日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、令和3年8月2日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を削除するとともに、請求項7について本件補正前には、
「【請求項7】
負極と、
正極と、
第1の非水性溶媒に溶解したリチウムイオン、および添加剤混合物を含む非水性電解質と、を備え、
前記添加剤混合物は、
1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、または、メチレンメタンジスルファート、トリメチレンスルファート、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸γスルトンおよび亜硫酸グリコールからなる群から選択される別の硫黄含有添加剤の第1の有効添加剤であって、前記第1の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第1の有効添加剤と、
フルオロエチレンカーボネートの第2の有効添加剤であって、前記第2の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第2の有効添加剤と、を含む、リチウムイオン電池。」
とあったものを、
「【請求項1】
負極と、
正極と、
第1の非水性溶媒に溶解したリチウムイオン、および添加剤混合物を含む非水性電解質と、を備え、
前記添加剤混合物は、
1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、または、メチレンメタンジスルファート、トリメチレンスルファート、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸γスルトンおよび亜硫酸グリコールからなる群から選択される別の硫黄含有添加剤の第1の有効添加剤であって、前記第1の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第1の有効添加剤と、
フルオロエチレンカーボネートの第2の有効添加剤であって、前記第2の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第2の有効添加剤と、を含み、
前記正極は、0.5マイクロメートルを超える粒径を有する、NMC532またはNMC622のいずれかを含み、
前記電池は、40℃でのC/3CCCVの充電速度における3.0Vから4.3Vの間の200サイクル後において、95%の初期容量保持を有する、リチウムイオン電池。」
とし、本件補正後の請求項1とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。なお、下から3行目の「前記電池」なる記載について、かかる記載より前には「電池」に関する記載はないことから、「当該電池」の誤記と認める。)。
2.補正の適否
上記補正は、
(a)補正前の請求項7に記載された発明を特定するために必要な事項である「正極」について、「0.5マイクロメートルを超える粒径を有する、NMC532またはNMC622のいずれかを含」むことの限定を付加し、
(b)補正前の請求項7に記載された発明を特定するために必要な事項である「電池」(リチウムイオン電池)について、「40℃でのC/3CCCVの充電速度における3.0Vから4.3Vの間の200サイクル後において、95%の初期容量保持を有する」ことの限定を付加するものである。
そして、補正前の請求項7に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、上記補正を含む本件補正は、少なくとも特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて以下に検討する。
(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献6として引用された特開2013-229307号公報(以下、「引用例」という。)には、「リチウムイオン二次電池」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
なお、令和4年10月12日付け拒絶査定の<引用文献等一覧>では引用文献6が「特開2005-011762号公報」と記載されているが、これは、請求人が審判請求書において「審査官殿は、旧請求項1-4、7-11、14および15について、引用文献6(特開2013-229307号公報)に基づいて、新規性および進歩性が欠如していると認定されました。」と記載して認識しているように、令和4年1月20日付け拒絶理由通知の<引用文献等一覧>に引用文献6として記載されている「特開2013-229307号公報」の誤記である。
ア.「【請求項4】
正極と、負極と、セパレータと、非水電解質溶液と、を少なくとも有し、 前記非水電解質溶液は、溶媒に環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含み、
前記非水電解質溶液は、更に下記一般式(I)で表されるグリコールサルフェート誘導体と、フルオロエチレンカーボネートと、を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【化1】
[図:0001413811000001.jpg]
〔式(I)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子及び炭素数1~5の炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも一種を表す。〕
【請求項5】
前記グリコールサルフェート誘導体は、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、4-エチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、のうちのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記非水電解質溶液は、前記グリコールサルフェート誘導体を、0.5重量%以上10重量%以下含み、フルオロエチレンカーボネートを、0.1重量%以上10重量%以下含むことを特徴とする請求項4または5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。」
イ.「【0013】
本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、非水電解質溶液と、を少なくとも有し、非水電解質溶液は、環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含み、更に下記一般式(I)で表されるグリコールサルフェート誘導体と、フルオロエチレンカーボネートと、を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池である。これにより、優れた初回の放電容量とともに、低温においてもより十分な放電容量を備えたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【化1】
[図:0001413811000002.jpg]
〔式(I)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子及び炭素数1~5の炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも一種を表す。〕
【0014】
また、本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、非水電解質溶液中のグリコールサルフェート誘導体として、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、4-エチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシドのうちのいずれかを含むことが望ましい。これにより、優れた初回の放電容量とともに低温においてもより十分な放電容量が得られる傾向にある。
【0015】
さらに、本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、非水電解質溶液としてグリコールサルフェート誘導体を0.5重量%以上10重量%以下含み、フルオロエチレンカーボネートを、0.1重量%以上10重量%以下含むことが望ましい。これにより、さらに優れた初回の放電容量とともに低温においてもより十分な放電容量を得ることができる。」
ウ.「【0026】
(正極)
正極20は、正極集電体22の両面に正極活物質層21を備えて構成されている。さらに正極活物質層32は、正極活物質材料と、導電助剤と、結着剤とを含む塗料を正極集電体に塗布することによって形成されている。
【0027】
正極活物質材料は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、ClO4-)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知の電極活物質を使用できる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5、LiVPO4、LiV2(PO4)3、LiVOPO4)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、FeまたはVを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)等の複合金属酸化物が挙げられる。」
エ.「【0043】
(実施例1)
以下に示す手順により図1に示したリチウムイオン二次電池1と同様の構成を有する実施例1~43、比較例1~4のリチウムイオン二次電池を5個ずつ作製した。
【0044】
先ず、負極を作製した。負極の作製においては、先ず、負極活物質として人造黒鉛(90質量部)、導電助剤としてカーボンブラック(2質量部)、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFという。)(8質量部)を混合し、溶剤のN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPという。)中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーをドクターブレード法により集電体である電解銅箔に塗布し、110℃で乾燥させた。乾燥後に圧延を行い、負極を得た。
【0045】
次に、正極を作製した。正極の作製においても、先ず、正極活物質としてLiNi(x=1/3)Co(y=1/3)Mn(z=1/3)O2(90質量部)、導電助剤としてカーボンブラック(6質量部)、結着剤としてPVDF(4質量部)を混合し、NMP中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを集電体であるアルミニウム箔に塗布して乾燥させ、圧延を行い、正極を得た。
【0046】
次に、非水電解質溶液を調製した。エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートを体積比3:7で混合した溶液中に、LiPF6を1.0mol dm-3の割合で添加し作製した。更に、この溶液に対し、化合物Aとして1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキサイド(以下、場合によりDTDという。)を0.2重量%、化合物Bとしてフルオロエチレンカーボネート(以下、場合によりFECという)を1重量%添加して非水電解質溶液を得た。
得られた負極及び正極の間にポリエチレンからなるセパレータを挟んで積層し積層体(電池要素)を得た。得られた積層体をアルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに非水電解質溶液を注入した後に真空シールし、リチウムイオン二次電池(縦:60mm、横:85mm、厚さ:3mm)を作製した。
・・・・(中 略)・・・・
【0048】
(実施例2~43及び比較例1~4)
非水電解質溶液に添加する化合物Aの種類及び添加量、化合物B(FEC)の添加量を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして実施例2~43及び比較例1~4のリチウムイオン二次電池を5個ずつ作製した。なお、表1中、MDTDは、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキサイドを、EDTDは、4-エチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキサイドを示す。
【0049】
得られた実施例1~43及び比較例1~4のリチウムイオン二次電池を用いて、各電池特性を評価した。表1に示す電池特性の値は、リチウムイオン二次電池5個の平均値とした。
・・・・(中 略)・・・・
【0052】
【表1】
[図:0001413811000003.jpg]
」
・上記引用例に記載の「リチウムイオン二次電池」は、上記「ア.」の【請求項4】、「イ.」の段落【0013】の記載によれば、正極と、負極と、セパレータと、非水電解質溶液と、を少なくとも有し、非水電解質溶液がグリコールサルフェート誘導体とフルオロエチレンカーボネートとを含有するリチウムイオン二次電池である。
・上記「ア.」の【請求項5】、「イ.」の段落【0014】の記載によれば、非水電解質溶液中のグリコールサルフェート誘導体としては、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシドなどが挙げられ、上記「エ.」の記載によれば、例えば実施例8でも1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(いわゆるDTD)が用いられている。
・上記「ア.」の【請求項6】、「イ.」の段落【0015】の記載によれば、非水電解質溶液は、グリコールサルフェート誘導体を0.5重量%以上10重量%以下含み、フルオロエチレンカーボネートを0.1重量%以上10重量%以下含むものであり、上記「エ.」の記載によれば、例えば実施例8ではグリコールサルフェート誘導体としの1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(DTD)を添加量(含有量)1重量%、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加量(含有量)2重量%含むものである。
・上記「ウ.」の記載によれば、正極が含む正極活物質材料としては、例えば一般式:LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)で表される複合金属酸化物が挙げられ、上記「エ.」の記載によれば、実施例のすべてにおいてLiNi(x=1/3)Co(y=1/3)Mn(z=1/3)O2が用いられている。
・上記「エ.」の記載によれば、実施例のすべてにおいて非水電解質溶液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを混合した溶液中にLiPF6が添加されてなるものである。
以上のことから、特に実施例8に係るものに着目し、上記記載を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「正極と、負極と、セパレータと、非水電解質溶液と、を少なくとも有するリチウムイオン二次電池であって、
前記非水電解質溶液にはエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶液中にLiPF6が添加され、さらに、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(DTD)を添加量1重量%、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加量2重量%含み、
前記正極は、正極活物質材料としてLiNi(x=1/3)Co(y=1/3)Mn(z=1/3)O2を含む、リチウムイオン二次電池。」
(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明における「正極」、「負極」は、本願補正発明でいう「正極」、「負極」に相当する。
引用発明における「非水電解質溶液」は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶液中にLiPF6が添加されてなるものであり、「エチレンカーボネートとジエチルカーボネート」は、本願補正発明でいうリチウムイオンが溶解した「第1の非水性溶媒」に相当するものである。また、引用発明における「非水電解質溶液」は、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(DTD)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加されて含むものであるところ、これら「1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(DTD)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)」は、本願補正発明でいう「添加剤混合物」に相当する。よって、引用発明における「非水電解質溶液」は、本願補正発明でいう「非水性電解質」を含むものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「負極と、正極と、第1の非水性溶媒に溶解したリチウムイオン、および添加剤混合物を含む非水性電解質と」を備えるものである点で一致する。
イ.引用発明における非水電解質溶液に添加されて含まれる「1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(DTD)」は、本願補正発明でいう添加剤混合物が含む「1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシドの第1の有効添加剤」に相当し、その添加量である「1重量%」は、本願補正発明で特定する第1の有効添加剤の濃度が「0.25~6重量%の範囲内」であることに含まれる。
同様に、引用発明における非水電解質溶液に添加されて含まれる「フルオロエチレンカーボネート(FEC)」は、本願補正発明でいう添加剤混合物が含む「フルオロエチレンカーボネートの第2の有効添加剤」に相当し、その添加量である「2重量%」は、本願補正発明で特定する第2の有効添加剤の濃度が「0.25~6重量%の範囲内」であることに含まれる。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシドの第1の有効添加剤であって、前記第1の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第1の有効添加剤と、フルオロエチレンカーボネートの第2の有効添加剤であって、前記第2の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第2の有効添加剤と」を含むものである点で一致する。
ウ.引用発明における「正極」は、正極活物質材料としてLiNi(x=1/3)Co(y=1/3)Mn(z=1/3)O2、すなわち、いわゆるNMC111を含むものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「正極は、NMCを含」むものである点では共通する。
ただし、正極が含むNMCについて、本願補正発明では「0.5マイクロメートルを超える粒径を有する、NMC532またはNMC622のいずれか」であることを特定するのに対し、引用発明では粒径についての特定は有しておらず、NMC111である点で相違する。
エ.そして、引用発明における「リチウムイオン二次電池」は、本願補正発明でいう「リチウムイオン電池」に相当するものである。
ただし、電池(リチウムイオン電池)が、本願補正発明では「40℃でのC/3CCCVの充電速度における3.0Vから4.3Vの間の200サイクル後において、95%の初期容量保持を有する」ことを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
よって、上記「ア.」ないし「エ.」によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「負極と、
正極と、
第1の非水性溶媒に溶解したリチウムイオン、および添加剤混合物を含む非水性電解質と、を備え、
前記添加剤混合物は、
1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシドの第1の有効添加剤であって、前記第1の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第1の有効添加剤と、
フルオロエチレンカーボネートの第2の有効添加剤であって、前記第2の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第2の有効添加剤と、を含み、
前記正極は、NMCを含む、リチウムイオン電池。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
正極が含むNMCについて、本願補正発明では「0.5マイクロメートルを超える粒径を有する、NMC532またはNMC622のいずれか」であることを特定するのに対し、引用発明では粒径についての特定は有しておらず、NMC111である点。
[相違点2]
電池(リチウムイオン電池)が、本願補正発明では「40℃でのC/3CCCVの充電速度における3.0Vから4.3Vの間の200サイクル後において、95%の初期容量保持を有する」むことを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。
(3)判断
上記相違点1及び相違点2について検討する。
例えば原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-141830号公報(特に段落【0055】、【0063】を参照)、さらには国際公開第2017/055977号(特に17頁10行~24頁を参照)に記載されているように、NMCなどのリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質としてメジアン径あるいは平均粒径が例えば3μm以上のものを用いることは周知の技術事項である。また、引用例の段落【0027】には、正極活物質材料として一般式:LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)で表される複合金属酸化物を用いることができることが記載されているところ、例えば原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2016/116867号(特に1頁10~26行を参照)、さらには上記国際公開第2017/055977号(特に17頁10行~24頁を参照)に記載されているように、正極活物質として用いられるNMCとして組成比が「NMC532」や「NMC622」のものも周知であって、引用発明において、正極活物質材料としてNMC111に代えてメジアン径あるいは平均粒径が例えば3μm以上のNMC532あるいはNMC622を用い、相違点1に係る構成とすることは当業者であれば適宜なし得たことである。なお、本願補正発明の「0.5マイクロメートルを超える粒径を有する」なる記載が、文言通り0.5マイクロメートルを超える粒径のものを有していることを意味するとしても、また、メジアン径あるいは平均径が0.5マイクロメートルを超えるものであることを意味するとしても上記判断に変わりはない。
そして、リチウムイオン二次電池においては、室温だけでなく室温よりも高い温度(例えば40~60℃)におけるサイクル特性の向上も普通に望まれることであるところ〔例えば特開2017-103054号公報(特に段落【0053】、【0055】(表1)を参照)には60℃、2Cの充放電レートで3.0Vから4.3Vの間のCC充放電を200サイクル繰り返した後の容量維持率が97%以上であることが記載され、また、国際公開第2016/175597号(特に段落[158]~[159]、図6を参照)には45℃、0.5Cの充放電レートで3.0Vから4.3Vの間を200回充放電を行った後にサイクル容量維持率が約96%であることが記載されている。〕、引用発明においても、正極活物質材料として上記のように相違点1に係る構成とした際において、40℃でのC/3CCCVの充電速度における3.0Vから4.3Vの間の200サイクル後の初期容量保持率を例えば95%のように高くし、相違点2に係る構成とすることも当業者であれば容易になし得たことである。なお、本願補正発明においては初期容量保持率が「95%」という一点の値として記載されているが、仮にこれが「95%以上」の誤記であったとしても上記判断に変わりはない。
よって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和5年2月17日の手続補正は上記のとおり却下され、令和4年6月6日の手続補正についても令和4年10月12日付けで補正却下の決定がなされているので、本願の請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和3年8月2日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項7に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項7】
負極と、
正極と、
第1の非水性溶媒に溶解したリチウムイオン、および添加剤混合物を含む非水性電解質と、を備え、
前記添加剤混合物は、
1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、または、メチレンメタンジスルファート、トリメチレンスルファート、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸γスルトンおよび亜硫酸グリコールからなる群から選択される別の硫黄含有添加剤の第1の有効添加剤であって、前記第1の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第1の有効添加剤と、
フルオロエチレンカーボネートの第2の有効添加剤であって、前記第2の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第2の有効添加剤と、を含む、リチウムイオン電池。」
2.原査定の概要
本願の請求項7に対する原査定(令和4年10月12日付け拒絶査定)の拒絶の理由のうちの理由2(新規性)の概要は以下のとおりである。
この出願の請求項7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
記
引用文献6:特開2013-229307号公報
3.引用例、引用発明
原査定の拒絶の理由で引用した引用例(引用文献6)、および引用発明は、前記「第2 2.(1)」に記載したとおりである。
4.対比・判断
本願発明は、前記「第2 [理由]2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「正極」について、「0.5マイクロメートルを超える粒径を有する、NMC532またはNMC622のいずれかを含」むことの限定を省き、同じく発明特定事項である「電池」(リチウムイオン電池)について、「40℃でのC/3CCCVの充電速度における3.0Vから4.3Vの間の200サイクル後において、95%の初期容量保持を有する」ことの限定を省いたもの、すなわち前記「第2 [理由]2.(2)」に記載した相違点1及び相違点2を省いたものに相当する。
そして、本願補正発明から相違点1及び相違点2を省いた残りの発明特定事項については前記「第2 [理由]2.(2)」の「ア.」及び「イ.」に記載したとおり、引用発明に係る「リチウムイオン二次電池」においても備える事項である。
よって、本願発明と引用発明とは、
「負極と、
正極と、
第1の非水性溶媒に溶解したリチウムイオン、および添加剤混合物を含む非水性電解質と、を備え、
前記添加剤混合物は、
1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシドの第1の有効添加剤であって、前記第1の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第1の有効添加剤と、
フルオロエチレンカーボネートの第2の有効添加剤であって、前記第2の有効添加剤の濃度が0.25~6重量%の範囲内である、第2の有効添加剤と、を含む、リチウムイオン電池。」
である点で一致し、相違することろがない。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明である。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-002745